(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】機械現象評価支援装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20241112BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
G05B23/02 G
(21)【出願番号】P 2021009226
(22)【出願日】2021-01-24
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石榑 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 章
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064481(JP,A)
【文献】特開2019-149041(JP,A)
【文献】特開2020-203356(JP,A)
【文献】特開2020-123409(JP,A)
【文献】特開2013-008111(JP,A)
【文献】特開2006-082154(JP,A)
【文献】特開2000-285372(JP,A)
【文献】特開昭59-102559(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0250585(US,A1)
【文献】米国特許第06233497(US,B1)
【文献】国際公開第2018/207350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00-23/00
G05B 19/18-19/416
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械に設置されたセンサにより検出された前記機械の動作の負荷の時系列データを取得する時系列データ取得部と、
第一軸に前記負荷の階級とし且つ前記第一軸に直交する第二軸に前記負荷の前記時系列データにおける度数とする度数分布を生成する度数分布生成部と、
前記度数分布のピークにおける前記負荷の階級を抽出するピーク階級抽出部と、
前記ピーク階級抽出部により抽出されたピーク階級に基づいて、前記負荷の前記時系列データを区分するための負荷閾値を設定する負荷閾値設定部と、
前記負荷閾値によって前記負荷の前記時系列データを分割した複数の分割時系列データを生成する分割時系列データ生成部と、
前記複数の分割時系列データのそれぞれについての特徴量を決定する特徴量決定部と、
前記特徴量を説明変数とし且つ前記機械の現象を目的変数とする機械学習モデルであって、前記複数の分割時系列データのそれぞれについての学習済みモデルを生成するモデル生成部と、
を備える、機械現象評価支援装置。
【請求項2】
前記機械の動作は、工作機械による加工動作であり、
前記負荷は、前記加工動作において前記工作機械に生じる負荷である、請求項1に記載の機械現象評価支援装置。
【請求項3】
前記目的変数である前記機械の前記現象は、前記工作機械により加工される工作物の加工品質、前記工作機械の故障の有無、前記工作機械の劣化状態、前記工作機械の熱変位量の少なくとも1つである、請求項2に記載の機械現象評価支援装置。
【請求項4】
前記時系列データ取得部が取得する前記負荷の前記時系列データは、前記工作機械の制御プログラムによる制御データと非同期のデータである、請求項2又は3に記載の機械現象評価支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械現象評価支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械の工具の異常を、機械学習を用いて検出する装置が記載されている。具体的には、工具に関係する検出データとして、振動情報、切削力情報、音情報、主軸負荷、モータ電流、電力値等を取得し、正常な状態において加工中に検出したデータを用いて機械学習で学習した正常モデルを作成し、正常モデル作成後の加工中の検出データと正常モデルとを用いて当該検出データが正常か異常かを診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した検出データを機械学習に用いるためには、加工中における検出データを抽出する必要がある。仮に、非加工時における検出データが含まれている場合には、機械学習における結果に影響を及ぼし、機械学習による精度が低下する原因となる。
【0005】
検出器により検出される検出データは、加工中におけるデータのみならず、非加工時におけるデータも含まれている。例えば、検出データと工具位置データとをサンプリング時刻毎に関連付けて取得し、加工プログラムを参照することにより工具位置データから加工中の検出データを抽出する。
【0006】
