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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】希土類磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241112BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241112BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241112BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F3/24 G
B22F3/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020218316
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103587
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高澤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 一昭
(72)【発明者】
【氏名】一期崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正朗
(72)【発明者】
【氏名】高馬 久典
(72)【発明者】
【氏名】佐野 新也
(72)【発明者】
【氏名】小森 健祐
(72)【発明者】
【氏名】金田 敬右
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-100537(JP,A)
【文献】特開平10-064746(JP,A)
【文献】特開2004-304038(JP,A)
【文献】特開2020-191695(JP,A)
【文献】特開2010-119190(JP,A)
【文献】特開2016-105447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00、3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相を含む磁石素体を備え、
前記磁石素体の形状は、6つの平坦な長方形の構成面を構成面とする直方体であり、
前記磁石素体の前記6つの平坦な長方形の構成面のうちの少なくとも2つの平坦な長方形の構成面のそれぞれにおける角部領域が除去加工された加工面であり、
前記角部領域が前記磁石素体の前記少なくとも2つの平坦な長方形の構成面が交差する部分であり、
前記磁石素体の前記少なくとも2つの平坦な長方形の構成面のそれぞれにおける前記角部領域よりも中央の中央領域が除去加工されていない非加工面であることを特徴とする希土類磁石。
【請求項2】
前記磁石素体の前記加工面に設けられた希土類リッチ層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の希土類磁石を製造する方法であって、
希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する原料粉末を、前記希土類磁石の前記磁石素体を作製するための形状に圧縮成形することにより成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工することにより、前記磁石素体を作製する加工工程と、
を備えることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
前記磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項5】
モータから請求項1に記載の希土類磁石を回収する回収工程と、
前記希土類磁石の前記磁石素体の前記加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程と、
を備えることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石及びその製造方法に関し、希土類元素、遷移金属元素、及びホウ素を含有する磁石素体を備える希土類磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素、遷移金属元素、及びホウ素を含有し、主相と、主相を取り囲むように存在し、主相よりも多くの希土類元素を含有する副相とを含む磁石素体を備える希土類磁石、例えば、Nd-Fe-B系希土類磁石は、磁気特性に優れた高性能磁石として知られており、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)等の電動車両に搭載される内磁型モータ(IPMモータ)等のモータなどに使用されている。この種の希土類磁石では、主相により強い磁性を発現させるとともに、副相が主相同士を磁気的に分断することで保磁力を生じさせることで、高い磁気特性が得られている。
【0003】
この種の希土類磁石を実際のモータなどに使用する場合には、希土類元素、遷移金属元素、及びホウ素を含有する原料粉末を、希土類磁石の磁石素体を作製するための形状に圧縮成形した圧粉成形体を焼結することで焼結体を得た後に、焼結体を切削や切断等の除去加工により最終製品に用いられる形状及び寸法に成形することで磁石素体を作製する。この結果、希土類磁石の磁石素体は、加工面の表面部分で、副相が除去され、あるいはクラック等の損傷又は加工歪による応力などが生じる。これにより、その表面部分で保磁力が低下することで、逆磁界が小さくても減磁し、逆磁界が大きくなるに伴い大きく減磁する逐次減磁が起こることがある。このため、その表面部分の磁気特性が内部と比較して低下し、希土類磁石の磁気特性が劣化するおそれがあり、特に電動車両用モータでは希土類磁石の減磁による磁気特性の劣化の可能性が高い。
【0004】
