IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ドライオフセット印刷用印刷版
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/12 20060101AFI20241112BHJP
   B41M 1/02 20060101ALI20241112BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20241112BHJP
   G03F 7/033 20060101ALI20241112BHJP
   G03F 7/037 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B41N1/12
B41M1/02
G03F7/00 502
G03F7/033
G03F7/037
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020190057
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079092
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】油 努
(72)【発明者】
【氏名】井戸 健二
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-131894(JP,A)
【文献】特開2002-274077(JP,A)
【文献】特開平11-231509(JP,A)
【文献】特開2018-097302(JP,A)
【文献】特開2008-183888(JP,A)
【文献】特開平08-227149(JP,A)
【文献】特開平08-325499(JP,A)
【文献】特開2019-082497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/00- 3/08
B41D 1/00-99/00
B41M 1/00- 3/18
7/00- 9/04
B41N 1/00-99/00
G03C 3/00
G03F 7/00- 7/18
7/26- 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有するレリーフを有する、ドライオフセット印刷用印刷版であって、前記レリーフが部分ケン化ポリ酢酸ビニルおよび/または塩基性窒素を有するポリアミドを含有し、前記フッ素を含む有機化合物がイオン性基および/またはエチレングリコール鎖を有する、ドライオフセット印刷用印刷版
【請求項2】
前記レリーフがフッ素を含む有機化合物を0.1~10重量%含有する、請求項1に記載のドライオフセット印刷用印刷版。
【請求項3】
前記レリーフの1-ヘキサデセンに対する接触角が40°以上70°以下である、請求項1または2に記載のドライオフセット印刷用印刷版。
【請求項4】
前記レリーフのショアD硬度が40°以上80°以下である、請求項1~3のいずれかに記載のドライオフセット印刷用印刷版。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のドライオフセット印刷用印刷版を用いて、曲面を有する容器に印刷する、印刷物の製造方法。
【請求項6】
アルキド樹脂を含有するインキを用いる、請求項5に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有する感光性樹脂層を有する、ドライオフセット印刷用印刷版原版であって、前記感光性樹脂層が部分ケン化ポリ酢酸ビニルおよび/または塩基性窒素を有するポリアミドを含有し、前記フッ素を含む有機化合物がイオン性基および/またはエチレングリコール鎖を有する、ドライオフセット印刷用印刷版原版
【請求項8】
請求項7に記載のドライオフセット印刷用印刷版原版の感光性樹脂層を部分的に光硬化させる露光工程、感光性樹脂層の未硬化部分を現像液により除去する現像工程を有する、請求項1~4のいずれかに記載のドライオフセット印刷用印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライオフセット印刷用印刷版とその製造方法、それを用いた印刷方法およびドライオフセット印刷用印刷版原版に関する
【背景技術】
【0002】
缶やペットボトルのラベル等のパッケージング製品への印刷方法として、各色インキを印刷版からブランケットに転写し、さらにブランケットから印刷対象に転写する、いわゆるドライオフセット印刷が多く用いられている。
【0003】
缶印刷、特にシームレス缶印刷に適した印刷版として、シームレス缶の外面に印刷を施すための水なし平版であって、少なくとも基板、レーザー感熱層を有し、該感熱層上にシリコーンゴム層から成る非画線部及び該シリコーンゴムが除去された画線部が形成されており、前記非画線部のシリコーンゴム層の厚みが2.2~5.5μmの範囲にあることを特徴とするシームレス缶用水なし平版が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ドライオフセット印刷に用いられる印刷版原版として、少なくとも支持体と感光性樹脂層を有する感光性樹脂印刷版原版であって、該感光性樹脂層が(A)部分ケン化ポリ酢酸ビニル化合物、(B)塩基性窒素を有するポリアミド、(C)エチレン性二重結合を有する化合物、および(D)光重合開始剤を含有し、該感光性樹脂層が少なくとも下層および印刷面層を含み、前記支持体、前記下層および前記印刷面層をこの順に有し、かつ、前記(A)部分ケン化ポリ酢酸ビニル化合物として、平均重合度が1200~2600であるもの(A1)を印刷面層に、平均重合度が400~800であるもの(A2)を下層に含有する感光性樹脂印刷版原版(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-58257号公報
