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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】化粧材
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20241112BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20241112BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20241112BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241112BHJP
   E04D 1/08 20060101ALN20241112BHJP
   E04D 1/28 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
B32B3/30
E04F13/08 E
E04F15/02 B
B32B27/00 E
E04D1/08 A
E04D1/28 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020153722
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2021142743
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020042715
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】秋田 泰宏
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-127111(JP,A)
【文献】特開2018-016059(JP,A)
【文献】特開平08-011276(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199694(WO,A1)
【文献】特開2008-094074(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2316643(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04F 13/00-13/30,
15/00-15/22
B44C 1/20- 1/24
B29C 59/00-59/18
E04D 1/08, 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にヘアライン調の凹凸を具備する凹凸模様が形成されてなる化粧材であって、
前記凹凸模様を有する模様形成層を備え、
前記模様形成層には、前記凹凸模様として一方向に延びる線状の溝である線状凹部が複数配置されており、
前記線状凹部の内側にはインキが配置されており、該インキには光輝性インキが含まれている、化粧材。
【請求項2】
複数の前記線状凹部の少なくとも一部は、前記線状凹部の前記延びる方向に移動するに従って幅が変化する、請求項1に記載の化粧材。
【請求項3】
複数の前記線状凹部の少なくとも一部は、前記線状凹部の前記延びる方向に移動するに従って深さが変化する、請求項1又は2に記載の化粧材。
【請求項4】
前記線状凹部が延びる方向に直交する断面に表れる複数の前記線状凹部のうち少なくとも一部において、隣り合う前記線状凹部で、深い前記線状凹部の方が前記インキの面積が大きくなるように構成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の化粧材。
【請求項5】
前記インキの面積が大きくなるように構成された方の前記線状凹部の方が光輝性が高い請求項4に記載の化粧材。
【請求項6】
前記インキには非光輝性の着色剤も含まれている、請求項1乃至5のいずれかに記載の化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧材における意匠表現は多岐に亘るが、その中で、ヘアライン調の凹凸模様を具備する化粧材がある。ヘアラインとは、金属の表面における美感を目的に形成された研磨目であり、研磨により形成された筋目状凹凸模様である。かかるヘアライン(凹凸模様)は、一方向に細長い平面視が細線状の凹条部が複数条その延在方向を互いに平行又は略平行の位置関係をもって配列した集合体からなる。従ってヘアライン調の凹凸模様を具備する化粧材は、金属以外の材料により形成され、当該へアライン凹凸模様を模した凹凸模様が表現された化粧材である。
【0003】
従来において、このようなヘアライン調の化粧材は、着色基材上に光輝性インキによる絵柄を印刷し、これに透明樹脂(熱可塑性樹脂)を積層及び加熱して軟化し、その後にエンボス加工によりヘアラインを模した線状凹部からなる凹凸模様を付していた。
このような化粧材では、エンボス加工時に熱可塑性樹脂である着色基材の伸縮が不可避のため、線状凹部と絵柄との位置の同調(即ち、見当合わせ)が困難であるとともに、光輝性インキの上に厚い樹脂(エンボス用による凹凸を付するための樹脂層)が必要であるため、光輝性インキの光輝性の効果が低下する等して、ヘアライン調の模様を表すことが必ずしも十分ではなかった。
【0004】
