(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2021012858
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】板山 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 匡矩
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-089860(JP,A)
【文献】特開2007-090871(JP,A)
【文献】特開2017-139300(JP,A)
【文献】特開2010-208204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0134144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室が複数並設された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記圧力室とは反対面側に積層された第1の電極、圧電体層及び第2の電極を備える圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、
前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室の並設方向である第1方向において、前記圧力室の両端部に対応する前記振動板の第1領域に前記第1の電極と前記第2の電極とにより前記圧電体層が挟まれた活性部を備えるが、前記圧力室の中央部に対応する前記振動板の第2領域には前記活性部を備えておらず、
前記振動板は、前記第1方向において、前記第1領域に所定厚さの厚肉部を有すると共に、前記第2領域に前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部を有
し、
前記活性部は、前記圧力室を隔てる隔壁上まで延設されており、
前記厚肉部は、前記圧力室に対向する領域から前記隔壁上の前記活性部が設けられた領域まで連続して設けられ、
前記圧電体層は、前記第2領域において、前記第2の電極に覆われていない開口部を有する、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記薄肉部は、前記第2領域の内側だけに設けられる
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記厚肉部は、前記第1方向において、前記第1領域の全体に亘って連続して設けられる
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記活性部は、前記圧力室を隔てる隔壁上まで延設されており、
前記厚肉部は、前記圧力室に対向する領域から前記隔壁上の前記活性部が設けられた領域まで連続して設けられる
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
ノズルに連通する圧力室が複数並設された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記圧力室とは反対面側に積層された第1の電極、圧電体層及び第2の電極を備える圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、
前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室の並設方向である第1方向において、前記圧力室の両端部に対応する前記振動板の第1領域に前記第1の電極と前記第2の電極とにより前記圧電体層が挟まれた活性部を備えるが、前記圧力室の中央部に対応する前記振動板の第2領域には前記活性部を備えておらず、
前記振動板は、前記第1方向において、前記第1領域に所定厚さの厚肉部を有すると共に、前記第2領域に前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部を有し、
前記活性部は、前記圧力室を隔てる隔壁上まで延設されており、
前記厚肉部は、
前記第1方向において、前記第1領域の全体に亘って連続して設けられ、
前記圧力室に対向する領域から前記隔壁上の前記活性部が設けられた領域まで連続して設けられる、
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記振動板は、酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム膜を有し、
前記薄肉部は、少なくとも前記酸化ジルコニウム膜の厚さが、前記厚肉部の厚さよりも薄い
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項7】
ノズルに連通する圧力室が複数並設された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記圧力室とは反対面側に積層された第1の電極、圧電体層及び第2の電極を備える圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、
前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室の並設方向である第1方向において、前記圧力室の両端部に対応する前記振動板の第1領域に前記第1の電極と前記第2の電極とにより前記圧電体層が挟まれた活性部を備えるが、前記圧力室の中央部に対応する前記振動板の第2領域には前記活性部を備えておらず、
前記振動板は、前記第1方向において、前記第1領域に所定厚さの厚肉部を有すると共に、前記第2領域に前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部を有し、
