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特許7585611メンテナンス方法及びインクジェット記録装置。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】メンテナンス方法及びインクジェット記録装置。
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20241112BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241112BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241112BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241112BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B41J2/165 401
C09D11/322
C09D11/54
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41J2/165 301
B41J2/01 123
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020035591
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137991
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105134(JP,A)
【文献】特開2020-019180(JP,A)
【文献】国際公開第2019/059099(WO,A1)
【文献】特開2011-194744(JP,A)
【文献】特開2017-124582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0298475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01- 2/215
B41M 5/00- 5/52
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物と、凝集剤を含む処理液と、を用いて記録を行うインクジェット記録装置
のメンテナンス方法であって、
前記インク組成物は、水系インクであり、
前記インクジェット記録装置は、前記インク組成物を吐出するインクジェットヘッドを
備え、
前記インクジェットヘッドは、前記インク組成物を吐出する第1ノズル列と、前記処理
液を吐出する第2ノズル列と、を有し、
前記第1ノズル列と前記第2ノズル列は、前記インクジェットヘッドの主走査方向に投
影したときに重なる部分を有して前記インクジェットヘッドのノズル形成面に配置されて
おり、
前記インクジェット記録装置は、前記インク組成物と前記処理液を記録媒体の同一領域
に同一の主走査で付着させる主走査により前記記録を行うものであり、
前記インクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液と、吸収性の払拭部材と
、を用いて払拭する払拭工程を有し、
前記メンテナンス液は、水と、有機溶剤と、を含有し、
前記水を、前記メンテナンス液の総質量に対して、90質量%以上含有し、
前記有機溶剤の含有量が、前記メンテナンス液の総質量に対して、5質量%以下である

メンテナンス方法。
【請求項2】
前記メンテナンス液が、有機溶剤を、前記メンテナンス液の総質量に対して、0.5~
質量%含有する、
請求項1に記載のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、炭素数5以上のアルカンジオールを含む、
請求項2に記載のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記ノズル形成面が段差を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項5】
前記メンテナンス液の前記ノズル形成面に対する接触角が、60°以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記メンテナンス液の表面張力が、20mN/m以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記払拭部材が、セルロース繊維を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項8】
前記凝集剤が、多価金属塩、有機酸、又はカチオンポリマーの何れかを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項9】
前記メンテナンス液が、水を、前記メンテナンス液の総質量に対して、95質量%以上
含有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項10】
前記インクジェット記録装置は、前記インク組成物と前記処理液を記録媒体の同一領域
に同一の主走査で付着させる主走査を、複数回行うことにより前記記録を行うものである

請求項9に記載のメンテナンス方法。
【請求項11】
前記払拭工程前に、前記ノズル形成面又は前記払拭部材に対して、前記メンテナンス液
を付着させる付着工程を、有する、
請求項1~10のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項12】
前記インク組成物が、顔料を、前記インク組成物の総質量に対して、2質量%以上含む

請求項1~11のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項13】
前記メンテナンス液が、界面活性剤をメンテナンス液の総質量に対して、0.1質量%
を超えて含有しない、
請求項1~12のいずれか一項に記載のメンテナンス方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のメンテナンス方法を行うインクジェット記録装
置であって、
前記メンテナンス液と、前記処理液と、前記インク組成物と、前記インクジェットヘッ
ドと、前記払拭工程を行なう払拭部材と、を有するインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス方法及びメンテナンス液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、記録装置のメンテナンス方法等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、所定のポリマー粒子を含むインク組成物と処理液とを用いて記録を行う場合に、クリーニング性に優れるメンテナンス方法を提供することを目的として、記録用ヘッドが有するノズル形成面を、洗浄液及び吸収部材を用いて払拭する払拭工程を有するメンテナンス方法が開示されている。特許文献1は、洗浄液に有機溶剤として浸透材や保湿剤を含めることを開示しており、具体的に開示されている洗浄液は、1,3-ブタンジオールとプロピレングリコールを60質量%含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-105134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インク組成物と凝集剤を含む処理液を用いて記録を行うインクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズル形成面を、洗浄液を用いてメンテナンスを行う場合に、洗浄性が未だ十分とは言えないことが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インク組成物と、凝集剤を含む処理液と、を用いて記録を行うインクジェット記録装置のメンテナンス方法であって、インクジェット記録装置は、インク組成物を吐出するインクジェットヘッドを備え、インクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液と、吸収性の払拭部材と、を用いて払拭する払拭工程を有し、メンテナンス液が、水を、メンテナンス液の総質量に対して、80質量%以上含有するメンテナンス方法である。
【0006】
また、本発明は、上記メンテナンス方法に用いるメンテナンス液であって、水を、メンテナンス液の総質量に対して、80質量%以上含有するメンテナンス液である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態のメンテナンス方法の払拭工程の一例を示す概略図である。
