(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】絶縁抵抗監視装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/56 20200101AFI20241112BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20241112BHJP
【FI】
G01R31/56
G01R31/34 B
(21)【出願番号】P 2020186627
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌平
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 将宏
(72)【発明者】
【氏名】高谷 玲平
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090257(JP,A)
【文献】特開2020-148736(JP,A)
【文献】特開2020-106517(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146232(WO,A1)
【文献】特開2018-189557(JP,A)
【文献】特開2016-161354(JP,A)
【文献】特開平07-055869(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0383870(US,A1)
【文献】特表2010-536314(JP,A)
【文献】特開2015-065143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/225275(US,A1)
【文献】特開2014-149193(JP,A)
【文献】特開2015-169479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
31/327-31/34、
31/00-31/01、
31/34-31/25、
31/40-31/44、
27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記被測定物の互いに絶縁された2つのノード間に所定電圧を印加する電圧源と、
前記被測定物の前記2つのノード間における容量分の漏電電流を測定する第1の電流測定器と、
前記被測定物及び前記電圧源の間の回路を開閉するスイッチと、
前記測定された容量分の漏電電流に基づいて前記スイッチが正常に動作しているか否かを判断するコントローラとを備え
、
前記コントローラは、
前記スイッチをオンした直後、前記測定された容量分の漏電電流が増大してしきい値を超過し、前記しきい値を超過してから所定時間期間内に減少して前記しきい値よりも小さくなったとき、前記スイッチが正常に動作していると判断し、
前記スイッチをオンした直後、前記測定された容量分の漏電電流が前記しきい値を超過しないとき、前記スイッチが故障したと判断する、
絶縁抵抗監視装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記スイッチをオンした直後に前記測定された容量分の漏電電流が前記しきい値を超過しない事象が予め決められた複数回数にわたって連続して発生したとき、前記スイッチが故障したと判断する、
請求項
1記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記スイッチが故障したと判断したとき、前記被測定物の絶縁抵抗の計算を停止する、
請求項1
又は2記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項4】
前記スイッチは、開状態のとき、100MΩ以上の抵抗値を有する、
請求項1~
3のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項5】
前記被測定物の前記2つのノードは、前記被測定物の電源ラインに接続された第1のノードと、接地導体に接続された第2のノードである、
請求項1~
4のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項6】
前記被測定物の前記2つのノード間における抵抗分の漏電電流を測定する第2の電流測定器をさらに備え、
前記コントローラは、前記測定された抵抗分の漏電電流に基づいて前記被測定物の絶縁抵抗を計算する、
請求項1~
5のうちの1つに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項7】
前記被測定物の絶縁抵抗と、前記スイッチが正常に動作しているか否かとを通知する出力装置をさらに備える、
請求項
6記載の絶縁抵抗監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁抵抗監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧受変電設備及び配電盤等の電気設備は、電気事業法により、年1回程度の頻度で法定点検を行うことが義務付けられている。また、配電盤に接続されたモータ等の電気機器についても、事業者は、その独自の管理基準により、週1回から月1回程度の頻度で自主点検を行っている。
【0003】
