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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】推定方法および推定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20241112BHJP
   A61B 5/374 20210101ALI20241112BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61B5/16 120
A61B5/374
A61B5/0245 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020131963
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028509
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】守谷 大樹
(72)【発明者】
【氏名】箆伊 智充
(72)【発明者】
【氏名】町田 明子
(72)【発明者】
【氏名】宗像 大朗
(72)【発明者】
【氏名】新井 智大
(72)【発明者】
【氏名】関根 春奈
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵子
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-210290(JP,A)
【文献】特開2018-187287(JP,A)
【文献】特表2019-509452(JP,A)
【文献】特開2019-030557(JP,A)
【文献】特開2000-354588(JP,A)
【文献】特開2004-261276(JP,A)
【文献】特開平07-294523(JP,A)
【文献】特開2019-185173(JP,A)
【文献】特開2007-307294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/398
A61B 5/02 - 5/03
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
美容に関する事象が生じた後であって、ユーザが前記美容に関する事象を評価しているときのみに、前記ユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび心拍数を取得するステップと、
前記ユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび前記心拍数から導出される心拍に関する情報に基づいて、前記美容に関する事象に対する前記ユーザの感情を推定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記推定したユーザの感情を出力するステップ、をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定するステップは、前記ユーザがポジティブな感情であるかまたはネガティブな感情であるかを推定することである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記推定するステップは、前記ユーザが気持ちが明るいか否かを推定することである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記推定するステップは、前記ユーザが誰かに会いたいか否かを推定することである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記推定するステップは、前記ユーザが自信があるか否かを推定することである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記心拍に関する情報は、心拍変動である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記美容に関する事象は、前記ユーザに美容を施すこと、前記ユーザに美容を施すことをシミュレーションすること、化粧品を含む美容に関する情報を前記ユーザへ提供することのうちの少なくとも1つを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
美容に関する事象に対する前記ユーザの感情は、前記ユーザの脳波のθ波のパワー値とα波のパワー値とβ波のパワー値、および、前記心拍数から導出される心拍に関する情報に基づいて推定される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
美容に関する事象が生じた後であって、ユーザが前記美容に関する事象を評価しているときのみに、前記ユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび心拍数を取得する取得部と、
前記取得したユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび前記心拍数から導出される心拍に関する情報に基づいて、前記美容に関する事象に対する前記ユーザの感情を推定する推定部と
