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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241112BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20241112BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20241112BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20241112BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41M5/00 114
D06P5/28
D06P5/00 101
C09D11/30
B41J2/01 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020179516
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070445
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】青木 克子
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-134978(JP,A)
【文献】特開2016-215568(JP,A)
【文献】特開2017-105148(JP,A)
【文献】特開2019-090150(JP,A)
【文献】国際公開第2007/111302(WO,A1)
【文献】特開2009-172972(JP,A)
【文献】特開2015-217536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0379918(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0137804(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D 11/00-13/00
B44C 1/16-1/175
D06P 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形
成する着色インク付着工程と、
記録媒体の少なくとも一部にクリアインク組成物を付着して領域Bを形成するクリアイ
ンク付着工程と、
前記中間転写媒体の前記記録領域Aと、前記記録媒体の、前記クリアインク組成物の液
体が付着している前記領域Bとを、を対向させた状態で加熱し、前記記録領域Aに形成さ
れた画像を前記記録媒体の前記領域Bに転写する転写工程と、を有し、
前記着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
前記中間転写媒体は、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離
層を有する、
記録方法。
【請求項2】
前記転写工程における加熱温度が、160~190℃である、
請求項1のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項3】
前記剥離層に含まれる前記樹脂が、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ
スチレン-アクリル樹脂、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)、及びジアリルメチルアンモニ
ウムクロリドに基づく重合体からなる群より選ばれる1種以上を含む、
請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記着色インク組成物の表面張力S1と、前記クリアインク組成物の表面張力S2との差
の絶対値が5.0mN/N以内である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記着色インク組成物と前記クリアインク組成物が、同一の水溶性有機溶剤を1種以上
含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記記録媒体が、綿を含む布帛である
請求項1~5のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項7】
前記転写工程は、前記領域Bに付着した前記クリアインク組成物の付着量が1.0mg
/inch2以上である状態で、行う。
請求項1~6のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記記録領域Aが、着色インク組成物の付着量が2.0mg/inch2未満である記
録領域A1を有するとき、
前記クリアインク付着工程において、前記領域Bのうち前記記録領域A1と対向する領
域B1に、前記クリアインク組成物を付着する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項9】
前記記録領域Aが、着色インク組成物の付着量が2.0mg/inch2以上である記
録領域A2を有するとき、
前記クリアインク付着工程において、前記領域Bのうち前記記録領域A2と対向する領
域B2に、前記クリアインク組成物を付着しない、
請求項1~8のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項10】
対向する前記記録領域Aと前記領域Bに付着した前記着色インク組成物と前記クリアン
ク組成物の合計の付着量が、3.0~32mg/inch2である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項11】
前記クリアインク組成物が、水溶性有機溶剤と、水とを含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華転写法では、例えば、インクジェット法にて中間記録媒体に付着させた昇華性染料を、ポリエステルなどの布帛に転写することが行われる。近年、昇華転写法を用いて布帛などに記録を施すことで様々な製品を簡便に製造することが行われており、ポリエステル以外の布帛についても昇華転写法を適用することが望まれている。
【0003】
しかしながら、従来の昇華転写法ではポリエステル以外の布帛に対して高品位な画像を形成することが難しいという問題がある。そこで、離型剤層を用いた転写紙を用いる方法が知られている。例えば、特許文献1では、離型剤層とインク受容層を有する転写紙を用い、インク組成物を付着させた転写紙を布帛に対して加圧加熱処理することにより、水溶性染料インクを布帛に転写し、固着処理する乾式転写捺染方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2007/111302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、低Duty部において良好に転写が進行しないという問題があることが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する着色インク付着工程と、記録媒体の少なくとも一部にクリアインク組成物を付着して領域Bを形成するクリアインク付着工程と、前記中間転写媒体の前記記録領域Aと、前記記録媒体の前記領域Bとを、を対向させた状態で加熱し、前記記録領域Aに形成された画像を前記記録媒体の前記領域Bに転写する転写工程と、を有し、前記着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、前記中間転写媒体は、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離層を有する、記録方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.記録方法
