(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】タイヤの数値解析モデルの作成方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20241112BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20241112BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20241112BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20241112BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20241112BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60C19/12 Z
G06F30/10 100
G06F30/15
G06F30/20
G06F30/23
G01M17/02
(21)【出願番号】P 2020172631
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】玉田 良太
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-228963(JP,A)
【文献】特開2008-262367(JP,A)
【文献】特開2006-011688(JP,A)
【文献】特開2000-296706(JP,A)
【文献】特開2008-217708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/12
G06F 30/23
G06F 30/10
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、
前記トレッドゴムの容積を取得する工程と、
コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、
前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの容積が前記トレッドゴムの前記容積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含む、
タイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項2】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、
前記トレッドゴムの接地面積を取得する工程と、
コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化し
、かつ、変形計算可能なトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、
前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの接地面積が前記トレッドゴムの前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含む、
タイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項3】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、
前記トレッドゴムの容積及び接地面積を取得する工程と、
コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、
前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの容積及び接地面積が前記トレッドゴムの前記容積及び前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含む、
タイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項4】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、
前記トレッドゴムの接地面積を取得する工程と、
コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、
前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの接地面積が前記トレッドゴムの前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程と、
前記タイヤ周方向溝及び/又は前記タイヤ軸方向溝を埋めるように、前記要素でモデル化された埋設モデルを定義する工程と、
前記埋設モデルの少なくとも一部の前記要素に、前記トレッドゴムよりも小さい弾性率を定義する工程とをさらに含む、
タイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項5】
前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記タイヤ周方向溝を、タイヤ周方向と平行な直線状に定義する工程と、
前記タイヤ軸方向溝を、タイヤ軸方向と平行な直線状に定義する工程とを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項6】
前記トレッドゴムの前記溝の少なくとも一部は、非直線状である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤの数値解析モデルの作成方法。
【請求項7】
前記コンピュータが、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法で作成された前記トレッドゴムモデルを含むタイヤの数値解析モデルを用いて、前記タイヤの性能を評価する工程を含む、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項8】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成する演算処理装置を具えた装置であって、
前記演算処理装置は、
前記トレッドゴムの容積及び接地面積を取得する物理量取得部と、
前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを取得するトレッドゴムモデル取得部とを含み、
前記トレッドゴムモデル取得部は、前記トレッドゴムモデルの容積及び接地面積が前記トレッドゴムの前記容積及び前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する、
タイヤの数値解析モデルの作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの数値解析モデルの作成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ性能をコンピュータ上で解析するためのタイヤ有限要素モデルを作成する方法が記載されている。この方法には、タイヤボディ部要素モデルを設定する処理と、トレッドパターン部要素モデルを設定する処理と、タイヤボディ部要素モデルにトレッドパターン部要素モデルを結合する処理とが含まれている。
