(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】貼付剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/496 20060101AFI20241112BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K9/70 401
A61K47/12
A61P25/18
A61K47/32
(21)【出願番号】P 2020138959
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】星野 友美
(72)【発明者】
【氏名】寺島 寛人
(72)【発明者】
【氏名】薦田 俊一
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105622(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/142295(WO,A1)
【文献】Pharmaceutical Research,1994年,Vol.11, No.1,pp.104-107
【文献】Journal of Controlled Release,1992年,Vol.18,pp.113-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、上記支持体の一面に積層一体化された粘着層とを含み、
上記粘着層が、
ブロナンセリンと、
乳酸、及びレブリン酸のうち少なくとも一方を含む有機酸と、
N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有し、且つ上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有していないか、又は上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有している場合には上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量が1質量%未満であるアクリル系重合体(A)を含むアクリル系粘着剤と、
を含有
し、
上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基が、カルボキシ基、スルホン酸基、又は下記化学式(1)で示されるリン酸基であることを特徴とする貼付剤。
【化1】
【請求項2】
有機酸が、
レブリン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
ブロナンセリンに対する有機酸のモル比[(有機酸のモル数)/(ブロナンセリンのモル数)]が、1以上且つ15以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物としてブロナンセリンを経皮投与するための貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症の治療薬として、ブロナンセリン(2-(4-エチル-1-ピペラジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジン)が知られている。
【0003】
ブロナンセリンは、経口剤(大日本住友製薬株式会社製 商品名「ロナセン錠」や「ロナセン散」)として販売されている。しかしながら、経口剤は、肝臓での初回通過効果による分解、消化管障害の発生、及び血中濃度の急激な変動による副作用の発生などの問題を生じる場合がある。
【0004】
そこで、ブロナンセリンを含有する貼付剤を皮膚に貼付することにより、ブロナンセリンを経皮投与する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の貼付剤では、ブロナンセリンの経皮吸収性が低いという問題があった。したがって、治療に有効なブロナンセリンの血中濃度を維持するために、貼付剤中のブロナンセリンの含有量を高くすると共に、貼付剤の貼付面積を大きくする必要があった。貼付面積が大きいと、貼付剤の貼付中に患者に違和感を与えたり、貼付剤の貼り替え時に同じ部位に貼付剤を繰り返し貼ってしまい皮膚刺激が生じたりする場合がある。さらに、ブロナンセリンを高い含有量で貼付剤中に含ませたとしても、通常、貼付剤中のブロナンセリンの5質量%程度しかヒトの皮膚に吸収されず、残りの95質量%程度は貼付剤中に残留する。角質が損傷している皮膚部分に貼付剤が貼付された場合、貼付剤中に残留する予定となっていたブロナンセリンまでもヒトの皮膚へ吸収され、ブロナンセリンの血中濃度が高くなり過ぎて予期せぬ副作用が発生する場合があった。これらの問題を解決するためにも、貼付剤のブロナンセリンの経皮吸収性の向上が必要とされている。
【0007】
したがって、本発明は、ブロナンセリンの経皮吸収性に優れた貼付剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の貼付剤は、支持体と、上記支持体の一面に積層一体化された粘着層とを含み、且つ上記粘着層が、ブロナンセリンと、有機酸と、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有し、且つ上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有していないか、又は上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有している場合には上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量が1質量%未満であるアクリル系重合体(A)を含むアクリル系粘着剤と、を含有することを特徴とする。
【0009】
[粘着層]
貼付剤は、支持体の一面に積層一体化された粘着層を含んでいる。粘着層は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤を含有している。
【0010】
(ブロナンセリン)
粘着層には、薬物として、ブロナンセリンが含まれる。ブロナンセリン(2-(4-エチル-1-ピペラジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-5,6,7,8,9,10-ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジン)は、ドパミンD2受容体及びセロトニン2(5-HT2A)受容体に対して強い遮断作用を有しており、統合失調症の治療薬などとして用いられている。
【0011】
