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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】樹脂微粒子及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20241112BHJP
   C08F 212/00 20060101ALI20241112BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20241112BHJP
   C08G 75/02 20160101ALI20241112BHJP
【FI】
C08F220/18
C08F212/00
C08F220/20
C08G75/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020207851
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094770
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩平
(72)【発明者】
【氏名】三谷 紘平
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054416(WO,A1)
【文献】特開2009-161600(JP,A)
【文献】特開2006-337395(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182113(WO,A1)
【文献】特開2013-227535(JP,A)
【文献】特開2010-095598(JP,A)
【文献】特開2017-066362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位の1種以上、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位の1種以上、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位の1種以上、及び多官能チオール(D)単位の1種以上、を有する共重合体を含み
共重合体の全単位の合計100質量部に対して、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位は5~80質量部、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位は5~80質量部、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位は5~50質量部、多官能チオール(D)単位は0.05~20質量部であり、
前記単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度が50℃以下であり、
窒素雰囲気下での5%熱分解開始温度が345℃以上、及び/又は、空気雰囲気下、270℃で40分間保持した後の重量減少率が30%以下である、
樹脂微粒子。
【請求項2】
媒体中でシード粒子をモノマーで膨潤させてから重合させるシード重合で作製された樹脂微粒子であり、前記モノマーが、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)の1種以上、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)の1種以上、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の1種以上、及び多官能チオール(D)の1種以上を含んでなる、請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項3】
樹脂微粒子中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量が300質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の樹脂微粒子。
【請求項4】
樹脂微粒子中の、残存界面活性剤量が10000質量ppm以上30000質量ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂微粒子。
【請求項5】
体積平均一次粒子径が100nm以上5000nm以下、及び/又は、体積平均一次粒子径の変動係数が25%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂微粒子。
【請求項6】
前記多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)が、2官能(メタ)アクリレートモノマーである、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂微粒子。
【請求項7】
前記多官能チオール(D)単位の量が、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位の合計100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂微粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂微粒子が、複数個凝集することで構成される造粒体。
【請求項9】
樹脂フィルム用貼り付き防止剤として用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂微粒子。
【請求項10】
前記樹脂フィルムが環状オレフィン樹脂フィルムである、請求項に記載の樹脂微粒子。
【請求項11】
樹脂フィルム用貼り付き防止剤として用いられる、請求項8に記載の造粒体。
【請求項12】
前記樹脂フィルムが環状オレフィン樹脂フィルムである、請求項11に記載の造粒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂微粒子に関する。
具体的には、アンチブロッキング剤等として有用であり、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷に対する耐性が十分であり、樹脂微粒子中の未反応モノマーの残存量が十分に低減されており、さらに、非常に高い光学特性(無色透明性)を要求される光学部材等に用いた場合であっても、光学特性に影響を与えない色調の樹脂微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムは、古くから包装資材等の用途で広く用いられている。近年、その用途はさらに拡大しており、中でも光学部材用途や電子デバイス用途などにおいては、樹脂フィルムに要求される特性が高度化されている。その高度な品質を保ちつつ生産性を高めていくことが、目下の課題となっている。
【0003】
樹脂フィルムは多くの場合ロール状で保管されるが、重なり部分に樹脂フィルム同士の貼り付き(ブロッキング)が生じ、滑り性や剥離性が悪くなることがある。中でもCOP(環状ポリオレフィン)フィルムは光学特性や耐吸湿特性に優れるものの、PMMA(ポリメチルメタクリレート)フィルムやTAC(トリアセチルセルロース)フィルムと比べて上記の課題が発生しやすい。この課題に対して、貼り付き防止剤(アンチブロッキング剤)として、無機微粒子や有機微粒子等の種々のフィラーを用いることが知られている。
代表的なフィラーとして、無機微粒子では例えばシリカ等が、有機微粒子では例えば(メタ)アクリル系樹脂微粒子等が挙げられる。
【0004】
無機微粒子は、硬度が高いことがメリットであり、少量の添加で貼り付き防止性を付与できる。しかしながら、その材質上、樹脂フィルムとの間に屈折率差が生じてしまい、透明性を損なう要因となるデメリットが存在する。
一方、有機微粒子は、樹脂フィルムの透明性を維持して、かつ貼り付き防止性を付与できる点から、高度な品質を要求される樹脂フィルムなどにおいても使用できる点がメリットである。
【0005】
特許文献1には、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル(メタ)アクリレート系モノマー単位と架橋性モノマー単位とアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキル(メタ)アクリレート系モノマー単位とを有する共重合体を含む基部と、基部の表面に設けられており、アルキル基の炭素数が4以上のアルキル(メタ)アクリレート系モノマー単位と、架橋性モノマー単位とを有する共重合体を含む外層とを有する事を特徴とする有機微粒子が開示されている。
特許文献2には、アルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキル(メタ)アクリレート系モノマー単位と、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート系モノマー単位と、架橋性(メタ)アクリル系モノマー単位を有する共重合体、及び酸化防止剤を含む樹脂微粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-057280号公報
【文献】特開2017-66362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機微粒子、特に樹脂微粒子は、無機微粒子と比較して硬度が劣るため、貼り付き防止性能を高める際に添加量を増やす必要がある。添加量が増えるとフィルムのヘイズなどに与える影響が大きくなることが課題として挙げられる。また、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷等や樹脂微粒子中の未反応モノマーにより、樹脂メヤニが発生し、歩留まりが悪化するおそれが課題として挙げられる。そのため、熱負荷に耐性があり、未反応モノマーの残存量が極力少ない樹脂微粒子が求められている。
本発明者によると、上記特許文献に記載されている有機微粒子は、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷に対する耐熱性が十分ではなく、未反応モノマーの残存量を十分に低減できていないと考えられる。
【0008】