【文献】国際公開第2017-38970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される水なし平版は、ロングラン印刷に対して耐刷性に課題があった。一方、特許文献2に記載の印刷版原版から得られる印刷版は、ロングラン印刷に対して十分な耐刷性を有するものの、インキ転移性が不十分であった。インキ濃度の高い印刷物を得るためには、印刷版へのインキ供給量を多くすることや、インキをブランケットに転写するための圧力を大きくすることが考えられるが、この場合、文字や網点などの微細な画像がつぶれやすくなるため、印刷再現性に課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、ロングラン印刷可能であって、インキ転移性および印刷再現性に優れたドライオフセット印刷用印刷版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は主として下記の構成を有する。
支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有するレリーフを有する、ドライオフセット印刷用印刷版であって、前記レリーフが部分ケン化ポリ酢酸ビニルおよび/または塩基性窒素を有するポリアミドを含有し、前記フッ素を含む有機化合物がイオン性基および/またはエチレングリコール鎖を有する、ドライオフセット印刷用印刷版
支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有する感光性樹脂層を有する、ドライオフセット印刷用印刷版原版であって、前記感光性樹脂層が部分ケン化ポリ酢酸ビニルおよび/または塩基性窒素を有するポリアミドを含有し、前記フッ素を含む有機化合物がイオン性基および/またはエチレングリコール鎖を有する、ドライオフセット印刷用印刷版原版。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドライオフセット印刷用印刷版は、ロングラン印刷可能であって、インキ転移性および印刷再現性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
本発明のドライオフセット印刷用印刷版(以下、単に「印刷版」と記載する場合がある)は、少なくとも支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有するレリーフを有する。レリーフは、インカーより供給されたインキをブランケットに転写する画像に対応し、支持体は、レリーフを保持する作用を有する。レリーフは、感光性樹脂層のフォトリソ加工や樹脂層のレーザーエッチングなどにより形成されることが一般的である。支持体上に、感光性樹脂層の光硬化物や樹脂層などからなるフロア層を有し、フロア層上にレリーフを有してもよい。
【0011】
支持体としては、例えば、ポリエステルなどからなるプラスチックシート、スチレン-ブタジエンゴムなどからなる合成ゴムシート、スチール、ステンレス、アルミニウムなどからなる金属板などが挙げられる。支持体の厚さは、取扱性および柔軟性の観点から、100~350μmの範囲が好ましい。
【0012】
支持体は、易接着処理されていることが好ましく、レリーフやフロア層との接着性を向上させることができる。易接着処理方法としては、例えば、サンドブラストなどの機械的処理、コロナ放電などの物理的処理、コーティングなどによる化学的処理などが挙げられる。これらの中でも、接着性の観点から、コーティングにより易接着層を設けることが好ましい。
【0013】
本発明の印刷版は、レリーフにフッ素を含む有機化合物を含有する。レリーフにフッ素を含む有機化合物を含有することにより、インキ転移性を向上させることができる。このため、インキ供給量を低減し、インキをブランケットに転写するための圧力を低減することができることから、印刷再現性を向上させることができる。また、レリーフの撥インキ性により、印刷版に供給されるインキのレリーフ頂部から斜面部へのはみ出しを抑制することができ、優れた印刷再現性を維持することができる。
【0014】
フッ素を含む有機化合物としては、例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基などを有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、市販品であれば、“フタージェント”(登録商標)シリーズ(株式会社ネオス製)、“サーフロン”(登録商標)シリーズ(AGCセイミケミカル(株)製)などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0015】
フッ素を含む有機化合物は、さらに、イオン性基および/またはエチレングリコール鎖を有することが好ましい。イオン性基やエチレングリコール鎖は、レリーフを構成する好ましい成分として後述するポリマーとの親和性が高いことから、フッ素を含む有機化合物とポリマーとの相溶性が向上し、フッ素を含む有機化合物のレリーフからのブリードアウトを抑制することができる。イオン性基としては、例えば、スルホン酸基、4級アンモニウム基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。このような官能基を有するフッ素を含む有機化合物としては、例えば、スルホン酸基を有するものとして“フタージェント”100(株式会社ネオス)、4級アンモニウム基を有するものとして“フタージェント”300(株式会社ネオス株式会社)、リン酸基を有するものとしてFPE-50(AGCセイミケミカル(株))、エチレングリコール鎖を有するものとして“フタージェント”251(株式会社ネオス)等が挙げられる。
