(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】フェノール樹脂組成物シート、剥離フィルム付フェノール樹脂組成物シート、Bステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法、硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法、および炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20241112BHJP
C08L 61/10 20060101ALI20241112BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20241112BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20241112BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20241112BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241112BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20241112BHJP
B29K 61/04 20060101ALN20241112BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
C08L61/10
C08L29/14
B29C70/06
B29C70/34
B32B27/30 102
B32B27/42 101
B29K61:04
B29K105:06
(21)【出願番号】P 2020094058
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕司
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-081340(JP,A)
【文献】特開平03-081383(JP,A)
【文献】特開平03-081341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
C08L 61/10
C08L 29/14
B29C 70/06
B29C 70/34
B32B 27/30
B32B 27/42
B29K 61/04
B29K 105/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材の少なくとも一表面上にフェノール樹脂組成物の層を配置し、前記フェノール樹脂組成物の層を加熱することにより前記フェノール樹脂組成物を溶融して液状化し、前記基材に含浸させる工程に用いられる、フェノール樹脂組成物シートであって、
レゾール型フェノール樹脂と、
ポリビニルブチラールと、
を含み、
前記レゾール型フェノール樹脂が、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、60質量%以上95質量%以下の量であり、
前記ポリビニルブチラールが、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、5質量%以上40質量%以下の量であり、
Bステージ状であり、
シート状であ
り、
最低溶融粘度が、5000Pa・s以下である、フェノール樹脂組成物シート。
【請求項2】
5μm以上200μm以下の厚みを有する、請求項1に記載のフェノール樹脂組成物シート。
【請求項3】
JIS K 6910に準じて測定される残炭率が、30質量%以上である、請求項1
または2に記載のフェノール樹脂組成物シート。
【請求項4】
剥離フィルムと、
前記剥離フィルムの一方の面に積層された、請求項1~
3のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートと、を備える剥離フィルム付フェノール樹脂組成物シート。
【請求項5】
シート状基材の少なくとも一方の面上に、請求項1~
3に記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程を含む、
Bステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、請求項
5に記載のBステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【請求項7】
シート状基材の少なくとも一方の面上に、請求項1~
3のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【請求項8】
前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、請求項
7に記載の硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【請求項9】
シート状基材の少なくとも一方の面上に、請求項1~
3のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記硬化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を炭素化して、炭素化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【請求項10】
前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、請求項
9に記載の炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物シート、当該フェノール樹脂組成物シートを用いた剥離フィルム付フェノール樹脂組成物シート、当該フェノール樹脂組成物シートを用いた、Bステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法、硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法、および炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オートマチック車等の自動変速機には、エンジンとトランスミッション(変速機)の間に取り付けられ、発進、停止、変速時にエンジンの力をトランスミッションに伝えたり遮断したりするために、クラッチが使用されている。摩擦材は、当該クラッチが適切に機能するために用いられるが、一般に、オイルを使用する「湿式摩擦材」と、オイルを使用しない「乾式摩擦材」とに分けられる。湿式摩擦材は、オイルを使用することにより、摩擦熱の上昇を抑制することができる。