前記振動板のヤング率は、前記圧電体層のヤング率よりも小さい
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧電体層は、前記振動板の前記薄肉部に対向する部分の厚さが他の部分の厚さよりも薄い
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室の並設方向とは交差する第2方向においても、前記第1領域には前記活性部を備えるが、前記第2領域には前記活性部を備えておらず、
前記振動板は、前記第2方向においても、前記第1領域に前記厚肉部を有すると共に、前記第2領域に前記薄肉部を有する
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項1~
9の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記振動板は、複数の膜が厚さ方向に積層されてなり、
前記薄肉部は、複数の前記膜のうちの何れか一層をその厚さ方向に亘って除去することで形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1~
10の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドであって、
前記薄肉部は、前記振動板の前記圧力室側の一部を除去することによって形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項12】
請求項1~
11の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを噴射するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドとしては、圧力室が形成された流路形成基板に振動板を介して圧電アクチュエーターを設けたものが知られている。また圧電アクチュエーターとしては、振動板側から第1の電極、圧電体層、及び第2の電極を積層することで形成されたものが知られている。さらに圧電アクチュエーターの一形態として、圧力室の並設方向における圧力室の両端部に、圧電体層が第1の電極と第2の電極とで挟まれた活性部を設け、圧力室の中央部には活性部を設けないようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電アクチュエーターをこのような構成とすることで、圧電アクチュエーターの駆動に伴う振動板の変位量の向上を図ることはできる。しかしながら、振動板の変位量は十分とはいえず、例えば、大きな液滴のインクを噴射することが難しいといった問題が生じる虞がある。また、振動板の変位量を増加させるために、振動板の厚さを薄くすることが考えられるが、それにより振動板にクラックが発生し易くなるといった問題が生じる虞がある。
【0005】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズルに連通する圧力室が複数並設された流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に形成された振動板と、前記振動板の前記圧力室とは反対面側に積層された第1の電極、圧電体層及び第2の電極を備える圧電アクチュエーターと、を備える液体噴射ヘッドであって、前記圧電アクチュエーターは、前記圧力室の並設方向である第1方向において、前記圧力室の両端部に対応する前記振動板の第1領域に前記第1の電極と前記第2の電極とにより前記圧電体層が挟まれた活性部を備えるが、前記圧力室の中央部に対応する前記振動板の第2領域には前記活性部を備えておらず、前記振動板は、前記第1方向において、前記第1領域に所定厚さの厚肉部を有すると共に、前記第2領域に前記厚肉部よりも厚さが薄い薄肉部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0007】
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【
図9】本発明の実施形態4に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様についての説明であり、本発明の構成は、発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
また、各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向を正(+)方向、矢印の反対方向を負(-)方向として説明する。またZ方向は、鉛直方向を示し、+Z方向は鉛直下向き、-Z方向は鉛直上向きを示す。さらに、正方向及び負方向を限定しない3つのX、Y、Zの空間軸については、X軸、Y軸、Z軸として説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」ともいう)をノズル面側から見た平面図である。
図2は、
図1のA-A′線断面図である。
図3は、記録ヘッドに設けられた圧電アクチュエーターの要部を拡大した平面図である。
図4は、
図3のB-B′線断面図であり、
図5は、
図3のC-C´断面図である。
【0012】
図示するように、記録ヘッド1は、流路ユニット100、振動板50及び圧電アクチュエーター300を備えている。本実施形態の流路ユニット100は、流路形成基板10、共通液室基板30、ノズルプレート20及びコンプライアンス基板40を具備する。
【0013】
流路形成基板10は、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板からなる。
【0014】