しかし、検出データと工具位置データとの関連付けは、両データを同期して取得することが必要となる。仮に、両データが同期していない場合には、抽出される検出データに、非加工時におけるデータが含まれる可能性がある。しかしながら、工具位置データの取得周期を例えばミリ秒単位等の短周期とする場合、他の全ての検出データを工具位置データと同期をとることは容易ではない。
【0007】
さらに、工具位置データから加工中の検出データを抽出する際に、加工プログラムを参照しているため、加工プログラムを把握する必要がある。しかし、加工プログラムが変更されると、工具位置データにおいてどのデータが加工中であるかを把握することが容易ではない。
【0008】
本発明は、検出データが工具位置データと同期していない場合や、加工プログラムを把握しない場合であっても、機械学習に用いる加工中のデータを高精度に抽出して、高精度な機械学習を利用することができる機械現象評価支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(機械現象評価支援装置)
機械現象評価支援装置は、機械に設置されたセンサにより検出された機械の動作の負荷の時系列データを取得する時系列データ取得部と、第一軸に負荷の階級とし且つ第一軸に直交する第二軸に負荷の時系列データにおける度数とする度数分布を生成する度数分布生成部と、度数分布のピークにおける負荷の階級を抽出するピーク階級抽出部と、ピーク階級抽出部により抽出されたピーク階級に基づいて、負荷の時系列データを区分するための負荷閾値を設定する負荷閾値設定部と、負荷閾値によって負荷の時系列データを分割した複数の分割時系列データを生成する分割時系列データ生成部と、複数の分割時系列データのそれぞれについての特徴量を決定する特徴量決定部と、特徴量を説明変数とし且つ機械の現象を目的変数とする機械学習モデルであって、複数の分割時系列データのそれぞれについての学習済みモデルを生成するモデル生成部とを備える。
【0010】
度数分布から得られるピーク階級に基づいて負荷の時系列データを分割して、複数の分割時系列データが生成される。複数の分割時系列データのそれぞれについての学習済みモデルが生成される。つまり、複数の学習済みモデルを生成するための複数の分割時系列データは、負荷の時系列データのみを取得すれば良い。
【0011】
換言すると、複数の分割時系列データを生成するためには、負荷の時系列データに同期した機械の位置データを取得する必要がない。さらに、複数の分割時系列データを生成するためには、加工プログラム等の機械の制御データを把握する必要もない。このように、負荷の時系列データのみを取得しさえすれば、所望のタイミングにおける複数の分割時系列データを取得することができる。そして、取得した複数の分割時系列データを用いて機械学習を行うことで、高精度な複数の学習済みモデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】対象の機械と機械現象評価支援装置とを含むシステム全体を示す図である。
【
図3】対象の機械による加工方法の例を示すフローチャートである。
【
図4】対象の機械における負荷の時系列データを示すグラフである。
【
図5】第一例の機械現象評価支援装置の機能ブロック図である。
【
図6】負荷の時系列データとその度数分布、並びに、複数の分割時系列データを示す図である。
【
図7】第二例の機械現象評価支援装置の機能ブロック図である。
【
図8】負荷の時系列データ、及び、複数の分割時系列データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.機械現象評価支援装置の概要)
機械現象評価支援装置(以下、「評価支援装置」と称する)は、工作機械、組立装置及び搬送装置等の生産機械、自動車及び電車等の車両、風力発電装置等の機械を対象として、当該対象の機械における各種現象を評価するための装置である。
【0016】
例えば、工作機械を対象とする場合において、評価支援装置により評価される現象は、工作機械により加工される工作物の加工品質、工作機械の故障の有無、工作機械の劣化状態、工作機械の熱変位量等である。工作物の加工品質は、工作物の形状精度、工作物の寸法精度、工作物の面性状、工作物の加工変質層の有無、工作物の表面のキズの有無等を含む。
【0017】
工作機械の故障の有無及び工作機械の劣化状態は、工作機械を構成する部品の故障の有無及び劣化状態を含む。部品の故障の有無及び劣化状態は、例えば、工具の折損や欠け等による異常の有無(故障の有無に相当)、工具の摩耗等による消耗度合(劣化状態に相当)、軸受の劣化状態等を含む。工作機械の熱変位量は、工作機械の構成部材の熱変位に伴う工具と工作物との相対位置のずれ量や、工作機械の構成部材単体での熱変位量等を含む。
【0018】
また、組立装置や搬送装置を対象とする場合において、評価支援装置により評価される現象は、組立装置により組み立てられる工作物の組立精度、搬送装置により搬送される対象物の搬送状態等である。また、車両や風力発電装置等を対象とする場合において、評価支援装置により評価される現象は、自動車や風力発電装置等の各機能の動作性能、自動車や風力発電装置等を構成する部品の故障の有無及び劣化状態等である。
【0019】
