(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】物理量センサー、物理量センサーデバイス及び慣性計測装置
(51)【国際特許分類】
G01P 15/08 20060101AFI20241112BHJP
G01P 15/125 20060101ALI20241112BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01P15/08 101B
G01P15/08 102D
G01P15/125 Z
H01L29/84 Z
G01P15/08 102F
(21)【出願番号】P 2020190614
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 悟
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529001(JP,A)
【文献】特開2013-040856(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110272(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/046866(WO,A1)
【文献】特開2013-217721(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183082(WO,A1)
【文献】特開2019-045172(JP,A)
【文献】特開2019-184261(JP,A)
【文献】特開2009-109494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0056297(US,A1)
【文献】特開2012-088120(JP,A)
【文献】特開2013-140148(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0341927(US,A1)
【文献】特開2014-224739(JP,A)
【文献】特開2015-212624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 ~ 15/18
B81B 1/00 ~ 7/04
B81C 1/00 ~ 99/00
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、
前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、
を含み、
前記可動体は、
前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、
前記第1質量部の前記第1面には、
空隙を隔てて前記第1固定電極と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、前記回転軸から近い順に第1領域から第n領域へと配置されている前記第1領域乃至前記第n領域(nは2以上の整数)が設けられ、
前記第1領域乃至前記第n領域の前記回転軸から遠い側の端部を、第1端部乃至第n端部とし、
前記Y軸に沿ったY軸方向からの断面視において、
前記可動体が前記回転軸回りに最大変位した状態において、前記第1端部乃至前記第n端部のうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、前記X軸とのなす角が最も小さい仮想直線を第1仮想直線とし、
前記第1固定電極の主面に沿う直線を第2仮想直線とし、
前記第1固定電極の前記回転軸に最も近い端部と交わり、前記Z軸に沿った直線を第1法線とし、
前記第1固定電極の前記回転軸に最も遠い端部と交わり、前記Z軸に沿った直線を第2法線としたとき、
前記第1法線と前記第2法線との間の領域において、前記第1仮想直線と前記第2仮想直線が交差
せず、
前記可動体は、
前記回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部を含み、
前記トルク発生部の前記Z軸方向での厚みは、前記可動体の前記第n領域の前記Z軸方向での厚みよりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項2】
請求項1に記載の物理量センサーにおいて、
前記Y軸方向からの前記断面視において、
前記回転軸と交わり、前記Z軸に沿った直線を第3法線とし、
前記可動体の端部と交わり、前記Z軸に沿った直線を第4法線としたとき、
前記第3法線と前記第4法線との間の領域において、前記第1仮想直線と前記第2仮想直線が交差しないことを特徴とする物理量センサー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1質量部の前記第1領域乃至第n領域は、前記第1領域から前記第n領域の順で、前記第1固定電極との間のギャップ距離が大きくなることを特徴とする物理量センサー。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記トルク発生部と前記基板とのギャップ距離は、前記第n領域と前記第1固定電極との間のギャップ距離よりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記可動体は、
前記Z軸方向からの平面視において、前記第1質量部に対して前記回転軸を挟んで設けられている第2質量部を含み、
前記基板には、
前記第2質量部に対向している第2固定電極が設けられ、
前記第1固定電極と前記第2固定電極は、前記回転軸に対して対称に配置されていることを特徴とする物理量センサー。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記回転軸を中心とする前記可動体の回転を規制するストッパーを含むことを特徴とする物理量センサー。
【請求項7】
請求項
6に記載の物理量センサーにおいて、
前記最大変位した状態は、前記ストッパーにより前記可動体の回転が規制された状態であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項8】
請求項
6又は7に記載の物理量センサーにおいて、
前記ストッパーは、前記可動体と同電位であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記基板の前記第1固定電極が配置されていない領域であって、前記可動体と対向する領域に配置され、前記可動体と同電位であるダミー電極を含むことを特徴とする物理量センサー。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記可動体には、前記Z軸方向に貫通している貫通孔群が設けられていることを特徴とする物理量センサー。
【請求項11】
請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1質量部と前記第1固定電極との間のギャップ距離は、4.5μm以下であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項12】
請求項1乃至
11のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1仮想直線と前記X軸とのなす角は、0.7°以下であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項13】
請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の物理量センサーにおいて、
前記第1領域に第1貫通孔群が設けられ、前記第1領域乃至第n領域のうちの第i領域(iは1<i≦nとなる整数)に第2貫通孔群が設けられ、
前記第1貫通孔群及び前記第2貫通孔群の貫通孔の前記Z軸方向での深さは、前記可動体の前記Z軸方向での最大厚みよりも小さいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項14】
請求項
13に記載の物理量センサーにおいて、
前記第2貫通孔群の貫通孔の開口面積は、前記第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きいことを特徴とする物理量センサー。
【請求項15】
請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、
含むことを特徴とする物理量センサーデバイス。
【請求項16】
請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の物理量センサーと、
前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、
を含むことを特徴とする慣性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサー、物理量センサーデバイス及び慣性計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より加速度等の物理量を検出する物理量センサーが知られている。このような物理量センサーとしては、例えばZ軸方向の加速度を検出するシーソー型の加速度センサーなどが知られている。例えば特許文献1には、可動体の裏面側に段差を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成して、高感度化を実現する加速度センサーが開示されている。特許文献2には、基板上の検出部に段差を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成して、高感度化を実現する加速度センサーが開示されている。特許文献3には、基板側にストッパーを設けることにより、可動体が基板に貼り付くスティッキングを抑制する加速度センサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2008-529001号公報
【文献】特開2013-040856号公報
【文献】特開2019-045172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、可動体と基板の両方にストッパーが設けられているため、逆に電極間ギャップ距離が拡大してしまい、高感度化が難しい。特許文献2では、基板の表面に設けられている電極や配線が、基板の段差部で断線するおそれがある。特許文献3では、基板にストッパーを設けているので、可動体と、基板の固定電極との電極間ギャップ距離が大きくなってしまうので、高感度化が難しい。このように特許文献1~3の構造では、高感度化の実現とスティッキングの抑制を両立して実現することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、前記Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、前記Z軸に沿ったZ軸方向において前記第1固定電極に対向している第1質量部を含み、前記Y軸に沿った回転軸を中心として前記基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、を含み、前記可動体は、前記基板側の面である第1面と、前記第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、前記第1質量部の前記第1面には、空隙を隔てて前記第1固定電極と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、前記回転軸から近い順に第1領域から第n領域へと配置されている前記第1領域乃至前記第n領域(nは2以上の整数)が設けられ、前記第1領域乃至前記第n領域の前記回転軸から遠い側の端部を、第1端部乃至第n端部とし、前記Y軸に沿ったY軸方向からの断面視において、前記可動体が前記回転軸回りに最大変位した状態において、前記第1端部乃至前記第n端部のうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、前記X軸とのなす角が最も小さい仮想直線を第1仮想直線とし、前記第1固定電極の主面に沿う直線を第2仮想直線とし、前記第1固定電極の前記回転軸に最も近い端部と交わり、前記Z軸に沿った直線を第1法線とし、前記第1固定電極の前記回転軸に最も遠い端部と交わり、前記Z軸に沿った直線を第2法線としたとき、前記第1法線と前記第2法線との間の領域において、前記第1仮想直線と前記第2仮想直線が交差しない物理量センサーに関係する。
【0006】
また本開示の他の態様は、上記に記載の物理量センサーと、前記物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、含む物理量センサーデバイスに関係する。
【0007】
また本開示の他の態様は、上記に記載の物理量センサーと、前記物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、を含む慣性計測装置に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】第1仮想直線と第2仮想直線が交差した場合の例。
【
図9】第1仮想直線と第2仮想直線が交差した場合の例。
【
図15】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
【
図16】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
【
図17】貫通孔の孔サイズとダンピングの関係を示すグラフ。
【
図18】規格化貫通孔厚みと規格化ダンピングの関係を示すグラフ。
【
