(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20241111BHJP
H02P 29/68 20160101ALI20241111BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20241111BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20241111BHJP
H02P 29/62 20160101ALI20241111BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241111BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
H02P29/024
H02P29/68
H02P27/06
H02P25/22
H02P29/62
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2024521564
(86)(22)【出願日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2023008128
(87)【国際公開番号】W WO2023223630
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2022082885
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022121571
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022147265
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丸橋 昭夫
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148629(JP,A)
【文献】特開2018-11385(JP,A)
【文献】特開2017-17889(JP,A)
【文献】特開2016-178799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02P 29/68
H02P 27/06
H02P 25/22
H02P 29/62
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータに流れるモータ電流を制御するモータ電流制御回路と、
前記モータ電流制御回路付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、
前記モータ電流による前記電動モータの温度の上昇値を推定する上昇値推定部と、
前記温度検出回路が異常であるか否かを判定する異常判定部と、
前記温度検出回路が正常であると判定された場合に、前記温度検出回路が検出した検出温度を第1温度推定値として出力し、前記温度検出回路が異常であると判定された場合に、前記温度検出回路が検出した前記検出温度から所定の設定値まで一定の増加速度で漸増する値を前記第1温度推定値として出力する第1温度推定部と、
前記第1温度推定値に前記上昇値を加えた値を第2温度推定値として演算する第2温度推定部と、
前記第2温度推定値が所定の閾値を超えた場合に、前記第2温度推定値が高くなるほど漸減するように前記モータ電流を制限する電流制限部と、
を備え、
前記第1温度推定部は、前記温度検出回路が検出した前記検出温度が低い場合に比べて高い場合に、前記一定の増加速度をより低く設定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記温度検出回路は、前記温度検出素子として第1温度検出素子と第2温度検出素子とを備え、前記第1温度検出素子の出力に応じた前記検出温度と前記第2温度検出素子の出力に応じた前記検出温度とを出力し、
前記異常判定部は、前記第1温度検出素子と前記第2温度検出素子の出力に応じた前記検出温度のうちより高い第1検出温度とより低い第2検出温度との間の差分が所定値以上である場合に前記温度検出回路が異常であると判定し、
前記第1温度推定部は、前記温度検出回路が正常であると判定された場合に、前記第1検出温度を前記第1温度推定値として出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記第1検出温度と前記第2検出温度との間の前記差分が前記所定値以上である状態が所定時間以上に亘って継続した場合に前記温度検出回路が異常であると判定し、
前記第1温度推定部は、前記第1検出温度と前記第2検出温度との間の前記差分が前記所定値以上である状態が前記所定時間に亘って継続した時点において前記温度検出回路が出力する前記第1検出温度から前記所定の設定値まで時間経過に伴って一定の増加速度で漸増する値を前記第1温度推定値として出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記第1温度推定部は、
前記温度検出回路が検出した検出温度をホールド値として保持し、
前記温度検出回路が異常であると判定された場合に、前記温度検出回路が異常であると判定される前に保持した前記ホールド値から前記所定の設定値まで時間経過に伴って一定の増加速度で漸増する値を前記第1温度推定値として出力する、
ことを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記異常判定部は、前記温度検出素子の出力信号が前記所定範囲外の値である状態が所定時間以上に亘って継続した場合に前記温度検出回路が異常であると判定し、
前記第1温度推定部は、
前記温度検出回路が検出した検出温度をホールド値として保持し、
前記温度検出素子の出力信号が前記所定範囲外の値になる直前に保持した前記ホールド値から前記所定の設定値まで時間経過に伴って一定の増加速度で漸増する値を前記第1温度推定値として出力する、
ことを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
請求項1~3及び5~7のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御される電動モータと、を備え、
前記電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサを備え、
前記モータ制御装置は、前記操舵トルクに少なくとも基づいて前記電動モータに流れるモータ電流の電流指令値を設定する電流指令値設定部を備え、
前記モータ電流制御回路は、前記電動モータに流れるモータ電流をそれぞれ供給する第
1系統の電力変換器と第2系統の電力変換器を備え、
前記電流制限部は、前記温度検出回路が異常であると判定された場合に前記電動モータに流れるモータ電流を、前記電流指令値より小さな値の電流に制限する、
ことを特徴とする請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び特許文献2には、温度検出回路を用いて検出した検出温度に、電動モータに流れるモータ電流に基づいて推定した温度の上昇値を加えることによりモータ温度を推定し、モータ温度の推定値が閾値以上になると電動モータに流すモータ電流を制限する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4135437号明細書
【文献】特開2012-148629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
温度検出回路による検出温度とモータ電流に基づいて推定した上昇値とを加えてモータ温度を推定する構成では、温度検出回路に異常が発生した場合、検出温度の代わりに比較的高い設定値とモータ電流から推定した上昇値と加えてモータ温度を推定することにより、電動モータを保護する必要がある。
このため、モータ電流が流れている状態で温度検出回路に異常が発生すると、モータ温度の推定値がすぐに閾値を超え、実際のモータ温度が閾値未満であるにも関わらずモータ電流が制限されることがある。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、温度検出回路を用いて検出した検出温度とモータ電流に基づいて推定した温度の上昇値とを加えることによりモータ温度を推定し、モータ温度の推定値が閾値温度以上になるとモータ電流を制限する構成において、温度検出回路の異常発生直後にモータ電流が過剰に制限されるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によるモータ制御装置は、電動モータに流れるモータ電流を制御するモータ電流制御回路と、モータ電流制御回路付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、モータ電流による電動モータの温度の上昇値を推定する上昇値推定部と、温度検出回路が異常であるか否かを判定する異常判定部と、温度検出回路が正常であると判定された場合に、温度検出回路が検出した検出温度を第1温度推定値として出力し、温度検出回路が異常であると判定された場合に、温度検出回路が検出した検出温度から所定の設定値まで一定の増加速度で漸増する値を第1温度推定値として出力する第1温度推定部と、第1温度推定値に上昇値を加えた値を第2温度推定値として演算する第2温度推定部と、第2温度推定値が所定の閾値を超えた場合に、第2温度推定値が高くなるほど漸減するようにモータ電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0006】
本発明の他の一態様による電動パワーステアリング装置は、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置により制御される電動モータと、を備え、電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度検出回路を用いて検出した検出温度とモータ電流に基づいて推定した温度の上昇値とを加えることによりモータ温度を推定し、モータ温度の推定値が閾値以上になると温度以上になるとモータ電流を制限する構成において、温度検出回路の異常発生直後にモータ電流が過剰に制限されるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】第1実施形態の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)の一例の概要を示す構成図である。
【
図4】第1実施形態の温度測定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図5】温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値の変化を模式的に示す説明図である。
【
図6】第1実施形態の制御演算装置の機能構成の一例のブロック図である。
【
図7】第1実施形態のモータ制御方法の一例のフローチャートである。
【
図8】第2実施形態及び第3実施形態の電子制御ユニットの一例の概要を示す構成図である。
【
図9】第2実施形態の温度測定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図10】温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値の変化を模式的に示す説明図である。
【
図11】第2実施形態の制御演算装置の機能構成の一例のブロック図である。
【
図12】第2実施形態のモータ制御方法の一例のフローチャートである。
【
図13】変形例の温度測定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図14】回路基板上に搭載された電力変換回路と温度検出素子の相対位置関係の模式図である。
【
図15】電力変換回路が発生する熱を放出する放熱構造の模式図である。
【
図16】第3実施形態の温度測定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図17】温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値の算出方法を模式的に示す説明図である。
【
図18】電動パワーステアリング装置の第1変形例の概要を示す構成図である。
【
図19】電動パワーステアリング装置の第2変形例の概要を示す構成図である。
【
図20】電動パワーステアリング装置の第3変形例の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0011】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0012】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。モータ20は、例えば多相モータであってよい。以下の説明では、同じモータハウジング内に第1系統コイルと第2系統コイルが巻き回されて2つの系統のコイルにより共通のロータを回転させる2重巻線を有する三相モータの例について説明するが、モータ20は、2重巻線モータ以外のモータであってもよく、モータ20の相数は3相でなくてもよい。ステアリングホイール1の操舵力を補助する複数のモータ20を同一の操舵軸2に連結してもよい。