本実施形態の記録方法は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する着色インク付着工程と、記録媒体の少なくとも一部にクリアインク組成物を付着して領域Bを形成するクリアインク付着工程と、中間転写媒体の記録領域Aと、記録媒体の領域Bとを、を対向させた状態で加熱し、記録領域Aに形成された画像を記録媒体の領域Bに転写する転写工程と、を有し、着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、中間転写媒体が、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離層を有する。
【0009】
上記のように、従来の昇華転写方法の一例では、中間転写媒体の層の一部を記録媒体に転写する方法が知られている。しかしながら、中間転写媒体に付着したインク組成物の打ち込み量によっては、記録媒体への粘着力が十分に発揮されないため転写が部分的に進行せず、結果として低Duty部において発色性に劣るという問題があることが分かってきた。
【0010】
これに対して、本実施形態においてはクリアインク組成物により、記録媒体の少なくとも一部にクリアインク組成物を付着することで、低Duty部における着色インク組成物の打ち込み量を補い、記録領域の全体にわたって良好な転写を可能とし、低Duty部における発色性を向上させる。以下、各工程について詳説する。
【0011】
1.1.着色インク付着工程
着色インク付着工程は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する工程である。インクジェット方式によるインク組成物の吐出は、公知のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。吐出方法としては、特に制限されないが、例えば、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができる。
【0012】
また、着色インク付着工程において、着色インク組成物は中間転写媒体の剥離層に付着し、剥離層上で記録領域Aを形成することが好ましい。
【0013】
1.1.1.着色インク組成物
着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤等を含んでいてもよい。
【0014】
1.1.1.1.昇華性染料
本実施形態においては「昇華性染料」とは、加熱により昇華する性質を有する染料である。このような昇華性染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Disperse Yellow 3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.Disperse Orange 1、1:1、5、20、25:1、33、56、76;C.I.Disperse Brown 2;C.I.Disperse Red 11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.Disperse Violet 8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.Disperse Blue14、19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359等が挙げられる。
【0015】
1.1.1.2.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等の含窒素溶剤;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。なお、水溶性有機溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0016】
このなかでも、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類、含窒素溶剤が好ましく、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類がより好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における発色性がより向上する傾向にある。
【0017】
水溶性有機溶剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは7.5~35質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における発色性や吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0018】
1.1.1.3.水
水の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは60~90質量%が好ましく、より好ましくは65~85質量%であり、さらに好ましくは70~80質量%である。
【0019】
1.1.1.4.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。なお、界面活性剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0020】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0021】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0022】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0023】
このなかでもシリコーン系界面活性剤がより好ましい。このような界面活性剤を用いることにより、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における発色性や吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0024】
界面活性剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.2~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における発色性や吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0025】