本発明の課題は、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷に耐え得る耐熱性を有し、樹脂微粒子中の未反応モノマーの残存量が十分に低減されている樹脂微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、特定のモノマーと酸化防止剤である多官能チオールを共重合することで上記のような熱負荷に耐え得る耐熱性を付与し、樹脂微粒子中の未反応モノマーの残存量が十分に低減されている樹脂微粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下の発明を包含するが、これらのみに限定されない。
[1]分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位の1種以上、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位の1種以上、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位の1種以上、及び多官能チオール(D)単位の1種以上、を有する共重合体を含み、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度が50℃以下である、樹脂微粒子。
[2]媒体中でシード粒子をモノマーで膨潤させてから重合させるシード重合で作製された樹脂微粒子であり、前記モノマーが、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)の1種以上、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)の1種以上、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の1種以上、及び多官能チオール(D)の1種以上を含んでなる、[1]の樹脂微粒子。
[3]窒素雰囲気下での5%熱分解開始温度が345℃以上、及び/又は、空気雰囲気下、270℃で40分間保持した後の重量減少率が30%以下である、[1]又は[2]の樹脂微粒子。
[4]樹脂微粒子中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量が300質量ppm以下である、[1]~[3]いずれか1項の樹脂微粒子。
[5]樹脂微粒子中の、硫黄元素の含有量が0.20質量部以上である、[1]~[4]いずれか1項の樹脂微粒子。
[6]樹脂微粒子中の、残存界面活性剤量が10000質量ppm以上30000質量ppm以下である、[1]~[5]いずれか1項の樹脂微粒子。
[7]体積平均一次粒子径が100nm以上5000nm以下、及び/又は、体積平均一次粒子径の変動係数が25%以下である、[1]~[6]いずれか1項の樹脂微粒子。
[8]前記多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)が、2官能(メタ)アクリレートモノマーである、[1]~[7]いずれか1項の樹脂微粒子。
[9]前記多官能チオール(D)単位の量が、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位の合計100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である、[1]~[8]いずれか1項の樹脂微粒子。
[10][1]~[9]いずれか1項の樹脂微粒子が、複数個凝集することで構成される造粒体。
[11]樹脂フィルム用貼り付き防止剤として用いられる、[1]~[9]いずれか1項の樹脂微粒子又はその造粒体。
[12]前記樹脂フィルムが環状オレフィン樹脂フィルムである、[11]の樹脂微粒子又はその造粒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷に耐え得る耐熱性を有し、樹脂微粒子中の未反応モノマーの残存量が十分に低減されている樹脂微粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[樹脂微粒子]
本発明に係る樹脂微粒子は、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位の1種以上、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位の1種以上、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位の1種以上、及び多官能チオール(D)単位の1種以上、を有する共重合体を含み、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度が50℃以下の樹脂微粒子である。
【0012】
<分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)>
分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)としては、芳香環や脂環等の環状構造を分子構造内に有する単官能ビニル系モノマーがあげられる。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、p-tert-ブチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、ビニルナフタレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩(スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム等)、ビニル安息香酸、ヒドロキシスチレン等のスチレン系モノマー;ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン等のビニルシクロオレフィン系モノマー;ことができる。環状オレフィンとしては、シクロヘキセン、2-ノルボルネン等のシクロオレフィン系モノマー;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等の環状構造をエステル部に有する(メタ)アクリル酸エステル等があげられる。なお、本発明においては、(メタ)アクリル酸ベンジルや(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の分子構造内に環状構造を有する単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマーは、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)として取り扱うものとする。これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
これら分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
<単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)>
単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)は、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下であれば、特に限定されない。
ここで、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)のみからなる重合体は、樹脂微粒子を構成するモノマーから、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマーのみを抽出し、各モノマー間の質量割合を維持したままで重合した場合に得られる(共)重合体をいう。この(共)重合体は、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)を1種のみ用いる場合には、単独重合体となり、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)を2種以上用いる場合には、共重合体となる。
【0014】
本発明では、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)として、単独重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下である単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマーの1種以上を用いてもよい。また、単独重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下である単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマーの1種以上と、単独重合体のガラス転移温度Tgが50℃を超える単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマーの1種以上とを併用し、これらの共重合体のガラス転移温度が50℃以下となるモノマーの組み合わせとしてもよい。これらのうち、単独重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下である単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマーの1種以上を単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)とすることが好ましい。
【0015】
本発明者は、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)として、それのみからなる重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下であるものを用いると、ポリマー鎖の駆動性の面から、ポリマー成長鎖と未反応モノマーが接触する頻度が高くなり、残存モノマー量を低減できるのではないかと推測している。しかしながら、この推測に拘束されるものではない。
【0016】
本発明において、上記ガラス転移温度Tgは、下記式(1)により求められる絶対温度でのガラス転移温度Tgaを摂氏温度に換算して求められる値を意味する。
【0017】
1/Tga=Σ(Wi/Tgi)・・・(1)
