(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両用制御装置及び電動モータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20241112BHJP
H02P 6/12 20060101ALI20241112BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20241112BHJP
H02P 3/22 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P6/12
H02P29/028
H02P3/22
H02P3/22 A
(21)【出願番号】P 2020213391
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中出 充則
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184448(JP,A)
【文献】特開2011-200030(JP,A)
【文献】特開2012-130111(JP,A)
【文献】特開2012-136064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P3/00-4/00
6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
U相、V相、W相からなる三相の巻線が鉄心に巻き回された固定子と、前記鉄心に向かい合う複数の永久磁石を有する回転子と、前記固定子に対する前記回転子の回転角を検出する回転角検出器とを備え、前記回転子の回転によって車両の車輪を駆動する電動モータを制御する車両用制御装置であって、
それぞれが上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子とを直列に接続してなるU相、V相、及びW相のアームを有すると共に、前記上段側のスイッチング素子及び前記下段側のスイッチング素子のそれぞれに並列に接続された還流ダイオードを有し、前記電動モータに三相交流電流を供給するインバータと、
複数の前記スイッチング素子のそれぞれをオン又はオフさせるオンオフ信号を出力する制御部とを備え、
前記制御部は、前記回転角検出器による前記回転角の検出結果を取得する回転角取得手段と、前記回転角取得手段により前記回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生したときに前記U相、V相、及びW相のアームのそれぞれの前記上段側及び前記下段側のうち一方側のスイッチング素子を全てオンすると共に他方側のスイッチング素子を全てオフする三相短絡制御を実行する三相短絡制御手段とを有し、
前記三相短絡制御手段は、前記回転角取得手段により前記検出結果を正常に取得できていたときの前記回転角、及び前記回転子の回転速度の推定値に基づいて、前記三相短絡制御の開始直後に前記三相の巻線のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで前記三相短絡制御を開始
し、
前記三相短絡制御手段が前記三相短絡制御を開始するタイミングは、下記(1)乃至(3)の各ピーク値を避けるタイミングである、
車両用制御装置。
(1)前記U相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
(2)前記V相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
(3)前記W相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
【請求項2】
前記制御部は、車速に関する情報を取得する車速情報取得手段をさらに有し、
前記三相短絡制御手段は、前記回転角取得手段により前記検出結果を正常に取得できていたときの前記回転角、及び前記車速情報取得手段によって取得した車速を前記回転子の回転角速度に換算して得られた前記回転子の回転速度の推定値に基づいて、前記三相短絡制御の開始直後に前記三相の巻線のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで前記三相短絡制御を開始する、
請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記三相短絡制御手段は、前記異常の発生後の経過時間と前記経過時間中における前記回転子の回転速度の推定値とに基づいて前記回転角の推定値を演算し、同推定値から前記各ピーク値の発生時期を求め、同発生時期を避けて前記三相短絡制御を開始する、
請求項
1に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
インバータからU相、V相、及びW相の三相交流電流が供給される三相の巻線が鉄心に巻き回された固定子と、前記鉄心に向かい合う複数の永久磁石を有する回転子と、前記固定子に対する前記回転子の回転角を検出する回転角検出器とを備え、前記回転子の回転によって車両の車輪を駆動する電動モータの制御方法であって、
前記インバータは、それぞれが上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子とを直列に接続してなるU相、V相、及びW相のアームを有すると共に、前記上段側のスイッチング素子及び前記下段側のスイッチング素子のそれぞれに並列に接続された還流ダイオードを有しており、
