(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 19/18 20060101AFI20241112BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20241112BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241112BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20241112BHJP
【FI】
B41J19/18 L
G05B11/36 B
B41J2/01 303
B41J2/01 401
H02P29/00
(21)【出願番号】P 2020161184
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桐山 祥衣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 英輔
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092694(JP,A)
【文献】特開2005-111898(JP,A)
【文献】特開2008-219962(JP,A)
【文献】特開2000-177192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 19/18
G05B 11/36
B41J 2/01 - 2/215
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
前記モータを制御するように構成されるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記モータに対する操作量を演算し、前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御する制御処理と、
前記操作量を補正する補正処理と、
を実行し、
前記制御処理では、
前記可動部品が変位方向下流に所定量変位する度に、前記操作量を初期値まで下げた後、前記操作量を前記初期値から徐々に増加させるように、前記操作量を演算し、前記補正処理によって前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御し、
前記補正処理では、前記モータに作用する負荷
が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、
前記初期値を増加させるように補正することにより、前記操作量を増加させるように補正する制御装置。
【請求項2】
請求項
1記載の制御装置であって、
前記コントローラは、前記補正処理では、予め定められた補正量を前記操作量に加算することによって、前記操作量を補正する制御装置。
【請求項3】
請求項
1記載の制御装置であって、
前記コントローラは、前記補正処理では、目標速度と検出器により検出された前記可動部品の速度との偏差に応じた補正量を前記操作量に加算することにより、前記操作量を補正する制御装置。
【請求項4】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
前記モータを制御するように構成されるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記モータに対する操作量を演算し、前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御する制御処理と、
前記操作量を補正する補正処理と、
を実行し、
前記制御処理では、前記補正処理によって前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御し、
前記補正処理では、前記モータに作用する負荷
が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、
目標速度と検出器により検出された前記可動部品の速度との偏差に応じた補正量を前記操作量に加算することにより、前記操作量を増加させるように補正する制御装置。
【請求項5】
請求項
3又は請求項4記載の制御装置であって、
前記コントローラは、前記補正処理では、前記検出器により検出された前記区間に進入するときの前記可動部品の速度に基づき、前記目標速度を設定する制御装置。
【請求項6】
請求項
3~請求項5
のいずれか一項記載の制御装置であって、
前記コントローラは、前記目標速度として、前記区間で前記可動部品が変位するにつれて増加する目標速度を設定する制御装置。
【請求項7】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
前記モータを制御するように構成されるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記モータに対する操作量を演算し、前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御する制御処理と、
前記操作量を補正する補正処理と、
区間設定処理と、
を実行し、
前記制御処理では、前記補正処理によって前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御し、
前記補正処理では、前記モータに作用する負荷が上昇すると推定される区間で前記負荷が上昇する方向に前記可動部品が変位していると推定されるとき、前記操作量を増加させるように補正し、
前記区間設定処理では、前記可動部品の変位をフィードバック制御することにより得られた前記モータに対する操作量の観測データから推定される負荷の変化に基づき、前記区間を設定す
る制御装置。
【請求項8】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
前記モータを制御するように構成されるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記モータに対する操作量を演算し、前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御する制御処理と、
前記操作量を補正する補正処理と、
区間設定処理と、
を実行し、
前記制御処理では、前記補正処理によって前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御し、
前記補正処理では、前記モータに作用する負荷が上昇すると推定される区間で前記負荷が上昇する方向に前記可動部品が変位していると推定されるとき、前記操作量を増加させるように補正し、
前記区間設定処理では、
前記モータによる前記可動部品の変位の制御過程において前記可動部品が異常停止したときの前記可動部品の異常停止位置に基づき、前記区間を設定す
る制御装置。
【請求項9】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
を備える装置における前記モータの制御方法であって、
前記モータに対する操作量を演算することと、
前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することと、
前記操作量を補正することと、
を含み、
前記制御することは、