図2】本実施形態のインクジェットヘッドの一例を示す断面図である。
図3】本実施形態のインクジェットヘッドのノズル形成面を表す平面図である。
図4】本実施形態のインクジェットヘッドのノズル形成面の他の例を表す平面図である。
図5】本実施形態のインクジェット記録装置の一例を表す斜視図である。
図6】本実施形態のインクジェット記録装置のノズル形成面の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0009】
1.メンテナンス方法
本実施形態のメンテナンス方法は、インク組成物と、凝集剤を含む処理液と、を用いて記録を行うインクジェット記録装置であって、インク組成物を吐出するインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置(以下、単に「インクジェット記録装置」ともいう。)をメンテナンスする方法である。本実施形態のメンテナンス方法は、インクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液と、吸収性の払拭部材と、を用いて払拭する払拭工程を有し、メンテナンス液として、水を、メンテナンス液の総質量に対して、80質量%以上含有するものを用いる。
【0010】
インク組成物と凝集剤を含む処理液とを用いて記録を行う記録方法を用いることで、記録媒体上でインク組成物を早期に固定化することができる。そのため、当該記録方法により得られる記録物の画質は優れたものとなる。一方で、インク組成物を凝集させる処理液を用いる場合には、処理液が付着した記録媒体がインク組成物を吐出するインクジェットヘッドに接触することや、吐出した処理液のミストがインクジェットヘッドに飛来することが起こり得る。このような場合、インクジェットヘッドのノズル形成面において、インク組成物と処理液とが反応して、異物が形成され、その異物が吐出不良の原因となることが考えられる。
【0011】
このような吐出不良の解消するために、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズル形成面を、払拭部材などを用いて払拭することが効果的である。本実施形態のメンテナンス方法は、この払拭に用いるメンテナンス液として、水の含有量が比較的多いものを用いるものである。これにより、ノズル形成面の洗浄性がより向上する。その理由は、以下に制限されるものではないが、水を多く含むことにより、メンテナンス液が払拭部材により吸収されやすくなり、ノズル形成面に付着した異物がメンテナンス液とともに払拭部材内に吸収されやすくなるためと考えられる。
【0012】
また、ノズル形成面においてインク組成物と処理液とが反応して形成される異物は比較的大きいため、メンテナンス時において払拭部材でノズル形成面を払拭すると、ノズル形成面に形成される撥水膜が削れ、撥水膜の耐摩耗性が悪化し、吐出不良が発生しうる。これに対して、水の含有量が比較的多いメンテナンス液を用いることにより、ノズル形成面に付着した異物がメンテナンス液とともに払拭部材内に吸収されやすくなるため、撥水膜の耐摩耗性の低下も抑制することが可能となる。
【0013】
1.1.付着工程
本実施形態のメンテナンス方法は、払拭工程前に、ノズル形成面又は払拭部材に対して、メンテナンス液を付着させる付着工程を有していてもよい。ノズル形成面又は払拭部材に対してメンテナンス液を付着させる方法としては、特に制限されないが、例えば、メンテナンス液を噴射、滴下、塗布(コート)などしてノズル形成面や払拭部材にメンテナンス液を付着する方法や、メンテナンス液に払拭部材を含浸させる方法などを挙げることができる。こうして、メンテナンス液が存在する状態で、払拭部材によるノズル形成面の払拭が行われる。
【0014】
図1に、インクジェットヘッドのノズル形成面に対して払拭部材(布ワイパー)を接触させる状態を表す概略断面図を示す。図1は、インクジェットヘッド11のノズル形成面12に対して、矢印F1方向に払拭部材21を押圧する状態の図である。この場合、メンテナンス液31の付着は、第1噴射機24によって、使用前の払拭部材21が巻かれた第1ロール22に対して、行うことができる。また、これに代えて、メンテナンス液31のプール26に対して、使用前の払拭部材が巻かれた第1ロール22を付着させることで、払拭部材21に対するメンテナンス液31の付着を行ってもよい。
【0015】
なお、ノズル形成面12に到達される前の段階の払拭部材21にメンテナンス液を付着する位置は、図1における位置に限らず、第1ロール22から矢印F2方向に送り出された使用前の払拭部材21に、ノズル形成面12へ到達される前の任意の段階で、メンテナンス液31の付着を行ってもよい。
【0016】
例えば、よりノズル形成面12に近い位置としてもよい。例えば、矢印F1方向に払拭部材21を押圧するローラーの直前の位置でもよい。
【0017】
また、ノズル形成面12へのメンテナンス液31の付着は、第2噴射機25によって、行うことができる。
【0018】
なお、メンテナンス方法は、ノズル形成面又は払拭部材に対するメンテナンス液の付着を行う付着工程を備えなくてもよい。この場合は、予めメンテナンス液が付着されている払拭部材を用いてメンテナンスを行えばよい。
【0019】
なお、ノズル形成面又は払拭部材に対するメンテナンス液の付着を行う付着工程は、上記噴射機やプール(浸漬機)などの付着機構を用いたものに限られるものではなく、適宜変更することができる。例えば、付着機構として、滴下機、コート機なども用いることができる。
【0020】
メンテナンス液付着工程において、メンテナンス液の付着量は、払拭部材やノズル形成面へ付着したメンテナンス液の付着量である。
該付着量は、メンテナンスを1回行う時のメンテナンス液の使用量であり、かつ、1つ(1種)のインク組成物を吐出するノズル列当たりのメンテナンス液の使用量である。
【0021】
メンテナンス液の付着量は、好ましくは0.1g以上であり、より好ましくは0.3g以上であり、さらに好ましくは0.5g以上である。一方、該付着量は、好ましくは5g以下であり、より好ましくは3g以下であり、さらに好ましくは1g以下である。この場合、洗浄性がより優れ、メンテナンス液の無駄が低減でき好ましい。
【0022】
1.2.払拭工程
払拭工程は、インクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液と、吸収性の払拭部材と、を用いて払拭する工程である。払拭方法は、特に制限されないが、例えば、払拭部材21をノズル形成面12に対して押圧し(矢印F1)、払拭部材21をノズル形成面12に沿った方向に相対的に移動させるように、払拭部材21またはノズル形成面21を移動しながら払拭を行うことができる。
【0023】
払拭方向は特に制限されないが、ノズル列に沿った方向に払拭することが好ましい。これにより、払拭部材のうち第1ノズル列に接触した部分が、第2ノズル列に接触すること、あるいは、第2ノズル列に接触した部分が、第1ノズル列に接触することにより、かえって異物形成を促進することを回避することができる。
【0024】
1.2.1.メンテナンス液
1.2.1.1.水
メンテナンス液は、総質量に対して、80質量%以上の水を含有する。これにより、払拭部材の浸透性が向上し、異物を払拭部材内へ取り込ませやすくなるため、洗浄性がより向上する。上記観点から、メンテナンス液における水の含有量は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%である。また、メンテナンス液における水の含有量は、100質量%以下であり、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98.5質量%以下であり、さらに好ましくは98質量%以下である。メンテナンス液の水の含有量が上記範以上の場合、異物を払拭部材内へより取り込ませやすく、洗浄性がより優れる。
【0025】
メンテナンス液の水の含有量が上記範以下の場合、たとえば、全て水であるメンテナンス液よりも、少量の有機溶剤を含むメンテナンス液の場合、ノズル形成面における異物の除去性に優れ、洗浄性がより向上する傾向にある。
【0026】
1.2.1.2.有機溶剤
このような観点から、メンテナンス液は有機溶剤を有することが好ましい。有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、メタノール、エタノールなどの水と混和可能な有機溶剤が挙げられる。後述するインクや処理液に含んでもよい有機溶剤もあげられる。
【0027】
有機溶剤を用いることにより、後述するような洗浄性がより向上する傾向があり、洗浄性が優れ好ましい。
【0028】
有機溶剤のなかでも、炭素数5以上のアルカンジオールが、上記の点で特に優れ好ましい。炭素数5以上のアルカンジオールは、炭素数が5~10がより好ましく、6~8がさらに好ましい。限るものではないが、1,2-アルカンジオールが好ましい。
