(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】自動車の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/12 20120101AFI20241112BHJP
B60W 50/10 20120101ALI20241112BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20241112BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20241112BHJP
B60W 30/18 20120101ALI20241112BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241112BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W50/10
B60W40/08
B60W40/105
B60W30/18
G08G1/16 F
A61B5/18
(21)【出願番号】P 2020171428
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】西條 友馬
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山下 良幸
(72)【発明者】
【氏名】休坂 慎也
(72)【発明者】
【氏名】辻 雄太
(72)【発明者】
【氏名】野中 信宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009179(JP,A)
【文献】特表2005-517484(JP,A)
【文献】特開2016-115023(JP,A)
【文献】特開2018-022365(JP,A)
【文献】特開2007-076632(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0170375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
G08G 1/00 ~ 1/16
A61B 5/16 ~ 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の運転者が運転する能力を失っている異常状態にあるか否かについて判定する異常判定工程と、
前記異常判定工程において運転者が異常状態にあることを判定した際に、取り消し操作が可能であることを表示する表示工程と、
前記異常判定工程において運転者が異常状態にあることを判定した際に、第1減速度で前記自動車を減速させる第1減速工程と、
前記第1減速工程における減速を開始した後、所定期間、取り消し操作の有無を判定する取り消し操作判定工程と、
前記取り消し操作判定工程において前記所定期間が経過するまでに、取り消し操作がなかったと判定した場合に、前記第1減速度より大きい第2減速度で前記自動車を減速させることによって停車させる第2減速工程と、
を有し、
前記取り消し操作判定工程において前記所定期間が経過するまでに、取り消し操作があったと判定した場合に、前記第1減速工程による
前記第1減速度での減速を中止
し、
前記異常判定工程は、
自動車の速度を判定する走行車速判定工程と、
前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する操舵トルクに基づいて、前記運転者が異常状態にあるか否かを判定する把持力判定工程と、
前記運転者の頭部の位置に基づいて、前記運転者が異常状態にある否かを判定する運転姿勢判定工程と、
前記運転者の瞼の形状特性に基づいて、前記運転者が異常状態にある否かを判定する運転覚醒判定工程と、を有し、
前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が第1車速以上であることを判定した場合に、前記把持力判定工程を実行し、
前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が前記第1車速より小さい第2車速以上であることを判定した場合に、前記運転姿勢判定工程を実行し、
前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が前記第2車速より小さいことを判定した場合に、前記運転覚醒判定工程を実行することを特徴とする
自動車の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の制御方法において、前記異常判定工程は、
前記自動車の現在の走行に必要な基準操舵トルクを算出する基準操舵トルク算出工程と、
前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する実際の操舵トルクを検出する操舵トルク検出工程と、
前記基準操舵トルク算出工程により算出された基準操舵トルクと、前記操舵トルク検出工程により検出された実際の操舵トルクとの偏差を算出する操舵トルク偏差算出工程と、
該操舵トルク偏差算出工程において算出された前記偏差が所定値より大きいことに基づき、運転者が異常状態にあると判定する
前記把持力判定工程と、
を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の自動車の制御方法において、前記異常判定工程は、
運転者の運転初期時に、当該運転者の頭部の位置を特定する頭部初期位置特定工程と、
前記自動車が走行中に当該運転者の頭部の位置を検出する頭部位置検出工程と、
前記頭部初期位置特定工程によって記憶された位置と前記頭部位置検出工程によって検出された位置との偏差を演算する位置偏差演算工程と、
該位置偏差演算工程により算出された偏差が所定範囲を超えたことに応じて、運転者が異常状態にあると判定する
前記運転姿勢判定工程と、
を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の自動車の制御方法において、前記異常判定工程は、
運転者の運転初期時に、当該運転者の瞼の形状特性を特定する瞼初期形状特定工程と、
前記自動車の走行中に当該運転者の瞼の形状特性を検出する瞼形状特性検出工程と、
前記瞼初期形状特定工程によって記憶された形状特性と前記瞼形状特性検出工程によって検出された形状特性との偏差を演算する形状特性偏差演算工程と、
該形状特性偏差演算工程により算出された偏差が所定範囲を超えたことに応じて、運転者が異常状態にあると判定する
前記運転覚醒判定工程と、
を有することを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の自動車の制御方法において、
前記第2減速工程において、前記第1減速度で減速している前記自動車を前記第2減速度で減速させる際の第2躍度は、前記第1減速工程において、前記第1減速度で前記自動車を減速させる際の第1躍度よりも大きい、
ことを特徴とする自動車の制御方法。
【請求項6】
自動車の運転者の運転状態を検出する運転状態検出器、
前記自動車の車内へ情報を表示する表示器、
前記自動車に減速度を付与する減速機構、
前記自動車の乗員が操作可能な操作スイッチ、及び
前記運転状態検出器、前記表示器、前記減速機構、そして前記減速機構に電気的に接続された制御器、
を有する自動車の制御装置であって、前記制御器は、
前記運転状態検出器からの入力信号に基づいて、前記自動車の運転者が運転する能力を失っている異常状態にあるか否かについて判定し、
当該運転者が異常状態にあることを判定した場合に、取り消し操作が可能であることを表示する様に前記表示器を制御し、
当該運転者が異常状態にあることを判定した場合に、第1減速度で前記自動車を減速させる作動をするように前記減速機構を制御し、
