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特許7585748異常検出システム、異常検出装置、異常検出方法、プログラム及び学習済みモデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】異常検出システム、異常検出装置、異常検出方法、プログラム及び学習済みモデル
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B29C45/76
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020201072
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088931
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 智也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】溝口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】立花 幸子
(72)【発明者】
【氏名】久津見 洋
(72)【発明者】
【氏名】小島 祥宜
(72)【発明者】
【氏名】森内 俊博
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-341540(JP,A)
【文献】特開2019-059083(JP,A)
【文献】特開2000-052396(JP,A)
【文献】特開2009-137076(JP,A)
【文献】特開2005-161557(JP,A)
【文献】特開平03-211032(JP,A)
【文献】特開2009-000929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品を成形する成形装置と、前記成形装置の異常を検出する異常検出装置と、を備える異常検出システムであって、
前記成形装置は、
スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、
前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、
前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサと、
を有し、
前記異常検出装置は、
前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得部と、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出部と、
を有し、
前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、
前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、
前記第3時点は、前記中間以降の時点である、異常検出システム。
【請求項2】
前記異常検出部は、前記第1評価値と前記第2評価値の比に基づいて、前記検出情報を取得する、
請求項1に記載の異常検出システム。
【請求項3】
前記異常検出部は、検出対象となる前記成形品の成形時に取得される前記比が、複数の前記ゲートのいずれにも詰まりがないときに取得される前記比に基づいて規定される所定範囲を外れる場合に、前記ゲートに詰まりがあることを示す前記検出情報を取得する、
請求項2に記載の異常検出システム。
【請求項4】
前記異常検出部は、前記第1評価値及び前記第2評価値と前記ゲートの詰まりとの相関関係を機械学習させた学習済みモデルへ、前記第1評価値及び前記第2評価値を入力することで、前記検出情報を取得する、
請求項1に記載の異常検出システム。
【請求項5】
前記圧力センサは、コールドスラグウェルに設けられている、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の異常検出システム。
【請求項6】
成形品を成形する成形装置の異常を検出する異常検出装置であって、
前記成形装置は、
スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、
前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、
前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサと、
を有し、
前記異常検出装置は、
前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得部と、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出部と、
を備え
前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、
前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、
前記第3時点は、前記中間以降の時点である、異常検出装置。
【請求項7】
スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出する異常検出方法であって、
前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得工程と、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出工程と、
を備え
前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、
前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、
前記第3時点は、前記中間以降の時点である、異常検出方法。
【請求項8】
スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出するためのプログラムであって、
前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得工程と、
前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出工程と、
をコンピュータ装置に実行させ
前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、
前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、
前記第3時点は、前記中間以降の時点である、プログラム。
【請求項9】
スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出するための学習済みモデルであって、
説明変数は、
前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、
前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を含み、
目的変数は、ゲートの詰まりに関する値を含み、
前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、
前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、
前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、
前記第3時点は、前記中間以降の時点である
学習済みモデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出システム、異常検出装置、異常検出方法、プログラム及び学習済みモデルに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の金型の間に形成されるキャビティへ成形材料を溶融させた融液を供給して成形品を成形する射出成形装置が知られている。例えば、特許文献1には、射出サーボモータに取り付けられたエンコーダにより射出速度を検出し、射出工程の監視時間において当該射出速度が監視速度に達していなかった場合に、射出動作を停止させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-000929公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形装置において、ゲートに詰まりが生じると、キャビティに設計どおりに成形材料が流れ込まず、成形品に異常が生じるおそれがある。特許文献1の技術では、ゲートが詰まると、射出時の負荷圧が良品成形時の負荷圧よりも高くなり、射出速度が良品成形時の射出速度よりも遅くなることを利用して、ゲートの詰まりを検出する。
【0005】
