IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特許7585691インクジェットインクセット及び記録方法
<>
  • 特許-インクジェットインクセット及び記録方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】インクジェットインクセット及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20241112BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241112BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241112BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241112BHJP
   D06P 1/44 20060101ALN20241112BHJP
   D06P 5/30 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 114
B41M5/00 120
C09D11/54
D06P1/44 E
D06P1/44 H
D06P5/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020165274
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057162
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】北田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健
(72)【発明者】
【氏名】内藤 信一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】保刈 宏文
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-285348(JP,A)
【文献】特開2020-002266(JP,A)
【文献】特開2018-003184(JP,A)
【文献】特開2000-007964(JP,A)
【文献】特開2002-347338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0077385(US,A1)
【文献】特開平11-343440(JP,A)
【文献】特開平11-342635(JP,A)
【文献】特開2006-205707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/54
D06P 1/44
D06P 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットインクセットであって、
アニオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するアニオンインクと、
カチオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するカチオンインクと、を有し、
前記アニオンインク及び、前記カチオンインクは、互いに同系色であり、
前記アニオンインク中の前記顔料は、前記アニオン系樹脂により被覆されており、
前記カチオンインク中の前記顔料は、前記カチオン系樹脂により被覆されており、
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂は、少なくともいずれか一方がウレタン
系骨格又はポリエステル系骨格を有
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂が、ブロックイソシアネート基を有する
インクジェットインクセット。
【請求項2】
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂が、前記ウレタン系骨格を有する、請求
項1に記載のインクジェットインクセット。
【請求項3】
前記ウレタン系骨格が、ポリカーボネート、ポリエーテル及び、ポリエステルから選択
される1種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載のインクジェットインクセッ
ト。
【請求項4】
請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載のインクジェットインクセットを用いる
記録方法であって、
前記アニオンインクを、インクジェットヘッドから吐出させて被記録媒体に付着させる
アニオンインク付着工程と、
前記カチオンインクを、前記インクジェットヘッドから吐出させて前記被記録媒体に付
着させるカチオンインク付着工程と、を有し、
前記アニオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域と、前記カチオンインクが
付着された前記被記録媒体上での領域とが、一部もしくは全部において重なる、記録方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクセット及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクジェットヘッドのノズルから微小なインク滴を吐出させて、被記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録方法が知られており、インクジェット記録装置のみならず、用いるインク組成物に対する研究も盛んである。近年では、インクジェット記録方法を用いて、布帛等を染色(捺染)することも行われている。従来、布帛(織布や不織布)に対する捺染方法としては、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性ならびに即時プリント性等の観点から、インクジェット記録方法を適用することが有利であるため種々検討されている。
【0003】
このようなインクジェット記録方法を用いて捺染する方法においては、捺染物の良好な発色性を得るために、被記録媒体をカチオン性化合物等で処理(前処理)することが行われている。被記録媒体に前処理を行うことで、アニオン分散顔料等を含むインク組成物が被記録媒体に付着したとき、インク組成物を凝集させることができる。そうすると、インク組成物が被記録媒体の表面近傍に留まりやすくなるため、良好な発色性が得られる。
【0004】
例えば特許文献1には、カチオン性有機化合物を含有する前処理液により処理された布帛に対して、顔料捺染インク組成物を付着させ捺染するインクジェット捺染方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-003184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるインクジェット捺染方法では、捺染物の良好な発色性を得るために被記録媒体が前処理されることが不可欠であり、発色性向上のための前処理の工程を経らなければならないことはインクジェット捺染方法を煩雑なものとしていた。そこで、インク組成物の凝集が被記録媒体の表面電荷状態に依存されず、発色性向上を目的とした前処理を行わないで、捺染物の良好な発色性及び優れた摩擦堅牢性(耐擦性)が得られるようにできることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェットインクセットの一態様は、
インクジェットインクセットであって、
アニオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するアニオンインクと、
カチオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するカチオンインクと、を有し、
前記アニオンインク及び、前記カチオンインクは、互いに同系色であり、
前記アニオンインク中の前記顔料は、前記アニオン系樹脂により被覆されており、
前記カチオンインク中の前記顔料は、前記カチオン系樹脂により被覆されており、
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂は、少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。
【0008】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上記態様のインクジェットインクセットを用いる記録方法であって、
前記アニオンインクを、インクジェットヘッドから吐出させて被記録媒体に付着させるアニオンインク付着工程と、
前記カチオンインクを、前記インクジェットヘッドから吐出させて前記被記録媒体に付着させるカチオンインク付着工程と、を有し、
前記アニオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域と、前記カチオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域とが、一部もしくは全部において重なる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る記録方法に用いられるインクジェット記録装置の概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0011】
1.インクジェットインクセット
本発明の一実施形態に係るインクジェットインクセットは、インクジェットインクセットであって、アニオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するアニオンインクと、カチオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するカチオンインクと、を有し、前記アニオンインク及び、前記カチオンインクは、互いに同系色であり、前記アニオンインク中の前記顔料は、前記アニオン系樹脂により被覆されており、前記カチオンインク中の前記顔料は、前記カチオン系樹脂により被覆されており、前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂は、少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。
【0012】
本実施形態に係るインクジェットインクセットによれば、アニオン系樹脂により被覆された顔料を含むアニオンインクと、カチオン系樹脂により被覆された顔料を含むカチオンインクと、を有することにより、これら2種のインクを混合することでインク組成物を凝集させることができる。すなわち、カチオン性化合物等で処理された被記録媒体にインク組成物が付着することで凝集が起こる機構とは異なり、アニオンインクとカチオンインクとの混合によりインク組成物の凝集を可能としている。これにより、被記録媒体の前処理の有無にかかわらずインク組成物を凝集させることができ、良好な発色性を得ることができる。さらに、アニオンインクとカチオンインクとは互いに同系色であることにより、凝集可能となる色の領域を広げることができる。すなわち、異なる2色を混ぜたときのみ凝集が起こるような構成では実現できなかった、混合させる前のそれぞれの色においても凝集させ良好な発色性を得ることが可能である。
【0013】
また、インク組成物が凝集すると被記録媒体の表面近傍に留まるため摩擦堅牢性に優れない傾向にあるが、アニオン系樹脂とカチオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有することで、摩擦堅牢性についても良好なものとすることができる。
【0014】
なお、本発明おいて「互いに同系色」とは、アニオンインクの色相角とカチオンインクの色相角の差が30度以内であることを意味する。この場合の「色相角」とは、Lab表色系の色度図において、赤方向を0度として、反時計方向すなわちプラス方向の角度のことをいう。Lab表色系の色度図によれば、0度から360度の範囲の色相角であらゆる色が規定される。本実施形態において、アニオンインク及びカチオンインクの色相角は、被記録媒体にそれぞれのインクで印刷を実施した結果に基づいて判定される。詳述すると、各インクを塗布密度が39mg/inchとなるように白色の綿ブロードに吐出し、その後、M&R社製のコンベア乾燥炉「Economax D」を用いて、160℃で5分間加熱乾燥処理を施し、25℃に戻して捺染物を得た。得られた捺染物について、測色機「Spectrolino」(グレタグ社)を用いて色相角を測定した。
【0015】
以下、本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインク及びカチオンインクに含まれる各成分について、アニオンインクとカチオンインクに分けて説明する。
【0016】
1.1.アニオンインク
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、アニオン系樹脂と、顔料と、水とを含有し、該アニオンインクは後述するカチオンインクと互いに同系色であり、該アニオンインク中の該顔料は該アニオン系樹脂により被覆されており、該アニオン系樹脂及び該カチオンインクに含有されるカチオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。
【0017】
1.1.1.顔料
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、顔料を含有する。本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0018】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等が挙げられる。
【0019】
ブラックインクに使用される顔料としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No.2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボット社製)が挙げられる。
【0020】
ホワイトインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0021】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、150、151、153、154、155、167、172、180、185が挙げられる。
【0022】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0023】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0024】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、36、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0025】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0026】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0027】