しかしながら、自主点検の対象物(被測定物)は多種多様な電気設備及び電気機器を含み、その数が多過ぎて実際には手が回らないのが実態である。そこで、自主点検を自動化するための絶縁抵抗監視装置が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、被測定物の電源線又はアース線と絶縁抵抗監視装置の電圧発生部との間の接続経路を開閉するスイッチを備えた絶縁抵抗監視装置を開示している。スイッチは、例えば100MΩ以上のオフ抵抗を有する。絶縁抵抗監視装置が接続された被測定物の絶縁抵抗を、例えば法定点検のために、絶縁抵抗監視装置とは別の絶縁抵抗測定器を用いて測定しようとする場合、絶縁抵抗測定器から絶縁抵抗監視装置に不要な電流が流れ、絶縁抵抗を正確に測定できないおそれがある。特許文献1の絶縁抵抗監視装置によれば、スイッチをオフすることにより、絶縁抵抗測定器から絶縁抵抗監視装置に不要な電流が流れることを防止することができる。従って、絶縁抵抗監視装置を被測定物から取り外すことなく、絶縁抵抗測定器を用いて被測定物の絶縁抵抗を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の絶縁抵抗監視装置において、スイッチが故障して常に開状態となった場合、絶縁抵抗監視装置によって測定される被測定物の見かけの絶縁抵抗は大きくなり、被測定物の実際の絶縁抵抗を測定することができなくなる。従って、絶縁抵抗監視装置のスイッチが正常に動作しているか否かを判断できることが求められる。
【0007】
本開示の目的は、被測定物と内部の電圧源との間の回路を開閉するスイッチを備えた絶縁抵抗監視装置であって、スイッチが正常に動作しているか否かを判断することができる絶縁抵抗監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、
被測定物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記被測定物の互いに絶縁された2つのノード間に所定電圧を印加する電圧源と、
前記被測定物の前記2つのノード間における容量分の漏電電流を測定する第1の電流測定器と、
前記被測定物及び前記電圧源の間の回路を開閉するスイッチと、
前記測定された容量分の漏電電流に基づいて前記スイッチが正常に動作しているか否かを判断するコントローラとを備える。
【0009】
これにより、絶縁抵抗監視装置のスイッチが正常に動作しているか否かを判断することができる。
【0010】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記コントローラは、
前記スイッチをオンした直後、前記測定された容量分の漏電電流が増大してしきい値を超過し、前記しきい値を超過してから所定時間期間内に減少して前記しきい値よりも小さくなったとき、前記スイッチが正常に動作していると判断し、
前記スイッチをオンした直後、前記測定された容量分の漏電電流が前記しきい値を超過しないとき、前記スイッチが故障したと判断する。
【0011】
これにより、スイッチが正常に動作しているか否かを判断することができる。
【0012】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記コントローラは、前記スイッチをオンした直後に前記測定された容量分の漏電電流が前記しきい値を超過しない事象が予め決められた複数回数にわたって連続して発生したとき、前記スイッチが故障したと判断する。
【0013】
これにより、ノイズ又は外乱因子に起因する誤検出を生じにくくすることができる。
【0014】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記コントローラは、前記スイッチが故障したと判断したとき、前記被測定物の絶縁抵抗の計算を停止する。
【0015】
これにより、スイッチが正常に動作しているときのみ、被測定物の絶縁抵抗を計算することができる。
【0016】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記スイッチは、開状態のとき、100MΩ以上の抵抗値を有する。
【0017】
これにより、絶縁抵抗監視装置を被測定物から取り外すことなく、絶縁抵抗監視装置とは別の絶縁抵抗測定器を用いて被測定物の絶縁抵抗を測定することができる。
【0018】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、
前記被測定物の前記2つのノードは、前記被測定物の電源ラインに接続された第1のノードと、接地導体に接続された第2のノードである。
【0019】
これにより、被測定物の電源ライン及び接地導体との間における対地絶縁抵抗を測定することができる。
【0020】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、
前記被測定物の前記2つのノード間における抵抗分の漏電電流を測定する第2の電流測定器をさらに備え、
前記コントローラは、前記測定された抵抗分の漏電電流に基づいて前記被測定物の絶縁抵抗を計算する。
【0021】
これにより、被測定物の絶縁抵抗を監視することができる。
【0022】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置は、
前記被測定物の絶縁抵抗と、前記スイッチが正常に動作しているか否かとを通知する出力装置をさらに備える。
【0023】