そこで、凹凸模様のエンボス加工無しで、見当合わせ容易な絵柄層の印刷のみでヘアライン凹凸模様の外観を模した化粧材を製造することが試みられた。例えば、特開2005-74637号公報(特許文献1)は、表面が高光沢の透明樹脂シートの裏面に黒インキでヘアライン模様絵柄層と更にその裏面に金属やパール顔料の箔片を含む金属光沢インキ(光輝性インキ)の全面ベタ層を印刷形成し、該透明樹脂シートの表面に艷消(低光沢)インキでヘアライン模様絵柄層を、裏面のヘアライン模様絵柄層と見当合わせして印刷形成することを開示する。
かかる化粧材は、透明樹脂基材の表裏両面のヘアライン模様の絵柄層同士の見当が合う(両絵柄層が平面視において同位置に位置同調する)ため、両絵柄層の見当ズレによる外観の不自然さは無いが、表面に実際の凹凸からなる凹凸模様を形成する形態に比べると、ヘアライン加工金属板表面の意匠外観の再現性(忠実度)は低いものとなる。又、化粧材の表面は平滑面のため、表面の触感も平滑であり、実物金属表面のヘアライン凹凸模様の触感再現はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-74637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本開示は、上記問題に鑑み、表面に実際の凹凸からなる凹凸模様を形成する形態を採用して、且つ外観的不自然さが小さいヘアライン金属板の意匠外観及び触感を再現でき、ヘアライン調であることをより強く印象づけることができる化粧材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示1つの態様は、表面にヘアライン調の凹凸模様が形成されてなる化粧材であって、凹凸模様を有する模様形成層を備え、模様形成層には、凹凸模様として一方向に延びる線状の溝である線状凹部が複数配置されており、線状凹部の内側にはインキが配置されており、該インキには光輝性インキが含まれている、化粧材である。また、このインキには非光輝性の着色剤が含まれてもよい。
【0008】
複数の線状凹部の少なくとも一部は、線状凹部の延びる方向に移動するに従って幅が変化するように構成してもよい。
【0009】
複数の線状凹部の少なくとも一部は、線状凹部の延びる方向に移動するに従って深さが変化するように構成してもよい。
【0010】
線状凹部が延びる方向に直交する断面に表れる複数の線状凹部のうち少なくとも一部において、隣り合う線状凹部で、深い線状凹部の方がインキの面積が大きくなるように構成してもよい。
ここで、インキの面積が大きくなるように構成された方の線状凹部の方が光輝性が高くなるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、視覚及び触感共にヘアライン調であることを強く印象づけることができる化粧材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、化粧材10の表面の一部を拡大して表した平面図である。
図2図2は、図1の一部を拡大して表した図である。
図3図3は、図2のB-B線に沿った複数の線状凹部の凹凸形状の一部を表した図である。
図4図4は、模様形成層12の形態を説明するために模式的に表した化粧材10の一部を表す斜視図である。
図5図5は線状凹部13の形態例の1つを説明する図である。
図6図6は線状凹部13の形態例の1つを説明する図である。
図7図7はインキ部14の形態例の1つを説明する図である。
図8図8は化粧材10’を説明する図である。
図9図9は濃淡画像データ(凹凸模様画像データ)の一部を表した図である。
図10図10は、レーザにより型に凹凸模様を形成する場面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を図面に示す形態に基づき説明する。本発明はこれら形態に限定されるものではない。なお、以下に示す図面では分かりやすさのため部材の大きさや比率を変更、又は誇張して記載することがある。また、見やすさのため説明上不要な部分の図示や繰り返しとなる符号は省略することがある。
【0014】
[化粧材の構造]
図1は1つの形態にかかる化粧材10の一部を拡大し、模様形成層12側から平面視した図(平面図)である。
なお、図1及び以降に示す図には必要に応じて便宜のため、方向を表す矢印(x、y、z)、即ち座標系も併せて表記した。ここでxy方向は化粧材10における面内方向、z方向は厚さ方向である。従って図1は化粧材10を模様形成層12側の特にz方向から見た(平面視した)図ということになる。
図1からわかるように本形態の化粧材10は、全体として平面視でヘアライン調をなす凹凸模様を有して形成されている。
【0015】
図2には図1にAで示した部位を抜き出して拡大した図を示した。図3には図2にB-Bで示した線(x方向)に沿った模様形成層12において、線状凹部13の凹凸(z方向)の形態の一部を示した(ただし、図3はインキ部14を除外した凹凸形状である。)。
また、図4には、化粧材10の構成をよりわかり易く説明するため、化粧材10の一部を拡大して模式的に表した斜視図を示した。
図1乃至図4よりわかるように、化粧材10は、基材11及び該基材11の一方の面に具備された模様形成層12を有して構成されている。従って本形態では基材11の一方の面が模様形成層12として機能するように構成されている。換言すれば、本形態においては、基材11自体が模様形成層12を兼ねた単層構成となっている。なお、これに限らず、基材11と模様形成層12とを別個の独立層とし、両層を積層した複数層構成とした形態とすることもできる。
【0016】
以下、各構成についてさらに詳しく説明する。
【0017】
<基材>