評価支援装置は、対象の機械の現象を評価するために、対象の機械に設置されたセンサにより検出された機械の動作の負荷を取得する。そして、評価支援装置は、当該機械の動作の負荷に基づいて機械学習により対象の機械の現象を評価する。
【0020】
ここで、機械学習により対象の機械の現象を評価するため、利用するデータの種類を多数用意することが好適である。そこで、対象の機械に複数のセンサを設置し、複数のセンサにより検出された機械の動作の負荷を検出すると良い。
【0021】
例えば、工作機械を対象とする場合において、機械の動作は、工作機械による加工動作であり、機械の動作の負荷は、加工動作において工作機械に生じる負荷である。例えば、当該負荷は、工作物を支持する部材に生じる負荷、工作物を加工する工具に生じる負荷、工作物又は工具を移動させる部材に生じる負荷等とすることができる。また、当該負荷は、対象の部材に生じる力を検出する力センサ、駆動装置の駆動電流、対象の部材に生じる振動等である。
【0022】
また、風力発電装置を対象とする場合において、機械の動作は、例えば、当該装置を構成する風力タービンの回転動作であり、機械の動作の負荷は、風力タービンの回転において生じる負荷である。例えば、当該負荷は、風力タービンに生じる振動等とすることができる。
【0023】
(2.評価支援システム100の構成)
対象の機械としての工作機械1及び評価支援装置2を含む評価支援システム100について、
図1を参照して説明する。本例では、対象の機械として、工作機械1を例にあげる。ただし、対象の機械は、上述したように、工作機械の他の機械を適用することができる。
【0024】
工作機械1は、工作物Wを加工する機械であって、切削加工、研削加工等、種々の加工を行う。本例では、工作機械1は、
図1に示すように、切削加工を行うマシニングセンタを例にあげる。
【0025】
図1に示す工作機械1は、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させることにより、工具Tによって工作物Wを加工する装置である。また、工作機械1は、工具交換可能に構成されており、装着された工具Tに応じた加工が可能である。例えば、交換可能な工具Tとしては、エンドミル、フライス工具、ドリル、旋削工具、ネジ切り工具、歯形創成工具等の切削工具、及び、研削工具等である。なお、
図1において、工具交換装置及び工具Tを保管する工具マガジンは、図示しない。また、本例では、工作機械1は、横形マシニングセンタを基本構成とする。ただし、工作機械1は、立形マシニングセンタ等、他の構成を適用することができる。
【0026】
図1に示すように、工作機械1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸,Y軸,Z軸)を駆動軸として有する。ここで、工具Tの回転軸線(工具主軸の回転軸線に等しい)の方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸方向及びY軸方向と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。さらに、工作機械1は、さらに、工具Tと工作物Wとの相対姿勢を変更するための2つの回転軸(A軸及びB軸)を駆動軸として有する。また、工作機械1は、工具Tを回転するための回転軸としてのCt軸を有する。
【0027】
つまり、工作機械1は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(Ct軸)を考慮すると6軸加工機となる)である。ここで、工作機械1は、A軸(基準状態においてX軸回りの回転軸)及びB軸(基準状態においてY軸回りの回転軸)を有する構成に代えて、Cw軸(基準状態においてZ軸回りの回転軸)及びB軸を有する構成としても良いし、A軸及びCw軸を有する構成としても良い。
【0028】
工作機械1において、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械1は、工具TをY軸方向及びZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをA軸回転及びB軸回転可能とする。また、工具Tは、Ct軸回転可能である。
【0029】
工作機械1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30とを備える。ベッド10は、略矩形状等の任意の形状に形成されており、床面に設置される。工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向に直動可能とし、A軸回転及びB軸回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21と、B軸回転テーブル22と、工作物主軸装置23とを主に備える。
【0030】
X軸移動テーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(
