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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】高分子薄膜の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20241112BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20241112BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20241112BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C41/24
B29C41/36
B29L7:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021017069
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2021142746
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020041532
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨永 善章
(72)【発明者】
【氏名】野田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山本 清人
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116951(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208353(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126200(WO,A1)
【文献】特開平09-114282(JP,A)
【文献】特開平10-081076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
B29C 41/24
B29C 41/36
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定形状を有する高分子薄膜を製造する製造装置であって、
表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が前記特定形状であるモールドと、
前記モールドを供給するモールド供給手段と、
前記モールド供給手段により搬送される前記モールドの前記凸部の天面を被覆するように、前記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布する塗布ユニットと、
前記塗布ユニットよりも前記モールドの搬送方向下流側にあり、塗布された前記高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成する乾燥ユニットと、
一方の面に凹凸が形成され伸縮性を有する転写シートを供給する転写シート供給手段と、
前記乾燥ユニットよりも前記モールドの搬送方向下流側にあり、前記転写シート供給手段により供給される前記転写シートの前記凹凸が形成された面をモールドの前記凹凸が形成された面に押しつけて、モールドの前記凸部の天面に形成された前記高分子皮膜を転写シートに転写する転写ユニットと、
前記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させることで、前記転写された高分子皮膜を転写シートから剥離して高分子薄膜を得る剥離ユニットと、
前記転写シートから剥離された前記高分子薄膜を回収する回収ユニットと、を備えた高分子薄膜の製造装置。
【請求項2】
前記転写ユニットが加熱手段を備えている、請求項1の高分子薄膜の製造装置。
【請求項3】
特定形状を有する高分子薄膜を製造する製造方法であって、
表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が前記特定形状であるモールドを搬送し、
次いで、前記搬送されたモールドの前記凸部の天面を被覆するように、前記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布し、
次いで、塗布された前記高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成し、
次いで、前記モールドの凹凸が形成された面に、一方の面に凹凸が形成され伸縮性を有する転写シートの当該凹凸が形成された面を押しつけて、モールドの前記凸部の天面に形成された前記高分子皮膜を転写シートに転写し、
次いで、前記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させて、前記転写された高分子皮膜を前記転写シートから剥離して高分子薄膜を得て、転写シートから剥離された高分子薄膜を回収する、高分子薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記モールドの前記凸部の天面に形成された前記高分子皮膜を加熱しながら前記転写シートに転写する、請求項の高分子薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記転写シートの表面自由エネルギーが、前記モールドの表面自由エネルギーよりも大きい、請求項またはの高分子薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記転写シートの表面自由エネルギーが、10mJ/m以上60mJ/m以下である、請求項からのいずれかの高分子薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定形状を有するモールド上へ高分子材料を塗布した後に、剥離回収することにより、特定形状を有する高分子薄膜を製造する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特定形状を有する高分子薄膜の製造方法として、特定形状を有するモールド上に高分子材料を塗布し、乾燥前に該高分子材料とは別の水溶性高分子膜上に転写した後、水溶性高分子を水で溶解して、特定形状を有する高分子膜を得る方法がある。(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、水溶性高分子膜として犠牲膜を塗布し、その後、水溶性高分子膜を溶解して、高分子膜を取り出す工程が必要であり、工程が煩雑で、生産性が低いという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献3には、犠牲膜を使わない特定形状を有する高分子薄膜の製造方法が開示されている。具体的に特許文献3には、以下の工程を順に行う高分子薄膜の製造方法が開示されている。
(a)表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が特定形状である、伸縮性を有するモールドを搬送する。
(b)搬送されたモールドの凸部の天面を被覆するように、凹凸が形成された面に高分子材料を塗布する。
(c)塗布された高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成する。
(d)モールドを伸ばすか1回以上伸縮させて、乾燥した高分子皮膜を凸部の天面から剥離して高分子薄膜を得る。
(e)モールドから剥離された高分子薄膜を回収する。
【0005】
特許文献3によれば、水溶性高分子膜として犠牲膜を塗布し、その後、水溶性高分子膜を溶解して、高分子膜を取り出す工程が省けるため、高分子膜製造の低コスト化と生産性の向上が図れるとされている。また、水溶性高分子膜を溶解する工程がなく、高分子膜を乾燥した状態で回収できるため、微粒子としても取り扱い可能であり、用途の拡大が図れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2006/025592号
【文献】国際公開第2008/050913号