(式(1)中、Tgaは単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度(単位は絶対温度)である。Wiは各単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマーiの、単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)のみからなる重合体中の質量割合である。Tgiは各単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマーiのみから形成される単独重合体のガラス転移温度(単位は絶対温度)である。
【0018】
上記式(1)は、FOX式と呼ばれる式であり、重合体を構成する個々のモノマーについて、そのモノマーの単独重合体のガラス移転温度Tgiに基づいて、重合体のガラス転移温度Tgaを算出するための式であり、その詳細は、Bulletin of the American Physical Society, Series 2、第1巻、第3号、第123頁(1956年)に記載されている。また、FOX式で計算するための様々なモノマーの単独重合体のガラス転移温度(Tgi)は、例えば、塗装と塗料(塗料出版社、10(No.358)、1982)に記載されている数値等を採用することができる。また、ガラス転移温度が既知でないモノマーによるホモポリマーのガラス転移温度は、重量平均分子量が2万~5万程度のホモポリマーについての実測値とする。この実測値は、測定カップにとった試料を真空吸引して溶剤等の揮発成分を除去した後、示差走査型熱分析「DSC-50Q型」(商品名、島津製作所社製)を用いて、3℃/分の昇温速度で-50℃~+150℃の範囲の熱量変化を測定し、低温側の最初のベースラインの変化点を用いる。
【0019】
上記FOX式で求められるガラス転移温度から摂氏温度に換算して求められる、上記単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度Tgは、50℃以下であり、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは20℃以下である。Tgの下限は、例えば-50℃以上であり、-30℃以上が好ましい。
【0020】
単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル(メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル等の(メタ)アクリル酸エイコシル等のエステルに結合しているアルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等があげられる。
これらの中でも、エステルに結合しているアルキル基の炭素数が1~10である、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシルが汎用的で好ましい。特に耐熱性が求められる用途においては、汎用性やコスト、ハンドリングの面などからメタクリル酸メチル、アクリル酸n-ブチルを含むことが好ましい。これら単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)は、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)のみからなる重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下であれば、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
これらの単官能アルキル(メタ)アクリル系モノマー(B)のうち、単独重合体のガラス転移温度Tgが50℃以下であるものとしては、例えば、アクリル酸2-エチルヘキシル(-70℃)、アクリル酸n-オクチル(-65℃)、メタクリル酸n-ラウリル(-65℃)、アクリル酸イソデシル(-60℃)、アクリル酸イソオクチル(-58℃)、アクリル酸イソノニル(-58℃)、アクリル酸n-ブチル(-55℃)、アクリル酸トリデシル(-55℃)、メタクリル酸イソデシル(-41℃)、メタクリル酸トリデシル(-40℃)、アクリル酸イソブチル(-26℃)、アクリル酸n-ラウリル(-23℃)、アクリル酸エチル(-20℃)、アクリル酸イソステアリル(-18℃)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(-10℃)、アクリル酸メチル(10℃)、メタクリル酸n-ブチル(20℃)、アクリル酸n-ステアリル(30℃)、メタクリル酸プロピル(35℃)、メタクリル酸n-ステアリル(38℃)、メタクリル酸イソブチル(48℃)(カッコ内の温度は、単独重合体のガラス転移温度Tgを表す。)等があげられる。
【0022】
<多官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(C)>
多官能(メタ)アクリル系モノマー(C)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコンタヘクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレンジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート(メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等があげられる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレングリコールジメタクリレート)、アリル(メタ)アクリレート(メタクリル酸アリル)等の2官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
これら多官能(メタ)アクリル系モノマー(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
<多官能チオール(D)>
多官能チオール(D)としては、分子内にチオール基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されない。例えば、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,6-へキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、デカンジチオール、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネレート、エチレングリコールビスチオグリコレート(EGTG)、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート(BDTG)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート(TMTG)、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサチオプロピオネート、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン等の多官能チオール基含有モノマー等があげられる。これらの中でも、エチレングリコールビスチオグリコレート(EGTG)、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート(BDTG)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート(TMTG)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
これら多官能チオール(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
<その他のモノマー(E)>
本発明の樹脂微粒子は、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位、及び多官能チオール(D)単位以外の、その他のモノマー(E)単位を含んでいてもよい。
その他のモノマー(E)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸系モノマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー、(メタ)アクリロニトリル系モノマー、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系モノマー、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル系モノマー、エチレン等のオレフィン系モノマー、不飽和イミド系モノマー、ビニルアルコール、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のジビニル系モノマー等からなる群より選ばれる1種以上があげられる。
これらその他のモノマー(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
<各単位の量比>
本発明の樹脂微粒子において、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位、多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位、多官能チオール(D)単位、及びその他のモノマー(E)単位、各単位の量比は特に限定されないが、例えば以下の量比が好ましい。
【0026】
分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)単位は、(A)~(E)単位の合計100質量部に対して、例えば5~80質量部、好ましくは10~70質量部、より好ましくは15~60質量部とすることができる。
(A)単位が5質量部未満であると、フィルム形成バインダー樹脂との屈折率差が大きくなるおそれがあり、それらにより樹脂微粒子を含むフィルムを形成した際に透明性が低下するおそれがある。
(A)単位が80質量部を超えると、樹脂微粒子中の残存モノマー量を十分に低減できないおそれがある。
【0027】
単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)単位は、(A)~(E)単位の合計100質量部に対して、例えば5~80質量部、好ましくは10~70質量部、より好ましくは15~60質量部とすることができる。