前記自動車の減速を開始してから所定期間内に、前記操作スイッチからの入力信号に基づいて、前記自動車の乗員が前記操作スイッチを操作しなかったと判定した場合に、前記第1減速度より大きい第2減速度で前記自動車が停車するまで減速するように前記減速機構を制御し、そして
前記自動車の減速を開始してから所定期間内に、前記操作スイッチからの入力信号に基づいて、前記自動車の乗員が前記操作スイッチを操作したと判定した場合に、前記第1減速度で前記自動車を減速させる作動を中止するように前記減速機構を制御する様に構成され
、
前記運転状態検出器は、
前記自動車の走行車速を検出する速度検出器と、
前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記自動車の運転者の頭部の位置を検出する頭部位置検出部と、
前記自動車の運転者の瞼の形状特性を検出する瞼形状検出部と、を有し、
前記制御器は、前記速度検出器からの入力信号に基づいて、
前記自動車の速度が第1車速以上であることを検出した場合に、前記操舵トルク検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定し、
前記自動車の速度が前記第1車速より小さい第2車速以上であることを検出した場合に、前記頭部位置検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定し、
前記自動車の速度が前記第2車速より小さいことを検出した場合に、前記瞼形状検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定する、
ことを特徴とする自動車の制御装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の自動車の制御装置において
、
前記制御器は、前記操舵トルク検出部からの入力信号に基づいて、前記自動車の現在の走行に必要な基準操舵トルクと、検出された操舵トルクとの偏差が所定値を超える場合に、当該運転者が異常状態にあると判定する、
ことを特徴とする自動車の制御装置。
【請求項8】
請求項
6に記載の自動車の制御装置において
、
前記制御器は、前記頭部位置検出部からの入力信号に基づいて、現時点の頭部位置と運転初期時の頭部位置との偏差が所定範囲を超えた場合に、当該運転者が異常状態にあると判定する、
ことを特徴とする自動車の制御装置。
【請求項9】
請求項
6に記載の自動車の制御装置において
、
前記制御器は、前記瞼形状検出部からの入力信号に基づいて、現時点の瞼形状と運転初期時の瞼形状の偏差が所定範囲を超えた場合に、当該運転者が異常状態にあると判定する、
ことを特徴とする自動車の制御装置。
【請求項10】
請求項
6乃至
9のいずれか1項に記載の自動車の制御装置において、
前記制御器は、前記第1減速度で減速している前記自動車を前記第2減速度で減速させる際の第2躍度を、前記第1減速度で前記自動車を減速させる際の第1躍度よりも大にする、
ことを特徴とする自動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転者が運転する能力を失っているときに、自動車を減速させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の運転者が運転する能力を失っている異常状態(例えば、居眠り運転状態及び心身機能停止状態等)に陥っているか否かを判定し、そのような判定がなされた場合に自動車を減速させて停止させる装置(以下、「従来装置」と称呼する。)が提案されている。(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
運転者が異常状態にあるか否かの判定は、運転者が運転する能力を失っている状況が所定時間に渡って継続したか否かを判定することによりなされ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転者が異常状態に陥っているか否かを判定するには、比較的長い時間が必要である。したがって、運転者が異常状態に陥っている状況において、異常状態を判定するまでの比較的長い時間、自動車がそのまま走行し続ける恐れがある。
【0006】
一方で、異常判定をするまでの時間を短縮するために、異常判定の感度を上げると、運転者が正常であるときに、誤って運転者が異常状態にあると判定して、自動車を道路上に停止させてしまう。その結果、他の交通の妨げになる恐れがある。
【0007】
従来装置の中には、前記を解決するために、運転者が異常状態にあると誤って判定しても、運転者自らが、判定後の減速制御を取り消す機能を持つものがある。それらにおいては、取り消す動作を許容する所定の期間(以下、「取り消し期間」とも称呼する)が設けられている。
【0008】
この取り消し期間を設けることで、運転者が正常な場合において、運転者が自動車の運転に復帰することができるので、他の交通の妨げになることを極力回避できる。
【0009】
しかし、運転者が本当に異常である場合には、取り消し期間を設けることによって、自動車の減速開始が、本来減速すべき時点よりも遅れることになる。つまり、運転者が異常状態に陥っている状態で、自動車がそのまま走行し続けることになる。
【0010】
一方で、取り消し期間中に自動車の停止を目的とした減速を開始すると、自動車の車体姿勢が大きく変わり、運転者の取り消し動作を阻害し得る。この停止を目的とした減速は、一般の運転者が日常走行で停止までの制動において発生させる程度の減速であるので、最大減速度自体は、異常状態にある可能性のある運転者にとって大きな負担とはならない。
【0011】
一般的に、バネにより一部が構成されたサスペンションにより支えられた自動車の車体のピッチ角は、前後加速度に比例する。即ち、一定の減速度で減速させる定常減速では、ピッチ角は一定である。
【0012】
また、自動車を可能な限り早く定常減速に到達させるために、自動車の躍度(減速度の変化率もしくは時間微分)を大きくすると、車体のピッチ角速度が大きくなる。車体のピッチ角速度が大きいと運転者の姿勢、特に頭部位置の変化が大きくなる。結果として、異常状態にある運転者の肉体に、過度に負担がかかる恐れがある。さらに、運転者が正常状態にあって取り消し動作を行う場合においても、頭部位置の変化に伴い視線が大きく変化することで、取り消し動作が阻害され得る。
【0013】
一方で、取り消し期間最後に最大減速度に達するように躍度を小さくすると、取り消し期間中、常に減速度が変化している状態になる。この状態では、車体のピッチ角速度は比較的小さいが、常に変化しており、それに伴い頭部位置が常に変化するので視線を定めることが困難になり、やはり運転者の取り消し動作を阻害し得る。
【0014】
従って、取り消し期間中の自動車の減速を含む制御のあり方については、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本件発明者は、上述の取り消し期間を設ける場合の減速のあり方について、鋭意検討した結果、取り消し期間中は、取り消し動作を阻害しない程度に車体ピッチ角変化を抑制する様に減速度を小さめとし、取り消し期間終了後は、大きな車体ピッチ角速度が生じても、短時間で停車させることを優先して減速度を大きめとすることで、誤って異常状態と判定された運転者がその判定を確実に取り消すことが出来る様にしながら、異常状態が正しく判定された場合には運転者の安全を最大限確保することが出来ることを見出した。
【0016】
