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特許7585713プラスチックフィルム製膜用ゴムローラー、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置
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  • 特許-プラスチックフィルム製膜用ゴムローラー、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】プラスチックフィルム製膜用ゴムローラー、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 13/00 20060101AFI20241112BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20241112BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20241112BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20241112BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F16C13/00 A
B32B1/08 Z
B32B25/04
B29C59/04 C
B65H5/06 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020180236
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071335
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 忠
(72)【発明者】
【氏名】千原 駿
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-177006(JP,A)
【文献】特開2009-109952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 13/00
B32B 1/08
B32B 25/04
B29C 59/04
B65H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒の芯材と、芯材の外周に形成されゴムで構成された弾性体層と、を有し、
前記弾性体層は、
厚み方向の熱伝導率が、前記芯材の軸方向中央部よりも軸方向端部が高
熱伝導率の異なる2種類以上のゴム層を含む2層以上のゴム層が積層された積層体であって、
前記ゴム層のうち最も熱伝導率が高いゴム層は、厚みが、前記芯材の軸方向端部から軸方向中央部に向かって漸減しており、
前記ゴム層のうち最もゴム硬度が低いゴム層が、前記最も熱伝導率が高いゴム層である、
プラスチックフィルム製膜用ゴムローラー。
【請求項2】
前記弾性体層の最表層のゴム層は、ゴム硬度がA80以上である、請求項のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー。
【請求項3】
前記弾性体層の最内層のゴム層は、引張強さが12MPa以上である、請求項1または2のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー。
【請求項4】
Tダイから溶融樹脂を吐出し、この吐出された溶融樹脂をニップローラーと冷却ローラーとで挟圧しながら冷却することにより溶融樹脂を固化して、ウェブ状のプラスチックフィルムを得るプラスチックフィルムの製造方法であって、
前記ニップローラーが、請求項1~3のいずれかのプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーである、
プラスチックフィルムの製造方法。
【請求項5】
Tダイ、ニップローラーおよび冷却ローラーを備え、
前記Tダイからウェブ状に吐出された溶融樹脂が、前記ニップローラーと前記冷却ローラーとで挟圧されるように、Tダイ、ニップローラーおよび冷却ローラーが配置されたプラスチックフィルムの製造装置であって、
前記ニップローラーが、請求項1~のいずれかのプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーである、
プラスチックフィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルムを製膜する方法の一つとして、例えば、特許文献1に記載されているような、溶融しシート状に押し出した樹脂を、冷却機能を有する芯金の表面にシリコーンゴムを被覆したゴムローラーと冷却ローラーで挟圧し、冷却固化する方法が用いられている。
【0003】
シリコーンゴムローラーを用いる理由は、シリコーンゴムが溶融樹脂に対し離型性が高く、溶融樹脂がゴムローラーに粘着して巻き付くことを防止しやすいことと、溶融樹脂から加熱されても、十分な耐熱性により長期間の使用に耐えることが出来るからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/080925号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーンゴムを用いても、生産性向上のために製膜速度を高めると、ゴムローラー表面の温度が上昇し、それによる離型性の低下が原因となって、溶融樹脂がゴムローラーに巻き付き、製膜が出来なくなるという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決し、高速での製膜においても溶融樹脂の巻き付きを防止可能なプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーは、
円筒の芯材と、芯材の外周に形成されゴムで構成された弾性体層と、を有し、
上記弾性体層は、厚み方向の熱伝導率が、上記芯材の軸方向中央部よりも軸方向端部が高い。
【0008】
また、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーは、上記弾性体層が、熱伝導率の異なる2種類以上のゴム層を含む2層以上のゴム層が積層された積層体であって、
上記ゴム層のうち最も熱伝導率が高いゴム層は、厚みが、上記芯材の軸方向端部から軸方向中央部に向かって漸減していることが好ましい。
【0009】
また、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーは、上記ゴム層のうち最もゴム硬度が低いゴム層が、上記最も熱伝導率が高いゴム層であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーは、上記弾性体層の最表層のゴム層は、ゴム硬度がA80以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーは、上記弾性体層の最内層のゴム層は、引張強さが12MPa以上であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決する本発明のプラスチックフィルムの製造方法は、Tダイから溶融樹脂を吐出し、この吐出された溶融樹脂をニップローラーと冷却ローラーとで挟圧しながら冷却することにより溶融樹脂を固化して、ウェブ状のプラスチックフィルムを得るプラスチックフィルムの製造方法であって、
上記ニップローラーが、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーである。
【0013】
上記課題を解決する本発明のプラスチックフィルムの製造装置は、Tダイ、ニップローラーおよび冷却ローラーを備え、
上記Tダイからウェブ状に吐出された溶融樹脂が、上記ニップローラーと上記冷却ローラーとで挟圧されるように、Tダイ、ニップローラーおよび冷却ローラーが配置されたプラスチックフィルムの製造装置であって、
上記ニップローラーが、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーである。
【0014】
本発明における各用語は以下のように定義する。
「弾性体層」とは弾性体からなる層であって、弾性体とは、一般的にゴムや、エラストマーと呼ばれる物質であって、高分子有機化合物またはそれを基本成分とする固体材料であって、JISK6200において定義されているものをいう。例えば、シリコーンゴムやブダジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)やポリクロロプレン(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはそれらに耐候性や滑り性、耐摩耗性、強度などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものである。
【0015】
「厚み方向の熱伝導率」とは、弾性体層の厚み方向、言い換えればゴムローラーの半径方向の熱伝導率であって、弾性体層が複数のゴム層からなる場合には、複数層全体の熱伝導率を言う。
【0016】