前記回転角検出器による前記回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生したときに前記U相、V相、及びW相のアームのそれぞれの前記上段側及び前記下段側のうち一方側のスイッチング素子を全てオンすると共に他方側のスイッチング素子を全てオフする三相短絡制御を実行するにあたり、前記検出結果を正常に取得できていたときの前記回転角、及び前記回転子の回転速度の推定値に基づいて、前記三相短絡制御の開始直後に前記三相の巻線のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで前記三相短絡制御を開始
し、
前記三相短絡制御を開始するタイミングは、下記(1)乃至(3)の各ピーク値を避けるタイミングである、
電動モータの制御方法。
(1)前記U相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
(2)前記V相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
(3)前記W相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動源として用いられる電動モータを制御する車両用制御装置、及び電動モータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のスイッチング素子が三相ブリッジ接続されたインバータから供給される三相交流によってトルクを発生させる電動モータが、車両の駆動源として広く用いられるようになってきている。車両の駆動源として用いられる電動モータは、発進時や加速時には力行により駆動力を発生させる一方、制動時には回生電力を発生させ、発生した回生電力がリチウムイオンバッテリ等の二次電池からなる直流電源に蓄電される。このような電動モータを制御する制御装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の電動モータ制御装置は、回生電力を直流電源に回生不可である電源側異常状態であると判定された場合に、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、及び電気角θeに基づいて三相短絡実行指令を生成し、三相短絡処理を実行する。ここで、三相短絡処理は、インバータの上段側スイッチング素子の全て、又は下段側スイッチング素子の全てをオンする制御である。また、電気角θeは、電動モータの固定子に対する回転子の回転角を検出するレゾルバやエンコーダ等の回転角センサの検出値であるロータ回転角θm(機械角)を電動モータの永久磁石の極対数を基に電気角に換算したものであり、U相電流Iu、V相電流Iv、及びW相電流Iwの座標変換によりd軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqを求めるため等に用いられる。
【0004】
また、特許文献1に記載の電動モータ制御装置は、三相短絡処理実行後の相電流が、三相短絡前に流れていた電流と、三相短絡後に電動モータの誘起電圧によって流れる短絡電流との和となり、インバータのスイッチング素子や電動モータが破壊されるおそれがあるという問題点に鑑みて、三相短絡処理を実行する際には、三相短絡処理後の相電流絶対値の最大値が最小となるタイミングで同処理を開始するように構成されている。具体的には、d-q軸座標系上でのd軸電流及びq軸電流に基づいて相電流絶対値の最大値が最小となる回転角度を設定し、この回転角度に回転角センサの検出値に基づく電気角θeが一致したときに三相短絡処理を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-184448号公報(請求項1乃至5、明細書段落[0017]、[0037]、[0053]-[0057]、[0065]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の車載装置には、車両走行時の振動等に起因して、様々な故障が発生し得る。駆動源として用いられる電動モータにおいて回転角を検出する回転角検出器の故障もその一つである。回転角検出器の故障が発生した場合には、電動モータを正常に制御することができないため、上記の三相短絡処理を実行することが考えられる。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の電動モータ制御装置では、回転角の検出値から求めた電気角に基づいて、三相短絡処理後の相電流絶対値の最大値が最小となるタイミングで同処理を開始するように構成されているので、回転角の検出値を正常に取得できない場合には、このようなタイミングで三相短絡処理を開始することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、車両の駆動源として用いられる電動モータの回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生した場合でも、三相短絡制御の開始直後における相電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始することが可能な車両用制御装置及び電動モータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、U相、V相、W相からなる三相の巻線が鉄心に巻き回された固定子と、前記鉄心に向かい合う複数の永久磁石を有する回転子と、前記固定子に対する前記回転子の回転角を検出する回転角検出器とを備え、前記回