IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図1
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図2
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図3
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図4
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図5
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図6
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図7
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図8
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図9
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図10
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図11
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図12
  • 特許-ピストンおよびその製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ピストンおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20241112BHJP
   F16J 1/00 20060101ALI20241112BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F02F3/00 301B
F02F3/00 E
F02F3/00 G
F16J1/00
F16F15/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020211570
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098177
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-10-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】阪井 博行
(72)【発明者】
【氏名】市川 和男
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203409(JP,A)
【文献】特開2014-095297(JP,A)
【文献】特開2020-186722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F16J 1/00
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダ内に往復動可能に収容されかつコンロッドを介してクランクシャフトに連結されるピストンであって、
ピストン本体と、
前記ピストン本体の内部に形成された密閉された空洞部内に配置され、所定の周波数において前記ピストン本体と逆位相に振動する特性を有する動吸振器と、
前記空洞部内に封入され、前記ピストン本体の往復動時に摩擦熱を発生可能な粉体とを備え
前記動吸振器は、前記空洞部内に配置された質量体と、当該質量体を前記空洞部の壁面に結合する支持部とを有し、
前記支持部は、前記質量体が前記シリンダの軸方向に振動可能なように前記質量体を弾性的に支持している、ことを特徴とするピストン。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンにおいて、
前記質量体は、前記ピストン本体よりも密度の高い金属材料により構成されている、ことを特徴とするピストン。
【請求項3】
請求項2に記載のピストンにおいて、
前記ピストン本体は、前記シリンダの軸方向と直交する所定方向に延びるピストンピンを介して前記コンロッドの小端部と結合され、
前記支持部は、前記質量体から前記所定方向の一方側および他方側に延びて前記空洞部の壁面に固着される一対の脚部を有し、
一対の前記脚部は、前記質量体と一体の金属材料により構成されている、ことを特徴とするピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダ内に往復動可能に収容されかつコンロッドを介してクランクシャフトに連結されるピストンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内に往復動可能に収容されるピストンを備えたエンジン(レシプロエンジン)では、燃焼圧力を起振力とした振動がピストンからコンロッドを介してクランクシャフトに伝達され、さらにクランクシャフトの振動が軸受部等を介してシリンダブロック等の筐体に伝達される。エンジンが車載用エンジンである場合において、シリンダブロック等の筐体に大きな振動が生じると、その振動は車両に伝達されて車両の乗り心地を悪化させる。