(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】希土類磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20241112BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20241112BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20241112BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241112BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20241112BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241112BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
H01F1/08 160
B22F1/05
B22F1/17 100
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2021016023
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】一期崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正朗
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012796(JP,A)
【文献】特開2001-254168(JP,A)
【文献】特開2003-168602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059、1/08、41/02
B22F 1/05、1/17、3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th
2Zn
17型及びTh
2Ni
17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成して、被覆粉末を得ること、
前記被覆粉末を圧縮成形して、圧粉体を得ること、及び
前記圧粉体を加圧焼結すること、
を含み、
前記磁性粉末と亜鉛を含有する粉末とをロータリーキルン炉内に装入し、絶対圧で、1×10
-8Pa以上、1×10
-1Pa以下に炉内を減圧し、前記亜鉛を含有する粉末の融点をT℃としたとき、(T-30)℃以上、T℃未満に炉内を保温しつつ、炉体を回転し、前記亜鉛を含有する粉末から亜鉛を昇華させ、前記磁性粉末の粒子の表面に、前記磁性粉末を基準にして20~30質量%の亜鉛を堆積して、前記被覆粉末の粒子の表面全体に対する前記被膜の被覆率を96%以上にし、
前記被膜の形成及び前記圧粉体の加圧焼結を、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行い
、
前記加圧焼結を、100~300MPaの圧力を印加しつつ、350~380℃で、1~5分にわたり行い、
前記被覆粉末の圧縮成形を
室温の大気中で行
い、
かつ
前記ロータリーキルン炉が、撹拌ドラムを備え、前記撹拌ドラムが、前記攪拌ドラム内に攪拌板を有する、
希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記被覆粉末を磁場中で圧縮成形し、前記被覆粉末を磁気的に配向させつつ前記圧粉体を得る、請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記加圧焼結を、不活性ガス雰囲気中で行う、請求項1又は2に記載の希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類磁石の製造方法に関する。本開示は、特に、サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能希土類磁石として、サマリウム-コバルト系希土類磁石及びネオジム-鉄-ホウ素系希土類磁石が実用化されているが、近年、これら以外の希土類磁石が検討されている。例えば、サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える希土類磁石(以下、「サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石」ということがある。)が検討されている。サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石は、サマリウム、鉄、及び窒素を含有する磁性粉末(以下、「サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末」ということがある。)を用いて製造される。
【0003】
サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末は、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を含有する。この磁性相は、サマリウム-鉄結晶に窒素が侵入型で固溶していると考えられている。そのため、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末は、熱によって窒素が乖離して分解され易い。このことから、サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石(成形体)の製造に際しては、磁性相中の窒素が乖離しない温度で、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末を成形する必要がある。
【0004】
このような成形方法として、例えば、特許文献1に開示された、希土類磁石の製造方法が挙げられる。この製造方法は、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末と亜鉛を含有する粉末の混合粉末を磁場中で圧縮成形し、その圧粉体を加圧焼結(液相焼結を含む)する。
【0005】
サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末と亜鉛を含有する粉末の混合粉末の圧粉体を加圧焼結(液相焼結を含む)すると、亜鉛を含有する粉末中の亜鉛成分がサマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の粒子の表面に固相又は液相拡散して、焼結(固化)する。このことから、特許文献1に開示された希土類磁石の製造方法では、亜鉛を含有する粉末は、バインダ機能を有する。