図1前後方向)へ延びる一対のX軸ガイドレールが設けられ、X軸移動テーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレールに案内されながらX軸方向へ往復移動する。
【0031】
B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設置され、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ往復移動する。また、B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21に対し、B軸回転可能に設けられる。B軸回転テーブル22には、図示しない回転モータが収納され、B軸回転テーブル22は、回転モータに駆動されることでB軸回転可能となる。
【0032】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設置され、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸装置23は、工作物WをA軸回転可能に支持する。工作物主軸装置23は、工作物Wを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このようにして、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、A軸回転及びB軸回転可能とする。
【0033】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸装置33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(
図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレールが設けられ、コラム31は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレールに案内されながらZ軸方向へ往復移動する。
【0034】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面(
図1の左側面)であって、Z軸方向に直交する平面に平行な側面に配置される。このコラム31の側面には、Y軸方向(
図1の上下方向)へ延びる一対のY軸ガイドレールが設けられ、サドル32は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置に駆動されることで、Y軸方向へ往復移動する。
【0035】
工具主軸装置33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、工具TをCt軸回転可能に支持する。工具主軸装置33は、工具Tを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このように、工具保持装置30は、工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能とし、且つ、Ct軸回転可能に保持する。
【0036】
評価支援装置2は、工作機械1に設置されたセンサに接続されており、当該センサにより検出されたデータを取得し、機械学習により機械の現象、例えば、工作物Wの加工品質、工具Tの異常(故障)の有無、工具Tの消耗度合、工作機械1の熱変位量等を評価する。
【0037】
(3.対象の加工方法の例)
評価支援装置2により機械の現象を評価する対象の加工方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。対象の加工方法は、
図2に示すように、ドリルによる穴あけ加工とする。つまり、対象の加工方法は、工作機械1の工具Tとしてドリルを用いて、工作物Wに穴あけ加工(切削加工)を行う場合である。ただし、評価支援装置2により機械の現象を評価する対象の加工方法は、穴あけ加工に限られるものではなく、他の加工方法にも適用可能である。
【0038】
ここで、本例は、穴あけ加工の途中で、送り速度を変化させる場合とする。
図2において、加工初期の範囲Aでは、工具Tの送り速度を第一速度Vaとし、加工中期の範囲Bでは、工具Tの送り速度を第二速度Vbとし、加工終期の範囲Cでは、工具Tの送り速度を第三速度Vcとする。ここで、第一速度Vaと第三速度Vcは、同一とし、第二速度Vbは、第一速度Va及び第三速度Vcよりも高速としている。つまり、加工開始直後は、ゆっくり加工を行い、安定した後に高速加工を行い、加工終了深さに近づく前に速度を遅くする。
【0039】
より詳細には、
図3に示すように、まず早送り動作により工具Tを工作物Wに接近させ、工具Tを工作物Wの穴あけ位置へ移動させる(S1)。続いて、工具Tを第一速度Vaにて移動させながら、工作物Wに対して穴あけ加工を行う(S2)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工初期の範囲Aである。
【0040】
