(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】アクチュエータ及びインクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2020164777
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 弘典
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-045871(JP,A)
【文献】国際公開第00/071345(WO,A1)
【文献】特開2017-118611(JP,A)
【文献】特開2014-124884(JP,A)
【文献】特開2009-061729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面にそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第2の電極の前記圧電体層とは反対側に配置された振動板とを備えるアクチュエータであって、
前記振動板が、互いに異なる材料から構成される少なくとも3つの層が厚さ方向に積層されてなり、かつ
前記振動板において前記各層を構成する材料のヤング率が、前記第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなる
ように構成され、前記3つの層を、前記圧電体層の前記第2の主面から前記圧電体層に遠い側の層に向かって、第1層、第2層、及び第3層とし、前記第1層を構成する材料のヤング率をY
41a
、前記第2層を構成する材料のヤング率をY
42a
、及び前記第3層を構成する材料のヤング率をY
43a
とした場合に、前記ヤング率Y
41a
、Y
42a
及びY
43a
が、下記(1a-2)~(1a-4)の関係を満たすことを特徴とするアクチュエータ。
(1a-2)10GPa≦Y
41a
(1a-3)1.05≦Y
42a
/Y
41a
≦4.0
(1a-4)1.05≦Y
43a
/Y
42a
≦4.0
【請求項2】
第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面に配置された第1の電極と、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された振動板とを備えるアクチュエータであって、
前記振動板は、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された導体層と、前記導体層の前記圧電体層とは反対側に厚さ方向に積層された、前記導体層を構成する材料とはそれぞれ異なる材料から構成される少なくとも
3つの層を有し、
前記振動板において前記導体層及び前記各層を構成する材料のヤング率が、前記導体層から前記圧電体層に遠い側の層に向かって順に高くなる
ように構成され、前記導体層及び前記3つの層を、前記圧電体層の前記第2の主面から前記圧電体層に遠い側の層に向かって、第1層、第2層、第3層、及び第4層として、前記第1層を構成する材料のヤング率をY
41b
、前記第2層を構成する材料のヤング率をY
42b
、前記第3層を構成する材料のヤング率をY
43b
、前記第4層を構成する材料のヤング率をY
44b
とした場合に、前記ヤング率Y
41b
、Y
42b
、Y
43b
、及びY
44b
が、下記(2b-2)~(2b-5)の関係を満たすことを特徴とするアクチュエータ。
(2b-2)10GPa≦Y
41b
(2b-3)1.05≦Y
42b
/Y
41b
≦4.0
(2b-4)1.05≦Y
43b
/Y
42b
≦4.0
(2b-5)1.05≦Y
44b
/Y
43b
≦4.0
【請求項3】
前記振動板の前記圧電体層に最も近い層を構成する材料が、前記圧電体層における還元反応を抑制する材料であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記還元反応を抑制する材料が、標準電極電位が-0.126Vよりも大きい金属、又は前記金属を含有する導電性材料であることを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記還元反応を抑制する材料が、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム及びルテニウムから選ばれる白金族金属、又は前記白金族金属を含有する導電性材料であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記振動板の前記圧電体層から最も遠い層を構成する材料が、主としてクロム又はニッケルであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のアクチュエータと、
インクが充填され、前記アクチュエータが駆動されることにより前記インクの圧力が変化する圧力室と、
前記アクチュエータが駆動されることにより前記圧力室に充填された前記インクを吐出するノズルと、を備える、
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ及びインクジェットヘッドに関する。より詳しくは、本発明は、圧電体の変位を効率よく伝達できるアクチュエータ及びそれを用いたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置は、インクジェットヘッドからインクを吐出することにより、被印刷面に印字や描画を行う装置である。インクジェット装置に搭載されるインクジェットヘッドは、インクを充填するための圧力室と、圧力室にインクを導くための流路と、圧力室に繋がるノズルと、圧力室に充填されたインクに圧力を付与するアクチュエータとを備える。アクチュエータを駆動して圧力室内の圧力を高めることにより、圧力室に充填されたインクがノズルから吐出される。
【0003】
アクチュエータは、例えば、機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換し、あるいは電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する圧電体をその厚さ方向に2つの電極で挟んでなる積層体である圧電体素子と、圧電体素子で発生した機械的変位を有効にインクに伝えるために設けた振動板を有する構成である。アクチュエータは、例えば、圧力室に対してノズルと反対側に設けられ、圧電体に電圧を印加し振動板が変形することに伴い圧力室の体積が減少することで、圧力室内の圧力が高められノズルからインクが吐出される機構となっている。
【0004】
近年、インクジェットヘッドに対する小型化、高密度化の要求により、アクチュエータにおいても小型化が求められ、圧電体素子の変位を振動板に効率よく伝達し変形させる設計が求められるようになった。このような要求に応えるために、例えば、特許文献1では、振動板を膜厚方向に異なる材料で複数積層させるとともに、振動板のインクと接する部分と圧力室部材の主成分を同一材料とする構成を採用している。しかしながら、さらなる変位伝達の効率化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、圧電体の変位を効率よく伝達できるアクチュエータを提供することである。また、当該アクチュエータを用いた効率よくインクの吐出が行えるインクジェットヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、圧電体層の変位を伝える振動板を3層以上の構成とし、さらにこれらの各層を構成する材料のヤング率が圧電体層から遠ざかるにつれて大きくなる構成とすることで、圧電体の変位を効率よく伝達できること見出し本発明に至った。すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面にそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第2の電極の前記圧電体層とは反対側に配置された振動板とを備えるアクチュエータであって、
前記振動板が、互いに異なる材料から構成される少なくとも3つの層が厚さ方向に積層されてなり、かつ
前記振動板において前記各層を構成する材料のヤング率が、前記第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなるように構成され、前記3つの層を、前記圧電体層の前記第2の主面から前記圧電体層に遠い側の層に向かって、第1層、第2層、及び第3層とし、前記第1層を構成する材料のヤング率をY
41a
、前記第2層を構成する材料のヤング率をY
42a
、及び前記第3層を構成する材料のヤング率をY
43a
とした場合に、前記ヤング率Y
41a
、Y
42a
及びY
43a
が、下記(1a-2)~(1a-4)の関係を満たすことを特徴とするアクチュエータ。
(1a-2)10GPa≦Y
41a
(1a-3)1.05≦Y
42a
/Y
41a
≦4.0
(1a-4)1.05≦Y
43a
/Y
42a
≦4.0
【0009】
2.第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面に配置された第1の電極と、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された、振動板とを備えるアクチュエータであって、
前記振動板は、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された導体層と、前記導体層の前記圧電体層とは反対側に厚さ方向に積層された、前記導体層を構成する材料とはそれぞれ異なる材料から構成される少なくとも3つの層を有し、
前記振動板において前記導体層及び前記各層を構成する材料のヤング率が、前記導体層から前記圧電体層に遠い側の層に向かって順に高くなるように構成され、前記導体層及び前記3つの層を、前記圧電体層の前記第2の主面から前記圧電体層に遠い側の層に向かって、第1層、第2層、第3層、及び第4層として、前記第1層を構成する材料のヤング率をY
41b
、前記第2層を構成する材料のヤング率をY
42b
、前記第3層を構成する材料のヤング率をY
43b
、前記第4層を構成する材料のヤング率をY
44b
とした場合に、前記ヤング率Y
41b
、Y
42b
、Y
43b
、及びY
44b
が、下記(2b-2)~(2b-5)の関係を満たすことを特徴とするアクチュエータ。
(2b-2)10GPa≦Y
41b
(2b-3)1.05≦Y
42b
/Y
41b
≦4.0
(2b-4)1.05≦Y
43b
/Y
42b
≦4.0
(2b-5)1.05≦Y
44b
/Y
43b
≦4.0
【0010】
3.前記振動板の前記圧電体層に最も近い層を構成する材料が、前記圧電体層における還元反応を抑制する材料であることを特徴とする第1項又は第2項に記載のアクチュエータ。
【0011】
4.前記還元反応を抑制する材料が、標準電極電位が-0.126Vよりも大きい金属、又は前記金属を含有する導電性材料であることを特徴とする第3項に記載のアクチュエータ。
【0012】
5.前記還元反応を抑制する材料が、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム及びルテニウムから選ばれる白金族金属、又は前記白金族金属を含有する導電性材料であることを特徴とする第3項又は第4項に記載のアクチュエータ。
【0013】
6.前記振動板の前記圧電体層から最も遠い層を構成する材料が、主としてクロム又はニッケルであることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のアクチュエータ。
【0014】
7.第1項から第6項までのいずれか一項に記載のアクチュエータと、
インクが充填され、前記アクチュエータが駆動されることにより前記インクの圧力が変化する圧力室と、
前記アクチュエータが駆動されることにより前記圧力室に充填された前記インクを吐出するノズルと、を備える、
ことを特徴とするインクジェットヘッド。
【0015】
以下の説明において、上記1.で規定される本発明のアクチュエータを、本発明の第1の態様のアクチュエータといい、上記2.で規定される本発明のアクチュエータを、本発明の第2の態様のアクチュエータという。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、圧電体の変位を効率よく伝達できるアクチュエータを提供することができる。また、当該アクチュエータを用いた効率よくインクの吐出が行えるインクジェットヘッドを提供することができる。本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、材料力学的考察から、以下のように推察している。
【0017】
本発明の第1の態様のアクチュエータは、1対の電極に挟持された圧電体層と、当該電極の一方の電極の圧電体層と反対側に少なくとも3層からなる振動板を有する構成である。本発明の第2の態様のアクチュエータは、圧電体層とその一方の主面に位置する電極と、他方の主面に位置する振動板を有し、当該振動板は圧電体層側から導体層と2層以上の層が積層されてなる少なくとも3層からなる振動板である。
【0018】
