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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】接触判定装置、及び、接触判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20241112BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20241112BHJP
   B62D 1/06 20060101ALI20241112BHJP
   G01V 3/08 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01B7/00 101C
G06F3/041 520
B62D1/06
G01V3/08 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021127692
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022683
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 新一
(72)【発明者】
【氏名】早坂 哲
(72)【発明者】
【氏名】永草 寛基
(72)【発明者】
【氏名】小松 稜
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218506(JP,A)
【文献】特開2015-232542(JP,A)
【文献】特開2016-217725(JP,A)
【文献】特開2019-023012(JP,A)
【文献】特開2021-096142(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00
G06F 3/041
B62D 1/06
G01V 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出体の物体への接触度合いを測定し、前記接触度合いに応じた検出値を出力するセンサと、
前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかの判定に用いる基準値と前記検出値とに基づき、前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかを判定する接触判定部と、
前記基準値を補正する補正部と
を含み、
前記補正部は、前記接触判定部によって前記被検出体が前記物体に接触していると判定される期間において、前記被検出体の前記物体への接触開始時からの前記検出値の変動分を累積した累積値のうち、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合は、累積値の最大値に基づいて前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合は、累積値の最小値に基づいて前記基準値を補正する、接触判定装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合、前記累積値のうちの前記最大値が更新されたときに前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合、前記累積値のうちの前記最小値が更新されたときに前記基準値を補正する、請求項1に記載の接触判定装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記検出値の変動分を累積して前記累積値を更新する際に、前記検出値の変動分を所定範囲内の値に制限して前記累積値に加算する、請求項1又は2に記載の接触判定装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記検出値の変動分を累積して前記累積値を更新する際に、前記検出値の変動分が所定範囲内の値であるときのみ、前記検出値の変動分を前記累積値に加算する、請求項1又は2に記載の接触判定装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記累積値を第1の所定期間毎に更新する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項6】
前記検出値の変動分は、第2の所定期間前の前記検出値に対する変動値である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合、前記累積値の最大値が最新の前記累積値より小さければ、前記累積値の最大値を前記最新の累積値に更新し、当該更新した前記累積値の最大値に基づいて前記基準値を補正し、前記累積値の最大値が最新の前記累積値以上であれば、前記累積値の最大値に基づいて前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合、前記累積値の最小値が最新の前記累積値より大きければ、前記累積値の最小値を前記最新の累積値に更新し、当該更新した前記累積値の最小値に基づいて前記基準値を補正し、前記累積値の最小値が最新の前記累積値以下であれば、前記累積値の最小値に基づいて前記基準値を補正する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項8】
前記補正部は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合、前記累積値の最大値と最新の前記累積値との差の絶対値が所定値以下であれば、前記最新の累積値に基づいて前記基準値を補正し、前記差の絶対値が所定値よりも大きければ、前記累積値の最大値と前記所定値との差に基づいて前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合、前記累積値の最小値と最新の前記累積値との差の絶対値が所定値以下であれば、前記最新の累積値に基づいて前記基準値を補正し、前記差の絶対値が所定値よりも大きければ、前記累積値の最小値と前記所定値との差に基づいて前記基準値を補正する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項9】