【文献】国際公開第2019/116951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の高分子薄膜の製造方法では、モールドの凸部の天面から高分子皮膜を剥離するためにモールドを伸縮させた際に、モールドの凸部と凸部との間の部分も伸縮するので、この部分に塗布されて乾燥した細い糸状の高分子被膜も一緒に剥離する可能性がある。この部分の高分子皮膜が剥離すると、特定形状を有する高分子薄膜だけでなく、糸状の高分子薄膜も一緒に回収してしまうことになる。特定形状を有する高分子薄膜以外の高分子薄膜が多少混じっていても特段問題のない用途であればいいが、特定形状を有する高分子薄膜だけしか利用できない用途であると、回収後に特定形状を有する高分子薄膜だけを選別する必要があるので、手間がかかる懸念がある。
【0008】
本発明は、特定形状を有する高分子薄膜を、効率良く連続的かつ均一に製造する方法と、その製造方法を実現する製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の高分子薄膜の製造装置は、特定形状を有する高分子薄膜を製造する製造装置であって、
表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が前記特定形状である、モールドと、
上記モールドを供給するモールド供給手段と、
上記モールド供給手段により搬送される上記モールドの上記凸部の天面を被覆するように、上記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布する塗布ユニットと、
上記塗布ユニットよりも搬送方向下流側にあり、塗布された上記高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成する乾燥ユニットと、
伸縮性を有する転写シートを供給する転写シート供給手段と、
上記乾燥ユニットよりも搬送方向下流側にあり、上記転写シート供給手段により供給される上記転写シートの一方の面をモールドの上記凹凸が形成された面に押しつけて、モールドの上記凸部の天面に形成された上記高分子皮膜を転写シートに転写する転写ユニットと、
上記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させることで、上記転写された高分子皮膜を転写シートから剥離して高分子薄膜を得る剥離ユニットと、
上記転写シートから剥離された、上記高分子薄膜を回収する回収ユニットと、を備えている。
【0010】
また、上記課題を解決する本発明の製造方法は、特定形状を有する高分子薄膜を製造する製造方法であって、
表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が上記特定形状であるモールドを搬送し、
次いで、上記搬送されたモールドの上記凸部の天面を被覆するように、上記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布し、
次いで、塗布された上記高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成し、
次いで、上記モールドの凹凸が形成された面に、伸縮性を有する転写シートの一方の面を押しつけて、モールドの上記凸部の天面に形成された上記高分子皮膜を転写シートに転写し、
次いで、上記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させて、上記転写された高分子皮膜を上記転写シートから剥離して上記高分子薄膜を得て、転写シートから剥離された高分子薄膜を回収する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凹凸フィルム上に高分子材料を直接塗布し、高分子材料に特定形状を付与した後に、伸縮性を有する転写シート上に転写し、高分子薄膜を乾燥した状態で回収することができる。
【0012】
従来技術のように水溶性高分子膜として犠牲膜を塗布し、その後、水溶性高分子膜を溶解して、高分子膜を取り出す工程が省けるため、高分子膜製造の低コスト化と生産性の向上が図れる。また、本発明は、水溶性高分子膜を溶解する工程がなく、高分子膜を乾燥した状態で回収できるため、微粒子としても取り扱い可能であり、用途の拡大が図れる。
【0013】
さらに、本発明では、特定形状を有する高分子薄膜だけを効率良く連続的かつ均一に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の高分子薄膜の製造装置の断面概略図である。
図2図2は、本発明に適用するモールドの一例の概略図である。図2(a)は凸部の天面が円形のモールド、図2(b)は凸部の天面が多角形のモールドである。
図3図3は、本発明の高分子薄膜の製造装置の剥離ユニットを断面からみた概略図である。
図4図4は、本発明の別態様の高分子薄膜の製造装置の断面概略図である。
図5図5は、本発明の別態様の高分子薄膜の製造装置の断面概略図である。
図6図6は、本発明の別態様の高分子薄膜の製造装置の断面概略図である。
図7図7は、モールドの凸部の天面に高分子皮膜が形成されている様子を示す概略図である。
図8図8は、本発明に用いられる剥離ユニットにおける高分子薄膜および転写シートの挙動を示す概略図である。
図9図9は、本発明の製造方法の途中段階で得られる転写シートと高分子薄膜との積層体を電子顕微鏡により観察した写真である。
図10図10は、実施例1により製造された特定形状を有する高分子薄膜を電子顕微鏡により観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特定形状を有する高分子薄膜の製造装置は、少なくとも以下の(a)~(i)の機器あるいは部材を備えている。
(a)表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が上記特定形状である、モールド。
(b)上記モールドを供給、搬送するモールド供給手段。
(c)上記モールド供給手段により搬送される上記モールドの上記凸部の天面を被覆するように、モールドの上記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布する塗布ユニット。
(d)上記塗布ユニットよりも搬送方向下流側にあり、塗布された高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成する乾燥ユニット。
(e)伸縮性を有する転写シート。
(f)上記転写シートを供給、搬送する転写シート供給手段。
(g)上記乾燥ユニットよりも上記モールドの搬送方向下流側にあり、上記転写シート供給手段により供給される上記転写シートの一方の面をモールドの上記凹凸が形成された面におしつけて、モールドの上記凸部の天面に形成された上記高分子皮膜を転写シートに転写する転写ユニット。
(h)上記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させることで、上記転写された高分子皮膜を転写シートから剥離して高分子薄膜を得る剥離ユニット。
(i)上記転写シートから剥離された上記高分子薄膜を回収する回収ユニット。
【0016】
図1は本発明の高分子薄膜の製造装置の一例を断面から見た概略図である。図2は、本発明に適用するモールドの一例の概略図である。図2(a)はモールドの天面が円形、図2(b)は凸部の天面が多角形のモールドを表面および断面から見た概略図である。モールド11の表面に凹凸構造をなす凸部15の天面15aは、最終的に得ようとする高分子薄膜16を特定形状とするために、その特定形状に対応した形状となっている。高分子薄膜16の製造装置10は、表面に凹凸が形成されたモールド11の凸部15の天面15aを被覆するように、高分子材料を含む塗布材料13を塗布し、塗布材料13を乾燥させて高分子皮膜14を形成した後、高分子皮膜14を伸縮性を有する転写シート51の一方の面に転写して、転写シート51の伸縮により高分子皮膜14を剥離して高分子薄膜16を得て、回収ユニット80により凸部15の天面15aと同じ形状である特定形状を有する高分子薄膜16を回収する。
【0017】
なお、高分子材料を含む塗布材料13は、溶媒により高分子材料を溶解させたものであっても、加熱により高分子材料を溶融させたものであってもよい。塗布の容易性を考慮すると塗布材料13の粘度調整や固形分濃度調整が容易であるので、溶媒により高分子材料を溶解させたものを選択するのが好ましい。
【0018】