を備えた推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定方法および推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品等に対する感情を評価する方法が知られている。特許文献1では、化粧品等によって生じる「ときめき」感情を評価する方法および装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-185173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、感情を評価される者が感情評価アンケートに回答し、感情評価アンケートへの回答に応じて取得される因子得点に基づいて、感情が評価される(特許文献1の明細書の段落[0062]、[0063]、および、図16のS301、S302等)。そのため、感情を評価される者が、感情評価アンケートに正確に回答できなかった場合には、その者の感情は正確に評価されない。
【0005】
そこで、本発明の一実施形態では、美容に関する事象に対するユーザの感情の推定の精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび心拍数を取得するステップと、前記ユーザの脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび前記心拍数から導出される心拍に関する情報に基づいて、美容に関する事象に対する前記ユーザの感情を推定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、美容に関する事象に対するユーザの感情の推定の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る全体の構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る推定装置の機能ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る推定処理のフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る化粧行動時の流れを説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態に係る化粧行動とユーザの感情の評価との関係を説明するための図である。
図6】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(ポジティブ-ネガティブ)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(ポジティブ-ネガティブ)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(気持ちが明るい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図9】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(気持ちが明るい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図10】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(誰かに会いたい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図11】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(誰かに会いたい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図12】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(自信がある)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図13】本発明の一実施形態に係るユーザの感情(自信がある)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。
図14】本発明の一実施形態に係る推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
<用語の説明>
・「美容に関する事象」とは、基礎化粧品・メーキャップ化粧品・シャンプー等の化粧品、化粧用具、美顔器等の美容家電、香水、美容サプリメント・健康食品、マッサージ、エステティック等のうちの少なくとも1つに関する事象のことを言う。例えば、「美容に関する事象」は、ユーザに美容を施すこと(例えば、ユーザに化粧を施すこと)、ユーザに美容を施すことをシミュレーションすること(例えば、ユーザに化粧を施すことをシミュレーションすること)、化粧品を含む美容に関する情報(例えば、広告、宣伝等)をユーザへ提供すること等のうちの少なくとも1つを含む。
・「ユーザの感情」とは、ユーザが美容に関する事象に対して抱く気持ちである。例えば、「ユーザの感情」は、美容に関する事象に対する、感情価(肯定的な感情(ポジティブな感情)または否定的な感情(ネガティブな感情))、気持ちが明るい、誰かに会いたい、自信があるといった感情である。
・「心拍に関する情報」とは、心拍数に基づいて導出される心拍に関する情報である。例えば、「心拍に関する情報」は、心拍数の最大値(最も多い値)、最小値(最も少ない値)、平均心拍数、平均心拍間隔、心拍間隔の中央値、心拍変動等のうちの少なくとも1つを含む。
【0011】
<全体の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る全体の構成図である。図1に示されるように、推定装置10は、任意のネットワークを介して、脳波取得装置21および心拍数取得装置22と通信可能に接続されている。また、推定装置10は、任意のネットワークを介して、出力装置30と通信可能に接続されている。以下、それぞれについて説明する。
【0012】
なお、推定装置10と脳波取得装置21と心拍数取得装置22と出力装置30とは、同一の場所に設置されてもよいし、推定装置10と脳波取得装置21と心拍数取得装置22と出力装置30とのうちの少なくとも1つが他の装置から離れた遠隔地に設置されてもよい。
