(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】医療デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/16 20060101AFI20241112BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20241112BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241112BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241112BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20241112BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20241112BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20241112BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20241112BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241112BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20241112BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20241112BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241112BHJP
A61L 12/04 20060101ALI20241112BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20241112BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20241112BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61L27/16
A61L27/52
A61L27/18
A61L27/34
A61L27/50
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/14
A61L29/14 300
A61L15/42
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/14
A61L31/14 300
A61L27/54
A61L12/04
G02C7/04
G02C13/00
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2020527983
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016679
(87)【国際公開番号】W WO2020235275
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019094294
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 瑠美子
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169873(WO,A1)
【文献】特開2011-197196(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073702(WO,A1)
【文献】特開昭50-13059(JP,A)
【文献】特開2019-15947(JP,A)
【文献】特表2017-519693(JP,A)
【文献】特表2008-532060(JP,A)
【文献】ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,「2ウィーク アキュビュー(R)」(オンライン),2019年05月06日,https://web.archive.org/web/20190506192021/https://acuvuevision.jp/contact-lenses/acuvue-2(検索日2024.4.29)
【文献】ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,「ワンデー アキュビュー(R)オアシス(R)」(オンライン),2019年02月19日,https://web.archive.org/web/20190219131310/https://acuvuevision.jp/contact-lenses/acuvue-oasys-1-day(検索日2024.2.19)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
G02C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性パッケージ液を加温する工程を含む、医療デバイスを製造する方法であって、前記加温する工程が、1種類以上の親水性ポリマーが前記水性パッケージ液に含まれ、医療デバイスの基材の少なくとも一部が前記水性パッケージ液と接触した状態において行われるものであり、
次の(a)~(c)の要件を全て満たすものである、医療デバイスの製造方法。
(a)前記親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの
単独重合体、または窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合体である
(b)前記水性パッケージ液に含まれる前記親水性ポリマーの質量%濃度が0.0001~30質量%の範囲である
(c)前記加温する工程の後の水性パッケージ液のpHが6.1~8.0の範囲である
【請求項2】
前記窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合体の共重合比率が、[(メタ)アクリル酸モノマーの質量]/[窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの質量]=1/99~99/1である、請求項
1に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記加温がオートクレーブ滅菌により行われるものである、請求項1
または2に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記基材が、ヒドロゲル、シリコーンヒドロゲル、低含水性軟質材料、および低含水性硬質材料からなる群から選択される1種類以上の材料を含む、請求項1~
3のいずれかに記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが、tefilcon、tetrafilcon、helfilcon、mafilcon、polymacon、hioxifilcon、alfafilcon、omafilcon、nelfilcon、nesofilcon、hilafilcon、acofilcon、deltafilcon、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilcon、methafilcon、およびvilfilconからなる群から選ばれるヒドロゲルである、請求項
4に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記シリコーンヒドロゲルが、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、balafilcon、efrofilcon、fanfilcon、somofilcon、samfilcon、olifilcon、asmofilcon、formofilcon、stenfilcon、abafilcon、mangofilcon、riofilcon、sifilcon、larafilcon、およびdelefilconからなる群から選ばれるシリコーンヒドロゲルである、請求項
4に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記低含水性軟質材料が、ケイ素原子を含む材料である、請求項
4に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記低含水性硬質材料が、ケイ素原子を含む材料である、請求項
4に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記低含水性硬質材料が、ポリメチルメタクリレートである、請求項
4に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記低含水性硬質材料が、neofocon、pasifocon、telefocon、silafocon、paflufocon、petrafoconおよびfluorofoconからなる群から選ばれる材料である、請求項
4、
8または
9に記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記医療デバイスが、眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース
、バイオセンサーチップ、人工心肺、または内視鏡用被覆材である、請求項1~1
0のいずれかに記載の医療デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記眼用レンズがコンタクトレンズである、請求項1
1に記載の医療デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の分野においてシリコーンゴム、ヒドロゲル(ハイドロゲル)等の樹脂製軟質材料を用いたデバイス、金属、ガラス等の硬質材料を用いたデバイスが多様な用途に用いられている。
【0003】
軟質材料を用いたデバイスの用途としては、生体内に導入したり、生体表面を被覆したりする医療デバイスや、細胞培養シート、組織再生用足場材料等のバイオテクノロジー用デバイスや、顔用パック等の美容デバイスが挙げられる。
【0004】
硬質材料を用いたデバイスの用途としては、パソコン、携帯電話、ディスプレイ等の電化製品、注射薬に使用されるアンプル、毛細管、バイオセンシングチップなどの診断・分析ツールとしての使用が挙げられる。
【0005】
種々のデバイスを、例えば医療デバイスとして生体内に導入したり、生体表面に貼付したりして用いる場合、生体適合性を向上させることを目的とした医療デバイスの基材の表面改質が重要となる。表面改質によって、医療デバイスに表面改質前よりも良好な特性、例えば親水性、易滑性、生体適合性、薬効といった特性を与えることができれば、使用者(患者等)にとっては、使用感の向上、不快感の低減、症状の改善などを期待することができる。
【0006】