前記可動部品が変位方向下流に所定量変位する度に、前記操作量を初期値まで下げた後、前記操作量を前記初期値から徐々に増加させるように、前記操作量を演算し、前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することを含み、
前記補正することは、前記モータに作用する負荷
が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、
前記初期値を増加させるように補正することにより、前記操作量を増加させるように補正することを含む制御方法。
【請求項10】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
を備える装置における前記モータの制御方法であって、
前記モータに対する操作量を演算することと、
前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することと、
前記操作量を補正することと、
を含み、
前記制御することは、前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することを含み、
前記補正することは、前記モータに作用する負
荷が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、
目標速度と検出器により検出された前記可動部品の速度との偏差に応じた補正量を前記操作量に加算することにより、前記操作量を増加させるように補正することを含む制御方法。
【請求項11】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
を備える装置における前記モータの制御方法であって、
前記モータに対する操作量を演算することと、
前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することと、
前記操作量を補正することと、
を含み、
前記制御することは、前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することを含み、
前記補正することは、前記モータに作用する負荷
が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、前記操作量を増加させるように補正することを含
み、
前記制御方法は、
前記可動部品の変位をフィードバック制御することにより得られた前記モータに対する操作量の観測データから推定される負荷の変化に基づき、前記区間を設定すること
を更に含む制御方法。
【請求項12】
モータと、
前記モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、
を備える装置における前記モータの制御方法であって、
前記モータに対する操作量を演算することと、
前記操作量に対応する電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することと、
前記操作量を補正することと、
を含み、
前記制御することは、前記操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する前記電力を前記モータに入力することにより、前記モータを制御することを含み、
前記補正することは、前記モータに作用する負荷
が上昇すると推定される区間で
前記負荷が上昇する方向に前記可動部品
が変位していると推定されるとき、前記操作量を増加させるように補正することを含
み、
前記制御方法は、
前記モータによる前記可動部品の変位の制御過程において前記可動部品が異常停止したときの前記可動部品の異常停止位置に基づき、前記区間を設定すること
を更に含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷変動の影響を抑えて、モータを高精度に制御するための技術が研究されている。例えば、インクジェットプリンタにおけるモータの制御方法であって、記録ヘッドを搭載するキャリッジを微小送りするようにモータを制御することにより、記録ヘッドに対する適切なキャッピング動作を実現する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この制御方法では、モータに印加する駆動電流を初期値から徐々に増加させ、エンコーダ信号に基づきキャリッジが移動したことを検知すると、駆動電流を初期値に戻す動作が繰り返される。更に、負荷変動に応じて駆動電流の増加率が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モータによって駆動対象を駆動するとき、駆動対象の変位に伴うモータへの負荷変動が大きい場合には、モータによる駆動力が不足して、駆動対象が停止してしまうことが考えられる。こうした事象が発生すると、駆動対象を再度変位させるために静止摩擦に打ち勝つモータトルクを発生させる必要があり、制御が不安定になりやすい。
【0006】
そこで、本開示の一側面によれば、負荷変動の影響を抑えて、可動部品の変位を適切に制御可能な制御装置及び制御方法を提供できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータと、可動部品と、コントローラとを備える。可動部品は、モータからの動力を受けて変位するように構成される。コントローラは、モータを制御するように構成される。
【0008】
コントローラは、制御処理と、補正処理とを実行する。コントローラは、制御処理において、モータに対する操作量を演算し、操作量に対応する電力をモータに入力することにより、モータを制御する。コントローラは、補正処理において、操作量を補正する。
【0009】
本開示の一側面によれば、コントローラは、制御処理では、補正処理によって操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する電力をモータに入力することにより、モータを制御する。
【0010】
本開示の一側面によれば、コントローラは、補正処理では、モータに作用する負荷がピークに到達すると推定される可動部品の位置であるピーク位置よりも可動部品の変位方向上流の区間であって、負荷がピークに向かって上昇すると推定される区間で可動部品がピーク位置に向かって変位していると推定されるとき、操作量を増加させるように補正する。
【0011】
上記区間で、操作量を増加させることによれば、可動部品が負荷のピークに向かって変位する過程で、可動部品が負荷に打ち負けて、停止又は後退するのを抑制することができる。従って、本開示の一側面によれば、負荷が変化する環境でも、可動部品の変位を適切に制御可能な制御装置を提供することができる。
【0012】
本開示の一側面によれば、コントローラは、制御処理では、可動部品が変位方向下流に所定量変位する度に、操作量を初期値まで下げた後、操作量を初期値から徐々に増加させるように、操作量を演算してもよい。コントローラは、補正処理では、上記初期値を増加させるように補正することにより、操作量を補正してもよい。こうした補正によれば、可動部品を緩やかに変位させる制御において、可動部品が負荷に打ち負けて、停止又は後退するのを抑制することができる。
【0013】
本開示の一側面によれば、コントローラは、補正処理では、予め定められた補正量を操作量に加算することによって、操作量を補正してもよい。こうした補正によれば、複雑な補正なしに、負荷に応じた適切なモータ制御を実現可能である。