【0003】
トレッドパターン部要素モデルを設定する処理では、タイヤ周方向にのびる縦溝とこの縦溝と交わる向きにのびる横溝とを有するタイヤのトレッドパターンが、タイヤボディ部要素モデルよりも詳細に、タイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素で分割されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでは、タイヤ性能の予測精度を高めるには、タイヤのトレッドパターンをより忠実にタイヤモデルに落とし込むことが必要と考えられていた。そして、そのような発想を前提にした場合、タイヤの数値解析モデルの作成に多くの時間を要するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤ性能の予測精度を低下させることがないタイヤの数値解析モデルを短時間で作成することができる方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、前記トレッドゴムの容積を取得する工程と、コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの容積が前記トレッドゴムの前記容積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明は、トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、前記トレッドゴムの接地面積を取得する工程と、コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの接地面積が前記トレッドゴムの前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明は、トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成するための方法であって、前記トレッドゴムの容積及び接地面積を取得する工程と、コンピュータに、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを入力する工程とを含み、前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記トレッドゴムモデルの容積及び接地面積が前記トレッドゴムの前記容積及び前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る前記タイヤの数値解析モデルの作成方法において、前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記タイヤ周方向溝を、タイヤ周方向と平行な直線状に定義する工程と、前記タイヤ軸方向溝を、タイヤ軸方向と平行な直線状に定義する工程とを含んでもよい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤの数値解析モデルの作成方法において、前記トレッドゴムの前記溝の少なくとも一部は、非直線状であってもよい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤの数値解析モデルの作成方法において、前記トレッドゴムモデルを入力する工程は、前記タイヤ周方向溝及び/又は前記タイヤ軸方向溝を埋めるように、前記要素でモデル化された埋設モデルを定義する工程と、前記埋設モデルの少なくとも一部の前記要素に、前記トレッドゴムよりも小さい弾性率を定義する工程とをさらに含んでもよい。
【0013】
本発明は、前記コンピュータが、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法で作成された前記トレッドゴムモデルを含むタイヤの数値解析モデルを用いて、前記タイヤの性能を評価する工程を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明は、トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、前記トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルを作成する演算処理装置を具えた装置であって、前記演算処理装置は、前記トレッドゴムの容積及び接地面積を取得する物理量取得部と、前記トレッドゴムを有限個の要素でモデル化したトレッドゴムモデルを取得するトレッドゴムモデル取得部とを含み、前記トレッドゴムモデル取得部は、前記トレッドゴムモデルの容積及び接地面積が前記トレッドゴムの前記容積及び前記接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを前記トレッドゴムモデルに定義することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイヤの数値解析モデルの作成方法は、上記の工程を採用したことにより、タイヤ性能の予測精度を低下させることがないタイヤの数値解析モデルを短時間で作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】タイヤの数値解析モデルの作成方法が実行されるコンピュータ(タイヤの数値解析モデルの作成装置)の一例を示すブロック図である。
【
図2】評価対象のタイヤの一例を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】タイヤの数値解析モデルの一例を示す断面図である。
【
図7】トレッドゴムモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】簡易パターン定義工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】タイヤ周方向溝のみを用いた簡易パターンが定義されたトレッドゴムモデルの一例を示す展開図である。
【
図10】埋設モデルの一例を示す部分断面図である。
【
図11】第2実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第2実施形態のトレッドゴムモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】タイヤの数値解析モデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【
図14】第3実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】第3実施形態のトレッドゴムモデル入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図16】タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図17】(a)は比較例の接地形状を示す平面図、(b)は実施例1の接地形状を示す平面図、(c)は実施例2の接地形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)は、コンピュータが用いられる。
