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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241112BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D41/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020212881
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022099110
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東尾 理克
(72)【発明者】
【氏名】楠 友邦
(72)【発明者】
【氏名】砂流 雄剛
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0139786(US,A1)
【文献】特開2012-225253(JP,A)
【文献】特開2017-020339(JP,A)
【文献】特開昭63-143360(JP,A)
【文献】特開平06-129253(JP,A)
【文献】特開2014-047771(JP,A)
【文献】特開2017-133468(JP,A)
【文献】特開平09-096231(JP,A)
【文献】特開2014-105662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を形成するシリンダを有するエンジンの制御装置であって、
前記燃焼室内に供給される空気量を調整可能な空気量制御部と、
前記エンジンに関係するパラメータの計測信号を出力する計測部と、
前記計測信号に基づいて前記燃焼室に供給される燃料のオクタン価を判定するとともに、判定したオクタン価に応じた制御信号を、前記空気量制御部に出力する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記燃料のオクタン価が第1オクタン価であるときには、前記空気量制御部を介して前記燃焼室に供給される空気量の上限値である上限空気量を第1上限値に設定する一方、前記燃料のオクタン価が前記第1オクタン価よりも高い第2オクタン価であるときには、前記上限空気量を前記第1上限値よりも高い第2上限値に設定し、
さらに前記制御部は、前記燃料のオクタン価が前記第2オクタン価であるときに、前記計測信号から算出される目標エンジン負荷が所定負荷以上となった時から、予め設定した特定時間が経過するという限界条件が成立したときには、前記上限空気量を前記第2上限値よりも低くし、
さらに前記制御部は、前記計測部により計測されるエンジン回転数に応じて前記特定時間を設定する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記限界条件が成立したときには、前記上限空気量を前記第2上限値から前記第1上限値に徐々に低下させることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記限界条件が成立して、前記上限空気量が前記第2上限値よりも低い状態で、前記目標エンジン負荷が前記所定負荷未満になったときには、前記上限空気量を前記第2上限値に上昇させることを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、エンジンの制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料のオクタン価に応じて燃焼制御を変更するエンジンの制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のエンジンの制御装置は、相対的に高い第1オクタン価の燃料に対しては、第1噴射時期及び第1点火時期にて燃焼噴射及び点火を行う一方で、ノッキングセンサがノッキングの発生を検知した場合、相対的に低い第2オクタン価の燃料が使用されていると推定して、ノッキングを抑制するための、第2噴射時期及び第2点火時期にて燃料噴射及び点火を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-105662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オクタン価の異なる燃料を使用可能なエンジンにおいては、燃料タンクへの給油の前後で、使用燃料のオクタン価が変化する場合がある。オクタン価の高い燃料は、オクタン価の低い燃料よりも高いエンジン負荷を発生させることができるため、オクタン価の高い燃料が給油された際には、出来る限り高いエンジン負荷を発生させるような制御が望まれる。特に、加速時などのエンジンの過渡時には、エンジン負荷を高くしたいという要求がある。
【0006】
オクタン価の高い燃料を用いて、高いエンジン負荷を実現するには、燃焼室に供給する空気量を増加させる必要がある。しかしながら、空気量を増加させると、シリンダの壁温が上昇しやすくなる。このため、燃焼室に供給する空気量が多い状態が長期間継続すると、シリンダの壁温が過剰に高くなって、高オクタン価燃料であってもプリイグニッション等の異常燃焼が発生しやすくなってしまう。
【0007】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オクタン価の高い燃料が給油された際に、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、燃焼室を形成するシリンダを有するエンジンの制御装置を対象として、前記燃焼室内に供給される空気量を調整可能な空気量制御部と、前記エンジンに関係するパラメータの計測信号を出力する計測部と、前記計測信号に基づいて前記燃焼室に供給される燃料のオクタン価を判定すると共に、判定したオクタン価に応じた制御信号を、前記空気量制御部に出力する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料のオクタン価が第1オクタン価であるときには、前記空気量制御部を介して前記燃焼室に供給される空気量の上限値を第1上限値に設定する一方、前記燃料のオクタン価が前記第1オクタン価よりも高い第2オクタン価であるときには、前記上限空気量を前記第1上限値よりも高い第2上限値に設定し、さらに前記制御部は、前記燃料のオクタン価が前記第2オクタン価であるときに、前記計測信号から算出される目標エンジン負荷が所定負荷以上でありかつ前記シリンダの壁温が所定温度よりも上昇する限界条件が成立したときには、前記上限空気量を前記第2上限値よりも低くする、という構成とした。
【0009】
この構成によると、相対的にオクタン価の高い燃料を用いるときには、上限空気量が高く設定されるため、高いエンジン負荷を得ることができる。一方で、シリンダの壁温が所定温度よりも高くなりそうなときには、上限空気量が下げられるため、シリンダの壁温が過剰に上昇することが抑制されて、異常燃焼が抑制される。したがって、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることができる。
【0010】
前記エンジンの制御装置の一実施形態では、前記限界条件は、前記目標エンジン負荷が所定負荷以上となった時から、予め設定した特定時間が経過するという条件であるという条件である。
【0011】
この構成によると、特定時間の間は高いエンジン負荷を得つつ、特定時間が経過した後は、上限空気量を低下させることで、シリンダの壁温の上昇を抑制することができる。したがって、異常燃焼を効果的に抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることができる。
【0012】
前記一実施形態において、前記制御部は、前記計測部により計測されるエンジン回転数に応じて前記特定時間を設定する、という構成でもよい。
【0013】
すなわち、エンジン回転数が低い場合、混合気がシリンダの壁部と接触する時間が長いため、混合気の温度が高くなりやすく異常燃焼が発生しやすい。一方で、エンジン回転数が高い場合、混合気がシリンダの壁部と接触する時間が短いため、混合気の温度が高くなりにくく異常燃焼が発生しにくい。このため、例えば、エンジン回転数が低いときには、エンジン回転数が高いときと比べて特定時間を短くすれば、異常燃焼を効果的に抑制することができる。
【0014】
前記エンジンの制御装置の他の実施形態では、前記制御部は、前記計測部により計測される前記燃焼室内の混合気の燃焼に関係する燃焼パラメータに基づいて、前記シリンダの壁温を推定し、前記限界条件は、推定温度が前記所定温度以上となるという条件である。
【0015】
この構成によると、実際にシリンダの壁温を推定するため、該壁温が所定温度よりも高くなるタイミングをより適切に算出することができる。このため、上限空気量が高い状態を出来る限り長くしつつ、上限空気量を低下させることで異常燃焼を抑制することができる。
【0016】
前記エンジンの制御装置において、前記制御部は、前記限界条件が成立したときには、前記上限空気量を前記第2上限値から前記第1上限値に徐々に低下させる、という構成でもよい。
【0017】
すなわち、上限空気量を第2上限値から第1上限値に一気に低下させると、燃焼室に供給される空気量が一気に変わる結果、運転者にショックとして伝わる可能性がある。したがって、上限空気量を徐々に低下させることで、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0018】