【0014】
本開示の一側面によれば、コントローラは、補正処理では、目標速度と検出器により検出された可動部品の速度との偏差に応じた補正量を操作量に加算することにより、操作量を補正してもよい。こうした補正によれば、フィードバック制御方式により操作量を補正することができ、負荷に対する可動部品の運動に応じた適切なモータ制御を実現可能である。
【0015】
本開示の一側面によれば、コントローラは、補正処理では、検出器により検出された区間に進入するときの可動部品の速度に基づき、目標速度を設定してもよい。この場合、可動部品の運動に適合した目標速度を設定して、適切な操作量の補正を行うことができる。
【0016】
本開示の一側面によれば、コントローラは、目標速度として、区間で可動部品が変位するにつれて増加する目標速度を設定してもよい。こうした設定によれば、ピーク位置に向かって可動部品が変位するのに合わせて、可動部品に勢いを付けることができて、可動部品が負荷に打ち負ける可能性を抑制することができる。
【0017】
本開示の一側面によれば、コントローラは、可動部品の変位をフィードバック制御することにより得られたモータに対する操作量の観測データから推定される負荷の変化に基づき、上記区間を設定する区間設定処理を更に実行してもよい。こうした処理によれば、適切な区間で、操作量を補正することができる。
【0018】
本開示の一側面によれば、コントローラは、モータによる可動部品の変位の制御過程において可動部品が異常停止したときの可動部品の異常停止位置に基づき、上記区間を設定する区間設定処理を更に実行してもよい。
【0019】
本開示の一側面によれば、モータの制御方法が提供されてもよい。制御対象のモータは、モータと、モータからの動力を受けて変位するように構成される可動部品と、を備える装置のモータであり得る。
【0020】
本開示の一側面によれば、モータの制御方法は、モータに対する操作量を演算することと、操作量に対応する電力をモータに入力することにより、モータを制御することと、操作量を補正することと、を含んでいてもよい。
【0021】
制御することは、操作量が補正された場合、補正された操作量に対応する電力をモータに入力することにより、モータを制御することを含んでいてもよい。補正することは、モータに作用する負荷がピークに到達すると推定される可動部品の位置であるピーク位置よりも可動部品の変位方向上流の区間であって、負荷がピークに向かって上昇すると推定される区間で可動部品がピーク位置に向かって変位していると推定されるとき、操作量を増加させるように補正することを含んでいてもよい。
【0022】
こうしたモータの制御方法によれば、負荷が変化する環境でも、可動部品の変位を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】画像形成装置の構成を表すブロック図である。
【
図2】キャリッジ搬送機構及び用紙搬送機構の構成を表す図である。
【
図3】第一実施形態におけるモータコントローラの機能ブロック図である。
【
図4】第一実施形態における補正制御のオン/オフ及び補正量の変化を説明するグラフである。
【
図5】第一実施形態においてモータコントローラが実行する制御処理を表すフローチャートである。
【
図6】第二実施形態においてモータコントローラが実行する制御処理を表すフローチャートである。
【
図7】第二実施形態における補正制御のオン/オフ及び補正制御に用いられる目標速度の変化を説明するグラフである。
【
図8】第三実施形態におけるモータコントローラの機能ブロック図である。
【
図9】第三実施形態においてモータコントローラが実行する区間設定処理を表すフローチャートである。
【
図10】定速搬送制御での操作量の変化を説明するグラフである。
【
図11】負荷データに基づく補正区間の設定方法及び補正制御のオン/オフ態様を説明するグラフである。
【
図12】
図12Aは、キャッピング機構の配置を説明する図であり、
図12Bは、キャップのリフトアップに関係するキャッピング機構の構成を説明する図である。
【
図13】第四実施形態においてモータコントローラが実行する微小搬送制御処理を表すフローチャートである。
【
図14】微小搬送制御による操作量の変化をキャリッジの位置変化と共に説明するグラフである。
【
図15】変形例のモータコントローラが実行する区間設定処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本開示の例示的実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[第一実施形態]
図1に示す本実施形態の画像形成システム1は、インクジェットプリンタとして構成される。この画像形成システム1は、メインコントローラ10と、通信インタフェース20と、印刷コントローラ30と、搬送コントローラ40とを備える。
【0025】
メインコントローラ10は、画像形成システム1を統括制御する。メインコントローラ10は、通信インタフェース20を介して外部機器から印刷対象の画像データを受信すると、受信した画像データに基づく画像が用紙Qに形成されるように、印刷コントローラ30及び搬送コントローラ40に指令入力する。
【0026】
画像形成システム1は、記録ヘッド50と、インクタンク51と、ヘッド駆動回路55と、キャリッジ搬送機構60と、CRモータ71と、モータ駆動回路73と、エンコーダ75と、信号処理回路77とを更に備える。キャリッジ搬送機構60は、記録ヘッド50を搭載するキャリッジ61を備える。
【0027】
印刷コントローラ30は、メインコントローラ10からの指令に従って、CRモータ71を制御することにより、キャリッジ搬送機構60によるキャリッジ61の搬送を制御し、更には、記録ヘッド50によるインクの吐出動作を制御する。この制御によって、印刷コントローラ30は、上記画像を用紙Qに形成する。
【0028】
記録ヘッド50は、用紙Qに向けてインクを吐出するインクジェットヘッドである。記録ヘッド50は、キャリッジ61には搭載されないインクタンク51と図示しないチューブを介して接続され、インクタンク51からのインク供給を、チューブを介して受けて、インクを吐出する。記録ヘッド50には、図示しない信号線が更に接続される。
【0029】
ヘッド駆動回路55は、印刷コントローラ30からの制御信号に従って、記録ヘッド50を駆動するように構成される。キャリッジ搬送機構60は、CRモータ71からの動力をキャリッジ61に伝達することにより、キャリッジ61を主走査方向に沿って往復動させるように構成される。キャリッジ搬送機構60の詳細構成については、
図2を用いて後述する。
【0030】
CRモータ71は、直流モータにより構成される。モータ駆動回路73は、印刷コントローラ30から入力される操作量Uに対応する駆動電力をCRモータ71に供給して、CRモータ71を駆動するように構成される。
【0031】
一例によれば、モータ駆動回路73は、操作量Uに対応する駆動電圧又は駆動電流をCRモータ71に印加して、CRモータ71を駆動することができる。一例によれば、モータ駆動回路73は、PWM制御によりCRモータ71を駆動することができる。
【0032】
