(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】信号監視装置
(51)【国際特許分類】
H04B 7/08 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H04B7/08 422
(21)【出願番号】P 2020030469
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 学
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 昭一
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/203815(WO,A1)
【文献】ShefengYAN et al.,“High-resolution broadband beamforming and detection methods with real data”,Acoustical Science and Technology,2004年,Vol. 25, No. 1,pp.73-76,DOI:10.1250/ast.25.73
【文献】T. SUOJOKI et al.,“A novel efficient normalization technique for sonar detection”,Proceedings of the 2002 International Symposium on Underwater Technology (Cat. No.02EX556),2002年,pp.296-301,DOI: 10.1109/UT.2002.1002442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサからの出力に基づいて、それぞれビームを作成するビームフォーミング処理部と、
前記ビームフォーミング処理部によって作成された複数のビーム
の時間波形を平均化して、統合ビーム
の時間波形を作成する平均化処理部と、
前記平均化処理部によって作成された統合ビームの周波数方向の情報に基づいて、監視対象信号を監視する監視部と、
を備えることを特徴とする信号監視装置。
【請求項2】
複数のセンサからの出力に基づいて、それぞれビームを作成するビームフォーミング処理部と、
前記ビームフォーミング処理部によって作成された複数のビームを、重複して平均化して、統合ビームを作成する平均化処理部と、
前記平均化処理部によって作成された統合ビームに基づいて、監視対象信号を監視する監視部と、
を備えることを特徴とする信号監視装置。
【請求項3】
複数のセンサからの出力に基づいて、それぞれビームを作成するビームフォーミング処理部と、
前記ビームフォーミング処理部によって作成された複数のビームの重要度に基づいて、複数のビームに重みを付与して平均化することで、統合ビームを作成する平均化処理部と、
前記平均化処理部によって作成された統合ビームに基づいて、監視対象信号を監視する監視部と、
を備えることを特徴とする信号監視装置。
【請求項4】
前記監視対象信号は、
狭帯域信号である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の信号監視装置。
【請求項5】
前記監視対象信号は、
非定常信号である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の信号監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセンサからの出力に基づいて監視対象信号を監視する信号監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばマイクロホン又はハイドロホンといった複数のセンサ2aによって構成されるアレイ2を用いたアプリケーションとして、アレイ2の周囲から到来する監視対象信号を監視する信号監視装置300が知られている。ここで、監視対象信号として、例えば狭帯域信号が挙げられる。このようなアプリケーションにおいて、アレイ2を構成する複数のセンサ2aからの出力に基づいて、ビームフォーミングによってビームが作成され、作成された各ビームの出力に対して、FFT(Fast Fourier Transform)及び周波数方向の正規化が適用される。これにより、信号監視装置300は、アレイ2周囲のいずれの方位から到来した監視対象信号であっても、その監視対象信号を検出することができる。ここで、ビームフォーミングは、アレイ2の周囲から到来する監視対象信号のSNR(Signal Noise Ratio)を改善する手法として知られている。
【0003】
図4は、アレイ2を用いた従来の信号監視装置300を示すブロック図である。
図4に示すように、信号監視装置300は、アレイ2と、電子回路3と、ビームフォーミング処理部4と、監視部5とを備えている。アレイ2は、N個のセンサ2a(2a-1、2a-2、・・・、2a-N)によって構成されており、アレイ2に対して狭帯域信号が到来している。電子回路3は、例えばアンプ、フィルタ及びA/D変換器等から構成されている。電子回路3は、アレイ2を構成する各センサ2aからの出力(時間波形)を、デジタル化する。
【0004】
ビームフォーミング処理部4は、デジタル化されたデータから複数のビーム(ビーム1、ビーム2、・・・ビームM)を作成する。監視部5は、狭帯域信号を監視するものであり、FFT処理部6、周波数方向正規化処理部7及び検出処理部8を有している。FFT処理部6(6-1、6-2、・・・、6-M)は、複数のビームに対して高速フーリエ変換を施す。周波数方向正規化処理部7(7-1、7-2、・・・、7-M)は、高速フーリエ変換された複数のビームに対して、周波数方向の正規化を行う。検出処理部8は、正規化された複数のビームに基づいて、狭帯域信号の監視を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】’The effect of improper normalization on the performance of an automated energy detector’ J. Acoust. Soc. Am. 78(3), Sep. 1985
【0006】
次に、従来の信号監視装置300の動作について説明する。アレイ2の中心で受信される狭帯域信号は、以下の(1)式で表される。