特に、近年のエンジンでは、熱効率の一層の向上を目的として、高圧縮比化やピストン等の部品の軽量化が図られているため、燃焼圧力に起因したエンジンの振動が増大し易くなっている。このため、車両の乗り心地を良好に維持する等の観点から、エンジンの振動低減を図るためのより有効な対策が求められている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ピストンとコンロッドの小端部とを連結する中空のピストンピンの内部にピンダンパを設けることが開示されている。ピンダンパは、ピストンピンの内部に圧入された固定部と、ピストンピンの内径よりも小さい外形を有する可動部と、可動部を固定部に対し径方向に振動可能に支持する支持部とを有している。このような構造のピンダンパは、ピストンの共振およびこれに基づくエンジンの振動を低減する機能を発揮するとされている。
【0004】
上記のようにピストンにピンダンパが追加された特許文献1では、ピンダンパの分だけピストンの重量が増加するため、軽量化による熱効率の向上効果が減損されかねない。そこで、例えば下記特許文献2に開示される吸振技術をピストンに適用することが提案される。
【0005】
具体的に、下記特許文献2には、エンジンのタイミングプーリに空洞部を形成し、形成した空洞部内に粉状体を配置することが開示されている。粉状体は、タイミングプーリの回転時に摩擦(粒子間の摩擦もしくは各粒子と空洞部の壁面との摩擦)による熱を発生させ、タイミングプーリの振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで振動を抑制する。そこで、これと同様の方法をピストンに適用し、ピストンの内部に形成した空洞部に粉状体を配置することが提案される。このようにすれば、重量の増分を少なくしながら、ピストンにおいて発生し得る比較的広い周波数範囲の振動を抑制できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-161322号公報
【文献】特開平6-288463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2を応用した後者の方法、つまりピストン内部の空洞部に粉状体を配置する方法では、比較的広い周波数範囲での振動低減効果は得られるものの、特定の周波数で生じるピストンの共振を十分に抑制することができない。特に、熱効率向上のために高圧縮比されたエンジンでは、燃焼圧力の増大によって共振のレベルが高まる傾向にある。このため、熱効率を向上しつつエンジンの低振動化を図るには、燃焼圧力に起因した共振を十分に抑制することが求められる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、広域での振動低減を図りながら特定の周波数での共振を十分に抑制することが可能なピストンおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンのシリンダ内に往復動可能に収容されかつコンロッドを介してクランクシャフトに連結されるピストンであって、ピストン本体と、前記ピストン本体の内部に形成された密閉された空洞部内に配置され、所定の周波数において前記ピストン本体と逆位相に振動する特性を有する動吸振器と、前記空洞部内に封入され、前記ピストン本体の往復動時に摩擦熱を発生可能な粉体とを備え、前記動吸振器は、前記空洞部内に配置された質量体と、当該質量体を前記空洞部の壁面に結合する支持部とを有し、前記支持部は、前記質量体が前記シリンダの軸方向に振動可能なように前記質量体を弾性的に支持している、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0010】
ピストン本体と、コンロッドのピストン本体側の端部(小端部)と、当該端部をピストン本体に結合する部品(例えばピストンピン)とを含む構造体をピストン構造体としたとき、このピストン構造体は、ピストン本体が往復動するエンジンの稼働時に、コンロッドのクランクシャフト側の端部(大端部)に対し振動し、その振動レベルは特定の共振周波数において極大化する性質がある(共振現象)。ピストン構造体の共振が起きると、比較的大きな振動がクランクシャフト等を通じてエンジンの筐体(シリンダブロック等)に伝達され、エンジン全体に不快な振動が生じる可能性がある。これに対し、本発明では、所定の周波数においてピストン本体と逆位相に振動することが可能な動吸振器がピストン本体の空洞部内に配置されるので、当該所定の周波数を上述した共振周波数に略一致させることにより、動吸振器によるダイナミックダンパ効果を効果的に発揮させることができ、ピストン構造体の共振を十分に抑制することができる。
【0011】
また、本発明では、空洞部内に粉体が封入されるので、ピストン構造体の振動時に、粉体の粒子どうしの摩擦および当該粒子と空洞部の壁面との摩擦による摩擦熱を発生させることができる。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、ピストン構造体の振動が低減される。しかも、このような摩擦熱による振動低減のメカニズムは、周波数依存性が低く、広範な周波数範囲においてピストン構造体の振動を低減させ得る。このことは、上述した動吸振器による共振抑制効果と相俟って、種々の周波数におけるエンジンの振動を十分に低減する効果をもたらし、非常に制振性に優れたエンジンを実現することを可能にする。
