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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241112BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20241112BHJP
   H01G 11/80 20130101ALI20241112BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241112BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01G11/68
H01G11/80
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/66 A
H01M50/103
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020207815
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094745
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 夕紀
(72)【発明者】
【氏名】河端 栄克
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/136971(WO,A1)
【文献】特開2015-065229(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031642(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/041849(WO,A1)
【文献】特開2020-177761(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208531(WO,A1)
【文献】特開2019-192590(JP,A)
【文献】特開2013-084410(JP,A)
【文献】特開2012-221608(JP,A)
【文献】特開2014-175247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/66
H01G 11/80
H01G 11/68
H01M 50/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1集電体の第1面に第1活物質層が形成された第1電極と、
第2集電体の第1面に第2活物質層が形成されてなり、前記第2活物質層が前記第1電極の前記第1活物質層と対向するように配置された第2電極と、
前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に配置されたセパレータと、
前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面の間に配置されるスペーサとを備え、
前記スペーサは、前記第1活物質層及び前記第2活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面に接着されることにより前記第1電極と前記第2電極との間に密閉空間を形成し、
前記第1活物質層は、積層方向から見た平面視の形状が矩形状であり、
前記第1集電体の前記第1面における前記スペーサが接着されていない領域には、前記第1活物質層が形成されている領域と、前記第1活物質層が形成されていない領域とが設けられ、
前記平面視における前記第1活物質層の長辺の長さをL1とし、前記スペーサと前記第1活物質層との間の長さであって、前記第1活物質層の長辺と平行な方向の長さをL2としたとき、比率(L2/L1)が0.02以下である蓄電装置であって、
前記第1活物質層の少なくとも一つの角部は、弧状に面取りされた形状であり、当該角部における曲率が最大の部分の曲率半径は、10mm以上であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
第1集電体の第1面に第1活物質層が形成された第1電極と、
第2集電体の第1面に第2活物質層が形成されてなり、前記第2活物質層が前記第1電極の前記第1活物質層と対向するように配置された第2電極と、
前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に配置されたセパレータと、
前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面の間に配置されるスペーサとを備え、
前記スペーサは、前記第1活物質層及び前記第2活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面に接着されることにより前記第1電極と前記第2電極との間に密閉空間を形成し、
前記密閉空間には、液体電解質が収容されており、
前記第1活物質層は、積層方向から見た平面視の形状が矩形状であり、
前記第1集電体の前記第1面における前記スペーサが接着されていない領域には、前記第1活物質層が形成されている領域と、前記第1活物質層が形成されていない領域とが設けられ、
前記平面視における前記第1活物質層の長辺の長さをL1とし、前記スペーサと前記第1活物質層との間の長さであって、前記第1活物質層の長辺と平行な方向の長さをL2としたとき、比率(L2/L1)が0.02以下である蓄電装置であって、
前記第1活物質層の少なくとも一つの角部は、弧状に面取りされた形状であり、当該角部における曲率が最大の部分の曲率半径は、5mm以上であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
前記第1活物質層の少なくとも一つの角部は、外側に凸となる弧状である請求項1又は請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記曲率半径は、30mm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記第1集電体は、銅箔であり、前記第1活物質層は、炭素系の活物質を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、個々に作製された複数の蓄電セルを直列に積層することにより構成される扁平型の蓄電装置が開示されている。上記蓄電セルは、樹脂集電体の片面の中央部に正極活物質層が形成されてなる正極と、樹脂集電体の片面の中央部に負極活物質層が形成されてなり、負極活物質層が正極の正極活物質層と向かい合うように配置された負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備えている。