図20】物理量センサー有する慣性計測装置の概略構成を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。また以下の各図面において、説明の便宜上、一部の構成要素を省略することがある。また各図面において、分かり易くするために各構成要素の寸法比率は実際とは異なっている。
【0010】
1.第1実施形態
まず第1実施形態の物理量センサー1について、鉛直方向の加速度を検出する加速度センサーを一例として挙げ、
図1、
図2、
図3、
図4を参照して説明する。
図1は第1実施形態の物理量センサー1の平面図である。
図2は
図1のA-A線における断面図であり、
図3は
図1のB-B線における断面図であり、
図4は
図1のC-C線における断面図である。物理量センサー1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスであり、例えば慣性センサーである。 なお
図1では、物理量センサー1の内部の構成を説明する便宜上、
図2~
図4で示される基板2、蓋部5等の図示を省略している。また
図1~
図4では、説明の便宜のために、各部材の寸法や部材間の間隔等は模式的に示されている。例えば可動体3の厚みやギャップ距離等は実際には非常に小さい。また以下では、物理量センサー1が検出する物理量が加速度である場合を主に例にとり説明するが、物理量は加速度に限定されず、角速度、速度、圧力、変位又は重力等の他の物理量であってもよく、物理量センサー1はジャイロセンサー、圧力センサー又はMEMSスイッチ等として用いられるものであってもよい。また説明の便宜上、各図には互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、及びZ軸を図示している。X軸に沿った方向を「X軸方向」、Y軸に沿った方向を「Y軸方向」、Z軸に沿った方向を「Z軸方向」と言う。ここで、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、各々、第1方向、第2方向、第3方向と言うこともできる。また各軸方向の矢印先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」、Z軸方向プラス側を「上」、Z軸方向マイナス側を「下」とも言う。またZ軸方向は鉛直方向に沿い、XY平面は水平面に沿っている。なお「直交」は、90°で交わっているものの他、90°から若干傾いた角度で交わっている場合も含むものとする。
【0011】
図1~
図4に示す物理量センサー1は、鉛直方向であるZ軸方向の加速度を検出することができる。このような物理量センサー1は、基板2と、基板2に対向して設けられた可動体3と、基板2に接合され、可動体3を覆う蓋部5を有する。可動体3は揺動構造体又はセンサー素子と言うこともできる。
【0012】
基板2は、
図1に示すように、X軸方向及びY軸方向に広がりを有し、Z軸方向を厚さとする。また基板2には、
図2~
図4に示すように、下面側に窪んでおり深さが異なる凹部21及び凹部21aが形成されている。凹部21aの上面からの深さは、凹部21よりも深い。凹部21及び凹部21aは、Z軸方向からの平面視において、可動体3を内側に内包し、可動体3よりも大きく形成されている。凹部21及び凹部21aは、可動体3と基板2との接触を抑制する逃げ部として機能する。また基板2には、凹部21の底面に第1固定電極24と第2固定電極25とが配置され、凹部21aの底面にダミー電極26aが配置されている。第1固定電極24、第2固定電極25は、各々、第1検出電極、第2検出電極と言うこともできる。また凹部21の底面にもダミー電極26b、26cが配置されている。第1固定電極24と第2固定電極25は、不図示のQVアンプにそれぞれ接続され、その静電容量差を差動検出方式により電気信号として検出する。従って、第1固定電極24と第2固定電極25とは、等しい面積であることが望ましい。そして基板2のマウント部22a、22bの上面に可動体3が接合されている。これにより可動体3を、基板2の凹部21の底面から離間させた状態で基板2に固定できるようになる。
【0013】
基板2としては、例えばアルカリ金属イオンを含むガラス材料、例えばパイレックス(登録商標)又はテンパックス(登録商標)のガラスのようなホウケイ酸ガラスで構成されたガラス基板を用いることができる。但し基板2の構成材料としては、特に限定されず、例えばシリコン基板、石英基板又はSOI(Silicon On Insulator)基板等を用いてもよい。
【0014】
蓋部5には、
図2~
図4に示すように、上面側に窪む凹部51が形成されている。蓋部5は、凹部51内に可動体3を収納して基板2の上面に接合されている。そして、蓋部5及び基板2によって、その内側に、可動体3を収納する収納空間SAが形成されている。収納空間SAは、気密空間であり、窒素、ヘリウム又はアルゴン等の不活性ガスが封入され、使用温度が-40℃~125℃程度でほぼ大気圧となっていることが好ましい。但し、収納空間SAの雰囲気は、特に限定されず、例えば、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0015】
蓋部5としては、例えばシリコン基板を用いることができる。但し、これに特に限定されず、例えば蓋部5としてガラス基板又は石英基板などを用いてもよい。また基板2と蓋部5との接合方法としては、例えば陽極接合、活性化接合やガラスフリット等の接合材による接合などを用いることができるが、これには特に限定されず、基板2や蓋部5の材料によって適宜選択すればよい。ガラスフリットは粉末ガラス、低融点ガラスとも言う。
【0016】
可動体3は、例えば、リン(P)、ボロン(B)又は砒素(As)等の不純物がドープされた導電性のシリコン基板をエッチング、特に深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスによって垂直加工することにより形成できる。
【0017】
可動体3は、Y軸方向に沿う回転軸AYの回りに揺動可能になっている。可動体3は、固定部32a、32bと、支持梁33と、第1質量部34と、第2質量部35と、トルク発生部36を有している。トルク発生部36は第3質量部と言うこともできる。H型の中央アンカーである固定部32a、32bは、基板2のマウント部22a、22bの上面に陽極接合等により接合されている。支持梁33は、Y軸方向に延在し、回転軸AYを形成しており、ねじりバネとして用いられている。即ち物理量センサー1に加速度azが作用すると、可動体3は、支持梁33を回転軸AYとして、支持梁33を捩り変形させながら回転軸AY回りに揺動する。なお回転軸AYは揺動軸と呼ぶこともでき、可動体3の回転軸AY回りの回転は、可動体3の揺動軸回りの揺動である。
【0018】
可動電極である可動体3は、Z軸方向からの平面視において、X軸方向を長手方向とする長方形形状となっている。そして可動体3の第1質量部34と第2質量部35は、Z軸方向からの平面視において、Y軸方向に沿う回転軸AYを間に挟んで配置されている。具体的には可動体3は、第1質量部34と第2質量部35とが第1連結部41によって連結され、第1質量部34と第2質量部35との間に第1開口部45a、45bを有する。そして第1開口部45a、45b内に固定部32a、32b及び支持梁33が配置されている。このように、可動体3の内側に固定部32a、32b及び支持梁33を配置することにより、可動体3の小型化を図ることができる。またトルク発生部36は、第2連結部42により、Y軸方向の両端で第1質量部34に対して連結されている。そして第1質量部34とトルク発生部36との間には、第1質量部34の面積と第2質量部35の面積とを等しくするために第2開口部46が設けられている。第1質量部34及びトルク発生部36は、回転軸AYに対してX軸方向プラス側に位置し、第2質量部35は、回転軸AYに対してX軸方向マイナス側に位置する。また、第1質量部34及びトルク発生部36は、第2質量部35よりもX軸方向に長く、Z軸方向の加速度azが加わったときの回転軸AY回りの回転モーメントが第2質量部35よりも大きい。
【0019】
この回転モーメントの差によって、Z軸方向の加速度azが加わった際に、可動体3が回転軸AY回りにシーソー揺動する。なお、シーソー揺動とは、第1質量部34がZ軸方向プラス側に変位すると、第2質量部35がZ軸方向マイナス側に変位し、反対に、第1質量部34がZ軸方向マイナス側に変位すると、第2質量部35がZ軸方向プラス側に変位することを意味する。
【0020】
また可動体3では、Y軸方向に並んだ第1連結部41と、固定部32a、32bとが、Y軸方向に延在する支持梁33によって接続されている。そのため、支持梁33を回転軸AYとして、可動体3を回転軸AY回りにシーソー揺動で変位させることができる。
【0021】
また可動体3は、その全域に貫通孔群70を有する。これらの貫通孔群により、可動体3のシーソー揺動の際の空気のダンピングが低減され、物理量センサー1を、より広い周波数範囲で適正に動作させることが可能になる。
【0022】
次に、基板2の凹部21の底面に配置された第1固定電極24及び第2固定電極25と、ダミー電極26a、26b、26cについて説明する。
【0023】
図1に示すように、Z軸方向からの平面視で、第1固定電極24は、第1質量部34と重なって配置され、第2固定電極25は、第2質量部35と重なって配置されている。これらの第1固定電極24及び第2固定電極25は、Z軸方向の加速度azが加わっていない自然状態で、
図2に示す静電容量Ca、Cbが等しくなるように、Z軸方向からの平面視で、回転軸AYに対して略対称に設けられている。
【0024】
第1固定電極24と第2固定電極25は、不図示の差動式のQVアンプに電気的に接続されている。物理量センサー1の駆動時において、可動体3に駆動信号が印加される。そして第1質量部34と第1固定電極24との間に静電容量Caが形成され、第2質量部35と第2固定電極25との間に静電容量Cbが形成される。Z軸方向の加速度azが加わっていない自然状態では静電容量Ca、Cbが互いにほぼ等しい。
【0025】
物理量センサー1に加速度azが加わると、可動体3が回転軸AYを中心にしてシーソー揺動する。この可動体3のシーソー揺動により、第1質量部34と第1固定電極24との離間距離と、第2質量部35と第2固定電極25との離間距離と、が逆相で変化し、これに応じて静電容量Ca、Cbが互いに逆相で変化する。これにより、物理量センサー1は、静電容量Ca、Cbの容量値の差に基づいて加速度azを検出することができる。
【0026】
また基板面露出による帯電ドリフトや可動体形成後の陽極接合時の貼り付き防止のために、第1固定電極24及び第2固定電極25以外の基板2のガラス露出面には、ダミー電極26a、26b、26cが設けられている。ダミー電極26aは、第1固定電極24よりもX軸方向プラス側に位置し、Z軸方向からの平面視においてトルク発生部36に重なるように、トルク発生部36の下方に設けられている。またダミー電極26bは、支持梁33の下方に設けられ、ダミー電極26cは第2質量部35の左下方に設けられている。これらのダミー電極26a、26b、26cは、不図示の配線により電気的に接続されている。これによりダミー電極26a、26b、26cは同電位に設定される。そして支持梁33の下方のダミー電極26bは、可動電極である可動体3に電気的に接続されている。例えば基板2に不図示の突起が設けられ、ダミー電極26bから延出した電極が当該突起の頂部を覆うように形成されて、当該電極が可動体3に接触することで、ダミー電極26bが可動体3に電気的に接続される。これによりダミー電極26a、26b、26cは、可動電極である可動体3と同電位に設定される。
【0027】
また
図3に示すように、物理量センサー1には、回転軸AYを中心とする可動体3の回転を規制するストッパー11、12が設けられている。即ちストッパー11、12は可動体3の揺動を規制する。例えば可動体3に過度なシーソー揺動が生じた際に、ストッパー11、12の頂部が可動体3と接触することにより、可動体3のそれ以上のシーソー揺動が規制される。ストッパー11、12の詳細については後述する。
【0028】
以上のように本実施形態の物理量センサー1は、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、Z軸に直交し、第1固定電極24が設けられている基板2と、Z軸方向において第1固定電極24に対向している第1質量部34を含み、Y軸に沿った回転軸AYを中心として基板2に対して揺動可能に設けられている可動体3と、を含む。また可動体3は、基板2側の面である第1面6と、第1面6に対する裏側の面である第2面7を含む。例えばZ軸方向プラス側を上方向とし、Z軸方向マイナス側を下方向とした場合に、第1面6は可動体3の下面であり、第2面7は可動体3の上面である。
【0029】
そして
図2~
図4に示すように、第1質量部34の第1面6には、空隙を隔てて第1固定電極24と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に領域RA1から領域RA3へと配置されている領域RA1乃至領域RA3が設けられている。領域RA1、RA2、RA3は、各々、第1領域、第2領域、第3領域である。具体的には、領域RA1から領域RA3へと向かうにつれて、各領域での第1質量部34と第1固定電極24との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差が設けられている。例えば
図2~
図4に示すように、領域RA1、RA2、RA3でのギャップ距離を、各々、ha1、ha2、ha3とした場合に、ha1<ha2<ha3の関係が成り立っている。ギャップ距離の一例としては、例えばha1は1.3μm程度であり、ha2は1.8μm程度であり、ha3は2.3μm程度である。