「ゴム硬度」とは、ゴムの硬さを示す指標であり、本発明においてはJIS K 6253:2012で示されるタイプAデュロメータ硬さ試験での測定値を指す。
【0017】
「ニップローラー」とは、「冷却ローラー」と共に溶融樹脂を挟圧し、冷却固化するためのローラーであって、表面近傍に弾性を有するローラーを言う。例えば表面が超平滑面であったり、梨地形状や特殊な形状であって、その表面形状をプラスチックフィルムの表面に転写させることを目的としたローラーなども含まれる。また、表面には金属製の薄膜スリーブやめっき層などがあっても良い。
【0018】
「冷却ローラー」とは、溶融樹脂に接触し冷却することで溶融樹脂を固化させることを目的としたローラーをいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、高速での製膜においても溶融樹脂の巻き付きを防止可能なプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーと、それを用いたプラスチックフィルムの製造方法および製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーの一実施形態を示す概略断面図である。
図2】本発明のプラスチックフィルムの製造装置の一実施形態を示す概略側面図である。
図3】本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーの別の一実施形態を示す概略断面図である。
図4】本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーの別の一実施形態を示す概略断面図である。
図5】従来のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラーを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の最良の実施形態の例を図面を参照しながら説明する。
図1に示すように本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー(以下、ゴムローラーと称することがある)100は、芯材12に弾性体層11を被覆している。
【0022】
芯材12は例えば図1に示すように内部に水などの熱媒を流通させるための流路13を設けてあるなど、ゴムローラー100の表面の温度を内部から冷却可能とする構造を持つ。
【0023】
芯材12の材質は特に限定されず金属やプラスチック、または繊維強化樹脂など通常の構造材料から適宜選択して使用することができるが、冷却能力の観点から熱伝導率の高い金属材料を好ましく用いることが出来る。金属材料としては、たとえば炭素鋼やステンレス鋼、アルミニウムおよびアルミニウム合金などを好ましく用いることが出来る。
【0024】
本発明のゴムローラー100は、芯材12の表面に弾性体層11が被覆されており、弾性体層11の厚み方向の熱伝導率は芯材12の軸方向中央部よりも軸方向端部が高い。
【0025】
本発明者らは、図2に示すようなニップローラー3と冷却ローラー4で溶融樹脂2を挟圧し、冷却固化するプラスチックフィルム(以下、フィルムと称することがある)6の製膜工程において、製膜速度の向上を阻む大きな要因としてニップローラー3への溶融樹脂2の粘着による巻き付きがあり、これが、ニップローラー3の端部を起点として発生していることを突き止めた。本知見をもとに鋭意検討した結果、ニップローラー3として使用するゴムローラー100の弾性体層11の厚み方向の熱伝導率を、芯材12の軸方向中央部よりも軸方向端部を高くすることによって、上記巻き付きを防止することが可能であることを見いだした。弾性体層11の厚み方向の熱伝導率が芯材12の軸方向中央部よりも軸方向端部が高くなっていることにより、ゴムローラー100の端部の表面温度を効率的に低下させ、これにより、ゴムローラー100の端部と溶融樹脂2との離型性が向上し、端部を起点とする粘着および巻き付きを防止することが可能となる。また、通常、ニップローラー3の弾性体層11の表面に用いられるゴムはその表面形状がプラスチックフィルム6に転写されるために、配合を容易に変更することが出来ず、熱伝導率をコントロールすることが困難であるが、本発明によれば、製品とならない端部のフィルムエッジ部分23に接触するゴム層の配合のみを調整し、熱伝導率を向上させることで容易に製膜速度を向上させることが出来る。
【0026】