【0003】
さらに、上記蓄電セルは、樹脂集電体の外周部に配置され、積層方向に隣り合う樹脂集電体の間を液密に封止するシール部を備えている。シール部は、樹脂集電体間の間隔を保持して樹脂集電体間の短絡を防止するとともに、樹脂集電体間を液密に封止して電解質を収容する密閉空間を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-175778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の正極と負極とをセパレータを介して積層した積層型の蓄電セルを高容量化する方法として、活物質層の面積を大きくする方法が考えられる。この場合、蓄電セルの扁平形状を維持しつつ、蓄電セルを高容量化することができる。
【0006】
しかしながら、正極と負極との間に密閉空間を形成するシール部が接着されている蓄電セルに対して、活物質層の面積を大きくする構成を適用した場合、集電体に皺や破れが生じやすくなる。詳述すると、密閉空間を形成するシール部が設けられている蓄電セルの集電体は、活物質層が接着されている部分の周囲がシール部により固定されている。この場合、集電体における変形を許容できる部分は、活物質層が接着している部分とシール部が接着している部分との間に位置する未接着部のみになる。そのため、蓄電セルの充放電時における活物質層の膨張収縮に伴って、集電体における活物質層が接着している部分が伸縮すると、未接着部にて局所的な変形が繰り返される。具体的には、活物質層の膨張による未接着部の撓みや折れ曲がりと、活物質層の収縮による、撓んだ部分や折れ曲がった部分の引き伸ばしとが繰り返される。
【0007】
ここで、蓄電セルを高容量化するために活物質層の面積を大きくすると、活物質層の面積の増大に伴って充放電時における活物質層の膨張量が増大し、活物質層の膨張収縮に伴う未接着部の変形量も大きくなる。その結果、活物質層の膨張収縮により未接着部に作用する負荷が大きくなり、未接着部に皺や破れが生じやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する蓄電装置は、第1集電体の第1面に第1活物質層が形成された第1電極と、第2集電体の第1面に第2活物質層が形成されてなり、前記第2活物質層が前記第1電極の前記第1活物質層と対向するように配置された第2電極と、前記第1活物質層と前記第2活物質層との間に配置されたセパレータと、前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面の間に配置されるスペーサとを備え、前記スペーサは、前記第1活物質層及び前記第2活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記第1集電体及び前記第2集電体の各第1面に接着されることにより前記第1電極と前記第2電極との間に密閉空間を形成し、前記第1活物質層は、積層方向から見た平面視の形状が矩形状であり、前記第1集電体の前記第1面における前記スペーサが接着されていない領域には、前記第1活物質層が形成されている領域と、前記第1活物質層が形成されていない領域とが設けられ、前記平面視における前記第1活物質層の長辺の長さをL1とし、前記スペーサと前記第1活物質層との間の長さであって、前記第1活物質層の長辺と平行な方向の長さをL2としたとき、比率(L2/L1)が0.02以下である蓄電装置であって、前記第1活物質層の少なくとも一つの角部は、弧状に面取りされた形状であり、当該角部における曲率が最大の部分の曲率半径は、5mm以上である。
【0009】
本発明者らは、平面視矩形状の活物質層の面積を増大させた場合に、集電体におけるスペーサが接着されていない領域かつ活物質層も形成されていない領域である未接着部に生じる皺や破れは、活物質層の角部の先端の付近に集中することを見出した。上記構成によれば、第1電極における平面視矩形状の第1活物質層の角部を弧状に面取りされた形状としている。この場合、第1活物質層の膨張時において、第1活物質層の角部の先端への応力の集中が緩和されることにより、第1活物質層の角部から第1集電体の未接着部へ伝わる応力が広範囲に分散される。その結果、第1活物質層の膨張時に第1集電体の未接着部に生じる最大ひずみを小さくすることができ、未接着部に生じる皺及び破れを抑制できる。
【0010】
前記第1活物質層の少なくとも一つの角部は、外側に凸となる弧状であることが好ましい。
上記構成によれば、突出した角部分が形成されないことにより、第1活物質層の膨張の応力が角部の一部に集中することを抑制できる。そのため、第1集電体の未接着部に生じる皺及び破れを抑制できる効果がより顕著に得られる。また、角部をC面取りした形状と比較して、角部を面取りすることによる第1活物質層の面積の減少量を小さく抑えることができ、第1電極の容量低下を抑制できる。
【0011】
前記曲率半径は、10mm以上であることが好ましい。
上記構成によれば、第1集電体の未接着部に生じる最大ひずみを更に小さくできる。
前記曲率半径は、30mm以下であることが好ましい。
【0012】
弧状に面取りされた形状の角部の曲率半径を大きくすることにより、第1集電体の上記範囲に生じる最大ひずみを小さくする効果は、曲率半径30mmを超えると収束する。したがって、上記構成によれば、弧状に面取りされた形状の角部が必要以上に大きく形成されて第1活物質層の面積が小さくなることによる第1電極の容量低下を抑制できる。
【0013】
前記第1集電体は、銅箔であり、前記第1活物質層は、炭素系の活物質を含むことが好ましい。
充放電時の膨張率の大きい炭素系の活物質を含む第1活物質層と、銅箔とを組み合わせた構成は、充放電時における第1活物質層の膨張収縮により、第1集電体に皺や破れが特に生じやすい。そのため、第1活物質層の角部を特定形状とすることによる上記の効果がより顕著に得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、隣り合う集電体の間を封止する部材によって密閉空間が形成されている蓄電装置において、活物質層の面積を増大させた場合に生じる集電体の皺及び破れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】蓄電装置の断面図。
図2】負極電極の平面図。
図3】シミュレーション試験の結果を示すグラフ。
図4】(a)は、楕円弧状の角部、(b)は、複数の曲線部分が直接繋がれた形状の角部、(c)は、直線部分を介して複数の曲線部分が繋がれた形状の角部。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示す蓄電装置10は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。蓄電装置10は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよい。本実施形態では、蓄電装置10がリチウムイオン二次電池である場合を例示する。