前記エンジンの制御装置において、前記制御部は、前記限界条件が成立して、前記上限空気量が前記第2上限値よりも低い状態で、前記目標エンジン負荷が前記所定負荷未満になったときには、前記上限空気量を前記第2上限値に上昇させる、という構成でもよい。
【0019】
すなわち、上限空気量を低くするとシリンダの壁温が低下するため、エンジン負荷が所定負荷未満になっても上限空気量を低下させたままにすると、シリンダの壁温が下がり続ける。シリンダの壁温が下がり続けると、燃焼安定性が低下して、最悪の場合、失火が発生してしまうおそれがある。したがって、エンジン負荷が所定負荷未満になったときには、上限空気量を第2上限値に上昇させることで、シリンダの壁温が過剰に低下するのを抑制することができる。この結果、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷をより効果的に得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、エンジンの運転状態に応じて、燃焼室に供給する空気量の上限値を変更することで、高オクタン価燃料が給油された際に、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態1に係る制御装置により制御されるエンジンを例示する構成図である。
図2図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
図3図3は、SPCCI燃焼時における、燃焼室の中の圧力の変化を例示する図である。
図4図4は、同じオクタン価でかつ、エンジンの運転状態が異なる場合における、正規化したアシスト熱量と自己着火タイミングとの関係を例示する図である。
図5図5は、異なるオクタン価でかつ、エンジンの運転状態が異なる場合における、等価温度上昇量と充填効率との関係を例示する図である。
図6図6は、燃料のオクタン価を判定する判定装置の構成を例示するブロック図である。
図7図7は、燃料のオクタン価の判定手順を例示するフローチャートである。
図8図8は、燃料のオクタン価に応じたエンジン負荷の違いを示すグラフである。
図9図9は、燃料のオクタン価が変化したとき及びエンジン負荷が変化したときに、燃焼室に供給される空気量の変化と筒内温度の変化とを示すタイミングチャートである。
図10図10は、空気量制御のフローチャートである。
図11図11は、実施形態2に係る制御装置の空気量制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン、及び、制御装置は例示である。
【0023】
〈実施形態1〉
図1は、エンジンを例示する図である。図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
【0024】
エンジン1は、燃焼室17を有している。燃焼室17は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返す。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。このエンジン1は、高オクタン価燃料、及び、低オクタン価燃料の両方を使用できる。本実施形態においては、高オクタン価燃料のオクタン価は、96以上であり、最高オクタン価である100を含む。一方で、低オクタン価燃料のオクタン価は、96未満であり、例えば91である。自動車の利用者は、後述する燃料タンク63に、高オクタン価燃料又は低オクタン価燃料を給油することができる。利用者はまた、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、低オクタン価燃料を注ぎ足すことができ、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価燃料を注ぎ足すこともできる。オクタン価の異なる燃料を注ぎ足すと、エンジン1の使用燃料のオクタン価は、中間のオクタン価になる。
【0025】
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
【0026】
シリンダブロック12に、複数のシリンダ11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、一つのシリンダ11のみを示す。
【0027】
各シリンダ11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13は、燃焼室17を形成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する。
【0028】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高める必要がない。エンジン1の幾何学的圧縮比は低い。幾何学的圧縮比が低いと、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
【0029】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が発生するような形状を有している。
【0030】
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気弁21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
【0031】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
【0032】
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気弁22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
【0033】
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。
【0034】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃焼室17の天井部(つまり、シリンダヘッド13の下面)に配設されている。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型である。
【0035】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。インジェクタ6及び燃料供給システム61は、燃料供給部を構成する。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62は、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いにつないでいる。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を送る。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から送られた燃料を蓄える。コモンレール64の中は高圧である。インジェクタ6は、コモンレール64につながっている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64の中の高圧の燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
【0036】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでいる。点火プラグ25は、点火部の一例である。
【0037】
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入する吸気のガスは、吸気通路40の中を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端の近くには、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐している。
【0038】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度が変わることによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。スロットル弁43は、空気量制御部の一例である。
【0039】
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力を高める。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される。過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式である。
【0040】
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達する状態と、駆動力の伝達を遮断する状態とを切り替える。後述するECU10が電磁クラッチ45に制御信号を出力することによって、過給機44はオン又はオフになる。
【0041】
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気のガスを冷却する。インタークーラー46は、水冷式又は油冷式である。