エンコーダ75は、主走査方向におけるキャリッジ61の変位に応じたエンコーダ信号を出力するリニアエンコーダである。信号処理回路77は、エンコーダ75から入力されるエンコーダ信号に基づき、主走査方向におけるキャリッジ61の位置X及び速度Vを検出する。信号処理回路77により検出されたキャリッジ61の位置X及び速度Vは、印刷コントローラ30に入力される。
【0033】
印刷コントローラ30は、メインコントローラ10からの指令に従うキャリッジ61の搬送制御を実現するように、信号処理回路77から入力されるキャリッジ61の位置X及び速度Vに基づき、CRモータ71に対する操作量を決定し、CRモータ71を制御する。
【0034】
CRモータ71の制御は、具体的には、印刷コントローラ30が備えるモータコントローラ100によって実現される。モータコントローラ100の詳細構成については、
図3を用いて後述する。
【0035】
印刷コントローラ30は更に、信号処理回路77から入力されるキャリッジ61の位置Xに基づき、メインコントローラ10からの指令に従うインクの吐出制御を実現するための制御信号を、ヘッド駆動回路55に入力する。これにより、用紙Qには、印刷対象の画像を用紙Qに形成するためのインクが記録ヘッド50から吐出される。
【0036】
搬送コントローラ40は、メインコントローラ10からの指令に従って、PFモータ91を制御することにより、用紙Qの搬送を制御する。画像形成システム1は、用紙Qの搬送に関わる構成要素として、用紙搬送機構80と、PFモータ91と、モータ駆動回路93と、エンコーダ95と、信号処理回路97とを更に備える。
【0037】
用紙搬送機構80は、搬送ローラ81を備える。用紙搬送機構80は、PFモータ91からの動力を受けて搬送ローラ81を回転させることにより、用紙Qを主走査方向とは直交する副走査方向に搬送する。これにより、用紙搬送機構80は、記録ヘッド50の動作に合わせて、用紙Qを副走査方向に送り出す。
【0038】
PFモータ91は、直流モータにより構成される。モータ駆動回路93は、搬送コントローラ40から入力される操作量に従う駆動電流をPFモータ91に印加し、PFモータ91を駆動する。エンコーダ95は、PFモータ91又は搬送ローラ81の回転軸に配置されて、PFモータ91又は搬送ローラ81の回転に応じたエンコーダ信号を出力するロータリエンコーダである。
【0039】
信号処理回路97は、エンコーダ95から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ81の回転量及び回転速度を検出する。搬送ローラ81の回転量及び回転速度は、搬送ローラ81の回転により搬送される用紙Qの搬送量及び搬送速度に対応する。
【0040】
信号処理回路97により検出された回転量及び回転速度は、搬送コントローラ40に入力される。搬送コントローラ40は、信号処理回路97から入力される回転量及び回転速度に基づき、PFモータ91に対する操作量を決定して、PFモータ91を制御する。これにより、搬送コントローラ40は、搬送ローラ81による用紙Qの搬送を制御する。
【0041】
キャリッジ搬送機構60は、
図2に示すように、キャリッジ61に加えて、ベルト機構65と、ガイドレール67,68とを備える。ベルト機構65は、主走査方向に配列された駆動プーリ651及び従動プーリ653と、駆動プーリ651と従動プーリ653との間に巻回されたベルト655とを備える。
【0042】
ベルト655には、キャリッジ61が固定される。ベルト機構65では、駆動プーリ651がCRモータ71からの動力を受けて回転し、ベルト655及び従動プーリ653が、駆動プーリ651の回転に伴って、従動回転する。
【0043】
ガイドレール67,68は、主走査方向に沿って延設され、互いに副走査方向に離れた位置に配置される。ベルト機構65は、ガイドレール67に配置される。ガイドレール67,68には、例えば主走査方向に沿って延びる凸状の壁(図示せず)がキャリッジ61の移動方向を主走査方向に規制するために形成される。
【0044】
キャリッジ61は、このガイドレール67,68によって移動方向を規制されながら、ベルト655の回転に連動して、ガイドレール67,68上を主走査方向に沿って移動し変位する。記録ヘッド50は、キャリッジ61の移動に伴って、主走査方向に移動する。
【0045】
エンコーダ75は、エンコーダスケール75Aと、光学センサ75Bと、を備える。エンコーダスケール75Aは、主走査方向に沿ってガイドレール67に配置される。光学センサ75Bは、キャリッジ61に搭載される。エンコーダ75は、エンコーダスケール75Aと光学センサ75Bとの間の相対位置の変化に応じたエンコーダ信号を信号処理回路77に入力する。
【0046】
搬送ローラ81は、記録ヘッド50の副走査方向上流において、主走査方向に対して平行に配置される。搬送ローラ81は、PFモータ91からの動力を受けて回転し、上流から搬送されてくる用紙Qを、副走査方向下流に搬送する。
【0047】
続いて、モータコントローラ100の構成を説明する。
図3に示すように、モータコントローラ100は、基本制御器110と、補正制御器120と、加算器130とを備える。
【0048】
基本制御器110は、補正制御器120によって考慮される負荷変動を考慮せず、メインコントローラ10からの指令に従うキャリッジ61の運動を実現するように、CRモータ71に対する操作量Umを演算するように構成される。以下、この操作量Umを、基本操作量Umとも表現する。
【0049】
補正制御器120は、キャリッジ61に作用する負荷変動に応じて基本操作量Umを補正するための補正量Ucを出力するように構成される。負荷は、例えばキャリッジ61に接続されるインク供給用のチューブや信号線が、キャリッジ61の移動に伴って湾曲することにより変化し得る。
【0050】
特に、チューブや信号線が硬いときには、これらが湾曲するときにキャリッジ61に対して大きな負荷がかかる。この負荷変動は、キャリッジ61の位置に依存する。補正制御器120は、このような位置依存の負荷変動に応じてCRモータ71に対する操作量を補正するために設けられる。
【0051】
加算器130は、基本制御器110からの基本操作量Umを、補正制御器120からの補正量Ucだけ加算するように補正して、補正後の操作量U=Um+Ucをモータ駆動回路73に入力するように構成される。モータ駆動回路73は、加算器130から入力される操作量Uに対応する駆動電力をCRモータ71に供給するように、CRモータ71を駆動する。
【0052】
具体的には、基本制御器110は、メインコントローラ10から指定された目標速度Vr(t)でキャリッジ61が移動するように、各時点t毎に、対応する時点tでの目標速度Vr(t)と検出速度Vとの偏差E=Vr(t)-Vに応じた操作量Umを演算する。ここでいう検出速度Vは、信号処理回路77により検出されるキャリッジ61の速度のことである。
【0053】
一例によれば、基本制御器110は、PID制御により、偏差Eに対応する操作量Umを演算するように構成される。偏差Eの微分をD(E)と表現し、偏差Eの積分をI(E)と表現し、比例ゲインをKpと表現し、微分ゲインをKdと表現し、積分ゲインをKiと表現したとき、操作量Umは、式Um=Kp・E+Kd・D(E)+Ki・I(E)に従って算出される。微分ゲインKd及び積分ゲインKiの一方又は両方は、ゼロであり得る。
【0054】