この考え方を具現化した自動車制御方法である第1の発明は、自動車の運転者が運転する能力を失っている異常状態にあるか否かについて判定する異常判定工程と、前記異常判定工程において運転者が異常状態にあることを判定した際に、取り消し操作が可能であることを表示する表示工程と、前記異常判定工程において運転者が異常状態にあることを判定した際に、第1減速度で前記自動車を減速させる第1減速工程と、前記第1減速工程における減速を開始した後、所定期間、取り消し操作の有無を判定する取り消し操作判定工程と、前記取り消し操作判定工程において前記所定期間が経過するまでに、取り消し操作がなかったと判定した場合に、前記第1減速度より大きい第2減速度で前記自動車を減速させることによって停車させる第2減速工程と、を有する。そして前記取り消し操作判定工程において前記所定期間が経過するまでに、取り消し操作があったと判定した場合に、前記第1減速工程による第1減速度での減速を中止する。
【0017】
この第1の発明によれば、異常判定工程において運転者が異常状態であると判定された場合、表示工程においてその判定に対する取り消し操作が可能であることが表示される。それと同時に第1減速工程と取り消し操作判定工程に進み、第1減速度で自動車を減速させる。そして、取り消し操作判定工程により、所定期間内に取り消し操作がなかったと判定したときには、第2減速工程に進み、第1減速度より大きい第2減速度で自動車を減速させる。一方、取り消し操作判定工程により、所定期間内に取り消し操作があったと判定したときには、第1減速工程による第1減速度での減速を中止する。
【0018】
これにより、運転者が異常状態にあるとの判定に基づく自動車の減速と共に開始した、取り消し期間における減速度(第1減速度)を、取り消し動作を阻害しない様に小さめに設定する一方、この期間経過後の減速度(第2減速度)は自動車停止までの時間を短くする様に大きめに設定することが出来るので、取り消し操作と短時間での停車の双方を確実なものとすることができる。
【0019】
より詳細に、第1減速度は第2減速度よりも小さい減速度である。第1減速工程において、減速度ゼロの状態から第1減速度に至るまでの自動車の躍度は、比較的小さい。躍度が小さいため、車体のピッチ角速度が小さく、運転者の姿勢の変化、特に頭部位置の変化は小さい。正常状態の運転者が取り消し動作を行おうとした場合、その動作が阻害されにくい。
【0020】
また、第1減速工程における減速を開始した後の取り消し操作判定工程は、所定期間継続するが、この所定期間中は、減速度が第1減速度で一定である。所定期間中は、躍度がゼロである。運転者の姿勢の変化が起きにくいため、取り消し操作判定工程における所定期間中も、正常状態の運転者が取り消し操作を行うことが、阻害されにくい。
【0021】
第1減速工程及び取り消し操作判定工程によって、正常状態の運転者は、取り消し操作を確実に行い得る。
【0022】
一方、取り消し操作判定工程により、所定期間内に取り消し操作がなかったと判定した場合は、第2減速工程において、自動車は第2減速度で減速される。自動車は、第1減速工程において既に第1減速度で減速しているから、第2減速工程においては、減速度が第1減速度から第2減速度への変化となる。第2減速度に至るまでの自動車の躍度は、比較的小さい躍度に抑えられる。この場合も、車体のピッチ角速度が小さく、運転者の姿勢の変化は小さい。第2減速工程に至った場合、運転者は異常状態にあると推定されるが、躍度が小さいため、運転者の肉体に、過度に負担がかかることが抑制できる。その上で、第2減速工程においては相対的に大きい第2減速度で自動車を減速することにより、自動車は、短時間で停車する。
【0023】
上述のように、第1の発明は、運転者が異常状態に陥っている状況において、自動車がそのまま走行し続ける事態と、運転者が正常であるときに、誤って運転者が異常状態にあると判定して、自動車を道路上に停止させ、他の交通の妨げになる事態とが起きる可能性を大幅に低減することが出来る。
【0024】
この効果は、異常判定工程における判定の感度向上と判定の時間の短縮を図ることで、さらに高めることが出来る。
【0025】
自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、自動車の運転者が入力している操舵トルクと、自動車の走行状態に応じて定まる基準操舵トルクとの間に乖離がある。
【0026】
この知見に基づいて、第1の発明の異常判定工程が、前記自動車の現在の走行に必要な基準操舵トルクを算出する基準操舵トルク算出工程と、前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する実際の操舵トルクを検出する操舵トルク検出工程と、前記基準操舵トルク算出工程により算出された基準操舵トルクと、前記操舵トルク検出工程により検出された運転者による実際の操舵トルクとの偏差を算出する操舵トルク偏差算出工程と、該操舵トルク偏差算出工程において算出された前記偏差が所定値より大きいことに基づき、運転者が異常状態にあると判定する、把持力判定工程を有する、としてもよい。
【0027】
自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、筋肉が弛緩しているため自動車の運転者は姿勢を保つことが困難である。ところが、自動車の運転者が異常に陥っている状況においても、胴体はシートにシートベルトで固定されているため、自動車の運転者が姿勢を保っているか、否かを胴体部で判定することは困難である。しかし、頭部はヘッドレストに固定されておらず、自動車の運転者が異常状態に陥っている状況における運転者の頭部の位置は、自動車の運転者が正常状態であって前方を向いて運転している状況における頭部の位置と比較して大きくずれている。
【0028】
この知見に基づいて、第1の発明の異常判定工程が、運転者の運転初期時に、当該運転者の頭部の位置を特定する頭部初期位置特定工程と、前記自動車が走行中に当該運転者の頭部の位置を検出する頭部位置検出工程と、前記頭部初期位置特定工程によって記憶された位置と前記頭部位置検出工程によって検出された位置との偏差を演算する位置偏差演算工程と、該位置偏差演算工程により算出された偏差が所定範囲を超えたことに応じて、運転者が異常状態にあると判定する運転姿勢判定工程を有する、としてもよい。
【0029】
さらに、自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、自動車の運転者の目が閉じ気味になっていることが多い。
【0030】
この知見に基づいて、第1の発明の異常判定工程が、運転者の運転初期時に、当該運転者の瞼の形状特性を特定する瞼初期形状特定工程と、前記自動車の走行中に当該運転者の瞼の形状特性を検出する瞼形状特性検出工程と、前記瞼初期形状特定工程によって記憶された形状特性と前記瞼形状特性検出工程によって検出された形状特性との偏差を演算する形状特性偏差演算工程と、該形状特性偏差演算工程により算出された偏差が所定範囲を超えたことに応じて、運転者が異常状態にあると判定する運転覚醒判定工程を有する、としてもよい。
【0031】
上述のように、運転者の異常判定の具体的な方法は複数考えられる。これらの方法の判定感度と判定時間は、車速によって変わってくる。したがって、運転者の異常判定の具体的な方法は、車速に応じて複数の方法の中から使い分けることによって、異常判定における判定感度向上と判定時間短縮を高次元で両立できる。
【0032】
この知見に基づいて、第1の発明の異常判定工程は、自動車の速度を判定する前記走行車速判定工程と、前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する操舵トルクに基づいて、前記運転者が異常状態にあるか否かを判定する前記把持力判定工程と、前記運転者の頭部の位置に基づいて、前記運転者が異常状態にある否かを判定する前記運転姿勢判定工程と、前記運転者の瞼の形状特性に基づいて、前記運転者が異常状態にある否かを判定する前記運転覚醒判定工程と、を有し、前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が第1車速以上であることを判定したときに、前記把持力判定工程を実行し、前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が前記第1車速より小さい第2車速以上であることを判定したときに、前記運転姿勢判定工程を実行し、前記走行車速判定工程において前記自動車の速度が前記第2車速より小さいことを判定したときに、前記運転覚醒判定工程を実行する。