【0013】
推定装置10は、ユーザ40の脳波および心拍に関する情報に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する。推定装置10は、1つまたは複数のコンピュータからなる。また、推定装置10は、任意のネットワークを介して、脳波取得装置21、心拍数取得装置22、出力装置30とデータを送受信することができる。後段で、図2を参照しながら、推定装置10について詳細に説明する。
【0014】
脳波取得装置21は、ユーザ40の脳波を測定するための装置である。脳波取得装置21は、測定したユーザ40の脳波のデータを、推定装置10へ送信する。なお、ユーザ40の脳波は、任意の装置を用いて任意の測定法で測定されてよい。
【0015】
心拍数取得装置22は、ユーザ40の心拍数を測定するための装置である。心拍数取得装置22は、測定したユーザ40の心拍数のデータを、推定装置10へ送信する。なお、ユーザ40の心拍数は、任意の装置を用いて任意の測定法で測定されてよい。例えば、rPPG(Remote Photo Plethysmography)による測定法が用いられる。
【0016】
出力装置30は、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を表示するための装置である。具体的には、出力装置30は、推定装置10が推定した美容に関する事象に対するユーザ40の感情を、推定装置10から受信してディスプレイ上に表示する。出力装置30は、パーソナルコンピュータ、タブレット等の任意の装置であってよい。
【0017】
なお、図1では、推定装置10と出力装置30とを別々の装置として説明したが、推定装置10と出力装置30とを1つの装置で実装するようにしてもよい。
【0018】
<機能ブロック>
図2は、本発明の一実施形態に係る推定装置10の機能ブロック図である。図2に示されるように、推定装置10は、取得部101と、推定部102と、出力部103とを備える。また、推定装置10は、プログラムを実行することで、取得部101、推定部102、出力部103として機能する。
【0019】
取得部101は、脳波取得装置21から、ユーザ40の脳波のデータを取得する。具体的には、取得部101は、脳波取得装置21から、ユーザ40の脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つのデータを取得する。また、取得部101は、心拍数取得装置22から、ユーザ40の心拍数のデータを取得する。
【0020】
例えば、取得部101は、ユーザ40に美容を施すこと、ユーザに美容を施すことをシミュレーションすること、化粧品を含む美容に関する情報(例えば、広告、宣伝等)をユーザ40へ提供すること等の美容に関する事象が生じた後(例えば、ユーザ40が体験について振り返り、思考や評価を行っている間)のユーザ40の脳波および心拍数のデータを取得する。
【0021】
推定部102は、取得部101が取得したユーザ40の脳波および心拍数に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する。具体的には、推定部102は、ユーザ40の脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つおよび心拍に関する情報(例えば、心拍数の最大値、最小値、平均心拍数、平均心拍間隔、心拍間隔の中央値、心拍変動等)に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する。
【0022】
なお、推定部102は、ユーザ40の脳波のθ波のパワー値とα波のパワー値とβ波のパワー値、および、心拍に関する情報(例えば、心拍数の最大値、最小値、平均心拍数、平均心拍間隔、心拍間隔の中央値、心拍変動等)に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する構成とすることもできる。
【0023】
例えば、推定部102は、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を0から100の数値として推定することができる。
【0024】
また、推定部102は、所定の範囲(例えば、0から49)の数値であるとネガティブな感情であると推定し、所定の範囲(例えば、51から100)の数値であるとポジティブな感情であると推定することができる。また、推定部102は、所定の範囲(例えば、50)の数値であると無反応であると推定することができる。
【0025】
また、推定部102は、所定の範囲(例えば、0から49)の数値であると、ユーザ40が"気持ちが明るい"と感じていないと推定し、所定の範囲(例えば、51から100)の数値であると、ユーザ40が"気持ちが明るい"と感じていると推定することができる。また、推定部102は、所定の範囲(例えば、50)の数値であると無反応であると推定することができる。
【0026】
また、推定部102は、所定の範囲(例えば、0から49)の数値であると、ユーザ40が"誰かに会いたい"と感じていないと推定し、所定の範囲(例えば、51から100)の数値であると、ユーザ40が"誰かに会いたい"と感じていると推定することができる。また、推定部102は、所定の範囲(例えば、50)の数値であると無反応であると推定することができる。
【0027】
また、推定部102は、所定の範囲(例えば、0から49)の数値であると、ユーザ40が"自信がある"と感じていないと推定し、所定の範囲(例えば、51から100)の数値であると、ユーザ40が"自信がある"と感じていると推定することができる。また、推定部102は、所定の範囲(例えば、50)の数値であると無反応であると推定することができる。