このような問題に対処するために、希土類磁石の磁石素体の加工面である表面に希土類元素を含有する材料を存在させた状態で熱処理を施すことで磁石素体中に希土類元素を拡散することにより、磁石素体の表面部分を改質し、希土類磁石の磁気特性を回復させる技術が適用されている。この技術が適用された希土類磁石として、例えば、特許文献1には、磁石ブロック素材の機械加工により形成された希土類磁石であって、該磁石の最表面に露出している結晶粒子の半径に相当する深さ以上に該磁石内部に希土類金属を、磁石表面から拡散浸透させることによって加工による変質損傷部を改質して所望の磁気特性を有する希土類磁石が記載されている。また、特許文献2には、磁石素体が、希土類元素、遷移金属元素及びホウ素を含む原料合金微粉を成形した成形体が焼結されてなる希土類焼結磁石であって、磁石素体が希土類元素を主体とする化学気相成長膜により被覆され、表面が回復処理されている希土類焼結磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-304038号公報
【文献】特開2005-285859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、この種の希土類磁石の製造方法において、上記のように圧粉成形体を焼結することで焼結体を得た後に、焼結体を除去加工により製品に用いられる形状及び寸法に成形することで磁石素体を作製する際には、焼結体の表面全体に除去加工が施されていた。その結果、磁石素体の構成面の全体が加工面となっていた。このため、希土類磁石の磁石素体は、構成面の全体の表面部分で、副相が除去され、あるいは損傷又は応力が生じ、構成面の全体の表面部分の磁気特性が内部と比較して低下することにより、希土類磁石の磁気特性の劣化が顕著となるおそれがあった。
【0007】
一方、このような磁気特性の顕著な劣化を抑制するために、磁石素体の構成面の全体の表面部分に希土類元素を拡散する場合には、高価な希土類元素の使用量が増え、製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、磁気特性の劣化を抑制できる希土類磁石及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の希土類磁石は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相を含む磁石素体を備え、上記磁石素体の表面を構成する構成面の上記磁石素体の角部近傍の領域が除去加工された加工面であり、上記構成面の上記角部近傍の領域よりも中央の領域が除去加工されていない非加工面であることを特徴とする。
【0010】
本発明の希土類磁石によれば、磁気特性の劣化を抑制できる。
【0011】
上記希土類磁石においては、上記磁石素体の上記加工面に設けられた希土類リッチ層をさらに備えるものでもよい。
【0012】
また、上記課題を解決すべく、本発明の希土類磁石の製造方法は、上述した希土類磁石を製造する方法であって、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する原料粉末を、上記希土類磁石の上記磁石素体を作製するための形状に圧縮成形することにより成形体を得る成形工程と、上記成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、上記焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工することにより、上記磁石素体を作製する加工工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の希土類磁石の製造方法によれば、希土類磁石の磁気特性の劣化を抑制できる。
【0014】
上記希土類磁石の製造方法においては、上記磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程をさらに備えるものでもよい。
【0015】
さらに、上記課題を解決すべく、本発明の希土類磁石の製造方法は、モータから上述した希土類磁石を回収する回収工程と、上記希土類磁石の上記磁石素体の上記加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の希土類磁石の製造方法によれば、磁気特性が劣化した希土類磁石から磁気特性を回復させた希土類磁石を再生できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希土類磁石の磁気特性の劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、第1実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、(b)は、(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
図2】(a)は、従来技術に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、(b)は、(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
図3】(a)は、第2実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、(b)は、(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
図4】(a)は、従来技術に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、(b)は、(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
図5】第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法のフローを概略的に示す図である。
図6】(a)及び(b)は、第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法の要部の概略工程断面図である。