【0016】
フッ素を含む有機化合物として、ベタインも好ましい。ベタインとは、正電荷と負電荷を同一分子内のとなり合わない位置に有し、正電荷を有する原子には解離し得る水素が結合しておらず、分子全体としては電荷を持たない化合物(分子内塩)であり、レリーフに外部からイオン性物質が接触して塩を形成し、版表面に付着することや、フッ素を含む有機化合物のレリーフからのブリードアウトを抑制することができる。
【0017】
このような官能基を有する市販品のフッ素を含む有機化合物としては、“フタージェント”400SW(ネオス)、S-231(AGCセイミケミカル(株))等が挙げられる。
【0018】
レリーフ中におけるフッ素を含む有機化合物の含有量は、0.1重量%以上が好ましく、インキ転移性をより向上させることができる。フッ素を含む有機化合物の含有量は、0.3重量%以上がより好ましい。一方、レリーフ中におけるフッ素を含む有機化合物の含有量は、10重量%以下が好ましく、レリーフからのブリードアウトを抑制することができる。フッ素を含む有機化合物の含有量は、5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明の印刷版のレリーフは、フッ素を含む有機化合物に加えて、感光性樹脂層のフォトリソ加工により形成される場合には感光性樹脂層の光硬化物を、樹脂層のレーザーエッチングにより形成される場合には樹脂層の成分を、それぞれ含有する。いずれの場合にも、レリーフを形成するためのポリマーを含有することが好ましい。なお、感光性樹脂層からレリーフを形成する場合について、感光性樹脂層に含まれるフッ素を含む有機化合物およびポリマー成分以外の成分については、ドライオフセット印刷版原版の感光性樹脂層の成分として後述する。
【0020】
ポリマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエンラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、ポリウレタン、セルロース誘導体、ポリエステル、ポリアクリル酸誘導体、ポリ酢酸ビニル、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミドなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。レリーフ中におけるポリマーの含有量は、30~95重量%が好ましい。
【0021】
フォトリソ加工によりレリーフを形成する場合、特に水現像により非画像部を除去する場合には、水に分散または溶解可能なポリマーが好ましい。水に分散または溶解可能なポリマーとしては、親水性基を有するポリマーや、ポリマー主鎖自体が水膨潤性または水溶解性を有するポリマーが好ましい。親水性基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、リン酸基、スルホン酸基やそれらの塩等が挙げられる。親水性基を有するポリマーとしては、例えば、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、カルボキシル基を有する脂肪族共役ジエンの重合体、リン酸基および/またはカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の乳化重合体、スルホン酸基含有ポリウレタンなどが挙げられる。また、ポリマー主鎖自体が水膨潤性または水溶解性を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ビニルアルコール-アクリル酸ナトリウム共重合体、ビニルアルコール-メタクリル酸ナトリウム共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル含有ポリアミド、3級アミノ基を有するポリアミド、ポリエーテル、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、でんぷん-ポリアクリル酸ナトリウムグラフト化物、でんぷん-ポリアクリロニトリルグラフト化物のケン化物、セルロースポリアクリル酸グラフト化物、部分架橋ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体等が挙げられる。これらの中でも、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、3級アミノ基を有するポリアミドが好ましい。
【0022】
部分ケン化ポリ酢酸ビニルは、成形性に優れる。また、ドライオフセット印刷に一般的に用いられるインキに含まれる溶剤である1-ヘキサデセンに対して膨潤または収縮しにくいことから、ロングラン印刷においてもレリーフ形状を保持することが可能で、ロングラン印刷適性をより向上させることができる。部分ケン化ポリ酢酸ビニルのケン化度は、60~99モル%が好ましい。
【0023】