【0042】
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
【0043】
ECU10は、過給機44がオフの場合に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気のガスは、過給機44及びインタークーラー46をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に至る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0044】
過給機44がオンの場合、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44がオンの場合に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44及びインタークーラー46を通過した吸気のガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に戻る。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力が変わる。尚、「過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える状態をいい、「非過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる状態をいう、と定義してもよい。
【0045】
エンジン1は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、燃焼室17内にスワール流を発生させる。スワールコントロール弁56は、開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
【0046】
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。燃焼室17から排出された排気ガスは、排気通路50の中を流れる。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。
【0047】
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。排気ガス浄化システムは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
【0048】
(エンジンの制御装置の構成)
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
【0049】
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1~SW11が接続されている。センサSW1~SW11は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ吸気通路40を流れる新気の流量を計測する。
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ吸気通路40を流れる新気の温度を計測する。
第2吸気温度センサSW3:サージタンク42に取り付けられかつ燃焼室17に導入される吸気のガスの温度を計測する。
吸気圧センサSW4:サージタンク42に取り付けられかつ燃焼室17に導入される吸気のガスの圧力を計測する。
筒内圧センサSW5:シリンダ11毎に、シリンダヘッド13に取り付けられかつ各燃焼室17内の圧力を計測する。
水温センサSW6:エンジン1に取り付けられかつ冷却水の温度を計測する。
クランク角センサSW7:エンジン1に取り付けられかつクランクシャフト15の回転角を計測する。
アクセル開度センサSW8:アクセルペダル機構に取り付けられかつアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する。
吸気カム角センサSW9:エンジン1に取り付けられかつ吸気カムシャフトの回転角を計測する。
排気カム角センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ排気カムシャフトの回転角を計測する。
レベルセンサSW11は、燃料タンク63に取り付けられかつ燃料タンク63に貯留する燃料の量を計測する。
【0050】
ECU10は、これらのセンサSW1~SW11の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。
【0051】
ECU100は、制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
【0052】
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排気エミッション性能の向上を主目的として、エンジン負荷、エンジン回転数、及び環境温度で設定される所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
【0053】
図3は、SPCCI燃焼時における、燃焼室17内の圧力変化301を例示している。図3の横軸は、クランク角である。図3は、筒内圧センサSW5の計測信号に相当する。SPCCI燃焼は、次のような燃焼形態である。つまり、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼を開始する。SI燃焼の開始後、(1)SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、(2)火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することにより、自己着火タイミングθciにおいて未燃混合気が自己着火し、CI燃焼をする。SPCCI燃焼における圧力波形は、SI燃焼による山に、CI燃焼による山が積み重なったような形状になる。圧力波形は、自己着火タイミングθciにおいて変曲点を有する。筒内圧センサSW5が燃焼室17内の圧力波形を計測することにより、ECU10は、その圧力波形の形状に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が行われたか否かを判断できる。
【0054】
SI燃焼の燃焼量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収できる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、SI燃焼の燃焼量が調節される。ECU10が点火タイミングを調節すれば、混合気は目標のタイミングで自己着火する。SPCCI燃焼は、SI燃焼の燃焼量がCI燃焼の開始タイミングをコントロールしている。
【0055】
(燃料のオクタン価の判定ロジック)
次に、図4及び図5を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジックについて説明をする。この判定ロジックは、SPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させるとともに、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
【0056】
ここで、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室17内で発生した熱量をアシスト熱量とする。SPCCI燃焼において、未燃混合気は、アシスト熱量を受けて自己着火する。燃料のオクタン価が低いと、当該燃料は自己着火しやすいため、アシスト熱量は少ない。逆に、燃料のオクタン価が高いと、当該燃料は自己着火しにくいため、アシスト熱量は多い。アシスト熱量と燃料のオクタン価との間には、相関がある。
【0057】
図4は、アシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を示すグラフ501を例示している。グラフ501は、本願発明者らが、エンジン1の運転状態(つまり、エンジン1の負荷、及び、環境温度)を変えながら実験を行うことによって得られたグラフである。グラフ501は、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のグラフである。
【0058】
グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入したガス量で割った値である。燃焼室17内に導入されるガス量は、エンジン1の運転状態に応じて変化する。エンジン1の負荷が高くなると、燃焼室17内に導入されるガス量は増える。グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入されるガス量によって正規化している。
【0059】
ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて燃焼室17内で発生した熱量を算出できる。ECU10は、図3に示すように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、点火プラグ25が混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングθciまでに、燃焼室17内で発生したアシスト熱量Qsaを算出する。