【0012】
さらに、本発明では、ピストン本体の内部に形成された空洞部に動吸振器および粉体が配置されるので、これら動吸振器および粉体を用いた振動低減を図りながらも、ピストン本体の重量を空洞部の形成により軽減することができ、ピストンの重量増加を全体として抑制することができる。
【0014】
また、動吸振器は、空洞部内に配置された質量体と、当該質量体を空洞部の壁面に結合する支持部とを有するので、空洞部内の質量体を支持部により安定的に支持しながら、エンジンの稼働時には質量体をシリンダ軸方向に振動させることができ、上述したダイナミックダンパ効果を効果的に発揮させることができる。
【0015】
好ましくは、前記質量体は、前記ピストン本体よりも密度の高い金属材料により構成される(請求項2)。
【0016】
この構成によれば、比較的密度の高い質量体の逆位相の振動により前記ピストン構造体の共振を効果的に抑制することができる。
【0017】
好ましくは、前記ピストン本体は、前記シリンダの軸方向と直交する所定方向に延びるピストンピンを介して前記コンロッドの小端部と結合され、前記支持部は、前記質量体から前記所定方向の一方側および他方側に延びて前記空洞部の壁面に固着される一対の脚部を有し、一対の前記脚部は、前記質量体と一体の金属材料により構成される(請求項3)。
【0018】
この構成によれば、例えばピストンの製造時に、質量体および支持部を包み込んだ中子を用いてピストン本体を鋳造することにより、質量体が空洞部内で弾性的に支持された構造を得ることができ、ダイナミックダンパ効果を発揮し得る上述した動吸振器を適切に実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、広域での振動低減を図りながら特定の周波数での共振を十分に抑制することが可能なピストンおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るピストンを備えたエンジンの断面図である。
図2】上記ピストンの斜視図である。
図3】上記ピストンの正面図である。
図4】上記ピストンの平面図である。
図5】上記ピストンの側面図である。
図6】上記ピストンの底面図である。
図7図3のVII-VII線に沿った上記ピストンの断面図である。
図8】ピストン本体の内部の空洞部を中子に代替して示す斜視図である。
図9】上記空洞部を中子に代替して示す正面図である。
図10】上記空洞部を中子に代替して示す平面図である。
図11】上記実施形態の構造により得られる振動低減効果を説明するための図であり、周波数に応じたピストン構造体の振動倍率の変化を示すグラフである。
図12】上記実施形態の変形例を説明するための図7相当図である。
図13】上記実施形態の他の変形例を説明するための図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)エンジンの構成
図1は、本発明の一実施形態に係るピストン1を備えたエンジンEの断面図である。本図に示されるエンジンEは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンである。このエンジンEは、シリンダ2を内部に備えるシリンダブロック3と、シリンダ2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下面に取り付けられ、当該シリンダブロック3と協働してクランク室17を形成するクランクケース5と、シリンダ2に往復動可能に挿入された上記ピストン1とを有している。
【0024】
ピストン1の上方には燃焼室7が画成されている。燃焼室7には、ガソリンを含有する燃料が図外のインジェクタからの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室7で空気と混合されつつ図外の点火プラグによる点火により燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン1が上下方向に往復動する。
【0025】
ピストン1の下方には、エンジンEの出力軸であるクランクシャフト8が設けられている。クランクシャフト8は、コンロッド(コネクティングロッド)9を介してピストン1と連結されている。詳しくは、コンロッド9の上側の端部である小端部9aがピストンピン6を介してピストン1に結合されるとともに、コンロッド9の下側の端部である大端部9bがクランクシャフト8に結合されることにより、ピストン1とクランクシャフト8とがコンロッド9を介して連結されている。ピストン1の往復運動(上下運動)は、コンロッド9により回転運動に変換された上でクランクシャフト8に伝達され、クランクシャフト8を中心軸回りに回転させる。
【0026】
シリンダヘッド4には、燃焼室7に空気を導入するための吸気ポート10と、燃焼室7で生成された排気ガスを導出するための排気ポート11と、吸気ポート10の燃焼室7側の開口を開閉する吸気弁12と、排気ポート11の燃焼室7側の開口を開閉する排気弁13とが設けられている。なお、本実施形態のエンジンEのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、シリンダヘッド4には、1つのシリンダ2に対し、図1の紙面に直交する方向に並ぶ2つの吸気ポート10および2つの排気ポート11が設けられるとともに、各ポートに対応した2つの吸気弁12および2つの排気弁13が設けられている。