医療デバイスの基材の表面を改質させる方法に関しては、種々の方法が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、基材を、水酸基を有するポリマーが含まれる2.0以上6.0以下のpHの溶液中で加熱することによって、基材表面に良好な水濡れ性を付与する方法が開示されている。
【0008】
また、1種類以上のポリマー材料を含むpH6~9の範囲の溶液中で基材をオートクレーブ滅菌することによって、基材の装着性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献2~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2017/146102号
【文献】特表2011-512546号公報
【文献】特表2003-535626号公報
【文献】特許第5154231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されているような基材の表面改質法においては、加熱を行った後の基材を含んだ溶液のpHが6.0以下である。そのため、例えば眼用レンズのような医療デバイスに用いる場合、眼に対する刺激をなくすため中性の溶液中で洗浄工程と滅菌工程を追加で行う必要があった。このため、製造コストの増大を招くおそれがあった。
【0011】
特許文献2に記載されているような、基材を、酸末端ポリビニルピロリドンを含む包装溶液に浸漬してオートクレーブ滅菌したコンタクトレンズについては、水濡れ性の耐久性について具体的な記載があるわけではなく、擦り洗いに耐えられる十分な耐久性を有する水濡れ性が保持されているとは期待しにくい。また、実施例において具体的に酸末端ポリビニルピロリドンを調製しているが、高分子であるヒドロキシル官能化ポリ(ビニルピロリドン)およびポリ(ビニルピロリドン-co-アリルアルコール)と無水コハク酸を反応させるという方法であり、酸末端の導入数の制御が難しいという課題があった。
【0012】
特許文献3に記載されているような基材の表面改質法においては、具体的にポリ(アクリル酸-co-アクリルアミド)およびポリ(アクリル酸-co-ビニルピロリドン)を用いてかかる表面処理について検討したところ基材表面の親水性などの性能が不十分であった。
【0013】
特許文献4に記載されているような基材の表面改質法においては、具体的にポリビニルピロリドンを用いてかかる表面処理について検討したところ基材表面の親水性などの性能が依然不十分であった。
【0014】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、耐久性に優れた親水性が付与された医療デバイスを簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明は
水性パッケージ液を加温する工程を含む、医療デバイスを製造する方法であって、前記加温する工程が、1種類以上の親水性ポリマーが前記水性パッケージ液に含まれ、医療デバイスの基材の少なくとも一部が前記水性パッケージ液と接触した状態において行われるものであり、
次の(a)~(c)の要件を全て満たすものである、医療デバイスの製造方法である。
(a)前記親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体である
(b)前記水性パッケージ液に含まれる前記親水性ポリマーの質量%濃度が0.0001~30質量%の範囲である
(c)前記加温する工程の後の水性パッケージ液のpHが6.1~8.0の範囲である
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来技術とは異なり、耐久性に優れた親水性が付与された医療デバイスを簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の医療デバイスの製造方法は、水性パッケージ液を加温する工程を含む、医療デバイスを製造する方法であって、前記加温する工程が、1種類以上の親水性ポリマーが前記水性パッケージ液に含まれ、医療デバイスの基材の少なくとも一部が前記水性パッケージ液と接触した状態において行われるものであり、
次の(a)~(c)の要件を全て満たすものである、医療デバイスの製造方法である。
(a)前記親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体である
(b)前記水性パッケージ液に含まれる前記親水性ポリマーの質量%濃度が0.0001~30質量%の範囲である
(c)前記加温する工程の後の水性パッケージ液のpHが6.1~8.0の範囲である
本発明において、「窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミド」とは、(メタ)アクリルアミドの窒素原子上に、(メタ)アクリル基以外に、炭素数2以上の置換基を2つ有することをいう。
【0018】
また、本発明において、「(メタ)アクリルアミド」には、アクリルアミド、メタクリルアミドの両方が含まれる。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル酸」も同様である。また、「(共)重合体」には、単独重合体、共重合体の両方が含まれる。
【0019】
本発明において、医療デバイスは、レンズ形状を有しても良く、眼用レンズであることが好ましい。レンズ形状を有する医療デバイスの例として、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズなどの眼用レンズが挙げられる。眼用レンズ、中でもコンタクトレンズは本発明の最も好ましい態様の一つである。
【0020】
本発明において、医療デバイスは、チューブ状をなしても良い。チューブ状をなす医療デバイスの例として、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シース、チューブコネクター、アクセスポート、人工心肺用中空糸などが挙げられる。
【0021】
本発明において、医療デバイスは、シート状またはフィルム状をなしても良い。シート状またはフィルム状をなす医療デバイスの例として、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、バイオセンサーチップ、内視鏡用被覆材などが挙げられる。
【0022】
本発明において、医療デバイスは、収納容器形状を有しても良い。収納容器形状を有する医療デバイスの例として、薬剤担体、カフ、排液バッグなどが挙げられる。
【0023】
本発明において、医療デバイスが、眼用レンズ、皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体、輸液用チューブ、気体輸送用チューブ、排液用チューブ、血液回路、被覆用チューブ、カテーテル、ステント、シースバイオセンサーチップ、人工心肺または内視鏡用被覆材であることが好ましい。医療デバイスは、眼用レンズであることがより好ましい。
【0024】
中でも、眼用レンズがコンタクトレンズであることは本発明の最も好ましい態様の一つである。なお、本発明において、コンタクトレンズには、視力矯正目的、美容目的のいずれのコンタクトレンズも含まれる。
【0025】
本発明において、医療デバイスの基材としては、含水性の基材および非含水性の基材のいずれも使用することができる。含水性の基材の材料としては、ヒドロゲルおよびシリコーンヒドロゲル等を挙げることができる。シリコーンヒドロゲルは、優れた装用感を与える柔軟性と高い酸素透過性を有するために特に好ましい。非含水性の基材の材料としては、低含水性軟質材料および低含水性硬質材料等を挙げることができる。すなわち、本発明の医療デバイスの製造方法において、前記基材が、ヒドロゲル、シリコーンヒドロゲル、低含水性軟質材料、および低含水性硬質材料からなる群から選択される1種類以上の材料を含むことが好ましい。
【0026】
本発明は、含水性の基材の材料に関しては、シリコーンを含まない一般のヒドロゲルにも、シリコーンを含むヒドロゲル(すなわち、シリコーンヒドロゲル)にも適用可能である。表面物性を大きく向上させることができることからシリコーンヒドロゲルに特に好適に用いることができる。
【0027】
以下、材料を表すのにUnited States Adopted Names(USAN)を用いる場合がある。USANにおいては末尾にA、B、C等の記号を添えて材料の変種を表す場合があるが、本明細書では末尾の記号を付与しない場合にはすべての変種を表すものとする。例えば単に「ocufilcon」と表記した場合は、「ocufilconA」、「ocufilconB」、「ocufilconC」、「ocufilconD」、「ocufilconE」、「ocufilconF」等のocufilconのすべての変種を表す。
【0028】
本発明の医療デバイスの製造方法において、ヒドロゲルが、tefilcon、tetrafilcon、helfilcon、mafilcon、polymacon、hioxifilcon、alfafilcon、omafilcon、nelfilcon、nesofilcon、hilafilcon、acofilcon、deltafilcon、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilcon、methafilcon、およびvilfilconからなる群から選ばれるヒドロゲルであることが好ましい。
【0029】
例えば、ヒドロゲルがコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類Group1~Group4に分類される。中でも、良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、Group2およびGroup4がより好ましく、Group4が特に好ましい。
【0030】
Group1は、含水率50質量%未満かつ非イオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、tefilcon、tetrafilcon、helfilcon、mafilcon、polymaconおよびhioxifilconなどが挙げられる。
【0031】
Group2は、含水率が50質量%以上かつ非イオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、alfafilcon、omafilcon、hioxifilcon、nelfilcon、nesofilcon、hilafilconおよびacofilconなどが挙げられる。良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、omafilcon、hioxifilcon、nelfilcon、nesofilconがより好ましく、omafilcon、hioxifilconがさらに好ましく、omafilconが特に好ましい。
【0032】
Group3は、含水率50質量%未満かつイオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、deltafilconなどが挙げられる。
【0033】