【0028】
後段で図4図13を参照しながら詳細に説明するように、発明者は、ユーザ40の脳波および心拍に関する情報から、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する、線形回帰(例えば、線形SVR(Linear Support Vector Regression))モデルを作成した。そのため、本発明では、推定部102が、ユーザ40の脳波および心拍に関する情報と、線形回帰モデルと、に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定することができる。
【0029】
ユーザ40がポジティブな感情を抱いているのか、あるいは、ネガティブな感情を抱いているのかを推定する場合、例えば、推定部102が用いる脳波は、ユーザ40の前頭部のθ波、α波、β波、中心部のθ波、α波、β波、側頭部のθ波、α波、β波、後頭部のθ波、α波、β波、頭頂部のθ波、α波、β波のうちの少なくとも1つを含む。また、例えば、推定部102が用いる脳波は、ユーザ40の左前頭部(F3)のθ波、右前頭部(F4)のθ波、左外側前頭部(F7)のθ波、右外側前頭部(F8)のθ波、正中前頭部(Fz)のθ波、左中心部(C3)のθ波、右中心部(C4)のθ波、右中側頭部(T8)のθ波、左頭頂部(P3)のθ波、右頭頂部(P4)のθ波、左後側頭部(P7)のθ波、右後側頭部(P8)のθ波、正中頭頂部(Pz)のθ波、左後頭部(O1)のθ波、右後頭部(O2)のθ波、左前頭部(F3)のα波、左外側前頭部(F7)のα波、右外側前頭部(F8)のα波、正中前頭部(Fz)のα波、左中心部(C3)のα波、右中心部(C4)のα波、左中側頭部(T7)のα波、右中側頭部(T8)のα波、正中心部(Cz)のα波、左頭頂部(P3)のα波、右頭頂部(P4)のα波、右後側頭部(P8)のα波、正中頭頂部(Pz)のα波、左後頭部(O1)のα波、右後頭部(O2)のα波、右前頭部(F4)のβ波、右外側前頭部(F8)のβ波、右中心部(C4)のβ波、左中側頭部(T7)のβ波、右中側頭部(T8)のβ波、正中心部(Cz)のβ波、左頭頂部(P3)のβ波、正中頭頂部(Pz)のβ波、左後頭部(O1)のβ波、右後頭部(O2)のβ波のうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
例えば、推定部102が用いる心拍に関する情報は、ユーザ40の心拍数の最大値、最小値、平均心拍数、平均心拍間隔、心拍間隔の中央値、心拍変動のうちの少なくとも1つを含む。
【0031】
出力部103は、推定部102が推定したユーザ40の感情を出力する。例えば、出力部103は、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を出力装置30へ送信する、あるいは、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定装置10等の記憶装置に記憶する。
【0032】
<方法>
図3は、本発明の一実施形態に係る推定処理のフローチャートである。本発明の一実施形態では、推定装置10が推定処理を実行する。
【0033】
ステップ11(S11)において、取得部101は、ユーザ40の脳波および心拍数を取得する。具体的には、取得部101は、脳波取得装置21から、ユーザ40の脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つのデータを取得する。また、取得部101は、心拍数取得装置22から、ユーザ40の心拍数のデータを取得する。
【0034】
ステップ12(S12)において、推定部102は、S11で取得されたユーザ40の脳波および心拍数に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する。具体的には、推定部102は、ユーザ40の脳波のθ波、α波、β波の各パワー値のうちの少なくとも1つ、および、ユーザ40の心拍に関する情報に基づいて、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する。
【0035】
ステップ13(S13)において、出力部103は、S12で推定されたユーザ40の感情を出力する。
【0036】
以下、図4図13を参照しながら、ユーザ40の脳波および心拍に関する情報から、美容に関する事象に対するユーザ40の感情を推定する、線形回帰モデルを作成するために実施された実験について説明する。
【0037】
図4は、本発明の一実施形態に係る化粧行動時の流れを説明するための図である。本実験では、「ノーメイク(所要時間:4分)」、「スキンケア(所要時間:9分)」、「ベースメーク(所要時間:9分)」、「アイメーク(所要時間:9分)」、「チーク・リップ(所要時間:9分)」の順で、被験者に対する各行動が行われた。
【0038】
<主観評価>
ステップごとに、モニタ上に次に行う化粧の内容が提示された。被験者は、化粧の準備ができたらキーボードのスペースキーを押し、化粧の作業を開始した。化粧時間は5分であり、5分経過したらコンピュータから純音が提示された。ただし、その時点で化粧が完了していない場合は継続して化粧を行った。指定された化粧の作業が完了したら、被験者はスペースキーを押した。スペースキーが押下されると純音が提示された。被験者は、この音を合図に鏡を2分間注視し、顔の観察を行った。観察開始から2分経過すると再度純音が提示され、次の化粧の内容の指示がモニタ上に提示された。その音を合図に、実験担当者が感情・感性的評価を行う質問紙を被験者に提示した。被験者は、13項目の質問紙に記入した後次の作業に移行した。なお、一連の化粧を2回(高価格帯ラインの化粧品と低価格帯ラインの化粧品の2パターン)繰り返した。
【0039】