【0013】
電動パワーステアリング装置を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニションスイッチ11を経てイグニションキー信号が入力される。
ECU30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値によってモータ20に供給する電流(第1系統コイルのA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cと、第2系統コイルのA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2c)を制御する。ECU30は、特許請求の範囲に記載の「モータ制御装置」の一例である。
【0014】
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサ23aから得られるモータ回転角θmと減速ギア3のギア比との積に、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。回転角センサ23aには、例えば、モータの回転位置を検出するレゾルバや、モータ20の回転軸に取り付けられた磁石の磁界を検出する磁気センサが利用できる。また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0015】
ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するECU30の機能は、例えばECU30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0016】
なお、ECU30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、ECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばECU30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0017】
図2は、第1実施形態のECU30の一例の概要を示す構成図である。ECU30は、モータ回転角検出回路23と、制御演算装置31と、第1モータ電流遮断回路33Aおよび第2モータ電流遮断回路33Bと、第1ゲート駆動回路41Aと、第2ゲート駆動回路41Bと、第1電力変換回路(第1インバータ)42Aと、第2電力変換回路(第2インバータ)42Bと、第1電源遮断回路44Aと、第2電源遮断回路44Bと、温度検出回路45を備える。
ECU30には、コネクタCNTを介してバッテリ13からの電力を伝送する電力配線PWが接続される。電力配線PWの正極側ラインLpは、チョークコイルLとセラミックコンデンサC1及びC2により形成されたノイズフィルタ回路を経由して、制御演算装置31に接続されるとともに、分岐点Pbにて第1正極側ラインLpAと第2正極側ラインLpBに分岐する。
【0018】
第1正極側ラインLpA及び第2正極側ラインLpBは、それぞれ第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bに電力を供給する電源ラインであり、第1電源遮断回路44Aと第2電源遮断回路44Bにそれぞれ接続される。
チョークコイルLの一端が正極側ラインLpとセラミックコンデンサC1の一端とに接続され、チョークコイルLの他端が、セラミックコンデンサC2の一端と制御演算装置31と分岐点Pbとに接続され、セラミックコンデンサC1及びC2の他端は接地されている。一方で、電力配線PWの負極側ラインは、ECU30の接地線に接続される。
【0019】
制御演算装置31には、コネクタCNTを介してトルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhの信号が伝送される。
制御演算装置31は、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算し、電流指令値に補償等を施して得られる電圧制御指令値V1a、V1b、V1c、V2a、V2b、V2cを、第1ゲート駆動回路41Aと第2ゲート駆動回路41Bとに出力する。電圧制御指令値V1a、V1b、V1cは、それぞれ第1系統コイルのA相電圧制御指令値、B相電圧指令値、C相電圧指令値であり、電圧制御指令値V2a、V2b、V2cは、それぞれ第2系統コイルのA相電圧制御指令値、B相電圧指令値、C相電圧指令値である。
【0020】
第1電源遮断回路44Aは、2つのFETQC1およびQC2がソース同士を接続して寄生ダイオードが逆向きとなる直列回路構成を有する。FETQC1のドレインが第1正極側ラインLpAに接続され、FETQC2のドレインが第1電力変換回路42Aの各FETQ1、Q3およびQ5のドレインに接続されている。制御演算装置31は、第1電源遮断回路44Aの通電と遮断とを制御する制御信号SpAを第1ゲート駆動回路41Aに出力する。第1ゲート駆動回路41Aは、制御信号SpAに応じてFETQC1およびQC2のゲート信号を出力して、バッテリ13から第1電力変換回路42Aへの電源電流を通電又は遮断する。
【0021】
また、第2電源遮断回路44Bは、2つのFETQD1およびQD2がソース同士を接続して寄生ダイオードが逆向きとなる直列回路構成を有する。FETQD1のドレインが第2正極側ラインLpBに接続され、FETQD2のドレインが第2電力変換回路42Bの各FETQ1、Q3およびQ5のドレインに接続されている。制御演算装置31は、第2電源遮断回路44Bの通電と遮断とを制御する制御信号SpBを第2ゲート駆動回路41Bに出力する。第2ゲート駆動回路41Bは、制御信号SpBに応じてFETQD1およびQD2のゲート信号を出力して、バッテリ13から第2電力変換回路42Bへの電源電流を通電又は遮断する。
【0022】
第1ゲート駆動回路41Aは、制御演算装置31から電圧制御指令値V1a、V1b、V1cが入力されると、これらの電圧制御指令値V1a、V1b、V1cと三角波のキャリア信号に基づいてパルス幅変調(PWM)した6つのゲート信号を形成する。そして、これらゲート信号を第1電力変換回路42Aに出力する。
第2ゲート駆動回路41Bは、制御演算装置31から電圧制御指令値V2a、V2b、V2cが入力されると、これらの電圧制御指令値V2a、V2b、V2cと三角波のキャリア信号に基づいてパルス幅変調(PWM)した6つのゲート信号を形成する。そして、これらゲート信号を第2電力変換回路42Bに出力する。
【0023】
第1電力変換回路42Aは、スイッチング素子であるFETにより構成された3つのスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcと、電解コンデンサCAとを備える。
スイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcは互いに並列に接続されている。A相のスイッチングアームSWAaは、直列接続されたFETQ1及びQ2を備え、B相のスイッチングアームSWAbは、直列接続されたFETQ3及びQ4を備え、C相のスイッチングアームSWAcは、直列接続されたFETQ5及びQ6を備える。各FETQ1~Q6のゲートに第1ゲート駆動回路41Aから出力されるゲート信号が入力され、このゲート信号により、各スイッチングアームSWAa、SWAbおよびSWAcのFET間の接続点からA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cが第1モータ電流遮断回路33Aを介してモータ20の第1系統コイルのA相巻線、B相巻線及びC相巻線に通電される。
電解コンデンサCAは、第1電力変換回路42Aに対するノイズ除去機能および電力供給補助機能を備えている。
【0024】
第2電力変換回路42Bは、スイッチング素子であるFETにより構成された3つのスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcと、電解コンデンサCBとを備える。
スイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcは互いに並列に接続されている。A相のスイッチングアームSWBaは、直列接続されたFETQ1及びQ2を備え、B相のスイッチングアームSWBbは、直列接続されたFETQ3及びQ4を備え、C相のスイッチングアームSWBcは、直列接続されたFETQ5及びQ6を備える。各FETQ1~Q6のゲートに第2ゲート駆動回路41Bから出力されるゲート信号が入力され、このゲート信号により、各スイッチングアームSWBa、SWBbおよびSWBcのFET間の接続点からA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2cが第2モータ電流遮断回路33Bを介してモータ20の第2系統コイルのA相巻線、B相巻線及びC相巻線に通電される。
電解コンデンサCBは、第2電力変換回路42Bに対するノイズ除去機能および電力供給補助機能を備えている。
【0025】
なお、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bは、ステアリングホイール1の操舵を補助する操舵補助力をそれぞれ発生する2つの異なるモータに三相電流を供給する電力変換回路であってもよい。例えばこれら2つの異なるモータは、減速ギアを介して同一の操舵軸2に連結されていてもよい。
【0026】
第1電力変換回路42AのスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcの下側アームを形成するFETQ2、Q4およびQ6の各ソース側には、電流検出回路39A1、39B1及び39C1が設けられる。電流検出回路39A1、39B1及び39C1は、それぞれスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcの下流側電流を、第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流として検出し、その検出値I1ad、I1bd、I1cdを出力する。
第2電力変換回路42BのスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcの下側アームを形成するFETQ2、Q4およびQ6の各ソース側には、電流検出回路39A2、39B2及び39C2が設けられる。電流検出回路39A2、39B2及び39C2は、それぞれスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcの下流側電流を、第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流として検出し、その検出値I2ad、I2bd、I2cdを出力する。
【0027】
第1モータ電流遮断回路33Aは、3つの電流遮断用のFETQA1、QA2およびQA3を有する。FETQA1のソースが第1電力変換回路42AのスイッチングアームSWAaのFETQ1およびQ2の接続点に接続され、ドレインがモータ20の第1系統コイルのA相巻線に接続されている。FETQA2のソースがスイッチングアームSWAbのFETQ3およびQ4の接続点に接続され、ドレインが第1系統コイルのB相巻線に接続されている。FETQA3のソースがスイッチングアームSWAcのFETQ5およびQ6の接続点に接続され、ドレインが第1系統コイルのC相巻線に接続されている。
制御演算装置31は、第1モータ電流遮断回路33Aの通電と遮断とを制御する制御信号SmAを第1ゲート駆動回路41Aに出力する。第1ゲート駆動回路41Aは、制御信号SmAに応じてFETQA1~QA3のゲート信号を出力して、第1電力変換回路42Aからモータ20へのA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cを通電又は遮断する。
【0028】
第2モータ電流遮断回路33Bは、3つの電流遮断用のFETQB1、QB2およびQB3を有する。FETQB1のソースが第2電力変換回路42BのスイッチングアームSWBaのFETQ1およびQ2の接続点に接続され、ドレインがモータ20の第2系統コイルのA相巻線に接続されている。FETQB2のソースがスイッチングアームSWBbのFETQ3およびQ4の接続点に接続され、ドレインが第2系統コイルのB相巻線に接続されている。FETQB3のソースがスイッチングアームSWBcのFETQ5およびQ6の接続点に接続され、ドレインが第2系統コイルのC相巻線に接続されている。
