(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 59/56 20060101AFI20241112BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20241112BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08G59/56
C08G59/62
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2020150249
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-147996(JP,A)
【文献】特開平02-124919(JP,A)
【文献】特開2002-284852(JP,A)
【文献】特開2018-053065(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構成要素[A]、[B]、[C]および[D]を含み、かつ下記の条件(i)~(iii)のすべてを満たすことを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
構成要素[A]:エポキシ樹脂
構成要素[B]:アミン系硬化剤
構成要素[C]:フェノール化合物
構成要素[D]:硬化促進剤
条件(i):構成要素[A]のエポキシ基数に対する構成要素[B]の活性水素の数の比をXBとしたとき、XBが0.1~0.4の範囲にあること。
条件(ii):構成要素[C]は、構成要素[C1]として
4-ベンジルレソルシノール、4-(α-メチルベンジル)レソルシノール、フェニルヒドロキノン、2,3-ジヒドロキシビフェニル、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、3,4-ジヒドロキシベンゾフェノンまたは2,4-ジヒドロキシ-5-tert-ブチルベンゾフェノンを含み、構成要素[A]のエポキシ基数に対する構成要素[C1]の活性水素の数の比をXC1としたとき、XC1が0.3~0.9の範囲にあること。
条件(iii):XB+XC1が0.4~1.0の範囲にあること。
【請求項2】
構成要素[C]は、構成要素[C1]として4-ベンジルレソルシノール、2,3-ジヒドロキシビフェニルまたは2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンを含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
構成要素[D]として芳香族ウレア化合物、イミダゾール誘導体およびリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
構成要素[B]がジシアンジアミドであることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項
5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維とを含むことを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項8】
強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項
7に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途、スポーツ用途および一般産業用途に適した繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好ましく用いられるエポキシ樹脂組成物、ならびに、これをマトリックス樹脂としたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、比強度、比弾性率に優れることから、航空機や自動車などの構造材料用途や、テニスラケットのフレーム、ゴルフシャフト、釣り竿、自転車のフレームなどのスポーツ向け材料用途などに広く利用されている。繊維強化複合材料の製造方法には、強化繊維に未硬化の樹脂組成物が含浸されたシート状の成形材料であるプリプレグを複数枚積層した後、加熱硬化させる方法や、モールド中に配置した強化繊維に液状の樹脂を流し込み加熱硬化させるレジン・トランスファー・モールディング法などが用いられている。これらの製造方法のうちプリプレグを用いる方法は、強化繊維の配向を厳密に制御でき、また積層構成の設計自由度が高いことから、高性能な繊維強化複合材料を得やすい利点がある。このプリプレグに用いられる樹脂組成物としては、機械的特性、耐熱性、取り扱い性に優れるエポキシ樹脂組成物が広く用いられる。
【0003】
繊維強化複合材料に使用されるエポキシ樹脂組成物には、硬化後の弾性率とたわみの両立が要求される。とりわけ、繊維強化複合材料の90°方向強度や耐衝撃性、ならびに疲労特性を高めるために、たわみの向上が求められている。たわみの向上には、エポキシ樹脂硬化物の架橋密度を低くすることが有効であるが、架橋密度を低くすると弾性率が低下することが多く、硬化物のたわみと弾性率にはトレードオフの関係があった。そのため、樹脂硬化物の弾性率とたわみの両立は非常に難しい課題であった。
【0004】
この課題を解決する方法として、特許文献1には、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤、および硬化促進剤からなる樹脂組成物にフェノール化合物を併用することにより、樹脂硬化物のたわみと弾性率の改善を図る手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いた場合においても、得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の機械特性は十分とは言えず、さらなる機械特性の向上が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、弾性率およびたわみに優れたエポキシ樹脂組成物、ならびに該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記の構成要素[A]、[B]、[C]および[D]を含み、かつ下記の条件(i)~(iii)のすべてを満たすことを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物である。
構成要素[A]:エポキシ樹脂
構成要素[B]:アミン系硬化剤
構成要素[C]:フェノール化合物
構成要素[D]:硬化促進剤
条件(i):構成要素[A]のエポキシ基数に対する構成要素[B]の活性水素の数の比をXBとしたとき、XBが0.1~0.4の範囲にあること。
条件(ii):構成要素[C]のうち、式(1)で示されるフェノール化合物を[C1]とし、構成要素[A]のエポキシ基数に対する構成要素[C1]の活性水素の数の比をXC1としたとき、XC1が0.3~0.9の範囲にあること。