補正制御器120は、予め定められた補正区間にキャリッジ61が位置しているときに限って、補正量Ucとしてゼロではない一定値を加算器130に入力するように構成される。入力される補正量Ucは、CRモータ71に供給される駆動電力を増加させ、それにより、キャリッジ61の進路前方へのモータトルクを増加させるように機能する。モータトルクの増加により、キャリッジ61の進路前方への推進力が増加する。
【0055】
補正区間は、
図4に示すように、キャリッジ61に作用する負荷がピークに到達するキャリッジ搬送経路上の地点であるピーク位置よりも、キャリッジ61の進路上流の区間であって、ピーク位置に向かって負荷が上昇する区間に予め定められる。
【0056】
図4上段は、キャリッジ61の進路前方への移動に伴う負荷変動を、位置を示す横軸及び負荷を示す縦軸を有するグラフで示す。
図4中段及び下段のグラフは、
図4上段と同一スケールの横軸を有する。
図4中段は、補正制御のオン/オフを示すグラフである。
図4下段は、補正量Ucの変化を示すグラフである。
【0057】
図4下段から理解できるように、補正制御器120が出力する補正量Ucは、補正区間で、ゼロではない一定値を採り、補正区間外で値ゼロを採る。補正区間は、例えば、画像形成システム1の出荷前の負荷計測実験により定められる。
【0058】
キャリッジ61は、主走査方向に往復動することから、補正区間は、往路及び復路のそれぞれについて定められ得る。往路の補正区間は、往路をキャリッジ61が前方に移動するときの負荷の計測データに基づき、往路で負荷がピークとなる地点である往路ピーク位置を基準に、往路ピーク位置より往路上流の区間に定められ得る。復路の補正区間は、復路をキャリッジ61が前方に移動するときの負荷の計測データに基づき、復路で負荷がピークとなる地点である復路ピーク位置を基準に、復路ピーク位置より復路上流の区間に定められ得る。
【0059】
ピーク位置より上流の補正区間で、基本操作量Umに補正量Ucを加算して、操作量Uを上昇させる制御は、キャリッジ61に作用する負荷がピークに到達する前に、キャリッジ61に勢いを付ける目的で行われる。この制御によって実現されるキャリッジ61の運動は、概念的には、急斜面に勢いを付けて進入して急斜面を登り切る運動に類似する。
【0060】
仮に負荷が上昇する過程でキャリッジ61が停止すると、キャリッジ61を再度進路前方に移動させるためには、静止摩擦に打ち勝つモータトルクが必要になり、キャリッジ61の安定した搬送制御を難しくする。
【0061】
本実施形態のように、基本操作量Umに対する補正量Ucの付加によって、ピーク位置より上流の補正区間で予めキャリッジ61に勢いを付けることによれば、キャリッジ61がピーク位置に到達する前に、負荷に負けて停止したり後退したりするのを抑制することができる。
【0062】
更に言えば、補正区間の終点がピーク位置より上流に設定されていることで、補正制御により、キャリッジ61が過剰に勢いよくピーク位置を通過するのを抑制することができる。
【0063】
従って、本実施形態によれば、キャリッジ61がピーク位置を通過した後の搬送制御も、適切に行うことができる。すなわち、ピーク位置通過前だけではなく、ピーク位置通過後のキャリッジ61の搬送制御も適切に行うことができる。
【0064】
適切な搬送制御のために、補正量Ucは、負荷に対して適切な値に実験により定められ得る。補正量Ucは、CRモータ71に印加可能な最大電流を考慮して定められてもよい。
【0065】
上述した基本制御器110、補正制御器120、及び加算器130は、専用回路としてモータコントローラ100に設けられ得る。あるいは、モータコントローラ100は、CPUとメモリとを備えることができ、コンピュータプログラムに従う処理の実行により、基本制御器110、補正制御器120、及び加算器130として機能してもよい。
【0066】
一例によれば、モータコントローラ100は、
図5に示す制御処理を繰返し実行することにより、基本制御器110、補正制御器120、及び加算器130としての機能を実現することができる。
【0067】
制御処理を開始すると、モータコントローラ100は、基本操作量Umを算出する(S110)。更に、信号処理回路77により検出されたキャリッジ61の位置Xに基づき、キャリッジ61が補正区間に位置するかを判定する(S120)。
【0068】
キャリッジ61が補正区間に位置すると判定した場合(S120でYes)、モータコントローラ100は、基本操作量Umに一定の補正量Ucを加算することにより操作量U=Um+Ucを算出し(S130)、操作量U=Um+Ucをモータ駆動回路73に入力する(S140)。これにより、モータ駆動回路73に、操作量Uに対応する駆動電力でCRモータ71を駆動させる。
【0069】
キャリッジ61が補正区間に位置しないと判定した場合(S120でNo)、モータコントローラ100は、基本操作量Umを補正せずに、操作量Uとしてモータ駆動回路73に入力する(S150)。
【0070】
モータコントローラ100は、上述した制御処理を繰返し実行することにより、制御周期毎にモータ駆動回路73に入力する操作量Uを更新することができる。これにより、モータコントローラ100は、キャリッジ61に作用する負荷がピーク位置に向かって上昇する過程の適切な時期に、負荷上昇に応じた操作量Uの補正を行うことができ、それによりモータトルクを上昇させて、キャリッジ61のピーク位置前後での搬送制御を適切に行うことができる。
【0071】
上記の例では、キャリッジ61が補正区間に位置するかが、信号処理回路77により検出された位置Xに基づいて判定されるが、別の手法で判定されてもよい。例えば、モータコントローラ100は、CRモータ71の制御開始からの経過時間に基づいて、キャリッジ61が補正区間に位置すると推定される時間帯にあるときに、キャリッジ61が補正区間に位置すると判定するように構成されてもよい。
【0072】
すなわち、補正制御のオン/オフは、制御開始からの経過時間に基づいて実行されてもよい。この場合には、制御誤差がないときにキャリッジ61が補正区間に位置すると推定される時間帯が、補正期間として予め設定され得る。
【0073】
上述した本実施形態の技術は、特に記録ヘッド50に接続されるチューブが硬く、キャリッジ61に対する負荷変動が大きい環境で有意義である。チューブの硬いインクジェットプリンタとしては、UVインクジェットプリンタが知られている。
【0074】
UVインクジェットプリンタでは、紫外線(UV)の照射により硬化するインクが用いられることから、インク供給のためのチューブには、紫外線を遮断する能力を有したチューブが用いられる。このようなチューブは、硬い。従って、本実施形態の技術は、UVインクジェットプリンタに適用されると特に有意義である。
【0075】
[第二実施形態]
続いて、第二実施形態の画像形成システム1を説明する。第二実施形態の画像形成システム1では、補正制御器120が、補正区間において、キャリッジ61の速度Vに応じた補正量Ucを出力するように構成される。
【0076】
第二実施形態の画像形成システム1は、補正量Ucが一定値ではないことを除けば、第一実施形態の画像形成システム1と同様に構成される。従って、以下では、第一実施形態の画像形成システム1と同一構成の説明を省略し、第二実施形態の画像形成システム1の第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明する。
【0077】
本実施形態の補正制御器120は、キャリッジ61が補正区間を通過する際、ピーク位置に近づくにつれてキャリッジ61の速度Vが上昇するように、基本操作量Umに対する補正量Ucを出力する。この補正制御器120の機能は、モータコントローラ100が、