【0030】
同様に、第2質量部35の第1面6には、空隙を隔てて第2固定電極25と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に領域RB1から領域RB3へと配置されている領域RB1乃至領域RB3が設けられている。具体的には、領域RB1から領域RB3へと向かうにつれて、各領域での第2質量部35と第2固定電極25との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差が設けられている。例えば
図2~
図4に示すように、領域RB1、RB2、RB3でのギャップ距離を、各々、hb1、hb2、hb3とした場合に、hb1<hb2<hb3の関係が成り立っている。
【0031】
なお
図2~
図4では、領域の数は3つとなっているが、領域の数は2つあってもよいし、4つ以上であってもよい。即ち、第1質量部34の第1面6には、空隙を隔てて第1固定電極24と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に、領域RA1から領域RAnへと配置されている領域RA1乃至領域RAnが設けられている。領域RA1は第1領域であり、領域RAnは第n領域である。またnは2以上の整数である。具体的には、領域RA1から領域RAnへと向かうにつれて、各領域での第1質量部34と第1固定電極24との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差が設けられている。例えばi、jを、1≦i<j≦nを満たす整数とした場合に、領域RAiでの第1固定電極24との間のギャップ距離は、領域RAjでのギャップ距離よりも小さくなっている。同様に第2質量部35の第1面6には、空隙を隔てて第2固定電極25と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸AYから近い順に、領域RB1から領域RBnへと配置されている領域RB1乃至領域RBnが設けられている。具体的には、領域RB1から領域RBnへと向かうにつれて、各領域での第2質量部35と第2固定電極25との間のギャップ距離が大きくなるように、第1面6において各領域間に段差が設けられている。例えば領域RBiでの第2固定電極25との間のギャップ距離は、領域RBjでのギャップ距離よりも小さくなっている。
【0032】
以上のように本実施形態の物理量センサー1では、可動体3の下面側である第1面6に、段差となる端部EA1~EA3、EB1~EB3を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成している。このようにすれば、回転軸AYに近い領域RA1、RB1でのギャップ距離ha1、hb1を小さくすることが可能になる。これにより、回転軸AYに近い領域RA1、RB1での空隙の狭ギャップ化を実現できるため、物理量センサー1の高感度化を実現できる。
【0033】
このように本実施形態では、可動体3の下面側である第1面6に段差を設けることにより高感度化を実現しているが、段差の配置等が適切ではないと、可動電極である可動体3と第1固定電極24や第2固定電極25とが貼り付いてしまうスティッキング等の不具合が発生してしまう。そこで本実施形態では、このようなスティッキング等の不具合の発生を抑制するために以下に説明するような手法を採用する。
図5は本実施形態の手法の説明図である。なお以下では第1質量部34に対して本実施形態の手法を適用した場合について主に例にとり説明する。第2質量部35に対しては、第1質量部34の場合と同様の手法を適用できるため、詳細な説明は省略する。
【0034】
例えば領域RA1乃至領域RAnの回転軸から遠い側の端部を、端部EA1乃至EAnとする。領域RA1乃至領域RAnは第1領域乃至第n領域であり、端部EA1乃至EAnは第1端部乃至第n端部である。n=3である
図5を例にとれば、領域RA1乃至領域RA3の回転軸AYから遠い側の端部を、端部EA1乃至端部EA3とする。端部EA1、EA2、EA3は領域間の段差を形成している。
【0035】
またY軸方向からの断面視において、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態において、端部EA1乃至端部EAnのうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、X軸とのなす角θが最も小さい仮想直線を第1仮想直線VL1とする。ここで2つの端部を通る仮想直線は例えば2つの端部に接する仮想直線である。例えば端部EA1乃至端部EAnの中から2つの端部を選び、選ばれた2つの端部を通る仮想直線のうち、X軸とのなす角θが最も小さい仮想直線を第1仮想直線VL1とする。n=3である
図5を例にとれば、端部EA1乃至端部EA3のうちの端部EA1と端部EA2を通る仮想直線が、X軸とのなす角θが最も小さいため、端部EA1と端部EA2を通る仮想直線が第1仮想直線VL1となる。可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態は、例えば可動体3の可動範囲のうち、可動体3が回転軸AY回りに最大の角度で揺動して変位した状態である。具体的には最大変位した状態は、ストッパー11、12により可動体3の回転が規制された状態である。なお
図5では、端部EA1と端部EA2を通る仮想直線が、X軸とのなす角θが最も小さいため、第1仮想直線VL1となっているが、本実施形態はこれに限定されない。例えば端部EA2と端部EA3を通る仮想直線が第1仮想直線VL1となってもよいし、端部EA1と端部EA3を通る仮想直線が第1仮想直線VL1となってもよい。また
図5は本実施形態の説明を簡素化するための模式図であり、第1仮想直線VL1とX軸とのなす角θは実際にはもっと小さい。
【0036】
また第1固定電極24の主面に沿う直線を第2仮想直線VL2とする。例えば
図5では、第1固定電極24の主面は、第1固定電極24の可動体3側の面である上面であり、当該上面に沿った直線が第2仮想直線VL2である。そして第1固定電極24の回転軸AYに最も近い端部EE1と交わり、Z軸に沿った直線を第1法線NL1とする。また第1固定電極24の回転軸AYに最も遠い端部EE2と交わり、Z軸に沿った直線を第2法線NL2とする。例えば
図1や
図3に示すように、第1固定電極24の回転軸AYに最も近い端部は、
図1のB-B断面図である
図3における第1固定電極24の端部EE1である。また
図1や
図4に示すように、第1固定電極24の回転軸AYに最も遠い端部は、
図1のC-C断面図である
図4における第1固定電極24の端部EE2である。従って、回転軸AYから最も近い第1固定電極24の端部EE1を通り、Z軸に沿った直線が第1法線NL1となり、回転軸AYから最も遠い第1固定電極24の端部EE2を通り、Z軸に沿った直線が第2法線NL2となる。
【0037】
そして本実施形態では
図5に示すように、第1法線NL1と第2法線NL2との間の領域RN12において、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しない。即ち第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しないように、可動体3の下面の段差となる端部EA1、EA2、EA3が設定されている。このように、可動体3の下面の段差を形成する端部EA1と端部EA2を通る第1仮想直線VL1と、第1固定電極24の主面に沿った第2仮想直線VL2とが、可動体3が最大変位した状態で、領域RN12において交差しないことにより、可動体3と第1固定電極24とのスティッキングを抑制できるようになる。即ち、領域RN12は、第1固定電極24の端部のうち、回転軸AYから最も近い端部EE1と回転軸AYから最も遠い端部EE2との間の範囲の領域である。従って、この領域RN12において、端部EA1と端部EA2を通る第1仮想直線VL1と、第1固定電極24の主面に沿った第2仮想直線VL2とが交差しないということは、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した場合にも、可動体3と第1固定電極24が接触しないことや、可動体3と第1固定電極24が極めて短い距離で接近しないことが保証されるようになる。従って、可動体3と第1固定電極24とのスティッキングを抑制することが可能になる。そして、領域RN12において第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しないことにより、スティッキングの発生を抑制しつつ、可動体3の下面を全体的に基板2側に寄せて配置できる。そのため、可動体3の下面と基板2との平均離間距離を小さくし、静電容量Caを大きくすることができるため、物理量センサー1の高感度化を実現できるようになる。
【0038】
例えば
図6は、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN12において交差している場合の例である。なおここでは説明の簡素化のために、可動体3の下面に、段差を形成する2つの端部EA1、EA2が設けられる場合の例を示している。
図6のように、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN12において交差していると、例えば可動体3の下面の端部EA2が第1固定電極24に接触してしまうなどの不具合が発生する。このような不具合が発生すると、物理量センサー1が正常に動作しなくなってしまう。この点、本実施形態では、
図5のように、可動体3が最大変位した状態においても、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN12において交差しないため、このような不具合の発生を抑制できる。
【0039】
以上のように本実施形態の物理量センサー1では、可動体3の下面側である第1面6に段差となる端部EA1~EA3、EB1~EB3を設けることにより、高感度化を実現している。ここで回転軸AYに近い領域RA1、RB1でのギャップ距離ha1、hb1を小さくしている理由は、回転軸AYから遠い領域RA3、RB3と比較して、可動体3の揺動時におけるZ軸方向の変位が小さく、接触しづらいことを利用し、より狭ギャップ化することにより、静電容量を大きくすることができ、高感度化を実現することが可能となるためである。即ち、可動体3の揺動時におけるZ軸方向の変位は、回転軸AYからの距離に比例する。このため、回転軸AYに近い領域RA1、RB1では、可動体3の揺動時におけるギャップ距離ha1、hb1に対するZ軸方向の変位が小さくなるため、第1固定電極24、第2固定電極25に接触しづらい。従って、領域RA1の第1面6と第1固定電極24との間の空隙や、領域RB1の第1面6と第2固定電極25との間の空隙を、狭ギャップ化することが可能になる。このように領域RA1、RB1での空隙を狭ギャップ化することにより、静電容量を大きくすることができ、物理量センサー1の感度は、静電容量が大きくなるほど高くなるため、高感度化を実現できるようになる。このように高精度化が実現されることで、低ノイズ化を実現でき、高精度な物理量センサー1の提供が可能になる。一方、回転軸AYから遠い領域RA3、RB3でのギャップ距離ha3、hb3を大きくすることにより、領域RA3、RB3での第1固定電極24、第2固定電極25との接触を抑制することができるようになり、可動体3の可動範囲を拡大できるようになる。
【0040】
例えば前述した特許文献1では、基板側に段差を設けることにより、ギャップ距離が異なる複数の空隙を形成しているが、基板の段差上に電極や配線を設けるため、プロセスリスクとして断線や短絡が発生しやすいという問題がある。この点、本実施形態では、可動体3側に段差となる端部EA1~EA3、EB1~EB3を設けて、ギャップ距離が異なる複数の空隙を形成しているため、このような断線や短絡などの問題が発生するのを抑制できる。これにより製造プロセスリスクを非常に小さくすることができ、歩留まりを向上でき、物理量センサー1の低コスト化を実現できる。
【0041】
また本実施形態では、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態において、
図5に示すように、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2は領域RN12において交差しない。このように、可動体3が最大変位したときに第1固定電極24等に接触しないように段差を規定することにより、高感度化を最大限生かしつつ、可動体3の下面と第1固定電極24等との接触によるスティッキングを抑制できる。即ち、物理量センサー1の高感度化とスティッキングの抑制とを両立して実現することができ、長期に渡り信頼性の高い物理量センサー1の提供が可能になる。
【0042】
また本実施形態では、第1質量部34の領域RA1乃至領域RAnは、第1領域である領域RA1から第n領域である領域RAnの順で、第1固定電極24との間のギャップ距離が大きくなっている。同様に第2質量部35の領域RB1乃至領域RBnは、領域RB1から領域RBnの順で、第2固定電極25との間のギャップ距離が大きくなっている。
図2~
図4を例にとれば、領域RA1、RA2、RA3でのギャップ距離ha1、ha2、ha3については、ha1<ha2<ha3の関係が成り立つ。同様に領域RB1、RB2、RB3でのギャップ距離hb1、hb2、hb3については、hb1<hb2<hb3の関係が成り立つ。
【0043】