アニオンインクに含まれ得る顔料の含有量の下限値は、アニオンインクの全質量に対して、1.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。一方、アニオンインクに含まれ得る顔料の含有量の上限値は、アニオンインクの全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。顔料の含有量が前記範囲にあることにより、被記録媒体上に形成された画像は、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。
【0028】
1.1.2.アニオン系樹脂
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、アニオン系樹脂を含有し、該アニオン系樹脂、及び後述するカチオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。このような態様にすることで、摩擦堅牢性について良好なものとすることができる。なお、本発明において「ウレタン系骨格」とは、イソシアネート基が他の反応性の基、例えば、水酸基、アミノ基、ウレタン結合基、カルボキシ基等と反応して形成される、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合等を含む骨格であることを指す。また、本発明において「ポリエステル系骨格」とは、ジオール単位とジカルボン酸単位との重縮合反応により得られる構造体を含む骨格のうち、ウレタン系骨格以外の骨格を含むものを指す。なお、アニオン系樹脂、及び後述するカチオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格及びポリエステル系骨格を有するものであってもよい。
【0029】
アニオン系樹脂としては、アニオンインク中でアニオン性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂、ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂、スチレンアクリル系のアニオン系樹脂、ポリカルボン酸系のアニオン系樹脂、オレフィン系のアニオン系樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、これら樹脂のうち、摩擦堅牢性をより一層向上できる観点から、ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂であることが好ましい。
【0030】
1.1.2.1.ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂
ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとアニオン性基を付与するためのモノマーとを反応させて合成されるポリマーである。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の鎖状の脂肪族イソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の環状構造を有する脂肪族イソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートが挙げられる。ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂を合成する際には、上記のポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂としては、摩擦堅牢性をより一層向上できる観点から、ウレタン系骨格が、ポリカーボネート、ポリエーテル及び、ポリエステルから選択される一種以上を含有することが好ましい。したがって、ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオール等を挙げることができる。
【0033】
ポリカーボネートポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又は、ポリテトラメチレングリコール等のようなジオール類と、ホスゲン、ジメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、又は、エチレンカーボネート等の環式カーボネートとの反応生成物が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、或いは、エピクロロヒドリン等の環状エーテル化合物を、活性水素原子を有する化合物を触媒とする等して、単独または2種以上を混合して開環重合する等して得られる重合体が挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、及びセバチン酸などの二塩基酸もしくはそれらのジアルキルエステル又はそれらの混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類又はそれらの混合物と、を反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
アニオン性基を付与するためのモノマーとしては、例えば、カルボキシル基やスルホン基等を有するモノマーが挙げられる。このようなモノマーとしては、乳酸等のモノヒドロキシカルボン酸;α,α-ジメチロール酢酸、α,α-ジメチロールプロピオン酸、α,α-ジメチロール酪酸等のジヒドロキシカルボン酸、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノー2-トルエンスルホン酸等のジアミノスルホン酸などが挙げられる。
【0037】
1.1.2.2.ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂
ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂は、ポリオールとポリカルボン酸とを重縮合させて得られるポリマーである。
【0038】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂を合成する際には、上記のポリオールは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ポリカルボン酸として具体的には、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸等が挙げられる。ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂を合成する際には、上記のポリカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
1.1.2.3.ブロックイソシアネート基を有するアニオン系樹脂
また、本実施形態におけるアニオン系樹脂は、摩擦堅牢性をより一層向上できる観点から、ブロックイソシアネート基を有していてもよい。ブロックイソシアネート基とは、架橋性基であるイソシアネート基が、化学的に保護、つまり、キャッピングあるいはブロッキングされているものである。ブロックイソシアネート基は、熱が加えられることにより脱保護されて活性化し、結合、例えば、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合等を形成することになる。
【0041】
ブロックイソシアネート基を有するアニオン系樹脂は、上述したウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂においてブロックイソシアネート基を有するものであることが好ましい。このようなアニオン系樹脂は摩擦堅牢性がより良好となる傾向にある。また、ブロックイソシアネート基を有するアニオン樹脂のブロックイソシアネート基は、1分子に3つ以上設けられていることが好ましく、ブロックイソシアネート基が脱保護されて活性化し反応することにより、架橋構造が形成される。なお、上述したウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂においてブロックイソシアネート基を有するものは、ポリイソシアネートと、及び/又は、ブロックイソシアネートと、ポリオールと、アニオン性基を付与するためのモノマーとを反応させて合成すればよい。
【0042】
ブロックイソシアネート(化学的に保護されたイソシアネート)は、イソシアネート基がブロック剤によってブロックされた潜在イソシアネート基を含有し、例えば、ポリイソシアネート化合物と、ブロック剤とを反応させることにより得ることができる。
【0043】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体等が挙げられる。ポリイソシアネート単量体としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等のポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネート単量体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0044】
ポリイソシアネート誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート単量体の多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体)、5量体、7量体等)、アロファネート変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と、後述する低分子量ポリオールとの反応より生成するアロファネート変性体等)、ポリオール変性体(例えば、ポリイソシアネート単量体と後述する低分子量ポリオールとの反応より生成するポリオール変性体(アルコール付加体)等)、ビウレット変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と、水やアミン類との反応により生成するビウレット変性体等)、ウレア変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体とジアミンとの反応により生成するウレア変性体等)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオン等)、カルボジイミド変性体(上記したポリイソシアネート単量体の脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体等)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体等が挙げられる。
【0045】
なお、ポリイソシアネート化合物を2種類以上併用する場合には、例えば、ブロックイソシアネートの製造時において、2種類以上のポリイソシアネート化合物を同時に反応させてもよく、また、各ポリイソシアネート化合物を個別に用いて得られたブロックイソシアネートを混合してもよい。
【0046】
ブロック剤は、イソシアネート基をブロックして不活性化する一方、脱ブロック後にはイソシアネート基を再生又は活性化し、また、イソシアネート基をブロックした状態および脱ブロックされた状態において、イソシアネート基を活性化させる触媒作用も有する。
【0047】
ブロック剤としては、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、アルコール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキシム系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、酸アミド系(ラクタム系)化合物、酸イミド系化合物、トリアゾール系化合物、ピラゾール系化合物、メルカプタン系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。
【0048】
イミダゾール系化合物としては、例えば、イミダゾール(解離温度100℃)、ベンズイミダゾール(解離温度120℃)、2-メチルイミダゾール(解離温度70℃)、4-メチルイミダゾール(解離温度100℃)、2-エチルイミダゾール(解離温度70℃)、2-イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0049】
イミダゾリン系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾリン(解離温度110℃)、2-フェニルイミダゾリン等が挙げられる。
【0050】
ピリミジン系化合物としては、例えば、2-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン等が挙げられる。
【0051】
グアニジン系化合物としては、例えば、3,3-ジメチルグアニジン等の3,3-ジアルキルグアニジン、例えば、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(解離温度120℃)等の1,1,3,3-テトラアルキルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等が挙げられる。
【0052】
アルコール系化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、1-または2-オクタノール、シクロへキシルアルコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,2-トリクロロエタノール、2-(ヒドロキシメチル)フラン、2-メトキシエタノール、メトキシプロパノール、2-エトキシエタノール、n-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-エトキシエトキシエタノール、2-エトキシブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、2-ブトキシエチルエタノール、2-ブトキシエトキシエタノール、N,N-ジブチル-2-ヒドロキシアセトアミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-モルホリンエタノール、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール、3-オキサゾリジンエタノール、2-ヒドロキシメチルピリジン(解離温度140℃)、フルフリルアルコール、12-ヒドロキシステアリン酸、トリフェニルシラノール、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0053】
フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n-プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、s-ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、n-ヘキシルフェノール、2-エチルヘキシルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ノニルフェノール、ジ-n-プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ-n-ブチルフェノール、ジ-s-ブチルフェノール、ジ-t-ブチルフェノール、ジ-n-オクチルフェノール、ジ-2-エチルヘキシルフェノール、ジ-n-ノニルフェノール、ニトロフェノール、ブロモフェノール、クロロフェノール、フルオロフェノール、ジメチルフェノール、スチレン化フェノール、メチルサリチラート、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル、4-[(ジメチルアミノ)メチル]フェノール、4-[(ジメチルアミノ)メチル]ノニルフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸、2-ヒドロキシピリジン(解離温度80℃)、2-または8-ヒドロキシキノリン、2-クロロ-3-ピリジノール、ピリジン-2-チオール(解離温度70℃)等が挙げられる。
【0054】
活性メチレン系化合物としては、例えば、メルドラム酸、マロン酸ジアルキル(例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジn-ブチル、マロン酸ジ-t-ブチル、マロン酸ジ2-エチルヘキシル、マロン酸メチルn-ブチル、マロン酸エチルn-ブチル、マロン酸メチルs-ブチル、マロン酸エチルs-ブチル、マロン酸メチルt-ブチル、マロン酸エチルt-ブチル、メチルマロン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ジフェニル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸エチルフェニル、マロン酸t-ブチルフェニル、イソプロピリデンマロネート等)、アセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n-プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n-ブチル、アセト酢酸t-ブチル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸フェニル等)、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセチルアセトン、シアノ酢酸エチル等が挙げられる。
【0055】
アミン系化合物としては、例えば、ジブチルアミン、ジフェニルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、カルバゾール、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル)アミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン(解離温度130℃)、イソプロピルエチルアミン、2,2,4-、または、2,2,5-トリメチルヘキサメチレンアミン、N-イソプロピルシクロヘキシルアミン(解離温度140℃)、ジシクロヘキシルアミン(解離温度130℃)、ビス(3,5,5-トリメチルシクロヘキシル)アミン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン(解離温度130℃)、t-ブチルメチルアミン、t-ブチルエチルアミン(解離温度120℃)、t-ブチルプロピルアミン、t-ブチルブチルアミン、t-ブチルベンジルアミン(解離温度120℃)、t-ブチルフェニルアミン、2,2,6-トリメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(解離温度80℃)、(ジメチルアミノ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン、6-メチル-2-ピペリジン、6-アミノカプロン酸等が挙げられる。
【0056】
イミン系化合物としては、例えば、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、グアニジン等が挙げられる。
【0057】
オキシム系化合物としては、例えば、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム(解離温度130℃)、シクロヘキサノンオキシム、ジアセチルモノオキシム、ペンゾフェノオキシム、2,2,6,6-テトラメチルシクロヘキサノンオキシム、ジイソプロピルケトンオキシム、メチルt-ブチルケトンオキシム、ジイソブチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、メチルイソプロピルケトンオキシム、メチル2,4-ジメチルペンチルケトンオキシム、メチル3-エチルへプチルケトンオキシム、メチルイソアミルケトンオキシム、n-アミルケトンオキシム、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオンモノオキシム、4,4’-ジメトキシベンゾフェノンオキシム、2-ヘプタノンオキシム等が挙げられる。
【0058】
カルバミン酸系化合物としては、例えば、N-フェニルカルバミン酸フェニル等が挙げられる。
【0059】
尿素系化合物としては、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等が挙げられる。
【0060】
酸アミド系(ラクタム系)化合物としては、例えば、アセトアニリド、N-メチルアセトアミド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、ピロリドン、2,5-ピペラジンジオン、ラウロラクタム等が挙げられる。
【0061】
酸イミド系化合物としては、例えば、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、フタルイミド等が挙げられる。
【0062】
トリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0063】
ピラゾール系化合物としては、例えば、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール(解離温度120℃)、3,5-ジイソプロピルピラゾール、3,5-ジフェニルピラゾール、3,5-ジ-t-ブチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-フェニルピラゾール等が挙げられる。
【0064】
メルカプタン系化合物としては、例えば、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン等が挙げられる。
【0065】
重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0066】
さらに、ブロック剤としては、上記に限定されず、例えば、ベンゾオキサゾロン、無水イサト酸、テトラブチルホスホニウム・アセタート等のその他のブロック剤も挙げられる。
【0067】
なお、上記例示した幾つかの化合物については、イソシアネート基を再生させる温度として、解離温度を併記した。
【0068】
このようなブロック剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。ブロック剤の解離温度は、適宜選択することができる。解離温度としては、例えば、60℃以上230℃以下、好ましくは80℃以上200℃以下、より好ましくは100℃以上180℃以下、さらに好ましくは110℃以上160℃以下である。係る温度範囲であれば、アニオンインクのポットライフを十分長くすることができるとともに、加熱工程での温度を高くしすぎないようにすることができる。
【0069】
1.1.3.アニオン系樹脂被覆顔料
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクにおいて、上述の顔料は上述のアニオン系樹脂により被覆されている。なお、ここで、アニオン系樹脂による被覆は、顔料を水中に分散させることを目的としたものである。顔料を水中に分散させることができれば、アニオン系樹脂によって十分に被覆されているものとみなすことができる。
【0070】
アニオン系樹脂により被覆された顔料(以下、「アニオン系樹脂被覆顔料」ともいう。)の好ましい製造方法として、転相乳化法を挙げることができる。転相乳化法に適用されるアニオン系樹脂は、溶液重合により合成されていることが好ましい。また、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合によって合成されていることが好ましい。溶液重合によって得られたポリマー分散液は、そのまま顔料分散工程に用いることもできる。転相乳化法の一例としては、ポリマーと顔料と有機溶媒と当該有機溶媒に対して過剰量の水とを含む混合液を調製し、該混合液の水相に前記ポリマーの少なくとも一部が前記顔料を被覆した状態で分散させる顔料分散工程を備えることができる。なお、こうして得られた顔料分散液の前記水相に存在するポリマー及び顔料を前記水相の少なくとも一部とともにあるいは前記水相から分離した状態で用いてアニオンインクを調製することができる。転相乳化に際しては、有機溶媒を留去することができる。
【0071】
顔料分散工程は、例えば、次のように行うことができる。すなわち、顔料を有機溶媒中に分散させることにより顔料分散液(有機溶媒)を調製し、ポリマーを水に分散ないし溶解させたポリマー分散液を調製し、顔料分散液(有機溶媒)とポリマー分散液とを混合する。こうすることで、ポリマーが顔料表面近傍に偏在して顔料を被覆した状態を水相に形成(転相乳化)することができる。また、顔料とポリマーとを含む有機溶媒の分散液(適宜、中和剤、水および界面活性剤のいずれかあるいはこれらを組み合わせて含む)を調製し、これと多量の水(好ましくは有機溶媒よりも過剰の)とを混合することで、顔料とポリマーとを有機溶媒相から水相へと転移させ、これによりポリマーで顔料を被覆する(内包させる)状態を水相に形成することができる。
【0072】
顔料分散工程において、顔料を水相に分散させるには、顔料を有機溶媒と水との混合媒体で各種の分散手段を用いて攪拌等することにより行う。顔料の分散は、超音波の他に、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ハイスピードミキサー、サンドミル、ビーズミルあるいはロールミル等を適宜選択して用いることができる。上記転相乳化法における顔料分散工程は、ポリマーと顔料とが接触しポリマーが顔料表面に付着できるように、適当な剪断を与えながら混合撹拌する装置を用いて行うのが好ましい。
【0073】
なお、前記顔料分散液を調製する過程で用いられる有機溶媒は、特に限定されるものではないが、最終的な有機溶媒の留去の容易さを考慮すると低沸点の有機溶媒が好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶媒、酢酸エチル等のエステル系有機溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶媒、ベンゼン等の芳香族炭化水素系有機溶媒などを挙げることができる。
【0074】
なお、カルボキシル基等の酸性基を有するポリマーを水に溶解ないし分散させるには、各種の無機アルカリの他、各種の有機アミンを中和剤として用いることができるが、好ましくは無機アルカリを使用する。
【0075】
水相からポリマーと顔料と(ポリマー被覆顔料である)を分離するには、アニオン系樹脂により被覆された顔料が分散された水相を有する顔料分散液から有機溶媒を加熱等の方法により除去する他、遠心分離、水洗、限外ろ過、加圧ろ過等の方法を適宜選択して行うことができる。
【0076】
また、ウレタン系骨格を有するアニオン系樹脂被覆顔料を製造する方法としては、以下の工程による製造方法が好適に用いられる。
(i)ポリウレタンプレポリマー(T)を得る工程。
(ii)ポリウレタンプレポリマー(T)を有機溶剤(L)に溶解した液と顔料(P0)を混合、機械的解砕によって微細化し、有機溶媒系顔料スラリー(S)を得る工程。
(iii)中和剤(K)にて中和する工程。
(iv)得られた中和物を水に分散させて、鎖伸長剤(H)、反応停止剤(J)及び/若しくは水で反応させた後必要により有機溶剤(L)を除去する工程。
【0077】
<製造工程(i)>
ポリウレタンプレポリマー(T)は、ポリエステルポリオール(A1)及び/若しくはポリカーボネートポリオール(A2)及び/若しくはポリエーテルポリオール(A3)、脂肪族イソシアネート(B1)及び/若しくは環状構造を有する脂肪族イソシアネート(B2)、並びにカルボキシル基を有するモノマー(D)を、加熱可能な設備で加熱して反応することで得られる。例えば、容器中に(A1)及び/若しくは(A2)及び/若しくは(A3)、(B1)及び/若しくは(B2)、(D)を仕込んで均一撹拌後、加熱乾燥機や加熱炉で無撹拌下に加熱する方法や、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)、コルベン、一軸若しくは二軸の混練機、プラストミル又は万能混練機等で、攪拌又は混練しながら加熱して反応する方法等が挙げられる。なかでも、攪拌又は混練しながら加熱して反応する方法は、得られる(T)の均質性が高くなり、得られる皮膜の機械的物性、耐久性、耐薬品性及び耐磨耗性等がより優れる傾向があるため好ましい。
【0078】
ポリウレタンプレポリマー(T)を製造する際の反応温度は、(T)のアロハネート基及びビューレット基の含有量の観点から、60~120℃が好ましく、更に好ましくは60~110℃であり、最も好ましくは60~100℃である。また、(T)を製造する際の時間は、使用する設備により適宜選択することができるが、一般的に1分~100時間が好ましく、更に好ましくは3分~30時間であり、特に好ましくは5分~20時間である。この範囲であれば、本発明の効果を十分に発揮できる(T)が得られる。
【0079】