【0003】
湿式摩擦材は、通常、パルプなどの繊維および添加剤を原料として抄紙体(繊維基材)を製造し、次いで、抄紙体に熱硬化性樹脂を含浸させて、含浸後の抄紙体を加熱処理することによって製造される。このようにして製造された湿式摩擦材は多孔質であり、表面及び内部に無数の連続的な気孔を有している。
【0004】
湿式摩擦材の製造に用いられる熱硬化性樹脂としては、アルコールやケトン系有機溶剤を溶媒としたレゾール型フェノール樹脂が一般的に用いられている。湿式摩擦材が劣化すると駆動力の伝達効力が低下するため、湿式摩擦材には高い耐久性が要求される。そのため、繊維基材に含浸させる熱硬化性樹脂においても、耐熱性の向上や硬化性の改善が求められる。また、熱硬化性樹脂の粘度が高い場合には繊維基材への含浸性が低下して所望の湿式摩擦材が得られないため、良好な含浸性が求められる。これらの課題を改善するための種々の提案がなされており、たとえば、特許文献1では、熱硬化性樹脂を低粘度化することにより繊維基材への含浸性を改善する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら繊維基材に含浸させて使用する有機溶剤を含む室温で液状のフェノール樹脂は、摩擦材の製造工程において有機溶剤が揮発するため、環境負荷や作業環境の観点から不利であった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、有機溶剤の揮発の問題がなく、取り扱い性や作業性が優れるとともに、繊維基材に対する含浸性が良好である、シート状のフェノール樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、有機溶剤を含まないシート状物として提供することにより、揮発溶剤の問題が生じず、取り扱い性に優れ、特定の成分を含む特定の配合量で含む樹脂組成物を用いることにより溶融時の繊維基材に対する良好な含浸性を実現でき、よって湿式摩擦材の材料として好適に使用できるフェノール樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、
シート状基材の少なくとも一表面上にフェノール樹脂組成物の層を配置し、前記フェノール樹脂組成物の層を加熱することにより前記フェノール樹脂組成物を溶融して液状化し、前記基材に含浸させる工程に用いられる、フェノール樹脂組成物シートであって、
レゾール型フェノール樹脂と、
ポリビニルブチラールと、
を含み、
前記レゾール型フェノール樹脂が、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、60質量%以上95質量%以下の量であり、
前記ポリビニルブチラールが、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、5質量%以上40質量%以下の量であり、
Bステージ状であり、
シート状であり、
最低溶融粘度が、5000Pa・s以下である、フェノール樹脂組成物シートが提供される。
【0010】
また本発明によれば、
シート状基材の少なくとも一方の面上に、上記フェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程を含む、
Bステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法が提供される。
【0011】
また本発明によれば、
シート状基材の少なくとも一方の面上に、上記フェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法が提供される。
【0012】
また本発明によれば、
シート状基材の少なくとも一方の面上に、上記フェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記硬化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を炭素化して、炭素化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフェノール樹脂組成物によれば、シート形状であることにより、湿式摩擦材の製造において使用する際の取り扱い性に優れる。また本発明のフェノール樹脂組成物は、特定の組成を有することにより、加熱により溶融された際に、繊維基材に対する良好な含浸性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、Bステージ状態(半硬化状態)のシート状であり、湿式摩擦材を製造において繊維基材の結着剤として用いられる樹脂材料である。本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、湿式摩擦材の繊維基材(抄造体)であるシート状基材の少なくとも一表面上にフェノール樹脂組成物の層を配置し、このフェノール樹脂組成物の層を加熱することによりフェノール樹脂組成物を溶融して液状化し、シート状基材にこの液状フェノール樹脂組成物を含浸させる工程を含む湿式摩擦材の製造に用いられる。
【0015】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、室温でシート状であるため、取り扱い性や保管性に優れる。また本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、加熱により溶融された際に、繊維基材(抄造体)の内部に浸透するのに適切な粘度となる。したがって繊維基材内部まで容易に含浸させることができる。本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、レゾール型フェノール樹脂と、ポリビニルブチラールとを含み、レゾール型フェノール樹脂は、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、50質量%以上95質量%以下の量である。以下に、本実施形態のフェノール樹脂組成物シートに用いられる各成分について説明する。
【0016】
(レゾール型フェノール樹脂)
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートに用いられるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール樹脂とアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で反応させて得られるフェノール樹脂である。
【0017】
レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるフェノール類としては、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体:1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類;およびレゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類等が挙げられる。これらは、単独でかまたは2種以上混合して使用できる。
【0018】
レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらのアルデヒド類の前駆体あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできる。中でも、製造コストの観点から、ホルムアルデヒド水溶液を使用することが好ましい。
【0019】
レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0020】
レゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される反応溶媒としては、水が一般的であるが、有機溶媒を使用してもよい。このような有機溶媒の具体例としては、アルコール類、ケトン類、芳香族類等が挙げられる。またアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。芳香族類の具体例としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0021】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートにおいて、レゾール型フェノール樹脂の含有量は、フェノール樹脂組成物シート全体に対して、50質量%以上95質量%以下であり、好ましくは、60質量%以上95%質量%以下であり、より好ましくは、70質量%以上90質量%以下である。レゾール型フェノール樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートの溶融時の粘度を低く抑えることができ、よって繊維基材に対する含浸性を向上することができる。また、レゾール型フェノール樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートは、湿式摩擦材として使用するのに十分な耐熱性および耐久性を備える。さらにレゾール型フェノール樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートの残炭率を高く維持することができ、よって当該シートを用いて製造される湿式摩擦材は、耐熱性および機械的強度において優れる。
【0022】
(ポリビニルブチラール)
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートに用いられるポリビニルブチラールは、液状のレゾール型フェノール樹脂を固形化する作用を有し、シート形成材として働く。またポリビニルブチラールを用いることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートに、可撓性を付与することができる。よって、本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、所望の寸法に切断したり、目的の用途に応じて所望の形状に打ち抜き加工したりすることができる。ポリビニルブチラールは、酸触媒の存在下、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりブチラール化することにより得られる樹脂である。
【0023】
ポリビニルブチラールの重量平均分子量は、取り扱い性等の観点から、好ましくは1.0×104~1.0×106であり、より好ましくは2.0×104~5.0×105であり、さらに好ましくは3.0×104~2.0×105である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されたポリスチレン換算によるものをいう。
【0024】
ポリビニルブチラールの重合度は、200~3000の範囲が好ましい。重合度を200以上とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートの機械的強度を確保することができ、重合度を3000以下とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートが適度な可撓性を有し、取扱い性に優れたものとなり得る。
【0025】
ポリビニルブチラールの含有量は、フェノール樹脂組成物全体に対し、たとえば、2質量%以上50質量%以下であり、好ましくは、5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以上30質量%以下である。ポリビニルブチラールの含有量を上記下限値以上とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートは、シートの形状を維持するのに十分な強度および可撓性を有し、使用時に繊維基材上に配置される際の取り扱い性に優れる。また、ポリビニルブチラールの含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートの溶融時の粘度を低く抑えることができ、よって繊維基材に対する含浸性を向上することができる。またポリビニルブチラールの含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートは、湿式摩擦材として使用するのに十分な耐熱性および耐久性を備える。さらにポリビニルブチラールの含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるフェノール樹脂組成物シートの残炭率を高く維持することができ、よって当該シートを用いて製造される湿式摩擦材は、耐熱性および機械的強度において優れる。
【0026】
(その他の成分)
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、レゾルシン類をさらに含んでもよい。レゾルシン類を含むことにより、フェノール樹脂組成物シートの硬化速度を向上することができる。レゾルシン類の具体例としては、レゾルシン、2-メチルレゾルシン、5-メチルレゾルシン、2,5-ジメチルレゾルシン等のメチルレゾルシン類、4-エチルレゾルシン、4-クロロレゾルシン、2-ニトロレゾルシン、4-ブロモレゾルシン、4-n-ヘキシルレゾルシンなどが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。中でも、製造コストとシート成形性の観点から、レゾルシン、またはメチルレゾルシンを用いることが好ましい。