転子の回転によって車両の車輪を駆動する電動モータを制御する車両用制御装置であって、それぞれが上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子とを直列に接続してなるU相、V相、及びW相のアームを有すると共に、前記上段側のスイッチング素子及び前記下段側のスイッチング素子のそれぞれに並列に接続された還流ダイオードを有し、前記電動モータに三相交流電流を供給するインバータと、複数の前記スイッチング素子のそれぞれをオン又はオフさせるオンオフ信号を出力する制御部とを備え、前記制御部は、前記回転角検出器による前記回転角の検出結果を取得する回転角取得手段と、前記回転角取得手段により前記回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生したときに前記U相、V相、及びW相のアームのそれぞれの前記上段側及び前記下段側のうち一方側のスイッチング素子を全てオンすると共に他方側のスイッチング素子を全てオフする三相短絡制御を実行する三相短絡制御手段とを有し、前記三相短絡制御手段は、前記回転角取得手段により前記検出結果を正常に取得できていたときの前記回転角、及び前記回転子の回転速度の推定値に基づいて、前記三相短絡制御の開始直後に前記三相の巻線のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで前記三相短絡制御を開始し、前記三相短絡制御手段が前記三相短絡制御を開始するタイミングは、下記(1)乃至(3)の各ピーク値を避けるタイミングである、車両用制御装置を提供する。(1)前記U相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値(2)前記V相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値(3)前記W相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
【0010】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、インバータからU相、V相、及びW相の三相交流電流が供給される三相の巻線が鉄心に巻き回された固定子と、前記鉄心に向かい合う複数の永久磁石を有する回転子と、前記固定子に対する前記回転子の回転角を検出する回転角検出器とを備え、前記回転子の回転によって車両の車輪を駆動する電動モータの制御方法であって、前記インバータは、それぞれが上段側のスイッチング素子と下段側のスイッチング素子とを直列に接続してなるU相、V相、及びW相のアームを有すると共に、前記上段側のスイッチング素子及び前記下段側のスイッチング素子のそれぞれに並列に接続された還流ダイオードを有しており、前記回転角検出器による前記回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生したときに前記U相、V相、及びW相のアームのそれぞれの前記上段側及び前記下段側のうち一方側のスイッチング素子を全てオンすると共に他方側のスイッチング素子を全てオフする三相短絡制御を実行するにあたり、前記検出結果を正常に取得できていたときの前記回転角、及び前記回転子の回転速度の推定値に基づいて、前記三相短絡制御の開始直後に前記三相の巻線のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで前記三相短絡制御を開始し、前記三相短絡制御を開始するタイミングは、下記(1)乃至(3)の各ピーク値を避けるタイミングである、電動モータの制御方法を提供する。(1)前記U相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値(2)前記V相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値(3)前記W相の前記巻線に発生している磁束によって同巻線に流れる過渡電流の向きと前記回転子の回転により同巻線に誘起される誘起電流の向きが等しい場合の同誘起電流のピーク値
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両用制御装置及び電動モータの制御方法によれば、車両の駆動源として用いられる電動モータの回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生した場合でも、三相短絡制御の開始直後における相電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両用制御装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。
【
図3】モータコントローラの構成例を示す概略構成図である。
【
図4】(a)は、三相短絡制御の実行時にU相巻線に流れる過渡電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。(b)は、モータ回転速度に変動がない定常状態で三相短絡制御を開始した際にU相巻線に流れる誘起電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図4(c)は、過渡電流と誘起電流とを足し合わせたU相電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
【
図5】電気角θが0°、90°、180°、及び270°のときの固定子と回転子との相対的な位置関係を示す図である。
【