ポリウレタンプレポリマー(T)は有機溶剤(L)を用いて希釈することができる。有機溶剤(L)としては、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル及びγ-ブチロラクトン等)、エーテル系溶剤(THF等)、アミド系溶剤[N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びN-メチルカプロラクタム等]、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等)及び芳香族炭化水素系溶剤(トルエン及びキシレン等)等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの内、ポリウレタンプレポリマー(T)の溶解性の観点から好ましいのはアミド系溶剤である。
【0080】
有機溶剤(L)はウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、乳化前のいずれの時期に添加しても良いが、反応系の均一性の観点からウレタン化反応前に使用するのが好ましい。
【0081】
ウレタン化反応速度をコントロールするために、公知の反応触媒(オクチル酸錫及びビスマスオクチル酸塩等)及び反応遅延剤(リン酸等)等を使用することができる。これらの触媒又は反応遅延剤の添加量は、(T)の重量に基づき、好ましくは0.001~3重量%、更に好ましくは0.005~2重量%、特に好ましくは0.01~1重量%である。
【0082】
<製造工程(ii)>
ポリウレタンプレポリマー(T)と顔料(P0)を混合する装置としては、(T)の合成に用いられた装置をそのまま使用することができる。顔料(P0)を機械的解砕によって微細化する際に用いる分散機としては、例えば、ペイントシェーカーや、ボールミル、サンドミル、ナノミルを列挙することができる。具体的には、SCミル(日本コークス工業製)、TSU-6U(アイメックス製)、ラボスターミニHFM02(アシザワファインテック社製)などである。
【0083】
<製造工程(iii)>
必要により該ポリウレタンプレポリマー(T)に導入されたカルボキシル基部分を中和剤(K)にて中和する。中和剤(K)は、ウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、乳化前、乳化中又は乳化水性媒体分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ウレタン樹脂の安定性及びインク用複合粒子分散体の安定性の観点から、乳化前又は乳化中に添加することが好ましい。
【0084】
(K)に用いられる中和剤は、ウレタン化反応前、ウレタン化反応中、ウレタン化反応後、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加しても良いが、ウレタン樹脂の安定性及び水性分散体の安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。また、脱溶剤時に揮発した中和剤を脱溶剤後に追添加しても良く、追添加する中和剤種は上記記載のものから自由に選択することができる。
【0085】
(K)の使用量は、アニオン系樹脂被覆顔料水分散体の安定性の観点から、ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づくカルボキシル基を有するモノマーの含有量が23~80mg/gとなるよう調節する。中和工程におけるカルボキシル基の中和率は、分散安定性の観点から好ましくは20~100%、さらに好ましくは60~100%である。
【0086】
<製造工程(iv)>
工程(iii)で得られた中和物を乳化する方法としては、例えば必要により有機溶剤(L)、分散剤(e)、鎖伸長剤(H)及び反応停止剤(J)の存在下で水性媒体に分散して、イソシアネート基が実質的に無くなるまで反応[水、(H)による鎖伸長、及び必要により(J)による反応停止]させ、必要により用いた有機溶剤(L)を留去する方法が挙げられる。
【0087】
本発明における水性媒体とは、水及び水と前記有機溶剤(L)との混合物を意味する。水性媒体に使用される有機溶剤は、分散性の観点から水溶性の有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤(L)を使用した場合には、アニオン系樹脂被覆顔料水性分散体の製造中及び/又は製造後に必要によりこれを留去してもよい。
【0088】
分散剤(e)としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びその他の乳化分散剤が挙げられる。(e)は単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0089】
スラリー(S)を攪拌しながら、水を添加し、アニオン系樹脂被覆顔料(P)を分散する装置の方式は特に限定されず、例えば、(1)錨型撹拌方式、(2)回転子-固定子式方式[例えばホモミキサー(アズワン製)]、(3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、(4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、(5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、(6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、(7)高圧衝撃式[例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社製)]、(8)膜乳化式[例えば膜乳化モジュール]、及び(9)遠心薄膜接触式[例えば「フィルミックス」(プライミックス社製)]等の乳化機が挙げられる。これらの内、好ましいのは、(2)である。
【0090】
1.1.4.水
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、水を主溶媒として含有する。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0091】
水の含有量は、特に限定されるものではないが、アニオンインクの総質量に対して30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。
【0092】
1.1.5.その他の成分
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、上記の成分以外の成分を含有していてもよい。そのような成分の例を以下に示す。
【0093】
<湿潤剤>
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止する目的で、湿潤効果のある有機溶剤を含有することが好ましい。
【0094】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、数平均分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、並びにグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、およびマルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、および尿素類等のいわゆる固体湿潤剤、並びにエタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、およびイソプロパノール等の炭素数1~4のアルキルアルコール類、並びに2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、およびスルホラン等が挙げられる。
【0095】
湿潤剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
湿潤剤の含有量は、アニオンインクの総質量に対して、好ましくは2.0質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以上15.0質量%以下である。湿潤剤の含有量が前記範囲内にあると、アニオンインクの適正な物性値(粘度等)を確保し、記録の品質や信頼性を確保することができる場合がある。
【0097】
<界面活性剤>
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、アニオンインクの表面張力を低下させて、被記録媒体への濡れ性、つまり浸透性を調整するための濡れ剤として使用することができる。また、アニオンインクが界面活性剤を含有することにより、インクジェットヘッドからの吐出安定性を確保する。
【0098】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、さらにこれらは併用してもよい。また、界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0099】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール(登録商標)104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上商品名、日信化学工業株式会社製)、オルフィン(登録商標)B、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4300、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノール(登録商標)E00、E00P、E40、E100(以上商品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0100】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK(登録商標)-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348、BYK-349(以上商品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0101】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、特に限定されないが、例えば、BYK(登録商標)-340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0102】
アニオンインクが界面活性剤を含有する場合には、上記界面活性剤を複数種使用することができ、その含有量の合計は、アニオンインクに対して0.01質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0103】
<その他>
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するアニオンインクは、上記の成分以外に、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤、粘度調節剤、酸化防止剤、尿素類、アミン類、糖類等を含有してもよい。
【0104】
1.2.カチオンインク
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するカチオンインクは、カチオン系樹脂と、顔料と、水とを含有し、該カチオンインクは上述したアニオンインクと互いに同系色であり、該カチオンインク中の該顔料は該カチオン系樹脂により被覆されており、該カチオン系樹脂、及び該アニオンインクに含有されるアニオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。
【0105】
1.2.1.顔料
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するカチオンインクは、顔料を含有する。顔料としては、上記のアニオンインクと同様であるから、記載を省略する。
【0106】
1.2.2.カチオン系樹脂
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するカチオンインクは、カチオン系樹脂を含有し、該カチオン系樹脂及び前述のアニオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。このような態様にすることで、摩擦堅牢性について良好なものとすることができる。
【0107】
カチオン系樹脂としては、カチオンインク中でカチオン性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、ウレタン系骨格を有するカチオン系樹脂、ポリエステル系骨格を有するカチオン系樹脂、アクリル系のカチオン系樹脂、ポリアンモニウム塩系のカチオン系樹脂、オレフィン系のカチオン系樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、これら樹脂のうち、摩擦堅牢性をより一層向上できる観点から、ウレタン系骨格を有するカチオン系樹脂であることが好ましい。
【0108】
1.2.2.1.ウレタン系骨格を有するカチオン系樹脂
ウレタン系骨格を有するカチオン系樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとカチオン性を付与するための化合物とを反応させて合成されるポリマーである。
【0109】
ポリイソシアネートとしては、上記のアニオンインクと同様であるから、記載を省略する。
【0110】
ポリオールとしては、上記のアニオンインクと同様であるから、記載を省略する。
【0111】
カチオン性を付与するための化合物としては、例えば、1級アンモニウム塩、2級アンモニウム塩、3級アンモニウム塩、4級アンモニウム塩等の各種アンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、(モノ)アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、テトラアルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0112】
1.2.2.2.エステル系骨格を有するカチオン系樹脂
エステル系骨格を有するカチオン系樹脂は、ポリオールとカチオン性ポリマーとを重縮合させて得られるポリマーである。
【0113】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。ポリエステル系骨格を有するアニオン系樹脂を合成する際には、上記のポリオールは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
カチオン性ポリマーとしては、例えば、分子内に1~3級アミン、4級アンモニウム塩を有する高分子で、具体的には、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩を有するアクリル樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン類、ジシアンジアミド-ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、ジシアンジアミド-ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、エピクロロヒドリン-ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルアミン塩重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合物、ポリビニルアルコール-カチオンモノマーグラフト重合物等が挙げられる。