図6に示す制御処理を、
図5に示す制御処理に代えて実行することにより実現される。
【0078】
図6に示す制御処理において、モータコントローラ100は、第一実施形態と同様、基本操作量Umを算出する(S210)。モータコントローラ100は更に、信号処理回路77により検出されたキャリッジ61の位置Xに基づき、キャリッジ61が補正区間に位置するかを判定する(S220)。
【0079】
キャリッジ61が補正区間に位置すると判定した場合(S220でYes)、モータコントローラ100は、補正区間への進入直後であるかを判定する(S230)。補正区間への進入直後であると判定すると(S230でYes)、モータコントローラ100は、補正区間への進入時のキャリッジ61の速度に対応する現在の検出速度Vを、目標速度Vcrの初期値Vcr1に設定した目標速度プロファイルを設定する(S240)。
【0080】
目標速度プロファイルは、補正区間をキャリッジ61が通過するときの各時点tにおける目標速度Vcr(t)を示す。目標速度Vcr(t)は、次式に従う。
Vcr(t)=(Vcr2-Vcr1)/TL・(t-t1)+Vcr1
【0081】
上式における時刻t1は、キャリッジ61が補正区間の始点を通過する時刻に対応し、時間(t-t1)は、キャリッジ61が補正区間の始点を通過してからの経過時間に対応する。速度Vcr2は、補正区間の終点を通過するときのキャリッジ61の目標速度Vcrに対応する。目標速度Vcr2は、例えば初期値Vcr1の所定倍に定められる。ここでいう所定倍は、1倍より大きい。
【0082】
加速時間TLは、式TL=|X2-X1|/{(Vcr2+Vcr1)/2}に従って算出される。X1は、補正区間の始点位置X1に対応し、X2は、補正区間の終点位置に対応する。つまり、加速時間TLは、始点から終点までの距離がD=|X2-X1|である補正区間を、始点での速度がVcr1であるキャリッジ61が、終点で速度Vcr2となるように定加速度で加速しながら通過するときの通過時間に対応する。
【0083】
つまり、目標速度Vcr(t)は、補正区間の始点を速度Vcr1で通過するキャリッジ61が、補正区間の終点を速度Vcr2で通過する定加速度運動を実現するための目標速度として定義される。
【0084】
図7下段は、この目標速度Vcr(t)の軌跡を、速度の縦軸を有するグラフ上に示す。この目標速度Vcr(t)は、補正制御器120に与えられ、補正量Ucの算出に用いられる目標速度である。目標速度Vcr(t)は、基本制御器110に与えられ、基本操作量Umの算出に用いられる目標速度ではない点に留意されたい。
【0085】
図7上段及び中段のグラフは、
図4上段及び中段のグラフと同様である。S240の処理は、キャリッジ61が補正区間を通過する過程において、キャリッジ61が補正区間に進入した直後の一度のみ実行される。
【0086】
S240での処理を終えるか、S230で否定判断すると、モータコントローラ100は、S250において、現在時刻に対応する時点tの目標速度Vcr(t)と、キャリッジ61の検出速度Vとの偏差δ=Vcr(t)-Vに応じた補正量Ucを算出する。具体的に、モータコントローラ100は、偏差δに比例した補正量Uc=K・δを算出することができる。Kは、比例ゲインである。
【0087】
その後、モータコントローラ100は、基本操作量UmにS250で算出された補正量Ucを加算することにより、補正後の操作量U=Um+Ucを算出し(S260)、補正後の操作量U=Um+Ucをモータ駆動回路73に入力する(S270)。これにより、モータ駆動回路73に、操作量Uに対応する駆動電力でCRモータ71を駆動させる。
【0088】
一方、キャリッジ61が補正区間に位置しないと判定した場合(S220でNo)、モータコントローラ100は、基本操作量Umを、補正せずに操作量Uとしてモータ駆動回路73に入力する(S290)。
【0089】
モータコントローラ100は、上述した制御処理を繰返し実行することにより、制御周期毎にモータ駆動回路73に入力する操作量Uを更新することができる。これにより、モータコントローラ100は、負荷上昇に応じた適切な操作量の補正を行うことができる。
【0090】
特に本実施形態では、補正制御が、キャリッジ61の検出速度Vに基づくフィードバック制御の形態で実現される。従って、ピーク位置に向けてキャリッジ61を勢い付ける補正制御を、現実のキャリッジ61の運動に基づいて適切に実行することができる。このことは、キャリッジ61のピーク位置前後での搬送制御を適切に行うために有意義である。
【0091】
以上に説明した第二実施形態の画像形成システム1においても、第一実施形態と同様に、補正制御のオン/オフは、制御開始からの経過時間に基づいて実行されてもよい。すなわち、キャリッジ61が補正区間に位置するかは、制御開始からの経過時間に基づいて判定されてもよい。
【0092】
この他、目標速度Vcr(t)は、線形に変化する目標速度ではなくてもよい。例えば、目標速度Vcr(t)は、補正区間への進入時のキャリッジ61の速度Vの所定倍に対応する一定値であってもよい。
【0093】
[第三実施形態]
続いて、第三実施形態の画像形成システム1を説明する。第三実施形態の画像形成システム1は、
図3に示すモータコントローラ100に代えて、
図8に示すモータコントローラ200を備えることを除けば、第一実施形態の画像形成システム1と同様に構成される。従って、以下では、第一実施形態の画像形成システム1と同一構成の説明を省略し、第三実施形態の画像形成システム1の第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明する。
【0094】
本実施形態のモータコントローラ200は、第一実施形態と同様に構成される基本制御器110、補正制御器120、及び加算器130に加えて、区間設定器210を備える。
【0095】
区間設定器210は、速度フィードバック制御によるキャリッジ61の定速搬送制御時に観測されたキャリッジ61の位置Xと操作量Uとの組合せの時系列データを、負荷データとして取得し、負荷データから推定されるキャリッジ61の進路における負荷のピーク位置より進路上流に、補正区間を設定するように構成される。補正制御器120は、区間設定器210により設定された補正区間に基づいて、補正制御をオン/オフするように構成される。
【0096】
区間設定器210としての機能は、モータコントローラ200内の専用回路により実現され得る。あるいは、モータコントローラ200は、CPUとメモリとを備えることができ、コンピュータプログラムに従う処理の実行により、区間設定器210として機能することができる。
【0097】
具体的に、モータコントローラ200は、
図9に示す区間設定処理を実行することにより、区間設定器210として機能することができる。モータコントローラ200は、画像形成システム1の起動時に、メインコントローラ10からの指令に従って、区間設定処理を実行することができる。
【0098】
区間設定処理を開始すると、モータコントローラ200は、まず負荷データを取得する(S310)。モータコントローラ200は、負荷データを取得するために、キャリッジ61の定速搬送制御を実行することができる。
【0099】
具体的には、モータコントローラ200は、定速搬送制御として、