図7】(a)~(c)は、第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法の要部の概略工程断面図である。
図8】(a)~(d)は、第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法の要部の概略工程断面図である。
図9】参考例2の希土類磁石における磁石素体及び蒸着膜の処理後の層の境界部の断面のSEM画像及びNd量のEPMA像を示す図である。
図10】(a)は、J-H曲線の測定に使用した測定装置であるJIS C 2501に準じたB-Hカーブトレーサーを示す概略断面図であり、(b)は、J-H曲線の測定時における磁界を印加する手順を示すグラフである。
図11】参考例1及び2の希土類磁石について測定したJ-H曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の希土類磁石及びその製造方法に係る実施形態について説明する。
最初に、実施形態に係る希土類磁石の概略について、第1実施形態に係る希土類磁石を例示して説明する。図1(a)は、第1実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。一方、図2(a)は、従来技術に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
【0020】
図1(a)及び図1(b)に示すように、第1実施形態に係る希土類磁石1は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相粒子(主相)10aと主相粒子10aを取り囲むように存在する副相10bとを含む直方体の磁石素体10を備えている。主相粒子10aは、RFe14B型の結晶構造を有する相であり、副相10bは、主相粒子10aよりも多くの希土類元素R1を含有する相である。磁石素体10の表面10sを構成する全ての構成面12の磁石素体10の角部14近傍の領域12Aは、研磨加工(除去加工)された加工面(研磨面)12aとなっており、全ての構成面12の角部14近傍の領域12Aよりも中央の領域12Bは、研磨加工されていない非加工面12bとなっている。なお、図示しないが、希土類磁石1は、磁石素体10の表面10sに表面処理で形成されたNiメッキ又は塗装膜をさらに備えている。
【0021】
一方、図2(a)及び図2(b)に示すように、従来技術に係る希土類磁石100は、第1実施形態と同様に、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相粒子(主相)10aと主相粒子10aを取り囲むように存在する副相10bとを含む直方体の磁石素体10を備えている。しかしながら、希土類磁石100は、第1実施形態とは異なり、磁石素体10の表面10sの全体、すなわち全ての構成面12の全体が、研磨加工された加工面(研磨面)12aとなっている。このため、磁石素体10の全ての構成面12の全体の表面部分で、副相10bが除去され、磁石素体10の内部に至るクラック16又は加工歪による応力が生じている。その結果として、磁石素体10の構成面12の表面部分の保磁力の低下が顕著となり、希土類磁石100の磁気特性の劣化が大きくなる。
【0022】
これに対し、第1実施形態に係る希土類磁石1では、磁石素体10の全ての構成面12において、角部14近傍の領域12Aのみが加工面12aとなっており、角部14近傍の領域12Aよりも中央の領域12Bは非加工面12bとなっている。そして、磁石素体10において、加工面12aの表面部分では、副相10bが除去され、磁石素体10の内部に至るクラック16又は加工歪による応力が生じているものの、非加工面12bの表面部分では、副相10bが除去されず、磁石素体10の内部に至るクラック16又は加工歪による応力が生じずに済んでいる。よって、第1実施形態に係る希土類磁石1では、磁石素体10の構成面12の表面部分の保磁力の低下を抑制し、希土類磁石1の磁気特性の劣化を抑制できる。具体的には、希土類磁石1において、逆磁界が小さくても減磁し、逆磁界が大きくなるに伴い大きく減磁することを抑制し、残留磁束密度の低下を抑制できる。これにより、希土類磁石1がモータに用いられる場合に十分なトルクを得ることができる。
【0023】
続いて、第2実施形態に係る希土類磁石をさらに例示する。図3(a)は、第2実施形態に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。一方、図4(a)は、従来技術に係る希土類磁石を示す概略斜視図であり、図4(b)は、図4(a)に示す希土類磁石のA-A線に沿う概略断面図である。
【0024】
図3(a)及び図3(b)に示すように、第2実施形態に係る希土類磁石1は、第1実施形態に係る磁石素体10に加えて、磁石素体10の構成面12の加工面12aに主相粒子10aを覆うように設けられた希土類リッチ層20をさらに備えている。そして、構成面12の加工面12aの表面部分は、拡散層40が設けられ改質されている。希土類リッチ層20は、構成面12の非加工面12bに設けられていない。なお、図示しないが、希土類磁石1は、磁石素体10の表面10s及び希土類リッチ層20の表面20sに表面処理で形成されたNiメッキ又は塗装膜をさらに備えている。
【0025】
一方、図4(a)及び図4(b)に示す従来技術に係る希土類磁石100は、図2に示す従来技術に係る磁石素体10に加えて、磁石素体10の構成面12の全体の加工面12aに主相粒子10aを覆うように設けられた希土類リッチ層20をさらに備えている。そして、構成面12の全体の加工面12aの表面部分は、拡散層40が設けられ改質されている。このため、構成面12の全体の加工面12aの表面部分の保磁力を回復することで、希土類磁石100の磁気特性の劣化を抑制できる。しかしながら、高価な希土類元素の使用量が増え、製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0026】
これに対し、第2実施形態に係る希土類磁石1では、磁石素体10の構成面12のうち、加工面12aのみで希土類リッチ層20及び拡散層40が設けられ、非加工面12bではそれらが設けられてない。このため、製造コストの上昇を抑制しつつ、構成面12の一部である加工面12aの表面部分の保磁力を回復することで、希土類磁石1の磁気特性を回復できる。