これにより、ユーザは、被測定物及び絶縁抵抗監視装置の保守の要否を判断することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、絶縁抵抗監視装置のスイッチが正常に動作しているか否かを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る絶縁抵抗監視装置40を含むモータシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の三相モータ装置30に流れる容量分の漏電電流Iocを説明する図である。
【
図3】
図1の三相モータ装置30に流れる容量分の漏電電流Iocの波形を示すグラフである。
【
図4】
図1の三相モータ装置30に流れる抵抗分の漏電電流Iorを説明する図である。
【
図5】
図1の三相モータ装置30に流れる抵抗分の漏電電流Iorの波形を示すグラフである。
【
図6】
図1のコントローラ43によって実行される絶縁抵抗監視処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図1のコントローラ43によって実行される絶縁抵抗監視処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の一側面に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。各図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0027】
[実施形態]
以下、実施形態に係る絶縁抵抗監視装置についてさらに説明する。
【0028】
[実施形態の構成例]
図1は、実施形態に係る絶縁抵抗監視装置40を含むモータシステムの構成を示すブロック図である。
図1のモータシステムは、三相交流電源装置10、回路遮断器20、三相モータ装置30、及び絶縁抵抗監視装置40を備える。
図1の例では、絶縁抵抗監視装置40が、その被測定物として、三相モータ装置30の絶縁抵抗を測定する場合を示す。
【0029】
三相交流電源装置10は、3つの単相交流電源11~13を備える。単相交流電源11~13は、120度ずつ互いに異なる位相を有する単相交流電圧を発生する。
図1の例では、単相交流電源11~13はΔ結線で互いに接続される。単相交流電源11~13を互いに接続するノードN1~N3は、U相、V相、及びW相の各電源ラインを介して回路遮断器20及び三相モータ装置30に接続される。
【0030】
三相交流電源装置10は、配電盤及び高圧受変電設備などを含んでもよい。この場合、高圧受変電設備は、電力会社から供給された例えば6600Vの電圧を、例えば200V~480V程度の電圧に降圧する。配電盤は、降圧された電圧を、三相モータ装置30及び他の負荷装置に分配する。
【0031】
回路遮断器20は、U相、V相、及びW相の各電源ラインに挿入されたスイッチ21~23を含む。
【0032】
三相モータ装置30は、巻線31~33及び筐体34を備える。
図1の例では、巻線31~33はΔ結線で互いに接続される。巻線31~33を互いに接続するノードN4~N6は、U相、V相、及びW相の各電源ラインに接続される。筐体34は、巻線31~33から電気的に絶縁されたもう1つのノードである。筐体34は接地されてもよい。
【0033】
巻線31~33及び筐体34の間には、漏電電流が流れることがある。
図1の例では、ノードN4及び筐体34の間において、抵抗分の漏電電流が流れる対地絶縁抵抗36と、容量分の漏電電流が流れる対地静電容量35とが生じる場合を示す。対地絶縁抵抗36は絶縁抵抗値Roを有する。
【0034】
絶縁抵抗監視装置40は、電流測定器41、電流測定器42、コントローラ43、表示装置44、電圧源E1、及びスイッチSWを備える。
【0035】
電圧源E1は、三相モータ装置30の互いに絶縁された2つのノード間、
図1の例ではノードN4及び筐体34の間に印加する所定電圧を供給する。電圧源E1は、例えば50Vの直流電圧を供給する。
【0036】
電流測定器41は、三相モータ装置30のノードN4及び筐体34の間における容量分の漏電電流Iocを測定する。容量分の漏電電流Iocは、電圧源E1によって供給される電圧に起因して対地静電容量35を介して流れ、対地静電容量35に充電する。
図3を参照して後述するように、何らかの容量に充電するような波形を有する電流が生じているとき、対地静電容量35を介して容量分の漏電電流Iocが流れていることがわかる。電流測定器42は、オペアンプ等を備え、例えば、数mA~数十mAのオーダーの大きさを有する電流を測定するように構成される。
【0037】
電流測定器42は、三相モータ装置30のノードN4及び筐体34の間における抵抗分の漏電電流Iorを測定する。抵抗分の漏電電流Iorは、電圧源E1によって供給される電圧に起因して、対地絶縁抵抗36を介して流れる。
図5を参照して後述するように、平坦な波形を有する電流が生じているとき、対地絶縁抵抗36を介して抵抗分の漏電電流Iorが流れていることがわかる。電流測定器42は、オペアンプ等を備え、例えば、数μA~数十μAのオーダーの大きさを有する電流を測定するように構成される。
【0038】
スイッチSWは、三相モータ装置30及び電圧源E1の間の回路を開閉する。
図1の例では、スイッチSWは、ノードN4と電圧源E1との間に挿入されているが、他の位置に挿入されてもよい。スイッチSWは、例えば、ユーザによって操作される機械式スイッチであってもよく、外部からの制御信号に応じて動作するリードリレーであってもよい。スイッチSWの開状態のときの抵抗値は、被測定物の所望の絶縁抵抗に応じて設定される。例えば、三相モータ装置30の絶縁抵抗が100MΩ程度である場合、スイッチSWは、開状態のとき、100MΩ以上、好ましくは1000MΩ以上の抵抗値を有する。
【0039】