【0017】
図1に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電セル20が積層方向にスタック(積層)されたセルスタック30(積層体)を含んで構成されている。以下では、複数の蓄電セル20の積層方向を単に積層方向という。各蓄電セル20は、正極21と、負極22と、セパレータ23と、スペーサ24とを備える。
【0018】
正極21は、正極集電体21aと、正極集電体21aの第1面21a1に設けられた正極活物質層21bとを備える。積層方向から見た平面視(以下、単に平面視という。)において、正極活物質層21bは、正極集電体21aの第1面21a1の中央部に形成されている。平面視における正極集電体21aの第1面21a1の周縁部は、正極活物質層21bが設けられていない正極未塗工部21cとなっている。正極未塗工部21cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。
【0019】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの第1面22a1に設けられた負極活物質層22bとを備える。平面視において、負極活物質層22bは、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。平面視における負極集電体22aの第1面22a1の周縁部は、負極活物質層22bが設けられていない負極未塗工部22cとなっている。負極未塗工部22cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。正極21及び負極22は、正極活物質層21b及び負極活物質層22bが積層方向において互いに対向するように配置されている。つまり、正極21及び負極22の対向する方向は積層方向と一致している。負極活物質層22bは、正極活物質層21bと同等の大きさに形成されるか、もしくは、正極活物質層21bよりも一回り大きく形成されている。負極活物質層22bが、正極活物質層21bよりも一回り大きく形成されている場合、平面視において、正極活物質層21bの形成領域の全体が負極活物質層22bの形成領域内に位置している。
【0020】
正極集電体21aは、第1面21a1とは反対側の面である第2面21a2を有する。正極21は、正極集電体21aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。負極集電体22aは、第1面22a1とは反対側の面である第2面22a2を有する。負極22は、負極集電体22aの第2面22a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。
【0021】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に配置されて、正極21と負極22とを隔離することで両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。
【0022】
セパレータ23は、例えば、電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ23を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン及びポリエチレンといったポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ23は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0023】
スペーサ24は、正極21の正極集電体21aの第1面21a1と、負極22の負極集電体22aの第1面22a1との間、かつ正極活物質層21b及び負極活物質層22bよりも外周側に配置され、正極集電体21a及び負極集電体22aの両方に接着されている。スペーサ24は、正極集電体21aと負極集電体22aとの間隔を保持して集電体間の短絡を防止するとともに集電体間を液密に封止している。
【0024】
スペーサ24は、平面視において、正極集電体21a及び負極集電体22aの周縁部に沿って延在するとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に形成されている。スペーサ24は、正極集電体21aの第1面21a1の正極未塗工部21cと、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cとの間に配置されている。
【0025】
スペーサ24を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、変性ポリエチレン(変性PE)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリプロピレン(変性PP)、ABS樹脂、AS樹脂などの種々の樹脂材料が挙げられる。
【0026】
蓄電セル20の内部には、枠状のスペーサ24、正極21及び負極22によって囲まれた密閉空間Sが形成されている。密閉空間Sには、セパレータ23及び電解質が収容されている。なお、セパレータ23の周縁部分は、スペーサ24に埋まった状態とされている。
【0027】
電解質としては、例えば、液体電解質、ポリマーマトリックス中に保持された電解質を含む高分子ゲル電解質が挙げられる。液体電解質としては、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。電解質塩として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0028】
スペーサ24は、正極21及び負極22との間の密閉空間Sを封止することにより、密閉空間Sに収容された電解質の外部への漏出を抑制し得る。また、スペーサ24は、蓄電装置10の外部から密閉空間S内への水分の侵入を抑制し得る。さらに、スペーサ24は、例えば、充放電反応等により正極21又は負極22から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを抑制し得る。
【0029】
図2は、負極集電体22aの第1面22a1における負極活物質層22b及びスペーサ24の配置、並びに負極活物質層22b及びスペーサ24の平面視形状を示している。負極活物質層22bは、平面視矩形状であり、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。負極集電体22aの第1面22a1における負極活物質層22bが設けられていない外周部分が負極未塗工部22cである。