炭素数5以上のアルカンジオールは、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0029】
有機溶剤のなかでも、ポリオール類が、洗浄性が優れ好ましい。ポリオール類は、炭素数4以下のアルカンポリオール、または炭素数4以下のアルカンポリオールが分子間で水酸基同士が縮合した縮合物があげられる。これらの上記炭素数は、好ましくは2~3である。縮合物の場合、縮合数は2~4が好ましい。ポリオール類は、分子中の水酸基数が2以上であり、好ましくは2~4である。
【0030】
有機溶剤の含有量は、メンテナンス液の総質量に対して、例えば20質量%以下であり、好ましくは0.5~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%であり、特に好ましくは1~3質量%である。有機溶剤を含むことにより、特に有機溶剤の含有量が0.5質量%以上であることにより、有機溶剤がノズル形成面に固着した異物等に浸透して、異物を膨潤または溶解し、異物の除去がより容易となるため、洗浄性がより向上する傾向にある。また、有機溶剤の含有量が20質量%以下であることにより、水の含有量が相対的に減ることによる払拭部材へのメンテナンス液の吸収低下を抑制できる傾向にある。
有機溶剤の中でも、ポリオール類、炭素数5以上のアルカンジオールが上記の点で好ましく、これらの含有量を上記範囲としてもよい。
【0031】
1.2.1.3.界面活性剤
本実施形態のメンテナンス液は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0032】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(商品名、エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製)、サーフィノール465やサーフィノール61(商品名、日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(以上商品名、旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(以上商品名、住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(以上商品名、Dupont社製);FT-250、251(以上商品名、株式会社ネオス製)などが挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
界面活性剤の含有量は、メンテナンス液の総質量に対し、例えば3質量%以下が好ましい。界面活性剤を含む場合、その含有量は、メンテナンス液の総質量に対して、好ましくは0.1~3質量%である。界面活性剤は、より好ましくは0.1~2質量%であり、さらに好ましくは0.3~1質量%である。界面活性剤をメンテナンス液の総質量に対して、0.1質量%を超えて含有しないことが好ましい。
【0036】
一方で、メンテナンス液が界面活性剤を含むことにより、ノズル形成面に対する接触角が低下するため、ノズル形成面において異物等を含むメンテナンス液を塗り広げてしまい、かえって洗浄性が低下する場合がある。このような観点から、界面活性剤を含まないあるいは極力含まない、または含有量が少ないことが好ましい。この場合、界面活性剤の含有量は、メンテナンス液の総質量に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。さらには、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。さらに好ましくは0.1質量%未満であり、0.05質量%以下が特に好ましい。さらに、より好ましくは0.01質量%以下である。下限は0質量%以上である。また、下限は、検出限界以下が好ましい。
【0037】
なお、組成物のある成分の含有量が、組成物の総質量に対し○○質量%以下であることを、組成物が、該成分を○○質量%を超えて含有しないともいう。組成物が、該成分を含有しなくてもよいし、○○質量%を超えなければ含有しても良い、の意味である。
【0038】
1.2.1.4.pH調整剤
本実施形態のメンテナンス液は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。pH調整剤は、インクのpH値の調整を容易にすることができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸等)、無機塩基(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン)、有機酸(例えば、アジピン酸、クエン酸、コハク酸等)等が挙げられる。このなかでも、有機塩基が好ましく、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンがより好ましい。pH調整剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
pH調整剤の含有量は、メンテナンス液の総質量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0040】
1.2.1.5.接触角
メンテナンス液のノズル形成面に対する接触角は、好ましくは60°以上であり、より好ましくは70°以上であり、さらに好ましくは80°以上であり、よりさらに好ましくは90°以上である。さらには100°以上が好ましく、105°以上がより好ましい。接触角が60°以上であることにより、メンテナンス液はノズル形成面上で、濡れ広がりにくく液滴状となる。そのため、その液滴状のメンテナンス液中に異物が取り込まれ、さらにその異物が払拭部材に吸収されるため、洗浄性がより向上する傾向にある。また、メンテナンス液のノズル形成面に対する接触角は、好ましくは130°以下であり、より好ましくは120°以下であり、さらに好ましくは110°以下である。接触角が130°以下であることにより、メンテナンス液あたりのノズル形成面の濡れ面積が向上し、洗浄性がより向上する傾向にある。
【0041】
メンテナンス液のノズル形成面に対する接触角は、インク組成物に含める有機溶剤の量及び種類や、界面活性剤の使用の有無により調整することができる。また、メンテナンス液のノズル形成面に対する接触角は、ノズル形成面の撥水膜に対するメンテナンス液の接触角を測定することにより得ることができる。詳細な測定方法は、実施例に示す。
【0042】
1.2.1.6.表面張力
メンテナンス液の表面張力は、好ましくは20mN/m以上であり、より好ましくは50mN/m以上であり、さらに好ましくは55mN/m以上であり、特に好ましくは60mN/m以上である。メンテナンス液の表面張力が20mN/m以上、特には55mN/m以上であることにより、液滴状のメンテナンス液中に異物が取り込まれ、さらにその異物が払拭部材に吸収されるため、洗浄性がより向上する傾向にある。また、メンテナンス液の表面張力は、好ましくは80mN/m以下であり、より好ましくは75mN/m以下であり、さらに好ましくは73mN/m以下である。メンテナンス液の表面張力が80mN/m以下であることにより、メンテナンス液あたりのノズル形成面の濡れ面積が向上し、洗浄性がより向上する傾向にある。
【0043】
メンテナンス液の表面張力は、インク組成物に含める有機溶剤の量及び種類や、界面活性剤の使用の有無により調整することができる。また、メンテナンス液の表面張力は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
1.2.2.払拭部材
払拭部材は吸収性のものであれば特に制限されず、スポンジや、織布又は不織布などの布帛などを用いることができる。なお、吸収性とは、メンテナンス液やインク組成物などを吸収できることをいう。ここで、払拭部材が織布又は不織布である場合、その構成繊維としては、特に制限されないが、例えば、セルロース繊維などの天然繊維や、ポリエステル繊維などの合成繊維が挙げられる。このなかでも天然繊維が好ましく、セルロース繊維がより好ましい。ポリエステル繊維やセルロース繊維は、共に洗浄性に優れる傾向にある。さらに、セルロース繊維は水により膨潤するため、メンテナンス液により繊維が柔らかくなり、ノズル形成面の撥水膜の摩耗をより軽減することができる。また、膨潤したセルロース繊維の隙間に異物が入り込むため、洗浄性もより向上する傾向にある。
【0045】
図1において示す払拭部材は、長尺の布帛であり、第1ロール22から使用前の払拭部材21の送り出し、第2ロール23から使用済の払拭部材21を巻き取る。これにより、ノズル形成面12には、使用前の新しい払拭部材21が接触することができる。そのため、ノズル形成面12に使用済の払拭部材21が再接触することにより、ノズル形成面12が使用済の払拭部材21に浸透した処理液やインク組成物によって再汚染されることを回避することができる。
