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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】混雑度推定システム及び混雑度推定方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/02 20060101AFI20241112BHJP
   B61L 25/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B61L25/02 A
B61L25/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021019093
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022122040
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 壮太
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064570(JP,A)
【文献】特開2002-193102(JP,A)
【文献】特開2019-089417(JP,A)
【文献】特開2017-205531(JP,A)
【文献】特開2005-145240(JP,A)
【文献】特開2010-053529(JP,A)
【文献】特開2012-101640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00-49/00
B61L 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両のドア毎の混雑度を推定する混雑度推定システムであって、
前記ドアの開閉制御に用いられるセンサのセンシング結果を示すセンサ情報に基づいて、予め決められた混雑度推定モデルにより前記ドアにおける混雑度を推定する推定部と、
前記ドアにおける混雑度を通知対象に通知する通知部と、
を有する混雑度推定システム。
【請求項2】
前記混雑度推定モデルは、前記ドアの開閉制御時に発生した所定の事象の回数と、前記事象に対して予め決められた重みパラメータとの重み付け和で表され、
前記推定部は、
前記センサ情報に基づいて前記ドアの開閉制御時に発生した所定の事象を特定し、特定した所定の事象の回数と該事象に対して予め決められた重みパラメータとの重み付け和の値を前記混雑度として推定する、請求項1に記載の混雑度推定システム。
【請求項3】
前記推定部は、
前記ドアの開閉を制御するための制御指令にも基づいて前記ドアの開閉制御時に発生した所定の事象を特定する、請求項2に記載の混雑度推定システム。
【請求項4】
前記重みパラメータの値は、前記センサ情報及び前記制御指令の少なくとも一方と、前記ドアにおける混雑度との関係をデータ分析又は機械学習により分析又は学習することで決定される、請求項3に記載の混雑度推定システム。
【請求項5】
前記所定の事象には、ドアの再開閉が発生したこと、戸挟みが発生したこと、ドアに対する外力の増加に伴って前記ドアを開閉する駆動装置への通流電流が増加したこと、ドアの開閉速度が低下したこと、のうちの少なくとも1つの事象が含まれる、請求項2乃至4の何れか一項に記載の混雑度推定システム。
【請求項6】
鉄道車両のドア毎の混雑度を推定する混雑度推定システムが、
前記ドアの開閉制御に用いられるセンサのセンシング結果を示すセンサ情報に基づいて、予め決められた混雑度推定モデルにより前記ドアにおける混雑度を推定する推定手順と、
前記ドアにおける混雑度を通知対象に通知する通知手順と、
を実行する混雑度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混雑度推定システム及び混雑度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旅客鉄道を対象として、各車両のドア毎の混雑度を推定する技術が知られている。例えば、特許文献1には、車重センサにより取得したドア毎の重量に基づいてドア毎の乗客数を算出することで、ドア毎の混雑具合を判定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-89417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、混雑度の推定精度が低かったり、新たな機器の導入が必要で多大な追加コストが発生したりする、といった課題がある。例えば、上記の特許文献1ではドア毎の重量を日本人の平均体重で除算することでドア毎の乗客数を算出しており、個人の体格差や荷物の有無、車両自身の姿勢(例えば、車両の傾斜等)が考慮されておらず、混雑度の推定精度が低い場合がある。また、例えば、重量センサをドア毎に配置する必要があり、多大な追加コストが発生する。