コントローラ43は、スイッチSWを介して電圧源E1に接続されたノードN7の電位を検出することにより、スイッチSWがオンされたか否かを判断する。コントローラ43は、スイッチSWがオンされたとき、容量分の漏電電流Iocに基づいてスイッチSWが正常に動作しているか否かを判断し、また、抵抗分の漏電電流Iorに基づいて三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを計算する。本実施形態では、スイッチSWが故障して常に開状態となる可能性を想定する。コントローラ43は、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすか否かを判断してもよい。コントローラ43は、その判断結果及び計算結果を表示装置44に出力する。
【0040】
表示装置44は、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roと、スイッチSWが正常に動作しているか否かとを通知する。表示装置44は、絶縁抵抗値Roに加えて、又はそれに代えて、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすか否かを表示してもよい。
【0041】
絶縁抵抗監視装置40は、ユーザがスイッチSWをオンしたとき、スイッチSWが正常に動作しているか否かを判断することができ、正常に動作していれば、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを測定する。また、例えば法定点検のために、絶縁抵抗監視装置40とは別の絶縁抵抗測定器を用いて三相モータ装置30の絶縁抵抗を測定する場合、ユーザは、回路遮断器20及びスイッチSWをオフし、絶縁抵抗測定器のプローブを三相モータ装置30の互いに絶縁された2つのノード(例えばノードN4及び筐体34)に接続する。これにより、絶縁抵抗監視装置40を三相モータ装置30から取り外すことなく、絶縁抵抗測定器を用いて三相モータ装置30の絶縁抵抗を測定することができる。
【0042】
[実施形態の動作例]
図2は、
図1の三相モータ装置30に流れる容量分の漏電電流Iocを説明する図である。
図3は、
図1の三相モータ装置30に流れる容量分の漏電電流Iocの波形を示すグラフである。スイッチSWをオンしたとき、前述したように、対地静電容量35を介して容量分の漏電電流Iocが流れて対地静電容量35に充電する。スイッチSWをオンすると、
図3の上段に示すように、ノードN7の電位が0からV1に遷移する。コントローラ43は、
図3の中段に示すように、スイッチSWをオンした直後、容量分の漏電電流Iocが増大してしきい値Ith1を超過し、しきい値Ith1を超過してから所定時間期間T1内に減少してしきい値Ith1よりも小さくなったとき、スイッチSWが正常に動作していると判断する。
図3の中段の波形は、スイッチSWをオンしたことにより、対地静電容量35を介して電流が流れて対地静電容量35に充電していることを示す。一方、コントローラ43は、
図3の下段に示すように、スイッチSWをオンした直後、容量分の漏電電流Iocがしきい値Ith1を超過しないとき、スイッチSWが故障したと判断する。また、コントローラ43は、スイッチSWをオンした直後、容量分の漏電電流Iocが増大してしきい値Ith1を超過し、時間期間T1が経過してもしきい値Ith1を超過したままであるとき、スイッチSW又は他の構成要素が故障したと判断する。例えば、三相モータ装置30の定格出力が2.2kWであり、かつ、電圧源E1が50Vの電圧を供給するとき、しきい値Ith1は、数mA~数十mAのオーダー(例えば、2.5mA)に設定される。概して、対地静電容量35は三相モータ装置30の定格出力に比例して増大し、従って、しきい値Ith1もまた、三相モータ装置30の定格出力に比例して増大する。また、この場合、時間期間T1は例えば30ミリ秒に設定される。時間期間T1の長さは、対地静電容量35の充電時間、すなわち、対地静電容量35の大きさと、電圧源E1によって供給される電圧とに応じて設定される。
【0043】
図4は、
図1の三相モータ装置30に流れる抵抗分の漏電電流Iorを説明する図である。
図5は、
図1の三相モータ装置30に流れる抵抗分の漏電電流Iorの波形を示すグラフである。前述したように、対地絶縁抵抗36を介して抵抗分の漏電電流Iorが流れる。対地絶縁抵抗36が存在するとき、
図3の実線又は破線に示すような平坦な波形を有する電流が生じる。コントローラ43は、スイッチSWをオンして容量分の漏電電流Iocが増大及び減少してから(
図3の中段を参照)十分な時間が経過した後、電圧源E1によって供給される電圧と、電流測定器42によって測定された抵抗分の漏電電流Iorとに基づいて、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを計算する。コントローラ43は、
図5の実線に示すように、抵抗分の漏電電流Iorがしきい値Ith2を超過したとき、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たしていないと判断してもよい。また、コントローラ43は、
図5の破線に示すように、抵抗分の漏電電流Iorがしきい値Ith2より小さいとき、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすと判断してもよい。例えば、三相モータ装置30の定格出力が2.2kWであり、かつ、電圧源E1が50Vの電圧を供給するとき、しきい値Ith2は、数μA~数十μAのオーダーに設定される。