図1に示すように、本発明の高分子薄膜16の製造装置10は、表面に凹凸が形成されたロール状のモールド11、モールド11を駆動搬送させるモールド供給手段20、モールド11の表面に塗布材料13を塗布する塗布ユニット30、塗布された塗布材料13を乾燥させる乾燥ユニット40、ロール状の伸縮性を有する転写シート51、転写シート51を駆動搬送させる転写シート供給手段50、モールド11の表面から高分子皮膜14を転写シート51の一方の面に転写する転写ユニット60、転写シート51から高分子皮膜14を剥離する剥離ユニット70、および剥離した高分子薄膜16を回収する回収ユニット80を備えている。各構成の概要は以下のとおりである。
【0019】
ロール状のモールド11は、表面に凹凸が形成され、その凸部15の天面15aは円形(図2(a)参照)または多角形(図2(b)参照)の特定形状を有している。モールド11は塗布材料13に用いられる溶媒等の薬品への耐薬品性がある材料からなり、均一に塗布材料13を塗布するために均一な厚みであることが好ましい。ここで、耐薬品性があるとは、JIS-K-6258(2003年版)に準じた試験において、モールド11を塗布材料13に用いられる薬品に、常温で72時間浸漬させた場合の体積変化率が5%以下であることをいう。耐薬品性がないと、モールド11の表面が薬品により膨潤し、高分子皮膜14の剥離が阻害される場合や、モールド11の表面の凹凸が崩れる場合があるため、耐薬品性があることが好ましい。
【0020】
モールド供給手段20は、ロール状に巻かれたモールド11を巻き出していく巻出ロール21、巻き出されたモールド11を巻き取る巻取ロール22、モールド11を一定の速度で搬送する駆動ロール23、図示はしないが各ロールを回転させる駆動手段、および、モールドの搬送経路に合うようにガイドロール21a、22aを備えている。巻出ロール21および巻取ロール22は搬送張力を調整できることが好ましく、搬送中のモールド11の搬送方向に対する伸び量が1%以下となるように張力を制御することが好ましい。モールド11の搬送速度の調整はニップロール24と対向して配置される駆動ロール23により行われる。
【0021】
塗布ユニット30は、塗布材料13をモールド11の幅方向に均一かつ連続的に一定に塗布することができるものであればよい。例えば、図1に示したようなスリットダイ31からなる吐出器と連続的に定量の塗布材料を供給できる送液機構などを組み合わせた構造のものでよい。また、スリットダイ31の吐出先端面とモールド11との間隔を高精度に維持するために、モールド11の塗布面の反対側に支持ロール32を配してもよい。スリットダイ31の位置を左右で高い分解能で位置調整できるような位置調整機構を設けることも好ましい。
【0022】
乾燥ユニット40として、塗布された塗布材料13を短時間で乾燥させるために、熱風や遠赤外線などの加熱手段を備えていることが好ましい。また、揮発した溶媒を回収または排気するための局所排気装置を備えていてもよい。
【0023】
ロール状の伸縮性を有する転写シート51は、高分子皮膜14を転写するための表面を有しており、表面は平滑であっても微小な凹凸が形成されていてもよい。表面が平滑な場合には、転写の際に高分子皮膜14との接触面積が大きくなるため、良好な転写が行える。一方で、微小な凹凸が形成されている場合には、高分子皮膜14を剥離する際に、高分子皮膜14との接触面積が小さくなるため、良好な剥離が行える。最終的に得たい高分子薄膜16に応じて、転写シート51の表面の形状はどちらを選択してもよい。
【0024】
転写シート供給手段50は、転写シート51を巻き出していく巻出ロール52、巻き出された転写シート51を巻き取る巻取ロール53、転写シート52を一定の速度で搬送する駆動ロール55、56、図示はしないが各ロールを回転させる駆動手段、および、転写シート51の搬送経路に合うようにガイドロール52a、53aを備えている。巻出ロール52および巻取ロール53は搬送張力を調整できることが好ましく、搬送中の転写シート51の搬送方向に対する伸び量が10%以下となるように張力を制御することが好ましい。転写シート51の搬送速度の調整はニップロール73と対向して配置される駆動ロール55、およびニップロール74と対向して配置される駆動ロール56により行われる。
【0025】
転写ユニット60は、転写する際にモールド11を支持するニップロール62、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51の一方の面とが接触するように挟圧するニップロール61を備えている。図示はしないが各ロールを駆動させる駆動手段、および、各ロールを加熱する加熱手段を備えていることが好ましい。
【0026】
剥離ユニット70は、ニップロール73、張力調整ロール75およびニップロール74を結ぶ搬送経路である剥離区間において、転写シート51の搬送にかかる張力を遮断する張力遮断機構として機能するニップロール73、駆動ロール55、ニップロール74および駆動ロール56と、転写シート51から高分子皮膜14を剥離するのに必要な伸度まで転写シート51を伸ばすための張力を調整する張力調整機構として機能する張力調整ロール75とを備えている。張力遮断機構として機能する、ニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56で挟圧することにより、転写シート供給手段50で発生させた張力を遮断することが好ましい。張力調整機構としては、転写シート51の長さを、転写シート51から高分子皮膜14を剥離するのに必要な分まで伸ばすことができればよい。具体的には、張力調整ロール75により、ニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56で把持された転写シート51を、転写シート51の高分子皮膜14が転写した面とは反対の面から張力を与え、転写シート51を伸ばす機構が好ましい。発明者らの検討によれば、転写シート51の長さを、張力付与前の剥離区間の長さの2倍以上に伸ばせることが好ましい。
【0027】
回収ユニット80は、転写シート51から剥離した高分子薄膜16を回収する手段を備えている。回収手段としては、真空ポンプなどの負圧発生装置82に接続された、吸引ノズル81を利用したものが好ましい。それ以外にも、転写シート51に転写した高分子皮膜14に液体を流して、液体中に高分子薄膜16が分散するように回収する方法を用いてもよい。また、いずれの回収手段を用いた場合においても、回収手段により回収された高分子薄膜16を集めるために、不織布やメンブレンフィルタなどの捕集材83を、高分子薄膜16が流れていく経路に設置しておくのが好ましい。
【0028】
高分子薄膜16の製造装置10による一連の製造動作は以下のとおりである。モールド11は巻出ロール21から巻出され、塗布ユニット30、乾燥ユニット40、転写ユニット60の経路を経て、巻取ロール22に巻き取られた状態とする。モールド11はモールド供給手段20によって搬送に必要な一定の張力が付与され、駆動ロール23の回転により、所定の速度で搬送されている。転写シート51は巻出ロール52から巻出され、転写ユニット60、剥離ユニット70、回収ユニット80の経路を経て、巻取ロール53に巻き取られた状態とする。転写シート51は転写シート供給手段50によって搬送に必要な一定の張力が付与され、駆動ロール55および駆動ロール56の回転により、モールド11の搬送速度と同一の速度で搬送されている。そして、塗布ユニット30によってモールド11の凸部15の天面15aを被覆するように高分子材料を含む塗布材料13を塗布する。塗布した後、乾燥ユニット40を通過することによって、塗布材料13中に残留している溶媒が揮発し、モールド11の凸部15の天面15aに、天面15aの特定形状を有する高分子皮膜14が形成される。その後、転写ユニット61のニップロール61とニップロール62により、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51の一方の面とが接触するように挟圧されることで、高分子皮膜14がモールド11の凸部の天面から転写シート51へと転写される。その後、高分子皮膜14を転写シート51へ転写したモールド11はそのまま巻取ロール22に巻き取られていく。高分子皮膜14が転写された転写シート51は、剥離ユニット70のニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56に挟圧されることにより、搬送張力から遮断された状態となり、加えて張力調整ロール75により張力が付与される。張力が付与された転写シート51は、その張力に応じて伸長する。このとき、溶媒が揮発して乾燥した高分子皮膜14が伸長可能な長さ以上に転写シート51が伸ばされると、高分子皮膜14はその伸び量に追従できず、転写シート51と高分子皮膜14との積層界面、つまり高分子皮膜14と転写シート51の表面との界面において、剥離が発生し、高分子薄膜16が転写シートから浮いた状態となる。発明者らの検討によれば、転写シート51を200%以上伸ばせば、ほぼ確実に高分子皮膜14を転写シート51から剥離できる。剥離ユニット70での転写シート51の表面には、真空ポンプなどの負圧発生装置82により負圧に制御された吸引ノズル81が設置されているため、転写シート51から剥離した高分子薄膜16は圧力の低い方へ吸い寄せられ、吸引ノズル81と負圧発生装置82との間に設置された不織布状の捕集材83に捕捉されることとなる。高分子薄膜16が回収された転写シート51はそのまま巻取ロール53に巻き取られていく。上記動作が連続的に行われる。
