(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】水素生成システムおよび水素生成システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20241111BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20241111BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20241111BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241111BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20241111BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20241111BHJP
C25B 9/67 20210101ALI20241111BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C25B1/042
H01M8/0656
H01M8/0432
H01M8/04537
C25B15/021
C25B15/00
C25B9/67
C01B3/02 H
(21)【出願番号】P 2024013013
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】入江 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】小阪 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 研太
(72)【発明者】
【氏名】小林 大悟
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7282968(JP,B1)
【文献】特開2023-106419(JP,A)
【文献】特表2018-515687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/042
H01M 8/0656
H01M 8/0432
H01M 8/04537
C25B 15/021
C25B 15/00
C25B 9/67
C01B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成システムであって、
水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セルを備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュールと、
前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部と、
前記酸素極に空気を供給する空気供給部と、
前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統と、
前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部と、
前記水素生成システムを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始するよう前記燃料ガス系統を制御した後に前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する水素生成システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記酸素極に供給される前の前記燃料ガスが発火しない濃度となるように前記燃料ガス系統を制御する請求項1に記載の水素生成システム。
【請求項3】
前記第1所定温度は、500℃以上かつ600℃未満である請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度に応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始するよう前記燃料ガス系統を制御する請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も低温となる領域の温度が前記第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記電解モジュールの温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度を上回ることに応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するよう前記燃料ガス系統を制御する請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度が前記第2所定温度を上回ることに応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するよう前記燃料ガス系統を制御する請求項6に記載の水素生成システム。
【請求項8】
前記第2所定温度は、前記電解モジュールが定格負荷で運転する際の温度よりも低く設定されている請求項6に記載の水素生成システム。
【請求項9】
前記第2所定温度は、700℃以上かつ850℃以下である請求項6に記載の水素生成システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記酸素極に供給される前記燃料ガスの火炎伝播速度が前記酸素極に供給される空気の流通速度よりも低くなるように前記燃料ガス系統および前記空気供給部を制御する請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項11】
前記燃料ガス系統は、前記燃料ガスとして水素を前記酸素極に供給する請求項1または請求項2に記載の水素生成システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始後から前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するまでの間において、前記酸素極へ供給する水素の流量を徐々に減少させるよう前記燃料ガス系統を制御する請求項11に記載の水素生成システム。
【請求項13】
前記制御部は、前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始後から前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するまでの間において、前記電解セルが配置される空間において最も低温となる領域の温度、前記空気供給部から空気が供給される空気供給ヘッダの温度、前記電解モジュールが生成する水素を排出する水素排出孔の温度のうちいずれかの温度を検知して、前記酸素極へ供給する水素の流量を調整するよう前記燃料ガス系統を制御する請求項11に記載の水素生成システム。
【請求項14】
水素生成システムの制御方法であって、
前記水素生成システムは、
水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セルを備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュールと、