図6】(a)は、電気角θが0°、90°、180°、及び270°のときにモータ回転速度に変動がない定常状態で三相短絡制御を開始した場合にU相巻線に誘起される誘起電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。(b)は、誘起電流に過渡電流を加算したU相電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
【
図7】制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用制御装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。この4輪駆動車1は、左右前輪111,112が主駆動源としてのエンジン12によって駆動され、左右後輪113,114が補助駆動源としての電動モータ2によって駆動される。
【0015】
エンジン12の駆動力は、トランスミッション13で変速され、フロントディファレンシャル14のデフケース141に伝達される。フロントディファレンシャル14は、デフケース141と、デフケース141に両端部が支持されたピニオンシャフト142と、ピニオンシャフト142に軸支された一対のピニオンギヤ143,143と、一対のピニオンギヤ143,143にそれぞれギヤ軸を直交させて噛合する左右のサイドギヤ144,145とを有している。左側のサイドギヤ144には、左前輪111に駆動力を伝達するドライブシャフト151が相対回転不能に連結され、右側のサイドギヤ145には、右前輪112に駆動力を伝達するドライブシャフト152が相対回転不能に連結されている。
【0016】
電動モータ2の駆動力は、減速機構16、リヤディファレンシャル17、及び左右のドライブシャフト153,154を介して左右後輪113,114に伝達される。減速機構16は、電動モータ2の出力回転軸であるモータシャフト20に固定されたピニオンギヤ161と、ピニオンギヤ161に噛み合う大径ギヤ162と、大径ギヤ162に連結軸163によって連結された小径ギヤ164と、リヤディファレンシャル17のデフケース171に固定されたリングギヤ165とを有している。小径ギヤ164は、大径ギヤ162及びリングギヤ165よりもピッチ円径が小さく、連結軸163によって大径ギヤ162と相対回転不能に連結されている。
【0017】
リヤディファレンシャル17は、デフケース171と、デフケース171に両端部が支持されたピニオンシャフト172と、ピニオンシャフト172に軸支された一対のピニオンギヤ173,173と、一対のピニオンギヤ173,173にそれぞれギヤ軸を直交させて噛合する左右のサイドギヤ174,175とを有している。左側のサイドギヤ174には、左後輪113に駆動力を伝達するドライブシャフト153が相対回転不能に連結され、右側のサイドギヤ175には、右後輪114に駆動力を伝達するドライブシャフト154が相対回転不能に連結されている。
【0018】
左右前輪111,112及び左右後輪113,114には、車輪速を検出するための車輪速センサ181~184がそれぞれ対応して取り付けられている。車輪速センサ181~184は、例えば左右前輪111,112及び左右後輪113,114の回転速度に応じたパルス幅のパルス信号を出力する。
【0019】
また、4輪駆動車1には、統括コントローラ101、エンジン12を制御するエンジンコントローラ102、トランスミッション13を制御するトランスミッションコントローラ103、電動モータ2を制御するモータコントローラ3、及び電動モータ2等の電源として用いられるバッテリー19が搭載されている。バッテリー19は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池であり、充放電が可能である。モータコントローラ3は、本発明の車両用制御装置の一態様である。
【0020】
統括コントローラ101は、各車輪(左右前輪111,112及び左右後輪113,114)の車輪速や、ステアリングホイールの操舵角、ならびにアクセルペダル及びブレーキペダルの踏み込み量等の各種車両情報を取得可能であり、これらの車両情報に基づいてエンジンコントローラ102、トランスミッションコントローラ103、及びモータコントローラ3を統括的に制御する。
【0021】
また、統括コントローラ101は、車輪速センサ181~184によって検出された各車輪の車輪速に基づいて4輪駆動車1の車速を求め、車速の情報をエンジンコントローラ102、トランスミッションコントローラ103、及びモータコントローラ3に送信する。なお、車速は、例えば各車輪のうち最も回転速度が低い車輪の車輪速を基準として求めることができる。また、操舵角やヨーレイト及び前後方向の加速度等を考慮して車速を求めてもよい。
【0022】
モータコントローラ3は、複数のスイッチング素子が三相ブリッジ接続されたインバータ4と、インバータ4の複数のスイッチング素子のそれぞれをオン又はオフさせるオンオフ信号を出力する制御部5と、制御部5が出力するオンオフ信号を増幅してインバータ4の複数のスイッチング素子に出力するドライブ回路6とを有している。インバータ4は、バッテリー19の直流電圧をスイッチングし、U相、V相、及びW相からなる三相の交流電流を電動モータ2に供給する。これにより、電動モータ2によって左右後輪113,114が駆動され、4輪駆動車1が4輪駆動状態となる。また、4輪駆動車1の減速時等には、左右後輪113,114の回転によって電動モータ2が回生電力を発生させ、バッテリー19が充電される。この際には、インバータ4がコンバータとして機能する。