【0044】
コントローラ43は、抵抗分の漏電電流Iorをしきい値Ith2に対して比較することに代えて、計算された絶縁抵抗値Roを抵抗のしきい値と比較することにより、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすか否かを判断してもよい。
【0045】
図6は、
図1のコントローラ43によって実行される絶縁抵抗監視処理を示すフローチャートである。
【0046】
ステップS1において、コントローラ43は、スイッチSWがオンされたか否かを判断し、YESのときはステップS2に進み、NOのときはステップS1を繰り返す。
【0047】
ステップS2において、コントローラ43は、電流測定器41から容量分の漏電電流Iocを取得する。
【0048】
ステップS3において、コントローラ43は、容量分の漏電電流Iocに基づいて、スイッチSWが正常に動作しているか否かを判断し、YESのときはステップS4に進み、NOのときはステップS7に進む。
【0049】
ステップS4において、コントローラ43は、電流測定器42から抵抗分の漏電電流Iorを取得する。
【0050】
ステップS5において、コントローラ43は、電圧源E1によって供給される電圧と、電流測定器42によって測定された抵抗分の漏電電流Iorとに基づいて、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを計算する。
【0051】
ステップS6において、コントローラ43は、計算された絶縁抵抗値Roを表示装置44に出力してユーザに通知する。コントローラ43は、絶縁抵抗値Roをユーザに通知することに加えて、又はそれに代えて、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすか否かを表示装置44に出力してユーザに通知してもよい。絶縁抵抗値Ro(又は、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たすか否か)がユーザに通知されることによって、スイッチSWが正常に動作していることがわかる。
【0052】
ステップS7において、コントローラ43は、絶縁抵抗値Roの計算を停止する。
【0053】
ステップS8において、コントローラ43は、スイッチSWが故障していることを表示装置44に出力してユーザに通知する。スイッチSWが故障したと判断したとき、コントローラ43は、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roの計算を停止する。
【0054】
いったんスイッチSWが正常に動作していると判断されたとき(ステップS3がYES)、コントローラ43は、その後、ステップS4~S6を定期的に繰り返してもよい。
【0055】
図6の処理によれば、コントローラ43は、ユーザがスイッチSWをオンしたとき、容量分の漏電電流Iocに基づいて、スイッチSWが正常に動作しているか否かを判断することができる。また、スイッチSWが正常に動作しているとき、コントローラ43は、抵抗分の漏電電流Iorに基づいて三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを計算することができる。
【0056】
図7は、
図1のコントローラ43によって実行される絶縁抵抗監視処理の変形例を示すフローチャートである。
図7の処理は、
図6の各ステップに加えて、ステップS11~S13をさらに含む。
【0057】
ステップS11において、コントローラ43は、ステップS3においてNOと判断された回数をカウントするパラメータcntを0に初期化する。
【0058】
図7の処理では、ステップS3がNOのとき、ステップS7に代えてステップS12に進む。
【0059】
ステップS12において、コントローラ43は、パラメータcntを1だけインクリメントする。
【0060】
ステップS13において、コントローラ43は、パラメータcntがしきい値Nth以上であるか否かを判断し、YESのときはステップS7に進み、NOのときはステップS1に戻る。
【0061】
図7の処理によれば、コントローラ43は、スイッチSWをオンした直後に容量分の漏電電流Iocがしきい値Ith1を超過しない事象が予め決められた複数回数にわたって連続して発生したとき、スイッチSWが故障したと判断する。これにより、ノイズ又は外乱因子に起因する誤検出を生じにくくすることができる。
【0062】
[実施形態の効果]
実施形態に係る絶縁抵抗監視装置40は、ユーザがスイッチSWをオンしたとき、スイッチSWが正常に動作しているか否かを判断することができ、正常に動作していれば、三相モータ装置30の絶縁抵抗値Roを測定することができる。本実施形態によれば、スイッチSWが故障して常に開状態になっても、誤って、絶縁抵抗値Roが法令に規定される要件を満たしていると判断することを防止し、絶縁抵抗値Roを高精度で監視することができる。
【0063】
従来技術に係る絶縁抵抗の測定方法によれば、容量分の漏電電流は、通常、測定の妨害となる現象であると考えられ、絶縁抵抗の計算結果に反映されないように取り扱われている。一方、本実施形態によれば、容量分の漏電電流Iocに基づいてスイッチSWが正常に動作しているか否かを判断するという新規な技術が提案され、これにより、絶縁抵抗値Roを高精度で監視することができる。
【0064】
[他の変形例]
以上、本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本開示の例示に過ぎない。本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0065】