前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部と、
前記酸素極に空気を供給する空気供給部と、
前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統と、
前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部と、を有し、
前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始するよう前記燃料ガス系統を制御する第1制御工程と、
前記第1制御工程により前記酸素極への前記燃料ガスの供給が開始された後に前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する
第2制御工程
と、を備える水素生成システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素生成システムおよび水素生成システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水蒸気電解により水素を生成する水素生成システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される水素生成システムは、固体酸化物形電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)を有する電解モジュールを備える。特許文献1には、電解モジュールの水素極だけでなく酸素極にも水素を供給することで、酸素極において水素を触媒作用により燃焼させて電解モジュールの温度を上昇させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸素極に供給される水素の温度が発火温度を上回って自然発火してしまうと電解モジュールに損傷が生じてしまう可能性がある。酸素極に供給される水素の濃度を低くすることにより水素の自然発火を防止することができるが、酸素極の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱が減少してしまう。そのため、電解モジュールの温度の上昇速度が低下して水素生成システムの起動時間が長くなってしまう。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュールの温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することが可能な水素生成システムおよび水素生成システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下の手段を採用する。
本開示に係る水素生成システムは、水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セルを備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部と、前記酸素極に空気を供給する空気供給部と、前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統と、前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部と、前記水素生成システムを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する。
【0007】
本開示に係る水素生成システムの制御方法において、前記水素生成システムは、水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セルを備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部と、前記酸素極に空気を供給する空気供給部と、前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統と、前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部と、を有し、前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する制御工程を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュールの温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することが可能な水素生成システムおよび水素生成システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る水素生成システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る円筒形の電解モジュールの一例を示す部分断面図である。
【
図3】
図1に示す電解モジュールの縦断面図である。
【
図4】水素生成システムの起動時の動作を示すフローチャートである。
【
図5】水素生成システムの起動時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態に係る(水素生成システム)100について、
図1を参照して説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る水素生成システム100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の水素生成システム100は、電解モジュール19と、電力供給部18と、水蒸気供給部20と、水素分離設備30と、水素貯蔵設備(水素供給部)40と、調整部50と、空気供給部(加熱媒体供給部)70と、制御装置(制御部)80と、を備える。
【0011】
なお、本開示では水素貯蔵設備(水素供給部)を備えたシステムを示しているが、水素貯蔵設備(水素供給部)40は水素パイプラインであっても良く、パイプラインから水素を取り出して本システムに供給し、また生成した水素が直接水素パイプラインへ供給されてもよい。
【0012】
固体酸化物形電解セル(以下、電解セルという)10は、水蒸気供給部20から供給される水蒸気を水素極11に供給して水蒸気電解により水素および酸素を生成する電解モジュール19を構成する要素であり、水素極11と、酸素極12と、水素極11と酸素極12との間に配置される電解質層13と、を有する。電解モジュール19は、電解セル10の集合体である。水蒸気電解は電力を発生する燃料電池の逆反応であり、電解セル10は固体酸化物形燃料電池セル(SOFC)とほぼ同様な構成及び材料を使用することができる。
【0013】
図1では、電解モジュール19と、水素極11と、酸素極12と、電解質層13との関係が模式的に示されている。電解モジュール19としては、例えば、円筒形状で多孔質材料からなる管体に水素極11を配置し、水素極11の上に電解質層13を配置し、電解質層13の上に酸素極12を配置した円筒形セルスタックを用いることができる。また、電解モジュール19は運転温度を計測する温度センサ17を有する。
【0014】