【0115】
1.2.2.3.ブロックイソシアネート基を有するカチオン系樹脂
また、本実施形態におけるカチオン系樹脂は、摩擦堅牢性をより一層向上できる観点から、ブロックイソシアネート基を有していてもよい。ブロックイソシアネート基を有するカチオン系樹脂は、上述したウレタン系骨格を有するカチオン系樹脂においてブロックイソシアネート基を有するものであることが好ましい。このようなカチオン系樹脂は摩擦堅牢性がより良好となる傾向にある。
【0116】
ブロックイソシアネート基に用いられる、ポリイソシアネート化合物及びブロック剤等については上記のアニオンインクと同様であるため、記載を省略する。
【0117】
1.2.3.カチオン系樹脂被覆顔料
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するカチオンインクにおいて、上述の顔料は上述のカチオン系樹脂により被覆されている。
【0118】
カチオン系樹脂により被覆された顔料(以下、「カチオン系樹脂被覆顔料」ともいう。)の好ましい製造方法としては上述のアニオン系樹脂被覆顔料と同様であるから、記載を省略する。
【0119】
本実施形態に係るインクジェットインクセットを構成するカチオンインクに含まれる水、または含まれ得るその他の成分については、上記アニオンインクと同様であるため、記載を省略する。
【0120】
1.3.アニオンインク及びカチオンインクの調製方法
本実施形態において、アニオンインク及びカチオンインクは、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0121】
1.4.アニオンインク及びカチオンインクの物性
本実施形態において、アニオンインク及びカチオンインクは、画像品質とインクジェット記録用のインクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0122】
また、同様の観点から、本実施形態において、アニオンインク及びカチオンインクの20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0123】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上記態様のインクジェットインクセットを用いる記録方法であって、前記アニオンインクを、インクジェットヘッドから吐出させて被記録媒体に付着させるアニオンインク付着工程と、前記カチオンインクを、前記インクジェットヘッドから吐出させて前記被記録媒体に付着させるカチオンインク付着工程と、を有し、前記アニオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域と、前記カチオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域とが、一部もしくは全部において重なる。
【0124】
本実施形態に係る記録方法によれば、発色性向上を目的として被記録媒体をカチオン性の化合物等で前処理を行わない場合であっても、捺染物の良好な発色性、および、優れた摩擦堅牢性(耐擦性)を得ることができる。したがって、本実施形態に係る記録方法を用いることで、主に手作業で行う必要のある煩雑な前処理工程を無くすことができ、記録方法工程のインライン化が可能となる。また、アニオンインクとカチオンインクとの混合によりインク組成物が凝集されるため、被記録媒体の前処理の有無にかかわらず、すなわち被記録媒体の表面電荷状態によらず良好な発色性や滲みの低減を得ることができる。
【0125】
以下、本実施形態に係る記録方法について、本実施形態に係る記録方法に適用可能なインクジェット記録装置、被記録媒体、記録方法の各工程の順に説明する。
【0126】
2.1.インクジェット記録装置
【0127】
本実施形態に係る記録方法が実施されるインクジェット記録装置の一例について図面を参照しながら説明する。図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備える。インクジェット記録装置1は、図示しない制御部を備え、制御部によりインクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0128】
インクジェットヘッド2は、被記録媒体Mに対してアニオンインク及びカチオンインク(以下、これらをまとめて「インク組成物」又は単に「インク」ともいう。)を吐出して付着させる手段である。
【0129】
インクジェットヘッド2は、インク組成物を吐出するノズル(図示せず)を備える。インクをノズルから吐出させる方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に記録情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式);小型ポンプでインクに圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式;インクに圧電素子で圧力と記録情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式);インクを記録情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インクの液滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0130】
インクジェットヘッド2としては、ライン式インクジェットヘッド、シリアル式インクジェットヘッドのいずれも使用可能である。
【0131】
ここで、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置とは、記録用のインクジェットヘッドを被記録媒体に対して相対的に移動させつつインク組成物を吐出させる走査(パス)を、複数回行うことによって記録を行うものである。シリアル型のインクジェットヘッドの具体例には、被記録媒体の幅方向、つまり、被記録媒体の搬送方向に交差する方向に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより被記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0132】
一方、ライン式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置は、記録用のインクジェットヘッドを被記録媒体に対して相対的に移動させつつインク組成物を吐出させる走査(パス)を1回行うことにより記録を行うものである。ライン型のインクジェットヘッドの具体例には、インクジェットヘッドが被記録媒体の幅よりも広く形成され、記録用のインクジェットヘッドが移動せずに被記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0133】
本実施形態では、インクジェット記録装置1として、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置を用い、インクをノズルから吐出させる方式としてピエゾ方式を利用したインクジェットヘッド2を用いている。
【0134】
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からのインク組成物の吐出時に被記録媒体Mを加熱するための、つまり、一次加熱または一次乾燥用のIRヒーター3及びプラテンヒーター4を備える。本実施形態において、後述するインク組成物付着工程で被記録媒体Mを加熱する際には、IRヒーター3及びプラテンヒーター4の少なくとも1つを用いればよい。
【0135】
なお、IRヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から被記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4等の被記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、被記録媒体Mの厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、被記録媒体Mを加熱する際にプラテンヒーター4を用いると、インクジェットヘッド2側と反対側から被記録媒体Mを加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
【0136】
IRヒーター3及びプラテンヒーター4による、被記録媒体Mの表面温度の上限は45℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、35℃以下であることがより好ましい。また、被記録媒体Mの表面温度の下限は25℃以上であることが好ましく、28℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがより好ましい。これにより、IRヒーター3及びプラテンヒーター4から受ける輻射熱が少ない又は受けなくなることから、インクジェットヘッド2内のインク組成物の乾燥及び組成変動を抑制でき、インクジェットヘッド2の内壁に対するインクや樹脂の溶着が抑制される。また、インクを早期に固定することができ、画質を向上させることができる。
【0137】
硬化ヒーター5は、被記録媒体Mに付着されたインク組成物を乾燥及び固化させる、つまり、二次加熱または二次乾燥用のヒーターである。硬化ヒーター5が、画像が記録された被記録媒体Mを加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、被記録媒体M上においてインク膜が強固に定着または接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。硬化ヒーター5による記録媒体Mの表面温度の上限は120℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。また、被記録媒体Mの表面温度の下限は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。温度が前記範囲にあることにより、高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0138】
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。被記録媒体Mに記録されたインク組成物を乾燥後、冷却ファン6により被記録媒体M上のインク組成物を冷却することにより、被記録媒体M上に密着性よくインク塗膜を形成することができる。
【0139】
また、インクジェット記録装置1は、被記録媒体Mに対してインク組成物が付着される前に、被記録媒体Mを予め加熱するプレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、被記録媒体Mに付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0140】
2.2.被記録媒体
本実施形態に係る記録方法は、種々の被記録媒体に対する記録に用いることができる。
【0141】
被記録媒体としては、特に制限されず、インク吸収性の高い綿、絹、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、および上記した異なる繊維同士の混紡等の布帛や、普通紙、インクジェット専用紙、中程度の吸収性の上質紙、コピー用紙だけでなく、低吸収性あるいは非吸収性の被記録媒体にも用いることができるが、布帛を用いることが好ましい。
【0142】
低吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、表面に塗料を塗布して塗工層が設けられた塗工紙が挙げられる。塗工紙としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0143】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インク吸収層を有していないプラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0144】
ここで、本明細書において「インク低吸収性または非吸収性の被記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体」を示す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0145】
また、本実施形態において、布帛は処理液組成物(以下、単に「処理液」ともいう。)によって処理されていてもよい。処理液組成物は、インクジェット捺染の際に、印捺物の基材となる布帛に対して予め付着して用いるものであり、例えば、カチオン性化合物と、上記の水や有機溶剤を含有する。
【0146】
カチオン性化合物は、インク組成物中の成分を凝集させる機能を有する。このため、処理液を付着させた布帛へインク組成物を付着させると、カチオン性化合物がインク粒子の凝集を促進したり、インクの粘度を高めて、布帛を構成する繊維の間隙あるいは内部への吸収を抑制する。このように、カチオン性化合物はインクを布帛の表面に保持するため、印捺物におけるインクの発色性が向上する。また、にじみやブリードを抑制する。
【0147】
カチオン性化合物としては、カルシウム塩及びマグネシウム塩等の多価金属塩、カチオン性のウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、アリルアミン系樹脂等のカチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤、無機酸又は有機酸等が挙げられる。これらの中でも、顔料の発色性の向上及び綿布帛に好適である点により、多価金属塩を用いることが好ましい。これらのカチオン性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0148】
処理液に含まれるカチオン性化合物の含有量は、特に限定されないが、処理液の総量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、処理液に含まれるカチオン性化合物の含有量は、処理液の総量に対して、40.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以下であることがさらに好ましい。カチオン性化合物の含有量を上記の範囲とすることにより、処理液におけるカチオン性化合物の析出や分離等を抑えて、インク中の顔料の凝集を促進し、布帛を構成する繊維の間隙あるいは内部に吸収されることを抑制する。これにより印捺面の裏面方向に色材が裏抜ける現象が低減し、印捺物の発色性が向上する。