ブロナンセリンには、遊離塩基型と酸付加塩型が含まれる。粘着層は、遊離塩基型のブロナンセリン及び酸付加塩型のブロナンセリンのうち少なくとも一方を含んでいればよい。なかでも、遊離塩基型(フリー体)のブロナンセリンが好ましい。遊離塩基型のブロナンセリンによれば、ブロナンセリンの経皮吸収性がより優れる貼付剤を提供することができる。
【0012】
酸付加塩型のブロナンセリンは、遊離塩基型ブロナンセリンの生理学的に許容される酸付加塩である。生理学的に許容される酸付加塩としては、特に制限されないが、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、カンファー酸塩、アジピン酸塩、ソルビン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、リンゴ酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩(メシレート)、フタル酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、コハク酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、パモ酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシレート)、ベンゼンスルホン酸塩(ベシレート)などの有機酸塩が挙げられる。酸付加塩型のブロナンセリンは、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0013】
粘着層中におけるブロナンセリンの含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、粘着層中におけるブロナンセリンの含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。ブロナンセリンの含有比率が0.1質量部以上であると、ブロナンセリンの血中濃度を所望の範囲まで上昇させることができる。ブロナンセリンの含有比率が50質量部以下であると、過剰量のブロナンセリンが粘着層中に結晶として過剰に析出するのを低減し、薬物の経皮吸収性や粘着層の粘着性を向上させることができる。
【0014】
特に、本発明の貼付剤はブロナンセリンの経皮吸収性が優れていることから、粘着層中のブロナンセリンの含有量を低くしても、治療に有効なブロナンセリンの血中濃度を達成することができる。このような観点から、粘着層中におけるブロナンセリンの含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下が特に好ましい。
【0015】
なお、本発明の貼付剤において、粘着層中に含まれる各構成成分の含有比率、及び、粘着層中に含まれる構成成分の質量割合やモル割合(例えば、モル比など)を算出するにあたっては、酸付加塩型のブロナンセリンの質量として、酸付加塩型のブロナンセリンを遊離塩基型に換算して得られるブロナンセリンの質量を用いる。酸付加塩型のブロナンセリンを遊離塩基型に換算して得られるブロナンセリンの質量は、酸付加塩型のブロナンセリンと等モル量の遊離塩基型のブロナンセリンの質量とする。
【0016】
(有機酸)
粘着層は、有機酸を含む。有機酸は、ブロナンセリンを良好に溶解することができる。したがって、有機酸を用いることにより、粘着層中にブロナンセリンを溶解させた状態で含有させることができる。有機酸によって溶解させたブロナンセリンは、粘着層中を容易に拡散移行することができ、皮膚透過性にも優れる。したがって、有機酸を用いることにより、ブロナンセリンの経皮吸収性に優れる貼付剤を提供することが可能となる。
【0017】
特にブロナンセリンは、窒素原子を含む3級アミン構造を含むことによって塩基性薬物であるため、粘着層中でプロトンを受容してカチオンになることができる。一方で、有機酸はカルボキシ基を有しており、粘着層中で有機酸が有するカルボキシ基は電離してアニオン(-COO-)となる。ブロナンセリンが、プロトンを受容してカチオンとなる一方、有機酸が有するカルボキシ基が電離してアニオンを生成し、ブロナンセリンに由来したカチオンと、有機酸に由来するアニオンとがイオン結合を形成し、これによりブロナンセリンの脂溶性がさらに向上して、ブロナンセリンが皮膚を透過し易くなり、ブロナンセリンの経皮吸収性をさらに向上させることが可能となる。
【0018】
本発明によれば、ブロナンセリンの経皮吸収性を向上させることができるので、貼付剤中のブロナンセリンの含有量を低くすることができる。これにより過剰量のブロナンセリンが体内に吸収されることによる予期せぬ副作用の発生を低減することができる。さらに、貼付剤の貼付面積を小さくすることもでき、貼付剤の貼付中に患者に与える違和感を低減したり、貼付剤の張り替え時に同じ部位に貼付剤が繰り返し貼付されるのを低減したりすることができる。
【0019】
有機酸としては、乳酸、プロピオン酸、カプリン酸、ソルビン酸、サリチル酸、没食子酸、酢酸、酪酸、吉草酸、レブリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などのモノカルボン酸;アジピン酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、リンゴ酸、セバシン酸などのジカルボン酸;クエン酸などのトリカルボン酸を挙げることができる。なかでも、モノカルボン酸が好ましく、乳酸及びレブリン酸がより好ましい。これらの有機酸は、ブロナンセリンの溶解性に優れている。なお、有機酸は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
粘着層中における有機酸の含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が特に好ましい。また、粘着層中における有機酸の含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下が特に好ましい。有機酸の含有比率を1質量部以上とすることにより、粘着層中に十分な量のブロナンセリンを溶解させて、ブロナンセリンの経皮吸収性を向上させることができる。有機酸の含有比率を20質量部以下とすることにより、過剰量の有機酸が粘着層表面に滲み出る(ブリードする)のを低減し、これにより貼付剤の優れた粘着力を維持することができる。
【0021】
粘着層中における、ブロナンセリンに対する有機酸のモル比[(有機酸のモル数)/(ブロナンセリンのモル数)]は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が特に好ましい。一方、粘着層中における、ブロナンセリンに対する有機酸のモル比[(有機酸のモル数)/(ブロナンセリンのモル数)]は、15以下が好ましく、12.5以下がより好ましく、10以下が特に好ましい。上記モル比を1以上とすることにより、粘着層中に十分な量のブロナンセリンを溶解させて、ブロナンセリンの経皮吸収性を向上させることができる。上記モル比を15以下とすることにより、粘着層中で過剰量の有機酸がブロナンセリンの拡散移行を抑制するのを低減し、貼付剤からブロナンセリンを安定的に放出させることができる。