【0009】
【0010】
(式(1)中、R1~R5は、水素原子、炭素数1~8の炭化水素基、メトキシ基、水酸基またはハロゲンを表しており、すべてが同一または異なっていてもよいが、少なくとも2個は水酸基である。R6~R10は、水素原子、炭素数1~8の炭化水素基、メトキシ基またはハロゲンを表しており、すべてが同一または異なっていてもよい。Xは元素なし、SO2、CH2、CH(CH3)、C(CH3)2、S、O、C=Oのいずれかを表す。)
条件(iii):XB+XC1が0.4~1.0の範囲にあること。
【0011】
また、本発明のプリプレグは、強化繊維と上記エポキシ樹脂組成物からなるプリプレグである。
【0012】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維と上記エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性率およびたわみに優れたエポキシ樹脂組成物、ならびに該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、[A]エポキシ樹脂、[B]アミン系硬化剤、[C]フェノール化合物、[D]硬化促進剤を必須成分として含む。まずはこれら成分について説明する。
【0015】
(構成要素[A])
本発明における構成要素[A]は、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。[A]が1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂である場合、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物のガラス転移温度が高くなるため好ましい。本発明のプリプレグや繊維強化複合材料の耐熱性や力学特性に著しい悪影響を及ぼさない範囲で、1分子中にエポキシ基を1個有する単官能エポキシ樹脂を含有してもよい。
【0016】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、イソシアヌレート型、ヒダントイン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、これらを単独で用いても、複数種類を組み合わせてもよい。
【0017】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”828(三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(東都化成(株)製)、およびDER-331やDER-332(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0018】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”1750(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0019】
ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY721(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9512(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“エポトート(登録商標)”YH-434(東都化成(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0020】
ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂の市販品としては、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0021】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120(住友化学(株)製)、ELM100(住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、前記以外のエポキシ樹脂も適宜含有することができる。
【0023】
(構成要素[B])
本発明の構成要素[B]は、アミン系硬化剤である。例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、ジシアンジアミド、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミンが挙げられる。
【0024】
かかるアミン系硬化剤としては、得られる樹脂組成物の保存安定性、硬化性に優れるという点から、芳香族アミン類および/またはジシアンジアミドを含むことが好ましい。これらの中でも、より保存安定性、硬化性に優れるという点から、ジシアンジアミドがさらに好ましく使用される。
【0025】
本発明における構成要素[B]の含有量として、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂とアミン系硬化剤との当量比、すなわちエポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂のエポキシ基数に対するアミン系硬化剤の活性水素の数の比(アミン系硬化剤の活性水素の数/エポキシ樹脂のエポキシ基数)をXBとしたとき、XBは0.1~0.4の範囲にあることが必要であり、XBは0.1~0.3の範囲にあることが好ましい。XBをかかる範囲とすることにより、弾性率とたわみに優れた樹脂硬化物を得ることができる。通常、たわみに優れたエポキシ樹脂硬化物を得るためには、未反応の官能基を極力減らすために、エポキシ樹脂のエポキシ基数と硬化剤の活性水素の数を揃える、すなわち、XBを1.0に近づけることが多いが、本発明においては、後述の構成要素[C]もエポキシ樹脂と反応するため、構成要素[B]の含有量を少なくすることが重要である。
【0026】
(構成要素[C])
本発明の構成要素[C]は、フェノール化合物である。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、ジヒドロキシナフタレン、(フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、およびこれらのハロゲン置換体やアルキル置換体等が挙げられる。
【0027】
本発明では、エポキシ樹脂組成物中に式(1)で表されるフェノール化合物[C1]を含む必要がある。
【0028】
【0029】