【0027】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、上記成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、ニトリルブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンゴム等のエラストマー、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、シランカップリング剤等の添加剤を含んでもよい。
【0028】
(フェノール樹脂組成物シートの作製)
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、上記成分を有機溶剤に溶解して得られる液状またはワニス状のフェノール樹脂組成物を、基材シート等に塗布し、加熱処理により有機溶剤を除去してシート状に成形し、その後加熱処理によりBステージ状態(半硬化状態)にすることにより作製される。フェノール樹脂組成物シートの厚みは、5μm以上200μm以下であることが好ましい。フェノール樹脂組成物シートは、幅10mm以上100mm以下の範囲のテープ状、または幅10cm以上200cm以下の範囲のシート状とすることができる。
【0029】
ワニス状のフェノール樹脂組成物に用いられる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶媒、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒およびこれらの混合物が挙げられる。中でも、メタノールが好ましく用いられる。
【0030】
ワニス状のフェノール樹脂組成物は、上記成分を有機溶剤中で混練して作製される。混練は、通常の攪拌機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて行うことができる。
【0031】
ワニス状のフェノール樹脂組成物をシート状に成形する工程は、基材シートに、ワニス状フェノール樹脂組成物を塗布し、加熱乾燥して有機溶剤を除去して、フェノール樹脂組成物層を形成させることにより行われる。加熱乾燥の条件は、使用された有機溶剤が揮発する条件であればよく、例えば、50℃~150℃の温度で、1分~90分間の時間で行われる。
【0032】
上述のようにして得られたフェノール樹脂組成物層は、さらに加熱処理を行うことにより、半硬化(Bステージ)状態とされる。半硬化状態とするための加熱処理としては、100~200℃の温度で、1分~60分の時間の条件を用いることができる。
【0033】
シート状基材としては、上述の加熱乾燥条件に耐え得るものであれば特に制限されず、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリスルホン系フィルム、ポリーエーテルケトン系フィルム等が使用される。これらのシート状基材は、その表面が離型剤で処理されていてもよい。基材シートは、フェノール樹脂組成物層が形成された後に除去してもよい。また、このようにして得られたフェノール樹脂組成物シートは、基材シートと対向した面とは反対の面に、剥離フィルムが設けられた、剥離フィルム付フェノール樹脂組成物シートとして提供されてもよい。剥離フィルムとしては、基材シートと同様のものを用いることができる。
【0034】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートの最低溶融粘度は、例えば、5000Pa・s以下であり、好ましくは、4000Pa・s以下であり、より好ましくは、3000Pa・s以下である。最低溶融粘度は、用いるフェノール樹脂の種類、およびポリビニルブチラールの配合量を上述の範囲とすることにより調整することができる。フェノール樹脂組成物シートの最低溶融粘度の下限値は、例えば、200Pa・s以上である。上記範囲の最低溶融粘度であれば、繊維基材内部まで容易に含浸させることができ、室温で液状の含浸用フェノール樹脂組成物を用いた場合と同程度の含浸性とすることができる。
【0035】
ここで、フェノール樹脂組成物シートの最低溶融粘度とは、このフェノール樹脂組成物シートが加熱により溶融された際に、フェノール樹脂組成物が呈する最低の粘度をいう。詳細には、一定の昇温速度でフェノール樹脂組成物シートを加熱して樹脂を溶融させると、初期の段階は溶融粘度が温度上昇とともに低下し、その後、ある程度を超えると温度上昇とともに溶融粘度が上昇する。最低溶融粘度とは、斯かる極小点の溶融粘度をいう。樹脂組成物層の最低溶融粘度は、動的粘弾性法により測定することができる。
【0036】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、残炭率が、たとえば、30質量%以上であり、好ましくは、35質量%以上であり、より好ましくは、40質量%以上である。フェノール樹脂組成物シートの残炭率の上限値は特に制限されないが、例えば、80質量%以下である。本明細書中において、フェノール樹脂組成物シートの残炭率は、JIS K6910に準じて測定される、800℃の温度における残炭率である。本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、上述のレゾール型フェノール樹脂を、上述の配合量で含むことにより、30質量%以上の残炭率を有する。このようなフェノール樹脂組成物シートは、耐熱性に優れ、よってこれを用いて製造される湿式摩擦材は、優れた耐熱性を有する。
【0037】
(フェノール樹脂組成物シートの用途)
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、フェノール樹脂組成物に含浸された繊維基材(前駆体シート)を硬化、焼成(炭化)処理することにより作製される湿式摩擦材に用いられる。
一実施形態において、フェノール樹脂組成物に含浸された繊維基材(前駆体シート)は、繊維基材と、繊維基材に含浸されたBステージ状のフェノール樹脂組成物とから構成される、Bステージ化フェノール樹脂複合シートとして提供される。このBステージ化フェノール樹脂複合シートは、以下の工程により製造される。
(A1)シート状基材(繊維基材)を準備する工程;
(A2)シート状基材の少なくとも一方の面上に本実施形態のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程;