【0030】
スペーサ24は、内周縁及び外周縁が矩形状である平面視矩形枠形状であり、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cに接着されている。スペーサ24の矩形状の内周縁は、矩形状の負極活物質層22bよりも大きく形成されており、負極集電体22aの負極未塗工部22cには、スペーサ24が接着されていない負極未接着部22c1が形成されている。換言すると、負極集電体22aの第1面22a1におけるスペーサ24が接着されていない領域には、負極活物質層22bが形成されている領域と、負極活物質層22bが形成されていない領域とが設けられ、この負極活物質層22bが形成されていない領域が負極未接着部22c1となる。
【0031】
スペーサ24の矩形状の内周縁を構成する各辺はそれぞれ、負極活物質層22bにおける対向する辺と平行である。したがって、負極未接着部22c1は、内周縁及び外周縁が矩形状である平面視矩形枠形状である。
【0032】
ここで、平面視における負極活物質層22bの長辺の長さをL1とし、スペーサ24と負極活物質層22bとの間の長さであって、負極活物質層22bの長辺と平行な方向の長さを負極未接着部22c1の幅L2とする。この場合、負極活物質層22bの長辺の長さL1に対する負極未接着部22c1の幅L2の比率(L2/L1)は、0.02以下であり、好ましくは0.01以下である。また、当該比率(L2/L1)は、例えば、0.002以上である。
【0033】
上記の比率(L2/L1)の数値は、負極集電体22aの第1面22a1に占める負極活物質層22bの形成範囲の割合が大きく、負極未接着部22c1の形成範囲が負極活物質層22bの形成範囲に対して相対的に小さいことを意味する。詳述すると、まず、搭載スペース等の蓄電装置10の用途に基づいて負極集電体22aの第1面22a1の面積が設定された後、密閉空間Sのシール性を確保するために、枠状のスペーサ24が接着される領域が設定される。次いで、負極集電体22aの第1面22a1におけるスペーサ24が接着される領域の内側に位置する領域に対して、負極未接着部22c1及び負極活物質層22bの形成範囲を設定する。このとき、充放電時に発生するガスを受け入れる余剰空間が密閉空間S内に形成されるように、負極集電体22aの第1面22a1に負極未接着部22c1を確保しつつ、電池容量(負極容量)を可能な限り大きくするように、負極活物質層22bの形成範囲が設定される。
【0034】
負極活物質層22bの長辺の長さL1は、好ましくは800mm以上であり、より好ましくは1000mm以上である。また、長辺の長さL1は、好ましくは2500mm以下であり、より好ましくは1600mm以下である。負極未接着部22c1の幅L2は、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。負極未接着部22c1の幅L2は、例えば、30mm以下である。なお、負極活物質層22bの平面視形状が正方形である場合、正方形の対向する二組の辺のいずれか一方を長辺とみなす。
【0035】
図示は省略するが、正極集電体21aの第1面21a1における正極活物質層21b及びスペーサ24の配置、並びに正極活物質層21b及びスペーサ24の平面視形状も上述した負極22の構成と同様である。
【0036】
詳述すると、正極活物質層21bは、平面視矩形状であり、正極集電体21aの第1面21a1の中央部に接着されている。正極集電体21aの第1面21a1における正極活物質層21bが設けられていない外周部分が正極未塗工部21cである。正極未塗工部21cには、スペーサ24が接着されていない正極未接着部21c1(図示略)が形成されている。スペーサ24の矩形状の内周縁を構成する各辺は、正極活物質層21bにおける対向する辺と平行である。したがって、正極未接着部21c1は、内周縁及び外周縁が矩形状である平面視矩形枠形状である。
【0037】
ここで、負極22と同様に、平面視における正極活物質層21bの長辺の長さをL1とし、スペーサ24と正極活物質層21bとの間の長さであって、正極活物質層21bの長辺と平行な方向の長さを正極未接着部21c1の幅L2とする。
【0038】
上記のとおり、正極活物質層21bは、負極活物質層22bと同等の大きさに形成されていてもよいし、負極活物質層22bよりも一回り小さく形成されていてもよい。
正極活物質層21bが負極活物質層22bと同等の大きさに形成されているとする。この場合、正極活物質層21bの長辺の長さL1に対する正極未接着部21c1の幅L2の比率(L2/L1)は、0.02以下であり、好ましくは0.01以下である。また、当該比率(L2/L1)は、例えば、0.002以上である。正極活物質層21bの長辺の長さL1は、好ましくは800mm以上であり、より好ましくは1000mm以上である。また、長辺の長さL1は、好ましくは2500mm以下であり、より好ましくは1600mm以下である。正極未接着部21c1の幅L2は、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。正極未接着部21c1の幅L2は、例えば、30mm以下である。なお、正極活物質層21bの平面視形状が正方形である場合、正方形の対向する二組の辺のいずれか一方を長辺とみなす。
【0039】
次に、正極活物質層21bが負極活物質層22bよりも一回り小さく形成されているとする。この場合、正極活物質層21bの長辺の長さL1は、負極活物質層22bの長辺の長さL1よりも短くなる。正極未接着部21c1の幅L2は、正極活物質層21bの長辺の長さL1が短くなった分に応じて、負極未接着部22c1の幅L2よりも長くなる。
【0040】
この場合の正極活物質層21bの長辺の長さL1、正極未接着部21c1の幅L2、比率(L2/L1)の各範囲は、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが同等の大きさである場合の各範囲と比較して、正極活物質層21bの長辺の長さL1が短くなった分に応じてシフトする。具体的には、正極活物質層21bの長辺の長さL1の範囲は、小さい値を取る方向にシフトし、正極未接着部21c1の幅L2は、大きい値を取る方向にシフトし、比率(L2/L1)の範囲は、大きい値を取る方向にシフトする。
【0041】
平面視において矩形状をなす正極活物質層21b及び負極活物質層22bはそれぞれ、4個の角部Cを有している。図2では、負極活物質層22bのみを図示している。各角部Cは、弧状に面取りされた形状に形成されている。
【0042】
弧状に面取りされた形状としては、例えば、曲率が一定の弧状である円弧状、曲率が徐々に変化する弧状である楕円弧状、及び円弧又は楕円弧からなる複数の曲線部分が直接又は直線部分を介して繋がれた形状が挙げられる。