(式(1)中、R1~R5は、水素原子、炭素数1~8の炭化水素基、メトキシ基、水酸基またはハロゲンを表しており、すべてが同一または異なっていてもよいが、少なくとも2個は水酸基である。R6~R10は、水素原子、炭素数1~8の炭化水素基、メトキシ基またはハロゲンを表しており、すべてが同一または異なっていてもよい。Xは元素なし、SO2、CH2、CH(CH3)、C(CH3)2、S、O、C=Oのいずれかを表す。)
発明者らは、フェノール化合物として[C1]を含むことによって、樹脂硬化物の弾性率とたわみが極めて高いレベルで両立可能であることを見出した。従来、エポキシ樹脂組成物にビスフェノールAなどの化合物を併用することによって、エポキシ樹脂硬化物のたわみが大きくなることは知られていたが、弾性率が低下する課題があった。これは、架橋点の間に剛直なビスフェノール化合物が挿入されることで、微少な隙間が生じることに由来すると考えられる。[C1]は分子内に2つの芳香環を有する化合物であって、片方の芳香環に2個以上の水酸基が結合している化合物である。水酸基がエポキシ基と反応し、架橋構造に取り込まれたときに、水酸基を有さない芳香環が隙間を埋めることによって、ビスフェノールAなどの、両方の芳香環に水酸基を有する化合物対比、弾性率が向上するのだと考えている。
【0030】
フェノール化合物[C1]としては、例えば、4-ベンジルレソルシノール、4-(α-メチルベンジル)レソルシノール、2-(フェニルスルホニル)-1,4-ベンゼンジオール、フェニルヒドロキノン、2,3-ジヒドロキシビフェニル、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、3,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-5-tert-ブチルベンゾフェノン等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂に対して適度な溶解性を有し、取扱い性に優れるという観点から、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンが好ましく使用される。
【0031】
本発明における構成要素[C1]の含有量として、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂とフェノール化合物[C1]との当量比、すなわちエポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂のエポキシ基数に対するフェノール化合物[C1]の活性水素の数の比(フェノール化合物[C1]の活性水素の数/エポキシ樹脂のエポキシ基数)をXC1としたとき、XC1は0.3~0.9の範囲にあることが必要であり、0.3~0.7の範囲にあることが好ましい。
【0032】
また、上記XBとXC1の和をXB+XC1としたとき、XB+XC1は0.4~1.0の範囲にあることが必要であり、0.5~1.0の範囲にあることが好ましい。XC1、およびXB+XC1をかかる範囲とすることにより、弾性率とたわみに優れた樹脂硬化物を得ることができる。
【0033】
(構成要素[D])
本発明の構成要素[D]は硬化促進剤であり、具体的にはエポキシ樹脂とフェノール化合物の硬化促進剤であり、構成要素[A]と構成要素[C]の反応を促進する。エポキシ樹脂とフェノール化合物の反応性を高める観点から、エポキシ樹脂組成物中に硬化促進剤を含んでいることが必要である。硬化促進剤としては、エポキシ樹脂組成物の保存安定性と硬化性を両立する観点から、芳香族ウレア化合物、イミダゾール誘導体およびリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化促進剤を使用することが好ましい。
【0034】
前記芳香族ウレア化合物としては、例えば、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレア等が挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU-99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)等を使用することができる。
【0035】
前記イミダゾール誘導体としては、例えば、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-エチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。また、イミダゾール誘導体の市販比としては、“キュアダクト(登録商標)”P-0505、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN(以上、四国化成工業(株)製)等が挙げられる。
【0036】
前記リン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン トリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。また、リン化合物の市販品としては、“ホクコーTPP(登録商標)”、“TOTP(登録商標)”、“TPP-K(登録商標)”(以上、北興化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0037】
硬化促進剤[D]の含有量は、エポキシ樹脂[A]100質量部に対し、好ましくは1~8質量部であり、より好ましくは1.5~6質量部であり、さらに好ましくは2~4質量部である。硬化促進剤[D]をこの範囲で含有することにより、保存安定性と硬化速度のバランスに優れ、物性が良好な樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0038】
(構成要素[E])
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲において、構成要素[E]として熱可塑性樹脂を含有することができる。熱可塑性樹脂は本発明に必須の成分ではないが、エポキシ樹脂組成物に含有することにより、粘弾性を制御したり、硬化物に靭性を付与したりすることができる。
【0039】
このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分
とする重合体の例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などが挙げられる。ポリスルホン、ポリイミドは、主鎖にエーテル結合や、アミド結合を有するものであってもよい。
【0040】
ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などの多くの種類のエポキシ樹脂と良好な相溶性を有し、エポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きい点で好ましく、ポリビニルホルマールが特に好ましい。これらの熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、“デンカブチラール(登録商標)”および“デンカホルマール(登録商標)”(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(JNC(株)製)などがある。