【0060】
グラフ501の横軸は、未燃混合気が自己着火したタイミングθciである。未燃混合気が自己着火すると、圧力変化(dP/dθ)が変わる。ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、自己着火タイミングθciを特定できる。
【0061】
また、前述したように、ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が発生したことを把握できる。
【0062】
グラフ501の丸は、エンジン1が運転する環境温度が標準でかつ、空気量Ceが最大の場合の計測値であり、グラフ501の三角は、環境温度が標準でかつ、空気量Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501のひし形は、環境温度が標準でかつ、空気量Ceが小の場合の計測値である。また、グラフ501の四角は、環境温度が、標準よりも高い酷暑でかつ、空気量Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501の逆三角は、環境温度が酷暑でかつ、空気量Ceが小の場合の計測値である。
【0063】
グラフ501において直線5011-5015で示すように、正規化されたアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの間には相関がある。つまり、各直線5011-5015は全て、右上がりである。アシスト熱量Qsaが多いと、自己着火タイミングθciが遅角し、アシスト熱量Qsaが少ないと、自己着火タイミングθciが進角する。また、その相関関係は、エンジン1の運転状態毎に成立する。つまり、直線5011-5015は、エンジン1の運転状態毎に異なる。
【0064】
ここで、環境温度の高低について比較をする。環境温度が高い場合(直線5014)は、環境温度が低い場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。環境温度が高いと、燃焼室17の中に導入される吸気の温度が高い。吸気温度が高いと、燃焼室17の中の温度が高くなって未燃混合気が自己着火しやすい。このため、吸気温度が高いと、アシスト熱量Qsaは小さい。
【0065】
次に、空気量Ceの大小について比較をする。空気量Ceが大きい場合、つまり、エンジン1のトルクが大きい場合(直線5011、5012)は、空気量Ceが小さい場合、つまり、エンジン1の負荷が低い場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。燃焼室17の中に導入する空気量が多いと、当該空気の圧縮に伴い、燃焼室17の中の温度が、より高くなる。燃焼室17の中の温度が高くなると、未燃混合気は自己着火しやすい。そのため、空気量Ceが大きいと、アシスト熱量Qsaは小さい。
【0066】
グラフ501において、各運転状態におけるアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの計測値を直線の統計モデルによって表現すると共に、当該直線の、特定クランク角(特定CA、例えば15°ATDC)における切片を、各運転状態におけるモデルの代表値と定める。以下において、この代表値を、「等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)」と呼ぶ。
【0067】
図4のグラフ501は、前述したように、使用燃料が低オクタン価燃料である場合の、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を例示している。図示は省略するが、本願発明者らは、使用燃料が高オクタン価燃料である場合も同様に、エンジン1の運転状態毎に、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの相関関係が成立することを確認した。
【0068】
図5は、グラフ501等に基づいて作成されるグラフ601を例示している。グラフ601の縦軸は、前述した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)である。グラフ601の横軸は、空気量Ceである。グラフ601は、エンジン1のさまざまな運転状態のデータを含んでいる。グラフ601はまた、使用燃料が高オクタン価燃料である場合のデータと、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のデータとを含んでいる。
【0069】
グラフ601の黒丸は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合のデータであり、グラフ601の四角は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601の白丸は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合の結果であり、グラフ601の三角は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601のバツ印は、使用燃料が高オクタン価燃料の場合に、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットによって、エンジン1の運転を制御した場合のデータである。
【0070】
グラフ601において曲線6011-6014で示すように、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と空気量Ceとの間には相関がある。つまり、空気量Ceが高いと、空気の圧縮に伴い燃焼室17の中の温度が大きく上昇するから、等価温度上昇量は小さくなり、逆に、空気量Ceが低いと、等価温度上昇量が大きくなる。曲線6011-6014は全て、右下がりになる。また、高オクタン価燃料の使用時の曲線6011、6012と、低オクタン価燃料の使用時の曲線6013、6014とは相違する。同一の空気量Ceで比較した場合に、高オクタン価燃料の使用時は、低オクタン価燃料の使用時よりも、未燃混合気が自己着火しにくいため、等価温度上昇量は大きい。
【0071】
また、等価温度上昇量と充填効率との相関関係は、環境温度毎に成立する。つまり、同一の空気量Ceで、酷暑時の曲線6012、6014と、標準時の曲線6011、6013とを比較した場合に、酷暑時は燃焼室17の中の温度がより高くなるため、標準時よりも、等価温度上昇量が小さい。
【0072】
グラフ601に示すように、使用燃料が高オクタン価燃料の場合の曲線6011、6012と、使用燃料が低オクタン価燃料の場合の曲線6013、6014とは異なる。そこで、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている場合に、ECU10が、各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と、空気量Ceとを算出するとともに、グラフ601において、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と空気量Ceとの点が、どこにプロットできるか、に基づいて、ECU10は、燃料のオクタン価を判定することができる。
【0073】
つまり、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と空気量Ceとの点が、例えば曲線6011の上に載れば、ECU10は、使用燃料が高オクタン価燃料であると判断できる。また、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と空気量Ceとの点が、例えば曲線6013の上に載れば、ECU10は、使用燃料が低オクタン価燃料であると判断できる。
【0074】
また、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に低オクタン価燃料を注ぎ足す、又は、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に高オクタン価燃料を注ぎ足すと、燃料のオクタン価は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料との中間のオクタン価になる。この場合、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と空気量Ceとの点は、グラフ601における曲線と曲線との間にプロットされる。ECU10は、線形補間によって、燃料のオクタン価、つまり、中間のオクタン価を判定することができる
(オクタン価判定の手順)
図6は、燃料のオクタン価を判定する判定装置の構成を例示している。判定装置は、アシスト熱量算出部105、フィッティング部106、等価温度上昇量算出部107、自着火特性算出部108、オクタン価判定部109、制御セット選択部110を備えている。これらの各部は、ECU10の機能ブロックである。判定装置は、エンジン1の運転中に、オクタン価の判定を逐次行う。
【0075】
