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特許7585712物理量センサー、物理量センサーデバイス及び慣性計測装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】物理量センサー、物理量センサーデバイス及び慣性計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/08 20060101AFI20241112BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20241112BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01P15/08 102E
G01P15/08 101B
G01P15/125 Z
H01L29/84 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020180122
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071262
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【弁理士】
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 悟
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-040856(JP,A)
【文献】特表2008-529001(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046866(WO,A1)
【文献】特開2013-217721(JP,A)
【文献】特開2013-140148(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0216305(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0341927(US,A1)
【文献】実開平02-039166(JP,U)
【文献】特開2012-088120(JP,A)
【文献】特開2019-184261(JP,A)
【文献】特開2009-109494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 ~ 15/18
B81B 1/00 ~ 7/04
B81C 1/00 ~ 99/00
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、
前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、
を含み、
前記第1質量部は、
第1領域と、前記第1領域よりも前記回転軸から遠い第2領域と、を含み、
前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第2領域に第2貫通孔群が設けられ、
前記可動体は、
前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、
前記第1質量部の前記第1面には、
前記第1領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第1空隙の前記Z軸方向での第1ギャップ距離を、前記第2領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第2空隙の前記Z軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられ、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さく、
前記可動体の前記第1面には、
前記第2貫通孔群が底面に配置される凹部が、前記第2領域に設けられていることを特徴とする物理量センサー。
【請求項2】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、
前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、
を含み、
前記第1質量部は、
第1領域と、前記第1領域よりも前記回転軸から遠い第2領域と、を含み、
前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第2領域に第2貫通孔群が設けられ、
前記可動体は、
前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、
前記第1質量部の前記第1面には、
前記第1領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第1空隙の前記Z軸方向での第1ギャップ距離を、前記第2領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第2空隙の前記Z軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられ、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さく、
前記可動体の前記第2面には、
前記第1貫通孔群が底面に配置される第1凹部が、前記第1領域に設けられ、
前記可動体の前記第1面には、
前記第2貫通孔群が底面に配置される第2凹部が、前記第2領域に設けられていることを特徴とする物理量センサー。
【請求項3】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、
前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、
を含み、
前記第1質量部は、
第1領域と、前記第1領域よりも前記回転軸から遠い第2領域と、を含み、
前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第2領域に第2貫通孔群が設けられ、
前記可動体は、
前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、
前記第1質量部の前記第1面には、
前記第1領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第1空隙の前記Z軸方向での第1ギャップ距離を、前記第2領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第2空隙の前記Z軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするためのスロープが設けられ、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さく、
前記第1質量部の前記第1領域では、前記回転軸から遠くなるに従って前記第1ギャップ距離は大きくなり、
前記第1質量部の前記第2領域では、前記回転軸から遠くなるに従って前記第2ギャップ距離は大きくなることを特徴とする物理量センサー。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第2貫通孔群の貫通孔の開口面積は、前記第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みの50%未満であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記可動体は、
前記基板に固定される固定部と、
前記固定部と前記第1質量部を接続し、前記回転軸となる支持梁と、
を含み、
前記可動体の前記最大厚みは、前記固定部及び前記支持梁の少なくとも一方の前記Z軸方向での厚さであることを特徴とする物理量センサー。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記可動体の前記第1面又は前記第2面には、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部が設けられていることを特徴とする物理量センサー。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の開口形状は多角形又は円形であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1質量部の前記第2領域は、前記回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項10】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、
前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、
を含み、
前記第1質量部は、
第1領域と、前記第1領域よりも前記回転軸から遠い第2領域と、を含み、
前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第2領域に第2貫通孔群が設けられ、
前記可動体は、
前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、
前記第1質量部の前記第1面には、
前記第1領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第1空隙の前記Z軸方向での第1ギャップ距離を、前記第2領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第2空隙の前記Z軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするためのスロープが設けられ、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さく、
前記可動体は、
前記Z軸方向からの平面視において、前記第1質量部に対して前記回転軸を挟んで設けられている第2質量部を含み、
前記基板には、
前記第2質量部に対向している第2固定電極が設けられ、
前記第2質量部は、
第3領域と、前記第3領域よりも前記回転軸から遠い第4領域と、を含み、
前記第3領域に第3貫通孔群が設けられ、前記第4領域に第4貫通孔群が設けられ、
前記第2質量部の前記第1面には、
前記第3領域での前記第2質量部と前記第2固定電極との間の空隙である第3空隙の前記Z軸方向での第3ギャップ距離を、前記第4領域での前記第2質量部と前記第2固定電極との間の空隙である第4空隙の前記Z軸方向での第4ギャップ距離よりも小さくするためのスロープが設けられ、
前記第3貫通孔群及び前記第4貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記最大厚みよりも小さく、
前記第2質量部の前記第3領域では、前記回転軸から遠くなるに従って前記第3ギャップ距離は大きくなり、
前記第2質量部の前記第4領域では、前記回転軸から遠くなるに従って前記第4ギャップ距離は大きくなることを特徴とする物理量センサー。
【請求項11】
請求項10に記載の物理量センサーにおいて、
前記可動体は、
前記回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部を含み、
前記トルク発生部には、
第5貫通孔群が設けられ、
前記トルク発生部と前記基板との間の空隙である第5空隙の前記Z軸方向での第5ギャップ距離は、前記第1ギャップ距離及び前記第2ギャップ距離よりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項12】
請求項11に記載の物理量センサーにおいて、
前記第5貫通孔群の貫通孔の開口面積は、前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、
を含むことを特徴とする物理量センサーデバイス。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、
を含むことを特徴とする慣性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサー、物理量センサーデバイス及び慣性計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より加速度等の物理量を検出する物理量センサーが知られている。このような物理量センサーとしては、例えばZ軸方向の加速度を検出するシーソー型の加速度センサーなどが知られている。例えば特許文献1には、基板上の検出部に段差を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成して、高感度化を実現する加速度センサーが開示されている。特許文献2には、可動体の裏面側に段差を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成して、高感度化を実現する加速度センサーが開示されている。特許文献3には、可動体の断面において、検出電極に対向する領域を凹部形状にすることにより厚みを小さくし、上下の検出電極で可動体を挟むように構成してダンピングを小さくする加速度センサーが開示されている。特許文献4には、高感度、且つ、低ダンピングを実現するための規格化式である関数式について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-040856号公報
【文献】特表2008-529001号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0341927号明細書
【文献】特開2019-184261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、可動体の厚みが一様であり、貫通孔の深さが一様であるため、貫通孔の孔中ダンピングが大きくなりやすい。特許文献2では、可動体に貫通孔が無いため、ダンピングが非常に大きく、所望の周波数帯域を確保できない。特許文献3、4では、電極間ギャップの距離が一定であるため、更なる高感度化が難しい。このように特許文献1~4の構造では、更なる高感度化と低ダンピング化とを両立して実現することが困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、を含み、前記第1質量部は、第1領域と、前記第1領域よりも前記回転軸から遠い第2領域と、を含み、前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第2領域に第2貫通孔群が設けられ、前記可動体は、前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、前記第1質量部の前記第1面には、前記第1領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第1空隙の前記Z軸方向での第1ギャップ距離を、前記第2領域での前記第1質量部と前記第1固定電極との間の空隙である第2空隙の前記Z軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられ、前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さい物理量センサーに関係する。