続いて、工具Tを一時停止した直後に、工具Tを第一速度Vaより高速の第二速度Vbにて移動させながら、工作物Wに対してさらに穴あけ加工を行う(S3)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工中期の範囲Bである。続いて、工具Tを第二速度Vbより低速の第三速度Vcに変更して、工作物Wに対してさらに穴あけ加工を行う(S4)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工終期の範囲Cである。続いて、工具Tを加工済みの穴から脱出させて(S5)、工具Tを早送り動作により工作物Wから退避させる(S6)。
【0041】
(4.負荷の挙動)
図2及び
図3に示す加工方法において工作機械1に生じる負荷の挙動について、
図4を参照して説明する。ここで、工作機械1に生じる負荷は、例えば、工具主軸装置33に設置された力センサにより検出される力とする。ただし、当該負荷は、工具主軸装置33におけるモータに設置された電流センサの電流値としても良いし、工具主軸装置33に設置された振動センサにより検出される振動の大きさとしても良い。また、当該負荷は、工作物Wを支持する部材に設置された振動センサにより検出される振動の大きさ、当該部材に設置された力センサにより検出される力としても良い。
【0042】
ここで、
図4において、S1-S6は、
図3のフローチャートのS1-S6に対応する。つまり、早送り接近(S1)においては、負荷は非常に小さな値を示す。第一速度Vaでの穴あけ加工(S2)において、負荷が大きくなっている。第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)においては、負荷がさらに大きくなっている。第三速度Vcでの穴あけ加工(S4)においては、負荷が減少している。そして、穴からの脱出(S5)、及び、早送り退避(S6)では、負荷は非常に小さな値を示す。
【0043】
つまり、加工中であるS2,S3,S4における負荷は、非加工中であるS1,S5,S6に比べて、大きくなっている。さらに、加工中のうち、相対的に高速である第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)における負荷は、相対的に低速である第一速度Va及び第三速度Vcでの穴あけ加工(S2,S4)に比べて、大きくなっている。
【0044】
(5.第一例の評価支援装置2の構成)
第一例の評価支援装置2の構成について、
図5及び
図6を参照して説明する。評価支援装置2は、工作機械1に設置されたセンサにより検出された工作機械1に生じる負荷データを用いて機械学習により、工作物Wの加工品質、工具Tの異常(故障)の有無、工具Tの消耗度合、工作機械1の熱変位量等を評価する。
【0045】
評価支援装置2は、工作機械1に設置されたセンサにより検出された負荷データのみを用いて評価する。ここで、
図4に示すように、負荷データは、加工中のデータ(S2-S4)と非加工中のデータ(S1,S5-S6)が混在している。さらに、
図4に示すように、加工中であっても加工条件が異なれば、負荷の大きさが異なる。
【0046】
そこで、評価支援装置2は、負荷データ自身を用いて、負荷データにおいて加工中におけるデータを抽出する処理を行う。さらに、評価支援装置2は、負荷データ自身を用いて、加工中において加工条件の異なるデータを分類する処理を行う。
【0047】
評価支援装置2は、プロセッサ、記憶装置、インターフェース等を備えて構成される。評価支援装置2は、
図5に示すように、時系列データ取得部41、データ前処理部42、特徴量決定部43、モデル生成部44、モデル記憶部45、判定部46を備える。
【0048】
時系列データ取得部41は、工作機械1に設置されたセンサにより検出された工作機械1の動作の負荷の時系列データDを取得する。例えば、時系列データ取得部41は、
図4に示すような、工具主軸装置33(
図1に示す)に設置された力センサにより検出される力に関する時系列データD等である。負荷の時系列データDには、加工中のデータのみならず、非加工中のデータが含まれている。また、時系列データ取得部41が取得する負荷の時系列データDは、工作機械1の制御プログラムによる制御データと非同期のデータである。なお、負荷の時系列データDは、制御データと同期したデータとしても良いが、積極的に同期させたデータである必要はない。
【0049】
データ前処理部42は、負荷の時系列データDを機械学習における説明変数データとするために、負荷の時系列データDから必要な範囲を抽出した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成する。本例では、データ前処理部42は、負荷の時系列データDから、加工中に対応する分割時系列データDa,Db,Dcを抽出する。さらに、データ前処理部42は、加工中のうち、第一速度Va(第三速度Vcと同様)での穴あけ加工(S2,S4)に対応する分割時系列データDa,Dcと、第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)に対応する分割時系列データDbとを抽出する。つまり、データ前処理部42は、負荷の時系列データDから、機械学習に用いる複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成する。