図2は、本実施形態に係る円筒形のセルスタックCSの一例を示す部分断面図である。セルスタックCSは、一例として円筒形状の基体管14と、基体管14の外周面の複数箇所に形成された電解セル10と、隣り合う電解セル10の間に形成されたインターコネクタ15とを備える。電解セル10は、水素極11と電解質層13と酸素極12とを基体管14の表面に積層して形成されている。
【0015】
基体管14の外周面に形成された複数の電解セル10の内、基体管14の軸方向において最も端の一端に形成された電解セル10の酸素極12に、インターコネクタ15を介して電気的に接続されたリード膜16を備え、最も端の他端に形成された電解セル10の水素極11に電気的に接続されたリード膜16を備える。なお、以降の説明において、「水素極11に媒体(空気、水蒸気、水素等)を供給する」とは、セルスタックCSの基体管14の内側の空間に媒体を流通させることで、基体管14の細孔に媒体を拡散させて基体管14の外周面に形成される水素極11に媒体を供給することをいう。
【0016】
基体管14は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO2(CSZ)、CSZと酸化ニッケル(NiO)との混合物(CSZ+NiO)、又はY2O3安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAl2O4などを主成分とされる。この基体管14は、電解セル10とインターコネクタ15とリード膜16とを支持すると共に、基体管14の内周面に供給される水蒸気を基体管14の細孔を介して基体管14の外周面に形成される水素極11に拡散させるものである。
【0017】
水素極11は、金属材料(例えばNi等)とジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。酸素極12は、例えば、LaSrMnO3系酸化物、又はLaCoO3系酸化物で構成される。電解質層13として、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを備えるYSZが主として用いられる。
【0018】
インターコネクタ15は、例えば、SrTiO3系などのM1-xLxTiO3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成される。インターコネクタ15は、水蒸気と空気(酸化性ガス)とが混合しないように緻密な膜となっている。
【0019】
また、インターコネクタ15は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した耐久性と電気導電性を備える。このインターコネクタ15は、隣り合う電解セル10において、一方の電解セル10の酸素極12と他方の電解セル10の水素極11とを電気的に接続し、隣り合う電解セル10同士を直列に接続するものである。
【0020】
リード膜16は、電子伝導性を備え、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材やSrTiO3系などのM1-xLxTiO3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で構成されている。リード膜16は、インターコネクタ15により直列に接続される複数の電解セル10に直流電力を供給するものである。
【0021】
リード膜16を介して、水素極11と酸素極12との間に外部から電力を供給すると、水素極11に供給された高温の水蒸気の一部が電子を受けて水素と酸素イオンに分離され水素を生成する。分離された酸素イオンは電解質層13の内部を酸素極12へ移動し、電子を放出して酸素が生成される。
【0022】
温度センサ17は、電解モジュール19の温度(電解セル10自体の温度、あるいは電解セル10が配置される空間の雰囲気温度)を検出するセンサである。温度センサ17が検出した電解モジュール19の温度は、制御装置80に伝達される。
【0023】
電力供給部18は、電解モジュール19に水蒸気電解を行うための電力を供給する装置である。電力供給部18から電解モジュール19への電力供給状態は、制御装置80により制御される。
【0024】
水蒸気供給部20は、水蒸気を生成し、電解モジュール19に供給する装置である。水蒸気は、水蒸気供給管21により電解モジュール19の水素極11に供給される。水素極空間11aに供給される水素極入口ガス温度は、例えば、200℃以上である。
【0025】
水素分離設備30は、電解モジュール19の水素極11で生成された水素と水蒸気との混合ガスから水素を分離する設備である。水素排出弁31を開状態とする際に、水素極11で生成された水素が水素排出管33を介して水素分離設備30に供給される。水素分離設備30で分離された水素は、水素昇圧機32により、水素貯蔵設備40へ供給される。水素分離設備30は、例えば水素排出管33から供給される水素と水蒸気の混合ガスを冷却し、混合ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて回収水として回収する。
【0026】
水素貯蔵設備40は、電解モジュール19により生成された水素を貯蔵し、水素供給管41を介して、水素供給先へ水素を供給する設備である。また、水素貯蔵設備40は、水素供給管42および水蒸気供給管21を介して、水素極11に水素を供給することができる。水素貯蔵設備40から水素極11に供給される水素は、水素極11を所望の温度に維持するため、望ましくは水素供給管42を流通する過程で加熱されて水蒸気供給管21に供給されるのが良い。また、水素貯蔵設備40は、水素供給管(燃料ガス系統)43を介して、電解モジュール19の酸素極12が配置される酸素極空間12aに水素を供給することができる。
【0027】
調整部50は、水蒸気供給部20から供給される水蒸気の供給量と、水素貯蔵設備40から水素極11に供給される水素の供給量と、水素貯蔵設備40から酸素極12に供給される水素の供給量と、空気供給部70から酸素極12に供給される空気の供給量と、空気供給部70から水素極11に供給される空気の供給量とを調整する装置である。
【0028】
調整部50は、水蒸気供給管21に配置される水蒸気調整弁51と、水素供給管42に配置される水素調整弁52と、水素供給管42の下流側の水蒸気供給管21に近接した位置に配置される水素調整弁(または仕切弁)53と、空気供給管72に配置される空気調整弁54と、空気排出管73に配置される水素極通気ガスの空気側排出量調整弁55と、水素供給弁56と、空気調整弁57と、を有する。
【0029】
水素調整弁53は、水素極に水蒸気は供給するが、水素は供給しない場合に閉状態にする弁である。水素調整弁53を閉状態にすることにより、水素極に水蒸気は供給するが、水素は供給しない場合に、水蒸気が水素供給管42に侵入することを防止することができる。
【0030】
水素供給弁56は、水素貯蔵設備40から水素供給管43及び空気供給管74を介して酸素極12に供給される水素の供給量を調整する弁である。空気供給管74に供給された水素は、電解モジュール19の酸素極12側に供給される。電解モジュール19の酸素極空間12aに供給された水素は、触媒作用により燃焼し、電解モジュール19の温度を上昇させる。
【0031】
