(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】コールドスプレー用粉末、コールドスプレー膜及び膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20241112BHJP
C01F 17/259 20200101ALI20241112BHJP
C01F 17/265 20200101ALI20241112BHJP
【FI】
C23C24/04
C01F17/259
C01F17/265
(21)【出願番号】P 2020180852
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 基宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 龍一
(72)【発明者】
【氏名】松倉 賢人
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-314801(JP,A)
【文献】特開2016-138309(JP,A)
【文献】特開2018-076546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/04
C01F 17/259
C01F 17/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y、Yb及びGdから選ばれる少なくとも一種の成膜用元素の化合物を含有するコールドスプレー用粉末であって、
水銀圧入法により測定した細孔径に対する細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークが観察され、細孔径0.3μm未満の細孔容積が0.1ml/g以上0.5ml/g以下である、コールドスプレー用粉末。
【請求項2】
BET比表面積が3m
2/g以上30m
2/g未満である請求項1に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項3】
レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布において、1μm以上10μm以下の範囲に少なくとも1つのピークが観察される請求項1又は2に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項4】
更に、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布において、10μm超100μm以下の範囲に少なくとも1つのピークが観察される、請求項3に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項5】
前記成膜用元素の化合物を含有し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された小径側からの積算体積が50%になる粒径(D
50)が10μm超100μm以下である第1粉末と、希土類化合物、珪素化合物及びアルミニウム化合物のうち少なくとも1種からなり、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定されたD
50が1μm以上10μm以下である第2粉末とを含む、請求項1~4の何れか1項に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項6】
Y、Yb及びGdから選ばれる少なくとも一種の元素の化合物が、フッ化物又はオキシフッ化物である、請求項1~5の何れか1項に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項7】
Yの化合物を含む、請求項1~6の何れか1項に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項8】
第2粉末の割合が10質量%以上90質量%以下である、請求項
5に記載のコールドスプレー用粉末。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載された粉末を用いてコールドスプレー法を行う工程を有する膜の製造方法。
【請求項10】
Y
5O
4F
7、YOF及びYF
3から選ばれる1種又は2種以上からなり、ビッカース硬度が70以上500以下である、コールドスプレー膜を製造する、請求項9に記載の膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコールドスプレー用粉末、コールドスプレー膜及び膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コールドスプレー法は、原料粒子を音速近くまで加速し、固相状態のまま基材に衝突させることにより成膜するシステムである。通常、コールドスプレー法では、超音速ノズル(Laval nozzle)を用い高速ガス流を発生させ,そのガス流中に粉末粒子を投入することにより衝突速度を上げ,材料粒子を基材に高速に衝突させる。
コールドスプレー法は溶射法の一種として分類されるコーティング技術であるが、一般的な溶射法は原材料を溶融状態或いは半溶融状態で基材に衝突させて成膜させるのに対し、コールドスプレー法は、原材料を溶融させることなく基材に固着させるという点で異なっている。
【0003】
従来、コールドスプレー法では、延性に優れる金属を成膜することが一般的であり、脆性材料であるセラミックスの成膜例は極めて少なかった。
しかし近年、出願人は、特定の比表面積以上のイットリウム化合物の粉末について、コールドスプレー法での成膜が可能であることを見出した(特許文献1)。
【0004】
一方、コールドスプレー法に供する金属粉末に関し、アルミナ粉末を添加することで、ノズル詰まりを解消し、得られる膜の硬度を向上させた報告例が存在する(例えば、非特許文献1)。
また特許文献2には、プラズマ溶射において緻密かつスピッティングの発生が抑制された膜を得ることができる溶射用粉末として、細孔半径分布のピークを0.2μm以上に有する酸化イットリウム含有溶射用粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2020/090528号公報