制御演算装置31は、第2モータ電流遮断回路33Bの通電と遮断とを制御する制御信号SmBを第2ゲート駆動回路41Bに出力する。第2ゲート駆動回路41Bは、制御信号SmBに応じてFETQB1~QB3のゲート信号を出力して、第2電力変換回路42Bからモータ20へのA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2cを通電又は遮断する。
【0029】
モータ回転角検出回路23は、回転角センサ23aから検出値を取得し、モータ20の回転軸の回転角度であるモータ回転角θmを検出する。モータ回転角検出回路23は、モータ回転角θmを制御演算装置31へ出力する。
温度検出回路45は、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの付近に配置された温度センサ45aを備える。温度センサ45aは、「温度検出素子」の一例である。なお、温度センサ45aの配置位置は第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの付近でなくともよい。温度センサ45aは、ECU30の発熱し易い場所に配置されていれば足りる。
【0030】
温度検出回路45は、温度センサ45aの出力に応じて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を検出し、検出結果を示す検出信号Sd1を出力する。以下の説明において、温度検出回路45が検出した第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度(検出信号Sd1が表す温度)を「ECU温度検出値Te1」と表記することがある。
例えば温度センサ45aはサーミスタであってよい。温度検出回路45は、サーミスタの抵抗値に応じて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を検出するサーミスタ処理回路を備えてよい。
【0031】
図3は、温度検出回路45の一例の回路図である。温度検出回路45は、温度センサ45aとしてのサーミスタと固定抵抗Rとが直列接続された分圧回路と、コンデンサCtとを有する。サーミスタ45aと固定抵抗Rとで構成された分圧回路は、サーミスタ45aの抵抗値と固定抵抗Rの抵抗値の比で所定電圧Vccを分圧し、分圧により得られた値を検出信号Sd1として制御演算装置31に出力する。
【0032】
図2を参照する。制御演算装置31は、A/D変換部31aを介して、第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdと、第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdと、温度検出回路45の検出信号Sd1を取得する。
制御演算装置31は、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度であるECU温度を測定すると共にモータ20の温度(例えばモータ20のコイル巻線の温度)であるモータ温度を推定する温度測定部31bを備える。温度測定部31bは、温度検出回路45の検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1に基づいてECU温度を測定する。また、温度測定部31bは、ECU温度検出値Te1と、モータ20に流れるモータ電流の検出値I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdとに基づいてモータ温度を推定する。
【0033】
図4は、第1実施形態の温度測定部31bの機能構成の一例のブロック図である。温度測定部31bは、ECU温度測定部50と、センサ異常判定部51と、ECU温度推定部52と、上昇値推定部53と、加算器54を備える。
ECU温度測定部50は、ECU温度検出値Te1に基づいて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度であるECU温度Teを測定する。
【0034】
センサ異常判定部51は、温度検出回路45が異常であるか否かを判定する。センサ異常判定部51は、判定結果を示す異常判定信号Saを出力する。
第1実施形態のECU30は、単一の温度検出回路(温度検出回路45)を有する。第1実施形態に関する以下の説明では、温度検出回路45が異常であることを「温度検出回路が異常である」と表記し、温度検出回路45が異常でないことを「温度検出回路が異常でない」と表記する。
【0035】
一方で、後述の第2実施形態及び第3実施形態のECU30は、複数の温度検出回路(第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46)を有する。後述の第2実施形態及び第3実施形態に関する説明では、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の少なくとも一方が異常であることを「温度検出回路が異常である」と表記し、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46のいずれも異常でないこと(すなわち第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46のいずれも正常であること)を「温度検出回路が異常でない」と表記する。
【0036】
センサ異常判定部51は、温度検出回路45の検出信号Sd1が所定範囲外の値である場合に温度検出回路が異常であると判定し、検出信号Sd1が所定範囲内の値である場合に温度検出回路が異常でない(正常である)と判定してよい。
例えば
図3に示す温度検出回路45の例の場合、異常によりサーミスタ45aが断線すると検出信号Sd1が上昇して所定範囲の上限値よりも大きくなるため温度検出回路45の異常を検出できる。また、異常によりサーミスタ45aが短絡すると検出信号Sd1が下がって所定範囲の下限値よりも低くなるため温度検出回路45の異常を検出できる。
【0037】
例えばセンサ異常判定部51は、検出信号Sd1が所定範囲外の値となっても、検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が所定時間TLに亘って継続するまでは、温度検出回路が異常でないと判定してもよい。センサ異常判定部51は、検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が所定時間TL以上に亘って継続した場合に温度検出回路が異常であると判定してよい。所定時間TLは例えば1[秒]であってよい。これにより、例えばノイズ等の影響による検出信号Sd1の一時的な変動によって温度検出回路45の異常が誤検出されるのを防止できる。
【0038】
なお、センサ異常判定部51が温度検出回路の異常を検出した場合は、イグニションスイッチ11がオフに切り替わるまで、センサ異常判定部51が温度検出回路の異常を検出した状態が保持される。イグニションスイッチ11がオフに切り替わると、センサ異常判定部51が通常状態にリセットされる。
【0039】
ECU温度推定部52は、温度検出回路45の検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1と、センサ異常判定部51から出力される異常判定信号Saと、に基づいて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を推定する。
以下、ECU温度推定部52が推定した第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を「ECU温度推定値Tes」と表記することがある。ECU温度推定部52は「第1温度推定部」の一例であり、ECU温度推定値Tesは「第1温度推定値」の一例である。
【0040】
温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定した場合、ECU温度推定部52は、検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesとして出力してよい。
温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合、ECU温度推定部52は、温度検出回路が異常であると判定する前に温度検出回路45が検出したECU温度検出値Te1から所定の設定値Tsまで、一定の増加速度ΔTr[℃/秒]で漸増する値を、ECU温度推定値Tesとして出力する。
【0041】
例えば、ECU温度推定部52は、温度検出回路45の検出信号Sd1が所定範囲内の値である場合に、温度検出回路45が検出したECU温度検出値Te1をホールド値Thdとして一時的に保持し、順次更新してよい。
温度検出回路45の検出信号Sd1が所定範囲外の値となった時点t1において、ECU温度推定部52は、ホールド値Thdの更新を停止する。そして、検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が継続している間は、所定時間TLが経過するまで、時点t1の直前で保持したホールド値ThdをECU温度推定値Tesとして出力する。
すなわち、温度検出素子の出力信号が所定範囲外の値になる直前のECU温度検出値Te1をホールド値Thdとして保持し、検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が継続している間は、所定時間TLが経過するまでホールド値ThdをECU温度推定値Tesとして出力する。
【0042】
時点t1より所定時間TL後の時刻t2が過ぎても検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が継続すると、時点t2においてECU温度推定部52は、時点t1の直前で保持したホールド値Thdから所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTr[℃/秒]で漸増する値を、ECU温度推定値Tesとして出力する。
時点t2よりも前に検出信号Sd1が所定範囲内の値に戻ると、ECU温度推定部52は、温度検出回路45から受信した検出信号Sd1が示すECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesとして出力する。また、ホールド値Thdの更新を再開する。
【0043】
図5は、温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値Tesの変化を模式的に示す説明図である。
時点t1より前の期間では、温度検出回路45の検出信号Sd1が所定範囲内の値であり、ECU温度推定部52は検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesとして出力する。また、温度検出回路45が検出したECU温度検出値Te1をホールド値Thdとして一時的に保持し、順次更新する。
【0044】
時点t1において温度検出回路45の検出信号Sd1が所定範囲外の値となると、ホールド値Thdの更新を停止して(すなわち検出信号Sd1が所定範囲外の値となる直前のホールド値Thdを保持し)、ホールド値ThdをECU温度推定値Tesとして出力する。
時点t1より所定時間TL後の時刻t2が過ぎても検出信号Sd1が所定範囲外の値である状態が継続すると、時点t2でECU温度推定部52は、ホールド値Thdから所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTr[℃/秒]で漸増する値を、ECU温度推定値Tesとして出力する。
【0045】
図4を参照する。上昇値推定部53は、モータ20に流れるモータ電流によるモータ温度の上昇値Rtを推定する。例えば、上昇値推定部53は、モータ電流の検出値I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdの2乗和の積分値からモータ20の放熱量を減算することにより上昇値Rtを推定してよい。加算器54は、ECU温度推定値Tesに上昇値Rtを加えた値をモータ温度推定値Tmとして演算する。加算器54は、特許請求の範囲に記載の「第2温度推定部」の一例であり、モータ温度推定値Tmは特許請求の範囲に記載の「第2温度推定値」の一例である。
【0046】
図2を参照する。制御演算装置31は、ECU温度Teが閾値を超えた場合やモータ温度推定値Tmが閾値を超えた場合に、モータ20に流すモータ電流を制限する。
図6は、第1実施形態の制御演算装置31の機能構成の一例のブロック図である。なお、
図6では、モータ20の第1系統のコイルを駆動する機能構成のみ記載するが、第2系統のコイルを駆動する機能構成も同様の構成を有する。
【0047】