【0018】
[タイヤの数値解析モデルの作成装置・シミュレーション装置]
図1は、タイヤの数値解析モデルの作成方法が実行されるコンピュータ(タイヤの数値解析モデルの作成装置)の一例を示すブロック図である。本実施形態のコンピュータ1は、タイヤの数値解析モデルの作成装置(以下、単に「作成装置」ということがある。)1A、及び、タイヤのシミュレーション装置(以下、単に「シミュレーション装置」ということがある)1Bとして構成されている。本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とを含んで構成されている。
【0019】
入力部2としては、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3としては、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。
【0020】
演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0021】
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0022】
データ部5は、評価対象のタイヤ及び路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶される初期データ部5A、物理量入力部5B、及び、モデル入力部5Cが含まれる。
【0023】
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。プログラム部6には、タイヤの物理量を取得する物理量取得部6Aと、ボディモデル取得部6Bと、トレッドゴムモデル取得部6Cとが含まれる。さらに、プログラム部6には、タイヤモデルの転動状態を計算する転動計算部6Dと、タイヤの性能を評価する評価部6Eとが含まれる。
【0024】
[タイヤ]
図2は、評価対象のタイヤ11の一例を示す断面図である。
図3は、
図2のトレッド部の展開図である。タイヤ11としては、乗用車用の空気入りタイヤ(本例では、四輪駆動車に適したオールシーズン用タイヤ)が例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。また、タイヤ11は、実在するか否かについては問われない。
【0025】
タイヤ11には、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15に至るカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内部に配されるベルト層17とが設けられている。
【0026】
カーカス16は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ16Aで構成される。一方、ベルト層17は、ベルトコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して例えば10~35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ17A、17Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ17A、17Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0027】
タイヤ11は、トレッド部12に、地面(路面)に接地するトレッドゴム12Gを備えている。トレッドゴム12Gは、トレッド部12において、ベルト層17のタイヤ半径方向の外側に配されている。
図2及び
図3に示されるように、トレッドゴム12Gには、複数の溝18によってトレッドパターンが形成されている。
【0028】
図3に示されるように、溝18は、タイヤ周方向にジグザグ状に延びる少なくとも1本(本例では、複数本)の主溝18Aを含んでいる。これにより、トレッド部12には、主溝18A、及び、トレッド接地端12tで区分された複数の陸部19が設けられる。各陸部19は、主溝18A、18A間を連通する横溝18Bによって、複数のブロック20に区分されている。ブロック20には、複数のサイプ10が設けられている。
【0029】
トレッド接地端12tは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ11に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたとき(正規荷重負荷状態)のトレッド接地面12Sのタイヤ軸方向の最外端とする。
【0030】
「正規リム」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0031】
「正規内圧」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0032】
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ11毎に定めている荷重である。正規荷重は、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0033】
本明細書において、タイヤ各部の寸法等は、特に断りがない場合、正規状態で測定された値として特定される。正規状態とは、タイヤ11が正規リム(
図2に示したリム33)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。
【0034】
図3に示されるように、本実施形態の溝18(主溝18A及び横溝18B)の少なくとも一部は、非直線状である。本実施形態において、非直線状とは、例えば、タイヤ周方向又はタイヤ軸方向と平行な直線状でない部分を含んでいることを意味している。例えば、タイヤ周方向にジグザグ状に屈曲している溝18(主溝18A)や、湾曲している溝(図示省略)は、非直線状である。
【0035】
図2に示されるように、本実施形態のタイヤ11は、トレッドゴム12Gと、トレッドゴム12Gを除いた部分であるボディ部11B(サイドウォールゴム13G、カーカス16及びベルト層17などを含む)とに区分される。
【0036】
[タイヤの数値解析モデルの作成方法(第1実施形態)]
次に、タイヤの数値解析モデルの作成方法が説明される。本実施形態のタイヤの数値解析モデルは、例えば、タイヤの性能を評価するシミュレーションに用いられる。
【0037】
ところで、タイヤの性能を正しく評価するためには、その前提として、タイヤの数値解析モデル(タイヤモデル)の接地形状が、実際のタイヤ11(
図2及び
図3に示す)の接地形状と一致ないし近似していることが重要である。そのためには、上記の特許文献1のように、タイヤ11のトレッドパターン(
図3に示す)を忠実に落とし込んだ(再現した)数値解析モデルを作成することが考えられる。しかしながら、その作成には、多くの時間(多大な手間、及び、工数)を要するという問題がある。
【0038】