図10上段に示す目標速度Vr(t)とキャリッジ61の検出速度Vとの偏差E=Vr(t)-Vに応じた操作量Uを演算し、操作量Uに対応する駆動電力を、モータ駆動回路73を通じてCRモータ71に入力することにより、CRモータ71を制御する処理を実行することができる。定速搬送制御は、基本制御器110と同様に、偏差Eに基づくPID制御により実現され得る。この場合の操作量Uは、基本操作量Umに対応する。
【0100】
目標速度Vr(t)は、負荷のピークを探索するのに最適な速度に定められ得る。目標速度Vr(t)は、加速区間、定速区間、及び減速区間を含み、定速区間において、目標速度Vr(t)は一定値Vcを採る。
【0101】
この定速搬送制御によっては、
図10下段に例示するような、加速区間、定速区間、及び減速区間でのキャリッジ61の位置Xと操作量Uとの組合せの時系列データが得られる。
図10下段は、キャリッジ61の位置Xを示す横軸と操作量Uを示す縦軸とを有するグラフにより、操作量Uの変化を示す。
【0102】
モータコントローラ200は、この時系列データのうち、一定の目標速度Vr(t)=Vcに基づく速度制御が行われた定速区間の時系列データを、負荷データとして抽出する。
【0103】
モータコントローラ200は、このように取得した負荷データを解析して、定速区間における負荷のピークを検出する(S320)。操作量Uは、CRモータ71のトルクに対応し、トルクは、キャリッジ61に作用する負荷に対応する。このため、本実施形態では、定速区間での操作量Uの変化を負荷の変化とみなして、操作量Uのピークを、負荷のピークとして検出する。
【0104】
本実施形態では、負荷変動が単峰性であり、定速区間における操作量Uのピークは、一地点しか存在しないことを前提に、ピーク検出を行う。ピーク検出に際して、モータコントローラ200は、負荷がピークを示す地点であるピーク位置、及び、ピーク位置での操作量である操作量ピーク値U=Upを判別する。
【0105】
更に、モータコントローラ200は、定速区間において操作量Uが最小の地点を探索し、操作量Uが最小の地点である基準位置、及び、基準位置での操作量である操作量基準値U=Uoを判別する(S330)。別例として、モータコントローラ200は、負荷データにおける定速区間の始点の操作量Uを、操作量基準値U=Uoとして判別してもよい。
【0106】
その後、モータコントローラ200は、ピーク位置、操作量ピーク値Up、及び操作量基準値Uoに基づいて、ピーク位置よりキャリッジ61の進路上流において、操作量Uが操作量ピーク値Upの所定割合A%を示す地点を負荷データ内で探索し、対応する地点を補正区間の終点に設定する(S340)。
【0107】
ここでいう割合は、操作量基準値Uoを0%に設定し、操作量ピーク値Upを100%に設定したときの操作量ピーク値Upに対する操作量Uの割合に対応する。つまり、補正区間の終点は、負荷データにおいて操作量Uが値{(Up-Uo)・(A/100)+Uo}を示す、ピーク位置よりも進路上流の地点に対応する。
【0108】
モータコントローラ200は、負荷データ内で、ピーク位置から進路上流に向けて各位置Xの操作量Uを順に参照して、操作量Uが操作量ピーク値Upの割合A%を示す地点を、補正区間の終点に設定することができる。割合A%は、例えば80%である。
【0109】
更に、モータコントローラ200は、補正区間の終点よりキャリッジ61の進路上流において、操作量Uが操作量ピーク値Upの所定割合B%を示す地点を探索し、対応する地点を補正区間の始点に設定する(S350)。割合B%は、補正区間の終点に対応する割合A%よりも小さい値に定められる。割合B%は、例えば、30%である。
【0110】
モータコントローラ200は、負荷データ内で、補正区間の終点から進路上流に向けて各位置Xの操作量Uを順に参照して、操作量Uが操作量ピーク値Upの所定割合B%を示す地点を、補正区間の始点に設定することができる。以下、この割合のことを「負荷割合」ともいう。
【0111】
このようにして、モータコントローラ200は、負荷データに基づき、負荷割合がB%からA%の区間を、補正区間に設定して、
図9に示す区間設定処理を終了する。
【0112】
図11上段は、
図10下段のグラフにおける定速区間ピーク位置周辺を拡大して示す操作量Uのグラフに対応する。ここでは、操作量Uを、負荷割合に変換して、縦軸に示す。
図11下段は、負荷割合30%の地点が補正区間の始点に定められ、負荷割合80%の地点が補正区間の終点に定められた場合の、補正制御のオン/オフの態様を太実線で示すグラフである。
【0113】
本実施形態によれば、区間設定処理(
図9)の実行により補正区間が画像形成システム1の起動毎に更新されるので、負荷の経時変化によっても、負荷上昇に応じた適切な操作量の補正を行うことができ、負荷変動の影響を抑えて、キャリッジ61の搬送制御を適切に行うことができる。
【0114】
付言すると、上述の区間設定処理は、キャリッジ61の進行方向毎に実行され得る。この例によれば、進行方向毎に、補正区間を適切に設定及び更新することが可能である。第三実施形態の区間設定器210としての機能は、第一実施形態の画像形成システム1に限らず、第二実施形態の画像形成システム1に設けられてもよい。
【0115】
[第四実施形態]
続いて、第四実施形態の画像形成システム1を説明する。第四実施形態は、本開示の技術的思想を、記録ヘッド50に対するキャッピング時のキャリッジ61の微小搬送制御に適用した例である。
【0116】
第四実施形態の画像形成システム1は、キャリッジ61の微小搬送制御に係る構成及び処理を除いて、基本的には第一実施形態の画像形成システム1と同様に構成される。従って、以下では、第一実施形態の画像形成システム1と同一構成の説明を省略し、第四実施形態の第一実施形態とは異なる構成を選択的に説明する。
【0117】
本実施形態の画像形成システム1は、
図12Aに示すように、キャリッジ61の搬送経路の端に、キャッピング機構69を備える。キャッピング機構69は、ガイドレール68に設けられた貫通孔68aから上方に突出するレバー69aと機械的に連結されており、レバー69aの移動に連動して、キャップ691を備える台692を、上方にリフトアップするように構成される。
【0118】
レバー69aは、キャリッジ61が搬送経路の終端領域を移動するときに、キャリッジ61と接触し、キャリッジ61からの力の作用を受けて移動し、台692を上方にリフトアップする。キャリッジ61は、印刷ジョブを終了するときに、この終端領域に移動するように、印刷コントローラ30により制御され、それにより、記録ヘッド50はキャッピングされる。
【0119】
台692は、
図12Bに示すように、キャッピング機構69が備える複数(例えば4本)のリンク695により支持される。リンク695は、台692より下方に位置する画像形成システム1の部位に回動可能に接続されており、回動により台692をリフトアップ及びリフトダウンする。
【0120】
キャッピング機構69は、キャリッジ61が搬送経路の端に配置された時点でキャップ691の記録ヘッド50への装着を完了する。これにより、記録ヘッド50のノズル面は被覆される。この搬送経路の端は、キャリッジ61のホームポジション位置に対応する。
【0121】
キャッピング機構69は、キャリッジ61がレバー69aから離れる方向、換言すればホームポジション位置から搬送経路の中央側へ移動するとき、キャリッジ61からのレバー69aを通じた力の作用から解放され、重力を利用して台692をリフトダウンする。