本発明のアクチュエータにおいては、振動板が3層以上の積層構造を有しており、各層を構成する材料のヤング率は、圧電体層に近い側から遠い側に向かって順に大きくなるように設計されている。
【0019】
たわみが生じた際の振動板の変位量δは、圧電体の発生する変形力Fと、振動板中の圧電体/振動板界面からの厚さ方向における距離Lに存在する中立面のLに対し、δ∝F×Lが成り立つから、一定の変形力Fに対し、Lをより大きく設けることで大きなδを得ることができる。
【0020】
Lは一般的にi層目のヤング率と、累積膜厚をEi、hiとそれぞれ置いた際に下記式となることから、iが大きい層においてEiを高く設定するのが好ましい。
L=ΣEi(hi
2-hi-1
2)/2×ΣEi(hi-hi-1)
【0021】
さらに、現実的には振動板変形に伴い、発生力の損失が存在するため伸縮しづらい仮想面が圧電素子に近い領域に局在するのを避けるのが好ましいため、iが漸増するに従いEiが一貫して増大するのが好ましい。従って、3層以上の構成とし、圧電体/振動板界面から離れるにしたがってヤング率を増大させる構成が、もっとも。圧電体層の変位を振動板が効率よく伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の態様のアクチュエータの実施形態の一例を示す断面図
【
図2】本発明の第1の態様のアクチュエータの実施形態の変形例を示す断面図
【
図3A】基板に設置された
図1に示すアクチュエータの動作を模式的に示す平面図
【
図4】本発明の第2の態様のアクチュエータの実施形態の一例を示す断面図
【
図5】本発明の第2の態様のアクチュエータの実施形態の変形例を示す断面図
【
図6】本発明のインクジェットヘッドの実施形態の一例の上面図
【
図7】
図6に示すインクジェットヘッドのY-Y線断面図
【
図8】
図6に示すインクジェットヘッドのY-Y線拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の態様のアクチュエータは、第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面にそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第2の電極の前記圧電体層とは反対側に配置された振動板とを備えるアクチュエータであって、前記振動板が、互いに異なる材料から構成される少なくとも3つの層が厚さ方向に積層されてなり、かつ前記振動板において前記各層を構成する材料のヤング率が、前記第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなることを特徴とする。
【0024】
本発明の第2の態様のアクチュエータは、第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面に配置された第1の電極と、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された振動板とを備えるアクチュエータであって、前記振動板は、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された導体層と、前記導体層の前記圧電体層とは反対側に厚さ方向に積層された、前記導体層を構成する材料とはそれぞれ異なる材料から構成される少なくとも2つの層を有し、前記振動板において前記導体層及び前記各層を構成する材料のヤング率が、前記導体層から前記圧電体層に遠い側の層に向かって順に高くなることを特徴とする。
【0025】
以下の説明において、「本発明のアクチュエータ」という場合は、本発明の第1の態様のアクチュエータ及び第2の態様のアクチュエータの両方を含む。下記各実施形態は、本発明の第1の態様のアクチュエータ及び第2の態様のアクチュエータに共通する実施形態である。
【0026】
本発明のアクチュエータの実施態様としては、圧電体層を保護する観点から、前記振動板の前記圧電体層に最も近い層を構成する材料が、前記圧電体層における還元反応を抑制する材料であることであることが好ましい。当該実施態様において、前記還元反応を抑制する材料は、標準電極電位が-0.126Vよりも大きい金属、又は前記金属を含有する導電性材料であることが好ましい。さらに、上記実施態様において、前記還元反応を抑制する材料は、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム及びルテニウムから選ばれる白金族金属、又は前記白金族金属を含有する導電性材料であることが好ましい。
【0027】
本発明のアクチュエータの実施態様としては、前記圧電体層が、主としてチタン酸ジルコン酸鉛から構成されることが好ましい。圧電体層が主としてチタン酸ジルコン酸鉛で構成されることで、圧電体層の薄膜化が可能となるとともに、良好な変位効率が得られる。
【0028】
圧電体層が主としてチタン酸ジルコン酸鉛を含む場合に、チタン酸ジルコン酸鉛が還元モードでの劣化が顕著であることが知られている。したがって、圧電体層が主としてチタン酸ジルコン酸鉛を含む場合には特に、前記振動板の前記圧電体層に最も近い層を構成する材料の標準電極電位が-0.126Vよりも大きい材料であり、より酸化されにくい材料であることが好ましい。具体的には、上記金属、特に白金族金属又はこのような金属を含有する導電性材料で構成されることが好ましい。
【0029】
振動板の上記構成により、前記圧電体層に含有される酸素が、界面間移動・層間拡散によって、より酸化されやすい振動板の前記圧電体に最も近い層に補足され、同時に前記圧電体が還元され劣化すること、つまり、振動板の構成材料による圧電体層からの酸素の引き抜きを防ぐことができ、駆動にともなう経時劣化から圧電体層を十分に保護できる。
【0030】
本発明のアクチュエータの実施態様としては、前記振動板の前記圧電体層から最も遠い層を構成する材料が、主としてクロム又はニッケルであることが好ましい。振動板をこのような構成とすることで、本発明のアクチュエータを、例えば、インクジェットヘッドとしたときに、アクチュエータに連結されるインクを収容する圧力室の形成が容易となり、かつ高精度化において優れる利点を有する。
【0031】
本発明のインクジェットヘッドは、上記本発明のアクチュエータと、インクが充填され、前記アクチュエータが駆動されることにより前記インクの圧力が変化する圧力室と、前記アクチュエータが駆動されることにより前記圧力室に充填された前記インクを吐出するノズルと、を備える、ことを特徴とする。
【0032】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0033】
[第1の態様のアクチュエータ]
本発明の第1の態様のアクチュエータは、第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面にそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、前記第2の電極の前記圧電体層とは反対側に配置された振動板とを備えるアクチュエータであり、前記振動板が、互いに異なる材料から構成される少なくとも3つの層が厚さ方向に積層されてなり、かつ前記振動板において前記各層を構成する材料のヤング率が、前記第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなることを特徴とする。
【0034】
第1の態様のアクチュエータの振動板において、各層を構成する材料は、金属のように単独の元素からなってもよく、2種以上の元素を有する合金や化合物であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。また、各層を構成する材料は、同じ元素で構成されていても、密度や結晶構造が異なる場合は、異なる材料とみなす。
【0035】
第1の態様のアクチュエータは、上記構成により、第1及び第2の電極から供給される電気エネルギーにより圧電体層で発生した機械的変位を、振動板を介して有効に伝播するものである。機械的変位を伝播する対象は、特に制限されないが、例えば、インクが挙げられる。本発明の第1の態様のアクチュエータは、具体的には、被印刷面に印字や描画を行うためにインクジェットヘッドからインクを吐出する用途に有効に用いられる。インクジェットヘッドにおいて、インクはノズルに繋がる圧力室に充填される。圧力室は、例えば、壁面の一部がアクチュエータで構成され、印刷時には、アクチュエータを駆動して圧力室内の圧力を高めることにより、圧力室からインクがノズルを介して外部へ吐出される機構である。
【0036】
第1の態様のアクチュエータは、上記第1の電極、圧電体層、第2の電極、及び振動板以外に、必要に応じて任意の部材を有してもよい。任意の部材としては、例えば、第1の電極の圧電体層とは反対側の主面に第1の電極を絶縁保護する目的で配置される絶縁保護層、ガスバリア層等が挙げられる。
【0037】
以下、
図1、
図2、
図3A及び
図3Bを参照して第1の態様のアクチュエータを説明するが、第1の態様のアクチュエータはこれらに限定されるものではない。これらの図で示した第1の態様のアクチュエータは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1及び
図2は、本発明の第1の態様のアクチュエータの実施形態の一例及び変形例を示す断面図である。
図3A及び
図3Bは、基板に設置された
図1に示すアクチュエータの動作を模式的に示す平面図及び断面図である。
【0038】
図1に示すアクチュエータ11Aは、第1の主面S1と第2の主面S2を有する圧電体層1と、圧電体層1の第1の主面S1及び第2の主面S2にそれぞれ配置された第1の電極2及び第2の電極3を有する。アクチュエータ11Aは、第2の電極3の圧電体層1とは反対側に振動板4Aを有する。
【0039】
振動板4Aは、第2の電極3側から第1層41a、第2層42a、及び第3層43aが厚さ方向に積層されてなる。第1層41a、第2層42a、及び第3層43aをそれぞれ構成する材料は互いに異なる。
【0040】
振動板4Aにおいて、第1層41aを構成する材料のヤング率をY41a、第2層42aを構成する材料のヤング率をY42a、第3層43aを構成する材料のヤング率をY43aとすると、Y41a、Y42a及びY43aの間には以下の関係が成り立つ。
Y41a<Y42a<Y43a
【0041】
図2に示すアクチュエータ11Bは、第1の電極2の圧電体層1とは反対側の主面に絶縁保護層5を備え、振動板が3層構成の振動板4Aに替わって4層で構成される振動板4Bからなる以外は、
図1に示すアクチュエータ11Aと同じ構成である。
【0042】
アクチュエータ11Bでは、振動板4Bは、第2の電極3側から第1層41a、第2層42a、第3層43a及び第4層44aが厚さ方向に積層されてなる。振動板4Bにおいて、第1層41aを構成する材料のヤング率をY41a、第2層42aを構成する材料のヤング率をY42a、第3層43aを構成する材料のヤング率をY43a、第4層44aを構成する材料のヤング率をY44aとすると、Y41a、Y42a、Y43a及びY44aの間には以下の関係が成り立つ。
Y41a<Y42a<Y43a<Y44a
【0043】
図3A及び
図3Bは、基板6上に設置されたアクチュエータ11Aの動作を模式的に示す図である。
図3Aは平面図であり、
図3Bは
図3AのX-X線断面図である。アクチュエータ11Aを搭載する基板6は、例えば、平面形状が矩形の板状体であり、中央に円柱状の貫通部7を有する形態である。アクチュエータ11Aは、例えば、第2の電極3及び振動板4Aは、平面形状が基板6の外周と同寸同形の矩形であり、圧電体層1及び第1の電極2は、平面形状が基板6の貫通部7の外周より小さい円形である。
図3A及び
図3Bでは、アクチュエータ11Aは、圧電体層1及び第1の電極2の外周は貫通部7の外周の内側に位置する構成である。
【0044】
アクチュエータ11Aの第1の電極2及び第2の電極3は、駆動回路8に接続されている。アクチュエータ11Aは、駆動回路8から第1の電極2及び第2の電極3に印加される電圧(駆動信号)に基づいて駆動される。具体的には、駆動回路8による電圧の印加により、第1の電極2及び第2の電極3との間に電位差を付与すると、圧電体層1が、第1の電極2と第2の電極3との電位差に応じて、厚さ方向に垂直な方向、すなわち第1の主面S1及び第2の主面S2に平行な方向、に伸縮する。当該伸縮に伴い圧電体層1が厚さ方向に変位しようとする。
【0045】
そして、振動板4Aの基板6の貫通部7を臨む部分に曲率が生じるようにして、振動板4Aの貫通部7を臨む部分が貫通部7側に変位(湾曲、振動)する。この振動板4Aの変位により、貫通部7の体積が減少する。本発明のアクチュエータを、例えば、インクジェットヘッドに適用する場合、
図3A及び
図3Bに示す基板6の貫通部7を圧力室としてインクを収容し、さらに、基板6に、圧力室の振動板4Aとは反対側にノズルを有する基板を接合する。当該構成のインクジェットヘッドでは、上述した振動板4Aの振動が圧力室内のインクに伝播され、インクがノズルからインク滴として外部に吐出される。
【0046】
アクチュエータ11A及びアクチュエータ11Bにおいては、振動板を厚さ方向に3層以上で構成し、各層のヤング率の関係が、それぞれY41a<Y42a<Y43a及びY41a<Y42a<Y43a<Y44aを満たす。これにより、圧電体層の中立面がより外側に設定されるため、より効率的なエネルギーの発生が得られる。すなわち、圧電体層の変位が振動板により効率よく伝達できるものである。