【0023】
図2は、電動モータ2の断面図である。電動モータ2は、モータシャフト20と、モータシャフト20と一体に回転する回転子21と、回転子21を囲むように配置された固定子22とを有している。固定子22は、複数のティース220を有する鉄心221と、複数のティース220にそれぞれ巻き回されたU相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224とを有しており、インバータ4から正弦波状の三相交流電流が供給されることにより回転磁界を発生させる。
【0024】
回転子21は、中心部にモータシャフト20が挿通されたロータコア211と、ロータコア211の外周に固定され、鉄心221の複数のティース220に向かい合う複数の永久磁石212とを有している。複数の永久磁石212は、N極が外周側に配置されたN極磁石212NとS極が外周側に配置されたS極磁石212Sとが回転子21の周方向に交互に配置されている。電動モータ2は、固定子22に発生する回転磁界によって回転子21がモータシャフト20と一体に回転することで、左右後輪113,114を駆動する。
【0025】
また、電動モータ2は、固定子22に対する回転子21の回転角を検出する回転角検出器23(
図1に示す)を有している。回転角検出器23は、例えばレゾルバあるいはエンコーダであり、回転角の検出信号をモータコントローラ3の制御部5に出力する。
【0026】
図3は、モータコントローラ3の構成例を電動モータ2の模式図と共に示す概略構成図である。電動モータ2の回転子21は、
図2に示すように複数(
図2の図示例では六つ)の磁極を有しているが、
図3では、このうち一対の磁極(一つのN極磁石212Nと一つのS極磁石212S)を模式的に示している。回転角検出器23は、回転子21の機械角を検出する。回転子21の磁極数をPとしたとき、回転子21の電気角は、回転角検出器23によって検出された機械角にP/2を乗じて得ることができる。
【0027】
インバータ4は、バッテリー19の正極に接続された上側母線401と電気的に接地された下側母線402との間に、三相ブリッジ接続された第1乃至第6のスイッチング素子41~46と、第1乃至第6のスイッチング素子41~46のそれぞれに並列に接続された六つの還流ダイオード40とを有している。第1乃至第6のスイッチング素子41~46のうち、第1乃至第3のスイッチング素子41~43は、上側母線401に接続された上段側のスイッチング素子であり、第4乃至第6のスイッチング素子44~46は、下側母線402に接続された下段側のスイッチング素子である。
【0028】
第1乃至第6のスイッチング素子41~46は、例えばゲートがオン(正電圧が印加)されたときにコレクタからエミッタに電流が流れるNチャネル型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。なお、第1乃至第6のスイッチング素子41~46としては、IGBTに限らず、例えばMOS-FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いてもよい。
【0029】
第1のスイッチング素子41及び第4のスイッチング素子44は、直列に接続されてU相のアーム47を構成し、第1のスイッチング素子41と第4のスイッチング素子44との間の節点471から電動モータ2にU相電流が供給される。第2のスイッチング素子42及び第5のスイッチング素子45は、直列に接続されてV相のアーム48を構成し、第2のスイッチング素子42と第5のスイッチング素子45との間の節点481から電動モータ2にV相電流が供給される。また、第3のスイッチング素子43及び第6のスイッチング素子46は、直列に接続されてW相のアーム49を構成し、第3のスイッチング素子43と第6のスイッチング素子46との間の節点491から電動モータ2にW相電流が供給される。
【0030】
また、モータコントローラ3は、U相電流、V相電流、及びW相電流をそれぞれ検出する第1乃至第3の電流センサ71~73を有している。第1乃至第3の電流センサ71~73は、例えばホール素子を有するホール式のものであるが、シャント抵抗を有するシャント式のものであってもよい。なお、U相電流、V相電流、及びW相電流の総和がゼロであることに鑑みて、第1乃至第3の電流センサ71~73のうちの何れかを省略し、電流センサが省略された一つの相の相電流を計算によって求めてもよい。
【0031】
制御部5は、CPU(中央演算処理装置)と、CPUによって実行されるプログラムや各種のデータを記憶するROMやRAMからなる記憶部と、ゲートICやADコンバータ及び送受信IC等のCPUの周辺回路とによって構成されている。また、制御部5は、機能構成として、通常制御手段51と、三相短絡制御手段52と、回転角取得手段53と、相電流取得手段54と、車速情報取得手段55とを有している。
【0032】
通常制御手段51及び三相短絡制御手段52は、例えばCPUがプログラムを実行することにより実現される。回転角取得手段53は、電動モータ2の回転角検出器23から回転子21の回転角の検出結果を取得する。相電流取得手段54は、第1乃至第3の電流センサ71~73から検出信号を受信してU相電流、V相電流、及びW相電流の電流値を取得する。車速情報取得手段55は、例えば統括コントローラ101との通信により、4輪駆動車1の車速に関する情報を取得する。
【0033】