【0022】
(アクリル系粘着剤)
粘着層は、アクリル系粘着剤を含む。アクリル系粘着剤は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有し、且つ上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有していないか、又は上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有している場合には上記ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量が1質量%未満であるアクリル系重合体(A)を含む。
【0023】
本発明では、粘着層において有機酸を用いることによりブロナンセリンを溶解状態として存在させることができる。しかしながら、有機酸は粘着剤との親和性が低いため、粘着層表面に過剰に滲み出て、粘着層の粘着力を低下させる場合がある。したがって、有機酸を用いた粘着層では、ブロナンセリンの経皮吸収性と、粘着力とを両立させることが困難な場合がある。しかしながら、アクリル系重合体(A)は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有することにより、有機酸に対する親和性が適度に向上されている。このアクリル系重合体(A)をアクリル系粘着剤として用いることにより、粘着層中に有機酸を適度に保持して、有機酸が粘着層表面に過剰に滲み出るのを低減することができ、粘着層が優れた粘着力を発揮することができる。したがって、本発明によれば、有機酸とアクリル系重合体(A)を組み合わせて用いることにより、ブロナンセリンの経皮吸収性と粘着力とが両立された貼付剤を提供することが可能となる。
【0024】
粘着層中でブロナンセリンは溶解している状態で存在しているが、ブロナンセリンの一部が結晶として析出していてもよい。貼付剤の保存中に貼付剤の保存温度が変化し得るが、貼付剤の保存温度が変化したとしても、粘着層中におけるブロナンセリンの溶解状態及び析出状態が保存前後で変化せずに維持されていることが好ましい。ブロナンセリンの溶解状態及び析出状態が変化すると、ブロナンセリンの経皮吸収性も変化し、予定していた薬効が得られずに治療に影響を与える可能性があるからである。特に、貼付剤の保存温度の変化によって、ブロナンセリンの結晶が過剰に析出すると、ブロナンセリンの経皮吸収性が不均一となったり低下したりする可能性がある。
【0025】
本発明では、上述した通り、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)を用いることにより、粘着層中に有機酸を適度に保持することができる。これにより粘着層中でブロナンセリンの溶解状態を安定して維持することができる。したがって、貼付剤の保存温度が変化したとしても、粘着層中におけるブロナンセリンの溶解状態及び析出状態が変化するのを低減して、これによりブロナンセリンの経皮吸収性が変化するのも低減することができる。このように本発明によれば、ブロナンセリンの保存安定性にも優れる貼付剤を提供することが可能となる。
【0026】
アクリル系重合体(A)中におけるN-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量は、5質量%以上であるが、7質量%以上が好ましく、9質量%以上がより好ましい。アクリル系重合体(A)中におけるN-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。N-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量を5質量%以上とすることにより、有機酸に対するアクリル系重合体(A)の親和性を向上させることができ、これにより粘着層中に有機酸を適度に保持して、有機酸が粘着層表面へ過剰に滲み出るのを低減することができる。一方、N-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量を40質量%以下とすることにより、粘着層の凝集力を適度に維持し、粘着層の優れた粘着力を維持することができる。
【0027】
さらに、アクリル系重合体(A)はブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有していないか、又は、アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有している場合には、このアクリル系重合体(A)中におけるブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量を1質量%未満とする。
【0028】
ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基とは、粘着層中で電離してアニオンとなり、ブロナンセリンとイオン結合を形成することが可能な官能基である。アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有している場合、この官能基の親和性によって、粘着層中でブロナンセリンが拡散移行し難くなって粘着層中にブロナンセリンが留まってしまい、ブロナンセリンの経皮吸収性を低下させる可能性がある。したがって、本発明では、アクリル系重合体(A)はブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有していないか、又はアクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有する場合であっても、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量を1質量%未満として、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基の含有量が少ないアクリル系重合体(A)を用いる。このようなアクリル系重合体(A)を用いることによって、ブロナンセリンの経皮吸収性を向上させることができる。
【0029】
ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基として、具体的には、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、及び下記化学式(1)で示されるリン酸基(H2PO4-)などのアニオン性官能基が挙げられる。