【0041】
また、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドは、樹脂そのものが耐熱性に優れるほか、耐熱性が要求される用途、例えば航空機の構造部材などによく用いられるエポキシ樹脂であるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂と適度な相溶性を有する樹脂骨格をもつ重合体があり、これを使用するとエポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きいほか、繊維強化樹脂複合材料の耐衝撃性を高める効果があるため好ましい。このような重合体の例としては、ポリスルホンでは“レーデル(登録商標)”A(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製)、“スミカエクセル(登録商標)”PES(住友化学(株)製)など、ポリイミドでは“ウルテム(登録商標)”(ジーイープラスチックス社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(ハンツマン社製)などが挙げられる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、熱可塑性樹脂を含む場合は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂100質量部に対して、1~60質量部含まれることが好ましい。
【0043】
(その他の添加剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、または、カーボンブラック、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、あるいはシリカゲル、クレー等の無機フィラーを含有することができる。これらの添加には、エポキシ樹脂組成物の粘度を高め、樹脂フローを小さくする粘度調整効果、樹脂硬化物の弾性率、耐熱性を向上させる効果、耐摩耗性を向上させる効果がある。
【0044】
(エポキシ樹脂組成物の調製方法)
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練してもよいし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜてもよい。
【0045】
(繊維強化複合材料)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化後の弾性率とたわみに優れており、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として好適に用いられる。繊維強化複合材料を得る方法としては、ハンドレイアップ法、RTM法、フィラメントワインディング法、引抜成形法など、成形工程において強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法や、あらかじめ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグを、オートクレーブ法やプレス成形法によって成形する方法がある。なかでも、繊維の配置および樹脂の割合を精密に制御でき、複合材料の特性を最大限に引き出すことができるため、あらかじめ、エポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことが好ましい。
【0046】
本発明のプリプレグ及び繊維強化複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができるが、炭素繊維が特に好ましい。強化繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。強化繊維として2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いても構わない。
【0047】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0048】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0049】
本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、有機溶媒を用いず、樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法により、プリプレグを製造することができる。
【0050】
またホットメルト法では、加熱により低粘度化した樹脂組成物を、直接、強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法などを用いることができる。
【0051】
プリプレグ中の強化繊維の含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは65~85質量%である。繊維質量含有率が小さいと、樹脂の量が多すぎて、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が得られにくい場合がある。また、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が高くなりすぎる場合がある。一方、繊維質量含有率が大きすぎると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料はボイドの多いものとなる場合がある。またプリプレグのタック性を損ねる場合がある。
【0052】
本発明の繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0053】
本発明の繊維強化複合材料は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途に広く用いることができる。より具体的には、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両などの構造体等に好適に用いられる。スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0055】
<実施例および比較例で使用した材料>。
【0056】
(1)[A]:エポキシ樹脂
・[A]-1:“jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189g/eq、三菱ケミカル(株)製)。
【0057】
(2)[B]:アミン系硬化剤