流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力室12がX軸方向に沿って並設されている。すなわち流路形成基板10には、複数の圧力室12が、その短手方向に沿って並設され、隔壁11によって隔てられている。複数の圧力室12は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように、X軸方向に沿った直線上に配置されている。もちろん、圧力室12の配置は特に限定されず、例えば、X軸方向に並設された圧力室12を1つ置きにY軸方向にずれた位置に配置する、所謂、千鳥配置としてもよい。
【0015】
各圧力室12は、Z軸方向に見た形状が、軸方向が長手方向となる長方形状を基本として、Y軸方向の両端部を半円形状とした形状となっている。すなわち、各圧力室12は、Z軸方向に見た開口形状が、いわゆる角丸長方形状(トラック形状ともいう)となっている。言い換えれば、各圧力室12は、Z軸方向で見た際に、Y軸方向が長手方向となり、X軸方向が短手方向となる長尺形状に形成されている。このように圧力室12を長尺形状とすることで、各圧力室12の容積を確保しつつ、複数の圧力室12を近接して並設することができる。
【0016】
もちろん、Z軸方向に見た圧力室12の形状は、特に限定されず、例えば、正方形状、長方形状、多角形状、平行四辺形状、扇形形状、円形状、長穴形状であってもよい。ちなみに、長穴形状とは、上記角長方形状の他、楕円形状、卵形状、長円形状等を含む。
【0017】
このような流路形成基板10の+Z方向側の面には、共通液室基板30が接着剤によって接合されている。共通液室基板30は、各圧力室12に連通した共通液室35が形成された基板である。共通液室35は、並設された複数の圧力室12に対応する領域に亘ってX軸方向に連続して設けられている。また、共通液室35は、圧力室12の+Y方向側の端部とZ軸方向で重なる位置に配置されている。このような共通液室35は、共通液室基板30の+Z方向側の面に開口して設けられている。
【0018】
また共通液室基板30には、圧力室12の+Y方向側の端部付近に連通する第1流路31が形成されている。第1流路31は、圧力室12の各々に独立して設けられている。この第1流路31は、共通液室35と圧力室12とをZ軸方向に連通して、共通液室35内のインクを圧力室12に供給する。
【0019】
また、共通液室基板30には、圧力室12の-Y方向側の端部付近に連通する第2流路32が形成されている。第2流路32は、圧力室12の各々に独立して設けられている。この第2流路32は、圧力室12とノズル21とを連通して、圧力室12内のインクをノズル21に供給する流路であり、共通液室基板30をZ軸方向に貫通して設けられている。
【0020】
このような共通液室基板30の材料としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板などが用いられる。なお、共通液室基板30の材料としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、流路形成基板10と共通液室基板30との熱膨張率の違いに起因する熱による反りの発生を抑制することができる。
【0021】
ノズルプレート20は、共通液室基板30の流路形成基板10とは反対側、すなわち、+Z方向側の面に接合されている。
【0022】
ノズルプレート20には、+Z方向に向かってインクを噴射するノズル21が複数形成されている。本実施形態では、
図1に示すように、複数のノズル21は、X軸方向に沿った直線上に配置されている。すなわち、複数のノズル21は、Y軸方向の位置が同じ位置となるように配置されている。もちろん、ノズル21の配置は、特に限定されず、例えば、X軸方向に並設されたノズル21を、1つ置きにY軸方向にずれた位置に配置した、いわゆる千鳥配置としてもよい。
【0023】
このようなノズルプレート20の材料としては、シリコン基板、ガラス基板、SOI基板、各種セラミック基板、ステンレス基板等の金属基板、ポリイミド樹脂のような有機物などを用いることができる。なおノズルプレート20の材料としては、連通板15の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましい。これにより、ノズルプレート20と連通板15との熱膨張率の違いに起因する熱による反りの発生を抑制することができる。
【0024】
コンプライアンス基板40は、ノズルプレート20と共に、共通液室基板30の流路形成基板10とは反対側の面に接合されている。このコンプライアンス基板40は、共通液室基板30の共通液室35が開口する部分に接合され、共通液室35の+Z方向側の開口を封止する。このようなコンプライアンス基板40は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜41と、金属等の硬質の材料からなる固定基板42と、を具備する。固定基板42の共通液室35に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっている。このため、共通液室35の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。このように共通液室35の壁面の一部にコンプライアンス部49を設けることで、共通液室35内のインクの圧力変動をコンプライアンス部49が変形することで吸収することができる。
【0025】
このように流路ユニット100には、共通液室35から第1流路31、圧力室12、及び第2流路32を経てノズル21に至るインク流路が形成されている。また図示は省略するが、共通液室35は、外部のインク供給手段からインクが供給されるように構成されている。
【0026】
インク供給手段から共通液室35にインクが供給されると、共通液室35内のインクは各第1流路31を経由して各圧力室12に適宜供給される。そして圧力室12内のインクは、後述する圧電アクチュエーター300によって、第2流路32を経由してノズル21から噴射される。