【0030】
【0031】
ブロナンセリンは、窒素原子を含む3級アミン構造を含むことによって塩基性薬物であり、粘着層中でプロトン(H+)を受容することによってカチオンとなる。アクリル系重合体(A)が、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基として、カルボキシ基、スルホン酸基、又はリン酸基などのアニオン性官能基を有している場合、これらのアニオン性官能基は、電離後に、アクリル系重合体(A)のポリマー鎖に結合して残っている残基部分として、-COO-、-SO3
-、又は下記化学式(2)で示される構造(-OPO3
2-)を生じ、アニオンとなる。そうすると、ブロナンセリンのカチオンとなった部分と、アクリル系重合体(A)のポリマー鎖に結合して残っているアニオン性官能基の残基部分からなるアニオン部分との間にイオン結合を生じて、ブロナンセリンがアクリル系重合体(A)に捕捉されて、粘着層中でブロナンセリンが拡散移行し難くなる。
【0032】
【0033】
ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマーとしては、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するビニル系モノマーが挙げられる。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するビニル系モノマーとしては、例えば、
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、ブチルマレイン酸等のカルボキシ基含有ビニル系モノマー;
3‐スルホプロピル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有(メタ)アクリレート;及び
2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどのリン酸基含有(メタ)アクリレート;
などが挙げられる。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマーは、単独で用いられても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有している場合、このアクリル系重合体(A)中におけるブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量は、1質量%未満であるが、0.9質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下が特に好ましい。なお、アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有している場合、このアクリル系重合体(A)中におけるブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量は、0質量%を超える。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量が1質量%未満であれば、アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を有している場合であっても、上記官能基の親和性によって粘着層中でブロナンセリンの拡散移行が抑制されるのを低減することができ、ブロナンセリンの経皮吸収性を向上させることができる。
【0035】
アクリル系重合体(A)中において、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量を1質量%未満として、アクリル系重合体(A)がブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を低い割合であれば有していてもよい。しかしながら、本発明では、アクリル系重合体(A)は、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有していないことが特に好ましい。すなわち、アクリル系重合体(A)中において、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有するモノマー成分の含有量が、0質量%であることが特に好ましい。
【0036】
アクリル系重合体(A)は、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分を含んでいることが好ましい。アクリル系重合体(A)は、N-ビニル-2-ピロリドンと、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーとの共重合体であることが好ましい。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分を用いることにより、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基によるブロナンセリンの経皮吸収性の低下を抑制しつつ、粘着層に優れた粘着力を付与することができる。
【0037】
ビニル系モノマーとは、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。なお、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーからN-ビニル-2-ピロリドンは除く。
【0038】
ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニル、α-オレフィン、及びスチレンなどが挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート成分によれば、粘着層に適度な凝集力を付与し、粘着層の粘着力を向上させることができる。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーは、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、-CnH2n+1(式中、nは、正の整数である。)で示される基である。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、1~16が好ましく、1~14がより好ましく、2~12がより好ましく、2~10が特に好ましい。