【文献】特開2006-200005号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】園田哲也ら「コールドスプレー法によるNiAl高温耐食性皮膜の作製と評価」、溶接学会論文集、第28巻(2010)第4号、p376-382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出願人は、特許文献1に記載のコールドスプレー用材料について、成膜条件によっては、成膜中にノズルの詰まりが生じるなど、材料の供給性の点で改善の余地がある場合があることを知見した。
一方、非特許文献1には金属成膜原料をコールドスプレー法で成膜する場合において、金属成膜原料にアルミナ粉末を供給助剤として用いることが記載されているものの、イットリウム等の特定の希土類化合物をコールドスプレー法で成膜する場合において、どのような構成の供給助剤が適しているかについて何らの検討もなされていない。
また特許文献2はコールド溶射用粉末に関するものではなく、同文献にはコールド溶射において従来より高硬度の膜を得るために必須である細孔直径0.3μm未満の細孔容積について何も触れられていない。
【0008】
したがって、本発明の課題は、イットリウム等の特定の希土類元素の化合物を成膜用化合物として用い、成膜性のみならず供給性に優れたコールドスプレー用材料を提供することにある。
また本発明の課題はイットリウム等の特定の希土類の化合物のコールドスプレー膜として、従来得難かった硬度の膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Y、Yb及びGdから選ばれる少なくとも一種の成膜用元素の化合物を含有するコールドスプレー用粉末であって、
水銀圧入法により測定した細孔径に対する細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークが観察され、細孔径0.3μm未満の細孔容積が0.1ml/g以上0.5ml/g以下である、コールドスプレー用粉末を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記コールドスプレー用粉末を用いて成膜されたコールドスプレー膜を提供するものである。
【0011】
更に、本発明は、前記粉末を用いてコールドスプレー法を行う工程を有する膜の製造方法を提供するものである。
【0012】
更に、本発明は、Y5O4F7、YOF及びYF3から選ばれる1種又は2種以上からなり、ビッカース硬度が70以上500以下である、コールドスプレー膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、イットリウム等の特定の希土類元素の化合物を成膜用化合物として用い、成膜性のみならず供給性に優れたコールドスプレー用材料を提供することができる。
また、本発明により、イットリウム等の特定の希土類の化合物のコールドスプレー膜として、従来得難かった硬度の膜及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例における成膜時の粉末供給方法を説明する模式図である。
【
図2】実施例1におけるコールドスプレー用粉末の細孔容積分布のチャートである。
【
図3】実施例2におけるコールドスプレー用粉末の細孔容積分布のチャートである。
【
図4】比較例1におけるコールドスプレー用粉末の細孔容積分布のチャートである。
【
図5】比較例2におけるコールドスプレー用粉末の細孔容積分布のチャートである。
【
図6】実施例1におけるコールドスプレー用粉末の粒度分布のチャートである。
【
図7】実施例2におけるコールドスプレー用粉末の粒度分布のチャートである。
【
図8】比較例1におけるコールドスプレー用粉末の粒度分布のチャートである。
【
図9】比較例2におけるコールドスプレー用粉末の粒度分布のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
まず、本発明のコールドスプレー用粉末について説明する。以下、「コールドスプレー」を「CS」と略して説明する場合がある。本発明のCS用粉末はCS法により成膜性に加えて供給性に優れ、特定の希土類化合物を含むCS膜として従来得難い硬度のコールドスプレー膜(CS膜)を得ることができる。
【0016】
(1)希土類元素の化合物
本発明のCS用粉末は、Y、Yb及びGdから選ばれる少なくとも一種の希土類元素(以下、「Ln1」ともいう。)の成膜用元素の化合物を含有することを特徴の一つとしている。
【0017】
本発明においてLn1の化合物は、Ln1の酸化物、Ln1のフッ化物、又はLn1のオキシフッ化物であることが、CS用粉末を半導体の製造装置のコーティングに使用した際に優れた耐食性が得られる点で好ましく、特に、フッ素系プラズマに対する化学的安定性の点から、Ln1のフッ化物、又はLn1のオキシフッ化物であることが好ましい。
Ln1の酸化物としては、セスキ酸化物(Ln1
2O3)のほか、Ln1とAl等との複合酸化物を含む。Ln1のフッ化物はLn1F3で表されることが好ましい。
【0018】
Ln1のオキシフッ化物はY等の特定の希土類元素(Ln1)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物(以下、「Ln1-O-F」とも記載する。)である。Ln1-O-Fとしては、希土類元素(Ln1)、酸素(O)、フッ素(F)のモル比がLn1:O:F=1:1:1である化合物(Ln1OF)であってもよく、その他の形態の希土類元素のオキシフッ化物(Ln1
5O4F7、Ln1
7O6F9、Ln1
4O3F6等)であってもよい。オキシフッ化物の入手しやすさの点並びに成膜性及び供給性が高いという本発明の効果がより高く奏される観点から、Ln1-O-Fは、Ln1OxFy(0.3≦x≦1.7、0.1≦y≦1.9)で表されることが好ましい。特に上記の観点から、上記式において、0.35≦x≦1.65であることがより好ましく、0.4≦x≦1.6であることが更に好ましい。また0.2≦y≦1.8であることがより好ましく、0.5≦y≦1.5であることが更に好ましい。また上記式において、2.3≦2x+y≦5.3、特に2.35≦2x+y≦5.1を満たすものも好ましく、とりわけ2x+y=3を満たすものが好ましい。特に、x<1であり、y>1であるものを用いることが、フッ素系プラズマ及び酸素系プラズマの両者に対する化学的安定性の点で好ましい。
【0019】
Ln1としてはYであることが、半導体製造装置の耐食性部材として適している点、及び、本発明による供給性向上及びそれによる膜の硬度の向上効果が優れている点で最も好ましい。