前記補正部は、前記被検出体の前記物体への接触開始時の基準値に、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合は前記累積値の最大値に基づく補正値を加える、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合は前記累積値の最小値に基づく補正値を加える、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項10】
前記補正部は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合、前記基準値と、前記累積値の最大値との加重平均を求めることにより、前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合は前記基準値と、前記累積値の最小値との加重平均を求めることにより、前記基準値を補正する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項11】
前記補正部は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合、過去所定個数分の前記累積値の最大値の移動平均値を求めることにより、前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合、過去所定個数分の前記累積値の最小値の移動平均値を求めることにより、前記基準値を補正する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項12】
前記接触判定部は、前記検出値から前記基準値を減算して得る差分が閾値を超えているかどうかを判定することにより、前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかを判定する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項13】
前記センサは静電センサである、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項14】
前記センサは静電センサであり、かつ、前記検出値はローパスフィルタで所定周波数以上のノイズを取り除いた値を有する、請求項13に記載の接触判定装置。
【請求項15】
前記センサは圧力センサである、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の接触判定装置。
【請求項16】
前記センサは圧力センサであり、かつ、前記検出値はローパスフィルタで所定周波数以上のノイズを取り除いた値を有する、請求項15に記載の接触判定装置。
【請求項17】
センサを用いて被検出体の物体への接触度合いを測定し、前記接触度合いに応じた検出値を出力するステップと、
前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかの判定に用いる基準値と前記検出値とに基づき、前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかを判定するステップと、
前記基準値を補正するステップと
を含み、
前記補正するステップは、前記判定するステップによって前記被検出体が前記物体に接触していると判定される期間において、前記被検出体の前記物体への接触開始時からの前記検出値の変動分を累積した累積値のうち、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合は、累積値の最大値に基づいて前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合は、累積値の最小値に基づいて前記基準値を補正する、接触判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触判定装置、及び、接触判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操作体の接触と前記操作体の近接との少なくとも一方を含む操作を検出する入力装置であって、前記操作に応じた物理量を計測する計測部と、少なくともベース値と前記物理量とを基に、操作有り状態と操作無し状態とを含む操作状態を判定する判定部と、前記操作状態が前記操作有り状態である操作有り期間中、前記物理量の所定時間当たりの変化の大きさが所定範囲内であるときの前記物理量を使用して前記ベース値の更新を行う、前記ベース値更新部と、を備える入力装置がある。判定部は、前記物理量と前記ベース値との差分に基づいて操作状態を判定する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-218506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の入力装置では、ベース値が物理量に追従するため、例えば操作体である手をゆっくり離すことによって操作有り状態から操作無し状態に緩やかに変化した場合に、物理量が緩やかに低下するとベース値が追従して低下することにより、操作無し状態においても物理量とベース値との差分がある程度大きくなり、操作有り状態であると誤判定されるおそれがある。従来の入力装置は、手をゆっくり離すようなケースを想定していないからである。
【0005】
また、物理量は温度上昇とともに増加する傾向があるため、温度上昇とともにベース値を補正することが求められる。
【0006】