【0043】
円弧状としては、例えば、外側に凸となる円弧状、内側に凸となる円弧状が挙げられる。図2では、一例として、外側に凸となる円弧状の角部Cを図示している。
楕円弧状としては、例えば、外側に凸となる楕円弧状、内側に凸となる楕円弧状が挙げられる。図4(a)に、外側に凸となる楕円弧状の角部Cを図示する。
【0044】
図4(b)は、複数の曲線部分が繋がれた形状の一例として、外側に凸となる二つの円弧X1、X2が繋がれた形状の角部Cを示している。なお、複数の曲線部分が繋がれた形状において、繋ぎ合わされる曲線部分の数は特に限定されるものではない。複数の曲線部分を構成する各円弧又は楕円弧の長さ、各円弧又は楕円弧の曲率は、それぞれ同じであってもよいし、一部又は全てが異なっていてもよい。また、一部の曲線部分は、内側に凸となる弧状であってもよい。
【0045】
図4(c)は、直線部分を介して複数の曲線部分が繋がれた形状の一例として、外側に凸となる二つの円弧X1、X2が一つの直線Y1で繋がれた形状の角部Cを示している。直線Y1は、円弧X1の直線Y1との接続点P1における接線であるとともに、円弧X2の直線Y1との接続点P2における接線である。
【0046】
直線部分を介して複数の曲線部分が繋がれた形状において、繋ぎ合わされる曲線部分及び直線部分の数は特に限定されるものではない。複数の円弧又は楕円弧を繋いだ形状を構成する各円弧又は楕円弧の長さ、各円弧又は楕円弧の曲率は、それぞれ同じであってもよいし、一部又は全てが異なっていてもよい。円弧又は楕円弧を繋ぐ直線は、円弧又は楕円弧の接続点における接線に限定されない。
【0047】
複数の曲線部分が直接又は直線部分を介して繋がれた形状は、角部Cが設けられる活物質層の長辺に繋がる曲線部分と、短辺に繋がる曲線部分とを含む複数の曲線部分が直接又は直線部分を介して繋がれた形状であることが好ましい。また、複数の曲線部分が直接又は直線部分を介して繋がれた形状は、外周側に突出する角部が形成されないように繋がれた形状であることが好ましい。
【0048】
弧状の角部Cにおける曲率が最大の部分の曲率半径は、5mm以上であり、好ましくは10mm以上である。また、上記曲率半径は、好ましくは30mm以下であり、より好ましくは20mm以下である。
【0049】
弧状に面取りされた形状の角部Cの形成範囲であって、角部Cが設けられる活物質層の長辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A1は、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。形成範囲A1は、例えば、30mm以下である。角部Cが設けられる活物質層の短辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A2は、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。形成範囲A2は、例えば、30mm以下である。外側に凸となる円弧状又は楕円弧の角部Cとする場合、角部Cの形成範囲は、例えば、円弧の中心角θが30度以上90度以下となる範囲であり、中心角θが90度となる範囲であることが好ましい。
【0050】
負極活物質層22bの各角部Cの形状は、上記の各数値を満たす範囲において、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。同様に、正極活物質層21bの各角部Cの形状は、上記の各数値を満たす範囲において、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
なお、本実施形態においては、負極22、負極集電体22a、及び負極活物質層22bがそれぞれ、第1電極、第1集電体、第1活物質層に相当する。そして、負極未接着部22c1が、第1集電体の第1面のスペーサが接着されていない領域における第1活物質層が形成されていない領域に相当する。また、正極21、正極集電体21a、及び正極活物質層21bがそれぞれ、第2電極、第2集電体、及び第2活物質層に相当する。
【0052】
図1に示すように、セルスタック30は、複数の蓄電セル20が、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とが電気的に接触するように直接又は間接的に重ね合わされた構造を有する。これにより、セルスタック30を構成する複数の蓄電セル20が直列に接続されている。
【0053】
ここで、セルスタック30においては、積層方向に隣り合う二つの蓄電セル20により、互いに接する正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極25が形成される。疑似的なバイポーラ電極25は、正極集電体21a及び負極集電体22aが重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方側の面に形成された正極活物質層21bと、他方側の面に形成された負極活物質層22bとを含む。
【0054】
蓄電装置10は、セルスタック30の積層方向においてセルスタック30を挟むように配置された、正極通電板40及び負極通電板50からなる一対の通電体を備える。正極通電板40及び負極通電板50は、それぞれ、導電性に優れた材料で構成される。
【0055】
正極通電板40は、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に電気的に接続される。負極通電板50は、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に電気的に接続される。
【0056】
正極通電板40及び負極通電板50のそれぞれに設けられた端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。正極通電板40を構成する材料としては、例えば、正極集電体21aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板40は、セルスタック30に用いられた正極集電体21aよりも厚い金属板で構成してもよい。負極通電板50を構成する材料としては、例えば、負極集電体22aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板50は、セルスタック30に用いられた負極集電体22aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0057】
次に、正極集電体21a、負極集電体22a、正極活物質層21b、及び負極活物質層22bの詳細について説明する。
<正極集電体及び負極集電体>