しかしながら、発明者らは、ゲートに詰まりが生じても、射出時の負荷圧が良品成形時からほとんど変化しない場合があることを発見した。このような場合、特許文献1の技術ではゲートの詰まりを検出することができない。
【0006】
そこで、本発明は、より確実にゲートの詰まりを検出する異常検出システム、異常検出装置、異常検出方法、プログラム及び学習済みモデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の異常検出システムは、成形品を成形する成形装置と、前記成形装置の異常を検出する異常検出装置と、を備える異常検出システムであって、前記成形装置は、スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサと、を有し、前記異常検出装置は、前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得部と、前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出部と、を有する、異常検出システムである。
【0008】
発明者らは、鋭意研究の結果、複数のゲートの一部に一時的な詰まりが生じた場合、スプールからゲートまでの間に設置した圧力センサにより圧力を検出すると、保圧工程の前半部分(第1時点~第2時点)の方が後半部分(第3時点~第4時点)よりも圧力の上昇の影響がより大きく現れることを発見した。そして、前半部分の圧力の時間積分を第1評価値とし、後半部分の圧力の時間積分を第2評価値とすると、第1評価値と第2評価値との関係には、一時的な詰まりが生じた場合と正常な場合とで、相違が生じることを発見した。すなわち、当該相違に着目すれば、一部のゲートの一時的な詰まりを検出できることを発見した。
【0009】
そこで、本発明に係る異常検出システムは、第1評価値及び第2評価値に基づいて、ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する。これにより、従来検出できなかったゲートの一時的な詰まりを検出することができ、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【0010】
(2)好ましくは、前記異常検出部は、前記第1評価値と前記第2評価値の比に基づいて、前記検出情報を取得する。第1評価値と第2評価値の比は、成形材料のばらつき等による影響を受けにくく、より正確に一時的な詰まりの影響を表すことができる。
【0011】
(3)好ましくは、前記異常検出部は、検出対象となる前記成形品の成形時に取得される前記比が、複数の前記ゲートのいずれにも詰まりがないときに取得される前記比に基づいて規定される所定範囲を外れる場合に、前記ゲートに詰まりがあることを示す前記検出情報を取得する。このように構成することで、第1評価値及び第2評価値と、所定範囲との比較により、ゲートの一時的な詰まりを容易に検出することができる。
【0012】
(4)好ましくは、前記異常検出部は、前記第1評価値及び前記第2評価値と前記ゲートの詰まりとの相関関係を機械学習させた学習済みモデルへ、前記第1評価値及び前記第2評価値を入力することで、前記検出情報を取得する。このように構成することで、成形条件にばらつきがある状態であっても、より正確にゲートの詰まりを検出することができる。
【0013】
(5)好ましくは、前記第1時点は、前記保圧動作時点又は前記圧力の立上りを検出した時点であり、前記第4時点は、前記保圧解除動作時点であり、前記第2時点は、前記第1時点と前記第4時点との中間以前の時点であり、前記第3時点は、前記中間以降の時点である。このように構成することで、圧力上昇の影響が大きい領域と当該影響が小さい領域とをより確実に分けることができる。
【0014】
(6)好ましくは、前記圧力センサは、コールドスラグウェルに設けられている。このように構成することで、圧力センサがスプールからゲートまでの成形材料の流れに影響を及ぼすことを防止しつつ、圧力を検出することができる。
【0015】
(7)本発明に係る異常検出装置は、成形品を成形する成形装置の異常を検出する異常検出装置であって、前記成形装置は、スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサと、を有し、前記異常検出装置は、前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得部と、前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出部と、を備える、異常検出装置である。
【0016】
本発明に係る異常検出装置は、第1評価値及び第2評価値に基づいて、ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する。これにより、従来検出できなかったゲートの一時的な詰まりを検出することができ、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【0017】
(8)本発明に係る異常検出方法は、スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出する異常検出方法であって、前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得工程と、前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出工程と、を備える、異常検出方法である。
【0018】
本発明に係る異常検出方法は、第1評価値及び第2評価値に基づいて、ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する。これにより、従来検出できなかったゲートの一時的な詰まりを検出することができ、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【0019】
(9)本発明に係るプログラムは、スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出するためのプログラムであって、前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を取得するデータ取得工程と、前記第1評価値及び前記第2評価値に基づいて、前記ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得する異常検出工程と、をコンピュータ装置に実行させる、プログラムである。
【0020】
本発明に係るプログラムを実行すれば、第1評価値及び第2評価値に基づいて、ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得することができる。これにより、従来検出できなかったゲートの一時的な詰まりを検出することができ、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【0021】
(10)本発明に係る学習済みモデルは、スプールと、前記スプールから分岐する複数のランナーと、複数の前記ランナーとそれぞれ接続する複数のゲートと、複数の前記ゲートと接続するキャビティと、が内部に形成された金型部と、前記スプールから前記キャビティへ溶融状態の成形材料を充填する充填動作と、前記キャビティに充填された前記成形材料の圧力を保持する保圧動作と、前記成形材料の圧力の保持を解除する保圧解除動作と、を行う射出部と、を備える成形装置の異常を検出するための学習済みモデルであって、説明変数は、前記充填動作以降の第1時点から前記保圧解除動作よりも前の第2時点までの間に前記スプール、前記ランナー又は前記ゲートにおける前記成形材料の圧力を検出する圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第1評価値と、前記第1時点よりも後の第3時点から前記第2時点よりも後かつ前記保圧解除動作以前の第4時点までの間に前記圧力センサにより検出される圧力を時間積分した第2評価値と、を含み、目的変数は、ゲートの詰まりに関する値を含む、学習済みモデルである。
【0022】
本発明に係る学習済みモデルに第1評価値及び第2評価値を入力すれば、ゲートの詰まりを検出するための検出情報を取得することができる。これにより、従来検出できなかったゲートの一時的な詰まりを検出することができ、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、より確実にゲートの詰まりを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る異常検出システムを模式的に示すブロック図である。
図2図1に係る成形装置を概念的に示す説明図である。
図3図1に係る成形装置を概念的に示す説明図である。
図4図3の金型部を示す断面図である。
図5図4の矢印Vの切断線により切断した金型部を示す断面図である。
図6】圧力の時系列データを示すグラフの一例である。
図7】ゲートの詰まりを説明する図である。