【0020】
(2)細孔容積分布
本発明のCS用粉末は、水銀圧入法により測定した細孔径に対する細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲に少なくとも1つのピークが観察され、且つ細孔径0.3μm未満の細孔容積が0.1ml/g以上0.5ml/g以下であることを特徴の一つとする。なお本明細書でいう細孔径は細孔直径を指す。
本発明者は、従来のイットリウム等の特定の希土類化合物の粉末について成膜性を維持しつつ、成膜時にノズル(供給管)を詰まらせることなく供給性を高める構成について、鋭意検討した。その結果、細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下にピークを有し、且つ細孔径0.3μm未満の細孔容積が上記範囲内となる粉末であることで、CS法による成膜時に供給性が向上し、当該粉末をCS法に供することで従来のLn1化合物のCS膜に比して優れて硬度の高い膜が得られることを見出した。
【0021】
細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲にピークを有し、且つ細孔径0.3μm未満の細孔容積が上記の所定量である粉末は、通常、粒径の異なる2種以上の粒子(粉末)を含有する。具体的には細孔容積の分布において、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲におけるピークは、比較的粒径(一次粒径)の大きな粉末の一次粒子の粒子間空隙に由来している。また細孔径0.3μm未満の範囲における上記範囲内の細孔容積は、比較的粒径(一次粒径)の小さな粉末の一次粒子の粒子間空隙に由来する。
【0022】
CS用粉末の細孔容積の分布において細孔径0.3μm未満の範囲に上記範囲内の細孔容積を与える粉末は上述の通り一次粒径が比較的小さく、これに起因して一定以上の比表面積を有する。比表面積が高いことは、CS用粉末の成膜性にとって重要である。一方、当該比表面積を有する粉末は、CS法による成膜時に粉末を高速で基材へ衝突させるための加速ノズル内に詰まりを生じさせて、供給性を低下させてしまう場合がある。この点に関し、本発明のCS用粉末では、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲にピークを与える比較的大きな粒径(一次粒径)の粉末を含有する。この比較的大きな粒径(一次粒径)の存在が、特定の希土類Ln1を用いたCS法において、粉末供給時のノズルの詰まりを改善する。それにより、CS法の成膜時に基材に対する成膜用粉末の衝突速度が高い状態で安定するために、得られるCS膜の硬度が高まることになると考えられる。
【0023】
本発明のCS用粉末は、細孔径0.3μm未満の細孔容積を与える粒子がLn1を含むことが好ましい。細孔径0.3μm未満における細孔容積を与える粒子がLn1を含むことは例えばカーボンテープ上に撒いた粉末を1500倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、観察された粉末にエネルギー分散型X線分析(EDX)の点分析を実施することにより確認することができる。例えば凝集径(二次粒径)が大径及び小径の2種類以上の粒子が観察され、大径の凝集径を有する粒子について点分析を実施することが好ましく、当該大径の凝集径の粒子がレーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定されたD50が10μm超に相当する凝集径を有することがより好ましい。細孔径0.3μm未満における細孔容積を与える粒子の例として後述する第1粉末が挙げられる。一方細孔容積の分布のうち、細孔径0.3μm以上2.0μm以下において少なくとも一つのピークを与える粉末はセラミックス粉末が好ましい。当該粉末の好適な例としては後述する第2粉末が挙げられる。
【0024】
本発明において、CS用粉末は、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲の中でも、特に、0.6μm以上1.8μm以下の範囲にピークを有することが、より一層供給性を高める点で好ましく、0.8μm以上1.4μm以下の範囲にピークを有することが更に一層好ましい。
【0025】
本発明において、CS用粉末は、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲における細孔容積のピークの立ち下がり点(終点)が細孔径0.3μmよりも大径側に位置することが、流動性の点から好ましい。ここでピークの立ち下がり点とは、細孔径の大径側から小径側に向けたピークの下降スロープとベースラインとの交点以上の細孔径であって、その細孔径から20nm細孔径が大きい点のlog微分細孔容積に対しlog微分細孔容積が70%以下に減少する傾きを得られる最も小さな細孔径とする。
またCS用粉末の細孔容積の分布は、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲における細孔容積IAに対して、細孔径0.3μm未満の細孔容積IBの比IB/IAが5以下であることが成膜中の詰まりの解消や膜硬度の向上の点で好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが特に好ましく、1.8以下であることが更に好ましい。IB/IAの下限としては、0.1以上であることが基材と膜の剥離を抑制する点で好ましく、0.3以上であることが更に好ましい。
【0026】
本発明のCS用粉末は、細孔径0.3μm未満の細孔容積IBが0.1ml/g以上であることで、膜の硬度が優れる利点があり、0.5ml/g以下であることで容易に厚膜が得られる利点がある。この観点から、細孔径0.3μm未満の細孔容積IBが0.12ml/g以上0.4ml/g以下であることがより好ましく、0.14ml/g以上0.3ml/g以下であることが更に一層好ましい。
【0027】