【0027】
吸気弁12および排気弁13は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト8の回転に連動して開閉駆動される。
【0028】
シリンダブロック3の内部には、潤滑用のオイル(エンジンオイル)が流通するオイルギャラリ14が設けられている。シリンダブロック3の内壁にはオイルジェット15が取り付けられている。オイルジェット15は、その先端のノズル15aがピストン1の下方に位置するように配設されている。オイルジェット15は、図外のオイルポンプからオイルギャラリ14に送出されたオイルをノズル15aを通じてピストン1の下側から噴射する。
【0029】
(2)ピストンの構造
図2図7は、ピストン1の具体的構造を示す図であり、図2は斜視図、図3は正面図、図4は平面図、図5は側面図、図6は底面図、図7は断面図(図3のVII-VII線断面図)である。なお、ピストン1に関する以下の説明において、「上下方向」はシリンダ2の中心軸の方向(シリンダ軸方向)と同義であり、燃焼室7側が「上」、その反対側(クランク室17側)が「下」である。また、「前後方向」とはクランクシャフト8の軸方向と平行な方向のことであり、その一方側を「前」、他方側を「後」とする。さらに、「左右方向」とは「上下方向」および「前後方向」の双方に直交する方向のことであり、その一方側を「左」、他方側を「右」とする。この場合、左側は排気側から吸気側を向く側であるから、左側は吸気側と同義である。また、右側は吸気側から排気側を向く側であるから、右側は排気側と同義である。図中において、「左」「右」の表記に括弧付きで「IN」「EX」を併記しているのはこのためである。
【0030】
ピストン1は、ピストン本体20と、ピストン本体20の内部に配置された動吸振器50および粉体60(図7)とを備える。
【0031】
ピストン本体20は、ピストンヘッド21と、ピストンヘッド21の外周から下方に延びる一対のスカート部26とを有している。
【0032】
ピストンヘッド21は、比較的扁平な円柱状の部材であり、燃焼室7の底面を形成する冠面22と、シリンダ2の側周面と摺接する外周面24とを備える。冠面22は、ペントルーフ型の燃焼室7の天井面と対向する面であり、その外縁部分を除く主要領域が、当該天井面に対応するように山型に突出するように形成されている。冠面22には、下方に窪むキャビティ23が形成されている。キャビティ23は、燃焼室7の天井面に配置された図外のインジェクタからの燃料噴射を受けるための凹部であり、本実施形態では平面視で略楕円形に形成されている。詳しくは、キャビティ23は、前後方向に長尺な略楕円形の上縁23aと、略円形の底面23cと、当該底面23cの周縁と上縁23aとを接続する湾曲した周面23bとを有している。キャビティ23は、底面23cから上方に離れるほど(上縁23aに近づくほど)面積が拡大するように形成されている。
【0033】
ピストンヘッド21の外周面24には、ピストンリング(図示省略)が嵌め込まれる複数の(ここでは3つの)リング溝25が形成されている。ピストンリングは、燃焼室7からクランク室17への燃焼ガスの漏出を防ぐ機能、および、シリンダ2の側周面に付着した余分なオイルを掻き落とす機能を有している。
【0034】
一対のスカート部26は、その一方が左側(吸気側)に、他方が右側(排気側)に位置するように配置されている。各スカート部26がシリンダ2の側周面に摺接することにより、ピストン1が往復動する際の首振り振動が抑制される。
【0035】
ピストンヘッド21の下側であって両スカート部26の間の部位には、前後一対の縦壁27が設けられている。前側の縦壁27は、両スカート部26の前端どうしをつなぐように左右方向に延びる壁部であり、後側の縦壁27は、両スカート部26の後端どうしをつなぐように左右方向に延びる壁部である。
【0036】
一対の縦壁27は、その左右方向の中間部にピンボス部28を有している。各ピンボス部28は、前後方向に貫通するピン孔28aを規定する環状の壁部である。ピン孔28aには、前後方向に延びるピストンピン6(図1)が固定的に挿入される。すなわち、ピストンピン6は、その前端部および後端部がそれぞれ各ピンボス部28のピン孔28aに嵌入されることにより、一対の縦壁27に跨るような状態でピストン本体20に固定される。さらに、両ピンボス部28の間に位置するピストンピン6の中間部には、コンロッド9の小端部9a(上端部)が外挿される。すなわち、ピストン本体20は、ピストンピン6を介してコンロッド9の小端部9aに結合される。
【0037】
ピストンヘッド21の内部には、空洞部30が形成されている。空洞部30には、動吸振器50および粉体60(図7)が配置されている。以下、空洞部30、動吸振器50、および粉体60の詳細について説明する。
【0038】
図8図10は、空洞部30の形状を説明するための図であり、空洞部30を中子の状態で間接的に示している。すなわち、ピストン本体20は鋳造によって製造されるものであり(詳細は後述する)、この鋳造時に使用される中子によって空洞部30が形成される。そこで、図8図10においては、図示の便宜上、空洞部30を中子に代替して図示している。ただし説明では、30を中子ではなく空洞部として扱う。
【0039】
空洞部30は、図3図10に示すように、メイン空洞部31と、サイド空洞部32と、内側空洞部33とを有している。
【0040】