通常制御手段51は、例えば統括コントローラ101から指令されたトルクで電動モータ2を回転させるように、回転子21の回転角に基づいてU相電流、V相電流、及びW相電流の指令値を設定し、相電流取得手段54によって取得されたU相電流、V相電流、及びW相電流の実際値との偏差に基づいて電流フィードバック制御を行う。また、通常制御手段51は、第1乃至第6のスイッチング素子41~46のそれぞれをオン又はオフするオンオフ信号を出力する。
【0034】
このオンオフ信号は、各制御周期におけるデューティに応じたPWM信号であり、ドライブ回路6のドライブ素子61で増幅され、第1乃至第6のスイッチング素子41~46をオンさせるゲート電圧として第1乃至第6のスイッチング素子41~46のゲートに印加される。また、ドライブ回路6は、第1乃至第3の電流センサ71~73の検出信号に応じて、U相、V相、及びW相の何れかの相電流が閾値以上となった場合には、第1乃至第6のスイッチング素子41~46の保護のため、ゲート電圧の出力を遮断する。
【0035】
三相短絡制御手段52は、回転角取得手段53により回転子21の回転角の検出結果を正常に取得できない異常(以下、この異常を「回転角検出異常」という)が発生したときに、U相、V相、及びW相のアーム47,48,49のそれぞれの上段側のスイッチング素子(第1乃至第3のスイッチング素子41~43)及び下段側のスイッチング素子(第4乃至第6のスイッチング素子44~46)のうち、一方側のスイッチング素子を全てオンすると共に他方側のスイッチング素子を全てオフする三相短絡制御を実行する。例えば上段側のスイッチング素子をオンさせる場合には、第1乃至第3のスイッチング素子41~43を全てオンさせ、第4乃至第6のスイッチング素子44~46を全てオフさせるオンオフ信号を出力する。
【0036】
回転角検出異常は、例えば回転角検出器23の故障や、回転角検出器23とモータコントローラ3との間の信号線の断線等によって発生し得る。回転角検出異常が発生した際には、通常制御手段51による電動モータ2の制御を継続することができないので、通常制御手段51による制御から三相短絡制御手段52による制御へ切り替える。なお、三相短絡制御を実行することにより、第1乃至第6のスイッチング素子41~46を全てオフする場合に比較して、バッテリー19の過充電や、電動モータ2に発生する回生ブレーキによる左右後輪113,114の制動力の急激な上昇を抑えることができる。
【0037】
しかしながら、三相短絡制御を開始した際には、U相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224の残留磁束による過渡電流と、左右後輪113,114の回転に伴い回転子21が回転することによってU相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224に誘起される誘起電流との和に相当する電流が各相の相電流として流れるため、相電流が瞬時的に増大する場合がある。このため、ドライブ回路6において相電流が閾値以上となる過電流異常が検出され、第1乃至第6のスイッチング素子41~46が全てオフされたり、ドライブ回路6が過電流の検出機能を有していない場合には、第1乃至第6のスイッチング素子41~46の何れかを流れる電流あるいは還流ダイオード40を流れる電流が過大となってしまうおそれがある。
【0038】
ここで、残留磁束による過渡電流は、三相短絡制御を開始した直後には極大となるものの、その後は所定の時定数で漸減していくため、過渡電流と誘起電流とが重なり合うピーク時を避けて三相短絡制御を開始すれば、ドライブ回路6において過電流異常が検出されたり、第1乃至第6のスイッチング素子41~46の何れか又は還流ダイオード40を流れる電流が過大となってしまうことを回避し得る。
【0039】
このため、本実施の形態では、三相短絡制御手段52が、回転角取得手段53により回転角検出器23の検出結果を正常に取得できていたときの回転角、及び回転子21の回転速度の推定値に基づいて、三相短絡制御の開始直後にU相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始する。
【0040】
また、本実施の形態では、車速情報取得手段55によって取得した車速に関する情報に基づいて、回転子21の回転速度の推定値を求める。より詳細には、車速情報取得手段55によって取得した車速を回転子21の回転角速度に換算して得られた回転子21の回転速度の推定値に基づいて、三相短絡制御の開始直後にU相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224のそれぞれに流れる電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始する。車速と回転子21の回転速度とは比例関係にあるので、車速から回転子21の回転速度の推定値を求めることが可能である。
【0041】
なお、車速に関する情報としては、統括コントローラ101において求められた車速の情報をそのまま用いてもよいが、左右後輪113,114の回転速度を車速に関する情報として用いてもよい。この場合、左右後輪113,114の平均回転速度に減速機構16の減速比の逆数を乗じて回転子21の回転速度の推定値を求めることができる。また、回転子21の回転によって誘起される電流の時間当たりの変化率に比較して、回転子21の回転速度が変化する場合の時間当たりの変化率が極めて小さいことに鑑みて、回転角検出器23の検出結果を正常に取得できていたときの回転子21の回転速度を、回転角検出異常の発生後の回転子21の回転速度の推定値として用いてもよい。
【0042】