【0047】
以下、第1の態様のアクチュエータの各部材について詳細に説明する。
【0048】
(圧電体層)
圧電体層1は圧電体で構成される。圧電体としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)及びチタン酸ジルコン酸鉛([Pb(Zr・Ti)O3]、以下「PZT」ともいう。)に代表されるペロブスカイト型化合物を含むことが好ましく、主としてPZTを含むことが好ましい。なお、PZTにおけるZrとTiの含有割合はモル比で、Zr/Ti=30/70~70/30が好ましい。また、主としてPZTを含むとは、圧電体の全量に対して、PZTが85質量%以上であることをいう。
【0049】
圧電体の性能を向上させつるために、PZTにドナーイオンを添加してもよく、ドナーイオンとしては、ランタン(La)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ストロンチウム(Sr)等の金属イオンが挙げられ、La、Nb、Ta、及びWからなる群から選ばれる1種以上のイオンを含んでいることが好ましい。アクセプタイオンとしては、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを含んでいることが好ましい。
【0050】
圧電体層1は、単層からなってもよく、複数層からなってもよい。単層の場合であっても、複数層からなる場合であっても、圧電体層1は、PZTを主体とする層を含むことが好ましい。また、PZTを主体とする層と組み合わせる層として、チタン酸ランタン酸鉛(PLT)、マグネシウムニオブ酸-チタン酸鉛(PMN)、亜鉛ニオブ酸-チタン酸鉛(PZN)等からなる層が挙げられる。
【0051】
圧電体層1の厚さは、第1の態様のアクチュエータの用途により適宜選択できる。例えば、第1の態様のアクチュエータをインクジェットヘッドに用いる場合には、圧電体層1の各層の厚さ及び合計厚さは、それぞれ1~10μmの範囲にあることが好ましい。圧電体層1の合計厚さが1μm以上であると、アクチュエータとした際に、振動板を十分に変位させることが可能であり、圧電体層1の各層の厚さ及び合計厚さが10μm以下であれば、製膜時にクラックや膜剥がれ等の不具合が発生することが殆どない。
【0052】
圧電体層1の成膜方法としては、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法が挙げられる。
【0053】
圧電体層1の平面形状及び大きさ(面積)は特に制限されない。用途に応じて適宜選択できる。同じ面積であれば、駆動効率に有利な円形が好ましい。第1の態様のアクチュエータをインクジェットヘッドに用いる場合、インクの吐出量に応じて適宜設定される。
【0054】
(第1の電極)
アクチュエータ11A及びアクチュエータ11Bにおいて、第1の電極2は、圧電体層1の第1の主面S1の全面に形成されている。第1の主面S1における第1の電極の配設範囲は、特に制限されないが、圧電体層1の全体を効率よく用いるために、通常、全面に第1の電極が配設される。
【0055】
第1の電極2を構成する材料としては、導電材料であれば特に制限されない。具体的には、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)等の金属の1種以上を含む導電材料が挙げられる。導電材料は、これらの金属の1種又は2種以上を含む材料とすることができる。導電材料は、金属の混合物であってもよく、合金であってもよい。その場合、上記金属の少なくとも1種と他の金属の混合物又は合金であってもよい。
【0056】
導電材料は、酸化イリジウム(IrO2)、酸化ルテニウム(RuO2)、ニッケル酸ランタン(LaNiO3;LNO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3;SRO)等の金属酸化物の1種又は2種以上を含む材料であってもよい。
【0057】
導電材料には、p型シリコンのように、ケイ素に、微量元素(リン、ホウ素等)をドープした材料が含まれる。導電材料は、炭素から構成される材料であってもよい。炭素から構成される材料としては、ホウ素等をドープし導電性を付与したダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等が含まれる。
【0058】
第1の電極2は、単層からなってもよく、複数層からなってもよい。第1の電極2の厚さは0.005~2μmの範囲にあることが好ましい。第1の電極2が複数層からなる場合は、合計の厚さとして上記範囲にあることが好ましい。第1の電極2は、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法等で成膜できる。
【0059】
第1の電極2は、例えば、圧電体層1側に密着性の高い導電材料からなる層を有し、その上に導電性の高い層を有する2層の積層構成が好ましい。圧電体層1側の層としては、例えば、Ti層、Ir層等が挙げられる。また、密着性の層に積層される層としては、Pt層、Au層等が挙げられる。密着性の層の厚さは、例えば、0.002~1μm程度が好ましく、その上に積層される層の厚さは、例えば、0.1~0.2μm程度が好ましい。
【0060】
(絶縁保護層)
第1の態様のアクチュエータにおいて、
図2に示すアクチュエータ11Bが有する絶縁保護層5は、第1の電極2の圧電体層1とは反対側に設けられる任意の層である。絶縁保護層5は、第1の電極2の主面の全体を被覆する構成が好ましい。絶縁保護層5は、必要に応じて、第1の電極2の端面も被覆する構成であってもよい。
【0061】
絶縁保護層5は、絶縁材料で構成される。絶縁材料としては、樹脂、セラミックス、ガラス等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、SiO2、Al2O3等金属酸化物およびこれらを含む混合物が挙げられる。
【0062】
絶縁保護層5は単層であっても複数層からなってもよい。絶縁保護層5の厚さは、合計の厚さとして、0.5~2.5μmの範囲にあることが好ましい。絶縁保護層5は、樹脂層の場合、一般的な精密塗布技術のうち特に限定されず、例えば、スピンコート法で形成可能である。セラミックス層の場合、例えば、ゾルゲル法のほか、気相成膜法である蒸着法、CVD法、スパッタリング法等で形成できる。
【0063】
(第2の電極)
アクチュエータ11A及びアクチュエータ11Bにおいて、第2の電極3は、圧電体層1の第2の主面S2の全面を被覆し、電圧が印加された際の圧電体層1の変位が、それぞれ振動板4A及び振動板4Bに伝播されるように形成される。第2の電極3の平面視の形状、大きさは、通常、圧電体層1の第2の主面S2の全面を被覆できる形状、大きさである。
【0064】
振動板4A及び振動板4Bは、主面の面積が、例えば、圧電体層1の第2の主面S2の面積より大きく構成される。振動板4A及び振動板4Bと圧電体層1の積層関係は、平面視で振動板4A及び振動板4Bの外周の内側に圧電体層1の外周が位置するように積層される。第2の電極3の平面視の形状、大きさは、例えば、圧電体層1の第2の主面S2と同寸、同形であってもよい。また、第2の電極3は、平面視における外周が圧電体層1の第2の主面S2の外周を超えるように、平面視の面積が圧電体層1の第2の主面S2の面積より大きく構成あれてもよい。具体的には、第2の電極3は、平面視の形状、大きさが、振動板4A及び振動板4Bの圧電体層1側の主面と同寸、同形程度に大きく構成されていてもよい。
【0065】
第2の電極3は第1の電極2と同様の導電材料で構成することができる。第2の電極3は、第1の電極2と同様に単層からなってもよく、複数層からなってもよい。第2の電極3の厚さは0.005~2μmの範囲にあることが好ましい。第2の電極3が複数層からなる場合の例としては、第1の電極2と同様の例が挙げられる。
【0066】
なお、第2の電極3の厚さは0.005~3μmの範囲にあることがより好ましい。第2の電極3のヤング率は、例えば、150~300GPa未満の範囲にあることが好ましい。
【0067】
(振動板)
本発明の第1の態様のアクチュエータにおいて、振動板は、互いに異なる材料から構成される3以上の層が厚さ方向に積層され、各層を構成する材料のヤング率が、第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなる構成である。第1の態様のアクチュエータにおいて振動板を構成する層の数は、3以上であれば特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。振動板を構成する層の数は、振動板全体の厚さ、各層の厚さとヤング率によるが、圧電体層の応力や複合ヤング率などの物性を調整することで変位を効率よく伝播するためには4以上が好ましい。
【0068】
振動板のヤング率は、各層を構成する材料のヤング率が、第2の電極に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなる構成である。振動板の各単層のヤング率は、当該条件を満たした上で、それぞれ概ね10~900GPaの範囲内にあるのが好ましく、60~800GPaの範囲内にあるのがより好ましい。すなわち、第2の電極に最も近い層を構成する材料のヤング率の下限は10GPaが最も好ましく、実用的には高くても300GPa未満が好ましい。また、第2の電極に最も遠い層を構成する材料のヤング率の上限は900GPaが好ましく、800GPaがより好ましい。また、振動板全体としてのヤング率の範囲は、概ね80~700GPaとすることができる。
【0069】
振動板の厚さは、第1の態様のアクチュエータの用途及び振動板のヤング率等に応じて適宜調整される。第1の態様のアクチュエータをインクジェットヘッドに用いる場合、振動板の厚さは全体として、1.5~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0070】
第1の態様のアクチュエータにおいて、
図1に示すアクチュエータ11Aは振動板の構成層数が3の例であり、
図2に示すアクチュエータ11Bは、振動板の構成層数が4の例である。
【0071】
アクチュエータ11Aの振動板4Aにおいて、第1層41a、第2層42a及び第3層43aをそれぞれ構成する材料のヤング率Y41a、Y42a及びY43aは、以下の(1a-1)の関係を満たす。
(1a-1)Y41a<Y42a<Y43a
【0072】
圧電体層1の変位の伝達効率(以下、「変位効率」ともいう。)を高める観点から、ヤング率Y41a、Y42a及びY43aは、上記(1a-1)を満たした上で、さらに、以下の(1a-2)~(1a-4)の関係のいずれかを満たすことが好ましく、2以上を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0073】
(1a-2)10GPa≦Y41a
(1a-3)1.05≦Y42a/Y41a≦4.0
(1a-4)1.05≦Y43a/Y42a≦4.0
【0074】
(1a-2)において、第1層41aを構成する材料のヤング率Y41aが10GPa以上、好ましくは60GPa以上であることで、振動板4A全体のヤング率を高めることができ、振動板を駆動させる目的で、高い共振周波数を得ることができる点で好ましい。ヤング率Y41aは、100GPa以上がより好ましい。ヤング率Y41aの上限は、上記(1a-1)を満たす観点から、300GPa程度が好ましい。
【0075】
(1a-3)及び(1a-4)は、第1層41a、第2層42a及び第3層43aの順に、振動板4Aを構成する層が第2の電極3から遠ざかるにしたがって、各層を構成する材料のヤング率がどの程度高くなるかを示す指標である。以下、第1層41aを構成する材料のヤング率Y41aを「第1層41aのヤング率Y41a」ともいう。他の層についても同様の扱いとする。
【0076】
(1a-3)は、第1層41aのヤング率Y41aに対する第2層42aのヤング率Y42aの比の値「Y42a/Y41a」を規定するものである。Y42a/Y41aが上記範囲にあることで、第1層41aと第2層42aとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(1a-1)の関係も満足でき好ましい。Y42a/Y41aは、1.05~1.85の範囲内にあることがより好ましい。
【0077】
(1a-4)は、第2層42aのヤング率Y42aに対する第3層43aのヤング率Y43aの比の値「Y43a/Y42a」を規定するものである。Y43a/Y42aが上記の下限値以上であることで第2層42aと第3層43aとの間でヤング率は十分に増大し好ましい。Y43a/Y42aが上記の上限値以下であることで、総膜厚の好ましい範囲、例えば、1.5~12μmの範囲を満たしつつ、応力調整などの目的で積層数を増やす余地ができる点で好ましい。Y43a/Y42aは、1.05~2.0の範囲内にあることがより好ましい。
【0078】
また、Y42a/Y41aとY43a/Y42aの関係は、(1a-5)Y42a/Y41a:Y43a/Y42aとして1:1~1:2の範囲にあることが好ましい。Y42a/Y41a:Y43a/Y42aが当該範囲にあることで、第1層から第3層に向かってヤング率は均等に近いかたちで増加する。