【0006】
また本開示の他の態様は、上記に記載の物理量センサーと、前記物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、含む物理量センサーデバイスに関係する。
【0007】
また本開示の他の態様は、上記に記載の物理量センサーと、前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、を含む慣性計測装置に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の物理量センサーの平面図。
図2図1のA-A線における断面図。
図3図1のB-B線における断面図。
図4】第1実施形態の物理量センサーの斜視図。
図5】段差の代わりにスロープを設けた場合の物理量センサーの断面図。
図6】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
図7】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
図8】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
図9】規格化貫通孔厚みと規格化ダンピングの関係を示すグラフ。
図10】物理量センサーの振動周波数と変位の大きさの関係を示すグラフ。
図11】第2実施形態の物理量センサーの平面図。
図12】第2実施形態の物理量センサーの断面図。
図13】第3実施形態の物理量センサーの断面図。
図14】第4実施形態の物理量センサーの平面図。
図15】第4実施形態の物理量センサーの断面図。
図16】第5実施形態の物理量センサーの平面図。
図17】第6実施形態の物理量センサーの平面図。
図18】第7実施形態の物理量センサーの平面図。
図19】第8実施形態の物理量センサーの平面図。
図20】第9実施形態の物理量センサーの平面図。
図21図20のC-C線における断面図。
図22】第10実施形態の物理量センサーの平面図。
図23】物理量センサーデバイスの構成例。
図24】物理量センサー有する慣性計測装置の概略構成を示す分解斜視図。
図25】物理量センサーの回路基板の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。また以下の各図面において、説明の便宜上、一部の構成要素を省略することがある。また各図面において、分かり易くするために各構成要素の寸法比率は実際とは異なっている。
【0010】
1.第1実施形態
まず第1実施形態の物理量センサー1について、鉛直方向の加速度を検出する加速度センサーを一例として挙げ、図1図2図3図4を参照して説明する。図1は第1実施形態の物理量センサー1の平面図である。図2図1のA-A線における断面図であり、図3図1のB-B線における断面図である。図4は物理量センサー1の斜視図である。物理量センサー1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスであり、例えば慣性センサーである。
【0011】
なお図1図4では、物理量センサー1の内部の構成を説明する便宜上、図2図3で示される基板2、蓋部5等の図示を省略している。また図1図2図3では、説明の便宜のために、各部材の寸法や部材間の間隔等は模式的に示されおり、図4の斜視図とは異なっている。例えば図2図3に示す可動体3の厚みやギャップ距離等は図4の斜視図に示すように実際には非常に小さい。また以下では、物理量センサー1が検出する物理量が加速度である場合を主に例にとり説明するが、物理量は加速度に限定されず、角速度、速度、圧力、変位又は重力等の他の物理量であってもよく、物理量センサー1はジャイロセンサー、圧力センサー又はMEMSスイッチ等として用いられるものであってもよい。また説明の便宜上、各図には互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、及びZ軸を図示している。X軸に沿った方向を「X軸方向」、Y軸に沿った方向を「Y軸方向」、Z軸に沿った方向を「Z軸方向」と言う。ここで、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、各々、第1方向、第2方向、第3方向と言うこともできる。また各軸方向の矢印先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」、Z軸方向プラス側を「上」、Z軸方向マイナス側を「下」とも言う。またZ軸方向は鉛直方向に沿い、XY平面は水平面に沿っている。なお「直交」は、90°で交わっているものの他、90°から若干傾いた角度で交わっている場合も含むものとする。
【0012】
図1図4に示す物理量センサー1は、鉛直方向であるZ軸方向の加速度を検出することができる。このような物理量センサー1は、基板2と、基板2に対向して設けられた可動体3と、基板2に接合され、可動体3を覆う蓋部5を有する。可動体3は揺動構造体又はセンサー素子と言うこともできる。
【0013】
基板2は、図1に示すように、X軸方向及びY軸方向に広がりを有し、Z軸方向を厚さとする。また基板2には、図2図3に示すように、下面側に窪んでおり深さが異なる凹部21及び凹部21aが形成されている。凹部21aの上面からの深さは、凹部21よりも深い。凹部21及び凹部21aは、Z軸方向からの平面視において、可動体3を内側に内包し、可動体3よりも大きく形成されている。凹部21及び凹部21aは、可動体3と基板2との接触を抑制する逃げ部として機能する。また基板2には、凹部21の底面に第1固定電極24と第2固定電極25とが配置され、凹部21aの底面にダミー電極26aが配置されている。第1固定電極24、第2固定電極25は、各々、第1検出電極、第2検出電極と言うこともできる。また凹部21の底面にもダミー電極26b、26cが配置されている。第1固定電極24と第2固定電極25は、不図示のQVアンプにそれぞれ接続され、その静電容量差を差動検出方式により電気信号として検出する。従って、第1固定電極24と第2固定電極25とは、等しい面積であることが望ましい。そして基板2のマウント部22a、22bの上面に可動体3が接合されている。これにより可動体3を、基板2の凹部21の底面から離間させた状態で基板2に固定できるようになる。
【0014】
基板2としては、例えばアルカリ金属イオンを含むガラス材料、例えばパイレックス(登録商標)又はテンパックス(登録商標)のガラスのようなホウケイ酸ガラスで構成されたガラス基板を用いることができる。但し基板2の構成材料としては、特に限定されず、例えばシリコン基板、石英基板又はSOI(Silicon On Insulator)基板等を用いてもよい。
【0015】
蓋部5には、図2図3に示すように、上面側に窪む凹部51が形成されている。蓋部5は、凹部51内に可動体3を収納して基板2の上面に接合されている。そして、蓋部5及び基板2によって、その内側に、可動体3を収納する収納空間SAが形成されている。収納空間SAは、気密空間であり、窒素、ヘリウム又はアルゴン等の不活性ガスが封入され、使用温度が-40℃~125℃程度でほぼ大気圧となっていることが好ましい。但し、収納空間SAの雰囲気は、特に限定されず、例えば、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0016】
蓋部5としては、例えばシリコン基板を用いることができる。但し、これに特に限定されず、例えば蓋部5としてガラス基板又は石英基板などを用いてもよい。また基板2と蓋部5との接合方法としては、例えば陽極接合や活性化接合などを用いることができるが、これには特に限定されず、基板2や蓋部5の材料によって適宜選択すればよい。
【0017】
可動体3は、例えば、リン(P)、ボロン(B)又は砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板をエッチング、特に深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスによって垂直加工することにより形成できる。
【0018】
可動体3は、Y軸方向に沿う回転軸AY回りに揺動可能になっている。可動体3は、固定部32a、32bと、支持梁33と、第1質量部34と、第2質量部35と、トルク発生部36を有している。トルク発生部36は第3質量部と言うこともできる。H型の中央アンカーである固定部32a、32bは、基板2のマウント部22a、22bの上面に陽極接合等により接合されている。支持梁33は、Y軸方向に延在し、回転軸AYを形成しており、ねじりバネとして用いられている。即ち物理量センサー1に加速度azが作用すると、可動体3は、支持梁33を回転軸AYとして、支持梁33を捩り変形させながら回転軸AY回りに揺動する。なお回転軸AYは揺動軸と呼ぶこともでき、可動体3の回転軸AY回りの回転は、可動体3の揺動軸回りの揺動である。
【0019】
可動電極である可動体3は、Z軸方向からの平面視において、X軸方向を長手方向とする長方形形状となっている。そして可動体3の第1質量部34と第2質量部35は、Z軸方向からの平面視において、Y軸方向に沿う回転軸AYを間に挟んで配置されている。具体的には可動体3は、第1質量部34と第2質量部35とが第1連結部41によって連結され、第1質量部34と第2質量部35との間に第1開口部45a、45bを有する。そして第1開口部45a、45b内に固定部32a、32b及び支持梁33が配置されている。このように、可動体3の内側に固定部32a、32b及び支持梁33を配置することにより、可動体3の小型化を図ることができる。またトルク発生部36は、第2連結部42により、Y軸方向の両端で第1質量部34に対して連結されている。そして第1質量部34とトルク発生部36との間には、第1質量部34の面積と第2質量部35の面積とを等しくするために第2開口部46が設けられている。第1質量部34及びトルク発生部36は、回転軸AYに対してX軸方向プラス側に位置し、第2質量部35は、回転軸AYに対してX軸方向マイナス側に位置する。また、第1質量部34及びトルク発生部36は、第2質量部35よりもX軸方向に長く、Z軸方向の加速度azが加わったときの回転軸AY回りの回転モーメントが第2質量部35よりも大きい。
【0020】
この回転モーメントの差によって、Z軸方向の加速度azが加わった際に、可動体3が回転軸AY回りにシーソー揺動する。なお、シーソー揺動とは、第1質量部34がZ軸方向プラス側に変位すると、第2質量部35がZ軸方向マイナス側に変位し、反対に、第1質量部34がZ軸方向マイナス側に変位すると、第2質量部35がZ軸方向プラス側に変位することを意味する。
【0021】
また可動体3では、Y軸方向に並んだ第1連結部41と、固定部32a、32bとが、Y軸方向に延在する支持梁33によって接続されている。そのため、支持梁33を回転軸AYとして、可動体3を回転軸AY回りにシーソー揺動で変位させることができる。
【0022】
また可動体3は、その全域に複数の貫通孔を有する。この貫通孔により、可動体3のシーソー揺動の際の空気のダンピングが低減され、物理量センサー1を、より広い周波数範囲で適正に動作させることが可能になる。
【0023】
次に、基板2の凹部21の底面に配置された第1固定電極24及び第2固定電極25と、ダミー電極26a、26b、26cについて説明する。
【0024】
図1に示すように、Z軸方向からの平面視で、第1固定電極24は、第1質量部34と重なって配置され、第2固定電極25は、第2質量部35と重なって配置されている。これら第1固定電極24及び第2固定電極25は、Z軸方向の加速度azが加わっていない自然状態で、図2に示す静電容量Ca、Cbが等しくなるように、Z軸方向からの平面視で、回転軸AYに対して略対称に設けられている。
【0025】
第1固定電極24と第2固定電極25は、不図示の差動式のQVアンプに電気的に接続されている。物理量センサー1の駆動時において、可動体3に駆動信号が印加される。そして第1質量部34と第1固定電極24との間に静電容量Caが形成され、第2質量部35と第2固定電極25との間に静電容量Cbが形成される。Z軸方向の加速度azが加わっていない自然状態では静電容量Ca、Cbが互いにほぼ等しい。
【0026】
物理量センサー1に加速度azが加わると、可動体3が回転軸AYを中心にしてシーソー揺動する。この可動体3のシーソー揺動により、第1質量部34と第1固定電極24との離間距離と、第2質量部35と第2固定電極25との離間距離と、が逆相で変化し、これに応じて静電容量Ca、Cbが互いに逆相で変化する。これにより、物理量センサー1は、静電容量Ca、Cbの容量値の差に基づいて加速度azを検出することができる。
【0027】
また基板面露出による帯電ドリフトや可動体形成後の陽極接合時の貼り付き防止のために、第1固定電極24及び第2固定電極25以外の基板2のガラス露出面には、ダミー電極26a、26b、26cが設けられている。ダミー電極26aは、第1固定電極24よりもX軸方向プラス側に位置し、Z軸方向からの平面視においてトルク発生部36に重なるように、トルク発生部36の下方に設けられている。またダミー電極26bは、支持梁33の下方に設けられ、ダミー電極26cは第2質量部35の左下方に設けられている。これらのダミー電極26a、26b、26cは、不図示の配線により電気的に接続されている。これによりダミー電極26a、26b、26cは同電位に設定される。そして支持梁33の下方のダミー電極26bは、可動電極である可動体3に電気的に接続されている。例えば基板2に不図示の突起が設けられ、ダミー電極26bから延出した電極が当該突起の頂部を覆うように形成されて、当該電極が可動体3に接触することで、ダミー電極26bが可動体3に電気的に接続される。これによりダミー電極26a、26b、26cは、可動電極である可動体3と同電位に設定される。
【0028】
また図3に示すように、物理量センサー1には、回転軸AYを中心とする可動体3の回転を規制するストッパー11、12が設けられている。図3では、ストッパー11、12は、基板2に設けられた突起部により実現されている。ストッパー11、12は、可動体3に過度なシーソー揺動が生じた際に、その頂部が可動体3と接触することにより、可動体3のそれ以上のシーソー揺動を規制する。このようなストッパー11、12を設けることにより、互いに電位が異なる可動体3と第1固定電極24及び第2固定電極25との過度な近接を防ぐことができる。一般に、電位が異なる電極間には静電引力が発生するため、過度な近接が起こると、可動体3と第1固定電極24及び第2固定電極25との間に生じる静電引力によって可動体3が第1固定電極24や第2固定電極25に引き付けられたまま戻らなくなる「スティッキング」を引き起こす。このような状態では物理量センサー1は、正常な動作をしなくなってしまうため、ストッパー11、12を設け、過度な近接をさせないことが重要である。