本発明のCS用粉末は成膜中の詰まりの解消や膜硬度や成膜性の点で、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の細孔容積IAが0.05ml/g以上0.25ml/g以下であることが好ましく、0.12ml/g以上0.2ml/g以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明におけるCS用粉末は細孔容積分布において、細孔径0.3μm未満に、少なくとも一つピークを有していてもよい。或いは、細孔径0.3μm未満において、ブロードな隆起を有していてもよい。本発明におけるCS用粉末は細孔容積分布において、細孔径0.3μm未満において、少なくとも一つピークを有する場合、当該ピークのピーク位置としては、5nm以上300nm未満の範囲が挙げられ、10nm以上200nm以下の範囲がより好ましい。
【0029】
上記の細孔容積分布を有するCS用粉末は後述する好適な製造方法により得ることができる。
【0030】
(3)BET比表面積
CS用粉末は、成膜性と供給性及びそれに基づく高い膜硬度を得る点から、BET比表面積が特定範囲であることが好ましい。具体的には、CS用粉末のBET比表面積は、3m2/g以上30m2/g未満であることが好ましく、5m2/g以上25m2/g以下であることがより好ましく、7.5m2/g以上20m2/g以下であることが特に好ましい。
【0031】
上記のBET比表面積を有するCS用粉末は後述する好適な製造方法により得ることができる。
【0032】
(4)粒度分布
CS用粉末は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布のピークが1μm以上10μm以下の範囲に少なくとも1つ観察されることが好ましい。1μm以上10μm以下の粒度の粉末が、細孔容積の分布において細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲にピークを与えやすい。このような構成とすることで、CS用粉末は一層流動性を高めることができる。上記効果を一層優れたものとする点から、CS用粉末は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布のピークが1μm以上10μm以下の範囲内において、特に1.5μm以上8μm以下の範囲に粒度分布のピークが観察されることがより好ましく、とりわけ2μm以上5μm以下の範囲に少なくとも1つピークが観察されることがより一層好ましい。
なお、本明細書において、CS用粉末のレーザー回折・散乱式粒度分布測定法による粒度分布は、超音波による前処理を行っていない試料について測定するものとする。
【0033】
CS用粉末は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布のピークが10μm超100μm以下の範囲に少なくとも1つ観察されることが好ましい。前記の粒度分布において、10μm超100μm以下の範囲の粒度のピークを有する二次粒子は、上述した細孔容積分布において、一次粒子間の空隙が、細孔径0.3μm未満における上記範囲の細孔容積を与えやすい。このような粒度の二次粒子は、流動性を有し、且つ成膜性に優れるため好ましい。この観点から、CS用粉末は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布のピークが10μm超100μm以下の範囲内のうち、特に20μm以上80μm以下の範囲にピークが観察されることがより好ましく、とりわけ25μm以上50μm以下の範囲に少なくとも1つピークが観察されることがより一層好ましい。上記のような二次粒径を有する二次粒子は造粒工程により得られた造粒粉末であってもよく、造粒工程を経ずに一次粒子が凝集した凝集粉であってもよい。造粒粉末は顆粒と呼ばれることもある。
【0034】
(5)第1粉末及び第2粉末
本発明のCS用粉末は、Ln1の化合物を有し、レーザー回折・散乱式粒度分布測定法により測定された体積基準の粒度分布において10μm超100μm以下のD50(レーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小径側からの積算体積が50%になる粒径)を有する第1粉末と、前記粒度分布において1μm以上10μm以下のD50を有する第2粉末とを含有することが好ましい。第2粉末のD50は1.5μm以上8μm以下であることが、成膜性及び供給性の点で好ましく、2μm以上5μm以下がより好ましい。第1粉末のD50は20μm以上80μm以下が成膜性及び供給性の点で好ましく、25μm以上50μm以下がより好ましい。
本明細書において、第1粉末のレーザー回折・散乱式粒度分布測定法によるD50は、超音波による前処理を行っていない試料について測定するものとする。
第1粉末の形態は顆粒又は凝集粉が挙げられる。
【0035】
第1粉末は、Ln1の化合物を有し、CS膜を構成するための成膜用の粉末である。第1粉末は、CS用粉末における前記の粒度分布において、10μm超100μm以下の範囲内のピークを与えるものである。成膜性及び供給性の両立の点から、第1粉末はBET比表面積が10m2/g以上50m2/g以下であることが好ましく、15m2/g以上30m2/g以下であることがより好ましい。
【0036】
第2粉末は供給助剤として作用する。第2粉末はCS用粉末における前記の粒度分布において1μm以上10μm以下の範囲のピークを与えるものである。第2粉末は、BET比表面積が1m2/g以上10m2/g以下であることが、CS用粉末が供給性に優れる点で好ましく、2m2/g以上5m2/g以下であることがより好ましい。
本明細書において、第2粉末のレーザー回折・散乱式粒度分布測定法によるD50は、超音波による前処理を行っていない試料について測定するものとする。
第2粉末の形態に特に限定はないが顆粒でないことが供給性の向上の点で好ましい。
【0037】
第2粉末はセラミックス粉末であることが、Ln1化合物をCS法にて成膜する際のノズル詰まりを改善しやすいこと、及び、膜硬度を向上させる点で好ましく、特に希土類化合物、珪素化合物及びアルミニウム化合物のうち少なくとも1種からなることが、シリコンウェハーへの不純物汚染を防ぐ点から好ましい。第2粉末が希土類化合物、珪素化合物及びアルミニウム化合物のうち少なくとも1種からなるとは、第2粉末が希土類化合物、珪素化合物及びアルミニウム化合物のうち少なくとも1種を主相とすること、具体的には、第2粉末は粉末を下記条件のX線回折測定に供した場合に、そのメーンピークが希土類化合物、珪素化合物又はアルミニウム化合物に由来するものであることを意味することが好ましい。
【0038】