図8】第1評価値及び第2評価値を説明する図である。
図9】第1実施形態に係る学習装置の機能構成を示すブロック図である。
図10】第1実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示すブロック図である。
図11】第2実施形態に係る異常検出システムを模式的に示すブロック図である。
図12】第2実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
<異常検出システムの全体構成>
図1は、第1実施形態に係る異常検出システム10を模式的に示すブロック図である。異常検出システム10は、複数の成形装置20と、学習装置30と、異常検出装置40と、入力部50と、表示部60とを備える。
【0027】
成形装置20、学習装置30、異常検出装置40、入力部50及び表示部60は、それぞれ無線又は有線により通信可能に設けられている。学習装置30及び異常検出装置40は、演算部(例えば、CPU、GPU等)と、記憶部(例えば、HDD、SSD等)とを有する情報処理装置(コンピュータ装置)により構成されている。学習装置30及び異常検出装置40は、同一の情報処理装置により構成されてもよいし、別々の情報処理装置により構成されてもよい。
【0028】
本実施形態では複数の成形装置20が1個の学習装置30及び1個の異常検出装置40に接続され、学習装置30及び異常検出装置40は複数の成形装置20から送信される各種のデータに基づいて学習及び異常検出を行う。なお、成形装置20は学習装置30及び異常検出装置40と1対1で対応していてもよい。すなわち、異常検出システム10において、成形装置20は1個であってもよいし、学習装置30及び異常検出装置40は複数備えられていてもよい。
【0029】
入力部50は、例えばキーボードやマウスであり、作業者からの各種の入力を受付ける。表示部60は、例えばディスプレイやスピーカであり、異常検出システム10における各種の情報を表示する。入力部50及び表示部60は、例えばタッチパネルのように一体となっていてもよい。また、入力部50及び表示部60は、携帯型の端末装置として、成形装置20、学習装置30及び異常検出装置40から離れた場所に移動可能に設けられていてもよい。
【0030】
<成形装置の概略構成>
図2及び図3は、成形装置20を概念的に示す説明図である。図2及び図3において、断面として示す部分にはハッチングを付す。成形装置20は、ベッド21と、射出部22と、型締め部23と、金型部24と、圧力センサ25と、温度センサ26と、制御盤27とを有する。図2は、金型部24が開放されている状態の成形装置20を示しており、図3は、金型部24が組み合わされている状態の成形装置20を示している。成形装置20は、型締め式の射出成形を行う装置である。
【0031】
制御盤27は、制御部271と、通信部272とを有する。制御部271は成形装置20の各駆動部(モータ237等)と電気的に接続し、当該各駆動部へ動作指令を出力する。また、制御部271は成形装置20の各センサ(圧力センサ25等)と電気的に接続し、当該各センサにより検出された信号が制御部271へ入力される。制御部271は、演算部(例えば、CPU、GPU等)と、記憶部(例えば、HDD、SSD等)とを有する情報処理装置により構成されている。
【0032】
通信部272は、異常検出システム10の他の各部(学習装置30等)と通信を行う。通信部272は、例えば、当該各センサにより検出された信号を学習装置30又は異常検出装置40へ送信する。また、通信部272は、後述の判定情報及び予測情報を異常検出装置40から受信する。
【0033】
型締め部23は、固定盤231と、可動盤232と、タイバー233と、ボールねじ234と、支持盤235と、型締め力センサ236と、モータ237とを有する。固定盤231及び支持盤235は、ベッド21に固定されている。支持盤235はボールねじ234を支持している。ボールねじ234はモータ237と接続している。制御部271の動作指令によりモータ237が回転されると、ボールねじ234は移動する。ボールねじ234のうち、モータ237と接続されている端部とは反対側の端部には、可動盤232が固定されている。
【0034】
ここで、成形装置20において、ボールねじ234が移動する方向を「軸方向」と称する。ボールねじ234に対してモータ237が位置する側を軸方向の「一方側」と称し、ボールねじ234に対して可動盤232が位置する側を軸方向の「他方側」と称する。
【0035】
可動盤232は、ボールねじ234の移動に伴って、軸方向に移動する。可動盤232には、軸方向に貫通している貫通孔232aが形成されている。タイバー233は、軸方向一方側の端部が支持盤235に固定され、軸方向他方側の端部が固定盤231に固定されている。タイバー233は可動盤232の貫通孔232aに挿入されている。これにより、タイバー233は、可動盤232の軸方向の移動を案内する。
【0036】
型締め力センサ236は、ボールねじ234から支持盤235に加えられる圧力(型締め力の反力)を検出する。型締め力センサ236は、圧力に関する検出信号を、制御部271に出力する。なお、型締め力センサ236は、後述の金型部24における型締め力を検出できる位置であれば、他の位置に設置されていてもよい。固定盤231には、軸方向他方側に径が広がる貫通孔231aが形成されている。貫通孔231aには、後述のシリンダ222が挿入される。
【0037】
金型部24は、複数の金型241、242を有する。金型241は、可動盤232に固定されている。ボールねじ234が軸方向に移動すると、可動盤232とともに金型241も軸方向に移動する。すなわち、金型241は可動金型である。金型242は、固定盤231に固定されている。すなわち、金型242は固定金型である。
【0038】
図3を参照する。ボールねじ234により金型241が軸方向他方側に移動し、金型241が金型242に接触すると(すなわち、複数の金型241、242が組み合わされると)、金型241、242の間にはキャビティC1が形成される。本実施形態のキャビティC1は、成形材料が充填される円環状の空間である。
【0039】
図4は、図3に示す金型部24を拡大して示す断面図である。金型242には、スプール243と、スプール243から分岐する複数(本実施形態では、4本)のランナー244と、複数のランナー244とそれぞれ接続する複数(本実施形態では、4本)のゲート245と、が内部に形成される。キャビティC1は、複数のゲート245と接続する。
【0040】
スプール243は、射出部22から金型部24へ射出される成形材料がはじめに流れ込む通路である。スプール243の射出部22側の端部243aは、後述のノズル224と連通するように開口している。スプール243は、端部243aの内径が最も小さく、端部243aからランナー244に至るにつれて内径が拡大している。
【0041】
複数のランナー244は、スプール243のキャビティC1側(すなわち、端部243aの反対側)の端部243bよりもわずかに端部243a側において分岐している。スプール243においてランナー244が分岐する位置よりも端部243b側の空間は、コールドスラグ(cold slug)を溜めるための樹脂溜まりであり、「コールドスラグウェル(cold slug well)」とも称される。
【0042】
図5は、図4の矢印Vに示す切断線により切断した金型部24を示す断面図である。
複数のゲート245は、複数のランナー244と1対1で対応している。また、複数のゲート245は、キャビティC1に近づくにつれて内径が縮小している。以下、複数のゲート245を特に区別する場合、所定の1個のゲート245(例えば、図5の上に位置するゲート245)をゲートGT1と称し、当該ゲートGT1から時計回りに、残りの3個のゲート245をそれぞれゲートGT2、GT3、GT4と称する。
【0043】
圧力センサ25は、スプール243の端部243bに設けられ、スプール243における成形材料(溶融状態もしくは固化状態、又は溶融状態と固化状態とが混在した状態)の圧力を検出する。より具体的には、圧力センサ25は、コールドスラグウェルに設けられている。この位置に圧力センサ25を設けることで、圧力センサ25がスプール243からゲート245までの成形材料の流れに影響を及ぼすことを防止しつつ、圧力を検出することができる。
【0044】
なお、圧力センサ25の位置はこれに限定されない。例えば、スプール243の他の位置に設けられてもよいし、複数のランナー244及び複数のゲート245のいずれかに設けられてもよい。すなわち、圧力センサ25は、スプール243、ランナー244又はゲート245における成形材料の圧力を検出する。言い換えると、圧力センサ25は、後述のノズル224よりも下流側で、かつキャビティC1よりも上流側の成形材料の圧力を検出する。圧力センサ25は、圧力に関する検出信号を制御部271に出力する。
【0045】