正極集電体21a及び負極集電体22aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21b及び負極活物質層22bに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。正極集電体21a及び負極集電体22aは、箔状である。箔状の正極集電体21a及び負極集電体22aの厚さはそれぞれ独立して、例えば、1μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上60μm以下である。正極集電体21a及び負極集電体22aを構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料等を用いることができる。
【0058】
上記金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。
【0059】
正極集電体21a及び負極集電体22aの一方又は両方は、前述した金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。正極集電体21a及び負極集電体22aの一方又は両方の表面は、公知の保護層により被覆されてもよい。正極集電体21a及び負極集電体22aの一方又は両方の表面は、メッキ処理等の公知の方法により表面処理されていてもよい。上記表面処理としては、例えば、クロメート処理、リン酸クロメート処理が挙げられる。
【0060】
正極集電体21a及び負極集電体22aの好ましい一例としては、正極集電体21aをアルミニウム箔により構成するとともに、負極集電体22aを銅箔により構成した場合が挙げられる。
【0061】
<正極活物質層及び負極活物質層>
正極活物質層21bは、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、ポリアニオン系化合物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。本実施形態において、正極活物質層21bはポリアニオン系化合物としてのオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)を含む。
【0062】
負極活物質層22bは、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金、又は、化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質として、Li、炭素系の活物質、金属化合物、及びリチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素系の活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、及びソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)等が挙げることができる。人造黒鉛としては、例えば、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素としては、シリコン(ケイ素)やスズ等が挙げられる。本実施形態において、負極活物質層22bは炭素系の活物質を含む。
【0063】
正極活物質層21b及び負極活物質層22b(以下、単に活物質層ともいう。)はそれぞれ、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含み得る。活物質層に含まれる成分又は当該成分の配合比及び活物質層の厚さは特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0064】
導電助剤は、正極21又は負極22の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、及びデンプン-アクリル酸グラフト重合体等を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0065】
活物質層の厚さ及び目付量は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。ただし、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくする観点から、活物質層の厚さ及び目付量を大きくすることが好ましい。具体的には、正極活物質層21bの厚さは、例えば、100μm以上400μm以下であり、200μm以上であることが好ましい。正極活物質層21bの目付量は、例えば、40mg/cm以上80mg/cm以下であり、50mg/cm以上であることが好ましい。負極活物質層22bの厚さは、100μm以上400μm以下であり、200μm以上であることが好ましい。負極活物質層22bの目付量は、例えば、20mg/cm以上40mg/cm以下であり、25mg/cm以上であることが好ましい。
【0066】
正極集電体21a及び負極集電体22aの表面に活物質層を形成させる方法としては、例えば、ロールコート法等の従来から公知の方法が挙げられる。
正極21又は負極22の熱安定性を向上させるために、活物質層の表面に上記の耐熱層を設けてもよい。
【0067】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の蓄電装置10は、正極21と負極22との間に密閉空間Sを形成するスペーサ24が設けられており、負極集電体22aの第1面22a1の外周部分がスペーサ24により固定されている。また、負極集電体22aの第1面22a1において、中央部に接着される負極活物質層22bの形成範囲に対して、負極活物質層22bが形成される部分とスペーサ24が接着される部分との間に位置する負極未接着部22c1が大幅に小さくなっている。
【0068】
上記構成を採用している蓄電装置の場合、充放電時に負極活物質層22bが大きく面方向に膨張する一方で、負極活物質層22bに伴って変形する部分である負極未接着部22c1が小さいため、負極活物質層22bの膨張収縮に伴って負極未接着部22c1が大きく変形する。その結果、負極活物質層22bの膨張収縮により負極未接着部22c1に作用する負荷が大きくなり、負極未接着部22c1に皺や破れが生じやすくなる。
【0069】
特に、負極活物質層22bが平面視矩形状である場合、負極活物質層22bが膨張した際の負極活物質層22bの膨張の応力は角部Cの先端の一点に集中する。そのため、角部Cの先端の付近に位置する負極未接着部22c1に局所的に大きな負荷がかかり、当該部分に最も大きなひずみが生じる。
【0070】