【0033】
前記第2減速工程において、前記第1減速度で減速している前記自動車を前記第2減速度で減速させる際の第2躍度は、前記第1減速工程において、前記第1減速度で前記自動車を減速させる際の第1躍度よりも大きい、としてもよい。
【0034】
こうすることで、第2減速工程において、自動車を第2減速度まで速やかに減速させることができ、その結果、自動車を速やかに停車させることができる。
【0035】
第2の発明は、第1の発明である減速制御方法を実行する減速制御装置である。即ち、自動車の運転者の運転状態を検出する運転状態検出器、前記自動車の車内へ情報を表示する表示器、前記自動車に減速度を付与する減速機構、前記自動車の乗員が操作可能な操作スイッチ、及び前記運転状態検出器、前記表示器、前記減速機構、そして前記減速機構に電気的に接続された制御器、を有する自動車の制御装置である。そして、前記制御器は、前記運転状態検出器からの入力信号に基づいて、前記自動車の運転者が運転する能力を失っている異常状態にあるか否かについて判定し、当該運転者が異常状態にあることを判定した場合に、取り消し操作が可能であることを表示する様に前記表示器を制御し、当該運転者が異常状態にあることを判定した場合に、第1減速度で前記自動車を減速させる作動をするように前記減速機構を制御し、前記自動車の減速を開始してから所定期間内に、前記操作スイッチからの入力信号に基づいて、前記自動車の乗員が前記操作スイッチを操作しなかったと判定した場合に、前記第1減速度より大きい第2減速度で前記自動車が停車するまで減速するように前記減速機構を制御し、そして前記自動車の減速を開始してから所定期間内に、前記操作スイッチからの入力信号に基づいて、前記自動車の乗員が前記操作スイッチを操作したと判定した場合に、前記第1減速度で前記自動車を減速させる作動を中止するように前記減速機構を制御する様に構成される。
【0036】
この第2の発明によれば、運転者が異常状態にあることが判定されると、その判定に対する取り消し操作が可能であることが表示器に表示されると共に、第1減速度で自動車が減速する。それから所定期間内に、運転者が操作スイッチを操作しなかった場合には、第1減速度より大きい第2減速度で自動車が減速する。
【0037】
一方、所定期間内に、運転者が操作スイッチを操作した場合には、第1減速度での自動車の減速が中止される。
【0038】
これにより、運転者が異常状態にあることを判定に基づく自動車の減速と共に開始した取り消し期間における減速度(第1減速度)を、取り消し動作を阻害しない様に小さめに設定する一方、この期間経過後の減速度(第2減速度)は自動車停止までの時間を短くする様に減速度を大きめに制御することが出来るので、取り消し操作と短時間での停車の双方を確実なものとすることができる。
【0039】
上述のように、第2の発明は、運転者が異常状態に陥っている状況において、自動車がそのまま走行し続ける事態と、運転者が正常であるときに、誤って運転者が異常状態にあると判定して、自動車を道路上に停止させ、他の交通の妨げになる事態とが起きる可能性を大幅に低減することが出来る。
【0040】
この効果は、運転状態検出器の判定の感度向上と時間短縮を図ることで、さらに高めることが出来る。
【0041】
自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、操舵トルク検出器が検出した、自動車の運転者による操舵トルクと、制御器が計算した自動車の走行状態に適した基準操舵トルクとの間に乖離がある。
【0042】
このことから、第2の発明の運転状態検出器は、自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルク検出部を含み、前記制御器は、前記操舵トルク検出部からの入力信号に基づいて、前記自動車の現在の走行に必要な基準操舵トルクと、検出された操舵トルクとの偏差が所定値を超える場合に、当該運転者が異常状態にあると判定する、としてもよい。
【0043】
また、自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、自動車の運転者は姿勢を保つことが困難である。運転者が姿勢を保てない状態か、否かは頭部の動きに顕著にみられ、過去と現在の頭部位置を比較することで、運転状態を検出できる。
【0044】
このことから、第2の発明の運転状態検出器は、前記自動車の運転者の頭部の位置を検出する頭部位置検出部を含み、前記制御器は、前記頭部位置検出部からの入力信号に基づいて、現時点の頭部位置と運転初期時の頭部位置との偏差が所定範囲を超えた場合に、当該運転者が異常状態にあると判定する、としてもよい。
【0045】
さらに、自動車の運転者が異常状態に陥っている状況においては、自動車の運転者の目は閉じ気味になっていることが多い。
【0046】
このことから、第2の発明の運転状態検出器は、前記自動車の運転者の瞼の形状特性を検出する瞼形状検出部を含み、前記制御器は、前記瞼形状検出部からの入力信号に基づいて、現時点の瞼形状と運転初期時の瞼形状の偏差が所定範囲を超えた際に、当該運転者が異常状態にあると判定する、としてもよい。
【0047】
第2の発明では、複数種類の運転状態検出器を電気的に制御器と接続することが好ましい。何故なら、これらの運転状態検出器からの入力に基づいてなされる運転者の異常判定の判定感度と判定時間は、車速によって変わってくる。したがって、複数種類の運転状態検出器から信号を制御器へ入力して、車速に応じてこれらの信号を使い分けることによって、異常判定における判定感度向上と判定時間短縮を高次元で両立できる。
【0048】
このことから、第2の発明の運転状態検出器は、前記自動車の走行車速を検出する速度検出器と、前記自動車のステアリングホイールに連結されたコラムシャフトに作用する操舵トルクを検出する前記操舵トルク検出部と、前記自動車の運転者の頭部の位置を検出する前記頭部位置検出部と、前記自動車の運転者の瞼の形状特性を検出する前記瞼形状検出部と、を有し、前記制御器は、前記速度検出器からの入力信号に基づいて、前記自動車の速度が第1車速以上であることを検出した場合に、前記操舵トルク検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定し、前記自動車の速度が前記第1車速より小さい第2車速以上であることを検出した際に、前記頭部位置検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定し、前記自動車の速度が前記第2車速より小さいことを検出した場合に、前記瞼形状検出部からの入力信号に基づいて、当該運転者が異常状態にあるか否かを判定する。
【0049】
前記制御器は、前記第1減速度で減速している前記自動車を前記第2減速度で減速させる際の第2躍度を、前記第1減速度で前記自動車を減速させる際の第1躍度よりも大にする、としてもよい。
【0050】
こうすることで、自動車を第1減速度から第2減速度まで速やかに減速させることができ、操作スイッチによって取り消し操作がされない場合、自動車を速やかに停車させることができる。
【発明の効果】
【0051】