(B)単位が5質量部未満であると、樹脂微粒子中の残存モノマー量を十分に低減できないおそれがある。
(B)単位が80質量部を超えると、樹脂微粒子が過度な軟質性を有し、所望の効果が得られないおそれがある。
【0028】
多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位は、(A)~(E)単位の合計100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは7~40質量部、より好ましくは10~30質量部、さらに好ましくは15~24質量部とすることができる。(C)単位がこの範囲内にあると、粒子の耐溶剤性が向上し、フィルムに配合した際に粒子が変形するのを防ぐことができる。
多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位が5質量部未満であると、樹脂微粒子の架橋度が低くなるため、樹脂微粒子をバインダー樹脂に混合した樹脂組成物を塗工液として使用する場合に、樹脂微粒子が膨潤して塗工液の粘度上昇が起こり塗工の作業性が低下するおそれがあり、樹脂微粒子の架橋度が低くなる結果、樹脂微粒子をバインダーに混合して成形する用途(いわゆる練り込み用途)等において樹脂微粒子に熱をかけた際に、樹脂微粒子の溶解や変形が発生しやすくなる。
多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)単位が50質量部以上であると、使用量に見合った効果の向上が認められず、生産コストが上昇する場合がある。
【0029】
多官能チオール(D)単位は、(A)~(E)単位の合計100質量部に対して、例えば0.05~20質量部、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは0.1~10質量部とすることができる。(D)単位が0.05質量部未満であると、樹脂コンパウンド時の熱負荷に対する樹脂微粒子の耐熱性が低下するおそれがあり、20質量部を超えると樹脂微粒子に硫黄臭がでて商品価値が下がる等のおそれがある。
【0030】
その他のモノマー単位(E)は、(A)~(E)単位の合計100質量部に対して、例えば0~70質量部、好ましくは0~50質量部、より好ましくは0~25質量部とすることができる。(E)単位が70質量部を超えると、耐熱性の低下や樹脂微粒子中の未反応モノマーの残存量が多くなるおそれがある。
【0031】
<熱分解開始温度及び重量減少率>
本発明の樹脂微粒子の窒素雰囲気下での熱分解開始温度は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは330℃以上とすることができる。熱分解開始温度が300℃未満では、樹脂コンパウンド時の熱負荷に耐えられず、樹脂メヤニが発生し、歩留まりが悪化する原因となり得る。
なお、本発明では示差熱熱重量同時測定装置を使用して、後述する実施例に記載の方法・条件により樹脂微粒子を熱分解させ、得られたTG/DTA曲線から装置付属の解析ソフトを用いて、熱分解開始温度を求める。
【0032】
本発明の樹脂微粒子は、耐熱性を確保するために、空気雰囲気下270℃で40分間保持した後の重合体の有機成分の分解による重量減少率が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。重量減少率が30%を超えると、樹脂微粒子の耐熱性が低下し、樹脂コンパウンド時の熱負荷に耐えられず、樹脂メヤニが発生し、歩留まりが悪化する原因となり得る。
なお、本発明では示差熱熱重量同時測定装置を使用して、後述する実施例に記載の条件下で樹脂微粒子を270℃で40分間保持し、加熱減量を測定して重量減少率を求める。
【0033】
<残存モノマー量>
本発明の樹脂微粒子は、残存モノマー量が低減されており、樹脂微粒子中の単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量は、例えば300質量ppm以下、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下とすることができる。樹脂微粒子中の単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量が300質量ppmを超えると、樹脂微粒子含む樹脂組成物をコンパウンドする際に樹脂メヤニが発生するおそれがある。
【0034】
本発明において、樹脂微粒子中の単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量は、例えば以下の方法により求めることができる。
樹脂微粒子0.01gにメタノール5mLを加え、充分に混合させた後、24時間静置させることにより分散液を得る。次いで、遠心分離機で30分間、撹拌回転数18500rpmで分散液を処理することにより不溶物を沈殿させる。超高速液体クロマトグラムLa Chrom Ultra(日立ハイテクノロジーズ社製)で、得られる上澄液2μLを解析することにより、樹脂微粒子に対する残存モノマー量を測定する。
測定条件は、カラムとしてLa Chrom Ultra C18 2μmを用い、カラム温度を40℃とする。溶媒は0.05%トリフルオロ酢酸水溶液とアセトニトリルの混合物(50/50 w/w)を使用し、フロー速度を0.6mL/minとする。
【0035】
<樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の残存モノマー量>
本発明の樹脂微粒子は、残存モノマー量が低減されており、樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量を、例えば5000質量ppm以下、好ましくは4000質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以下とすることができる。
樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量が5000質量ppmを超えると、樹脂微粒子含む樹脂組成物をコンパウンドする際に樹脂メヤニが発生するおそれがある。
【0036】
本発明において、樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量は、加熱脱離-ガスクロマトグラフ質量分析計(Thermal Desorption-Gas Chromatograph/Mass Spectrometer(TD-GC/MS))を用いて得ることができる。
TD-GC/MSによる、樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の、分子構造内に環状構造を有する単官能ビニル系モノマー(A)、単官能アルキル(メタ)アクリレート系モノマー(B)、及び多官能(メタ)アクリレート系モノマー(C)の合計残存モノマー量の測定は、例えば後述の実施例・比較例において記載した方法を用いることができる。
【0037】
<硫黄元素の含有量>
本発明の樹脂微粒子は、多官能チオール及びシード粒子等に由来する硫黄元素が含まれている。本発明における硫黄元素の含有量は、蛍光X線分析によるものである。
硫黄元素の含有量は、特に限定されず、目的や用途に応じて適宜設定される。例えば0.20質量部以上とすることができ、好ましくは0.25質量部以上とすることができる。また、例えば0.75質量部以下とすることができる。
樹脂微粒子中の硫黄元素の含有量が0.20質量部未満であると、共重合体中の多官能チオールの存在比率が低いことから、目的とする耐熱性が得られないおそれがあり、0.75質量部より多いと、樹脂微粒子の臭気が強まるおそれがある。
蛍光X線分析による硫黄元素の含有量の測定は、例えば後述の実施例・比較例において記載した方法を用いることができる。
【0038】
<残存界面活性剤量>
本発明の樹脂微粒子に含まれる残存界面活性剤量は、特に限定されず、目的や用途に応じて適宜設定される。例えば樹脂微粒子に対して10000質量ppm以上、好ましくは15000質量ppm以上、より好ましくは20000質量ppm以上とすることができる。残存界面活性剤量を10000質量ppm以上とすると、残存界面活性剤が樹脂コンパウンド時の樹脂微粒子の分散性に寄与すると考えられ、樹脂組成物中の樹脂微粒子の分散性が良好となる。なお、残存界面活性剤量を100質量ppm未満とすることは、樹脂微粒子の製造工程が煩雑となりコスト等の点で不利となるおそれがある。残存界面活性剤量が100000質量ppmを超えると、樹脂微粒子を媒体に分散させた場合に泡立ちが発生してしまうおそれがある。
【0039】
本発明の残存界面活性剤量は、例えば以下のようにして求めることができる。
樹脂微粒子を溶媒により抽出し、液体クロマトグラフリニアイオントラップ型質量分析計(LC/MS/MS装置)を用いて測定した。
LC/MS/MS装置としては、Thermo Fisher Scientific 社製の「UHPLC ACCELA」及びThermo Fisher Scientific 社製の「Linear Ion Trap LC/MSnLXQ」を用いることができる。
【0040】
界面活性剤の含有量は、以下に示す方法により測定される。
樹脂微粒子約0.01gを遠沈管に精秤後、抽出液を注加して、樹脂微粒子と抽出液とをよく混合し、超音波抽出を行った後、再度混合し、遠心分離を行い、得られた上澄み液を濾過したものを試験液とした。
この試験液中の界面活性剤の濃度をLC/MS/MS装置を用い、得られたクロマトグラム上のピーク面積値から予め作成した検量線より含有量を算出した。そして、測定された試験液中の界面活性剤濃度と、試料として用いた樹脂微粒子の重量(試料重量)と、抽出液量とから、下記算出式により、樹脂微粒子中の界面活性剤の含有量を求めた。
【0041】
界面活性剤の含有量=試験液中の界面活性剤濃度×抽出液量÷試料重量
なお、検量線作成方法は、以下の通りである。
界面活性剤の約1000質量ppm中間標準液(メタノール溶液)を調製後、さらにメタノールで段階的に希釈して20質量ppm、10質量ppm、5質量ppm、2.5質量ppmの検量線作成用標準液を調製する。各濃度の検量線作成用標準液を下記条件にて測定し、モニターイオンm/z=730~830のクロマトグラム上のピーク面積値を得た。各濃度と面積値をプロットして最小二乗法により近似曲線(二次曲線)を求め、これを定量用の検量線とした。
【0042】
<体積一次平均粒子径/体積平均一次粒子径の変動係数>