発明者らは、上記の問題を解決するために、鋭意研究を重ねた。その結果、タイヤ11のトレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、後述のトレッドゴムモデルの容積を定義すると、トレッドゴムモデルに簡易なパターンを定義しても、その接地形状を、実際のタイヤ11の接地形状に近似させ得ることが知見された。
【0039】
上記の知見に基づき、本実施形態では、トレッドゴムモデルの容積がトレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、タイヤ周方向溝及び/又はタイヤ軸方向溝を用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデルに定義している。なお、本明細書において、「等しい」には、±1%の誤差が許容されるものとする。
図4は、第1実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0040】
[トレッドゴムの容積を取得する工程]
本実施形態の作成方法では、先ず、トレッドゴム12G(
図2に示す)の容積が取得される(工程S1)。工程S1では、先ず、
図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤ11(
図2に示す)に関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、物理量取得部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、物理量取得部6Aが、演算部4Aによって実行される。
【0041】
トレッドゴム12G(
図2に示す)の容積は、適宜取得されうる。トレッドゴム12Gの容積は、例えば、トレッドゴム12Gの輪郭データ(座標値)に基づいて、物理量取得部6Aによって計算されうる。トレッドゴム12Gの輪郭データは、例えば、タイヤ11の設計データ(CADデータ)や、X線CTスキャン装置(図示省略)を用いたタイヤ11(正規状態)の測定結果等から取得されうる。トレッドゴム12Gの容積は、コンピュータ1(物理量入力部5B)に入力される。
【0042】
本実施形態の工程S1では、オペレータによって、トレッドゴム12Gの輪郭データが取得されているが、例えば、作成装置1A(物理量取得部6A)が、X線CTスキャン装置に信号を送信することによって、自動的に取得されてもよい。
【0043】
[ボディモデルを入力する工程]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、ボディ部11B(
図2に示す)を、有限個の要素F(i)でモデル化したボディモデル21Bが入力される(工程S2)。
図5は、タイヤの数値解析モデル21の一例を示す断面図である。
【0044】
本実施形態の工程S2では、
図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤ11(
図2に示す)に関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、ボディモデル取得部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、ボディモデル取得部6Bが、演算部4Aによって実行される。
【0045】
図5に示されるように、本実施形態の工程S2では、タイヤ11(
図2に示す)に関する情報に基づいて、ボディ部11B(
図2に示す)が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、ボディモデル21Bが設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
【0046】
ボディモデル21Bには、カーカスプライ16A(
図2に示す)をモデル化したカーカスプライモデル41、及び、ベルトプライ17A、17B(
図2に示す)をそれぞれモデル化したベルトプライモデル42A、42Bが設定される。さらに、ボディモデル21Bには、サイドウォールゴム13G(
図2に示す)をモデル化したサイドウォールゴムモデル23G等が設定される。
【0047】
要素F(i)には、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点31を有している。このような各要素F(i)には、要素番号、節点31の番号、及び、節点31の座標値などの数値データが定義される。
【0048】
各要素F(i)には、
図2に示したボディ部11Bを構成するタイヤ部材(カーカスプライ16Aなど)の材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、損失正接(tanδ)、及び/又は、複素弾性率E*等)などの数値データが定義される。ボディモデル21Bは、
図1に示したコンピュータ1(モデル入力部5C)に入力される。
【0049】
[トレッドゴムモデル入力工程]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1に、トレッドゴム12G(
図2に示す)を有限個の要素F(i)でモデル化したトレッドゴムモデル22Gが入力される(トレッドゴムモデル入力工程S3)。
【0050】
本実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、
図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤ11に関する情報、及び、物理量入力部5Bに入力されたトレッドゴム12Gの容積が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、トレッドゴムモデル取得部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、トレッドゴムモデル取得部6Cが、演算部4Aによって実行される。
図6は、
図5のトレッドゴムモデル22Gの展開図である。なお、
図6では、
図5に示したメッシュ(要素F(i))が省略されている。
【0051】
本実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、トレッドゴム12Gのトレッドパターン(
図3に示す)とは異なり、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに定義される。
図7は、トレッドゴムモデル入力工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0052】
[トレッドゴムの輪郭を定義]
本実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、先ず、トレッドゴムモデル22Gの輪郭が定義される(工程S31)。工程S31では、
図5及び
図6に示したタイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを有さない(スリック状の)トレッドゴムモデルの輪郭32が定義される。輪郭32は、要素F(i)で離散化されていないトレッドゴムモデル22Gの外表面を示す座標データである。このような輪郭32は、例えば、タイヤ11の設計データ(CADデータ)等に基づいて、主溝18A、横溝18B及びサイプ10(
図2及び
図3に示す)が埋められた状態で定義される。