図1に示した水素生成システム100は、水素供給弁56を開状態にすることにより、水素貯蔵設備40に貯蔵される水素を酸素極空間12aに供給するものであるが、他の態様であってもよい。例えば、水素あるいは他の燃料ガス(メタンガス等)を供給する燃料供給部(図示略)を設け、燃料供給部から電解モジュール19の酸素極空間12aに燃料ガスを供給し、触媒作用により燃焼させるようにしてもよい。
【0032】
空気供給部70は、高温(例えば、400℃未満)に加熱した空気(加熱媒体)を酸素極12に供給する装置である。すなわち、空気供給部70から供給された空気は、空気供給管74を介して電解モジュール19の酸素極空間12aに供給される。また、空気供給部70から供給された空気は、水素極用空気供給管(加熱媒体供給系統)72を介して水素極空間11aに供給できるようになっている。空気供給部70から酸素極12および水素極11に供給される空気の供給量は、空気調整弁57により調整される。空気供給部70から水素極11に供給される空気の供給量は、空気調整弁54により調整される。なお、「酸素極12に媒体(空気等)を供給する」とは、セルスタックCSの酸素極12の外側の空間に媒体を流通させることで、酸素極12に媒体を供給することをいう。
【0033】
制御装置80は、水素生成システム100を制御する装置である。制御装置80は、制御プログラムを記憶する記憶部(図示略)とプログラムを実行する演算部(図示略)とを有し、記憶部から読み出したプログラムを演算部で実行することにより、水素生成システム100を制御する各種の動作を実行する。
【0034】
次に、
図3を参照して、電解モジュール19の詳細について説明する。
図3は、
図1に示す電解モジュール19の縦断面図である。
図3に示すように、電解モジュール19は、複数の電解セル10と、水蒸気供給ヘッダ217と、水素排出ヘッダ219と、空気供給ヘッダ221と、酸素排出ヘッダ223とを備える。
【0035】
また、電解モジュール19は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bと、側部断熱体227cと、を備える。なお、本実施形態においては、電解モジュール19は、水蒸気供給ヘッダ217と水素排出ヘッダ219と空気供給ヘッダ221と酸素排出ヘッダ223とが
図3のように配置されることで、水蒸気と空気とが電解セル10の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、電解セル10の内側と外側とを平行して流れる、または空気が電解セル10の長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0036】
反応室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bと側部断熱体227cとの間に形成された空間である。反応室215は、電解セル10が配置された領域であり、水蒸気が水蒸気電解反応することにより水素および酸素が生成される。また、この反応室215においてセルスタックCSの長手方向の中央部付近での温度を、温度計測部(温度センサや熱電対など)で監視してもよい。反応室215のセルスタックCSの長手方向の中央部付近は、電解モジュール19の定常運転時に、およそ700℃~1000℃の高温雰囲気となる。
【0037】
水蒸気供給ヘッダ217は、電解モジュール19の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの上部に設けられた水蒸気供給孔231aによって、水蒸気供給管21と連通されている。また、複数のセルスタックCSは、上部管板225aとシール部材237aにより接合されており、水蒸気供給ヘッダ217は、水蒸気供給管21から水蒸気供給孔231aを介して供給される水蒸気を、複数のセルスタックCSの基体管14の内部に略均一流量で導く。
【0038】
水素排出ヘッダ219は、電解モジュール19の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bに備えられた水素排出孔231bによって、水素排出管33と連通されている。また、複数の電解セル10は、下部管板225bとシール部材237bにより接合されており、水素排出ヘッダ219は、複数のセルスタックCSの基体管14の内部を通過して水素排出ヘッダ219に排出される水素および水蒸気を集合して、水素排出孔231bを介して水素排出管33に導くものである。
【0039】
空気供給ヘッダ221は、電解モジュール19の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bの側面に設けられた空気供給孔233aによって、空気供給管74と連通されている。空気供給ヘッダ221は、空気供給管74から空気供給孔233aを介して供給される所定流量の空気を、空気供給隙間235aを介して反応室215に導くものである。
【0040】
酸素排出ヘッダ223は、電解モジュール19の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの側面に設けられた酸素排出孔233bによって、酸素排出管76と連通されている。酸素排出ヘッダ223は、反応室215から、酸素排出隙間235bを介して酸素排出ヘッダ223に排出される酸素富化空気を、酸素排出孔233bを介して酸素排出管76に導くものである。
【0041】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また上部管板225aは、電解モジュール19に備えられるセルスタックCSの本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタックCSが夫々挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタックCSの一方の端部をシール部材237a及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、水蒸気供給ヘッダ217と酸素排出ヘッダ223とを隔離するものである。
【0042】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、電解モジュール19に備えられるセルスタックCSの本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタックCSの外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタックCSの外面との間に形成された酸素排出隙間235bを備える。
【0043】
この上部断熱体227aは、反応室215と酸素排出ヘッダ223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や空気中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。また、上部管板225a等が反応室215内の高温に晒されて温度差による上部管板225a等の熱変形を抑制するために、Ni基合金などの高温耐久性のある金属材料を用いてもよい。また、上部断熱体227aは、反応室215を通過して高温に晒された酸素富化空気を、酸素排出隙間235bを通過させて酸素排出ヘッダ223に導くものである。
【0044】