【0029】
また可動体3と第1固定電極24及び第2固定電極25とは異なる電位を有しているため、図3に示すように、ストッパー11、12の頂部には、短絡を防ぐための保護膜としての電極27a、27cが、当該頂部を覆うように形成されている。具体的には図1図3に示すように、ダミー電極26aからX軸方向マイナス側に、電極27aが引き出されて、引き出された電極27aの先端部がストッパー11の頂部を覆うように設けられている。またダミー電極26cからX軸方向プラス側に電極27cが引き出されて、引き出された電極27cの先端部がストッパー12の頂部を覆うように設けられている。そしてダミー電極26a、26cは可動体3と同電位に設定されているため、可動体3がストッパー11、12に接触した場合にも、短絡が防止されるようになる。
【0030】
なおストッパー11、12の頂部に、短絡防止用の酸化シリコン、窒化シリコン等の絶縁層を設けたり、異電位の電極を設けるなどの変形実施も可能である。また図3ではストッパー11、12が基板2に設けられているが、回転軸AYを中心とする可動体3の回転を規制するストッパー11、12を、可動体3に設けたり、蓋部5に設けるなどの変形実施も可能である。
【0031】
以上のように本実施形態の物理量センサー1は、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、Z軸に直交し、第1固定電極24が設けられている基板2と、Z軸方向において第1固定電極24に対向している第1質量部34を含み、Y軸に沿った回転軸AYを中心として基板2に対して揺動可能に設けられている可動体3と、を含む。
【0032】
そして本実施形態では、図2図3に示すように、第1質量部34は、第1領域61と、第1領域61よりも回転軸AYから遠い第2領域62を含む。即ち第1質量部34には複数の領域が設定されており、これらの複数の領域のうち、回転軸AYから近い領域を第1領域61とし、第1領域61に比べて回転軸AYから遠い領域を第2領域62とする。そして第1領域61に第1貫通孔群71が設けられ、第2領域62に第2貫通孔群72が設けられている。第1領域61には、例えば正方形の複数の貫通孔が第1貫通孔群71として設けられ、第2領域62にも、例えば正方形の複数の貫通孔が第2貫通孔群72として設けられている。なお後述するように貫通孔の開口形状は正方形には限定されず、正方形以外の多角形や、円形であってもよい。また可動体3は、基板2側の面である第1面6と、第1面6に対する裏側の面である第2面7を含む。例えばZ軸方向プラス側を上方向とし、Z軸方向マイナス側を下方向とした場合に、第1面6は可動体3の下面であり、第2面7は可動体3の上面である。
【0033】
そして図2図3に示すように、第1質量部34の第1面6には、段差8が設けられている。具体的には、第1質量部34の下面である第1面6には、第1ギャップ距離h1を第2ギャップ距離h2よりも小さくするための段差8が設けられている。ここで第1ギャップ距離h1は、第1領域61での第1質量部34と第1固定電極24との間の空隙である第1空隙Q1のZ軸方向でのギャップ距離であり、第1空隙Q1での第1質量部34と第1固定電極24の離間距離である。第2ギャップ距離h2は、第2領域62での第1質量部34と第1固定電極24との間の空隙である第2空隙Q2のZ軸方向でのギャップ距離であり、第2空隙Q2での第1質量部34と第1固定電極24の離間距離である。即ち第1質量部34は、基板2に設けられている第1固定電極24と対向しているが、第1領域61での第1ギャップ距離h1が、第2領域62での第2ギャップ距離h2よりも小さくなるように、第1質量部34の基板2側の面である第1面6に段差8が設けられている。段差8を設けることで、第1領域61での第1面6よりも、第2領域62での第1面6の方が、Z軸方向プラス側に位置するようになる。これにより、第1領域61での第1面6と第1固定電極24との距離である第1ギャップ距離h1に比べて、第2領域62での第1面6と第1固定電極24との距離である第2ギャップ距離h2が大きくなる。このように第1ギャップ距離h1が小さくなることで、第1質量部34の複数の領域のうち、回転軸AYから近い側の領域である第1領域61の狭ギャップ化を実現できるため、物理量センサー1の高感度化を実現できる。
【0034】
そして本実施形態では、更に、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みよりも小さくなっている。このように第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の深さが小さくなることで、これらの貫通孔での孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1の低ダンピング化を実現できる。従って本実施形態によれば、更なる高感度化と低ダンピング化とを両立して実現できる物理量センサー1の提供が可能になる。
【0035】
ここで第1貫通孔群71の貫通孔は、第1貫通孔群71を構成する貫通孔であり、第2貫通孔群72の貫通孔は、第2貫通孔群72を構成する貫通孔である。貫通孔のZ軸方向の深さは、Z軸方向での貫通孔の長さであり、貫通孔の厚みと言うこともできる。可動体3の最大厚みとは、可動体3においてZ軸方向での厚みが最も大きい場所での可動体3の厚みである。例えばシリコン基板をエッチング等によりパターニングして可動体3を形成する場合には、可動体3の最大厚みは、例えばパターニング前のシリコン基板の厚みと言うこともできる。
【0036】
具体的には図1図4に示すように、可動体3は、基板2に固定される固定部32a、32bと、固定部32a、32bと第1質量部34を接続し、回転軸AYとなる支持梁33を含む。例えば可動体3の固定部32a、32bは、陽極接合等により基板2のマウント部22a、22bに接合されており、これにより可動体3の固定部32a、32bは基板2に固定される。また支持梁33の一端が、第1連結部41を介して第1質量部34に接続され、支持梁33の他端が、固定部32a、32bに接続されており、支持梁33は、固定部32a、32bと第1質量部34を接続している。そして固定部32a、32bが、基板2のマウント部22a、22bに接続されており、これにより捻れバネである支持梁33を回転軸AYとして、可動体3が回転軸AY回りに揺動する。
【0037】
この場合に可動体3の最大厚みは、例えば固定部32a、32b及び支持梁33の少なくとも一方のZ軸方向での厚さである。例えば可動体3の最大厚みは、固定部32a、32bのZ軸方向での厚さ、或いは支持梁33のZ軸方向での厚さである。或いは固定部32a、32bと支持梁33の厚さが等しい場合には、可動体3の最大厚みは、固定部32a、32b及び支持梁33のZ軸方向での厚さである。このようにすれば、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔のZ軸方向での深さを、固定部32a、32b及び支持梁33の少なくとも一方のZ軸方向での厚さよりも小さくできる。これにより、貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1を、より広い周波数範囲で適正に動作させることが可能になる。
【0038】
また本実施形態の物理量センサー1は、可動体3は、Z軸方向からの平面視において、第1質量部34に対して回転軸AYを挟んで設けられている第2質量部35を含む。例えば回転軸AYからX軸方向プラス側に第1質量部34が配置され、回転軸AYからX軸方向マイナス側に第2質量部35が配置される。これらの第1質量部34、第2質量部35は、例えば回転軸AYを対称軸として対称配置される。また基板2には、第2質量部35に対向している第2固定電極25が設けられている。
【0039】
そして図2図3に示すように、第2質量部35は、第3領域63と、第3領域63よりも回転軸AYから遠い第4領域64を含む。即ち第2質量部35には複数の領域から設定されており、これらの複数の領域のうち、回転軸AYから近い領域を第3領域63とし、第3領域63に比べて回転軸AYから遠い領域を第4領域64とする。そして第3領域63に第3貫通孔群73が設けられ、第4領域64に第4貫通孔群74が設けられている。
【0040】
そして図2図3に示すように、第2質量部35の下面である第1面6には、第3ギャップ距離h3を第4ギャップ距離h4よりも小さくするための段差9が設けられている。ここで第3ギャップ距離h3は、第3領域63での第2質量部35と第2固定電極25との間の空隙である第3空隙Q3のZ軸方向でのギャップ距離であり、第3空隙Q3での第2質量部35と第2固定電極25の離間距離である。第4ギャップ距離h4は、第4領域64での第2質量部35と第2固定電極25との間の空隙である第4空隙Q4のZ軸方向でのギャップ距離であり、第4空隙Q4での第2質量部35と第2固定電極25の離間距離である。即ち第2質量部35は、基板2に設けられている第2固定電極25と対向しているが、第3領域63での第3ギャップ距離h3が、第4領域64での第4ギャップ距離h4よりも小さくなるように、第2質量部35の基板2側の面である第1面6に段差9が設けられている。このように第3ギャップ距離h3が小さくなることで、第2質量部35の複数の領域のうち、回転軸AYから近い側の領域である第3領域63の狭ギャップ化を実現できるため、物理量センサー1の高感度化を実現できる。
【0041】
そして本実施形態では、更に、第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みよりも小さくなっている。このように第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の深さが小さくなることで、これらの貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1の低ダンピング化を実現できる。
【0042】
以上のように本実施形態の物理量センサー1では、可動体3の下面側である第1面6に段差8、9を設けることで複数の電極間ギャップを形成すると共に、可動体3の貫通孔の深さを小さくすることにより、高感度化と低ダンピングを両立して実現している。即ち第1質量部34の第1面6に段差8を設けることで、第1質量部34と第1固定電極24との間に、ギャップ距離が異なる第1空隙Q1と第2空隙Q2が形成され、2つの異なる電極間ギャップが形成される。同様に、第2質量部35の第1面6に段差9を設けることで、第2質量部35と第2固定電極25との間に、ギャップ距離が異なる第3空隙Q3と第4空隙Q4が形成され、2つの異なる電極間ギャップが形成される。
【0043】
ここで回転軸AYに近い第1領域61、第3領域63での第1ギャップ距離h1、第3ギャップ距離h3を小さくしている理由は、回転軸AYから遠い第2領域62、第4領域64と比較して、可動体3の揺動時におけるZ軸方向の変位が小さく、接触しづらいことを利用し、より狭ギャップ化することにより、静電容量を大きくすることができ、高感度を実現することが可能となるためである。即ち、可動体3の揺動時におけるZ軸方向の変位は、回転軸AYからの距離に比例する。このため、回転軸AYに近い第1領域61、第3領域63では、第1ギャップ距離h1、第3ギャップ距離h3に対するZ軸方向の変位が小さくなるため、第1固定電極24、第2固定電極25に接触しづらい。従って、第1領域61の第1面6と第1固定電極24との間の第1空隙Q1や、第3領域63の第1面6と第2固定電極25との間の第3空隙Q3を、狭ギャップ化することが可能になる。このように第1空隙Q1や第3空隙Q3を狭ギャップ化することにより、静電容量を大きくすることができ、物理量センサー1の感度は、静電容量が大きくなるほど高くなるため、高感度化を実現できるようになる。一方、回転軸AYから遠い第2領域62、第4領域64での第2ギャップ距離h2、第4ギャップ距離h4を大きくすることにより、第2領域62、第4領域64での第1固定電極24、第2固定電極25との接触を抑制することができるようになり、可動体3の可動範囲を拡大できるようになる。
【0044】
また本実施形態では、可動体3は、回転軸AY回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部36を含み、トルク発生部36には第5貫通孔群75が設けられる。例えば第1質量部34のX軸方向プラス側に、第3質量部であるトルク発生部36が設けられる。そしてトルク発生部36と基板2との間の空隙である第5空隙Q5のZ軸方向での第5ギャップ距離h5は、第1ギャップ距離h1及び第2ギャップ距離h2よりも大きい。また第5ギャップ距離h5は、第3ギャップ距離h3及び第4ギャップ距離h4よりも大きい。例えば図2図3では、基板2を深掘りすることで、凹部21よりもZ軸方向での高さが低い凹部21aを形成することで、トルク発生部36と基板2との間の第5空隙Q5の第5ギャップ距離h5を拡大している。これにより、ダンピングの低減化や、ダミー電極26aとの接触による貼り付き防止や、可動体3の可動範囲の拡大を実現できる。なおトルク発生部36の厚みを、固定部32a、32bや支持梁33の厚みより大きくしてもよい。このようにすれば、可動体3を回転させるための、より大きなトルクを発生させることが可能になり、更なる高感度化を実現できるようになる。
【0045】
このように本実施形態では、可動体3の第1面6に段差8、9を設けることにより、高感度化を実現すると共に、第1貫通孔群71~第4貫通孔群74の貫通孔の深さを小さくすることにより、低ダンピング化を実現している。
【0046】
例えば前述した特許文献1では、基板側に段差を設けることにより、ギャップ距離が異なる複数の空隙を形成しているが、基板の段差上に電極や配線を設けるため、プロセスリスクとして断線や短絡が発生しやすいという問題がある。この点、本実施形態では、可動体3側に段差8、9を設けて、ギャップ距離が異なる複数の空隙を形成しているため、このような断線や短絡などの問題が発生するのを抑制できる。
【0047】