1.1.1.5.分散剤
着色インク組成物は分散剤を含んでいてもよい。分散剤を含むことにより、昇華性染料の分散安定性がより向上し傾向にあり、保存安定性や吐出安定性等がより向上する傾向にある。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤が挙げられる。なお、分散剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0026】
アニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が挙げられる。
【0027】
上記芳香族スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2-ナフトール-6-スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
【0028】
ノニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0029】
高分子分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0030】
分散剤の含有量は、昇華性染料の総量に対して、好ましくは1~200質量%であり、より好ましくは50~150質量%である。分散剤の含有量が上記範囲であることにより、昇華性染料の分散安定性がより向上し傾向にあり、保存安定性や吐出安定性等がより向上する傾向にある。
【0031】
1.1.1.6.その他の添加剤
着色インク組成物は、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン、アジピン酸、水酸化カリウム)、又は溶解助剤、その他、通常のインクにおいて用いることができる各種添加剤を含んでもよい。なお、各種添加剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0032】
1.1.1.7.表面張力
着色インク組成物の表面張力S1は、25℃において、好ましくは20~30mN/Nであり、より好ましくは21~27mN/Nであり、さらに好ましくは22~25mN/Nである。着色インク組成物の表面張力S1が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における発色性や吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0033】
なお、本実施形態において表面張力は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定することができる。
【0034】
1.1.2.中間転写媒体
本実施形態において用いる中間転写媒体は、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離層を有する。このような中間転写媒体を用いることにより、後述する転写工程において中間転写媒体から剥離層を剥離して、記録媒体に剥離層を転写することができる。これにより、剥離層が付着した記録媒体を得ることができる。
【0035】
中間転写媒体は基材の上に形成された剥離層を有し、剥離層は加熱により基材から剥離する剥離性を有し、記録媒体と対向した状態で加熱されることにより記録媒体に付着するように構成されるものである。この観点から、剥離層に含まれる樹脂のガラス転移点は100℃以上200℃以下とする。これにより、転写工程の加熱により、剥離層が中間転写媒体から剥離し、記録媒体に付着することができる。
【0036】
また、本実施形態における中間転写媒体は、上記剥離層の他に、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば、他の層としては、剥離層の基材層と反対側の面に形成されたインク受容層が挙げられる。例えば、本実施形態においては、着色インク付着工程においてインク受容層に対して着色インク組成物を付着させ、転写工程において、剥離層を中間転写媒体から剥離し、剥離層とインク受容層が記録媒体に付着するようにしてもよい。この場合、記録媒体上にはインク受容層が付着するようにして、インク受容層と剥離層の2層が記録媒体上に転写される。またこの場合には、上記転写と並行して、転写工程の加熱により、インク受容層に付着した着色インク組成物がインク受容層から剥離層へ昇華拡散するようにしてもよい。
【0037】
また、剥離層は、透明な層であることが好ましく、インク受容層は、不透明な層、特には白色層であることが好ましい。これにより、転写工程の加熱により、インク受容層に付着した着色インク組成物がインク受容層から剥離層へ昇華拡散したとき、白色のインク受容層が記録媒体の色を隠ぺいする層となり、その上に形成された剥離層に昇華性染料が拡散することで、記録媒体の色に関わらず、発色性の良い画像を形成することができる。
【0038】
剥離層に含まれる樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリスチレン-アクリル樹脂、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)、及びジアリルメチルアンモニウムクロリドに基づく重合体からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。このような樹脂を含むことにより、剥離性がより向上し、低Duty部における発色性がより向上するほか、にじみもより抑制される傾向にある。
【0039】
このような中間転写媒体としては、特に制限されないが、例えば、Forever社製の、Subli-Light (No-cut) やSubli-Flex (No-cut)などが挙げられる。
【0040】
1.2.クリアインク付着工程
クリアインク付着工程は、記録媒体の少なくとも一部にクリアインク組成物を付着して領域Bを形成する工程である。クリアインク組成物の付着方法はインクジェット方式に限定されず、ローラー塗布、スプレー塗布などを用いてもよい。
【0041】
このなかでも、クリアインク組成物の付着位置や付着量を高精度で制御可能な点でインクジェット方式が好ましい。このような方法を用いることにより、記録媒体に対するクリアインク組成物の付着位置や付着量を調整することが可能となり、後述する転写工程において、より発色性が高くにじみの少ない記録物を得ることができる。具体的には、インクジェット方式を用いることにより、記録領域Aの着色インク組成物の付着が少ない部分に対応する領域Bの部分には、相対的に多くのクリアインク組成物を付着することにより発色性を高めることができ、記録領域Aの着色インク組成物の付着が多い部分に対応する領域Bの部分には、相対的に少ないクリアインク組成物を付着することにより、付着するインク組成物が過剰である場合に生じるにじみを抑制することができる。
【0042】