第2粉末を構成する希土類化合物における希土類元素Ln2としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の16種類の元素が挙げられる。第2粉末を構成する希土類元素Ln2の化合物としては、希土類元素Ln2の酸化物、希土類元素Ln2のフッ化物、希土類元素Ln2のオキシフッ化物が挙げられる。希土類元素Ln2の酸化物、希土類元素Ln2のフッ化物、希土類元素Ln2のオキシフッ化物としては、上述した16種の希土類元素Ln2の酸化物、フッ化物、オキシフッ化物を特に制限なく用いることができる。
【0039】
希土類元素Ln2の酸化物はセリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、テルビウム(Tb)のときを除いてセスキ酸化物(Ln2
2O3、Ln2は上記希土類元素)であってもよい。酸化セリウムは通常CeO2であり、酸化プラセオジムは通常Pr6O11であり、酸化テルビウムは通常Tb4O7である。希土類元素Ln2の酸化物は、2種以上の希土類元素の複合酸化物であってもよく、また希土類元素とAl等との複合酸化物であってもよい。
【0040】
希土類元素Ln2のフッ化物はLn2F3で表されることが好ましい。また、希土類元素Ln2のオキシフッ化物については希土類元素が上記16種に広がった以外は、上記特定の希土類元素Ln1について述べたことが当てはまる。つまり、Ln2のオキシフッ化物は希土類元素(Ln2)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物(以下、「Ln2-O-F」とも記載する。)である。Ln2-O-Fとしては、希土類元素(Ln2)、酸素(O)、フッ素(F)のモル比がLn2:O:F=1:1:1である化合物(Ln2OF)であってもよく、その他の形態の希土類元素のオキシフッ化物(Ln2
5O4F7、Ln2
7O6F9、Ln2
4O3F6等)であってもよい。オキシフッ化物の製造しやすさや供給性が高いという効果をより高く奏される観点から、Ln2-O-Fは、Ln2OxFy(0.3≦x≦1.7、0.1≦y≦1.9)で表されることが好ましい。特に上記の観点から、上記式において、0.35≦x≦1.65であることがより好ましく、0.4≦x≦1.6であることが更に好ましい。また0.2≦y≦1.8であることがより好ましく、0.5≦y≦1.5であることが更に好ましい。また上記式において、2.3≦2x+y≦5.3、特に2.35≦2x+y≦5.1を満たすものも好ましく、とりわけ2x+y=3を満たすものが好ましい。特に、x<1であり、y>1であるものを用いることが、フッ素系プラズマ及び酸素系プラズマの両者に対する化学的安定性の点で好ましい。
【0041】
第2粉末の希土類元素Ln2の化合物は、成膜用元素Ln1の化合物と同一であってもよく、異なっていてもよい。第2粉末の希土類元素Ln2の化合物が成膜用元素Ln1の化合物と同一であることは膜組成を単一化合物からなるものに容易に構成できる点で好ましい。
なお、本発明において第2粉末は、得られるCS膜を構成していてもよく、例えば供給性を高める助剤としてのみ作用し、膜を構成しなくてもよい。
【0042】
珪素化合物としてはSiO2が挙げられる。
【0043】
アルミニウム化合物としては、Al2O3、AlF3、AlOFが挙げられる。
【0044】
第2粉末としては、Ln2の化合物の中でも特にY,Y及びGdから選ばれる少なくとも一種の希土類元素の化合物を用いることが半導体装置の耐食性被覆部材の使用に適している点や原料価格の点で好ましく、Y,Yb及びGdから選ばれる少なくとも一種の希土類元素のフッ化物又はオキシフッ化物を用いることが好ましく、とりわけYの化合物を用いることがプラズマに対する化学及び物理的安定性の点で好ましい。また第2粉末としては、Al2O3を用いることが膜の硬度を向上させる点で好ましい。
【0045】
成膜性を維持しつつ供給性を高める点から、第1粉末の量は、CS用粉末中、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。また、第1粉末の量は、第1粉末と第2粉末との合計量に対しても、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
成膜性を維持しつつ供給性を高める点から、第2粉末の量は、CS用粉末中、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。また、第2粉末の量は、第1粉末と第2粉末との合計量に対しても、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
【0047】
CS用粉末中の第1粉末及び第2粉末以外の粉末の量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
次いで、上記CS用粉末の好適な製造方法について説明する。本発明のCS用粉末の製造方法としては、上述したD50及び組成の第1粉末及び第2粉末を製造し、それを混合する方法が挙げられる。混合比率は上述した好適な比率が挙げられる。
第1粉末は従来公知の方法で製造でき、例えば特許文献1に記載の希土類化合物粉末の製造方法に準じた製造方法によって製造できる。
第2粉末も製法は特に限定されないが、第2粉末がLn2のオキシフッ化物又はフッ化物からなる場合の好適な製造方法について、以下説明する。
【0049】
第2粉末がLn2のオキシフッ化物又はフッ化物からなる場合の好適な製法とは、希土類元素のフッ化物及び希土類元素の酸化物とを混合し、当該混合物を600℃以上1000℃以下で焼成した後、粉砕してD50を1μm以上10μm以下にする。
上記の焼成温度は700℃以上900℃以下であることがより好ましい。また焼成雰囲気としては大気雰囲気が挙げられる。
【0050】
(6)CS法による成膜
次いで、CS法による成膜方法について説明する。
本成膜方法は、本発明のCS用粉末を原料粉末とし、加熱及び加圧されたガスにより、原料粉末を加熱及び加速し、基材上に衝突させて成膜する。
CS法の成膜に用いる成膜装置としては、高温・高圧ガスを発生させる発生部と、当該発生部から高温・高圧ガスを受け取り、ガスを加速させるガス加速部及び基材を保持する基材保持部とを有し、高温・高圧ガス流中に原料粉末を投入することで基材に原料粉末を衝突させるものが挙げられる。
【0051】