なお、圧力センサ25の個数は限定されない。本実施形態では、圧力センサ25が1個である例を説明するが、圧力センサ25は2個以上であってもよい。例えば、1本のランナー244に1つずつ圧力センサ25が設けられ、合計4個の圧力センサ25が設けられてもよい。この場合、後述する圧力の時系列データは、4個の圧力センサ25がそれぞれ検出した圧力の平均値の時系列データとして取得してもよい。
【0046】
図2を参照する。射出部22は、ホッパ221と、シリンダ222と、スクリュ223と、ボールねじ225と、モータ226と、与圧センサ227と、移動量センサ228と、ヒータ229とを有する。ホッパ221は、シリンダ222と接続しており、シリンダ222内に成形材料を供給する。シリンダ222は軸方向に延びる中空の円筒形状を有する部材である。シリンダ222の軸方向一方側の端部は、径方向一方側の最端に近づくにつれて径が狭くなっており、シリンダ222の軸方向一方側の最端にはノズル224が設けられている。ノズル224は、金型242のスプール243と接続している。
【0047】
スクリュ223は、シリンダ222の軸方向他方側の端部からシリンダ222内に挿入されている。スクリュ223の軸方向他方側にはボールねじ225が接続されており、ボールねじ225の軸方向他方側にはモータ226が接続されている。制御部271の動作指令によりモータ226が回転すると、ボールねじ225は軸方向に移動する。これに伴いスクリュ223も軸方向に移動する。このとき、スクリュ223は、軸方向を中心軸とする周方向に回転する。
【0048】
与圧センサ227は、ボールねじ225からモータ226へ加えられる圧力(スクリュ223の押込み力の反力)を検出する。すなわち、与圧センサ227は、スクリュ223が成形材料から受ける圧力を検出する。与圧センサ227は、圧力に関する検出信号を、制御部271に出力する。なお、与圧センサ227は、スクリュ223の押込み力を検出できる位置であれば、他の位置に設置されていてもよい。
【0049】
移動量センサ228は、ボールねじ225の軸方向の移動量を検出する。移動量センサ228は、移動量に関する検出信号を、制御部271に出力する。なお、移動量センサ228は、ボールねじ225の軸方向の移動量を検出できる位置であれば、他の位置に設置されていてもよい。
【0050】
ヒータ229は、例えば抵抗線をコイル状に巻回した抵抗加熱ヒータである。ヒータ229は、制御部271の動作指令により当該抵抗線へ電流が流されることで、抵抗熱によりシリンダ222内を加熱する。
【0051】
温度センサ26は、金型242に内蔵されており、金型242の温度を検出する。温度センサ26は、温度に関する検出信号を制御部271に出力する。なお、温度センサ26は、金型241に設置されてもよい。また、温度センサ26は、シリンダ222内に設置されてもよい。すなわち、温度センサ26は、キャビティC1内に供給される成形材料の温度を直接的に又は間接的に検出することができればよい。
【0052】
<成形装置による製造方法>
図2及び図3を適宜参照しながら、成形装置20による成形品の製造方法について説明する。成形装置20による成形品の製造方法は、前工程ST1と、型締め工程ST2と、充填工程ST3と、保圧工程ST4と、保圧解除工程ST5と、離型工程ST6とが、この順で実行される。本実施形態において、成形品は、転がり軸受に用いられる樹脂製の保持器である。しかしながら、これは成形品の一例であり、本発明に係る成形装置により成形される成形品は、その他の形状及び用途の成形品であってもよい。
【0053】
図2を参照する。はじめに、前工程ST1が実行される。前工程ST1では、モータ226によりスクリュ223が回転し、ヒータ229によりシリンダ222内が加熱されている状態で、ホッパ221から成形材料のペレットがシリンダ222内へ供給される。成形材料のペレットは、スクリュ223の回転に伴う摩擦熱と、ヒータ229による加熱とにより、シリンダ222内において溶融し、溶融状態の成形材料となる。シリンダ222内に、所定量の成形材料が貯留されると、前工程ST1が終了する。
【0054】
次に、型締め工程ST2が開始されると、図2の状態の成形装置20において、制御部271の動作指令によりボールねじ234が軸方向他方側に移動し、図3に示すように金型241を金型242に接触させる。このように金型241と金型242とを組み合わせた状態で、さらにボールねじ234が軸方向他方側へ所定の型締め力により金型241を金型242へ押さえつける。すなわち、複数の金型241、242を締め付ける。これにより、複数の金型241、242の間に円環状のキャビティC1が形成される。以上により、型締め工程ST2が終了する。
【0055】
ここで、型締め力は、成形条件のひとつであり、金型241、242の形状等、その他の成形条件に応じて決定される。型締め力は、型締め力センサ236により検出される。
【0056】
続いて、充填工程ST3が開始されると、上記の型締め力を維持している状態で、ボールねじ225が軸方向一方側へ移動する。これにより、スクリュ223が軸方向一方側へ成形材料を押し、シリンダ222のノズル224から、スプール243、複数のランナー244、及び複数のゲート245を経由して、キャビティC1へ溶融状態の成形材料が射出される(充填動作)。
【0057】
キャビティC1に成形材料が充填されると、充填工程ST3が終了する。充填工程ST3において、溶融状態の成形材料は、金型241、242の表面付近から徐々に固化しながらキャビティC1へ供給される。
【0058】
続いて、保圧工程ST4が開始されると、スクリュ223がさらに軸方向一方側へ成形材料を押し、シリンダ222のノズル224からキャビティC1へ成形材料がさらに射出される。これにより、キャビティC1に充填されている成形材料に所定の圧力(例えば、数十~数百MPa)が印加される。そして、スクリュ223はこの状態を所定時間保持することで、所定の圧力を所定時間(例えば、数秒間)だけ成形材料に与え続ける(保圧動作)。スクリュ223がキャビティC1へ成形材料を押し出す圧力(与圧)は、与圧センサ227により検出される。
【0059】
続いて、保圧解除工程ST5が開始されると、スクリュ223は軸方向他方側へ移動し、成形材料の圧力の保持を解除する(保圧解除動作)。保圧解除動作後、所定時間が経過してキャビティC1の成形材料の圧力が所定値以下になると、保圧解除工程ST5が終了する。その後、離型工程ST6が開始されると、金型部24が冷却されることで、キャビティC1内の成形材料が固まり、成形品が形成される。そして、ボールねじ234が軸方向一方側へ移動し、金型241が金型242から離れることで、成形品が取り出される。なお、金型部24の冷却は、保圧解除工程ST5と同時に開始されてもよい。
【0060】
<ゲートの詰まりについて>
次に、本実施形態において検出するゲート245の詰まりについて説明する。
図6は、充填工程ST3、保圧工程ST4及び保圧解除工程ST5において、成形装置20の各センサにより検出される圧力の時系列データを示すグラフの一例である。図6において、縦軸は圧力Pであり、横軸は時間tである。
【0061】
本実施形態において、時間の原点(t=0)は、制御部271がモータ226へスクリュ223の軸方向他方側への移動を動作指令した時点である。すなわち、充填工程ST3において射出部22が金型部24へ成形材料の供給を開始した時点である。なお、時間の原点(t=0)はこれに限られず、与圧センサ227が所定の圧力を検出した時点であってもよいし、移動量センサ228が所定の移動量を検出した時点であってもよい。
【0062】
図6のグラフ線F0は、複数のゲート245のいずれにも詰まりが発生しない時(すなわち、正常時)に、与圧センサ227により検出される圧力(与圧)の時系列データである。グラフ線F0の圧力は、充填工程ST3において圧力Ps1まで立ち上がり、圧力Ps1に到達した時点X1で、充填工程ST3が終了する。ここで、圧力Ps1は、保圧工程ST4の「設定圧力」である。すなわち、保圧工程ST4の間、与圧センサ227により検出される圧力がPs1に維持されるように、制御部271がモータ226をフィードバック制御する。このため、保圧工程ST4の間、与圧センサ227により検出される圧力はPs1で略一定となる。
【0063】
保圧工程ST4は、時点X1に開始され、時点X4に終了する。すなわち、保圧時間は、(X4-X1)である。保圧時間は、予め制御部271に設定されている。その後、保圧解除工程ST5において圧力は低下する。保圧解除工程ST5は、時点X4から開始される。すなわち、保圧解除動作は、時点X4に実行される。
【0064】
図6のグラフ線F1は正常時に圧力センサ25により検出される圧力の時系列データである。グラフ線F1は、充填工程ST3においてグラフ線F0が立ち上がった後に立ち上がり、保圧工程ST4において圧力がピークまで上昇し、保圧解除工程ST5において圧力が急激に低下する。
【0065】