【0027】
圧電アクチュエーター300は、流路形成基板10のノズルプレート20等とは反対側の面に振動板50を介して設けられている。
【0028】
振動板50は、複数の膜がその厚さ方向に積層されて構成されている。本実施形態に係る振動板50は、具体的には、第1振動板51と第2振動板52との2層の膜を具備する。これら第1振動板51と第2振動板52とは、-Z方向に向かってこの順で積層されている。
【0029】
第1振動板51は、酸化シリコンを含む膜であり、流路形成基板10の-Z方向側の面に設けられている。第2振動板52は、酸化ジルコニウムを含む膜であり、第1振動板51の-Z方向側の面に設けられている。なお上述した圧力室12は、流路形成基板10を貫通して設けられており、圧力室12の-Z方向側の面は、振動板50が備える第1振動板51によって構成されている。
【0030】
詳しくは後述するが、この振動板50は、圧力室12の端部に対応する領域に所定厚さの厚肉部55を備えると共に、圧力室12の中央部に対応する領域に厚肉部55よりも厚さの薄い薄肉部56を備えている。
【0031】
なお振動板50の構成は特に限定されるものではない。振動板50は、例えば、第1振動板51と第2振動板52との何れか一方で構成されていてもよく、さらには、第1振動板51及び第2振動板52以外のその他の膜が含まれていてもよい。その他の膜の材料としては、例えば、シリコン、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0032】
圧電アクチュエーター300は、振動板50の第2振動板52側の面、つまり圧力室12とは反対側の面に設けられている。圧電アクチュエーター300は、成膜及びリソグラフィー法によって積層された第1の電極60と圧電体層70と第2の電極80とによって構成されている。
【0033】
圧電アクチュエーター300のうち、第1の電極60と第2の電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を活性部310と称する。すなわち、圧電アクチュエーター300のうち、圧電体層70が第1の電極60と第2の電極80とで挟まれた部分が活性部310である。この活性部310は、圧力室12毎に独立して設けられている。
【0034】
一般的には、活性部310は、何れか一方の電極を活性部310毎に独立する個別電極とし、他方の電極を複数の活性部310に共通する共通電極として構成されている。本実施形態では、第1の電極60が共通電極を構成し、第2の電極80が個別電極を構成している。
【0035】
ここで、振動板50のうち、圧電アクチュエーター300を駆動した際に撓み変形する領域、つまり圧力室12に対向する領域を可撓領域Pと称する。また可撓領域Pのうち、+Z方向に見て圧力室12の端部(縁部)に対応する環状の領域を第1領域P1と称する。また可撓領域Pのうち、圧力室12の中央部に対応する領域、すなわち第1領域P1よりも内側の領域を第2領域P2と称する。
【0036】
そして本実施形態では、圧電アクチュエーター300の活性部310は、Z軸方向の平面視において、振動板50の第2領域P2には設けられることなく第1領域P1に設けられている。すなわち圧電アクチュエーター300の活性部310は、各圧力室12の端部に沿って環状に設けられている。
【0037】
その結果、
図4に示すように、圧力室12の並設方向である第1方向、本実施形態ではX軸方向において、圧電アクチュエーター300の活性部310は、圧力室12の両端部に対応する振動板50の第1領域P1には設けられているが、圧力室12の中央部に対応する振動板50の第2領域P2には設けられていない。
【0038】
また
図5に示すように、第1方向である第X方向とは交差する第2方向、本実施形態では、圧力室12の長手方向であるY軸方向においても、圧電アクチュエーター300の活性部310は、圧力室12の両端部に対応する第1領域P1には設けられているが、圧力室12の中央部に対応する第2領域P2には設けられていない。
【0039】
さらに圧電アクチュエーター300の活性部310は、X軸方向及びY軸方向の何れにおいても、第1領域P1の外側まで、すなわち、圧力室12の外側まで延設されている。
【0040】
そして、この圧電アクチュエーター300の共通電極を構成する第1の電極60は、複数の圧力室12に対応する領域に亘って連続して設けられている。第1の電極60は、Y軸方向の長さが、圧力室12のY軸方向の長さよりも長く、X軸方向に並設された複数の圧力室12に対応する領域に亘って連続して設けられている。なお第1の電極60は、例えば、金、銀、銅、パラジウム、白金、チタン等の導電性材料で構成されている。
【0041】
圧電体層70は、Y軸方向の長さが所定長さとなるようにX軸方向に亘って連続して設けられている。圧電体層70のY軸方向の長さは、圧力室12のY軸方向の長さよりも長く、本実施形態では第1の電極60のY軸方向の長さよりも長くなっている。このため、圧力室12のY軸方向では、圧電体層70は、第1の電極60の外側まで延設されており、第1の電極60の端部は圧電体層70で覆われている。
【0042】
また圧電体層70は、振動板50の薄肉部56に対向する部分の厚さが他の部分の厚さよりも薄くなっている。本実施形態では、圧電体層70には、振動板50の第2領域P2に対応する部分に開口部70aが設けられている。すなわち振動板50の第2領域P2に対応する部分には圧電体層70が設けられてない。
【0043】
なお圧電体層70は、本実施形態では、複数の圧力室12に対応する領域に亘って連続して設けられているが、圧力室12毎に、隣り合う圧力室12の隔壁11上で切り分けられていてもよい。
【0044】