このように回転軸AYから近い領域RA1、RB1でのギャップ距離ha1、hb1を小さくなることにより、領域RA1、RB1での空隙を狭ギャップ化することが可能になる。そして領域RA1、RB1での空隙を狭ギャップ化することにより、静電容量を大きくすることができ、物理量センサー1の感度は、静電容量が大きくなるほど高くなるため、高感度化を実現できるようになる。一方、回転軸AYから遠い領域RA3、RB3でのギャップ距離ha3、hb3を大きくすることにより、領域RA3、RB3での第1固定電極24、第2固定電極25との接触を抑制できるようになり、可動体3の可動範囲を拡大できるようになる。
【0044】
なお
図1~
図5では、第1質量部34に対して、領域RA1乃至領域RAnとして3つの領域RA1~RA3を設ける場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されない。第1質量部34に設ける領域の数は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。即ちn=2であってもよいし、n≧4であってもよい。第2質量部35に設けられる領域RB1乃至領域RBnについても同様である。例えば、領域の数を多数にすることで、第1質量部34や第2質量部35の下面にスロープを設けた場合と同様の効果を得ることが可能になる。即ち、回転軸AYから近い位置から遠い位置までの間の各位置において、静電容量の電極間ギャップの変化を、より一様にすることが可能となり、更なる高感度化の実現が可能になる。
【0045】
また可動体3は、回転軸AY回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部36を含む。例えば第1質量部34のX軸方向プラス側に、第3質量部であるトルク発生部36が設けられる。そしてトルク発生部36と基板2とのギャップ距離htは、第n領域である領域RAnと第1固定電極24との間のギャップ距離ha3よりも大きい。なお具体的には、ギャップ距離htは、トルク発生部36と基板2に形成されたダミー電極26aとの離間距離である。例えば
図2~
図4において、第n領域である領域RAnは領域RA3であり、トルク発生部36と基板2とのギャップ距離htは、領域RA3と第1固定電極24との間のギャップ距離ha3よりも大きい。またトルク発生部36と基板2とのギャップ距離htは、領域RB3と第2固定電極25との間のギャップ距離hb3よりも大きい。例えば
図2~
図4では、基板2を深掘りすることで、凹部21よりもZ軸方向での高さが低い凹部21aを形成することで、トルク発生部36と基板2との間のギャップ距離htを拡大している。これにより、ダンピングの低減化や、ダミー電極26aとの接触による貼り付き防止や、可動体3の可動範囲の拡大を実現できる。
【0046】
またトルク発生部36のZ軸方向での厚みttは、可動体3の領域RAnのZ軸方向での厚みtnよりも大きい。即ち
図2~
図4に示すように、トルク発生部36の厚みttは、可動体3の領域RAnである領域RA3の厚みtnよりも大きい。このようにトルク発生部36の厚みttを大きくすることで、第3質量部であるトルク発生部36の質量を増加させることが可能になる。これにより可動体3のシーソー揺動の際のトルク発生部36での回転トルクを、より大きくできるため、更なる高感度化を実現できる。また回転軸AYから遠い領域RA3での可動体3の厚みtnを小さくすることで、領域RA3での下面の位置が上方に位置するようになり、第1固定電極24とのギャップ距離ha3を大きくできる。これにより可動体3の可動範囲の拡大等を実現できる。
【0047】
なおトルク発生部36の厚みttを、固定部32a、32bや支持梁33の厚みより大きくしてもよい。このようにすれば、可動体3を回転させるための、より大きなトルクを発生させることが可能になり、更なる高感度化を実現できるようになる。
【0048】
また本実施形態の物理量センサー1は、可動体3は、Z軸方向からの平面視において、第1質量部34に対して回転軸AYを挟んで設けられている第2質量部35を含む。例えば回転軸AYからX軸方向プラス側に第1質量部34が配置され、回転軸AYからX軸方向マイナス側に第2質量部35が配置される。これらの第1質量部34、第2質量部35は、例えば回転軸AYを対称軸として対称配置される。また基板2には、第2質量部35に対向している第2固定電極25が設けられており、第1固定電極24と第2固定電極25は、回転軸AYに対して対称に配置されている。なお対称は略対称を含むものとする。
【0049】
このように、回転軸AYを挟んで第1質量部34、第2質量部35を設けると共に、第1質量部34に対向する第1固定電極24と、第2質量部35に対向する第2固定電極25を、回転軸AYに対して対称に配置することで、シーソー揺動型の物理量センサー1を実現できるようになる。そしてZ軸方向の加速度が加わっていない自然状態において、
図2の静電容量Ca、Cbを等しくすることが可能になる。一方、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態において、
図5に示すように、領域RN12において第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しないことで、高感度化を実現しながらスティッキングを抑制できるようになる。
【0050】
また本実施形態では第2質量部35の領域RB1、RB2、RB3においても、
図5と同様の関係が成り立つ。例えばY軸方向からの断面視において、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態において、端部EB1乃至端部EBnのうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、X軸とのなす角が最も小さい仮想直線を第3仮想直線とし、第2固定電極25の主面に沿う直線を第4仮想直線とする。また第2固定電極25の回転軸AYに最も近い端部と交わり、Z軸に沿った直線を第5法線とし、第2固定電極25の回転軸AYに最も遠い端部と交わり、Z軸に沿った直線を第6法線とする。このときに、第5法線と第6法線との間の領域において、第3仮想直線と第4仮想直線が交差しないという関係が成り立つ。
【0051】
また
図3に示すように、本実施形態の物理量センサー1は、回転軸AYを中心とする可動体3の回転を規制するストッパー11、12を含む。
図3では、ストッパー11、12は、基板2に設けられた突起部により実現されている。なお、このような突起部ではなく、段差の端部などによりストッパーを実現してもよい。ストッパー11、12は、可動体3に過度なシーソー揺動が生じた際に、その頂部が可動体3と接触することにより、可動体3のそれ以上のシーソー揺動を規制する。このようなストッパー11、12を設けることにより、互いに電位が異なる可動体3と第1固定電極24及び第2固定電極25との過度な近接を防ぐことができる。一般に、電位が異なる電極間には静電引力が発生するため、過度な近接が起こると、可動体3と第1固定電極24や第2固定電極25との間に生じる静電引力によって、可動体3が第1固定電極24や第2固定電極25に引き付けられたまま戻らなくなるスティッキングを引き起こす。このような状態では物理量センサー1は、正常な動作をしなくなってしまうため、ストッパー11、12を設け、過度な近接が発生しないようにしている。
【0052】
また可動体3と第1固定電極24及び第2固定電極25とは異なる電位を有しているため、
図3に示すように、ストッパー11、12の頂部には、短絡を防ぐための保護膜としての電極27a、27cが、当該頂部を覆うように形成されている。具体的には
図1、
図3に示すように、ダミー電極26aからX軸方向マイナス側に、電極27aが引き出されて、引き出された電極27aの先端部がストッパー11の頂部を覆うように設けられている。またダミー電極26cからX軸方向プラス側に電極27cが引き出されて、引き出された電極27cの先端部がストッパー12の頂部を覆うように設けられている。そしてダミー電極26a、26cは可動体3と同電位に設定されているため、可動体3が、ストッパー11、12の頂部を覆う電極27a、27cに接触した場合にも、短絡が防止されるようになる。
【0053】
なおストッパー11、12の頂部に、短絡防止用の酸化シリコン、窒化シリコン等の絶縁層を設けたり、異電位の電極を設けるなどの変形実施も可能である。また
図3ではストッパー11、12が基板2に設けられているが、回転軸AYを中心とする可動体3の回転を規制するストッパーを、可動体3に設けたり、蓋部5に設けるなどの種々の変形実施も可能である。例えばストッパーを可動体3に設ける場合には、基板2におけるストッパーの直下のエリアに、ダミー電極を設ける構造としてもよい。
【0054】
また可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態は、例えばストッパー11、12により可動体3の回転が規制された状態である。例えば
図5では、ストッパー11の頂部が可動体3の下面に接触することで、可動体3の回転が規制された状態になっている。このようにストッパー11、12により可動体3の回転が規制された状態が、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態である。そして、このようにストッパー11、12により可動体3の回転が規制された状態のときに、本実施形態では
図5に示すように、領域RN12において第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しないという条件が成り立っており、これにより、高感度化を実現しながらスティッキングを抑制できるようになる。
【0055】
なお可動体3の回転軸AY回りの回転を、基板2に設けられた突起部であるストッパー11、12以外の部材又は構造により規制することも可能である。この場合には、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態は、当該部材又は構造により可動体3の回転が規制された状態である。
【0056】
またストッパー11、12は可動体3と同電位になっている。即ち、前述したように、支持梁33の下方に設けられるダミー電極26bは、可動電極である可動体3に電気的に接続されている。またダミー電極26a、26b、26cは、不図示の配線により電気的に接続されている。従って、ダミー電極26a、26b、26cは可動体3と同電位になる。一方、
図3で説明したように、ストッパー11、12の頂部には、ダミー電極26a、26cから引き出された電極27a、27cが、当該頂部を覆うように形成されており、ストッパー11、12はダミー電極26a、26b、26cと同電位になる。従って、ストッパー11、12は可動体3と同電位になる。このようにストッパー11、12と可動体3が同電位になることにより、異電位による不要な静電力が働かなくなるため、スティッキングを、より抑制できるようになる。また
図5のようにストッパー11、12の頂部が可動体3の接触した場合にも、短絡が防止されるようになる。
【0057】
また物理量センサー1は、基板2の第1固定電極24が配置されていない領域であって、可動体3と対向する領域に配置され、可動体3と同電位であるダミー電極26a、26b、26cを含む。即ち上述のように、ダミー電極26bが可動体3に電気的に接続され、ダミー電極26a、26b、26cは不図示の配線により電気的に接続されているため、可動体3とダミー電極26a、26b、26cは同電位になる。また
図2~
図4に示すように、ダミー電極26a、26b、26cは、基板2の第1固定電極24が配置されていない領域であって、可動体3と対向する領域に配置されている。より具体的にはダミー電極26a、26b、26cは、基板2の第1固定電極24及び第2固定電極25が配置されていない領域に配置されている。このように可動体3と対向する領域のうち、第1固定電極24や第2固定電極25が配置されていない領域にダミー電極26a、26b、26cが配置されることにより、基板2の表面の露出を抑制できる。従って、基板面露出による帯電ドリフトや可動体形成後の陽極接合時の貼り付きなどを防止することが可能になる。そしてダミー電極26a、26b、26cが可動体3と同電位になることで、可動体3がダミー電極26a、26b、26cに接触するような状況が発生した場合にも、短絡を防止できるようになる。
【0058】
また
図1に示すように可動体3には、Z軸方向に貫通している貫通孔群70が設けられている。例えば
図1では、正方形の複数の貫通孔により構成される貫通孔群70が可動体3に設けられている。なお貫通孔の開口形状は正方形には限定されず、正方形以外の多角形や、円形であってもよい。このように可動体3に貫通孔群70を設けることで、可動体3が回転軸AY回りに揺動する際の空気のダンピングを低減できるようになる。そしてダンピングが低減されることで、物理量センサー1を、広い周波数範囲で動作させることが可能になる。なお
図1では貫通孔群70の貫通孔の開口面積は一様になっているが、後述するように回転軸AYから遠い領域では、回転軸AYから近い領域に比べて、貫通孔の開口面積を大きくすることが望ましい。
【0059】
また第1質量部34と第1固定電極24との間のギャップ距離ha1、ha2、ha3は、例えば4.5μm以下である。即ち、ha1<ha2<ha3≦4.5μmの関係が成り立つ。更に好ましくは、第1質量部34と第1固定電極24との間のギャップ距離ha1、ha2は、4.1μm以下であることが望ましい。同様に第2質量部35と第2固定電極25との間のギャップ距離hb1、hb2、hb3も、例えば4.5μm以下であり、更に好ましくは4.1μm以下であることが望ましい。このようにギャップ距離が十分に小さくなることで、静電容量Ca、Cbが十分に大きくなり、物理量センサー1の検出感度を十分に高めることが可能になる。そして、このようにギャップ距離を十分に小さくした場合にも、本実施形態では