【0050】
本例におけるデータ前処理部42は、度数分布生成部42a、ピーク階級抽出部42b、負荷閾値設定部42c、分割時系列データ生成部42dを備える。度数分布生成部42aは、
図6の右欄に示すように、第一軸(縦軸)に負荷の階級とし、且つ、第一軸に直交する第二軸(横軸)に負荷の時系列データDにおける度数とする度数分布を生成する。
図6の右欄には、度数分布の例として、ヒストグラムを図示する。ただし、度数分布としては、ヒストグラムの他に、負荷の階級における度数を点としてプロットした折れ線グラフとしても良いし、各階級における度数の点を接続する近似曲線により示しても良い。
【0051】
ピーク階級抽出部42bは、度数分布生成部42aにより生成された度数分布のピークにおける負荷の階級を抽出する。本例では、
図6の右欄に示すように、度数分布は、3つのピーク階級Pe1,Pe2,Pe3を有する。ピーク階級Pe1は、主に、非加工中(S1,S5-S6)における負荷のデータに対応する。ピーク階級Pe2は、主に、第一速度Vaでの穴あけ加工(S2)、及び、第三速度Vcでの穴あけ加工(S4)における負荷のデータに対応する。ピーク階級Pe3は、主に、第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)における負荷のデータに対応する。
【0052】
負荷閾値設定部42cは、
図6に示すように、ピーク階級抽出部42bにより抽出されたピーク階級Pe1,Pe2,Pe3に基づいて、負荷の時系列データDを区分するための負荷閾値Th1,Th2,Th3を設定する。負荷閾値Th1,Th2,Th3は、ピーク階級Pe1,Pe2,Pe3そのものの値ではなく、ピーク階級Pe1,Pe2,Pe3よりも少し大きな値に設定されている。
【0053】
例えば、負荷閾値Th1,Th2,Th3は、ピーク階級Pe1,Pe2,Pe3より大きな値であって、ピーク階級Pe1,Pe2,Pe3の度数の例えば10%以下に達した値等とする。ピーク階級Pe1のように、ピーク階級Pe1付近の分布における裾幅が狭い場合には、負荷閾値Th1は、ピーク階級Pe1に非常に近い値となる。ピーク階級Pe2においても裾幅が狭いので、負荷閾値Th2は、ピーク階級Pe2に近い値となる。一方、ピーク階級Pe3のように、ピーク階級Pe3付近の分布における裾幅が広い場合には、負荷閾値Th3は、ピーク階級Pe3よりも離れた値となる。なお、負荷閾値Th1,Th2,Th3を設定するための度数の割合は、10%に限られず、任意の値とすることができる。
【0054】
分割時系列データ生成部42dは、負荷閾値Th1,TH2,Th3によって負荷の時系列データDを分割した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成する。分割時系列データ生成部42dは、まず、負荷の時系列データDにおいて、負荷閾値Th1,Th2,Th3との交点を抽出する。続いて、負荷の時系列データDを交点で区分する。
【0055】
図6においては、負荷の時系列データDの期間を、期間P1,P2,P3,P4,P5に区分する。期間P1は、負荷閾値Th1に到達するまでの期間である。期間P2は、負荷閾値Th1に到達したときから、負荷閾値Th2に到達するまでの期間である。期間P3は、負荷閾値Th2に到達したときから、再び負荷閾値Th2に到達するまでの期間である。期間P4は、再び負荷閾値Th2に到達したときから、負荷閾値Th1に到達するまでの期間である。期間P5は、負荷閾値Th1に到達したとき以降の期間である。
【0056】
負荷の時系列データDのうち期間P1,P5は、負荷閾値Th1よりも小さいデータであり、非加工中であると判定される。負荷の時系列データDのうち期間P2,P3,P4は、加工中であると判定される。そして、負荷の時系列データDのうち期間P2,P3,P4のそれぞれのデータを、分割時系列データDa,Db,Dcとして生成する。
【0057】
期間P2における分割時系列データDaは、第一速度Vaでの穴あけ加工(S2)に概ね対応する。期間P3における分割時系列データDbは、第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)に概ね対応する。期間P4における分割時系列データDcは、第三速度Vcでの穴あけ加工(S4)に概ね対応する。
【0058】
特徴量決定部43は、複数の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれについての特徴量を決定する。特徴量は、例えば、最大値、平均値、中央値、標準偏差、分散、第一四分位、第三四分位等から、任意に選択すれば良い。
【0059】