高温・高圧ガス発生部におけるガス温度としては150℃以上であることが希土類化合物の粒子を基材に付着しやすくする点で好ましく、800℃以下であることが、加速ノズルからの金属不純物汚染を防止する観点で好ましい。これらの観点から、ガス温度は160℃以上750℃以下であることがより好ましく、180℃以上700℃以下であることが特に好ましい。
【0052】
高温・高圧ガス発生部におけるガス圧力としては0.1MPa以上であることが、粒子が基材に付着しやすい点で好ましく、10MPa以下であることが、基材表面近傍で発生する衝撃波によって粒子が基材に衝突し難い現象を防止しやすい点で好ましい。この観点から、ガス圧力は0.2MPa以上8MPa以下であることがより好ましく、0.3MPa以上6MPa以下であることが特に好ましい。
【0053】
ガス加速部には加速ノズルを用いることができ、その形状や構造は限定されない。
基材としてはアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、炭素鋼等の金属基材、グラファイト、石英、アルミナ等のセラミックス、プラスチック等を用いることができる。
ガスとしては、圧縮空気、窒素、ヘリウム等を用いることができる。
【0054】
基材保持部における基材の位置は、高温・高圧ガス流に曝される位置であれば良い。基材保持部と基材は固定されていても良いが、基材及び/又はガンを上下及び/又は左右に移動させて、基材全体を高温・高圧ガス流に曝し、均一成膜することが好ましい。原料粉末の噴出部と基材との距離(以下「成膜距離」ともいう)は例えば、10mm以上50mm以下であることが成膜しやすさ等の点で好ましく、15mm以上45mm以下であることがより好ましい。
【0055】
上記で得られた皮膜の厚さは20μm以上であることが半導体製造装置の構成部材のコーティングにより、ハロゲン系プラズマ耐性を十分得られる点で好ましく、500μm以下であることが経済的な観点や用途に適した厚みという観点で好ましい。この観点から100μm以上300μm以下がより好ましい。また、本発明で得られた膜は、エッチング時に膜に印加される物理的スパッタ作用への耐久性の観点から、ビッカース硬度が70以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、100以上であることが更に一層好ましい。ビッカース硬度の上限としては製造容易性の観点からは500が挙げられる。ビッカース硬度の測定方法は、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。
【0056】
上記で得られた皮膜は、Ln1の化合物からなり、好ましくは、Ln1のオキシフッ化物又はフッ化物からなる。皮膜又は粉末がLn1の化合物からなるとは、Ln1の化合物を主相とすること、具体的には、皮膜又は粉末を下記条件のX線回折測定に供した場合に、そのメーンピークがLn1の化合物に由来するものであることを意味することが好ましい。とりわけ、上記で得られた皮膜は、Y5O4F7、YOF及びYF3から選ばれる1種又は2種以上からなることが、これらの化合物からなるCS膜において比較的硬度の高い膜が得られることに関し、フッ素系プラズマ及び塩素系プラズマ、酸素系プラズマの何れに対しても化学的に安定であり、半導体製造装置のチャンバー等の部材の耐食コーティングとして適している等の効果に優れる点で好ましい。
【0057】
上記で得られた皮膜は半導体製造装置の構成部材以外にも各種プラズマ処理装置、化学プラントの構成部材のコーティング用途に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。なお、以下に記載のBET比表面積は何れも以下に記載の方法で測定した。
図1~
図9に実施例1及び2並びに比較例1及び2の細孔容積分布、粒度分布を示す。
【0059】
<実施例1>
[第1粉末]
第1粉末は以下の手順に従い作製した。
酸化イットリウム粉末1.6kgを、100℃に加温した30%酢酸水溶液10kg中に溶解させた。得られた溶液を、冷却し、析出した酢酸イットリウム水和物を大気雰囲気下、650℃で焼成した。この工程により酸化イットリウム粉末を得た。
得られた酸化イットリウム粉末を70g/Lの濃度にて純水中に分散させ、そこに酸化イットリウム100gに対して、フッ化水素25gとなるように、50%フッ化水素酸を添加して25℃で24時間撹拌を行い、オキシフッ化イットリウム前駆体を得た。得られた前駆体を脱水したのち、大気雰囲気下、120℃で24時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末を大気雰囲気下、400℃で5時間焼成を行ったのち、ピンミルにて解砕を行い、オキシフッ化イットリウム粉末とした。
得られたオキシフッ化イットリウム粉末を35%の濃度にて純水中に分散させたのち、大川原加工機製FOC-16型スプレードライヤーを用いて造粒を行い、オキシフッ化イットリウム(Y5O4F7)造粒粉末(顆粒)とした。スプレードライヤーの操作条件はスラリー供給速度:245ml/min、アトマイザー回転数:20000min-1、入口温度:250℃とした。
【0060】
[第2粉末]
第2粉末としてはフジミインコーポレイテッド(株)製アルミナ粉末DTS-A35-10/0を用いた。
【0061】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。実施例1で得られたCS用混合粉末において、細孔容積IAに対して、細孔容積IBの比IB/IAは5以下であった。CS用粉末は、細孔径0.3μm以上2.0μm以下の範囲における細孔容積のピークの立ち下がり点(終点)が細孔径0.3μmよりも大径側に位置していた。また細孔容積の分布において細孔径10nm以上200nmの範囲に細孔容積のピークが観察された。
【0062】
<実施例2>
[第1粉末]
第1粉末は実施例1に供したものと同じ粉末を用いた。
[第2粉末]
第2粉末は以下の手順に従い作製した。
日本イットリウム(株)製酸化イットリウム粉末1.0kgとフッ化イットリウム粉末1.1kgを(株)石川工業製石川式攪拌擂潰機を用いて混合し、大気雰囲気下で900℃24時間焼成を行った。得られた焼成物について、増幸産業(株)製マスコロイダーを用いて粗砕を行った。得られた粗砕物に純水を添加し、30%のスラリーとした後、ボールミルを用いてD50が2.5μmになるまで湿式粉砕を行った。得られた粉砕物を大気雰囲気下、150℃で24時間乾燥したのち、ピンミルを用いて微解砕を行い、目的とする第2粉末を得た。
【0063】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0064】