基材11は、模様形成層12を保持するとともに化粧材10に強度を付与する機能を有するシート状の部材である。基材11の形態としてはフィルム、シート、あるいは板のいずれでも良い。一般的には、厚みが比較的薄いものから、順次、フィルム、シート、板と呼称されるが、本形態においては、これら基材の厚み形態による差異は本質的な事項ではなく重要な事項でもない。そのため、本明細書中においてはフィルム、シート、及び板のいずれかの用語は適宜他の用語に読み換えても本発明の本質も特許請求の範囲の解釈も不変である。
又、後述すると共に図4にも図示するような、基材11と模様形成層12とが単一層で兼用される形態においては、模様形成層12自体が基材11でもある。基材11としてはかかる形態も含む。
【0018】
基材11は従来公知の化粧材と同様の機能を有するものであればよいので、その材料は特に限定されない。例えば、基材の材料としては、通常、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル(塩化ビニルの単独重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、スチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、2液硬化型ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、或いは、ラジカル重合型のアクリレート系やカチオン重合型のエポキシ系等の単量体やプレポリマーを電離放射線(紫外線、電子線等)で硬化する電離放射線硬化性樹脂等が用いられる。なお、基材の材料が樹脂の場合、公知の着色剤で着色しても良い。この他、紙、不織布、金属、木等もシート、板、立体物等の形状で、適宜上記樹脂材料と積層させて、使用することもできる。
【0019】
基材を公知の着色剤で着色したとき、この着色による基材の色相を、後述する模様形成層12に具備されるインキ部14の色相と所定の関係を有するように構成することもできる。具体的な内容は後のインキ部14で説明する。
【0020】
基材の厚さには特に制限は無いが、シート状の基材又はフィルム状の基材の場合は、例えば、厚さを20μm以上1000μm以下程度、板状の基材の場合は、例えば、厚さを1mm以上20mm以下程度とすることができる。
【0021】
<模様形成層>
模様形成層12は、本形態では基材11の一方の面に具備され、化粧材に凹凸模様を付与する層であり、本形態では、基材11自体の表面(図4においては上側、すなわち+z方向側の面)近傍に、化粧材10に平面視がヘアライン調の凹凸模様を付す形態とされており、基材11が模様形成層12を兼ねている(換言すれば、基材11自体の表面近傍が模様形成層12を構成する。)。特に図4からよくわかるように、模様形成層12は凹部13及びこの凹部13の内側に配置されたインキ部14を具備してなる。以下それぞれについて説明する。
【0022】
{線状凹部}
模様形成層12は、図1乃至図4よりわかるように、線状の溝である線状凹部13が複数設けられている。本形態でこの線状凹部13は次のような構成を有している。化粧材10表面に線状凹部13を複数有することにより、化粧材10に視覚的外観のみではなく触感の観点からもヘアライン調の意匠を付与することができる。
【0023】
本形態において、線状凹部13は一方向(本形態ではy方向)に平行又は略平行に延びるように形成されている。従って線状凹部13はy方向の大きさを長さ、x方向の大きさを幅、z方向の大きさを深さとした線状の溝(凹線条)である。ここで、1つの線状凹部13の長さは特に限定されることはない。すなわち、線状凹部13の長さ方向両端部が化粧材の端(縁)に達するように形成されてもよく、一端が化粧材の端に達することなく他端は化粧材の端に達してもよく、両端が化粧材の端に達しない長さとされていてもよい。そしてこれらは1つの化粧材10の中でいずれか1つである必要はなく、1つの化粧材10の中に混在するものであってもよい。
なお、線状凹部13が一方向に「略平行に延びる」とは、複数の線状凹部13の延びる方向が全て同一方向に揃った状態(これが完全に平行に延びた状態)では無いものの、平面視において各線状凹部13の延びる方向の分布が10度以内に収まっていることを意味する。ヘアライン調の意匠外観再現のためには、各線状凹部13の延びる方向の分布が平面視において5度以内に収まっていることがより好ましい。
【0024】
線状凹部13の幅(幅方向大きさ)は特に限定されることはなく、代表的には10μm以上200μm以下の範囲とすることができる。複数の線状凹部13で、それぞれの幅は同じであってもよいが、図3図4に表れているように異なるものであってもよい。
【0025】
また、図5には、1つの形態例を説明する図で、ある1つの線状凹部13に注目した図を示した。図5の中央の図は当該線状凹部13を平面視した図、図5の下部の図は当該線状凹部13の一方側の端部におけるxz平面図、図5は他方側の端部におけるxz平面図をそれぞれ表した。図5からわかるように、1つの線状凹部13に注目した場合に、幅が、長手方向(線状凹部13が延びる方向)に移動するに従って変化する(幅が大きくなる、幅小さくなる)ものであってもよい。この変化は、図5のように連続的なものであってもよく、段階的なもの、不規則的なものであってもよい。従って、幅の変化は一方側から他方側へ向けて大きくなっていくことに限らず、途中までは大きくなり、途中から小さくなるように変化してもよい。
このような線状凹部13が化粧材10の少なくとも一部に含まれてもよい。
【0026】
線状凹部13の深さ(深さ方向の大きさ)は特に限定されることはなく、例えば5μm以上100μm以下の範囲とすることができる。複数の線状凹部13で、それぞれの深さは同じであってもよいが、図3図4に表れているように異なるものであってもよい。