より具体的には、上記着色インク付着工程において形成した記録領域Aが着色インク組成物の付着量が2.0mg/inch2未満である記録領域A1を有するときには、クリアインク付着工程において、領域Bのうち記録領域A1と対向する領域B1に、クリアインク組成物を付着することが好ましく、記録領域Aが、着色インク組成物の付着量が2.0mg/inch2以上である記録領域A2を有するときには、クリアインク付着工程において、領域Bのうち記録領域A2と対向する領域B2に、クリアインク組成物を付着しないことが好ましい。これにより、記録領域Aに付着した着色インク組成物の付着量に応じてクリアインク組成物を付着することができ、記録領域Aの全体にわたって、発色性がより向上し、にじみを抑制することができる。
【0043】
1.2.1.クリアインク組成物
本実施形態において「クリアインク」とは、着色するために用いるインクではなく、その他の目的で用いるインクである。本実施形態においては、記録媒体にクリアインク組成物を付着させることにより、後述する転写工程において、記録領域Aと領域Bが重なった領域における液体量を所定以上にすることができる。これにより、低Duty部の発色性がより向上する傾向にある。なお、単なる水は、クリアインクには含まれない。
【0044】
クリアインク組成物に含まれる成分としては、昇華性染料以外は上記着色インク組成物で例示したものと同様の成分を例示することができ、クリアインク組成物は、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、必要に応じて、界面活性剤等を含んでいてもよい。クリアインク組成物に含まれる成分と着色インク組成物に含まれる成分は、一致していても異なっていてもよい。
【0045】
1.2.1.1.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類、含窒素溶剤が好ましく、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類がより好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における発色性がより向上する傾向にある。
【0046】
水溶性有機溶剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは7.5~35質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における発色性がより向上する傾向にある。
【0047】
着色インク組成物とクリアインク組成物が、同一の水溶性有機溶剤を1種以上含むことが好ましく、同一の水溶性有機溶剤を2種以上含むことがより好ましい。これにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0048】
1.2.1.2.水
水の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは70~99.5質量%が好ましく、より好ましくは70~95質量%であり、さらに好ましくは75~90質量%である。
【0049】
1.2.1.3.界面活性剤
界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性やシリコーン系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。着色インク組成物とクリアインク組成物が、同一の界面活性剤を1種以上含むことが好ましい。これにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0050】
界面活性剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.2~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、低Duty部における発色性がより向上する傾向にある。
【0051】
1.2.1.4.表面張力
クリアインク組成物の表面張力S2は、25℃において、好ましくは20~40mN/Nであり、より好ましくは21~32mN/Nであり、さらに好ましくは22~28mN/Nである。クリアインク組成物の表面張力S2が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、記録媒体へのクリアインク組成物の濡れ性がより向上し、低Duty部における発色性がより向上する傾向にある。
【0052】
また、着色インク組成物の表面張力S1と、クリアインク組成物の表面張力S2との差の絶対値は、好ましくは5.0以内であり、より好ましくは4.0以内であり、さらに好ましくは3.0以内である。表面張力S1と表面張力S2との差が上記範囲内であることにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。なお、着色インク組成物として複数のインク組成物を用いる場合には、それぞれの着色インク組成物とクリアインク組成物の表面張力差が上記範囲内であることが好ましい。
【0053】
1.2.2.記録媒体
記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、布帛(疎水性繊維布帛等)、樹脂(プラスチック)フィルム、紙、木材、皮革、ガラス、金属、陶磁器等が挙げられる。また、記録媒体としては、シート状、球状又は直方体形状等の立体的な形状を有する物を用いてもよい。
【0054】
記録媒体が布帛である場合に、布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維及びこれらの繊維を2種以上用いた合成繊維もしくは半合成繊維;絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の天然繊維;レーヨン等の再生繊維が挙げられる。また、これら繊維は2種以上の混紡品として用いてもよい。
【0055】
このなかでも、綿を含む布帛が好ましい。このような記録媒体はファブリック製品としては多用されるものの、従来の昇華転写法では高品位な記録物を得ることが難しいものであり、本発明が特に有用である。
【0056】
また、記録媒体が樹脂(プラスチック)フィルムである場合、用い得る樹脂(プラスチック)フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。樹脂(プラスチック)フィルムは、複数の層が積層された積層体であってもよいし、材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0057】
1.3.転写工程
転写工程は、中間転写媒体の記録領域Aと、記録媒体の領域Bとを、を対向させた状態で加熱し、記録領域Aに形成された画像を記録媒体の領域Bに転写する工程である。この際、画像の転写には、中間転写媒体の剥離層ごと記録領域Aに形成された画像を記録媒体に転写することが含まれる。
【0058】
転写工程における加熱温度は、好ましくは160~220℃であり、より好ましくは160~190℃であり、さらに好ましくは170~190℃である。加熱温度が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0059】
転写工程における加熱時間は、好ましくは15~90秒であり、より好ましくは20~60秒であり、さらに好ましくは20~30である。加熱時間が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0060】