本実施形態によれば、上述した電解モジュール19の構造により、水蒸気と酸素富化空気とがセルスタックCSの内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、酸素富化空気は、セルスタックCSの基体管14の内部を通って反応室215に供給される水蒸気との間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸素排出ヘッダ223に供給される。また、水蒸気は、反応室215から排出される酸素富化空気との熱交換により昇温され、基体管14の内部を流れる形で反応室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に適した温度に予熱昇温された水蒸気を反応室215に供給することができる。
【0045】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、電解モジュール19に備えられるセルスタックCSの本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタックCSが夫々挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタックCSの他方の端部をシール部材237b及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、水素排出ヘッダ219と空気供給ヘッダ221とを隔離するものである。
【0046】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、下部ケーシング229bの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、電解モジュール19に備えられるセルスタックCSの本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径は電解セル10の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタックCSの外面との間に形成された空気供給隙間235aを備える。
【0047】
この下部断熱体227bは、反応室215と空気供給ヘッダ221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や空気中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、空気供給ヘッダ221に供給される空気を、空気供給隙間235aを通過させて反応室215に導くものである。
【0048】
本実施形態によれば、上述した電解モジュール19の構造により、水蒸気を含む水素と空気とがセルスタックCSの内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、セルスタックCSの基体管14の内部を通って反応室215を通過した水蒸気を含む水素は、反応室215に供給される空気との間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて水素排出ヘッダ219に供給される。また、空気は水蒸気を含む水素との熱交換により昇温され、反応室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に必要な温度に昇温された空気を反応室215に供給することができる。
【0049】
次に、本実施形態の制御装置80が電解モジュール19の起動時に実行する制御動作について説明する。
図4および
図5は、水素生成システム100の起動時の制御動作を示すフローチャートである。
【0050】
ステップS101で、制御装置80は、基体管14管内(水素極11)と酸素極12への空気の供給を開始するよう制御する。制御装置80は、空気調整弁54と空気側排出量調整弁55とを開状態とし、水蒸気調整弁51と水素調整弁52と水素調整弁(または仕切弁)53を閉状態とするよう調整部50を制御する。また、制御装置80は、空気調整弁57を開状態とし、水素排出弁31と水素供給弁56を閉状態とするよう制御する。
【0051】
空気供給部70から酸素極12に供給される空気は、酸素極12を加熱し、電解モジュール19全体を加熱して外部に排出される。空気供給管(加熱媒体供給系統)72は、空気供給部70から水素極11に空気を供給する系統である。空気供給部70から空気供給管72を介して基体管14管内に供給される空気は、基体管14を加熱して水素極11を含む電解モジュール19全体を加熱し、空気排出管73を介して外部に排出される。
【0052】
ステップS102で、制御装置80は、温度センサ17が検出する電解モジュール19の温度TaがTemp1を上回るかどうかを判定し、温度TaがTemp1を上回ったことに応じて、ステップS103へ処理を進める。Temp1は、水蒸気が内部でドレン化しないように、水素極11における水蒸気の露点より高い温度に設定される。Temp1は、例えば、150℃以上かつ200℃以下の温度である。後述するTemp2は、Temp1よりも高い温度に設定される。
【0053】
ステップS103で、制御装置80は、空気供給部70から基体管14管内(水素極11)への空気の供給を停止するよう、空気調整弁54を開状態から閉操作を開始する。
続いてステップS104で、制御装置80は、水蒸気供給部20から水素極11への水蒸気の供給を開始するよう、水蒸気調整弁51を閉状態から開操作を開始する。
【0054】
以上のように、制御装置80は、水素生成システム100を起動する際に、電解モジュール19の温度TaがTemp1を上回ると、基体管14管内へ空気供給部70から空気が供給されて水蒸気供給部20から基体管14管内に水蒸気は供給されない状態から、基体管14管内へ空気は供給されず水蒸気供給部20から水蒸気が供給される状態に移行して、水素極11側の酸素パージを完了させるよう調整部50を制御する。
【0055】
ステップS105で、制御装置80は、温度センサ17が検出する電解モジュール19の温度TaがTemp2を上回るかどうかを判定し、温度TaがTemp2を上回ると、ステップS106へ処理を進める。Temp2は、水素極11に含まれる金属成分が酸化する温度よりも低い温度である。Temp2は、例えば、350℃以上かつ400℃以下の温度である。Temp2は、水素極11に含まれる金属成分が水蒸気と反応して酸化する速度が著しく上昇する温度よりも低く設定される。
【0056】
ステップS106で、制御装置80は、水素貯蔵設備40から基体管14管内(水素極11)への水素の供給を開始して、基体管14管内入口の水素濃度が所定の値になるよう、水素調整弁52および水素調整弁(または仕切弁)53を閉状態から開状態に切り替える。
【0057】
続いてステップS107で、制御装置80は、基体管14管内入口の水蒸気濃度が所定の値になるよう、水蒸気調整弁51の開度調整を実施して水蒸気供給部20から基体管14管内(水素極11)への水蒸気の供給量を調整する。
【0058】
以上のように、制御装置80は、水素生成システム100を起動する際に、電解モジュール19の温度TaがTemp2を上回ると、水蒸気供給状態から、還元性ガスである水素を混合した状態に切り替えるよう調整部50を制御する。水蒸気供給状態から還元性ガスである水素を混合した状態に切り替えることで、水素極11が還元状態に維持されるため、水蒸気に含まれる酸素による水素極の水蒸気酸化が防止される。