(A3)このフェノール樹脂組成物シートを加熱することによりフェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、液状化フェノール樹脂組成物をシート状基材に含浸させる工程、樹脂含浸シート(Bステージ化フェノール樹脂複合シート)を作製する工程。
【0038】
上記工程(A1)のシート状基材を準備する工程は、炭素繊維またはアラミド繊維を抄紙し、シート状の基材を作製する工程である。シート状基材は市販の製品を使用してもよい。シート状基材は湿式摩擦材となる繊維基材(抄造体)であり、これには摩擦を制御する摩擦調整剤等の添加剤を添加してもよい。
【0039】
上記工程(A2)は、(A1)で準備したシート状基材の一方の面または両面に、本実施形態のフェノール樹脂組成物シートを積層した後、これを加熱により溶融して、シート状基材に含浸させる工程である。本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、シート状であるため、シート状基材に積層する工程が容易であり、フェノール樹脂組成物をシート状基材に含浸させる工程を、液状のフェノール樹脂を繊維基材に含浸させる手法に比べて、比較的簡単に実施することができる。
【0040】
工程(A2)において、フェノール樹脂組成物シートが積層されたシート状基材を加熱する工程は、加圧下で実施されることが好ましい。これにより、溶融したフェノール樹脂組成物は、シート状基材に含浸し易くなる。加熱、加圧の条件は、例えば、60℃~150℃の温度、1MPa~50MPaの圧力が用いられる。
【0041】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、有機溶剤をほとんどまたは全く含まないため、加熱時に溶剤の揮発が生じない。そのため、良好な作業環境が保障される。また、シート状のフェノール樹脂組成物を繊維基材上に配置する工程は一工程で実施できるため、作業効率が改善される。
【0042】
本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、シート状基材上に配置される前に、シート状基材の寸法および形状と一致するように切り抜き加工してもよい。また、本実施形態のフェノール樹脂組成物シートは、所望に応じて、シート状基材上に1シートのみ配置してもよいし、2シート以上の複数を配置してもよい。
【0043】
一実施形態において、フェノール樹脂組成物に含浸された繊維基材は、繊維基材と、硬化されたフェノール樹脂組成物とから構成される、硬化フェノール樹脂複合シートとして提供される。硬化フェノール樹脂複合シートは、以下の工程により製造することができる。
(A4)上記(A3)で得られたBステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱処理して、Bステージ状態のフェノール樹脂組成物を完全硬化させる工程。
【0044】
上記工程(A4)のフェノール樹脂組成物を完全硬化させる工程は、例えば、100℃~200℃の温度下で、3分~3時間の時間、加熱することにより実施することができる。
【0045】
一実施形態において、フェノール樹脂組成物に含浸された繊維基材は、繊維基材と、炭素化されたフェノール樹脂組成物とから構成される、炭素化フェノール樹脂複合シートとして提供される。炭素化フェノール樹脂複合シートは、以下の工程により製造することができる。
(A5)上記(A4)で得られた硬化フェノール樹脂複合シートを加熱処理して、硬化フェノール樹脂組成物を炭素化する工程。
【0046】
上記工程(A5)のフェノール樹脂組成物を炭素化する工程は、例えば、350℃~2000℃の温度下で、1時間~8時間の時間、加熱することにより実施することができる。
【0047】
本実施形態の炭素化フェノール樹脂複合シートは、湿式摩擦材として使用することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. シート状基材の少なくとも一表面上にフェノール樹脂組成物の層を配置し、前記フェノール樹脂組成物の層を加熱することにより前記フェノール樹脂組成物を溶融して液状化し、前記基材に含浸させる工程に用いられる、フェノール樹脂組成物シートであって、
レゾール型フェノール樹脂と、
ポリビニルブチラールと、
を含み、
前記レゾール型フェノール樹脂が、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、50質量%以上95質量%以下の量であり、
Bステージ状であり、
シート状である、フェノール樹脂組成物シート。
2. 前記ポリビニルブチラールが、当該フェノール樹脂組成物シート全体に対して、2質量%以上50質量%以下の量である、1.に記載のフェノール樹脂組成物シート。
3. 5μm以上200μm以下の厚みを有する、1.または2.に記載のフェノール樹脂組成物シート。
4. 最低溶融粘度が、5000Pa・s以下である、1.~3.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シート。
5. JIS K 6910に準じて測定される残炭率が、30質量%以上である、1.~4.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シート。
6. 剥離フィルムと、
前記剥離フィルムの一方の面に積層された、1.~5.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートと、を備える剥離フィルム付フェノール樹脂組成物シート。
7. シート状基材の少なくとも一方の面上に、1.~5.に記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程を含む、
Bステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
8. 前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、7.に記載のBステージ化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
9. シート状基材の少なくとも一方の面上に、1.~5.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
10. 前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、9.に記載の硬化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