Group4は、含水率が50質量%以上かつイオン性のヒドロゲルレンズを示す。具体的には、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilcon、methafilcon、およびvilfilconなどが挙げられる。良好な水濡れ性および防汚性を示すことから、etafilcon、focofilcon、ocufilcon、phemfilconがより好ましく、etafilcon、ocufilconがさらに好ましく、etafilconが特に好ましい。
【0034】
また、シリコーンヒドロゲルの具体例としては、例えばシリコーンヒドロゲルがコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類Group5に属する群から選ばれるシリコーンヒドロゲルが好ましい。
【0035】
シリコーンヒドロゲルとしては、主鎖および/または側鎖にケイ素原子を含有し、かつ、親水性を有するポリマーが好ましく、例えばシロキサン結合を含有するモノマーと親水性モノマーとのコポリマーなどが挙げられる。
【0036】
具体的には、前記シリコーンヒドロゲルが、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、balafilcon、efrofilcon、fanfilcon、somofilcon、samfilcon、olifilcon、asmofilcon、formofilcon、stenfilcon、abafilcon、mangofilcon、riofilcon、sifilcon、larafilconおよびdelefilconからなる群から選ばれるシリコーンヒドロゲルであることが好ましい。中でも、良好な水濡れ性および易滑性を示すことから、lotrafilcon、galyfilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilcon、stenfilcon、somofilcon、delefilcon、balafilcon、samfilconがより好ましく、lotrafilcon、narafilcon、senofilcon、comfilcon、enfilconがさらに好ましく、narafilcon、senofilcon、comfilconが特に好ましい。
【0037】
低含水性軟質材料および低含水性硬質材料としては、例えば、眼用レンズ等の医療デバイスに用いた場合、角膜への十分な酸素供給が可能な高い酸素透過性を示すことから、ケイ素原子を含む材料であることが好ましい。
【0038】
低含水性硬質材料の具体例としては、例えば低含水性硬質材料がコンタクトレンズの場合、米国食品医薬品局(FDA)が定めるコンタクトレンズの分類に属する群から選ばれる低含水性硬質材料が好ましい。
【0039】
かかる低含水性硬質材料としては、主鎖および/または側鎖にケイ素原子を含有するポリマーが好ましい。例えばシロキサン結合を含有するポリマーが挙げられる。これら、ケイ素原子を含有するポリマーにおいて、酸素透過性の点からケイ素原子がシロキサン結合によりポリマー中に含有されるものが好ましい。かかるポリマーの具体例としては、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート、両末端に二重結合を持ったポリジメチルシロキサン、シリコーン含有(メタ)アクリレートなどを用いたホモポリマー、あるいはこれらのモノマーと他のモノマーとのコポリマーなどが挙げられる。
【0040】
具体的には、前記低含水性硬質材料が、neofocon、pasifocon、telefocon、silafocon、paflufocon、petrafoconおよびfluorofoconからなる群から選ばれる材料であることが好ましい。中でも、良好な水濡れ性と防汚性を示すことから、neofocon、pasifocon、telefocon、silafoconがより好ましく、neofocon、pasifocon、telefoconがさらに好ましく、neofoconが特に好ましい。
【0041】
本発明において、医療デバイスがコンタクトレンズ以外の態様である場合、低含水性硬質材料の好適な例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等などが挙げられる。中でも、良好な水濡れ性と防汚性を示すことから、前記低含水性硬質材料が、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミドであることがさらに好ましく、ポリメチルメタクリレートであることが特に好ましい。
【0042】
低含水性軟質材料の具体例としては、例えば国際公開第2013/024799号に記載されているような含水率が10質量%以下、弾性率が100kPa以上2,000kPa以下、引張伸度が50%以上3,000%以下の医療デバイスに使用される低含水性軟質材料が挙げられる。elastofilconもまた好適である。
【0043】
本発明において、医療デバイスがコンタクトレンズを含む眼用レンズ以外の態様である場合、低含水性軟質材料の好適な例は、シリコーンエラストマー、軟質ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、軟質ポリエステル樹脂、軟質アクリル樹脂、軟質ポリ塩化ビニル、天然ゴム、各種合成ゴム等である。
【0044】
本発明によれば、基材が含水性であっても、低含水性であっても、医療デバイスの表面に適度な親水性(水濡れ性)を付与することができる。したがって、基材の含水率としては0~99質量%のいずれでもよい。医療デバイス表面に適度な親水性を付与する効果が一段と高いことから、基材の含水率としては0.0001質量%以上が好ましく、特に好ましくは0.001質量%以上である。また、基材の含水率は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
医療デバイスがコンタクトレンズである場合、眼の中でのレンズの動きが確保されやすいことから、基材の含水率としては15質量%以上が好ましく、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0046】
本発明の医療デバイスの製造方法に用いられる親水性ポリマーは、通常は基材とは異なる材料である。ただし、所定の効果が得られるのであれば、基材を構成する材料と同一の材料であってもよい。
【0047】
上記親水性ポリマーは、親水性を有する材料から構成される。ただし、親水性の発現を損ねない限りは、それ以外の添加剤等が含まれていてもよい。ここで、親水性を有する材料とは、室温(20~23℃)の水100質量部もしくは水100質量部とtert-ブタノール100質量部の混合液に0.0001質量部以上可溶な材料であり、0.01質量部以上可溶であるとより好ましく、0.1質量部以上可溶であればさらに好ましく、1質量部以上可溶な材料が特に好ましい。
【0048】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、(a)親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体である。なお、本発明において、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体とは、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドを(共)重合成分として含む(共)重合体を意味する。かかる親水性ポリマーは、耐久性を有する、水濡れ性に優れた表面を形成できるために好ましい。
【0049】
上記炭素数2以上の置換基としては、直鎖状でも分岐鎖でもよく、医療デバイスに良好な親水性を耐久性良く付与できるという観点で炭素数2~6のアルキル基であることが好ましく、例えばエチル基、1-プロピル基、2-プロピル基、1-ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、1-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。なお、本明細書において、位置番号をつけないアルキル基は、そのアルキル基のすべての位置番号を有するアルキル基を含む(例えば、「ヘキシル基」は、「1-ヘキシル基」、「2-ヘキシル基」等を全て含む)。これらの中で、エチル基、1-プロピル基、2-プロピル基がより好ましく、特に好ましいのはエチル基である。
【0050】
上記「置換基を2つ有する」における2つの置換基の組合せとしては、同じ置換基同士の組合せ、あるいは異なる置換基同士の組合せも好適に用いることができる。かかる窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル-N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル-N-エチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらの中でも特に医療デバイスに良好な親水性を付与できることからN,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0051】
上記(メタ)アクリルアミドは単独でも2種類以上を組み合わせても用いることができる。
【0052】
また、上記窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体は、それ以外のアミド基を有するモノマーを1種類もしくは複数種類、共重合成分として含むことも可能である。
【0053】
上記それ以外のアミド基を有するモノマーを共重合成分として含む場合、親水性ポリマーが水に溶解すると適度な粘性を発現するため水濡れ性のみならず易滑性のある表面を形成できる。なお、本発明においてアミド基とは N-C=O で表される構造を含む基である。
【0054】
かかるそれ以外のアミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーおよびN-ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)から選ばれたモノマーが好ましい。
【0055】
かかるモノマーの好適な例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-プロポキシメチルアクリルアミド、N-イソプロポキシメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-イソブトキシメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、N-プロポキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルメタクリルアミド、N-イソブトキシメチルメタクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N-ビニルピロリドン、N-イソプロピル(メタ)アクリアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドであり、N-イソプロピル(メタ)アクリアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドがより好ましく、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。