【0046】
1.2.3.インクジェットヘッド
払拭の対象となるインクジェットヘッドのノズル形成面について説明するために、先にインクジェットヘッドの構成について説明する。図2に、インクジェットヘッドの断面図を示す。インクジェットヘッド11は、記録媒体(付着対象)と対向する面に複数のノズル孔111を有するノズルプレート112と、ノズルプレート112に形成された複数のノズル孔111のそれぞれに連通する複数の圧力室114と、複数の圧力室114のそれぞれの容積を変化させる加圧部115と、複数の圧力室114にインクを供給するインク供給室116と、を備える。本実施形態において、ノズル形成面12とは、ノズルプレート112の表面を含む面をいう。
【0047】
なお、加圧部115としては、例えば、圧電素子の駆動圧力によりインクを吐出させるピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させるサーマル方式が挙げられる。ピエゾ方式を用いるインクジェットヘッドをピエゾヘッドといい、サーマル方式を用いるインクジェットヘッドをサーマルヘッドともいう。
【0048】
ノズルプレート112は、インクを吐出するための複数のノズル孔111が列状に開設された板材である。図3及び4に、インクジェットヘッドのノズル形成面の一例を示す。図3及び4におけるインクジェットヘッド11では、主走査方向に交差する副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿ってノズル111が並設されたノズル列117が形成されている。ここで、ノズルプレート112のインクが噴射される側の面が、ノズル形成面12である。なお、1種の液体を吐出するノズル列117は、1列であっても、図3及び4のように2列以上であってもよい。
【0049】
なお、ノズルプレート112の周囲に、インクジェットヘッド11を固定するための固定板が配置される構成においては、ノズルプレート112と固定板118とで構成される面(記録動作時に記録媒体等と対向する面)がノズル形成面12として機能する。一例として、ピエゾヘッドは、ノズルプレート112と固定板118との間119に段差が生じ、サーマルヘッドは段差が生じない傾向にある。このような段差を有するノズル形成面12は洗浄し難い傾向にあるため、本発明が特に有用となる。
【0050】
図6は、ノズル形成面が有する段差の一例を示す図である。図6は、図3の上下の矢印の間の直線において断面として、ノズル形成面を図の上に向けて側方から観察した断面図である。
【0051】
インクジェットヘッド11には、ノズル形成面に、固定板118が固定されている。固定板118は、ノズル列117とその周囲の部分が開口となっており、ノズル列117を固定板118が覆わないようにしつつ、ノズル形成面112のその他の部分は、固定板118が覆っている。こうすることで、ノズル列117の部分が、固定板118で覆われた部分よりも高さが低い。こうすることで、ノズル形成面112が何かに擦れたり、衝突したときに、ノズル列117の部分には傷が付き難くすることができる。こうしてノズル列117を保護することができる。
【0052】
ノズル形成面112には、固定板118によって覆われた部分と覆われていない部分との境界部に、段差119が生じる。なお、ノズル形成面が有する段差は、上記の例のような段差に限らず、ノズル形成面の払拭部材で払拭される部分において、段差を有するものであればよい。段差を有する目的は限られるものではない。
【0053】
インクジェットヘッド11は、インク組成物を吐出する第1ノズル列Colと、処理液を吐出する第2ノズル列OPと、を有していてもよい。また、第1ノズル列Colは、用いるインク組成物の種類に応じて、複数設けられていてもよい。第1ノズル列Colと第2ノズル列OPの配置は、特に制限されないが、例えば、インクジェットヘッド11の主走査方向S1,S2に投影したときに重なる部分を有するように、インクジェットヘッドのノズル形成面に配置されたものであることが好ましい(図3)。このような配置とすることにより、第2ノズル列OPによる処理液の吐出と、第1ノズル列Colによるインク組成物の吐出を1回の主走査で同一領域に同時に行うことができる。同一領域は、第2ノズル列OPと第1ノズル列Co1を、1回の主走査をさせたときに、第2ノズル列OPとも第1ノズル列Co1とも対向する記録媒体上の領域である。
【0054】
また、本実施形態のメンテナンス方法の対象となるインクジェット記録装置は、インク組成物と処理液を1回の主走査で記録媒体の同一領域に付着させる主走査を、複数回行うことにより記録を行うものであることが好ましい。つまり、インク組成物と処理液を1回の主走査で記録媒体の同一領域に付着させる主走査を用いて、後述するシリアル方式で記録を行うことが好ましい。このように処理液の吐出とインク組成物の吐出を1回の主走査で同時に行い、かつそれを複数回行う場合には、図4のようなインク組成物と処理液を1回の主走査で記録媒体の同一領域に付着させない例と比べて、第1ノズル列Co1の副走査方向の長さを長くすることができ、記録速度を速くでき好ましい。または、図4において、第1ノズル列Co1の副走査方向の長さを図3と同じとして記録速度は図3と同じになるようにした場合は、図3の例のほうがインクジェットヘッド11全体の副走査方向の長さを短くでき好ましい。
【0055】
一方、図3のように、インク組成物と処理液を1回の主走査で記録媒体の同一領域に付着させる主走査を用い、該主走査を複数回行い記録をおこなう場合、例えば、処理液のミストと処理液のミストがインク組成物のミストが同時にノズル形成面12に付着するなどして、異物が生じやすくなる。また、処理液のミストが主走査方向に浮遊しており、処理液のミストがノズル形成面12に付着しやすく、異物が生じやすくなる。そのため、本発明が特に有用となる。
【0056】
また、図4のように、第1ノズル列Colと第2ノズル列OPの配置は、インクジェットヘッド11の主走査方向S1,S2に投影したときに重なる部分を有さないように、インクジェットヘッドのノズル形成面に配置することもできる(図4)。つまり、第2ノズル列OPと第1ノズル列Co1を、1回の主走査をさせたときに、第2ノズル列OPとも第1ノズル列Co1とも対向する記録媒体上の同一の領域が存在しない。
【0057】
「重なる部分を有さないように」とは、第2ノズル列OPの主走査方向S1,S2に、第1ノズル列Col自体が存在しないように配置することの他、第2ノズル列OPの主走査方向S1,S2に、存在する第1ノズル列Colからは、インク組成物を吐出しないように制御することも含む。
【0058】
なお、主走査を複数回行うことにより記録を行う方式をシリアル方式という。
シリアル方式は、特に、主走査と、主走査方向と交差する副走査方向に記録媒体を移動させる副走査を、それぞれ複数回行う。例えば、主走査と副走査を交互にそれぞれ複数回行う。
【0059】
特に、インク組成物と処理液を記録媒体の同一領域に付着させる主走査を行い、このような主走査を複数回行うことにより記録を行う方式が好ましい。
シリアル方式に用いるインクジェットヘッドをシリアルヘッドともいう。
【0060】
シリアル方式において、インク組成物を吐出するノズル列の副走査方向の長さを、1回の副走査の長さで割ったものを、パス数(走査回数)という。パス数が2以上の場合、1回の主走査によってノズル列が記録媒体と対向してインクを付着した記録媒体の領域に、別の主走査によって、再度ノズル列が記録媒体と対向してインクを付着することが行われる。パス数が多いほど、記録解像度をより高くすることが可能であり、画質が優れる。反面、パス数が多い方が、記録に要する主走査の回数が多くなり、ミストが増えるなどによって、ノズル形成面における、洗浄性が重要となる。パス数は、1以上であり、好ましくは2~20であり、3~15がより好ましく、4~10が特に好ましい。
【0061】
一方、インクジェット記録装置に固定された、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを用いて、記録媒体を記録媒体の縦方向(搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を形成する記録方式をライン方式という。ライン方式では、1回のパスで画像を形成することができる。ライン方式に用いるインクジェットヘッドをラインヘッドともいう。
【0062】
本実施形態のメンテナンス方法は、シリアルヘッドとラインヘッドのいずれにも用いることができる。上述のとおり異物が生じやすいシリアルヘッドに対して用いることが好ましい。
【0063】