図5で説明したように、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN12において交差しないという関係が成り立つため、スティッキングの発生も抑制できる。従って、スティッキングの抑制と高感度化を両立して実現できる物理量センサー1の提供が可能になる。
【0060】
また第1仮想直線VL1とX軸とのなす角θは、例えば0.7°以下である。更に好ましくは、第1仮想直線VL1とX軸とのなす角θは、例えば0.3°以下であることが望ましい。例えば第2仮想直線VL2はX軸方向に沿った直線であり、第1仮想直線VL1とX軸とのなす角θは、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2のなす角と言うこともできる。
【0061】
例えば本実施形態では、可動体3が回転軸AY回りに最大変位した状態において、端部EA1~EAnのうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、X軸とのなす角θが最も小さい仮想直線を第1仮想直線VL1としている。この第1仮想直線VL1は、可動体3の下面をスロープと見なした場合の当該スロープに沿った直線と言うことができる。そして、スティッキングを抑制しながら、感度を最大限に高めるためには、可動体3が最大変位した状態において、当該スロープに対応する第1仮想直線VL1と、基板2の第1固定電極24の主面に沿った第2仮想直線VL2とが、なるべく平行に近づくことが望ましい。例えば第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2とが平行になったり、限りになく平行に近づけば、スティッキングが発生しない限界まで、可動体3と第1固定電極24を近づけることで、物理量センサー1の感度を最大限に高めることが可能になるからである。従って、第1仮想直線VL1とX軸とのなす角θを、例えば0.7°以下というように十分に小さくして、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2をなるべく平行に近づけることで、スティッキングを抑制しながら、物理量センサー1の感度を十分に高めることが可能になる。
【0062】
次に本実施形態の物理量センサー1の製造方法について説明する。本実施形態の物理量センサー1は、基板形成工程と、固定電極形成工程と、基板接合工程と、可動体形成工程と、封止工程を含む製造方法により製造できる。基板形成工程では、例えばガラス基板をフォトリソグラフィー工程及びエッチング工程によりパターニングすることで、可動体3を支持するためのマウント部22a、22bやストッパー11、12等が形成された基板2を形成する。固定電極形成工程では、基板2上に導電膜を形成して、導電膜をフォトリソグラフィー工程及びエッチング工程によりパターニングして、第1固定電極24、第2固定電極25などの固定電極を形成する。基板接合工程では、基板2とシリコン基板を陽極接合等により接合する。可動体形成工程では、シリコン基板を所定の厚さに薄膜化し、シリコン基板をフォトリソグラフィー工程及びエッチング工程によりパターニングすることで、可動体3を形成する。この場合に深堀エッチング技術であるボッシュ・プロセスなどを用いる。封止工程では、基板2に蓋部5を接合し、基板2と蓋部5により形成される空間に可動体3が収納される。
【0063】
なお本実施形態における物理量センサー1の製造方法は、上記のような製造方法には限定されず、例えば犠牲層を用いる製造方法などの種々の製造方法を採用できる。犠牲層を用いる製造方法では、犠牲層を形成させたシリコン基板と、支持基板である基板2とを、犠牲層を介して接合し、犠牲層に可動体3が揺動可能なキャビティーを形成する。具体的には、シリコン基板に可動体3を形成させた後、シリコン基板と基板2とに挟まれた犠牲層をエッチングして除去することでキャビティーを形成して、基板2から可動体3をリリースする。本実施形態では、このような製造方法により、基板2と可動体3を有する物理量センサー1を形成してもよい。
【0064】
また可動体3の下面の段差は、例えば次のような製造プロセスにより形成できる。例えば構造体である可動体3の裏面となるシリコン基板の裏面側に、SiO2等のハードマスクを成膜する。そしてフォトリソグラフィー工程により段差の形成箇所を開口したパターンを、ハードマスクにより形成する。そしてドライエッチング工程又はウエットエッチング工程により、所望の高さの段差を形成する。複数の段差を形成する場合は、上記した製造工程を繰り返すか、或いは所望の高さの段差になるように1回ではなく複数回のエッチング工程により、段差を形成してもよい。
【0065】
或いは、可動体3となるシリコン基板自体を加工して段差を形成するのではなく、
図7に示すように、可動体3の裏面側である下面側に、金属膜又は絶縁膜等の薄膜91、92を形成することにより、
図2~
図4の端部EA1、EA2に相当する段差93、94を形成するようにしてもよい。
【0066】
2.第2実施形態
図8は、第2実施形態の物理量センサー1の説明図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
図8に示すように、Y軸方向からの断面視において、回転軸AYと交わり、Z軸に沿った直線を第3法線NL3とする。また可動体3の端部と交わり、Z軸に沿った直線を第4法線NL4とする。
図8では可動体3の端部は、X軸方向プラス側の端部であり、トルク発生部36の端部である。そして
図8に示すように、第3法線NL3と第4法線NL4との間の領域RN34において、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しない。
【0067】
このように
図5の領域RN12よりも広い
図8の領域RN34において、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が交差しないことで、
図5の第1実施形態に比べて、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2がより平行に近づくことを保証できるようになる。従って、可動体3が最大変位したときに、可動体3の下面と第1固定電極24との距離を、
図5の第1実施形態よりも広くすることが可能になる。この結果、可動体3と第1固定電極24との接触はもちろん、異電位の可動体3と第1固定電極24の間で発生する静電力に起因したスティッキングも更に抑制できるため、信頼性が更に高い物理量センサー1を提供することが可能になる。
【0068】
例えば
図9は、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN34において交差している場合の例である。
図9のように、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN34において交差していると、例えば可動体3の下面の端部EA2が第1固定電極24に接触してしまうなどの不具合が発生する。このような不具合が発生すると、物理量センサー1が正常に動作しなくなってしまう。この点、本実施形態では、
図8のように、可動体3が最大変位した状態においても、第1仮想直線VL1と第2仮想直線VL2が領域RN34において交差しないため、このような不具合の発生を抑制できる。
【0069】
3.第3実施形態
図10は、第3実施形態の物理量センサー1の平面図であり、
図11は、
図10のA-A線における断面図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。第1実施形態では、
図3に示すように基板2に対して、突起部により実現されるストッパー11、12が設けられている。これに対して
図10、
図11の第3実施形態では、可動体3にストッパー13が設けられている。具体的にはストッパー13は、可動体3の端部の側面から例えばX軸方向に沿って突出する凸形状の突起部により実現される。具体的には
図10、
図11では、可動体3の第2質量部35の端部の側面から、X軸方向マイナス側に突出する2つの突起部によりストッパー13が実現されている。そして
図11に示すように、ストッパー13のZ軸方向マイナス側である直下には、ダミー電極26cが設けられている。そしてストッパー13がこのダミー電極26cに接触することで、可動体3の回転軸AYでの回転が規制される。このダミー電極26cは可動体3と同電位になっているため、接触時における短絡が防止される。
【0070】
このような可動体3の端部の側面の突起部によるストッパー13は、可動体3のパターニング時に同時に形成できる。従って、第1実施形態のような基板2に設けられた突起部によるストッパー11、12と比較して、製造プロセスの工程を簡略化でき、低コスト化等の実現が可能になる。
【0071】
なお図示はしていないが、可動体3の長手方向であるX軸方向での長さが、回転軸AYに対して対称である場合等には、可動体3の両側の端部の側面に突起部となるストッパーを設けてもよい。例えば可動体3のX軸方向マイナス側の端部の側面には、X軸方向マイナス側に突出する突起部を設け、可動体3のX軸方向プラス側の端部の側面には、X軸方向プラス側に突出する突起部を設けてもよい。また
図10、
図11では可動体3の側面に突起部を設けているが、可動体3の基板2側の面にストッパーとなる突起部を設けてもよい。或いは蓋部5の可動体3側の面にストッパーとなる突起部を設けてもよい。
【0072】
4.第4実施形態
図12は、第4実施形態の物理量センサー1の平面図であり、
図13は、
図12のA-A線における断面図であり、
図14は第4実施形態の物理量センサー1の斜視図である。ここでは第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0073】
第4実施形態では、第1領域である領域RA1に第1貫通孔群71が設けられている。また第1領域乃至第n領域である領域RA1乃至領域RAnのうちの第i領域に第2貫通孔群72が設けられている。ここでiは1<i≦nとなる整数である。
図12~
図14は、n=2、i=2の場合の例であり、第i領域である領域RA2に第2貫通孔群72が設けられている。なお、n=2には限定されず、n≧3であってもよい。例えば第1質量部34に領域RA1乃至RA3を設けてもよく、この場合には第i領域に設けられる第2貫通孔群72は、領域RA2又は領域RA3に設けられる貫通孔群である。
【0074】
そして
図13、
図14に示すように、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みよりも小さくなっている。このように第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の深さが小さくなることで、これらの貫通孔での孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1の低ダンピング化を実現できる。これにより、更なる高感度化と低ダンピング化とを両立して実現できる物理量センサー1の提供が可能になる。
【0075】
ここで第1貫通孔群71の貫通孔は、第1貫通孔群71を構成する貫通孔であり、第2貫通孔群72の貫通孔は、第2貫通孔群72を構成する貫通孔である。貫通孔のZ軸方向の深さは、Z軸方向での貫通孔の長さであり、貫通孔の厚みと言うこともできる。可動体3の最大厚みとは、可動体3においてZ軸方向での厚みが最も大きい場所での可動体3の厚みである。例えばシリコン基板をエッチング等によりパターニングして可動体3を形成する場合には、可動体3の最大厚みは、例えばパターニング前のシリコン基板の厚みと言うこともできる。具体的には可動体3の最大厚みは、固定部32a、32b及び支持梁33の少なくとも一方のZ軸方向での厚さである。例えば可動体3の最大厚みは、固定部32a、32bのZ軸方向での厚さ、或いは支持梁33のZ軸方向での厚さである。或いは固定部32a、32bと支持梁33の厚さが等しい場合には、可動体3の最大厚みは、固定部32a、32b及び支持梁33のZ軸方向での厚さである。このようにすれば、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔のZ軸方向での深さを、固定部32a、32b及び支持梁33の少なくとも一方のZ軸方向での厚さよりも小さくできる。これにより、貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1を、より広い周波数範囲で適正に動作させることが可能になる。
【0076】
また
図12~
図14では、領域RB1に第3貫通孔群73が設けられ、領域RB2に第4貫通孔群74が設けられている。そして第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みよりも小さくなっている。このように第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の深さが小さくなることで、これらの貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、物理量センサー1の低ダンピング化を実現できる。なお可動体3のトルク発生部36には第5貫通孔群75が設けられている。
【0077】
また第4実施形態では、第1実施形態と同様に、第1質量部34の下面である第1面6には、ギャップ距離ha1をギャップ距離ha2よりも小さくするための段差8が設けられている。この段差8は