【0027】
従って、実施形態に係る希土類磁石によれば、第1実施形態及び第2実施形態のように、磁気特性の劣化を抑制できる。また、第2実施形態のように、上記磁石素体の上記加工面に設けられた希土類リッチ層をさらに備える場合には、製造コストの上昇を抑制しつつ、磁気特性を回復できる。
【0028】
続いて、実施形態に係る希土類磁石及びその製造方法の構成の詳細について説明する。
【0029】
1.磁石素体
磁石素体は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相を含む希土類磁石素体であれば特に限定されないが、通常、主相と、主相を取り囲むように存在する副相とを含む。
【0030】
磁石素体の組成は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する組成であれば特に限定されず、目的に応じて任意に選択できるが、磁石素体がR1-T-B系磁石素体(R1:希土類元素、T:遷移金属元素、B:ホウ素)である場合、磁気特性に優れたものとする観点から、例えば、希土類元素R1が27.0質量%以上32.0質量%以下であり、ホウ素Bが0.5質量%以上2.0重量%以下であり、残部が実質的に遷移金属元素Tからなる組成が好ましい。希土類元素R1の含有量がこの範囲の下限以上であることで、軟磁性であるα‐Fe等が析出して保磁力が低下することを抑制できるからであり、希土類元素R1の含有量がこの範囲の上限以下であることにより、副相の量が多くなって耐蝕性が劣化することを抑制でき、さらに主相の体積比率が低下して残留磁束密度が低下することを抑制できるからである。また、ホウ素Bの含有量がこの範囲の下限以上であることにより、高い保磁力を得ることができるからであり、ホウ素Bの含有量がこの範囲の上限以下であることにより、残留磁束密度の低下を抑制できるからである。
【0031】
磁石素体の成分のうち、希土類元素R1は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選ばれる1種又は2種以上であれば特に限定されないが、中でもNd及びPrから選ばれる1種又は2種を主成分とするものが好ましい。磁気特性のバランスが良く、資源的に豊富で比較的安価であるからである。また、遷移金属元素Tは、例えば、Fe又はFe及びCoを必須とする、遷移元素の1種又は2種以上が好ましい。
【0032】
磁石素体としては、特に限定されないが、例えば、Nd-Fe-B系磁石素体、Pr-Fe-B系磁石素体等が挙げられる。磁石素体は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bに加え、さらに添加元素Mを含有するR-T-B-M系磁石素体でもよい。添加元素Mとしては、例えば、Al、Ga、Cr、Mn、Mg、Si、Cu、C、Nb、Sn、W、V、Zr、Ti、Hf、及びMo等から選ばれる1種又は2種以上などが挙げられる。これらの添加元素のうち、例えば、高融点金属であるNb、Zr、W等は、結晶粒成長を抑制する効果がある点で好ましい。なお、磁石素体の組成は、本明細書に挙げた組成に限定されず、本発明に適用可能なその他の組成にすることができる。
【0033】
磁石素体の主相は、RFe14B型の結晶構造を有する相である。例えば、磁石素体がNd-Fe-B系磁石素体である場合には、主相はNdFe14Bである。磁石素体の副相は、主相よりも多くの希土類元素R1を含有する相であり、主相を取り囲むように存在している。
【0034】
上記磁石素体の表面を構成する構成面の上記磁石素体の角部近傍の領域が除去加工された加工面であり、上記構成面の上記角部近傍の領域よりも中央の領域が除去加工されていない非加工面である。ここで、「磁石素体の角部」とは、磁石素体の表面を構成する構成面のうち少なくとも2つの面が交差する部位をいう。
【0035】
磁石素体の加工面は、除去加工された面であれば特に限定されないが、通常、除去加工されたことにより、副相が除去され、あるいは損傷又は応力などが生じた結果、表面部分が変質しその部分の磁気特性が劣化している。除去加工された面としては、磁石素体に成形される前の焼結体が除去加工されることで新たに露出する面であり、例えば、研磨面、研削面、切断面等が挙げられる。磁石素体の加工面の表面粗さRaは、例えば、0.1μm以上10μm以下の範囲内である。
【0036】
磁石素体の非加工面は、磁石素体を得るために加工される焼結体の表面のうちの除去加工されない部分である。磁石素体の非加工面の表面粗さRaは、例えば、0.5μm以上50μm以下の範囲内である。
【0037】
磁石素体の形状は、角部を有する立体形状であれば特に限定されず、電動車両に搭載されるモータなどに使用される希土類磁石の磁石素体の一般的な形状とすることができるが、例えば、立方体、直方体等の多角形が挙げられ、角部を有していれば曲面を構成面とする形状でもよい。
【0038】
磁石素体の寸法は、特に限定されず、電動車両に搭載されるモータなどに使用される希土類磁石の磁石素体の一般的な寸法にすることができるが、磁石素体の形状が立方体又は直方体である場合には、例えば、幅(W)が3mm以上30mm以下、長さ(L)が5mm以上80mm以下、高さ(H)が2mm以上15mm以下の寸法が好ましい。磁石素体の寸法がこの範囲の下限以上である場合には、成形体の焼結時の収縮の影響が大きくなり、焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工する必要性が高くなるからである。また、磁石素体の寸法がこの範囲の上限以下である場合には、希土類リッチ層による磁石素体の加工面の表面部分の改質効果が大きくなるからである。
【0039】
2.希土類リッチ層及び拡散層
希土類磁石は、上記磁石素体の上記加工面に設けられた希土類リッチ層をさらに備えるものが好ましい。磁石素体の加工面の表面部分の保磁力を回復し、希土類磁石の磁気特性を回復できる。
【0040】