また、図6は1つの形態例を説明する図で、ある1つの線状凹部13に注目した図である。図6の中央の図は当該線状凹部13を長手方向(y方向)に沿ってyz平面で切断した図、図6の左部の図は当該線状凹部13の一方側の端部におけるxz平面図、図6の右部の図は当該線状凹部13の他方側の端部におけるxz平面図をそれぞれ表している。図6からわかるように、1つの線状凹部13に注目した場合に、深さが、長手方向(線状凹部13が延びる方向)に移動するに従って変化するものであってもよい。この変化は、図6のように連続的なものであってもよく、段階的なもの、不規則的なものであってもよい。従って、深さの変化は一方側から他方側へ向けて深くなっていくことに限らず、途中までは深くなり、途中から浅くなるように変化してもよい。
このような線状凹部13が化粧材10の少なくとも一部に含まれてもよい。
【0027】
線状凹部13の長手方向(y方向)に直交する方向(x方向)の断面形状は特に限定されることはなく、半円形、半楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形その他多角形、不定型な幾何学形状など、あらゆる形状を取り得る。
そのなかでも、図5の上部の図に表したように、深さDに対する幅Wの割合(W/D)は、次の関係を満たしていることが好ましい。
0<W/D≦15
これにより、ヘアライン調の意匠外観再現性をより高めることができる。但し、線状凹部内13内に光輝性インキ中の光輝性顔料が確実に充填されるように、深さD及び幅Wは、光輝性顔料粒子の最大対角線長の平均値よりも大きくなるようにすることが好ましい。例えば、光輝性顔料の粒子が、高さが上底及び下底の最小対角線長よりも小さい多角柱形状の場合は、上底及び下底の多角形の最大対角線長を全粒子に対して平均した値よりも深さD及び幅Wが大きくなるようにすればよい。
【0028】
{インキ部}
インキ部14は、線状凹部13の内側に配置された光輝性インキが含まれたインキからなる部位である。ここで、「光輝性」とは、光の反射率が比較的高いと共に、照明光の入射方向及び観察者の視線方向との組合せに依存して色調(色相、明度、彩度のいずれか1つ以上)や輝度、光沢等が変化することを言い、化粧材10が金属製品であるかの様な独特の意匠性を発揮するものである。
【0029】
本形態ではインキ部14の光輝性インキは、光輝性顔料が樹脂バインダに分散されたものが適用されている。
【0030】
光輝性顔料としては、酸化チタン又は酸化鉄の薄膜で表面を被覆したマイカ(雲母)、真珠貝等の貝殻、酸塩化ビスマス、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなるパール顔料(真珠光沢顔料)、あるいはアルミニウム、真鍮、金、銀、銅、錫、ニッケル等の金属の鱗片状箔片、金属蒸着した樹脂フィルムの鱗片状箔片、互に屈折率の異なる樹脂フィルムを多層積層して干渉光沢を発現せしめたものの鱗片状箔片等を用いることができる。
これら光輝性顔料の平均粒径は、所望の光輝性及び印刷適性等に応じて適宜のものを用いることができるが、通常は、10μm以上60μm以下程度のものが光輝発現のためには好ましい。ここで粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値とする。メディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に並べた場合に、粒子の累積体積が全体の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0031】
樹脂バインダとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂、硝化綿(硝酸セルロース)、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリオール化合物を主剤としイソシアネート化合物を硬化剤とする2液硬化型ウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、アクリレート系の単量体又はプレポリマー、エポキシ系プレポリマー、不飽和ポリエステル樹脂等の何れか1種以上を含む組成物からなり、紫外線、電子線等の電離放射線で架橋又は重合して硬化する電離放射線硬化性樹脂等を用いることができる。
【0032】
インキ部にはさらに光輝性がなく(非光輝性)、所望の色相を有する着色剤を含めてもよい。着色剤は特に限定されることはないが、例えば、カーボンブラック、鉄黒、チタン白、アンチモン白、亜鉛華、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の粒子からなる無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、アニリンブラック、アゾメチンアゾブラック、ペリレンブラック等の有機顔料又は染料等の1種又はこれらを2種以上混ぜた着色剤が挙げられる。
光輝性インキに光輝性顔料と着色剤とを含有することにより、光輝性インキが充填された線状凹部は、光輝性顔料に起因する金属光沢、真珠光沢、あるいはこれらに類似する光沢を得ることに加えて、着色剤に起因する色相を発現することにより、いわゆる「カラーメタリック調」あるいは「カラーパール調」の意匠外観を呈するものとなる。
【0033】
