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  • -X線回折測定方法 図1
  • -X線回折測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】X線回折測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2005 20180101AFI20241112BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20241112BHJP
【FI】
G01N23/2005
G01N23/207
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020149616
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2021092538
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019222296
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】押村 信満
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-024738(JP,A)
【文献】特開2001-095545(JP,A)
【文献】特開2017-203663(JP,A)
【文献】特開2019-141846(JP,A)
【文献】特開平3-071035(JP,A)
【文献】特開2010-085239(JP,A)
【文献】特開2000-214055(JP,A)
【文献】“定性分析において、試料汚染が分析結果に与える影響”,ユニケミー,[2024年6月14日検索],2017年12月27日,インターネット<URL:https://unichemy.co.jp/unilab/unilab-1022/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01N 1/00- 1/44
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状または塊状の潮解性試料と、水分を吸収可能な吸水材と、を混合して、混合試料を形成する混合工程と、
前記混合試料の表面と、凹部を備える試料台の上面とが面一となるように、前記凹部に前記混合試料を充填し、前記混合試料に対してX線回折測定を行う第1の測定工程と、
前記吸水材のみに対してX線回折測定を行う第2の測定工程と、
前記第1の測定工程で得られたX線回折パターンの回折強度から、前記第2の測定工程で得られたX線回折パターンの回折強度を差し引く補正工程と、を有し、
前記混合工程では、前記吸水材を前記潮解性試料に対して10体積%以上50体積%以下の範囲で混合し、
前記第1の測定工程では、前記混合試料の表面である測定面の高さ変動を抑制しつつX線回折測定を行う、
X線回折測定方法。
【請求項2】
前記混合試料を大気中でX線回折測定を行う、
請求項1に記載のX線回折測定方法。
【請求項3】
前記潮解性試料は金属を含有する、
請求項1又は請求項2に記載のX線回折測定方法。
【請求項4】
前記吸水材は、シリカゲル、シリカアルミナゲル、合成ゼオライト、天然ゼオライト、塩化カルシウム、生石灰、ベントナイトクレイ、酸化マグネシウムおよび塩化マグネシウムの少なくとも1つである、
請求項1~のいずれか1項に記載のX線回折測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定方法およびX線回折測定用試料に関する。
【背景技術】
【0002】
材料開発において、材料の物性を詳細に解析することは特性発現メカニズムを理解する上で重要である。近年では、目的とする材料特性を発現させるために、様々な元素をドープしたり熱処理したりすることで結晶構造を変化させることが多くなっている。このような結晶構造を簡便に解析するため、X線回折測定が多く用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
X線回折測定によれば、試料に対してX線を照射し、回折する回折X線を検出することで、試料に関する情報、例えば構成する物質の構造、格子定数、結晶子径、結晶性、歪など多岐にわたる情報を取得することができる。
【0004】
X線回折測定では、測定精度を維持する観点から試料の測定面の高さが重要となる。そのため、測定に供する試料が例えば粉末状であれば、凹部を有する試料台を準備し、この凹部に対して粉末試料を充填して摺り切り、測定面の高さを一定とする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-66652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試料の中には、大気中の水分との反応により潮解して結晶状態が変化してしまうものもある。このような潮解性を有する試料の場合、測定が終わるまでの間に試料が潮解して変質することにより、試料の結晶状態が変化したり、測定面の高さが一定となるように調整したにもかかわらず、測定面の高さが変動したりしてしまうため、測定精度を高く維持できないことがある。
【0007】
このような嫌気性の試料をX線回折法で測定するには、大気を遮断できるような特殊な試料ホルダを使用するとよい。この場合、試料ホルダ内に不活性ガス(Arなど)を封入したうえで、試料を入れて測定する必要がある。
【0008】