質問紙の13項目は、「使い心地が良い」、「肌触りが良い」、「気持ちが明るい」、「落ち着いた」、「すっきりした」、「顔全体の印象が良い」、「誰かに会いたい」、「自信がある」、「集中した」、「不安な」、「不快な」、「満足した」、「眠気がある」である。
【0040】
<脳波および心拍数の測定>
被験者が鏡を注視し顔の観察を行ってるとき(図4の単一化粧区間の観察(120秒))に、被験者の脳波および心拍数の測定が行われた。脳波の測定では、Fp1(眼電図用),F3/4, F7/8, Fz, C3/4, T7/8, Cz, P3/4, P7/8, Pz, O1/2, M2(基準電極用)の19か所の電極を用いた。なお、分析において、各電極の電圧値から(M2/2)の値を減算した。
【0041】
図5は、本発明の一実施形態に係る化粧行動とユーザの感情の評価との関係を説明するための図である。本実験では、被験者のポジティブ・ネガティブ、気持ちが明るい、誰かに会いたい、自信があるという感情(各行動の結果の被験者の主観評価)が図5のように変化した。具体的には、図5の(1)に示されるように、行動が進むにつれて(つまり、化粧が進むにつれて)気分が上昇していく傾向があった。また、図5の(2)に示されるように、行動が進むにつれて(つまり、化粧が進むにつれて)"気持ちが明るい"という感情が上昇していく傾向があった。また、図5の(3)に示されるように、行動が進むにつれて(つまり、化粧が進むにつれて)"誰かに会いたい"という感情が上昇していく傾向があった。また、図5の(4)に示されるように、行動が進むにつれて(つまり、化粧が進むにつれて)"自信がある"という感情が上昇していく傾向があった。
【0042】
上述したように、一連の化粧を2回(高価格帯ラインの化粧品と低価格帯ラインの化粧品の2パターン)繰り返しており、図5から、感情の変化が単なる時間変化ではないことが分かる。
【0043】
次に、本実験では、2(アルゴリズム)×11(応答変数)×6(特徴量)=132パターンのモデルを作成して、モデル検証を行った。
【0044】
<特徴量>
特徴量として、
・HR+HRV+EEG: 心拍数,心拍変動,θ,α,β(79次元)
・HR+EEG: 心拍数,θ,α,β(56次元)
・HR+HRV: 心拍数と心拍変動(28次元)
・EEG: θ,α,β(51次元)
・HR: 心拍数(5次元)
・HRV: 心拍変動(23次元)
を用いた。
【0045】
<アルゴリズム・ハイパーパラメータ>
アルゴリズム・ハイパーパラメータとして、
・Linear Support Vector Regression
(ハイパーパラメータ
Cost: 2^-20から2^15まで
Loss: Epsilon insensitive, Squared epsilon insensitive)
・Ridge regression
(ハイパーパラメータ
Alpha: 2^-20から2^15まで
Solver: 'auto', 'svd', 'cholesky', 'lsqr', 'sparse_cg', 'sag', 'saga')
を用いた。
【0046】
<応答変数>
・ポジティブ・ネガティブ
・使い心地が良い
・肌触りが良い
・気持ちが明るい
・落ち着いた
・すっきりした
・顔全体の印象が良い
・誰かに会いたい
・自信がある
・集中した
・満足した
【0047】
なお、上記の<応答変数>の"ポジティブ・ネガティブ"は、主観評価の13項目である「使い心地が良い」、「肌触りが良い」、「気持ちが明るい」、「落ち着いた」、「すっきりした」、「顔全体の印象が良い」、「誰かに会いたい」、「自信がある」、「集中した」、「不安な」、「不快な」、「満足した」、「眠気がある」を主成分分析して合成した変数である。上記の<応答変数>の"ポジティブ・ネガティブ"は、第1主成分(肯定的な感情・感性の項目と負の、否定的な感情の項目と正の相関)、第2主成分(運動・体性感覚にかかわる項目と正の、自信や見た目にかかわる項目と負の相関)、第3主成分(眠気と強い負の相関)、第4主成分(集中と強い負の相関)、第5主成分(スッキリ感と負の相関)のうちの第1主成分である。このように、予測する対象は、主成分分析のような多変量解析で求めた指標(合成変数)でもよい。
【0048】
そして、上記の各特徴量および各アルゴリズム・ハイパーパラメータを組み合わせたモデルで推定された感情と、図4の被験者の主観評価と、を比較したところ、両者が最も一致するのは、線形SVRであることを発明者は見出した。より具体的には、平均相関係数が最も高かったのは、「誰かに会いたい」の得点を、「心拍数、心拍変動、脳波」から「線形SVR」で予測した場合であった。なお、同特徴量(心拍数、心拍変動、脳波)の場合、「気持ちが明るい」、「自信がある」も比較的精度が高かった。脳波のみ、心拍数と脳波を組み合わせた場合も比較的高めの相関係数が得られた。これらより、特徴量に脳波が含まれることが重要であることが推察される。
【0049】
図6および図7は、本発明の一実施形態に係るユーザの感情(ポジティブ-ネガティブ)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。図6および図7に示されるように、心拍数はほとんど寄与していない。心拍変動において、LF/HF、LF nu、HF nuで典型的な交感・副交感神経系の非対称性が見て取れる(交感神経系活動に負の係数、副交感神経系に正の係数)。脳波は、特にAlpha-bandが強く寄与する傾向がある(Thetaは外側前頭部、右中心部、左頭頂部、後頭部において比較的高い負の係数。Alphaは広範囲の電極において、高い負の係数。Betaは中心部と後頭部において負の係数)。
【0050】