【0005】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、低コストで精度良く混雑度を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、一実施形態に係る混雑度推定システムは、鉄道車両のドア毎の混雑度を推定する混雑度推定システムであって、前記ドアの開閉制御に用いられるセンサのセンシング結果を示すセンサ情報に基づいて、予め決められた混雑度推定モデルにより前記ドアにおける混雑度を推定する推定部と、前記ドアにおける混雑度を通知対象に通知する通知部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
低コストで精度良く混雑度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る混雑度推定システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る混雑度推定システムの全体処理の一例を示すフローチャートである。
図5】混雑度テーブルの一例を示す図である。
図6】一実施例における重みパラメータを示す図である。
図7】一実施例における混雑度推定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、低コストで精度良く混雑度を推定することが可能な混雑度推定システム1について説明する。
【0010】
<混雑度推定システム1の全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係る混雑度推定システム1には、複数のドアシステム10と、通知システム20とが含まれる。各ドアシステム10と通知システム20は、有線若しくは無線又はその両方により通信可能に接続される。
【0011】
ドアシステム10は鉄道車両(以下、単に車両ともいう。)のドア毎に設置され、当該ドアの開閉を制御する装置及び機器群である。例えば、1車両に8ドアが存在する場合、ドアシステム10は1車両に8個存在することになる。
【0012】
また、ドアシステム10は、車両が次の駅に到着する前に、自身が開閉を制御するドアにおける混雑度(つまり、当該ドア付近の混雑具合がどの程度であるかを表す指標)を推定し、その混雑度を通知システム20に送信する。
【0013】
通知システム20は、各ドアシステム10から受信した混雑度(つまり、ドア毎の混雑度)を通知対象に通知する。通知対象としては、例えば、次の駅で車両に乗る予定の利用者のスマートフォン等の端末や次の駅の構内に設置されている電子掲示板等の構内端末が挙げられる。ただし、これは一例であって、通知対象は、例えば、鉄道会社のWebページを公開するWebサーバであってもよいし、次の駅の駅員が利用するスマートフォン等の端末であってもよいし、その他の車両管制システム等であってもよい。
【0014】
ここで、ドアシステム10には、制御装置100と、センサ群200と、戸閉装置300とが含まれる。制御装置100とセンサ群200は有線若しくは無線又はその両方により通信可能に接続され、制御装置100と戸閉装置300も有線若しくは無線又はその両方により通信可能に接続される。なお、センサ群200と戸閉装置300も有線若しくは無線又はその両方により通信可能に接続されていてもよい。
【0015】
制御装置100は、ドアの開指令又は閉指令やセンサ情報に応じて、当該ドアの開閉を制御するための開閉制御指令を戸閉装置300に送信する。また、制御装置100は、当該ドアの開閉時に発生した事象(特に、混雑時に発生する可能性が高いイレギュラーな事象)からそのドアにおける混雑度を推定する。なお、開指令及び閉指令は、乗務員や駅員等の開閉操作に応じて上位システムから送信される。
【0016】
センサ群200はドアの状態やドアで発生した事象等をセンシングする各種センサであり、そのセンシング結果が含まれるセンサ情報を制御装置100に送信する。センサ群200には、開閉センサ201と、戸挟まり検出センサ202と、外力計測センサ203と、開閉速度検出センサ204とが含まれる。開閉センサ201は、ドアが開動作を行っているか閉動作を行っているかを検出する。戸挟まり検出センサ202は、戸挟み(つまり、閉扉時に乗客の身体や荷物等が挟まること)の発生を検出する。外力計測センサ203は、ドアに対する外力(例えば、ドアに対して乗客が寄りかかることによって発生する外力等)を計測する。開閉速度検出センサ204は、ドアの開動作及び閉動作の速度(速さ)を検出する。