しかし、このように不活性ガスが封入されていると、試料に対してX線を照射したときに、X線が不活性ガスに吸収されてしまう。その結果、検出される回折X線の強度が低くなるので、測定精度を高く維持しにくくなる。しかも、試料を特殊な試料ホルダに入れる場合、試料面の高さを制御しにくいので、測定精度が低下しやすい。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、潮解性を有する試料であってもX線回折測定により精度よく分析する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、潮解性を有する試料への水分の影響を低減する方法について検討を行った。その結果、試料に吸湿可能な吸水材を配合し、その混合物をX線回折測定に供するとよいことを見出した。吸水材によれば、試料を試料台に充填しX線回折測定を終えるまでの間、試料の周囲に存在する水分を吸収し、水分により試料が潮解してしまうことを抑制することができる。また、試料の潮解を抑制できるので結晶状態を変質させずに維持することができ、試料の測定面の高さを一定に保つことができる。しかも、試料の雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることがないので、不活性ガスによるX線の吸収を抑制することができる。これらの結果、潮解性を有する試料であっても、X線回折測定により精度よく分析することが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明の第1の態様は、
粉状または塊状の潮解性試料と、水分を吸収可能な吸水材と、を混合して、混合試料を形成する工程と、
前記混合試料に対してX線回折測定を行う工程と、を有する、
X線回折測定方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記混合試料を大気中でX線回折測定を行う。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記吸水材を前記潮解性試料に対して10体積%以上50体積%以下の範囲で混合する。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれかにおいて、
前記潮解性試料は金属を含有する。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1~第4の態様のいずれかにおいて、
前記吸水材は、シリカゲル、シリカアルミナゲル、合成ゼオライト、天然ゼオライト、塩化カルシウム、生石灰、ベントナイトクレイ、酸化マグネシウムおよび塩化マグネシウムの少なくとも1つである。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1~第5の態様のいずれかにおいて、
前記吸水材は、X線回折測定を行ったときに、前記潮解性試料に含まれる成分に起因するX線回折パターンと重ならないようなX線回折パターンを有する。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1~第5の態様のいずれかにおいて、
前記混合試料に対してX線回折測定を行う工程を第1の測定工程としたとき、前記吸水材のみに対してX線回折測定を行う第2の測定工程と、
前記第1の測定工程で得られたX線回折パターンの回折強度から、前記第2の測定工程で得られたX線回折パターンの回折強度を差し引く補正工程と、をさらに有する。
【0018】
本発明の第8の態様は、
分析対象である粉状または塊状の潮解性試料と、水分を吸湿可能な吸水材と、を含む、X線回折測定用試料である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、潮解性を有する試料であってもX線回折測定により精度よく分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、試料台の断面を示す概略図である。
図2図2は、試料台への混合試料の充填を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる分析試料の作製方法について説明する。
【0022】
(準備工程)
まず、分析対象として、粉状または塊状の潮解性試料を準備する。潮解性試料としては、例えば結晶構造をもつ潮解性を有する金属含有化合物がある。潮解性試料の大きさは、特に限定されないが、例えば1μm~50μmである。
【0023】
また、潮解性試料に混合する吸水材を準備する。吸水材としては、水分を吸収可能で、潮解性試料と反応しないものであれば特に限定されない。ただし、吸水材と潮解性試料のそれぞれに含まれる成分に起因するX線回折パターンが重なると、X線回折パターンを分析しにくくなる。そのため、X線回折測定を容易かつ精度よく行う観点からは、X線回折測定を行ったときに、潮解性試料に含まれる成分に起因するX線回折パターンと重ならないようなX線回折パターンを有する吸水材が好ましい。ここでX線回折パターンが重ならないとは、潮解性試料に含まれる成分のX線回折パターンを構成する所定ピーク(回折線)と、吸水材に含まれる成分のX線回折パターンを構成する所定ピーク(回折線)とが、一致せずに異なることを示す。つまり、吸水材は、潮解性試料に含まれる成分に起因する回折線と重ならないような回折線を有することが好ましい。なお、後述するように、X線回折パターン(もしくは回折線)が重なるような場合であってもX線回折パターンを補正することで測定精度を向上することができる。
【0024】
吸水材の形状は、特に限定されないが、粒状または塊状であることが好ましい。これら形状を有する吸水材によれば、潮解性試料と均一に混合しやすく、また潮解性試料と混合したときの混合試料を試料台の凹部に充填して摺り切る際に、測定面をより平坦に形成することができる。
【0025】
吸水材の大きさは、特に限定されないが、潮解性試料との混合しやすさ、混合試料を摺り切る際の面の均しやすさの観点からは、潮解性試料よりも小さいことが好ましい。また、吸水性の観点からは粒子径が小さいことが好ましい。具体的には、最大粒子径が1μm~50μmであることがより好ましい。
【0026】
吸水材としては、具体的には、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、天然ゼオライト、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)、酸化マグネシウム、および塩化マグネシウム等の少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0027】
(混合工程)
次に、潮解性試料と吸水材とを混合し、混合試料を形成する。混合方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、これらを乳鉢などを用いて手動で混合してもよく、また例えば、ボールミルなどを用いて機械的に均一に混合してもよい。