【0006】
サマリウム-鉄-窒素系粉末中には、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を構成しなかった少量のFeが、α-Fe相を形成して残存している。このα-Fe相によって、保磁力が低下する。亜鉛を含有する粉末中の亜鉛成分は、α-Fe相とZn-Fe相(改質相)を形成する。そして、Zn-Fe相(改質相)は、磁性相を磁気分断して、保磁力を向上する。このように、亜鉛を含有する粉末は、上述のバインダ機能の他に、改質機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末は、その粒子の表面が非常に酸化し易い。サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の粒子の表面が酸化すると、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末中の磁性相が減少し、残留磁化が低下する。このことから、サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石(成形体)の製造に際しては、その製造工程は、従来、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われていた。
【0009】
サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石(成形体)の製造を、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うためには、製造に用いる装置を、気密性が確保可能な容器で包囲する必要があり、装置が大型化し、かつ複雑化する。容器中の真空を維持するためには動力が必要であり、また、不活性ガスは一般に高価である。そのため、真空中又は不活性ガス雰囲気中での製造は、製造コストの増大を招く。これらのことから、サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石(成形体)の製造において、一部の工程であっても、大気中での操業で残留磁化の低下を抑制することができれば、製造工程を簡略化し、また、製造コストを低減できる、という課題を本発明者らは見出した。
【0010】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本開示は、サマリウム-鉄-窒素系希土類磁石の製造において、少なくとも一部の工程を大気中で行っても、残留磁化の低下を抑制して、製造工程を大幅に簡略化し、かつ製造コストを低減可能な希土類磁石の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の希土類磁石の製造方法を完成させた。本開示の希土類磁石の製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成して、被覆粉末を得ること、
前記被覆粉末を圧縮成形して、圧粉体を得ること、及び
前記圧粉体を加圧焼結すること、
を含み、
前記被覆粉末の粒子の表面全体に対する前記被膜の被覆率が96%以上であり、
前記被膜の形成及び前記圧粉体の加圧焼結を、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行い、かつ、
前記被覆粉末の圧縮成形を大気中で行う、
希土類磁石の製造方法。
〈2〉前記被覆粉末を磁場中で圧縮成形し、前記被覆粉末を磁気的に配向させつつ前記圧粉体を得る、〈1〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈3〉前記真空が、絶対圧で、1×10-1Pa以下である、〈1〉又は〈2〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈4〉真空中で、亜鉛を昇華させ、前記磁性粉末の粒子の表面に亜鉛を堆積して前記被膜を形成する、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈5〉前記磁性粉末を基準にして、20~50質量%の亜鉛を堆積する、〈4〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈6〉前記磁性粉末を基準にして、20~30質量%の亜鉛を堆積する、〈4〉項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈7〉100~2000MPaの圧力を印加しつつ、350~380℃で、1~5分にわたり加圧焼結する、〈1〉~〈6〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
〈8〉前記加圧焼結を、不活性ガス雰囲気中で行う、〈1〉~〈7〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の粒子表面に、予め、所定の被覆率の被膜を形成することによって、その被膜を有する被覆粉末を加圧焼結する前の工程で、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末が大気中で酸化することを抑制できる。これにより、加圧焼結前に、被覆粉末を大気中で圧縮成形して圧粉体を得ても、残留磁化の低下を抑制可能な、希土類磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、被覆粉末の粒子が大気中に存在している場合の状況を模式的に示す説明図である。
【
図1B】
図1Bは、被覆粉末の粒子の表面が酸化された場合の状況を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、ロータリーキルン炉を用いて、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成する方法の一例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、蒸着法を用いて、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成する方法の一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、圧粉に用いられるダイス及びパンチの一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の希土類磁石の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の希土類磁石の製造方法を限定するものではない。