光輝性インキに着色剤を含む際には、光輝性顔料及び着色剤の含有量は、所望のヘアライン調の外観及び意匠に応じて適宜調整することができる。通常、樹脂バインダ100質量部に対して、光輝性顔料の含有量は0.1質量部~50質量部の範囲、着色剤の含有量は0.1質量部~50質量部の範囲とすることができる。光輝性顔料含有量と着色剤含有量との比も所望のヘアライン調の外観及び意匠に応じて適宜選択すれば良いが、光輝性顔料含有量/着色剤含有量の比は5/95~95/5の範囲とされる。
【0034】
以上のように、光輝性インキを含む材料が線状凹部に配置されることでインキ部が形成されていればよい。これにより、ヘアラインであることをより強く印象づけることが可能な化粧材とすることができる。
【0035】
上記に加え、インキ部は次のような態様にすることもできる。
インキ部の光輝性を所定の範囲にしてもよい。具体的には、図7に表したように、化粧材10の線状凹部13の長手方向に直交する断面(xz平面による断面)をとり、ここに表れる複数の線状凹部13のうち隣り合う2つの線状凹部13を考える。
【0036】
線状凹部13内に充填された光輝性インキに起因する光輝性について、化粧材10を平面視した場合に視認される光輝性外観は、線状凹部13の長手方向の単位長さ当たりに充填される光輝性インキ充填体積が多い程、光輝性は大きくなる。そして、線状凹部13の長手方向単位長さ当たりに充填される光輝性インキ充填体積は、図7に図示されるような線状凹部13の横断面におけるインキ部14の面積Eに比例する。かかる面積Eは、線状凹部13の幅W(z)を深さ方向zの関数として、光輝性インキ(充填)部14の全域(充填深さD全域)に亘って深さ方向zで積分した値となる。
但し、図7の例のように、線状凹部13の幅の深さ方向の関数W(z)が概ね同様の場合には、線状凹部13の横断面におけるインキ部14の面積Eはインキ部14の深さDに比例するとしても、実質上の化粧材の目視外観に対する設計精度上は支障がない。
【0037】
更に、平面視の目視外観における化粧材10の光輝性の、化粧材表面の面内方向における強弱の変化の程度(即ち、面内全域に亘って光輝性が均一なのか、あるいは面内の場所ごとに光輝性の強弱が大きく変化するのか)は、図7に図示のように隣り合う2つの線状凹部13間における光輝性の強弱、すなわち隣り合う2つの線状凹部13間におけるインキ部14の面積Eと正の相関関係を持つ。互いに大きく離れた2つの線状凹部13同士の光輝性の強弱の差は、例えその差が比較的大きいときであっても、目視外観における平面視での光輝性の面内変化の大きさに与える影響は少ない。
図7のように隣り合う線状凹部13の深さを変えることにより、隣り合う2条の線状凹部13内に充填される光輝性インキ量(顔料濃度)に差を生じ、3次元的に濃度階調を持たせることで、よりリアルな金属質感及び風合い表現することが可能となる。
【0038】
図7に図示のような形態の場合は、隣接する2つの線状凹部13のうちの一方の(同図では左側の)線状凹部13の深さをD、この断面におけるインキ部14の面積をEとし、他方(同図では右側の)の線状凹部13の深さをD、この断面におけるインキ部14の面積をEとする。図7の場合は、線状凹部13の幅の深さ方向の関数W(z)は同じであるため、線状凹部13が深い方(この例では右側の深さDの線状凹部)がインキ部14の面積が大きくなる(すなわちこの例ではE<E)となるように構成されている。
【0039】
さらに、この断面における光輝性の評価も線状凹部13が深い方(この例ではDの線状凹部)の光輝性が高くなるように構成することができる。
ここで、本開示の化粧材は目視により官能的に意匠外観を認識し、鑑賞すべき物であるため、化粧材10の光輝性の評価は、評価者が目視により、光輝性、すなわち、光の反射率が比較的高いと共に、照明光の入射方向及び観察者の視線方向との組合せに依存して色調(色相、明度、彩度のいずれか1つ以上)や輝度、光沢等が変化する程度の大小を官能的に評価する。
なお、かかる目視官能的評価は主観的あり、個人差や評価環境への依存性が有る。そのため、客観的に化粧材の光輝性を比較評価する必要が有る場合は、評価者を年齢、性別、職業、趣味嗜好等を異にする複数人、好ましくは5人以上から構成し、評価を「A、B、C」、「1、2、3、4、5」等の段階的相対評価で数値化した上で平均化した値を光輝性の評価とすることが適切である。
【0040】
ただし、製品設計や品質管理上の必要性から、物理的数値として光輝性の定量評価が必要な場合は、例えば、以下のような測定評価法が適用できる。
(1)X-Rite社製MA-68IIマルチアングル分光測色計で測定したF.I値を指標とした評価。
(2)特許第4152786号(特開2004-286672号)公報記載の光輝性塗膜の測定評価方法により求めた「輝度感」と「白味感」を指標とした評価。
【0041】
基材11として該基材11が着色剤により着色されていた場合には、基材11の色相とインキ部14と色調との関係の組合せに対応して各種の意匠外観を呈する化粧材を得ることができる。
例えば、以下のような形態がある。
【0042】
(形態1)基材11とインキ部14との色差が小さい形態
ここで色差が小さいとは、CIE(国際照明委員会)が1976年に規定し、JIS Z8781-5:2013でも採用されるL表色系において、基材11の色調を(L 11、a 11、b 11)とし、インキ部14の色調を、(L 14、a 14、b 14)としたとき、
ΔE=〔(L 14-L 11+(a 14-a 11+(b 14-a 110.5
として定義される色差ΔEが次の関係を満たす場合である。
ΔE≦3 、
より好ましくは、
ΔE≦2
である。
【0043】
形態1の場合は、化粧材10における基材11と光輝性インキの充填されたインキ部14との色差が比較的小さいため、化粧材表面に摩耗や傷が加わり、線状凹部13内に充填されたインキ部14(光輝性インキ)の一部が失われた場合に、かかる摩耗や傷が目立ち難いと言う固有の効果を奏する。