【0056】
窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドとそれ以外のアミド基を有するモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率は、[それ以外のアミド基を有するモノマーの質量]/[窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの質量]が1/99~99/1のものが好ましい。それ以外のアミド基を有するモノマーの共重合比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらにより好ましい。また、それ以外のアミド基を有するモノマーの共重合比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下がさらにより好ましい。窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合比率は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましい。また、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合比率は、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下がさらにより好ましい。窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーとそれ以外のアミド基を有するモノマーの共重合比率が上記の範囲であれば、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなる。
【0057】
また、本発明の医療デバイスの製造方法において、親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合体であることが好ましい。かかる親水性ポリマーは、水濡れ性のみならず体液等に対する防汚性に優れた、耐久性を有する優れた表面を形成できるために好ましい。
【0058】
窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合体の好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体、(メタ)アクリル酸/N-エチル-N-プロピル(メタ)アクリルアミド共重合体、(メタ)アクリル酸/N-ブチル-N-エチル(メタ)アクリルアミド共重合体などである。特に好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド共重合体である。
【0059】
窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸との共重合体を用いる場合、その共重合比率は、[(メタ)アクリル酸モノマーの質量]/[窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの質量]が1/99~99/1のものが好ましい。(メタ)アクリル酸モノマーの共重合比率は、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらにより好ましい。また、(メタ)アクリル酸モノマーの共重合比率は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下がそれぞれさらにより好ましい。窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合比率は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、および70質量%以上がそれぞれさらにより好ましい。また、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーの共重合比率は、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下がさらにより好ましい。窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドモノマーと(メタ)アクリル酸モノマーの共重合比率が上記の範囲であれば、水濡れ性や体液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0060】
また、上記窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体は、さらにアミド基を有しないモノマーであって、(メタ)アクリル酸以外のモノマーを1種類もしくは複数種類、共重合成分として含むことも可能である。以下、「アミド基を有しないモノマーであって、(メタ)アクリル酸以外のモノマー」をモノマーXという場合がある。
【0061】
モノマーXの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(前駆体としてカルボン酸ビニルエステル)などを挙げることができる。この内、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーがより好ましい。体液に対する防汚性を向上させる観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびグリセロール(メタ)アクリレートが好ましく、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0062】
また、モノマーXとして、親水性、抗菌性、防汚性、薬効性等といった機能を示すモノマーを使用することも可能である。
【0063】
抗菌性を有するモノマーの具体例としては、4級アンモニウム塩を有するモノマーなどを挙げることができる。例えば、特表2010-88858号公報記載のイミダゾリウム塩モノマーや(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、トリメチル-2-メタクロリルオキシエチルアンモニウムクロリド、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどといった抗菌性を有するモノマーが挙げられる。
【0064】
窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体が、モノマーXを共重合成分として含む場合、モノマーXの共重合比率は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、モノマーXの共重合比率は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
前記(共)重合体における、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドおよびモノマーXの共重合比率が上記の範囲であれば、水濡れ性や体液に対する防汚性、抗菌性などの機能を発現しやすくなる。
【0066】
また、医療デバイスに求められる特性を損ねない限りは、上記材料以外の添加剤等が水性パッケージ液に含まれていてもよい。さらに、窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体に加え、他の親水性ポリマーが1種類もしくは複数含まれていてもよい。ただし、製造コストが増加することから、親水性ポリマーは、1種類の窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体のみからなることが好ましい。
【0067】
ここで、1種類のポリマーとは、1の合成反応により製造されたポリマーもしくはポリマー群(異性体、錯体等)を意味する。複数のモノマーを用いて共重合ポリマーとする場合は、構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは同じ1種とは言わない。
【0068】
また、親水性ポリマーが1種類の窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体のみからなるとは、親水性ポリマーが、該親水性ポリマー以外のポリマーを全く含まないか、もしくは、仮にそれ以外のポリマーを含んだとしても、該親水性ポリマー100質量部に対し、それ以外のポリマーの含有量が3質量部以下であることが好ましいことを意味する。それ以外のポリマーの含有量は、0.1質量部以下がより好ましく、0.0001質量部以下がさらに好ましい。
【0069】
それ以外のポリマーが塩基性基を含む場合、水性パッケージ液に含まれる全ポリマーの塩基性基/酸性基の数比は0.20以下が好ましい。酸性基と塩基性基の反応由来の塩が形成されず、透明性に優れることから、該比率は0.10以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。ここで、酸性基とは、酸性の官能基を示し、カルボキシル基またはスルホン酸基から選ばれた基およびその塩などが挙げられる。塩基性基とは、塩基性の官能基を示し、アミノ基およびその塩などが挙げられる。
【0070】
次に、本発明の医療デバイスの製造方法について説明する。本発明において、医療デバイスは、水性パッケージ液を加温する工程を含む方法であって、前記加温する工程が、1種類以上の親水性ポリマーが前記水性パッケージ液に含まれ、医療デバイスの基材の少なくとも一部が前記水性パッケージ液と接触した状態において行われるものであり、特定の要件を全て満たす方法により得ることができる。ここで、本発明の発明者らは、上記親水性ポリマーが窒素原子上に炭素数2以上の置換基を2つ有する(メタ)アクリルアミドの(共)重合体であり、かつ、水性パッケージ液に含まれる親水性ポリマーの質量%濃度が0.0001~30質量%の範囲である水性パッケージ液と、医療デバイスの少なくとも一部とが接触した状態で加温する、という極めて簡便な方法によって、医療デバイスに従来技術で成し得なかった優れた耐久性を有する親水性、すなわち、水濡れ性を付与しうることを見出した。また、適用できる基材は含水性のヒドロゲルおよびシリコーンヒドロゲルに限られない。さらに、加温する工程の後の水性パッケージ液のpHが6.1~8.0であるため、特に加温する工程が滅菌工程である場合には、製造工程を増やすことなく、滅菌工程と同時に医療デバイスに耐久性に優れた、水濡れ性や易滑性等を付与することが可能となる。これは、追加の製造工程が不要という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。したがって、本発明の医療デバイスの製造方法において、加温する工程が滅菌工程であることが好ましい。
【0071】
次に、親水性ポリマーの分子量および濃度について記す。従来技術では、1種類の親水性ポリマーのみを用いて滅菌と同時に基材表面を改質させる場合、十分な水濡れ性や耐久性を有する水濡れ性をデバイスに付与することが難しい問題があった。しかしながら、本発明においては、基材への親水性ポリマーの吸着力が高いため、1種類の親水性ポリマーのみを用いて滅菌と同時に基材表面を改質させる場合でも、基材に耐久性を有する良好な水濡れ性や易滑性を付与することが容易となる。