【0015】
理論に拘束されないが、本開示の希土類磁石の製造方法で、加圧焼結する前の工程で、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末(以下、単に「磁性粉末」ということがある。)が大気中で酸化することを抑制できる理由について、図面を用いて説明する。
【0016】
図1Aは、被覆粉末の粒子が大気中に存在する場合の状況を模式的に示す説明図である。また、
図1Bは、被覆粉末の粒子の表面が酸化された場合の状況を模式的に示す説明図である。
【0017】
図1Aに示すように、磁性粉末10の粒子の表面には、被膜20が形成されており、磁性粉末10の粒子と被膜20とで、被覆粉末30の粒子を構成する。大気中には酸素40が存在しているが、
図1Bに示すように、被膜20の表面近傍では、酸素40は被膜20中の亜鉛と反応して、酸化亜鉛を含む酸化被膜25を形成する。そのため、酸素40が磁性粉末10の粒子と直接接触することを抑制する。
【0018】
希土類磁石(成形体)は、被覆粉末30を圧縮成形して得た圧粉体を、加圧焼結することによって得られる。被覆粉末の圧縮成形は冷間で行われる。被膜20によって、磁性粉末10の粒子の表面の酸化を抑制することは、冷間で発揮される。これらのことから、被膜粉末の圧縮成形を大気中で行うことが可能となる。「冷間」の詳細は、後述する。
【0019】
希土類磁石(成形体)に異方性を付与して、残留磁化を向上させるため、任意で、被覆粉末の圧縮成形中に磁場を印加して、被覆粉末30の粒子を磁気的に配向させてもよい。圧粉体を形成する際には、被覆粉末を成形型に装入して圧縮成形(冷間プレス)する。圧縮成形の際に磁場を印加するには、成形型の周囲に電磁コイルを配置するが、圧縮成形の際に、成形型の内部を真空又は不活性ガス雰囲気にするには、装置が複雑化する。圧縮成形が大気中で可能であることは、装置を簡素化でき、その結果、希土類磁石の製造方法を大幅に簡略化することができる。磁性粉末の中でも、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末は、異方性磁界が非常に大きい。このことから、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の配向には大型の電磁コイルを必要とする。そのため、圧粉を真空又は不活性ガス雰囲気中で行うには、装置が非常に大型化及び/又は複雑化することから、大気中での圧縮成形は、特に有利である。
【0020】
これまで説明した知見等によって完成された、本開示の希土類磁石の製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0021】
《希土類磁石の製造方法》
本開示の希土類磁石の製造方法は、被覆工程、圧縮成形工程、及び加圧焼結工程を含む。また、圧縮成形工程では、任意で、磁場印加工程を追加してもよい。以下、各工程について説明する。
【0022】
〈被覆工程〉
サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成して、被覆粉末を得る。亜鉛を含有する被膜とは、亜鉛元素を含有する被膜を意味し、典型的には、金属亜鉛を含有する被膜及び亜鉛合金を含有する被膜の少なくともいずれかを意味する。金属亜鉛とは、合金化されていない亜鉛を意味する。
【0023】
上述したように、サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を備える磁性粉末は、単に「磁性粉末」ということがある。磁性粉末の詳細については後述する。
【0024】
磁性粉末の酸化を抑制するため、真空中又は不活性ガス雰囲気中で、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成する。真空中又は不活性ガス雰囲気中で被膜を形成して、磁性粉末の酸化を抑制し、かつ、所定の被覆率が得られれば、被膜の形成方法は特に限定されない。後続する加圧焼結工程時に、被膜粉末の被膜が、磁性粉末中のα-Fe相と改質相を形成するため、被膜工程の段階では、被膜粉末は改質されていてもよいし、改質されていなくてもよい。
【0025】
被膜の形成方法としては、例えば、ロータリーキルン炉を用いる方法、蒸着法、及び混練法等が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。以下、これらの方法それぞれについて、簡単に説明する。
【0026】
〈ロータリーキルン炉を用いる方法〉
図2は、ロータリーキルン炉を用いて、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成する方法の一例を示す説明図である。
【0027】
ロータリーキルン炉100は、撹拌ドラム110を備える。撹拌ドラム110は、材料格納部120、回転軸130、攪拌板140を有する。回転軸130には、電動機等の回転手段(図示しない)が連結されている。
【0028】
材料格納部120に、磁性粉末10と亜鉛を含有する粉末50を装入する。亜鉛を含有する粉末50については後述する。その後、撹拌ドラム110を回転しながら、材料格納部120をヒータ(図示しない)で加熱する。
【0029】
亜鉛を含有する粉末50の融点よりも低い温度に材料格納部120を加熱すれば、磁性粉末10の粒子の表面に、亜鉛を含有する粉末50の亜鉛成分が固相拡散又は蒸着される。その結果、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜が形成される。
【0030】
亜鉛を含有する粉末50の融点よりも低い温度に材料格納部120を加熱する際、材料格納部を真空状態にすると、亜鉛を含有する粉末50が昇華して、亜鉛を含有する粉末50の亜鉛成分が堆積される。昇華による堆積の場合、亜鉛蒸気が、磁性粉末10の個々の粒子の隅々にまで到達し、亜鉛が磁性粉末の粒子の表面に均一に堆積して、被膜20を形成することができる。そのため、亜鉛の堆積量が少なくても、所望の被覆率を得ることができる。亜鉛は磁気を発現しないことから、少ない亜鉛の堆積量で、所望の被覆率が得られることは、好ましい。
【0031】
昇華によって亜鉛を堆積する場合、所望の被覆率を得るためには、磁性粉末を基準にして、20質量%以上、22質量%以上、又は25質量%以上であってよく、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、30質量%以下であってよい。
【0032】