メイン空洞部31は、ピストンヘッド21の前部に形成された第1メイン空洞部31aと、ピストンヘッド21の後部に形成された第2メイン空洞部31bとを有している。第1および第2のメイン空洞部31aは、一対のピンボス部28の上方においてそれぞれ左右方向に延びるように形成されている。各メイン空洞部31a,31bは、その前後方向に沿った断面(左右方向と直交する切断面により切断した断面)が中央側ほど拡大するように形成されている(例えば図3図8図9参照)。詳しくは、各メイン空洞部31a,31bは、前後方向視で下側に凸となるようにV字状に突出した底面を有しており、その突出量がピストン本体20の左右方向の中央位置において最も大きくなるように形成されている。言い換えると、各メイン空洞部31は、その断面積がピン孔28aの中心P(図3)に近づくほど拡大するように形成されている。このため、各メイン空洞部31a,31bの断面積は、ピン孔28aの中心Pに対応する位置(左右方向の中央)において最も大きくなる。また、図7に示すように、各メイン空洞部31a,31bは、その前後方向の幅が下側ほど縮小するように形成されている。各メイン空洞部31a,31bの最大断面積は、後述する他の空洞部(32a,32b,および33a~33d)のいずれの断面積よりも大きくなるように設定されている。
【0041】
サイド空洞部32は、第1および第2のメイン空洞部31a,31bの左側の端部どうしを連結する第1サイド空洞部32aと、第1および第2のメイン空洞部31a,31bの右側の端部どうしを連結する第2サイド空洞部32bとを有している。第1サイド空洞部32aは、ピストンヘッド21の左側の外周に沿うように湾曲しつつ前後方向に延びている。第2サイド空洞部32bは、ピストンヘッド21の右側の外周に沿うように湾曲しつつ前後方向に延びている。
【0042】
内側空洞部33は、特に図8および図10に示すように、前サブ空洞部33aと、後サブ空洞部33bと、左サブ空洞部33cと、右サブ空洞部33dとを有している。これらサブ空洞部33a~33dは、上述したメイン空洞部31およびサイド空洞部32の内側において略リング状の空洞を形成している。具体的に、左サブ空洞部33cは、第1サイド空洞部32aからピストン内側(シリンダ軸に近い側;ここでは右側)に離れた位置において第1サイド空洞部32aと略平行に延びるように形成され、右サブ空洞部33dは、第2サイド空洞部32bからピストン内側(左側)に離れた位置において第2サイド空洞部32bと略平行に延びるように形成されている。また、前サブ空洞部33aは、第1メイン空洞部31aからピストン内側(後側)に離れた位置において第1メイン空洞部31aと略平行に延びるように形成され、後サブ空洞部33bは、第2メイン空洞部31bからピストン内側(前側)に離れた位置において第2メイン空洞部31bと略平行に延びるように形成されている。左右のサブ空洞部33c,33dは、第1および第2のサイド空洞部32a,32bよりもピストン内側において第1および第2のメイン空洞部31a,31bどうしを前後方向に連結している。前後のサブ空洞部33a,33bは、左右のサブ空洞部33c,33dどうしを左右方向に連結している。
【0043】
動吸振器50は、主に図7に示すように、第1質量体51と、第2質量体52と、第1質量体51を空洞部30内に支持する第1支持部53と、第2質量体52を空洞部30内に支持する第2支持部54とを有している。
【0044】
第1および第2の質量体51,52は、それぞれピストン本体20よりも密度の高い金属製の球状体からなり、互いに同一の質量を有している。例えば、ピストン本体20がアルミニウム合金製である場合、第1および第2の質量体51,52は鉛製の球状体とすることができる。第1質量体51は第1メイン空洞部31aに配置され、第2質量量52は第2メイン空洞部31bに配置されている。
【0045】
第1支持部53は、第1質量体51から前後方向に延びる一対の脚部53a,53bを有している。各脚部53a,53bは、第1質量体51と同一の金属材料(例えば鉛)により構成された比較的小径のピン状部材であり、第1質量体51と一体に形成されている。前側の脚部53aは、第1質量体51から前方に延びて、第1メイン空洞部31aにおける径方向外側(前側)の壁面に固着されている。後側の脚部53bは、第1質量体51から後方に延びて、第1メイン空洞部31aにおける径方向内側(後側)の壁面に固着されている。これら一対の脚部53a,53bを介して、第1質量体51は、第1メイン空洞部31aの上下方向中間部に当該空洞部31aの壁面に接触しない状態で支持されている。
【0046】
第2支持部54の構成も上記第1支持部53と同様である。すなわち、第2支持部54は、第2質量体52から前後方向に延びる一対の脚部54a,54bを有している。各脚部54a,54bは、第2質量体52と同一の金属材料(例えば鉛)により構成された比較的小径のピン状部材であり、第2質量体52と一体に形成されている。後側の脚部54aは、第2質量体52から後方に延びて、第2メイン空洞部31bにおける径方向外側(後側)の壁面に固着されている。前側の脚部54bは、第2質量体52から前方に延びて、第2メイン空洞部31bにおける径方向内側(前側)の壁面に固着されている。これら一対の脚部54a,54bを介して、第2質量体52は、第2メイン空洞部31bの上下方向中間部に当該空洞部31bの壁面に接触しない状態で支持されている。