本実施の形態において、回転角検出異常が発生した際に三相短絡制御手段52が三相短絡制御を開始するタイミングは、下記(1)乃至(3)の各ピーク値を避けるタイミングである。
(1)U相巻線222に発生している磁束によってU相巻線222に流れる過渡電流の向きと回転子21の回転によりU相巻線222に誘起される誘起電流の向きが等しい場合のU相の誘起電流のピーク値
(2)V相巻線223に発生している磁束によってV相巻線223に流れる過渡電流の向きと回転子21の回転によりV相巻線223に誘起される誘起電流の向きが等しい場合のV相の誘起電流のピーク値
(3)W相巻線224に発生している磁束によってW相巻線224に流れる過渡電流の向きと回転子21の回転によりW相巻線224に誘起される誘起電流の向きが等しい場合のW相の誘起電流のピーク値
【0043】
なお、これらのピーク値を避けるタイミングとは、具体的には正弦波状に変化する誘起電流の極大値の例えば90%以上あるいは95%以上(絶対値)を避けるタイミングである。誘起電流の大きさや位相は、回転角検出異常が発生する前の回転子21の回転角、及び回転角検出異常が発生した後の回転子21の回転速度の推定値に基づいて求めることができる。つまり、回転角検出異常が発生した後の回転子21の回転速度の推定値を積分することにより、回転角検出異常が発生してからの回転子21の回転量(推定値)を求めることができるので、回転角検出異常が発生する前の回転子21の回転角にこの回転量を加算することによって各時点での回転子21の回転角を推定することができ、これに基づいて各相の誘起電流の大きさを求めることができる。
【0044】
回転角検出異常が検出され、三相短絡制御手段52が三相短絡制御を開始しようとした時点が上記(1)乃至(3)のピーク値を避けることができるタイミングであれば、三相短絡制御手段52は直ちに三相短絡制御を開始する。また、三相短絡制御手段52が三相短絡制御を開始しようとした時点が上記(1)乃至(3)の何れかのピーク値と重なる場合には、当該ピーク値の時間帯が過ぎたときに三相短絡制御手段52が三相短絡制御を開始する。
【0045】
このように、三相短絡制御手段52は、回転角検出異常の発生後の経過時間とこの経過時間中における回転子21の回転速度の推定値とに基づいて回転角の推定値を演算し、この推定値から上記(1)乃至(3)の各ピーク値の発生時期を求め、これらの発生時期を避けて三相短絡制御を開始する。
【0046】
図4(a)は、三相短絡制御の実行時にU相巻線222に流れる過渡電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図4(b)は、モータ回転速度に変動がない定常状態で三相短絡制御を開始した際にU相巻線222に流れる誘起電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図4(c)は、
図4(a)に示す過渡電流と
図4(b)に示す誘起電流とを足し合わせたU相電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図4(a)~(c)に示す各グラフの縦軸及び横軸は、共通のスケールである。なお、
図4(b)では、一例として過渡電流が正である場合について示しているが、三相短絡制御を開始するタイミングによっては過渡電流が負の場合もあり得る。
【0047】
図4(a)に示すように、過渡電流は時間の経過と共に指数関数的に減少する。この過渡電流の変化の時定数は、U相巻線222のインダクタンスや直流抵抗によって定まる。また、
図4(b)に示すように、回転子21の回転により発生する誘起電流は正弦波状に変化する。このため、三相短絡制御の開始後において過渡電流と誘起電流とが足し合わされた相電流は、過渡電流及び誘起電流が共に正又は負であった場合に誘起電流の振幅よりも絶対値が大きくなる。
【0048】
図5は、電気角θが0°、90°、180°、及び270°のときのU相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224と、回転子21のN極磁石212N及びS極磁石212Sとの相対的な位置関係を示す図である。ここでは、U相巻線222にS極磁石212Sが正対するときの電気角θを0°としている。
【0049】
図6(a)は、モータ回転速度に変動がない定常状態で回転子21の回転によってU相巻線222に誘起される誘起電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図6(b)は、回転子21の回転によってU相巻線222に誘起される誘起電流に
図4(a)に示した過渡電流を加算したU相電流の時間的な変化の一例を示すグラフである。
図6(a)及び(b)では、グラフの時間軸の左端部にあたる時刻における電気角θが0°、90°、180°、及び270°のそれぞれの場合について、U相誘起電流及びU相電流の変化を示している。
【0050】
図6(b)に示すように、U相巻線222に誘起される誘起電流が正のピーク値となるとき(電気角θ=0°のとき)に三相短絡制御が開始されると、U相の誘起電流と過渡電流とが足し合わされ、U相電流の絶対値が大きくなる。そして、このときのU相電流がドライブ回路6における電流閾値を超えてしまうと、第1乃至第6のスイッチング素子41~46が全てオフとなり、三相短絡制御が行われなくなってしまう。しかし、三相短絡制御を開始する時点における電気角θをずらせば、すなわち三相短絡制御を開始する時刻をU相の誘起電流がピーク値となる時間帯から外せば、三相短絡制御を開始した直後におけるU相電流の最大値が抑えられる。
【0051】