真空中で亜鉛を堆積する際、磁性粉末の酸化抑制及び亜鉛の昇華の観点から、絶対圧で、1×10-1Pa以下、1×10-2Pa以下、1×10-3Pa以下、1×10-4Pa以下、1×10-5Pa以下、1×10-6Pa以下、又は1×10-7Pa以下であってよい。一方、過度に減圧しなくても、実用上問題はなく、前述した雰囲気圧力を満足すれば、雰囲気圧力は1×10-8Pa以上であってよい。
【0033】
亜鉛を含有する粉末50の融点以上に材料格納部120を加熱すれば、亜鉛を含有する粉末の融液を得て、その溶液と磁性材原料粉末150とが接触し、その状態で材料格納部120を冷却すれば、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜が形成される。亜鉛を含有する粉末50の融点以上に材料格納部120を加熱する場合、材料格納部120は、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。負荷性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気が含まれる。
【0034】
ロータリーキルン炉100の操作条件は、所望の被膜を得られるよう、適宜決定すればよい。
【0035】
材料格納部の加熱温度は、亜鉛を含有する粉末の融点をTとしたとき、例えば、(T-50)℃以上、(T-40)℃以上、(T-30)℃以上、(T-20)℃以上、(T-10)℃以上、又はT℃以上であってよく、(T+50)℃以下、(T+40)℃以下、(T+30)℃以下、(T+20)℃以下、又は(T+10)℃以下であってよい。なお、亜鉛を含有する粉末が金属亜鉛を含有する粉末である場合、Tは亜鉛の融点である。また、亜鉛を含有する粉末が亜鉛合金を含有する粉末である場合、Tは亜鉛合金の融点である。
【0036】
回転速度は、例えば、5rpm以上、10rpm以上、又は20rpm以上であってよく、200rpm以下、100rpm以下、又は50rpm以下であってよい。回転時間(被膜形成時間)は、回転速度及び処理量に応じて、適宜決定すればよい。回転時間(被膜形成時間)としては、例えば、10分以上、20分以上、40分以上、60分以上、80分以上、100分以上、又は120分以上であってよく、240分以下、180分以下、又は150分以下であってよい。
【0037】
磁性粉末10の粒子の表面に被膜20を形成した後、被覆粉末30の粒子同士が結合している場合には、その結合体を粉砕してもよい。粉砕方法は、特に限定されず、例えば、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、及びカッターミル並びにこれらの組合せを用いて粉砕する方法等が挙げられる。
【0038】
〈蒸着法〉
図3は、蒸着法を用いて、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成する方法の一例を示す説明図である。
【0039】
磁性粉末10を第1容器181に格納し、亜鉛を含有する粉末50を第2容器182に格納する。第1容器181を第1熱処理炉171に格納し、第2容器182を第2熱処理炉172に格納する。第1熱処理炉171と第2熱処理炉172を、連結路173で連結する。第1熱処理炉171及び第2熱処理炉172並びに連結路173は、気密性を備えており、第2熱処理炉には、真空ポンプ180を連結する。
【0040】
真空ポンプ180で第1熱処理炉171及び第2熱処理炉172並びに連結路173の内部を減圧した後、これらの内部を加熱する。そうすると、第2容器182に格納した亜鉛を含有する粉末50から亜鉛を含有する蒸気が発生する。亜鉛を含有する蒸気は、
図4の実線矢印で示したように、第2容器182の内部から、第1容器181の内部に移動する。
【0041】
第1容器181の内部に移動した亜鉛を含有する蒸気は、冷却されて、磁性粉末10の粒子の表面に被膜20を形成(蒸着)する。このようにして得られた被膜20と磁性粉末10の粒子の表面との界面近傍は、実質的にほとんど改質されていない。
【0042】
第1容器181を回転容器とすることにより、キルン炉のようにすることができ、磁性粉末10の表面に形成される被膜20の被覆率を一層高めることができる。被覆率については後述する。
【0043】
図3に示した方法で被膜20を形成する場合の諸条件は、所望の被膜を得られるよう、適宜決定すればよい。
【0044】
第1熱処理炉の温度(サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末の加熱温度)は、例えば、120℃以上、140℃以上、160℃以上、180℃以上、200℃以上、又は220℃以上であってよく、410℃以下、400℃以下、380℃以下、360℃以下、340℃以下、320℃以下、300℃以下、280℃以下、又は260℃以下であってよい。
【0045】
第2熱処理炉の温度(亜鉛を含有する粉末50の加熱温度)は、亜鉛を含有する粉末50の融点をTとしたとき、例えば、(T-30)℃以上、(T-20)℃以上、(T-10)℃以上、T℃以上、(T+20)℃以上、(T+40)℃以上、(T+60)℃以上、(T+80)℃以上、(T+100)℃以上、又は(T+120)℃以上であってよく、(T+200)℃以下、(T+180)℃以下、(T+160)℃以下、又は(T+140)℃以下であってよい。なお、亜鉛を含有する粉末が金属亜鉛を含有する粉末である場合、Tは亜鉛の融点である。また、亜鉛を含有する粉末が亜鉛合金を含有する粉末である場合、Tは亜鉛合金の融点である。第2容器182には亜鉛を含有するバルク材を格納してもよいが、第2容器182の装入物を迅速に溶融し、その融液から亜鉛を含有する蒸気を発生させる観点からは、第2容器182には亜鉛を含有する粉末を格納することが好ましい。
【0046】
第1熱処理炉及び第2熱処理炉は、亜鉛を含有する蒸気の発生を促進し、かつ、磁性粉末10及び亜鉛を含有する粉末50並びに被膜20等の酸化を防止するため、減圧雰囲気とする。雰囲気圧力としては、絶対圧で、例えば、1×10-1Pa以下、1×10-2Pa以下、1×10-3Pa以下、1×10-4Pa以下、1×10-5Pa以下、1×10-6Pa以下、又は1×10-7Pa以下であってよい。一方、過度に減圧しなくても、実用上問題はなく、前述した雰囲気圧力を満足すれば、雰囲気圧力は1×10-8Pa以上であってよい。第2熱処理炉の温度を上述した温度の範囲内で、T℃未満にする場合には、亜鉛を含有する粉末50が昇華し易いように、上述した範囲内で、可能な限り雰囲気圧力を低くすることが好ましい。
【0047】
第1容器181が回転容器である場合には、回転速度は、例えば、5rpm以上、10rpm以上、又は20rpm以上であってよく、200rpm以下、100rpm以下、又は50rpm以下であってよい。