複数のゲート245には、3パターンの詰まり方があり、そのいずれの詰まり方によっても、成形品に異常が生じるおそれがある。1つ目は、全てのゲート245が詰まるパターンである。以下、当該パターンを「全部詰まり」と適宜称する。全てのランナー244が詰まる場合や、スプール243が詰まる場合も、このパターンに含まれる。グラフ線F0aは、全てのゲート245が詰まっている時に与圧センサ227により検出される圧力の時系列データである。全てのゲート245が詰まると、成形材料を流し込むことができる金型部24内の空間が狭くなるため、少ない射出量で当該空間が満たされる。この結果、グラフ線F0aに示すように、与圧センサ227により検出される圧力が、正常時の時点X1よりも早い時点X1aで圧力Ps1に到達する。
【0066】
このため、与圧センサ227により検出される充填時間(時点0から時点X1aまで)が正常時の充填時間よりも短ければ、全てのゲート245が詰まっている可能性が高い。すなわち、与圧センサ227により検出される充填時間の長短に着目すれば、全てのゲート245が詰まっていることを検出することができる。なお、全てのゲート245が詰まっていれば、キャビティC1に成形材料が流れ込まないため、そもそも成形品が成形されない。このため、離型工程ST6において成形品が成形されないことをカメラ等のセンサで観察することによっても、全てのゲート245が詰まっていることを検出することができる。
【0067】
2つ目の詰まり方は、複数のゲート245のうち一部のゲート245が詰まるパターンである。以下、当該パターンを「一部詰まり」と適宜称する。例えば、図5に示すゲートGT1が詰まり、他のゲートGT2、GT3、GT4が詰まっていない場合である。この場合、詰まっていない他のゲートGT2、GT3、GT4からキャビティC1へ成形材料が流れ込むため、与圧センサ227により検出される圧力は、正常時の圧力とほとんど相違がない。このため、与圧センサ227の圧力に基づいて一部のゲート245の詰まりを検出することができない。また、成形品も成形されるため、離型工程ST6において成形品が成形されるか否かをカメラで観察しても、一部のゲート245の詰まりを検出することができない。
【0068】
このような詰まり方をすると、詰まったゲート245付近のキャビティC1に通常どおりに成形材料が流れ込まず、成形品の寸法、重量、品質(例えば、強度)のばらつきが大きくなるという悪影響が生じる。また、意図しない領域(設計した領域以外の領域)にウェルド領域が形成され、成形品の強度が低下するおそれがある。このため、一部のゲート245の詰まりを成形装置20においてセンシングし、自動的に判定できる技術が重要となる。
【0069】
そこで、本実施形態では、圧力センサ25によりノズル224よりも下流側で、かつキャビティC1よりも上流側の成形材料の圧力を検出し、当該圧力により一部のゲート245の詰まりを検出する。グラフ線F2は、一部のゲート245が詰まっている時に圧力センサ25により検出される圧力の時系列データである。一部のゲート245が詰まると、ノズル224からスプール243に流れ込む成形材料の逃げ場が少なくなるため、スプール243、複数のランナー244及び複数のゲート245の内部の圧力が正常時よりも上昇する。この結果、グラフ線F2に示すように、保圧工程ST4において圧力センサ25により検出される圧力が、正常時のグラフ線F1の圧力よりも高くなる。
【0070】
このため、保圧工程ST4中の圧力が、正常時の保圧工程ST4中の圧力よりも高ければ、一部のゲート245が詰まっている可能性が高い。すなわち、圧力センサ25により検出される保圧工程ST4中の圧力の高さに着目すれば、一部のゲート245が詰まっていることを検出することができる。ここで、圧力センサ25のノイズ等により、保圧工程ST4において、所定の1時点だけグラフ線F1の圧力のほうがグラフ線F2の圧力よりも高くなる場合がある。このようにノイズが影響する時点のみに着目してしまうと、一部詰まりを正しく検出することができない。
【0071】
そこで、本実施形態では、保圧工程ST4中の所定期間(例えば、時点X1から時点X4まで)において圧力センサ25により検出される圧力の平均又は時間積分を、正常時における同期間の圧力の平均又は時間積分と比較することで、ノイズ等の影響を低減する。
【0072】
3つ目の詰まり方は、複数のゲート245のうち一部のゲート245が詰まったものの、保圧工程ST4の途中にゲート245の詰まりが解消されるパターンである。以下、当該パターンを「一時的な詰まり」と適宜称する。
【0073】
図7は、当該パターンによるゲート245の詰まりを説明する図である。図7(a)及び図7(b)は、図5と同じ断面を示しており、それぞれ時点X1、X4における4個のゲートGT1~GT4の様子を示している。図7(a)に示すように、時点X1(保圧工程ST4の開始時)において、ゲートGT1に異物Fm1が詰まり、ゲートGT1が閉塞している。他のゲートGT2、GT3、GT4は詰まっておらず、当該ゲートGT2、GT3、GT4からキャビティC1へ成形材料が流れ込む。ここまでの様子は、上記の2つ目のパターンと同様である。すなわち、ノズル224からスプール243に流れ込む成形材料の逃げ場が少なくなるため、スプール243、複数のランナー244及び複数のゲート245の内部の圧力が正常時よりも上昇する。
【0074】
ここで、ゲート245を詰まらせる異物Fm1としては、例えば、固化した成形材料が挙げられる。シリンダ222内の温度は、ヒータ229により加熱されているため、金型部24よりも高温となっている。このため、充填工程ST3においてノズル224からはじめに射出される成形材料は、金型242により冷やされることで、スプール243内や複数のランナー244内において一部が固化し、コールドスラグとなる場合がある。
【0075】
異物Fm1が固化した成形材料(コールドスラグ)である場合、保圧工程ST4の途中(時点X4よりも前の時点)で、ゲートGT1内部の圧力が上昇することに起因して、異物Fm1が砕けたり、溶けたり、ゲートGT1の内壁との引っ掛かりが解消されたりすることで、異物Fm1がキャビティC1へ流されることがある。これにより、図7(b)に示すように、ゲートGT1の詰まりが解消される。
【0076】
グラフ線F3は、ゲート245に一時詰まりが生じる場合に、圧力センサ25により検出される圧力の時系列データである。ゲート245の詰まりは、例えば時点X2よりも前に解消される。時点X1では一部のゲート245が詰まっているため、保圧工程ST4の前半(時点X1~X2)に検出される圧力は、正常時のグラフ線F1の圧力よりも高くなる。そして、時点X2よりも前のいずれかの時点で詰まりが解消されるため、保圧工程ST4の後半(時点X2~時点X4)に検出される圧力は、正常時のグラフ線F1の圧力とほとんど相違がない。
【0077】
このように、一時的に一部のゲート245が詰まった後、当該詰まりが解消されるような場合、保圧工程ST4中の圧力に着目しても、比較する時点によっては正常時の保圧工程ST4中の圧力とほとんど相違がないため、ゲート245の詰まりを正確に検出できない。また、保圧工程ST4の全期間(時点X1から時点X4まで)における圧力の平均又は時間積分により比較をする場合、グラフ線F3に示すように圧力の上昇は保圧工程ST4の前半部分に偏って生じるため、その全期間の圧力を平均又は時間積分すると、正常時とほとんど相違がなくなってしまい、ゲート245の一時詰まりを正確に検出できない。
【0078】
また、一時詰まりが生じると、2つ目のパターンと同様に、成形品の寸法、重量、品質のばらつきが大きくなったり、成形品の強度が低下したりするおそれがある。そこで、発明者らは、保圧工程ST4の圧力を、圧力の上昇の影響が大きい前半部分と、圧力の上昇の影響が小さい後半部分とに分け、前半部分の圧力の時間積分と、後半部分の圧力の時間積分とに基づいて、ゲート245の一時詰まりを検出することを着想した。
【0079】
<第1評価値と第2評価値について>
図8は、本実施形態の異常検出に用いる第1評価値A1と第2評価値A2とを説明する図である。図8(a)は、図6のグラフ線F3と第1評価値A1及び第2評価値A2との関係を示すグラフである。図8(a)のグラフにおいて、縦軸は圧力であり、横軸は時間である。図8(b)は、第1評価値A1及び第2評価値A2に基づいて異常を検出する方法を説明するグラフである。図8(b)のグラフにおいて、縦軸は第2評価値A2であり、横軸は第1評価値A1である。
【0080】
第1評価値A1は、充填動作以降の第1時点(時点X1)から保圧解除動作よりも前の第2時点(時点X2)までの間に、圧力センサ25により検出される圧力を時間積分した値である。図8(a)に示すように、第1評価値A1は、時点X1から時点X2までのグラフ線F3の面積に相当する。ここで、グラフ線F3は、実際には複数のプロットから構成されている。このため、第1評価値A1は、データ上では、時点X1から時点X2までのグラフ線F3のプロットの総和として算出される。なお、グラフ線F3を構成する複数のプロットは、元データ(圧力センサ25から取得された生のデータ)であってもよいし、当該元データの移動平均(例えば、2点間移動平均)であってもよい。
【0081】