このような圧電体層70は、第1の電極60上に形成される分極構造を有する酸化物の圧電材料からなり、例えば、一般式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物からなる。また、圧電体層70の材料としては、鉛を含む鉛系圧電材料や鉛を含まない非鉛系圧電材料などを用いることができる。
【0045】
また圧電アクチュエーター300の個別電極を構成する第2の電極80は、圧力室12毎に切り分けられている。第2の電極80は、Z軸方向に見た平面視において、各圧力室12の端部に沿って環状に形成されている。すなわち、第2の電極80は、その外周形状が圧力室12と同様にY軸方向を長手方向とする角丸長方形状となっており、その中央部に外周形状と略相似形状の開口部80aが圧電体層70の開口部70aに連通して設けられている。
【0046】
そして、この第2の電極80の形状によって圧電アクチュエーター300における活性部310の範囲が規定されている。つまり第2の電極80が各圧力室12の端部に沿って環状に形成されることで、圧電アクチュエーター300の活性部310は、各圧力室12の端部に沿って環状に配置されている。なお、第2の電極80の材料は、特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、パラジウム、白金、チタン等の導電性材料を用いることができる。
【0047】
なお、図示は省略するが、このような圧電アクチュエーター上には、絶縁材料からなる保護膜が設けられ、この保護膜上に、第1の電極に接続される共通リード電極と、各第2の電極に接続される個別リード電極とが設けられている。
【0048】
このような圧電アクチュエーター300を備える記録ヘッド1では、圧電アクチュエーター300の第1の電極60及び第2の電極80に電圧が印加されると、活性部310が撓み変形する。この活性部310の撓み変形に伴って振動板50が撓み変形し、圧力室12内のインクに圧力が付与されてノズル21から噴射される。
【0049】
ところで、振動板50は、上述のように圧力室12の端部に対応する領域に所定厚さの厚肉部55を備え、圧力室12の中央部に対応する領域に厚肉部55よりも厚さの薄い薄肉部56を備えている。すなわちZ軸方向の平面視において、振動板50の第1領域P1には、圧力室12の端部に沿った所定厚さの厚肉部55が環状に設けられている。また振動板50の第2領域P2には、厚肉部55よりも厚さが薄い薄肉部56が設けられている。言い換えれば、振動板50の第2領域P2には、振動板50の厚さ方向の一部を除去した凹部57が略長円形状に形成されており、この凹部57に対応する部分の振動板50が薄肉部56となっている。
【0050】
本実施形態では、振動板50は、酸化シリコン膜である第1振動板51と、酸化ジルコニウム膜である第2振動板52とを有し、これら二層のうち、圧力室12側に配置された第1振動板51に、その厚さ方向の一部を除去した凹部57が設けられ、これにより振動板50に薄肉部56が形成されている。なお第2振動板52は、凹部57が形成された第1振動板51の表面に略均一な厚さで形成されている。
【0051】
したがって、振動板50は、
図4に示すように、X軸方向において、第1領域P1に所定厚さの厚肉部55を有すると共に、第2領域P2に厚肉部55よりも厚さが薄い薄肉部56を有する。さらに振動板50は、
図5に示すように、Y軸方向においても、第1領域P1に所定厚さの厚肉部55を有すると共に、第2領域P2に厚肉部55よりも厚さが薄い薄肉部56を有する。
【0052】
このように振動板50が第1領域P1に厚肉部55を備えると共に、第2領域P2に薄肉部56を備えていることで、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50の変位量を増大させることができる。
【0053】
詳しくは、振動板50の第1領域P1に所定厚さの厚肉部55が設けられていることで、圧力室12の端部付近でのクラックの発生を抑制することができる。本発明に係る記録ヘッド1では、圧電アクチュエーター300が圧力室12の端部に沿って環状の活性部310を備えている。このため、圧電アクチュエーター300を駆動した際、圧力室12の端部付近において振動板50が比較的大きく変形する。特に、圧力室12の並設方向であるX軸方向の端部付近において振動板50が大きく変形する。このため、圧力室12の端部付近では振動板50にクラックが生じ易い。しかしながら、振動板50の第1領域P1に所定厚さの厚肉部55が設けられていることで、振動板50の第1領域P1の剛性が高められ、圧力室12の端部付近における振動板50へのクラックの発生を抑制することができる。また振動板50の第1領域P1が硬くなることで共振周波数が向上するため、圧電アクチュエーター300の駆動速度の向上を図ることもできる。
【0054】
一方、振動板50の第2領域P2に厚肉部55よりも厚さの薄い薄肉部56が設けられていることで、圧電アクチュエーター300の駆動による振動板50の変位量を増大することができる。本発明に係る記録ヘッド1では、圧力室12の中央部には、圧電アクチュエーター300の活性部310は設けられていない。このため、圧電アクチュエーター300を駆動した際、振動板50の第2領域P2にはクラックは発生し難いが、変形量は比較的小さい。しかしながら、振動板50の第2領域P2に薄肉部56を設けることで、圧電アクチュエーター300を駆動した際、振動板50の第2領域P2の変形量を増大させることができ、それに伴い振動板50の可撓領域P全体の変形量が増大する。
【0055】
また振動板50のヤング率は、圧電体層70のヤング率よりも小さい。なおここでいう振動板50のヤング率とは、振動板50を構成する各層の厚みに比例して加重平均した平均値である。このように比較的硬い材料で形成されている振動板50に薄肉部56が設けられていることで、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50の変位量をより効果的に増大させることができる。