インクジェット記録装置が行う記録において、インク組成物の付着量は、インク組成物と処理液とを重ねて付着させる領域におけるインク組成物の最大の付着量として、好ましくは5mg/inch2以上であり、より好ましくは10mg/inch2以上であり、さらに好ましくは、12mg/inch2以上である。一方、該付着量は、好ましくは、25mg/inch2以下であり、より好ましくは20mg/inch2以下であり、さらにこのましくは15mg/inch2以下である。この場合、発色に優れる有用な画像の記録が可能な点や、記録に要するインクの使用量が少ないことによりノズル形成面の汚れが抑えられ、洗浄性の点でも有利である点で好ましい。
【0064】
インクジェット記録装置が行う記録において、インク組成物と処理液とを重ねて付着させる領域におけるインク組成物の付着量が最大の領域において、処理液の付着量は、好ましくは0.1mg/inch2以上であり、より好ましくは0.5mg/inch2以上であり、さらに好ましくは1.0mg/inch2以上である。一方、該付着量は、好ましくは10mg/inch2以下であり、より好ましくは5mg/inch2以下であり、さらに好ましくは3mg/inch2以下であり、特に好ましくは2mg/inch2以下であり、より特に好ましくは1.5mg/inch2以下である。この場合、より優れた画質が得られる点や、洗浄性がより優れる点で好ましい。
【0065】
インクジェット記録装置が行う記録において、インクの付着を行う時に、記録媒体に付着したインクを直ちに乾燥させる一次乾燥工程を備えても良い。一次乾燥工程は、一次乾燥工程用の乾燥機構を用いて行い、乾燥機構は、例えば、プラテンヒーター、プレヒーター、送風ファン、IRヒータなどである。加熱、送風などによりインクの乾燥促進を行う。
【0066】
一次乾燥工程を行う場合、又は行わない場合において、インクが付着する時の記録媒体の表面温度は、45℃以下が好ましく、43℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。一方、25℃以上が好ましく、30℃以上がさらに好ましく、35℃以上がより好ましい。
【0067】
インクジェット記録装置が行う記録において、インクの付着が完了した記録媒体を、加熱して、記録を完了させる後乾燥工程(二次乾燥工程)を備えても良い。後乾燥工程は、後乾燥工程用の乾燥機構を用いて行い、乾燥機構は、例えば、伝導ヒーター、送風ファン、IRヒータなどである。加熱、送風などによりインクの乾燥促進を行う。
【0068】
後乾燥工程を行う場合、記録媒体の表面温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。一方、60℃以上が好ましく、70℃以上がさらに好ましく、80℃以上がより好ましい。
【0069】
本実施形態のメンテナンス方法は、上述するような記録が行われたインクジェット記録装置において行われることが好ましい。
【0070】
ノズルプレート112の材質としては、特に制限されないが、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。また、これら材質は、他の金属を含む合金であってもよい。
【0071】
ノズルプレート112の表面には、撥水膜(不図示)が形成されていてもよい。撥水膜がある場合には、その撥水膜表面がノズル形成面12となる。撥水膜は、撥水性を有している膜であれば特に制限されず、例えば、撥水性を有する金属アルコキシドの分子膜を成膜し、その後、乾燥処理、アニール処理等を経て形成することができる。金属アルコキシドの分子膜は撥水性を有していればいかなるものでもよいが、フッ素を含む長鎖高分子基(長鎖RF基)を有する金属アルコキシドの単分子膜、又は、撥水基(例えば、フッ素を含む長鎖高分子基)を有する金属酸塩の単分子膜であることが望ましい。金属アルコキシドとしては、特に限定されないが、その金属種としては、例えば、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウムが一般的に用いられる。長鎖RF基としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキル鎖、及びパーフルオロポリエーテル鎖が挙げられる。この長鎖RF基を有するアルコキシシランとして、例えば、長鎖RF基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。また、撥水膜としては、特に制限されないが、例えば、SCA(silane coupling agent)膜や、特許第4424954号に記載されたものも用いることができる。
【0072】
1.2.4.処理液
処理液は、凝集剤を含み、必要に応じて、水、有機溶剤、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤を含んでいてもよい。
【0073】
1.2.4.1.凝集剤
凝集剤としては、特に制限されないが、例えば、凝集剤が、多価金属塩、有機酸、又はカチオンポリマーが挙げられる。なお、凝集剤は水溶性が好ましい。凝集剤を、常温常圧で、1質量%で水に添加し、十分に撹拌した場合に、溶け残りや白濁が目視で見られない場合を、水溶性の凝集剤とする。
【0074】
多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、無機酸の多価金属塩あるいは有機酸の多価金属塩が好ましい。このような多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、周期表の第2属の典型金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からの典型金属(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)、の塩を挙げることができる。これら多価金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硫酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩が挙げられる。
【0075】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基を有する酸などがあげられ、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸、酢酸などが挙げられる。
【0076】
カチオンポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、アミン系樹脂、カチオン性ウレタン樹脂などが挙げられる。アミン系樹脂は、例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などがあげられる。ポリアミン樹脂は、樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂であればよい。ポリアミド樹脂は、樹脂の主骨格中にアミド基を有し、アミノ基を有する樹脂であればよい。ポリアリルアミン樹脂は、樹脂の主骨格中にアリルアミンに由来する構造を有する樹脂であり、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体などが挙げられる。
【0077】
凝集剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上である。また、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは2~10質量%であり、さらに好ましくは3~7質量%である。凝集剤の含有量が上記範囲内であることにより、得られる記録物の画質がより向上する傾向にある。
【0078】
1.2.4.2.水
処理液は、水系の組成物であることが好ましい。水系の組成物は、組成物の主要な溶媒成分として少なくとも水を含有する組成物である。水の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45~99.5質量%である。
さらに好ましくは、50~90質量%であり、より好ましくは60~80質量%であり、さらに好ましくは65~80質量%である。
【0079】
1.2.4.3.有機溶剤
有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等;ジエチレングリコールモノ(ジ)-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(ジ)-ブチルエーテル等のグリコール系溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドン等の窒素含有溶剤が挙げられる。