転写工程においては、中間転写媒体の記録領域Aと、記録媒体の領域Bとを、密着させた状態で加熱することが好ましく、加圧状態した状態で加熱することがより好ましい。転写工程における圧力は、好ましくは1.5~6barであり、より好ましくは2~3barである。圧力が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の発色性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0061】
また、転写工程は、領域Bに付着したクリアインク組成物の付着量が所定値以上である状態で行うことが好ましい。この際のクリアインク組成物の付着量としては、好ましくは1.0mg/inch2以上であり、より好ましくは3.0~25mg/inch2であり、さらに好ましくは5.0~20mg/inch2である。またクリアインク組成物の付着量は時間とともに揮発していくが、クリアインク組成物の付着量が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の発色性がより向上する傾向にある。また、クリアインク組成物の付着量を25mg/inch2以下とすることにより、にじみがより抑制される傾向にある。
【0062】
転写工程において対向する記録領域Aと領域Bに付着した着色インク組成物とクリアインク組成物の合計の付着量は、好ましくは3.0~32mg/inch2であり、より好ましくは4.0~25mg/inch2であり、さらに好ましくは5.0~20mg/inch2である。合計付着量が3.0mg/inch2以上であることにより、記録領域Aの全体にわたって、発色性がより向上する傾向にある。また、合計付着量が32mg/inch2以下であることにより、にじみがより抑制される傾向にある。なお、着色インク組成物の付着量が3.0mg/inch2以上である場合には、その記録領域Aに対応する領域Bには、クリアインク組成物を付着しないようにしてもよい。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
1.インク組成物の調製
下記表1に記載の組成となるように、各成分を混合し、着色インク組成物及びクリアインク組成物を得た。尚、表1には組成を質量%で示す。なお、水のみのものはクリアインクには当たらないが、以下においては水のみのものも便宜上クリアインク5と記載する。
【0065】
【表1】
【0066】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0067】
<昇華性染料>
DB359:C.I.Disperse Blue 359
DR60 :C.I.Disperse Red 60
DY54 :C.I.Disperse Yellow 54
<水溶性溶剤>
プロピレングリコール
グリセリン
2-ピロリドン
トリエチレングリコールモノメチルエーテル
1,2-ヘキサンジオール
<界面活性剤>
BYK348(シリコーン系界面活性剤、ビックケミージャパン社製)
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
【0068】
1.1.表面張力の測定
各インク組成物の表面張力は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定した。
【0069】
2.評価方法
2.1.低Duty部の発色性
インクジェットプリンタ(PX-G930、セイコーエプソン社製)を用いて、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離層を有する中間転写媒体1又は2に対して、720dpi×720dpiの解像度において、Duty20%で、上記着色インク組成物1~3を付着させて、それぞれの単色ベタパターンである記録領域Aを形成した。なお、記録領域Aは、着色インク組成物1~3の印刷箇所はそれぞれ隣接させて形成した。
【0070】
また、別のインクジェットプリンタ(PX-G930、セイコーエプソン社製)又は霧吹きを用いて、記録媒体に対して、クリアインク組成物を付着して領域Bを形成した。
【0071】
次いで、形成した記録領域Aと領域Bを対向して、密着させて、ヒートプレス機(TP-608M、太陽精機社製)を用いて表2に記載の条件で加熱して、昇華転写を行い、各記録物を得た。なお、着色インク組成物及びクリアインク組成物のそれぞれの付着は同時に行い、これらインク組成物の付着から転写までの時間は30秒とした。また、室内温度は25℃、湿度は30%とした。
【0072】
なお、「duty」とは、下式で算出される値であり、100%dutyとは、すべての画素に対して1滴のインクが付着されることを意味する。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0073】
上記のようにして形成された記録媒体上の画像のDuty20%の部分(低Duty部)における着色インク組成物1~3ごとのOD値を反射濃度計(商品名:Spectrolino、Gretag社製)を用いて測定した。そして、クリアインク組成物を塗布しない場合(比較例1)の、カラーごとのOD値を100%として、それに対する着色インク組成物1~3ごとのOD値を評価した。
(評価基準)
A:着色インク組成物1~3のOD値が、比較例1と比較していずれも120%以上であった。
B:着色インク組成物1~3のOD値が、比較例1と比較していずれも110%以上120%未満であった。
C:着色インク組成物1~3のOD値が、比較例1と比較していずれも100%超過110%未満であった。
D:着色インク組成物1~3のOD値が、比較例1と比較していずれも100%であった。
【0074】
2.2.にじみ
上記のようにして形成された着色インク祖背物1~3のベタパターンの隣接する境界において、にじみの発生の有無を目視にて確認し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:記録領域の境界ににじみが認められない
B:記録領域の境界に少しにじみが認められる
C:記録領域の境界にややにじみが認められる
D:記録領域の境界ににじみが認められる
【0075】
2.3.転写媒体の変色
上記のようにして画像を形成した記録媒体において、変色が生じているかどうかを確認し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:変色は認められない
B:変色はやや認められる
C:変色が認められる
【0076】
【表2】
<中間転写媒体>
中間転写媒体1:Subli-Light(No-cut)(Forever社製)
中間転写媒体2:Subli-Flex(No-cut)Red(Forever社製)
<記録媒体>
記録媒体1:綿布帛
記録媒体2:綿35質量%、ポリエステル繊維65質量%の混紡布帛
記録媒体3:木材
記録媒体4:皮革
【0077】
3.評価結果
表2に、各例で用いインクの評価結果を示した。表2から、ガラス転移点が100℃以上200℃以下である樹脂を含む剥離層を有する中間記録媒体を用いる記録方法において、クリアインク組成物を記録媒体に付着して用いることにより、得られる記録物の発色性が向上し、またにじみが抑制されることが分かった。また、加熱条件に応じて、記録媒体の変色も抑制されることが分かった。