【0056】
ここで、圧電アクチュエーター300の活性部310が設けられた振動板50の第1領域P1と、活性部310が設けられていない振動板50の第2領域P2とでは、好ましい中立軸の位置が異なる。振動板50の厚さが可撓領域Pに亘って略一定であると、第1領域P1及び第2領域P2のそれぞれにおいて中立軸を適切な位置に設定することは難しい。
【0057】
しかしながら振動板50が厚肉部55及び薄肉部56を備えていることで、振動板50の第1領域P1と第2領域P2とのそれぞれにおいて中立軸を適切な位置に設定することができる。すなわち厚肉部55及び薄肉部56の厚さ等を調整することで、振動板50の第1領域P1と第2領域P2とのそれぞれにおいて中立軸を適切な位置に設定することができる。これにより、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50の変位量をより効果的に増大させることができる。
【0058】
以上のようなことから、振動板50が第1領域P1に厚肉部55を備えると共に、第2領域P2に薄肉部56を備えていることで、圧電アクチュエーター300を駆動した際、振動板50に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50の変位量の向上を図ることができる。したがって、記録ヘッド1の破損を抑制しつつ、噴射性能を高めることができ、ひいては記録ヘッド1の耐久性や信頼性の向上を図ることができる。
【0059】
このような本実施形態の構成において、振動板50の厚肉部55は、第1領域P1の少なくとも一部に設けられていればよいが、第1領域P1のできるだけ広い範囲に設けられていることが好ましい。本実施形態では、厚肉部55は、第1領域P1の全体に亘って連続して設けられている。つまり厚肉部55は、X軸方向及びY軸方向の何れにおいても、第1領域P1に亘って連続して設けられている。これにより、第1領域P1における振動板50の剛性を適切に高めることができる。
【0060】
さらに本実施形態では、圧電アクチュエーター300の活性部310は、X軸方向及びY軸方向の何れにおいても、圧力室12を隔てる隔壁11上まで延設されている。そして振動板50の厚肉部55は、X軸方向及びY軸方向の何れにおいても、第1領域P1から隔壁11上の活性部310が設けられた領域まで連続して設けられている。すなわち、圧電アクチュエーター300の活性部310は、振動板50の厚肉部55に対応する部分だけに設けられている。
【0061】
これにより、圧電アクチュエーター300の活性部310においては、第1の電極60と第2の電極80との距離が全体に亘って略均一となり、電界強度も全体に亘って略均一となる。したがって、活性部310における焼損の発生を抑制することができる。
【0062】
一方、薄肉部56は、第2領域P2の少なくとも一部に設けられていればよいが、第2領域P2のできるだけ広い範囲に設けられていることが好ましい。また薄肉部56は、第2領域P2の外側、つまり第1領域P1まで連続して設けられていてもよいが、第2領域P2の内側だけに設けられていることが好ましい。本実施形態では、薄肉部56は、第2領域P2の内側に、第2領域P2と同程度の大きさで形成されている。すなわち振動板50の第2領域P2のほぼ全体が、薄肉部56となっている。薄肉部56をこのような大きさで形成することで、振動板50のクラックを抑制しつつ、振動板50の変位量を効果的に高めることができる。
【0063】
これら厚肉部55及び薄肉部56の厚さは、特に限定されず、例えば、圧電アクチュエーター300の変位特性、振動板50の剛性や変形量等を考慮して適宜決定さればよい。ただし、薄肉部56の厚さは、厚肉部55の半分程度或いはそれよりも薄くすることが好ましい。これにより、振動板50の変位量をより向上させ易くなる。
【0064】
また、本実施形態の振動板50は、第1振動板51及び第2振動板52で構成されているが、振動板50の構成は特に限定されるものではない。例えば、振動板50は、単層から構成されていてもよいし、3層以上で構成されていてもよいが、クラックの発生を抑制するためには2層以上で構成されていることが好ましい。
【0065】
また本実施形態では、第1振動板51にその厚さ方向の一部を除去した凹部57を設けることで、振動板50に薄肉部56を形成するようにしたが、例えば、
図6に示すように、第1振動板51は全面に亘って略均一な厚さとし、酸化ジルコニウム膜である第2振動板52にその厚さ方向の一部を除去した凹部57を設け、これにより振動板50の薄肉部56を形成してもよい。
【0066】
振動板50をこのような構成としても、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50の変位量を増大させることができる。また酸化ジルコニウムを含みヤング率が比較的大きい第2振動板52に凹部57を設けることで、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50の変位量をさらに増大させ易くなる。
【0067】
また本実施形態では、圧電体層70の第2領域P2に対応する部分に開口部70aが形成されており、このことによっても、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50の変位量がさらに増大する。なお圧電体層70の第2領域P2に対応する部分は、完全に除去されていなくてもよく、他の部分よりも薄くなっていればよい。勿論、圧電体層70の開口部70aは、必ずしも設けられていなくてもよい。すなわち圧電体層70は、可撓領域Pに対応する部分を覆って設けられていてもよい。
【0068】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0069】