【0040】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレートとしては、エチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いられても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー中におけるアルキル(メタ)アクリレートの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。すなわち、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーは、アルキル(メタ)アクリレートのみからなることが特に好ましい。
【0042】
アクリル系重合体(A)中におけるブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の含有量は、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、91質量%以下が特に好ましい。アクリル系重合体(A)中におけるブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の含有量は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の含有量を95質量%以下とすることにより、アクリル系重合体(A)中にN-ビニル-2-ピロリドン成分を十分な量で含ませることができる。ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の含有量を60質量%以上とすることにより、粘着層の凝集力を適度な範囲として、粘着層の粘着力を向上させることができる。
【0043】
アクリル系重合体(A)が、N-ビニル-2-ピロリドンと、ブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマーとの共重合体である場合、上記共重合体中におけるN-ビニル-2-ピロリドン成分及びブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の総含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%超過がより好ましく、100質量%が特に好ましい。N-ビニル-2-ピロリドン成分及びブロナンセリンに対して親和性を有する官能基を含有しないビニル系モノマー成分の総含有量を70質量%以上とすることにより、ブロナンセリンの経皮吸収性及び粘着力の双方に優れている貼付剤が得られる。
【0044】
アクリル系重合体(A)の重合方法としては、従来公知の方法にて行なえばよい。例えば、重合開始剤の存在下で、上述したモノマーを重合する方法が挙げられる。具体的には、所定量のモノマー、重合開始剤、及び重合溶媒を反応器に供給し、60~80℃の温度で4~48時間に亘って加熱して、モノマーをラジカル重合させる。
【0045】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-(2,4’-ジメチルバレロニトリル)などのアゾビス系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド(LPO)、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、シクロヘキサンやトルエンなどが挙げられる。更に、重合反応は、窒素ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0046】
アクリル系重合体(A)は、架橋されていてもよい。アクリル系重合体(A)の架橋方法としては、有機過酸化物、架橋助剤や架橋剤などを用いる化学的架橋方法、電離性放射線を照射する物理的架橋方法等が挙げられる。なお、電離性放射線としては、例えば、電子線、α線、β線、γ線などが挙げられる。
【0047】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、クメンヒドロパーオサイド、及びt-ブチルヒドロパーオサイドなどが挙げられる。
【0048】
架橋助剤としては、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シアノエチルアクリレート、及びビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0049】
架橋剤としては、イソシアネート系化合物(例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートの三量体付加物等);アジリジン系化合物(例えば、2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオン酸]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等);有機金属化合物(例えば、ジルコニウムおよび亜鉛アラニネート、酢酸亜鉛、グリシンアンモニウム亜鉛、チタン化合物等);金属アルコラート(例えば、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート等);及び金属キレート化合物(例えば、ジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等)が挙げられる。
【0050】
化学的架橋方法によりアクリル系重合体(A)の架橋を行う場合、有機過酸化物、架橋助剤又は架橋剤の存在下で、アクリル系重合体(A)を、架橋反応が進行する温度に加熱することにより、アクリル系重合体(A)を架橋させることができる。また、架橋助剤を用いる場合には、上述したアクリル系重合体(A)の重合時に、反応器に、アクリル系重合体(A)のモノマー、重合開始剤、及び重合溶媒の他、さらに架橋助剤を供給し、ラジカル重合を行うことにより、架橋助剤によって架橋されたアクリル系重合体(A)を得ることもできる。
【0051】
アクリル系重合体(A)は、上述した通り、架橋されていてもよい。しかしながら、アクリル系重合体(A)が架橋されていると、粘着層の凝集力が過剰に増大して粘着層中におけるブロナンセリンの拡散移行を抑制してしまうことがあり、これによりブロナンセリンの経皮吸収性を低下させることがある。また、架橋を意図して添加した有機過酸化物、架橋助剤又は架橋剤が粘着層中に残存した場合、有機過酸化物、架橋助剤又は架橋剤と有機酸とが相互作用し、有機酸のブロナンセリンの溶解剤としての機能発現を妨げる可能性があり、これによりブロナンセリンの経皮吸収性を低下させることがある。したがって、アクリル系重合体(A)は架橋されていないことが好ましい。
【0052】
粘着層中に含まれているアクリル系重合体(A)が架橋されていない場合、粘着層のゲル分率は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0053】