【0053】
トレッドゴムモデルの輪郭32は、
図5に示したボディモデル21B(ベルトプライモデル42A、42B)のタイヤ半径方向の外側に定義される。この輪郭32には、
図2及び
図3に示したタイヤ11の主溝18A、横溝18B及びサイプ10(
図5及び
図6に示したタイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bも含む)が設定されていない。このため、輪郭32で囲まれる(輪郭32が占める)容積は、
図2に示したトレッドゴム12Gの容積よりも大きくなっている。この輪郭32は、
図1に示したコンピュータ1(モデル入力部5C)に入力される。
【0054】
[簡易パターン定義工程(第1実施形態)]
次に、本実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、トレッドゴムモデル22G(
図5に示す)の容積が、トレッドゴム12G(
図2に示す)の容積に等しくなるように、簡易パターンが定義される(簡易パターン定義工程S32)。
図8は、簡易パターン定義工程S32の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0055】
本実施形態の簡易パターン定義工程S32では、先ず、溝のない(スリック状の)トレッドゴムモデルの輪郭32において、タイヤ周方向溝28A(
図6に示す)を、タイヤ周方向と平行な直線状に定義する工程S41が実施される。さらに、タイヤ軸方向溝28B(
図6に示す)を、タイヤ軸方向と平行な直線状に定義する工程S42が実施される。
【0056】
本実施形態の簡易パターン定義工程S32おいて、工程S41及び工程S42では、トレッドゴムモデルの輪郭32の容積が、トレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bが定義される。タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bは、トレッドゴムモデルの輪郭32の一部を内側に凹ませることで設定される。
【0057】
本実施形態では、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの本数、溝幅W1(
図6に示す)、及び、溝深さD1(
図5に示す)等を含む設計因子の少なくとも1つを、主溝18A及び横溝18Bの設計因子とは異ならせている。これにより、主溝18A及び横溝18Bとは異なるタイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bが設定されたとしても、トレッドゴムモデルの輪郭32の容積を、トレッドゴム12Gの容積に等しくすることが可能となる。
【0058】
次に、本実施形態の簡易パターン定義工程S32では、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bが定義されたトレッドゴムモデルの輪郭32が、有限個の要素F(i)で離散化される(工程S43)。これにより、簡易パターン定義工程S32では、トレッドゴムモデル22Gの容積がトレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンが定義されたトレッドゴムモデル22Gが設定される。
【0059】
各要素F(i)には、トレッドゴム12G(
図2に示す)の材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、損失正接(tanδ)、及び/又は、複素弾性率E*等)などの数値データが定義される。
【0060】
トレッドゴムモデル22Gの容積は、トレッドゴムモデル22Gを構成する全ての要素F(i)の合計容積(すなわち、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの容積を含まない。)として特定される。また、トレッドゴムモデル22Gには、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bによって、平面視矩形状に形成された複数個のブロック30が設定されている。
【0061】
トレッドゴムモデル22Gは、ボディモデル21Bのタイヤ半径方向の外側に配されており、それらが一体として定義される。これにより、本実施形態の作成方法では、タイヤの数値解析モデル21が作成される。トレッドゴムモデル22G及びタイヤの数値解析モデル21は、モデル入力部5Cに記憶される。
【0062】
本実施形態の作成方法では、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデル22Gに定義することができる。このようなトレッドゴムモデル22Gは、上記の特許文献1のように、タイヤ11のトレッドパターン(
図3に示す)を忠実に落とし込んだトレッドゴムモデル(図示省略)を作成する場合に比べて、タイヤの数値解析モデル21を短時間で作成することができる。
【0063】
本実施形態の作成方法では、トレッドゴムモデル22Gの容積がトレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、簡易パターンがトレッドゴムモデル22Gに定義される。これにより、トレッドゴムモデル22Gの接地形状を、トレッドゴム12Gの接地形状に近似させることが可能なトレッドゴムモデル22Gを作成することができる。したがって、本実施形態の作成方法では、タイヤ性能の予測精度を低下させることがないタイヤの数値解析モデル21を、短時間で作成することが可能となる。
【0064】
本実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、トレッドゴムモデル22Gに、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンが定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、トレッドゴムモデル22Gの容積を、トレッドゴム12G(
図2に示す)の容積に等しくすることができれば、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの一方のみを用いた簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに定義されてもよい。これにより、タイヤの数値解析モデル21を、より短時間で作成することが可能となる。
【0065】
図9は、タイヤ周方向溝28Aのみを用いた簡易パターンが定義されたトレッドゴムモデル22Gの一例を示す展開図である。このトレッドゴムモデル22Gには、簡易パターンとして、タイヤ周方向溝28Aのみが用いられており、タイヤ軸方向溝28B(
図6に示す)が設けられていない。このため、トレッドゴムモデル22Gの容積を、トレッドゴム12G(
図2に示す)の容積に等しくするために、タイヤ周方向溝28Aの溝幅W1が、
図6に示したタイヤ周方向溝28Aの溝幅W1よりも大きく設定されている。
【0066】
図10は、埋設モデル35が設定されたトレッドゴムモデル22Gの一例を示す断面図である。