本発明の樹脂微粒子の体積平均一次粒子径は、特に限定されず、目的や用途に応じて適宜設定される。例えば100nm以上5000nm以下、好ましくは100nm以上3000nm以下、より好ましくは100nm以上1000nm以下とすることができる。
本発明の樹脂微粒子の体積平均一次粒子径の変動係数は、特に限定されず、目的や用途に応じて適宜設定される。例えば25%以下であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下とすることができる。
【0043】
体積平均一次粒子径及び変動係数は、レーザー散乱・回折式粒度分布測定装置LS230(ベックマンコールター社製)により測定することができる。サンプルの分散媒として水を用い、サンプルの屈折率は重合体の屈折率を用いた。ここでいう体積平均粒子径は、算術平均により求められた数値である。また、変動係数は、次式(2)から求められる数値であり、データの分布幅を表すものである。
変動係数(%)=標準偏差×100/体積平均一次粒子径 (2)
【0044】
[樹脂微粒子の製造方法]
本発明の樹脂微粒子の製造方法(重合方法)は、公知の重合方法であれば特に限定されない。例えば、シード重合、乳化重合、懸濁重合、分散重合等の方法があげられる。
本発明の樹脂微粒子の製造方法(重合方法)においては、必要に応じて重合開始剤、界面活性剤(乳化剤)、分散剤等を用いることができる。
【0045】
<重合方法>
シード重合は、モノマーを重合して得られた重合体微粒子をシード粒子として用い、媒体中で上記シード粒子にモノマーを吸収させ、シード粒子をモノマーで膨潤させてから、シード粒子内でモノマーを重合させる方法である。シード重合は、シード粒子を成長させることにより、元のシード粒子よりも大きな粒子径の樹脂微粒子を得ることができる。
乳化重合は、水性媒体と、この媒体に溶解し難いモノマーと、界面活性剤(乳化剤)とを混合し、そこに水性媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて重合を行う重合方法である。乳化重合は、得られる樹脂微粒子の粒子径のばらつきが少ないという特徴がある。
懸濁重合は、モノマーと水性媒体とを機械的に撹拌して、モノマーを水性媒体中に懸濁させて重合させる重合方法である。懸濁重合により生成する粒子は上記の乳化重合と比較すると粒子径が大きく、粒子径分布がブロードになるという特徴がある。また、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー(登録商標)等の微細乳化機を用いることで、比較的シャープな粒子径分布を有する粒子を得ることも可能である。
分散重合は、分散安定剤を含んでいてもよい重合溶媒中にモノマーを分散させ、重合開始剤を加え、モノマーを重合させる方法である。重合時に粒子同士の合着を防ぐため、超音波の照射による撹拌下及び/又はマグネチックスターラー等の機械的撹拌装置による撹拌下で行うことが好ましい。分散重合は、粒子径を制御し易く、樹脂微粒子を容易に得られるという特徴がある。
本発明においては、シード重合により樹脂微粒子を得る方法が好ましく用いられる。
【0046】
<重合開始剤>
本発明の樹脂微粒子を作製する際に用いられる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、特に限定されない。
重合開始剤として非ニトリル―アゾ系開始剤を用いると、樹脂微粒子が黄色に着色するおそれがあり、光学部材など非常に高い光学特性を要求される用途に用いる場合には、樹脂微粒子の色調が要求を満たさない場合があると考えられる。
【0047】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、特に、熱重合開始剤が好ましい。例えば、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等)、過酸化水素、有機過酸化物、ニトリル-アゾ系化合物等の重合開始剤があげられる。
例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジメチルビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(tert-ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸tert-ブチル、ジベンゾイルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド及びtert-ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-イソプロピルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3-ジメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルカプロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,3,3-トリメチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-エトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-n-ブトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等のニトリル-アゾ系化合物等があげられる。
【0048】
また、前記の過硫酸塩及び有機過酸化物の重合開始剤と、ナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、過酸化水素、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸及びその塩、第一銅塩、第一鉄塩等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を重合開始剤として使用してもよい。
【0049】
これらの中でも、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、クメンハイドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上があげられる。
これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
本発明において、重合開始剤の使用量は、その種類により相違するが、上記重合において使用する全てのモノマーの合計量100質量部に対して、0.1~5.0質量部、より好ましくは0.2~3.0質量部、さらに好ましくは0.3~1.0質量部の範囲とすることができる。
【0051】
<界面活性剤>
本発明の樹脂微粒子をシード重合にて作製する際に使用するシード粒子の作製において用いることができる界面活性剤としては、特に制限されないが、反応性界面活性剤を1種以上用いるのが好ましい。
アニオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、スピノマー(登録商標)Nass(東ソー・ファインケム社製)などのスチレンスルホン酸系の金属塩などや三洋化成工業社製のエレミノール(登録商標)のJS-20やRS-3000、第一工業製薬社製のアクアロン(登録商標)のKH-10、KH-1025、KH-05、HS-10、HS-1025、BC-0515、BC-10、BC-1025、BC-20、BC-2020、AR-1025、AR-2025、花王社製のラテムル(登録商標)のS-120、S-180A、S-180、PD-104、ADEKA社製のアデカリアソープ(登録商標)のSR-1025、SE-10N等があげられる。
これらアニオン性の反応性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
ノニオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、ADEKA社製アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40、花王社製ラテムルPD-420、PD-430、PD-450など);アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬社製アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50、AN-10、AN-20、AN-30、AN-5065、ADEKA社製アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、NE-40等);(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤社製RMA-564、RMA-568、RMA-1114等)等があげられる。
これらノニオン性の反応性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
本発明の樹脂微粒子を作製するにあたっては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤及びノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上が用いられる。
【0054】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム;ヒマシ油カリ石鹸等の脂肪酸石鹸;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンスルホン化フェニルエーテルリン酸;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等があげられる。
【0055】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエーテルポリオール、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー等があげられる。
【0056】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等があげられる。
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤等があげられる。
【0057】
これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。界面活性剤は、得られる樹脂微粒子の粒子径や重合時におけるモノマーの分散安定性等を考慮して、種類が適宜選択され、使用量が適宜調整される。
【0058】
界面活性剤の使用量は、全モノマー100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部、より好ましくは0.05~15質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部の範囲とすることができる。
【0059】
<分散剤>
本発明の樹脂微粒子の製造方法において用いることができる分散剤は、特に限定されない。分散剤は、重合時に水性媒体を用いる場合に、モノマーの液滴やシード粒子の分散性を安定させるために用いることができる。
分散剤としては、例えば、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の有機系分散剤;ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム等の無機系分散剤があげられる。無機系分散剤を用いる場合には、界面活性剤を併用することが好ましい。
【0060】
これらの分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。分散剤は、得られる樹脂微粒子の粒子径や重合時におけるモノマーの分散安定性等を考慮して、種類が適宜選択され、使用量が適宜調整される。
【0061】
<重合媒体>
本発明の樹脂微粒子の製造方法において用いることができる重合媒体は、特に限定されない。水性媒体であっても、有機媒体(有機溶媒)であってもよい。本発明では、水性媒体を用いることが好ましい。
水性媒体としては、例えば、水単独、あるいは、水と低級アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等)等の水溶性有機溶媒との混合物を使用することができる。廃液処理の点から水単独が好ましい。
水性媒体の使用量は、重合に際して使用する全モノマーの合計量100質量部に対して、200~2000質量部の範囲内、好ましくは300~1500質量部の範囲内とすることができる。水性媒体の使用量を上記範囲の下限以上とすることで、重合中のモノマー粒子等の安定性を保ち、重合後に樹脂微粒子の凝集物の発生を抑制することができる。水性媒体の使用量を上限以下とすることで、生産性が良好となりやすい。
【0062】
(シード重合)
シード重合に用いるシード粒子を得るためのモノマーの重合方法は、特に限定されないが、分散重合、乳化重合、ソープフリー乳化重合(乳化剤としての界面活性剤を用いない乳化重合)、シード重合、懸濁重合等を用いることができる。
シード重合によって略均一な粒子径の樹脂微粒子を得るためには、最初に略均一の粒子径のシード粒子を使用し、これらのシード粒子を略一様に成長させることが必要になる。原料となる略均一な粒子径のシード粒子は、モノマーのソープフリー乳化重合(界面活性剤を使用しない乳化重合)、界面活性剤を用いた重合及び分散重合等の重合方法で重合することによって作ることができる。
界面活性剤としては、特に限定されないが、反応性界面活性剤を用いることが好ましい。したがって、モノマーを重合してシード粒子を得るための重合方法としては、乳化重合、ソープフリー乳化重合、シード重合及び分散重合が好ましい。
【0063】
シード粒子を得るための重合においても、必要に応じて重合開始剤が使用される。重合開始剤としては、特に限定されないが、好ましくは、水溶性ラジカル重合開始剤が用いられる。重合開始剤の使用量は、シード粒子を得るために使用するモノマー100質量部に対して0.1~2質量部の範囲内であることが好ましい。0.1質量部未満で反応速度が遅いため効率が悪く、2.0質量部より多いと開始剤残渣が過多となるおそれがある。
【0064】
シード粒子を得るための重合の際、得られるシード粒子の重量平均分子量を調整するために、分子量調整剤を使用してもよい。分子量調整剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;α-メチルスチレンダイマー;γ-テルピネン、ジペンテン等のテルペン類;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類等を使用できる。上記分子量調整剤の使用量の加減により、得られるシード粒子の重量平均分子量を調整することができる。
シード粒子の体積平均粒子径は、樹脂微粒子の平均粒子径に応じて適宜調整できる。好ましくは1~2000nmの範囲とすることができる。
【0065】
シード重合では、まず、モノマーと水性媒体とを含む乳化液にシード粒子を添加する。上記乳化液は、公知の方法により作製できる。例えば、モノマーを水性媒体に添加し、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー(登録商標)等の微細乳化機により分散させることで、乳化液を得ることができる。
【0066】
シード重合では、シード粒子に吸収させたモノマー100質量部に対して0.3~15質量部の界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては、前記の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の使用量が上記範囲より少ない場合には、重合安定性が低くなる恐れがある。また、界面活性剤の使用量が上記範囲より多い場合には、樹脂微粒子中の残存界面活性剤量が過剰となり、樹脂微粒子を媒体に分散させた場合に泡立ちが発生してしまうおそれがある。
【0067】
シード粒子は、そのままで乳化液に添加されてもよく、水性媒体に分散された形態で乳化液に添加されてもよい。シード粒子が乳化液へ添加された後、モノマーがシード粒子に吸収される。この吸収は、通常、乳化液を、室温(約25℃)で1~12時間撹拌することにより行うことができる。また、シード粒子へのモノマーの吸収を促進するために、乳化液を30~50℃程度に加温してもよい。
【0068】
シード粒子は、モノマーを吸収することにより膨潤する。モノマーとシード粒子との混合比率は、シード粒子1質量部に対して、モノマーが1~100質量部の範囲内であることが好ましく、5~50質量部の範囲内であることがより好ましい。モノマーの混合比率が上記範囲より小さくなると、重合による粒子径の増加が小さくなるので、製造効率が低下する。一方、モノマーの混合比率が上記範囲より大きくなると、モノマーが完全にシード粒子に吸収されず、水性媒体中で独自に乳化重合して、目的外の異常な粒子径の樹脂微粒子が生成されることがある。なお、シード粒子へのモノマーの吸収の終了は、光学顕微鏡の観察で粒子径の拡大を確認することにより判定できる。
【0069】
次に、シード粒子に吸収されたモノマーを重合させることにより、樹脂微粒子分散液が得られる。なお、モノマーをシード粒子に吸収させて重合させる工程を複数回繰り返すことにより樹脂微粒子分散液を得てもよい。
シード粒子に吸収されたモノマーを重合させる際には、必要に応じて重合開始剤を添加していてもよい。重合開始剤をモノマーに混合した後、得られた混合物を水性媒体中に分散させてもよいし、重合開始剤とモノマーとの両者を別々に水性媒体に分散させたものを混合してもよい。得られた乳化液中に存するモノマーの液滴の粒子径は、シード粒子の粒子径よりも小さい方が、モノマーがシード粒子に効率よく吸収されるので好ましい。
【0070】
上記重合開始剤としては、前記の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤は、モノマー100質量部に対して、0~3質量部の範囲内で使用されることが好ましい。
【0071】
シード重合の重合温度は、モノマーの種類や、必要に応じて用いられる重合開始剤の種類に応じて適宜選択できる。例えば25~110℃であり、好ましくは50~100℃とすることができる。
シード重合の重合時間は、モノマーの種類や、必要に応じて用いられる重合開始剤の種類に応じて適宜選択できる。例えば1~12時間とすることができる。
シード重合は、重合に対して不活性なガス(例えば窒素)の雰囲気下で行ってもよい。
シード重合に際しては、モノマー及び必要に応じて用いられる重合開始剤がシード粒子に完全に吸収された後に、昇温して行われるのが好ましい。
【0072】
シード重合においては、樹脂微粒子の分散安定性を向上させるために、前記の分散剤を分散安定剤として重合反応系に添加してもよい。これら分散安定剤のうち、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンが好ましい。分散安定剤の添加量は、モノマー100質量部に対して1~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0073】
重合反応における水性媒体中での乳化重合生成物(粒子径の小さすぎる樹脂微粒子)の発生を抑えるために、亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を水性媒体に添加してもよい。重合禁止剤の添加量は、モノマー100質量部に対して、例えば0.002~0.2質量部の範囲内とすることができる。
【0074】
本発明の樹脂微粒子の製造方法の好ましい実施態様としては、窒素置換された重合器内にて、モノマー、水性媒体、界面活性剤を含むエマルジョンを水溶性重合開始剤によって重合してシード粒子を得る第一の重合工程、モノマー、水性媒体、界面活性剤を含むエマルジョンを前記シード粒子に吸収したのち重合する第二の重合工程、を有する樹脂微粒子の製造方法があげられる。
【0075】
<樹脂微粒子の洗浄・乾燥・解砕・分級>
樹脂微粒子は、重合完了後、必要に応じて洗浄、乾燥、解砕、分級等を行うことができる。例えば、重合完了後、吸引濾過、遠心分離、加圧分離等の方法により水性媒体を含むケーキ(含水ケーキ)とし、必要により水及び/又は溶剤による洗浄工程を経た後に、乾燥工程で乾燥し、必要により解砕工程、分級工程を経て乾燥粉体として単離することができる。
【0076】
洗浄工程における洗浄法は、特に限定されない。例えば、重合後に得られた水分散体を、遠心洗浄、クロスフローろ過洗浄等により行うことができる。また、ケーキとした後に、水及び/又は溶剤に浸漬後に脱液することにより行うことができる。なお、反応性乳化剤を用いる場合等には、重合後に得られた水分散体の洗浄を省略することができる。