このことは、U相電流に対して位相が±120°異なるV相電流及びW相電流についても同じである。したがって、回転角検出異常が発生したときに回転子21の回転角の推定値から求められる電気角に応じて三相短絡制御の開始時刻を調整し、三相短絡制御の開始直後におけるU相電流、V相電流、及びW相電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始することにより、各相の相電流がドライブ回路6における電流閾値を超えてしまったり、あるいは第1乃至第6のスイッチング素子41~46又は還流ダイオード40が過電流により破損してしまうことを防ぐことができる。
【0052】
なお、三相短絡制御の開始時におけるU相電流、V相電流、及びW相電流の最大値(絶対値)は、必ずしも回転子21の回転速度が高い場合に大きくなるとは限らず、回転子21の回転速度が低い場合に、回転速度が高い場合よりも各相電流の最大値が大きくなることもあり得る。回転子21の回転速度が低い場合には、相電流を誘起させる誘起電圧が低くなるが、Z=jωL(Zはインピーダンス、jは虚数単位、ωは角周波数、Lはインダクタンス)の関係により、U相巻線222、V相巻線223、及びW相巻線224のインダクタンスによるインピーダンスも低くなるためである。
【0053】
図7は、制御部5が実行する処理の一例を示すフローチャートである。制御部5は、このフローチャートに示す処理の所定の制御周期(例えば5ms)ごとに実行する。
【0054】
このフローチャートに示す処理において、制御部5はまず、回転角取得手段53により回転子21の回転角の検出結果を取得し(ステップS1)、回転角の検出結果を正常に取得できたか判定する(ステップS2)。回転角の検出結果を正常に取得できた場合(S2:Yes)、ステップS1で取得した回転角の情報を記憶部に記憶し(ステップS3)、通常制御手段51によって電動モータ2を制御する。すなわち、統括コントローラ101から指令されたトルクで電動モータ2を回転させるように、回転子21の回転角や相電流取得手段54によって取得された相電流に基づいてドライブ回路6にオンオフ信号を出力する。
【0055】
一方、回転角の検出結果を正常に取得できなかった場合(S2:No)、前回の制御周期においてステップS3で記憶した回転角の情報を記憶部から読み出す(ステップS5)。また、車速情報取得手段55によって車速に関する情報を取得し(ステップS6)、取得した車速に関する情報から回転子21の回転速度の推定値を演算する(ステップS7)。そして、ステップS5及びS7で得られた情報からU相電流、V相電流、及びW相電流のピーク値の発生時期を演算し(ステップS8)、現時点がU相電流、V相電流、及びW相電流の何れかのピーク値の発生時期であれば当該ピーク値の発生時期が過ぎるのを待ち(ステップS9)、三相短絡制御を実行する(ステップS10)。三相短絡制御は、4輪駆動車1の始動スイッチ(イグニッションスイッチ)がオフされるまで継続され、4輪駆動車1がエンジン12のみの駆動力によって2輪駆動状態で走行する。
【0056】
なお、回転角の検出結果を正常に取得できなかった場合には、異常の発生を運転者に報知すべき信号を統括コントローラ101に送信してもよい。この異常の発生は、例えば運転席のインスツルメントパネルのランプ表示やメッセージ表示もしくは音声によって運転者に報知され、運転者に修理を促す。
【0057】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、制御部5において電動モータの回転角の検出結果を正常に取得できない異常が発生した場合でも、三相短絡制御の開始直後における相電流の最大値が抑えられるタイミングで三相短絡制御を開始することができ、相電流がドライブ回路6における電流閾値を超えて第1乃至第6のスイッチング素子41~46が全てオフされたり、あるいは第1乃至第6のスイッチング素子41~46又は還流ダイオード40が過電流により破損してしまうことを防ぐことが可能となる。
【0058】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【0059】
また、上記の実施の形態では、一例として、左右前輪111,112が主駆動源としてのエンジン12によって駆動され、左右後輪113,114が補助駆動源としての電動モータ2によって駆動される4輪駆動車の電動モータ2を制御するモータコントローラ3に本発明を適用した場合について説明したが、本発明に係る制御装置及び制御方法が適用される車両の構成はこれに限らず、例えば左右前輪及び左右後輪の一方もしくは両方を電動モータによって駆動する電気自動車あるいはハイブリッド車に本発明を適用してもよく、一つの車輪を駆動する所謂インホイールモータに本発明を適用してもよい。
【0060】
また、上記の実施の形態では、減速機構16の減速比が固定である場合について説明したが、これに限らず、電動モータ2とリヤディファレンシャル17との間に変速機が配置されていてもよい。この場合、変速機の変速比を考慮して、車速に関する情報から回転子21の回転速度の推定値を求める。
【符号の説明】
【0061】
2…電動モータ
21…回転子
22…固定子
222…U相巻線
223…V相巻線
224…W相巻線
23…回転角検出器
3…モータコントローラ(制御装置)
4…インバータ
40…還流ダイオード
41~43…第1乃至第3のスイッチング素子(上段側のスイッチング素子)
44~46…第4乃至第6のスイッチング素子(下段側のスイッチング素子)
47,48,49…U相、V相、及びW相のアーム
5…制御部
52…三相短絡制御手段
53…回転角取得手段