図2の端部EA1に相当する。即ち第1質量部34は、基板2に設けられている第1固定電極24と対向しているが、領域RA1でのギャップ距離ha1が、領域RA2でのギャップ距離ha2よりも小さくなるように、第1質量部34の基板2側の面である第1面6に段差8が設けられている。このように段差8を設けて、ギャップ距離ha1を小さくすることで、第1質量部34の複数の領域のうち、回転軸AYから近い側の領域である領域RA1の狭ギャップ化を実現できるため、物理量センサー1の高感度化を実現できる。
【0078】
同様に、第2質量部35の下面である第1面6には、ギャップ距離hb1をギャップ距離hb2よりも小さくするための段差9が設けられている。この段差9は
図2の端部EB1に相当する。即ち第2質量部35は、基板2に設けられている第2固定電極25と対向しているが、領域RB1でのギャップ距離hb1が、領域RB2でのギャップ距離hb2よりも小さくなるように、第2質量部35の基板2側の面である第1面6に段差9が設けられている。このように段差9を設けて、ギャップ距離hb1を小さくすることで、第2質量部35の複数の領域のうち、回転軸AYから近い側の領域である領域RB1の狭ギャップ化を実現できるため、物理量センサー1の高感度化を実現できる。
【0079】
以上のように第4実施形態の物理量センサー1では、可動体3の下面側である第1面6に対して、端部である段差8、9を設けることにより、複数の電極間ギャップを形成すると共に、可動体3の貫通孔の深さを小さくすることにより、高感度化と低ダンピングを両立して実現している。
【0080】
なお高感度化を実現するためには、捻れバネである支持梁33のX軸方向での幅をなるべく小さくすることが望ましい。しかしながら、このように支持梁33の幅を小さくすると、支持梁の破損等の問題が発生するおそれがある。この点、本実施形態では、可動体3のY軸方向の幅方向に亘って、支持梁の両側に配置される固定部32a、32bが設けられている。固定部32aは第1固定部であり、固定部32bは第2固定部である。そして、これらの固定部32a、32bが基板2のマウント部22a、22bに固定されている。例えば可動体3のY軸方向での幅をWMとする。この場合に、固定部32a、32bの長辺方向であるY軸方向での幅WFが、例えばWM/2よりも長くなるように、支持梁33の両側に固定部32a、32bが設けられている。このように支持梁33の両側に、広い距離に亘って固定部32a、32bが設けられることで、物理量センサー1が衝撃を受けた場合にも、当該衝撃による支持梁33の破損等を抑制することが可能になる。例えば回転軸AYの直ぐ近くの場所では、加速度が作用したときに殆ど変位が生じないため、回転軸AYの直ぐ近くの場所に電極を形成しても、感度としてあまり寄与しない。そこで本実施形態では、このように感度に寄与しない回転軸AYの直ぐ近くの場所に、固定部32a、32bを設けて、支持梁33の破損等を防止しており、デッドスペースの有効利用を図っている。
【0081】
また
図12~
図14に示すように、第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積よりも大きい。同様に第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積は、第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きい。なお第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積と第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積は等しく、第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積と第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積は等しくなっている。ここで貫通孔群の貫通孔の開口面積とは、貫通孔群を構成する1つの貫通孔の開口面積である。このように、回転軸AYから遠い第2貫通孔群72や第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積を、回転軸AYから近い第1貫通孔群71や第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きくすることで、可動体3の低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサー1の低ダンピング化の実現が可能になる。
【0082】
更にトルク発生部36の領域に設けられる第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積よりも大きい。同様に第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積は、第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積よりも大きい。このように第1質量部34や第2質量部35よりも回転軸AYからの距離が遠いトルク発生部36での貫通孔の開口面積を大きくすることで、可動体3の低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサー1の更なる低ダンピング化の実現が可能になる。
【0083】
貫通孔の寸法は、ギャップ距離、貫通孔の深さ、貫通孔の寸法/孔端部間距離の比のパラメーターで決まるダンピングの最小条件近辺の値を採用できる。具体的には、各領域でサイズが異なる正方形の貫通孔が設けられており、例えば回転軸AYから近い領域RA1や領域RB1での貫通孔の開口面積は、一例としては5μm×5μm程度であり、回転軸AYから遠い領域RA2や領域RB2での貫通孔の開口面積は、一例としては8μm×8μm程度である。また回転軸AYから更に遠いトルク発生部36での貫通孔の開口面積は、一例としては20μm×20μm程度である。
【0084】
また第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72の貫通孔の深さは、可動体3のZ軸方向での最大厚みの50%未満である。例えばこれらの貫通孔の深さは、可動体3の最大厚みである固定部32a、32bや支持梁33の厚みの50%未満である。同様に第3貫通孔群73及び第4貫通孔群74の貫通孔の深さも、可動体3のZ軸方向での最大厚みの50%未満である。このように貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの半分未満にすることで、貫通孔の深さが可動体3の最大厚みと等しい場合と比べて、貫通孔の孔中ダンピングを十分に小さくすることができ、低ダンピング化を実現できるようになる。なお更に好ましくは、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの17%未満にすることが望ましい。これにより更なる低ダンピング化の実現が可能になる。
【0085】
また
図12~
図14に示すように本実施形態では、可動体3の第2面7には、第1貫通孔群71が底面に配置される第1凹部81が、領域RA1に設けられている。即ち第1質量部34の蓋部5側の面である第2面7には、Z軸方向マイナス側に窪む第1凹部81が領域RA1に設けられている。
図14に示すように、第1凹部81では、第1貫通孔群71の配置領域を囲むように複数の壁部、例えば4つの壁部が設けられ、これらの壁部により領域RA1での剛性が確保される。即ち、前述のように第1貫通孔群71の深さは、低ダンピング化のために可動体3の最大厚みよりも小さくなっている。このため、第1貫通孔群71の配置領域での可動体3の厚みが薄くなってしまい、剛性が弱くなることで、破損リスクが高まるおそれある。この点、
図12~
図14では、領域RA1を凹部形状とすることで、第1凹部81の縁部である壁部により、領域RA1での可動体3の剛性が高められ、破損リスク等を回避することが可能になる。
【0086】
同様に可動体3の第2面7には、第3貫通孔群73が底面に配置される第3凹部83が、領域RB1に設けられている。
図14に示すように、第3凹部83では、第3貫通孔群73の配置領域を囲むように複数の壁部が設けられ、これらの壁部により領域RB1での剛性が確保される。
【0087】
また
図12~
図14に示すように、可動体3の第2面7には、第2貫通孔群72が底面に配置される第2凹部82が、領域RA2に設けられている。即ち第1質量部34の蓋部5側の面である第2面7には、Z軸方向マイナス側に窪む第2凹部82が領域RA2に設けられている。
図14に示すように、第2凹部82では、第2貫通孔群72の配置領域を囲むように複数の壁部、例えば4つの壁部が設けられ、これらの壁部により領域RA2での剛性が確保される。同様に可動体3の第2面7には、第4貫通孔群74が底面に配置される第4凹部84が、領域RB2に設けられている。
図14に示すように、第4凹部84では、第4貫通孔群74の配置領域を囲むように複数の壁部が設けられ、これらの壁部により領域RB2での剛性が確保される。
【0088】
なお第2凹部82及び第4凹部84の深さは、第1凹部81及び第3凹部83の深さよりも浅くなっている。こうすることで、領域RA1、RB1でのギャップ距離ha1、hb1を、領域RA2、RB2でのギャップ距離ha2、hb2よりも小さくしながら、可動体3の第2面7に第1凹部81、第2凹部82、第3凹部83、第4凹部84を形成できるようになる。
【0089】
また本実施形態では、可動体3に第1凹部81~第4凹部84を形成することによって、貫通孔の深さである貫通孔の厚みを薄くしていたが、同時に貫通孔の端部間、つまり隣り合う貫通孔同士の間の領域の厚みも薄くなってしまう。そして当該領域に、例えば下部のストッパー11、12が接触することを考えると、構造体の強度的に不利になってしまう。そこでストッパー11、12が接触する領域においては、可動体3の厚みを厚くすることが望ましい。例えばZ軸方向での平面視において領域RA1にストッパー11が設けられる場合には、この領域RA1のうち、少なくともストッパー11が接触する領域において可動体3の厚みを厚くする。またZ軸方向での平面視において領域RB1にストッパー12が設けられる場合には、この領域RB1のうち、少なくともストッパー12が接触する領域において可動体3の厚みを厚くする。
【0090】
次に、貫通孔の設計について具体的に説明する。貫通孔は、可動体3が揺動する際の気体のダンピングをコントロールするために設けられている。このダンピングは、貫通孔内を通過する気体の孔中ダンピングと、可動体3と基板2との間でのスクイズフィルムダンピングとにより構成されている。
【0091】
貫通孔を大きくするほど、貫通孔内を気体が通り易くなるため、孔中ダンピングを低減できる。また貫通孔の占有率を高くするほど、可動体3と基板2の実質的な対向面積が減少するため、スクイズフィルムダンピングを低減できる。しかし、貫通孔の占有率を高くすると、可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積の減少と、トルク発生部36の質量の低下が生じるため、加速度の検出の感度が低下する。反対に、貫通孔を小さくするほど、即ち占有率を低くするほど、可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積が増加し、トルク発生部36の質量が増加するため、加速度の検出の感度は向上するが、ダンピングが増大してしまう。このように、検出感度とダンピングとは、トレードオフの関係にあるため、これらを両立することが極めて困難であった。
【0092】
このような問題に対して、本実施形態では、貫通孔の設計を工夫することにより、高感度化と低ダンピング化の両立を図っている。なお物理量センサー1の検出の感度は、(A)可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との離間距離であるギャップ距離をhとしたときの1/h2、(B)可動体3と第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積、(C)支持梁33のばね剛性、及び、(D)トルク発生部36の質量に比例する。物理量センサー1では、まずダンピングを無視した状態で、目的とする感度を得るために必要な、第1固定電極24、第2固定電極25との対向面積やギャップ距離等を決定する。言い換えると貫通孔の占有率を決定する。これにより、必要な大きさの静電容量Ca、Cbが形成され、物理量センサー1は、十分な感度を得られる。
【0093】
第1質量部34や第2質量部35での複数の貫通孔の占有率としては、特に限定されないが、例えば、75%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、82%以上であることが更に好ましい。これにより、高感度化と低ダンピング化の両立が図り易くなる。
【0094】
このように、貫通孔の占有率を決定した後に、例えば領域RA1、RA2等の各領域ごとに、ダンピングについての設計を行う。感度を変えずにダンピングを最小にする新たな技術思想として、物理量センサー1では、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差がなるべく小さくなるように、好ましくは、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しくなるように複数の貫通孔を設計している。このように、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとの差をなるべく小さくすることにより、ダンピングを低減することができ、孔中ダンピングとスクイズフィルムダンピングとが等しい場合に、ダンピングが最小となる。これにより、感度を十分に高く維持しつつ、ダンピングを効果的に低減することが可能になる。
【0095】