【0044】
(形態2)基材11とインキ部14との色差が大きい形態
形態2は、色差ΔEが次の関係を満たす場合である。
ΔE>3、
より好ましくは、
ΔE>5
である。
【0045】
形態2の場合は、化粧材10における基材11と光輝性インキの充填されたインキ部14との色差が比較的大きいため、外観上、インキ部14が背景の基材11に対する視覚的コントラストが大きい。そのため、金属板表面にあるヘアライン加工の多数の傷(条痕)の意匠外観を良好に再現できると言う固有の効果を奏する。
【0046】
形態2は、更に色相差Δθの大小によって、以下の2形態(形態2-1、形態2-2)に分かれる。
(形態2-1)色相差Δθが小さい形態
形態2-1では、色差ΔE>3の条件に加えて、更に、L表色系のL3次元座標系における偏角θに対応する色相θを基材11についてθ11、インキ部14についてθ14としたときに、両者の色相差Δθが、
Δθ=|θ14-θ11|≦45度、
より好ましくは、
Δθ=|θ14-θ11|≦20度
である。
【0047】
形態2-1の場合は、化粧材10における基材11とインキ部14との色差が比較的大きい(ΔE>3)としたことによる金属板表面のヘアライン加工の意匠外観の良好な再現性を具備すると共に、基材11とインキ部14との色相差Δθは比較的小さい(色相差Δθ≦45度)ものとした。そのため、化粧材表面に摩耗や傷が加わり、線状凹部13内に充填されたインキ部14(光輝性インキ)の一部が失われた場合に、かかる摩耗や傷が目立ち難いと言う、一見矛盾するような2つの効果が両立して奏される。
なお、形態2-1の場合は、基材11とインキ部14との色相差Δθが比較的小さい条件の中で、基材11とインキ部14との色差ΔEを大きくするため、基材11とインキ部14との明度差、彩度差、又は明度及び彩度の差を大きくするように色調を設計する。
【0048】
(形態2-2)色相差Δθが大きい形態
形態2-2の場合は、化粧材10に於ける基材11とインキ部14との色差が比較的大きい(ΔE>3)ことに加えて、更に、基材11とインキ部14との色相差Δθも比較的大きい(色相差Δθ>45度、例えば、基材11は色相緑でインキ部14は色相赤の光輝性インキ)とした。そのため、インキ部14と背景の基材11との視覚的コントラストが更に大きい。従って金属板表面のヘアライン加工の意匠外観再現性が更に良好となると共に、線状凹部の内外とも同色相である現実のヘアライン加工した金属板とは異なった、斬新な意匠外観を再現できるという固有の効果を奏する。
なお、形態2-2の場合は、基材11とインキ部14との色相差Δθが比較的大きい事の寄与により、基材11とインキ部14との色差ΔEは、基材11とインキ部14との明度及び彩度差の大小如何によらず、大きくなるため、基材11とインキ部14との明度差、彩度差、又は明度及び彩度の差は大きくすることも小さくすることも何れも選択可能である。この形態においては、基材11とインキ部14との明度と彩度の差は、所望の化粧材の意匠外観に応じて適宜設計すればよい。
【0049】
また、インキ部14を構成する光輝性インキは、線状凹部13の内側以外の部位(例えば隣り合う凹部13の間の相対的な凸部となる表面)上には存在しないことが好ましい。ただし、製造過程において若干の光輝性インキを構成する材料(顔料やバインダ)が残存する可能性もあるため、このような誤差の範囲であれば、これらが存在することは許容される。このような誤差の範囲内であれば本発明の効果への影響は小さいからである。
【0050】
以上のような模様形成層12により、ヘアラインを表現する化粧材として従来とは異なるもの、特に、ヘアラインとしての特徴が強く表現される外観を有する化粧材とすることができる。
【0051】
<変形例>
図8には変形例の化粧材10’を説明する図を示した。本例の化粧材10’では、上記化粧材10に対して保護層15が積層されている。これにより化粧材を汚染や傷つきから保護する。
【0052】
このような保護層は、透明樹脂、又は透明ガラスなどにより構成することができる。透明樹脂を用いる場合には、例えば、熱可塑性樹脂、硬化樹脂による層を挙げることができる。
なお、基材11、模様形成層12のみでも目的の用途において十分な耐汚染性、耐擦傷性等の表面耐久性能が確保可能な場合には、保護層は省略することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等のアクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ弗化ビニル、ポリ弗化ビニリデン等の弗素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ウレタン変性の芳香族共重合ポリエステル(市販品の例としては、東洋紡(株)製「バイロン」(登録商標)等)等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0054】
硬化樹脂による層は、硬化性樹脂組成物が硬化した層であり、硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂を含有する組成物である。硬化性樹脂組成物としては、例えば、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物、電離放射線硬化性樹脂を含有する電離放射線硬化性樹脂組成物等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂(2液硬化型ポリウレタンも含む。)、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、熱硬化性樹脂の硬化反応に関与する成分、例えば、触媒、硬化剤(架橋剤、重合開始剤、重合促進剤等を含む)等を含有してもよい。