粘着層のゲル分率は下記の要領で測定された値をいう。粘着層の質量[W0(g)]を測定し、これを120℃のキシレン中に24時間浸漬して不溶解分を200メッシュの金網で濾過し、金網上の残渣を真空乾燥して乾燥残渣の質量[W1(g)]を測定し、下記式により粘着層のゲル分率を算出する。
ゲル分率(質量%)=(W1/W0)×100
【0054】
アクリル系粘着剤中におけるアクリル系重合体(A)の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。すなわち、アクリル系粘着剤はアクリル系重合体(A)のみからなることが特に好ましい。アクリル系重合体(A)の含有量を80質量%以上とすることにより、粘着力及びブロナンセリンの経皮吸収性に優れた貼付剤を提供することができる。
【0055】
粘着層中におけるアクリル系粘着剤の含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、45質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、55質量部以上が特に好ましい。粘着層中におけるアクリル系粘着剤の含有比率は、ブロナンセリン、有機酸、及びアクリル系粘着剤の総量100質量部に対して、90質量部以下が好ましく、88質量部以下がより好ましく、85質量部以下が特に好ましい。アクリル系粘着剤の含有比率が45質量部以上であると、粘着層の皮膚への粘着力を向上させることができる。アクリル系粘着剤の含有比率を90質量部以下とすることにより、必要な量で薬物や他の添加剤を粘着層に添加することができる。
【0056】
粘着層は、貼付剤の皮膚刺激性に影響を与えない範囲であれば、可塑剤、粘着付与剤、及び充填剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0057】
(可塑剤)
粘着層は、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤は、粘着層の粘着力を向上させるために用いられる。可塑剤としては、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、アジピン酸イソプロピルなどのエステル類、ミリスチルアルコール、セタノール、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコールなどの1価アルコール類、オクタンジオールなどの2価アルコール類、及び流動パラフィンなどが挙げられる。可塑剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。粘着層が可塑剤を含んでいる場合、粘着層中における可塑剤の含有量は、アクリル系粘着剤100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、5~45質量部がより好ましく、5~15質量部が特に好ましい。
【0058】
(粘着付与剤)
粘着層は、粘着付与剤を含んでいてもよい。粘着付与剤としては、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン、水素添加ロジン、ロジンエステル、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂などが挙げられる。粘着付与剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。粘着層が粘着付与剤を含んでいる場合、粘着層中における粘着付与剤の含有量は、アクリル系粘着剤100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましい。
【0059】
(充填剤)
粘着層は、充填剤を含んでいてもよい。充填剤は、粘着層の形状保持性を調整するために用いられる。充填剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機充填剤;炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの有機金属塩類;乳糖、結晶セルロース、エチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;架橋ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。充填剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。粘着層が充填剤を含んでいる場合、粘着層中における充填剤の含有量は、アクリル系粘着剤100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。
【0060】
粘着層の厚みは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。粘着層の厚みは、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が特に好ましい。粘着層の厚みが20μm以上であると、所望する薬効を得るために必要な量の薬物を粘着層中に含有させることができる。粘着層の厚みが200μm以下であると、粘着層中の残存溶剤を低減するために製造時に強い乾燥条件を必要としないため、粘着層中の薬物の揮散又は分解を抑制することができる。
【0061】
[支持体]
本発明の貼付剤では、支持体の一面に粘着層が積層一体化される。支持体は、粘着層中の薬物の損失を防ぎ、貼付剤に自己保持性を付与するための強度を有することが求められる。このような支持体としては、樹脂フィルム、不織布、織布、編布、アルミニウムシートなどが挙げられる。
【0062】
樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、酢酸セルロース、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート、可塑化酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ナイロン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、可塑化ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。なかでも、粘着層からの薬物の損失を防げることから、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0063】
不織布を構成する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、SIS共重合体、SEBS共重合体、レーヨン、綿などが挙げられ、ポリエステルが好ましい。なお、これらの素材は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