【0079】
上記(1a-1)を必須の要件として、(1a-2)~(1a-4)、さらに(1a-5)を勘案すると、具体的には、第1層41aのヤング率Y41aは、60~300GPaの範囲にあり、第2層42aのヤング率Y42aは、63~555GPaの範囲にあり、第3層43aのヤング率Y43aは、66~900GPaの範囲にあることが好ましい。
【0080】
第1層41aのヤング率Y41aは、100~300GPaの範囲にあり、第2層42aのヤング率Y42aは、105~555GPaの範囲にあり、第3層43aのヤング率Y43aは、110~900GPaの範囲にあることがより好ましい。
【0081】
振動板4Aにおける第1層41a、第2層42a及び第3層43aの厚さをそれぞれT41a、T42a及びT43aで示す。アクチュエータ11Aをインクジェットヘッドに用いた場合を例にすると、変位効率を高めるために、例えば、T41a、T42a及びT43aはそれぞれ0.5~4μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、0.5~3.5μmの範囲内である。また、振動板4Aの全体の厚さ、すなわち、T41a+T42a+T43aは、1.5~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0082】
上記のとおり、振動板4Aの第1層41a、第2層42a及び第3層43aを構成する材料は、それぞれ、金属のように単独の元素からなってもよく、2種以上の元素を有する合金や化合物であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。また、各層を構成する材料は、同じ元素で構成されていても、密度や結晶構造が異なる場合は、異なる材料とみなす。
【0083】
振動板4Aの第1層41a、第2層42a及び第3層43aをそれぞれ構成する材料としては、上記(1a-1)の関係を満足する限り、有機物であっても、無機物であってもよく、これらの複合物や混合物であってもよい。
【0084】
振動板4Aの各層の構成材料として使用可能な無機物として、以下に金属と金属以外の無機物に分けて説明する。金属としては、アルミニウム、金、チタン、銅、白金、クロム、ニッケル、タングステン、ジルコニウム、銀、タンタル、オスミウム、ニオブ、モリブデン、鉄、コバルト、パラジウム、亜鉛、及びバナジウム等が挙げられる。金属はこれらから選ばれる2種以上の金属の合金であってもよく、混合物であってもよい。
【0085】
金属以外の無機物として、ケイ素、炭素、ホウ素、上記金属又はケイ素の窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物等が挙げられる。金属以外の無機物としては、さらに、p型シリコンのように、ケイ素に、微量元素(リン、ホウ素等)をドープした材料が含まれる。炭素から構成される無機物としては、ホウ素等をドープし導電性を付与したダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等が含まれる。
【0086】
上記の窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物が含有する金属は1種であっても、2種以上であってもよい。また、これらの窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物においては、化学量論比から外れる組成の化合物であってもよい。
【0087】
振動板4Aの各層の構成材料として使用可能な有機物としては、各種樹脂が挙げられる。樹脂としてはポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0088】
振動板4Aにおいて各層を構成する材料は、上記のとおり、同じ元素で構成されていても、密度や結晶構造が異なる場合は、ヤング率が異なる。例えば、金属の場合、ヤング率は密度や結晶構造に影響される。また、窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物では、化学量論比から外れる組成の化合物を含むものであり、その組成によりヤング率を変化させることが可能である。
【0089】
一般的に、無機物に比べて有機物のヤング率は低く、樹脂のヤング率は、概ね0.1~10GPaの範囲とされる。また、無機物について、典型的な製造方法で得られた場合のヤング率[GPa]を表Iに示す。表I中、ヤング率の値に幅があるものは、化学量論比以外の組成の化合物を含むもの、製造方法の違いにより密度が異なるもの等である。
【0090】
【0091】
振動板4Aの各層を構成する材料は、上記例示した材料のなかから、各層のヤング率の関係が上記(1a-1)を満たすように選択される。さらに好ましくは、上記(1a-2)~(1a-4)、さらには(1a-5)を満たすように選択される。各層の形成方法は、構成材料に応じて、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法等から適宜選択可能である。樹脂層の場合、例えば、スピンコート法、ディップ法、電着法等で形成可能である。
【0092】
振動板4Aの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、第1層41aを構成する材料は、以下の(A)の特性を有することが好ましい。
【0093】
(A);振動板4Aにおける第1層41aを構成する材料は、圧電体層1における還元反応、具体的には、圧電体層1と第1層41a自身との界面における還元反応を抑制する材料であることが好ましい。
【0094】
より具体的には、還元反応を抑制する材料は、標準電極電位が-0.126Vよりも大きい金属、又は当該金属を含有する導電性材料であることが好ましい。さらに、上記還元反応を抑制する材料は、白金、イリジウム、パラジウム、ロジウム及びルテニウムから選ばれる白金族金属、又は当該白金族金属を含有する導電性材料であることが好ましい。この場合、標準電極電位が-0.126Vよりも大きい金属又は白金族金属において、1種が単独で用いられてもよく2種以上が併用されてもよい。2種以上が併用される場合は混合物であってもよく、合金であってもよい。
【0095】
金属を含有する材料を用いる場合において、このような、還元反応を抑制する材料としては、例えば、圧電体層1が主としてPZTから構成される場合、標準電極電位が、チタン(-1.630V)及びジルコニウム(-1.534V)、さらには、鉛(-0.216V)より大きい金属元素を含む材料が好ましい。
【0096】
このような材料として、具体的には、Cr(-0.740V)、Ni(-0.257V)、Cu(+0.340V)、Ag(+0.799V)、Pd(+0.915V)、Ir(+1.156V)、Pt(+1.188V)、Au(+1.510V)等が好ましい。上記において、材料名の後ろの括弧内の数値は標準電極電位を示す。
【0097】
さらに、圧電体層1と直接に接する第1層41aを構成する材料は、その膜中を酸素が拡散しにくい白金族金属であることがより好ましい。白金族金属にふくまれる元素とその標準電極電位は、ルテニウム(+0.460V)、ロジウム(+0.900V)、パラジウム(+0.915V)、イリジウム(+1.156V)、白金(+1.188V)である。これらは上述のように酸素の膜中拡散が生じづらいことに加え、圧電体層1と第1層41a自身との界面における還元反応を抑制することから、より好ましい。
【0098】
また、振動板4Aの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、圧電体層1から最も遠い層、すなわち、第3層43aを構成する材料は、主としてクロム又はニッケルであることが好ましい。例えば、第1の態様のアクチュエータをインクジェットヘッドに適用する場合、後述のように振動板の圧電体層1から最も遠い層が、インクが収容される圧力室に面する構成となる。その場合、振動板の圧電体層1から最も遠い層を構成する材料と、圧力室の隔壁(例えば、後述する
図6~
図8に示す本体基板51)を構成する材料は密着性が良好であることが好ましい。そのために、圧力室の隔壁を構成する材料と、振動板の圧電体層1から最も遠い層を構成する材料が、共通の成分を主成分とすることで両者の密着性を向上させることができる。
【0099】
インクジェットヘッドの圧力室の隔壁は、典型的にはクロム又はニッケル等の主成分とする合金を用いてメッキにより形成される。したがって、振動板4Aにおいて、第3層43aを構成する材料は、主としてクロム又はニッケルであれば、インクジェットヘッドの圧力室の隔壁との密着性が良好となる。なお、インクジェットヘッドの圧力室の隔壁と、振動板4Aの第3層43aにおいて、主として含む金属を同じ金属とすることが好ましい。
【0100】
振動板4Aの各層の構成の組み合わせとして、具体的には、以下の表IIに示す組み合わせが挙げられる。これら各材料は、組成や製造の方法によりヤング率は調整可能であるほか、各層に求められるヤング率の値は相対関係で規定される。従ってこの例示は、各層において用いられる材料を網羅・限定するものではない。
【0101】
【0102】
次いで、アクチュエータ11Bの振動板4Bについて説明する。振動板4Bにおいて、第1層41a、第2層42a、第3層43a及び第4層44aをそれぞれ構成する材料のヤング率Y41a、Y42a、Y43a及びY44aは、以下の(2a-1)の関係を満たす。
(2a-1)Y41a<Y42a<Y43a<Y44a
【0103】
圧電体層1の変位効率を高める観点から、ヤング率Y41a、Y42a及びY43aは、上記(2a-1)を満たした上で、さらに、以下の(2a-2)~(2a-5)の関係のいずれかを満たすことが好ましく、2以上を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0104】
(2a-2)10GPa≦Y41a
(2a-3)1.05≦Y42a/Y41a≦4.0
(2a-4)1.05≦Y43a/Y42a≦4.0
(2a-5)1.05≦Y44a/Y43a≦4.0
【0105】
なお、上記(2a-2)~(2a-4)に示す条件は、上記(1a-2)~(1a-4)に示す条件と同じである。すなわち、振動板が4層で構成される場合、1~3層までのヤング率の関係は、振動板が3層で構成される場合の1~3層までのヤング率の関係と同様にすることができる。
【0106】
(2a-2)において、第1層41aを構成する材料のヤング率Y41aが10GPa以上、好ましくは60GPa以上であることで、振動板4B全体のヤング率を高めることができ、振動板を駆動させる目的で、高い共振周波数を得ることができる点で好ましい。ヤング率Y41aは、100GPa以上がより好ましい。ヤング率Y41aの上限は、上記(2a-1)を満たす観点から、300GPa程度が好ましい。
【0107】
(2a-3)、(2a-4)及び(2a-5)は、第1層41a、第2層42a、第3層43a及び第4層44aの順に、振動板4Bを構成する層が第2の電極3から遠ざかるにしたがって、各層を構成する材料のヤング率がどの程度高くなるかを示す指標である。
【0108】
(2a-3)は、第1層41aのヤング率Y41aに対する第2層42aのヤング率Y42aの比の値「Y42a/Y41a」を規定するものである。Y42a/Y41aが上記範囲にあることで、第1層41aと第2層42aとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(2a-1)の関係も満足でき好ましい。Y42a/Y41aは、1.05~1.5の範囲内にあることがより好ましい。
【0109】
(2a-4)は、第2層42aのヤング率Y42aに対する第3層43aのヤング率Y43aの比の値「Y43a/Y42a」を規定するものである。Y43a/Y42aが上記範囲にあることで第2層42aと第3層43aとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(2a-1)の関係も満足でき好ましい。Y43a/Y42aは、1.05~1.8の範囲内にあることがより好ましい。
【0110】
(2a-5)は、第3層43aのヤング率Y43aに対する第4層44aのヤング率Y44aの比の値「Y44a/Y43a」を規定するものである。Y44a/Y43aが上記の下限値以上であることで第3層43aと第4層44aとの間でヤング率は十分に増大し好ましい。Y44a/Y43aが上記の上限値以下であることで、総膜厚の好ましい範囲、例えば2.0~12μmの範囲を満たしつつ、応力調整などの目的で積層数を増やす余地ができる点で好ましい。Y44a/Y43aは、1.05~1.8の範囲内にあることがより好ましい。
【0111】
また、Y42a/Y41aとY43a/Y42aの関係、及びY43a/Y42aとY44a/Y43aの関係は、(2a-6)Y42a/Y41a:Y43a/Y42aとして1:1~1:1.2及びY43a/Y42a:Y44a/Y43aとして1:1~1:1.5の範囲にあることが好ましい。Y42a/Y41a:Y43a/Y42a及びY43a/Y42a:Y44a/Y43aが当該範囲にあることで、第1層から第4層に向かってヤング率は均等に近いかたちで増加する。
【0112】