【0029】
上記装置構成および動作により、特定形状を有する高分子薄膜16を形成することができる。モールド11の凸部15の天面15aと転写シート51とが接触する部分の高分子皮膜14だけが転写シート51に転写することにより、形状が均一な高分子薄膜16を精度よく転写することができる。また、塗布ユニット30としてスリットダイ31を用いることにより、高分子薄膜16の形成に必要な量だけ高分子材料を塗布することが出来るため、材料コストを低減することができる。
【0030】
さらに剥離ユニット70において転写シート51を伸縮させて、転写シート51の表面から高分子皮膜14を剥離して高分子薄膜16を形成し、回収ユニット80において高分子薄膜16を吸引により回収するため、回収された高分子薄膜16は乾燥した状態であるため、取扱いが容易となり、用途の拡大が図れる。巻取ロール22に巻き取られたモールド11、および、巻取ロール53に巻き取られた転写シート51は、劣化した時点や欠点が発生した時点で交換するように管理すればよく、モールド11および転写シート51にかかるコストを低く抑えることができる。
【0031】
次に各部の構成について図1から図6を参照しながら詳細に説明する。モールド11は、表面に微細な凹凸構造が加工されており、ロール状に巻き取り可能である。表面の凹凸構造としては、凸部15が最密充填で配置されたものが適している。これは、モールド11の総面積に対する凸部15の天面15aの面積占有率が大きくなることにより、塗布材料13を塗布した際に、より多くの高分子薄膜16が得られることに加え、塗布の安定性が増すためである。図2に示すように、凸部15の天面15aの形状としては、円形(図2(a))または多角形(図2(b))等が例示することができる。天面15aの形状は、凹凸が形成された面から見て、幾何学的に完全である必要はなく、それぞれの形状に類似していると認識できればよいため、略円形または略多角形であってもよい。凸部15の形状として、好ましくは天面15aの面積が3000~10000μm、高さが10μm~200μmの柱状であり、より好ましくは天面15aの面積5000~1800μm、高さが50~100μmの柱状で、凹凸が形成された面から見て、最密充填で配置されていることが好ましい。最密充填配置における凹部の幅(隣接する凸部15の間隔)は、凹凸構造が加工可能な範囲の中で小さくすることが好ましく、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。適用するモールド11の材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂のどれでもよいが、凹凸構造の付与が比較的容易である熱可塑性樹脂が適している。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂などが好適に用いられるが、塗布材料13に用いられる薬品に対する耐薬品性を考慮し、適した材料を選定することがより好ましい。
【0032】
モールド供給手段20は、ロール状に巻かれたモールド11からモールド11を巻き出していく巻出ロール21と、巻き出されたモールド11を巻き取る巻取ロール22と、モールド11を一定の速度で搬送する駆動ロール23、図示はしないが各ロールを回転させる駆動手段、および、モールドの搬送経路に合うようにガイドロール21a、22aを備えている。各ロールを駆動させる駆動手段としては、モールド11に付加する搬送張力を調整できることが好ましい。搬送張力の調整は1N~100Nの範囲で0.1Nの分解能で調整できることが好ましい。モールド11の搬送速度を決める駆動手段として、駆動ロール23が設けられる。駆動力をモールド11に伝え、設定した速度でモールド11の搬送を行うことができる。駆動ロール23は図示しないモータ等の駆動手段と連結され、速度を制御しながら回転可能となっている。速度として好ましくは1~30m/分の範囲で搬送し、高分子材料を含む塗布材料13を高精度に塗布しながら生産性を高くすることもできる。
【0033】
また、モールド蛇行修正機構を設けることが安定的にモールド11を搬送するために好ましい。モールド蛇行抑制機構の好ましい形態は、図1に示すように、モールド11の搬送経路において、モールド11の端部の位置を検知する端部検出センサー28と、検出された値に基づいて巻出ロール21および巻取ロール22の移動を制御することにより、モールド11の搬送位置を調整するためのコントローラ27を、それぞれ1台ずつあるいは複数台ずつ有する。
【0034】
巻出ロール21および巻取ロール22の駆動手段としては、モールド11の搬送方向に対して鉛直な方向に、それぞれのロールの位置を調整できるものが好ましい。端部検出センサー28からの値に基づき、移動させたい方向に移動量を調整する構造が好ましい。上記のモールド11の蛇行抑制機構を備えることにより、塗布材料13の塗布位置を一定に保つことができるため、均一な厚さ、および形状の高分子薄膜16を形成することができる。
【0035】
塗布ユニット30は、モールド11の搬送過程において、乾燥ユニット40よりも搬送方向上流側に配置され、スリットダイ31とこれに接続された塗布材料供給機構を備える。スリットダイ31は、モールド11の表面凹凸構造が形成された面に高分子材料を含む塗布材料13を塗布できるように対向させる。均一な塗布膜を形成するためには、スリットダイ31とモールド11との間隔が高精度に均一に保持されることが好ましく、図1に示すように、支持ロール32を表面凹凸構造が形成された面とは逆側の面からモールド11を支持するように配置することが好ましい。ここで、スリットダイ31とモールド11の間隔について、スリットダイ31の吐出面とモールド11の表面の凸部15の天面15aとの距離が10μm~500μmの間隔で位置を制御できるようにしておくことが好ましい。また、搬送方向と鉛直な方向における間隔(スリットダイ31と天面15aとの距離)の精度としては、好ましくは10μm以下、より好ましくは3μm以下である。また、本発明における精度を実現するために支持ロール32の真直度および回転振れは5μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下である。なお、ここではスリットダイ31を用いた塗布方式を例示しているが、他の塗布方式であってもよい。
【0036】
塗布材料供給機構としては、目標とする膜厚に応じた送液を連続的かつ均一に行えればよい。例えば、シリンジポンプやチューブポンプなどを用いた定量送液や、圧縮空気と圧力調節機構とを用いた定圧送液のどちらを選択してもよいが、モールド11の搬送速度を変更した場合の塗布材料13の送液量が容易に計算できる定量送液を選択することが好ましい。
【0037】
転写シート51は、伸縮性を有し、ロール状に巻き取り可能である。転写シート51の搬送方向に平行な方向における伸び量としては200%以上であることが好ましいが、破断までの許容伸び量を考慮して、伸縮破断率は300%以上であることがより好ましい。ここで、伸縮破断率とは、JIS-C-2151(2006年版)にて定義される値であり、引張り力を付与した際に、転写シート51が破断した時点での転写シート51の長さを、引張り力を付与する前の転写シート51の長さで除した値である。伸縮後の寸法復元率を表す復元率については、伸度300%まで伸ばされた後の復元率が95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。伸びた後の復元率が高いことにより、高分子皮膜14と転写シート51との剥離が促進されるだけでなく、転写シート51を繰り返し利用することができる。