塩基性窒素を有するポリアミドは、レリーフの靭性を向上させ、印刷時のレリーフ欠けを抑制することができる。塩基性窒素を主鎖または側鎖のいずれに有してもよいが、主鎖に有することが好ましい。塩基性窒素を有するポリアミドは、塩基性窒素を有する単量体を、必要に応じてそれ以外のジアミン、ジカルボン酸、ω-アミノ酸、ラクタムなどとともに、縮重合または重付加反応することにより得ることができる。塩基性窒素を有する単量体としては、ピペラジン基やN,N-ジアルキルアミノ基を有する単量体が好ましく、より好ましくはピペラジン基を有する単量体である。
【0024】
単量体の好ましい例は、N,N’-ビス(アミノメチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(β-アミノエチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(γ-アミノベンジル)-ピペラジン、N-(β-アミノエチル)ピペラジン、N-(β-アミノプロピル)ピペラジン、N-(ω-アミノヘキシル)ピペラジン、N-(β-アミノエチル)-2,5-ジメチルピペラジン、N,N-ビス(β-アミノエチル)-ベンジルアミンN,N-ビス(γ-アミノプロピル)-アミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(γ-アミノプロピル)-エチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス(γ-アミノプロピル)-テトラメチレンジアミンなどのジアミン類;N,N’-ビス(カルボキシメチル)-ピペラジン、N,N’-ビス(カルボキシメチル)-メチルピペラジン、N,N’-ビス(カルボキシメチル)-2,6-ジメチルピペラジン、N,N’-ビス(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N,N-ビス(カルボキシメチル)-メチルアミン、N,N-ビス(β-カルボキシエチル)-エチルアミン、N,N-ビス(β-カルボキシエチル)-メチルアミン、N,N-ジ(β-カルボキシエチル)-イソプロピルアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス-(カルボキシメチル)-エチレンジアミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ビス-(β-カルボキシエチル)-エチレンジアミンなどのジカルボン酸類あるいはこれらの低級アルキルエステル;酸ハロゲン化物、N-(アミノメチル)-N’-(カルボキシメチル)-ピペラジン、N-(アミノメチル)-N’-(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N-(β-アミノエチル)-N’-(β-カルボキシエチル)-ピペラジン、N-カルボキシメチルピペラジン、N-(β-カルボキシエチル)ピペラジン、N-(γ-カルボキシヘキシル)ピペラジン、N-(ω-カルボキシヘキシル)ピペラジン、N-(アミノメチル)-N-(カルボキシメチル)-メチルアミン、N-(β-アミノエチル)-N-(β-カルボキシエチル)-メチルアミン、N-(アミノメチル)-N-(β-カルボキシエチル)-イソプロピルアミン、N,N’-ジメチル-N-(アミノメチル)-N’-(カルボキシメチル)-エチレンジアミンなどのω-アミノ酸などがある。またこれらの単量体以外のジアミン、ジカルボン酸、ω-アミノ酸、ラクタムなどを併用して重合することによって塩基性窒素を含有するポリアミドを得ることができる。
【0025】
ポリアミドを構成する全成分、すなわち、アミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位およびジアミン構造単位の総和中、塩基性窒素を有する単量体を10~80モル%用いることが好ましい。塩基性窒素を有する単量体を10モル%以上用いることにより、水溶性を向上させ、部分ケン化ポリ酢酸ビニルを併用する場合に、相溶性を向上させることができる。一方、塩基性窒素を有する単量体を80モル%以下用いることにより、印刷版の保管中の吸水を抑制し、印刷版の厚み精度を高いレベルで維持することができる。
【0026】
ポリマーの重量平均分子量は、10,000以上200,000以下が好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC測定により求めることができる。より具体的には、Wyatt Technology製ゲル浸透クロマトグラフ-多角度光散乱光度計を用いて、カラム温度:40℃、流速:0.7mL/分の条件で、重量平均分子量を測定することができる。標準サンプルとして、ポリエチレンオキサイドおよびポリエチレングリコールを用いる。
【0027】
本発明の印刷版のレリーフの1-ヘキサデセンに対する接触角は、40°以上70°以下が好ましい。1-ヘキサデセンは、ドライオフセット印刷に一般的に用いられるインキに含まれる溶剤であり、本発明において、1-ヘキサデセンに対する接触角は、ドライオフセット印刷用インキに対する撥インキ性の指標である。接触角が40°以上であると、レリーフの優れた撥インキ性により、インキ転移性をより向上させることができる。接触角は、43°以上がより好ましい。一方、接触角が70°以下であると、レリーフの撥インキ性を適度に抑え、レリーフへのインキの供給を効率よく行うことができる。接触角は、60°以下がより好ましい。なお、レリーフの1-ヘキセデセンに対する接触角は、接触角計DMe-201(協和界面科学(株)製)を用いて測定することができる。室温下、レリーフ表面に1-ヘキセデセンを1μL着滴させ、着滴後50秒後の接触角を5回測定し、その算術平均値を算出する。なお、1-ヘキサデセンに対する接触角を前記範囲にする手段としては、例えば、フッ素を含む有機化合物の含有量を前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0028】