【0072】
なお、本発明で使用される親水性ポリマーは、2000~1500000の分子量を有することが好ましい。分子量は、より好ましくは、5000以上であり、さらに好ましくは、10000以上である。また、分子量は、1200000以下がより好ましく、1000000以下がさらに好ましい。ここで、上記分子量としては、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を用いる。
【0073】
また、製造時の親水性ポリマーの水性パッケージ液中の濃度については、濃度が高すぎる場合、粘度増大により製造時の取り扱い難さが増す可能性がある。そのため、本発明の医療デバイスの製造方法において、(b)親水性ポリマーの質量%濃度が0.0001~30質量%の範囲である。親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、0.001質量%以上であり、さらに好ましくは、0.005質量%以上である。また、親水性ポリマーの濃度は、より好ましくは、10質量%以下であり、さらに好ましくは、5質量%以下であり、より好ましくは、1質量%であり、最も好ましくは、0.1質量%以下である。
【0074】
上記加温する工程において、加温後に洗浄工程を加えることなく、そのまま医療デバイスを使用可能であることから、(c)加温する工程の後の水性パッケージ液のpHが6.1~8.0の範囲である。pHは、6.5以上がより好ましく、6.6以上がより好ましく、6.7以上がさらに好ましく、6.8以上がさらにより好ましい。また、pHは、7.9以下が好ましく、7.8以下がより好ましく、7.6以下がさらにより好ましい。pHが6.1未満または8.0を超えると、例えば眼用レンズのような医療デバイスに用いる場合、眼に対する刺激をなくすため中性の溶液中で洗浄工程と滅菌工程を追加で行う必要があり、製造工程が煩雑となることから好ましくない。
【0075】
なお、水性パッケージ液のpHは、加温操作を行った際にわずかに変化し得るが、加温操作を行う前のpHも、上記の通り6.1~8.0の範囲が好ましい。
【0076】
上記水性パッケージ溶液のpHは、pHメーター(例えばpHメーター Eutech pH2700(Eutech Instruments))を用いて測定することができる。ここで、加温前の水性パッケージ液のpHとは、溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温(20~23℃)にて30分間回転子を用い撹拌し、溶液を均一とした後に測定したpHの値を指す。なお、本発明において、pHの値の小数点以下第2位は四捨五入する。
【0077】
上記親水性ポリマーを含んだ水性パッケージ液の溶媒としては、水溶性有機溶媒、水、およびこれらの混合溶媒が好ましい例として挙げられる。水と水溶性有機溶媒の混合溶媒、および水がより好ましく、水が最も好ましい。水溶性有機溶媒としては、各種水溶性アルコール類が好適であり、炭素数6以下の水溶性アルコールがより好適であり、炭素数5以下の水溶性アルコールがさらに好適である。
これらの溶媒にさらに緩衝剤を添加することも好ましい。
【0078】
緩衝剤としては、任意の生理学的に適合性のある公知の緩衝剤を使用することができる。緩衝剤は当業者に公知であり、例としては以下のとおりである。ホウ酸、ホウ酸塩類(例:ホウ酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩類(例:クエン酸カリウム)、重炭酸塩(例:重炭酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(例:Na2HPO4、NaH2PO4、およびKH2PO4)、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、2-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ビス-アミノポリオール、トリエタノールアミン、ACES(N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-[N-モルホリノ]-プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、TES(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]-2-アミノエタンスルホン酸)、およびそれらの塩。
【0079】
各緩衝剤の量としては、所望のpHを達成する上で有効であるために必要な分が用いられる。通常は、上記溶液中において0.001質量%~2質量%が好ましい。緩衝剤の量は、より好ましくは、0.01質量%以上、さらに好ましくは、0.05質量%以上である。緩衝剤の量は、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.30質量%以下である。
【0080】
親水性ポリマーを含む前の緩衝剤溶液のpHは、生理学的に許容できる範囲である6.3~7.8が好ましい。緩衝剤溶液のpHは、好ましくは6.5以上、さらに好ましくは6.8以上である。また、緩衝剤溶液のpHは、7.6以下が好ましく、さらに好ましくは7.4以下である。
【0081】
加温温度は、耐久性を有する良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られ、かつ、医療デバイス自体の強度に影響が少ない観点から、100℃~200℃が好ましい。加温温度は、105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、115℃以上がさらに好ましく、121℃以上が最も好ましい。また加温温度は、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましく、150℃以下が最も好ましい。
【0082】
加温時間は、短すぎると良好な水濡れ性および易滑性を示す医療デバイス表面が得られず、長過ぎると医療デバイス自体の強度に影響を及ぼすことから5分~600分が好ましい。加温時間は、10分以上がより好ましく、15分以上がより好ましい。また、加温時間は、400分以下がより好ましく、300分以下がより好ましい。なお、本発明における加温時間とは、加温温度に到達した時点から、加温を止めた時点までの時間を指す。
【0083】
本発明の医療デバイスの製造方法における滅菌の方法としては、高圧蒸気滅菌法、乾熱滅菌法、火炎滅菌法、煮沸消毒法、流通蒸気消毒法、酸化エチレンガス滅菌法(EOG滅菌法)、放射線滅菌(ガンマ線滅菌法)、紫外線滅菌法などが挙げられる。基材に耐久性に優れる良好な水濡れ性と易滑性を付与することができ、かつ製造コストの観点から、高圧蒸気滅菌法が最も好ましい。装置としては、オートクレーブを用いることが好ましい。すなわち、本発明の医療デバイスの製造方法において、前記加温がオートクレーブ滅菌(オートクレーブを用いた高圧蒸気滅菌)により行われるものであることが好ましい。
【0084】
上記の滅菌処理後、得られた医療デバイスにさらに他の処理を行ってもよい。他の処理としては、親水性ポリマーを含んだ溶液中において再び同様の滅菌処理を行う方法、水性パッケージ液を、親水性ポリマーを含まない水性パッケージ液に入れ替えて同様の滅菌処理を行う方法、放射線照射を行う方法、反対の荷電を有するポリマー材料を1層ずつ交互にコーティングするLbL処理(Layer by Layer処理)を行う方法、金属イオンによる架橋処理を行う方法、化学架橋処理を行う方法など処理が挙げられる。
【0085】
また、上記の滅菌処理前に、基材に前処理を行ってもよい。前処理としては、例えばポリアクリル酸などの酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリによる加水分解処理などが挙げられる。
【0086】
ただし、簡便な方法により基材表面に耐久性を有する親水性を付与できる本発明の思想に照らし、製造工程が複雑になり過ぎることのない範囲での処理の実施が好ましい。
【0087】
上記の放射線照射に用いる放射線としては、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線およびγ線であり、最も好ましくはγ線である。
【0088】
上記のLbL処理としては、例えば国際公開第2013/024800号公報に記載されているような、酸性ポリマーと塩基性ポリマーを使用した処理を用いると良い。
【0089】
上記の金属イオンによる架橋処理に用いる金属イオンとしては、各種の金属イオンが好ましく、より好ましくは1価および2価の金属イオンであり、最も好ましくは2価の金属イオンである。また、キレート錯体を用いても良い。
【0090】
上記の化学架橋処理としては、例えば特表2014-533381号公報に記載されているようなエポキシ基とカルボキシル基との間の反応や公知の水酸基を有する酸性の親水性ポリマーとの間で形成される架橋処理を用いると良い。
【0091】
上記の溶液を、親水性ポリマーを含まない溶液に入れ替えて、同様の滅菌処理を行う方法において、親水性ポリマーを含まない溶液としては、特に限定されないが、緩衝剤溶液が好ましい。緩衝剤としては、前記のものを用いることができる。
【0092】
緩衝剤溶液のpHは、生理学的に許容できる範囲である6.3~7.8が好ましい。緩衝剤溶液のpHは、好ましくは6.5以上、さらに好ましくは6.8以上である。また、緩衝剤溶液のpHは、7.6以下が好ましく、さらに好ましくは7.4以下である。
【0093】
また、本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスは、親水性ポリマーが耐久性に優れた、良好な水濡れ性を基材に付与できることから、基材の少なくとも一部に親水性ポリマー層を有することが好ましい。基材の少なくとも一部に親水性ポリマー層を有するとは、例えば、用途にもよるが、基材表面における一つの面の全面にポリマー層が存在することが挙げられる。基材が厚みを有しない、または、厚みがあっても無視できる程度の2次元形状の場合は、基材表面の片面全面の上にポリマー層が存在することも好ましい。また、基材の全表面の上にポリマー層が存在することも好ましい。
【0094】
また、親水性ポリマーは、基材が含水性であるか、非含水性であるかを問わずに、簡便な工程での製造が可能となることから、基材との間に共有結合を有していないことが好ましい。共有結合を有していないことは、化学反応性基、あるいはそれが反応して生じた基を含まないことで判定する。化学反応性基の具体例としては、アゼチジニウム基、エポキシ基、イソシアネート基、アジリジン基、アズラクトン基およびそれらの組合せなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