モデル生成部44は、機械学習の学習フェーズとして、複数の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれについての学習済みモデルMa,Mb,Mcを生成する。学習済みモデルMa,Mb,Mcは、複数の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれの特徴量を説明変数とし、且つ、工作機械1の現象を目的変数とする機械学習モデルである。
【0060】
目的変数である工作機械1の現象は、工作機械1により加工される工作物Wの加工品質、工作機械1の故障の有無、工作機械1の劣化状態、工作機械1の熱変位量の少なくとも1つである。工作機械1の故障の有無は、例えば、工具Tの異常の有無を含む。工作機械1の劣化状態は、例えば、工具Tの消耗度合を含む。
【0061】
例えば、モデル生成部44は、加工品質が良好な工作物Wを加工したときの負荷の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれを訓練データセットとして、機械学習により学習済みモデルを生成する。この場合の学習済みモデルは、負荷の分割時系列データDa,Db,Dcを入力データとした場合に、工作物Wの加工品質が良好であるか不良であるかを出力することができるモデルとなる。また、当該学習済みモデルは、工作物Wの加工品質が良好である程度、又は、不良である程度を出力することもできる。例えば、良好と不良の境界からの距離に応じて、良好である程度や不良である程度を出力する。
【0062】
また、モデル生成部44は、工具Tが正常である場合の負荷の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれを訓練データとして、機械学習により学習済みモデルを生成する。この場合の学習済みモデルは、負荷の分割時系列データDa,Db,Dcを入力データとした場合に、工具Tが正常であるか異常であるかを出力することができるモデルとなる。また、当該学習済みモデルは、工具Tが正常である程度、又は、異常である程度を出力することもできる。例えば、正常と異常の境界からの距離に応じて、正常である程度や異常である程度を出力する。
【0063】
なお、モデル生成部44は、負荷の分割時系列データDaに対応する学習済みモデルMaと、負荷の分割時系列データDcに対応する学習済みモデルMcとを別々に生成した。ここで、第一速度Vaと第三速度Vcとは同一速度であるため、分割時系列データDa,Dcを訓練データセットとして、1つの学習済みモデルを生成するようにしても良い。
【0064】
モデル記憶部45は、モデル生成部44により生成された複数の学習済みモデルMa,Mb,Mcを記憶する。モデル記憶部45は、学習済みモデルMaを第一速度Vaでの穴あけ加工(S2)の情報と関連付けて記憶する。モデル記憶部45は、学習済みモデルMbを第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)の情報と関連付けて記憶する。モデル記憶部45は、学習済みモデルMcを第三速度Vcでの穴あけ加工(S4)の情報と関連付けて記憶する。
【0065】
判定部46は、学習済みモデルMa,Mb,Mcの生成後において、機械学習の推定フェーズとして、時系列データ取得部41により取得された負荷の時系列データD、及び、モデル記憶部45に記憶された学習済みモデルMa,Mb,Mcに基づいて、工作機械1の現象を評価する。
【0066】
特に、本例では、判定部46は、学習済みモデルMaを用いて、データ前処理部42により生成された分割時系列データDaを入力データとして、工作機械1の現象を評価する。また、判定部46は、学習済みモデルMbを用いて、データ前処理部42により生成された分割時系列データDbを入力データとして、工作機械1の現象を評価する。また、判定部46は、学習済みモデルMcを用いて、データ前処理部42により生成された分割時系列データDcを入力データとして、工作機械1の現象を評価する。
【0067】
判定部46は、工作物Wの加工品質、工具Tや工作機械1を構成する他の部品の故障の有無、工具Tや工作機械1を構成する他の部品の劣化状態、工作機械1の熱変位量の少なくとも1つを評価する。
【0068】
上述した評価支援装置2によれば、度数分布から得られるピーク階級Pe1,Pe2,Pe3に基づいて負荷の時系列データDを分割して、複数の分割時系列データDa,Db,Dcが生成される。複数の分割時系列データDa,Db,Dcのそれぞれについての学習済みモデルMa,Mb,Mcが生成される。つまり、複数の学習済みモデルMa,Mb,Mcを生成するための複数の分割時系列データDa、Db,Dcは、負荷の時系列データDのみを取得すれば良い。
【0069】
