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  • 特許-積層構造および積層方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】積層構造および積層方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/80 20060101AFI20241112BHJP
   B32B 21/12 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
E04B1/80 100Q
B32B21/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020131652
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028325
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 夏美
(72)【発明者】
【氏名】藤生 直人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 博則
(72)【発明者】
【氏名】山木戸 勇也
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-098925(JP,U)
【文献】実開昭58-133423(JP,U)
【文献】特開2016-010891(JP,A)
【文献】特開2005-171744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 5/00-5/48
E04C 2/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質構造層と、
前記木質構造層に積層された気泡緩衝材を含む断熱層と、
前記断熱層に積層されたセメント組成物層と、を有し、
前記断熱層は、
前記気泡緩衝材における複数の気泡部の間を埋める粒子材を有する
積層構造。
【請求項2】
木質構造層と、
前記木質構造層に積層された気泡緩衝材を含む断熱層と、
前記断熱層に積層されたセメント組成物層と、を有し、
前記断熱層は、
前記気泡緩衝材における複数の気泡部の間を埋める打設されたセメントを有する
積層構造。
【請求項3】
木質構造層の上面を覆う気泡緩衝材を含んだ断熱層を形成する工程と、
前記断熱層の上で作業員がセメントを打設して、前記断熱層の上面を覆うセメント組成物層を形成する工程と、を有する
積層方法。
【請求項4】
木質構造層の上面を覆う気泡緩衝材を含んだ断熱層を形成する工程と、
セメントを打設して、前記断熱層の上面を覆うセメント組成物層を形成する工程と、を有し、
前記断熱層を形成する工程では、
前記木質構造層の上面を覆う気泡緩衝材を配置したのち、前記気泡緩衝材における複数の気泡部の間を埋めるように粒状物を撒布する
積層方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造層を主材として用いた積層構造および積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質構造層を主材とする積層構造の床として、例えば特許文献1の図2には、CLT(Cross Laminated Timber)板からなる木質構造層に対してセメント組成物層が積層された床が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-26660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した積層構造を中高層の建築物などを構成する床に適用した場合、要求される耐火性能を満たすためには、セメント組成物層の厚さを大きくしなければならない。そのため、床全体としての重量が大きくなってしまう。なお、こうした問題は、床に限らず、同様の積層構造を有する壁などにも共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する積層構造は、木質構造層と、前記木質構造層に積層された気泡緩衝材を含む断熱層と、前記断熱層に積層されたセメント組成物層と、を有する。
上記課題を解決する積層方法は、木質構造層の上面を覆う気泡緩衝材を含んだ断熱層を形成する工程と、セメントを打設して、前記断熱層の上面を覆うセメント組成物層を形成する工程と、を有する。
【0006】
これにより、木質構造層とセメント組成物層との間に気泡緩衝材による断熱層が形成されることから、セメント組成物層と木質構造層との間の伝熱を抑えることができる。その結果、セメント組成物層を薄くしても積層構造の耐火性が向上することから、積層構造の重量を低減することができる。
【0007】
上記構成の積層構造において、前記断熱層は、前記気泡緩衝材における複数の気泡部の間を埋める粒子材を有することが好ましい。