制御演算装置31は、電流指令値演算部60と、第1電流制限部61と、減算器62及び63と、第2電流制限部64と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部65と、2相/3相変換部66と、3相/2相変換部67と、角速度変換部68を備えており、モータ20をベクトル制御で駆動する。
電流指令値演算部60は、操舵トルクThと、車速Vhと、モータ20のモータ回転角θmと、モータ20の回転角速度ωに基づいてモータ20に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。
【0048】
第1電流制限部61は、温度測定部31bから出力された異常判定信号Saと、ECU温度Teと、モータ温度推定値Tmと、に基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限することにより、制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出する。
例えば第1電流制限部61は、ECU温度Teが所定の第1閾値Ta1を超えた場合に、ECU温度Teが高くなるほどq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を大きく制限することにより、q軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。すなわちECU温度Teが高くなるほど漸減するq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。
【0049】
また例えば第1電流制限部61は、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが高くなるほどq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を大きく制限することにより、q軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。すなわちモータ温度推定値Tmが高くなるほど漸減するq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。
また例えば、第1電流制限部61は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合に、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0より小さな値のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してもよい。例えば、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を50%に制限することによりq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。
【0050】
例えば、第1電流制限部61は、異常判定信号Saに応じた制限ゲインK1と、ECU温度Teに応じた制限ゲインK2と、モータ温度推定値Tmに応じた制限ゲインK3を設定してよい。
第1電流制限部61は、温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定した場合に制限ゲインK1の値を「1」に設定し、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合に制限ゲインK1の値を「0.5」に設定してよい。
第1電流制限部61は、温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定し、且つECU温度Teが第1閾値Ta1を超えた場合に、ECU温度Teが第1閾値Ta1から第3閾値Ta2に上昇するのに応じて、制限ゲインK2の値を「1」から「0」まで漸減してよい。制限ゲインK2の値は、ECU温度Teが第1閾値Ta1から第3閾値Ta2に上昇するのに応じて直線的に「1」から「0」まで漸減してよい。
温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合、第1電流制限部61は、制限ゲインK2の値を「1」に設定してよい。
【0051】
第1電流制限部61は、制限ゲインK2にヒステリシス特性を設けてもよい。例えば、制限ゲインK2の値が「1」に設定されている状態でECU温度Teが第1閾値Ta1を超えた場合に、ECU温度Teが第1閾値Ta1から上昇するのに応じて、制限ゲインK2の値を「1」から漸減する。ECU温度Teが第3閾値Ta2に到達しない限り(すなわち制限ゲインK2の値が「0」にならない限り)、第1電流制限部61は、ECU温度Teが第1閾値Ta1から第3閾値Ta2の範囲で上下するのに応じて、制限ゲインK2の値を「1」から「0」の範囲で減少又は増加させる。
【0052】
ECU温度Teが第3閾値Ta2に到達すると(すなわち制限ゲインK2の値が「0」になると)、第1電流制限部61は、ECU温度Teが第3閾値Ta2未満になっても制限ゲインK2の値を「0」から増加させない。ECU温度Teが第3閾値Ta2よりも小さな第4閾値Ta3未満に低下した場合に、第1電流制限部61は制限ゲインK2の増加を開始し、第1閾値Ta1よりも小さな第5閾値Ta4までECU温度Teが低下するのに応じて、制限ゲインK2の値を「0」から「1」まで漸増してよい。例えば、第4閾値Ta3は第1閾値Ta1よりも低い値に設定してもよく第1閾値Ta1よりも高い値に設定してもよい。
ECU温度Teが第5閾値Ta4に到達しない限り(すなわち制限ゲインK2の値が「1」にならない限り)、第1電流制限部61は、ECU温度Teが第4閾値Ta3から第5閾値Ta4の範囲で上下するのに応じて制限ゲインK2の値を「0」から「1」の範囲で減少又は増加させる。
【0053】
第1電流制限部61は、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1から第6閾値Tb2に上昇するのに応じて、制限ゲインK3の値を「1」から「0」まで漸減してよい。例えば、制限ゲインK3の値は、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1から第6閾値Tb2に上昇するのに応じて直線的に「1」から「0」まで漸減してよい。
また、制限ゲインK3に、上述の制限ゲインK2のヒステリシス特性と同様のヒステリシス特性を持たせてもよい。
【0054】
第1電流制限部61は、制限ゲインK1、K2及びK3に基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限することにより、q軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出する。
例えば、温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定した場合(すなわち制限ゲインK1=「1」)の場合、第1電流制限部61は、例えば、K2またはK3のうちいずれか小さいゲインK4=min(K2、K3)を選択し、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0にゲインK4を乗算した積をq軸電流指令値Iq1=K4×Iq0及びd軸電流指令値Id1=K4×Id0として算出してよい。
また例えば、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0にゲインK2及びK3を乗算した積をq軸電流指令値Iq1=K2×K3×Iq0及びd軸電流指令値Id1=K2×K3×Id0として算出してもよい。
【0055】
例えば、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合(例えば制限ゲインK1=「0.5」)の場合には、第1電流制限部61は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0に制限ゲインK1及びK3を乗算した積をq軸電流指令値Iq1=K1×K3×Iq0及びd軸電流指令値Id1=K1×K3×Id0として算出してよい。
【0056】
一方で、電流検出回路39A1、39B1、39C1により検出されたモータ20の第1系統コイルのA相電流、B相電流及びC相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdは、3相/2相変換部67でd-q2軸の電流id、iqに変換される。
減算器62及び63は、フィードバックされた電流iq、idを制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0を算出する。
第2電流制限部64は、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0の上限値を制限する。制限後のq軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdは、PI制御部65に入力される。
【0057】
PI制御部65は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような電圧指令値vq、vdを算出する。2相/3相変換部66は、電圧指令値vd、vqを、モータ20の第1系統のA相電圧制御指令値V1a、B相電圧指令値V1b、C相電圧指令値V1cにそれぞれ変換して、第1ゲート駆動回路41Aへ出力する。
角速度変換部68は、モータ回転角θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転角速度ωを算出する。これらモータ回転角θm及び回転角速度ωは、電流指令値演算部60に入力されてベクトル制御に使用される。
【0058】
図7は、第1実施形態のモータ制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてECU温度測定部50、センサ異常判定部51及びECU温度推定部52は、温度検出回路45の検出信号Sd1を取得する。
ステップS2においてECU温度測定部50は、ECU温度検出値Te1に基づいてECU温度Teを測定する。
ステップS3において第1電流制限部61は、ECU温度Teが第1閾値Ta1を超えたか否かを判定する。ECU温度Teが第1閾値Ta1を超えた場合(ステップS3:Y)に処理はステップS4へ進む。ECU温度Teが第1閾値Ta1を超えない(S3:N)場合に処理はステップS5へ進む。
【0059】
ステップS4において第1電流制限部61は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限する。その後に処理はステップS5へ進む。
ステップS5において電流検出回路39A1、39B1、39C1、39A2、39B2及び39C2は、モータ電流I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdをそれぞれ検出する。
【0060】
ステップS6において上昇値推定部53は、モータ電流I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdに基づいて、モータ電流によるモータ温度の上昇値Rtを推定する。
ステップS7においてセンサ異常判定部51は、温度検出回路が異常であるか否かを判定する。温度検出回路が異常である場合(ステップS7:Y)に処理はステップS9へ進む。温度検出回路が異常でない場合(ステップS7:N)に処理はステップS8へ進む。
ステップS8においてECU温度推定部52は、ECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesに設定する。その後に処理はステップS11へ進む。
【0061】
ステップS9において第1電流制限部61は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限する。ステップS10においてECU温度推定部52は、一定の増加速度ΔTrでECU温度推定値Tesを所定の設定値Tsまで漸増させる。例えば単位時間当たり所定のステップ量だけECU温度推定値Tesを増加する。その後に処理はステップS11へ進む。
ステップS11において加算器54は、ECU温度推定値Tesに上昇値Rtを加えた値をモータ温度推定値Tmとして算出する。
【0062】
ステップS12において第1電流制限部61は、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えたか否かを判定する。モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えた場合(ステップS12:Y)に処理はステップS13へ進む。モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えない場合(ステップS12:N)に処理は終了する。
ステップS13において第1電流制限部61は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限する。その後に処理は終了する。