【0017】
戸閉装置300はドアを開閉させるためのモータ(駆動装置)を含み、開閉制御指令に応じてモータに電流を通流させることで、ドアを開閉する。開閉制御指令には、開動作又は閉動作のいずれを行うかを示す情報と、モータに流す電流の大きさを示す情報とが含まれる。なお、一般に、モータに流す電流が大きいほどモータのトルクが大きくなり、ドアの開閉速度も大きくなる。
【0018】
なお、モータには、AC(alternating-current)モータだけでなく、例えば、DC(direct-current)モータやリニアモータ等といった種々のモータも含まれる。
【0019】
<制御装置100のハードウェア構成>
図2に示すように、本実施形態に係る制御装置100は、ハードウェアとして、プロセッサ101と、メモリ装置102と、I/F103とを有する。これら各ハードウェアは、バス104を介して相互に通信可能に接続されている。
【0020】
プロセッサ101は、例えば、MCU(Micro Controller Unit)等の演算装置(特に、組み込み機器向け演算装置)である。メモリ装置102は、例えば、半導体メモリ等の記憶装置である。I/F103は、センサ群200や戸閉装置300等とのインタフェースである。
【0021】
本実施形態に係る制御装置100は、図2に示すハードウェア構成を有することにより、後述する各種処理を実現することができる。ただし、図2に示すハードウェア構成は一例であって、制御装置100は、これ以外のハードウェア構成を有していてもよい。
【0022】
<制御装置100の機能構成>
図3に示すように、本実施形態に係る制御装置100は、機能部として、開閉制御部110と、混雑度推定部120と、混雑度送信部130と、記憶部140とを有する。開閉制御部110、混雑度推定部120及び混雑度送信部130は、例えば、メモリ装置102に格納されている1以上のプログラムがプロセッサ101に実行させる処理により実現される。また、記憶部140は、メモリ装置102により実現される。
【0023】
開閉制御部110は、ドアの開指令又は閉指令やセンサ情報を受信すると、これらの開指令又は閉指令やセンサ情報に応じて、既知のドア制御手法に基づく開閉制御指令を戸閉装置300に送信する。例えば、開閉制御部110は、開指令を受信した場合はドアに開動作をさせるための開閉制御指令を送信し、閉指令を受信した場合はドアに閉動作をさせるための開閉制御指令を送信する。また、例えば、開閉制御部110は、ドアの閉動作中に、戸挟みが発生したことを示すセンサ情報を受信した場合はドアに開動作をさせるための開閉制御指令を送信する。同様に、例えば、開閉制御部110は、所定の閾値以上の外力を示すセンサ情報を受信した場合はモータに流す電流を大きくするための開閉制御指令を送信する。このように、開閉制御部110は、既知のドア制御手法によりドアの開閉を制御する。
【0024】
また、開閉制御部110は、センサ群200から受信したセンサ情報や戸閉装置300に送信した開閉制御指令をログとして記憶部140に保存する。
【0025】
混雑度推定部120は、記憶部140に保存されているセンサ情報や開閉制御指令を用いて、混雑度推定モデルにより各駅で該当のドア(つまり、当該ドアシステム10が開閉を制御するドア)における混雑度を推定する。また、混雑度推定部120は、当該混雑度をログとして記憶部140に保存する。
【0026】
ここで、混雑度推定部120は、当該駅でのドア開閉時に発生した事象(特に、イレギュラーな事象)の回数と事象毎に予め設定された重みパラメータとの重み付け和を混雑推定モデルとして、この混雑度推定モデルにより混雑度を推定(算出)する。
【0027】
具体的には、混雑度の推定対象とする事象の集合をE={Ei∈{1,・・,I}(Iは集合Eに含まれる事象の総数),該当の駅でのドア開閉時に事象Eが発生した回数をN,事象Eに対して設定された重みパラメータをWとすれば、当該駅での該当のドアにおける混雑度Rは、R=W+・・・+Wにより推定(算出)される。ただし、例えば、ドアの開動作時又は閉動作時のいずれか一方で発生した事象のみを混雑度の推定対象としてもよい。また、過去の混雑度(例えば、1つ前の駅で推定した混雑度や、現在の駅によりも前の駅で推定した混雑度の系列等)を、混雑度の推定対象とする事象と扱ってもよく、この場合は混雑度の値そのものを事象の発生回数とすればよい。
【0028】