上記(2a-1)を必須の要件として、(2a-2)~(2a-5)、さらに(2a-6)を勘案すると、 具体的には、第1層41aのヤング率Y41aは、60~300GPaの範囲にあり、第2層42aのヤング率Y42aは、63~450GPaの範囲にあり、第3層43aのヤング率Y43aは、66~810GPaの範囲にあり、第4層44aのヤング率Y44aは、69~900GPaの範囲にあることが好ましい。
【0113】
第1層41aのヤング率Y41aは、100~300GPaの範囲にあり、第2層42aのヤング率Y42aは、105~450GPaの範囲にあり、第3層43aのヤング率Y43aは、110~810GPaの範囲にあり、第4層44aのヤング率Y44aは、116~900GPaの範囲にあることがより好ましい。
【0114】
振動板4Bにおける第1層41a、第2層42a、第3層43a及び第4層44aの厚さをそれぞれT41a、T42a、T43a及びT44aで示す。アクチュエータ11Bをインクジェットヘッドに用いた場合を例にすると、変位効率を高めるために、例えば、T41a、T42a、T43a及びT44aはそれぞれ0.5~5.3μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、0.5~4.7μmの範囲内である。また、振動板4Bの全体の厚さ、すなわち、T41a+T42a+T43a+T44aは、2.0~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0115】
振動板4Bの各層を構成する材料は、上記例示した材料のなかから、各層のヤング率の関係が上記(2a-1)を満たすように選択される。さらに好ましくは、上記(2a-2)~(2a-5)、さらに(2b-6)を満たすように選択される。各層の形成方法は、構成材料に応じて、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法等から適宜選択可能である。樹脂層の場合、例えば、スピンコート法、ディップ法、電着法等で形成可能である。
【0116】
振動板4Bの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、第1層41aを構成する材料は、上記の(A)の特性を有することが好ましい。また、振動板4Bの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、圧電体層1から最も遠い層、すなわち、第4層44aを構成する材料は、主としてクロム又はニッケルであることが好ましい。
【0117】
振動板4Bの各層の構成の組み合わせとして、具体的には、以下の表IIIに示す組み合わせが挙げられる。これら各材料は、組成や製造の方法によりヤング率は調整可能であり、各層において用いられる材料を限定するものではない。
【0118】
【0119】
以上、第1の態様のアクチュエータについて、振動板が3層又は4層からなる場合を例にして説明した。振動板が5層以上の層からなる場合については、上に示した振動板全体としてのヤング率の好ましい範囲、概ね80~700GPa、また、表II及び表IIIから算出した振動板全体のヤング率の範囲86~640GPaを勘案し、かつ、第2の電極に最も近い層から最も遠い層へのヤング率の増加のバランス、例えば、均等に近いかたちで増加させる等を考慮して、各層のヤング率を適宜選択すればよい。また、振動板が5層以上の層からなる場合においても、第2の電極に最も近い層を構成する材料の好ましい特性は上記のとおりであり、第2の電極から最も遠い層を構成する材料の好ましい特性は上記のとおりである。
【0120】
なお、第1の態様のアクチュエータの振動板を構成する各層は、層内でヤング率を第2の電極3に近い側の主面から遠い側の主面に向かって漸増するように変化させる構成であってもよい。その場合、例えば、振動板4Aを例にすると、第1層の第2の電極3に遠い側のヤング率は、第2層の第2の電極3に近い側のヤング率より小さく、第2層の第2の電極3に遠い側のヤング率は、第3層の第2の電極3に近い側のヤング率より小さく構成される。
【0121】
[第2の態様のアクチュエータ]
本発明の第2の態様のアクチュエータは、第1の主面と第2の主面を有する圧電体層と、前記圧電体層の前記第1の主面に配置された第1の電極と、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された振動板とを備えるアクチュエータであり、前記振動板は、前記圧電体層の前記第2の主面に配置された導体層と、前記導体層の前記圧電体層とは反対側に厚さ方向に積層された、前記導体層を構成する材料とはそれぞれ異なる材料から構成される少なくとも2つの層を有し、前記振動板において前記導体層及び前記各層を構成する材料のヤング率が、前記導体層から前記圧電体層に遠い側の層に向かって順に高くなることを特徴とする。
【0122】
本発明の第2の態様のアクチュエータと、第1の態様のアクチュエータは、第1の態様のアクチュエータが圧電体層の第2の主面に第2の電極を有し、第2の電極の圧電体層とは反対側に振動板を有するのに対して、第2の態様のアクチュエータは、圧電体層の第2の主面に、当該圧電体層側に導体層を備える振動板を有する構成である点で異なる。言い換えれば、第2の態様のアクチュエータにおける振動板は、第1の態様のアクチュエータにおける第2の電極と振動板の機能を兼ね備える構成である。
【0123】
第2の態様のアクチュエータにおける第1の電極及び圧電体層は、第1の態様のアクチュエータにおける第1の電極及び圧電体層と好ましい態様を含めて同様にすることができる。第2の態様のアクチュエータは、上記第1の電極、圧電体層及び振動板以外に、必要に応じて任意の部材を有してもよい。任意の部材としては、例えば、第1の電極の圧電体層とは反対側の主面に第1の電極を絶縁保護する目的で配置される絶縁保護層、湿度による圧電体層の劣化を防止する目的で配置される防湿層等が挙げられる。第2の態様のアクチュエータにおける、上記絶縁保護層についても、第1の態様のアクチュエータにおける絶縁保護層と好ましい態様を含めて同様にすることができる。
【0124】
以下、
図4及び
図5を参照して第2の態様のアクチュエータを説明するが、第2の態様のアクチュエータはこれに限定されるものではない。これらの図で示した第2の態様のアクチュエータは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図4及び
図5は、本発明の第2の態様のアクチュエータの実施形態の一例及び変形例を示す断面図である。
【0125】
図4に示すアクチュエータ12Aは、第1の主面S1と第2の主面S2を有する圧電体層1と、圧電体層1の第1の主面S1及び第2の主面S2にそれぞれ配置された第1の電極2及び振動板4Cを有する。
【0126】
振動板4Cは、圧電体層1側から第1層41b、第2層42b、及び第3層43bが厚さ方向に積層されてなる。第1層41bは導体層であり、第2層42b、及び第3層43bは、第1層41bとはそれぞれ異なる材料から構成される。
【0127】
振動板4Cにおいて、第1層41bを構成する材料のヤング率をY41b、第2層42bを構成する材料のヤング率をY42b、第3層43bを構成する材料のヤング率をY43bとすると、Y41b、Y42b及びY43bの間には以下の関係が成り立つ。
Y41b<Y42b<Y43b
【0128】
図5に示すアクチュエータ12Bは、第1の電極2の圧電体層1とは反対側の主面に絶縁保護層5を備え、振動板が3層構成の振動板4Cに替わって4層で構成される振動板4Dからなる以外は、
図3に示すアクチュエータ12Aと同じ構成である。
【0129】
アクチュエータ12Bでは、振動板4Dは、圧電体層1側から第1層41b、第2層42b、第3層43b及び第4層44bが厚さ方向に積層されてなる。振動板4Dにおいて、第1層41bは導体層であり、第2層42b、第3層43b及び第4層44bは、第1層41bとはそれぞれ異なる材料から構成される。
【0130】
振動板4Dにおいて、第1層41bを構成する材料のヤング率をY41b、第2層42bを構成する材料のヤング率をY42b、第3層43bを構成する材料のヤング率をY43b、第4層44bを構成する材料のヤング率をY44bとすると、Y41b、Y42b、Y43b及びY44bの間には以下の関係が成り立つ。
Y41b<Y42b<Y43b<Y44b
【0131】
第2の態様のアクチュエータは、振動板の圧電体層側の層である導体層が第1の態様のアクチュエータの第2の電極と同様に機能して、上に説明した第1の態様のアクチュエータと同様に動作するものである。第2の態様のアクチュエータにおいては振動板の圧電体層側の層である導体層は振動板としての機能も果たす。
【0132】
第2の態様のアクチュエータである、アクチュエータ12A及びアクチュエータ12Bにおいては、振動板を厚さ方向に3層以上で構成し、各層のヤング率の関係が、それぞれY41b<Y42b<Y43b及びY41b<Y42b<Y43b<Y44bを満たす。これにより、圧電体層の変位面がより外側に設定されるため、より効率的なエネルギーの発生が得られる。すなわち、圧電体層の変位が振動板により効率よく伝達できるものである。また、このような構成とすることで、振動板形成時に圧電体層の応力集中が緩和され安定した製造プロセスが構築できる。
【0133】
たわみが生じた際の振動板の変位量δは、圧電体の発生する変形力Fと、振動板中の圧電体/振動板界面からの厚さ方向における距離Lに存在する中立面のLに対し、δ∝F×Lが成り立つから、一定の変形力Fに対し、Lをより大きく設けることで大きなδを得ることができる。
【0134】
Lは一般的にi層目のヤング率と、累積膜厚をEi、hiとそれぞれ置いた際に下記式となることから、iが大きい層においてEiを高く設定するのが好ましい。
L=ΣEi(hi
2-hi-1
2)/2×ΣEi(hi-hi-1)
さらに、現実的には振動板変形に伴い、発生力の損失が存在するため伸縮しづらい仮想面が圧電素子に近い領域に局在するのを避けるのが好ましいため、iが漸増するに従いEiが一貫して増大するのが好ましい。従って、3層以上の構成とし、圧電体/振動板界面から離れるにしたがってヤング率を増大させる構成が、もっとも。圧電体層の変位を振動板が効率よく伝達できる。
【0135】
第2の態様のアクチュエータについて、第1の態様のアクチュエータと異なる構成、すなわち、振動板について以下に詳細に説明する。
【0136】
(振動板)
本発明の第2の態様のアクチュエータにおいて、振動板は、圧電体層の第2の主面に、互いに異なる材料から構成される3以上の層が厚さ方向に積層されてなり、少なくとも圧電体層に最も近い層が導体層であるとともに、各層を構成する材料のヤング率が、圧電体層に近い側の層から遠い側の層に向かって順に高くなる構成である。第2の態様のアクチュエータにおいて振動板を構成する層の数は、3以上であれば特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。振動板を構成する層の数は、振動板全体の厚さ、各層の厚さとヤング率によるが、圧電体層の変位を効率よく伝播するためには4以上が好ましい。
【0137】
第2の態様のアクチュエータにおける振動板は、第1の態様のアクチュエータにおける振動板において、圧電体層に最も近い層が導体層のものをそのまま用いることができる。第2の態様のアクチュエータにおける振動板のヤング率は、上記条件を満たした上で、全体として概ね80~700GPaの範囲内にあるのが好ましい。すなわち、圧電体層に最も近い層を構成する材料のヤング率の下限は10GPaが好ましく、300GPaがより好ましい。また、圧電体層に最も遠い層を構成する材料のヤング率の上限は900GPaが好ましい。
【0138】
振動板の厚さは、第2の態様のアクチュエータの用途及び振動板のヤング率等に応じて適宜調整される。第2の態様のアクチュエータをインクジェットヘッドに用いる場合、振動板の厚さは全体として、1.5~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0139】
第2の態様のアクチュエータにおいて、
図4に示すアクチュエータ12Aは振動板の構成層数が3の例であり、
図5に示すアクチュエータ12Bは、振動板の構成層数が4の例である。
【0140】
アクチュエータ12Aの振動板4Cにおいて、第1層41bは導体層であって、第1層41b、第2層42b及び第3層43bをそれぞれ構成する材料のヤング率Y41b、Y42b及びY43bは、以下の(1b-1)の関係を満たす。
(1b-1)Y41b<Y42b<Y43b
【0141】
圧電体層1の変位効率を高める観点から、ヤング率Y41b、Y42b及びY43bは、上記(1b-1)を満たした上で、さらに、以下の(1b-2)~(1b-4)の関係のいずれかを満たすことが好ましく、2以上を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0142】
(1b-2)10GPa≦Y41b
(1b-3)1.05≦Y42b/Y41b≦4.0
(1b-4)1.05≦Y43b/Y42b≦4.0
【0143】
(1b-2)において、第1層41bを構成する導電材料のヤング率Y41bは10GPa以上を示す。ヤング率Y41bは60GPa以上であることで、振動板4C全体のヤング率を高めることができ、高い共振周波数を得ることができる点で好ましい。ヤング率Y41bは、100GPa以上がより好ましい。ヤング率Y41bの上限は、上記(1b-1)を満たす観点から、300GPa程度が好ましい。