そこで、接触期間の温度変化に応じた基準値の補正に対応させつつ、手等をゆっくり離した場合にも物体から手が離れたことを検出可能な接触判定装置、及び、接触判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の接触判定装置は、被検出体の物体への接触度合いを測定し、前記接触度合いに応じた検出値を出力するセンサと、前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかの判定に用いる基準値と前記検出値とに基づき、前記被検出体が前記物体に接触しているかどうかを判定する接触判定部と、前記基準値を補正する補正部とを含み、前記補正部は、前記接触判定部によって前記被検出体が前記物体に接触していると判定される期間において、前記被検出体の前記物体への接触開始時からの前記検出値の変動分を累積した累積値のうち、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が増大する場合は、累積値の最大値に基づいて前記基準値を補正する、又は、前記接触度合いの増大に応じて前記検出値が減少する場合は、累積値の最小値に基づいて前記基準値を補正する。
【発明の効果】
【0008】
接触期間の温度変化に応じた基準値の補正に対応させつつ、手等をゆっくり離した場合にも物体から手が離れたことを検出可能な接触判定装置、及び、接触判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の接触判定装置100を実装したステアリングホイール10を示す図である。
図2】静電センサ110の出力正弦波の一例を示す図である。
図3】基準値を用いた接触の判定を説明する図である。
図4】MPU120Bが実行する接触判定処理を表すフローチャートを示す図である。
図5】MPU120Bが実行する接触判定処理を表すフローチャートを示す図である。
図6】MPU120Bが実行する接触判定処理を表すフローチャートを示す図である。
図7】MPU120Bが実行する接触判定処理を表すフローチャートを示す図である。
図8】接触判定装置100の動作を示す図である。
図9】接触判定装置100の動作を示す図である。
図10】接触判定装置100の動作を示す図である。
図11】比較例の接触判定装置の動作を示す図である。
図12】比較例の接触判定装置の動作を示す図である。
図13】比較例の接触判定装置の動作を示す図である。
図14】実施形態の変形例における接触判定装置100の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の接触判定装置、及び、接触判定方法を適用した実施形態について説明する。
【0011】
<実施形態>
図1は、実施形態の接触判定装置100を実装したステアリングホイール10を示す図である。図1に示すように、ステアリングホイール10は、一例として車両に搭載され、グリップ11の内部に接触判定装置100の静電センサ110が実装されている。接触判定装置100は、一例として運転者の手Hがステアリングホイール10のグリップ11に接触しているかどうかを判定する。
【0012】
以下、一般化するために、車両の運転者を接触判定装置100の操作者と称す。接触判定装置100は、図1に示すようにステアリングホイール10に組み込まれる用途に限定されない。以下では、静電センサ110が設けられた物体に、被検出体としての操作者の手Hが接触しているかどうかを判定可能な接触判定装置100について説明する。静電センサ110が設けられた物体に操作者が触れることを操作者の操作と称す。
【0013】
<接触判定装置100の構成>
接触判定装置100は、静電センサ110及びHODECU(Hands Off Detection Electronic Control Unit)120を含む。
【0014】
静電センサ110は、ステアリングホイール10のグリップ11の一周にわたって設けられており、例えば金属製の電極で構成される。静電センサ110は、信号線12を介してHODECU120に接続されている。
【0015】
HODECU120は、一例としてステアリングホイール10の内部に設けられている。図1ではHODECU120を拡大して示す。HODECU120は、AFE(Analog Front End)120AとMPU(Micro Processor Unit)120Bとを有する。
【0016】
AFE120Aは、静電センサ110に接続されており、MPU120Bから入力される指令に基づいて静電センサ110に正弦波(入力正弦波)を入力し、静電センサ110から出力される正弦波(出力正弦波)を取得する。AFE120Aは、入力正弦波と出力正弦波から静電センサ110の容量値を取得し、デジタル変換するとともにローパスフィルタによるノイズ除去を行ってAD値としてMPU120Bに出力する。AD値は検出値の一例である。AD値は、一例として単位を持たないカウント値で表される。AFE120Aがローパスフィルタによるノイズ除去を行うことにより、接触判定装置100は、所定周波数以上のノイズを取り除いたAD値を取得することができる。
【0017】
MPU120Bは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。MPU120Bには一例としてECU50が接続されている。ECU50は、ステアリングホイール10が搭載される車両の電子機器を制御する制御装置である。電子機器は、例えば車両の自動運転等に関する電子機器であってよい。
【0018】
MPU120Bは、主制御部121、補正部122、接触判定部123、及びメモリ124を有する。主制御部121、補正部122、接触判定部123は、MPU120Bが実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ124は、MPU120Bのメモリを機能的に表したものである。
【0019】
主制御部121は、MPU120Bの制御処理を統括する処理部であり、補正部122、接触判定部123が行う処理以外の処理を実行する。
【0020】
補正部122は、接触判定部123が判定に用いる基準値を補正する。基準値とは、接触判定部123がステアリングホイール10のグリップ11に手Hが接触しているかどうかを判定する際に用いる静電センサ110の容量値の基準値である。例えば、手Hがグリップ11に接触している際に、手Hと静電センサ110との微妙な距離の変化や温度の変化等によって静電センサ110の容量値は変動する。このような変動による静電センサ110の容量値の変動分を排除し、手Hの接触の有無による容量値の変動分を検出するために、静電センサ110の容量値の基準値を用いている。補正部122は、微妙な距離の変化や温度の変化等に応じて検出値を補正する。補正部122による検出値の補正方法については図4乃至図7を用いて後述する。補正部122は、図6及び図7の処理を実行する際に利用するタイマーを有する。