希土類リッチ層は、磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施すことにより、拡散材料が磁石素体の加工面の表面部分との拡散反応後に残存する層であって、希土類元素R2が磁石素体の加工面の表面部分よりもリッチな層である。なお、拡散材料と磁石素体の加工面の表面部分との間の拡散反応では、拡散材料から磁石素体の加工面の表面部分に希土類元素R2が拡散し、磁石素体の加工面の表面部分からその構成元素が拡散材料に拡散する。希土類リッチ層としては、特に限定されないが、例えば、拡散材料が磁石素体の加工面にPVDやCVD等により成膜された膜が拡散反応後に残存する層、粉末状にされた拡散材料が磁石素体の加工面にコーティングされ、その後の拡散処理により生成した層などが挙げられる。
【0041】
希土類元素R2は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選ばれる1種又は2種以上であれば特に限定されないが、中でもNd、Pr、Ce、Sm、Dy、及びTbから選ばれる1種又は2種を主成分とするものが好ましく、特にDy及びTbから選ばれる1種又は2種を主成分とするものが好ましい。保磁力等の磁気特性の回復効果が大きいからである。
【0042】
希土類リッチ層の厚さは、希土類磁石の磁気特性を回復できる厚さであれば特に限定されないが、例えば、0.1μm以上5μm以下の範囲内が好ましい。希土類リッチ層の厚さがこの範囲の下限以上であることにより、磁石素体の加工面の表面部分の保磁力を回復できる効果が十分に得られるからである。また、希土類リッチ層の厚さがこの範囲の上限以下であることにより、希土類リッチ層の存在による残留磁束密度の低下を抑制し、モータに用いられる場合に十分なトルクを得ることができるからであり、さらに希土類元素の使用量を低減でき、不要なコストを削減できるからである。
【0043】
希土類磁石は、希土類リッチ層を備える場合、通常、磁石素体の加工面の表面部分に拡散層が存在する。拡散層は、拡散材料から磁石素体の加工面の表面部分に希土類元素R2が拡散することで生成する層であって、希土類元素R2が磁石素体の内部よりもリッチな層である。拡散層により保磁力等の磁気特性をさらに回復できる。
【0044】
拡散層の厚さは、希土類磁石の磁気特性を回復できる厚さであれば特に限定されないが、例えば、0.1μm以上5μm以下の範囲内が好ましい。拡散層の厚さがこの範囲の下限以上であることにより、保磁力等の回復効果が十分に得られるからである。また、拡散層の厚さがこの範囲の上限以下であることにより、拡散層による磁気特性の劣化を回避できるからである。
【0045】
3.希土類磁石
希土類磁石の用途は、特に限定されないが、希土類磁石としては、例えば、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)等の電動車両に搭載される内磁型モータ(IPMモータ)等のモータ、ハードディスクドライブのアクチュエータ、携帯電話のモータなどに用いられるものが挙げられる。希土類磁石としては、中でも、電動車両に搭載されるモータに用いられるものが好ましい。
【0046】
4.希土類磁石の製造方法
実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、実施形態に係る希土類磁石を製造する方法であって、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する原料粉末を、上記希土類磁石の上記磁石素体を作製するための形状に圧縮成形することにより成形体を得る成形工程と、上記成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、上記焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工することにより、上記磁石素体を作製する加工工程と、を備えることを特徴とする。
【0047】
ここで、実施形態に係る希土類磁石の製造方法の概略について、上述した図3に示した第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法を例示して説明する。図5は、第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法のフローを概略的に示す図である。図6(a)~図7(c)は、第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法の要部の概略工程断面図である。
【0048】
第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法では、まず、図5に示すように、製造する希土類磁石の磁石素体の組成に合わせて、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素B、並びにその他の添加元素を秤量し、これらの原材料を混合して坩堝に入れる(秤量及び混合工程)。
【0049】
次に、図5に示すように、坩堝を真空溶解炉にセットし、坩堝に高周波をかけることで原材料を溶解し均質に合金化した後に、溶湯を鋳型に流し込み、インゴットを作製する(合金化工程)。
【0050】
次に、図5に示すように、インゴットを何段階かの工程でジェットミル等により粉砕し、数ミクロン程度の平均粒径の原料粉末にまで粉砕する(粉砕工程)。この際、原料粉末の酸化を防ぐために、窒素やアルゴンの雰囲気で粉末を保護しながら粉砕を行う。
【0051】
次に、図5及び図6(a)に示すように、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する原料粉末5を、第2実施形態に係る希土類磁石の磁石素体を作製するための形状に圧縮成形することにより成形体50を得る(成形工程)。具体的には、磁場をかけた金型の中で原料粉末5をプレス成形する。これにより、原料粉末5の結晶方位が外部磁場の方向に揃い、配向方向の磁気特性が向上する。
【0052】