親水性ポリマー層の厚みは、乾燥状態のデバイスの垂直断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したときに、1nm以上100nm未満であることが好ましい。厚みがこの範囲にある場合に、水濡れ性や易滑性などの機能を発現しやすくなる。厚みは、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、厚みは、95nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましく、85nm以下がさらに好ましく、50nm以下がさらに好ましく、30nm以下がさらに好ましく、20nm以下がさらに好ましく、15nm以下がさらに好ましく、特に好ましくは、10nm以下である。親水性ポリマー層の厚みが100nm未満であれば、水濡れ性や易滑性に優れ、例えば、眼用レンズといった医療デバイスに用いる場合、網膜に焦点をあわせるための光の屈折が乱れず視界不良が起こりにくくなる。
【0096】
また、本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスは、前記親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在することが好ましい。親水性ポリマー層が基材と混和した状態は、医療デバイスの断面を走査透過電子顕微鏡法、電子エネルギー損失分光法、エネルギー分散型X線分光法、飛行時間型2次イオン質量分析法等の元素分析または組成分析を行える観察手段で観察したときに、親水性ポリマー層形成前後における基材の断面構造および親水性ポリマー層の少なくとも一部に基材由来の元素が検出されることで確認できる。親水性ポリマー層が基材と混和することにより、親水性ポリマーが基材により強固に固定されうる。
【0097】
親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した状態で存在する場合、「親水性ポリマー層の少なくとも一部が基材と混和した層」(以下混和層)と「親水性ポリマーからなる層」(以下単独層)からなる二層構造が観察されることが好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。混和層の厚みは、混和層と単独層の合計厚みに対して、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、90%以下がさらに好ましく、80%以下が特に好ましい。混和層の厚み割合が上記3%以上であると、親水性ポリマーと基材の混和が十分となり、親水性ポリマーが基材により強固に固定されうるため好ましい。また、混和層の厚み割合が上記98%以下であると、親水性ポリマーのもつ親水性が十分に発現しやすくなるため好ましい。
【0098】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスが、例えば生体表面に貼付して用いられる医療デバイスや眼用レンズといった眼用デバイスである場合、使用者の皮膚等への貼り付きを防止する観点および装用者の角膜への貼り付きを防止する観点から、医療デバイスの表面の液膜保持時間が長いことが好ましい。
【0099】
ここで、本発明における液膜保持時間とは、リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間をいう。詳しくは、リン酸緩衝液に静置して浸漬した医療デバイスを液から引き上げ、空中に表面が垂直になるように保持した際に、医療デバイス表面の液膜が切れずに保持される時間である。なお「液膜が切れる」とは医療デバイスの表面で水をはじく現象が起きる状態を指す。
【0100】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスは、リン酸緩衝液に静置して浸漬した後に、リン酸緩衝液から引き上げて空中において保持した際の、表面の液膜が保持される時間(液膜保持時間)が10秒以上であることが好ましい。15秒以上がより好ましく、20秒以上がさらに好ましい。液膜保持時間の上限範囲は特に限定されないが、液膜保持時間が長過ぎると医療デバイス表面からの水分蒸発が進行しやすく親水性ポリマー層の効果が薄くなることから300秒以下であることが好ましく、200秒以下であることがより好ましい。
【0101】
従来技術においては、水濡れ性のよい医療デバイスであっても、擦り洗い後に水濡れ性が極端に低下し、一度低下した水濡れ性は水中に室温で短時間(例えば2時間程度)放置した程度では回復しない傾向があった。つまり、擦り洗いにより基材表面の親水性ポリマーがはがれ落ちるか、もしくは溶出することが原因として考えられる水濡れ性の低下がみられた。したがって、擦り洗い後に水濡れ性が低下する医療デバイスは、外部刺激によって表面状態が変化して水濡れ性が低下するリスクがあるために好ましくない。逆に擦り洗い後においても表面の水濡れ性が低下しないか、低下しても短時間で回復するものは、外部刺激によって表面状態が変化しにくい優れた医療デバイスと言える。
【0102】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスが、例えば眼用レンズといった眼用デバイスである場合、乾燥感を感じにくく良好な装用感を長時間維持できる観点から、擦り洗い後の医療デバイスの表面の液膜保持時間が長いことが好ましい。
【0103】
具体的には、医療デバイスを人指で50回擦り洗いした後、リン酸緩衝液に室温で2時間浸漬した後の医療デバイスの表面の液膜保持時間を評価する。2時間後の医療デバイスの表面の液膜保持時間が10秒以上の場合、医療デバイスの表面は十分な水濡れ性と耐久性を有することを意味する。液膜保持時間は10秒以上が好ましく、15秒以上がより好ましく、20秒以上が特に好ましい。特に、擦り洗い前と同等の液膜保持時間を示す場合、より優れた耐久性を示すため好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0104】
また、本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスは、例えば生体内に挿入して用いられる医療デバイスである場合、医療デバイスの表面が優れた易滑性を有することが好ましい。易滑性を表す指標としては、本明細書の実施例に示した方法で測定される摩擦係数が小さい方が好ましい。摩擦係数は、0.700以下が好ましく、0.500以下がより好ましく、0.300以下が特に好ましい。また、摩擦が極端に小さいと脱着用時の取扱が難しくなる傾向があるので、摩擦係数は0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。
【0105】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスの引張弾性率が、医療デバイスの種類に応じて適宜選択されるべきものであるが、眼用レンズなどの軟質医療デバイスの場合は、引張弾性率は10MPa以下が好ましく、5MPa以下が好ましく、3MPa以下がより好ましく、2MPa以下がさらに好ましく、1MPa以下がよりいっそう好ましく、0.6MPa以下が最も好ましい。また、引張弾性率は、0.01MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、0.2MPa以上がさらに好ましく、0.25MPa以上が最も好ましい。眼用レンズなどの軟質医療デバイスの場合は、引張弾性率が小さすぎると、軟らかすぎてハンドリングが難しくなる傾向がある。引張弾性率が大きすぎると、硬すぎて装用感および装着感が悪くなる傾向がある。
【0106】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、加温する工程前後の基材の引張弾性率変化率は、15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13%以下が特に好ましい。引張弾性率変化率が大きすぎると、変形や使用感不良を引き起こす恐れがあり好ましくない。測定方法の詳細は後述する。
【0107】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、医療デバイスの防汚性は、脂質(パルミチン酸メチル)付着により、評価することができる。これらの評価による付着量が少ないものほど、使用感に優れるとともに、細菌繁殖リスクが低減されるために好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0108】
本発明の医療デバイスの製造方法においては、前記加温する工程終了後に得られる医療デバイスと、前記加温する工程前における基材の含水率との変化量が、10パーセンテージポイント以下であることが好ましい。ここで、含水率の変化量(パーセンテージポイント)とは、得られた医療デバイスの含水率(質量%)と、その原料となる基材の含水率(質量%)との差のことである。
【0109】
加温する工程前後の基材の含水率変化量は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、含水率が向上したことによる屈折率の歪みから引き起こされる視界不良や変形を防止する観点から、10パーセンテージポイント以下が好ましく、8パーセンテージポイント以下がより好ましく、6パーセンテージポイント以下が特に好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【0110】
また、加温する工程前後の基材のサイズ変化率は、例えば眼用レンズといった眼用デバイスに用いる場合、変形に伴う角膜損傷を防止する観点から、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下が特に好ましい。測定方法の詳細は後述する。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。まず、分析方法および評価方法を示す。
【0112】
<水濡れ性(液膜保持時間)>
医療デバイスに吸着していない、水性パッケージ液中の親水性ポリマーの影響を除くため、医療デバイスを室温でガラスバイアル中のリン酸緩衝液3mL中に1時間以上静置した。比較例記載の市販コンタクトレンズのみの評価についても、レンズに吸着していないパッケージ液中の親水性ポリマーの影響を除くため、室温でガラスバイアル中のリン酸緩衝液3mL中に1時間以上静置した。
【0113】
医療デバイスを静置浸漬させていたリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の液膜が保持される時間を目視観察し、N=3の平均値を下記基準で判定した。
A:表面の液膜が20秒以上保持される。
B:表面の液膜が15秒以上20秒未満で切れる。
C:表面の液膜が10秒以上15秒未満で切れる。
D:表面の液膜が1秒以上10秒未満で切れる。
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
【0114】
<擦り洗いした2時間後の水濡れ性(液膜保持時間)>
医療デバイスに吸着していない、水性パッケージ液中の親水性ポリマーの影響を除くため、医療デバイスを室温でガラスバイアル中のリン酸緩衝液3mL中に1時間静置した。比較例記載の市販コンタクトレンズのみの評価についても、レンズに吸着していないパッケージ液中の親水性ポリマーの影響を除くため、室温でガラスバイアル中のリン酸緩衝液3mL中に1時間静置した。
【0115】