アシスト熱量算出部105は、前述したアシスト熱量Qsaを算出する。アシスト熱量算出部105は、筒内圧センサSW5を含む各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する(図3も参照)。アシスト熱量算出部105は、燃焼室17の中で燃焼が行われる度にアシスト熱量Qsaを算出する。
【0076】
フィッティング部106は、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと、自己着火タイミングθciとの関係から、図5に示した統計モデルの直線を定める。具体的に、フィッティング部106は、符号111のグラフに例示するように、縦軸を正規化したアシスト熱量Qsaとし、横軸を自己着火タイミングθciとした平面上に、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を示す複数の点をプロットする(グラフ111の黒丸参照)。フィッティング部106は、プロットした複数の点に基づいて、直線、つまり、統計モデルを定める。フィッティング部106は、例えば最小二乗法により直線を定めてもよい。尚、直線の傾きを所定の傾きに固定しておき、フィッティング部106は、直線の切片のみを定めてもよい。こうすることで、フィッティング部106の演算量が少なくなる。
【0077】
等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線に基づいて、特定CAの切片である等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)を算出する(グラフ111の白丸参照)。具体的に等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線と、特定CAの縦線との交点を算出する。
【0078】
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、メモリ102に記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出する。マップ112は、図5に示すグラフ601を90°だけ反時計回りに回転させたものである。マップ112は、当該エンジン1について実験またはシミュレーションを行うことにより予め作成されかつ、メモリ102に記憶されている。マップ112は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が標準条件である場合の第1特性線と、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が酷暑条件である場合の第2特性線と、を含んでいる。第1特性線は、混合気が最も自己着火しにくい場合に相当し、第2特性線は、混合気が最も自己着火しやすい場合に相当する。
【0079】
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、空気量Ceとの関係を示す点をマップ112にプロットし(マップ112の黒丸参照)、当該点を通る曲線を算出する(マップ112の破線参照)。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線から第2特性線までの間に定まる。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線に一致する場合、及び、第2特性線に一致する場合もある。
【0080】
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。より詳細に、オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいて、燃料のオクタン価を推定する。オクタン価判定部109はまた、今回推定したオクタン価を、メモリ102に記憶しているオクタン価に反映させることにより、メモリ102に記憶するオクタン価を更新する。オクタン価判定部109は、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている間は、オクタン価の更新を逐次行う。
【0081】
先ず、オクタン価判定部109によるオクタン価の推定について説明する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、第1特性線に一致する場合は、使用燃料は、高オクタン価であると推定する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、第2特性線に一致する場合は、使用燃料は、低オクタン価であると推定する。
【0082】
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、図6に破線で例示するように、第1特性線と第2特性線との間に位置する場合は、燃料のオクタン価を線形補間により算出する(図6の矢印参照)。この場合、オクタン価判定部109は、使用燃料は、高オクタン価と低オクタン価との中間のオクタン価であると推定する。
【0083】
ここで、オクタン価判定部109は、オクタン価の推定の際に、温度補正を行う。つまり、吸気温度が高い場合、及び/又は、エンジン1の水温が高い場合は、燃焼室17の中のガスの温度が高くなるため、混合気は自着火しやすい。この場合、燃料のオクタン価が、見かけ上、低くなる。オクタン価判定部109は、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、推定したオクタン価を補正する。具体的に、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が高いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が高くなるように補正する。吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が低いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が低くなるように補正する。
【0084】
尚、オクタン価判定部109が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて推定したオクタン価を補正する代わりに、自着火特性算出部108が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、自着火特性を補正してもよい。
【0085】
オクタン価判定部109は、推定したオクタン価に一次遅れフィルタによるフィルタ処理を行って、オクタン価を更新する。メモリ102は、更新されたオクタン価を記憶する。フィルタ処理を行うことによって、メモリ102に記憶されるオクタン価の値が大きく変動することが抑制される。エンジン1におけるSPCCI燃焼の安定化に有利である。
【0086】
制御セット選択部110は、オクタン価判定部109が更新した燃料のオクタン価に基づいて、エンジン1の運転制御に用いる制御セットを選択する。具体的に、制御セット選択部110は、更新された燃料のオクタン価が、低オクタン価よりも高オクタン価に近い場合は、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットを選択し、更新された燃料のオクタン価が、高オクタン価よりも低オクタン価に近い場合は、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択する。
【0087】
尚、制御セット選択部110は、メモリ102が記憶している燃料のオクタン価が中間のオクタン価である場合、第1制御セットの制御量と、第2制御セットの制御量との中間値を、各デバイスの制御量に定めてもよい。
【0088】
ECU10は、燃料のオクタン価に応じて選択された制御セットに従って、少なくとも、インジェクタ6の燃料噴射タイミング、点火プラグ25の点火タイミング、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度をそれぞれ制御する。また、ECU10は、後述するように、燃料が高オクタン価燃料であるときに、燃料のオクタン価に応じてスロットル弁43の開度を制御する。その結果、エンジン1は、使用燃料のオクタン価に応じて、常に、燃費及び排気エミッション性能が最適になる。また、使用燃料のオクタン価にかかわらず、エンジン1は、燃焼騒音を抑制できる。
【0089】
図7は、ECU10が実行する制御であって、燃料のオクタン価を判定する手順を例示している。図7のフローは、イグニッションをオンにするとスタートする。スタート後のステップS1において、ECU10は、メモリ102に記憶されているオクタン価に基づいて、対応する制御セットを選択し、エンジン1の運転を制御する。
【0090】
続くステップS2において、ECU10は、筒内圧センサSW5からの計測信号、つまり、燃焼室17の中の圧力波形の情報を取得する。
【0091】
ステップS3において、ECU10は、図3に例示する圧力波形に基づいて、自己着火タイミングθciを算出し、続くステップS4において、ECU10は、圧力波形に基づいて、SPCCI燃焼が行われたか否かを判断する。ステップS4の判断がYESの場合、プロセスはステップS5に進み、NOの場合、プロセスはリターンする。燃料のオクタン価の判定は、SPCCI燃焼時のみ、実行可能である。
【0092】