上記構成の積層方法において、前記断熱層を形成する工程では、前記木質構造層の上面を覆う気泡緩衝材を配置したのち、前記気泡緩衝材における複数の気泡部の間を埋めるように粒状物を撒布することが好ましい。
【0008】
これにより、気泡緩衝材に作用する荷重を粒子材で受けることができるため、セメント組成物層の形成時に気泡部を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】積層構造の一実施形態を有する積層構造体の概略構成を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、積層構造の一実施形態について説明する。
図1に示すように、積層構造の一実施形態を有する積層構造体10は、中高層の建築物の床に適用される。各階の床は、複数の積層構造体で構成される。積層構造体10は、木質構造層11を主材として構成されている。積層構造体10においては、木質構造層11に対して、断熱層12、セメント組成物層14が積層されている。また、積層構造体10においては、断熱層12とセメント組成物層14とを合わせた耐火性が、建築物に要求される耐火性能(以下、要求耐火性能という。)を満たすように構成される。
【0011】
木質構造層11は、積層構造体10に作用する荷重を単体で支えることのできる構造体として機能可能な厚さを有する木材で構成される。木質構造層11は、建築物を構成する柱や梁などに支持されるように設置される。木質構造層11は、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)板で構成される。木質構造層11がCLT板で構成される場合、その厚さの一例は、150mmである。
【0012】
断熱層12は、木質構造層11の上面を覆っている。断熱層12は、気泡緩衝材12aを含んで構成されている。断熱層12は、気泡緩衝材12aに加えて、粒子材12bを含んで構成されてもよい。
【0013】
気泡緩衝材12aは、防水性に優れた材料で構成される。気泡緩衝材12aは、例えばポリエチレンシートからなる2枚のシートが貼り合わされたシート状の部材である。気泡緩衝材12aは、平面上に配列された複数の気泡部12cを有する。複数の気泡部12cは、マトリクス状(並行配列)に配列されてもよいし、互い違い(交互配列)に配列されてもよい。各気泡部12cは、例えば、上面視において円形状をなしている。
【0014】
各気泡部12cは、10mm~40mmの厚さの空気層を形成することが好ましい。空気層の厚さが10mm以上であることにより、気泡緩衝材12aによる断熱性能を確実に得ることができる。空気層の厚さが40mm以下であることにより、気泡部12c内での空気の対流が抑えられるため、その対流に起因した断熱性能の低下を抑えることができる。各気泡部12cは、空気層の厚さが20mm程度であることが好ましい。
【0015】
断熱層12を形成する工程では、木質構造層11の上面を覆うように気泡緩衝材12aを拡げたのち、その気泡緩衝材12aをタッカーなどを用いて木質構造層11に固定する。このようにして気泡緩衝材12aが固定されることにより、気泡緩衝材12aの積層に要する作業時間を短くすることができる。気泡緩衝材12aは、設置後の木質構造層11に対して積層される構成であってもよいし、設置前の木質構造層11に対して積層される構成であってもよい。
【0016】
粒子材12bは、複数の気泡部12cの間の隙間を埋めている。粒子材12bは、複数の気泡部12cの間の隙間よりも小さな粒径を有する複数の粒状物で構成される。粒子材12bは、断熱層12に対する上方からの荷重を木質構造層11に伝達することで、その荷重から気泡緩衝材12aの気泡部12cを保護する。断熱層12を形成する工程では、複数の気泡部12cの間を埋めるように、気泡緩衝材12aに対して、例えば珪砂などの粒状物を撒布する。粒子材12bは、気泡部12cの全てを覆い隠すように形成されてもよいし、気泡部12cの上部が露出するように形成されてもよい。
【0017】
セメント組成物層14は、断熱層12の上面を覆っている。セメント組成物層14は、耐火性を有している。セメント組成物層14を形成する工程では、断熱層12に対して、例えばモルタルやコンクリート、セルフレベリング材などのセメントを打設し、硬化させる。断熱層12が粒子材12bを有することにより、作業員による断熱層12上での打設作業を、断熱層12への荷重、特に気泡部12cへの荷重を気にすることなく行うことができる。セメント組成物層14は、荷重を支える構造体としての機能よりも耐火性を優先させた厚みを有している。また、断熱層12に打設されたセメントは、その一部が粒子材12bに染み込んだ状態で硬化する。このため、粒子材12bの強度、ひいては、断熱層12の強度を高めることができる。
【0018】
なお、セメント組成物層14には、化粧層が積層されることが好ましい。化粧層は、例えば、木目調の合板を含んで構成される。こうした化粧層が設けられることにより、積層構造体10の意匠性を向上させることができる。