本発明の印刷版のレリーフのショアD硬度は、40°以上80°以下が好ましい。ショアD硬度が40°以上であると、微細な画像のつぶれをより抑制し、印刷再現性をより向上させることができる。ショアD硬度は、50°以上がより好ましい。一方、ショアD硬度が80°以下であると、インカーやブランケットへの傷を抑制することができる。ショアD硬度は、70°以下がより好ましい。なお、レリーフのショアD硬度は、タイプDデュロメータGS-702N(テクロック製)を用いて、JIS K 7215(1986年)に準じて測定することができる。厚さ6mm以上にレリーフを積層した積層体について、ショアD硬度を6回測定し、その算術平均値を算出する。なお、ショアD硬度を前記範囲にする手段としては、例えば、後述する好ましい組成の感光性樹脂層を有するドライオフセット印刷用印刷版原版を用いることなどが挙げられる。
【0029】
本発明の印刷版のレリーフを、1-ヘキセデセンに50℃で24時間浸漬したときの膜厚変化率は、±2%以内が好ましい。膜厚変化率は、±2%以内であると、ロングラン印刷においてもレリーフ形状を保持することが可能で、ロングラン印刷適性をより向上させることができる。膜厚変化率は、±0.5%以内がより好ましい。なお、レリーフの膜厚変化率(%)は、{(浸漬後の膜厚-浸漬前の膜厚)/浸漬前の膜厚}×100により算出することができる。浸漬前後の膜厚は、それぞれ6点について同じ箇所で測定し、6点の膜厚変化率の算術平均値を算出する。なお、膜厚変化率を前記範囲にする手段としては、例えば、後述する好ましい組成の感光性樹脂層を有するドライオフセット印刷用印刷版原版を用いることなどが挙げられる。
【0030】
次に、本発明のドライオフセット印刷用印刷版原版(以下、単に「印刷版原版」と記載する場合がある)について説明する。本発明の印刷版原版は、支持体上に、フッ素を含む有機化合物を含有する感光性樹脂層を有する。支持体およびフッ素を含む有機化合物は、本発明の印刷版における支持体およびフッ素を含む有機化合物と共通する。感光性樹脂層中におけるフッ素を含む有機化合物の含有量は、0.1~10重量%が好ましく、0.3~5重量%がより好ましい。
【0031】
感光性樹脂層は、レリーフを形成するためのポリマーを含有することが好ましい。ポリマーは、印刷版のレリーフに含まれるポリマーと共通であり、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、3級アミノ基を有するポリアミドが好ましい。
【0032】
部分ケン化ポリ酢酸ビニルは、側鎖にエチレン性二重結合を有することが好ましい。フォトリソ加工によるレリーフ形成時、露光によりエチレン性二重結合が共有結合を形成することにより、印刷時のレリーフ形状を保持することができる。エチレン性二重結合を有する基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0033】
部分ケン化ポリ酢酸ビニルにエチレン性二重結合を導入する方法としては、例えば、(1)部分ケン化ポリ酢酸ビニルの水酸基と酸無水物とを反応させ、部分ケン化ポリ酢酸ビニルの水酸基を起点としてカルボキシル基などの反応性基をポリマー側鎖に導入し、その反応性基に不飽和エポキシ化合物を反応させる方法、(2)酢酸ビニルと、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸塩および/または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を部分ケン化し、このポリマーのもつカルボキシル基と不飽和エポキシ化合物を反応させる方法などが挙げられる。
【0034】
感光性樹脂層中におけるポリマーの含有量は、30~95重量%が好ましい。
【0035】
感光性樹脂層は、さらに、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光重合開始剤などを含有することが好ましい。
【0036】
エチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、国際公開第2017/038970号に記載される(メタ)アクリレートや、グリセロールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。エチレン性不飽和基を有するモノマーの分子量は、10,000以下が好ましく、1,000以下がより好ましい。
【0037】
感光性樹脂層中におけるエチレン性不飽和基を有するモノマー成分の含有量は、10~70重量%が好ましい。
【0038】
光重合開始剤としては、光吸収によって、自己分解や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく用いられる。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0039】
感光性樹脂層中における光重合開始剤の含有量は、0.1~10重量%が好ましい。
【0040】
感光性樹脂層には、必要に応じて、相溶助剤、重合禁止剤、染料、顔料、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、香料などを含有してもよい。
【0041】