【0007】
【0008】
(1)式において、tは時間、Aは狭帯域信号の振幅、fは狭帯域信号の周波数、φ0は初期位相である。このとき、アレイ2を構成するN個のセンサ2aに関して、n番目のセンサ2aからの出力の時間波形は、以下の(2)式で表される。
【0009】
【0010】
ここで、τnはn番目のセンサ2aが狭帯域信号を受信するときの遅延時間である。遅延時間τnは、以下の(3)式で表される。
【0011】
【0012】
(3)式において、dは狭帯域信号の到来方位を示すベクトル、rnはn番目のセンサ2aの位置ベクトル、cは狭帯域信号の伝搬速度である。
【0013】
アレイ2を構成する各センサ2aからの出力(時間波形)は、電子回路3のアンプ及びフィルタを経由して、A/D変換器によってデジタル化されて、ビームフォーミング処理部4に入力される。ビームフォーミング処理部4は、デジタル化されたデータに対して、以下の(4)式に示す処理を適用する。
【0014】
【0015】
ここで、xm[t]はm番目の方位に対するビームフォーミングの出力(離散化された時間波形)、wnはn番目のセンサ2aに与える重み、τnはn番目のセンサ2aの出力に与える遅延時間である。ここでは、ビームフォーミング処理部4によって、M個のビームフォーミングの出力(離散化された時間波形)が得られるとする。
【0016】
次に、各ビームフォーミングからの出力に対して、以下の(5)式に示すように、FFT処理部6によってFFT(高速フーリエ変換)が適用される。
【0017】
【0018】
(5)式において、IはFFTが適用されるときのサンプル数である。
【0019】
次に、FFT処理部6からの出力に対して、周波数方向正規化処理部7によって、周波数方向の正規化が適用される。周波数方向の正規化では、全てのビームフォーミングの出力のFFT結果に対して、非特許文献1に示すような処理が適用される。このように、従来の信号監視装置300は、形成された全てのビームに対して、FFT及び周波数方向の正規化が行われることによって、アレイ2周囲の全ての方位から到来する狭帯域信号の監視を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、隣接するビーム同士が受信する信号は、そこまで変化せず差は微小である。このため、従来のように、形成された全てのビームに対してFFT及び周波数方向の正規化が行われると、無駄が生じる。従って、FFT及び周波数方向の正規化に要する計算量が多くなる。また、形成されるビームの数は、概してセンサ2aの数以上となり、アプリケーションによっては、数百個以上のビームが形成される。この場合、FFT及び周波数方向の正規化に要する計算量が多くなる。
【0021】
本発明は、上記のような課題を背景としてなされたもので、計算量を削減する信号監視装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係る信号監視装置は、複数のセンサからの出力に基づいて、それぞれビームを作成するビームフォーミング処理部と、ビームフォーミング処理部によって作成された複数のビームの時間波形を平均化して、統合ビームの時間波形を作成する平均化処理部と、平均化処理部によって作成された統合ビームの周波数方向の情報に基づいて、監視対象信号を監視する監視部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、平均化処理部が複数のビームを平均化した統合ビームを作成し、監視部が統合ビームに基づいて、監視対象信号を監視する。このように、統合ビームは複数のビームが平均化されたものであるため、統合ビームの総数はビームの総数よりも少ない。従って、計算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態1に係る信号監視装置を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態2に係る信号監視装置を示すブロック図である。
【
図3】本実施の形態3に係る信号監視装置を示すブロック図である。
【
図4】従来の信号監視装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る信号監視装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、
図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、以下の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものではない。方向を表す用語としては、例えば、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」又は「後」等が挙げられる。
【0026】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係る信号監視装置1を示すブロック図である。本実施の形態1に係る信号監視装置1は、平均化処理部10を備えている点で、
図4に示す従来の信号監視装置300と相違する。そこで、
図4に示す従来の信号監視装置300と同じ構成については説明を省略し、相違点について説明する。
【0027】
図1に示すように、信号監視装置1は、アレイ2と、電子回路3と、ビームフォーミング処理部4と、平均化処理部10と、監視部5とを備えている。アレイ2は、N個のセンサ2a(2a-1、2a-2、・・・、2a-N)によって構成されており、アレイ2に対して監視対象信号である狭帯域信号が到来している。電子回路3は、例えばアンプ、フィルタ及びA/D変換器等から構成されている。電子回路3は、アレイ2を構成する各センサ2aからの出力(時間波形)を、デジタル化する。ビームフォーミング処理部4は、デジタル化されたデータから複数のビーム(ビーム1、ビーム2、・・・ビームM)を作成する。
【0028】
平均化処理部10(10-1、10-2、・・・、10-M’)は、ビームフォーミング処理部4によって作成された複数のビームを平均化して、統合ビーム(統合ビーム1、統合ビーム2、・・・、統合ビームM’)を作成する。具体的には、平均化処理部10は、所定の数のビームを平均化して、統合ビーム(時間波形)を1つ出力する。平均化処理部10は、m’番目の統合ビームym’[t]を、以下の(6)式を用いて計算する。