次に、図5及び図6(b)に示すように、成形体50を焼結することにより焼結体60を得る(焼結工程)。具体的には、成形体50を真空焼結炉の中で焼結することにより、焼結体60を得る。この際、成形体50の収縮に伴う形状変化の結果、焼結体60は、角部及びその近傍に作製予定の磁石素体に不要となる余剰部分60cを有するものとなる。
【0053】
次に、図5に示すように、焼結体60の残留磁束密度や保磁力等の磁気特性を測定する試験を行い、試験に合格した焼結体60を次の工程に送る(磁気特性試験工程)。
【0054】
次に、図5及び図7(a)に示すように、焼結体60の角部及びその近傍の余剰部分60cを研磨加工(除去加工)することにより、希土類磁石の磁石素体10を作製する(加工工程)。この際、焼結体60が研磨加工されることで新たに露出する面が磁石素体10の加工面(研磨面)12aとなり、磁石素体10の加工面12a以外の面が非加工面12bとなる。磁石素体10は、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有し、主相粒子(主相)10aと主相粒子10aを取り囲むように存在する副相10bとを含む。
【0055】
次に、図5及び図7(b)に示すように、磁石素体10の加工面12aに希土類元素R2を含有する拡散材料30を存在させた状態で熱処理を施す(熱処理工程)。これにより、図7(c)に示すように、拡散材料30から磁石素体10の加工面12aの表面部分に希土類元素R2を拡散させることで拡散層40を生成し、磁石素体10の加工面12aの表面部分を改質する。そして、拡散材料30を、磁石素体10の加工面12aの表面部分との拡散反応後に残存させることで希土類リッチ層20を形成する。この際、例えば、磁石素体10がNd-Fe-B系磁石素体である場合には、希土類元素R2が磁石素体10の加工面12aに面する主相粒子(NdFe14B)10aの表面領域に拡散し反応することで、新たに(Nd,R2)Fe14Bが生成する。さらに、その主相粒子10aの表面がNdリッチ層(希土類リッチ層)20に覆われる。これらの結果、磁石素体10の加工面12aの表面部分の保磁力が回復し、磁石素体10の磁気特性が回復する。さらに、希土類元素R2が拡散する過程において、研磨加工で生じた磁石素体10の内部に至るクラック16又は加工歪による応力が消失する。この結果、磁石素体10の内部の保磁力も回復する。
【0056】
次に、図5に示すように、使用される環境に応じて希土類リッチ層20が設けられた磁石素体10に各種の表面処理が施される(表面処理工程)。具体的には、例えば、磁石素体10が、Nd-Fe-B系磁石素体である場合には、一般に錆び易いので、Niメッキや塗装が行われる。
【0057】
次に、図5に示すように、表面処理が終わった磁石素体10の検査を行う(検査工程)。具体的には、磁石素体10の寸法及び外観の検査を行う。また、製品仕様に応じて、磁気特性の測定、耐食性試験、強度測定等を行う。
【0058】
次に、図5に示すように、磁石素体10の着磁を行う(着磁工程)。以上により、上述した図3に示した第2実施形態に係る希土類磁石1を製造する。なお、図5に示すように、製造された希土類磁石は、梱包され、出荷される(梱包及び出荷工程)。
【0059】
第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法では、焼結体60の角部及びその近傍の余剰部分60cのみを研磨加工することで希土類磁石1の磁石素体10を作製するため、磁石素体10の非加工面12bの表面部分では、副相10bが除去されず、磁石素体10の内部に至るクラック16又は加工歪による応力が生じずに済む。これにより、磁石素体10の構成面12の表面部分の保磁力の低下を抑制し、希土類磁石1の磁気特性の劣化を抑制できる。さらに、磁石素体10の加工面12aのみの表面部分に拡散層40を生成してその部分を改質でき、さらに磁石素体10の加工面12aに希土類リッチ層20を形成できる。これにより、製造コストの上昇を抑制しつつ、希土類磁石1の磁気特性を回復できる。
【0060】
なお、上述した図1に示した第1実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、熱処理工程を行わず、希土類リッチ層20が設けられていない磁石素体10に対し表面処理工程以降の工程を行う点のみにおいて、第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法と異なるものとなる。
【0061】
従って、実施形態に係る希土類磁石の製造方法によれば、希土類磁石の磁気特性の劣化を抑制できる。また、上記磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程をさらに備える場合には、製造コストの上昇を抑制しつつ、希土類磁石の磁気特性を回復できる。
【0062】
続いて、実施形態に係る希土類磁石の製造方法の詳細について説明する。
【0063】
(1)成形工程
成形工程においては、希土類元素R1、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する原料粉末を、上記希土類磁石の上記磁石素体を作製するための形状に圧縮成形することにより成形体を得る。
【0064】
原料粉末の組成は、上記「1.磁石素体」に記載の磁石素体の組成と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0065】
原料粉末を圧縮成形する方法は、特に限定されないが、磁場をかけた金型の中で原料粉末をプレス成形する磁場中成形が好ましい。磁場中成形の方法としては、プレス方向に対して直角に磁場を印加する直角磁場プレスでもよいし、プレス方向に対して平行に磁場を印加する平行磁場プレスでもよい。磁場中成形は、例えば、500kA/m以上2000kA/m以下の範囲内の磁場中で100MPa以上200MPa以下の範囲内の圧力で行えばよい。
【0066】
原料粉末から圧縮成形される成形体の形状及び寸法は、希土類磁石の磁石素体を作製するための状及び寸法であれば特に限定されず、通常、磁石素体の状及び寸法に応じたものとなり、成形体を焼結する際の収縮を考慮し定めることができる。
【0067】
(2)焼結工程