また特許文献1では、可動体厚みが一様であり、貫通孔の深さが一様であるため、貫通孔の深さに比例する孔中ダンピングが大きくなりやすいという問題がある。そして、仮に、貫通孔の一様な深さを小さくして、ダンピングを低減させようとした場合、可動体の剛性が低下するため、耐衝撃性が悪化し、破損リスクが高まるという問題がある。この点、本実施形態では、可動体3の最大厚みを維持しながら、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の深さは、可動体3の最大厚みよりも小さくなっている。例えば図2図3では、固定部32a、32bや支持梁33の厚みである可動体3の最大厚みを維持しながら、第1領域61、第2領域62等での貫通孔の深さは、最大厚みよりも十分に小さくなっている。このように貫通孔の深さを小さくすることにより、孔中ダンピングを小さくできるため、低ダンピング化を実現でき、より広い周波数範囲での動作が可能になる。また可動体3の最大厚みについては確保されるため、耐衝撃性が良好な物理量センサー1を実現できる。即ち、可動体3の剛性を保ちながら、低ダンピング化を実現できる。
【0048】
また前述の特許文献2では、可動体の基板側の面に段差を設けているが、そもそも貫通孔が設けられていないため、ダンピングが非常に大きく、所望の周波数帯域を確保できないという問題がある。また仮に貫通孔を設けたとしても、剛性を確保する観点で厚みを一様に小さくすることは困難であるため、貫通孔の孔中ダンピングを小さくすることができない。これに対して本実施形態では、可動体3の第1面6に段差8、9等を設けて高感度化を図ると共に、可動体3に貫通孔を設け、当該貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みよりも小さくしている。このようにすれば、可動体3の剛性の確保と、低ダンピング化を両立して実現できる。
【0049】
また前述の特許文献3では、質量部における可動体断面を凹部形状にすることで厚みを小さくし、上下の固定電極で可動体を挟むように構成している。しかしながら、電極間の空隙のギャップ距離は一定であるため、高感度化が難しいという問題がある。また貫通孔の最適な寸法条件については記載されていないため、必ずしも低ダンピング化のための最適な貫通孔の寸法とは言いがたい。これに対して本実施形態では、可動体3の第1面6に段差8、9等を設けることで、第1ギャップ距離h1を第2ギャップ距離h2よりも小さくしたり、第3ギャップ距離h3を第4ギャップ距離h4よりも小さくするというように、電極間のギャップ距離を異ならせている。このように、段差8、9等を設けて第1ギャップ距離h1や第3ギャップ距離h3を小さくすることにより、第1質量部34の第1領域61や第2質量部35の第3領域63での狭ギャップ化を実現でき、静電容量を大きくできるため、高感度化の実現が可能になる。また貫通孔の深さを可動体3の最大厚みよりも小さくしているため、高感度化と低ダンピング化を両立して実現することができ、後述するように各領域での貫通孔の開口面積を最適化することで、更なる低ダンピング化の実現が可能になる。
【0050】
なお特許文献3では、捻れバネである支持梁の周辺の剛性が高くないため、支持梁の破損等の問題が発生するおそれがある。これに対して本実施形態では、可動体3のY軸方向の幅方向に亘って、支持梁の両側に配置される固定部32a、32bが設けられている。固定部32aは第1固定部であり、固定部32bは第2固定部である。そして、これらの固定部32a、32bが基板2のマウント部22a、22bに固定されている。例えば可動体3のY軸方向での幅をWMとする。この場合に、固定部32a、32bの長辺方向であるY軸方向での幅WFが、例えばWM/2よりも長くなるように、支持梁33の両側に固定部32a、32bが設けられている。このように支持梁33の両側に、広い距離に亘って固定部32a、32bが設けられることで、物理量センサー1が衝撃を受けた場合にも、当該衝撃による支持梁33の破損等を抑制することが可能になる。例えば回転軸AYの直ぐ近くの場所では、加速度が作用したときに殆ど変位が生じないため、回転軸AYの直ぐ近くの場所に電極を形成しても、感度としてあまり寄与しない。そこで本実施形態では、このように感度に寄与しない回転軸AYの直ぐ近くの場所に、固定部32a、32bを設けて、支持梁33の破損等を防止しており、デッドスペースの有効利用を図っている。
【0051】
また図1図4に示すように、第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積よりも大きい。同様に第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積は、第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きい。なお第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積と第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積は等しく、第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積と第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積は等しくなっている。ここで貫通孔群の貫通孔の開口面積とは、貫通孔群を構成する1つの貫通孔の開口面積である。このように、回転軸AYから遠い第2貫通孔群72や第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積を、回転軸AYから近い第1貫通孔群71や第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きくすることで、可動体3の低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサー1の低ダンピング化の実現が可能になる。
【0052】
更にトルク発生部36の領域に設けられる第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積よりも大きい。同様に第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積は、第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積よりも大きい。このように第1質量部34や第2質量部35よりも回転軸AYからの距離が遠いトルク発生部36での貫通孔の開口面積を大きくすることで、可動体3の低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサー1の更なる低ダンピング化の実現が可能になる。
【0053】
貫通孔の寸法は、ギャップ距離、貫通孔の深さ、貫通孔の寸法/孔端部間距離の比のパラメーターで決まるダンピングの最小条件近辺の値を採用できる。具体的には、各領域でサイズが異なる正方形の貫通孔が設けられており、例えば回転軸AYから近い第1領域61や第3領域63での貫通孔の開口面積は、一例としては5μm×5μm程度であり、回転軸AYから遠い第2領域62や第4領域64での貫通孔の開口面積は、一例としては8μm×8μm程度である。また回転軸AYから更に遠いトルク発生部36での貫通孔の開口面積は、一例としては20μm×20μm程度である。
【0054】
また第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みの50%未満である。例えばこれらの貫通孔の深さは、可動体3の最大厚みである固定部32a、32bや支持梁33の厚みの50%未満である。同様に第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の深さも、可動体3のZ軸方向での最大厚みの50%未満である。このように貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの半分未満にすることで、貫通孔の深さが可動体3の最大厚みと等しい場合と比べて、貫通孔の孔中ダンピングを十分に小さくすることができ、低ダンピング化を実現できるようになる。なお更に好ましくは、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの17%未満にすることが望ましい。これにより更なる低ダンピング化の実現が可能になる。
【0055】
また図1図4に示すように本実施形態では、可動体3の第2面7には、第1貫通孔群71が底面に配置される第1凹部81が、第1領域61に設けられている。即ち第1質量部34の蓋部5側の面である第2面7には、Z軸方向マイナス側に窪む第1凹部81が第1領域61に設けられている。図4に示すように、第1凹部81では、第1貫通孔群71の配置領域を囲むように複数の壁部、例えば4つの壁部が設けられ、これらの壁部により第1領域61での剛性が確保される。即ち、前述のように第1貫通孔群71の深さは、低ダンピング化のために可動体3の最大厚みよりも小さくなっている。このため、第1貫通孔群71の配置領域での可動体3の厚みが薄くなってしまい、剛性が弱くなることで、破損リスクが高まるおそれある。この点、図1図4では、第1領域61を凹部形状とすることで、第1凹部81の縁部である壁部により、第1領域61での可動体3の剛性が高められ、破損リスク等を回避することが可能になる。
【0056】
同様に可動体3の第2面7には、第3貫通孔群73が底面に配置される第3凹部83が、第3領域63に設けられている。図4に示すように、第3凹部83では、第3貫通孔群73の配置領域を囲むように複数の壁部が設けられ、これらの壁部により第3領域63での剛性が確保される。
【0057】
また図1図4に示すように、可動体3の第2面7には、第2貫通孔群72が底面に配置される第2凹部82が、第2領域62に設けられている。即ち第1質量部34の蓋部5側の面である第2面7には、Z軸方向マイナス側に窪む第2凹部82が第2領域62に設けられている。図4に示すように、第2凹部82では、第2貫通孔群72の配置領域を囲むように複数の壁部、例えば4つの壁部が設けられ、これらの壁部により第2領域62での剛性が確保される。即ち、前述のように第2貫通孔群72の深さは、低ダンピング化のために可動体3の最大厚みよりも小さくなっている。このため、第2貫通孔群72の配置領域での可動体3の厚みが薄くなってしまい、剛性が弱くなることで、破損リスクが高まるおそれある。この点、図1図4では、第2領域62を凹部形状とすることで、第2凹部82の縁部である壁部により、第2領域62での可動体3の剛性が高められ、破損リスクを回避することが可能になる。
【0058】
同様に可動体3の第2面7には、第4貫通孔群74が底面に配置される第4凹部84が、第4領域64に設けられている。図4に示すように、第4凹部84では、第4貫通孔群74の配置領域を囲むように複数の壁部が設けられ、これらの壁部により第4領域64での剛性が確保される。
【0059】
なお第2凹部82及び第4凹部84の深さは、第1凹部81及び第3凹部83の深さよりも浅くなっている。こうすることで、第1領域61での第1ギャップ距離h1や第3領域63での第3ギャップ距離h3を、第2領域62での第2ギャップ距離h2や第4領域64での第4ギャップ距離h4よりも小さくしながら、可動体3の第2面7に第1凹部81、第2凹部82、第3凹部83、第4凹部84を形成できるようになる。
【0060】
また本実施形態では、可動体3に第1凹部81~第4凹部84を形成することによって、貫通孔の深さである貫通孔の厚みを薄くしていたが、同時に貫通孔の端部間、つまり隣り合う貫通孔同士の間の領域の厚みも薄くなってしまう。そして当該領域に、例えば下部のストッパー11、12が接触することを考えると、構造体の強度的に不利になってしまう。そこで図3のストッパー11、12が接触する領域においては、可動体3の厚みを厚くすることが望ましい。例えばZ軸方向での平面視において第1領域61にストッパー11が設けられる場合には、この第1領域61のうち、少なくともストッパー11が接触する領域において可動体3の厚みを厚くする。またZ軸方向での平面視において第3領域63にストッパー12が設けられる場合には、この第3領域63のうち、少なくともストッパー12が接触する領域において可動体3の厚みを厚くする。
【0061】
また、以上では、第1質量部34に対して、隣り合う領域間に段差を有する2つの領域を設ける場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されず、第1質量部34に対して、隣り合う領域間に段差を有する3つ以上の領域を設けるようにしてもよい。例えば、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に領域RA1から領域RAnへと配置される領域RA1~領域RAnを、第1質量部34に設ける。ここでnは2以上の整数である。そして領域RA1から領域RAnへと向かうにつれて、各領域での第1質量部34と第1固定電極24との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差を設ける。この場合には、第1領域61は、領域RA1~領域RAnのうちの領域RAiであり、第2領域62は、領域RA1~領域RAnのうちの領域RAjである。ここで、i、jは、1≦i<j≦nを満たす整数であり、領域RAjは領域RAiよりも回転軸AYから遠い領域になる。そして領域RAjでの第1固定電極24との間のギャップ距離は、領域RAiでのギャップ距離よりも大きくなる。
【0062】
同様に、第2質量部35に対しても、隣り合う領域間に段差を有する3つ以上の領域を設けるようにしてもよい。例えば、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に領域RB1から領域RBnへと配置される領域RB1~領域RBnを、第2質量部35に設ける。そして領域RB1から領域RBnへと向かうにつれて、各領域での第2質量部35と第2固定電極25との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差を設ける。この場合には、第3領域63は、領域RB1~領域RBnのうちの領域RBiであり、第4領域64は、領域RB1~領域RBnのうちの領域RBjであり、領域RBjは領域RBiよりも回転軸AYから遠い領域になる。そして領域RBjでの第2固定電極25との間のギャップ距離は、領域RBiでのギャップ距離よりも大きくなる。
【0063】
なお本実施形態では、「X乃至Z」を、記載の簡素化のために、適宜、「X~Z」と記載する。例えば「領域RA1~領域RAn」は「領域RA1乃至領域RAn」を意味し、「領域RB1~領域RBn」は「領域RB1乃至領域RBn」を意味する。
【0064】
また以上では、ギャップ距離を異ならせるために、第1質量部34や第2質量部35の第1面6に段差8、9を設ける場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されず、図5に示すようにスロープ14、15を設けるようにしてもよい。後述の各実施形態でも同様である。
【0065】