第2評価値A2は、第1時点(時点X1)よりも後の第3時点(時点X3)から、第2時点(時点X2)よりも後かつ保圧解除動作以前の第4時点(時点X4)までの間に、圧力センサ25により検出される圧力を時間積分した値である。図8(a)に示すように、第2評価値A2は、時点X3から時点X4までのグラフ線F3の面積に相当する。第2評価値A2は、第1評価値A1と同様に、データ上では、時点X3から時点X4までのグラフ線F3のプロットの総和として算出される。
【0082】
ここで、図8(a)では、第1時点、第2時点、第3時点及び第4時点を、それぞれ時点X1、時点X2、時点X3及び時点X4として説明する。時点X1は保圧工程ST4の開始時点であり、与圧センサ227により検出される圧力が保圧の設定圧力Ps1に到達した時点である。
【0083】
なお、第1時点は、時点X1に限定されない。例えば、第1時点は、グラフ線F3の立上りを検出した時点であってもよい。この場合、第1時点は、グラフ線F3の圧力が、保圧工程ST4における圧力の最大値の所定%(例えば、50%)を超える値となる時点となる。また、第1時点は、充填工程の開始時(すなわち、t=0)であってもよい。
【0084】
時点X2は、時点X1から所定時間t1後の時点である(X2=X1+t1)。また、時点X3は、時点X4よりも所定時間t2前の時点である(X3=X4-t2)。所定時間t1及び所定時間t2は、それぞれ時点X1から時点X4までの時間(X4-X1)よりも短い。このため、第1評価値A1を算出するための前半領域(X1~X2)の少なくとも一部は、第2評価値A2を算出するための後半領域(X3~X4)よりも前に位置する。また、後半領域の少なくとも一部は、前半領域よりも後に位置する。
【0085】
本実施形態において、所定時間t1及び所定時間t2は、それぞれ時点X1から時点X4までの時間(X4-X1)の半分以下である。このため、時点X2は、時点X1と時点X4の中間以前の時点となる。また、時点X3は、時点X1と時点X4の中間以降の時点となる。ゲート245の一時詰まりは、特に時点X1と時点X4の中間以前に詰まりが解消される場合に、圧力上昇の影響が前半部分に偏るため、ゲート245の一部詰まりと同じ方法では検出しにくくなる。
【0086】
本実施形態では、時点X2を時点X1と時点X4の中間以前の時点とし、時点X3を当該中間以降の時点とすることで、圧力上昇の影響が大きい領域と当該影響が小さい領域とをより確実に分けることができる。
【0087】
なお、図8(a)において、時点X2は、時点X3よりも前の時点であるが、これに限定されない。時点X2は、時点X3と同じ時点であってもよい。また、時点X2は、時点X3よりも後の時点であってもよい。この場合、前半領域と後半領域は、一部が重複する。
【0088】
時点X4は保圧工程ST4の終了時点であり、例えば、時点X1に予め制御部27に設定されている保圧時間を加算することで算出される。第4時点は、時点X4に限定されず、時点X4よりも前の時点であってもよい。但し、第4時点は、時点X2及び時点X3よりも後の時点である。
【0089】
このように、圧力センサ25から取得される圧力の時系列データに基づいて、第1評価値A1及び第2評価値A2を算出した後、図8(b)に示すように第1評価値A1及び第2評価値A2をプロットする。ゲート245に詰まりがない正常時のデータを複数プロットすると、正常時の散布図が描画される。そして、当該散布図に対して、原点を通る回帰直線L1(すなわち、A2=b×A1)と、上限直線Lmax(すなわち、A2=b×A1+α1)と、下限直線Lmin(すなわち、A2=b×A1-α1)を描画する。
【0090】
ここで、bは、正常時における第1評価値A1及び第2評価値A2の比の平均値(又は中央値)に相当する。圧力センサ25により検出される圧力の値は、成形材料のばらつき等によりばらつくため、第1評価値A1及び第2評価値A2も図8(b)に示すように様々な値をとる。しかしながら、第1評価値A1と第2評価値A2の比(すなわち、相対的な関係)はほとんど同じ値となる。このため、よりばらつきの少ない第1評価値A1と第2評価値A2の比により、比較を行う。
【0091】
また、切片となる±α1は、例えば第1評価値A1及び第2評価値A2の比の分布に基づいて適宜設定される値である。このため、正常時に算出される第1評価値A1及び第2評価値A2を図8(b)のグラフに新たにプロットすると(例えば、点P1)、上限直線Lmaxと下限直線Lminの間にプロットされる。言い換えると、算出された第1評価値A1及び第2評価値A2を図8(b)のグラフにプロットした際、上限直線Lmaxと下限直線Lminの間に収まれば、ゲート245には一時詰まりが生じなかったといえる。
【0092】
また、ゲート245に一時詰まりが生じた際に算出される第1評価値A1及び第2評価値A2を図8(b)のグラフに新たにプロットすると(例えば、点P2)、下限直線Lminよりも下側にプロットされる。言い換えると、算出された第1評価値A1及び第2評価値A2を図8(b)のグラフにプロットした際、下限直線Lminよりも下側にプロットされれば、ゲート245には一時詰まりが有ったといえる。
【0093】
以上に説明したように、発明者らは、鋭意研究の結果、ゲート245に一時詰まりが生じた場合、圧力センサ25により圧力を検出すると、保圧工程ST4の前半部分の方が後半部分よりも圧力の上昇の影響がより大きく現れることを発見した。そして、前半部分の圧力の時間積分を第1評価値A1により数値化し、後半部分の圧力の時間積分を第2評価値A2により数値化し、第1評価値A1と第2評価値A2の比(A2/A1)を算出すると、一時詰まりが生じた場合には、前半部分に圧力の上昇がある分だけ、当該比が減少することを発見した。このことから、発明者らは、当該比が所定値よりも減少するか否かに基づいて、ゲート245の一時詰まりを検出する発明を着想した。
【0094】
そこで、本実施形態に係る異常検出システム10では、学習装置30において、正常時における圧力センサ25の圧力に基づいて取得される第1評価値A1及び第2評価値A2と、ゲート245の詰まりとの相関関係を学習させた学習済みモデルTm1を生成し、異常検出装置40において学習済みモデルTm1と第1評価値A1及び第2評価値A2とに基づいて、ゲート245の詰まりを検出するための検出情報を取得する。以下、学習装置30及び異常検出装置40について説明する。
【0095】
<学習装置の説明>
図9は、本実施形態に係る学習装置30の機能構成を示すブロック図である。学習装置30は、訓練データ取得部31と、学習演算部32と、成形情報記憶部33と、学習済みモデル記憶部34とを有する。これらの各部は、CPU等の演算部とHDD等の記憶部とを有するコンピュータ装置により実現される。
【0096】
成形情報記憶部33には、各種の成形情報が記憶されている。成形情報は、例えば各種の第1情報と第2情報とを対応付けしたテーブル形式の情報である。例えば、第1情報が金型の種類である場合、第2情報には金型の各種寸法、キャビティC1の容積が含まれる。第1情報が成形材料の種類又はロット番号である場合、第2情報には成形材料の物性(粘度、含有水分等)が含まれる。
【0097】
訓練データ取得部31は、異常検出システム10の各部から訓練データに関する情報を取得する。訓練データは、ゲート情報と、当該ゲート情報にそれぞれ対応する成形情報、時点X1、第1評価値A1及び第2評価値A2とを含む。訓練データは、例えば学習対象の成形品を成形した際に、異常検出システム10の各部(例えば、圧力センサ25)において検出されるデータに基づいて取得される。
【0098】
ゲート情報は、ゲート245の詰まりに関する値であり、より具体的には、ゲート245の詰まり方を数値化した値である。例えば、全部詰まりを「3」、一部詰まりを「2」、一時詰まりを「1」、ゲート245に詰まりがない状態を「0」として数値化する。
【0099】
訓練データ取得部31は、作業者の入力によりゲート情報を取得する。例えば、学習装置30の学習のために、作業者は人為的にゲート245を詰まらせ、ゲート245の詰まり方について入力部50に入力する。これにより、訓練データ取得部31は、ゲート情報を取得する。
【0100】
また、訓練データ取得部31は、入力部50に作業者が入力する情報と、成形情報記憶部33とに基づいて、成形情報を取得する。例えば、学習対象の成形品を成形する際に、作業者は当該成形品に関する成形材料のロット番号を入力する。訓練データ取得部31は、当該ロット番号に対応する成形材料の物性(例えば、粘度)に関する成形情報を、成形情報記憶部33から取得する。
【0101】
成形装置20は、詰まりのないゲート245と、人為的に詰まらせたゲート245とを用いて、それぞれ成形品を複数回成形する。そして、訓練データ取得部31は、圧力センサ25において検出された圧力の時系列データに基づいて、ゲート情報が教師データとして付与された時点X1、第1評価値A1及び第2評価値A2を取得する。例えば、詰まりのないゲート245を用いて成形品を成形した際に取得された時点X1、第1評価値A1及び第2評価値A2には、ゲート情報として「0」が付与されている。
【0102】