【0048】
蒸着法においても、磁性粉末10の粒子の表面に亜鉛を含有する被膜20を形成した後、被覆粉末30の粒子同士が結合している場合には、その結合体を粉砕してもよい。粉砕方法は、特に限定されず、例えば、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、及びカッターミル並びにこれらの組合せを用いて粉砕する方法等が挙げられる。
【0049】
〈混練法〉
磁性粉末と比較して、亜鉛を含有する粉末は、非常に軟質である。したがって、磁性粉末と、亜鉛を含有する粉末とを混練すると、亜鉛を含有する粉末の粒子が変形し、その変形した材料(亜鉛を含有する材料)が、磁性粉末の粒子の外周に付着して、被膜を形成する。所望の被覆率が得られれば、混練方法に特に制限はない。亜鉛を含有する粉末の粒子を変形させる観点からは、例えば、ボールミル、アトライター、マラーホイール式ミキサー、メカノフージョン、及びノビルタ(登録商標)等を用いて混練することが好ましい。これらを組み合わせて用いてもよい。
【0050】
混練法においても、磁性粉末の粒子の表面に亜鉛を含有する被膜を形成した後、被覆粉末の粒子同士が結合している場合には、その結合体を粉砕してもよい。粉砕方法は、特に限定されず、例えば、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、及びカッターミル並びにこれらの組合せを用いて粉砕する方法等が挙げられる。
【0051】
〈被覆率〉
上述したように、本開示の希土類磁石の製造方法では、磁性粉末の粒子の表面に形成した被膜によって、大気中での被覆粉末の圧粉を可能にする。被覆率が96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であれば、被覆粉末中の磁性粒子の酸化を抑制して、残留磁化の低下を、実質的に問題のない範囲に抑制することができる。被覆率は高いほど好ましく、100%が理想である。
【0052】
被覆率は、被覆粉末の粒子の表面全体に対する、被膜の被覆割合(百分率)である。被覆率(%)は、次のようにして求める。
【0053】
X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて、被覆粉末に関し、磁性粉末及び被膜の構成元素について、組成情報を取得する。そして、次の式で、被覆率(%)を算出する。
【0054】
被覆率(%)=〔(被膜の構成元素それぞれについての組成情報の合計)/{(磁性粉末の構成元素それぞれについての組成情報の合計)+(被膜の構成元素それぞれについての組成情報の合計)}〕×100
【0055】
磁性粉末が、例えば、Sm、Fe、及びNからなる場合には、磁性粉末の構成元素それぞれについての組成情報の合計は、Sm、Fe、及びNそれぞれについての組成情報の合計を意味する。また、被膜が、例えば、金属亜鉛の場合には、被膜の構成元素それぞれについての組成情報の合計は、Znについての組成情報を意味する。被膜が、例えば、亜鉛合金の場合には、被膜の構成元素それぞれについての組成情報の合計は、Znと合金元素それぞれについての組成情報の合計を意味する。亜鉛合金が、例えば、Zn-Al合金である場合には、被膜の構成元素それぞれについての組成情報の合計は、Zn及びAlそれぞれの組成情報の合計を意味する。
【0056】
例えば、Znについての組成情報とは、被覆粒子のXPSスペクトルを測定し、得られたXPSスペクトルのピーク強度から求めたZnの存在質量を意味する。磁性粉末が、例えば、Sm、Fe、及びNからなり、被膜が、例えば、金属亜鉛の場合には、被覆率(%)は、次のように算出される。
被覆率(%)=(Znの存在質量)/(Sm、Fe、N、及びZnの存在質量)×100
【0057】
〈圧縮成形工程〉
被覆粉末を大気圧中で圧縮成形して圧粉体を得る。本開示の希土類磁石の製造方法では、所定の被覆率を有する被覆粉末を用いるため、大気圧中で被覆粉末を圧縮成形しても、磁性粉末の酸化を抑制することができる。圧縮成形方法に特に制限はない。例えば、ダイスとパンチを備える金型を用いる方法が挙げられる。
図4は、圧粉に用いられる金型の一例を模式的に示す説明図である。ダイス200はキャビティ210を有し、パンチ220はキャビティの内部を摺動する。被覆粉末をダイス200のキャビティ210内に格納し、パンチ220を移動させることによって、被覆粉末を圧縮成形する。磁場を印加しながら被覆粉末を圧縮成形する場合には、
図4に示すように、電磁コイル250を配置してもよい。また、圧粉と加圧焼結を同じダイス200及びパンチ220を用いる場合には、加熱用のヒータ240を配置してもよい。
【0058】
希土類磁石(成形体)の密度を高める観点から、ダイス200及びパンチ220を破損しない限りにおいて、圧縮成形時の圧力は大きい方が好ましい。圧縮成形時の圧力としては、例えば、10MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、200MPa以上、250MPa以上、又は300MPa以上であってよく、5000MPa以下、4000MPa以下、3000MPa以下、2000MPa以下、1000MPa以下、500MPa以下、400MPa以下、又は350MPa以下であってよい。圧力付加時間に特に制限はなく、0.2分以上、0.4分以上、0.6分以上、0.8分以上、又は1分以上であってよく、5分以下、3分以下、又は2分以下であってよい。
【0059】
冷間で被覆粉末を圧縮成形すると、圧粉体が得られる。冷間とは、被覆粉末の焼結(固化)が実質的に開始しない温度を意味する。また、焼結(固化)が開始する温度とは、亜鉛を含有する粉末中の亜鉛成分が磁性粉末の粒子の表面に固相又は液相拡散を開始する温度をいう。被覆粉末の圧縮成形時の温度は、例えば、0℃以上、10℃以上、20℃以上、30℃以上、又は40℃以上であってよく、100℃以下、80℃以下、60℃以下、又は50℃以下であってよい。典型的には、室温で、被覆粉末を圧縮成形する。
【0060】
〈磁場印加工程〉
磁場中で被覆粉末を圧縮成形してもよい。その際、被覆粉末に磁場を印加する。これにより、加圧圧縮中の被覆粉末を磁気的に配向することができ、希土類磁石(焼結体)に異方性を付与することができる。磁場の印加方向は特に制限されないが、典型的には、被覆粉末の圧縮成形方向と略垂直な方向に磁場を印加する。
【0061】
磁場の印加方法に特に制限はない。磁場の印加方法としては、例えば、容器の内部に被覆粉末を装入し、被覆粉末に磁場を印加する方法等が挙げられる。容器としては、容器の内部に磁場を作用させることができれば特に制限はなく、例えば、被覆粉末を圧縮成形するダイス及びパンチを、容器として用いることができる。磁場の印加に際しては、容器の外周に磁場発生装置を設置すること等が挙げられる。また、印加する磁場が大きい場合には、例えば、着磁装置等も用いることができる。