【0021】
接触判定部123は、静電センサ110の容量値から基準値を減算して得る差分が閾値を超えているかどうかを判定することにより、手Hがグリップ11に接触しているかどうかを判定する。接触判定部123は、判定結果を表すデータをECU50に通知する。
【0022】
メモリ124は、主制御部121、補正部122、接触判定部123が処理を行うために必要なプログラム及びデータ等を格納する。メモリ124には、静電センサ110の容量値を表すデータや、補正部122、接触判定部123が処理の過程で生成したデータ等が保存される。
【0023】
<静電センサ110の出力正弦波>
図2は、静電センサ110の出力正弦波の一例を示す図である。図2には手Hでグリップ11から離しているとき(リリース時)の出力正弦波を実線で示し、手Hでグリップ11を握っているとき(タッチ時)の出力正弦波を破線で示す。
【0024】
静電センサ110の容量値は、グリップ11に手Hが接触するとリリース時と比べて変化するため、リリース時の正弦波に比べてタッチ時の正弦波は位相や振幅が変化する。タッチ時の正弦波の位相や振幅は、グリップ11に対する手Hの接触度合に応じて変化する。接触度合とは、例えば、手Hがグリップ11を軽く握っているか、又は、強く握っているか、あるいは、手Hがグリップ11に触れている面積が小さいか、又は、大きいか等の度合である。
【0025】
例えば、リリース時の振幅がゼロになるタイミングを検出タイミングtdとして予め決めておいて、検出タイミングtdで正弦波の振幅を検出すれば、手Hの接触度合に応じたAD値を求めることができる。検出タイミングtdにおける振幅の変化分がAD値に相当するからである。
【0026】
<基準値を用いた接触の判定>
図3は、基準値を用いた接触の判定を説明する図である。図3において横軸は時間、縦軸は電圧を表す。図3ではAD値を実線で示し、基準値を破線で示し、AD値と基準値の差分(AD値-基準値)を一点鎖線で示す。
【0027】
時刻t1より前の状態では、手Hはグリップ11に接触していないこととする。時刻t1で手Hがグリップ11に接触すると、基準値に対してAD値が立ち上がる。このとき、差分(AD値-基準値)も立ち上がり、オン閾値Th1を超えることにより、接触判定部123は、手Hはグリップ11に接触したと判定する。また、時刻t2で手Hがグリップ11から離れると、AD値が立ち下がる。このとき、差分(AD値-基準値)も立ち下がり、オン閾値Th1よりも低いオフ閾値Th2以下になることにより、接触判定部123は、手Hはグリップ11から離れたと判定する。
【0028】
<補正部122による基準値の補正>
補正部122は、リリース時とタッチ時とで基準値の計算方法を変更する。ここでは、一例としてHODECU120が10ms(ミリ秒)毎に制御処理を行うこととして説明する。
【0029】
補正部122は、リリース時には次式(1)を用いて基準値を計算する。Mは加重平均における重みを表す。基準値(10ms前)は、10ms前に補正部122が計算した基準値である。補正部122は、式(1)に基づいて、基準値(10ms前)に重みMを乗じることによって、基準値(10ms前)とAD値の加重平均を求める。式(1)は、基準値(10ms前)に対して最新のAD値の値を加重平均で反映させる式である。Mの値が大きいほど式(1)で計算される基準値はAD値の影響を受けにくくなり、Mの値が小さいほど式(1)で計算される基準値はAD値の影響を受けやすくなる。重みMの値は、静電センサ110の特性や感度等に応じて適切な値に設定すればよい。
【0030】
【数1】
【0031】
また、補正部122は、タッチ時には次式(2)を用いて基準値を計算する。Mは加重平均における重みを表す。重みMは式(1)における重みMと同一であってもよいし、異なる値であってもよい。補正部122は、式(2)に基づいて、基準値(10ms前)に重みMを乗じることによって、基準値(10ms前)と累積最大値の加重平均を求める。換言すれば、補正部122は、累積最大値に基づいて基準値を補正する。
【0032】
【数2】
【0033】
ここで、累積最大値とは、累積値のうちの最大値であり、より具体的には、接触度合いの増大に応じてAD値が変動する変動方向(AD値が増大する方向)を正とした場合の最大値である。また、累積値とは、グリップ11への手Hの接触開始時からのAD値の変動分ΔADを累積した累積値である。補正部122は、累積値を計算(更新)する際に、AD値の変動分ΔADを無制限に累積するのではなく、ある程度の範囲内の値に制限して前回計算した累積値に加算する。この処理の詳細については、図7を用いて後述する。
【0034】
式(2)は、基準値(10ms前)に対して累積最大値を加重平均で反映させる式である。Mの値が大きいほど式(2)で計算される基準値は累積最大値の影響を受けにくくなり、Mの値が小さいほど式(2)で計算される基準値は累積最大値の影響を受けやすくなる。重みMの値は、静電センサ110の特性や感度等に応じて適切な値に設定すればよい。また、上述した通り、式(2)における重みMは、式(1)における重みMと同一であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0035】
補正部122は、リリース時には式(1)を用いて基準値を補正し、タッチ時には式(2)を用いて基準値を補正する。タッチ時には手Hと静電センサ110との微妙な距離の変化や温度の変化等によって静電センサ110の容量値は変動するので、補正部122は、誤判定が生じないように、累積最大値を用いて式(2)に従って基準値を求める。
【0036】
<接触判定部123が実行する接触判定処理>
図4乃至図7は、MPU120Bが実行する接触判定処理を表すフローチャートを示す図である。
【0037】
接触判定部123は、電源が投入されると処理をスタートさせ、初期化フラグをTRUEに設定する(ステップS1)。