その後、親指と人差し指にレンズを挟んで50回擦り洗いした後に、再び静置浸漬させていたリン酸緩衝液中に戻して2時間静置した。
【0116】
医療デバイスを静置浸漬させていたリン酸緩衝液から引き上げ、空中に保持した際の表面の液膜が保持される時間を目視観察し、N=3の平均値を下記基準で判定した。
A:表面の液膜が20秒以上保持される。
B:表面の液膜が15秒以上20秒未満で切れる。
C:表面の液膜が10秒以上15秒未満で切れる。
D:表面の液膜が1秒以上10秒未満で切れる。
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
【0117】
<基材および医療デバイスの含水率>
基材をリン酸緩衝液に浸漬して室温で24時間以上静置した。基材をリン酸緩衝液から引き上げ、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製“キムワイプ(登録商標)”)で拭き取った後、基材の質量(Ww)を測定した。その後、真空乾燥器で基材を40℃、2時間乾燥した後、質量(Wd)を測定した。これらの質量から、下式(1)により基材の含水率を算出した。得られた値が1%未満の場合は測定限界以下と判断し、「1%未満」と表記した。N=3の平均値を含水率とした。滅菌後の基材、すなわち医療デバイスについても同様に含水率を算出した。
基材の含水率(%)=100×(Ww-Wd)/Ww 式(1)。
【0118】
<滅菌前後の基材の含水率変化量>
上記基材および医療デバイスの含水率の測定結果から、下式(2)により、含水率の変化量を算出した。
滅菌前後の基材の含水率変化量(パーセンテージポイント)=医療デバイスの含水率(質量%)-基材の含水率(質量%) 式(2)。
【0119】
<摩擦係数>
以下の条件で、リン酸緩衝液で濡れた状態の医療デバイス表面の摩擦係数をN=5で測定し、平均値を摩擦係数とした。
装置:摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社製)
摩擦SENS:H
測定SPEED:2×1mm/sec
摩擦荷重:44g。
【0120】
<脂質付着量>
20ccのスクリュー管にパルミチン酸メチル0.03g、純水10g、およびコンタクトレンズ形状のサンプル1枚を入れた。37℃、165rpmの条件下3時間スクリュー管を振とうさせた。振とう後、スクリュー管内のサンプルを40℃の水道水と家庭用液体洗剤(ライオン製“ママレモン(登録商標)”)を用いて擦り洗いした。洗浄後のサンプルをリン酸緩衝液の入ったスクリュー管内に入れ、4℃の冷蔵庫内で1時間保管した。その後、サンプルを目視観察し、白濁した部分があればパルミチン酸メチルが付着していると判定して、サンプルの表面全体に対するパルミチン酸メチルが付着した部分の面積を観察した。
【0121】
<引張弾性率>
コンタクトレンズ形状およびシート形状の基材から、規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5mm、長さ14mmの試験片を切り出した。該試験片を用い、株式会社エー・アンド・デイ社製のテンシロンRTG-1210型を用いて引張試験を実施した。引張速度は100mm/分で、グリップ間の距離(初期)は5mmであった。滅菌前の基材と滅菌後の医療デバイスの両方について測定を行った。N=8で測定を行い、最大値と最小値を除いたN=6の値の平均値を引張弾性率とした。
【0122】
<滅菌前後の基材の引張弾性率変化率>
上記基材および医療デバイスの引張弾性率の測定結果から、下式(3)により算出した。N=6の平均値を滅菌前後の引張弾性率変化率とした。
滅菌前後の基材の引張弾性率変化率(%)=(滅菌後の医療デバイスの引張弾性率-滅菌前の基材の引張弾性率)/滅菌前の基材の引張弾性率×100
式(3)。
【0123】
<サイズ>
コンタクトレンズ形状およびシート形状の基材(N=3)について、直径を測定し、平均値をサイズとした。滅菌後の基材、すなわち医療デバイスについても同様にサイズを測定した。
【0124】
<滅菌前後のサイズ変化率>
上記基材および医療デバイスのサイズの測定結果から、下式(4)により算出した。N=3の平均値を滅菌前後のサイズ変化率とした。
【0125】
滅菌前後のサイズ変化率(%)=(滅菌後のデバイスのサイズ-滅菌前の基材のサイズ)/滅菌前の基材のサイズ×100 式(4)。
【0126】
<分子量測定>
親水性ポリマーの分子量は以下に示す条件で測定した。
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC-20AD
オートサンプラ:SIL-20AHT
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:RID-10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1~0.3質量%
サンプル注入量:100μL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)。
【0127】
<pH測定法>
pHメーターEutech pH2700(Eutech Instruments社製)を用いて溶液のpHを測定した。表において、親水性ポリマーを含有する水性パッケージ液の滅菌前pHは、各実施例、比較例記載の溶液に親水性ポリマーを全て添加した後、室温(20~23℃)にて30分間回転子を用い撹拌し溶液を均一とした後に測定した。また、表において、「滅菌後pH」は、滅菌処理を1回行った後、溶液を室温(20~23℃)まで冷却した直後に測定したpHである。
【0128】
<親水性ポリマー層の分離の判定>
親水性ポリマー層が分離しているかどうかの判定は、透過型電子顕微鏡を用いて医療デバイスの断面を観察することで行った。
装置: 透過型電子顕微鏡条件: 加速電圧 100kV
試料調製: RuO4染色を用いた超薄切片法により試料調製を行った。基材と親水性ポリマー層の判別が困難な場合、OsO4染色を加えても良い。本実施例では、基材がシリコーンヒドロゲル系またはシリコーン系の場合、RuO4染色を行った。
超薄切片の作製には、ウルトラミクロトームを用いた。
【0129】
<親水性ポリマー層の元素組成分析>
親水性ポリマー層の元素組成分析は、クライオトランスファーホルダーを用いて含水状態で凍結した医療デバイスの断面を走査透過型電子顕微鏡および電子エネルギー損失分光法にて分析することによって行った。
装置: 電界放出型電子顕微鏡加速電圧: 200kV
測定温度: 約-100℃
電子エネルギー損失分光法: GATAN GIF Tridiem
画像取得: Digital Micrograph
試料調製: RuO4染色を用いた超薄切片法により試料調製を行った。基材とコート層の判別が困難な場合、OsO4染色を加えても良い。本実施例では、基材がシリコーンヒドロゲル系またはシリコーン系の場合、RuO4染色を行った。
超薄切片の作製には、ウルトラミクロトームを用いた。
【0130】
<親水性ポリマー層の膜厚>
乾燥状態の医療デバイスの断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察することで行った。上記<親水性ポリマー層の分離の判定>に記載の条件にて測定した。3ヶ所場所を変えて、各視野につき、1ヶ所膜厚を測定し、計3ヶ所の膜厚の平均値を記載した。
[製造例1]
式(M1)で表される両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC株式会社、Mw:30,000)28質量部、式(M2)で表されるシリコーンモノマー(FM0721、JNC株式会社、Mw:5,000)7質量部、トリフルオロエチルアクリレート(“ビスコート(登録商標)”3F、大阪有機化学工業株式会社)57.9質量部、2-エチルへキシルアクリレート(東京化成工業株式会社)7質量部およびジメチルアミノエチルアクリレート(株式会社興人)0.1質量部と、これらのモノマーの総質量に対し、光開始剤“イルガキュア(登録商標)”819(長瀬産業株式会社)5,000ppm、紫外線吸収剤(RUVA-93、大塚化学)5,000ppm、着色剤(RB246、Arran chemical)100ppmを準備し、さらに前記モノマーの総質量100質量部に対して10質量部のt-アミルアルコールを準備して、これら全てを混合し、撹拌した。撹拌された混合物をメンブレンフィルター(孔径:0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。
【0131】
透明樹脂(ベースカーブ側の材質:ポリプロピレン、フロントカーブ側の材質:ポリプロピレン)製のコンタクトレンズ用モールドに上記モノマー混合物を注入し、光照射(波長405nm(±5nm)、照度:0~0.7mW/cm2、30分間)して重合し、ケイ素原子を含む低含水性軟質材料からなる成型体を得た。
【0132】
重合後に、得られた成型体を、フロントカーブとベースカーブを離型したモールドごと、60℃の100質量%イソプロピルアルコール水溶液中に1.5時間浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。得られた成型体を、60℃に保った大過剰量の100質量%イソプロピルアルコール水溶液に2時間浸漬して残存モノマーなどの不純物を抽出した。その後、室温(23℃)中で12時間乾燥させた。
【0133】
【0134】
<リン酸緩衝液>
下記実施例、比較例のプロセスおよび上記した測定において使用したリン酸緩衝液の組成は、以下の通りである。なお、下の組成中、EDTA2Naは、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムを表す。
KCl 0.2g/L
KH2PO4 0.2g/L
NaCl 8.0g/L
Na2HPO4 1.19g/L
EDTA2Na 0.5g/L。
【0135】
[実施例1]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0136】
[実施例2]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0137】
[実施例3]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させ溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0138】
[実施例4]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0139】
[実施例5]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0140】
[実施例6]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0141】
[実施例7]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0142】
[実施例8]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0143】
[実施例9]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0144】