前記ステップS5においてECU10は、空気量Ceが下限値以上であるか否かを判断する。図5に例示するように、等価温度上昇量と充填効率との関係において、空気量Ceが低いと、曲線6011-6014が互いに近づいてしまう。この場合、ECU10は、燃料のオクタン価を誤判定するおそれがある。そこで、ECU10は、空気量Ceが下限値よりも小さい場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。オクタン価の判定可能な下限負荷が存在する。ステップS5の判断がYESの場合、プロセスはステップS6に進み、ステップS5の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。このことにより、使用燃料のオクタン価の誤判定が抑制される。
【0093】
次にステップS6において、ECU10は、前述したように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する。続くステップS7において、ECU10は、算出されたアシスト熱量Qsaと、自己着火タイミングθciとの関係を示す複数の点に基づいて、直線の統計モデルを定める(図6のグラフ111参照)。つまり、ECU10は、複数の点に対して直線をフィットさせる。
【0094】
次いで、ステップS8において、ECU10は、前記ステップS7で定めた直線の統計モデルに基づいて、当該直線の、特定CAにおける切片である等価温度上昇量を算出する。そして、ステップS9において、ECU10は、算出した等価温度上昇量と、メモリ102が記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出するとともに、自着火特性から、燃料のオクタン価を推定する(ステップS10)。
【0095】
このオクタン価の判定ロジックは、SPCCI燃焼の特性を利用している。混合気がSPCCI燃焼すれば、ECU10は、燃焼に関係する燃焼パラメータに基づいて、使用燃料のオクタン価を判定できる。ノッキングが発生しなくても、ECU10は、使用燃料のオクタン価を判定できる。ECU10は、エンジン1の運転中に、使用燃料のオクタン価を逐次、判定できる。
【0096】
本実施形態では、特に、ECU10は、燃料が高オクタン価である場合に、オクタン価が相対的に低い第1オクタン価(96)であるか、相対的に高い第2オクタン価(100)であるかを判定する。オクタン価が第2オクタン価であるか否かは、ステップS1~ステップS10までのプロセスを何度か繰り返して判定する。具体的には、ステップS1~ステップS10までのプロセスにより、オクタン価が所定オクタン価以上であることが所定回数判定されたときに、燃料が第2オクタン価であると判定する。例えば、所定オクタン価は99.5であり、所定回数は300回である。
【0097】
(空気量制御)
図8には、第1オクタン価燃料と第2オクタン価燃料とを用いた場合のエンジンの運転状態を比較して示す。図8の縦軸は、エンジン負荷(エンジントルクに相当)であり、横軸はエンジン回転数である。グラフ中の実線は、第2オクタン価燃料を用いた場合の全負荷の値を示し、一点鎖線は、第1オクタン価燃料を用いた場合の全負荷の値を示す。
【0098】
図8に示すように、第2オクタン価燃料を用いた場合、エンジン回転数がNe以上の領域において第1オクタン価燃料よりも高いエンジン負荷を得ることができる。一方で、エンジン回転数がNe未満の低回転領域おいては、第2オクタン価燃料を用いた方が、第1オクタン価燃料の場合よりも僅かに高い程度である。しかしながら、第2オクタン価燃料を用いるときには、特に加速時等のエンジンの過渡時には、グラフに破線で示すようなエンジン負荷を得ることで、高い加速性能を実現させることが求められている。
【0099】
そこで、本実施形態では、ECU10は、燃料が第2オクタン価燃料であると判定されたときには、第2オクタン価燃料であることに応じた制御信号を、スロットル弁43に出力するようにした。具体的には、ECU10は、燃料が第2オクタン価燃料であると判定されたときには、限界Ceを、通常の第1上限値Ce1から、該第1上限値Ce1よりも高い第2上限値Ce2に設定するようにして、スロットル弁43を制御する。限界Ceは、スロットル弁43を介して燃焼室17に供給される空気量の上限値を表す値である。第1上限値Ce1は、燃料が第1オクタン価燃料であるときの限界Ceである。これにより、燃料が第2オクタン価燃料であるときには、より多くの空気を燃焼室17に取り込むことができ、低回転領域であっても高いエンジン負荷が得られる。
【0100】
第1上限値Ce1及び第2上限値Ce2は、本実施形態では、第1吸気温度センサSW2により計測される吸気温度と水温センサSW6により計測される冷却水の水温とに基づいて算出される。第1上限値Ce1及び第2上限値Ce2は、吸気温度と冷却水の水温とにかかわらず、固定値としてもよい。
【0101】
しかしながら、空気量を増加させると、燃焼室17内で発生する熱量が増加して、シリンダ11の壁温が上昇する。このため、エンジン1の過渡状態が長期間継続して、シリンダ11の壁温が過剰に上昇すると、混合気を形成する燃料が第2オクタン価燃料であってもプリイグニッション等の異常燃焼が発生するおそれがある。
【0102】
そこで、本実施形態では、燃料が第2オクタン価燃料であると判定されたときには、限界Ceを第2上限値Ce2としつつ、シリンダ11の壁温が所定温度Tlよりも上昇する可能性があるときには、限界Ceを第2上限値Ce2よりも低くするようにした。具体的には、ECU10は、エンジン負荷が所定負荷以上であることが計測されかつシリンダ11の壁温が所定温度Tlよりも上昇する限界条件が成立したときには、限界Ceを第2上限値Ce2よりも低くする。尚、所定負荷は、エンジン1が過渡状態であるとみなせる負荷であり、例えば、全負荷状態の負荷である。また、所定温度Tlは、プリイグニッションが生じるおそれのある温度に設定することができる。
【0103】
本実形態1では、限界条件は、エンジン負荷が所定負荷以上であることが計測された時点から、予め設定した特定時間が経過するという条件に設定されている。特定時間は、エンジン回転数に応じて設定される。具体的には、ECU10は、クランク角センサSW7により計測されるエンジン回転数が低いほど特定時間を短く設定し、該エンジン回転数が高いほど特定時間を長く設定する。エンジン回転数が低いほど、混合気がシリンダ11の壁面と接触する時間が長く、混合気の温度が上昇しやすいためである。尚、特定時間の算出において、ECU10は、第1吸気温度センサSW2により計測される吸気温度や水温センサSW6により計測される冷却水の水温を更に考慮するようにしてもよい。
【0104】
図9は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であると判定されたときの限界Ce、空気量、目標負荷、及び筒内温度の変化を示す。尚、シリンダ11の壁温は、筒内温度と同様の変化をする。
【0105】
まず、初期状態において、燃料のオクタン価は、第1オクタン価(L_Ron)であり、限界Ceは第1上限値Ce1に設定されているとする。目標負荷はTq1に設定されている。このとき、目標負荷に対する実際の目標空気量は、第1上限値Ce1よりも高い値であるが、最終的に第1上限値Ce1に設定し直されて、空気量は第1上限値Ce1に制限されているとする。
【0106】
初期状態から時間t1において、オクタン価が第2オクタン価(H_Ron)であると判定されたとする。このときには、限界Ceが第1上限値Ce1から第2上限値Ce2に変更される。このとき、限界Ceが上昇したことにより、空気量は第1上限値Ce1よりも高くなる。空気量が増加したことにより、筒内温度も上昇する。
【0107】
次に、時間t2において、アクセルペダルが踏み込まれて、エンジン負荷が上昇すると、それに伴い空気量も増加する。そして、時間t3において、目標負荷が所定負荷以上のTq2に設定されると、空気量が第2上限値Ce2に制限される。空気量が増加したことにより、筒内温度は、更に上昇して、前記所定温度Tlに近くなる。
【0108】
その後、時間t4において、特定時間が経過する(限界条件が成立する)と、限界Ceが第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に漸減される。限界Ceは、特に、第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に連続的に下げられる。これにより、空気量も第2上限値Ce2から漸減する。このとき、目標負荷はTq2のままである。筒内温度は空気量が減少することにより低下する。
【0109】
限界Ceを漸減させる際の、限界Ceの傾き(単位時間当たりの減少量)は、ショックが生じない程度の傾きに設定されている。
【0110】
時間t5において、限界Ceが第1上限値Ce1に到達すると、限界Ceはそれ以上低下せず、第1上限値Ce1が維持される。これにより、空気量も第1上限値Ce1に維持される。筒内温度は低下し続ける。
【0111】
そして、時間t6において、目標負荷が所定負荷未満になると、限界Ceは、第2上限値Ce2に向かって漸増される。空気量は、目標負荷Tq1に応じた空気量に向かって漸増する。筒内温度は、空気量が漸増されることで温度低下が抑制される。これにより、シリンダ11の壁温を、第2オクタン価燃料を含む混合気を安定して燃焼させる温度に維持することができ、燃焼安定性を向上させることができる。