また、訓練データ取得部31は、複数の環境値を、訓練データとしてさらに取得する。環境値は、例えば、学習対象の成形品を成形した際に、温度センサ26において検出された温度に関する値である。環境値は、学習対象の成形品を成形した際に、図示省略するその他のセンサ(例えば、湿度センサ)において検出された成形装置20の周辺及び成形装置20の内部の環境に関する値をさらに含んでいてもよい。
【0103】
訓練データ取得部31は、例えば学習対象の成形品を1個成形するごとに、1組の訓練データ(当該成形品の成形の際に取得されるゲート情報、成形情報、時点X1、第1評価値A1、第2評価値A2及び環境値のセット)を取得する。訓練データ取得部31は、学習対象の成形品を所定回数成形することで、所定回数分の複数組の訓練データを取得する。
【0104】
学習演算部32は、複数組の訓練データに基づいて、教師あり機械学習を行う演算をすることで、成形情報、時点X1、第1評価値A1、第2評価値A2及び環境値と、ゲート情報との相関関係をモデル化した学習済みモデルTm1を生成する。本実施形態では、機械学習モデルとして、畳み込みニューラルネットワーク(CCN:Convolutional Neural Network)を用いるが、その他のモデルを用いてもよい。例えば、データのグループ分けに関するモデルである回帰木モデルであってもよい。
【0105】
具体的には、学習済みモデルTm1を生成する際成形情報、時点X1、第1評価値A1、第2評価値A2及び環境値(これらの情報を「入力情報」と総称する。)を説明変数とし、ゲート情報を目的変数とすることで、入力情報とゲート情報との相関関係をモデル化する。すなわち、学習演算部32は、入力情報に入力した際に、当該入力情報に対応するゲート情報を出力層から出力するための中間層を構成する学習済みモデルTm1を生成する。
【0106】
ここで、学習済みモデルTm1の傾向について説明する。図6のグラフ線F0aに示すように、時点X1は、全部のゲート245が詰まっているときに正常時よりも早い時点となる傾向がある。このため、入力層に入力される時点X1の値が正常時の学習値よりも小さいと、出力層では、全部のゲート245が詰まっていることを示すゲート情報(上記の例では、「3」)の確度が高くなる。
【0107】
また、図6のグラフ線F2に示すように、第1評価値A1及び第2評価値A2(すなわち、保圧工程ST4の所定期間中の圧力の時間積分)は、一部のゲート245が詰まっているときに正常時よりも大きくなる傾向がある。このため、入力層に入力される第1評価値A1及び第2評価値A2の両方の値が正常時の学習値よりも大きいと、出力層では、一部のゲート245が詰まっていることを示すゲート情報(上記の例では、「2」)の確度が高くなる。
【0108】
さらに、図8(b)に示すように、第1評価値A1及び第2評価値A2の比(A2/A1)は、ゲート245に一時詰まりが生じたときに正常時よりも小さくなる傾向がある。このため、入力層に入力される第1評価値A1及び第2評価値A2の比が正常時の学習値よりも小さいと、出力層では、ゲート245に一時詰まりが生じたことを示すゲート情報(上記の例では、「1」)の確度が高くなる。
【0109】
そして、上記のいずれの傾向も有さず、正常時の学習値に近い値が入力層に入力された場合に、出力層では、ゲート245に詰まりがないことを示すゲート情報(上記の例では、「0」)の確度が高くなる。
【0110】
なお、学習済みモデルTm1を生成する際、入力情報には第1評価値A1及び第2評価値A2が含まれていればよく、時点X1、成形情報及び環境値が含まれていなくてもよい。但し、環境値及び成形情報のばらつきが大きい場合や、当該ばらつきによるゲート245の詰まり方への影響が大きい場合には、入力情報に対応するゲート情報をより正確に予測するために、学習済みモデルTm1を生成する際に入力情報に環境値及び成形情報を含ませることが好適である。
【0111】
ここで、時点X1は、主に、全てのゲート245が詰まっているか否かを示す値として学習される。全てのゲート245が詰まっていることは、成形装置20において成形品が成形されるか否かによって把握可能であるため、ゲート245の一部詰まり及び一時詰まりのみを異常検出システム10により検出させ、全部詰まりを検出させない場合、入力情報から時点X1を省いてもよい。
【0112】
学習演算部32により生成された学習済みモデルTm1は、学習済みモデル記憶部34に記憶される。学習済みモデル記憶部34に記憶された学習済みモデルTm1は、学習装置30に新たな情報が入力され、訓練データ取得部31において新たな訓練データが取得されると、当該訓練データの内容に応じて適宜更新される。また、学習済みモデルTm1は、学習装置30から後述の異常検出装置40へ送信され、異常検出装置40の学習済みモデル記憶部45にも記憶される。
【0113】
<学習済みモデルの生成方法>
次に、学習装置30による学習済みモデルTm1の生成方法について説明する。学習済みモデルTm1の生成方法は、訓練データ取得工程と、学習演算工程とを備える。これらの工程は、学習装置30を構成するコンピュータ装置が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0114】
はじめに、訓練データ取得工程が開始されると、訓練データ取得部31は、複数組の訓練データを取得する。例えば、作業者は人為的にゲート245を詰まらせ、ゲート245の詰まり方について入力部50に入力することで、訓練データ取得部31はゲート情報を取得する。そして、当該ゲート245を用いて成形品を成形し、その際に圧力センサ25により検出された圧力の時系列データに基づいて、当該ゲート情報に対応する時点X1、第1評価値A1及び第2評価値A2を取得する。以上により、訓練データ取得工程が終了する。
【0115】
次に、学習演算工程が開始されると、学習演算部32は、複数組の訓練データに基づいて入力情報とゲート情報との対応を学習し、学習済みモデルTm1を生成する。学習済みモデルTm1は学習済みモデル記憶部34、45に記憶される。以上により、学習演算工程が終了する。
【0116】
<異常検出装置の説明>
図10は、本実施形態に係る異常検出装置40の機能構成を示すブロック図である。異常検出装置40は、データ取得部41と、異常検出部42と、出力部43と、成形情報記憶部44と、学習済みモデル記憶部45とを有する。これらの各部は、CPU等の演算部とHDD等の記憶部とを有するコンピュータ装置により実現される。演算部は、記憶部に記憶されているプログラムに基づいて、後述のデータ取得処理と、異常検出処理とを実行する。
【0117】
成形情報記憶部44には、成形情報記憶部33と同様に、各種の第1情報と第2情報とを対応付けしたテーブル形式の成形情報が記憶されている。学習済みモデル記憶部45には、学習装置30により生成された学習済みモデルTm1が記憶されている。
【0118】
成形情報記憶部44及び学習済みモデル記憶部45は、コンピュータ装置のうち、学習装置30の成形情報記憶部33及び学習済みモデル記憶部34と同じ記憶領域により実現されてもよいし、別の記憶領域により実現されてもよい。すなわち、学習装置30及び異常検出装置40が、同じ成形情報記憶部33及び学習済みモデル記憶部34を共有するように構成されてもよいし、学習装置30及び異常検出装置40がそれぞれ独立した成形情報記憶部33、44及び学習済みモデル記憶部34、45を有するように構成されてもよい。
【0119】
データ取得部41は、異常検出システム10の各部から異常検出を行うための情報を取得するデータ取得処理を実行する。異常検出を行うための情報は、例えば検出対象の成形品を成形した際に取得される1組の時点X1、第1評価値A1、第2評価値A2、環境値及び成形情報(以下、これらの情報を「検出用データセット」と総称する。)である。
【0120】
異常検出部42は、学習済みモデルTm1へ、データ取得部41により取得された検出用データセットを入力する。これらの入力に基づいて、学習済みモデルTm1はゲート245の詰まりを検出するための検出情報D1を出力する。
【0121】
検出情報D1は、ゲート情報のそれぞれの確度を含む情報である。具体的には、検出情報D1は、ゲート245の全部詰まりが生じた確度である第1確度と、ゲート245の一部詰まりが生じた確度である第2確度と、ゲート245の一時詰まりが生じた確度である第3確度と、ゲート245に詰まりが生じなかった確度である第4確度と、を含む。一例として、学習済みモデルTm1に検出用データセットが入力されると、学習済みモデルTm1は第1確度が10%、第2確度が10%、第3確度が10%、第4確度が70%である検出情報D1を出力する。
【0122】
出力部43は、異常検出部42において取得された検出情報D1に基づいて、ゲート245に詰まり方を判定する。出力部43は、例えば、検出情報D1のうち、最も確度の高い詰まり方を、ゲート245の詰まり方の判定結果として取得する。例えば、上記の第1確度~第4確度のうち、第4確度が最も高い場合、出力部は「ゲート245に詰まりが生じなかった」ことを判定結果として取得する。
【0123】