ゴムローラー100の弾性体層11の厚み方向の熱伝導率を、芯材12の軸方向中央部よりも軸方向端部を高くする方法としては、特に限定されないが、例えば図1に示すように、弾性体層11を軸方向に複数の部分に分割し、端部に熱伝導率の高いゴム16を設けても良い。また、図3に示すように、弾性体層11を熱伝導率の異なる複数のゴム層で構成し、そのうち最も熱伝導率の高いゴム層17の厚みが軸方向端部から中央部に向かって漸減するようにしても良く、この場合は継ぎ目がないために製膜したプラスチックフィルム6にも継ぎ目痕が残らないため好ましい。
【0027】
また、図3のように弾性体層11を熱伝導率の異なる複数のゴム層で構成し、そのうち最も熱伝導率の高いゴム層17の厚みが軸方向端部から中央部に向かって漸減するようにした場合には、それらゴム層の内、最もゴム硬度が低いゴム層が、最も熱伝導率が高いゴム層17であることが好ましい。このような構造であれば、ニップローラー3と冷却ローラー4の軸方向の接触圧力分布を均一にしやすくなる。軸方向の接触圧力分布が均一であると、例えばニップローラー3または/および冷却ローラー4の表面形状をフィルム6に転写させることを目的としたプラスチックフィルムの製膜方法においては、全幅均一な転写が得られる。
【0028】
また、弾性体層11の最表層のゴム層18はゴム硬度がA80以上であることが好ましい。ニップローラー3と冷却ローラー4で溶融樹脂2を挟圧し、冷却固化するプラスチックフィルムの製膜方法においては、フィッシュアイ(以下、FEと称することがある)と呼ばれる溶融樹脂2に含まれる樹脂の劣化物などによる突起を押しつぶす効果があることが知られており、ニップローラー3の弾性体層11のゴム硬度が高いほど押しつぶす効果が高いことも知られている。FEは例えば表面保護フィルムとしてフィルム6を使用する際には保護する相手に打痕を発生させるといった問題を起こす場合がある。一方で、弾性体層11のゴム硬度が高過ぎると、ゴムが変形しにくくなることにより、ローラー軸方向の接触圧力分布が悪化するばかりか、ニップローラー3と冷却ローラー4の回転方向の接触幅(以下、ニップ幅と称することがある)が狭くなることにより、十分にニップローラー3と溶融樹脂2との接触時間を得ることが出来ず、冷却不足や賦形不足により、ニップローラー3の表面形状をフィルム6に転写出来なくなることがある。この問題に対し発明者らは、弾性体層11を複数のゴム層で構成した際に、最表層のゴムさえA80以上と高硬度であれば、効果的にFEを押しつぶすことが出来ることを見いだした。すなわち、内層側のゴム層17を軟らかいゴムとすることで、弾性体層11は全体としては柔軟になり、ローラー軸方向の接触圧力分布を良好に維持し十分なニップ幅も得つつ、FEを押し潰す作用と両立することが可能となる。上記の理由から、弾性体層11の内層側のゴム層17のゴム硬度はA60以下であることが好ましい。
【0029】
また、図4に示すように弾性体層11を複数のゴム層から構成する場合、最内層のゴム層19は、引張強さが12MPa以上であることが好ましい。フィルム製膜用のニップローラー3は、高い接触圧力で用いられることが多く、ゴムが破壊されることがある。ゴムの破壊は特に最内層で発生し易いが、最内層のゴムの引張強さが12MPa以上であれば、本用途においては十分な接触圧力を掛けても、実用上十分な寿命を得やすい。
【0030】
弾性体層11のゴム層に用いるゴムは例えば、シリコーンゴムやブダジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)やポリクロロプレン(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはそれらに耐候性や滑り性、耐摩耗性、強度などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものから適宜選択して用いることが出来る。例えば、溶融樹脂2と接触するゴム層には、溶融樹脂2に対する高い離型性と耐熱性を有するシリコーンゴムを好ましく用いることが出来る。一方、芯材12との界面付近のゴムは、上述の通り12MPa以上の引張強さを持つゴムを用いることが好ましいが、シリコーンゴムでは十分な強度を得ることが困難であることが多い。弾性体層11を複数のゴム層で構成する場合には、最内層のゴムは芯材の冷却構造によって冷却されるため、耐熱性を必要としない場合が多く、最表層には離型性と耐熱性に優れるシリコーンゴムを用い、最内層には強度に優れるその他のゴム、例えばNBRやウレタンゴムなどを使用するといった構造を好ましく用いることが出来る。
【0031】
また、ゴムローラー100の表面には、ゴム以外の材質、例えば金属製の薄膜スリーブやフッ素チューブなどを設けても良い。金属製の薄膜スリーブとしては、ニッケル製のものやステンレス製のもの、またそれらの表面にめっきやコーティングなどの各種表面処理を施したものを用いることが出来る。