感光性樹脂層に相溶助剤を含有することにより、感光性樹脂層を構成する成分の相溶性を高め、低分子量成分のブリードアウトを抑制し、感光性樹脂層の柔軟性を向上させることができる。相溶助剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールやこれらの誘導体などの多価アルコール類が挙げられる。感光性樹脂層中における相溶助剤の含有量は、30重量%以下が好ましく、レリーフのショアD硬度や1-ヘキセデセンに対する膜厚変化率を前述の好ましい範囲に容易に調整することができる。相溶助剤の含有量は、10重量%以下がより好ましい。
【0042】
感光性樹脂層に重合禁止剤を含有することにより、熱安定性を向上させることができる。重合禁止剤としては、例えば、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類、ヒドロキシアミン誘導体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。感光性樹脂層中における重合禁止剤の含有量は、0.001~5重量%が好ましい。
【0043】
感光性樹脂印刷版原版は、前述の支持体と感光性樹脂層に加え、必要に応じて、感光性樹脂層上にカバーフィルムや感熱マスク層を有してもよい。
【0044】
感光性樹脂層上にカバーフィルムを有することにより、感光性樹脂層表面を保護し、異物等の付着を抑制することができる。感光性樹脂層とカバーフィルムは直接接していてもよいし、感光性樹脂層とカバーフィルムの間に粘着防止層などを1層以上有してもよい。
【0045】
カバーフィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどからなるプラスチックシートが挙げられる。カバーフィルムの厚さは、取扱性および柔軟性の観点から、10~150μmが好ましい。また、カバーフィルム表面は粗面化されていてもよく、原画フィルムとの密着性を向上させることができる。粗面化の方法としては、例えば、サンドブラスト、ケミカルエッチング、マット化粒子含有塗工剤のコーティングなどが挙げられる。
【0046】
また、本発明の印刷版原版が、デジタルデバイスで制御された画像データに基づいてレーザー照射を行い、マスク層要素から画像マスクをその場で形成し、露光・現像するいわゆるCTP製版方式に用いられる場合、印刷版原版は、さらに感熱マスク層を有していてもよい。感熱マスク層は、紫外光を事実上遮断し、描画時には赤外レーザー光を吸収し、その熱により瞬間的に一部または全部が昇華または融除するものが好ましい。これによりレーザーの照射部分と未照射部分の光学濃度に差が生じ、従来の原画フィルムと同様の機能を果たすことができる。印刷版原版が感熱マスク層を有する場合、感光性樹脂層と感熱マスク層との間に接着力調整層を有してもよく、感熱マスク層とカバーフィルムの間に剥離補助層を有してもよい。
【0047】
感熱マスク層、接着力調整層、剥離補助層としては、例えば、国際公開第2017/038970号に記載されたものが挙げられる。
【0048】
次に、本発明の印刷版原版の製造方法について説明する。支持体上に、前述のフッ素を含む有機化合物および必要に応じてポリマー、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光重合開始剤などを水や低級アルコールなどの有機溶剤に溶解させた感光性樹脂組成物溶液を流延し、乾燥することにより、感光性樹脂層を形成することができる。さらに、感光性樹脂層上にカバーフィルムや感熱マスク層を形成してもよい。例えば、感光性樹脂層上に感熱マスク層を形成する方法としては、カバーフィルム上に感熱マスク層がコーティングされた、カバーフィルム/感熱マスク層からなる構成体を、感光層上に密着させる方法などが挙げられる。
【0049】
次に、本発明の印刷版原版から本発明の印刷版を製造する方法について説明する。印刷版原版の感光性樹脂層を部分的に光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を除去する現像工程を有することが好ましい。
【0050】
露光工程においては、カバーフィルムを有する場合にはこれを剥離した感光性樹脂層上に、ネガティブまたはポジティブの原画フィルムを密着させ、波長300~400nmの紫外線を照射し、感光性樹脂層の露光部を光硬化させることが好ましい。感熱マスク層を有する場合は、感熱マスク層にネガティブまたはポジティブの画像を形成し、これを介して紫外線を照射することが好ましい。露光光源としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯、UV-LEDランプなどが挙げられる。
【0051】
現像工程においては、水および/または有機溶剤により未露光部の感光性樹脂層を除去することが好ましい。現像装置としては、スプレー式現像装置やブラシ式洗い出し機などが挙げられる。
【0052】
さらに、必要に応じて、現像後に紫外線を照射する後露光工程を設けてもよい。後露光工程により、未反応のモノマー成分の反応によって、レリーフをより強固にすることができる。
【0053】
本発明の印刷版を用いて、曲面を有する容器に、オフセット印刷することが好ましいオフセット印刷用インキとして、アルキド樹脂を含有するインキを用いることが好ましい。アルキド樹脂を含むインキは、耐候性に優れ、外部環境にさらされる容器にも好適に使用することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法を以下に示す。なお、以下に記載する実施例9は比較例に読み替え、実施例9のブリードアウトの評価結果は「0.120 C」と読み替えるものとする。
【0055】
(1)接触角
各実施例および比較例により得られた印刷版表面ベタ部に、室温下、1-ヘキセデセンを1μL着滴させ、着滴後50秒後の接触角を、接触角計“DMe-201”(協和界面科学(株)製)を用いて5回測定し、その算術平均値を接触角とした。