【0149】
2.3.各工程
本実施形態に係る記録方法の各工程について、上述のインクジェット記録装置およびインクジェットインクセットを用いて記録する例を挙げて説明する。
【0150】
2.3.1.アニオンインク付着工程
アニオンインク付着工程は、上述のアニオンインクを図1のインクジェットヘッド2から吐出させて被記録媒体Mに付与する工程である。この工程により、被記録媒体Mの表面にアニオンインクが付与される。
【0151】
被記録媒体Mへの単位面積当たりのアニオンインクの最大付着量は、好ましくは5mg/inch以上であり、より好ましくは7mg/inch以上であり、さらに好ましくは10mg/inch以上である。被記録媒体の単位面積当たりのアニオンインクの付着量の上限は、特に限定されないが、例えば、20mg/inch以下が好ましく、好ましくは18mg/inch以下であり、特に好ましくは16mg/inch以下である。
【0152】
アニオンインク付着工程は、アニオンインク付着工程の前またはアニオンインク付着工程と同時に、IRヒーター3やプラテンヒーター4により被記録媒体Mを加熱する加熱工程を備えるものであってもよく、加熱工程により加熱された被記録媒体Mへ行うことが好ましい。これにより、被記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができ、ブリードが抑制される。また、画質に優れた画像を形成できると供に、VOC発生量の少ない記録方法を提供することができる。
【0153】
アニオンインクを付与する際の被記録媒体Mの表面温度(一次加熱温度)の上限は、45℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、38℃以下であることがさらに好ましい。アニオンインクを付与させる際の被記録媒体の表面温度が前記範囲にあることにより、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑制し、インクジェットヘッド2やノズルの目詰まりを防止することができる。また、インクジェット記録の際の被記録媒体Mの表面温度の下限は25℃以上であることが好ましく、28℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、32℃以上であることが特に好ましい。インクジェット記録の際の被記録媒体Mの表面温度が上記の範囲であることにより、被記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させて早期に固定することができ、ブリードが抑制され、耐擦性や画質に優れた画像を形成することができる。
【0154】
2.3.2.カチオンインク付着工程
カチオンインク付着工程は、アニオンインク付着工程においてアニオンインクが付与された又はされる領域と、一部もしくは全部が重なるように、上述のカチオンインクを被記録媒体Mに付着させる工程である。カチオンインク付着工程は、アニオンインク付着工程の後またはアニオンインク付着工程の前、若しくはアニオンインク付着工程と同時に行ってもよい。
【0155】
ここで、「アニオンインクが付与された又はされる領域」とは、アニオンインクのドットが付着した又はされる領域を意味する。
【0156】
本明細書において、「領域」という場合、該領域へ付着させるインク組成物の付着量が略一定であるような被記録媒体上の一定の面積を占める部分を指す。一の領域は、目視で同じ色に視認できる領域であり、例えば、1mm以上の面積を有する。また、付着量が略一定であるとは、例えば、Dutyが低い場合、インク組成物のドットを着弾させた位置と着弾させない位置とでは厳密にはインク組成物の付着量が異なるが、領域は1ドットの面積よりも大きい巨視的(マクロ)な範囲を意味しており、巨視的には領域内でインク組成物の付着量が一定であり、インクドットの付着の有無による付着量の不均一は無視するものとする。
【0157】
また、Dutyが低い場合、アニオンインクとカチオンインクの両者が付着された領域であっても、微視的、例えば、インクジェット法における液滴(着弾したドット)のスケール)には、アニオンインクとカチオンインクとが重ならない部位も存在しうるが、巨視的に見たインク組成物の重なりであるものとして、ドット単位でみた場合のドットが重ならない部位があることについては無視するものとする。したがって、ここで付着領域とは、当該領域全体としての、アニオンインクとカチオンインクとが重なる領域と考えることとする。
【0158】
なお、本明細書中において、「Duty」とは、下記式(1)で算出される値である。
Duty(%)={実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)}×100 …(1)
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0159】
アニオンインクが付与された領域と一部もしくは全部が重なるように、カチオンインクを被記録媒体に付着させる場合、アニオンインクが付与された領域の少なくとも一部が重なるようにカチオンインクが付着されればよい。具体的には、カチオンインクは、アニオンインクが付与された領域の50%以上が重なるように付着させることが好ましく、60%以上が重なるように付着させることがより好ましく、70%以上が重なるように付着させることがさらに好ましい。このようにカチオンインクを付与することで、アニオンインクとカチオンインクを効果的に混合させることができ、発色性及び耐擦性が良好となる傾向にある。
【0160】
被記録媒体Mへの単位面積当たりのカチオンインクの最大付着量は、好ましくは5mg/inch以上であり、より好ましくは7mg/inch以上であり、さらに好ましくは10mg/inch以上である。被記録媒体の単位面積当たりインク組成物の付着量の上限は、特に限定されないが、例えば、20mg/inch以下が好ましく、好ましくは18mg/inch以下であり、特に好ましくは16mg/inch以下である。
【0161】
なお、カチオンインク付着工程においても、上記アニオンインク付着工程と同様に、カチオンインク付着工程の前またはカチオンインク付着工程と同時に、IRヒーター3やプラテンヒーター4により被記録媒体Mを加熱する加熱工程を備えるものであってもよく、加熱工程により加熱された被記録媒体Mへ行うことが好ましい。これにより、被記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させることができる。
【0162】
カチオンインクを付着させる際の被記録媒体Mの表面温度の上限は、45℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、38℃以下であることがさらに好ましい。インクを付着させる際の被記録媒体の表面温度が前記範囲にあることにより、インクジェットヘッド2への熱による影響を抑制し、インクジェットヘッド2やノズルの目詰まりを防止することができる。また、インクジェット記録の際の被記録媒体Mの表面温度の下限は25℃以上であることが好ましく、28℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、32℃以上であることが特に好ましい。被記録媒体Mの表面温度が上記の範囲であることにより、被記録媒体M上でインクを迅速に乾燥させて早期に固定することができる。
【0163】
2.3.3.その他の工程
本実施形態に係る記録方法は、上記アニオンインク付着工程及びカチオンインク付着工程の後、図1に示す硬化ヒーター5によりインク組成物が付着した被記録媒体Mを加熱する二次加熱工程を有していてもよい。これにより、被記録媒体M上のインク組成物に含まれる定着樹脂等が溶融してインク膜が形成され、被記録媒体M上においてインク膜が強固に定着(接着)して造膜性が優れたものとなり、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0164】
硬化ヒーター5による被記録媒体Mの表面温度の上限は120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがより好ましい。また、被記録媒体Mの表面温度の下限は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがより好ましい。温度が前記範囲にあることにより、高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0165】
なお、二次加熱工程の後に、図1に示す冷却ファン6により、被記録媒体M上のインク組成物を冷却する工程を有していてもよい
【0166】
また、本実施形態に係る記録方法は、インクを吐出して記録するための圧力発生手段以外の手段により、つまり、インクジェットヘッド2が備える記録のためにインクを吐出するための機構ではない他の機構により、インク組成物を排出させるクリーニング工程を備えていてもよい。
【0167】
インクジェットヘッド2が備える記録のためにインクを吐出するための機構としては、圧力室(図示せず)に備えられてインクに圧力を付与するピエゾ素子やヒーター素子が挙げられる。このクリーニング工程は、インクジェットヘッド2に外部から圧力を付与してノズルから、インク組成物や処理液を排出させる工程としてもよい。この工程を備えることで、インクジェットヘッド2の内壁に樹脂が溶着する懸念がある場合にも、これを抑制し、吐出安定性を一層優れたものとすることができる。
【0168】
なお、上述の他の機構としては、吸引(負圧)の付与や、インクジェットヘッドの上流から正圧を付与すること、など圧力を付与する機構が挙げられる。これらは、インクジェットヘッド自身の機能によるインク排出(フラッシング)ではない。つまり、記録に際して、インクジェットヘッドからインクを吐出させる機能を用いての排出ではない。
【0169】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」及び「部」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0170】
3.1.分散液の調製
下表1~3に示す配合量となるように、アニオン系分散液1~17、カチオン系分散液1~17及びその他分散液1~6を調製した。なお、顔料および分散剤については、固形分換算した値を示す。なお、下表1~3中、「Y」はイエロー、「M」はマゼンタ、「C」はシアン、「K」はブラック、「W」はホワイトをそれぞれ表す。なお、下表1~3中、「PCD」はポリカーボネートジオール、「PES」はポリエステルジオール、「PE」はポリエーテルジオールをそれぞれ表し、「BI」はブロックイソシアネート基を含むものであることを表している。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【0174】
以下、各分散液の詳細な調製方法について記載する。
【0175】
3.1.1.アニオン系分散液
<アニオン系分散液1>
撹拌機及び加熱装置を備えた簡易加圧反応装置にポリカーボネートジオールとして「UH-200」(宇部興産製、商品名)57.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート10.5部、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部及びメチルエチルケトン30部を仕込んで85℃で10時間攪拌してウレタン化反応を行い、ポリウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を製造した。次いで、顔料としてC.I.Pigment Blue15:3(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PB15:3」ともいう)を17.5部加え、ジルコニアビーズ「YTZ-01」(ニッカトー社製、商品名)282部加えた後、顔料分散機「ラボスターミニ HFM02」(アシザワファインテック社製)にて4時間解砕させ、顔料スラリーを得た。
【0176】
顔料スラリー235部に中和剤としてトリエチルアミン1.0部を加え均一化した後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水を38部加え、混合物を分散させた。得られた分散体に鎖伸長剤である10重量%のジエチレントリアミン水溶液を5.2部加え、減圧下に65℃で8時間かけてメチルエチルケトンを留去、ジルコニアビーズをフィルター除去し、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、ポリウレタン樹脂に被覆されたアニオン系分散液1を得た。
【0177】
<アニオン系分散液2>
上記アニオン系分散液1の製造において、ポリカーボネートジオール57.8部の代わりにポリエステルジオール「サンエスター 4620」(商品名、三洋化成工業製)57.8部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液2を得た。
【0178】
<アニオン系分散液3>
上記アニオン系分散液1の製造において、ポリカーボネートジオール57.8部の代わりにポリエーテルジオール「PTMG2000」(商品名、三菱化学株式会社製、Mn=2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール)57.8部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液3を得た。
【0179】
<アニオン系分散液4>
上記アニオン系分散液1の製造において、中和後、鎖伸長剤である10重量%のジエチレントリアミン水溶液を5.2部加え、ブロックイソシアネート基を有するポリカーボネート系ウレタン樹脂を1.0部加え、減圧下に65℃で8時間かけてメチルエチルケトンを留去、ジルコニアビーズをフィルター除去し、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、ポリウレタン樹脂に被覆されたアニオン系分散液4を得た。
【0180】
<アニオン系分散液5>
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.03質量部、重合開始剤、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイド=9)15質量部、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノメタクリレート(プロピレンオキサイド基=7、エチレンオキサイド基=5)15質量部、メタクリル酸12質量部、スチレンモノマー50質量部、スチレンマクロマー10質量部、ベンジルメタクリレート10部を用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
【0181】