【0112】
以上のように、燃料が第2オクタン価燃料のときには、限界Ceを相対的に高い第2上限値Ce2としつつも、シリンダ11の壁温に関する限界条件が成立したときに、限界Ceを第2上限値Ce2から低下させることで、シリンダ11が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、プリイグニッション等の異常燃焼を抑制しつつ、高いエンジン負荷を得ることができる。
【0113】
次に、ECU10による空気量制御の処理動作を、図10のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。このフローチャートは、エンジン1の駆動中には所定のサイクルで実行される。
【0114】
まず、ステップS101において、ECU10は、各種センサSW1~SW11からの信号を読み込む。
【0115】
次に、ステップS102において、ECU10は、エンジン1の目標負荷を算出する。ECU10は、特に、アクセル開度センサSW8の検出結果から目標負荷を算出する。
【0116】
次いで、ステップS103において、ECU10は、目標空気量を算出する。ECU10は、前記ステップS102で算出した目標負荷に応じて目標空気量を算出する。
【0117】
続いて、ステップS104において、ECU10は、第1上限値Ce1及び第2上限値Ce2を算出する。
【0118】
次のステップS105において、ECU10は、燃料のオクタン価を推定する。ECU10は、図7に示すフローチャートに従ってオクタン価を推定する。
【0119】
次に、ステップS106において、ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であるか否かを判定する。前述したように、ECU10は、図7のフローチャートを繰り返すことで、第2オクタン価であるか否かを判定する。ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であるYESのときには、ステップS107に進む。一方で、ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価でないNOのときには、ステップS113に進む。
【0120】
ステップS107では、ECU10は、限界Ceを第2上限値Ce2に設定する。
【0121】
次のステップS108において、ECU10は、前記ステップS102で算出した目標負荷が所定負荷以上であるか否かについて判定する。ECU10は、目標負荷が所定負荷以上であるYESのときには、ステップS109に進む。一方で、ECU10は、目標負荷が所定負荷未満であるNOのときには、ステップS115に進む。
【0122】
ステップS109では、ECU10は、特定時間を算出する。ECU10は、クランク角センサSW7により計測されるエンジン回転数に基づいて特定時間を算出する。
【0123】
次のステップS110において、ECU10は、目標負荷が所定負荷以上になってから、前記ステップS109で算出した特定時間が経過したか否かについて判定する。ECU10は、特定時間が経過したYESのときには、ステップS111に進む。一方で、ECU10は、特定時間が経過していないNOのときには、ステップS115に進む。
【0124】
ステップS111では、ECU10は、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に漸減させる。
【0125】
次のステップS112において、ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1になったか否かを判定する。ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1に至っているYESのときには、ステップS113に進む。一方で、ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1に至っていないNOのときには、ステップS114に進む。
【0126】
前記ステップS106の判定がNOであるか、又は前記ステップS112の判定がYESであるときに進むステップS113では、ECU10は、限界Ceを第1上限値Ce1に設定する。
【0127】
一方で、前記ステップS114では、ECU10は、限界Ceを第1上限値Ce1と第2上限値Ce2との中間値に設定する。ECU10は、中間値として、前記ステップS111で限界Ceを第2上限値Ce2から漸減させてから、現在到達している限界Ceの値を採用することができる。
【0128】
前記ステップS108の判定がNOであるとき、前記ステップS110の判定がNOであるとき、並びに前記ステップS113又は前記ステップS114の後に進むステップS115では、ECU10は、前記ステップS103で算出した目標空気量が限界Ce以上であるか否かを判定する。ECU10は、目標空気量が限界Ce以上であるYESのときには、ステップS116に進む。一方で、ECU10は、目標空気量が限界Ce未満であるNOのときには、ステップS117に進む。尚、この限界Ceは、前記ステップS108及び前記ステップS110からステップS115に進んだときには、第2上限値Ce2であり、前記ステップS113からステップS115に進んだときには第1上限値Ce1であり、前記ステップS114からステップS115に進んだときには中間値である。
【0129】
ステップS116では、ECU10は、目標空気量を限界Ceに修正する。
【0130】
そして、ステップS117において、ECU10は、目標空気量に基づいてスロットル弁43を制御する。ステップS117の後は、リターンする。
【0131】
したがって、本実施形態1では、燃焼室17内に供給される空気量を調整可能なスロットル弁43と、エンジン1に関係するパラメータの計測信号を出力する計測部(特に、筒内圧センサSW5、水温センサSW6、クランク角センサSW7、アクセル開度センサSW8)と、計測信号に基づいて燃焼室17に供給される燃料のオクタン価を判定するとともに、判定したオクタン価に応じた制御信号を、スロットル弁43に出力するECU10と、を備え、ECU10は、燃料のオクタン価が第1オクタン価であるときには、スロットル弁43を介して燃焼室17に供給される空気量の上限値である限界Ceを第1上限値Ce1に設定する一方、燃料のオクタン価が第1オクタン価よりも高い第2オクタン価であるときには、限界Ceを第1上限値Ce1よりも高い第2上限値Ce2に設定し、さらにECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であるときに、計測信号から算出される目標負荷が所定負荷以上でありかつシリンダ11の壁温が所定温度Tlよりも上昇する限界条件が成立したときには、限界Ceを第2上限値Ce2よりも低くする。これにより、第2オクタン価燃料を用いるときには、限界Ceが高く設定されるため、高いエンジン負荷を得ることができる。一方で、シリンダ11の壁温が所定温度Tlよりも高くなりそうなときには、限界Ceが下げられるため、シリンダ11の壁温が過剰に上昇することが抑制されて、プリイグニッション等の異常燃焼が抑制される。したがって、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることができる。
【0132】
また、本実施形態1において、限界条件は、目標負荷が所定負荷以上となった時から、予め設定した特定時間が経過するという条件である。これにより、特定時間の間は高いエンジン負荷を得つつ、特定時間が経過した後は、限界Ceを低下させることで、シリンダ11の壁温の上昇を抑制することができる。したがって、異常燃焼を効果的に抑制しつつ高いエンジン負荷を得ることができる。また、ECU10の演算量を少なくすることもできる。
【0133】
特に、本実施形態1では、ECU10は、クランク角センサSW7により計測されるエンジン回転数に応じて特定時間を設定する。これにより、エンジン1の運転状態により特定時間が適切に設定されるため、異常燃焼を効果的に抑制することができる。
【0134】
また、本実施形態1では、ECU10は、限界条件が成立したときには、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に徐々に低下させる。すなわち、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に一気に低下させると、燃焼室17に供給される空気量が一気に変わる結果、運転者にショックとして伝わる可能性がある。したがって、限界Ceを徐々に低下させることで、運転者に違和感を与えないようにすることができる。
【0135】
また、本実施形態1では、ECU10は、限界条件が成立して、限界Ceが第2上限値Ce2よりも低い状態で、目標負荷が前記所定負荷未満になったときには、限界Ceを第2上限値Ce2に上昇させる。すなわち、第2オクタン価燃料を用いているときに、シリンダ11の壁温が過剰に低下すると、燃焼安定性が低下して、最悪の場合、失火が発生してしまうおそれがある。本実施形態1のように限界Ceを第2上限値Ce2に上昇させるようにすれば、シリンダ11の壁温の低下が抑制されて、燃焼安定性を向上させることができる。この結果、異常燃焼を抑制しつつ高いエンジン負荷をより効果的に得ることができる。
【0136】
〈実施形態2〉