具体的には図5では、第1質量部34の第1面6には、第1領域61での第1空隙Q1の第1ギャップ距離h1を、第2領域62での第2空隙Q2の第2ギャップ距離h2よりも小さくするためのスロープ14が設けられている。例えば図5に示すY軸方向からの断面視において、X軸方向に対して例えば反時計回りに所定の角度で傾斜するスロープ14が、第1質量部34の下面である第1面6に設けられている。同様に第2質量部35の第1面6には、第3領域63での第3空隙Q3の第3ギャップ距離h3を、第4領域64での第4空隙Q4の第4ギャップ距離h4よりも小さくするためのスロープ15が設けられている。例えば図5に示すY軸方向からの断面視において、X軸方向に対して例えば時計回りに所定の角度で傾斜するスロープ15が、第2質量部35の下面である第1面6に設けられている。
【0066】
例えば図2図3のように段差8、9が設けられる場合には、第1領域61、第2領域62、第3領域63、第4領域64の各領域において、h1、h2、h3、h4の各ギャップ距離は一定になる。これに対して図5のようにスロープ14、15が設けられる場合には、第1領域61、第2領域62、第3領域63、第4領域64の各領域において、h1、h2、h3、h4の各ギャップ距離は一定にならず、回転軸AYからの距離に応じて変化する。具体的には、第1質量部34の第1面6にスロープ14が設けられる場合に、第1質量部34の第1領域61では、回転軸AYから遠くなるに従って第1ギャップ距離h1は大きくなる。また第1質量部34の第2領域62では、回転軸AYから遠くなるに従って第2ギャップ距離h2は大きくなる。ここで第2ギャップ距離h2は第1ギャップ距離h1の最大距離以上の距離になる。同様に、第2質量部35の第1面6にスロープ15が設けられる場合に、第2質量部35の第3領域63では、回転軸AYから遠くなるに従って第3ギャップ距離h3は大きくなる。また第2質量部35の第4領域64では、回転軸AYから遠くなるに従って第4ギャップ距離h4は大きくなる。ここで第4ギャップ距離h4は第3ギャップ距離h3の最大距離以上の距離になる。なおスロープ14の傾きは、第1領域61と第2領域62とで異なっていてもよく、スロープ15の傾きも、第3領域63と第4領域64とで異なっていてもよい。
【0067】
このように回転軸AYから遠くなるに従ってギャップ距離が大きくなるようなスロープ14、15を設けることにより、段差8、9を設けた場合と同様の効果を得ることができる。即ち、スロープ14、15を設けることにより、回転軸AYから近い領域での狭ギャップ化が可能になり、狭ギャップ化による静電容量の増加により、物理量センサー1の高感度化を実現できるようになる。また基板2側ではなく可動体3側にスロープ14、15を設けて、ギャップ距離が異なる複数の空隙を形成しているため、断線や短絡などの問題の発生も抑制できるようになる。
【0068】
またこのようにスロープ14、15を設けて、ギャップ距離を徐々に変化させることにより、段差を設ける場合に比べて、更なる高感度化の実現も可能になる。例えばスロープ14、15を設けた場合に、回転軸AYから近い位置では、初期ギャップ距離は小さくなるが、Z軸方向の変位も小さくなる。一方、回転軸AYから遠い位置では、初期ギャップ距離が大きくなるが、Z軸方向の変位も大きくなる。従って、スロープ14、15を設けることにより、初期ギャップ距離hiに対するZ軸方向の変位hvの割合であるhv/hiを、より一様にすることが可能になる。これにより、回転軸AYから近い位置から遠い距離までの間の各位置において、静電容量の電極間ギャップの変化を、より一様にすることが可能となり、更なる高感度化の実現が可能になる。
【0069】
なお、上述のように隣り合う領域間に段差が設けられる複数の領域RA1~領域RAnや複数の領域RB1~領域RBnを設ける場合には、領域の数を多数にすることで、スロープ14、15の場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0070】
また図5では、第1領域61~第4領域64の第1面6にスロープ14、15を設けると共に、これらの領域での貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みよりも小さくしている。具体的には第1凹部81~第4凹部84を第2面7に設けることで、貫通孔の深さを小さくしている。なお図5では、例えば第1質量部34、第2質量部35の各々に2つの凹部を設けているが、3つ以上の凹部を設けるようにしてもよい。また図5では、凹部の底面についてもスロープを設けているが、凹部の底面にはスロープを設けず、凹部の底面が例えばX軸方向に平行になるようにしてもよい。
【0071】
次に、貫通孔の設計について具体的に説明する。貫通孔は、可動体3が揺動する際の気体のダンピングをコントロールするために設けられている。このダンピングは、貫通孔内を通過する気体の孔中ダンピングと、可動体3と基板2との間でのスクイズフィルムダンピングとにより構成されている。
【0072】
貫通孔を大きくするほど、貫通孔内を気体が通り易くなるため、孔中ダンピングを低減できる。また貫通孔の占有率を高くするほど、可動体3と基板2の実質的な対向面積が減少するため、スクイズフィルムダンピングを低減できる。しかし、貫通孔の占有率を高くすると、可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積の減少と、トルク発生部36の質量の低下が生じるため、加速度の検出の感度が低下する。反対に、貫通孔を小さくするほど、即ち占有率を低くするほど、可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積が増加し、トルク発生部36の質量が増加するため、加速度の検出の感度は向上するが、ダンピングが増大してしまう。このように、検出感度とダンピングとは、トレードオフの関係にあるため、これらを両立することが極めて困難であった。
【0073】
このような問題に対して、本実施形態では、貫通孔の設計を工夫することにより、高感度化と低ダンピング化の両立を図っている。なお物理量センサー1の検出の感度は、(A)可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との離間距離であるギャップ距離をhとしたときの1/h、(B)可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積、(C)支持梁33のばね剛性、及び、(D)トルク発生部36の質量に比例する。物理量センサー1では、まずダンピングを無視した状態で、目的とする感度を得るために必要な、第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積やギャップ距離等を決定する。言い換えると貫通孔の占有率を決定する。これにより、必要な大きさの静電容量Ca、Cbが形成され、物理量センサー1は、十分な感度を得られる。
【0074】
第1質量部34や第2質量部35での複数の貫通孔の占有率としては、特に限定されないが、例えば、75%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、82%以上であることが更に好ましい。これにより、高感度化と低ダンピング化の両立が図り易くなる。
【0075】
このように、貫通孔の占有率を決定した後に、例えば第1領域61、第2領域62等の各領域ごとに、ダンピングについての設計を行う。感度を変えずにダンピングを最小にする新たな技術思想として、物理量センサー1では、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差がなるべく小さくなるように、好ましくは、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しくなるように複数の貫通孔を設計している。このように、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差をなるべく小さくすることにより、ダンピングを低減することができ、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しい場合に、ダンピングが最小となる。これにより、感度を十分に高く維持しつつ、ダンピングを効果的に低減することが可能になる。
【0076】
なお、各領域におけるダンピング設計の方法は、互いに同様であるため、以下では、第1領域61のダンピング設計について代表して説明し、他の領域でのダンピング設計については、その説明を省略する。
【0077】
第1領域61に配置されている貫通孔のZ軸方向の長さをH(μm)とし、第1質量部34の第1領域61のY軸方向に沿った長さの1/2の長さをa(μm)とし、第1質量部34の第1領域61のX軸方向に沿った長さをL(μm)とする。また、第1空隙Q1のギャップ距離であるZ軸方向の長さをh(μm)とし、第1領域61に配置されている貫通孔の一辺の長さをS0(μm)とし、隣り合う貫通孔の端部間距離をS1(μm)とし、第1空隙Q1内にある気体、即ち収納空間SA内に充填されている気体の粘性係数である粘性抵抗をμ(kg/ms)とする。この場合に、第1領域61に生じるダンピングをCとしたとき、Cは、下式(1)で表される。なお、X軸方向において隣り合う貫通孔同士の間隔と、Y軸方向において隣り合う貫通孔同士の間隔とが異なる場合は、S1は、それらの平均値とすることができる。
【0078】
【数1】
上式(1)で用いられるパラメーターは、下式(2)~(8)で表される。
【0079】
【数2】
ここで、上式(1)に含まれる孔中ダンピング成分は、下式(9)で表され、スクイズフィルムダンピング成分は、下式(10)で表される。
【0080】
【数3】
従って、上式(9)と上式(10)が等しくなる、つまり下式(11)を満たすH、h、S0、S1の寸法を用いることにより、ダンピングCが最小となる。即ち、下式(11)はダンピングを最小にする条件式である。
【0081】
【数4】
ここで、上式(11)を満足する貫通孔の一辺の長さS0をS0minとし、隣り合う貫通孔同士の間隔S1をS1minとし、これらS0minおよびS1minを上式(1)に代入したときのダンピングCであるダンピングCの最小値をCminとする。物理量センサー1に求められる精度にもよるが、H、hを一定としたときのS0、S1の範囲が下式(12)を満たすことにより、十分にダンピングを低減できる。即ち、ダンピングの最小値Cmin+50%以内のダンピングであれば、十分にダンピングを低減することができるため、所望の周波数帯域内での検出の感度の維持を可能とし、ノイズを低減することができる。
【0082】
C≦1.5×Cmin (12)
なお、下式(13)を満たすことが好ましく、下式(14)を満たすことがより好ましく、下式(15)を満たすことが更に好ましい。これにより、上述の効果をより顕著に発揮することができる。
【0083】
C≦1.4×Cmin (13)
C≦1.3×Cmin (14)
C≦1.2×Cmin (15)
【0084】
図6は、貫通孔の一辺の長さS0とダンピングとの関係を示すグラフである。ここでは、H=30um、h=2.3um、a=217.5um、L=785umとしている。また感度が一定となるようにS1/S0比は1とした。これは、S0の大きさを変えても開口率は変わらないということを示す。即ち、S1/S0比を1にすることで、S0の大きさを変えても開口率は変わらず、対向面積が変わらないことから、形成される静電容量は変わらず、感度が維持される。従って、感度を維持しながら、ダンピングが最小となるS0が存在することになる。なお開口率は、例えば領域の面積に対する、当該領域に配置される複数の貫通孔の開口面積の総和が占める率と言うことができる。
【0085】
図6のグラフから、上式(1)のダンピングは、上式(9)の孔中のダンピングと、上式(10)のスクイズフィルムダンピングに分離でき、S0がS0minより小さい領域では孔中ダンピングが支配的であり、S0がS0minより大きい領域ではスクイズフィルムダンピングが支配的であることが分かる。上式(12)を満足するS0は、図6に示すように、S0minよりも小さい側のS0’からS0minよりも大きい側のS0”までの範囲となる。S0minからS0’の範囲は、S0minからS0”の範囲と比較すると、S0の寸法ばらつきに対するダンピングの変化が大きいために寸法精度が要求されるため、寸法精度が緩和できるS0minからS0”までの範囲でS0を採用するのが望ましい。上式(13)~(15)を満たす場合についても同様である。
【0086】
また、S0、S1の関係としては、特に限定されないが、下式(16)を満たすことが好ましく、下式(17)を満たすことがより好ましく、下式(18)を満たすことが更に好ましい。このような関係を満たすことにより、可動体3にバランスよく貫通孔を形成することができる。例えばS1/S0>3では感度比の増加率は飽和傾向にあり、且つ、最小ダンピング比は大幅な増加傾向にあることから、下式(16)~下式(18)を満たすことにより、検出感度を十分に高くしつつ、ダンピングを十分に低減することができる。なお感度比とは、S1/S0=1のときの感度との比であり、最小ダンピング比とは、S1/S0=1のときの最小ダンピングとの比である。
【0087】
0.25≦S1/S0≦3.00 (16)
0.6≦S1/S0≦2.40 (17)
0.8≦S1/S0≦2.00 (18)
【0088】
図6は、貫通孔の深さ、即ちZ方向での長さがH=30μmの場合のS0とダンピングとの関係を示すグラフであった。これに対して図7図8は、各々、H=15μm、H=5μmの場合のS0とダンピングとの関係を示すグラフである。このように図6図7図8には、貫通孔の深さ以外の寸法は同一とし、貫通孔の深さであるHを、それぞれ30um、15um、5umとしたときのダンピングの傾向が示されている。このように、貫通孔の深さを小さくすればするほど、スクイズフィルムダンピングはほぼ変わらないが、孔中ダンピングは小さくなり、結果的として、全体ダンピングの最小値がより小さくなることが分かる。そして本実施形態では、貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みに比べて十分に小さくなるように、例えば図8に示すように5umというように大幅に小さくしているため、ダンピング低減効果は非常に大きい。
【0089】
図9は、規格化貫通孔深さと規格化ダンピングの関係を示すグラフである。ここで規格化貫通孔深さは、例えば貫通孔の深さの基準を30μmとした場合に、この基準に対して規格化された貫通孔の深さである。貫通孔の深さの基準としては、例えば可動体3の最大厚みを採用できる。そして図9に示すように、規格化貫通孔深さが0.5の場合には、ダンピングを約30%低減できる。従って、例えば貫通孔の深さを、貫通孔の深さの基準である可動体3の最大厚みの50%未満とすることで、ダンピングを約30%低減でき、低ダンピング化を実現できる。また規格化貫通孔深さが0.17の場合には、ダンピングを約60%低減できる。従って、例えば貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの17%未満とすることで、ダンピングを約60%低減でき、ダンピングを十分に低減することが可能になる。このように本実施形態では、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72等の貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの50%未満とすることが望ましく、更に好ましくは可動体3の最大厚みの17%未満とすることが望ましい。