支持体は、単層であっても、複数層が積層一体化された積層シートであってもよい。積層シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、不織布又は柔軟な樹脂フィルムとが積層一体化された積層シートが挙げられる。
【0065】
支持体の厚みは、特に制限されないが、2μm以上が好ましい。支持体の厚みは、200μm以下が好ましく、2~100μm以下がより好ましい。
【0066】
[剥離ライナー]
本発明の貼付剤では、粘着層の一面に、剥離ライナーが剥離可能に積層一体化されていてもよい。剥離ライナーは、粘着層中の薬物の損失防止や粘着層を保護するために用いられる。
【0067】
剥離ライナーとしては、例えば、紙及び樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。剥離ライナーの粘着層と対向させる面には離型処理が施されていることが好ましい。
【0068】
[貼付剤の製造方法]
本発明の貼付剤の製造方法としては、例えば、(1)ブロナンセリン、有機酸、アクリル系粘着剤、及び溶剤、並びに、必要に応じて他の添加剤を含む粘着層溶液を、支持体の一面に塗工した後に乾燥させることにより、支持体の一面に粘着層を積層一体化し、必要に応じて、粘着層に剥離ライナーを、剥離ライナーの離型処理が施された面が粘着層に対向した状態となるように積層する方法、(2)上記粘着層溶液を剥離ライナーの離型処理が施された面上に塗工し、乾燥させることにより、剥離ライナー上に粘着層を形成し、この粘着層に支持体を積層一体化させる方法などが挙げられる。
【0069】
粘着層溶液は、ブロナンセリン、有機酸、アクリル系粘着剤、及び溶剤、並びに、必要に応じて他の添加剤を均一に撹拌することにより得られる。溶剤としては、例えば、トルエン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、及び酢酸エチルなどが挙げられる。溶剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
本発明の貼付剤では、上述した通り、アクリル系重合体(A)を用いることにより、粘着層が優れた粘着力を発揮することができる。したがって、この粘着層を皮膚に直接貼着することにより、貼付剤を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0071】
本発明の貼付剤は、上述した構成を有するので、ブロナンセリンの経皮吸収性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0073】
(アクリル系重合体(A1)の調製)
2-エチルヘキシルメタクリレート75質量部、及びN-ビニル-2-ピロリドン25質量部を含むモノマー、並びに酢酸エチル50質量部からなる反応液を重合機に供給して重合機内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、上記反応液に、ラウロイルパーオキサイド1.2質量部を酢酸エチル30質量部とシクロヘキサン20質量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を24時間かけて加えながら上記モノマーを重合させ、重合完了後に上記反応液に更に酢酸エチルを加えて、アクリル系重合体(A1)の含有量が30質量%のアクリル系重合体溶液(A1)を得た。
【0074】
(アクリル系重合体(A2)の調製)
n-オクチルアクリレート40質量部、エチルアクリレート50質量部、及びN-ビニル-2-ピロリドン10質量部を含むモノマー、並びに酢酸エチル50質量部からなる反応液を重合機に供給して重合機内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、上記反応液に、ラウロイルパーオキサイド1質量部を酢酸エチル30質量部とシクロヘキサン20質量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を24時間かけて加えながら上記モノマーを重合させ、重合完了後に上記反応液に更に酢酸エチルを加えて、アクリル系重合体(A2)の含有量が30質量%のアクリル系重合体溶液(A2)を得た。
【0075】
(アクリル系重合体(A3)の調製)
ドデシルメタクリレート13質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート78質量部、及び2-エチルヘキシルアクリレート9質量部を含むモノマー、並びに酢酸エチル50質量部からなる反応液を重合機に供給して重合機内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、上記反応液に、ベンゾイルパーオキサイド0.5質量部を酢酸エチル10質量部とシクロヘキサン10質量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を24時間かけて加えながら上記モノマーを重合させ、重合完了後に上記反応液に更に酢酸エチルを加えて、アクリル系重合体(A3)の含有量が30質量%のアクリル系重合体溶液(A3)を得た。
【0076】
(実施例1~4、及び比較例1~2)
粘着層において、遊離塩基型ブロナンセリン、乳酸、レブリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、アクリル系重合体(A1)、アクリル系重合体(A2)、及びアクリル系重合体(A3)が、それぞれ表1に示した配合量となるように、遊離塩基型ブロナンセリン、乳酸、レブリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、アクリル系重合体溶液(A1)、アクリル系重合体溶液(A2)、及びアクリル系重合体溶液(A3)を配合し、固形分の濃度が30質量%になるように酢酸エチルを加えた後、均一になるまで混合して、粘着層溶液を調製した。
【0077】
次に、シリコーン離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離ライナーとして用意し、このポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン離型処理面に、上記粘着層溶液を塗布し、60℃で30分間乾燥させることにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン離型処理面に厚さ80μmの粘着層が形成された積層体を作製した。
【0078】