なお、ドア開閉時に発生した事象は、記憶部140に記憶されているセンサ情報と開閉制御指令から特定可能である。例えば、ドアの閉動作時における「閉まりかけたドアが一度開いて再び閉じた」事象は、開閉センサ201のセンサ情報から特定可能である。また、例えば、ドアの閉動作時における「戸挟みが発生した」事象は、戸挟まり検出センサ202のセンサ情報(及び、それに加えて、このセンサ情報を受信した後の戸挟み検出信号等)から特定可能である。他にも、ドアの閉動作時における「外力により、モータへの通流電流を大きくした」事象は、外力計測センサ203のセンサ情報(及び、それに加えて、このセンサ情報受信後の開閉制御指令)から特定可能である。同様に、ドアの閉動作時における「大きな外力により、モータへの通流電流を非常に大きくした」事象は、外力計測センサ203のセンサ情報(及び、それに加えて、このセンサ情報受信後の開閉制御指令)から特定可能である。ドアの開閉動作時における「ドアの開閉が通常よりもゆっくり行われた」事象は、開閉速度検出センサ204から特定可能である。
【0029】
混雑度送信部130は、混雑度推定部120によって推定された混雑度R(つまり、該当の駅でドアの開閉動作を行った後における当該ドアの混雑度)を通知システム20に送信する。これにより、通知システム20は、当該駅出発後における各車両のドア毎の混雑度を通知対象に通知することが可能となる。
【0030】
<混雑度推定システム1の全体処理>
次に、本実施形態に係る混雑度推定システム1の全体処理の流れを図4に示す。以下、この図4を参照しながら、或る駅に車両が到着した場合における全体処理について説明する。なお、図4に示す全体処理は、車両が駅に到着する都度繰り返し実行される。
【0031】
車両が駅に到着すると乗務員や駅員等によってドアの開操作が行われ、その後、乗客の降車及び乗車が完了するとドアの閉操作が行われる。これらの開操作及び閉操作によってそれぞれ開指令及び閉指令が制御装置100に送信される。制御装置100の開閉制御部110は、開指令又は閉指令やセンサ情報を受信すると、これらの開指令又は閉指令やセンサ情報に応じて、既知のドア制御手法に基づく開閉制御指令を戸閉装置300に送信する(ステップS101)。これにより、ドアの開閉が制御される。また、ドアが閉まった後は、車両が次の駅に向けて出発することになる。
【0032】
次に、制御装置100の混雑度推定部120は、記憶部140に保存されているセンサ情報や開閉制御指令を用いて、当該駅での当該ドアにおける混雑度を推定する(ステップS102)。
【0033】
続いて、制御装置100の混雑度推定部120は、上記のステップS102で推定した混雑度を記憶部140にログとして保存する(ステップS103)。
【0034】
そして、制御装置100の混雑度送信部130は、上記のステップS102で推定した混雑度を通知システム20に送信する(ステップS104)。
【0035】
通知システム20は、各ドアシステム10から混雑度を受信すると、各車両のドア毎の混雑度を通知対象に送信する(ステップS105)。これにより、例えば、次の駅で乗車予定の利用者や次の駅の駅員等は各車両のドア毎の混雑度を知ることが可能となる。したがって、例えば、混雑するドアを避けるような分散乗車を促すことが可能となり、車両全体で混雑の緩和が期待できる。
【0036】
なお、上記のステップS104で混雑度そのものを送信するのではなく、混雑度を人が理解しやすい区分に変換した上で、この区分を通知システム20に送信してもよい。この変換は、例えば、記憶部140に記憶されている混雑度テーブルにより行うことが可能である。
【0037】
ここで、混雑度テーブルの一例を図5に示す。図5に示す混雑度テーブルでは、混雑度Rを混雑度区分及び乗車率に変換する場合のテーブルである。図5に示す混雑度テーブルでは、混雑度Rが0≦R≦1の場合は「混雑度小(乗車可能)」,「乗車率100%未満」に変換され、混雑度Rが1<R≦2の場合は「混雑度中(乗車可能)」,「乗車率100%以上180%未満」に変換される。同様に、混雑度Rが2<R≦3の場合は「混雑度大(乗車困難)」,「乗車率100%以上180%未満」に変換され、混雑度Rが3<Rの場合は「混雑度特大(乗車不可能)」,「乗車率250%以上」に変換される。なお、図5に示す混雑度テーブルにおける混雑度区分と乗車率との関係は、国土交通省が提示する混雑度の目安(https://www.mlit.go.jp/tetudo/toshitetu/03_04.html)を参考にしているが、これは一例であって、様々に定義可能であることは言うまでもない。
【0038】
ただし、上記の変換は、ドアシステム10ではなく、通知システム20で行われてもよい。つまり、上記のステップS105で混雑度を人が理解しやすい区分(例えば、混雑度区分及び乗車率)に変換した上で、変換後の区分を通知対象に通知してもよい。
【0039】
<実施例>