【0056】
(2)ショアD硬度
各実施例および比較例により得られた印刷版の支持体からレリーフを剥離し、厚みが6mm以上となるようにレリーフを積層した。タイプDデュロメータGS-702N(テクロック製)を用いて、JIS K 7215に準じ、積層体のショアD硬度を6回測定し、その算術平均値をレリーフのショアD硬度とした。
【0057】
(3)ブリードアウト
“GATSBY”(登録商標)あぶらとり紙フィルムタイプ(マンダム製)を2cm×2cmに切り取り、重量を測定した。各実施例および比較例により得られた印刷版の表面に、重量を測定した“GATSBY”あぶらとり紙フィルムタイプ(マンダム製)を付着させ、ブリードアウト成分を吸収させた後、同様に重量を測定した。ブリードアウト成分吸収前後の重量変化(吸収後の重量-吸収前の重量)から、ブリードアウト量を算出した。下記基準によりブリードアウトを評価した。
A:0.02g未満
B:0.02g以上0.1g未満
C:0.1g以上。
【0058】
(4)インキ転移性
各実施例および比較例により得られた印刷版について、印刷校正機(InterCan製)を用いてブランケットにAIR-TACK FS(金陽社製)を用い、インキにはEXP6448藍(マツイカガク株式会社製)を用いて、アルミニウム缶に印刷を行った。この時、印刷版のブランケットへの押し込み量は100μmになるように調整した。2cm×2cmのベタ画像のアルミニウム缶のインキ濃度を、SpectroEye(X-rite社製)を用いて各4点測定し、その算術平均値をインキ濃度とした。インキ濃度が高いほど、インキ転移性に優れる。
【0059】
(5)印刷再現性
各実施例および比較例により得られた印刷版について、前記(4)インキ転移性に記載の条件で、アルミニウム缶に印刷を行った。線幅50μmのレリーフに対応する印刷物の線幅を、デジタルマイクロスコープVHX-2000(Keyence製)を用いて、200倍の倍率で各5点測定し、その算術平均値から印刷再現性を評価した。印刷物の線幅が65μm以下であれば○、65μmより大きければ×とした。
【0060】
(6)ロングラン印刷適性
各実施例および比較例により得られた印刷版のベタ部を20mm×20mmに切断したサンプルから無作為に選択した6点について、デジマチック シックネスゲージ(ミツトヨ製)を用いて膜厚T1~T6を測定した。その後、サンプルを1-ヘキセデセンに50℃で24時間浸漬し、同じ点の膜厚T1’~T6’を測定し、下記式から各測定点の膜厚変化率を算出し、その算術平均値からロングラン印刷適性を評価した。
膜厚変化率(%)=(T1’-T1)/T1×100
膜厚変化率が±2%以内であればロングラン印刷適性に優れ、±0.5%以内であればより好ましい。
【0061】
次に、各実施例および比較例に用いた材料の作製方法について説明する。
【0062】
<易接着層を有する支持体の作製>
“バイロン”(登録商標)31SS(不飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液、東洋紡(株)製)260質量部およびPS-8A(ベンゾインエチルエーテル、和光純薬工業(株)製)2質量部の混合物を70℃で2時間加熱後、30℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート7質量部を加えて2時間混合した。さらに、“コロネート”(登録商標)3015E(多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液、東ソー(株)製)25質量部およびEC-1368(工業用接着剤、住友スリーエム(株)製)14質量部を添加して混合し、易接着層用塗工液1を得た。
【0063】
次に“ゴーセノール”(登録商標)KH-17(ケン化度78.5~81.5モル%のポリビニルアルコール、三菱ケミカル(株)製)50質量部を、“ソルミックス”(登録商標)H-11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)200質量部および水200質量部の混合溶媒中、70℃で2時間混合した後、“ブレンマー”(登録商標)G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)1.5質量部を添加して1時間混合した。ここに、さらに(ジメチルアミノエチルメタクリレート)/(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)重量比2/1の共重合体(共栄社化学(株)製)3質量部、“イルガキュア”(登録商標)651(ベンジルメチルケタール、チバ・ガイギー(株)製)5質量部、エポキシエステル70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)21質量部およびエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート20質量部を添加して90分間混合し、50℃に冷却後、“メガファック”(登録商標)F-556(DIC(株)製)を0.1質量部添加して30分間混合して易接着層用塗工液2を得た。
【0064】
クロムメッキを施した、厚さ250μmのスチール鈑上に、前記易接着層用塗工液1を、バーコーターを用いて、乾燥後膜厚が40μmになるように塗布し、180℃のオーブンを用いて3分間加熱して溶媒を除去した。その上に、前記易接着層用塗工液2を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が30μmとなるように塗布し、160℃のオーブンを用いて3分間加熱して、易接着層を有する支持体を得た。