【0144】
(1b-3)及び(1b-4)は、第1層41b、第2層42b及び第3層43bの順に、振動板4Cを構成する層が圧電体層1から遠ざかるにしたがって、各層を構成する材料のヤング率がどの程度高くなるかを示す指標である。
【0145】
(1b-3)は、第1層41bのヤング率Y41bに対する第2層42bのヤング率Y42bの比の値「Y42b/Y41b」を規定するものである。Y42b/Y41bが上記範囲にあることで、第1層41bと第2層42bとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(1b-1)の関係も満足でき好ましい。Y42b/Y41bは、1.05~1.85の範囲内にあることがより好ましい。
【0146】
(1b-4)は、第2層42bのヤング率Y42bに対する第3層43bのヤング率Y43bの比の値「Y43b/Y42b」を規定するものである。Y43b/Y42bが上記の下限値以上であることで第2層42bと第3層43bとの間でヤング率は十分に増大し好ましい。Y43b/Y42bが上記の上限値以下であることで、総膜厚の好ましい範囲、例えば、1.5~12μmの範囲を満たしつつ、応力調整などの目的で積層数を増やす余地ができる点で好ましい。Y43b/Y42bは、1.05~2.0の範囲内にあることがより好ましい。
【0147】
また、Y42b/Y41bとY43b/Y42bの関係は、(1b-5)Y42b/Y41b:Y43b/Y42bとして1:1~1:2の範囲にあることが好ましい。Y42b/Y41b:Y43b/Y42bが当該範囲にあることで、第1層から第3層に向かってヤング率は均等に近いかたちで増加する。
【0148】
上記(1b-1)を必須の要件として、(1b-2)~(1b-4)、さらに(1b-5)を勘案すると、具体的には、第1層41bのヤング率Y41bは、60~300GPaの範囲にあり、第2層42bのヤング率Y42bは、63~555GPaの範囲にあり、第3層43bのヤング率Y43bは、66~900GPaの範囲にあることが好ましい。
【0149】
第1層41bのヤング率Y41bは、100~300GPaの範囲にあり、第2層42bのヤング率Y42bは、105~555GPaの範囲にあり、第3層43bのヤング率Y43bは、110~900GPaの範囲にあることがより好ましい。
【0150】
振動板4Cにおける第1層41b、第2層42b及び第3層43bの厚さをそれぞれT41b、T42b及びT43bで示す。アクチュエータ12Aをインクジェットヘッドに用いた場合を例にすると、変位効率を高めるために、例えば、T41b、T42b及びT43bはそれぞれ0.5~4μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、0.5~3.5μmの範囲内である。また、振動板4Cの全体の厚さ、すなわち、T41b+T42b+T43bは、1.5~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0151】
上記のとおり、振動板4Cの第1層41b、第2層42b及び第3層43bを構成する材料は、それぞれ、金属のように単独の元素からなってもよく、2種以上の元素を有する合金や化合物であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。また、各層を構成する材料は、同じ元素で構成されていても、密度や結晶構造が異なる場合は、異なる材料とみなす。
【0152】
振動板4Cの第1層41b、第2層42b及び第3層43bをそれぞれ構成する材料としては、第1層41bについては導電材料であって、それ以外の層を構成する材料との関係が(1b-1)の関係を満足する限り、特に制限されない。
【0153】
振動板4Cの第1層41bを構成する材料としては、振動板4Aを構成する材料として例示した材料のうち、導電性を有する材料が挙げられる。導電材料として具体的には、上記第1又は第2の電極を構成する材料として例示した導電材料の使用が可能である。振動板4Cの第2層42b及び第3層43bを構成する材料として、具体的には、振動板4Aを構成する材料として例示した材料のうち、(1b-1)の関係を満足する材料の使用が可能である。
【0154】
振動板4Cの各層を構成する材料は、さらに好ましくは、上記(1b-2)~(1b-4)、さらには(1b-5)を満たすように選択される。各層の形成方法は、構成材料に応じて、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法等から適宜選択可能である。
【0155】
振動板4Cの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、第1層41aを構成する導電材料は、上記の(A)の特性を有することが好ましい。また、振動板4Cの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、圧電体層1から最も遠い層、すなわち、第3層43bを構成する材料は、主としてクロム又はニッケルであることが好ましい。
【0156】
振動板4Cの各層の構成の組み合わせとして、具体的には、以下の表VIに示す組み合わせが挙げられる。これら各材料は、組成や製造の方法によりヤング率は調整可能であるほか、各層に求められるヤング率の値は相対関係で規定される。従ってこの例示は、各層において用いられる材料を網羅・限定するものではない。表中、DLCはダイヤモンドライクカーボンを示す。また、振動板の導体層は電極として機能するために、絶縁層が必要となるため、上記組み合わせにおいて第2層、第3層の少なくとも1層は、非導電性材料を選択する必要がある。
【0157】
【0158】
次いで、アクチュエータ12Bの振動板4Dについて説明する。振動板4Dにおいて、第1層41bは導体層であって、第1層41b、第2層42b、第3層43b及び第4層44bをそれぞれ構成する材料のヤング率Y41b、Y42b、Y43b及びY44bは、以下の(2b-1)の関係を満たす。
(2b-1)Y41b<Y42b<Y43b<Y44b
【0159】
圧電体層1の変位効率を高める観点から、ヤング率Y41b、Y42b及びY43bは、上記(2b-1)を満たした上で、さらに、以下の(2b-2)~(2b-5)の関係のいずれかを満たすことが好ましく、2以上を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0160】
(2b-2)10GPa≦Y41b
(2b-3)1.05≦Y42b/Y41b≦4.0
(2b-4)1.05≦Y43b/Y42b≦4.0
(2b-5)1.05≦Y44b/Y43b≦4.0
【0161】
なお、上記(2b-2)~(2b-4)に示す条件は、上記(1b-2)~(1b-4)に示す条件と同じである。すなわち、振動板が4層で構成される場合、1~3層までのヤング率の関係は、振動板が3層で構成される場合の1~3層までのヤング率の関係と同様にすることができる。
【0162】
(2b-2)において、第1層41bを構成する導電材料のヤング率Y41bが10GPa以上、好ましくは60GPa以上であることで、振動板4D全体のヤング率を高めることができ、振動板を駆動させる目的で、高い共振周波数を得ることができる点で好ましい。ヤング率Y41bは、100GPa以上がより好ましい。ヤング率Y41bの上限は、上記(2b-1)を満たす観点から、300GPa程度が好ましい。
【0163】
(2b-3)、(2b-4)及び(2b-5)は、第1層41b、第2層42b、第3層43b及び第4層44bの順に、振動板4Dを構成する層が圧電体層1から遠ざかるにしたがって、各層を構成する材料のヤング率がどの程度高くなるかを示す指標である。
【0164】
(2b-3)は、第1層41bのヤング率Y41bに対する第2層42bのヤング率Y42bの比の値「Y42b/Y41b」を規定するものである。Y42b/Y41bが上記範囲にあることで、第1層41bと第2層42bとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(2b-1)の関係も満足でき好ましい。Y42b/Y41bは、1.05~1.5の範囲内にあることがより好ましい。
【0165】
(2b-4)は、第2層42bのヤング率Y42bに対する第3層43bのヤング率Y43bの比の値「Y43b/Y42b」を規定するものである。Y43b/Y42bが上記範囲にあることで第2層42bと第3層43bとの間でヤング率は十分に増大し、かつ、(2b-1)の関係も満足でき好ましい。Y43b/Y42bは、1.05~1.8の範囲内にあることがより好ましい。
【0166】
(2b-5)は、第3層43bのヤング率Y43bに対する第4層44bのヤング率Y44bの比の値「Y44b/Y43b」を規定するものである。Y44b/Y43bが上記の下限値以上であることで第3層43bと第4層44bとの間でヤング率は十分に増大し好ましい。Y44b/Y43bが上記の上限値以下であることで、総膜厚の好ましい範囲、例えば2.0~12μmの範囲を満たしつつ、応力調整などの目的で積層数を増やす余地ができる点で好ましい。Y44b/Y43bは、1.05~1.8の範囲内にあることがより好ましい。
【0167】
また、Y42b/Y41bとY43b/Y42bの関係、及びY43b/Y42bとY44b/Y43bの関係は、(2b-6)Y42b/Y41b:Y43b/Y42bとして1:1~1:1.2及びY43b/Y42b:Y44b/Y43bとして1:1~1:1.5の範囲にあることが好ましい。Y42b/Y41b:Y43b/Y42b及びY43b/Y42b:Y44b/Y43bが当該範囲にあることで、第1層から第4層に向かってヤング率は均等に近いかたちで増加する。
【0168】
上記(2b-1)を必須の要件として、(2b-2)~(2b-5)、さらに(2b-6)を勘案すると、具体的には、第1層41bのヤング率Y41bは、60~300GPaの範囲にあり、第2層42bのヤング率Y42bは、63~450GPaの範囲にあり、第3層43bのヤング率Y43bは、66~810GPaの範囲にあり、第4層44bのヤング率Y44bは、69~900GPaの範囲にあることが好ましい
【0169】
第1層41bのヤング率Y41bは、100~300GPaの範囲にあり、第2層42bのヤング率Y42bは、105~450GPaの範囲にあり、第3層43bのヤング率Y43bは、110~810GPaの範囲にあり、第4層44bのヤング率Y44bは、116~900GPaの範囲にあることがより好ましい。
【0170】
振動板4Dにおける第1層41b、第2層42b、第3層43b及び第4層44bの厚さをそれぞれT41b、T42b、T43b及びT44bで示す。アクチュエータ12Bをインクジェットヘッドに用いた場合を例にすると、変位効率を高めるために、例えば、T41b、T42b、T43b及びT44bはそれぞれ0.5~5.3μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、0.5~4.7μmの範囲内である。また、振動板4Dの全体の厚さ、すなわち、T41b+T42b+T43b+T44bは、2.0~12μmの範囲内にあることが、変位効率を高めながら薄型化を達成する観点から好ましい。
【0171】
振動板4Dの各層を構成する材料としては、第1層41bについては導電材料であって、それ以外の層を構成する材料との関係が(2b-1)の関係を満足する限り、特に制限されない。
【0172】
振動板4Dの第1層41bを構成する材料としては、振動板4Aを構成する材料として例示した材料のうち、導電性を有する材料が挙げられる。導電材料として具体的には、上記第1又は第2の電極を構成する材料として例示した導電材料の使用が可能である。振動板4Dの第2層42b、第3層43b及び第4層44bを構成する材料として、具体的には、振動板4Aを構成する材料として例示した材料のうち、(2b-1)の関係を満足する材料の使用が可能である。
【0173】
振動板4Dの各層を構成する材料は、さらに好ましくは、上記(2b-2)~(2b-5)、さらに(2b-6)を満たすように選択される。各層の形成方法は、構成材料に応じて、CVD法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、及び、ゾルゲル法などの液相での成長法等から適宜選択可能である。樹脂層の場合、例えば、スピンコート法、ディップ法、電着法等で形成可能である。
【0174】
振動板4Dの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、第1層41bを構成する導電材料は、上記の(A)の特性を有することが好ましい。また、振動板4Dの各層を構成する材料のヤング率以外の特性として、圧電体層1から最も遠い層、すなわち、第4層44bを構成する材料は、主としてクロム又はニッケルであることが好ましい。
【0175】
振動板4Dの各層の構成の組み合わせとして、具体的には、以下の表Vに示す組み合わせが挙げられる。これら各材料は、組成や製造の方法によりヤング率は調整可能であるほか、各層に求められるヤング率の値は相対関係で規定される。従ってこの例示は、各層において用いられる材料を網羅・限定するものではない。表中、DLCはダイヤモンドライクカーボンを示す。また、振動板の導体層は電極として機能するために、絶縁層が必要となるため、上記組み合わせにおいて第2層、第3層の少なくとも1層は、非導電性材料を選択する必要がある