<実施例3>
[第1粉末]
第1粉末は以下の手順に従い作製した。
酸化イットリウム粉末1.6kgを100℃に加温した30%酢酸水溶液10kg中に溶解させた。得られた溶液を冷却し、析出した酢酸イットリウム水和物を大気雰囲気下、650℃で焼成した。この工程により、酸化イットリウム粉末を得た。
得られた酸化イットリウム粉末を70g/Lの濃度にて純水中に分散させ、そこに酸化イットリウム100gに対して、フッ化水素18gとなるように、50%フッ化水素酸を添加して25℃で24時間撹拌を行い、オキシフッ化イットリウム前駆体を得た。得られた前駆体を脱水したのち、大気雰囲気下、120℃で24時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末を大気雰囲気下、400℃で5時間焼成を行ったのち、ピンミルにて解砕を行い、オキシフッ化イットリウム粉末とした。
得られたオキシフッ化イットリウム粉末を35%の濃度にて純水中に分散させたのち、大川原加工機製FOC-16型スプレードライヤーを用いて造粒を行い、オキシフッ化イットリウム(YOF)造粒粉末(顆粒)とした。スプレードライヤーの操作条件はスラリー供給速度:245ml/min、アトマイザー回転数:20000min-1、入口温度:250℃とした。
【0065】
[第2粉末]
第2粉末は以下の手順に従い作製した。
日本イットリウム(株)製酸化イットリウム粉末1.0kgとフッ化イットリウム粉末0.6kgを(株)石川工業製石川式攪拌擂潰機を用いて混合し、大気雰囲気下で900℃24時間焼成を行った。得られた焼成物について、増幸産業(株)製マスコロイダーを用いて粗砕を行った。得られた粗砕物に純水を添加し、30%のスラリーとした後、ボールミルを用いてD50が2.5μmになるまで湿式粉砕を行った。得られた粉砕物を大気雰囲気下、150℃で24時間乾燥したのち、ピンミルを用いて微解砕を行い、目的とする第2粉末を得た。
【0066】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0067】
<実施例4>
[第1粉末]
第1粉末は以下の手順に従い作製した。
酸化イットリウム粉末1.6kgを100℃に加温した30%酢酸水溶液10kg中に溶解させた。得られた溶液を冷却し、析出して得られた酢酸イットリウム水和物を大気雰囲気中、650℃で焼成した。この工程により、酸化イットリウム粉末を得た。
得られた酸化イットリウム粉末を70g/Lの濃度にて純水中に分散させ、そこに酸化イットリウム100gに対して、フッ化水素35gとなるように、50%フッ化水素酸を添加して25℃で24時間撹拌を行い、オキシフッ化イットリウム前駆体を得た。得られた前駆体を脱水したのち、大気雰囲気下、120℃で24時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末について大気雰囲気下、400℃で5時間焼成を行ったのち、ピンミルにて解砕を行い、オキシフッ化イットリウムとフッ化イットリウムを含む粉末とした。
得られた粉末を35%の濃度にて純水中に分散させたのち、大川原加工機製FOC-16型スプレードライヤーを用いて造粒を行い、オキシフッ化イットリウム(Y5O4F7)及びYF3の造粒粉末(顆粒)とした。スプレードライヤーの操作条件はスラリー供給速度:245ml/min、アトマイザー回転数:20000min-1、入口温度:250℃とした。
得られた粉末を下記条件のX線回折測定に供したところ、主相はY5O4F7(YO0.8F1.4)であり、副相がYF3であった。
【0068】
[第2粉末]
第2粉末は以下の手順に従い作製した。
日本イットリウム(株)製酸化イットリウム粉末1.0kgとフッ化イットリウム粉末2.6kgを(株)石川工業製石川式攪拌擂潰機を用いて混合し、大気雰囲気下で900℃24時間焼成を行った。得られた焼成物について、増幸産業(株)製マスコロイダーを用いて粗砕を行った。得られた粗砕物に純水を添加し、30%のスラリーとした後、ボールミルを用いてD50が2.5μmになるまで湿式粉砕を行った。得られた粉砕物を大気雰囲気下、150℃で24時間乾燥したのち、ピンミルを用いて微解砕を行い、目的とする第2粉末を得た。得られた第2粉末を下記条件のX線回折測定に供したところ、主相はY5O4F7(YO0.8F1.4)であり、副相がYF3であった。
【0069】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0070】
<実施例5>
[第1粉末]
酸化イットリウム換算で濃度300g/Lの硝酸イットリウム水溶液2.2kgと50%フッ化水素酸0.5kgを反応させることによりフッ化イットリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物を脱水及び洗浄したのち、大気雰囲気下にて150℃で24時間乾燥を行った。得られた乾燥粉を擂潰器により解砕し、フッ化イットリウム粉末を得た。
得られた粉末を35%の濃度にて純水中に分散させたのち、大川原加工機製FOC-16型スプレードライヤーを用いて造粒を行い、フッ化イットリウムYF3の造粒粉末(顆粒)とした。スプレードライヤーの操作条件はスラリー供給速度:245ml/min、アトマイザー回転数:20000min-1、入口温度:250℃とした。
得られた粉末を下記条件のX線回折測定に供したところ、主相はYF3であった。
【0071】
[第2粉末]
第2粉末は以下の手順に従い作製した。
本実施例の[第1粉末]を大気雰囲気下、900℃24時間で焼成して得られた焼成物について増幸産業(株)製マスコロイダーを用いて粗砕を行った。得られた粗砕物に純水を添加し、30%のスラリーとした後、ボールミルを用いてD50が2.5μmになるまで湿式粉砕を行った。得られた粉砕物を大気雰囲気下にて150℃で24時間乾燥したのち、ピンミルを用いて微解砕を行い、目的とする第2粉末を得た。
【0072】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0073】
<実施例6>
[第1粉末]
第1粉末は以下の手順に従い作製した。
酸化イットリウム粉末1.6kgを100℃に加温した30%酢酸水溶液10kg中に溶解させた。得られた溶液を冷却し、析出した酢酸イットリウム水和物を大気雰囲気中、650℃で焼成した。この工程により、酸化イットリウム粉末を得た。