以上説明したように、本願発明によれば、運転者が異常状態に陥っている状況において、自動車がそのまま走行し続ける事態と、運転者が正常であるときに、誤って運転者が異常状態にあると判定して、自動車を道路上に停止させ、他の交通の妨げになる事態とが起きる可能性を大幅に低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】本発明の実施形態による自動車の制御装置にかかる自動車の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態による制御装置が適用された自動車の車内空間を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態による自動車の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態による自動車の運転手が異常状態にあるか否かを判定する異常判定工程のフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態による自動車の制御のフローチャートである。
【
図6A】本発明の実施形態による自動車の制御における、異常判定に関するパラメータ、停車までの減速制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図6B】本発明の実施形態による自動車の制御における、異常判定に関するパラメータ、停車までの減速制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図7A】本発明の実施形態による自動車の制御における、異常判定に関するパラメータ、停車までの減速制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図7B】本発明の実施形態による自動車の制御における、異常判定に関するパラメータ、停車までの減速制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【
図8】本発明の実施形態による表示される画面例である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
<システム構成>
まず、
図1により、本発明の実施形態による自動車の制御装置を搭載した自動車のシステム構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による自動車の制御装置を搭載した自動車の全体構成を示すブロック図である。
【0054】
図1において、符号1は、本実施形態による自動車の制御装置を搭載した自動車を示す。自動車1の車体前部には、駆動輪(
図1の例では左右の前輪2)を駆動するエンジンや電気モータ等の動力源4が搭載されている。
【0055】
また、当該自動車1を操舵するための操舵装置(ステアリングホイール6など)と、この操舵装置においてステアリングホイール6に連結されたステアリングコラムの回転角度を検出する操舵角センサ8と、ステアリングホイール6と前輪2とを連結するコラムシャフトに作用する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ9と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダル踏込量を検出するアクセル開度センサ11と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ12と、車速を検出する車速センサ23と、加速度を検出する加速度センサ24と、を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ100に出力する。このコントローラ100は、例えばECU(Electronic Control Unit)などを含んで構成される。
【0056】
また、自動車1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)16のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御装置47を備えている。ブレーキ制御装置47は、各車輪に設けられたブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ17を備えている。液圧ポンプ17は、例えばバッテリから供給される電力で駆動され、ブレーキペダルが踏み込まれていないときであっても、各ブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成することが可能となっている。また、ブレーキ制御装置47は、各車輪のブレーキ装置16への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ17から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット18(具体的にはソレノイド弁)を備えている。例えば、バッテリからバルブユニット18への電力供給量を調整することによりバルブユニット18の開度が変更される。また、ブレーキ制御装置47は、液圧ポンプ17から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を検出する液圧センサ19を備えている。液圧センサ19は、例えば各バルブユニット18とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット18の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ100に出力する。
【0057】
ブレーキ制御装置47は、コントローラ100から入力された制動力指令値や液圧センサ19の検出値に基づき、各車輪のホイールシリンダやブレーキキャリパのそれぞれに独立して供給する液圧を算出し、それらの液圧に応じて液圧ポンプ17の回転数やバルブユニット18の開度を制御する。
【0058】
動力源制御装置46は、自動車1に搭載されている動力源4を制御する。動力源制御装置46は、動力(駆動力)を調整可能な構成部であり、例えば、点火プラグや、燃料噴射弁や、スロットルバルブや、吸排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構などを含む。コントローラ100は、自動車1を減速させる必要がある場合に、動力源制御装置46に対して、動力を変更するために制御信号を送信する。
【0059】
図2は、本発明の実施形態による自動車制御システムが適用された自動車の車内空間を示す模式図である。
図2に示すように、車室内には、センターディスプレイ41及びメータ装置42が組み込まれたインストルメントパネル40や、センターコンソール32などが設けられている。センターディスプレイ41は、運転席及び助手席の前方で且つ車幅方向におけるほぼ中央位置に設けられ、LCD(liquid crystal display)により構成されている。メータ装置42は、ステアリングホイール6の前方に設けられ、速度やエンジン回転数やギヤレンジなどの表示機器を含む。センターコンソール32には、運転者が異常判定の取り消し操作をする取り消し操作装置34が設けられている。1つの例では、取り消し操作装置34は、ダイヤル式のロータリースイッチにより構成される。尚、操作装置34は、センターディスプレイ41を通じて行う、取り消し操作以外の様々な操作にも利用される。
【0060】
次に、
図3に示すように、自動車の制御装置は、ECU(Electronic Control Unit)などを含むコントローラ100と、コントローラ100に所定の信号を出力する複数のセンサ類と、コントローラ100から入力された制御信号により制御される複数の装置と、を有する。コントローラ100は、自動車1の走行中において、運転者の異常を判定したときに、自動車1を緊急で自動的に停車させる自動停車制御を行うように構成されている。
【0061】