【0047】
上述のとおり、第1支持部53(第2支持部54)は、前後方向(言い換えればピストンピン6の軸方向の一方側および他方側)に延びる一対のピン状の脚部53a,53b(54a,54b)から構成される。このような第1支持部53(第2支持部54)は、ピストン1が往復動するエンジンEの稼働時に上下方向に弾性変形することが可能であり、第1質量体51(第2質量体52)を弾性的に支持する機能を有している。また、第1支持部53(第2支持部54)により弾性的に支持された第1質量体51(第2質量体52)は、エンジンEの稼働時に上下方向(シリンダ軸方向)に振動することが可能である。
【0048】
言い換えると、動吸振器50は、第1および第2の質量体51,52からなる質量体と、第1および第2の支持部53,54からなるバネとを含むバネマス系を構成している。このような動吸振器50は、質量体の質量とバネのバネ定数から定まる固有振動数を有し、当該固有振動数においてピストン本体20と逆位相に振動する特性を有する。本実施形態において、動吸振器50の固有振動数は、ピストン本体20を含むピストン構造体の共振周波数と略一致するように設定されている。すなわち、ピストン本体20、ピストンピン6、およびコンロッド9の小端部9aの組合せをピストン構造体としたとき、このピストン構造体は、ピストン本体20に加わる燃焼圧力を起振力としてコンロッド9の大端部9b(もしくはクランクシャフト8)に対し主に上下方向に振動する。このピストン構造体の振動レベルは、周波数に応じて変化し、特定の周波数において極大化する(共振現象)。このようにピストン構造体の共振が起きる特定の周波数を共振周波数としたとき、動吸振器50の固有振動数は、当該ピストン構造体の共振周波数と略一致するように設定されている。言い換えると、動吸振器50は、ピストン構造体の共振周波数もしくはその近傍において、ピストン構造体と逆位相に振動する特定を有する。
【0049】
粉体60は、多数の微細な粒子の集合体である。例えば、粉体60の各粒子は、10μm以上50μm以下の粒径(直径)を有する硬質の球体とすることができる。粉体60の各粒子の材質は、耐衝撃性などの所要の性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば純アルミニウム(AL)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(AL)、もしくはガラス(SiO)が好適である。粉体60は、空洞部30の各部(メイン空洞部31、サイド空洞部32、内側空洞部33)にまんべんなく封入されている。また、粉体60は、空洞部30の容積に対する粉体60の体積の割合である充填率が25%以上60%以下になるように空洞部30に封入されている。
【0050】
(3)製造方法
次に、以上のような構造のピストン1を製造する方法について説明する。本実施形態におけるピストン1の製造方法は、鋳造によりピストン1を製造する方法であり、準備工程、中子セット工程、注湯工程、取出工程、および充填工程とを含む。
【0051】
まず、準備工程として、ピストン本体20の形状(外形)に対応した成形空間を有する鋳型を準備するとともに、空洞部30を形成するための中子を準備する。中子としては、空洞部30に対応した形状を有する図8図10に示したような中子を準備する。この中子の内部には動吸振器50を配置する。すなわち、準備工程では、中子として、動吸振器50を包み込んだ状態の中子を準備する。このとき、動吸振器50は、その第1質量体51(第2質量体52)が中子における第1メイン空洞部31a(第2メイン空洞部31b)に対応する部位に包み込まれる。また、第1支持部53(第2支持部54)は、その脚部53a,53b(54a,54b)の先端部が中子から外部に突出するように配置される。
【0052】
次に、中子セット工程として、上述した中子およびこれに包まれた動吸振器50を鋳型にセットする。このとき、中子は、鋳型内で複数の支柱により支持される。この支柱は、後述する開口40(図7)を形成するための中子として機能する。
【0053】
次に、注湯工程として、中子および動吸振器50がセットされた鋳型に溶融したアルミニウム合金(溶湯)を流し込む。その後、流し込んだ溶湯を冷却して凝固させることにより、鋳型内の成形空間に対応した形状のピストン本体20を成形する。このとき、動吸振器50は、中子から突出した脚部53a,53b(54a,54b)の先端部がピストン本体20に鋳込まれることにより、ピストン本体20に固定される。
【0054】
次に、取出工程として、鋳型からピストン本体20を取り出す。また、上述した支柱により形成される複数の開口40(図7)のいずれかから水を注入する等により、支柱および中子をピストン本体20から除去する。すなわち、注入した水によって支柱および中子を溶かしつつ開口40から排出することにより、支柱および中子をピストン本体20から除去する。これにより、ピストン本体20の内部には、中子の形状に対応した空洞部30が形成されるとともに、この空洞部30に連通する複数の開口40が形成される。
【0055】
次に、充填工程として、ピストン本体20の空洞部30内に開口40を通じて粉体60(図7)を充填する。そして、粉体60の充填後、開口40を溶接により塞ぐ。例えば、ピストン本体20と同様の金属材料(例えばアルミニウム合金)を開口40にロウ付けする等により、開口40を塞ぐ。
【0056】