出力部43は、判定結果を表示部60及び制御部271に出力する。表示部60には、判定結果が表示される。ゲート245に全部詰まり、一部詰まり又は一時詰まりが生じたと判定されている場合には、表示部60のディスプレイにおいて赤などの強調色により判定結果を表示し、スピーカにおいてアラートを発報するように構成してもよい。
【0124】
また、ゲート245に全部詰まり又は一部詰まりが生じたと判定されている場合、成形品を成形した後もゲート245が詰まったままになっている可能性が高い。このため、全部詰まり又は一部詰まりが生じたと判定されている場合、制御部271の動作指令により、詰まりが判定されたゲート245を含む成形装置20を、金型部24が開放した状態で停止させるように構成してもよい。この場合、作業者は表示部60によるアラート等に基づいて、金型部24を点検し、必要に応じて金型部24の清掃又は交換を行う。
【0125】
なお、本実施形態において、出力部43を設けずに、異常検出部42において得られた検出情報D1をそのまま表示部60に表示するように構成されてもよい。この場合、表示部60に表示された検出情報D1に基づいて、作業者がゲート245に詰まりがあるか否かを判断するようにしてもよい。
【0126】
<異常検出装置による異常検出方法>
次に、異常検出装置40による異常検出方法を説明する。異常検出方法は、データ取得工程と、異常検出工程とを備える。これらの工程は、異常検出装置40を構成するコンピュータ装置が所定のプログラムを実行することで実現される。
【0127】
データ取得工程が開始されると、データ取得部41は、検出対象の成形品を成形した際に取得される検出用データセットを取得する。以上により、データ取得工程が終了する。次に、異常検出工程が開始されると、異常検出部42は、検出用データセットを学習済みモデルTm1へ入力することで、検出情報D1を取得する。次に、出力部43は、検出情報D1に基づいて、判定結果を取得する。最後に、出力部43は、判定結果を表示部60及び制御部271に出力する。以上により、異常検出工程が終了する。
【0128】
<異常検出システムの作用・効果>
本実施形態に係る異常検出システム10は、圧力センサ25により検出される圧力の時系列データに基づいて第1評価値A1及び第2評価値A2を取得し、当該第1評価値A1及び第2評価値A2と学習済みモデルTm1に基づいてゲート245の詰まりを検出するための検出情報D1を取得する。
【0129】
このような構成により、学習済みモデルTm1が一旦生成された後は、成形装置20に設けられた各種のセンサ(圧力センサ25、与圧センサ227等)により取得される情報から、ゲート245の詰まりを検出することが可能となる。
【0130】
また、本実施形態に係る異常検出システム10は、第1評価値A1及び第2評価値A2とゲート情報との相関関係を機械学習させた学習済みモデルTm1へ第1評価値A1及び第2評価値A2を入力することで、検出情報D1を取得する。ここで、学習済みモデルTm1の説明変数は、第1評価値A1及び第2評価値A2を含み、学習済みモデルTm1の目的変数は、ゲート情報を含む。このように構成することで、成形条件にばらつきがある状態であっても、より正確にゲート245の詰まりを検出することができる。
【0131】
特に、従来の検出方法ではゲート245に一時詰まりが生じる場合を検出することができない。これに対し、本実施形態に係る異常検出システム10は、一時詰まりによる圧力上昇の影響が大きい領域(第1時点~第2時点)と、当該影響が小さい領域(第3時点~第4時点)とに分け、それぞれの領域における圧力の時間積分である第1評価値A1及び第2評価値A2に基づいて、ゲート245の詰まりを検出する。このため、従来検出できなかったゲート245の一時詰まりを検出することができ、より確実にゲート245の詰まりを検出することができる。
【0132】
<第2実施形態>
以上、第1実施形態に係る異常検出システムを説明した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、種々の変形を行うことができる。以下、本発明の第2実施形態に係る異常検出システム11について、説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態から変更のない部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0133】
図11は、第2実施形態に係る異常検出システム11を模式的に示すブロック図である。異常検出システム11は、複数の成形装置20と、異常検出装置40aと、入力部50と、表示部60とを備える。
【0134】
本実施形態において、異常検出システム11の異常検出装置40aは、第1評価値A1と第2評価値A2との比(A2/A1)が所定範囲を外れる場合に、ゲート245に一時的な詰まりがあることを検出する。すなわち、異常検出システム11は、学習済みモデルTm1を用いずに、比(A2/A1)と所定範囲との比較により異常を検出する点で、第1実施形態に係る異常検出システム10と相違する。
【0135】
図12は、本実施形態に係る異常検出装置40aの機能構成を示すブロック図である。異常検出装置40aは、データ取得部41と、異常検出部42aと、出力部43aと、成形情報記憶部44と、基準値記憶部46とを有する。これらの各部は、CPU等の演算部とHDD等の記憶部とを有するコンピュータ装置により実現される。データ取得部41は、第1実施形態に係るデータ取得部41と同様に、第1評価値A1及び第2評価値A2を取得する。
【0136】
基準値記憶部46には、所定範囲が記憶されている。所定範囲は、複数のゲート245のいずれにも詰まりがないときに取得される第1評価値A1及び第2評価値A2の比に基づいて規定される範囲である。所定範囲は、例えば、図8(b)に示す上限直線Lmax及び下限直線Lminにより規定される範囲である。
【0137】
異常検出部42aは、データ取得部41により取得された第1評価値A1及び第2評価値A2と、基準値記憶部46に記憶されている所定範囲とを比較することで、ゲート245の詰まりを検出するための検出情報D2を取得する。検出情報D2は、例えば、第2評価値A2と、第1評価値A1に対応する下限直線Lmin上の点Lmin(A1)との差(A2-Lmin(A1))である。
【0138】
出力部43aは、異常検出部42aにおいて取得された検出情報D2に基づいて、ゲート245に一時的な詰まりがあるか否かを判定する。例えば、検出情報D2が上記の差(A2-Lmin(A1))である場合、出力部43aは、検出情報D2が負の値であるときに(すなわち、第1評価値A1及び第2評価値A2をプロットした点が、下限直線Lminよりも下側に位置する場合に)、ゲート245に一時的な詰まりがあると判定する。出力部43aは、判定結果を表示部60及び制御部271に出力する。
【0139】
なお、本実施形態において、出力部43aを設けずに、異常検出部42aにおいて得られた検出情報D2をそのまま表示部60に表示するように構成されてもよい。この場合、表示部60に表示された検出情報D2に基づいて、作業者がゲート245の詰まりを判断するようにしてもよい。
【0140】
本実施形態に係る異常検出システム11によれば、第1評価値A1及び第2評価値A2と、所定範囲との比較により、ゲート245の一時的な詰まりを容易に検出することができる。
【0141】
<その他>
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の異常検出システムは、図示する形態に限られず、本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0142】
10 異常検出システム 11 異常検出システム 20 成形装置
21 ベッド 22 射出部 221 ホッパ
222 シリンダ 223 スクリュ 224 ノズル
225 ボールねじ 226 モータ 227 与圧センサ
228 移動量センサ 229 ヒータ 23 型締め部
231 固定盤 231a 貫通孔 232 可動盤
232a 貫通孔 233 タイバー 234 ボールねじ
235 支持盤 236 型締め力センサ 237 モータ
24 金型部 241 金型 242 金型
243 スプール 243a 端部 243b 端部
244 ランナー 245 ゲート 25 圧力センサ
26 温度センサ 27 制御盤 271 制御部
272 通信部 30 学習装置 31 訓練データ取得部
32 学習演算部 33 成形情報記憶部
34 学習済みモデル記憶部 40 異常検出装置 40a 異常検出装置
41 データ取得部 42 異常検出部 42a 異常検出部
43 出力部 43a 出力部 44 成形情報記憶部
45 学習済みモデル記憶部 46 基準値記憶部 50 入力部
60 表示部 C1 キャビティ GT1~GT4 ゲート
X1 時点(第1時点) X2 時点(第2時点) X3 時点(第3時点)
X4 時点(第4時点) Fm1 異物 A1 第1評価値
A2 第2評価値 D1 検出情報 D2 検出情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12