【0038】
接触判定部123は、基準値をMAXに設定する(ステップS2)。
【0039】
接触判定部123は、接触状態をリリース(State=Release)に設定する(ステップS3)。
【0040】
接触判定部123は、AFE120AからAD値を取得する(ステップS4)。
【0041】
接触判定部123は、AD値と基準値の差分(AD値-基準値)が閾値Thよりも大きいかどうかを判定する(ステップS5)。接触判定部123は、ステップS5において、接触状態(State)がリリース(Release)の場合にはThとしてオン閾値Th1(図3参照)を用いる。また、接触判定部123は、ステップS5において、接触状態(State)がタッチ(Touch)の場合にはThとしてオフ閾値Th2(図3参照)を用いる。
【0042】
接触判定部123は、差分(AD値-基準値)が閾値よりも大きくない(S5:NO)と判定すると、接触状態はリリース(State=Release)であると判定する(ステップS6)。
【0043】
接触判定部123は、初期化フラグをTRUEに設定する(ステップS7)。
【0044】
接触判定部123は、補正部122にリリース状態の基準値を補正させる処理を実行する(ステップS8)。補正部122が基準値を補正する処理は、基準値を更新する処理である。ステップS8の処理の詳細については、図5を用いて後述する。
【0045】
接触判定部123は、ステップS8の処理を終えると一連の処理を終了するかどうかを判定する(ステップS9)。と一連の処理を終了するのは、例えば電源がオフにされるときである。
【0046】
接触判定部123は、一連の処理を終了しない(処理を継続する)(S9:NO)と判定すると、フローをステップS4にリターンさせる。AD値を取得して処理を繰り返し実行するためである。また、接触判定部123は、一連の処理を終了する(S9:YES)と判定すると、一連の処理を終了する(エンド)。
【0047】
接触判定部123は、ステップS5において、差分(AD値-基準値)が閾値Thよりも大きい(S5:YES)と判定すると、接触状態はタッチ(State=Touch)であると判定する(ステップS10)。
【0048】
接触判定部123は、初期化フラグがTRUEであるかどうかを判定する(ステップS11)。
【0049】
接触判定部123は、初期化フラグがTRUEである(S11:YES)と判定すると、初期化フラグをFALSEに設定する(ステップS12)。
【0050】
接触判定部123は、補正部122にタッチ状態を初期化する処理を実行させる(ステップS13)。ステップS13の処理の詳細については、図6を用いて後述する。
【0051】
接触判定部123は、補正部122にタッチ状態の基準値を補正する処理を実行させる(ステップS14)。補正部122が基準値を補正する処理は、基準値を更新する処理である。ステップS14の処理の詳細については、図7を用いて後述する。接触判定部123は、ステップS14の処理を終えると、フローをステップS9に進行させる。
【0052】
<補正部122がリリース状態の基準値を補正する処理(図5)>
補正部122は、図5に示すリリース状態の基準値を補正する処理を開始すると、式(1)に従ってリリース状態の基準値を補正する処理を行う(ステップS8A)。補正部122は、式(1)に基づいて、基準値(10ms前)に重みMを乗じることによって、基準値(10ms前)とAD値の加重平均を求める。補正部122は、このようにしてリリース状態における基準値を更新する。以上で、補正部122がリリース状態の基準値を補正する処理が終了する(エンド)。
【0053】
<補正部122がタッチ状態を初期化する処理(図6)>
補正部122は、図6に示す初期化フラグがFALSEの時のみタッチ状態を初期化する処理を実行する。
【0054】
補正部122は、図6に示すタッチ状態を初期化する処理を開始すると、タイマーを0秒に設定する(ステップS13A)。
【0055】
補正部122は、累積値を10ms前の基準値(10ms前)に設定するとともに、累積最大値を10ms前の基準値(10ms前)に設定する(ステップS13B)。
【0056】
補正部122は、1秒前のAD値(1s前)を現在のAD値に設定する(ステップS13C)。補正部122は、1秒後にタッチ状態の基準値を補正(更新)する際に利用するためにステップS13Cの処理を行う。以上で、補正部122がタッチ状態を初期化する処理が終了する(エンド)。
【0057】
<補正部122がタッチ状態の基準値を補正する処理(図7)>
補正部122は、図7に示すタッチ状態の基準値を補正する処理を開始すると、タイマーが1秒以上になったかどうかを判定する(ステップS20)。1秒毎に累積値を更新するためである。
【0058】
補正部122は、タイマーが1秒以上になっていない(S20:NO)と判定すると、タイマーを0.01秒(10ms)加算する(ステップS21)。0.01秒毎に処理を行うからである。
【0059】
補正部122は、式(2)を用いて、タッチ時の基準値を計算する(ステップS22)。補正部122は、式(2)に基づいて、基準値(10ms前)に重みMを乗じることによって、基準値(10ms前)と累積最大値の加重平均を求める。すなわち、補正部122は、手Hのステアリングホイール10のグリップ11への接触開始時の基準値に、累積最大値に基づく補正値を加える。このため、接触判定装置100は、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0060】
補正部122は、ステップS20において、タイマーが1秒以上になっている(S20:YES)と判定すると、現在のAD値から1秒前のAD値(1s前)を減算して得るAD値の変動分が-Kより大きく、Kより小さいかどうかを判定する(ステップS23A)。AD値の変動分を無制限に累積するのではなく、ある程度の範囲内の値に制限して前回計算した累積値に加算するためである。ある程度の範囲内の値は、所定範囲内の値の一例であり、-KとKによって規定される。Kの値は、一例として2~5程度の値に設定すればよいが、静電センサ110の特性や感度等に応じて適切な値に設定すればよい。