【0059】
ステップS108で、制御装置80は、温度センサ17が検出する電解モジュール19の温度TaがTemp3を上回るかどうかを判定し、温度TaがTemp3を上回ると、ステップS109へ処理を進める。Temp3は、例えば、300℃以上かつ500℃以下の温度である。なお、Temp3は酸素極12が配置される空間である反応室215において最も高温となる領域の温度とすることが好ましい。
【0060】
ステップS109で、制御装置80は、水素貯蔵設備40から酸素極12への水素の供給を開始するよう、水素供給弁56を閉状態から開状態に切り替える。電解モジュール19の酸素極12に供給された水素は、酸素極12の触媒作用により燃焼し、電解モジュール19の酸素極12側の温度を上昇させる。
【0061】
制御装置80は、ステップS109で酸素極12への水素の供給を開始してからステップS114で酸素極12への水素の供給を停止するまでの間、酸素極12に供給される前の空気供給ヘッダ221内において、水素が発火しない濃度(燃焼下限界濃度未満)となるように水素供給管43の水素供給弁56の開度を制御して水素供給量を調整する。
【0062】
また、制御装置80は、酸素極12に供給される水素の火炎伝播速度が、酸素極12に供給される空気と水素の混合ガスの流通速度よりも低くなるように、水素供給弁56および空気調整弁57の開度により水素供給量と空気供給量を制御して混合ガス流量と水素濃度を調整する。具体的には、火炎伝播速度が空気供給隙間235aを通過するガス(空気と水素の混合ガス)の流通速度よりも低くなることが好ましい。また、酸素極12に供給される水素供給量は、通電により発生するジュール熱を考慮して設定されてもよい。
【0063】
なお、ステップS109で水素の供給を開始して所定の水素濃度に到達後、ステップS114で供給を停止するまでの間に、酸素極12へ供給する水素流量を徐々に減少させて水素濃度を減少させてもよい。例えば、酸素極12が配置される空間である反応室215の最も高温となる領域の温度に応じて(例えば、反応室215の鉛直方向の中央部付近の領域)水素濃度を減少させてもよい。また、酸素極12への水素を供給している間の反応室215の異常昇温を防ぐために、酸素極12が配置される空間である反応室215において最も低温となる領域の温度(例えば、空気供給隙間235aの近傍や反応室215内で鉛直方向下部付近の温度)や空気供給ヘッダ221の温度あるいはそれと同等の温度となる水素排出孔231bの温度を検知して、酸素極12へ供給する水素流量を制御してもよい。
【0064】
ステップS110で、制御装置80は、温度センサ17が検出する電解モジュール19の温度TaがTemp4(第1所定温度)を上回るかどうかを判定し、温度TaがTemp4を上回ると、ステップS111へ処理を進める。Temp4は、水素(燃料ガス)の発火温度よりも低い温度であり、例えば、500℃以上かつ600℃未満の温度である。
【0065】
Temp4を測定する温度センサ17は、電解セル10が配置される反応室215において最も低温となる領域の温度を検出するものとする。最も低温となる領域は、例えば、空気供給隙間235aの近傍の領域である。制御装置80は、電解セル10が配置される空間(反応室215)において最も低温となる領域の温度がTemp4を上回ることに応じて電解モジュール19への電力の供給を開始するよう電力供給部18を制御する。あるいは、温度センサ17は反応室215の鉛直方向の中央部付近の領域の温度を検出し、反応室215における最も低温となる領域の温度が、例えば500℃以上かつ600℃未満に相当する温度でTemp4を設定してもよい。
【0066】
ステップS111で、制御装置80は、水蒸気供給部20から水素極11への水蒸気供給量を電解開始条件に合致させるように増加させる。制御装置80は、水蒸気調整弁51の弁開度を調整すると共に、基体管14管内(水素極11)の入口水素濃度を電解開始条件に合致させるよう、水素貯蔵設備40から水素極11への水素供給量を制御する水素調整弁52の開度を調整する。
【0067】
ステップS112で、制御装置80は、電力供給部18から電解モジュール19への電力供給を開始し、電流量を漸増させるよう電力供給部18を制御する。電力供給部18から電解モジュール19への電力供給が開始されると、電解セル10でジュール熱が発生し、反応室215の温度が上昇する。電力供給部18から電力が供給される電解モジュール19は、水蒸気電解により水素および酸素の生成を開始する。
【0068】
ステップS113で、制御装置80は、温度センサ17が検出する電解モジュール19の温度TaがTemp5(第2所定温度)を上回るかどうか、または電解モジュール19に供給される電流量が所定の値を上回るかどうかを判定し、いずれかの条件を満たすと、ステップS114へ処理を進める。Temp5は、例えば、700℃以上かつ850℃以下の温度であり、電解モジュール19が定格負荷で運転する際の温度よりも低く設定されている。
【0069】
ステップS114で、制御装置80は、水素貯蔵設備40から酸素極12への水素の供給を停止するよう、水素供給弁56を開状態から閉状態に切り替える。
【0070】
Temp5を測定する温度センサ17は、電解セル10が配置される反応室215において最も高温となる領域の温度を検出するものとする。最も高温となる領域は、例えば、反応室215の鉛直方向の中央部付近の領域である。制御装置80は、電解セル10が配置される空間(反応室215)において最も高温となる領域の温度がTemp5を上回ることに応じて酸素極12への水素の供給を停止するよう水素供給弁56を制御する。
【0071】
その後、ステップS115で、電解モジュール19に供給される電流量が定格値に到達したかどうかを判定し、YESと判定されればその時点で起動完了となり、電解モジュール19の定格運転状態となる。なお、電流量が定格値に到達する前に制御装置80は、水素極11への水蒸気供給量と基体管14管内(水素極11)の入口水素濃度が定格条件となるように、水蒸気調整弁51と水素調整弁52を制御する。ここで、水蒸気調整弁51と水素調整弁52の開度を電流量の関数で制御しても良い。
【0072】
以上で説明した本実施形態の水素生成システム100が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の水素生成システム100によれば、酸素極12の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュール19の温度が水素の発火温度よりも低いTemp4(第1所定温度)を上回ることに応じて電解モジュール19への電力の供給が開始されるため、通電により発生するジュール熱を利用して電解モジュール19の温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することができる。
【0073】
本実施形態の水素生成システム100によれば、酸素極12に供給される前の水素が発火しない濃度に制御されるため、酸素極12に供給される前の領域で水素が発火してその周囲が損傷する不具合を防止することができる。
【0074】
本実施形態の水素生成システム100によれば、Temp4を500℃以上かつ600℃未満とすることで、水素が発火する不具合を確実に防止することができる。
【0075】