焼結工程においては、上記成形体を焼結することにより焼結体を得る。
【0068】
焼結雰囲気は、例えば、真空雰囲気又はアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気が好ましい。焼結温度及び焼結時間は、特に限定されず、原料粉末の組成、作製時の粉砕方法、粒度分布等の諸条件に応じて調整する必要があるが、例えば、900℃以上1150℃以下の範囲内の温度で5時間焼結する条件でよい。焼結のための加熱方法は、特に限定されないが、抵抗加熱、高周波誘導加熱等が挙げられる。
【0069】
焼結工程では、成形体が焼き固まると同時に収縮する。成形体の体積収縮率は、原料粉末、成形体の成形条件、焼結条件等に応じ変化するが、一般的には、焼結体の寸法が成形体の約70%~約80%となり、焼結体の体積が成形体の約50%となる。
【0070】
(3)加工工程
加工工程においては、上記焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工することにより、上記磁石素体を作製する。これにより、焼結体が除去加工されることで新たに露出する面が磁石素体の加工面となり、磁石素体の加工面以外の面が非加工面となる。
【0071】
焼結体の角部及びその近傍の余剰部分を除去加工する方法としては、焼結体の一部を除去する加工方法であれば特に限定されないが、例えば、研磨、研削、切断等が挙げられる。加工工程で作製する磁石素体の形状及び寸法については、上記「1.磁石素体」に記載の磁石素体の形状及び寸法と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0072】
(4)熱処理工程及び時効処理工程
希土類磁石の製造方法は、上記磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程をさらに備えるものが好ましい。拡散材料から磁石素体の加工面の表面部分に希土類元素R2を拡散することにより、磁石素体の加工面の表面部分を改質し、希土類磁石の磁気特性を回復できるからである。
【0073】
磁石素体の加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させる方法としては、特に限定されないが、拡散材料をPVDやCVD等により磁石素体の加工面に成膜する方法、拡散材料を粉末状にして磁石素体の加工面にコーティングする方法等が挙げられる。より具体的には、希土類元素R2のスパッタ膜や蒸着膜等、希土類元素R2を含む合金のスパッタ膜や蒸着膜等をPVDやCVD等により磁石素体の加工面に成膜する方法、希土類元素R2の粉末、希土類元素R2の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水素化物、水酸化物等の化合物の粉末、希土類元素R2を含有する合金の粉末等を磁石素体の加工面にコーティングする方法、粉末中に磁石素体を配する方法などが挙げられる。
【0074】
希土類元素R2については、上記「2.希土類リッチ層及び拡散層」に記載の希土類元素R2と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0075】
熱処理を施す雰囲気は、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。熱処理の温度は、希土類磁石の磁気特性を回復できれば特に限定されないが、磁石素体の焼結温度以下の範囲内が好ましく、具体的には、例えば、500℃以上1000℃以下の範囲内が好ましい。熱処理の温度をこれらの範囲の上限以下とすることで、磁石素体の組織が変質し、高い磁気特性が得られなくなる等の問題を回避できるからである。また、熱処理の温度をこの範囲の下限以上とすることで、加工面の表面部分の改質効果を十分に得られるからである。熱処理の時間は、希土類磁石の磁気特性を回復できれば特に限定されないが、例えば、10分以上1時間以下の範囲内が好ましい。熱処理の時間をこの範囲の下限以上とすることで、加工面の表面部分の改質効果を十分に得られるからである。また、熱処理の時間をこの範囲の上限以下とすることで、生産性の低下を回避し、磁石素体への熱的影響を低減できるからである。
【0076】
希土類磁石の製造方法は、熱処理工程を備える場合において、熱処理工程後、磁石素体に時効処理を施す時効処理工程をさらに備えるものが好ましい。磁石素体の組織を最適化し、保磁力等の磁気特性の回復効果を大きくできるからである。
【0077】
時効処理を施す雰囲気は、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。時効処理の温度は、例えば、熱処理の温度未満の範囲内が好ましく、具体的には、例えば、400℃以上600℃以下の範囲内が好ましい。保磁力等の磁気特性を十分に回復できるからである。時効処理の時間は、例えば、1分以上10時間以下の範囲内が好ましい。
【0078】
なお、熱処理工程において、熱処理の温度及び時間を最適化することで熱処理が時効処理を兼ねるようにすることにより、時効処理工程の一部又は全部を省略してもよい。
【0079】
(5)その他
実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、モータから上記「1.磁石素体」に記載の磁石素体を備える希土類磁石を回収する回収工程と、上記希土類磁石の上記磁石素体の上記加工面に希土類元素R2を含有する拡散材料を存在させた状態で熱処理を施す熱処理工程と、を備えるものでもよい。モータで使用されることで保磁力等の磁気特性が劣化した希土類磁石から磁気特性を回復させた希土類磁石を再生できるからである。
【0080】
実施形態に係る希土類磁石の製造方法として、さらに第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法を例示する。図8(a)~図8(d)は、第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法の要部の概略工程断面図である。
【0081】