【0090】
また本実施形態では、図1図4に示すように、第1質量部34の第2領域62の第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積を、第1領域61の第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。同様に第2質量部35の第4領域64の第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積を、第3領域63の第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。更にトルク発生部36の第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積を、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。
【0091】
例えばダンピングを最小にする条件式である上式(11)では、分子にr =(0.547×S0)の項があり、分母にhの項がある。従って、電極間のギャップ距離であるhが大きくなった場合には、それに応じて貫通孔の一辺の長さS0を大きくすることで、ダンピングの最小条件を満たすことが可能になる。即ち、ギャップ距離であるhが大きくなるにつれて、貫通孔の一辺の長さであるS0を大きくして、貫通孔の開口面積を大きくすることで、ダンピングを最小値に近づけることが可能になる。
【0092】
そして本実施形態では、第2領域62での第2ギャップ距離h2は、第1領域61での第1ギャップ距離h1よりも大きい。従って、第2領域62の第2貫通孔群72の開口面積を、第1領域61の第1貫通孔群71の開口面積よりも大きくすることで、第1領域61、第2領域62の各領域におけるダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。同様に、第4領域64での第4ギャップ距離h4は、第3領域63での第3ギャップ距離h3よりも大きい。従って、第4領域64の第4貫通孔群74の開口面積を、第3領域63の第3貫通孔群73の開口面積よりも大きくすることで、第3領域63、第4領域64の各領域におけるダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。
【0093】
またトルク発生部36の領域での第5ギャップ距離h5は、第1ギャップ距離h1、第2ギャップ距離h2等よりも大きい。従って、トルク発生部36の領域の第5貫通孔群75の開口面積を、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の開口面積よりも大きくすることで、トルク発生部36の領域でのダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。
【0094】
また本実施形態では、高感度化と低ダンピング化を両立して実現している。例えば物理量センサー1のノイズである素子ノイズBNEAは、下式(19)のように表される。また静電容量差を差動検出方式で検出する検出回路を有する回路装置のノイズであるICノイズCNEAは、下式(20)のように表される。そして素子ノイズBNEAとICノイズCNEAのトータルノイズTNEAは、下式(21)のように表される。ここでKはボルマン定数、Tは絶対温度、Mは可動体質量、ωは共振周波数、Sは感度、ΔCminは検出回路の容量分解能である。
【0095】
【数5】
上式(20)に示すように、感度Sを大きくすることで、ICノイズCNEAを低減でき、トータルノイズTNEAを低減できる。これによりICチップである回路装置から出力されるセンサー出力信号のノイズを低減できる。
【0096】
また上式(19)に示すように、Q値を大きくすることで、素子ノイズBNEAを低減でき、トータルノイズTNEAを低減できる。これにより回路装置から出力されるセンサー出力信号のノイズを低減できる。例えば図10は物理量センサー1の振動周波数とシーソー揺動の変位の大きさの関係を示すグラフである。Q値はダンピングに反比例し、ダンピングが小さいほどQ値は大きくなる。そして図10に示すように、ダンピングが小さいQ=0.5の場合には、ダインピングが大きいQ=0.25の場合に比べて、広い周波数範囲で、変位の大きさに対応するゲインがフラット形状になる。即ち、ダンピングを小さくすることにより、広い周波数範囲で、加速度に対するシーソー揺動の変位が一定になり、加速度に対して線形のセンサー出力信号を出力できるようになる。即ち、ダンピングを低減することで、所望の周波数帯域を確保することが可能になる。
【0097】
なお本実施形態の物理量センサー1は、基板形成工程と、固定電極形成工程と、基板接合工程と、可動体形成工程と、封止工程を含む製造方法により製造できる。基板形成工程では、例えばガラス基板をフォトリソグラフィー技法及びエッチング技法を用いてパターニングすることで、可動体3を支持するためのマウント部22a、22bやストッパー11、12等が形成された基板2を形成する。固定電極形成工程では、基板2上に導電膜を形成して、導電膜をフォトリソグラフィー技法及びエッチング技法によりパターニングして、第1固定電極24、第2固定電極25などの固定電極を形成する。基板接合工程では、基板2とシリコン基板を陽極接合等により接合する。可動体形成工程では、シリコン基板を所定の厚さに薄膜化し、シリコン基板をフォトリソグラフィー技法及びエッチング技法を用いてパターニングすることで、可動体3を形成する。この場合に深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスなどを用いる。封止工程では、基板2に蓋部5を接合し、基板2と蓋部5により形成される空間に可動体3が収納される。なお本実施形態における物理量センサー1の製造方法は、上記のような製造方法には限定されず、例えば犠牲層を用いる製造方法などの種々の製造方法を採用できる。犠牲層を用いる製造方法では、犠牲層を形成させたシリコン基板と、支持基板である基板2とを、犠牲層を介して接合し、犠牲層に可動体3が揺動可能なキャビティーを形成する。具体的には、シリコン基板に可動体3を形成させた後、シリコン基板と基板2とに挟まれた犠牲層をエッチングして除去することでキャビティーを形成して、基板2から可動体3をリリースする。本実施形態では、このような製造方法により、基板2と可動体3を有する物理量センサー1を形成してもよい。
【0098】
2.第2実施形態
図11は、第2実施形態の物理量センサー1の平面図であり、図12は、図11のA-A線における断面図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図1図4の第1実施形態では、第1領域61~第4領域64の各領域の上面である第2面7が凹部形状であった。これに対して第2実施形態では、第1領域61及び第2領域62の第2面7はフラット形状になっており、第3領域63及び第4領域64の第2面7もフラット形状になっている。また第1領域61及び第2領域62のZ軸方向での厚みや、第3領域63及び第4領域64のZ軸方向での厚みは、支持梁33や固定部32a、32bのZ軸方向での厚みよりも小さく、可動体3の最大厚みよりも小さい。即ち固定部32aと第1領域61との間に段差16を設けたり、固定部32bと第3領域63との間に段差17を設けることで、第1領域61及び第2領域62の厚みや、第3領域63及び第4領域64の厚みを一様に小さくしている。
【0099】
具体的には図11図12の第2実施形態では、可動体3の第1面6には、第2貫通孔群72が底面に配置される凹部85が、第2領域62に設けられている。同様に、可動体3の第1面6には、第4貫通孔群74が底面に配置される凹部86が、第4領域64に設けられている。凹部85、86では、各々、第2貫通孔群72、第4貫通孔群74の配置領域を囲むようにX軸方向に沿った壁部やY軸方向に沿った壁部を設けることが望ましい。
【0100】
このように第2領域62の第1面6に凹部85を設けることで、第2領域62での第2貫通孔群72の配置領域が上方に位置するようになる。従って、第1領域61での第1ギャップ距離h1を、第2領域62での第2ギャップ距離h2よりも小さくできると共に、第2貫通孔群72の深さを小さくでき、高感度化と低ダンピング化を実現できるようになる。同様に第4領域64の第1面6に凹部86を設けることで、第4領域64での第4貫通孔群74の配置領域が上方に位置するようになる。従って、第3領域63での第3ギャップ距離h3を、第4領域64での第4ギャップ距離h4よりも小さくできると共に、第4貫通孔群74の深さを小さくでき、高感度化と低ダンピング化を実現できる。また第2領域62や第4領域64の第1面6を、壁部を有する凹部形状とすることで、凹部85、86の壁部により強度を高めて、可動体3の剛性を確保することも可能である。
【0101】
このように第2実施形態でも貫通孔の深さを小さくでき、低ダンピング化を実現できる。但し、第2実施形態では、第1実施形態と比べると、貫通孔の深さを小さくできないため、ダンピング低減効果は劣るが、可動体3の剛性を高めることができるため、耐衝撃性は優れる。
【0102】
なお第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積を第1貫通孔群71に比べて大きくしたり、第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積を、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72に比べて大きくしたり、貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの50%未満にするなど、第1実施形態で説明した本実施形態の特徴は、第2実施形態でも同様に適用できる。以降に説明する各実施形態でも同様である。また図12では段差8、9を設けることで各領域でのギャップ距離を異ならせているが、図5と同様にスロープ14、15を設けることでギャップ距離を異ならせるようにしてもよく、各領域での貫通孔の設計手法についても、第1実施形態の同様の手法を採用できる。これらの点についても、以降に説明する各実施形態においても同様である。
【0103】
3.第3実施形態
図13は、第3実施形態の物理量センサー1の断面図である。ここでは第2実施形態と異なる点についてのみ説明する。第2実施形態では、第1質量部34の第1領域61及び第2領域62の第2面7側や、第2質量部35の第3領域63及び第4領域64の第2面7側が、フラット形状であった。これに対して第3実施形態では図13に示すように、第1領域61と第2領域62の間に段差18が設けられており、フラット形状になっていない。即ち可動体3の第2面7の高さが、固定部32a、第2領域62、第1領域61の順で低くなっている。また第3領域63と第4領域64の間に段差19が設けられており、フラット形状になっていない。即ち可動体3の第2面7の高さが、固定部32b、第4領域64、第3領域63の順で低くなっている。
【0104】
具体的には図13の第3実施形態では、可動体3の第2面7には、第1貫通孔群71が底面に配置される第1凹部87が、第1領域61に設けられている。同様に可動体3の第2面7には、第3貫通孔群73が底面に配置される第3凹部89が、第3領域63に設けられている。一方、可動体3の第1面6には、第2貫通孔群72が底面に配置される第2凹部88が、第2領域62に設けられている。同様に可動体3の第1面6には、第4貫通孔群74が底面に配置される第4凹部90が、第4領域64に設けられている。第1凹部87、第2凹部88、第3凹部89、第4凹部90では、各々、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72、第3貫通孔群73、第4貫通孔群74の配置領域を囲むように、X軸方向に沿った壁部や、Y軸方向に沿った壁部を設けることが望ましい。
【0105】
このように第1領域61、第3領域63に第1凹部87、第3凹部89を設けることで、第1貫通孔群71、第3貫通孔群73の深さを小さくできるようになり、低ダンピング化の実現が可能になる。また第1凹部87、第3凹部89の壁部により強度を高めて、可動体3の剛性を確保することも可能である。また第2領域62の第1面6に第2凹部88を設けることで、第2領域62での第2貫通孔群72の配置領域が上方に位置するようになる。従って、第1領域61での第1ギャップ距離h1を、第2領域62での第2ギャップ距離h2よりも小さくできると共に第2貫通孔群72の深さも小さくでき、高感度化と低ダンピング化を実現できるようになる。また第4領域64の第1面6に第4凹部90を設けることで、第4領域64での第4貫通孔群74の配置領域が上方に位置するようになる。従って、第3領域63での第3ギャップ距離h3を、第4領域64での第4ギャップ距離h4よりも小さくできると共に第4貫通孔群74の深さも小さくでき、高感度化と低ダンピング化を実現できるようになる。
【0106】
第3実施形態によれば、第2実施形態と比べると、可動体3の剛性は低下するが、第1貫通孔群71、第3貫通孔群73の深さをより小さくできるため、ダンピングをより低減することが可能になる。
【0107】
4.第4実施形態
図14は、第4実施形態の物理量センサー1の平面図であり、図15は、図14のA-A線における断面図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0108】
図1図4の第1実施形態では、回転トルクを発生させるために、第1質量部34のX軸方向プラス側にトルク発生部36を設けていた。即ち、可動体3の長手方向での長さを、回転軸AYに対して非対称にしていた。これに対して第4実施形態では、可動体3の長手方向であるX軸方向での長さを、回転軸AYに対して対称にしている。そして回転トルクを発生させるために、第1質量部34と第2質量部35とで、断面形状が意図的に異なるように設計している。具体的には、第2質量部35では、第4領域64において第2面7に第4凹部84が形成されているが、第1質量部34では、第2領域62において第2面7に凹部が形成されていない。このように第2領域62に凹部を形成しないことで、第2領域62での質量が、第4領域64での質量よりも重くなり、加速度が作用したときに、回転トルクを発生させることが可能になる。即ち第4実施形態では、第1質量部34の第2領域62は、回転軸AY回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部37となっている。