【0063】
(第1実施形態の効果)
(1)ECU30は、モータ20に流れるモータ電流を制御する第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bと、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42B付近に配置された温度センサ45aを有する温度検出回路45と、モータ電流によるモータ20の温度の上昇値Rtを推定する上昇値推定部53と、温度検出回路45が異常であるか否かを判定するセンサ異常判定部51と、温度検出回路45が正常であると判定された場合に、温度検出回路45が検出した検出温度をECU温度推定値Tesとして出力し、温度検出回路45が異常であると判定された場合に、温度検出回路45が検出した検出温度から所定の設定値Tsまで一定の増加速度で漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力するECU温度推定部52と、ECU温度推定値Tesに上昇値Rtを加えた値をモータ温度推定値Tmとして演算する加算器54と、モータ温度推定値Tmが所定の閾値を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが高くなるほど漸減するようにモータ電流を制限する第1電流制限部61と、を備える。
【0064】
センサ異常判定部51は、温度センサ45aの出力信号が所定範囲内の値である場合に温度検出回路45が正常であると判定し、温度センサ45aの出力信号が所定範囲外の値である場合に温度検出回路45が異常であると判定する。
これにより、温度検出回路45に異常が発生した場合にモータ温度推定値Tmが急に高くなってモータ電流が過剰に制限されるのを防止できる。また、モータ温度推定値Tmが所定の閾値を超えても漸減するようにモータ電流を制限することにより、モータ温度推定値Tmの上昇を抑制し、モータ電流の制限が過大になるのを抑制できる。
【0065】
(2)ECU温度推定部52は、温度検出回路45が検出した検出温度をホールド値として保持し、温度検出回路45が異常であると判定された場合に、温度検出回路45が異常であると判定される前に保持したホールド値から所定の設定値Tsまで時間経過に伴って一定の増加速度で漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力してよい。
これにより温度検出回路45に異常が発生した場合に、異常な検出値に基づいてECU温度推定値Tesを算出するのを防止できる。
【0066】
(3)センサ異常判定部51は、温度検出素子の出力信号が所定範囲外の値である状態が所定時間以上に亘って継続した場合に温度検出回路が異常であると判定してよい。ECU温度推定部52は、温度検出回路45が検出した検出温度をホールド値として保持し、温度センサ45aの出力信号が所定範囲外の値になる直前のホールド値から所定の設定値まで時間経過に伴って一定の増加速度で漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力してよい。
これにより、ノイズ等の影響による温度センサ45aの出力信号の一時的な変動によって温度検出回路45の異常を誤検出するのを防止できる。
【0067】
(4)電動パワーステアリング装置は、ECU30と、ECU30により制御されるモータ20とを備え、モータ20によって車両の操舵系に操舵補助力を付与する。電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイール1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10を備え、ECU30は、操舵トルクに少なくとも基づいてモータ20に流れるモータ電流の電流指令値を設定する電流指令値演算部60を備える。電動モータに流れるモータ電流をそれぞれ供給する電流制御は、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとにより冗長化されていてよい。第1電流制限部61は、温度検出回路が異常であると判定された場合にモータ20に流れるモータ電流を、電流指令値より小さな値の電流に制限してよい。これにより、電動パワーステアリング装置においてモータ電流制御回路の温度が許容温度以下となるようにモータ電流を制限できる。
【0068】
(第2実施形態)
第2実施形態のECU30では、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を検出する温度検出回路が冗長化されている。
図8は、第2実施形態のECU30の一例の概要を示す構成図である。第2実施形態のECU30は、第1実施形態の温度検出回路45としての第1温度検出回路45と、第2温度検出回路46とを備える。第2実施形態のECU30のその他の構成要素は、第1実施形態と同様である。
なお、第1実施形態のECU30と共通する構成要素及び機能に関する説明を省略する。また、以下の説明において第1温度検出回路45の温度センサ45aを「第1温度センサ45a」と表記する。
【0069】
第2温度検出回路46は、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの付近に配置された第2温度センサ46aを備える。第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aは、それぞれ「第1温度検出素子」及び「第2温度検出素子」の一例である。なお、第2温度センサ46aの配置位置は第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの付近でなくともよい。第2温度センサ46aは、ECU30の発熱し易い場所に配置されていれば足りる。
【0070】
第2温度検出回路46は、第2温度センサ46aの出力に応じて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を検出し、検出結果を示す検出信号Sd2を出力する。以下の説明において、第2温度検出回路46が検出した第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度(検出信号Sd2が表す温度)を「ECU温度検出値Te2」と表記することがある。
第2温度検出回路46は、第1温度検出回路45と同一の構成を有していてよい。例えば、第2温度検出回路46の第2温度センサ46aは、第1温度検出回路45の第1温度センサ45aと同一の特性のサーミスタであってよく、第1温度検出回路45と第2温度検出回路46の固定抵抗Rは同一の抵抗値を有していてよい。
【0071】
制御演算装置31は、A/D変換部31aを介して、第2温度検出回路46の検出信号Sd2を取得する。温度測定部31bは、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の検出信号Sd1及びSd2が表すECU温度検出値Te1及びTe2と、モータ20に流れるモータ電流の検出値I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdとに基づいてモータ温度を推定する。
【0072】
図9は、第2実施形態の温度測定部31bの機能構成の一例のブロック図である。温度測定部31bは、センサ異常判定部51と、ECU温度推定部52と、上昇値推定部53と、加算器54を備える。なお、
図4に示した第1実施形態の温度測定部31bと共通する構成要素及び機能に関する説明を省略する。
センサ異常判定部51は、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の少なくとも一方が異常であるか否かを判定し、判定結果を示す異常判定信号Saを出力する。
第2実施形態及び第3実施形態に関する説明では、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の少なくとも一方が異常であることを「温度検出回路が異常である」と表記し、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46のいずれも異常でないこと(すなわち第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46のいずれも正常であること)を「温度検出回路が異常でない」と表記する。
【0073】
例えばセンサ異常判定部51は、第1温度検出回路45の検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1と第2温度検出回路46の検出信号Sd2が表すECU温度検出値Te2との差分ΔTeが所定値ΔTt以上である場合に、温度検出回路が異常であると判定してよい。差分ΔTeが所定値ΔTt未満である場合にセンサ異常判定部51は、温度検出回路が異常でないと判定してよい。
例えば所定値ΔTtは5[℃]であってよい。これにより、例えば第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46を構成する部品のバラつきによってECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2の間にある程度の誤差があっても、第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の異常を誤検出するのを防止できる。
【0074】
また例えばセンサ異常判定部51は、差分ΔTeが所定値ΔTt以上となっても、差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が所定時間TLに亘って継続するまでは、温度検出回路が異常でないと判定してよい。センサ異常判定部51は、差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が所定時間TL以上に亘って継続した場合に温度検出回路が異常であると判定してよい。例えば所定時間TLは1[秒]であってよい。これにより、例えばノイズ等の影響による差分ΔTeの一時的な増加によって第1温度検出回路45及び第2温度検出回路46の異常が誤検出されるのを防止できる。
【0075】
ECU温度推定部52は、第1温度検出回路45の検出信号Sd1が表すECU温度検出値Te1と、第2温度検出回路46の検出信号Sd2が表すECU温度検出値Te2と、センサ異常判定部51から出力される異常判定信号Saと、に基づいて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度を推定する。
【0076】
温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定した場合、ECU温度推定部52は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちいずれか一方を選択して、ECU温度推定値Tesとして出力してよい。例えばECU温度推定部52は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちより高い検出値をECU温度推定値Tesとして出力してよく、より低い検出値をECU温度推定値Tesとして出力してもよい。
【0077】
温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合、ECU温度推定部52は、第1温度検出回路45が検出したECU温度検出値Te1又は第2温度検出回路46が検出したECU温度検出値Te2から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTr[℃/秒]で漸増する値を、ECU温度推定値Tesとして出力する。
例えば、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te1を出力していた場合、ECU温度推定部52は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1ではECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te1を出力する。ECU温度推定部52は、時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、時点t1で第1温度検出回路45が検出していたECU温度検出値Te1から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力する。
【0078】