【0032】
ゴム層11を芯材12の表面に被覆する方法としては、各種ゴムローラーを製造する場合と同様に、シート状の未架橋ゴムを巻き付けて架橋する方法や、液状の未架橋ゴムを塗布、または吹き付け、または金型内に充填させてから架橋する方法、さらには、架橋済みのゴムチューブに芯材12を挿入し接着する方法などがある。
【0033】
弾性体層11の厚みは特に限定されないが、1~20mm程度のゴムが被覆されることが好ましい。また、上記で例示したようにゴム層を積層した構成においては、積層したゴム全体で上記範囲をとることが好ましい。この範囲であれば、フィルム6の製膜の際に、ゴムローラー100や対向する冷却ローラー4の加工精度やフィルム6の幅方向の厚みムラによる接触圧力の不均一を緩和しやすく、均一に溶融樹脂2を挟圧、冷却しやすくなる。また、芯材12の内部に熱媒を流通させるなどの構造によってエンボスローラー表面の温度を制御する際にも、温度制御しやすくなる。
【0034】
図2には、本発明のプラスチックフィルムの製造装置の形態の一例を示す。本発明のプラスチックフィルムの製造装置の形態では、Tダイ1から吐出された溶融樹脂2を冷却ローラー4とニップローラー3によって挟圧、冷却することによりプラスチックフィルム6を得る。 次いで必要に応じ、スリット工程21にて裁断、もしくはエッジ23のトリミングを行い、巻取り工程22にてロール状に巻取られ、フィルムロール10となる。その後、必要に応じ再度スリット工程やその他の加工工程を経て製品ロールとなる。
【0035】
Tダイ1は図示しない押出機によって溶融混練され、送られてきた溶融樹脂2を、図面に対し奥行き方向に設けられたスリットから連続的に吐出することにより、溶融樹脂2をシート状に押し出す。押出機とTダイ1の間にポリマーフィルターと呼ばれる濾過装置を設けると、フィッシュアイと呼ばれる異物や劣化樹脂の混入を低減しやすいため好ましい。Tダイ2のスリットの幅は好ましくはフィルム6の幅方向の一定区間毎に調整可能であって、フィルム6の幅方向の厚み斑を制御する。製膜されるフィルム6の厚みは、溶融樹脂2の吐出速度と冷却ローラー4の回転速度の比によって調整できる。製膜するフィルム6が多層構造である場合には、Tダイ1の上流にフィードブロックと呼ばれる溶融樹脂の積層装置を設けるか、Tダイ1をマルチマニホールド構造と呼ばれる複数のマニホールドを持つ構造とし共押出とすることにより多層フィルムを得ることが可能である。また、フィルム幅方向の溶融樹脂2の流路幅を規制することで、製膜するフィルム6の幅を変更出来る構造としてもよい。
【0036】
Tダイ1と冷却ローラー2およびニップローラー3の位置関係は、調整可能な構造であることが好ましい。通常はニップローラー3の表面形状を溶融樹脂2に精度良く転写するために、冷却前の溶融状態で溶融樹脂2を挟圧することが好ましいため、図2に示すようにニップ点に直接溶融樹脂2が侵入するようTダイ1または冷却ローラー4の位置を調整することが好ましいが、フィルム6のそれぞれの面の冷却ローラー4およびニップローラー3の転写状態を調整する目的で、Tダイ1と冷却ローラー4およびニップローラー3の位置関係を適宜調整してもよい。
【0037】
溶融樹脂2の温度は使用する樹脂の種類や製膜する速度によって適宜設定されるが、例えば、一般的なポリエチレン樹脂であれば、一般的に130℃から300℃程度の範囲で選択されうる。
【0038】
冷却ローラー4は例えば内部に熱媒を流通させる流路を有し、表面温度を制御することができる構造のものが用いられる。冷却ローラー4の表面温度は溶融樹脂2の種類や溶融樹脂2と冷却ローラー4との接触時間、および室温や湿度によって適宜設定されるが、製膜速度やフィルムの表面品位の観点から10~60℃であることが好ましい。冷却ローラー4の表面の温度が上記範囲内であれば、実用的な製膜速度の範囲において溶融樹脂2を冷却、固化させることが容易であり、また、製膜中の冷却ローラー4表面上に結露が発生することによるフィルム6の表面品位の悪化を防止することも容易となる。
【0039】