【0038】
転写シート51の高分子皮膜を転写する表面の形状は平滑であっても微小な凹凸が形成されていてもよい。微細な凹凸を形成する場合、凹凸構造としては、凹凸が形成された面から見て、幾何学的に完全である必要はなく、それぞれの形状に類似していると認識できればよいため、略円形または略多角形であってもよい。凸部の形状として、好ましくは凸部の天面の面積が1~1000μm、高さが1μm~100μmの柱状であり、より好ましくは天面の面積5~500μm、高さが5~50μmの柱状で、凹凸が形成された面から見て、最密充填で配置されていることが好ましい。最密充填配置における凹部の幅(隣接する凸部の間隔)は、凹凸構造が加工可能な範囲の中で小さくすることが好ましく、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。適用する転写シート51の材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂のどれでもよいが、高い伸縮性と復元率とに加え、凹凸構造の付与が比較的容易である熱硬化性樹脂が適している。例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ポリウレタン、スチレンブタジエンゴム等が好適に用いられる。
【0039】
転写シート51の表面自由エネルギーは、モールド11の表面自由エネルギーよりも大きいことが好ましい。転写シート51の表面自由エネルギーがモールド11の表面自由エネルギーより大きいことで、モールド11の表面に形成された高分子皮膜14を効率よく転写することができる。
【0040】
また、転写シート51の表面に表面処理することで、表面自由エネルギーを向上させてもよい。転写シート51の好適な表面自由エネルギーは、モールド11の材質によっても違いがあるが、10mJ/m以上60mJ/m以下であり、より好ましくは30mJ/m以上50mJ/m以下である。転写シート51の表面自由エネルギーが10mJ/m以上であると、転写の際に高分子皮膜14がモールド11から剥離し易くなり、高分子皮膜14がモールド11の表面に残ってしまうことが少なくなる。また、表面自由エネルギーが60mJ/m以下であると、転写シート51から高分子薄膜16を回収する際に、高分子薄膜16が転写シートから剥離し易くなり、ひいては高分子薄膜16を回収し易くなる。表面処理方法はドライプロセス、ウェットプロセスのどちらを用いてもよいが、ウェットプロセスの場合には、高分子皮膜14と接触することで、処理用薬剤が高分子皮膜14に転写してしまう場合があるため、ドライプロセスを用いることが好ましい。ドライプロセスによる表面処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理等が好適に用いられるが、その他の表面処理方法を用いてもよい。
【0041】
転写シート供給手段50は、ロール状に巻かれた転写シート51から転写シート51を巻き出していく巻出ロール52と、巻き出された転写シート51を巻き取る巻取ロール53と、転写シート51を一定の速度で搬送する駆動ロール55、56、図示はしないが各ロールを回転させる駆動手段、および、転写シート51の搬送経路に合うようにガイドロール52a、54、53aを備えている。各ロールを駆動させる駆動手段としては、転写シート51が伸縮性を有しているため、張力により転写シート51が不必要に伸びることを防ぐために、転写シート51に付加する搬送張力を調整できることが好ましい。搬送張力の調整は1N~100Nの範囲で0.1Nの分解能で調整できることが好ましい。転写シート51の搬送速度を決める駆動手段として、駆動ロール55と駆動ロール56とが設けられる。駆動ロール55および駆動ロール56は、それぞれニップロール73とニップロール74と対向して配置され、ニップロール73、およびニップロール74により転写シート51を介して挟圧されることにより、駆動力を転写シート51に伝え、設定した速度で転写シートの搬送を行うことができる。駆動ロール56の駆動手段は、駆動ロール55の端部とチェーンまたはベルトなどで連結し、駆動ロール55と連動して回転できるようにしたり、あるいは、駆動ロール55と速度を同期可能なモータなどを用いて独立して回転できるようにしたりすることが好ましい。駆動ロール55は図示しないモータ等の駆動手段と連結され、速度を制御しながら回転可能となっている。転写シート51を搬送する速度としては、モールド11の搬送速度と同じ速度であることが好ましい。モールド11と同じ搬送速度とすることで、高分子皮膜14を高精度に転写しながら生産性を高くすることもできる。
【0042】
また、図示はしないが、モールド供給手段と同様に、転写シート蛇行修正機構を設けることが安定的に転写シート51を搬送するために好ましい。巻出ロール52および巻取ロール53の駆動手段としては転写シート51の搬送方向に対して鉛直な方向に、それぞれのロールの位置を調整できるものが好ましい。転写シート51の蛇行抑制機構を備えることにより、モールド11との相対位置を一定に保つことができるため、転写の際に均等にモールド11の凹凸が形成された面と転写シートの一方の面とを接触させることができる。
【0043】
転写ユニット60は、モールド11搬送過程において、乾燥ユニット40よりも搬送方向下流側に配置される。転写ユニット60は、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51の一方の面とが接触するように、モールド11と転写シート51とを挟圧するニップロール61、62を備えている。ニップロール61の材質は金属、非金属のどちらを選択してもよいが、非金属の場合では、例えばゴムを用いる場合には、シリコーンゴムやEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、ネオプレン、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)、ウレタンゴム、NBR(ニトリルゴム)、エボナイトなどを用いることができる。更に高い弾性率と硬度を求める場合は、靱性を向上させた硬質耐圧樹脂(例:ポリエステル樹脂)を用いることができる。弾性体のゴム硬度はASTM D2240:2005(ショアD)規格で70~97°の範囲であることが好ましい。硬度が70°以上であると、弾性体の変形量が大きくなり過ぎず、モールド11と転写シート51との加圧接触幅が大きくなり過ぎないので、過大な摩擦力が発生しない。その結果、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51との間で過大な摩擦が発生して、高分子皮膜14が破損する懸念がない。硬度が97°以下であると、逆に弾性体の変形量が小さくなり過ぎないので、適度な加圧接触幅で、適度な摩擦力が発生するので、高分子皮膜14の転写を促すことができる。ニップロール61、62の加工精度は、JIS B 0621(1984年版)にて定義される円筒度公差において0.03mm以下、円周振れ公差において0.03mm以下であることが好ましい。それぞれ0.03mm以下であると、挟圧時のニップロール61、62の間に部分的な隙間ができないので、転写シート51と高分子皮膜14との積層体を幅方向で均一な力で押圧でき、転写がうまくいく。
【0044】
ニップロール61、62は、加熱手段を設けていることが好ましい。乾燥ユニット40により乾燥した高分子皮膜40を加熱により軟化させることで、モールド11の凹凸が形成された面から転写シート51への高分子皮膜14の転写を効率よく行える場合がある。加熱手段としては、ロールの内側にヒーターを配置しても、ニップロール61、62でモールド11と転写シート51とを挟圧する直前に外部から加熱しても、どちらでもよい。加熱する温度としては、高分子皮膜14が熱可塑性樹脂である場合、高分子皮膜14の主たる成分である高分子材料のガラス転移温度より1度~50度の範囲で高いことが好ましく、5度~10度の範囲で高いことがより好ましい。この範囲の温度で加熱することで、特定形状15の形状を崩すことなく、高分子皮膜14を軟化させることができるため、転写がうまくいく場合がある。