同様に、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te2を出力していた場合、ECU温度推定部52は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1ではECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te2を出力する。ECU温度推定部52は、時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、時点t1で第2温度検出回路46が検出していたECU温度検出値Te2から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力する。
【0079】
ECU温度推定部52は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1において第1温度検出回路45が検出したECU温度検出値Te1又は第2温度検出回路46が検出したECU温度検出値Te2に応じて、増加速度ΔTrを変更してよい。
例えば、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te1を出力していた場合、ECU温度検出値Te1が低い場合に比べて高い場合に、より低い増加速度ΔTrを設定してよい。例えば、ECU温度検出値Te1が高いほど、より低い増加速度ΔTrを設定してよい。
温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te2を出力していた場合、ECU温度検出値Te2が低い場合に比べて高い場合に、より低い増加速度ΔTrを設定してよい。例えば、ECU温度検出値Te2が高いほど、より低い増加速度ΔTrを設定してよい。
【0080】
図10は、温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値Tesの変化を模式的に示す説明図である。ここでは、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する直前までECU温度検出値Te1がECU温度推定値Tesとして出力されていた場合について説明する。ECU温度検出値Te2がECU温度推定値Tesとして出力されていた場合には、ECU温度検出値Te1をECU温度検出値Te2に読み替える。
実線L1は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1におけるECU温度検出値Te1が比較的高いT1である場合にECU温度推定部52から出力されるECU温度推定値Tesの時間的変化を示し、一点鎖線L2は、時点t1におけるECU温度検出値Te1が比較的低いT2である場合にECU温度推定部52から出力されるECU温度推定値Tesの時間的変化を示す。
【0081】
図10の例においてセンサ異常判定部51は、差分ΔTeが所定値ΔTt以上となっても、差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が所定時間TLに亘って継続するまでは、温度検出回路が異常でないと判定する。このため、差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が継続した時間が所定時間TLに至る時点t1まで、ECU温度推定部52はECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesとして出力する。時点t1においてセンサ異常判定部51は、温度検出回路が異常であると判定する。
時点t1におけるECU温度検出値Te1が温度T1である場合に、ECU温度推定部52は、実線L1に示すように時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、温度T1から一定の増加速度ΔTr1[℃/秒]で漸増し、時点t2で所定の設定値Tsに至るECU温度推定値Tesを出力する。
【0082】
一方で、時点t1におけるECU温度検出値Te1が温度T2である場合に、ECU温度推定部52は、一点鎖線L2に示すように時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、温度T2から一定の増加速度ΔTr2[℃/秒]で漸増し、時点t3で所定の設定値Tsに至るECU温度推定値Tesを出力する。
センサ異常判定部51は、時点t1におけるECU温度検出値Te1が比較的低いT2である場合の増加速度ΔTr2に比べ、時点t1におけるECU温度検出値Te1が比較的高いT1である場合の増加速度ΔTr1が低くなるように設定してよい。温度が高い物体ほど放熱が大きくなるため、同じ熱量が加わる場合の温度上昇が遅くなる。温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1におけるECU温度検出値Te1が高いほど、ECU温度推定値Tesの増加速度ΔTrを低くすることにより、ECU温度推定値Tesが過剰に高くなるのを防止できる。
【0083】
図11は、第2実施形態の制御演算装置31の機能構成の一例のブロック図である。なお、
図11では、モータ20の第1系統のコイルを駆動する機能構成のみ記載するが、第2系統のコイルを駆動する機能構成も同様の構成を有する。また、
図6に示した第1実施形態の制御演算装置31と共通する構成要素及び機能に関する説明を省略する。
第1電流制限部61は、温度測定部31bから出力された異常判定信号Saとモータ温度推定値Tmとに基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限することにより、制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出する。
【0084】
例えば第1電流制限部61は、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが高くなるほどq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を大きく制限することにより、q軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。すなわちモータ温度推定値Tmが高くなるほど漸減するq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。
【0085】
また例えば、第1電流制限部61は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合に、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0より小さな値のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。例えば、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を50%に制限することによりq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してよい。
なお、第1電流制限部61は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合に、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えない場合であっても、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0より小さな値のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1(例えばそれぞれq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を50%)を算出してよい。
【0086】
例えば、第1電流制限部61は、異常判定信号Saに応じた上記の制限ゲインK1と、モータ温度推定値Tmに応じた上記の制限ゲインK3を設定してよい。
例えば第1電流制限部61は、制限ゲインK3にヒステリシス特性を設けてもよい。例えば、制限ゲインK3の値が「1」になると、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1から上昇するのに応じて、制限ゲインK3の値を「1」から漸減する。モータ温度推定値Tmが第6閾値Tb2に到達しない限り(すなわち制限ゲインK2の値が「0」にならない限り)、モータ温度推定値Tmが第2閾値Tb1から第6閾値Tb2の範囲で上下するのに応じて、第1電流制限部61は、制限ゲインK3の値を「1」から「0」の範囲で減少又は増加させる。
【0087】
モータ温度推定値Tmが第6閾値Tb2に到達すると(すなわち制限ゲインK3の値が「0」になると)、第1電流制限部61は、モータ温度推定値Tmが第6閾値Tb2未満になっても制限ゲインK3の値を「0」から増加させない。モータ温度推定値Tmが第6閾値Tb2よりも小さな第7閾値Tb3未満に低下した場合に、第1電流制限部61は制限ゲインK3の減少を開始し、第2閾値Tb1よりも小さな第8閾値Tb4までモータ温度推定値Tmが低下するのに応じて、制限ゲインK3の値を「0」から「1」まで漸増してよい。例えば、第7閾値Tb3は第2閾値Tb1よりも低い値に設定しても第2閾値Ttb1よりも高い値に設定してもよい。
モータ温度推定値Tmが第8閾値Tb4に到達しない限り(すなわち制限ゲインK3の値が「1」にならない限り)、モータ温度推定値Tmが第7閾値Tb3から第8閾値Tb4の範囲で上下するのに応じて、第1電流制限部61は、制限ゲインK3の値を「0」から「1」の範囲で減少又は増加させる。
第1電流制限部61は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0に制限ゲインK1及びK3を乗算した積をq軸電流指令値Iq1=K1×K3×Iq0及びd軸電流指令値Id1=K1×K3×Id0として算出する。
【0088】
なお、第2実施形態の温度測定部31bにおいても、第1実施形態の温度測定部31bと同様にECU温度Teを出力してよい。
また、第2実施形態の第1電流制限部61においても、第1実施形態の第1電流制限部61と同様に、温度測定部31bから出力された異常判定信号Saと、ECU温度Teと、モータ温度推定値Tmとに基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限して、制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を算出してもよい。
【0089】
図12は、第2実施形態のモータ制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS20の処理は、
図7のステップS1の処理と同様である。ステップS21~S29の処理は、
図7のステップS5~S13の処理と同様である。
【0090】
図13は、変形例の温度測定部31bの機能構成の一例のブロック図である。変形例の温度測定部31bは、
図9に示した第2実施形態の温度測定部31bの構成に加え、ECU温度測定部50を備える。
ECU温度測定部50は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2とに基づいて第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの温度であるECU温度Teを測定する。ECU温度測定部50は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちいずれか一方を選択して、ECU温度Teとして出力してよい。例えばECU温度測定部50は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちより高い検出値をECU温度Teとして出力してよく、より低い検出値をECU温度Teとして出力してもよい。
【0091】
(第2実施形態の効果)
(1)ECU30は、モータ20に流れるモータ電流を制御する第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bと、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bの付近に配置された温度センサ45a、46aを有する温度検出回路45、46と、モータ電流によるモータ20の温度の上昇値Rtを推定する上昇値推定部53と、温度検出回路が異常であるか否かを判定するセンサ異常判定部51と、温度検出回路が異常でないと判定された場合に、温度検出回路45、46が検出した検出温度をECU温度推定値Tesとして出力し、温度検出回路が異常であると判定された場合に、温度検出回路45、46が検出した検出温度から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力するECU温度推定部52と、ECU温度推定値Tesに上昇値Rtを加えた値をモータ温度推定値Tmとして演算する加算器54と、モータ温度推定値Tmが所定の閾値を超えた場合に、モータ温度推定値Tmが高くなるほど漸減するようにモータ電流を制限する第1電流制限部61と、を備える。