第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法では、図8(a)に示すように、図6及び図7に示した第2実施形態に係る希土類磁石の製造方法と同様に焼結体60を作製する。次に、図8(b)に示すように、加工工程において、焼結体60の角部及びその近傍の余剰部分60cを研磨加工するとともに、焼結体60の上面及び側面にそれぞれ平行な二つの面で焼結体60を切断加工することにより、焼結体60を4つに分割した磁石素体10を作製する。次に、図8(c)に示すように、熱処理工程において、磁石素体10の構成面12の加工面(研磨面)12a及び加工面(切断面)12a’に希土類元素R2を含有する拡散材料30を存在させた状態で熱処理を施す。これにより、図8(d)に示すように、拡散材料30から磁石素体10の加工面12a、12a’の表面部分に希土類元素R2を拡散させることで拡散層40を生成し、それらの面の表面部分を改質する。そして、拡散材料30を拡散反応後に残存させることで希土類リッチ層20を形成する。
【0082】
第3実施形態に係る希土類磁石の製造方法では、磁石素体10の構成面12のうち加工面12a、12a’を除いた非加工面12bの表面部分で副相10bが除去されず、クラック16又は加工歪による応力が生じずに済む。さらに、磁石素体10の加工面12a、12a’の表面部分を改質し、希土類リッチ層20を形成することより、それらの表面部分の保磁力を回復できる。
【0083】
なお、実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、図5のフローのように、成形工程、焼結工程、加工工程、及び熱処理工程に加えて、さらに秤量及び混合工程、合金化工程、粉砕工程、磁気特性試験工程、表面処理工程、検査工程、着磁工程等を備えるものでもよい。なお、希土類磁石の製造方法が時効処理工程及び表面処理工程を備える場合には、時効処理工程は表面処理工程前の工程となる。
【実施例
【0084】
以下、参考例を挙げて、本発明の希土類磁石及びその製造方法をさらに具体的に説明する。
【0085】
[参考例1]
まず、Nd-Fe-B系磁石素体に成形する前の焼結体を準備した。次に、焼結体の全面を研磨することで、幅(W)が5mm、長さ(L)が20mm、高さ(H)が3mmの直方体の磁石素体を得た。これにより、全ての構成面の全体が除去加工された加工面となっている磁石素体を備える希土類磁石を作製した。
【0086】
[参考例2]
まず、参考例1で得た磁石素体を準備し、Ndを含有する合金の粉末中に磁石素体を配することで、磁石素体の全ての構成面の全体がNdを含有する合金の粉末中に配されるようにした。これにより、磁石素体の全ての構成面の全体にNdを含有する合金の粉末を含む拡散材料を存在させた。
【0087】
次に、全ての構成面の全体に拡散材料を存在させた磁石素体に対し、真空雰囲気中において、900℃の温度で30分間の条件で熱処理を施した。次に、熱処理を施した磁石素体に対し、真空雰囲気中において、550℃の温度で60分間の条件で時効処理を施した。これにより、磁石素体と、蒸着膜の処理後の層とを備える希土類磁石を作製した。
【0088】
[SEM観察及びEPMA測定]
参考例2の希土類磁石における磁石素体及び蒸着膜の処理後の層の境界部の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。これとともに、その断面の各位置のNd量をEPMA(電子線マイクロアナライザー)により測定した。図9は、参考例2の希土類磁石における磁石素体及び蒸着膜の処理後の層の境界部の断面のSEM画像及びNd量のEPMA像を示す図である。
【0089】
図9のSEM画像及びNd量のEPMA像から、磁石素体の加工面にNdリッチ層(希土類リッチ層)が形成されていることが確認できる。このことから、磁石素体の加工面の表面部分にNdが拡散することで拡散層が生成し、磁石素体の加工面の表面部分が改質していると考えられる。
【0090】
[磁気特性の評価]
参考例1及び2の希土類磁石について、逆磁界を印加し、その後に除去した場合のJ-H曲線を測定した。図10(a)は、J-H曲線の測定に使用した測定装置であるJIS C 2501に準じたB-Hカーブトレーサーを示す概略断面図であり、図10(b)は、J-H曲線の測定時における磁界を印加する手順を示すグラフである。
【0091】
J-H曲線の測定においては、まず、希土類磁石にパルス着磁法で5T(磁界H≒4000kA/m)の磁界Hを印加することで希土類磁石を着磁した。続いて、図10(a)に示すB-Hカーブトレーサーを使用することにより、図10(b)に示すように、磁界Hを+1600kA/mから-1600kA/mの逆磁界まで変化させた後、磁界Hを-1600kA/mの逆磁界から0kA/mまで変化させる過程において、磁気分極J[T]を測定した。図11は、参考例1及び2の希土類磁石について測定したJ-H曲線を示すグラフである。
【0092】
図11に示すJ-H曲線から、参考例1の希土類磁石では、逆磁界が小さくても減磁し、逆磁界が大きくなるに伴い大きく減磁するのに対して、参考例2の希土類磁石では、逆磁界が小さいときに、参考例1ほど減磁することはないことが確認できる。そして、参考例2の希土類磁石の減磁量は、参考例1の希土類磁石の1/2程度になることがわかる。また、参考例2の希土類磁石のJ-H曲線では、磁界Hが-900kA/mである時の磁気分極Jが1.12T程度と高くなることが確認できる。
【0093】
以上、本発明に係る実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0094】
1 希土類磁石
10 磁石素体
10a 主相粒子(主相)
10b 副相
10s 表面
12 構成面
12A 角部近傍の領域
12a 加工面(研磨面)
12a’ 加工面(切断面)
12B 中央の領域
12b 非加工面
14 角部
16 クラック
20 希土類リッチ層
40 拡散層
5 原料粉末
50 成形体
60 焼結体
60c 角部及びその近傍の余剰部分
30 拡散材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11