【0045】
剥離ユニット70は、転写シート搬送過程において、転写ユニット60よりも搬送方向下流側に配置される。剥離ユニット70は、剥離ユニット70よりも搬送方向上流側からの張力伝搬と剥離ユニット70よりも搬送方向下流側からの張力伝搬とをカットする張力遮断機構と、剥離区間での転写シートの張力を調整する張力調整機構とで構成されている。張力遮断機構は、ニップロール73、駆動ロール55、ニップロール74および駆動ロール56で構成される。図3(a)に示すように、ニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56の2箇所で転写シート51を挟圧することにより、転写シート供給手段50により発生する搬送張力を遮断することが好ましい。張力調整機構は、張力調整ロール75で構成される。張力調整ロール75は、剥離区間における転写シート51の長さを、張力付与前の剥離区間の長さの3倍以上に伸ばすことができる機構が好ましい。図3(b)に示すように、張力調整ロール75は、ニップロール73とニップロール74とで把持された転写シート51を、高分子皮膜14が転写した面とは反対の面から押し下げる機構が好ましい。張力調整機構としては、具体的には自由に回転できる張力調整ロール75がエアーシリンダーのロッドの先端に接続されている機構が好ましい。自由に回転できるロールとすることで、張力付与時における転写シート51との摩擦を低減し、搬送を阻害することを防ぐことができる。また、エアーシリンダーを適用することで、エアーシリンダーのストロークを制御することにより、張力の制御つまり転写シートの伸び量を制御することができるため、複雑な機構が必要とならず、さらに張力制御に必要な制御機構が容易になる。エアーシリンダーとしては、複動タイプのエアシンダーが好適に用いられる。転写シート51から高分子皮膜14を効率良く剥離するためには、200%以上まで転写シート51を伸ばした後に100%以下まで縮める伸縮動作を1回または複数回行うのがよく、複動タイプのエアーシリンダーを用いれば、この伸縮運動の繰り返しが高速で行えるため、極めて効率のよい剥離が行われる。
【0046】
張力調整ロール75の材質は、金属、非金属のどちらを選んでもよいが、転写シート51との摩擦が小さくなる材料を選定するのが好ましい。また、表面粗さは、JIS B 0601(2001年版)にて定義される、算術平均粗さRaが1.6μm以下のものが好ましい。Raが1.6μm以下であると、張力を付与したときに、転写シート51の裏面に、張力調整ロール75の表面形状が転写してしまう懸念がない。
【0047】
ニップロール73、74および駆動ロール55、56の加工精度は、JIS B 0621(1984年版)にて定義される円筒度公差において0.03mm以下、円周振れ公差において0.03mm以下であることが好ましい。それぞれ0.03mm以下であると、挟圧時の駆動ロール55、56とニップロール73、74の間に部分的な隙間ができないので、転写シート51と高分子皮膜14との積層体を幅方向で均一な力で押圧でき、搬送および張力制御がうまくいく。また、各ロールの表面粗さは、JIS B 0601(2001年版)にて定義される、算術平均粗さRaが1.6μm以下のものが好ましい。Raが1.6μm以下であると、押圧時に高分子皮膜14の表面や転写シート51の裏面に、各ロールの表面形状が転写する懸念がなくなる。
【0048】
ニップロール73、74および駆動ロール55、56の材質は金属、非金属のどちらを選択してもよいが、非金属の場合では、例えばゴムを用いる場合には、シリコーンゴムやEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、ネオプレン、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)、ウレタンゴム、NBR(ニトリルゴム)、エボナイトなどを用いることができる。更に高い弾性率と硬度を求める場合は、靱性を向上させた硬質耐圧樹脂(例:ポリエステル樹脂)を用いることができる。弾性体のゴム硬度はASTM D2240:2005(ショアD)規格で70~97°の範囲であることが好ましい。硬度が70°以上であると、弾性体の変形量が大きくなり過ぎず、高分子皮膜14との加圧接触幅が大きくなり過ぎないので、高分子皮膜14に過大な摩擦力が発生しない。その結果、転写シート51から高分子皮膜14が剥離する懸念もない。硬度が97°以下であると、逆に弾性体の変形量が小さくなり過ぎないので、適度な加圧接触幅で、適度な摩擦力が発生するので、張力の制御や搬送ができる。
【0049】
回収ユニット80は、真空ポンプなどの負圧発生装置82に接続された吸引ノズル81を1つ以上備えていることが好ましい。吸引ノズル81の形態は特に制限されるものではないが、高分子薄膜16を速い流速で効率良く吸引するために、吸引口が小さいノズルを複数備えていることが好ましい。さらに、吸引ノズル81と負圧発生装置82との経路には、吸引により回収された高分子薄膜16を捕集するための、捕集材83を設置することが好ましい。捕集材83の形態は特に制限されるものではないが、孔径は高分子薄膜16の特定形状よりも小さく、圧力損失を小さくするために、高い開孔率を有する捕集材が好ましい。より具体的にはメンブレンフィルタや不織布フィルタなどを適用することが好ましい。
【0050】
図4は、本発明の高分子薄膜の製造装置の別態様の断面概略図である。この高分子薄膜の製造装置90では、乾燥ユニット40と転写ユニット60との間に、さらに別の塗布ユニット91と乾燥ユニット95を備えている。搬送方向上流側にある塗布ユニット30と乾燥ユニット40を経て、モールド11に高分子皮膜14を形成した後に、さらに搬送方向下流側にある塗布ユニット91と乾燥ユニット95を経て、高分子皮膜14の上に別の高分子皮膜94を積層できる。この際、搬送方向上流側にある塗布ユニット30のスリットダイ31から塗布される塗布材料13に含まれる高分子材料と、搬送方向下流側にある塗布ユニット91のスリットダイ92から塗布される塗布材料93に含まれる高分子材料とを異なる種類にすることで、異なる高分子材料からなる高分子薄膜の積層体を得ることができる。追加する塗布ユニットと乾燥ユニットの組は、積層したい高分子材料の数に応じて追加すればよく、特に制限はない。また、3層以上の高分子材料を積層するに際して、全ての層の高分子材料を異なる種類の高分子材料にしてもよく、隣り合う層の高分子材料だけを異なる種類の高分子材料にしてもよい。
【0051】
図5は、本発明の高分子薄膜の製造装置のさらに別態様の断面概略図である。図5に示すように、高分子薄膜の製造装置100では、モールド11に直接塗布を行うのではなく、塗布材料13を塗布した塗布用基材103を、モールド11とともにニップロール33と駆動ロール34とで挟圧することで、塗布材料13が乾燥する前に塗布材料13をモールド11の表面に転写して塗布する。つまり、図5に示す高分子薄膜の製造装置100の塗布ユニット30は、スリットダイ31、塗布用基材巻出ロール101、塗布用基材巻取ロール102、塗布用基材103、ニップロール33および駆動ロール34により構成される。塗布用基材巻出ロール101から巻出された塗布用基材103は、モールド11と対向する表面にスリットダイ31により塗布材料13が塗布された後、モールド11とともにニップロール33と駆動ロール34とで挟圧されることで、モールド11の表面に塗布材料13を転写する。モールド11に塗布材料13を転写した塗布用基材103は、塗布用基材巻取ロール102に巻き取られる。凸部15の天面15aに塗布材料13が転写されたモールド11は、乾燥ユニット40を通過した後、転写ユニット60により高分子皮膜を転写シート51に転写して、巻取ロール22に巻き取られる。高分子皮膜を転写した転写シート51は、剥離ユニット70により高分子皮膜14が剥離し、回収ユニット80により高分子薄膜16が回収され、巻取ロール53により巻き取られる。図5に示す装置では、モールド11の凸部15の天面15a以外つまり凹部への塗布材料13の流れ込みを防ぐことができ、良好に天面15aの形状を転写した高分子薄膜16を得ることができる。
【0052】