以上の各工程により、ピストン本体20と動吸振器50と粉体60とを含むピストン1、言い換えると空洞部30内に動吸振器50および粉体60が配置されたピストン1が完成する。
【0057】
(4)作用効果
以上説明したとおり、本実施形態のピストン1は、空洞部30を含むピストン本体20と、空洞部30内に取り付けられた動吸振器50と、空洞部30内に封入された粉体60とを有するので、ピストン1の振動を広範な周波数範囲で低減できる上に、特定の周波数で生じるピストン1の共振を十分に抑制できるという利点がある。
【0058】
具体的に、本実施形態では、第1・第2質量体51,52とこれを空洞部30内で弾性的に支持する第1・第2支持部53,54とを含む動吸振器50が空洞部30内に取り付けられる。このような構造の動吸振器50は、所定の周波数(動吸振器50の固有振動数)においてピストン本体20と逆位相に振動し、当該逆位相の振動によって対象物の振動を吸収する、いわゆるダイナミックダンパ効果を発揮し得る。一方、ピストン本体20を含むピストン構造体(ピストン本体20、ピストンピン6、およびコンロッド9の小端部9aの組合せ)は、ピストン本体20に加わる燃焼圧力を起振力としてコンロッド9の大端部9b(もしくはクランクシャフト8)に対し主に上下方向に振動し、その振動レベルは特定の共振周波数において極大化する性質がある(共振現象)。ピストン構造体の共振が起きると、比較的大きな振動がクランクシャフト8等を通じてエンジンEの筐体(シリンダブロック3等)に伝達され、エンジンE全体に不快な振動が生じる可能性がある。このような現象を回避するには、上述した共振周波数において動吸振器50によるダイナミックダンパ効果が最大限発揮されるようにすればよい。そこで、本実施形態では、動吸振器50の固有振動数が、上述したピストン構造体の共振周波数に略一致するように設定されている。これにより、ピストン構造体の共振周波数において動吸振器50によるダイナミックダンパ効果が最大限発揮されて、ピストン構造体の共振を十分に抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ピストン本体20の空洞部30内に粉体60が封入されるので、ピストン構造体の振動時に、粉体60の粒子どうしの摩擦および当該粒子と空洞部30の壁面との摩擦による摩擦熱を発生させることができる。これにより、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、ピストン構造体の振動が低減される。しかも、このような摩擦熱による振動低減のメカニズムは、周波数依存性が低く、広範な周波数範囲においてピストン構造体の振動を低減させ得る。このことは、上述した動吸振器50による共振抑制効果と相俟って、種々の周波数におけるエンジンEの振動を十分に低減する効果をもたらし、非常に制振性に優れたエンジンEを実現することを可能にする。
【0060】
さらに、本実施形態では、ピストン本体20の内部に形成された空洞部30に動吸振器50および粉体60が配置されるので、これら動吸振器50および粉体60を用いた振動低減を図りながらも、ピストン本体20の重量を空洞部30の形成(特に動吸振器50を配置するために通常のピストンよりも拡大されたメイン空洞部31の形成)により軽減することができ、ピストン1の重量増加を全体として抑制することができる。
【0061】
図11は、動吸振器50および粉体60による振動低減効果を説明するための図であり、周波数に応じたピストン構造体の振動倍率の変化(振動特性)を示すグラフである。本グラフにおいて、波形W1は、動吸振器50および粉体60の双方を用いた場合に得られる振動特性を示し、波形W2は、動吸振器50のみを用いた場合(粉体60を省略した場合)に得られる振動特性を示し、波形W3は、動吸振器50および粉体60をいずれも省略した場合に得られる振動特性を示している。
【0062】
図11のグラフに示すように、動吸振器50および粉体60をいずれも省略したケース(波形W3)では、周波数f0においてピストン構造体が共振し、振動倍率が1を遥かに超える値まで増大する。これに対し、動吸振器50を空洞部30に配置したケース(波形W2)では、当該動吸振器50のダイナミックダンパ効果により、周波数f0でのピストン構造体の振動(共振)が打ち消され、周波数f0での振動が極小まで抑えられる。一方、動吸振器50の追加によるバネマス系の変化に伴い、共振周波数f0よりも低い第1周波数f1と、共振周波数f0よりも高い第2周波数f2において、新たな振動のピークが発生する。言い換えると、動吸振器50の追加は、共振周波数を離散させる効果をもたらす。ここで、エンジンEの稼働時にピストン1に加わる燃焼圧力による起振力の周波数(起振周波数)は、共振周波数f0を含む特定の周波数範囲に限定されるため、動吸振器50の追加に伴い生じる新たなピーク振動の周波数(第1周波数f1および第2周波数f2)が共振周波数f0から離れるほど、各周波数f1,f2に一致もしくは近い周波数の起振力がピストン1に加わる可能性は低くなる。ただし、動吸振器50の構造上の制約などから、実際には、エンジンEの稼働時に発生し得る起振周波数の範囲から第1周波数f1および第2周波数f2を十分に離すことは困難である。このため、空洞部30に動吸振器50を配置しただけでは、燃焼圧力による起振周波数が比較的低いもしくは高い運転条件のときに、エンジンEの振動が有意に増大する可能性がある。