メチルエチルケトン45質量部に上記で得られた水不溶性ポリマーを7.5質量部溶解させて、その中に20%の水酸化ナトリウム水溶液(中和剤)を所定量加えて塩生成基を中和し、さらに顔料としてPB15:3を20質量部加えてビーズミルで2時間混練した。このようにして得られた混練物にイオン交換水120質量部を加えて攪拌した後、減圧下、6℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液5を得た。
【0182】
<アニオン系分散液6>
攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、シクロヘキシルアクリレート20質量部、2-エチルヘキシルアクリレート5質量部、ブチルアクリレート15質量部、ラウリルアクリレート10質量部、アクリル酸2質量部、t-ドデシルメルカプタン0.3質量部を混合した。この混合液を70℃で加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150質量部、アクリル酸15質量部、ブチルアクリレート50質量部、t-ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及びアゾビスイソバレロニトリル1質量部を滴下ロートに入れて、4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40質量%濃度の分散ポリマー溶液を作製した。
【0183】
上記分散ポリマー溶液40質量部と、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料、クラリアント社製)30質量部、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100質量部、及びメチルエチルケトン30質量部と、を混合し、ホモジナイザーで30分攪拌した。その後、イオン交換水を300質量部添加して、さらに1時間攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部とを留去し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整してから0.3μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水で調整して、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、ポリカルボン酸に被覆されたアニオン系分散液6を得た。
【0184】
<アニオン系分散液7>
上記アニオン系分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えてC.I.Pigment Yellow74(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PY74」ともいう)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液7を得た。
【0185】
<アニオン系分散液8>
上記アニオン系分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えてC.I.Pigment Red122(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PR122」ともいう)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液8を得た。
【0186】
<アニオン系分散液9>
上記アニオン系分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えて市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液9を得た。
【0187】
<アニオン系分散液10>
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、1,2-プロピレングリコール714部(2.00モル部)、テレフタル酸679部(0.87モル部)、アジピン酸89部(0.13モル部)、重合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート5部を入れ、180℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら12時間反応させた。次いで230℃まで除々に昇温しながら、窒素気流下に、生成する水を除去しながら4時間反応させ、さらに5~20mmHgの減圧下に反応させ、軟化点が99℃になった時点で冷却した。回収された1,2-プロピレングリコールは338部(0.95モル部)であった。次いで、180℃まで冷却し、無水トリメリット酸29部(0.03モル部)を加え、常圧下で1時間反応後、5~20mmHgの減圧下に水を留去しながら同温度で1時間反応した。合成材料を70部取り出し、メチルエチルケトン30部を添加し、次いで、顔料としてC.I.Pigment Blue15:3(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PB15:3」ともいう)を17.5部加え、ジルコニアビーズ「YTZ-01」(ニッカトー社製、商品名)282部加えた後、顔料分散機「ラボスターミニ HFM02」(アシザワファインテック社製)にて4時間解砕させ、顔料スラリーを得た。
【0188】
顔料スラリー235部に中和剤としてトリエチルアミン1.0部を加え均一化した後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水を38部加え、混合物を分散させた。減圧下に65℃で8時間かけてメチルエチルケトンを留去、ジルコニアビーズをフィルター除去し、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、ポリウレタン樹脂に被覆されたアニオン系分散液10を得た。
【0189】
<アニオン系分散液11>
上記アニオン系分散液1の製造において、ポリカーボネートジオール57.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート10.5部及び2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えて、それぞれ、ポリカーボネートジオール19.3部、ヘキサメチレンジイソシアネート3.5部及び2,2-ジメチロールプロピオン酸0.57部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が5質量%である、アニオン系分散液11を得た。
【0190】
<アニオン系分散液12>
上記アニオン系分散液1の製造において、ポリカーボネートジオール57.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート10.5部及び2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えて、それぞれ、ポリカーボネートジオール77.1部、ヘキサメチレンジイソシアネート14部及び2,2-ジメチロールプロピオン酸2.3部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が20質量%である、アニオン系分散液12を得た。
【0191】
<アニオン系分散液13>
上記アニオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えてPY74を17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液13を得た。
【0192】
<アニオン系分散液14>
上記アニオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えてPR122を17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液14を得た。
【0193】
<アニオン系分散液15>
上記アニオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えて市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液15を得た。
【0194】
<アニオン系分散液16>
上記アニオン系分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えて酸化チタン「R62N」(堺化学工業社製)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液16を得た。
【0195】
<アニオン系分散液17>
上記アニオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えて酸化チタン「R62N」(堺化学工業社製)17.5部に変更した以外は、上記アニオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、アニオン系分散液17を得た。
【0196】
3.1.2.カチオン系分散液
<カチオン系分散液1>
上記アニオン系分散液1の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液1を得た。
【0197】
<カチオン系分散液2>
上記アニオン系分散液2の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液2と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液2を得た。
【0198】
<カチオン系分散液3>
上記アニオン系分散液3の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液3と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液3を得た。
【0199】
<カチオン系分散液4>
上記アニオン系分散液4の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液4と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液4を得た。
【0200】
<カチオン系分散液5>
上記アニオン系分散液5の製造において、メタクリル酸12質量部に代えて、カチオン性基を有するモノマーとして4-ビニルピリジン12部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液5と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液5を得た。
【0201】
<カチオン系分散液6>
上記アニオン系分散液6の製造において、第一のアクリル酸2質量部に代えて、カチオン性基を有するモノマーとして4-ビニルピリジン2部に変更し、また第二のアクリル酸15質量部に代えて、カチオン性基を有するモノマーとして4-ビニルピリジン15部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液6と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液6を得た。
【0202】
<カチオン系分散液7>
上記アニオン系分散液7の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液7と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液7を得た。
【0203】
<カチオン系分散液8>
上記アニオン系分散液8の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液8と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液8を得た。
【0204】
<カチオン系分散液9>
上記アニオン系分散液9の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液9と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液9を得た。
【0205】
<カチオン系分散液10>
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、N-メチルジエタノールアミン1120部(2.00モル部)、テレフタル酸679部(0.87モル部)、アジピン酸89部(0.13モル部)、重合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート5部を入れ、180℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら12時間反応させた。次いで230℃まで除々に昇温しながら、窒素気流下に、生成する水を除去しながら4時間反応させ、さらに5~20mmHgの減圧下に反応させ、軟化点が99℃になった時点で冷却した。回収されたN-メチルジエタノールアミンは532部(0.95モル部)であった。その後、5~20mmHgの減圧下に水を留去しながら同温度で1時間反応した。合成材料を70部取り出し、メチルエチルケトン30部を添加し、次いで、顔料としてC.I.Pigment Blue15:3(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PB15:3」ともいう)を17.5部加え、ジルコニアビーズ「YTZ-01」(ニッカトー社製、商品名)282部加えた後、顔料分散機「ラボスターミニ HFM02」(アシザワファインテック社製)にて4時間解砕させ、顔料スラリーを得た。
【0206】
顔料スラリー235部に中和剤としてジメチル硫酸1.0部を加え均一化した後、200rpmで撹拌しながらイオン交換水を38部加え、混合物を分散させた。減圧下に65℃で8時間かけてメチルエチルケトンを留去、ジルコニアビーズをフィルター除去し、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、ポリウレタン樹脂に被覆されたカチオン系分散液10を得た。
【0207】
<カチオン系分散液11>
上記アニオン系分散液11の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸0.57部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン0.57部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液11と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が5質量%である、カチオン系分散液11を得た。
【0208】
<カチオン系分散液12>