【0109】
このように第4実施形態では、可動体3のX軸方向での長さを回転軸AYに対して対称とし、回転トルクが発生するように、意図的に可動体3の質量アンバランスを形成している。従って、第1実施形態と同様の効果を維持しつつ、小型化が可能となる。また第1実施形態のように、トルク発生部36の直下において基板2の深堀が不要になるため、工程を簡略化でき、低コスト化の実現が可能になる。
【0110】
なお図14に示すように第4実施形態では、第1質量部34のX軸方向プラス側にダミー電極26dが配置される。そしてダミー電極26dからX軸方向マイナス側に電極27dが引き出されて、引き出された電極27dの先端部がストッパー11の頂部を覆うように設けられる。そしてダミー電極26dは可動体3と同電位に設定されているため、可動体3がストッパー11に接触した場合にも、短絡が防止されるようになる。或いは、基板2にストッパー11を設けなくても、基板2の可動体3の先端部分の直下のエリアに、ダミー電極を設ける構造としてもよい。
【0111】
また、前述したように、第1質量部34に設けられる領域の数は2つには限定されず、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に領域RA1から領域RAnへと配置される領域RA1~領域RAnを設けてもよい。この場合に、トルク発生部37となる第2領域62は、例えば回転軸AYから遠い領域RAnになる。また第1領域61は、領域RA1~領域RAn-1のうち、領域RAnよりも回転軸AYに近い領域になる。なお領域RAnと領域RAn-1というように、回転軸AYから遠い2つ以上の領域を、例えば第2面7に凹部を形成しないことで、トルク発生部37に設定してもよい。
【0112】
5.第5実施形態
図16は、第5実施形態の物理量センサー1の平面図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。第1実施形態では、第1領域61~第4領域64やトルク発生部36の領域などの各領域において、上式(11)等で説明したダンピングの最小化条件を適用した貫通孔寸法とした。これに対して第5実施形態では、回転軸AYから近い第1領域61、第3領域63においてだけ、ダンピングの最小化条件を適用した貫通孔寸法とし、他の領域においては、第1領域61、第3領域63と同じ貫通孔寸法を用いている。即ち図16に示すように、第2領域62、第4領域64、トルク発生部36の領域において、第1領域61、第3領域63の貫通孔と同じ開口面積の貫通孔を設けている。
【0113】
このように第5実施形態では、可動体3の複数の領域のうち、例えば回転軸AYから近い領域の貫通孔だけが、ダンピングの最小化条件を適用した貫通孔寸法となっている。即ち、複数の領域の各領域に応じて、その領域でのギャップ距離に応じたダンピングの最小化条件を適用するのが望ましいが、これらの領域のうちの特定の領域だけに対してダンピングの最小化条件を適用しても、十分な効果が得られる。
【0114】
6.第6実施形態、第7実施形態、第8実施形態
図17図18図19は、各々、第6実施形態、第7実施形態、第8実施形態の物理量センサー1の平面図である。第6実施形態、第7実施形態、第8実施形態が第1実施形態と異なる点は、貫通孔の開口形状を、図17の第6実施形態では正方形から円形へと変更しており、図18の第7実施形態では正方形から五角形へと変更しており、図19の第8実施形態では正方形から六角形へと変更している点である。第6実施形態、第7実施形態、第8実施形態では、第1実施形態と比較して、貫通孔の開口形状は異なるが、ダンピングに関しての効果としては同様の効果を得ることができる。
【0115】
このように本実施形態の物理量センサー1では、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の開口形状は円形又は多角形である。このような円形又は多角形の開口形状の貫通孔を設けることで、低ダンピング化を実現できる。ここで多角形は、図1図18図19に示すような正方形、五角形、六角形には限定されず、正方形、五角形、六角形以外の多角形であってもよい。例えば貫通孔を正方形ではない長方形の形状としてもよい。また円形は、真円形状には限定されず、楕円形状などであってもよい。
【0116】
なお、貫通孔の形状が正方形以外の場合に、上式(1)~(11)等で説明したダンピングの最小化条件を適用した貫通孔寸法は、下記のように計算すればよい。例えば貫通孔の開口形状が、Z軸方向からの平面視で、正方形以外の多角形であったとする。この場合に、多角形の面積をA1、正方形の面積をA2としたとき、0.75≦A1/A2≦1.25を満たす場合には、貫通孔の開口形状を正方形とみなして貫通孔寸法を計算すればよい。またZ軸方向からの平面視で、貫通孔の開口形状が、真円の場合には、上式(7)のrを、隣り合う貫通孔同士の中心間距離の1/2の長さとし、上式(8)のrを、貫通孔の半径の長さとして、貫通孔寸法を計算すればよい。またZ軸方向からの平面視で、貫通孔の開口形状が楕円形であったとする。この場合には、楕円形の面積をA1、真円の面積をA2としたとき、0.75≦A1/A2≦1.25を満たす場合に、貫通孔の開口形状を真円とみなして貫通孔寸法を計算すればよい。
【0117】
7.第9実施形態
図20は、第9実施形態の物理量センサー1の平面図であり、図21図20のC-C線における断面図である。第9実施形態は、第8実施形態と貫通孔の形状は同一である。但し、第9実施形態では、図21に示すように、貫通孔76、77の周辺では、可動体3の厚みは貫通孔76、77の深さと同一であるが、貫通孔76、77の端部間では、可動体3の厚みが貫通孔76、77の深さとは異なっている。つまり、貫通孔76に対して凹部78が設けられ、貫通孔77に対して凹部79が設けられるというように、貫通孔ごとに凹部が設けられている。このように第9実施形態では、図20図21に示すように、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の少なくとも1つの貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部が設けられている。同様に第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の少なくとも1つの貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部が設けられている。
【0118】
例えば第1実施形態や第8実施形態等では、第1領域61~第4領域64の各領域ごとに凹部を設けることで、凹部の壁部での厚みを大きくして、剛性を確保していた。これに対して第9実施形態では、各貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部を設けて、貫通孔の周辺に厚みが大きい凹部の壁部を設けることで、剛性を確保している。これにより、ダンピングを殆ど増加させることなく、可動体3の強度を高めて剛性を確保できるようになる。なお図20図21では、1つの貫通孔ごとに凹部を設けているが、少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部が設けられていればよく、例えば複数の貫通孔ごとに凹部を設けてもよい。例えば第1領域61~第4領域64の各領域に複数の凹部が設けられるように、少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部を設ける。また、このように少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部を設ける場合に、貫通孔の開口形状は、図20に示すような六角形には限定されず、図1図18に示すような六角形以外の多角形や、図17に示すような円形であってもよい。
【0119】
8.第10実施形態
図22は、第10実施形態の物理量センサー1の平面図である。第10実施形態では、第9実施形態の配列方式とは異なる配列方式で、貫通孔を配列している。即ち第10実施形態では、貫通孔の配列が、強度が高いとされるハニカム配列になっている。なお第10実施形態では、第9実施形態と同様に、貫通孔ごとに凹部が設けられており、貫通孔の周辺部に比べて、貫通孔の端部間での可動体3の厚みが厚くなっている。このように、貫通孔の深さを小さくした場合にも、ハニカム配列などの配列を用いることで、可動体強度をより高めることが可能になる。
【0120】
以上のように本実施形態の物理量センサー1として第1実施形態~第10実施形態の物理量センサー1を説明したが、本実施形態の物理量センサー1はこれに限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば本実施形態の物理量センサー1は、第1実施形態~第10実施形態の少なくとも2つの実施形態を組み合わせた構成の物理量センサー1であってもよい。また、以上では、物理量センサー1が加速度センサーである場合を主に説明したが、本実施形態はこれに限定されず、物理量センサー1は、加速度以外の物理量である角速度、速度、圧力、変位又は重力等を検出するセンサーであってもよい。
【0121】
9.物理量センサーデバイス
次に本実施形態の物理量センサーデバイス100について図23を用いて説明する。図23は物理量センサーデバイス100の断面図である。物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1と、電子部品としてのIC(Integrated Circuit)チップ110を含む。ICチップ110は半導体チップと言うこともでき、半導体素子である。ICチップ110は、接合部材であるダイアタッチ材DAを介して、物理量センサー1の蓋部5の上面に接合されている。ICチップ110は、ボンディグワイヤーBW1を介して、物理量センサー1の電極パッドPと電気的に接続されている。回路装置であるICチップ110には、例えば物理量センサー1に駆動電圧を印加する駆動回路や、物理量センサー1からの出力に基づいて加速度を検出する検出回路や、検出回路からの信号を所定の信号に変換して出力する出力回路等が必要に応じて含まれている。このように本実施形態の物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1とICチップ110を含んでいるため、物理量センサー1の効果を享受でき、高精度化等を実現できる物理量センサーデバイス100を提供できる。
【0122】
また物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1及びICチップ110が収納される容器であるパッケージ120を含むことができる。パッケージ120は、ベース122とリッド124を含む。ベース122にリッド124が接合されることで気密封止される収納空間SBに、物理量センサー1及びICチップ110が収納される。このようなパッケージ120を設けることで、物理量センサー1及びICチップ110を衝撃、埃、熱、湿気等から好適に保護することができる。
【0123】
またベース122は、収納空間SB内に配置された複数の内部端子130と、底面に配置された外部端子132、134を含む。そしてボンディグワイヤーBW1を介して、物理量センサー1とICチップ110が電気的に接続されており、ボンディグワイヤーBW2を介して、ICチップ110と内部端子130とが電気的に接続されている。そして内部端子130は、ベース122内に設けられた不図示の内部配線を介して、外部端子132、134に電気的に接続されている。これにより物理量センサー1により検出された物理量に基づくセンサー出力信号を外部に出力することが可能になる。
【0124】
なお以上では、物理量センサーデバイス100に設けられる電子部品がICチップ110である場合を例に説明したが、電子部品は、ICチップ110以外の回路素子であってもよいし、物理量センサー1とは異なるセンサー素子であってもよいし、LCD(Liquid Crystal Display)やLED(Light Emitting Diode)などにより実現される表示素子などであってもよい。回路素子としては、例えばコンデンサーや抵抗などの受動素子やトランジスターなどの能動素子がある。センサー素子は、例えば物理量センサー1が検出する物理量とは異なる物理量をセンシングする素子である。またパッケージ120を設ける代わりにモールド実装としてもよい。
【0125】
10.慣性計測装置
次に、本実施形態の慣性計測装置2000について図24図25を用いて説明する。図24に示す慣性計測装置2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車やロボットなどの運動体の姿勢や挙動などの慣性運動量を検出する装置である。慣性計測装置2000は、3軸に沿った方向の加速度ax、ay、azを検出する加速度センサーと、3軸回りの角速度ωx,ωy,ωzを検出する角速度センサーと、を備えた、いわゆる6軸モーションセンサーである。
【0126】
慣性計測装置2000は、平面形状が略正方形の直方体である。また正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、マウント部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性計測装置2000を固定することができる。なお、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンやデジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
【0127】
慣性計測装置2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300を有し、アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300を挿入した構成となっている。センサーモジュール2300は、インナーケース2310と回路基板2320を有している。インナーケース2310には、回路基板2320との接触を防止するための凹部2311や、後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。そしてインナーケース2310の下面には、接着剤を介して回路基板2320が接合されている。
【0128】
図25に示すように、回路基板2320の上面には、コネクター2330、Z軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340z、X軸、Y軸及びZ軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサーユニット2350などが実装されている。また回路基板2320の側面には、X軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340x及びY軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。