乾燥工程における乾燥法は、特に限定されない。例えば、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法、凍結乾燥法、ドラムドライヤー等の加熱回転ドラムに付着させる乾燥法等を用いることができる。
分級工程における分級法は、特に限定されない。例えば、樹脂微粒子又は造粒体を、篩等を用いる公知の手段で分級することができる。分級工程は、前記第二の重合工程で得られた樹脂微粒子を分級する第一分級工程、及び前記解砕工程で得られた樹脂微粒子を分級する分級工程の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、重合後に得られた水分散体を、必要に応じてアルコール、トルエン、ケトン等の有機溶媒に分散させ、分散状態で、篩網に通して粗大粒子を除去する分級工程を用いてもよい。
【0077】
[造粒体]
本発明の樹脂微粒子は、樹脂微粒子が複数個凝集することで構成される造粒体とすることができる。
造粒体は、重合工程で得られた樹脂微粒子を、例えば、入口温度が80~220℃及び出口温度が50~100℃となる条件下で、噴霧乾燥して造粒体を得る噴霧乾燥工程により得ることができる。得られた造粒体は、樹脂微粒子自体よりも、取り扱い性に優れるものである。
【0078】
本発明においては、得られた造粒体を解砕して樹脂微粒子を分散させる解砕工程を含んでいてもよい。例えば、乾式では機械式粉砕機であるブレードミル、スーパーローター、及び気流式粉砕機であるナノグラインディングミル(ジェットミル)等を用いる解砕工程が、湿式ではビーズミル、ボールミル、及びハンマーミル等を用いる解砕工程があげられる。解砕して分散された樹脂微粒子は、溶剤への分散性が良い。
また、本発明においては、造粒体を分級する分級工程を含むことが好ましい。分級は、公知の手段で行うことができる。
本発明の造粒体の体積平均粒子径は、例えば5~200μm、好ましくは10~100μmとすることができる。
【0079】
[樹脂微粒子の用途]
本発明の樹脂微粒子又はその造粒体は、非常に高い光学特性(無色透明性)を有し、熱負荷に耐性があり、未反応モノマーの残存量が極力少ないものである。このため、樹脂組成物を形成する際に、添加量を増やした場合であっても、フィルムのヘイズなどに与える影響を抑えることができる。また、樹脂コンパウンド時にかかる熱負荷等や樹脂微粒子中の未反応モノマーに起因する樹脂メヤニの発生が抑制されており、歩留まりが悪化するおそれが少ない。
【0080】
本発明の樹脂微粒子又はその造粒体は、このような特徴を生かして、各種の用途に供することができる。例えば、樹脂成型品(樹脂フィルム)用貼り付き防止剤(アンチブロッキング剤)、各種樹脂成型品の改質剤、光拡散板等の光学部材、塗料用添加剤、各種電子デバイスの微小部位間のスペーサー用途、各種電池部材の造孔剤、電気接続を担う導電性微粒子のコア粒子等として用いることができる。
例えば、樹脂微粒子自体を樹脂フィルム用貼り付き防止剤(アンチブロッキング剤)として樹脂に混合して樹脂組成物とし、フィルム等の樹脂成形体を形成することができる。特に、本発明の樹脂微粒子は、非常に高い光学特性(無色透明性)を有しており、環状オレフィン樹脂フィルム用貼り付き防止剤(アンチブロッキング剤)として有用である。
例えば、樹脂微粒子と樹脂バインダーとを含む樹脂組成物を形成し、これを用いて、防眩フィルムや光拡散フィルム等の光学フィルムや光拡散板等の光学部材、特に、防眩部材を得ることができる。
例えば、樹脂微粒子自体又はそれとバインダー樹脂や添加剤等との混合物として、塗料を得ることができる。
例えば、樹脂微粒子自体又はそれと樹脂との混合物を成形して、樹脂成形体を得ることができる。
【実施例
【0081】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるもので はない。
得られた樹脂微粒子について、体積平均粒子径、CV値(体積基準の粒子径の変動係数)、及び、熱分解開始温度は、以下の方法により求めた。
【0082】
[5%熱分解開始温度]
樹脂微粒子の加熱減量は示差熱熱重量同時測定装置「TG/DTA6200」(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いて測定する。サンプリング方法・温度条件に関しては以下のように行った。サンプルは白金製測定容器の底にすきまのないよう試料を約15mg充てんして、窒素ガス流量230mL/minのもとアルミナを基準物質として測定する。温度条件としては、速度10℃/minで30℃から800℃まで昇温した時のTG/DTA曲線を得る。この得られた曲線から装置付属の解析ソフトを用いて、熱分解開始温度を求める。ここでの熱分解開始温度とは、JIS K7120:1987「プラスチックの熱重量測定方法」(8「TG曲線の読み方」)に記載されている質量減少開始温度のことで、該規格より求めた値である。
【0083】
[重量減少率]
樹脂微粒子を空気中270℃で40分間保持した後の加熱減量を示差熱熱重量同時測定装置「TG/DTA6200」(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いて測定し、重量減少率とした。なお、加熱減量の測定に際しては、室温より200℃までの昇温は40℃/分程度の昇温速度で行い、その後は昇温速度を次第に下げることにより調製し、室温より270℃に達する時間を20分に調節し、270℃に達した時点を時刻0として40分間保持した後の重量減少を測定することにより算出した。
【0084】
[樹脂微粒子中の残存モノマー量の測定方法]
樹脂微粒子0.01gにメタノール5mLを加え、充分に混合させた後、24時間静置させることにより分散液を得る。次いで、遠心分離機で30分間、撹拌回転数18500rpmで分散液を処理することにより不溶物を沈殿させる。超高速液体クロマトグラム「La Chrom Ultra」(日立ハイテクノロジーズ社製)で、得られる上澄液2μLを解析することにより、ビニル系重合体粒子に対する残存モノマー量を測定する。
測定条件は、カラムとして「La Chrom Ultra C18」2μmを用い、カラム温度を40℃とする。溶媒は0.05%トリフルオロ酢酸水溶液とアセトニトリルの混合物(50/50 w/w)を使用し、フロー速度を0.6mL/minとする。
【0085】
[樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の残存モノマー量の測定方法](TD-GC/MSの測定方法)
「マルチショット・パイロライザー 3030D」(Frontier Lab社製)、「GC/MS(7890/5977)」(Agilent社製)を使って、樹脂微粒子を300℃まで加温した際に発生するガス中の残存モノマー量を測定した。
樹脂微粒子を分析専用容器に秤量し、上記加熱条件で発生したガスを液体窒素でトラップし、熱抽出(Desorp)-GC/MS分析を実施した。尚、定量はトルエン(C)を標準物質とし、各ピークの面積値と標準物質の面積比較によってトルエン換算にて定量算出した。
【0086】
<熱抽出条件>
初期温度=80℃(0min保持)
第1段階昇温速度=20℃/min(300℃まで)
最終温度=300℃(15min保持)
<GC/MS測定条件>
キャリア―ガス=He
He流量=1mL/min
注入口温度=280℃
インターフェイス温度=290℃
イオン化エネルギー=70eV
検出方法=Scan法(m/z=33~600)
【0087】
[硫黄元素の含有量の測定方法]
蛍光X線測定装置「ZSX PrimusIV」(リガク社製)を使って、下記条件にてS-Kαの強度測定を行い、オーダー分析法によりC10をバランスとして、硫黄元素の含有量を測定した。
試料作製方法は、カーボン製試料台(日新EM社製)上に試料10mgを量り取り、当該試料を10mmφ以上広がらないように調整した。その後、PPフィルム「CatNo.3399G003」(Rigaku社製)を被せて装置付属の10mmφ用試料ケースにセットし、測定試料とした。
【0088】
<装置条件>
装置=蛍光X線測定装置 「ZSX PrimusIV」(リガク社製)
X線管=縦型Rh管(3.0KW)
分析径=10mmφ
スピン=しない
雰囲気=真空
試料形態=金属
バランス成分=C10
試料フィルム=P.P.Film
試料重量厚さ=設定する
【0089】
<定性元素条件>
S-Kα
管球=Rh(30kV-100mA)
1次フィルター=OUT
アッテネータ=1/1
スリット=S4
分光結晶=GeH
2θ=110.830deg(測定範囲=107=115deg)
PHA=150~300
ステップ=0.05deg
時間=0.15sec
【0090】
[残存界面活性剤量の測定方法]
樹脂微粒子を溶媒(メタノール)により抽出し、液体クロマトグラフリニアイオントラップ型質量分析計(LC/MS/MS装置)「ACCELA UHPLC」(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。
界面活性剤の含有量は、以下に示す方法により測定した。
樹脂微粒子を遠沈管に約0.05g精秤した。この遠沈管にメタノール抽出液を注加した後、樹脂微粒子と抽出液をよく混合した。約15分間超音波抽出を行った後、再度混合し、3500rpmで15分間遠心分離を行い、得られた上澄み液を濾過したものを試験液とした。
この試験液中の界面活性剤の濃度を、前記液体クロマトグラフリニアイオントラップ型質量分析計(LC/MS/MS装置)を用い、得られたクロマトグラム上のピーク面積値から予め作成した検量線より含有量を算出した。そして、測定された試験液中の界面活性剤濃度と、試料として用いた樹脂微粒子の重量(試料重量)と、抽出液量から、下記算出式により、樹脂微粒子中の界面活性剤の含有量を求めた。
界面活性剤の含有量=試験液中の界面活性剤濃度×抽出液量÷試料重量
【0091】
なお、使用した界面活性剤3種(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ノニルフェノールエトキシレート、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル)の検量線作成方法は、以下の通りである。