なお、各領域におけるダンピング設計の方法は、互いに同様であるため、以下では、領域RA1のダンピング設計について代表して説明し、他の領域でのダンピング設計については、その説明を省略する。
【0096】
領域RA1に配置されている貫通孔のZ軸方向の長さをH(μm)とし、第1質量部34の領域RA1のY軸方向に沿った長さの1/2の長さをa(μm)とし、第1質量部34の領域RA1のX軸方向に沿った長さをL(μm)とする。また、領域RA1の空隙でのギャップ距離であるZ軸方向の長さをh(μm)とし、領域RA1に配置されている貫通孔の一辺の長さをS0(μm)とし、隣り合う貫通孔の端部間距離をS1(μm)とし、領域RA1の空隙内にある気体、即ち収納空間SA内に充填されている気体の粘性係数である粘性抵抗をμ(kg/ms)とする。この場合に、領域RA1に生じるダンピングをCとしたとき、Cは、下式(1)で表される。なお、X軸方向において隣り合う貫通孔同士の間隔と、Y軸方向において隣り合う貫通孔同士の間隔とが異なる場合は、S1は、それらの平均値とすることができる。
【0097】
【数1】
上式(1)で用いられるパラメーターは、下式(2)~(8)で表される。
【0098】
【数2】
ここで、上式(1)に含まれる孔中ダンピング成分は、下式(9)で表され、スクイズフィルムダンピング成分は、下式(10)で表される。
【0099】
【数3】
従って、上式(9)と上式(10)が等しくなる、つまり下式(11)を満たすH、h、S0、S1の寸法を用いることにより、ダンピングCが最小となる。即ち、下式(11)はダンピングを最小にする条件式である。
【0100】
【数4】
ここで、上式(11)を満足する貫通孔の一辺の長さS0をS0minとし、隣り合う貫通孔同士の間隔S1をS1minとし、これらS0minおよびS1minを上式(1)に代入したときのダンピングCであるダンピングCの最小値をCminとする。物理量センサー1に求められる精度にもよるが、H、hを一定としたときのS0、S1の範囲が下式(12)を満たすことにより、十分にダンピングを低減できる。即ち、ダンピングの最小値Cmin+50%以内のダンピングであれば、十分にダンピングを低減することができるため、所望の周波数帯域内での検出の感度の維持を可能とし、ノイズを低減することができる。
【0101】
C≦1.5×Cmin (12)
なお、下式(13)を満たすことが好ましく、下式(14)を満たすことがより好ましく、下式(15)を満たすことが更に好ましい。これにより、上述の効果をより顕著に発揮することができる。
【0102】
C≦1.4×Cmin (13)
C≦1.3×Cmin (14)
C≦1.2×Cmin (15)
【0103】
図15は、貫通孔の一辺の長さS0とダンピングとの関係を示すグラフである。ここでは、H=30um、h=2.3um、a=217.5um、L=785umとしている。また感度が一定となるようにS1/S0比は1とした。これは、S0の大きさを変えても開口率は変わらないということを示す。即ち、S1/S0比を1にすることで、S0の大きさを変えても開口率は変わらず、対向面積が変わらないことから、形成される静電容量は変わらず、感度が維持される。従って、感度を維持しながら、ダンピングが最小となるS0が存在することになる。なお開口率は、例えば領域の面積に対する、当該領域に配置される複数の貫通孔の開口面積の総和が占める率と言うことができる。
【0104】
図15のグラフから、上式(1)のダンピングは、上式(9)の孔中のダンピングと、上式(10)のスクイズフィルムダンピングに分離でき、S0がS0minより小さい領域では孔中ダンピングが支配的であり、S0がS0minより大きい領域ではスクイズフィルムダンピングが支配的であることが分かる。上式(12)を満足するS0は、
図15に示すように、S0minよりも小さい側のS0’からS0minよりも大きい側のS0”までの範囲となる。S0minからS0’の範囲は、S0minからS0”の範囲と比較すると、S0の寸法ばらつきに対するダンピングの変化が大きいために寸法精度が要求されるため、寸法精度が緩和できるS0minからS0”までの範囲でS0を採用するのが望ましい。上式(13)~(15)を満たす場合についても同様である。
【0105】
図15は、貫通孔の深さ、即ちZ方向での長さがH=30μmの場合のS0とダンピングとの関係を示すグラフであった。これに対して
図16、
図17は、各々、H=15μm、H=5μmの場合のS0とダンピングとの関係を示すグラフである。このように
図15、
図16、
図17には、貫通孔の深さ以外の寸法は同一とし、貫通孔の深さであるHを、それぞれ30um、15um、5umとしたときのダンピングの傾向が示されている。このように、貫通孔の深さを小さくすればするほど、スクイズフィルムダンピングはほぼ変わらないが、孔中ダンピングは小さくなり、結果的として、全体ダンピングの最小値がより小さくなることが分かる。そして本実施形態では、貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みに比べて十分に小さくなるように、例えば
図17に示すように5umというように大幅に小さくしているため、ダンピング低減効果は非常に大きい。
【0106】
図18は、規格化貫通孔深さと規格化ダンピングの関係を示すグラフである。ここで規格化貫通孔深さは、例えば貫通孔の深さの基準を30μmとした場合に、この基準に対して規格化された貫通孔の深さである。貫通孔の深さの基準としては、例えば可動体3の最大厚みを採用できる。そして
図18に示すように、規格化貫通孔深さが0.5の場合には、ダンピングを約30%低減できる。従って、例えば貫通孔の深さを、貫通孔の深さの基準である可動体3の最大厚みの50%未満とすることで、ダンピングを約30%低減でき、低ダンピング化を実現できる。また規格化貫通孔深さが0.17の場合には、ダンピングを約60%低減できる。従って、例えば貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの17%未満とすることで、ダンピングを約60%低減でき、ダンピングを十分に低減することが可能になる。このように本実施形態では、第1貫通孔群71及び第2貫通孔群72等の貫通孔の深さを、可動体3の最大厚みの50%未満とすることが望ましく、更に好ましくは可動体3の最大厚みの17%未満とすることが望ましい。
【0107】
また本実施形態では、
図12~
図14に示すように、第1質量部34の領域RA2の第2貫通孔群72の貫通孔の開口面積を、領域RA1の第1貫通孔群71の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。同様に第2質量部35の領域RB2の第4貫通孔群74の貫通孔の開口面積を、領域RB1の第3貫通孔群73の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。更にトルク発生部36の第5貫通孔群75の貫通孔の開口面積を、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の貫通孔の開口面積よりも大きくしている。
【0108】
例えばダンピングを最小にする条件式である上式(11)では、分子にr0
4=(0.547×S0)4の項があり、分母にh3の項がある。従って、電極間のギャップ距離であるhが大きくなった場合には、それに応じて貫通孔の一辺の長さS0を大きくすることで、ダンピングの最小条件を満たすことが可能になる。即ち、ギャップ距離であるhが大きくなるにつれて、貫通孔の一辺の長さであるS0を大きくして、貫通孔の開口面積を大きくすることで、ダンピングを最小値に近づけることが可能になる。
【0109】
そして本実施形態では、領域RA2でのギャップ距離ha2は、領域RA1でのギャップ距離ha1よりも大きい。従って、領域RA2の第2貫通孔群72の開口面積を、領域RA1の第1貫通孔群71の開口面積よりも大きくすることで、領域RA1、領域RA2の各領域におけるダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。同様に、領域RB2でのギャップ距離hb2は、領域RB1でのギャップ距離hb1よりも大きい。従って、領域RB2の第4貫通孔群74の開口面積を、領域RB1の第3貫通孔群73の開口面積よりも大きくすることで、領域RB1、領域RB2の各領域におけるダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。
【0110】
またトルク発生部36の領域でのギャップ距離htは、ギャップ距離ha1、ha2等よりも大きい。従って、トルク発生部36の領域の第5貫通孔群75の開口面積を、第1貫通孔群71、第2貫通孔群72等の開口面積よりも大きくすることで、トルク発生部36の領域でのダンピングを、上式(11)で表される最小値に近づけることが可能になる。
【0111】
なお
図12~
図14では、可動体3の上面である第2面7に、貫通孔群が底面に配置される凹部を設けることで、貫通孔の深さを小さくしていたが、本実施形態はこれに限定されない。例えば可動体3の下面である第1面6に、貫通孔群が底面に配置される凹部を設けることで、貫通孔の深さを小さくしてもよい。或いは、貫通孔群の少なくとも1つの貫通孔ごとに凹部を設けることで、貫通孔の深さを小さくしてもよい。例えば貫通孔の周辺では、可動体3の厚みを貫通孔の深さと同一としながら、隣り合う貫通孔の端部間では、可動体3の厚みを貫通孔の深さより大きくする。即ち、貫通孔の周りに厚みが大きい凹部の壁部を設けることで、剛性を確保する。これにより、ダンピングを殆ど増加させることなく、可動体3の強度を高めて剛性を確保できるようになる。また貫通孔群での貫通孔の配列についても種々の変形実施が可能であり、例えば貫通孔の配列を、強度が高いとされるハニカム配列にしてもよい。
【0112】
5.物理量センサーデバイス
次に本実施形態の物理量センサーデバイス100について
図19を用いて説明する。
図19は物理量センサーデバイス100の断面図である。物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1と、電子部品としてのIC(Integrated Circuit)チップ110を含む。ICチップ110は半導体チップと言うこともでき、半導体素子である。ICチップ110は、接合部材であるダイアタッチ材DAを介して、物理量センサー1の蓋部5の上面に接合されている。ICチップ110は、ボンディグワイヤーBW1を介して、物理量センサー1の電極パッドPと電気的に接続されている。回路装置であるICチップ110には、例えば物理量センサー1に駆動電圧を印加する駆動回路や、物理量センサー1からの出力に基づいて加速度を検出する検出回路や、検出回路からの信号を所定の信号に変換して出力する出力回路等が必要に応じて含まれている。このように本実施形態の物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1とICチップ110を含んでいるため、物理量センサー1の効果を享受でき、高精度化等を実現できる物理量センサーデバイス100を提供できる。
【0113】
また物理量センサーデバイス100は、物理量センサー1及びICチップ110が収納される容器であるパッケージ120を含むことができる。パッケージ120は、ベース122とリッド124を含む。ベース122にリッド124が接合されることで気密封止される収納空間SBに、物理量センサー1及びICチップ110が収納される。このようなパッケージ120を設けることで、物理量センサー1及びICチップ110を衝撃、埃、熱、湿気等から好適に保護することができる。
【0114】
またベース122は、収納空間SB内に配置された複数の内部端子130と、底面に配置された外部端子132、134を含む。そしてボンディグワイヤーBW1を介して、物理量センサー1とICチップ110が電気的に接続されており、ボンディグワイヤーBW2を介して、ICチップ110と内部端子130とが電気的に接続されている。そして内部端子130は、ベース122内に設けられた不図示の内部配線を介して、外部端子132、134に電気的に接続されている。これにより物理量センサー1により検出された物理量に基づくセンサー出力信号を外部に出力することが可能になる。
【0115】
なお以上では、物理量センサーデバイス100に設けられる電子部品がICチップ110である場合を例に説明したが、電子部品は、ICチップ110以外の回路素子であってもよいし、物理量センサー1とは異なるセンサー素子であってもよいし、LCD(Liquid Crystal Display)やLED(Light Emitting Diode)などにより実現される表示素子などであってもよい。回路素子としては、例えばコンデンサーや抵抗などの受動素子やトランジスターなどの能動素子がある。センサー素子は、例えば物理量センサー1が検出する物理量とは異なる物理量をセンシングする素子である。またパッケージ120を設ける代わりにモールド実装としてもよい。
【0116】
6.慣性計測装置
次に、本実施形態の慣性計測装置2000について
図20、
図21を用いて説明する。
図20に示す慣性計測装置2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車やロボットなどの運動体の姿勢や挙動などの慣性運動量を検出する装置である。慣性計測装置2000は、3軸に沿った方向の加速度ax、ay、azを検出する加速度センサーと、3軸回りの角速度ωx,ωy,ωzを検出する角速度センサーと、を備えた、いわゆる6軸モーションセンサーである。
【0117】