【0062】
印加する磁場の大きさは、例えば、100kA/m以上、150kA/m以上、160kA/m以上、300kA/m以上、500kA/m以上、1000kA/m、又は1500km/A以上であってよく、4000kA/m以下、3000kA/m以下、2500kA/m以下、又は2000kA/m以下であってよい。磁場の印加方法としては、電磁石を用いた静磁場を印加する方法、及び交流を用いたパルス磁場を印加する方法等が挙げられる。
【0063】
〈加圧焼結工程〉
真空中又は不活性ガス雰囲気で、被覆粉末を加圧焼結する。真空中又は不活性ガス雰囲気にすることにより、磁性粉末等の酸化を抑制する。酸化抑制の観点からは、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気が含まれる。
【0064】
真空中で加圧焼結する場合には、雰囲気圧力としては、絶対圧で、例えば、1×10-1Pa以下、1×10-2Pa以下、1×10-3Pa以下、1×10-4Pa以下、1×10-5Pa以下、1×10-6Pa以下、又は1×10-7Pa以下であってよい。一方、過度に減圧しなくても、実用上問題はなく、前述した雰囲気圧力を満足すれば、雰囲気圧力は1×10-8Pa以上であってよい。加圧焼結中は高温かつ高圧であり、磁性粉末等が酸化し易いため、1×10-5Pa以下、1×10-6Pa以下、又は1×10-7Pa以下が好ましい。
【0065】
加圧焼結時の温度、圧力、及び時間等の条件は、磁性粉末の磁性相の窒素が乖離せず、かつ、被覆粉末が固相焼結又は液相焼結するように適宜決定すればよい。
【0066】
加圧焼結温度としては、例えば、350℃以上、360℃以上、又は370℃以上であってよく、500℃以下、480℃以下、460℃以下、440℃以下、420℃以下、400℃以下、又は380℃以下であってよい。過度に改質を進行させない観点からは、加圧焼結温度は、380℃以下が好ましい。
【0067】
加圧焼結圧力としては、例えば、200MPa以上、300MPa以上、400MPa以上、500MPa、600MPa以上、700MPa以上、又は900MPa以上であってよく、2000MPa以下、1500MPa以下、又は1000MPa以下であってよい。
【0068】
加圧焼結時間としては、例えば、1分以上、2分以上、又は3分以上であってよく、120分以下、60分以下、30分以下、10分以下、又は5分以下であってよい。過度に改質を進行させない観点からは、加圧焼結時間は5分以下が好ましい。
【0069】
これまで説明してきたことを満足すれば、加圧焼結の方法に特に制限はない。加圧焼結方法としては、例えば、ダイスとパンチを用いる方法が挙げられる。
【0070】
次に、磁性粉末及び被膜組成について説明する。
【0071】
〈磁性粉末〉
本開示の希土類磁石の製造方法に用いる磁性粉末は、サマリウム、鉄、及び窒素を含有し、Th2Zn17型及びTh2Ni17型の少なくともいずれかの結晶構造を有する磁性相を含有する。磁性相の結晶構造としては、前述の構造のほかに、TbCu7型の結晶構造を有する相等が挙げられる。なお、Thはトリウム、Znは亜鉛、Niはニッケル、Tbはテルビウム、そして、Cuは銅である。
【0072】
磁性粉末中には、例えば、組成式(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相を含有してもよい。本開示の製造方法で得られる希土類磁石(以下、「成果物」ということがある。)は、磁性粉末中の磁性相に由来して、磁気特性を発現する。なお、i、j、及びhは、モル比である。なお、Smはサマリウム、Feは鉄、Coはコバルト、そして、Nは窒素である。
【0073】
磁性粉末中の磁性相には、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Rを含有していてもよい。このような範囲は、上記組成式のiで表される。iは、例えば、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。Rは、サマリウム以外の希土類元素並びにイットリウム及びジルコニウムから選ばれる1種以上である。本明細書で、希土類元素とは、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、そして、ルテニウムである。
【0074】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、典型的には、Sm2(Fe(1-j)Coj)17NhのSmの位置にRが置換しているが、これに限られない。例えば、Sm2(Fe(1-j)Coj)17Nhに、侵入型でRの一部が配置されていてもよい。
【0075】
磁性粉末中の磁性相には、本開示の希土類磁石の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Coを含有してもよい。このような範囲は、上記組成式で、jで表される。jは、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.52以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0076】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、典型的には、(Sm(1-i)Ri)2Fe17NhのFeの位置にCoが置換しているが、これに限られない。例えば、(Sm(1-i)Ri)2Fe17Nhに、侵入型でCoの一部が配置されていてもよい。
【0077】
磁性粉末中の磁性相は、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17で表される結晶粒に、Nが侵入型で存在することによって、磁気特性の発現及び向上に寄与する。
【0078】
(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhについては、hは1.5~4.5をとり得るが、典型的には、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3である。hは、1.8以上、2.0以上、又は2.5以上であってもよく、4.2以下、4.0以下、又は3.5以下であってもよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%がより一層好ましい。一方、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhのすべてが(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3でなくてもよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17N3の含有量は、99質量%以下、98質量%以下、又は97質量%以下であってよい。