本実施形態の水素生成システム100によれば、電解セル10が配置される反応室215において最も低温となる領域の温度がTemp4を上回ることに応じて電解モジュール19への電力の供給を開始することで、電解モジュール19への電力の供給を適切なタイミングで開始し、電解モジュール19の温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することができる。
【0076】
本実施形態の水素生成システム100によれば、電解モジュール19の温度がTemp4よりも高いTemp5を上回ることに応じて酸素極12への水素の供給が停止することにより、酸素極12の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱により電解モジュール19の温度を適切に上昇させることができる。
【0077】
本実施形態の水素生成システム100によれば、電解セル10が配置される反応室215において最も高温となる領域の温度がTemp5を上回ることに応じて酸素極12への水素の供給を停止することで、酸素極12の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱により電解モジュール19の温度を適切に上昇させることができる。
【0078】
本実施形態の水素生成システム100によれば、Temp5が、電解モジュール19が定格負荷で運転する際の温度よりも低く設定されているため、電解モジュール19が定格負荷で運転される前に酸素極12への水素の供給を確実に停止することができる。
【0079】
本実施形態の水素生成システム100によれば、Temp5を700℃以上かつ850℃以下とすることで、電解モジュール19が定格負荷で運転される前に酸素極12への水素の供給を確実に停止することができる。
【0080】
本実施形態の水素生成システム100によれば、酸素極12に供給される水素の火炎伝播速度が酸素極12に供給される空気の流通速度よりも低くなるため、水素が発火したとしても火炎が外部に伝播して外部を損傷させることを防止することができる。
【0081】
本実施形態の水素生成システム100によれば、水蒸気電解により生成される水素を燃料ガスとして酸素極12に供給し、酸素極12の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱により電解モジュール19の温度を適切に上昇させることができる。
【0082】
以上説明した各実施形態に記載の水素生成システム(100)および水素生成システムの制御方法は例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係る水素生成システムは、水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セル(10)を備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュール(19)と、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部(20)と、前記酸素極に空気を供給する空気供給部(70)と、前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統(43)と、前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部(18)と、前記水素生成システムを制御する制御部(80)と、を備え、前記制御部は、前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する。
【0083】
本開示の第1態様に係る水素生成システムによれば、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュールの温度が燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて電解モジュールへの電力の供給が開始されるため、電解モジュールの温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することができる。
【0084】
本開示の第2態様に係る水素生成システムは、第1態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素極に供給される前の前記燃料ガスが発火しない濃度となるように前記燃料ガス系統を制御する。
【0085】
本開示の第2態様に係る水素生成システムによれば、酸素極に供給される前の燃料ガスが発火しない濃度に制御されるため、酸素極に供給される前の領域で燃料ガスが発火してその周囲が損傷する不具合を防止することができる。
【0086】
本開示の第3態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第1所定温度は、500℃以上かつ600℃未満である。
本開示の第3態様に係る水素生成システムによれば、第1所定温度を500℃以上かつ600℃未満とすることで、燃料ガスが発火する不具合を確実に防止することができる。
【0087】
本開示の第4態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度に応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始するよう前記燃料ガス系統を制御する。
【0088】
本開示の第4態様に係る水素生成システムによれば、電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度に応じて酸素極への燃料ガスの供給を開始することができる。
【0089】
本開示の第5態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も低温となる領域の温度が前記第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する。
【0090】
本開示の第5態様に係る水素生成システムによれば、電解セルが配置される空間において最も低温となる領域の温度が第1所定温度を上回ることに応じて電解モジュールへの電力の供給を開始することで、電解モジュールへの電力の供給を適切なタイミングで開始し、電解モジュールの温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することができる。
【0091】
本開示の第6態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記電解モジュールの温度が前記第1所定温度よりも高い第2所定温度を上回ることに応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するよう前記燃料ガス系統を制御する。
【0092】
本開示の第6態様に係る水素生成システムによれば、電解モジュールの温度が第1所定温度よりも高い第2所定温度を上回ることに応じて酸素極への燃料ガスの供給が停止することにより、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱により電解モジュールの温度を適切に上昇させることができる。
【0093】