そして、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体として用意し、この支持体の一面と、上記積層体の粘着層とが対向するように重ね合わせて、積層体の粘着層を支持体に積層一体化させることによって貼付剤を製造した。粘着層のゲル分率を表1に示す。
【0079】
なお、比較例2の貼付剤では、製造直後に、レブリン酸と思われる液体成分が粘着層表面に過剰に滲み出て、粘着層の粘着力が低下したため、積層体の粘着層を支持体に積層一体化させることができず、貼付剤を製造することができなかった。
【0080】
(比較例3)
市販されている貼付剤(大日本住友製薬株式会社製 商品名「ロナセンテープ40mg」)を用意した。この貼付剤は、次の方法によって製造されたものである。
【0081】
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2-エチルヘキシル75質量部、N-ビニル-2-ピロリドン22質量部、アクリル酸3質量部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を、酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系重合体(A4)を得た。
【0082】
55.94質量部のアクリル系重合体(A4)、6.46質量部の遊離塩基型ブロナンセリン、17.77質量部のミリスチン酸イソプロピル、14.54質量部のゴマ油、0.97質量部の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、1.26質量部のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリン(商品名)タイプ:UFL2、富士化学工業製)を、適量の酢酸エチルを加えて均一になるまで十分に混合した後、架橋剤として0.06質量部の三官能性イソシアネート(コロネートHL(日本ポリウレタン工業製)を加え、酢酸エチルで固形分の濃度を24質量%に調整し、均一になるまで十分に混合撹拌を行い、粘着層溶液を得た。シリコーン離型処理が施された厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離ライナーとして用意し、得られた粘着層溶液を剥離ライナーのシリコーン離型処理面に塗工し、乾燥を行い粘着層を形成した。形成した粘着層の粘着面を、厚さ3.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムと、目付量12g/m2のポリエチレンテレフタレート不織布とを積層した支持体の不織布側に貼り合わせて積層体を作製した。その後、70℃で48時間放置し、粘着層中のアクリル系重合体(A4)を架橋剤によって架橋した。放置後、積層体の剥離ライナーを剥離し、97質量部の粘着層に対して、乳酸の最終含有量が3質量部となるように、粘着層に乳酸を含有させた。その後、上記剥離ライナーと同じ剥離ライナーを別に用意し、この剥離ライナーのシリコーン離型処理面と、粘着層とが対向するように貼り合わせることにより貼付剤を製造した。粘着層の厚さは80μmであった。また、粘着層のゲル分率を表1に示す。
【0083】
(貼付剤の性能評価)
実施例1~4、比較例1及び3の貼付剤について、下記手順に従って、経皮吸収性、保存安定性、及び粘着力を評価した。
【0084】
(経皮吸収性)
貼付剤から面積が3cm2の平面正方形状の試験片を5枚打ち抜いた。試験片3枚の粘着層をそれぞれテトラヒドロフランに溶解させて、HPLC(高速液体クロマトグラフィ)を用いて、遊離塩基型ブロナンセリン量を測定し、これらの相加平均値を試験前の遊離塩基型ブロナンセリン量(μg/cm2)とした。残りの試験片2枚について、剥離ライナーを剥離して、粘着層を全面的に露出した状態とした後、それぞれの試験片を背部を剃毛したラットの背部に24時間に亘って貼着した。試験片をラット背部から剥離した後、それぞれの粘着層をテトラヒドロフランに溶解させて、HPLCを用いて、遊離塩基型ブロナンセリン量を測定し、これらの相加平均値を試験後の遊離塩基型ブロナンセリン量(μg/cm2)とした。試験前の遊離塩基型ブロナンセリン量から試験後の遊離塩基型ブロナンセリン量を引いた値を経皮吸収量(μg/cm2)とし、これを表1に示した。
【0085】
(保存安定性)
貼付剤の製造直後において、貼付剤から面積が3cm2の平面正方形状の試験片を打ち抜いた。次に、試験片から剥離ライナーを剥離除去し、偏光顕微鏡を用いて倍率40倍で粘着層表面を観察し、写真撮影を行った。得られた写真を観察し、遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出状態を観察した。遊離塩基型ブロナンセリンの全量が溶解して遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出が無いときは「無」、遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出が有るときは「有」とした。結果を表1の「保存安定性」の「製造直後」の欄に示した。
【0086】
次に、試験片を内面がポリアクリルニトリルの包材に密封した後、40℃の温度雰囲気下で24時間保存した後、4℃の温度雰囲気下で24時間保存し、その後さらに25℃の温度雰囲気下で24時間保存した。保存後、試験片を取り出して速やかに製造直後と同じ観察部位について、偏光顕微鏡を用いて倍率40倍で観察し、写真撮影を行い、得られた写真を観察し、遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出状態を観察した。遊離塩基型ブロナンセリンの全量が溶解して遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出が無いときは「無」、遊離塩基型ブロナンセリンの結晶の析出が有るときは「有」とした。結果を表1の「保存安定性」の「保存後」の欄に示した。
【0087】
なお、保存安定性の評価において、結晶径が1μm以上の結晶が観察された場合、遊離塩基型ブロナンセリンの結晶が析出していると判断した。結晶径とは、写真上において結晶を包囲し得る最小径の真円の直径を意味する。
【0088】
(粘着力の試験)
貼付剤から試験片(幅25mm×長さ40mm)を切り出した。試験片から剥離ライナーを剥離除去して粘着層を露出させ、粘着層について、第十七改正日本薬局方の一般試験法の「6.13 粘着力試験法」の「3.1 ピール粘着力試験法」における「180°ピール粘着力試験法」に準じて、引き剥がし粘着力(N/cm)を測定し、貼付剤の粘着力とした。結果を表1に示す。
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、上述した通り、ブロナンセリンの経皮吸収性に優れた貼付剤を提供することができる。