冷却ローラー4の表面の材質は特に限定されないが、金属またはセラミックスまたは樹脂および樹脂と金属の複合膜、さらにはダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系被膜を用いることができる。また、ゴムを冷却ローラー4の表面材質として用いることも可能である。金属としては鉄や鋼、ステンレスやアルミニウムやチタン、クロム、ニッケルなどを好ましく使用できる。また、セラミックスとしては、アルミナや炭化ケイ素、窒化ケイ素などの焼結体を好ましく使用することができる。冷却ローラー4の表面形状は溶融樹脂に転写し、フィルム6のニップローラー3と接する面の反対面の面形状となるため、フィルム6の外観品位低下や凸状欠点の発生を防止する観点からも、耐久性および防錆に優れた工業用クロムメッキやセラミックスを用いることが好ましい。冷却ローラー4の表面を金属とするためには、金属素材を用いた通常の機械加工の他、電気メッキや無電解メッキなどの公知の表面処理技術を適宜用いることができる。また、同様にセラミックス表面を得るためには、セラミックス素材を用いた通常の機械加工の他、熔射やコーティングなどの公知の表面処理技術を適宜用いることができる。
【0040】
冷却ローラー4の表面形状は溶融樹脂2に転写し、フィルム6のニップローラー3と接する面の反対面の形状を決定する。したがって、本発明のプラスチックフィルムの製造装置を用いて製造するフィルム6に応じて冷却ローラー4の表面形状は適宜設計される。
【0041】
ニップローラー3は本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー100である。前述の通り、本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー100は溶融樹脂の粘着による巻き付きを防止可能であることから高速にプラスチックフィルムを製膜することが出来る。
【0042】
冷却ローラー4にニップローラー3を押し付け、溶融樹脂2を挟圧する手段としては、冷却ローラー2とニップローラー3間の隙間またはニップローラー3の押し込み量、すなわちニップローラー3と冷却ローラー4との相対位置をテーパーブロックなどを挟み込む方法などによって制御する方法を用いてもよいし、ニップローラー3を押し付ける力をエアシリンダーなどによって制御する方法を用いてもよい。ただし、ニップ点での溶融樹脂2の厚みが100μm以下であるような薄いフィルムを製膜する場合や、ニップローラー3に被覆されたエラストマーのゴム硬度が90A以上の場合は、押し込み量による制御では圧力の斑が大きくなりすぎてしまう場合があるため、押付力を制御する方法が好ましい。押付圧力は適宜設定されるが、0.1~5kN/m程度の範囲とすることが好ましい。押付圧力が上記範囲であればニップローラー3の表面の溶融樹脂2への転写やFEの圧潰が良好に行われやすい。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、各種評価、測定方法を以下に示す。
【0044】
[弾性体層の厚み方向の熱伝導率]
ローラーに被覆するものと同一のゴムにてサンプルを製作し、JIS R 2616:2001に準拠した試験装置を使い、熱線法にて測定を行った。また、複数のゴム層からなる弾性体層については、構成する各ゴムの熱伝導率を測定し、各熱伝導率に各層の厚みを乗じた値を積算し、弾性体層の総厚みで除したものを弾性体層の熱伝導率とした。
【0045】
[ゴム硬度]
ローラーに被覆するものと同一のゴムにて厚み15mmの板状サンプルを製作し、室温23度にてJIS K 6253:2012に準拠したタイプAのデュロメータを用いて標準測定時間にて測定した。
【0046】
[引張強さ]
JIS K 6251:2017に準拠した測定方法および測定装置にて、ローラーに被覆するものと同一のゴムにて製作したダンベル状3号形の試験片を用いて測定した。
【0047】
[製膜可能速度]
プラスチックフィルムの製膜速度を徐々に上げていき、ニップローラーに溶融樹脂が巻き付き、製膜不能となった速度とした。
【0048】
[転写ムラ]
得られたプラスチックフィルムのヘイズをJIS K7136:2000に準拠した測定装置および測定方法にて幅方向等間隔に5点測定し、最大値と最小値の差を平均値で除した値に100を乗じた値を転写ムラとした。
【0049】
[FEの高さ]
得られたプラスチックフィルムの表面を目視で観察し、発見したFEの高さをレーザー顕微鏡にて測定した。1つの水準につき5つのFEを測定し平均値を算出した。
【0050】
[実施例1]
図1に示す構造のローラーを製作した。中央部の弾性体層には、ゴム硬度A70、熱伝導率0.35W/mKのシリコーンゴムを、端部の弾性体層にはゴム硬度A70、熱伝導率0.7W/mKのシリコーンゴムを共に10mmの厚さで1層のみ被覆した。中央部の弾性体層の幅は1500mm、端部の弾性体層の幅はそれぞれ150mmとした。得られたゴムローラーを図2にプラスチックフィルムの製造装置のニップローラーとして用い、スリット幅を0.9mmに調整したTダイから密度0.93g/cm3の低密度ポリエチレン(LDPE)を1種単層構成にて220℃で吐出し、冷却ローラーとニップローラーにて挟圧、冷却し、厚み30μmのプラスチックフィルムを得た。