【0176】
【0177】
以上、第2の態様のアクチュエータについて、振動板が3層又は4層からなる場合を例にして説明した。振動板が5層以上の層からなる場合については、上に示した振動板全体としてのヤング率の好ましい範囲、概ね80~700GPa、また、表IV及び表Vから算出した振動板全体のヤング率の範囲127~640GPaを勘案し、かつ、圧電体層に最も近い層から最も遠い層へのヤング率の増加のバランス、例えば、均等に近いかたちで増加させる等を考慮して、各層のヤング率を適宜選択すればよい。また、振動板が5層以上の層からなる場合においても、圧電体層に最も近い層を構成する材料の好ましい特性は上記のとおりであり、圧電体層から最も遠い層を構成する材料の好ましい特性は上記のとおりである。
【0178】
なお、第2の態様のアクチュエーの振動板を構成する各層は、層内でヤング率を圧電体層1に近い側の主面から遠い側の主面に向かって漸増するように変化させる構成であってもよい。その場合、例えば、振動板4Cを例にすると、第1層の圧電体層1に遠い側のヤング率は、第2層の圧電体層1に近い側のヤング率より小さく、第2層の圧電体層1に遠い側のヤング率は、第3層の圧電体層1に近い側のヤング率より小さく構成される。
【0179】
また、本発明のアクチュエータを、例えば、インクジェットヘッドに使用する場合、振動板における各層の少なくとも1つを室温で応力に対して脆性破壊を示す脆性材料によって構成することが好ましい。それにより、圧電体層1の機械的な変位エネルギーから大きな発生圧力を得ることが可能となる。脆性材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の酸化物や窒化シリコン等の窒化物からなる無機セラミックス材料や鋳鉄、タングステン等が挙げられる。
【0180】
このような脆性材料からなる層を、上記第1の態様のアクチュエータ及び第2の態様のアクチュエータにおける振動板に、上記必須条件に適合するように、さらに必要に応じて任意の条件に適合するように組み入れることで、振動板を製造する際のプロセスの好適化とインク吐出の好適化が可能となる。
【0181】
本発明の第1の態様のアクチュエータは、例えば、以下の(1)~(6)の工程を有する方法で製造できる。
【0182】
(1)基板上に、第1の電極を形成する工程
ここで用いる基板は以下の(6)の工程で除去される。基板上への第1の電極の形成には、スパッタリング成膜等の気相成長法が利用可能である。
(2)第1の電極上に圧電体層を形成する工程
圧電体層の形成には、構成材料に応じて、スパッタリング成膜等の気相成長法、ゾルゲル法が利用可能である。
【0183】
(3)配線部絶縁パターン層を形成する工程
続き形成される第2の電極と、第1の電極は、それぞれ、圧電体を挟んで活性化させる部分の他に、駆動回路へ延伸される配線を設ける必要がある。この配線部も、圧電体層を挟みこんでそれぞれ圧電体層の第1の面、第2の面に形成されることから、圧力室に対向した圧電体活性部以外の領域においては、配線に挟み込まれることによる圧電体の活性を防ぎ、また予期せぬ短絡を防ぐために、十分な厚さを有した絶縁パターン層が所望領域に設けられていることが好ましい。
【0184】
この配線部絶縁パターン層は、例えば、感光性ポリイミド樹脂をはじめとする絶縁樹脂の塗布後、硬化前にパターン露光させ、選択的に硬化させることで得ることができる。なお、このような配線部絶縁パターン層を形成する工程にかわり、所望の第1電極との圧電体層との重なりを避けるべく第2電極に対して所望のパターニングを用いてもよい。以下は、配線部絶縁パターン層が設けられる場合にそって記述する。
【0185】
(4)圧電体層・配線部絶縁パターン層上に第2の電極を形成する工程
第2の電極の形成には、スパッタリング成膜等の気相成長法が利用可能である。
【0186】
(5)第2の電極上に振動板を形成する工程
振動板は互いに異なる材料から構成される3層以上からなる。振動板の各層は、第2の電極に近い側から遠ざかる方向に向かって順にヤング率が大きくなる積層順で形成される。振動板を構成する各層の形成は、当該層を構成する材料に応じて、電着法、スピンコート等の塗布成膜法、スパッタリング成膜等の気相成長法が利用可能である。
(6)基板を除去する工程
基材の除去には、ドライ・ウェットのエッチングが利用可能である。
【0187】
さらに、第1の電極上に絶縁保護層を有する場合、通常、以下の工程を得て、第1の態様のアクチュエータが得られる。
(7)第1の電極をパターニングする工程
第1の電極をパターニングするには、レジストパターニング後ドライエッチングする方法が利用可能である。
(8)圧電体層をパターニングする工程
(7)の後さらに、圧電体層をパターニングするには、レジストパターニング後ドライエッチングする方法が利用可能である。
【0188】
(9)パターニングされた第1の電極の表面に絶縁保護層を形成する工程
絶縁保護層の形成には、スピンコート等の塗布成膜、スパッタリング成膜等の気相成長法が利用可能である。絶縁保護層の形成領域は、第1の電極及び圧電体層のパターンに応じて、第1の電極表面のみでなく圧電体層の表面におよぶこともある。
【0189】
本発明の第2の態様のアクチュエータは、例えば、上記第1の態様のアクチュエータを製造する工程において、(4)の工程を省略し、(5)の振動板の形成を圧電体層・配線部絶縁パターン層上に行う以外は上記と同様の方法で製造できる。ただし、第2の態様のアクチュエータにおける振動板は、圧電体層に最も近い側が導体層で構成され、導体層を含めて3層以上で構成され、導体層から圧電体層に遠い側の層に向かって順にヤング率が高くなる構成である。
【0190】
[インクジェットヘッド]
本発明のインクジェットヘッドは、上記本発明のアクチュエータと、インクが充填され、前記アクチュエータが駆動されることにより前記インクの圧力が変化する圧力室と、前記アクチュエータが駆動されることにより前記圧力室に充填された前記インクを吐出するノズルと、を備える、ことを特徴とする。
【0191】
図6は本発明のインクジェットヘッドの実施形態の一例の上面図である。
図7は、
図6に示すインクジェットヘッドのY-Y線に沿った断面図である。
図8は
図6に示すインクジェットヘッドのY-Y線に沿った拡大断面図である。なお、本発明のインクジェットヘッドはこれらに限定されるものではない。これらの図で示した本発明のインクジェットヘッドは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0192】
図6~
図8に示すように、インクジェットヘッド100は、振動板4D上に、圧電体層1、第1の電極2及び絶縁保護層5のセットが複数配置されたアクチュエータ12Cと、平面視においてアクチュエータ12Cと同寸、同形の主面を有する本体基板51とノズル基板52を備える。
【0193】
本体基板51はインクを充填する圧力室70となる貫通部を有し、本体基板51の一方の主面にアクチュエータ12Cの振動板4D側が接合され、他方の主面にノズル基板52が接合されることでインクジェットヘッド100が構成されている。圧力室70は、本体基板51が有する貫通部の壁面S3とアクチュエータ12Cの振動板4Dの主面S4とノズル基板52の本体基板51に接合された側の主面S5とで形成される空間である。
【0194】
インクジェットヘッド100では、本体基板51の主面は矩形であり、圧力室70は、上面から見て(
図6を参照)略円形である。圧力室70は、本体基板51の長辺に平行する2本の直線上に複数個(
図6では各7個)が略等間隔に配置されている。
【0195】
アクチュエータ12Cにおいて、圧電体層1は振動板4D上に、平面視で圧力室70の外周から略等距離間隔小さい相似形状(略円形)により形成されている。複数の圧電体層1の第1の主面S1上には、第1の主面S1と同寸、同形の主面を有する第1の電極2及び絶縁保護層5がそれぞれ積層されている。アクチュエータ12Cは本発明の第2の態様のアクチュエータに相当し、アクチュエータ12Cが有する圧電体層1、第1の電極2、絶縁保護層5及び振動板4Dは、アクチュエータ12Bが有する圧電体層1、第1の電極2、絶縁保護層5及び振動板4Dとそれぞれ同様の構成とすることができる。
【0196】
ノズル基板52は、各圧力室70に対応して、圧力室70を臨む主面S5から主面S5の反対側の主面S6に貫通するノズル60を有する。
【0197】
インクジェットヘッド100の圧力室70にはインクが充填されている。印刷時には、アクチュエータ12Cに電圧が印加され振動板4Dがノズル基板52方向に曲率を有するように変位する。これにより圧力室70内のインクは、圧力が高められ、ノズル60から吐出される。
【0198】
本発明のインクジェットヘッドにおいては、本発明のアクチュエータが高い変位効率を有することから、インクの吐出を効率よく行うことができる。
【0199】
本発明のインクジェットヘッドは、例えば、以下の(11)及び(12)の工程を有する方法で製造できる。
【0200】
(11)アクチュエータに圧力室を形成する工程
圧力室をアクチュエータに積層形成する手段は、パターニングされた圧力室用の本体基板(板状圧力室部材)をアクチュエータの振動板面にアライメントし、接合・接着するなどの方法が可能である。
【0201】
この他に、後述する実施例のように、振動板の圧力室に接する最表層を、圧力室用の本体基板を形成する素材の主成分と同一の組成からなる金属で形成する場合には、圧力室用の本体基板(板状圧力室部材)を、アクチュエータの振動板側の面において直接メッキさせて(電鋳)得ることができる。具体的には、振動板の最表層の金属層をメッキのシード層とし、表面に圧力室パターンのネガパターンをフォトレジストにて形成したうえで電気メッキを実施し、レジストを除去することで、圧力室の壁面に相当する構造(圧力室用の本体基板)を、アクチュエータに直接加工することができる。このようにして形成された圧力室は寸法精度や硬度において好ましい。
【0202】
(12)ノズルを有するノズル基板を、アクチュエータを備えた圧力室用の本体基板に合一させる工程
ノズル基板を、アクチュエータを備えた圧力室用の本体基板に接合・接着する。必要に応じて、ノズル基板のノズルに連通する流路を備えた流路基板を圧力室用の本体基板とノズル基板の間に設けてもよい。その場合、ノズル基板と流路基板を相互に接合・接着し、さらにアクチュエータを備えた圧力室用の本体基板に接合・接着する。
【実施例】
【0203】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0204】
[実施例1]
表VIに示す構成の第1の態様のアクチュエータIを以下の方法により作製した。なお、表VIは圧力室に対応する、圧電体層の活性部について示している。以下、表VII~表XI及び表XIIIについても同様である。いずれの場合も、圧電層の非活性部(圧力室の隔壁に対応する)においては、異なる要素が積層されている場合がある。
【0205】
アクチュエータIは、
図1に示すアクチュエータ11Aにおいて第1の電極2上に絶縁保護層を有する積層構成である。ただし、
図1においては、配線部絶縁パターン層の図示は省略されている。
【0206】
第1の電極は、Ptターゲットを用い、基板を600℃に加熱しながら1Paのアルゴンガス中において200Wの高周波電力で12分間形成することにより得た。
【0207】
圧電体層は、多元スパッタ装置を用いて作製した。ターゲットには、化学量論組成よりPb量の多いPZT(Zr/Ti=53/47、Pbが20モル%過剰)の焼結体ターゲットを用いた。真空中であらかじめヒーターにより基板加熱を行い、基板温度580℃で、アルゴンと酸素との混合雰囲気中(ガス体積比Ar:O2=15:5)において、真空度0.3Pa、高周波電力250Wの条件で180分間形成することにより圧電体層を得た。
【0208】
次いで、圧電体層の非活性部において第1の電極と第2の電極を絶縁する配線部絶縁パターン層を、感光性ポリイミド樹脂(パイメル(製品名、旭化成社製)をスピンコート法で塗布し、フォトレジストで選択的硬化パターニングを施すことで、圧力室に対応する圧電体層の活性部以外の領域に設けた。
【0209】
第2の電極は、Auターゲットを用いて、室温において1Paのアルゴンガス中、100Wの高周波電力で10分間形成することにより得た。
【0210】
振動板における、第1層を、窒化ケイ素(以下、「SiN」で示す。)ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、窒化アルミニウム(以下、「AlN」で示す。)ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で55分間形成することにより得た。振動板における、第3層を、窒化チタン(以下、「TiN」で示す。)ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。
【0211】
絶縁保護層を、感光性ポリイミド樹脂(パイメル(製品名、旭化成社製)、表中、「PI」と記載した。)を用いて、スピンコート法及び紫外線照射により得た。
【0212】
【0213】
[実施例2]