得られた酸化イットリウム粉末を70g/Lの濃度にて純水中に分散させ、そこに酸化イットリウム100gに対して、フッ化水素25gとなるように、50%フッ化水素酸を添加して25℃で24時間撹拌を行い、オキシフッ化イットリウム前駆体を得た。得られた前駆体を脱水したのち、大気雰囲気中、120℃で24時間乾燥を行った。得られた乾燥粉末を大気雰囲気中、900℃で5時間焼成を行ったのち、ピンミルにて解砕を行い、オキシフッ化イットリウム粉末とした。
得られた乾燥粉末を35%の濃度にて純水中に分散させたのち、大川原加工機製FOC-16型スプレードライヤーを用いて造粒を行い、オキシフッ化イットリウム(Y5O4F7)造粒粉末(顆粒)とした。スプレードライヤーの操作条件はスラリー供給速度:245ml/min、アトマイザー回転数:20000min-1、入口温度:250℃とした。
【0074】
[第2粉末]
第2粉末は以下の手順に従い作製した。
日本イットリウム(株)製酸化イットリウム粉末1.0kgとフッ化イットリウム粉末1.1kgを(株)石川工業製石川式攪拌擂潰機を用いて混合し、大気雰囲気下で900℃24時間焼成を行った。得られた焼成物について、増幸産業(株)製マスコロイダーを用いて粗砕を行った。得られた粗砕物に純水を添加し、30%のスラリーとした後、ボールミルを用いてD50が2.5μmになるまで湿式粉砕を行った。得られた粉砕物を大気雰囲気下、150℃で24時間乾燥したのち、ピンミルを用いて微解砕を行い、目的とする第2粉末を得た。
【0075】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0076】
<比較例1>
[第1粉末]
第1粉末は実施例1に供したものと同じ粉末を用いた。
本実施例では第2粉末を用いず第1粉末500gをCS用粉末とした。
【0078】
<比較例2>
[第1粉末]
第1粉末は実施例1に記載したものを用いた。
【0079】
[第2粉末]
第2粉末としてはフジミインコーポレイテッド(株)製アルミナ粉末DTS-A150-45-45/10を用いた。
【0080】
上述で得られた第1粉末500gと第2粉末500gをビニール袋中で3分間振蕩し、CS用混合粉末とした。
【0081】
実施例及び比較例で得られた第1粉末、第2粉末及びCS用粉末について、下記の方法で比表面積、粒度を測定した。またCS用粉末について下記方法で細孔容積を測定した。また第1粉末及び第2粉末の組成は下記方法にて確認した。第1粉末、第2粉末の測定結果を表1に、CS用粉末の結果を表2に示す。
<BET法比表面積の測定方法>
マウンテック社製全自動比表面積計Macsorb model―1201を用いてBET1点法にて測定した。使用ガスは、窒素ヘリウム混合ガス(窒素30vol%)とした。
【0082】
<X線回折測定の条件>
・装置:UltimaIV(株式会社リガク製)
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・スキャン速度:2度/min
・ステップ:0.02度
・スキャン範囲:2θ=10度~90度
測定対象の粉末は、50gを採取し、めのう乳鉢に入れ、粉末が完全に浸漬する量のエタノールを滴下して10分、めのう乳鉢で手粉砕した後、乾燥させ、目開き250μm以下の篩下をX線回折測定に供した。
【0083】
<水銀圧入法による細孔容積>
マイクロメリティクス社製オートポアIVを用いた。
細孔直径が0.001μm以上100μm以下である範囲を測定し、細孔直径が0.3μm未満である範囲の累積容積を細孔容積IBとし、細孔直径が0.3μm以上2μm以下の累積容積を細孔容積IAとした。
【0084】
<D50及び粒度分布の測定方法>
D50及び粒度分布は粉末を、0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液が入った日機装株式会社製マイクロトラック3300EXIIの試料循環器のチャンバーに、適正濃度であると装置が判定するまで投入して、測定した。なお、マイクロトラック3300EXIIの試料循環器のチャンバーに粉末を投入したので外部の超音波分散装置による分散処理は行っておらず、またマイクロトラック3300EXIIの内部に付属の超音波分散も行わなかった。
【0085】
実施例及び比較例で得たCS用粉末を下記の評価に供した。結果を表3に示す。
<成膜評価>
成膜評価は以下の手順に従い行った。
成膜装置としては高圧型コールドスプレー装置であるCGT-KINETICS4000を用い、基材としてはスチールグリットGH10(新東工業(株)製)を用いて粗面化処理をした25mm×25mm×5mmのアルミニウムA5052を用いた。
作動ガスとしては窒素を用いた。ガスの圧力は3.0MPa、ガスの温度は500℃、成膜距離25mmとした。ガンの走査速度は10mm/sとした。
ノズルへの粉末供給は
図1に示す装置を用い、以下の手順により行った。まず、粉末フィーダー11に粉末0.5kgを投入し、振動によりチューブ12に供給した。チューブ12に供給された粉末はガス配管13からノズル14に供給されるガスに随伴されることによりノズル14まで供給され、ノズル14から基材15に向けて発射された。
施工中のノズル閉塞に関しては上述のアルミニウム基板表面に対し一層成膜した際の粉末供給性(供給安定性)を観察し、以下の基準で分類した。
〇:成膜中に詰まりが発生しなかった。
×:成膜中に一時的に詰まりが発生した、又は詰まりが発生し、成膜が継続できなくなった。
【0086】
成膜性に関しては、膜の断面をダイヤモンドスラリーで研磨した後、走査型電子顕微鏡を用いて膜断面及び基材―膜界面を観察し、以下の基準で分類した。
〇:クラックや基材との剥離の無い厚さ100μm以上の厚膜が得られた。
×:厚さ100μm以上の厚膜は得られたものの、膜中にクラックや基材との剥離が観察された、又は膜の堆積が十分でなく、厚さ100μm以上の厚膜が形成されなかった。
【0087】
膜の硬度に関しては、下記の条件で10点測定を行い、平均値で評価した。
・装置 :島津製作所製HMV-1
・加圧力 :HV0.1
・保持時間 :10秒
【0088】
膜は50gを採取し、めのう乳鉢に入れ、膜が完全に浸漬する量のエタノールを滴下して10分、めのう乳棒で手粉砕した後、乾燥させ、目開き250μm以下の篩下を上記条件のX線回折測定に供した。
【0089】
【0090】
【0091】
【符号の説明】
【0092】
11 粉末フィーダー
12 チューブ
13 ガス配管
14 ノズル
15 基材