図8および図9は、本発明の一実施形態に係るユーザの感情(気持ちが明るい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。図8および図9に示されるように、心拍数はほとんど寄与していない。心拍変動において、LF/HF、LF nu、HF nuで典型的な交感・副交感神経系の非対称性が見て取れる(交感神経系活動に正の係数、副交感神経系に負の係数)。脳波は、後頭部のAlpha-bandとBeta-bandが強く寄与する傾向がある(Thetaは右半球の前頭部、側頭部および左半球の中心部と後側頭部で負の、右後頭部で正の係数。Alphaは左前頭部、前頭―中心部、後頭部で正の、右後側頭部で負の係数。Betaは中心部と後頭部において負の係数)。
【0051】
図10および図11は、本発明の一実施形態に係るユーザの感情(誰かに会いたい)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。図10および図11に示されているように、心拍数はほとんど寄与していない。心拍変動において、LF/HF、LF nu、HF nuで典型的な交感・副交感神経系の非対称性が見て取れる(交感神経系活動に負の係数、副交感神経系に正の係数)。脳波は、特にAlpha-bandが強く寄与する傾向がある(Thetaは右前頭部、右中心部、左頭頂部と後頭部において正の係数。Alphaは左後側頭部を除き、正の係数。Betaは左右頭頂部で優勢な正の係数)。
【0052】
図12および図13は、本発明の一実施形態に係るユーザの感情(自信がある)と相関する脳波および心拍に関する情報を説明するための図である。図12および図13に示されているように、心拍数はほとんど寄与していない。心拍変動において、LF/HF、LF nu、HF nuで典型的な交感・副交感神経系の非対称性が見て取れる(交感神経系活動に負の係数、副交感神経系に正の係数)。脳波は、特にAlpha-bandが強く寄与する傾向がある(Thetaは右中心部、左頭頂部、後頭部において正の係数。Alphaは右後側頭部を除き頭皮上全体で正の係数。Betaはあまり寄与していない)。
【0053】
<効果>
このように、本発明の一実施形態では、美容に関する事象に対するユーザの感情を推定することができる。例えば、化粧品で化粧を施されたユーザが、その化粧品に対してポジティブな感情を抱いているのか、あるいは、ネガティブな感情を抱いているのかを生理学的な指標に基づいて推定することができる。
【0054】
<ハードウェア構成>
図14は、本発明の一実施形態に係る推定装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)1、ROM(Read Only Memory)2、RAM(Random Access Memory)3を有する。CPU1、ROM2、RAM3は、いわゆるコンピュータを形成する。
【0055】
また、推定装置10は、補助記憶装置4、表示装置5、操作装置6、I/F(Interface)装置7、ドライブ装置8を有することができる。なお、推定装置10の各ハードウェアは、バスBを介して相互に接続されている。
【0056】
CPU1は、補助記憶装置4にインストールされている各種プログラムを実行する演算デバイスである。
【0057】
ROM2は、不揮発性メモリである。ROM2は、補助記憶装置4にインストールされている各種プログラムをCPU1が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶デバイスとして機能する。具体的には、ROM2はBIOS(Basic Input/Output System)やEFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラム等を格納する、主記憶デバイスとして機能する。
【0058】
RAM3は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等の揮発性メモリである。RAM3は、補助記憶装置4にインストールされている各種プログラムがCPU1によって実行される際に展開される作業領域を提供する、主記憶デバイスとして機能する。
【0059】
補助記憶装置4は、各種プログラムや、各種プログラムが実行される際に用いられる情報を格納する補助記憶デバイスである。
【0060】
表示装置5は、推定装置10の内部状態等を表示する表示デバイスである。
【0061】
操作装置6は、推定装置10の管理者が推定装置10に対して各種指示を入力する入力デバイスである。
【0062】
I/F装置7は、ネットワークに接続し、出力装置30と通信を行うための通信デバイスである。
【0063】
ドライブ装置8は記憶媒体9をセットするためのデバイスである。ここでいう記憶媒体9には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記憶媒体9には、EPROM (Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。
【0064】
なお、補助記憶装置4にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記憶媒体9がドライブ装置8にセットされ、該記憶媒体9に記録された各種プログラムがドライブ装置8により読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置4にインストールされる各種プログラムは、I/F装置7を介して、ネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0065】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 推定装置
21 脳波取得装置
22 心拍数取得装置
30 出力装置
40 ユーザ
101 取得部
102 推定部
103 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14