【0079】
磁性粉末は、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相のほかに、本開示の希土類磁石の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を実質的に阻害しない範囲で、酸素及びM1並びに不可避的不純物元素を含有してもよい。成果物の磁気特性を確保する観点からは、磁性粉末全体に対する、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量は、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上であってよい。一方、磁性粉末全体に対して、(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量を過度に高くしなくとも、実用上問題はない。したがって、その含有量は、99質量%以下、98質量%以下、又は97質量%以下であってよい。(Sm(1-i)Ri)2(Fe(1-j)Coj)17Nhで表される磁性相の残部が、酸素及びM1の含有量となる。また、M1の一部は、侵入型及び/又は置換型で、磁性相に存在していてもよい。
【0080】
上述のM1としては、ガリウム、チタン、クロム、亜鉛、マンガン、バナジウム、モリブデン、タングステン、シリコン、レニウム、銅、アルミニウム、カルシウム、ホウ素、ニッケル、及び炭素からなる群より選ばれる一種以上の元素が挙げられる。不可避的不純物元素とは、磁性粉末等を製造等するに際し、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。これらの元素は、置換型及び/又は侵入型で上述した磁性相に存在していてもよいし、上述した磁性相以外の相に存在していてもよい。あるいは、これらの相の粒界に存在していてもよい。
【0081】
磁性粉末の粒径は、成果物が所望の磁気特性を有し、かつ、本開示の希土類磁石の製造方法の効果に支障を及ぼさない限り、特に制限はない。磁性粉末の粒径としては、D50で、例えば、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、又は9μm以上であってよく、20μm以下、19μm以下、18μm以下、17μm以下、16μm以下、15μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下であってよい。なお、D50は、メジアン径を意味する。また、磁性粉末のD50は、例えば、乾式レーザ回折・散乱法等によって測定される。
【0082】
磁性粉末は、これまで説明してきたことを満足すれば、その製造方法に特に制限はなく、市販品を用いてもよい。磁性粉末の製造方法として、例えば、サマリウム酸化物及び鉄粉から還元拡散法でサマリウム-鉄合金粉末を製造し、窒素と水素の混合ガス、窒素ガス、及びアンモニアガス等の雰囲気中で600℃以下の加熱処理をして、サマリウム-鉄-窒素系磁性粉末を得る方法等が挙げられる。あるいは、例えば、溶解法でサマリウム-鉄合金を製造し、その合金を粗粉砕して得た粗粉砕粒を窒化し、それを所望の粒径になるまで、さらに粉砕する方法等が挙げられる。粉砕には、例えば、乾式ジェットミル、乾式ボールミル、湿式ボールミル、又は湿式ビーズミル等を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0083】
〈被膜組成〉
被膜は、バインダ機能と改質機能の両方を有している。被膜がバインダ機能を有することで、磁性相の窒素が乖離しない低温で焼結体を得ることができる。また、被膜が磁性粉末中の、主としてα-Fe相と改質相を形成して、保磁力の低下を抑制する。このような機能を有する被膜は、亜鉛を含有する。改質相は、亜鉛-鉄相(Zn-Fe相)であると考えられる。亜鉛-鉄相としては、例えば、Γ相、Γ1相、δ1k相、δ1p相、及びζ相等が挙げられる。
【0084】
上述の機能を有する被膜としては、例えば、金属亜鉛を含有する被膜、亜鉛合金を含有する被膜、そして、金属亜鉛及び亜鉛合金を含有する被膜等が挙げられる。金属亜鉛とは、合金化されていない亜鉛のことを意味する。金属亜鉛被膜の純度は、95.0質量%以上、98.0質量%以上、99.0質量%以上、又は99.9質量%以上であってよい。
【0085】
ロータリーキルン法及び/又は混練法で被膜を形成する場合には、例えば、金属亜鉛粉末を含有する粉末及び/又は亜鉛合金を含有する粉末等を用いる。特に、金属亜鉛粉末を含有する粉末を用いる場合には、特に、水素プラズマ反応法(HPMR法:Hydrogen Plasma-Metal Reaction method)で製造した金属亜鉛粉末が用いるが、これに限られない。水素プラズマ反応法で製造した金属亜鉛粉末は、酸素含有量が非常に少なく、磁性材料に含まれる酸素を吸収して、磁気特性、特に保磁力の向上に有利である。この観点からは、亜鉛を含有する粉末を被覆工程で用いる場合には、酸素含有量は、亜鉛を含有する粉末全体に対し、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%以下がより一層好ましい。一方、亜鉛を含有する粉末の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、亜鉛を含有する粉末の酸素の含有量は、亜鉛を含有する粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
【0086】
これまでの説明で、例えば、「金属亜鉛を含有する粉末」は金属亜鉛粉末以外に不可避的に含有される物質を含有してもよいことを意味する。不可避的不純物の含有量は、金属亜鉛を含有する粉末全体に対して5質量%以下であることが好ましい。なお、不可避的不純物とは金属亜鉛粉末を製造等する場合に、不可避に含有する物質のことであり、典型的には酸化物である。ここで説明したことは、金属亜鉛を含有する粉末以外の粉末についても同様である。
【0087】
亜鉛合金を亜鉛-M2で表すと、M2は、亜鉛と合金化して、亜鉛合金の融点(溶融開始温度)を、亜鉛の融点よりも降下させる元素及び不可避的不純物元素であることが好ましい。これにより、一層低温での加圧焼結が容易になり、加圧焼結時に、α-Fe相以外に、磁性相と亜鉛成分が反応して、過度に改質が進行することを抑制できる。