具体的には、複数のセンサ類には、車内カメラ20、車外カメラ21、レーダ22や、自動車1の挙動や乗員による運転操作を検出するための、車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25、操舵角センサ8、操舵トルクセンサ9、アクセル開度センサ11、及びブレーキ踏込量センサ12が含まれている。さらに、複数のセンサ類には、自動車1の位置を検出するための測位システム30、ナビゲーションシステム31、及び、前述した取り消し操作装置34が含まれている。コントローラ100により制御される複数の装置には、センターディスプレイ41、動力源制御装置46、ブレーキ制御装置47が含まれている。コントローラ100は、1つ以上のプロセッサ(典型的にはCPU)と、各種プログラムを記憶するメモリ(ROM、RAMなど)と、入出力装置などを備えたコンピュータにより構成される。
【0062】
車内カメラ20は、車室内を撮影し、特に運転者を撮影し、画像データを出力する。コントローラ100は、車内カメラ20から受信した画像データに基づいて、運転者の頭部位置などを分析して、運転者が異常であるか否かを判定する。例えば、コントローラ100は、分析された運転者の頭部位置が、運転者が自動車1を通常運転するときには在り得ない位置にある場合に、運転者が異常であると判定する。
【0063】
車内カメラ20はまた、運転者の瞼形状の計測にも利用される。コントローラ100は、車内カメラ20から受信した画像データに基づいて、運転者の瞼が、継続的に閉じていることを分析して、運転者が異常であるか否かを判定する。なお、車内カメラ20は、本発明における「運転状態検出器」の一例に相当する。
【0064】
車外カメラ21は、自動車1の周囲を撮影し、画像データを出力する。コントローラ100は、車外カメラ21から受信した画像データに基づいて、対象物(例えば、先行自動車(前方自動車)、後続自動車(後方自動車)、走行路、区画線(車線境界線、白線、黄線)等)を特定する。なお、コントローラ100は、交通インフラや車々間通信等により、外部から対象物の情報を取得してもよい。これにより、対象物の種類、相対位置、移動方向等が特定される。
【0065】
レーダ22は、対象物(特に、先行自動車、後続自動車等)の位置及び速度を測定する。レーダ22として、例えばミリ波レーダを用いることができる。レーダ22は、自動車1の進行方向に電波を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、自動車1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や、自動車1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、このようなレーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定してもよい。また、複数のセンサ類を用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
【0066】
車速センサ23は、自動車1の絶対速度を検出する。加速度センサ24は、自動車1の加速度を検出する。この加速度は、前後方向の加速度と、横方向の加速度(つまり横加速度)とを含む。なお、加速度には、速度が増加する方向の速度の変化率だけでなく、速度が減少する方向の速度の変化率(つまり減速度)も含むものとする。
【0067】
ヨーレートセンサ25は、自動車1のヨーレートを検出する。操舵角センサ8は、自動車1のステアリングの回転角度(操舵角)を検出する。コントローラ100は、車速センサ23が検出した絶対速度、及び、操舵角センサ8が検出した操舵角に基づいて所定の演算を実行することにより、自動車1のヨー角、及び車体スリップ角を取得することができる。
【0068】
測位システム30は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、自動車1の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーションシステム31は、内部に地図情報を格納しており、コントローラ100に地図情報を提供することができる。コントローラ100は、地図情報及び現在自動車位置情報に基づいて、自動車1の周囲(特に、進行方向)の道路の曲率を特定する。地図情報は、コントローラ100内に格納されていてもよい。なお、ナビゲーションシステム31も、前記した走行路情報を取得するものである。
【0069】
取り消し操作装置34は、
図2に示したようにセンターコンソール32に設けられ、センターディスプレイ41に表示された選択肢を実行するため等に操作される。
【0070】
センターディスプレイ41は前記の通りインストルメントパネル40に組み込まれている。ここで、センターディスプレイ41は、本発明において、運転者が異常状態であるということが判定され、その取り消し操作手段を表示するために用いられている。
【0071】
<自動停車制御>
次に、
図4乃至
図8を参照して、本発明の実施形態による自動車の制御について具体的に説明する。自動停車制御は、自動車1の運転手が、運転不能となった異常状態になると、自動車1を減速させて停車させる制御である。
【0072】
図4は、本発明の実施形態による自動車の運転手が異常状態にあるか否かを判定する異常判定処理のフローチャートであり、
図5は、本発明の実施形態による自動車の減速制御処理のフローチャートである。
【0073】
図4に示す異常判定処理は、コントローラ100によって所定の周期で繰り返し実行される。まず、ステップS1において、コントローラ100は、
図3に示した各種センサから情報を取得する。
【0074】
次にステップS2に進み、車速センサ23から取得された車速Vxが5km/h以上であるか否かを判定する。ステップS2において5km/h未満と判定すると、異常判定処理を再び開始し、車速が5km/h以上となるまで繰り返す。車速が5km/h以上になると、ステップS3に進み、車速Vxが10km/h以上であるか否かを判定する。ステップS3において車速が10km/h以上であると判定すると、ステップS4に進み、車速Vxが60km/h以上であるか否かを判定する。ステップS4において、車速が60km/h以上であると判定すると、把持力判定工程S5乃至S7に進む。
【0075】
ステップS5において、コントローラ100は、車外カメラ21、レーダ22、操舵角センサ8、加速度センサ24等の出力に基づき現在の走行に必要な基準操舵トルクを算出する。そして、ステップS6において、操舵トルクセンサ9から取得した実際の操舵トルクと基準操舵トルクとの偏差を算出する。ステップS7において、この偏差と、コントローラ100に備えられたメモリに保存された操舵トルク偏差の閾値と、を比較して、偏差が閾値より大きい場合には、ステップS13へ進み異常判定フラグをセットする(flag_1 = 1)。運転者による、ステアリングホイール6を把持する力が低下すると、必要な基準操舵トルクに対して、実際の操舵トルクが大幅に小さくなる。運転者が運転する能力を失っているか否かの判断において、把持力と操舵トルクとの間には相関がある。
【0076】
ステップS13において異常判定フラグをセットすれば、制御プロセスは減速制御処理へ移行する。
【0077】
一方で、ステップS4において、車速が60km/h未満と判定すると、運転姿勢判定工程S8乃至S10に進む。ステップS8において、コントローラ100は、車内カメラ20により撮影された運転者の画像の出力に基づき現在の運転者の頭部位置を求める。運転者の頭部位置は、二点以上の計測位置によって定められる。各計測位置は、予め設定されている。運転者の頭部位置を求めれば、過去に学習して記憶している同一の運転者の頭部位置との偏差を算出する。過去に学習して記憶している同一の運転者の頭部位置は、例えば当該運転者の運転初期時、つまり、自動車に乗車した運転者がスタートスイッチをオンにして自動車の運転を開始した時における頭部位置である。
【0078】