含窒素溶剤としては、例えば、環状アミド類、非環状アミド類などがあげられる。環状アミド類としては、上述の2-ピロリドン及びピロリドンの誘導体であるピロリドン類などがあげられる。非環状アミド類としては、例えば、N,N-ジアルキルアミドがあげられる。N,N-ジアルキルアミドとしては、例えば、アルコキシ基を有するアルコキシ-N,N-ジアルキルアミド、アルコキシ基を有さないN,N-ジアルキルアミドなどがあげられる。例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルプロパンアミドなどがあげられる。
【0080】
有機溶剤としては、前述するメンテナンス液に含んでもよい有機溶剤もあげられ、前述するポリオール類、炭素数5以上のアルカンジオールもあげられる。
【0081】
有機溶剤のなかでも、ポリオール類、炭素数5以上のアルカンジオール、窒素含有溶剤が好ましく、例えば、プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、2-ピロリドンが好ましい。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
有機溶剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0083】
1.2.4.4.消泡剤
消泡剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、及びアセチレングリコール系消泡剤が挙げられる。消泡剤の市販品としては、BYK-011、BYK-012、BYK-017、BYK-018、BYK-019、BYK-020、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、BYK-025、BYK-028、BYK-038、BYK-044、BYK-080A、BYK-094、BYK-1610、BYK-1615、BYK-1650、BYK-1730、BYK-1770(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、サーフィノールDF37、DF110D、DF58、DF75、DF220、MD-20、エンバイロジェムAD01(以上商品名、日信化学工業社(Nissin Chemical Industry Co.,Ltd.)製)が挙げられる。消泡剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
消泡剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0085】
1.2.4.5.界面活性剤
界面活性剤としては、上記メンテナンス液で例示したものと同様のものを挙げることができる。界面活性剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.3~2質量%であり、さらに好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0086】
1.2.4.6.pH調整剤
pH調整剤としては、上記メンテナンス液で例示したものと同様のものを挙げることができる。pH調整剤の含有量は、処理液の総質量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0087】
1.2.5.インク組成物
インク組成物としては、例えば、水系インクを例示することができる。水系インクの成分としては、例えば、色材、水、有機溶剤、樹脂、ワックス、消泡剤、界面活性剤、及びpH調整剤などが挙げられる。ここで、「水系」とは水を主要な溶媒成分の1つとする組成物である。
【0088】
1.2.5.1.色材
色材としては、染料、顔料などがあげられる。特に、発色性や耐光性が優れる点で顔料が好ましい。
【0089】
顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン等の無機顔料;キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料等の有機顔料が挙げられる。
【0090】
顔料など色材の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上である。また、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは2~10質量%であり、さらに好ましくは2~7質量%である。顔料など色材の含有量が2質量%以上であることにより、異物が比較的多く発生しやすくなるため洗浄が困難となる。そのため、本発明が特に有用となる。
【0091】
1.2.5.2.水
水の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45~99質量%である。さらには、好ましくは55~80質量%であり、より好ましくは60~75質量%であり、さらに好ましくは65~70質量%である。
【0092】
1.2.5.3.有機溶剤
有機溶剤としては、上記処理液やメンテナンス液で例示したものと同様のものを挙げることができる。有機溶剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは1質量%以上である。さらに好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0093】
1.2.5.4.樹脂
樹脂としては、インク組成物中で溶解するもの、又は、エマルションの形態で分散しているもの(樹脂粒子)が挙げられる。このような樹脂を用いることにより、耐擦性により優れた記録物が得られる傾向にある。特に、記録媒体とインク塗膜との結着性(耐擦性)の向上に寄与する傾向があり、後述する処理液の凝集剤と反応しやすい成分となる。このような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、パラフィン樹脂、フッ素樹脂、及び水溶性樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体を組み合わせた共重合体が挙げられる。なお、アクリル樹脂は、少なくともアクリルモノマーを重合させて得た樹脂であり、アクリルモノマーと他のモノマーとのアクリル共重合体樹脂も含める。アクリルモノマーは(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などの、(メタ)アクリル基を有するモノマーである。他のモノマーとしては、例えばビニルモノマーなどがあげられる。ビニルモノマーとしては例えばスチレンなどがあげられる。アクリル共重合体樹脂としては、スチレンアクリル樹脂などがあげられる。
樹脂は共重合体でもよい。共重合体としては、特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエン樹脂、スチレンアクリル樹脂が挙げられる。また、樹脂としては、これら樹脂を含むポリマーラテックスを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂の微粒子を含むポリマーラテックスが挙げられる。なお、樹脂は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
樹脂の中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などが好ましい。
【0094】
樹脂の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上である。さらには、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは2~12質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。樹脂の含有量が1質量%以上であることにより、得られる記録物耐擦性がより向上する傾向にある。また、樹脂の含有量が15質量%以下であることにより、インクの粘度が低下し吐出安定性に優れ、目詰まり回復性に優れる傾向にある。
【0095】
1.2.5.5.ワックス
ワックスとしては、インク組成物中で溶解するもの、又は、エマルションの形態で分散するものが挙げられる。このようなワックスを用いることにより、耐擦性により優れた記録物が得られる傾向にある。特に、記録媒体上のインク塗膜の表面(空気とインク塗膜の界面)に偏在することによる耐擦性の向上に寄与する傾向がある。このようなワックスとしては、特に制限されないが、例えば、高級脂肪酸と高級1価アルコールまたは2価アルコール(好ましくは1価アルコール)とのエステルワックス、パラフィンワックス、若しくはオレフィンワックス又はこれらの混合物が挙げられる。
【0096】