以下、実施形態2について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、その詳細な説明を省略する。
【0137】
本実施形態2では、限界Ceを第2上限値Ce2から低下させる限界条件が前記実施形態1とは異なる。具体的には、実施形態2では、シリンダ11の壁温を推定して、推定温度が所定温度Tl以上になるときに、限界Ceを第2上限値Ce2から低下させる。
【0138】
ECU10は、水温センサSW6の計測信号と、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて算出される燃焼室17内で発生した熱量とに基づいてシリンダ11の壁温を推定する。具体的には、ECU10は、水温センサSW6の計測信号から現在のシリンダ11の壁温を算出し、そこに、燃焼室17で発生した熱量から推定される上昇温度を加えることで、次の燃焼サイクル開始時のシリンダ11の壁温を推定する。
【0139】
そして、ECU10は、目標負荷が所定負荷以上であるときに、推定温度が所定温度Tl以上になるという限界条件が成立したときには、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に漸減させる。ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1に到達したときには、限界Ceを第1上限値Ce1に維持する。また、前記実施形態1と同様に、ECU10は、限界Ceを第2上限値Ce2から低下させた状態で、目標負荷が所定負荷未満になったときには、限界Ceを第2上限値Ce2に漸増させる。
【0140】
次に、本実施形態2に係るECU10による空気量制御の処理動作を、図11のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。このフローチャートは、エンジン1の駆動中には所定のサイクルで実行される。
【0141】
まず、ステップS201において、ECU10は、各種センサSW1~SW11からの信号を読み込む。
【0142】
次に、ステップS202において、ECU10は、エンジン1の目標負荷を算出する。ECU10は、特に、アクセル開度センサSW8の検出結果から目標負荷を算出する。
【0143】
次いで、ステップS203において、ECU10は、目標空気量を算出する。ECU10は、前記ステップS202で算出した目標負荷に応じて目標空気量を算出する。
【0144】
続いて、ステップS204において、ECU10は、第1上限値Ce1及び第2上限値Ce2を算出する。
【0145】
次のステップS205において、ECU10は、燃料のオクタン価を推定する。ECU10は、図7に示すフローチャートに従ってオクタン価を推定する。
【0146】
次に、ステップS206において、ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であるか否かを判定する。前述したように、ECU10は、図7のフローチャートを繰り返すことで、第2オクタン価であるか否かを判定する。ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価であるYESのときには、ステップS207に進む。一方で、ECU10は、燃料のオクタン価が第2オクタン価でないNOのときには、ステップS213に進む。
【0147】
ステップS207では、ECU10は、限界Ceを第2上限値Ce2に設定する。
【0148】
次のステップS208において、ECU10は、前記ステップS102で算出した目標負荷が所定負荷以上であるか否かについて判定する。ECU10は、目標負荷が所定負荷以上であるYESのときには、ステップS209に進む。一方で、ECU10は、目標負荷が所定負荷未満であるNOのときには、ステップS215に進む。
【0149】
ステップS209では、ECU10は、シリンダ11の壁温を推定する。ECU10は、水温センサSW6と筒内圧センサSW5の計測信号に基づいてシリンダ11の壁温を推定する。
【0150】
次のステップS110において、ECU10は、推定温度が所定温度Tl以上であるか否かについて判定する。ECU10は、推定温度が所定温度Tl以上であるYESのときには、ステップS211に進む。一方で、ECU10は、推定温度が所定温度Tl未満であるNOのときには、ステップS215に進む。
【0151】
ステップS211では、ECU10は、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に漸減させる。
【0152】
次のステップS212において、ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1になったか否かを判定する。ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1に至っているYESのときには、ステップS213に進む。一方で、ECU10は、限界Ceが第1上限値Ce1に至っていないNOのときには、ステップS214に進む。
【0153】
前記ステップS206の判定がNOであるか、又は前記ステップS212の判定がYESであるときに進むステップS213では、ECU10は、限界Ceを第1上限値Ce1に設定する。
【0154】
一方で、前記ステップS214では、ECU10は、限界Ceを第1上限値Ce1と第2上限値Ce2との中間値に設定する。ECU10は、中間値として、前記ステップS211で限界Ceを第2上限値Ce2から漸減させてから、現在到達している限界Ceの値を採用することができる。
【0155】
前記ステップS208の判定がNOであるとき、前記ステップS210の判定がNOであるとき、並びに前記ステップS213又は前記ステップS214の後に進むステップS115では、ECU10は、前記ステップS103で算出した目標空気量が限界Ce以上であるか否かを判定する。ECU10は、目標空気量が限界Ce以上であるYESのときには、ステップS216に進む。一方で、ECU10は、目標空気量が限界Ce未満であるNOのときには、ステップS217に進む。尚、この限界Ceは、前記ステップS208及び前記ステップS210からステップS215に進んだときには、第2上限値Ce2であり、前記ステップS213からステップS215に進んだときには第1上限値Ce1であり、前記ステップS214からステップS215に進んだときには中間値である。
【0156】
ステップS216では、ECU10は、目標空気量を限界Ceに修正する。
【0157】
そして、ステップS217において、ECU10は、目標空気量に基づいてスロットル弁43を制御する。ステップS117の後は、リターンする。
【0158】
したがって、本実施形態2では、ECU10は、燃焼室17内の混合気の燃焼に関係する燃焼パラメータに基づいて、シリンダ11の壁温を推定し、限界条件として、推定温度が所定温度以上となるという条件を採用する。これにより、実際にシリンダ11の壁温を推定するため、シリンダ11の壁温が所定温度Tlよりも高くなるタイミングをより適切に算出することができる。このため、限界Ceが高い状態を出来る限り長くしつつ、限界Ceを低下させることで異常燃焼を抑制することができる。
【0159】
〈その他の実施形態〉
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0160】
例えば、限界条件は、前記実施形態1では、特定時間を経過するという条件であり、前記実施形態2では、推定温度が所定温度以上になるという条件であった。これに限らず、例えば、限界条件を、水温センサSW6の計測結果が、所定温度よりも僅かに低く設定された設定温度以上になる、という条件にしてもよい。この限界条件でも、シリンダ11の壁温が過剰に高くなるのを抑制することができる。
【0161】
また、前記実施形態1及び2では、限界条件を満たしたときには、限界Ceを第2上限値Ce2から第1上限値Ce1に連続的に漸減させていた。これに限らず、例えば、第2上限値Ce2と第1上限値Ce1との間に、2、3点程度の中間値を予め設定しておき、限界Ceを、該中間値を通るようにステップ式に低下させてもよい。限界Ceを第2上限値Ce2よりも低下させた状態で目標負荷が所定負荷以上となって、限界Ceを漸増させるときも同様に、ステップ式に限界Ceを増加させてもよい。
【0162】
また、前記実施形態1及び2では、スロットル弁43を制御して、燃焼室17に供給する空気量を調整していたが、これに限らず、スロットル弁43に換えて又はスロットル弁43に加えて、過給機44やエアバイパス弁48を利用して、燃焼室17に供給する空気量を調整するようにしてもよい。
【0163】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0164】
ここに開示された技術は、燃焼室を形成するシリンダを有するエンジンの制御装置において、オクタン価の異なる燃料を用いる場合に有用である。
【符号の説明】
【0165】
1 エンジン
10 ECU(制御部)
43 スロットル弁(空気量制御部)
44 過給機(空気量制御部)
48 エアバイパス弁(空気量制御部)
SW5 筒内圧センサ(計測部)
SW6 水温センサ(計測部)
SW7 クランク角センサ(計測部)
SW8 アクセル開度センサ(計測部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11