【0061】
なお、補正部122は、0.01秒毎に処理を行うため、ステップS20でYESと判定する場合は、タイマーのカウント時間が1秒に到達したときである。
【0062】
補正部122は、AD値の変動分が-Kより大きく、Kより小さい(S23A:YES)と判定すると、AD値の変動分ΔADを現在のAD値から1秒前のAD値(1s前)を減算して得るAD値の変動分に設定する(ステップS24A)。補正部122は、ステップS24Aの処理を終えるとフローをステップS25に進行させる。ここで、AD値の変動分は、現在のAD値から1秒前のAD値(1s前)を減算して得るAD値の変動分(差分)であり、累積値の計算に用いる値である。
【0063】
補正部122は、ステップS23Aにおいて、AD値の変動分が-Kより大きくない、又は、Kより小さくない(S23A:NO)と判定すると、AD値の変動分が-K以下であるかどうかを判定する(ステップS23B)。
【0064】
補正部122は、AD値の変動分が-K以下である(S23B:YES)と判定すると、AD値の変動分ΔADを-Kに設定する(ステップS24B)。この場合は、AD値の変動分ΔADをある程度の範囲内の値に制限するための下限値-Kに設定することになる。補正部122は、ステップS24Bの処理を終えるとフローをステップS25に進行させる。
【0065】
また、補正部122は、ステップS23Bにおいて、AD値の変動分が-K以下ではない(S23B:NO)と判定すると、AD値の変動分ΔADをKに設定する(ステップS24C)。この場合は、AD値の変動分がK以上であるため、AD値の変動分ΔADをある程度の範囲内の値に制限するための上限値Kに設定することになる。補正部122は、ステップS24Cの処理を終えるとフローをステップS25に進行させる。
【0066】
補正部122は、現時点での累積値にAD値の変動分ΔADを加算することにより、累積値を更新する(ステップS25)。すなわち、累積値(更新値)=累積値(更新前の現時点での値)+ΔADである。
【0067】
補正部122は、現時点での累積最大値がステップS25で更新された累積値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS26)。累積最大値を更新するかどうかを判定するためである。
【0068】
補正部122は、現時点での累積最大値がステップS25で更新された累積値よりも小さい(S26:YES)と判定すると、累積最大値をステップS25で更新された累積値に更新する(ステップS27)。すなわち、累積最大値=累積値となる。
【0069】
補正部122は、タイマーを0秒にリセットする(ステップS28)。次の1秒をカウントするためである。
【0070】
補正部122は、1秒前のAD値(1ms前)を現在のAD値に設定する(ステップS29)。すなわち、AD値(1ms前)=AD値とする。1秒後の処理に備えて、現在のAD値を1秒後におけるAD値(1ms前)として利用するためである。補正部122は、ステップS29の処理を終えるとフローをステップS22に進行させる。
【0071】
<接触判定装置100による動作>
図8乃至図10は、接触判定装置100の動作を示す図である。図8乃至図10において横軸は時間(秒)を表す。図8には、AD値、ΔAD、累積値、累積最大値、基準値、AD値-基準値(即ち、AD値と基準値の差分)、閾値、接触状態を示す。AD値、ΔAD、累積値、累積最大値、基準値、AD値-基準値、閾値は、静電容量のカウント値で表す。AD値は測定値である。接触状態は、接触判定装置100によるリリース状態又はタッチ状態の判定結果を表す。
【0072】
図9には、AD値、ΔAD、累積値、累積最大値を示す。図10には、累積最大値、基準値、AD値-基準値、閾値、接触状態を示す。
【0073】
ここでは、実際の手Hの動きは、最初はグリップ11に接触していないリリース状態であり、その後グリップ11に接触してタッチ状態になり、ゆっくりと手Hをグリップ11から離して再びリリース状態に戻る動きである。このような実際の接触状態を横軸の下に示す。横軸の下に示す実際の接触状態と、接触判定装置100による接触状態の判定結果とが一致したかどうかを説明する。
【0074】
図8に示すように、約4秒を過ぎたところでAD値-基準値が閾値を超えて、接触判定装置100による接触状態の接触判定がリリース状態からタッチ状態に切り替わると、累積値が出現する。累積値はAD値の変動に応じて、AD値よりも緩やかに変動する。累積値が増大すると、累積最大値が約6秒、約12秒で更新されて徐々に増大してゆく。基準値は、累積最大値に引っ張られるように緩やかに変化するが、大きな変動はなく比較的安定している。
【0075】
タッチ状態の期間中にAD値が大きく変動しても、基準値は比較的安定しているので、AD値-基準値は、AD値の変動に従って変動する。タッチ状態の約14秒から、ゆっくりと手Hをグリップ11から離し始めてAD値が低下し始めても、基準値が安定しているため、AD値-基準値は安定的に低下し、実際の接触状態がリリース状態に切り替わる約22秒で、接触判定装置100による接触状態の判定結果はリリース状態に戻っている。これらの判定結果は、横軸の下に示す実際の接触状態と一致している。
【0076】
なお、上述のような接触状態の判定中に静電センサ110の温度が上昇した場合には、AD値と基準値が上昇することが確認できている。このため、接触判定装置100は、接触状態の判定中に静電センサ110の温度が上昇した場合においても、温度変化に応じた基準値の補正に対応でき、誤判定を抑制してタッチ状態を正しく判定することができる。
【0077】
<比較例の動作>
図11乃至図13は、接触判定装置100と比較するための、比較例の接触判定装置の動作を示す図である。比較例の接触判定装置の動作は、累積値を計算せずに、タッチ状態においても式(1)で基準値を計算する点が、図8乃至図10に示す接触判定装置100の動作と異なる。図11乃至図13において横軸は時間(秒)を表す。また、図11乃至図13において、AD値、ΔADは、接触判定装置100の動作と同様、即ち、図8乃至図10におけるAD値、ΔADと同様である。さらに、図11乃至図13において、基準値(比較例)、AD値-基準値(比較例)、閾値(比較例)、接触状態(比較例)は、接触判定装置100の動作とは異なり、比較例の接触判定装置の動作を示す。図11には、AD値、ΔAD、基準値(比較例)、AD値-基準値(比較例)、閾値(比較例)、接触状態(比較例)を示す。AD値、ΔAD、基準値(比較例)、AD値-基準値(比較例)、閾値(比較例)は、静電容量のカウント値で表す。なお、AD値は測定値である。