11. シート状基材の少なくとも一方の面上に、1.~5.のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物シートを積層する工程と、
前記フェノール樹脂組成物シートを加熱することにより前記フェノール樹脂組成物シートを溶融して液状化し、前記液状化フェノール樹脂組成物を前記シート状基材に含浸させて、Bステージ化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記Bステージ化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を完全硬化させて、硬化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
前記硬化フェノール樹脂複合シートを加熱して、前記フェノール樹脂組成物を炭素化して、炭素化フェノール樹脂複合シートを得る工程と、
を含む、炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
12. 前記シート状基材が、炭素繊維、またはアラミド繊維からなる繊維基材である、11.に記載の炭素化フェノール樹脂複合シートの製造方法。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を、実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール(100重量部)、37%ホルマリン水溶液(151重量部)(F/Pモル比=1.7)、トリエチルアミン5重量部を添加し、還流条件下で40分間反応させた。その後、91kPaの減圧条件下で脱水を行いながら系内の温度が70℃に達したところでメタノール(40重量部)を加えて、80℃で2時間反応させ、レゾール型フェノール樹脂を得た。
これに、メタノール(120重量部)、ポリビニルブチラール樹脂(計算分子量40,000、積水化学工業製、エスレックBM-1)(30重量部)を加えて溶解させて混合し、ポリビニルブチラール変性フェノール樹脂ワニスを得た。このワニスを、バーコーターを用いてwet膜厚100μmで塗工した後、80℃の乾燥機で15分乾燥させることで、レゾール型フェノール樹脂75質量%、ポリビニルブチラール20質量%を含有するフェノール樹脂組成物シート1を得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1におけるポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業製、エスレックBM-1)を、積水化学工業製ポリビニルブチラール樹脂エスレックBH-3(計算分子量110,000)に変えた以外は実施例1と同様の方法を用いて、レゾール型フェノール樹脂75%、ポリビニルブチラール20%を含有するフェノール樹脂組成物シート2を得た。
【0052】
(比較例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール(100重量部)、37%ホルマリン水溶液(151重量部)(F/Pモル比=1.7)、トリエチルアミン(5重量部)を添加し、還流条件下で40分間反応させた。その後、91kPaの減圧条件下で脱水を行いながら系内の温度が70℃に達したところでメタノール(40重量部)を加えて、80℃で2時間反応させ、レゾール型フェノール樹脂を得た。
これに、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業製、エスレックBH-3)の80%メタノール溶液、110重量部を加えて溶解させて混合し、ポリビニルブチラール変性フェノール樹脂ワニスを得た。このワニスを、バーコーターを用いてwet膜厚100μmで塗工した後、80℃の乾燥機で15分乾燥させることで、レゾール型フェノール樹脂35質量%、ポリビニルブチラール60質量%を含有するフェノール樹脂組成物シート3を得た。
【0053】
(比較例2)
日東シンコー株式会社製のエポキシ樹脂シートを使用した。
【0054】
(比較例3)
ソマール株式会社製のアクリルポリマーシートを使用した。
【0055】
(参考例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール(100重量部)、37%ホルマリン水溶液(151重量部)(F/Pモル比=1.7)、トリエチルアミン5重量部を添加し、還流条件下で40分間反応させた。その後、91kPaの減圧条件下で脱水を行いながら系内の温度が70℃に達したところでメタノール(40重量部)を加えて、80℃で2時間反応させ、レゾール型フェノール樹脂を得た。
これにメタノール(120重量部)、ポリビニルブチラール樹脂(30重量部)を加えて溶解させて混合し、レゾール型フェノール樹脂30質量%、ポリビニルブチラール樹脂20質量%、メタノール50質量%を含有する液状フェノール樹脂組成物を得た。
【0056】
(物性評価)
各実施例、比較例および参考例の樹脂シートまたは液状組成物について、以下の物性を測定し、樹脂シートの性能を評価した。結果を表1に示す。
(最低溶融粘度)
フェノール樹脂組成物シートまたは液状組成物をARE-G2レオメーターにて、30℃から200℃まで10℃/分の条件で昇温しながら複素粘度を測定し、最も低い粘度を最低溶融粘度とした。
(残炭率)
JIS K 6910に準じて、樹脂シートの残炭率を測定した。
(引張強度)
120mm×10mm×厚さ1mmのアラミド繊維基材上に樹脂シートを置き、熱プレス機で100℃、3MPaで3分間プレスすることで含浸させてから、190℃のオーブンで30分間乾燥硬化させることで、硬化シートを試験片として得た。得られた硬化物を、引張強度試験機を用いて、JIS K6911に準じて、25℃、引張速度1mm/分の条件で引張強度を測定した。
(耐熱引張強度)
上述の硬化物を、250℃の環境下に30分載置した後、再度、引張強度試験機を用いて、JIS K6911に準じて、25℃、引張速度1mm/分の条件で耐熱引張強度を測定した。
(含浸性)
120mm×10mm×厚さ1mmのアラミド繊維基材上に樹脂シートを置き、熱プレス機で100℃、3MPaで3分間プレスすることで含浸させてから、190℃のオーブンで30分間乾燥硬化させることで、硬化シートを試験片として得た。含浸後、シートの下面まで樹脂が浸透していれば「○」、一部浸透していれば「△」、まったく浸透していなければ「×」として評価した。
【0057】
【0058】
実施例の樹脂シートは、繊維基材に対する含浸性が良好であるとともに、その硬化物の機械的強度においても優れており、摩擦材として好適に使用できる材料であった。