【0129】
加速度センサーユニット2350は、前述したZ軸方向の加速度を測定するための物理量センサー1を少なくとも含み、必要に応じて、一軸方向の加速度を検出したり、二軸方向や三軸方向の加速度を検出したりすることができる。なお角速度センサー2340x、2340y、2340zとしては、特に限定されないが、例えばコリオリの力を利用した振動ジャイロセンサーを用いることができる。
【0130】
また回路基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360は、例えばMCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーターなどを内蔵しており、慣性計測装置2000の各部を制御する。なお、回路基板2320には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0131】
以上のように本実施形態の慣性計測装置2000は、物理量センサー1と、物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360を含む。この慣性計測装置2000によれば、物理量センサー1を含む加速度センサーユニット2350を用いているため、物理量センサー1の効果を享受でき、高精度化等を実現できる慣性計測装置2000を提供できる。
【0132】
以上に説明したように、本実施形態の物理量センサーは、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、Z軸に沿ったZ軸方向において第1固定電極に対向している第1質量部を含み、Y軸に沿った回転軸を中心として基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、を含む。そして第1質量部は、第1領域と、第1領域よりも回転軸から遠い第2領域と、を含み、第1領域に第1貫通孔群が設けられ、第2領域に第2貫通孔群が設けられる。また可動体は、基板側の面である第1面と、第1面に対する裏側の面である第2面と、を含む。そして第1質量部の第1面には、第1領域での第1質量部と第1固定電極との間の空隙である第1空隙のZ軸方向での第1ギャップ距離を、第2領域での第1質量部と第1固定電極との間の空隙である第2空隙のZ軸方向での第2ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられる。そして第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体のZ軸方向での最大厚みよりも小さい。
【0133】
本実施形態によれば、回転軸を中心として揺動可能に設けられる可動体の第1質量部は、第1貫通孔群が設けられる第1領域と、第2貫通孔群が設けられ、第1領域よりも回転軸から遠い第2領域を含む。そして、第1質量部の基板側の面である第1面には、第1領域の第1空隙での第1ギャップ距離を、第2領域の第2空隙での第2ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられている。更に第1領域の第1貫通孔群及び第2領域の第2貫通孔群の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体のZ軸方向での最大厚みよりも小さくなっている。このように第1領域での第1ギャップ距離を、第2領域での第2ギャップ距離よりも小さくする段差又はスロープが設けられることで、第1領域を狭ギャップ化することが可能になり、物理量センサーの高感度化を実現できる。また第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の深さが、可動体の最大厚みよりも小さくなることで、これらの貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、低ダンピング化を実現できる。従って、高感度化と低ダンピング化を両立して実現できる物理量センサーの提供が可能になる。
【0134】
また本実施形態では、第2貫通孔群の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きくてもよい。
【0135】
このように、回転軸から遠い第2貫通孔群の貫通孔の開口面積を、回転軸から近い第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きくすることで、低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサーの低ダンピング化を実現できる。
【0136】
また本実施形態では、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の深さは、可動体のZ軸方向での最大厚みの50%未満であってもよい。
【0137】
このように貫通孔の深さを、可動体の最大厚みの半分未満にすることで、貫通孔の厚さが可動体の最大厚みと等しい場合に比べて、貫通孔の孔中ダンピングを十分に小さくすることができ、低ダンピング化を実現できるようになる。
【0138】
また本実施形態では、第1質量部の第1面にスロープが設けられる場合に、第1質量部の第1領域では、回転軸から遠くなるに従って第1ギャップ距離は大きくなり、第1質量部の第2領域では、回転軸から遠くなるに従って第2ギャップ距離は大きくなってもよい。
【0139】
このように回転軸から遠くなるに従って第1ギャップ距離や第2ギャップ距離が大きくなるようなスロープを設けることで、狭ギャップ化等による物理量センサーの高感度化を実現できるようになる。
【0140】
また本実施形態では、可動体は、基板に固定される固定部と、固定部と第1質量部を接続し、回転軸となる支持梁と、を含み、可動体の最大厚みは、固定部及び支持梁の少なくとも一方のZ軸方向での厚さであってもよい。
【0141】
このようにすれば、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の深さを、固定部及び支持梁の少なくとも一方の厚さよりも小さくできるため、貫通孔の孔中ダンピング等を低減できるようになる。
【0142】
また本実施形態では、可動体の第2面には、第1貫通孔群が底面に配置される第1凹部が、第1領域に設けられていてもよい。
【0143】
このように第1領域に第1凹部が設けられることで、第1凹部の縁部である壁部により、第1領域での可動体の剛性が高められ、破損リスク等を回避することが可能になる。
【0144】
また本実施形態では、可動体の第2面には、第2貫通孔群が底面に配置される第2凹部が、第2領域に設けられていてもよい。
【0145】
このように第2領域に第2凹部が設けられることで、第2凹部の縁部である壁部により、第2領域での可動体の剛性が高められ、破損リスク等を回避することが可能になる。
【0146】
また本実施形態では、可動体の第1面には、第2貫通孔群が底面に配置される凹部が、第2領域に設けられていてもよい。
【0147】
このように第2領域の第1面に凹部を設ければ、第1領域での第1ギャップ距離を、第2領域での第2ギャップ距離よりも小さくできると共に第2貫通孔群の深さも小さくできるため、高感度化と低ダンピング化を実現できるようになる。
【0148】
また本実施形態では、可動体の第2面には、第1貫通孔群が底面に配置される第1凹部が、第1領域に設けられ、可動体の第1面には、第2貫通孔群が底面に配置される第2凹部が、第2領域に設けられていてもよい。
【0149】
このように第1領域の第2面に第1凹部を設けると共に第2領域の第1面に第2凹部を設ければ、第1領域での第1ギャップ距離を、第2領域での第2ギャップ距離よりも小さくできると共に第1貫通孔群及び第2貫通孔群の深さも小さくでき、高感度化と低ダンピング化を実現できるようになる。
【0150】
また本実施形態では、可動体の第1面又は第2面には、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部が設けられていてもよい。
【0151】
このように少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部を設ければ、低ダンピング化を実現しながら、可動体の強度を更に高めて剛性を確保できるようになる。
【0152】
また本実施形態では、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の開口形状は多角形又は円形であってもよい。
【0153】
このように本実施形態では、貫通孔の開口形状を種々の形状にした場合にも、高感度化と低ダンピング化を両立して実現できる。
【0154】
また本実施形態では、第1質量部の第2領域は、回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部であってもよい。
【0155】
このようにすれば、第2領域をトルク発生部として利用できるようになり、物理量センサーの小型化等を実現できるようになる。
【0156】
また本実施形態では、可動体は、Z軸方向からの平面視において、第1質量部に対して回転軸を挟んで設けられている第2質量部を含んでもよい。そして基板には、第2質量部に対向している第2固定電極が設けられ、第2質量部は、第3領域と、第3領域よりも回転軸から遠い第4領域と、を含み、第3領域に第3貫通孔群が設けられ、第4領域に第4貫通孔群が設けられてもよい。また第2質量部の第1面には、第3領域での第2質量部と第2固定電極との間の空隙である第3空隙のZ軸方向での第3ギャップ距離を、第4領域での第2質量部と第2固定電極との間の空隙である第4空隙のZ軸方向での第4ギャップ距離よりも小さくするための段差又はスロープが設けられてもよい。そして第3貫通孔群及び第4貫通孔群の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体の最大厚みよりも小さくてもよい。
【0157】
このように第3領域での第3ギャップ距離を、第4領域での第4ギャップ距離よりも小さくする段差又はスロープが設けられることで、第3領域を狭ギャップ化することが可能になり、物理量センサーの高感度化を実現できる。また第3貫通孔群及び第4貫通孔群の貫通孔の深さが、可動体の最大厚みよりも小さくなることで、これらの貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、低ダンピング化を実現できる。
【0158】
また本実施形態では、第2質量部の第1面にスロープが設けられる場合に、第2質量部の第3領域では、回転軸から遠くなるに従って第3ギャップ距離は大きくなり、第2質量部の第4領域では、回転軸から遠くなるに従って第4ギャップ距離は大きくなってもよい。
【0159】
このように回転軸から遠くなるに従って第3ギャップ距離や第4ギャップ距離が大きくなるようなスロープを設けることで、狭ギャップ化等による物理量センサーの高感度化を実現できるようになる。
【0160】
また本実施形態では、可動体は、回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部を含み、トルク発生部には、第5貫通孔群が設けられ、トルク発生部と基板との間の空隙である第5空隙のZ軸方向での第5ギャップ距離は、第1ギャップ距離及び第2ギャップ距離よりも大きくてもよい。
【0161】
このようにすれば、ダンピングの低減化や可動体の可動範囲の拡大等を実現できるようになる。
【0162】
また本実施形態では、第5貫通孔群の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きくてもよい。
【0163】
このように回転軸からの距離が遠いトルク発生部での貫通孔の開口面積を大きくすることで、可動体のダンピングを更に最適に低減することが可能になる。
【0164】
また本実施形態は、上記に記載の物理量センサーと、物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、含む物理量センサーデバイスに関係する。
【0165】
また本実施形態は、上記の物理量センサーと、物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、を含む慣性計測装置に関係する。
【0166】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また物理量センサー、物理量センサーデバイス、慣性計測装置の構成・動作等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0167】
1…物理量センサー、2…基板、3…可動体、5…蓋部、6…第1面、7…第2面、8、9…段差、11…ストッパー、12…ストッパー、14、15…スロープ、16、17、18、19…段差、21、21a…凹部、22a、22b…マウント部、24…第1固定電極、25…第2固定電極、26a、26b、26c、26d…ダミー電極、27a、27c、27d…電極、32a、32b…固定部、33…支持梁、36、37…トルク発生部、41…第1連結部、42…第2連結部、45a、45b…第1開口部、46…第2開口部、51…凹部、61…第1領域、62…第2領域、63…第3領域、64…第4領域、71…第1貫通孔群、72、73…第3貫通孔群、74…第4貫通孔群、75…第5貫通孔群、76、77…貫通孔、78、79…凹部、81…第1凹部、82…第2凹部、83…第3凹部、84…第4凹部、85、86…凹部、87…第1凹部、88…第2凹部、89…第3凹部、90…第4凹部、100…物理量センサーデバイス、110…ICチップ、120…パッケージ、122…ベース、124…リッド、130、132…外部端子、134…外部端子、2000…慣性計測装置、2100…アウターケース、2110…ネジ穴、2200…接合部材、2300…センサーモジュール、2310…インナーケース、2311…凹部、2312…開口、2320…回路基板、2330…コネクター、2340x…角速度センサー、2340y…角速度センサー、2340z…角速度センサー、2350…加速度センサーユニット、2360…制御IC、
AY…回転軸、BW1、BW2…ボンディグワイヤー、DA…ダイアタッチ材、Ca、Cb…静電容量、P…電極パッド、Q1…第1空隙、Q2…第2空隙、Q3…第3空隙、Q4…第4空隙、Q5…第5空隙、SA…収納空間、SB…収納空間、h1…第1ギャップ距離、h2…第2ギャップ距離、h3…第3ギャップ距離、h4…第4ギャップ距離、h5…第5ギャップ距離、
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