【0088】
亜鉛合金の融点を、亜鉛の融点よりも降下させるM2としては、亜鉛とM2とで共晶合金を形成する元素が挙げられる。このようなM2としては、典型的には、スズ、マグネシウム、及びアルミニウムで並びにこれらの組合せ等が挙げられる。これらの元素による融点降下作用、及び、成果物の特性を阻害しない元素についても、M2として選択することができる。また、不可避的不純物元素とは、原材料に含まれる不純物等、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。
【0089】
亜鉛-M2で表される亜鉛合金において、亜鉛及びM2の割合(モル比)は、加圧焼結温度が適正になるように適宜決定すればよい。亜鉛合金全体に対するM2の割合(モル比)は、例えば、0.02以上、0.05以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0090】
亜鉛合金のうち、典型的な、亜鉛-アルミニウム系合金について、さらに説明する。亜鉛-アルミニウム系合金は、8~90原子%の亜鉛及び2~10原子%のアルミニウムを含有してよい。あるいは、亜鉛-アルミニウム系合金は、2~10原子%のアルミニウムを含有し、残部が亜鉛及び不可避的不純物であってよい。
【0091】
ロータリーキルン法及び混練法で用いる金属亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末の粒径に、特に制限はないが、磁性粉末の粒径よりも細かくすることにより、金属亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末の配合量が少なくても、被覆率を向上し易くなる。金属亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末の粒径は、D50(メジアン径)で、例えば、0.1μm超、0.5μm以上、1μm以上、又は2μm以上であってよく、12μm以下、11μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、又は4μm以下であってよい。また、金属亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末の粒径は、例えば、乾式レーザ回折・散乱法等によって測定される。
【実施例】
【0092】
以下、本開示の希土類磁石の製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の希土類磁石の製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0093】
《試料の準備》
希土類磁石の試料を次の要領で準備した。
【0094】
〈実施例1〉
図2の装置を用いて、磁性粉末の粒子の表面に、亜鉛を含有する被膜を形成し、被覆粉末を得た。磁性粉末としては、D
50が3.16μmの粉末を用いた。亜鉛を含有する粉末としては、株式会社カミテ製の金属亜鉛粉末を用いた。この金属亜鉛粉末については、D
50が0.5μmであり、酸素含有量は、1000質量ppm以下であった。なお、酸素含有量は赤外線吸収法で測定した。金属亜鉛粉末の使用量(配合量)は、磁性粉末を基準として、30質量%であった。
【0095】
図2の装置(ロータリーキルン炉)の操業条件に関しては、炉内温度が410℃であり、炉内は絶対圧で1×10
-2Pa以下であった。また、ロータリーキルン炉を、6rpmで100分にわたり回転した。
【0096】
上述のとおり準備した被覆粉末1gを、7mm角の超硬製金型のキャビティ内に装入し、大気中で、油圧プレス機を用いて、300MPaで圧縮成形し、圧粉体を得た。圧縮成形中、磁場は印加しなかった。
【0097】
上述のとおり準備した圧粉体を、アルゴンガス雰囲気中(97000Pa)で加圧焼結した。加圧焼結温度は380℃、加圧焼結圧力は300MPa、そして、加圧焼結時間は5分であった。
【0098】
〈実施例2〉
金属亜鉛粉末の使用量(配合量)が、磁性粉末を基準として、20質量%であること以外、実施例1と同様にして、実施例2の試料を準備した。
【0099】
〈比較例1〉
加圧焼結を大気中で行ったこと以外、実施例1と同様にして、比較例1の試料を準備した。
【0100】
〈比較例2〉
金属亜鉛粉末の使用量(配合量)が、磁性粉末を基準として、15質量%であること以外、実施例1と同様にして、比較例2の試料を準備した。
【0101】
〈比較例3〉
磁性粉末に被膜を形成しなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較例3の試料を準備した。
【0102】
〈参考例1〉
アルゴンガス雰囲気で被覆粉末を圧縮成形して圧粉体を得たこと以外、実施例1と同様にして、参考例1の試料を準備した。
【0103】
〈参考例2〉
被覆粉末を、圧縮成形及び加圧焼結しなかったこと以外、実施例1と同様にして参考例2の試料を準備した。すなわち、参考例2の試料は、実施例1の被覆粉末のままの試料である。
【0104】
《評価》
上述のX線光電子分光法(XPS)を用いた方法により、被覆粉末の被覆率を測定した。また、振動試料型磁力計(VSM)を用いて残留磁化を測定した。測定時の最大印加磁場は2.0Tであった。
【0105】
結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
被覆率が96%以上の被膜を有する被覆粉末を用いた実施例1及び2では、大気中で圧縮成形(圧粉)を行っても、不活性ガス雰囲気中で圧縮成形(圧粉)を行った参考例1と同等の残留磁化を得られていることを確認できた。これに対し、被覆率が96%未満の被覆を有する比較例2、被膜のない(被覆率0%)比較例3では、大気中で圧縮成形(圧粉)を行うと、残留磁化が低下していることを確認できた。また、被覆率が100%であっても、大気中で加圧焼結を行うと、残留磁化が低下することを確認できた。さらに、すべての工程を真空又は不活性ガス雰囲気で行った参考例1は、被覆粉末のままの参考例2とほぼ同等の残留磁化を有することを確認できた。
【0108】
これらの結果から、本開示の希土類磁石の製造方法の効果を確認できた。
【符号の説明】
【0109】
10 磁性粉末
20 被膜
25 酸化被膜
30 被覆粉末
40 酸素
50 亜鉛を含有する粉末
100 ロータリーキルン炉
110 撹拌ドラム
120 材料格納部
130 回転軸
140 攪拌板
171 第1熱処理炉
172 第2熱処理炉
173 連結路
180 真空ポンプ
181 第1容器
182 第2容器
200 ダイス
210 キャビティ
220 パンチ
240 ヒータ
250 電磁コイル