慣性計測装置2000は、平面形状が略正方形の直方体である。また正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、マウント部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性計測装置2000を固定することができる。なお、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンやデジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
【0118】
慣性計測装置2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300を有し、アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300を挿入した構成となっている。センサーモジュール2300は、インナーケース2310と回路基板2320を有している。インナーケース2310には、回路基板2320との接触を防止するための凹部2311や、後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。そしてインナーケース2310の下面には、接着剤を介して回路基板2320が接合されている。
【0119】
図21に示すように、回路基板2320の上面には、コネクター2330、Z軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340z、X軸、Y軸及びZ軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサーユニット2350などが実装されている。また回路基板2320の側面には、X軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340x及びY軸回りの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。
【0120】
加速度センサーユニット2350は、前述したZ軸方向の加速度を測定するための物理量センサー1を少なくとも含み、必要に応じて、一軸方向の加速度を検出したり、二軸方向や三軸方向の加速度を検出したりすることができる。なお角速度センサー2340x、2340y、2340zとしては、特に限定されないが、例えばコリオリの力を利用した振動ジャイロセンサーを用いることができる。
【0121】
また回路基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360は、例えばMCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーターなどを内蔵しており、慣性計測装置2000の各部を制御する。なお、回路基板2320には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0122】
以上のように本実施形態の慣性計測装置2000は、物理量センサー1と、物理量センサー1から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360を含む。この慣性計測装置2000によれば、物理量センサー1を含む加速度センサーユニット2350を用いているため、物理量センサー1の効果を享受でき、高精度化等を実現できる慣性計測装置2000を提供できる。
【0123】
以上に説明したように、本実施形態の物理量センサーは、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸及びZ軸としたときに、Z軸に直交し、第1固定電極が設けられている基板と、Z軸に沿ったZ軸方向において第1固定電極に対向している第1質量部を含み、Y軸に沿った回転軸を中心として基板に対して揺動可能に設けられている可動体と、を含む。可動体は、基板側の面である第1面と、第1面に対する裏側の面である第2面と、を含み、第1質量部の第1面には、空隙を隔てて第1固定電極と対向し、隣り合う領域間に段差が設けられ、回転軸から近い順に第1領域から第n領域へと配置されている第1領域乃至第n領域(nは2以上の整数)が設けられている。第1領域乃至第n領域の回転軸から遠い側の端部を、第1端部乃至第n端部とする。Y軸に沿ったY軸方向からの断面視において、可動体が回転軸回りに最大変位した状態において、第1端部乃至第n端部のうちの2つの端部を通る仮想直線のうち、X軸とのなす角が最も小さい仮想直線を第1仮想直線とし、第1固定電極の主面に沿う直線を第2仮想直線とする。第1固定電極の回転軸に最も近い端部と交わり、Z軸に沿った直線を第1法線とし、第1固定電極の回転軸に最も遠い端部と交わり、Z軸に沿った直線を第2法線とする。このときに第1法線と第2法線との間の領域において、第1仮想直線と第2仮想直線が交差しない。
【0124】
本実施形態によれば、基板の第1固定電極に対向している可動体の第1質量部の第1面には、隣り合う領域間に段差が設けられた第1領域乃至第n領域が設けられている。このような第1領域乃至第n領域を設けることで、物理量センサーの高感度化の実現が可能になる。また本実施形態では、可動体の第1面の段差を形成する2つの端部を通る第1仮想直線と、第1固定電極の主面に沿った第2仮想直線とが、可動体が最大変位した状態で、第1固定電極の回転軸からも最も近い端部に対応する第1法線と最も遠い端部に対応する第2法線の間の領域において交差しない。これにより、可動体と第1固定電極とのスティッキングを抑制できるようになる。従って、高感度化とスティッキングの低減を両立して実現できる物理量センサー等の提供が可能になる。
【0125】
また本実施形態では、Y軸方向からの断面視において、回転軸と交わり、Z軸に沿った直線を第3法線とし、可動体の端部と交わり、Z軸に沿った直線を第4法線としたとき、第3法線と第4法線との間の領域において、第1仮想直線と第2仮想直線が交差しないようにしてもよい。
【0126】
このように、第1法線と第2法線との間の領域よりも広い第3法線と第4法線の間の領域において、第1仮想直線と第2仮想直線が交差しないことで、可動体が最大変位した状態において、可動体の第1面と第1固定電極との間の距離を、より広くすることが可能になり、スティッキングの発生を更に抑制することが可能になる。
【0127】
また本実施形態では、第1質量部の第1領域乃至第n領域は、第1領域から第n領域の順で、第1固定電極との間のギャップ距離が大きくなってもよい。
【0128】
このように第1領域から第n領域の順で第1固定電極との間のギャップ距離が大きくなることで、回転軸から近い第1領域等での空隙を狭ギャップ化することが可能になり、物理量センサーの高感度化を実現できるようになる。
【0129】
また本実施形態では、可動体は、回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部を含み、トルク発生部と基板とのギャップ距離は、第n領域と第1固定電極との間のギャップ距離よりも大きくてもよい。
【0130】
このようにすれば、ダンピングの低減化や可動体の可動範囲の拡大を実現できるようになる。
【0131】
また本実施形態では、可動体は、回転軸回りの回転トルクを発生させるためのトルク発生部を含み、トルク発生部のZ軸方向での厚みは、可動体の第n領域のZ軸方向での厚みよりも大きくてもよい。
【0132】
このようにすれば、可動体の揺動の際のトルク発生部での回転トルクを、より大きくできるため、更なる高感度化を実現できる。
【0133】
また本実施形態では、可動体は、Z軸方向からの平面視において、第1質量部に対して回転軸を挟んで設けられている第2質量部を含み、基板には、第2質量部に対向している第2固定電極が設けられ、第1固定電極と第2固定電極は、回転軸に対して対称に配置されていてもよい。
【0134】
このように第1質量部に対向する第1固定電極と、第2質量部に対向する第2固定電極を、回転軸に対して対称に配置することで、シーソー揺動型の物理量センサーの実現が可能になる。
【0135】
また本実施形態では、回転軸を中心とする可動体の回転を規制するストッパーを含んでもよい。
【0136】
このようなストッパーを設けることにより、可動体と第1固定電極等との過度な近接を防ぐことが可能になる。
【0137】
また本実施形態では、最大変位した状態は、ストッパーにより可動体の回転が規制された状態であってもよい。
【0138】
このようにすれば、ストッパーにより可動体の回転が規制された状態のときに、第1法線と第2の法線の間の領域において第1仮想直線と第2仮想直線が交差しないようになり、高感度化を実現しながらスティッキングを抑制できるようになる。
【0139】
また本実施形態では、ストッパーは、可動体と同電位であってもよい。
【0140】
このようにストッパーと可動体が同電位になることにより、異電位による不要な静電力が働かなくなるため、スティッキングを、より抑制できるようになる。
【0141】
また本実施形態では、基板の第1固定電極が配置されていない領域であって、可動体と対向する領域に配置され、可動体と同電位であるダミー電極を含んでもよい。
【0142】
このようにすれば、ダミー電極を利用して基板の表面の露出を抑制できるようになり、スティッキングの発生を抑制できるようになる。
【0143】
また本実施形態では、可動体には、Z軸方向に貫通している貫通孔群が設けられていてもよい。
【0144】
このように可動体に貫通孔群を設けることで、可動体が回転軸回りに揺動する際の空気のダンピングを低減できるようになる。
【0145】
また本実施形態では、第1質量部と第1固定電極との間のギャップ距離は、4.5μm以下であってもよい。
【0146】
このようにギャップ距離が十分に小さくなることで、物理量センサーの検出感度を十分に高めることが可能になる。
【0147】
また本実施形態では、第1仮想直線とX軸とのなす角は、0.7°以下であってもよい。
【0148】
このようにすれば、第1仮想直線と第2仮想直線とが、より平行に近づくようになり、スティッキングが発生しない限界まで、可動体と第1固定電極を近づけることで、物理量センサーの高感度化を実現できるようになる。
【0149】
また本実施形態では、第1領域に第1貫通孔群が設けられ、第1領域乃至第n領域のうちの第i領域(iは1<i≦nとなる整数)に第2貫通孔群が設けられ、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔のZ軸方向での深さは、可動体のZ軸方向での最大厚みよりも小さくてもよい。
【0150】
このように、第1貫通孔群及び第2貫通孔群の貫通孔の深さが、可動体の最大厚みよりも小さくなることで、これらの貫通孔の孔中ダンピング等を低減でき、低ダンピング化を実現できるようになる。
【0151】
また本実施形態では、第2貫通孔群の貫通孔の開口面積は、第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きくてもよい。
【0152】
このように、回転軸から遠い第2貫通孔群の貫通孔の開口面積を、回転軸から近い第1貫通孔群の貫通孔の開口面積よりも大きくすることで、低ダンピング化を実現できる貫通孔の寸法条件を満たすことが可能になり、物理量センサーの低ダンピング化を実現できる。
【0153】
また本実施形態は、上記に記載の物理量センサーと、物理量センサーに電気的に接続されている電子部品と、含む物理量センサーデバイスに関係する。
【0154】
また本実施形態は、上記の物理量センサーと、物理量センサーから出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部と、を含む慣性計測装置に関係する。
【0155】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また物理量センサー、物理量センサーデバイス、慣性計測装置の構成・動作等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0156】
1…物理量センサー、2…基板、3…可動体、5…蓋部、6…第1面、7…第2面、8、9…段差、11、12、13…ストッパー、21、21a…凹部、22a、22b…マウント部、24…第1固定電極、25…第2固定電極、26a、26b、26c…ダミー電極、27a、27c…電極、32a、32b…固定部、33…支持梁、34…第1質量部、35…第2質量部、36…トルク発生部、41…第1連結部、42…第2連結部、45a、45b…第1開口部、46…第2開口部、51…凹部、70…貫通孔群、71…第1貫通孔群、72…第2貫通孔群、73…第3貫通孔群、74…第4貫通孔群、75…第5貫通孔群、81…第1凹部、82…第2凹部、83…第3凹部、84…第4凹部、91、92…薄膜、93、94…段差、
100…物理量センサーデバイス、110…ICチップ、120…パッケージ、122…ベース、124…リッド、130、132…外部端子、134…外部端子、2000…慣性計測装置、2100…アウターケース、2110…ネジ穴、2200…接合部材、2300…センサーモジュール、2310…インナーケース、2311…凹部、2312…開口、2320…回路基板、2330…コネクター、2340x…角速度センサー、2340y…角速度センサー、2340z…角速度センサー、2350…加速度センサーユニット、2360…制御IC、
AY…回転軸、BW1、BW2…ボンディグワイヤー、DA…ダイアタッチ材、Ca、Cb…静電容量、P…電極パッド、EB1~EB3、EA1~EA3、EE1、EE2…端部、RA1~RA3、RB1~RB3…領域、SA…収納空間、SB…収納空間、ha1、ha2、ha3、hb1、hb2、hb3、ht…ギャップ距離、VL1…第1仮想直線、VL2…第2仮想直線、NL1…第1法線、NL2…第2法線、NL3…第3法線、NL4…第4法線、RN12、RN34…領域、θ…なす角、tt、tn…厚さ