【0078】
図12には、AD値、ΔADを示す。図13には、基準値(比較例)、AD値-基準値(比較例)、閾値(比較例)、接触状態(比較例)を示す。
【0079】
ここでは、手Hの動きは、図8乃至図10を用いて説明した手Hの動きと同一であり、最初はグリップ11に接触していないリリース状態であり、その後グリップ11に接触してタッチ状態になり、ゆっくりと手Hをグリップ11から離して再びリリース状態に戻る動きである。このような実際の接触状態を横軸の下に示す。横軸の下に示す実際の接触状態と、比較例の接触判定装置による接触状態(比較例)の接触判定とが一致したかどうかを説明する。
【0080】
図11に示すように、約4秒を過ぎたところでAD値-基準値(比較例)が閾値を超えて、実際の接触状態がリリース状態からタッチ状態に切り替わると、比較例の接触判定装置による接触状態(比較例)の接触判定はタッチ状態に遷移する。
【0081】
タッチ状態の約14秒から、ゆっくりと手Hをグリップ11から離し始めてAD値が低下し始めると、基準値(比較例)はAD値に追従して低下し始める。実際の接触状態がリリース状態に切り替わる約22秒から、AD値-基準値(比較例)は増大し始めて閾値よりも上回っているので、比較例の接触判定装置による接触状態(比較例)の接触判定はタッチ状態に維持されている。これは、実際の接触状態とは異なり、誤判定が生じている。
【0082】
以上のように、接触判定装置100は、タッチ状態になったと判定すると、図7のステップS25において現時点での累積値にAD値の変動分ΔADを加算することにより、累積値を更新する。また、図7のステップS22において、基準値(10ms前)に重みMを乗じることによって、基準値(10ms前)と累積最大値の加重平均を式(2)で求める。すなわち、累積最大値に基づいて基準値を補正している。
【0083】
このため、タッチ状態において手Hでグリップ11を握る握り方や、握る位置や、手Hがグリップ11に接触する際の触れ方等が変化しても、累積値の最大値である最大累積値に基づいて補正した基準値はAD値に追従せず、安定した値を保持する。これは、静電センサ110の温度が上昇しても同様である。この結果、グリップ11の握り方、位置、又は触れ方が変化したり、温度が上昇したりしても、AD値と基準値との差分(AD値-基準値)と閾値を比べることによってタッチ状態からリリース状態への変化を安定的に判定することができる。これは、図8乃至図10に示した通りである。
【0084】
したがって、タッチ状態である期間(接触期間)の温度変化に応じた基準値の補正に対応させつつ、手H等をゆっくり離した場合にもグリップ11から手Hが離れたことを検出可能な接触判定装置100を提供することができる。
【0085】
また、補正部122は、累積値のうちの累積最大値が更新されたときに基準値を補正するので、接触判定装置100は、最新の累積最大値に基づく基準値を用いて、接触期間の温度変化に応じた基準値の補正に対応させつつ、手等をゆっくり離した場合にも物体が離れたことを検出することができる。
【0086】
また、補正部122は、AD値の変動分ΔADを累積して累積値を更新する際に、AD値の変動分ΔADを所定範囲内の値に制限して累積値に加算するので、接触判定装置100は、ノイズ等によりAD値(測定値)が時間的に急激に変化した場合でも、急激な変化の影響を抑制することができ、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0087】
また、補正部122は、AD値の変動分ΔADを累積して累積値を更新する際に、AD値の変動分ΔADを所定範囲内の値に制限して累積値に加算する代わりに、AD値の変動分ΔADが所定範囲内の値であるときのみ、AD値の変動分ΔADを累積値に加算してもよい。このようにして累積値を求めた場合にも、接触判定装置100は、ノイズ等によりAD値(測定値)が時間的に急激に変化した場合でも、急激な変化の影響を抑制することができ、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0088】
また、補正部122は、累積値を所定期間毎に更新する。この所定期間は、第1の所定期間の一例である。累積値更新のための所定期間は、静電センサ110の特性や感度等、又は、接触判定装置100を利用する環境等に応じて適切な値に設定することが可能である。これにより、接触判定装置100は、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0089】
また、AD値の変動分ΔADは、1秒前(所定期間前の一例)のAD値に対する変動値である。この所定期間は、第2の所定期間の一例である。所定期間前は1秒前に限らず、静電センサ110の特性や感度等、又は、接触判定装置100を利用する環境等に応じて適切な値に設定することが可能である。これにより、接触判定装置100は、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0090】
また、補正部122は、累積最大値よりも最新の累積値の方が大きければ、累積最大値を最新の累積値に更新し、当該更新した累積最大値に基づいて基準値を補正する。一方、補正部122は、累積最大値が最新の累積値以上であれば、累積最大値に基づいて基準値を補正する。よって、接触判定装置100は、常に最大の累積値である累積最大値に基づいて基準値を補正することができ、安定的に接触状態を判定することができる。
【0091】
また、補正部122は、上述のような累積最大値の更新方法の代わりに、累積最大値と最新の累積値との差が所定値以下であれば、最新の累積値に基づいて基準値を補正し、差が所定値よりも大きければ、累積最大値と所定値との差に基づいて基準値を補正してもよい。このようにして基準値を補正する場合にも、接触判定装置100は、同様に基準値の補正精度を向上させることができる。