図10では、埋設モデル35が色付けして示されている。トレッドゴムモデル入力工程S3には、タイヤ周方向溝28Aやタイヤ軸方向溝28Bを埋めるように、要素F(i)でモデル化された埋設モデル35を定義する工程(図示省略)が含まれてもよい。さらに、トレッドゴムモデル入力工程S3には、埋設モデル35の少なくとも一部の要素F(i)に、トレッドゴム12G(
図2に示す)よりも小さい弾性率を定義する工程(図示省略)が含まれてもよい。この場合、トレッドゴムモデル22Gの容積は、埋設モデル35の容積を除外して特定されるものとする。
【0067】
埋設モデル35の要素F(i)には、他の要素F(i)とは異なり、トレッドゴム12G(
図2に示す)よりも小さい弾性率が定義されているため、トレッドゴムモデル22Gの変形に影響を与えない。したがって、埋設モデル35が定義されたトレッドゴムモデル22Gでは、埋設モデル35が定義されていないトレッドゴムモデル22Gと同様の接地形状が計算されうる。さらに、埋設モデル35の要素F(i)には、座標値等の数値データを有する節点31が定義されているため、後述のシミュレーション方法等において、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの変形形状や体積等が容易に計算されうる。
【0068】
[タイヤの数値解析モデルの作成方法(第2実施形態)]
第1実施形態の作成方法では、トレッドゴムモデル22Gの容積がトレッドゴム12Gの容積に等しくなるように、上述の簡易パターンがトレッドゴムモデル22Gに定義されたが、このような態様に限定されない。
【0069】
発明者らは、タイヤ11のトレッドゴム12Gの接地面積に等しくなるように、トレッドゴムモデル22Gの接地面積を定義すると、トレッドゴムモデル22Gに簡易パターンを定義しても、その接地形状を、タイヤ11の接地形状に近似させ得ることを知見した。
【0070】
上記の知見に基づき、この実施形態では、トレッドゴムモデル22Gの接地形状がトレッドゴム12Gの接地形状に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及び/又はタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデル22Gに定義している。
図11は、本発明の他の実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0071】
[トレッドゴムの接地面積を取得する工程]
この実施形態の作成方法では、先ず、トレッドゴム12G(
図2に示す)の接地面積が取得される(工程S4)。トレッドゴム12Gの接地面積は、適宜取得されうる。この実施形態では、タイヤ11の正規荷重負荷状態において、トレッドゴム12Gの接地面積が取得される。トレッドゴム12Gの接地面積は、コンピュータ1(物理量入力部5B)に入力される。
【0072】
[トレッドゴムモデル入力工程(第2実施形態)]
図12は、第2実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3は、トレッドゴムモデル22G(
図5に示す)の接地面積が、トレッドゴム12G(
図2に示す)の接地面積に等しくなるように、簡易パターンが定義される(簡易パターン定義工程S33)。
【0073】
[簡易パターン定義工程(第2実施形態)]
この実施形態の簡易パターン定義工程S33では、
図8に示した工程S41及び工程S42において、トレッドゴムモデル22Gの接地面積が、トレッドゴム12Gの接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bが定義される。
【0074】
図13は、タイヤの数値解析モデル21及び路面モデル37の一例を示す斜視図である。
図13では、
図5に示したタイヤの数値解析モデル21の要素F(i)や、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28B(
図6に示した)が省略されている。
【0075】
トレッドゴムモデル22Gの接地面積は、トレッドゴムモデル22Gとボディモデル21Bとを一体化した数値解析モデル21を、路面モデル37に接地させて、正規荷重が負荷された正規荷重負荷状態に基づいて特定される。
【0076】
路面モデル37は、
図2に示したトレッド部12が接地する地面(路面(図示省略))を、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)でモデル化したものである。要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点38が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点38の座標値等の数値データが定義される。
【0077】
数値解析モデル21の正規荷重負荷状態の計算は、先ず、
図5に示されるように、タイヤ11のリム33(
図2に示す)がモデル化されたリムモデル27によって、数値解析モデル21のビード部24、24が拘束される。さらに、数値解析モデル21は、正規内圧に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、内圧充填後の数値解析モデル21が計算される。
【0078】
次に、
図13に示されるように、内圧充填後の数値解析モデル21と路面モデル37とを接触させ、正規荷重に相当する負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数に基づいて、数値解析モデル21の変形が計算される。これにより、正規荷重負荷状態の数値解析モデル21が計算される。トレッドゴムモデル22Gの接地面積は、この正規荷重負荷状態の数値解析モデル21の接地面43に基づいて計算される。
【0079】
数値解析モデル21の変形計算は、
図5に示した各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎に計算される。これにより、数値解析モデル21の変形計算が行われる。
【0080】
このような数値解析モデル21の変形計算は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)は、求められる計算精度に応じて、適宜設定されうる。
【0081】
この実施形態の簡易パターン定義工程S33では、トレッドゴムモデル22Gの接地面積が、トレッドゴム12G(
図2に示す)の接地面積に等しくなるまで、
図8に示した工程S41~S43が繰り返し実施されてもよい。工程S41及びS42では、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの上述の設計因子の少なくとも1つを、主溝18A及び横溝18Bの設計因子とは異ならせて、トレッドゴムモデル22Gの接地面積を、トレッドゴム12Gの接地面積に等しくしている。これにより、トレッドゴム12Gの接地面積と等しい接地面積を有する簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに設定される。
【0082】
この実施形態の作成方法では、これまでの実施形態の作成方法と同様に、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデル22Gに定義することができるため、数値解析モデル21を短時間で作成することができる。