図7に示すように、本実施形態の記録ヘッド1Aでは、振動板50Aが、第1振動板51及び第2振動板52と、この第2振動板52の-Z方向側に設けられた第3振動板53とを備えている。そして、この第3振動板53に凹部57Aが設けられて、振動板50に薄肉部56Aが形成されている。この凹部57Aは、第3振動板53を厚さ方向に貫通して設けられている。したがって、振動板50Aの第1領域P1に設けられる厚肉部55Aは、第1振動板51、第2振動板52及び第3振動板53で構成され、薄肉部56Aは、第1振動板51及び第2振動板52で構成されている。第3振動板53の材料としては、例えば、窒化シリコン(SiN)が好適に用いられる。ただし、この第3振動板53の材料は、特に限定されず、例えば、接着剤等であってもよい。
【0070】
振動板50Aをこのような構成としても、実施形態1と同様に、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50の変位量を増大させることができる。
【0071】
また振動板50は、厚さ方向に積層された複数の膜、本実施形態では、第1振動板51、第2振動板52及び第3振動板53で構成され、これら複数の膜のうちの何れか一層、本実施形態では、第3振動板53がその厚さ方向に亘って除去されて、薄肉部56Aが形成されている。すなわち凹部57Aが、第3振動板53をその厚さ方向に亘って除去することで形成されている。これにより、厚肉部55A及び薄肉部56Aを備える振動板50Aを比較的容易に形成することができ、量産性が向上する。
【0072】
なお本実施形態では、凹部57Aは、第3振動板53をその厚さ方向に亘って除去することによって形成されているが、その他の膜を除去することで形成されていてもよい。例えば、第2振動板52をその厚さ方向に亘って除去することで凹部57Aを形成するようにしてもよい。また例えば、第3振動板53及び第2振動板52をその厚さ方向に亘って除去することで、凹部57Aを形成してもよい。
【0073】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。なお、実施形態1と同一部材に同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0074】
図8に示すように、本実施形態に係る記録ヘッド1Bでは、振動板50Bは、実施形態1と同様に、第1振動板51及び第2振動板52で構成されている。そして薄肉部56Bは、第1振動板51の厚さ方向の一部を圧力室12側から除去することによって形成されている。すなわち第1振動板51には、圧力室12側からその厚さ方向の一部を除去することで凹部57Bが設けられており、これにより薄肉部56Bと共に厚肉部55Bが形成されている。
【0075】
振動板50Bをこのような構成としても、実施形態1と同様に、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50Bの変位量を増大させることができる。
【0076】
また薄肉部56Bが第1振動板51の厚さ方向の一部を圧力室12側から除去することによって形成されていることで、すなわち第1振動板51の圧力室12側の面に凹部57Bが形成されていることで、振動板50Bの圧電アクチュエーター300側の面は、凹凸が形成されることなく平面となっている。したがって、圧電アクチュエーター300の製造が容易となり、量産性が向上する。
【0077】
ただし、振動板50Bの圧電アクチュエーター300側の面は、必ずしも平面でなくてもよい。例えば、実施形態1と同様に、第1振動板51の第1の電極60側の面に凹部57を設けると共に、第1振動板51の圧力室12側の面に凹部57Bを設けるようにしてもよい。
【0078】
なお、第1振動板51に凹部57Bを形成する方法は、特に限定されず、既存の技術を用いて形成すればよい。例えば、流路形成基板10を異方性エッチング等により圧力室12を形成する場合、流路形成基板10が除去されて第1振動板51の表面が露出された後、第1振動板51をフッ化水素(HF)等によりエッチングすることによって凹部57Bを形成することができる。
【0079】
その際、流路形成基板10の表面に、いわゆる補正パターンを所定形状に設けることで、一つのマスクパターンを用いて、流路形成基板10に圧力室12を形成すると共に、第1振動板51に凹部57Bを形成することもできる。
【0080】
(実施形態4)
図9は、実施形態4に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0081】
図9に示すように、本実施形態の記録ヘッド1Cでは、振動板50Cの圧力室12に対向する領域、つまり可撓領域Pが、第1振動板51及び第2振動板52と、第1振動板51の+Z方向側である圧力室12側に設けられた第3振動板53Aとで構成されている。この第3振動板53Aは、圧力室12内において第1振動板51の表面に設けられている。そして、この第3振動板53Aに凹部57Cが設けられることで、振動板50Cに薄肉部56Cが形成されると共に厚肉部55Cが形成されている。この凹部57Cは、第3振動板53Aを厚さ方向に貫通して設けられている。
【0082】
このため、本実施形態の構成では、振動板50Cの第1領域P1に設けられる厚肉部55Cは、第1振動板51、第2振動板52及び第3振動板53Aで構成されている。一方、第2領域P2に設けられる薄肉部56Cは、第1振動板51及び第2振動板52で構成されている。
【0083】
第3振動板53Aの材料は、特に限定されるものではない。本実施形態では、第3振動板53Aの材料として、共通液室基板30を流路形成基板10に接着するための接着剤が用いられている。また第3振動板53Aの形成方法も、特に限定されるものではない。例えば、共通液室基板30と流路形成基板10とを接合する際、両者を接着するための接着剤の塗布量を増量する。これにより、共通液室基板30と流路形成基板10と接着剤を介して当接させた際、余分な接着剤が圧力室12の側壁で形成される角部に沿って第1振動板51まで這い上がり、流路形成基板10と第1振動板51とで形成される角部付近、つまり振動板50Cの第1領域P1に接着剤からなる第3振動板53Aが形成される。