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線の照射により架橋重合反応を生じ、3次元の高分子構造に変化する樹脂である。電離放射線は、電磁波及び荷電粒子線のうち、分子を重合又は架橋し得るエネルギー量子を有するものであり、紫外線(UV)及び電子線(EB)の他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も包含するが、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が使用される。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られる。
電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、電離放射線の照射により架橋可能な(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和結合、エポキシ基等を分子中に有するモノマー、オリゴマー、或いはプレポリマー等の1種以上を含有する組成物を使用することができる。
【0055】
保護層15の厚さは特に限定されることはないが、0.1μm以上20μm以下とすることができる。薄いと曲げ等による耐久性は高いが耐擦傷性では弱く、厚いと耐擦傷、傷には強いが曲げ等の変形に弱く割れ等が発生するため、上記範囲の厚さとすることによりバランスのよい保護層とすることができる。そのため1μm以上10μm以下としてもよい。
【0056】
[化粧材10の製造方法]
次に化粧材10を例に、化粧材の製造方法の例を説明する。ただし、化粧材を製造する方法がこれに限定されることはない。
以下に説明する製造方法には、濃淡画像を作製する工程、版下画像を作製する工程、版を作製する工程、模様形成層を形成する工程、及びインキを充填する工程を含んでいる。
【0057】
<濃淡画像を作製する工程>
濃淡画像を作製する工程では、模様形成層12に表現すべき平面視における凹凸模様(ヘアライン調凹凸模様)を光学濃度の大小からなる濃淡画像として作成する。例えば、本形態では、アドビシステムズ社製のグラフィックデザイン描画ソフトウエア「Illustrator」を用い、TIFF形式で8bitの画像濃淡階調(256階調)で2540dpiの解像度の濃淡画像データを作成することができる。
【0058】
<版下画像を作製する工程>
版下画像を作製する工程では、得られた原稿画像を、濃度から凹凸即ちエンボス版の版深への変換プログラムによって、模様の濃度階調画像に対応して二値画像としての凸線条パターンの版深を二次元仮想平面XY平面上に生成して配置し、デジタルデータとして版下画像を得る。
その際、光学濃度の最小値(例えば、0)を版深データの最小値(例えば、0μm)に対応させ、光学濃度の最大値(例えば、255)を版深データの最大値(例えば、250μm)に対応させることにより、2次元平面上の各座標(X、Y)における光学濃度P(X、Y)の分布からなる濃淡画像データを同座標における版深D(X、Y)の分布から」なるエンボス版の版深データH(X、Y)に変換する。
【0059】
ここでは、凸線条の生成条件に従い、二値画像として図9の如き模様形成層の平面視画像を生成する。なお、図9においては、画像の濃淡がエンボス版の版深を表す(光学濃度が版深と対応付けられている)ものとなっている。このようにして生成された凹凸形状は、その線分部分が、化粧材における凸線条に該当する。このようにして版下画像が得られる。
【0060】
<版を作製する工程>
版を作製する工程では、版下画像に基づいて図1の化粧材のような平面視形状で凹凸は逆転した凹凸模様を表面に有するエンボス版(化粧材用成形型)の作製を行う。具体的には凹凸模様の製造工程は以下の手順(1)乃至(4)を含んでなる。
【0061】
(1)金属ロール準備工程
図10に示したようなエンボス版彫刻用の金属ロール20を準備した。金属ロール20は、軸方向両端部に回転駆動軸(shaft)21を有する中空の鉄製の円筒の表面に銅層をメッキ形成したものである。砥石で金属ロール20の表面を研磨して粗面化し、彫刻用レーザ光の鏡面反射による彫刻効率の低下を防止する処理をした。
【0062】
(2)レーザ光彫刻工程
図10に模式的に示したように、レーザ光直接彫刻機を用い、工程(1)で用意した金属ロール20の表面を版下画像作成工程で作成した凹凸模様画像データに基づき彫刻する。これによりその表面に図1のような化粧材表面の凹凸模様と同一平面視形状で且つ逆凹凸(化粧材の凸線条に対応する部分がエンボス版面上では凹線条となる関係)の凹凸形状を形成する。
従ってエンボス版における凹凸模様が備えるべき形状は、上記した化粧材における凹凸模様の凹凸関係が反転した態様であり、同様に考えることができる。
【0063】
金属ロール20をその回転駆動軸21を介して電動機で駆動し、回転駆動軸21を中心軸として回転する。レーザーヘッド22から出射される発振波長1024nm、レーザスポット径10μm、出力360Wのファイバーレーザ光Pで金属ロール20の表面を走査する。その際には工程(1)で作成した凹凸模様画像データの濃度値に応じてレーザ光をON-OFF切換(照射又は非照射の切換)を行い、照射位置には1回のレーザ光照射による金属の蒸発で深さ10μmの凹部を形成する。本例ではかかるレーザ光による金属ロール表面に対する走査を例えば10回繰り返す。また、蒸発した金属が粉体となって金属ロール20の表面に残留又は付着することを防止するため、彫刻液吐出口23から彫刻液Tを金属ロール20の表面のレーザ光照射領域に吹き付けた状態でレーザ光照射を行う。