運転者が異常状態に陥っている状況において、シートベルトによって固定されていない運転者の頭部の位置は、運転者が正常状態であって前方を向いて運転している状況における頭部の位置と比較して大きくずれる。運転者の頭部の位置に基づけば、運転者が異常状態に陥っていることを精度良く判断できる。
【0079】
ステップS9において、この偏差と、過去に学習して記憶している頭部位置偏差の閾値と、を比較して、偏差が閾値より大きい場合(ステップS9:Yes)には、ステップS10へ進む。ステップS10において、操舵トルクセンサ9から取得した実際の操舵トルクと操舵トルクの閾値と、を比較して、実際の操舵トルクが閾値より小さい場合(ステップS10:Yes)、ステップS13へ進み異常判定フラグをセットする(flag_1 = 1)。頭部位置と操舵トルクとの両方に基づいて、運転者が運転操作を実質的に行っていないことを精度良く判断できる。
【0080】
一方で、ステップS3において、車速が10km/h未満と判定すると、覚醒判定工程S11乃至S12に進む。ステップS11において、コントローラ100は、車内カメラ20により撮影された運転者の画像の出力に基づき現在の運転者の瞼形状を求める。瞼形状は、具体的には、運転者の上瞼と下瞼との鉛直方向の距離を少なくとも含む。そして、過去に学習して記憶している同一の運転者の瞼形状との偏差を算出する。過去に学習して記憶している同一の運転者の瞼形状とは、当該運転者の運転初期時、つまり、自動車に乗車した運転者がスタートスイッチをオンにして自動車の運転を開始した時における瞼形状である。つまり、当該偏差が大きい場合、運転者は瞼を閉じている可能性が高い。ステップS12において、この偏差と、過去に学習して記憶している瞼形状偏差の閾値と、を比較して、偏差が閾値より大きい場合(ステップS12:Yes)には、ステップS13へ進み異常判定フラグをセットする(flag_1 = 1)。
【0081】
次いで、減速制御処理へ進んだ後のフローを
図5に示す。
【0082】
運転者に異常が発生していると判定された場合(ステップS21:Yes)、減速制御処理がスタートした時点のCPUタイム(IG ONしてからの経過時間)(t1)をコントローラ100に備えられたメモリに保存する。制御プロセスは、ステップS22、及びステップS23に並行して進む。運転者に異常が発生していると判定されなかった場合(ステップS21:No)、異常判定処理へと戻る。
【0083】
ステップS22では、コントローラ100は、減速制御処理に進んでいること、及び、
図8(a)にあるように運転者が異常状態にあるという判定に対する取り消し操作方法を表示する様に、センターディスプレイ41を制御する。この間、現時点でのCPUタイム(t2)をコントローラ100は一定周期で取得する。
【0084】
ステップS23では、コントローラ100は、動力源制御装置46、及びブレーキ制御装置47を、加速度センサ24から検出される値が0.1g(第1減速度)になる様に制御する。つまり、第1減速工程を開始する。
【0085】
ステップS24では、コントローラ100は、取り消し操作装置34からの信号を取得する。取り消し操作が行われたと判定した場合(ステップS25:Yes)にはステップS26へ進み、取り消し操作が行われていないと判定した場合(ステップS25:No)にはステップS27へ進む。
【0086】
ステップS26では、取り消し操作判定フラグをセットする(flag_2 = 1)。取り消し操作判定フラグflag_2は、デフォルトが0である。
【0087】
ステップS27では、取り消し操作判定フラグ(flag_2)が0の場合(ステップS27:Yes)はS28へ進み、取り消し判定フラグ(flag_2)が1の場合(ステップS27:No)はS32へ進む。
【0088】
ステップS28では、減速制御処理がスタートした時の時間(t1)と、現在の時間(t2)との差分の絶対値(Δt)を算出する。ステップS29では、算出した経過時間Δtと所定期間Tthとを比較する。所定期間Tthは、異常判定が誤判定であっても、運転者が取り消し操作を行う時間を十分に確保できる時間に設定すればよい。所定期間Tthを適切な時間に設定することによって、異常判定が正しい場合には、後述する第2減速工程に速やかに進むことができ、自動車を速やかに停車できる。
【0089】
差分の絶対値が所定期間未満(ステップS29:No)であれば、ステップS24へと戻り、差分の絶対値が所定期間以上(ステップS29:Yes)であれば、ステップS30へ進む。ステップS24乃至ステップS29のサンプリング周期はできるだけ短くすることが好ましい。
【0090】
ステップS30では、コントローラ100は、動力源制御装置46、及びブレーキ制御装置47を、加速度センサ24から検出される値が0.4g(第2減速度)となる様に制御する。つまり、第2減速工程が開始される。この時に、コントローラ100は、センターディスプレイ41に、0.4g(第2減速度)で減速を開始していることを、
図8(b)にあるように表示させ、運転者に停止を目的とした減速中であることを知らせる。
【0091】
コントローラ100は、車速センサ23から検知された車速が0の場合(ステップS31:Yes)、自動車が停止したと判定し、減速制御処理を終了する。コントローラ100は、車速が0でなければ(ステップS31:No)、ステップS30に戻り、動力源制御装置46、及びブレーキ制御装置47の制御を継続する。
【0092】
取り消し操作装置34からの信号をコントローラ100が取得した場合(ステップS27:No)、ステップS32において、コントローラ100は、ステップS23において開始した第1減速制御を終了すると共に、動力源制御装置46、及びブレーキ制御装置47の制御を自動制御から運転者による制御に切り替える。この時に、コントローラ100は、センターディスプレイ41に、第1減速度での減速を取り消したことを、
図8(c)にあるように表示させ、運転者に制御が移ったことを知らせる。
【0093】
次に、
図6A、6B、7A、及び7Bを参照して、本発明の実施形態による自動車の制御装置の作用について説明する。
図6A及び6Bは、本発明の実施形態による自動車の制御装置を搭載した自動車1の運転者が異常状態にあると判定され、且つ取り消し操作を行ったと判定されなかった場合(即ち
図5のステップS27:Yes)における、自動車の制御に関わる各種パラメータの時間変化、及び自動車に関わる各種物理量の時間変化を示すタイムチャートを例示している。
【0094】
図6Aにおいて、チャート(a)は、実際の操舵トルクと基準操舵トルクとの偏差である操舵トルク偏差を示し、チャート(b)は、運転者の頭部の実際の位置と記憶している頭部の位置との偏差である位置偏差を示し、チャート(c)は、運転者の瞼の実際の形状と記憶している形状との偏差である形状特性偏差を示し、チャート(d)は異常判定フラグ、チャート(e)は取り消し操作判定信号を示している。
図6Bにおいて、チャート(f)は車速を示し、チャート(g)は減速度を示し、(h)は躍度を示し、チャート(i)は、自動車の車体のピッチ角を示している。
【0095】
チャート(a)では
図4におけるステップS4がYesと判定された場合の操舵トルク偏差を例示している。チャート(a)に示すように操舵トルク偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。第1減速度が相対的に小さいため、躍度及びピッチ角変化は小さい。取り消し操作への影響は極力少ない。また、チャート(g)~(i)にある自動車に関わる各種物理量は、第1減速制御の開始後、速やかに一定となる。即ち、取り消し操作の実行が可能な所定期間Tth内においてピッチ角は、実質的に一定であるから、取り消し操作への影響は極力少ない。
【0096】
チャート(e)に示すように所定期間Tthの経過時点で取り消し操作判定信号が0のままである場合(即ち