そこで、本実施形態では、負極活物質層22bの角部Cを弧状に面取りされた形状に形成している。これにより、負極活物質層22bの膨張時において、負極活物質層22bの角部Cの先端への応力の集中が緩和され、角部Cから負極未接着部22c1へ伝わる応力が広範囲に分散される。その結果、負極活物質層22bの膨張時に負極未接着部22c1に生じる最大ひずみを小さくすることができ、負極未接着部22c1に生じる皺及び破れを抑制できる。なお、本実施形態においては、正極21についても同様に構成しており、同様のメカニズムによって正極未接着部21c1に生じる皺及び破れも抑制できる。
【0071】
ここで、集電体の厚さ及び活物質層の角部の形状と、1回の充放電により集電体に生じる最大ひずみとの関係について、コンピュータによるシミュレーションを行った。このシミュレーションに用いたモデル1~4の電極は、集電体として銅箔を用いるとともに、活物質として炭素系の活物質を用いた負極であり、その詳細な構成は、表1に示すとおりである。各モデルについて、活物質層の角部を円弧状とし、円弧状の角部の電極角R(曲率半径)を0,5,10,15,20,25,30mmに変化させた。また、集電体の未接着部の上記幅L2は、8mmとし、円弧状の角部の形成範囲はいずれも中心角θが90度となる範囲とした。そして、1回の充放電に伴う活物質層の面方向の膨張率を9%と仮定して、1回の充放電における最大箔ひずみを求めた。その結果を図3のグラフに示す。
【0072】
【表1】
図3を参照して、シミュレーション結果について考察する。集電体である銅箔の厚さのみが異なるモデル1,2,3の結果から、集電体の厚さが薄くなるにしたがって、集電体に生じる最大ひずみが大きくなることが分かる。また、活物質層の大きさのみが異なるモデル1,4の結果から、活物質層の大きさ(面積)が大きくなるにしたがって、即ち、集電体の長辺の長さに対する未接着部の幅が小さくなるにしたがって、集電体に生じる最大ひずみが大きくなることが分かる。こうした集電体の厚さが薄い場合、及び活物質層が大きい場合に集電体に生じる最大ひずみが大きくなる傾向は、活物質層の角部の形状にかかわらず共通している。
【0073】
モデル1~4のいずれにおいても、活物質層の角部が直角である場合(曲率半径0mm)と比較して、活物質層の角部を曲率半径5mmの円弧状とした場合には、集電体に生じる最大ひずみが小さくなる。そして、活物質層の角部を円弧状とした場合に集電体に生じる最大ひずみは、円弧状の角部の曲率半径が5mm、10mm、30mmと大きくなるにしたがって小さくなる。最大ひずみを減少させる効果は、曲率半径が0mmと5mmとの間、及び5mmと10mmとの間で顕著である。しかし、曲率半径が25~30mmの範囲においては、曲率半径を大きくすることによって最大ひずみを更に減少させる効果は殆どなくなる。
【0074】
したがって、最大ひずみを減少させる観点においては、円弧状の角部の曲率半径を5mm以上又は10mm以上とすることが有効であることが分かる。そして、電池容量を確保するために活物質層を大きく形成する観点においては、円弧状の角部の曲率半径を30mm以下とすることが有効であることが分かる。
【0075】
また、上記の結果に基づいて、1回の充放電における最大ひずみが、サイクル数と箔破れにどのように影響するかについてコンピュータを用いてシミュレーションを行なったところ、1回の充放電における最大ひずみを2.8%以下に抑えることができれば、自動車用蓄電装置などの一般的な蓄電装置のサイクル寿命である3000サイクルまで箔破れを抑制することができることがわかった。
【0076】
図3に示すシミュレーション結果を参照すると、円弧状の角部の曲率半径を5mm以上とした場合には、厚さ6μmの薄い銅箔を用いたモデル1,4においても、1回の充放電により生じる最大ひずみが2.8%以下に抑えられている。したがって、円弧状の角部の曲率半径を5mm以上とすることにより、一般的な蓄電装置のサイクル寿命である3000サイクルまで箔破れを抑制できるといえる。
【0077】
集電体として用いられる他の金属箔と比較して、銅箔は薄い厚さで用いられることが多い。また、ピンホールの抑制等の観点から銅箔は10μm以上の厚さで用いられることが多い。そのため、厚さ6μmの薄い銅箔を用いたモデル1,4において最大ひずみを十分に抑制する効果が得られたことは、他の材料からなる集電体を用いた場合にも、同様の効果が得られることを示唆する。
【0078】
本実施形態によれば、以下に記載する効果を得ることができる。
(1)蓄電装置10は、正極集電体21a及び正極活物質層21bを有する正極21と、負極集電体22a及び負極活物質層22bを有する負極22と、正極活物質層21bと負極活物質層22bとの間に配置されたセパレータ23と、正極21と負極22との間に配置されるスペーサ24とを備える。スペーサ24は、正極活物質層21b及び負極活物質層22bの周囲を囲むように配置されるとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの各第1面に接着されることにより正極21と負極22との間に密閉空間を形成する。負極活物質層22bは、積層方向から見た平面視の形状が矩形状である。負極集電体22aの第1面22a1におけるスペーサ24が接着されていない領域には、負極活物質層22bが形成されている領域と、負極活物質層22bが形成されていない負極未接着部22c1とが設けられている。平面視における負極活物質層22bの長辺の長さL1に対する負極未接着部22c1の幅L2の比率(L2/L1)が0.02以下である。負極活物質層22bの角部Cは、弧状に面取りされた形状であり、角部Cにおける曲率が最大の部分の曲率半径は、5mm以上である。
【0079】
上記構成によれば、負極活物質層22bの膨張時に負極未接着部22c1に生じる最大ひずみを小さくすることができ、負極未接着部22c1に生じる皺及び破れを抑制できる。正極21においても同様である。
【0080】
(2)負極活物質層22bの角部Cは、外側に凸となる弧状である。
上記構成によれば、突出した角部分が形成されないことにより、負極活物質層22bの膨張の応力が角部Cの一部に集中することを抑制できる。そのため、上記(1)の効果がより顕著に得られる。また、角部CをC面取りした形状と比較して、角部Cを面取りすることによる負極活物質層22bの面積の減少量を小さく抑えることができ、負極22の容量低下を抑制できる。
【0081】