【0092】
また、補正部122は、手Hのステアリングホイール10のグリップ11への接触開始時の基準値に、累積最大値に基づく補正値を加えるので、接触判定装置100は、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0093】
また、補正部122は、基準値と、累積最大値との加重平均を求めることにより、基準値を補正するので、接触判定装置100は、基準値と累積最大値とのバランスを取りながら基準値を補正することができ、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0094】
また、補正部122は、加重平均の代わりに、過去所定個数分の累積最大値の移動平均値を求めることにより、基準値を補正してもよい。接触判定装置100は、加重平均に限らず、累積最大値の移動平均に基づいて基準値を補正することによって、基準値の補正精度を向上させることができる。
【0095】
接触判定部123は、AD値から基準値を減算して得る差分(AD値-基準値)が閾値を超えているかどうかを判定することにより、手Hがステアリングホイール10のグリップ11に接触しているかどうかを判定するので、接触判定装置100は、閾値に応じて安定的に、かつ、誤判定を抑制して接触状態(タッチ状態又はリリース状態)を判定することができる。
【0096】
ステアリングホイール10のグリップ11への手Hの接触度合いを測定するセンサとして静電センサ110を用いるので、接触判定装置100は、手Hの接触度合いの測定精度を向上させることができる。
【0097】
また、静電センサ110の出力からAFE120Aのローパスフィルタで所定周波数以上のノイズを取り除いた値を有するAD値を用いるので、接触判定装置100は、ノイズを除去することによって手Hの接触度合いの測定精度を向上させることができる。
【0098】
また、静電センサ110の代わりに圧力センサを用いてもよい。圧力センサとしては、例えば歪ゲージ式又は静電容量式の圧力センサを用いることができる。圧力センサを用いても、接触判定装置100は、手Hの接触度合いの測定精度を向上させることができる。
【0099】
また、圧力センサの出力をAFE120Aのローパスフィルタで所定周波数以上のノイズを取り除いた値を有するAD値を用いてもよい。接触判定装置100は、ノイズを除去することによって手Hの接触度合いの測定精度を向上させることができる。
【0100】
なお、ここでは、接触度合いの増大に応じてAD値が増大する場合は、累積最大値に基づいて基準値を補正する形態について説明したが、接触度合いの増大に応じてAD値が減少する場合は、累積値の最小値(累積最小値)に基づいて基準値を補正すればよい。このような動作については図14を用いて説明する。
【0101】
図14は、実施形態の変形例における接触判定装置100の動作を示す図である。図14において横軸は時間(秒)を表す。図14には、AD値、ΔAD、累積値、累積最小値、基準値、AD値-基準値(即ち、AD値と基準値の差分)、閾値、接触状態を示す。AD値、ΔAD、累積値、累積最小値、基準値、AD値-基準値、閾値は、静電容量のカウント値で表す。AD値は測定値である。接触状態は、接触判定装置100によるリリース状態又はタッチ状態の判定結果を表す。
【0102】
ここでは、図8を用いて説明した動作と同様に、実際の手Hの動きは、最初はグリップ11に接触していないリリース状態であり、その後グリップ11に接触してタッチ状態になり、ゆっくりと手Hをグリップ11から離して再びリリース状態に戻る動きである。このような実際の接触状態を横軸の下に示す。横軸の下に示す実際の接触状態と、接触判定装置100による接触状態の判定結果とが一致したかどうかを説明する。
【0103】
図14に示すように、約4秒を過ぎたところでAD値-基準値が閾値を下回り、接触判定装置100による接触状態の接触判定がリリース状態からタッチ状態に切り替わると、累積値が出現する。累積値はAD値の変動に応じて、AD値よりも緩やかに変動する。累積値が増大すると、累積最小値が約6秒で更新されて徐々に減少してゆく。基準値は、累積最小値に引っ張られるように緩やかに変化するが、大きな変動はなく比較的安定している。
【0104】
タッチ状態の期間中にAD値が大きく変動しても、基準値は比較的安定しているので、AD値-基準値は、AD値の変動に従って変動する。タッチ状態の約15秒から、ゆっくりと手Hをグリップ11から離し始めてAD値が増大し始めても、基準値が安定しているため、AD値-基準値は安定的に増大し、実際の接触状態がリリース状態に切り替わる約20秒で、接触判定装置100による接触状態の判定結果はリリース状態に戻っている。これらの判定結果は、横軸の下に示す実際の接触状態と一致している。このように、接触度合いの増大に応じてAD値が減少する場合においても、タッチ状態である期間(接触期間)の温度変化に応じた基準値の補正に対応させつつ、手H等をゆっくり離した場合にもグリップ11から手Hが離れたことを検出可能な接触判定装置100を提供することができる。
【0105】
なお、以上では、接触判定装置100をHODの判定に用いる形態について説明したが、接触判定装置100の用途はHODの判定に限られるものではない。静電センサ110が配置された物体を手H等の生体の一部で比較的長い時間にわたって触れるのであれば、同様に接触判定装置100で接触状態を判定することができる。
【0106】
以上、本発明の例示的な実施形態の接触判定装置、及び、接触判定方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0107】
10 ステアリングホイール
11 グリップ
12 信号線
50 ECU
100 接触判定装置
110 静電センサ
120 HODECU
120A AFE
120B MPU
121 主制御部
122 補正部
123 接触判定部
124 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14