【0083】
さらに、この実施形態の作成方法では、トレッドゴムモデル22Gの接地面積がトレッドゴム12Gの接地面積に等しくなるように、簡易パターンがトレッドゴムモデル22Gに定義される。これにより、トレッドゴムモデル22Gの接地形状を、トレッドゴム12Gの接地形状に近似させることが可能なトレッドゴムモデル22Gを作成することができる。したがって、この実施形態の作成方法では、タイヤ性能の予測精度を低下させることがないタイヤの数値解析モデル21を短時間で作成することが可能となる。
【0084】
この実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、
図9に示されるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの一方のみを用いた簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに定義されてもよい。また、
図10に示されるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを埋める埋設モデル35を定義する工程、及び、埋設モデル35の少なくとも一部の要素F(i)に、トレッドゴム12Gよりも小さい弾性率を定義する工程が実施されてもよい。この場合、トレッドゴムモデル22Gの接地面積は、埋設モデル35の接地面積を除外して特定されるものとする。
【0085】
[タイヤの数値解析モデルの作成方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態の作成方法では、トレッドゴムモデル22Gの容積又は接地面積がトレッドゴム12G(
図2及び
図3に示す)の容積又は接地面積に等しくなるように、簡易パターンがトレッドゴムモデル22Gに定義されたが、このような態様に限定されない。
【0086】
発明者らは、タイヤ11のトレッドゴム12Gの容積及び接地面積に等しくなるように、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積を定義すると、トレッドゴムモデル22Gの接地形状を、実際のタイヤ11の接地形状に、さらに近似させ得ることを知見した。
【0087】
この実施形態では、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積がトレッドゴム12Gの容積及び接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及び/又はタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデル22Gに定義している。
図14は、第3実施形態のタイヤの数値解析モデルの作成方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0088】
[トレッドゴムの容積及び接地面積を取得する工程]
この実施形態の作成方法では、先ず、トレッドゴム12G(
図2及び
図3に示す)の容積及び接地面積が取得される(工程S5)。トレッドゴム12Gの容積は、第1実施形態の作成方法の工程S1に記載の手順に基づいて、適宜取得される。また、トレッドゴム12Gの接地面積は、第2実施形態の作成方法の工程S4に記載の手順に基づいて、適宜取得される。トレッドゴム12Gの容積及び接地面積は、コンピュータ1(物理量入力部5B)に入力される。
【0089】
[トレッドゴムモデル入力工程(第3実施形態)]
図15は、第3実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3は、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積が、トレッドゴム12Gの容積及び接地面積に等しくなるように、簡易パターンが定義される(簡易パターン定義工程S34)。
【0090】
[簡易パターン定義工程(第3実施形態)]
この実施形態の簡易パターン定義工程S34では、
図8に示した工程S41~S43において、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積が、トレッドゴム12Gの接地面積に等しくなるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bが定義される。トレッドゴムモデル22Gの容積は、第1実施形態に記載した手順に基づいて特定される。トレッドゴムモデル22Gの接地面積は、第2実施形態に記載した手順に基づいて特定される。
【0091】
この実施形態では、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの設計因子の少なくとも1つを、主溝18A及び横溝18Bの設計因子とは異ならせ、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積を、トレッドゴム12Gの容積及び接地面積に等しくしている。これにより、トレッドゴム12Gと容積及び接地面積が等しい簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに設定される。
【0092】
この実施形態の作成方法では、これまでの実施形態の作成方法と同様に、
図6に示したタイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを用いた簡易パターンを、トレッドゴムモデル22Gに定義することができる。したがって、この実施形態の作成方法では、タイヤの数値解析モデル21を短時間で作成することができる。
【0093】
さらに、この実施形態の作成方法では、トレッドゴムモデル22Gの容積及び接地面積が、トレッドゴム12Gの容積及び接地面積にそれぞれ等しくなるように、簡易パターンがトレッドゴムモデル22Gに定義される。これにより、この実施形態では、これまでの実施形態に比べて、トレッドゴムモデル22Gの接地形状を、トレッドゴム12Gの接地形状に、より近似させることが可能なトレッドゴムモデル22Gを作成することができる。したがって、この実施形態の作成方法では、タイヤ性能の予測精度をより低下させることがないタイヤの数値解析モデル21を、短時間で作成することが可能となる。
【0094】
この実施形態のトレッドゴムモデル入力工程S3では、
図9に示されるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bの一方のみを用いた簡易パターンが、トレッドゴムモデル22Gに定義されてもよい。また、
図10に示されるように、タイヤ周方向溝28A及びタイヤ軸方向溝28Bを埋める埋設モデル35を定義する工程、及び、埋設モデル35の少なくとも一部の要素F(i)に、トレッドゴム12Gよりも小さい弾性率を定義する工程が実施されてもよい。
【0095】
[タイヤのシミュレーション方法]
次に、これまでの実施形態の作成方法で作成されたトレッドゴムモデル22Gを含むタイヤの数値解析モデル21を用いて、タイヤ11の性能を評価するためのタイヤのシミュレーション方法が説明される。
図16は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0096】