図5のステップS29:Yes)、チャート(g)に示してあるように0.4gでの減速を開始する。この時、チャート(f)に示してあるように速度は0.1gでの減速より早く落ちる。また、チャート(h)に示してあるように躍度(第2躍度)は、0.1gでの減速を開始した時の躍度(第1躍度)よりも大きい。チャート(i)に示してあるようにピッチ角も0.1gでの減速をしている時よりも大きくなる。これは、運転者が異常状態にあり、速やかに停車することが好ましいからであると共に、運転者又は同乗者による、前記の取り消し操作が行われないためである。但し、既に第1減速度で減速を行っている分、第2躍度及びピッチ角の変化は小さい。異常状態にある運転者に、過度な負担がかかることが抑制される。
【0097】
チャート(b)では、
図4におけるステップS4がNoと判定された場合の、頭部の位置偏差を例示している。チャート(b)に示すように位置偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。チャート(e)に示すように所定期間Tthの経過時点で取り消し操作判定信号が0のである場合(即ち
図5のステップS29:Yes)、チャート(g)に示してあるように0.4gでの減速を開始する。この時、チャート(f)に示してあるように速度は0.1gでの減速より早く落ちる。
【0098】
チャート(c)では
図4におけるステップS3がNoと判定された場合の瞼の形状特性偏差を例示している。チャート(c)に示すように形状特性偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。チャート(e)に示すように所定期間Tthの経過時点で取り消し操作判定信号が0である場合(即ち
図5のステップS29:Yes)、チャート(g)に示してあるように0.4gでの減速を開始する。この時、チャート(f)に示してあるように速度は0.1gでの減速より早く落ちる。
【0099】
図7A及び7Bは、本発明の実施形態による自動車の制御装置を搭載した自動車1の運転者が異常状態にあると判定され、且つ取り消し操作を行ったと判定された場合(即ち
図5のステップS27:No)における、自動車の制御に関わる各種パラメータの時間変化、及び自動車に関わる各種物理量の時間変化を示すタイムチャートを例示している。
図7Aにおいて、チャート(a)は操舵トルク偏差を示し、チャート(b)は、運転者の頭部の位置偏差を示し、チャート(c)は、運転者の瞼の形状特性偏差を示し、チャート(d)は異常判定フラグ、チャート(e)は取り消し操作判定信号を示している。
図7Bにおいて、チャート(f)は車速を示し、チャート(g)は減速度を示し、(h)は躍度を示し、チャート(i)はピッチ角を示している。
【0100】
チャート(a)では
図4におけるステップS4がYesと判定された場合の操舵トルク偏差を例示している。チャート(a)に示すように操舵トルク偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。第1減速度が相対的に小さいため、躍度及びピッチ角変化は小さい。取り消し操作への影響は極力少ない。また、チャート(g)~(i)にある自動車に関わる各種物理量は、第1減速制御の開始後、速やかに一定となる。即ち、取り消し操作への影響は極力少ない。
【0101】
チャート(e)に示すように所定期間Tthが経過する前に取り消し操作判定信号が1になると(即ち
図5のステップS27:No)、チャート(d)に示してあるように異常判定を取り消しかつ、チャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を中止し、異常判定フラグが0の時と同じになる。この時、チャート(f)に示してあるように速度も異常判定フラグが1となる前まで回復する(尚、このチャートでは運転者がアクセル操作をしていない場合を例示しているが、運転者がアクセル操作をした場合には、より早く速度は異常判定フラグが1となる前まで回復する。)。また、チャート(i)に示してあるようにピッチ角も異常判定フラグが1となる前と同じとなる。
【0102】
チャート(b)では
図4におけるステップS4がNoと判定された場合の、頭部の位置偏差を例示している。チャート(b)に示すように位置偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。
【0103】
チャート(e)に示すように所定期間Tthが経過する前に取り消し操作判定信号が1になると(即ち
図5のステップS27:No)、チャート(d)に示してあるように異常判定を取り消しかつ、チャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を中止し、異常判定フラグが0の時と同じになる。この時、チャート(f)に示してあるように速度も異常判定フラグが1となる前まで回復する(尚、このチャートでは運転者がアクセル操作をしていない場合を例示しているが、運転者がアクセル操作をした場合には、より早く速度は異常判定フラグが1となる前まで回復する。)。また、チャート(i)に示してあるようにピッチ角も異常判定フラグが1となる前と同じとなる。
【0104】
チャート(c)では
図4におけるステップS3がNoと判定された場合の、瞼の形状特性偏差を例示している。チャート(c)に示すように形状特性偏差が閾値を上回った時点(t1)でチャート(d)に示した異常判定フラグが1になる。この時にチャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を開始する。それに伴いチャート(f)にあるように速度は減少する。さらに、チャート(h)に示してあるように躍度が立ち、チャート(i)に示してあるようにピッチ角に変化が起きる。
【0105】
チャート(e)に示すように所定期間Tthが経過する前に取り消し操作判定フラグが1になると(即ち
図5のステップS27:No)、チャート(d)に示してあるように異常判定を取り消しかつ、チャート(g)に示してあるように0.1gでの減速を中止し、異常判定信号が0の時と同じになる。この時、チャート(f)に示してあるように速度も異常判定フラグが1となる前まで回復する(尚、このチャートでは運転者がアクセル操作をしていない場合を例示しているが、運転者がアクセル操作をした場合には、より早く速度は異常判定フラグが1となる前まで回復する。)。また、チャート(i)に示してあるようにピッチ角も異常判定フラグが1となる前と同じとなる。
【0106】
前記の自動停車制御によれば、運転者が異常状態にあるとの判定に基づく自動車の減速と共に開始した、取り消し期間における減速度(第1減速度)を、取り消し動作を阻害しない様に小さめに設定する一方、この期間経過後の減速度(第2減速度)は自動車停止までの時間を短くする様に大きめに設定するので、取り消し操作と短時間での停車の双方を確実なものとすることができる。
【0107】
従って、前記の自動停車制御は、運転者が異常状態に陥っている状況において、自動車がそのまま走行し続ける事態と、運転者が正常であるときに、誤って運転者が異常状態にあると判定して、自動車を道路上に停止させ、他の交通の妨げになる事態とが起きる可能性を大幅に低減することが出来る。
【符号の説明】
【0108】
1自動車
2左右の前輪
4動力源
6ステアリングホイール
8操舵角センサ
9操舵トルクセンサ
11アクセル開度センサ
12ブレーキ踏込量センサ
16ブレーキ装置
17液圧ポンプ
18バルブユニット
19液圧センサ
20車内カメラ
21車外カメラ
22レーダ
23車速センサ
24加速度センサ
25ヨーレートセンサ
30測位システム
31ナビゲーションシステム
32センターコンソール
34取り消し操作装置
40インストルメントパネル
41センターディスプレイ
42メータ装置
46動力源制御装置
47ブレーキ制御装置
100コントローラ