説明した実施形態では、絶縁抵抗監視装置40は三相モータ装置30のノードN4及び筐体34に接続される場合について説明したが、絶縁抵抗監視装置40は、ノードN5及び筐体34の間に接続されてもよく、ノードN6及び筐体34の間に接続されてもよい。
【0066】
絶縁抵抗監視装置40は、三相モータ装置30に代えて、他の任意の被測定物の互いに絶縁された2つのノード間に接続されてもよい。被測定物は、例えば、電源装置、タイマ、リレー、共用ソケット、DINレール、防水カバー、温度調節器、スイッチなどを含む。また、絶縁抵抗監視装置40は、被測定物の電源ライン及び接地導体に限らず、被測定物の互いに絶縁された任意の2つのノードに接続されてもよい。
【0067】
表示装置44は、絶縁抵抗監視装置40の内部に代えて、通信回線を介して接続された遠隔の装置に設けられてもよい。
【0068】
コントローラ43の判断結果及び計算結果は、表示装置44を用いて視覚的に出力されることに代えて、音声出力装置を用いて聴覚的に出力されてもよい。また、コントローラ43の判断結果及び計算結果をユーザに通知するために、他の任意の出力装置を用いてもよい。また、絶縁抵抗監視装置40は、コントローラ43の判断結果及び計算結果を、通信回線を介して接続された他の装置に出力してもよい。
【0069】
コントローラ43の判断結果及び計算結果をユーザに通知するか、それとも、絶縁抵抗値Roの測定を停止するかを選択的に設定してもよい。これにより、絶縁抵抗監視装置40の使い勝手を向上することができる。
【0070】
[まとめ]
本開示の各側面に係る絶縁抵抗監視装置は、以下のように表現されてもよい。
【0071】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40は、電圧源E1、第1の電流測定器41、スイッチSW、及びコントローラ43を備え、被測定物の絶縁抵抗値Roを監視する。電圧源E1は、被測定物の互いに絶縁された2つのノード間に所定電圧を印加する。第1の電流測定器41は、被測定物の2つのノード間における容量分の漏電電流Iocを測定する。スイッチSWは、被測定物及び電圧源E1の間の回路を開閉する。コントローラ43は、測定された容量分の漏電電流Iocに基づいてスイッチSWが正常に動作しているか否かを判断する。
【0072】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40によれば、コントローラ43は、スイッチSWをオンした直後、測定された容量分の漏電電流Iocが増大してしきい値Ith1を超過し、しきい値Ith1を超過してから所定時間期間T1内に減少してしきい値Ith1よりも小さくなったとき、スイッチSWが正常に動作していると判断してもよい。また、コントローラ43は、スイッチSWをオンした直後、測定された容量分の漏電電流Iocがしきい値Ith1を超過しないとき、スイッチSWが故障したと判断してもよい。
【0073】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40によれば、コントローラ43は、スイッチSWをオンした直後に測定された容量分の漏電電流Iocがしきい値Ith1を超過しない事象が予め決められた複数回数にわたって連続して発生したとき、スイッチSWが故障したと判断してもよい。
【0074】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40によれば、コントローラ43は、スイッチSWが故障したと判断したとき、被測定物の絶縁抵抗値Roの計算を停止してもよい。
【0075】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40によれば、スイッチSWは、開状態のとき、100MΩ以上の抵抗値を有してもよい。
【0076】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40によれば、被測定物の2つのノードは、被測定物の電源ラインに接続された第1のノードと、接地導体に接続された第2のノードであってもよい。
【0077】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40は、被測定物の2つのノード間における抵抗分の漏電電流を測定する第2の電流測定器42をさらに備えてもよい。コントローラ43は、測定された抵抗分の漏電電流に基づいて被測定物の絶縁抵抗Roを計算する。
【0078】
本開示の一側面に係る絶縁抵抗監視装置40は、被測定物の絶縁抵抗値Roと、スイッチSWが正常に動作しているか否かとを通知する出力装置をさらに備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の一側面に係る絶縁抵抗監視装置によれば、被測定物と内部の電圧源との間の回路を開閉するスイッチを備えた絶縁抵抗監視装置において、スイッチが正常に動作しているか否かを判断することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 三相交流電源装置
11~13 単相交流電源
20 回路遮断器
21~23 スイッチ
30 三相モータ装置
31~33 巻線
34 筐体
35 対地静電容量
36 対地絶縁抵抗
40 絶縁抵抗監視装置
41 電流測定器
42 電流測定器
43 コントローラ
44 表示装置
E1 電圧源
SW スイッチ