これにより、温度検出回路に異常が発生した場合にモータ温度推定値Tmが急に高くなってモータ電流が過剰に制限されるのを防止できる。また、モータ温度推定値Tmが所定の閾値を超えても漸減するようにモータ電流を制限することにより、モータ温度推定値Tmの上昇を抑制し、モータ電流の制限が過大になるのを抑制できる。
【0092】
(2)温度検出回路45、46は、それぞれ温度センサ45a、46aを備え、温度センサ45aの出力に応じたECU温度検出値Te1を示す検出信号と、温度センサ46aの出力に応じたECU温度検出値Te2を示す検出信号とを出力してよい。センサ異常判定部51は、ECU温度検出値Te1、Te2のうちより高い第1検出温度とより低い第2検出温度との間の差分ΔTeが所定値ΔTt以上である場合に温度検出回路が異常であると判定してよい。ECU温度推定部52は、温度検出回路が正常であると判定された場合に、第1検出温度をECU温度推定値Tesとして出力してよい。
このように複数の温度検出回路45、46によるECU温度検出値Te1、Te2に基づいて温度検出回路が異常であるか否かを判定することにより、単一の温度検出回路を備える場合に比べてより正確且つより迅速に温度検出回路の異常を判定できる。
【0093】
(3)センサ異常判定部51は、第1検出温度と第2検出温度との間の差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が所定時間TL以上に亘って継続した場合に温度検出回路が異常であると判定してよい。ECU温度推定部52は、差分ΔTeが所定値ΔTt以上である状態が所定時間TLに亘って継続した時点において温度検出回路45又は46が出力する第1検出温度から所定の設定値Tsまで時間経過に伴って一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして出力してよい。
これにより、例えばノイズ等の影響による差分ΔTeの一時的な増加によって温度検出回路の異常を誤検出するのを防止できる。
【0094】
(4)ECU温度推定部52は、温度検出回路が異常であると判定された場合に、温度検出回路45又は46が検出した検出温度が低い場合に比べて高い場合に、より低い増加速度ΔTrで漸増するECU温度推定値Tesを出力してよい。
これにより、温度検出回路が異常であると判定された時点で温度検出回路45又は46で検出された検出温度が高い場合に、ECU温度推定値Tesが過剰に高くなるのを防止できる。
【0095】
(第3実施形態)
第3実施形態のECU30の構成は、
図8を参照して説明した第2実施形態のECU30と同様の構成を有する。また、第3実施形態の制御演算装置31の構成は、
図6を参照して説明した第1実施形態の制御演算装置31と同様の構成を有する。なお、第2実施形態のECU30及び第1実施形態の制御演算装置31と共通する構成要素及び機能に関する説明を省略する。
【0096】
図8を参照する。第1温度検出回路45の第1温度センサ45aと、第2温度検出回路46の第2温度センサ46aは、発熱部品である第1電力変換回路42AのFETQ1~Q6及び第2電力変換回路42BのFETQ1~Q6と同一の回路基板に搭載される。
図14は、回路基板70上に搭載された電力変換回路(第1電力変換回路42A、第2電力変換回路42B)と温度センサ(第1温度センサ45a、第2温度センサ46a)との間の相対位置関係の模式図である。以下の説明において、回路基板70の部品搭載面に平行な直交2軸方向をそれぞれ第1方向D1及び第2方向D2と表記する。
【0097】
図14に示すように、回路基板70は、上面視で長円形状を短軸に沿って分割した半長円形状を有しており、第1方向D1の両縁部e1及びe2のうち一方の縁部e1は円弧状に形成され、他方の縁部e2は直線状に形成されている。
第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bは、第2方向D2に沿って配列され、第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aは、第2方向D2において、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間に配置されている。このように、第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間に配置することにより、第1電力変換回路42A又は第2電力変換回路42Bのどちらかに偏ることなく、第1電力変換回路42A又は第2電力変換回路42Bの両方の温度異常を良好に検出できる。
【0098】
例えば、第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aは、電力配線PWの正極側ラインLp(
図8を参照)が第1正極側ラインLpAと第2正極側ラインLpBとに分岐する分岐点Pb付近に配置してよい。例えば、分岐点Pb付近の電力変換回路42A、42B側の位置であって、且つ第1正極側ラインLpAと第2正極側ラインLpBとの間に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置してよい。
第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bへの電源ラインである第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとが分岐する分岐点Pb付近に配置することにより、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置し易くなる。
【0099】
例えば、第2方向D2における回路基板70の略中央を通る中心線CL(すなわち第1方向D1に沿った中心線CL)上に、第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置してよい。中心線CLに第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置することにより、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置し易くなる。また、回路基板70の中央は熱が溜まりやすいため、高温になり易い場所に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置することによりECU30の過熱を検出し易くなる。
【0100】
さらに第1温度センサ45aと第2温度センサ46aは、近接して配置してもよい。第1温度センサ45aと第2温度センサ46aを近接して配置することにより、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとの間の熱的結合を密にすることができる。この結果、第1温度センサ45aの検出温度と第2温度センサ46aの検出温度とを互いに近付けることができる。
これにより、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aの検出温度の差分に基づいて第1温度検出回路45と第2温度検出回路46に生じた異常を検出できる。
【0101】
また、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aは、互いに異なる向きに配向されるように回路基板70に搭載してもよい。
図4において参照符号45b及び45cはサーミスタである第1温度センサ45aの両端電極を示し、参照符号46b及び46cはサーミスタである第2温度センサ46aの両端電極を示している。
図14の例では、第1温度センサ45aの両端電極45b及び45cは第2方向D2に沿って配列され、第2温度センサ46aの両端電極46b及び46cは第1方向D1に沿って配列されており、第1温度センサ45aの向きと第2温度センサ46aの向きは直交している。
【0102】
このように、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとを異なる向きに配向することにより、回路基板70に応力が加わったときに第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとが同時にダメージを被るのを回避できる。
上記のように、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aの検出温度の差分に基づいて第1温度検出回路45と第2温度検出回路46の異常を検出する場合に、両方のセンサに同じ異常が発生して検出温度に差がなくなると、異常発生を検出できなくなる虞がある。回路基板70に加わる応力によって両センサが同時にダメージを被るのを回避することにより、応力によって受けたダメージによって両方のセンサに同じ異常が生じるのを抑制できる。
【0103】
第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの各々に含まれるFETQ1~Q6と、温度センサ(第1温度センサ45a、第2温度センサ46a)とを、同一の放熱部材(ヒートシンク)に熱的に接続してもよい。放熱部材は熱伝導性が良好な素材で構成されているため、発熱部材であるFETQ1~Q6と第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aとを同一の放熱部材に熱的に接続することにより、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの温度異常をより検出し易くなる。
また、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとを同一の放熱部材に熱的に接続することにより、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとの間の熱的結合がさらに密になり、第1温度センサ45aの検出温度と第2温度センサ46aの検出温度とをより近付けることができる。
【0104】
図15は、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bが発生する熱を放出する放熱構造の模式図である。放熱部材72は、例えばアルミ合金などの熱伝導性のよい金属で形成されたヒートシンクであってよい。
第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの各々に含まれるFETQ1~Q6の回路基板70と反対側の面f1と、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aの回路基板70と反対側の面f2とが、同一のヒートシンク72に熱的に接続されている。例えば、導電性ペースト(例えば放熱グリス)のような熱インタフェース材料(TIM:Thermal Interface Material)73及び74をそれぞれ介して面f1及びf2をヒートシンク72に接触させる。
FETQ1~Q6は、例えば天面(上面)放熱構造を有するスイッチング素子であってよい。例えば、FETQ1~Q6は、ソースパッドに接続されたサーマルパッドが、ドレインパッドが設けられた面(底面)と反対側の面(上面)において、ダイを封止している樹脂製のパッケージ(モールド)から露出しているスイッチング素子であってよい。また例えば、FETQ1~Q6は、熱伝導度の高い樹脂で形成されたモールドを有し、かつドレインパッドが設けられた面と反対側の面のモールドが薄肉化されたスイッチング素子であってもよい。
【0105】
図16は、第3実施形態の温度測定部31bの機能構成の一例のブロック図である。温度測定部31bは、センサ異常判定部51と、ECU温度測定部50と、モータ温度推定部55を備える。第3実施形態のセンサ異常判定部51の機能は、第2実施形態のセンサ異常判定部51の機能と同様であり、第3実施形態のECU温度測定部50の機能は、第2実施形態の変形例のECU温度測定部50の機能と同様であるため説明を省略する。
【0106】
モータ温度推定部55は、モータ20のモータ温度を推定する。具体的には、モータ温度推定部55は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2とセンサ異常判定部51から出力される異常判定信号Saとに基づいてECU温度を推定し(すなわち、ECU温度推定値Tesを算出し)、ECU温度推定値Tesとモータ電流の検出値I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdとに基づいてモータ温度を推定する。
温度検出回路が異常でないとセンサ異常判定部51が判定した場合、モータ温度推定部55は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちいずれか一方をECU温度推定値Tesとして選択する。例えばモータ温度推定部55は、ECU温度検出値Te1とECU温度検出値Te2のうちより高い検出値をECU温度推定値Tesとして選択してよく、より低い検出値をECU温度推定値Tesとして選択してもよい。