換言すると、複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成するためには、負荷の時系列データDに同期した工作機械1の位置データ等を取得する必要がない。さらに、複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成するためには、加工プログラム等の工作機械1の制御データを把握する必要もない。このように、負荷の時系列データDのみを取得しさえすれば、所望のタイミングにおける複数の分割時系列データDa,Db,Dcを取得することができる。そして、取得した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを用いて機械学習を行うことで、高精度な複数の学習済みモデルMa,Mb,Mcを生成することができる。そして、当該学習済みモデルMa,Mb,Mcを用いることで、高精度に工作機械1の現象を評価することができる。
(6.第二例の評価支援装置2の構成)
第二例の評価支援装置2の構成について、
図7及び
図8を参照して説明する。第二例の評価支援装置2は、第一例の評価支援装置2に対して、データ前処理部52が相違する。
【0070】
データ前処理部52は、第一例のデータ前処理部42と同様に、負荷の時系列データDから必要な範囲を抽出した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成する。データ前処理部52は、
図7に示すように、傾き変化点抽出部52a、及び、分割時系列データ生成部52bを備える。
【0071】
傾き変化点抽出部52aは、負荷の時系列データDにおける傾き変化点Ca,Cb,Cc,Cdを抽出する。分割時系列データ生成部52bは、傾き変化点Ca,Cb,Cc,Cdによって負荷の時系列データDを分割した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを生成する。分割時系列データ生成部52bは、まず、負荷の時系列データDを、傾き変化点Ca,Cb,Cc,Cdで区分する。
【0072】
図8において、負荷の時系列データDの期間を、期間P11,P12,P13,P14,P15に区分する。期間P11は、傾き変化点Caに到達するまでの期間である。期間P12は、傾き変化点Caに到達したときから、傾き変化点Cbに到達するまでの期間である。期間P13は、傾き変化点Cbに到達したときから、傾き変化点Ccに到達するまでの期間である。期間P14は、傾き変化点Ccに到達したときから、傾き変化点Cdに到達するまでの期間である。期間P15は、傾き変化点Cdに到達したとき以降の期間である。
【0073】
負荷の時系列データDのうち期間P11,P15は、小さい負荷データであり、非加工中であると判定される。負荷の時系列データDのうち期間P12,P13,P14は、加工中であると判定される。そして、負荷の時系列データDのうち期間P12,P13,P14のそれぞれのデータを、分割時系列データDa,Db,Dcとして生成する。
【0074】
期間P12における分割時系列データDaは、第一速度Vaでの穴あけ加工(S2)に概ね対応する。期間P13における分割時系列データDbは、第二速度Vbでの穴あけ加工(S3)に概ね対応する。期間P14における分割時系列データDcは、第三速度Vcでの穴あけ加工(S4)に概ね対応する。
【0075】
第二例の評価支援装置2において、特徴量決定部43、モデル生成部44、モデル記憶部45及び判定部46は、第一例と実質同一である。つまり、第二例の評価支援装置2は、分割時系列データ生成部52bにより生成された複数の分割時系列データDa,Db,Dcに基づいて、複数の学習済みモデルMa,Mb,Mcを生成する。また、第二例の評価支援装置2は、生成した学習済みモデルMa,Mb,Mcを用いて、分割時系列データ生成部52bにより生成された複数の分割時系列データDa,Db,Dcを入力データとして、工作機械1の現象を評価する。
【0076】
第二例の評価支援装置2において、負荷の時系列データDのみを取得しさえすれば、所望のタイミングにおける複数の分割時系列データDa,Db,Dcを取得することができる。そして、取得した複数の分割時系列データDa,Db,Dcを用いて機械学習を行うことで、高精度な複数の学習済みモデルMa,Mb,Mcを生成することができる。そして、当該学習済みモデルMa,Mb,Mcを用いることで、高精度に工作機械1の現象を評価することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:工作機械、 2:機械現象評価支援装置、 20:工作物保持装置、 30:工具保持装置、 41:時系列データ取得部、 42:データ前処理部、 42a:度数分布生成部、 42b:ピーク階級抽出部、 42c:負荷閾値設定部、 42d:分割時系列データ生成部、 43:特徴量決定部、 44:モデル生成部、 45:モデル記憶部、 46:判定部、 52:データ前処理部、 52a:傾き変化点抽出部、 52b:分割時系列データ生成部、 100:評価支援システム、 Ca,Cb,Cc,Cd:傾き変化点、 D:負荷の時系列データ、 Da,Db,Dc:分割時系列データ、 Ma,Mb,Mc:学習済みモデル、 Pe1,Pe2,Pe3:ピーク階級、 T:工具、 Th1,TH2,Th3:負荷閾値、 Va:第一速度、 Vb:第二速度、 Vc:第三速度、 W:工作物