界面活性剤の約1000質量ppm中間標準液(メタノール溶液)を調製後、さらにメタノールで段階的に希釈して20質量ppm、10質量ppm、5質量ppm、2.5質量ppmの検量線作成用標準液を調製した。各濃度の検量線作成用標準液を下記条件にて測定し、モニターイオンm/z=421.3→227.2(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)、502.3→485.2(ノニルフェノールエトキシレート)、587.6→526.7(ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル)のクロマトグラム上のピーク面積値を得た。各濃度と面積値をプロットして最小二乗法により近似曲線(二次曲線)を求め、これを定量用の検量線とした。
【0092】
<LC測定条件>
装置=「ACCELA UHPLC」(Thermo Fisher Scientific社製)
カラム=「Hypersil GOLD C18」 1.9μm(2.1mmI.D.×100mmL)(Thermo Fisher Scientific社製)
カラム温度=40℃
移動相=(A:10mM酢酸アンモニウム/B:アセトニトリル)
移動相条件=(0min=Bconc.90%、0→0.5min=Bconc.90%→100%、0.5→1.0min=Bconc.100%、1.0→1.1min=Bconc.100→90%、1.1min→3.5min=Bconc.90%)
流量=0.3mL/min
ポンプ温度=室温
注入量=2μL
【0093】
<MS/MS測定条件>
装置=「LXQ」 Linear Ion Trap LC/MS/MS(Thermo Fisher Scientific社製)
Ionization=ESI/negative
Sheath Gas/AUX Gas/Sweep Gas=30/10/0arb
Spray Voltage=5.0kV
Capillary Temp=350℃
Capillary voltage/Tube Lens=-20/-100V
Monitoring Mass(m/z)=ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(421.3→227.2)、ノニルフェノールエトキシレート(502.3→485.2)、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル(587.6→526.7)
【0094】
[体積平均粒子径]
樹脂微粒子の体積平均粒子径ならびに個数平均粒子径は、レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置「LS230」(ベックマン・コールター社製)で測定した。具体的には、樹脂微粒子水分散液(固形分20%)0.1gと2質量%アニオン性界面活性剤溶液20mlとを、試験管に投入した。その後、試験管ミキサー「試験管ミキサーTRIO HM-1N」(アズワン社製)及び超音波洗浄器「ULTRASONIC CLEANER VS-150」(アズワン社製)を用いて5分間かけて分散させ、分散液を得た。得られた分散液をレーザー回折散乱方式粒度分布測定装置により、超音波を照射しながら、分散液中の樹脂微粒子の体積平均粒子径ならびに個数平均粒子径を測定した。レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置の測定条件は以下のとおりである。
【0095】
<レーザー回折散乱方式粒度分布測定装置の測定条件>
媒体=水
媒体の屈折率=1.333
固体の屈折率=樹脂微粒子の屈折率
PIDS相対濃度:40~55%
測定時の光学モデルは、製造した樹脂微粒子の屈折率に合わせた。樹脂微粒子の製造に複数種類のモノマーを用いる本発明においては、樹脂微粒子の屈折率として、各モノマーの単独重合体の屈折率を各モノマーの使用量(質量部)で加重平均した平均値を用いた。
測定結果から、樹脂微粒子の体積基準の粒度分布を得た。当該体積基準の粒度分布の算術平均を樹脂微粒子の体積平均粒子径とした。
【0096】
[CV値(体積基準の粒子径の変動係数)]
樹脂微粒子の体積基準の粒子径の変動係数(CV値)は、以下の数式により算出した。
樹脂微粒子の体積基準の粒子径の変動係数=[(樹脂微粒子の体積基準の粒度分布の標準偏差)/(樹脂微粒子の体積平均粒子径)]×100
【0097】
[シード粒子の製造例]
撹拌装置と温度計と冷却機構を兼ね備えた重合器内で、イオン交換水270質量部とスチレンスルホン酸ナトリウム0.07質量部を混合し水相を作製した。メタクリル酸メチル120質量部、1-オクタンチオール2.4質量部を別の容器にて混合し、重合器内の水相に投入した。重合器の窒素パージを5分間実施した後、80℃まで昇温し、80℃に到達した時点で、10質量部のイオン交換水に溶解させた過硫酸カリウム0.05部を投入した。そのあと、ふたたび窒素パージを5分間実施し、80℃で5時間撹拌することにより、乳化重合反応させた。この後、100℃まで昇温し3時間保持してから冷却することによって、樹脂微粒子含有スラリーを作製した。これをシード粒子とした。
【0098】
[実施例1]
撹拌装置と温度計と冷却機構を兼ね備えた重合器内で、イオン交換水260質量部とラピゾール(登録商標)A-80(日油社製)0.13質量部、フォスファノールLO-529(東邦化学社製)0.13質量部、ノイゲンEA-167(第一工業製薬社製)0.13質量部、亜硝酸ナトリウム0.022質量部を混合し、水相を作製した。
別の容器でメタクリル酸メチル52質量部とスチレン39質量部とエチレングリコールジメタクリレート39質量部とペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート0.65質量部と2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.65質量部とベンゾイルパーオキサイド0.2質量部をよく混合して、油相を作製した。
油相を重合器内の水相に投入し、TKホモミキサー(プライミクス社製)により8000rpmで10分間撹拌することにより、モノマー混合液を得た。このモノマー混合液に製造例1で作製したシード粒子Aを21.7質量部投入し、3時間撹拌することにより膨潤させた。その後、窒素パージを5分間実施した後55℃まで昇温し、55℃で5時間撹拌することにより、重合反応させた。スルファミン酸0.066質量部を添加した後に、100℃まで昇温し3時間保持してから冷却することによって、樹脂微粒子含有スラリーを作製した。
樹脂微粒子含有スラリーを400Meshの網を通過させて樹脂微粒子の分級を行うことによって、分級された樹脂微粒子スラリーを得た。
得られた樹脂微粒子の体積平均一次粒子径は0.489μm(489nm)であり、体積平均一次粒子径の変動係数(CV値)は13.9%であった。
また、得られた樹脂微粒子の5%熱分解開始温度[℃]、重量減少率[%]、残存モノマー量[質量ppm]、硫黄元素含有量[質量部]及び残存界面活性剤量[質量ppm]を、表1にあわせて示す。
【0099】
分級された樹脂微粒子スラリーを、噴霧乾燥機(坂本技研社製、機械名:スプレードライヤー、型式:アトマイザーテイクアップ方式、型番:TRS-3WK)を用いて、以下の装置条件下、噴霧乾燥することにより、樹脂微粒子の造粒体を得た。
【0100】
<装置条件>
樹脂微粒子を含むスラリー供給速度:25mL/min
アトマイザ回転数:12000rpm
風量:2m/min
入口温度(スプレードライヤーに備えられた、樹脂微粒子を含むスラリーが噴霧されて導入される樹脂微粒子を含むスラリー投入口の温度):150℃
出口温度(スプレードライヤーに備えられた、樹脂微粒子の造粒体が排出される粉体出口温度):70℃
【0101】
[実施例2、3及び比較例1、2]
表1に、実施例2、3及び比較例1、2に係る樹脂微粒子の重合に用いたモノマー、多官能チオール、重合開始剤及びそれぞれの使用量(質量割合)を示す。また、得られた樹脂微粒子の5%熱分解開始温度[℃]、重量減少率[%]、残存モノマー量[質量ppm]、硫黄元素含有量[質量部]、残存界面活性剤量[質量ppm]、体積平均一次粒子径[μm]及びCV値[%]を、表1にあわせて示す。
【0102】
[比較例3]
撹拌装置と温度計と冷却機構を兼ね備えた重合器内で、イオン交換水100質量部に懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム2質量部、ラピゾール(登録商標)A-80(日油社製)0.03質量部を添加し水相を作製した。
メタクリル酸メチル20質量部とスチレン15質量部とエチレングリコールジメタクリレート15質量部とペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート2.5質量部と2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2.5質量部とベンゾイルパーオキサイド1.0質量部をよく混合して、油相を作製した。
油相を重合器内の水相に投入し、TKホモミキサー(プライミクス社製)により8000rpmで10分間撹拌することにより、単量体混合液を得た。窒素パージを5分間実施した後55℃まで昇温し、55℃で5時間撹拌することにより、重合反応させた。スルファミン酸0.01質量部を添加した後に、100℃まで昇温し3時間保持してから冷却することによって、樹脂微粒子含有スラリーを作製した。
得られた樹脂微粒子含有スラリーに塩酸を加え、ピロリン酸マグネシウムを分解させた後、吸引ろ過を行うことで樹脂微粒子を取り出した。水洗を繰り返し、精製を行った後、60℃の真空オーブンで乾燥を行うことで樹脂微粒子を得た。
得られた樹脂微粒子の5%熱分解開始温度[℃]、重量減少率[%]、残存モノマー量[質量ppm]、硫黄元素含有量[質量部]、残存界面活性剤量[質量ppm]、体積平均一次粒子径[μm]及びCV値[%]を、表1にあわせて示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1において、MMAからBPOの行は、樹脂微粒子の作製において使用した化合物の質量部(質量割合)を示すものであり、各略称が示す化合物は以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル
BA:ブチルアクリレート
St:スチレン
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
PETG:ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート
ABN-V:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
【0105】
本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。