【0051】
[実施例2]
図3に示す2層ゴム構造のローラーを製作した。弾性体層には表層、内層共にゴム硬度A70のシリコーンゴムを合わせて10mmの厚さで被覆し、内層のゴム層には表層のゴム層よりも熱伝導率の高いゴムを用い、弾性体層の厚み方向の熱伝導率はローラー軸方向中央部で0.41W/mK、最端部で0.65W/mKとした。弾性体層の幅は1800mmとした。得られたゴムローラーをニップローラーとして用い、実施例1と同じプラスチックフィルムの製造装置および製膜条件で製膜し、厚み30μmのプラスチックフィルムを得た。
【0052】
[実施例3]
図3に示す2層ゴム構造のローラーを製作した。弾性体層には表層にゴム硬度A82のシリコーンゴム、内層にゴム硬度A55のシリコーンゴムを合わせて10mmの厚さで被覆し、内層のゴム層には表層のゴム層よりも熱伝導率の高いゴムを用い、弾性体層の厚み方向の熱伝導率はローラー軸方向中央部で0.38W/mK、最端部で0.64W/mKとした。弾性体層の幅は1800mmとした。得られたゴムローラーをニップローラーとして用い、実施例1と同じプラスチックフィルムの製造装置および製膜条件で製膜し、厚み30μmのプラスチックフィルムを得た。
【0053】
[実施例4]
図4に示す3層ゴム構造のローラーを製作した。弾性体層には表層、中層共にゴム硬度A70のシリコーンゴムを、内層にはゴム硬度がA70のNBRを被覆し、中層のゴム層には3層の中で最も熱伝導率の高いゴムを用いた。また、内層のNBRは引張強さが12.5MPaであった。弾性体層の厚み方向の熱伝導率はローラー軸方向中央部で0.38W/mK、最端部で0.61W/mKとした。弾性体層の幅は1800mmとした。得られたゴムローラーをニップローラーとして用い、実施例1と同じプラスチックフィルムの製造装置および製膜条件で製膜し、厚み30μmのプラスチックフィルムを得た。
【0054】
[比較例1]
図5に示す構造のローラーを製作した。弾性体層にはゴム硬度A70、熱伝導率0.35W/mKのシリコーンゴムを10mmの厚さで1層のみ被覆した。弾性体層の幅は1800mmとした。得られたゴムローラーをニップローラーとして用い、実施例1と同じプラスチックフィルムの製造装置および製膜条件で製膜し、厚み30μmのプラスチックフィルムを得た。
【0055】
実施例1~4および比較例1のプラスチックフィルムの製膜結果を表1に示す。比較例1では、製膜速度83m/minで溶融樹脂のニップローラーへの巻き付きが発生した。これに対し、実施例1~4では120m/minでも巻き付きが発生しなかった。
【0056】
また、実施例1では、製膜したプラスチックフィルムにゴムの継ぎ目の痕が見て取れたが、実施例2~4では、弾性体層を幅方向で分割していないので、ゴムの継ぎ目痕は確認出来なかった。
【0057】
実施例3では、最もゴム硬度の低いゴム層のゴム硬度がA55であるので、転写ムラが他の実施例および比較例に比べて小さく、また、最表層のゴム層のゴム硬度がA82であるので、FEの高さが40~50%程度低くなった。
【0058】
実施例2のゴムが使用約1200時間で破壊し剥離したのに対し、実施例4では、最内層のゴム層の引張強さが12.5MPaであるので、4000時間でも剥離しなかった。
【0059】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、プラスチックフィルムの製造装置および製造方法に限らず、プラスチックフィルム上に溶融樹脂を吐出して2本のローラーで挟圧、冷却するラミネート装置や工程、また、例えば二次加工としてのエンボス加工のように、プラスチックフィルムを加熱してローラーでニップする装置や工程に応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 Tダイ
2 溶融樹脂
3 ニップローラー
4 冷却ローラー
5 引き剥がしローラー
6 プラスチックフィルム
7 カッター
8 エッジ吸引管
9 ニアローラー
10 フィルムロール
11 弾性体層
12 芯材
13 熱媒流路
14 軸受
15 中央部のゴム
16 端部のゴム
17 最も熱伝導率の高いゴム層
18 最表層のゴム層
19 最内層のゴム層
21 スリット工程
22 巻取り工程
23 フィルムエッジ
100 本発明のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー
101 従来のプラスチックフィルム製膜用ゴムローラー
A フィルム進行方向
図1
図2
図3
図4
図5