【0065】
<カバーフィルムの作製>
表面粗さRaが0.1~0.6μmとなるように粗面化された厚さ100μmの“ルミラー”(登録商標)S10(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)に、“ゴーセノール”(登録商標)AL-06(ケン化度91~94モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール、三菱ケミカル(株)製)を、乾燥膜厚が1μmとなるように塗布し、100℃で25秒間乾燥し、カバーフィルムを得た。
【0066】
<感光性樹脂層用ポリマーの合成>
合成例1:
三菱ケミカル(株)製の部分ケン化ポリビニルアルコール“ゴーセノール”KL-05(平均重合度500、ケン化度80モル%、Mw=38,000)をアセトン中で膨潤させ、“ゴーセノール”KL-05 100質量部に対して、無水コハク酸を4.2質量部添加し、60℃で6時間撹拌して分子鎖にカルボキシル基を付加させた。このポリマーをアセトンで洗浄して未反応の無水コハク酸を除去した後、乾燥した。このポリマー100質量部をエタノール/水=30/70(重量比)の混合溶媒200質量部に80℃で溶解した。ここにグリシジルメタクリレートを6質量部添加して、部分ケン化ポリビニルアルコール中にエチレン性二重結合を導入し、ポリマーAを得た。得られたポリマーAのエチレン性二重結合当量は5,611g/eq、重量平均分子量は40,000であった。なお、重量平均分子量は、Wyatt Technology製ゲル浸透クロマトグラフ-多角度光散乱光度計を用いて、カラム温度:40℃、流速:0.7mL/分の条件で、標準サンプルとして、ポリエチレンオキサイドおよびポリエチレングリコールを用いて測定した。また、エチレン性二重結合当量は、ポリマーAを、内標として3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3dを添加した重水/重メタノール混合溶媒1mlに、30mg溶解し、H-NMR測定を行い、エチレン性二重結合のモル数を測定した。分析に使用した試料中のポリマーAを、検出されたエチレン性二重結合のモル数で除することにより、エチレン性二重結合当量を算出した。
【0067】
合成例2:
ε-カプロラクタム20質量部、N-(2-アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩80質量部および水100質量部をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、ついで水分を除去して、水溶性ポリアミド樹脂である3級アミノ基を有するポリアミドのポリマーBを得た。得られたポリマーBの重量平均分子量は72,000であった。なお、重量平均分子量は、合成例1と同様に測定した。
【0068】
その他の成分として、表1~2記載の化合物を用いた。
【0069】
[実施例1]
<感光性樹脂層の作製>
ポリマーA、Bと、エタノール/水=30/70(重量比)の混合溶媒を、撹拌用ヘラおよび冷却管を取り付けた3つ口フラスコ中に表1に記載の量添加し、90℃で2時間加熱して溶解させた。得られた混合物を70℃に冷却した後、表1に記載のその他の成分を添加して30分間撹拌し、感光性樹脂層用溶液を得た。上記のようにして得られた感光性樹脂層用溶液を、前記易接着層を有する支持体の易接着層側に流延し、60℃で2.5時間乾燥して印刷版原版の感光性樹脂層を形成した。このとき、乾燥後の版厚(クロムメッキを施したスチール鈑+感光性樹脂層)が0.84mmとなるよう調節した。
【0070】
このようにして得られた感光性樹脂層上に、水/エタノール=50/50(重量比)の混合溶媒を塗布し、表面に前記アナログ版用のカバーフィルムを圧着し、感光性樹脂印刷版原版を得た。
【0071】
バッチ式露光現像機“トミフレックス”(富博産業(株)製)を用いて、以下のように露光および現像を行った。まず、得られた感光性樹脂版原版のカバーフィルムを剥離し、露出した感光性樹脂層に、所定の画像が形成されたネガフィルムを塩化ビニルフィルムによって真空密着させた後、積算光量が8,000mJ/cm程度になるように露光した。その後、25℃に温度調整した水道水により、60秒間現像した。その後、60℃のオーブン中、10分間乾燥し、大気下で、積算光量が8,000mJ/cm程度になるように露光し、印刷版を得た。得られた印刷版について前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0072】
[実施例2~10]
感光性樹脂層の組成を表1に記載のとおり変更したこと以外は実施例1と同様の方法で印刷版を得た。評価結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
感光性樹脂層の組成を表1に記載のとおり変更したこと以外は実施例1と同様の方法で印刷版を得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
また、前記(4)インキ転移性および(5)印刷再現性の評価において、印刷版のブランケットへの押し込み量を200μmとなるように変更してインキ転移性および印刷再現性を評価したところ、インキ濃度は2.0、線幅は80μmとなった。
【0075】
各実施例および比較例の感光性樹脂層組成と評価結果を表1~2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】