【0019】
(作用)
上述した積層構造体10においては、断熱層12とセメント組成物層14とで要求耐火性能を満たすように構成される。これにより、要求耐火性能を満たす層をセメント組成物層14で構成した場合よりも厚さを低減することができる。また、積層構造体10の軽量化を図ることができる。
【0020】
本実施形態の効果について説明する。
(1)木質構造層11を主材とする積層構造体10において、要求耐火性能を満たしつつ、積層構造体10の軽量化を図ることができる。
【0021】
(2)一般的に、中高層の建築物は、下階側から柱や梁、床の設置が行われたのち、屋根が設置される。このため、屋根が設置されるまでは、屋外に晒された状態にある床が存在する。また、中高層の建築物は、施工期間が長期にわたるため、施工期間中に雨が降ることもある。雨天時、屋外に晒された状態にある床は、雨晒しとなる。木質構造層を用いた床においては、腐食防止等の観点から木質構造層への雨水の浸入を抑える必要がある。
【0022】
この点、上述した積層構造体10においては、木質構造層11に気泡緩衝材12aが積層されている。これにより、設置前の木質構造層11に気泡緩衝材12aが積層される場合には、設置直後から木質構造層11が気泡緩衝材12aで覆われる。また、木質構造層11の設置後に気泡緩衝材12aが積層される場合には、気泡緩衝材12aの積層に要する作業時間が短いため、設置後の木質構造層11をすぐに気泡緩衝材12aで覆うことができる。すなわち、積層構造体10においては、設置後の木質構造層11が雨水の影響を受けにくくなる状態を迅速、かつ、容易に実現することができる。また、木質構造層11の設置後に気泡緩衝材12aが積層される場合には、木質構造層11の設置時における気泡緩衝材12aの損傷を防止することもできる。
【0023】
(3)木質構造層11が気泡緩衝材12aで覆われていることにより、セメントに含まれる水分の木質構造層11への浸入を抑えることができる。すなわち、セメントに含まれる水分に起因した木質構造層11の腐食等を抑えることができる。
【0024】
(4)気泡緩衝材12aの気泡部12cが10mm~40mmの厚さの空気層を形成することにより、気泡緩衝材12aによる断熱性能を効果的に得ることができる。
(5)断熱層12が粒子材12bを含むことにより、断熱層12の耐荷重を高めることができる。これにより、断熱層12に対する上方からの荷重に対して、気泡緩衝材12aの気泡部12cを保護することができる。その結果、積層構造体10の施工性を向上させることができる。
【0025】
(6)粒子材12bが珪砂で構成されることにより、断熱層12の強度を効果的に高めることができる。
(7)断熱層12にセメント組成物層14が積層されることによって、積層構造体10の不陸調整が容易になる。これにより、積層構造体10の施工性を向上させることができる。
【0026】
(8)上述した積層構造体10においては、セメント組成物層14の形成後は、セメント組成物層14よりも下層への水分の浸入を防止することができる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0027】
・断熱層12は、気泡緩衝材12aによって木質構造層11の上面を覆うように気泡部12cが配設される構成であればよい。
このため、断熱層12は、木質構造層11の上面に複数の気泡緩衝材12aが隙間なく並べられた構成であってもよい。この場合、複数の気泡緩衝材12aの各々が木質構造層11に固定されることが好ましい。また、断熱層12は、複数の気泡緩衝材12aが積層される構成であってもよい。この場合、粒子材12bは、各気泡緩衝材12aに粒状物を撒布することにより形成されていてもよいし、例えば最上層など、気泡緩衝材12aに対して選択的に粒状物を撒布することにより形成されてもよい。
【0028】
・断熱層12は、気泡緩衝材12aのみで構成されていてもよい。こうした構成であっても、複数の気泡部12cの間を、打設されたセメントで埋めることができる。
・粒子材12bは、複数の気泡部12cの間の隙間よりも小さな粒径を有する複数の粒状物で構成されればよい。このため、粒子材12bは、例えばセメント粒子で構成されていてもよいし、プラスチックなどの樹脂粒子などで構成されていてもよい。
【0029】
・積層構造体10は、床に限らず、壁などに適用されてもよい。この場合、積層構造体10は、作製されたのちに所定の設置位置まで搬送されて設置される。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0030】
気泡緩衝材の気泡部は、10mm~40mmの厚さの空気層を形成する。これにより、気泡緩衝材による断熱性能を効果的に得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
10…積層構造体、11…木質構造層、12…断熱層、12a…気泡緩衝材、12b…粒子材、12c…気泡部、14…セメント組成物層。
図1