上記アニオン系分散液12の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸2.3部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン2.3部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液12と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が20質量%である、カチオン系分散液12を得た。
【0209】
<カチオン系分散液13>
上記カチオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えてC.I.Pigment Yellow74(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PY74」ともいう)17.5部に変更した以外は、上記カチオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液13を得た。
【0210】
<カチオン系分散液14>
上記カチオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えてC.I.Pigment Red122(大日精化工業株式会社製、商品名、以下「PR122」ともいう)17.5部に変更した以外は、上記カチオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液14を得た。
【0211】
<カチオン系分散液15>
上記カチオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えて市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)17.5部に変更した以外は、上記カチオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液15を得た。
【0212】
<カチオン系分散液16>
上記アニオン系分散液16の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えてカチオン性基を有するモノマーとしてN-メチルジエタノールアミン1.7部に変更し、トリエチルアミン1.0部をジメチル硫酸1.0部に変更した以外は、上記アニオン系分散液16と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液16を得た。
【0213】
<カチオン系分散液17>
上記カチオン系分散液10の製造において、PB15:3を17.5部に代えて酸化チタン「R62N」(堺化学工業社製)17.5部に変更した以外は、上記カチオン系分散液10と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、カチオン系分散液17を得た。
【0214】
3.1.3.その他(非イオン性)分散液
<その他分散液1>
ウレタンプレポリマーに代えて分散剤としてニューポールPE108(三洋化成工業社製)を使用した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で固形分として顔料濃度が10質量%および分散剤濃度が15質量%である、その他分散液1を得た。
【0215】
<その他分散液2>
上記アニオン系分散液1の製造において、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.7部に代えて2,2-ジメチロールプロピオン酸PEGエステル1.7部に変更した以外は、上記アニオン系分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、その他分散液2を得た。なお「2,2-ジメチロールプロピオン酸PEGエステル」とは、2,2-ジメチロールプロピオン酸とポリエチレングリコールとのエステル化合物のことをいう。
【0216】
<その他分散液3>
上記アニオン系分散液5の製造において、メタクリル酸12質量部に代えてポリエチレングリコールメタクリレート12部に変更した以外は、上記アニオン系分散液5と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、その他分散液3を得た。
【0217】
<その他分散液4>
上記その他分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えてPY74を17.5部に変更した以外は、上記その他分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、その他分散液4を得た。
【0218】
<その他分散液5>
上記その他分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えてPR122を17.5部に変更した以外は、上記その他分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、その他分散液5を得た。
【0219】
<その他分散液6>
上記その他分散液1の製造において、PB15:3を17.5部に代えて市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)を17.5部に変更した以外は、上記その他分散液1と同様な製法で、固形分として、顔料濃度が10質量%及び分散剤濃度が15質量%である、その他分散液6を得た。
【0220】
3.2.インク及びインクセットの作製
上記で得られた各分散液を用いて、下表4~6に示す含有量にて各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターを用いて濾過することで、下表4~6に記載の各インク組成物を得た。また、上記と同様の方法で調製された下表7に記載の各インク組成物を下表7のとおりに組み合わせ、インクセットを作製した。なお下表4~7中のインクの色に関して、「Y」はイエロー、「M」はマゼンタ、「C」はシアン、「K」はブラック、「W」はホワイトをそれぞれ表す。
【0221】
【表4】
【0222】
【表5】
【0223】
【表6】
【0224】
【表7】
【0225】
なお、表4~7中の界面活性剤の詳細は以下の通りである。
・BYK348(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコン系界面活性剤)
【0226】
また、「前処理なし布帛」とは、カチオン性の化合物で処理されていない布帛を指し、「前処理あり布帛」とは、後述のカチオン性の化合物である水溶性カチオンポリマーで処理を行った布帛を指し、「非吸収メディア」とは、本明細書中で定義される非吸収性被記録媒体のことを指す。
【0227】
3.3.記録方法
被記録媒体として、「前処理なし布帛」については白色の綿ブロードを用いた。また、「前処理あり布帛」については、白色の綿ブロードに水溶性カチオンポリマーとして「ユニセンス104L」(商品名、センカ株式会社製)6.7部、水93.3部からなる前処理剤をパッド法にて絞り率70%でパディングした後、120℃、5分間乾燥し、25℃に戻したものを用いた。また、「非吸収メディア」については、プラスチックフィルム(フタムラ化学社製、商品名「FOR-BT」)を用いた。次に、インクジェット記録装置として、セイコーエプソン株式会社製プリンター(商品名「SC-F2000」)を上記で得られた各インク組成物又は各インクセットを上表4~7に記載の組み合わせにて印刷できるように改造したもの(商品名「SC-F2000」の改造機)を用意した。
【0228】
3.4.評価方法
3.4.1.物性安定性の評価
上記で得られた各インク組成物又は各インクセットの温度を25℃に調整し、Pysica社製の粘弾性試験機「MCR-300」を用いてせん断速度200(1/s)で静粘度を測定した。その後スクリュー管瓶にて封止後70℃10日間の高温放置を行った後、25℃になるように放置し、同様に静粘度を測定した。放置前後の粘度の変化率から物性安定性を以下の基準で判断した。
(評価基準)
S: (変化率)≦3%
AA: 3%<(変化率)≦5%
A: 5%<(変化率)≦7.5%
B:7.5%<(変化率)≦10%
C: 10%<(変化率)≦15%
D 15%<(変化率)
【0229】
3.4.2.発色性の評価
上記の改造したインクジェット記録装置のカートリッジに、上記で得られた各インク組成物又は各インクセットを上表4~7に記載の組み合わせで印刷できるように充填した。次いで、上記各被記録媒体の一方の面に、各インク組成物を塗布密度が39mg/inchとなるように吐出した。その後、M&R社製のコンベア乾燥炉「Economax D」を用いて、160℃で5分間加熱乾燥処理を施し、25℃に戻して捺染物を得た。得られた捺染物について、測色機「Spectrolino」(グレタグ社)を用いて測定したOD(光学濃度)値に基づいて、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
S :OD値が1.5以上
AA:OD値が1.5未満1.4以上
A :OD値が1.4未満1.3以上
B :OD値が1.3未満1.2以上
C :OD値が1.2未満1.0以上
D :OD値が1.0未満
【0230】
また、色差の指標として、△Eを評価した。具体的には、アニオンインクが付着した領域αの色相(L*α、a*α、b*α)と、カチオンインクが付着した領域βの色相(L*β、a*β、b*β)とについて、測色機「Spectrolino」(グレタグ社)を用いて測定し、△E(デルタE)を計算して、以下の基準に従って評価した。なお、△Eの計算には下記式(1)を用いた。
△E=((L*α-L*β)+(a*α-a*β)+(b*α-b*β)1/2 ・・・ (1)
(評価基準)
○:ΔE≦1
×:ΔE>1
【0231】
3.4.3.耐擦性の評価
<前処理あり布帛および前処理なし布帛>
上記の改造したインクジェット記録装置のカートリッジに、上記で得られた各インク組成物又は各インクセットを上表4~7に記載の組み合わせで印刷できるように充填した。次いで、前処理あり布帛又は前処理なし布帛の一方の面に、各インク組成物を塗布密度が39mg/inchとなるように吐出した。その後、M&R社製のコンベア乾燥炉「Economax D」を用いて、160℃で5分間加熱乾燥処理を施し、25℃に戻して捺染物を得た。
【0232】
得られた捺染物を十分に乾燥させて、テスター産業社製の学振式摩擦堅牢性試験機「AB-301S」を用いて荷重200gで100回擦る摩擦堅牢試験を行った。インクの剥がれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠して、乾燥(Dry)の水準にて以下の基準に従って判断した。
(評価基準)
S :4-5級
AA:4級
A :3.5-4級
B :3.5級
C :2.5-3.5級
D :2.5級以下
<非吸収メディア>
上記前処理あり布帛および前処理なし布帛の耐擦性の評価において、160℃で5分間加熱乾燥処理に代えて、100℃で10分間加熱乾燥処理に変更した以外は、同様の手順及び評価基準にて判断した。
【0233】
3.5.評価結果
評価試験の結果を、上表4~7に示す。
【0234】
上記の評価結果より、実施例1~33においては、アニオン系樹脂により被覆された顔料を含むアニオンインクと、カチオン系樹脂により被覆された顔料を含むカチオンインクとを混合することで、被記録媒体の前処理の有無にかかわらずインク組成物を凝集させ、良好な発色性を得ることができた。また、アニオン系樹脂とカチオン系樹脂の少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有することで、摩擦堅牢性(耐擦性)についても良好なものとすることができた。
【0235】
これに対して、アニオンインク及びカチオンインクが混合されない比較例1~11では、被記録媒体の前処理の有無にかかわらず、優れた発色性を得ることはできなかった。すなわち、インク組成物の凝集は被記録媒体の表面状態に依存され、インク組成物と被記録媒体が適合しない場合には、優れた発色性を得ることができなかった。また、アニオン系樹脂及びカチオン系樹脂が、少なくともいずれか一方においてウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有していない比較例12,13では摩擦堅牢性(耐擦性)に劣り、インクが同系色でない比較例14,15では色差が大きく発色性に劣る結果となった。
【0236】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0237】
インクジェットインクセットの一態様は、
インクジェットインクセットであって、
アニオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するアニオンインクと、
カチオン系樹脂と、顔料と、水とを含有するカチオンインクと、を有し、
前記アニオンインク及び、前記カチオンインクは、互いに同系色であり、
前記アニオンインク中の前記顔料は、前記アニオン系樹脂により被覆されており、
前記カチオンインク中の前記顔料は、前記カチオン系樹脂により被覆されており、
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂は、少なくともいずれか一方がウレタン系骨格又はポリエステル系骨格を有する。
【0238】
上記インクジェットインクセットの態様において、
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂が、前記ウレタン系骨格を有してもよい。
【0239】
上記インクジェットインクセットの態様において、
前記ウレタン系骨格が、ポリカーボネート、ポリエーテル及び、ポリエステルから選択される1種以上を含有してもよい。
【0240】
上記インクジェットインクセットの態様において、
前記アニオン系樹脂及び、前記カチオン系樹脂が、ブロックイソシアネート基を有してもよい。
【0241】
記録方法の一態様は、
上記態様のインクジェットインクセットを用いる記録方法であって、
前記アニオンインクを、インクジェットヘッドから吐出させて被記録媒体に付着させるアニオンインク付着工程と、
前記カチオンインクを、前記インクジェットヘッドから吐出させて前記被記録媒体に付着させるカチオンインク付着工程と、を有し、
前記アニオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域と、前記カチオンインクが付着された前記被記録媒体上での領域とが、一部もしくは全部において重なる。
【0242】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0243】
1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…硬化ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、M…被記録媒体
図1