【0028】
吸水材の添加量は特に限定されないが、潮解性試料の変質をより確実に抑制する観点からは、潮解性試料に対して10体積%以上とすることが好ましい。一方、添加量が過度に多くなると、潮解性試料が希釈されるため、潮解性試料に起因するスペクトルの強度が低くなり、測定精度が低下するおそれがある。この点、測定精度を高く維持する観点からは吸水材の添加量を50体積%以下とすることが好ましい。
【0029】
(充填工程)
次に、試料をX線回折測定に供するための試料台を準備する。図1は、試料台1の断面図である。試料台1は、例えば平面視で四角形や円形などの形状を有しており、図1に示すように、その上面1aには所定の深さで窪む凹部2が設けられている。この凹部2は試料が充填される空間となる。
【0030】
次に、混合試料を試料台に充填する。このとき、例えば図2に示すように、混合試料3を少し盛り上がるよう多めに投入する。そして、試料台1の上面1aを基準に混合試料3の表面を平らにならす。具体的には、試料台1の上面1aに沿って硝子板などを水平に移動させることにより、ガラス版の縁で混合試料3をすり切るように混合試料3の表面を平らにならす。これにより、X線回折測定用試料4を得る。X線回折測定用試料4では、混合試料3の表面3aと試料台1の上面1aとが面一となるように凹部2に混合試料3が充填されている。なお、X線回折測定の際、試料台1の上面1aが高さの基準面となり、混合試料3の表面3aが測定面となる。
【0031】
(測定工程)
次に、X線回折測定用試料4を測定に供する。具体的には、X線回折測定用試料4をX線回折測定装置にセットする。続いて、X線回折測定用試料4における混合試料3に対してX線を照射する。そして、入射角度θと回折角度2θの関係を維持しながら、X線源や検出器などの位置を相対的に変化させることにより、X線回折測定を行う。これにより、X線回折パターンを取得する。
【0032】
得られたX線回折パターンには、潮解性試料および吸水材の情報が含まれている。この情報から潮解性試料のみの情報を取得するには例えば以下のように行うとよい。例えば、潮解性試料と吸水材のX線回折パターンが重ならないような組み合わせの場合であれば、予め取得した吸水材のX線回折パターンを参照して、そのX線回折パターンを構成するピークのうち、吸水材に由来するピーク以外を潮解性試料に由来するピークと特定するとよい。そして、潮解性試料に由来するX線回折パターンに基づいて、潮解性試料の構造、格子定数、結晶粒径、結晶性などの情報を取得することができる。
【0033】
以上により、潮解性試料についてX線回折測定を行う。
【0034】
本実施形態では、図2に示すように、潮解性試料に吸水材を混合して混合試料3としたうえで、試料台1に充填し、X線回折測定用試料4を作製している。このようなX線回折測定用試料4によれば、混合試料3を充填してから測定を終えるまでの間、吸水材により水分を吸収できるので、潮解性試料の潮解を抑制することができる。これにより、測定の間、潮解性試料の結晶状態を変質させずに維持することができる。また、潮解にともなう混合試料3の表面3a(測定面)の高さ変動を抑制することができる。また大気中でX線回折測定を行うことで、不活性ガス中で行う場合と比べて、回折X線の強度を低下させることなく検出できる。このように本実施形態のX線回折測定用試料4によれば、潮解性試料であっても、その変質を抑制したり測定面の高さを維持したりすることで、大気中で精度よくX線回折測定を行うことができる。
【0035】
また、吸水材の添加量を潮解性試料に対して10体積%~50体積%の範囲とすることにより、潮解性試料の変質をより抑制しつつ、適度な希釈倍率に調整してスペクトル強度を高く維持することで、測定精度をより高く維持することができる。
【0036】
また、吸水材は粒状または塊状であって、その大きさが、最大粒子径で1μm以上50μm以下であることが好ましい。このような形状および大きさを有する吸水材を用いることにより、粉状または塊状の潮解性試料と均一に混合できるとともに、混合試料を試料台の凹部に充填するときに、より平坦に充填することができる。しかも、吸水材の比表面積を小さくして高い吸水性を得られるので、潮解性試料の変質や測定面の高さ変動をより確実に抑制することができる。
【0037】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0038】
上述の実施形態では、潮解性試料と吸水材のX線回折パターンが重ならない場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、X線回折パターンが重なるような組み合わせでも精度よく分析することが可能である。以下、具体的に説明する。
【0039】
潮解性試料と吸水材のX線回折パターンが重なるような組み合わせの場合、混合試料から得られるX線回折パターンからは、それぞれのX線回折パターンを個別に特定することはできない。そこで、混合試料から得られるX線回折パターンから、吸水材のみから得られるX線回折パターンを差し引いて補正する補正工程を設けることが好ましい。
【0040】
具体的には、まず、混合試料に対してX線回折測定を行う第1の測定工程とは別に、吸水材のみに対してX線回折測定を行う第2の測定工程を行う。第1の測定工程で得られるX線回折パターンには、潮解性試料および吸水材の情報が含まれている。これに対して、第2の測定工程で得られるX線回折パターンには、吸水材のみの情報が含まれている。続いて、第1の測定工程で得られるX線回折パターンの回折強度から、第2の測定工程で得られるX線回折パターンの回折強度を差し引く。これにより、吸水材の情報が取り除かれるため、潮解性試料のみの情報を含むX線回折パターンを取得することができる。そして、この補正により得られるX線回折パターンに基づいて、潮解性試料の構造、格子定数、結晶粒径、結晶性などの情報を取得することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 試料台
1a 試料台の上面
2 凹部
3 混合試料
3a 測定面
4 X線回折測定用試料
図1
図2