その際に、例えば、凹凸模様画像データ上で版深50μmに対応する画像濃度の位置座標においては、合計25回の走査のうち、最初の5回分のみレーザ光を照射(ON)し、残り20回分についてはレーザ光が非照射(OFF)となるよう制御して所望の深さを得る。
かかるレーザ光の走査を完了させ、金属ロール20の表面に所望の凹凸形状を形成する。
【0064】
(3)電解研磨工程
彫刻液を洗浄した後、電解研磨を行い、金属ロール20の表面に付着した金属の残渣を除去する。
【0065】
(4)クロムメッキ工程
工程(3)の後、金属ロール表面にメッキにより厚さ10μmのクロム層を形成した。
【0066】
以上により模様形成層12の表面に形成された凹凸模様の凹凸が反転した凹凸形状を表面に備える版(化粧材用成形型、本形態ではエンボス版)を得ることができる。
【0067】
<模様形成層を形成する工程>
次に、模様形成層を形成する工程では、作製された版(エンボス版)を用いて、基材11にエンボス加工を行えば化粧材10が得られる。エンボス加工は、適宜な公知の方法によれば良く、特に制限はない。エンボス加工の代表的な方法は例えば次のようなものである。
基材としてポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる樹脂シートを用いる。この基材を加熱軟化させ、その表面にエンボス版を押圧して該樹脂シート表面にエンボス版表面の凹凸模様を賦形する。そして樹脂シートを冷却して固化させて樹脂シート上の凹凸模様を固定する。その後に凹凸模様が賦形された樹脂シートをエンボス版から離型する。
ここで、各種エンボス加工法について、さらに説明すると例えば次の(A)乃至(E)のような方法がある。
【0068】
(A)基材となる樹脂シートを加熱軟化させ、エンボス版を押圧して、エンボス加工する。
(B)エンボス版を押圧する時の熱圧で表面シートとなる樹脂シート(基材)とベースシートとする樹脂シート(第2の基材)とを熱融着することにより、エンボス加工とラミネートとを同時に行うダブリングエンボス法によりエンボス加工する。
(C)表面シートとする樹脂シート(基材)を、Tダイから溶融押出しをし、冷却ローラを兼ねるシリンダ状のエンボス版上に接触させて表面シートの成膜と同時にエンボス加工する。このとき、さらに表面シートの裏面側に挿入したベースシートとする樹脂シート(第2の基材)を熱融着させてダブリングエンボスを成膜と同時に行う。
(D)特開昭57-87318号公報、特開平7-32476号公報等に開示の如く、シリンダ状のエンボス版の表面に電離放射線硬化性樹脂の未硬化液状物を塗工する。さらにその上に、樹脂シート等からなるベースシートを重ねた状態で電離放射線を照射して未硬化液状物を硬化させて硬化物とする。その際、該硬化物をベースシートと接着させた後、エンボス版から離型して、ベースシートと該ベースシート上の硬化物とからなる基材とすることで、基材にエンボス加工する。
(E)チタン紙等の紙にメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂の未硬化物を含浸した含浸紙を、コア紙、木材合板上等の裏打材上に載置して、これら載置した複数層を熱プレス成形することによって各層を積層一体化して熱硬化性樹脂化粧材を作製する。そのとき、含浸紙表面側にエンボス版を挿入することによって、熱硬化性樹脂を含浸硬化させて化粧材とする際にその表面に熱プレスと同時にエンボス加工する。
【0069】
なお、(A)乃至(C)のエンボス加工法で用いる基材の材料としては代表的には熱可塑性樹脂が使用され、(D)のエンボス加工法で用いる基材の材料としては代表的には電離放射線硬化性樹脂が使用され、(E)のエンボス加工法で用いる基材の材料としては代表的には熱硬化性樹脂が使用される。
【0070】
<インキを充填する工程>
インキを充填する工程では、基材11の表面に形成された線状凹部13に光輝性インキを充填してインキ部14を形成する。これは、基材11のうち線状凹部13が形成された側の面にインキ部14となるべき材料のインキ(未硬化状態)を供給し、その上をドクターブレードで掻く(ワイピングする)ことにより行う。これにより、余分なインキを除去することができるとともに線状凹部13内にインキを押し込むことができる。そしてドクターブレードを線状凹部13が延びる方向(y方向)に対して平行に移動することで行う。すなわち、これにより上記したようなインキ部14の形状を容易に形成することができる。
そして、適切な方法によりインキを硬化させることにより化粧材10となる。
【0071】
以上のようにして化粧材10を得ることができる。
【0072】
[化粧材の用途]
以上説明した化粧材の用途は特に制限は無いが、例えば、壁、床、天井等の建築物の内装材、建築物の外壁、屋根、門扉、塀、柵等の外装材、扉、窓枠、扉枠等の建具、廻り縁、幅木、手摺等の建具乃至造作部材の表面材、テレビ受像機、冷蔵庫等の家電製品や複写機等の事務機器の筐体の表面材、箪笥、戸棚、机、食卓等の家具の表面材、箱、ガラス瓶、樹脂瓶等の容器の表面材、自動車、鉄道車両等の車両、船舶、航空機等の輸送機の内装材又は外装材等である。
【符号の説明】
【0073】
10、10’ 化粧材
11 基材
12 模様形成層
13 線状凹部(凹凸模様)
14 インキ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10