[実施例10]
基材として、ポリウレタンを主成分とする市販PFカテーテルチューブ(東レ株式会社製造販売)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0145】
[実施例11]
基材として、ポリウレタンを主成分とする市販PFカテーテルチューブ(東レ株式会社製造販売)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0146】
[実施例12]
基材として、パラ系の芳香族ポリアミド(アラミド)を主成分とする市販フィルム“ミクトロン(登録商標)”(東レ株式会社製)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0147】
[実施例13]
基材として、パラ系の芳香族ポリアミド(アラミド)を主成分とする市販フィルム“ミクトロン(登録商標)”(東レ株式会社製)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて加熱した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0148】
[実施例14]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ヒドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、etafilconA)を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0149】
[実施例15]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ヒドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、etafilconA)を使用した。ポリN,N-ジエチルアクリルアミド(Mw:290,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.04質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0150】
[実施例16]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。N,N-ジメチルアクリルアミド/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0151】
[実施例17]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/8、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0152】
[実施例18]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.05質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0153】
[実施例19]
基材として、製造例1で得られた成型体を使用した。アクリル酸/N,N-ジエチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:280,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイスについて上記方法にて評価した結果を表1~3に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
[比較例1]
シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0164】
[比較例2]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/アクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:250,000、自製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0165】
[比較例3]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:200,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0166】
[比較例4]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:800,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0167】
[比較例5]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/アクリロイルモルホリン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:500,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0168】
[比較例6]
基材として、シリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“MyDay(登録商標)”(クーパービジョン社製、stenfilcon A)を使用した。アクリル酸/アクリロイルモルホリン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:320,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0169】
[比較例7]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/2、Mw:550,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0170】
[比較例8]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/2、Mw:330,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0171】
[比較例9]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/8、Mw:500,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0172】
[比較例10]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/8、Mw:370,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0173】
[比較例11]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/4、Mw:590,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0174】
[比較例12]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/ビニルピロリドン共重合体(共重合におけるモル比1/9、Mw:390,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0175】
[比較例13]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/2、Mw:430,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0176】
[比較例14]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。アクリル酸/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/N,N-ジメチルアクリルアミド共重合体(共重合におけるモル比1/1/8、Mw:480,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0177】
[比較例15]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。ポリビニルピロリドン(Mw:360,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0178】
[比較例16]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)を使用した。ポリN,N-ジメチルアクリルアミド(Mw:360,000、大阪有機化学工業株式会社製)をリン酸緩衝液中に0.03質量%含有させた溶液に前記基材を浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0179】
[比較例17]
基材として、ポリビニルピロリドンおよびシリコーンを主成分とする市販シリコーンヒドロゲルレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、senofilcon A)をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0180】
[比較例18]
基材として、製造例1で得られた成型体をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0181】
[比較例19]
基材として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルを主成分とする市販ヒドロゲルレンズ“1day Acuvue(登録商標)”(Johnson&Johnson社製、etafilconA)をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0182】
なお、本比較例の基材は、本発明の製造方法を適用しなくても比較的良好な液膜保持時間を示し、耐久性も良好であるが、同じ基材に対して本発明の製造方法を適用した実施例14、実施例15と比較すると、本発明の製造方法を適用することにより、液膜保持時間が大きく向上(20秒→120秒)することが示された。
【0183】
[比較例20]
基材として、ポリウレタンを主成分とする市販PFカテーテルチューブ(東レ株式会社製造販売)をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0184】
[比較例21]
基材として、パラ系の芳香族ポリアミド(アラミド)を主成分とする市販フィルム“ミクトロン(登録商標)”(東レ株式会社製)をリン酸緩衝液中に浸漬し、121℃30分間オートクレーブにて滅菌した。得られた医療デバイス(親水性ポリマー層は確認されず)について上記方法にて評価した結果を表4~6に示す。
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】