・[B]-1:“jERキュア(登録商標)”DICY7(ジシアンジアミド、活性水素当量:21g/eq、活性水素の数:4、三菱ケミカル(株)製)。
【0058】
(3)[C]:フェノール化合物
[C1]に該当するフェノール化合物
・[C1]-1:2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(活性水素当量:107g/eq、活性水素の数:2、東京化成工業(株)製)。
・[C1]-2:4-ベンジルレソルシノール(活性水素当量:100g/eq、活性水素の数:2、東京化成工業(株)製)。
・[C1]-3:2,3-ジヒドロキシビフェニル(活性水素当量:93g/eq、活性水素の数:2、富士フィルム和光純薬(株)製)。
[C1]に該当しないフェノール化合物
・[C]-4:ビスフェノールA(活性水素当量:114g/eq、活性水素の数:2、東京化成工業(株)製)。
【0059】
(4)[D]:硬化促進剤
・[D]-1:DCMU-99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)。
・[D]-2:“キュアダクト(登録商標)”P-0505(エポキシーイミダゾールアダクト、四国化成工業(株)製)。
・[D]-3:TPP(トリフェニルホスフィン、東京化成工業(株)製)。
【0060】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
(1)硬化剤マスターの作製方法
[A]-1(“jER(登録商標)”828)100部のうち10部に対し、[B]-1(“jERキュア(登録商標)”DICY7)を添加し、混錬装置を用いて室温で混錬した。三本ロールを用いて混合物をロール間に2回通し、硬化剤マスターを作製した。
【0061】
(2)エポキシ樹脂組成物の作製方法
[A]-1(“jER(登録商標)”828)100部のうち90部(前記(1)で使用した[A]-1(“jER(登録商標)”828)10部を除く)および[C]フェノール化合物を混練装置中に投入し、混練しながら150℃まで昇温し、150℃において30分間混練することで透明な粘ちょう液を得た。次いで、混練を続けたまま60℃まで降温し、前記(1)で作製した硬化剤マスターおよび[D]硬化促進剤を投入し、60℃において30分間混錬することでエポキシ樹脂組成物を得た。
【0062】
各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の組成を表1~3に示した。
【0063】
<樹脂硬化物の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーを用いて厚み2mmになるように設定したモールド中で、30℃から速度2.5℃/分で130℃まで昇温し、130℃で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0064】
<樹脂硬化物の弾性率および曲げたわみの測定>
上記<樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分、サンプル数n=6とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率および曲げたわみの平均値をそれぞれ樹脂硬化物の弾性率および曲げたわみとした。
【0065】
<実施例1>
[A]エポキシ樹脂として“jER(登録商標)”828を100部、[B]アミン系硬化剤として“jERキュア(登録商標)”DICY7を1.9部、[C]フェノール化合物として2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンを34.0部、[D]硬化促進剤としてDCMU-99を3部用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0066】
このエポキシ樹脂組成物において、[A]エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基数に対する[B]アミン系硬化剤の活性水素の数の比を表すXBは0.2であった。また、[A]エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基数に対する[C1]に該当するフェノール化合物の活性水素の数の比を表すXC1は0.6であった。XBとXC1の和を表すXB+XC1は0.8であった。
【0067】
得られたエポキシ樹脂組成物について、前記した<樹脂硬化物の作製方法>に記載の方法で硬化して板状の樹脂硬化物を作製した。さらに<樹脂硬化物の弾性率および曲げたわみの測定>に記載の3点曲げ試験を行った結果、弾性率は3.6GPa、曲げたわみは17mmと、優れた弾性率と曲げたわみを有していた。
【0068】
<実施例2~8>
樹脂組成をそれぞれ表1および2に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物を作製した。
【0069】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、XB、XC1およびXB+XC1はそれぞれ表1および2に記載の通りである。
【0070】
樹脂硬化物の3点曲げ試験を行った結果、弾性率および曲げたわみはいずれも良好であった。
【0071】
<比較例1~6>
表3の樹脂組成に従って上記実施例1と同様の手順でエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物について、前記した<樹脂硬化物の作製方法>に記載の方法で硬化して板状の樹脂硬化物を作製した。
【0072】
各比較例のエポキシ樹脂組成物に関して、XB、XC1およびXB+XC1はそれぞれ表3に記載の通りである。
【0073】
次に<樹脂硬化物の弾性率および曲げたわみの測定>に記載の3点曲げ試験を行った。評価結果を表3に示した。
【0074】
比較例1は[B]アミン系硬化剤を含んでいないため、樹脂硬化物は極めて脆く、樹脂硬化物の3点曲げ試験に用いる試験片の作製が困難であり、評価できなかった。
【0075】
比較例2はXBが0.4より大きいため、樹脂硬化物の3点曲げ試験では曲げたわみが13mmと低かった。
【0076】
比較例3はXB+XC1が1.0より大きいため、樹脂硬化物は極めて脆く、樹脂硬化物の3点曲げ試験に用いる試験片の作製が困難であり、評価できなかった。
【0077】
比較例4はXC1が0.3より小さいため、樹脂硬化物の3点曲げ試験では曲げたわみが12mmと低かった。
【0078】
比較例5は[C]フェノール化合物を含んでいないため、樹脂硬化物の3点曲げ試験では曲げたわみが12mmと低かった。
【0079】
比較例6は[C]フェノール化合物としてビスフェノールAを含んでいるが、[C1]に該当するフェノール化合物を含んでいないため、樹脂硬化物の3点曲げ試験では弾性率が2.9GPaと低かった。
【0080】
【0081】
【0082】