ワックスの含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.1~5質量%であり、好ましくは0.3~3質量%であり、好ましくは0.5~2質量%である。ワックスの含有量が0.1質量%以上であることにより、得られる記録物の耐擦性がより向上する傾向にある。また、ワックスの含有量が5質量%以下であることにより、インクの粘度が低下し吐出安定性に優れ、目詰まり回復性に優れる傾向にある。
【0097】
1.2.5.6.消泡剤
消泡剤としては、上記処理液で例示したものと同様のものを挙げることができる。消泡剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0098】
1.2.5.7.界面活性剤
界面活性剤としては、上記メンテナンス液で例示したものと同様のものを挙げることができる。界面活性剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.3~2質量%であり、さらに好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0099】
1.2.5.8.pH調整剤
pH調整剤としては、上記メンテナンス液で例示したものと同様のものを挙げることができる。pH調整剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0100】
1.3.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に制限されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。このなかでも、処理液を用いた記録方法として、低吸収又は非吸収性記録媒体を用いることが好ましい。特に、非吸収性記録媒体を用いることが好ましい。
【0101】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)があげられる。または布帛などもあげられる。
低吸収性記録媒体としては、例えば、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。これらは、紙などの基材に、インクの浸透性が比較的低い塗工層が設けられたものであり塗工紙ともいう。塗工層は、水の吸収性の低い、樹脂、無機化合物などからなる層であり、インク吸収性が低い層である。
【0102】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0103】
2.メンテナンス液
本実施形態のメンテナンス液は、上記メンテナンス方法に用いるメンテナンス液であって、水を、メンテナンス液の総質量に対して、80質量%以上含有するものをいう。なお、メンテナンス液の組成については、上述のとおりである。
【0104】
3.インクジェット記録装置
本実施形態のメンテナンス方法に用いるインクジェット記録装置の一例として、図5に、シリアルプリンタの斜視図を示す。図5に示すように、シリアルプリンタ200は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1,T2へ搬送する。
【0105】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対して組成物を吐出するインクジェットヘッド11と、それを搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1,S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0107】
1.1.インクの調製
1.1.1.顔料分散液の調製
St-Ac酸共重合体(メタクリル酸/ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシエチルアクリレート=25/50/15/10の質量比で共重合したもの。重量平均分子量7000、酸価150mgKOH/g)40質量部を、水酸化カリウム7質量部、水23質量部、及びトリエチレングリコール-モノ-n-ブチルエーテル30質量部を混合した液に投入し、80℃で撹拌しながら加熱して樹脂水溶液を調製した。顔料(ピグメントブルー15:3)20質量部、樹脂水溶液10質量部、ジエチレングリコール10質量部、及びイオン交換水60質量部を混合し、ジルコニアビーズミルを用いて分散させて、顔料分散液を得た。
【0108】
表1に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例のインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、顔料分散液の数値は、顔料固形分の質量%を表す。樹脂の数値は樹脂固形分の質量%を表す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1中で使用した略号や製品成分は以下のとおりである。
〔有機溶剤〕
・プロピレングリコール
・2-ピロリドン
・1,2-ヘキサンジオール
〔顔料分散液〕
・シアン分散液(ピグメントブルー15:3)
〔樹脂〕
・ジョンクリル631(BASF社製,スチレンアクリル系樹脂エマルジョン)
〔ワックス〕
・AQUACER531(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエチレン系ワックス)
〔消泡剤〕
・サーフィノールDF110D(日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
〔界面活性剤〕
・BYK348(ビックケミー・ジャパン社製、シリコーン系界面活性剤)
〔pH調整剤〕
・トリエタノールアミン
【0111】
1.2.処理液の調製
表2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の処理液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2中で使用した略号や製品成分は以下のとおりである。
〔有機溶剤〕
・プロピレングリコール
・2-ピロリドン
・1,2-ヘキサンジオール
〔凝集剤〕
・酢酸カルシウム一水和物
・マロン酸
・カチオマスターPD-7(四日市合成社製、カチオン性樹脂:アミン・エピクロルヒドリン縮合型ポリマー)
〔消泡剤〕
・サーフィノールDF110D(日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
〔界面活性剤〕
・BYK348(ビックケミー・ジャパン社製、シリコーン系界面活性剤)
〔pH調整剤〕
・トリエタノールアミン
【0114】
1.3.メンテナンス液の調製
表3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例のメンテナンス液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0115】
【表3】
【0116】
表3中で使用した略号や製品成分は以下のとおりである。
〔有機溶剤〕
・プロピレングリコール
・1,2-ヘキサンジオール
〔界面活性剤〕
・BYK348(ビックケミー・ジャパン社製、シリコーン系界面活性剤)
〔pH調整剤〕
・トリエタノールアミン
【0117】
1.4.1.表面張力
表1~3中に記載の表面張力は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用いて、Wilhelmy法で測定した。具体的には、25℃の環境下で白金プレートをインク組成物、処理液、またはメンテナンス液で濡らしたときに、白金プレートをインク中に引き込もうとする力を測定した。
【0118】
1.4.2.接触角
表3中に記載の接触角は、ポータブル接触角計PCA-11(協和界面科学株式会社製)を用いて、25℃環境で液量5μL、経過時間100msでのメンテナンス液のノズルプレートに対する接触角を測定した。
【0119】
2.インクジェット記録装置
インクジェット記録装置としては、シリアル方式のSC-S40650(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製)を改造して用いた。なお、インクジェットヘッドよりも下流に記録媒体上のインク等を乾燥させるためのヒーターを取り付けた。
【0120】
インクジェットヘッドのノズルプレートとしては、単結晶シリコンで形成されたものを用いた。そして、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)リアクターにSiC14および水蒸気を導入することによって、ノズルプレート表面に、酸化シリコンの膜(SiO2膜)を形成した。その際のSiO2膜の膜厚は50nmであった。その後、さらに酸素プラズマ処理を行ない、C81724SiC13を用いて化学気相蒸着法(CVD)を行なうことでSiO2膜に撥水膜(厚さ10nm)を形成し、撥水膜付きのシリコンノズルプレートを製造した。そして得られたノズルプレートをインクジェットヘッドに用いた。