表VIIに示す構成の第1の態様のアクチュエータIIを以下の方法により作製した。アクチュエータIIは、
図2に示すアクチュエータ11Bにおいて振動板の積層数を5層とした以外、アクチュエータ11Bと同様の積層構成である。ただし、
図2においては、配線部絶縁パターン層の図示は省略されている。
【0214】
アクチュエータIIにおける第1の電極、圧電体層、配線部絶縁パターン層及び第2の電極は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0215】
振動板における、第1層を感光性ポリイミド樹脂(パイメル(製品名、旭化成社製)、表中、「PI」と記載した。)を用いて、スピンコート法及び紫外線照射により得た。振動板における、第2層を、SiO2ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。
【0216】
振動板における、第3層を、ZrO2ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で80分間形成することにより得た。振動板における、第4層を、MgOターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で100分間形成することにより得た。振動板における、第5層を、Al2O3ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で40分間形成することにより得た。
【0217】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0218】
【0219】
[実施例3]
表VIIIに示す構成の第2の態様のアクチュエータIIIを以下の方法により作製した。アクチュエータIIIは、
図5に示すアクチュエータ12Bと同様の積層構成である。ただし、
図5においては、配線部絶縁パターン層の図示は省略されている。
【0220】
アクチュエータIIIにおける第1の電極、圧電体層及び配線部絶縁パターン層は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0221】
振動板における、第1層を、Cuターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で50分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、Crターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で55分間形成することにより得た。
【0222】
振動板における、第3層を、AlNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で40分間形成することにより得た。振動板における、第4層を、Al2O3ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で100分間形成することにより得た。
【0223】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0224】
【0225】
[実施例4]
表IXに示す構成の第2の態様のアクチュエータIVを以下の方法により作製した。アクチュエータIVは、
図5に示すアクチュエータ12Bと同様の積層構成である。ただし、
図5においては、配線部絶縁パターン層の図示は省略されている。
【0226】
アクチュエータIVにおける第1の電極、圧電体層及び配線部絶縁パターン層は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0227】
振動板における、第1層を、Pdターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で30分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、Crターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で50分間形成することにより得た。
【0228】
振動板における、第3層を、AlNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で55分間形成することにより得た。振動板における、第4層を、Al2O3ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で100分間形成することにより得た。
【0229】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0230】
【0231】
[比較例1]
表Xに示す構成の比較例のアクチュエータCf-Iを以下の方法により作製した。アクチュエータCf-Iにおける第1の電極、圧電体層、配線部絶縁パターン層及び第2の電極は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0232】
振動板における、第1層を、TiNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、AlNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で55分間形成することにより得た。振動板における、第3層を、SiNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。
【0233】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0234】
【0235】
[比較例2]
表XIに示す構成の比較例のアクチュエータCf-IIを以下の方法により作製した。アクチュエータCf-IIにおける第1の電極、圧電体層、配線部絶縁パターン層及び第2の電極は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0236】
振動板における、第1層を、Al2O3ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で42分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、SiO2ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で90分間形成することにより得た。振動板における、第3層を、ZrO2ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で80分間形成することにより得た。振動板における、第4層を、MgOターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で105分間形成することにより得た。
【0237】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0238】
【0239】
[変位量の評価(1)]
上記で作製した実施例及び比較例のアクチュエータは、上記アクチュエータをインクジェットヘッドに組み込んで使用する際の同一の想定駆動周波数と、インクを充填した際のアクチュエータ振動板の固有振動数が一致するように設計されている。変位量の評価は、アクチュエータ単体に、ヘッド駆動周波数をインクが充填されていない系に補正した補正共振周波数からなる駆動電圧を印加し、その際のアクチュエータの微小な変位量[nm]をレーザードップラー振動計で直接に測定することで比較した。
【0240】
具体的には、全アクチュエータの変位量[nm]の平均(水準間平均)に対する各アクチュエータの変位量の増大%を以下の式(I)で求め、以下の評価基準で評価した。結果を表XIIに示す。
式(I) (変位量-変位量の平均)/変位量の平均×100
【0241】
(評価基準)
◎:5%以上
〇:0%以上5%未満
×:0%未満(マイナス)
【0242】
【0243】
表XIIから分かるように、本発明の実施例はいずれも同じ駆動周波数条件において、比較例に対し優れた変位特性を示した。
【0244】
[実施例5]
さらに、実施例で示したアクチュエータIVを例にとり、本発明のアクチュエータにおいて、振動板の第1層に白金族金属を用いた構成が圧電体の劣化を低減させることを以下のとおり評価した。
【0245】
アクチュエータIVと比較するためアクチュエータIVにおいて、振動板の第1層の構成材料をPdからTiに変更したアクチュエータVを以下のように作製した。さらに、この構成の相違がアクチュエータの還元性劣化に与える影響を評価した。
【0246】
なお、PdとTiは、ヤング率が比較的近く(Pd:121GPa、Ti:116GPa)、電気抵抗率も同程度(バルクの抵抗率はどちらも100nΩ・mのオーダーであり、Pd:105nΩ・m、Ti:420nΩ・m)であることから、第2の態様のアクチュエータにおける1層目を導体とした振動板の構成材料としては、基本機能においてほぼ等価な材料であるが、白金族金属に類されるパラジウムと、チタン族に類されるチタンでは標準電極電位に相違がある(Pd:+0.987V、Ti:-1.630V)。
【0247】
具体的には、表XIIIに示す構成の第2の態様のアクチュエータVを以下の方法により作製した。アクチュエータVは、
図5に示すアクチュエータ12Bと同様の積層構成である。ただし、
図5においては、配線部絶縁パターン層の図示は省略されている。
【0248】
アクチュエータVにおける第1の電極、圧電体層及び配線部絶縁パターン層は、アクチュエータIと同様に作製した。
【0249】
振動板における、第1層を、Tiターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、200Wの高周波電力で30分間形成することにより得た。振動板における、第2層を、Crターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で50分間形成することにより得た。振動板における、第3層を、AlNターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で55分間形成することにより得た。振動板における、第4層を、Al2O3ターゲットを用いて、室温において0.5Paのアルゴンガス中、250Wの高周波電力で100分間形成することにより得た。
【0250】
基板をプラズマエッチング法により除去し、絶縁保護層を、アクチュエータIと同様に作製した。
【0251】
【0252】
[変位量の評価(2)]
アクチュエータIV及びアクチュエータVに所定の電圧を印加した際の変位量を、上記変位量の評価(1)の方法と同様のレーザードップラー振動計による直接測定で評価した。結果を、表XIVに示す。第2の態様のアクチュエータにおける振動板の構成材料としてほぼ等価な材料であり、アクチュエータIV及びアクチュエータVはともに、振動板を構成する全層のヤング率が好ましい範囲で形成されていることから、ともに良好な変位を示した。
【0253】
【0254】
[耐熱性の評価]
アクチュエータIV、及び振動板の第1層をTiに置き換えたアクチュエータVを、それぞれ60℃の条件下に留置し、パルス電圧(15V印加、デューティ比0.2、周波数100kHz)を連続印加し、耐久性試験を行った。
【0255】
耐久性の評価は、一定時間ののちにアクチュエータを取り出し、アクチュエータをコンデンサとみなした場合の静電容量を、LCR測定によって比較した。結果を表XVに示す。
【0256】
10時間を超える時系列データのすべてにおいて、振動板と圧電体層の境界に位置する振動板第1層に、白金族金属であるPdが用いられているアクチュエータIVの静電容量の低下率は、振動板と圧電体層の境界に位置する振動板第1層に、チタン族であるTiが用いられているアクチュエータVの低下率を下回っていた。
【0257】
静電容量の低下は、電極に挟まれた誘電体である圧電体の誘電率が見かけのうえで低下したことを示すことから、耐久性試験を通してより静電容量が低下したアクチュエータVでは、圧電体の電極に近接した領域において、圧電体から振動板第1層のTi層に酸素が引き抜かれ、わずかながら導電性が高まった領域が形成された結果とみられる。
【0258】
しかしながら、アクチュエータIVは振動板と圧電体層の境界に位置する振動板第1層に、白金族金属であるPdが用いられていることから、圧電体と振動板との界面・層間における酸素の拡散が抑えられ、圧電体層の還元性劣化を抑制することができており、リーク電流のおそれをはじめとするアクチュエータとしての信頼性が高まることから、第2の態様のアクチュエータにおいて、振動板の第1層が白金族金属を含む場合、圧電体の還元性劣化を防ぐことができるという点でより好ましいことが確認された。
【0259】
【符号の説明】
【0260】
11A、11B 第1の態様のアクチュエータ
12A、12B、12C 第2の態様のアクチュエータ
1 圧電体層
2 第1の電極
3 第2の電極
4A、4B、4C、4D 振動板
41a、41b 第1層
42a、42b 第2層
43a、43b 第3層
44a、44b 第4層
5 絶縁保護層
6 基板
7 貫通部
8 駆動回路
100 インクジェットヘッド
70 圧力室
51 本体基板
52 ノズル基板
60 ノズル