【0107】
温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した場合、モータ温度推定部55は、ECU温度検出値Te1又はECU温度検出値Te2から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTr[℃/秒]で漸増する値を、ECU温度推定値Tesとして算出する。
図17は、温度検出回路の異常時におけるECU温度推定値Tesの算出方法を模式的に示す説明図である。例えば、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する時点t1の直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te1を選択していた場合、モータ温度推定部55は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1ではECU温度検出値Te1をECU温度推定値Tesに設定する。モータ温度推定部55は、時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、時点t1で第1温度検出回路45が検出していたECU温度検出値Te1から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして算出する。
【0108】
一方で、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定する時点t1の直前まで、ECU温度推定値TesとしてECU温度検出値Te2を選択していた場合、モータ温度推定部55は、温度検出回路が異常であるとセンサ異常判定部51が判定した時点t1ではECU温度検出値Te2をECU温度推定値Tesに設定する。モータ温度推定部55は、時点t1からECU温度推定値Tesの増加を開始し、時点t1で第1温度検出回路45が検出していたECU温度検出値Te2から所定の設定値Tsまで一定の増加速度ΔTrで漸増する値をECU温度推定値Tesとして算出する。
【0109】
図16を参照する。モータ温度推定部55は、モータ20に流れるモータ電流によるモータ温度の上昇値Rtを推定する。例えばモータ温度推定部55は、モータ電流の検出値I1ad、I1bd、I1cd、I2ad、I2bd及びI2cdの2乗和の積分値からモータ20の放熱量を減算することにより上昇値Rtを推定してよい。
モータ温度推定部55は、ECU温度推定値Tesに上昇値Rtを加えた値をモータ温度推定値Tmとして演算する。
なお、第3実施形態のモータ制御方法は、
図7のフローチャートを参照してモータ制御方法と同様である。
【0110】
(第3実施形態の効果)
(1)ECU30は、回路基板70と、回路基板70上に搭載され、モータ20を駆動する電流を供給する第1電力変換回路42Aと、回路基板70上に搭載され、第1電力変換回路42Aによる電流が供給されるモータ20と同一又は異なるモータ20を駆動する電流を供給する第2電力変換回路42Bと、温度センサ45a、46aを有する温度検出回路45、46と、温度検出回路45、46が検出した温度に基づいて第1電力変換回路42Aが供給する電流及び第2電力変換回路42Bが供給する電流を制限する第1電流制限部61と、を備える。温度センサ45a、46aは、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとが搭載された回路基板70上に搭載され、且つ第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間の位置に配置される。
これにより、第1電力変換回路42A又は第2電力変換回路42Bのどちらかに偏ることなく、第1電力変換回路42A又は第2電力変換回路42Bの両方の温度異常を良好に検出できる。
【0111】
(2)第1電力変換回路42Aに含まれるスイッチング素子の回路基板70と反対側の面と、第2電力変換回路42Bに含まれるスイッチング素子の回路基板70と反対側の面と、温度センサ45a、46aの回路基板70と反対側の面とは、同一の放熱部材72に熱的に接続されていてもよい。
これにより、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの温度異常をより検出し易くなる。
【0112】
(3)第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとを回路基板70に配列する配列方向における回路基板70の略中央に温度センサ45a、46aを配置してもよい。
これにより第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bとの間に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置し易くなる。また、回路基板70の中央は熱が溜まりやすいため、高温になり易い場所に第1温度センサ45a及び第2温度センサ46aを配置することによりECU30の過熱を検出し易くなる。
【0113】
(4)センサ異常判定部51は、第1温度センサ45aの出力に応じた検出温度と第2温度センサ46aの出力に応じた検出温度との差分に基づいて温度検出回路45、46が異常であるか否かを判定し、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとを互いに近接配置してもよい。
これにより、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとの間の熱的結合を密にすることができる。この結果、第1温度センサ45aの検出温度と第2温度センサ46aの検出温度とを互いに近付けることができ、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aの検出温度との間の差分に基づいて温度検出回路45、46に生じた異常を精度良く検出できる。
【0114】
(5)センサ異常判定部51は、第1温度センサ45aの出力に応じた検出温度と第2温度センサ46aの出力に応じた検出温度との差分に基づいて温度検出回路45、46が異常であるか否かを判定し、第1温度検出素子の回路基板70と反対側の面と、第2温度検出素子の回路基板70と反対側の面とが、同一の放熱部材72に熱的に接続されていてもよい。
これにより、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとの間の熱的結合がさらに密になり、第1温度センサ45aの検出温度と第2温度センサ46aの検出温度とをより近付けることができる。
【0115】
(6)第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとは同一構造の温度検出素子であってよく、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとを異なる向きに配向して回路基板70に搭載してもよい。
これにより、回路基板70に応力が加わったときに第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとが同時にダメージを被るのを回避できる。このため、第1温度センサ45aと第2温度センサ46aとが同時に故障するのを抑制できる。
【0116】
(変形例)
以上の説明では、本発明の回転角検出装置を、いわゆる上流アシスト方式と呼ばれるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用する例について記載したが、本発明の回転角検出装置は、いわゆる下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。以下、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置の例として、シングルピニオンアシスト方式、ラックアシスト方式、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を説明する。
なお、下流アシスト方式の場合には、防水対策のためモータ20、回転角センサ23a、ECU30は別体ではなく、
図18~
図20の破線で示すように一体構造のMCU(Motor Control Unit)としてよい。
【0117】
図18は、シングルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。ステアリングホイール1は、操舵軸2を経て、インターミディエイトシャフトの一方のユニバーサルジョイント4aと連結されている。また、他方のユニバーサルジョイント4bには、トーションバー(図示せず)の入力側シャフト4cが連結されている。
ピニオンラック機構5は、ピニオンギア(ピニオン)5a、ラックバー(ラック)5b及びピニオン軸5cを備える。入力側シャフト4cとピニオンラック機構5とは、入力側シャフト4cとピニオンラック機構5との間の回転角のずれによってねじれるトーションバー(図示せず)によって連結されている。トルクセンサ10は、トーションバーのねじれ角を、ステアリングホイール1の操舵トルクThとして電磁気的に測定する。
ピニオン軸5cには、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ23aは、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0118】
図19は、ラックアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。ラックバー5bの外周面には螺旋溝(図示せず)が形成され、これと同様のリードの螺旋溝(図示せず)がナット81の内周面にも形成されている。これら螺旋溝によって形成される転動路に複数の転動体が配置されることによりボールネジが形成されている。
ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20の回転軸20aに連結する駆動プーリ82と、ナット81に連結する従動プーリ83にはベルト84が巻きかけられており、回転軸20aの回転運動がラックバー5bの直進運動に変換される。回転角センサ23aは、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0119】
図20は、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置は、ピニオン軸5c、ピニオンギア5aに加えて、第2ピニオン軸85、第2ピニオンギア86を有し、ラックバー5bは、ピニオンギア5aと噛合する第1ラック歯(図示せず)と、第2ピニオンギア86と噛合する第2ラック歯(図示せず)を有する。
第2ピニオン軸85には、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ23aは、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【符号の説明】
【0120】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、4c…入力側シャフト、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオンギア(ピニオン)、5b…ラックバー(ラック)、5c…ピニオン軸、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションスイッチ、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、23…モータ回転角検出回路、30…電子制御ユニット、31…制御演算装置、31a…A/D変換部、31b…温度測定部、33A…第1モータ電流遮断回路、33B…第2モータ電流遮断回路、39A1、39A2、39B1、39B2、39C1、39C2…電流検出回路、41A…第1ゲート駆動回路、41B…第2ゲート駆動回路、42A…第1電力変換回路、42B…第2電力変換回路、44A…第1電源遮断回路、44B…第2電源遮断回路、45…温度検出回路、第1温度検出回路、45a…温度センサ、第1温度センサ、46…第2温度検出回路、46a…第2温度センサ、50…ECU温度測定部、51…センサ異常判定部、52…ECU温度推定部、53…上昇値推定部、54…加算器、55…モータ温度推定部、60…電流指令値演算部、61…第1電流制限部、62、63…減算器、64…第2電流制限部、65…PI制御部、66…2相/3相変換部、67…3相/2相変換部、68…角速度変換部、70…回路基板、72…放熱部材、73、74…熱インタフェース材料(TIM)、81…ナット、82…駆動プーリ、83…従動プーリ、84…ベルト、85…第2ピニオン軸、86…第2ピニオンギア