なお、角部Cを円弧状とした場合には、楕円弧状とした場合と比較して、負極活物質層22bの膨張の応力の集中を抑制する効果が大きく得られる。また、角部Cを楕円弧状とした場合には、円弧状とした場合と比較して、角部Cを面取りすることによる負極活物質層22bの面積の減少量を小さく抑えることが可能である。例えば、負極活物質層22bの平面視形状が長辺及び短辺を有する矩形状である場合、膨張量が大きい方向である長辺に平行な方向の長さに合わせて円弧状の角部Cの形成範囲が設定される。この場合、曲率が一定である円弧状の角部Cを採用すると、長辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A1と短辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A2とが等しくなるため、短辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A2が必要以上に大きくなる。一方、図4(a)に示すような長辺側から短辺に向かって徐々に曲率が大きくなる楕円弧状の角部Cとした場合には、長辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A1よりも、短辺に平行な方向の角部Cの形成範囲A2を小さくできる。したがって、角部Cを面取りすることによる負極活物質層22bの面積の減少量を小さく抑えることができる。なお、(2)の効果は、正極21においても同様である。
【0082】
(3)角部Cの曲率半径は、10mm以上である。
上記構成によれば、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1に生じる最大ひずみを更に小さくできる。
【0083】
(4)角部Cの曲率半径は、30mm以下である。
角部Cの曲率半径を大きくすることにより、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1に生じる最大ひずみを小さくする効果は、曲率半径30mmを超えると収束する。したがって、上記構成によれば、弧状の角部Cを必要以上に大きく形成されて正極活物質層21b及び負極活物質層22bの面積が小さくなることによる正極21及び負極22の容量低下を抑制できる。
【0084】
(5)負極集電体22aは、銅箔であり、負極活物質層22bは、炭素系の活物質を含む。
充放電時の膨張率の大きい炭素系の活物質を含む負極活物質層22bと、銅箔とを組み合わせた構成は、充放電時における負極活物質層22bの膨張収縮により、負極集電体22aに皺や破れが特に生じやすい。そのため、上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0085】
(6)正極21と、負極22と、セパレータ23とが繰り返し積層された構造を有し、正極集電体21aにおける第1面21a1の反対側の第2面21a2と、負極集電体22aにおける第1面22a1の反対側の第2面22a2とが接触している。
【0086】
この場合、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1に皺が生じると、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触面積が低下して抵抗が増加するおそれがある。そのため、こうした構成に上記(1)の技術を適用した場合には、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1に生じる皺を抑制する効果に加えて、電池性能の低下を抑制する効果も得られる。
【0087】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○上記実施形態では、負極活物質層22bの4個の角部Cを全て弧状に面取りされた形状に形成していたが、負極活物質層22bの少なくとも一つの角部Cが弧状に面取りされた形状であればよい。なお、複数の角部Cを弧状に面取りされた形状とする場合、それらの形状は、それぞれ同じであってもよいし、一部又は全てが異なっていてもよい。
【0088】
○負極22が上記実施形態に記載した構成である場合、正極21の構成は上記実施形態の構成に限定されない。正極活物質層21bの形状、正極活物質層21bの長辺の長さL1に対する正極未接着部21c1の幅L2の比率、及び正極活物質層21bの角部Cの形状は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、従来公知の構成を適用できる。この場合、負極22が第1電極となる。
【0089】
○平面視における正極活物質層21b及び負極活物質層22bの大きさは同じであってもよい。
○正極通電板40と正極集電体21aとの間に、両部材間の導電接触を良好にするために、正極集電体21aに密着する導電層を配置してもよい。導電層としては、例えば、アセチレンブラック又はグラファイト等のカーボンを含む層、Au等を含むメッキ層などの正極集電体21aよりも低い硬度を有する層が挙げられる。また、負極通電板50と負極集電体22aとの間に同様の導電層を配置してもよい。
【0090】
〇蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は特に限定されない。蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は、1であってもよい。
〇正極集電体21aの第2面21a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。また、負極集電体22aの第2面22a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。
【0091】
○電極は、バイメタル等を用いて、正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体としたバイポーラ電極でもよい。
○セルスタック30において、積層方向に隣接する蓄電セル20同士の接触部分である正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを接着させた構成としてもよい。正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを接着する方法としては、例えば、導電性を有する接着剤を用いる方法が挙げられる。
【0092】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記正極と、前記負極と、前記セパレータとが繰り返し積層された構造を有し、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面と、前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触している前記蓄電装置。
【符号の説明】
【0093】
C…角部、S…密閉空間、10…蓄電装置、20…蓄電セル、21…正極、21a…正極集電体、21b…正極活物質層、21c1…正極未接着部、22…負極、22a…負極集電体、22b…負極活物質層、22c1…負極未接着部、23…セパレータ、24…スペーサ、30…セルスタック、40…正極通電板、50…負極通電板。
図1
図2
図3
図4