[転動計算工程]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、転動中のタイヤの数値解析モデル21を計算する(工程S11)。工程S11では、先ず、
図1に示されるように、モデル入力部5Cに入力されているタイヤの数値解析モデル21(
図13に示す)、及び、路面モデル37(
図13に示す)が作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、転動計算部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、転動計算部6Dが、演算部4Aによって実行される。
【0097】
本実施形態の工程S11では、先ず、
図13に示されるように、数値解析モデル21と路面モデル37とを接触させて、正規荷重負荷状態の数値解析モデル21が計算される。正規荷重負荷状態の数値解析モデル21の計算は、第2実施形態の作成方法に記載した手順に基づいて実施される。
【0098】
次に、本実施形態の工程S11では、タイヤの数値解析モデル21の回転軸34に、角速度が設定される。さらに、路面モデル37には、並進速度が設定される。これにより、路面モデル37の上を転動している数値解析モデル21が計算される。
【0099】
転動条件としては、例えば、タイヤ11(
図2に示す)の走行状態に応じて、自由転動、制動、駆動、及び、旋回など適宜設定することができる。これらの転動条件は、タイヤの数値解析モデル21に角速度及びスリップ角(図示省略)が適宜定義されることで、容易に設定することができる。なお、転動条件の設定には、タイヤの数値解析モデル21に前後力や横力が適宜定義されてもよい。
【0100】
本実施形態の工程S11では、タイヤの数値解析モデル21の転動計算が開始してから、予め定められた終了条件を満たすまで、数値解析モデル21のタイヤ性能に関する物理量が計算される。タイヤ性能に関する物理量は、タイヤ11(
図2に示す)の性能を評価可能なものであれば、摩擦エネルギーなど適宜採用される。
【0101】
本実施形態のタイヤの数値解析モデル21は、その接地形状が実際のトレッドゴムの接地形状に近似することから、タイヤ性能に関する物理量を、正確に計算することができる。タイヤ性能に関する物理量は、物理量入力部5B(
図1に示す)に記憶される。
【0102】
[タイヤ性能評価工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤの性能が評価される(工程S12)。工程S12では、先ず、
図1に示されるように、物理量入力部5Bに入力されたタイヤ性能に関する物理量、及び、評価部6Eが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、評価部6Eが、演算部4Aによって実行される。
【0103】
タイヤ性能は、適宜評価されうる。本実施形態では、タイヤ性能に関する物理量が、予め定められた閾値を満たす場合に、タイヤの性能が良好であると判断される。
【0104】
工程S12において、タイヤ性能が良好であると判断された場合(工程S12で「Y」)、タイヤの数値解析モデル21(
図1に示したタイヤ11)の設計因子に基づいて、タイヤ11が製造される(工程S13)。
【0105】
一方、工程S12において、タイヤ性能が良好ではないと判断された場合(工程S12で「N」)、設計因子を変更したタイヤの数値解析モデル21を再作成して(工程S14)、工程S11~工程S12が再度実施される。数値解析モデル21の再作成には、上述の作成方法が実施されうる。
【0106】
本実施形態のタイヤの数値解析モデル21は、その接地形状が実際のトレッドゴムの接地形状に近似することから、タイヤの性能を正確に評価することができる。したがって、所望のタイヤ性能を有するタイヤ11を確実に設計及び製造することが可能となる。
【0107】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0108】
トレッド部に地面に接地するトレッドゴムを備え、トレッドゴムには、複数の溝によってトレッドパターンが形成されたタイヤの数値解析モデルが作成された(実施例1~実施例6、及び、比較例)。
【0109】
実施例1及び2は、
図4、
図7及び
図8に示した処理手順に従って、トレッドゴムモデルの容積が、トレッドゴムの容積に等しくなるように、トレッドゴムモデルに、簡易パターンが定義された。なお、実施例1の簡易パターンには、タイヤ周方向溝及びタイヤ軸方向溝が用いられた。一方、実施例2の簡易パターンには、タイヤ周方向溝のみが用いられた。
【0110】
実施例3及び4は、
図11、
図12及び
図8に示した処理手順に従って、トレッドゴムモデルの接地面積が、トレッドゴムの接地面積に等しくなるように、トレッドゴムモデルに、簡易パターンが定義された。なお、実施例3の簡易パターンには、タイヤ周方向溝及びタイヤ軸方向溝が用いられた。一方、実施例4の簡易パターンには、タイヤ周方向溝のみが用いられた。
【0111】
実施例5及び6は、
図14、
図15及び
図8に示した処理手順に従って、トレッドゴムモデルの容積及び接地面積が、トレッドゴムの容積及び接地面積に等しくなるように、トレッドゴムモデルに、簡易パターンが定義された。なお、実施例5の簡易パターンには、タイヤ周方向溝及びタイヤ軸方向溝が用いられた。一方、実施例6の簡易パターンには、タイヤ周方向溝のみが用いられた。
【0112】
比較例では、上記の特許文献1に基づいて、タイヤのトレッドパターンをより忠実に落とし込んだトレッドゴムモデルが定義された。
【0113】
そして、実施例1~6及び比較例のトレッドゴムモデルを備えたタイヤの数値解析モデルについて、
図13に示されるように、路面モデルに接地させて、その接地形状が求められた。共通仕様は、次のとおりであり、テストの結果が表1に示される。
タイヤサイズ:265/70R17
内圧:550kPa
荷重:5690N
【0114】
【0115】
表1において、実施例1~6のトレッドゴムモデルの容積及び接地面積は、比較例のトレッドゴムモデルの容積及び接地面積を100とする指数で示されている。また、実施例1~6のモデル作成時間、接地長、及び、接地幅は、比較例のモデル作成時間、接地長、及び、接地幅を100とする指数で示されている。なお、接地長及び接地幅の指数が95~105の範囲であれば、実際のタイヤの接地形状に近似させうることが示されている。
【0116】
図17(a)は、比較例の接地形状を示す平面図である。
図17(b)は、実施例5の接地形状を示す平面図である。
図17(c)は、実施例6の接地形状を示す平面図である。
【0117】
テストの結果、実施例1~実施例6の接地形状は、トレッドパターンをより忠実に落とし込んだ比較例の接地形状に近似させることができた。一方、実施例1~実施例6は、タイヤの数値解析モデルの作成時間を、比較例の作成時間に比べて、大幅に短くすることができた。したがって、実施例1~6の作成方法では、タイヤ性能の予測精度を低下させることがないタイヤの数値解析モデルを、短時間で作成することができた。
【符号の説明】
【0118】
S1 トレッドゴムの容積を取得する工程
S3 トレッドゴムモデルを入力する工程