図6は、本発明の高分子薄膜の製造装置のさらに別態様の断面概略図である。図6に示すように、高分子薄膜16の製造装置200では、高分子薄膜16の表面にニップロールからの摩擦を与えずに、転写シート51の搬送および高分子薄膜16の剥離を行うことができる。駆動ロール201、張力調整ロール202にはサクションロールを用いており、転写シート51の高分子皮膜が転写した面とは反対の面を吸着し、搬送できる機構を備えている。剥離ユニット70では、剥離区間における搬送張力は、駆動ロール201と張力調整ロール202とで転写シート51が吸着されることで遮断される。張力調整機構としては、転写シートの搬送速度で駆動回転する駆動ロール201よりも速い回転速度で張力調整ロール202を駆動回転させることで、駆動ロール201と張力調整ロール202との間で、転写シート51には張力が与えられ、駆動ロール201と張力調整ロール202との速度差に応じた伸び量で転写シート51が伸びる。また、駆動ロール201と張力調整ロール202とを同じ速度で駆動搬送する場合においても、駆動ロール201と張力調整ロール202との距離を転写シート51の搬送中に伸ばすことで、転写シート51を伸ばすこともできる。回収ユニット80により高分子薄膜16が回収された転写シート51は、張力調整ロール202を通過した後、再び巻取ロール53からの搬送張力を受けて、ガイドロール53aに沿いながら、巻取ロール53に巻き取られる。図6に示す装置では、高分子薄膜16の表面に摩擦を与えることなく、搬送や張力遮断、転写シート伸縮が行えるため、転写シート伸縮時にロールとの摩擦による高分子薄膜16の損傷や形状の崩れを防ぐことができる。
【0053】
ロール状のモールド11は、国際公開第2019/116951号公報に開示されている製造装置および製造方法で製造できる。伸縮性を有する転写シート51も同様の製造装置および製造方法で製造できる。
【0054】
次に、本発明の特定形状を有する高分子薄膜の製造方法について説明する。本発明の特定形状を有する高分子薄膜の製造方法は、
表面に凹凸が形成され、その凸部の天面の形状が上記特定形状であるモールドを搬送し、上記搬送されたモールドの上記凸部の天面を被覆するように、上記凹凸が形成された面に高分子材料を含む塗布材料を塗布し、次いで、塗布された上記高分子材料を乾燥させて高分子皮膜を形成し、次いで、上記モールドの凹凸が形成された面に、伸縮性を有する転写シートの一方の面に押しつけて、モールドの上記凸部の天面に形成された上記高分子皮膜を転写シートに転写し、次いで、上記転写シートを伸ばすか1回以上伸縮させて、上記転写された高分子皮膜を上記転写シートから剥離して高分子薄膜を得て、転写シートから剥離された高分子薄膜を回収することにより特定形状を有する高分子薄膜を製造することを特徴とする。
【0055】
次に図1図7および図8を参照しながら、高分子薄膜16の製造方法を説明する。準備段階として、高分子材料を含む塗布材料13を用意し、スリットダイ31に接続された塗布材料供給手段のタンクに充填しておく。また、モールド11を巻出ロール21より引き出し、ガイドロール21aに沿わせて、塗布ユニット30、乾燥ユニット40、転写ユニット60を通り、ガイドロール22aに沿わせて、巻取ロール22で巻き取っている状態とする。このとき、モールド11にはモールド供給手段20により、搬送に必要な一定の張力が付与されている。また、転写シート51を巻出ロール52から引き出し、ガイドロール52aに沿わせて、転写ユニット60、剥離ユニット70、回収ユニット80を経て、ガイドロール53aに沿わせて、巻取ロール53に巻き取られている状態とする。このとき、転写シート51には転写シート供給手段50により、搬送に必要な一定の張力が付与されている。また、スリットダイ31の吐出先端面とモールド11の表面との間隔を所定の間隔で設定し、塗布材料13の送液の条件を膜厚に対応する条件で塗布材料供給手段の設定をしておく。乾燥ユニット40は図示されていない加熱手段により、一定温度で加熱されている。
【0056】
続いて、駆動ロール23を駆動させ、ニップロール24と駆動ロール23によりモールド11を介して狭圧することで、モールド11を一定速度で搬送する。続いて、駆動ロール55、56を駆動させ、ニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56により転写シート51を介して挟圧することで、転写シート51をモールド11が搬送される速度と同じ速度で搬送する。
【0057】
続いて、転写ユニット50のニップロール61を降下させて、モールド11の塗布面と転写シート51の一方の面とが接触するように、ニップロール61とニップロール62とで挟圧する。
【0058】
続いて、塗布ユニット30の塗布材料供給手段を作動させて、塗布材料13の送液を開始する。スリットダイ31の吐出口から吐出された高分子材料を含む塗布材料13を、モールド11の表面の凸部15の天面15aに均一に塗布し、乾燥ユニット40へと搬送する。乾燥ユニット40を通過する過程で、徐々に塗布材料13の内部に残存している溶媒が揮発し、溶媒の揮発が完了すると、モールド11の凸部15の天面15aには特定形状の高分子材料が皮膜として積層された状態となる(図7)。
【0059】
続いて、転写ユニット60を通過する過程で、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51の表面とが、高分子皮膜14を介して挟圧されることで、高分子皮膜14がモールド11の凸部15の天面15aから転写シートへ転写される。高分子皮膜14を転写シート51へと転写したモールド11は、そのままモールド供給手段による搬送張力を受けて、巻取りロール22へと巻き取られる。高分子皮膜14が転写された転写シート51を剥離ユニット70へ搬送し、張力遮断機構であるニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56の2組のロール対でそれぞれ挟圧された、搬送張力が遮断された剥離区間へ進入する。張力調整機構である張力調整ロール75により転写シート51の裏側から、転写シート51に張力を付加し、転写シート51を張力付与前と比較して200%以上の伸度となるように伸ばす。ここで、張力遮断機構により張力が遮断された転写シート51の表面には高分子皮膜14が積層している状態である(図8(a))。張力調整ロール75により伸ばされた転写シート51の表面では、転写シート51の伸び量に追従できない高分子皮膜14が浮き上がり、高分子薄膜16が剥離する(図8(b))。転写シート51から剥離した高分子薄膜16を、回収ユニット80の負圧発生装置82に接続された吸引ノズル81により吸引し、吸引経路に設置した捕集材83によって回収する。高分子薄膜16が剥離した転写シート51はニップロール74を通過し、再び転写シート供給手段50による搬送張力を受けて、巻取ロール53へと巻き取られる。
【0060】
高分子薄膜16として適用する高分子材料としては、特に限定されないが、高分子材料と転写シート51との伸縮破断率の差を利用して、高分子薄膜16を転写シート51から剥離できるものが好ましい。高分子材料の伸縮破断率は100%以下が好ましく、50%以下がさらに好ましい。さらに、医療品や化粧品等に用いられる高分子薄膜16では、生分解性を有しているものが好ましく、具体的に好ましくは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン等のポリエステル系樹脂、ポリエチレングリコール等のポリエーテル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等のポリメタクリレート系樹脂、酢酸セルロース、アルギン酸、キトサン等の多糖類もしくは多糖類エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のポリビニル系樹脂などから選ばれる単独重合体および/または少なくとも1種類以上の高分子を含む共重合体を含む高分子であり、経済性の観点からポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート及びその共重合体がより好ましい。塗料等の産業用の用途においては、生分解性は必ずしも必要ではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂なども好適に用いられる。
【0061】