【0122】
このように、キャリッジ61は、終端領域では、キャッピング機構69と連結されたレバー69aと接触しながら、ホームポジション位置まで移動する必要があるため、大きな負荷を受ける。一方、終端領域では、キャップ691のノズル面に対する摺動によりノズル面が傷付かないようにする必要があり、キャリッジ61を低速でホームポジション位置まで移動させる必要がある。
【0123】
このため、モータコントローラ100は、終端領域では、
図13に示す微小搬送制御処理を実行するように構成される。微小搬送制御は、CRモータ71に対する操作量Uを初期値から徐々に上げていき、信号処理回路77により検出されるキャリッジ61の位置Xが進路前方に単位量変化すると、操作量Uを初期値まで下げ、再度、操作量Uを徐々に上げる動作を繰り返すことにより、キャリッジ61を微小移動させる制御である。単位量は、信号処理回路77により検出可能なキャリッジ61の位置Xの最小単位に対応する。
【0124】
図14上段には、微小搬送制御により、操作量Uが階段状に漸増する様子を、時間を示す横軸、操作量Uを示す縦軸を有するグラフで示す。
図14下段には、キャリッジ61の位置変化を、
図14上段と同じ時間軸を横軸に有し、キャリッジ61の位置を示す縦軸を有するグラフにより示す。
図14上段のグラフから理解できるように、微小搬送制御処理では、キャリッジ61が補正区間に位置しているときに、操作量Uの初期値を増加させるための補正制御が行われる。
【0125】
図13に示す微小搬送制御処理を開始すると、モータコントローラ100は、CRモータ71に対する操作量Uを予め定められた標準の初期値Ukに設定する(S410)。その後、モータコントローラ100は、操作量Uを現在値から所定量増加させる操作量更新処理を実行する(S420)。
【0126】
続いて、モータコントローラ100は、操作量Uの増加により、キャリッジ61が前進したかを、信号処理回路77により検出されるキャリッジ61の位置Xが進路前方に変化した否かを判断することにより判断する(S430)。
【0127】
キャリッジ61が前進していないと判断すると(S430でNo)、モータコントローラ100は、操作量更新処理(S420)を実行して、更に所定量、操作量Uを現在値から増加させる。その後、キャリッジ61が前進したかを判断する(S430)。
【0128】
モータコントローラ100は、このようにして、キャリッジ61が前進するまで、操作量Uを段階的に所定量ずつ増加させる処理を、操作量更新処理を繰返し実行することにより、実現する。
【0129】
そして、キャリッジ61が前進したと判断すると(S430でYes)、モータコントローラ100は、微小搬送制御処理の終了条件が満足されたか否かを判断する(S440)。例えば、モータコントローラ100は、キャリッジ61が、搬送経路の終点であるホームポジション位置に到達したとき、終了条件が満足したと判断することができる。
【0130】
モータコントローラ100は、終了条件が満足されたと判断すると(S440でYes)、
図13に示す微小搬送制御処理を終了する。一方、終了条件が満足されていないと判断すると(S440でNo)、前進したキャリッジ61が補正区間に位置しているかを判断する(S450)。
【0131】
キャリッジ61が補正区間に位置していないと判断すると(S450でNo)、モータコントローラ100は、操作量Uを標準の初期値Ukに戻して(S460)、初期値Ukからキャリッジ61が前進するまで操作量Uを所定量ずつ増加させる処理を実行する(S420,S430)。
【0132】
一方、キャリッジ61が補正区間に位置していると判断すると(S450でYes)、モータコントローラ100は、操作量Uを、標準の初期値Ukに一定の補正量Ukc加算した補正後の初期値(Uk+Ukc)に設定し、補正後の初期値(Uk+Ukc)からキャリッジ61が前進するまで操作量Uを所定量ずつ増加させる処理を実行する(S420,S430)。
【0133】
モータコントローラ100は、このような手順を含む微小搬送制御処理を実行することにより、キャリッジ61がピーク位置よりも進路上流の補正区間に位置するときには、標準の初期値Ukより大きい初期値(Uk+Ukc)を設定する。これにより、補正区間では、キャリッジ61の前進運動を勢い付ける。
【0134】
微小搬送制御処理において操作量Uを初期値に戻したタイミングでも、キャリッジ61は、基本的には慣性により前進運動を継続している。従って、初期値を大きい値に補正して、キャリッジ61が単位量前進するまでの時間を早めることは、キャリッジ61の速度を高めていることに対応する。
【0135】
このようなキャリッジ61の勢い付けにより、第一実施形態及び第二実施形態と同様、キャリッジ61は、負荷のピークを乗り越えて、搬送経路の終点まで適切に移動することができる。更には、過剰な速度でキャリッジ61が搬送経路の終点まで移動して記録ヘッド50を傷つけてしまうのを抑制することができる。
【0136】
以上に、本開示の例示的実施形態を説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採り得る。例えば、本開示の技術は、可動部品としてキャリッジ61を備えるキャリッジ搬送機構60によらず、その他の可動部品を備える機械構造における可動部品の変位を制御する制御装置に適用し得る。
【0137】
補正区間は、可動部品の異常停止が生じたときの異常停止位置を基準に設定又は更新されてもよい。例えば、本開示の技術が適用される制御装置は、可動部品の異常停止が生じたときに、その異常停止位置を基準とした、異常停止位置より進路上流の所定区間を補正区間に設定して、補正制御を実行するように構成されてもよい。
【0138】
例えば、モータコントローラ100は、
図15に示すように、キャリッジ61の主走査方向への搬送制御時に、キャリッジ61の異常停止が生じると(S510でYes)、その異常停止位置よりも所定距離離れた進路上流に、所定長さの補正区間を設定する(S520)処理を実行するように構成されてもよい。
【0139】
モータコントローラ100は、キャリッジ61がS520で設定された補正区間を異常停止位置方向に通過する際には、基本操作量Umに補正量Ucを加算した操作量U=Um+Ucをモータ駆動回路73に入力するように動作してもよい。
【0140】
この他、モータコントローラ100は、補正制御中にも関わらずキャリッジ61が停止するときには、補正量Ucを標準値から増加させるように構成されてもよい。
【0141】
上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0142】
1…画像形成システム、10…メインコントローラ、20…通信インタフェース、30…印刷コントローラ、40…搬送コントローラ、50…記録ヘッド、51…インクタンク、55…ヘッド駆動回路、60…キャリッジ搬送機構、61…キャリッジ、65…ベルト機構、67…ガイドレール、68…ガイドレール、68a…貫通孔、69…キャッピング機構、69a…レバー、71…CRモータ、73…モータ駆動回路、75…エンコーダ、77…信号処理回路、80…用紙搬送機構、81…搬送ローラ、91…PFモータ、93…モータ駆動回路、95…エンコーダ、97…信号処理回路、100,200…モータコントローラ、110…基本制御器、120…補正制御器、130…加算器、210…区間設定器。