本開示の第7態様に係る水素生成システムは、第6態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度が前記第2所定温度を上回ることに応じて前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するよう前記燃料ガス系統を制御する。
【0094】
本開示の第7態様に係る水素生成システムによれば、電解セルが配置される空間において最も高温となる領域の温度が第2所定温度を上回ることに応じて酸素極への燃料ガスの供給を停止することで、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱により電解モジュールの温度を適切に上昇させることができる。
【0095】
本開示の第8態様に係る水素生成システムは、第6態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第2所定温度は、前記電解モジュールが定格負荷で運転する際の温度よりも低く設定されている。
【0096】
本開示の第8態様に係る水素生成システムによれば、第2所定温度が、電解モジュールが定格負荷で運転する際の温度よりも低く設定されているため、電解モジュールが定格負荷で運転される前に酸素極への燃料ガスの供給を確実に停止することができる。
【0097】
本開示の第9態様に係る水素生成システムは、第6態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記第2所定温度は、700℃以上かつ850℃以下である。
本開示の第9態様に係る水素生成システムによれば、第2所定温度を700℃以上かつ850℃以下とすることで、電解モジュールが定格負荷で運転される前に酸素極への燃料ガスの供給を確実に停止することができる。
【0098】
本開示の第10態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素極に供給される前記燃料ガスの火炎伝播速度が前記酸素極に供給される空気の流通速度よりも低くなるように前記燃料ガス系統および前記加熱媒体供給部を制御する。
【0099】
本開示の第10態様に係る水素生成システムによれば、酸素極に供給される燃料ガスの火炎伝播速度が酸素極に供給される空気の流通速度よりも低くなるため、燃料ガスが発火したとしても火炎が外部に伝播して外部を損傷させることを防止することができる。
【0100】
本開示の第11態様に係る水素生成システムは、第1態様または第2態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記燃料ガス系統は、前記燃料ガスとして水素を前記酸素極に供給する。
【0101】
本開示の第11態様に係る水素生成システムによれば、水蒸気電解により生成される水素を燃料ガスとして酸素極に供給し、酸素極の触媒作用による水素の燃焼で発生する熱により電解モジュールの温度を適切に上昇させることができる。
【0102】
本開示の第12態様に係る水素生成システムは、第11態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始後から前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するまでの間において、前記酸素極へ供給する水素の流量を徐々に減少させるよう前記燃料ガス系統を制御する。
【0103】
本開示の第13態様に係る水素生成システムは、第11態様において、更に以下の構成を備える。すなわち、前記制御部は、前記酸素極への前記燃料ガスの供給を開始後から前記酸素極への前記燃料ガスの供給を停止するまでの間において、前記電解セルが配置される空間において最も低温となる領域の温度、前記空気供給部から空気が供給される空気供給ヘッダの温度、前記電解モジュールが生成する水素を排出する水素排出孔の温度のうちいずれかの温度を検知して、前記酸素極へ供給する水素の流量を調整するよう前記燃料ガス系統を制御する。
【0104】
本開示の第14態様に係る水素生成システムの制御方法において、前記水素生成システムは、水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に配置される電解質層を有する電解セルを備え、水蒸気を前記水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュールと、前記水素極に前記水蒸気を供給する水蒸気供給部と、前記酸素極に空気を供給する空気供給部と、前記酸素極に燃料ガスを供給する燃料ガス系統と、前記電解モジュールに電力を供給する電力供給部と、を有し、前記電解モジュールの温度が前記燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて前記電解モジュールへの電力の供給を開始するよう前記電力供給部を制御する制御工程を備える。
【0105】
本開示の第14様に係る水素生成システムの制御方法によれば、酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュールの温度が燃料ガスの発火温度よりも低い第1所定温度を上回ることに応じて電解モジュールへの電力の供給が開始されるため、電解モジュールの温度を適切に上昇させて起動時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0106】
10 電解セル
11 水素極
11a 水素極空間
12 酸素極
12a 酸素極空間
13 電解質層
14 基体管
17 温度センサ
18 電力供給部
19 電解モジュール
20 水蒸気供給部
21 水蒸気供給管
30 水素分離設備
31 水素排出弁
32 水素昇圧機
33 水素排出管
40 水素貯蔵設備
41,42,43 水素供給管
50 調整部
51 水蒸気調整弁
52,53 水素調整弁
54 空気調整弁
55 空気側排出量調整弁
56 水素供給弁
57 空気調整弁
70 空気供給部
72 空気供給管
73 空気排出管
74 空気供給管
76 酸素排出管
80 制御装置(制御部)
100 水素生成システム
215 反応室
217 水蒸気供給ヘッダ
219 水素排出ヘッダ
221 空気供給ヘッダ
223 酸素排出ヘッダ
225a 上部管板
225b 下部管板
227a 上部断熱体
227b 下部断熱体
227c 側部断熱体
229a 上部ケーシング
229b 下部ケーシング
231a 水蒸気供給孔
231b 水素排出孔
233a 空気供給孔
233b 酸素排出孔
235a 空気供給隙間
235b 酸素排出隙間
237a,237b シール部材
【要約】
【課題】酸素極の触媒作用による燃料ガスの燃焼で発生する熱が不足する場合であっても、電解モジュールの温度を適切に上昇させる。
【解決手段】水蒸気を水素極に供給して水蒸気電解により水素を生成する電解モジュール19と、水素極11に水蒸気を供給する水蒸気供給部20と、酸素極12に空気を供給する空気供給部70と、酸素極12に水素を供給する水素供給管43と、電解モジュール19に電力を供給する電力供給部18と、水素生成システム100を制御する制御装置80と、を備え、制御装置80は、電解モジュール19の温度が水素の発火温度よりも低いTemp4を上回ることに応じて電解モジュール19への電力の供給を開始するよう電力供給部18を制御する水素生成システム100を提供する。
【選択図】
図1