【0029】
【0030】
(6)式において、xm’,k[t]はm番目の統合ビームを計算する際に使用されるビーム(ビームフォーミングの出力)、Kは平均化処理部10で使用されるビームの数である。この処理によって作成される統合ビームの総数を、M’とする。なお、平均化処理部10が統合ビームを作成する際、元々のビームを、複数の統合ビームを計算する上で重複して使用することも可能である。即ち、平均化処理部10は、ビームフォーミング処理部4によって作成された複数のビームを、重複して平均化するように構成されてもよい。
【0031】
監視部5は、狭帯域信号を監視するものであり、FFT処理部6、周波数方向正規化処理部7及び検出処理部8を有している。FFT処理部6(6-1、6-2、・・・、6-M’)は、複数の統合ビームに対して高速フーリエ変換を施す。周波数方向正規化処理部7(7-1、7-2、・・・、7-M’)は、高速フーリエ変換された複数の統合ビームに対して、周波数方向の正規化を行う。検出処理部8は、正規化された複数の統合ビームに基づいて、狭帯域信号の監視を行う。
【0032】
本実施の形態1によれば、平均化処理部10が複数のビームを平均化した統合ビームを作成し、監視部5が統合ビームに基づいて、監視対象信号を監視する。このように、統合ビームは複数のビームが平均化されたものであるため、統合ビームの総数M’はビームの総数Mよりも少ない。従って、計算量を削減することができる。
【0033】
従来の信号監視装置300を説明する欄に記載された(4)式と、本実施の形態1の上記(6)式とを比較すると、従来の信号監視装置300におけるビームの総数がMであり、本実施の形態1に係る信号監視装置1における統合ビームの総数がM’である。即ち、本実施の形態1によれば、監視部5を構成するFFT及び周波数方向の正規化に要する計算量を、M’/M(M’<M、即ち、M’/Mは1より小さい)倍に抑制することができる。
【0034】
なお、ビームフォーミングによって形成されるビーム数を、単にM’個に減らすことによって、計算量を削減しようとすると、ビーム数を減らし過ぎた場合、隣接するビームの監視範囲に非監視領域が発生するおそれがある。この場合、アレイ2を用いた狭帯域信号の監視に適さなくなるおそれがある。そこで、本実施の形態1では、ビーム数を単純に減らすのではなく、平均化処理部10が複数のビームを平均化した統合ビームを作成している。
【0035】
実施の形態2.
図2は、本実施の形態2に係る信号監視装置100を示すブロック図である。本実施の形態2は、平均化処理部110の機能が、実施の形態1と相違する。本実施の形態2では、実施の形態1と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0036】
図2に示すように、平均化処理部110(110-1、110-2、・・・、110-M’)は、ビームフォーミング処理部4によって作成された複数のビームの重要度に基づいて、複数のビームに重みを付与して平均化する。平均化処理部110は、m’番目の統合ビームy
m’[t]を、以下の(7)式を用いて計算する。
【0037】
【0038】
(7)式において、xm’,k[t]はm番目の統合ビームを計算する際に使用されるビーム(ビームフォーミングの出力)、Kは平均化処理部110で使用されるビームの数、qkは平均化処理部110に入力されるビームに付与される重みである。この処理によって作成される統合ビームの総数を、M’とする。なお、平均化処理部110が統合ビームを作成する際、元々のビームを、複数の統合ビームを計算する上で重複して使用することも可能である。
【0039】
本実施の形態2によれば、平均化処理部110は、複数のビームを平均化して統合する際、重みを付与する。即ち、入力される各ビームの重要度を選択することができる。従って、統合ビームを計算する中心位置を制御することができ、統合によって生じ得る狭帯域信号の劣化を抑制することができる。
【0040】
また、(4)式と(7)式とを比較すると、従来の信号監視装置300におけるビームの総数がMであり、本実施の形態2に係る信号監視装置100における統合ビームの総数がM’である。これにより、本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、監視部5を構成するFFT及び周波数方向の正規化に要する計算量を、M’/M(M’<M、即ち、1より小さい)倍に抑制することができる。
【0041】
実施の形態3.
図3は、本実施の形態3に係る信号監視装置200を示すブロック図である。本実施の形態3は、監視対象信号が非定常信号であり、監視部205が非定常信号分析処理部209を有する点で、実施の形態2と相違する。本実施の形態3では、実施の形態1及び実施の形態2と共通する部分は同一の符号を付して説明を省略し、実施の形態1及び実施の形態2との相違点を中心に説明する。
【0042】
図3に示すように、監視部205は、非定常信号分析処理部209(209-1、209-2、・・・209-M’)と、検出処理部8とを有している。非定常信号分析処理部209は、周波数成分が時間変化するような信号を分析する。非定常信号分析処理部209は、例えば、短区間フーリエ変換、ウェーブレット変換又はウィグナー分布等を用いた分析手法である。検出処理部8は、分析された非定常信号の監視を行う。
【0043】
本実施の形態3のように、監視対象信号が非定常信号であっても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、計算量を削減することができる。
【0044】
なお、ビームフォーミング処理部4は、遅延和ビームフォーマを使用することが一般的であるが、これに限定されるものではない。例えば、ビームフォーミング処理部4は、一般化サイドローブキャンセラ又は固有空間型ビームフォーマといった適応ビームフォーマを使用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 信号監視装置、2 アレイ、2a センサ、3 電子回路、4 ビームフォーミング処理部、5 監視部、6 FFT処理部、7 周波数方向正規化処理部、8 検出処理部、10 平均化処理部、100 信号監視装置、110 平均化処理部、200 信号監視装置、205 監視部、209 非定常信号分析処理部、300 信号監視装置。