本発明の製造方法等により製造した特定形状を有する高分子薄膜の形態の一例を図10に示す。図9(a)は、高分子皮膜14とモールド11とが積層したものの一領域を切り取った走査型電子顕微鏡の写真である。高分子皮膜14は、凸部15の天面15aに均一に塗布され、天面15aの特定形状を精度よく転写している。図9(b)は、転写シート51の伸縮後の高分子薄膜16と転写シート51とが積層したものの一領域を切り取った走査型電子顕微鏡の写真である。特定形状が形成された高分子薄膜16が転写シート51の伸縮により転写シート51から剥離している。
【0062】
本発明の高分子薄膜16の特定形状は、特に限定されないが、特定形状の面積が最大となる様に二次元平面上に投影した図形において、円形、楕円形、多角形のいずれかであることが好ましい。また、幾何学的に完全である必要はなく、それぞれの形状に類似していればよいので、略円形、略楕円形、略多角形のいずれかであることも好ましい。高分子薄膜16同士の重なりやすさの観点から円形、略円形または多角形、略多角形がより好ましい。
【0063】
本発明により得られる特定形状を有する高分子薄膜16は、一般的にフレーク状やディスク状等と呼ばれる微小な扁平形状をしており、断面形状及びヤング率を制御することにより、高分子薄膜16同士が重なりあった際、高分子薄膜16同士の接着力を強固にすることができ、外力が加えられた際に崩壊することがなく、高分子薄膜16の集積体として安定的な形状を保持できる。さらには、それぞれが薄膜であるため、皮膚、内臓等の臓器等への追従性、密着性にも優れる。
【0064】
このような効果を有することから、本発明により得られる特定形状を有する高分子薄膜16は、生分解性を活用した体内創傷被覆用、体外創傷被覆用、癒着防止材等の医療用フィルム、スキンケア用品、微小薄膜形状を活用した化粧用材料等の皮膚外用材といった、ミクロンサイズの大きさとナノサイズの厚みを必要とする部材として好適に用いられる。
【実施例
【0065】
[実施例1]
モールド11の材料には、表面自由エネルギーが42.6mJ/mであるシクロオレフィンポリマー系フィルム(商品名:ゼオノアフィルムZF14、日本ゼオン社製)を用いた。モールド11の表面自由エネルギーの測定には、接触角計(型式:CA-X、協和界面科学社製)を用いた。表面自由エネルギーが既知である純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ヨウ化メチレンの各試薬とモールド11との接触角を測定し、拡張FOWKESの理論を適用して、モールド11の表面自由エネルギーを算出した。
【0066】
モールド11の表面凹凸構造は、凸部15の天面15aの特定形状が対角線の長さが100μmの正六角形で、凸部15の高さ50μmの柱状突起が、凹部の幅20μmで最密充填配置となるように配置した。モールド11の幅は300mm、モールド11の長さは300mとなるようにロール状のモールド11を作製し、作製したモールド11を図1に示す装置に搬送できるように取り付けた。
【0067】
転写シート51の材料には、硬化後の表面自由エネルギーが10.6mJ/mである2液硬化性シリコーンゴム(商品名:RBL-9101-05、東レ・ダウコーニング社製)を用い、2液を混合し、攪拌した後に脱泡したものを用いた。転写シート51の表面の凹凸構造は、凸部の天面の形状が直径5μmの円形で、凸部の高さ5μmの柱状突起が、凸部の円の中心間距離が10μmとなるように正方配置されていた。転写シート51の幅は300mm、転写シート51の長さは300mとなるようにロール状の転写シート51を作製し、作製した転写シートを図1に示す装置に搬送できるように取り付けた。
【0068】
塗布材料13として、高分子材料であるポリ乳酸(和光純薬社製)を酢酸エチル(CAS No.141-78-6 和光純薬社製)で溶解したものを用い、塗布材料13全体に対するポリ乳酸の濃度が2.5質量%となるように調合した。
【0069】
モールド11を巻き出し張力10N、巻き取り張力10N、搬送速度3m/分で搬送し、同時に転写シート51を巻き出し張力10N、巻取り張力10N、搬送速度3m/分で搬送し、次いで転写ユニット60で、モールド11の凹凸が形成された面と転写シート51の凹凸が形成された面とが接触するように5MPaの圧力でニップロール61と62とで挟圧した。塗布ユニット30として、吐出幅が290mm、スリット幅が100μmであるスリットダイ31を用いて、スリットダイ31とモールド11の表面との間隔を100μmとして、該搬送速度における乾燥後の高分子皮膜14の膜厚が150nmとなる吐出速度で塗布材料13を塗布した。
【0070】
乾燥ユニット40は酢酸エチルの揮発性の高さを利用し、40℃で一定となるように温度調節された乾燥空間を用いた。
【0071】
剥離ユニット80では、ニップロール73と駆動ロール55、およびニップロール74と駆動ロール56とでそれぞれ0.2MPaの圧力で転写シート51を挟圧し、剥離区間での転写シート51にかかる張力を略0Nとした。転写シート51にかかる張力が略0Nとなった時点で、張力調整機構として、エアーシリンダーのロッド先端に接続された回転自由な張力調整ロール75を転写シート51の凹凸が形成された面とは反対の面に押し当てた。剥離区間における転写シート51の伸び量が200%となるようにエアーシリンダーのストロークを調整し、剥離区間での転写シート51の長さを200mmから400mmまで伸ばした。
【0072】
転写シート51が伸びたことにより、転写シート51から剥離した高分子薄膜16を、回収ユニット80の吸引ノズルで回収し、吸引ノズル81と真空ポンプ等の負圧発生装置82との間に設置した捕集材83である不織布フィルタ(商品名FS6200、日本バイリーン社製)によって、捕集した。また、高分子薄膜16の回収率は30%であった。
【0073】
捕集した高分子薄膜16を観察した結果、高分子薄膜16にはモールド11の天面15aの形状と略同形状が形成されていることを確認した。図10に本実施例1で得られた特定形状を有する高分子薄膜16の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【0074】
[実施例2]
モールド11および塗布材料13は、実施例1と同じものを用いた。
転写シート51の材料には、硬化後の表面自由エネルギーが10.6mJ/mである2液硬化性シリコーンゴム(商品名:RBL-9101-05、東レ・ダウコーニング社製)を用い、2液を混合し、攪拌した後に脱泡したものを用いて、実施例1に記載と同様の方法でロール状の転写シート51を作製した。次いで、転写シート51の表面にコロナ処理を施すことで、転写シート51の表面自由エネルギーを45.5mJ/mに調整した。 コロナ処理した転写シート51を用い、実施例1に記載と同様の方法で高分子薄膜16を形成して回収した結果、高分子薄膜16にはモールド11の天面15aの形状と略同形状が形成されていることを確認した。高分子薄膜16の回収率は90%であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の特定形状を有する高分子薄膜の製造装置および製造方法により得られた高分子薄膜は、被着体に対して高い追従性を示しながら互いに重なり合うことで集積し、高い密着性および安定性を示す膜を形成することができる。例えば、外科手術時の止血や創傷被覆材、癒着防止材、化粧用材料、経皮吸収材料等に最適である。また、水系溶媒に分散させることでコーティング剤等としても用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
10、90、100、200:高分子薄膜の製造装置
11、11A:モールド
13、93:塗布材料
14、94:高分子皮膜
15:凸部
15a:天面
16:高分子薄膜
20:モールド供給手段
21、52、410:巻出ロール
21a、22a、52a、53a:ガイドロール
22、53、360、370、450:巻取ロール
23、55、56:駆動ロール
27:コントローラ
28:端部検出センサー
30、91:塗布ユニット
31、92、330:スリットダイ
32:支持ロール
24、33、61、62、73、74、421:ニップロール
40、95:乾燥ユニット
50:転写シート供給手段
51:転写シート
60:転写ユニット
70:剥離ユニット
75、202:張力調整ロール
80:回収ユニット
81:吸引ノズル
82:負圧発生装置
83:捕集材
101:塗布用基材巻出ロール
102:塗布用基材巻取ロール
103:塗布用基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10