【0084】
すなわち、振動板50Cの第2領域P2には第3振動板53Aが形成されることなく、振動板50Cの第1領域P1のみに第3振動板53Aが形成される。言い換えれば、振動板50Cの第1領域P1のみに第3振動板53Aが形成され、振動板50Cの第2領域P2には、第3振動板53Aを厚さ方向に貫通する凹部57Cが形成されて、振動板50Cの凹部57Cに対応する部分が薄肉部56Cとなる。なお上述のように圧力室12の角部を這い上がった接着剤によって形成された第3振動板53Aは、Z軸方向の厚さが圧力室12の端部で最も厚く圧力室12の中央部側ほど薄くなる。勿論、第3振動板53Aの厚さは、全体に亘って略一定となっていてもよい。
【0085】
振動板50Cをこのような構成としても、実施形態1と同様に、圧電アクチュエーター300を駆動した際の振動板50Cに対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板50Cの変位量を増大させることができる。
【0086】
また本実施形態では、第3振動板53Aが接着剤によって形成されているため、振動板50Cに厚肉部55C及び薄肉部56Cを設けることによる変位への影響が小さく抑えられる。したがって、振動板50Cをより適切に変位させることができ、記録ヘッド1のさらなる信頼性の向上を図ることができる。
【0087】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は、上述した構成に限定されるものではない。
【0088】
例えば、上述の実施形態では、振動板が、X軸方向及びY軸方向のそれぞれにおいて、第1領域に厚肉部を備えると共に、第2領域に薄肉部を備えるようにしたが、Y軸方向における振動板の構成はこれに限定されるものではない。すなわち、振動板は、少なくともX軸方向において、厚肉部と薄肉部とを備えていればよく、Y軸方向においては、厚肉部と薄肉部とを備えていなくてもよい。このような構成としても、振動板に対するクラックの発生を抑制しつつ、振動板の変位量を増大させることができるという作用効果は得られる。
【0089】
また、上述の各実施形態では、第1の電極が複数の活性部に共通する共通電極を構成し、第2の電極が各活性部で独立する個別電極を構成するようにしたが、第1の電極が個別電極を構成し、第2の電極が共通電極を構成するようにしてもよい。この場合であっても、振動板が厚肉部及び薄肉部を備えていることで、上述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0090】
また、これら各実施形態の記録ヘッド1は、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置に搭載される。
図10は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0091】
図10に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、記録ヘッド1は、インク供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、キャリッジ3に搭載されている。この記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5の軸方向に移動自在に設けられている。
【0092】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0093】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1に対して記録シートSを+X方向に搬送し、キャリッジ3を記録シートSに対してY方向に往復移動させながら、記録ヘッド1からインク滴を噴射させることで記録シートSの略全面に亘ってインク滴の着弾、所謂、印刷が実行される。
【0094】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向であるY方向に往復移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向であるX方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0095】
なお、上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0096】
I…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、1…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、2…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力室、15…連通板、20…ノズルプレート、21…ノズル、30…共通液室基板、31…第1流路、32…第2流路、35…共通液室、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定基板、43…開口部、49…コンプライアンス部、50…振動板、51…第1振動板、52…第2振動板、53…第3振動板、55…厚肉部、56…薄肉部、57…凹部、60…第1の電極、70…圧電体層、70a…開口部、80…第2の電極、80a…開口部、100…流路ユニット、300…圧電アクチュエーター、310…活性部、S…記録シート、P…可撓領域、P1…第1領域、P2…第2領域