【0063】
これに対し、動吸振器50に加えて粉体60を空洞部30に配置したケース(波形W1)では、第1周波数f1および第2周波数f2での振動のピークが低下する。これは、粉体60による摩擦熱が広範な周波数範囲においてピストン構造体の振動を低減する効果をもたらした結果であると考えられる。すなわち、波形W1のケースでは、動吸振器50による効果(共振周波数の離散化)と粉体60による効果(摩擦熱による振動低減)との組合せにより、第1周波数f1から第2周波数f2までの広い周波数範囲においてピストン構造体の振動レベルが低減されている。これにより、第1周波数f1および第2周波数f2が起振周波数の範囲から十分に離れていなくても、種々の運転条件におけるエンジンEの振動を十分に抑制することが可能になる。
【0064】
また、本実施形態において、動吸振器50の第1・第2質量体51,52は、これを弾性的に支持する第1・第2支持部53,54によって空洞部30内で上下方向(シリンダ軸方向)に振動可能に支持されるので、質量体51,52を空洞部30内で安定的に支持しながら、エンジンEの稼働時には質量体51,52を上下方向に振動させることができ、上述したダイナミックダンパ効果を効果的に発揮させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、動吸振器50の第1・第2質量体51,52がピストン本体20よりも密度の高い金属材料(例えば鉛)により構成されるので、このような密度の高い質量体51,52の逆位相の振動により上記ピストン構造体の共振を効果的に抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態において、第1支持部53(第2支持部54)は、ピストンピン6の軸方向と平行な方向(前後方向)の一方側および他方側に延びる脚部53a,53b(54a,54b)を有し、各脚部53a,53b(54a,54b)は第1質量体51(第2質量体52)と一体の金属材料により構成されるので、例えばピストン1の製造時に、質量体51(52)および支持部53(54)を包み込んだ中子を用いてピストン本体20を鋳造することにより、質量体51(52)が空洞部30内で弾性的に支持された構造を得ることができ、ダイナミックダンパ効果を発揮し得る上述した動吸振器50を適切に実現することができる。
【0067】
(5)変形例
上記実施形態では、一体の中子を用いて形成された一連の空洞部30の内部に動吸振器50および粉体60の双方を配置したが、例えば図12に示すように、上下2段の空洞部130,131をピストン本体20の内部に形成し、動吸振器50および粉体60を各空洞部130,131に分けて配置してもよい。すなわち、図12の変形例において、ピストン本体20の内部には、第1空洞部130と、当該第1空洞部130よりも下側に位置する第2空洞部131とが形成されており、両空洞部130,131は互いに独立した非連通の空間とされている。そして、上側の第1空間部130に動吸振器50(質量体51,52および支持部53,54)が配置されるとともに、下側の第2空間部131に粉体60が封入されている。
【0068】
上記実施形態では、動吸振器として、質量体51,52とこれと一体の支持部53,54とを含む動吸振器50を用いたが、動吸振器は、空洞部内で振動可能なように弾性的に支持された質量体を含むものであればよく、その構造は上記実施形態のものに限られない。例えば、図13に示すように、質量体151,152と、当該質量体151,152を包み込む弾性体からなる支持部153,154とを含む動吸振器150を用いることが考えられる。動吸振器150は、上記実施形態と同様の空洞部30(メイン空洞部31)に粉体60と共に配置されている。支持部153,154は、例えば、金属製の質量体151,152の外周面に接合された所定厚みの耐熱性のゴム材により構成され、動吸振器150が空洞部30内の定位置に保持されるように、空洞部30の複数の壁面と接触した状態で配置されている。このような支持部153,154を介して空洞部30に支持された質量体151,152は、上記実施形態の質量体51,52と同様、エンジンの稼働時に上下方向に振動することが可能である。
【0069】
上記実施形態では、粉体60の粒子として、所定の(10~50μmの)粒径を有する硬質の球体を用いたが、粒子の形状は球形に限られず、例えば楕円球形であってもよい。また、粉体60の粒子は一種類に限定されず、材質や形状の異なる2種類以上の粒子からなる粉体を使用することも可能である。
【0070】
上記実施形態では、ガソリン直噴エンジンEに適用されるピストン1を例示したが、本発明は、シリンダ内に往復動可能に収容されるレシプロエンジン用のピストンに広く適用可能であり、例えばディーゼルエンジン用のピストンにも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
E エンジン
1 ピストン
2 シリンダ
6 ピストンピン
8 クランクシャフト
9 コンロッド
9a (コンロッドの)小端部
20 ピストン本体
30 空洞部
50 動吸振器
51 第1質量体(質量体)
52 第2質量体(質量体)
53 第1支持部(支持部)
53a,53b 脚部
54 第2支持部(支持部)
54a,54b 脚部
60 粉体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13