【0121】
また、インクジェットヘッドとしては、図3に示すように、第1ノズル列Colと第2ノズル列OPが走査方向S1,S2に投影したときに重なる部分を有するようにノズル形成面に配置されたものと(ヘッド構成A)、図4に示すように、第1ノズル列Colと第2ノズル列OPが走査方向S1,S2に投影したときに重なる部分を有さようにノズル形成面に配置されたものを用意した(ヘッド構成B)。ヘッド構成A及びBは、いずれも、ピエゾヘッドを用いた。
【0122】
ヘッド構成A、Bは、固定板が固定されており、ノズル形成面に、図6のようにノズルプレートと固定板との間に段差が生じており、段差を有するノズル形成面であった。
【0123】
また、ヘッド構成A‘も用意した。ヘッド構成A’は、固定板を備えず、ノズル形成面には、上記のような段差は生じていなかった。ヘッド構成A‘は、このこと以外は、ヘッド構成Aと同じとした。
なお、いずれのヘッド構成においても、処理液は図2又は3のノズル列番号1から吐出するようにし、インク組成物はノズル列番号2から吐出するようにした。なお、記録に使用したノズル列は、インク組成物、処理液ごとに、各1ノズル列である。
【0124】
インクジェット記録装置は、図1に示すような払拭機構を有するものとした。払拭機構の払拭部材としては、セルロース繊維から構成された布帛(旭化成社製、製品名「ベンリーゼ」)を用いたものと(ワイパー種類W1)、ポリエステル繊維から構成された布帛(東レ社製、製品名「トレシーMK」)を用いたものを用意した(ワイパー種類W2)。
【0125】
上記のインクジェットヘッドと払拭部材の各構成を組み合わせて、以下の試験を行った。なお、ベタ画質の記録条件としては、記録解像度:720×1440dpi、印字パターン:ベタ画像(シアン単色)、インクの走査回数:8回、印刷温度:40℃、乾燥ヒーターによる二次乾燥温度:90℃、記録媒体:Orajet-3169G(型番、塩ビフィルム、オラフォルジャパン(株))とした。なお、付着量は表4に記載した。また、印刷温度及び二次乾燥温度は、熱電対により記録媒体の温度を測定することにより求めた。
【0126】
印刷温度は、ヘッドと対向する部分の記録媒体の表面温度である。二次乾燥温度は、乾燥ヒータ-から加熱を受ける記録媒体の部分の記録媒体の表面温度である。何れも最高温度とした。
【0127】
3.評価方法
3.1.洗浄性
上記インクジェット記録装置に、インク組成物及び処理液を充填して、上記記録条件でベタ画像を2時間連続で印刷した。そして、印刷後のインクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液を吹き付けたワイパーを用いて、副走査方向T1にワイピングした。なお、用いたメンテナンス液の種類と付着量は、表4に記載のとおりである。ここで、付着量は、1インク(1ノズル列)当たりの量である。
【0128】
上記ワイピング後、ノズル形成面のインクや異物が拭取られているか否かを目視にて確認し、洗浄性を評価した。なお、評価基準は以下に示すとおりである。
(評価基準)
AA:1回のワイピングで十分に拭き取れ、ノズル形成面にインク付着が見られない
A:1回のワイピングではわずかに拭き残しがあるが、2回のワイピングで完全に拭きとれる
B:2回のワイピングでも完全には拭き取れず、ノズル形成面にわずかにインク付着が見られる
C:2回のワイピングでも十分に拭き取れず、ノズル形成面に明らかにインクの付着が見られる
【0129】
3.2.ノズル形成面耐摩耗性
上記インクジェット記録装置に、インク組成物及び処理液を充填して、上記記録条件でベタ画像を1時間連続で印刷した。そして、印刷後のインクジェットヘッドのノズル形成面を、メンテナンス液を吹き付けたワイパーを用いて、副走査方向T1にワイピングした。この印刷とワイピングのサイクルを60000回繰り返し、その後、光学顕微鏡(ユニオン光学株式会社の高精度非接触段差測定機“ハイソメットII”DH2)にて、ノズル付近の撥水膜の状態を測定した。また試験後のインクジェットヘッドの飛行曲がりの発生についても確認した。
【0130】
これら確認結果から、メンテナンス方法がノズル形成面耐摩耗性に与える影響を評価した。評価基準を以下に示す。
(評価基準)
AA:撥水膜剥がれが観察できない。
A:撥水膜剥がれが若干観察されるが、試験後に飛行曲りなし。
B:撥水膜剥がれが若干観察され、試験後に飛行曲がりの発生が確認された。
C:撥水膜剥がれがかなり観察された。
【0131】
3.3.ベタ画質
上記インクジェット記録装置に、インク組成物及び処理液を充填して、上記記録条件でベタ画像を2時間連続で印刷した。得られたベタ画像を目視にて確認し、下記評価基準により画質を評価した。
(評価基準)
A:ベタ画像中にインク組成物が均一になっておらず濃淡に見えるような箇所が無い。
B:ベタ画像中にインク組成物が均一になっておらず濃淡に見えるような箇所が若干認められるが、実用上問題ない
C:ベタ画像中にインク組成物が均一になっておらず濃淡に見えるような箇所がかなり認められる。
【0132】
【表4】
【0133】
4.評価結果
表4に、各例で用いたインクジェット記録装置の構成、インク組成物、処理液、及びメンテナンス液の各条件、並びに、評価結果を示した。
インクと処理液を用いて記録を行い、水の含有量が80質量%以上であるメンテナンス液を用いた実施例は何れも、洗浄性が優れ、画質も優れていた。
これに対し、そうではない比較例は何れも、洗浄性と画質の何れかが劣っていた。以下詳細を記す。
【0134】
実施例1、3を比較すると、メンテナンス液が有機溶剤を含む方が洗浄性が高く、一方で、実施例1と4とを比較すると、有機溶剤の含有量が少ないほうが洗浄性とノズル面耐摩耗性に優れることが分かる。これは、有機溶剤がない場合には、ノズル形成面に固着した異物をふき取りにくく、一方で、有機溶剤が多すぎると、かえって水の含有量が少なくなるため、洗浄性とノズル面耐摩耗性が相対的に低下するためと考えられる。
【0135】
実施例1と5を比較すると、界面活性剤を含まず、表面張力や接触角が大きいほうが、洗浄性に優れることが分かる。
【0136】
実施例7と9の比較から、メンテナンス液に含む有機溶剤としては、炭素数5以上のアルカンジオールが洗浄性などがより優れていた。
【0137】
実施例1と6~8、10、12、13、17を比較すると、凝集剤の種類や量、顔料の量によって、言い換えれば、凝集作用の強さによって、インクの成分が凝集して生成した凝集物により、洗浄性やノズル面耐摩耗性が影響を受けることが分かる。これによれば、洗浄性やノズル面耐摩耗性の向上が処理液を用いることに基づく課題であり、これら実施例によって当該課題が解決されていることが分かる。
【0138】
実施例7と11を比較すると、ヘッド構成Bでは、主走査方向で第1ノズル列Colと第2ノズル列OPが重ならないため、処理液を吐出した影響を第1ノズル列Colが受けにくく、結果として、洗浄性やノズル面耐摩耗性に優れ、ベタ画質としても優れることが分かる。
【0139】
実施例1と15を比較すると、セルロース繊維から構成されたワイパーW2を払拭部材として用いることにより、洗浄性やノズル面耐摩耗性に優れることが分かる。さらに、実施例7と16を比較すると、ノズル形成面に段差がないほうが洗浄性やノズル面耐摩耗性に優れることが分かる。
【0140】
実施例7と16の比較から、ノズル形成面に段差を有さないヘッドのほうが、洗浄性などがより優れていた。なお段差を有するヘッドはノズル形成面のノズル列の部分が、他の物と擦れたりぶつかったりし難く、保護されやすかった。このような段差を有するヘッドでも優れた洗浄性が得られる点で本メンテナンス方法が有用であった。
【0141】
比較例1、2は、水の含有量が80質量%未満であり、洗浄性が劣っていた。さらに、払拭部材に吸収しきれないインク凝集物がノズル形成面に残りやすく、ノズル面耐摩耗性も劣った。
比較例3~5は、処理液を用いない場合に、得られる画質が劣った。なお、比較例5と実施例4とを比較すると、処理液を用いない場合は、用いる場合と比べ洗浄性やノズル面耐摩耗性が良かった。処理液によりインクの成分が凝集して生成した凝集物が、洗浄性や
ノズル面耐摩耗性を低下させていることが判った。
【符号の説明】
【0142】
11…インクジェットヘッド、12…ノズル形成面、21…払拭部材、22…第1ロール、23…第2ロール、24…第1噴射機、25…第2噴射機、26…プール、31…メンテナンス液、111…ノズル孔、112…ノズルプレート、114…圧力室、115…加圧部、116…インク供給室、117…ノズル列、118…固定板、119…間、200…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6