次に、一実施例について説明する。本実施例では、混雑度の推定対象の事象として、「ドア再開閉」、「電流大」、「電流特大」、「開閉速度低」及び「前駅混雑度」の5つの事象を対象とし、或るドアの混雑度を推定するものとする。
【0040】
「ドア再開閉」はドアの閉動作時における「閉まりかけたドアが一度開いて再び閉じた」事象のことである。「電流大」はドアの閉動作時における「外力により、モータへの通流電流を大きくした」事象のことであり、「電流特大」はドアの閉動作時における「大きな外力により、モータへの通流電流を非常に大きくした」事象のことである。また、「開閉速度低」は、ドアの開閉動作時における「ドアの開閉が通常よりもゆっくり行われた」事象のことである。更に、「前駅混雑度」は、1つ前の駅で推定された混雑度のことである。
【0041】
また、各事象に対して、重みパラメータを図6に示すように設定した。すなわち、「ドア再開閉」に対しては重みパラメータW=0.2、「電流大」に対しては重みパラメータWB1=0.45、「電流特大」に対しては重みパラメータWB2=1.2、「開閉速度低」に対しては重みパラメータW=0.3、「前駅混雑度」に対しては重みパラメータWRN-1=0.6と設定した。このように、乗車が困難なほどの混雑が発生している場合にはドアに対する外力が大きくなり、モータに流す電流が大きくなるという顕著な特徴が表れるため、「電流大」及び「電流特大」に対する重みパラメータの値を比較的大きくした。また、前駅での混雑度は現在の駅の混雑度にも直接的に影響するため、「前駅混雑度」に対する重みパラメータの値も比較的大きくした。一方で、ドアの再開閉や開閉速度の低下は混雑時以外の突発的な事象(例えば、戸挟みや駆け込み乗車等)に伴って発生することが多いため、「ドア再開閉」及び「開閉速度低」に対する重みパラメータの値は比較的小さくした。ただし、「ドア再開閉」や「開閉速度低」が複数回発生したり同時に発生したりする場合には混雑が予想されるため、小さすぎない値とした。
【0042】
このとき、始発駅-次駅-次々駅-次々々駅で混雑度を推定する場合について、図7を参照しながら説明する。
【0043】
まず、始発駅におけるドア開閉時に「ドア再開閉」が1回だけ発生したとする。この場合、始発駅出発時における当該ドアの混雑度Rは、R=W×1=0.2×1=0.2となる。また、図5に示す混雑度テーブルで混雑度区分に変換した場合、混雑度区分は「混雑度小」となる。
【0044】
次に、次駅におけるドア開閉時に「電流特大」が1回、「開閉速度低」が1回発生したとする。この場合、次駅出発時における当該ドアの混雑度Rは、R=WB2×1+W×1+WRN-1×R=1.2×1+0.3×1+0.6×0.2=1.62となる。また、図5に示す混雑度テーブルで混雑度区分に変換した場合、混雑度区分は「混雑度中」となる。
【0045】
次に、次々駅におけるドア開閉時に「ドア再開閉」が1回、「電流特大」が1回発生したとする。この場合、次々駅出発時における当該ドアの混雑度Rは、R=W×1+WB2×1+WRN-1×R=0.2×1+1.2×1+0.6×1.62=2.37となる。また、図5に示す混雑度テーブルで混雑度区分に変換した場合、混雑度区分は「混雑度大」となる。
【0046】
次に、次々々駅におけるドア開閉時に「電流大」が1回だけ発生したとする。この場合、次々々駅出発時における当該ドアの混雑度Rは、R=WB1×1+WRN-1×R=0.45×1+0.6×2.37=1.87となる。また、図5に示す混雑度テーブルで混雑度区分に変換した場合、混雑度区分は「混雑度中」となる。
【0047】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る混雑度推定システム1は、ドア開閉時に発生した事象(特に、例えば、「閉まりかけたドアが一度開いて再び閉じた」や「外力により、モータへの通流電流を大きくした」等のイレギュラーな事象)の回数から当該ドアの混雑度を推定することができる。これらの事象は既存のドアシステムが備えるセンサ(つまり、センサ群200)のセンサ情報から特定可能であるため、本実施形態に係る混雑度推定システム1は、新たな機器を導入することなく、ドア毎の混雑度を容易に推定することができる。
【0048】
また、本実施形態に係る混雑度推定システム1は、混雑度推定モデルとして事象の発生回数の重み付け和を用いているため、重みパラメータが適切な値に設定されることで、精度良く混雑度を推定することが可能となる。
【0049】
なお、重みパラメータは事前に適切な値に設定されている必要があるが、上記の実施例で説明したように見識や経験則に基づいて設定する場合以外に、様々な手法を用いて設定してもよい。例えば、データ分析や機械学習等の手法によってセンサ情報や開閉制御指令と混雑度との関係を分析又は学習することで、混雑度推定モデルの最適な重みパラメータ値を決定してもよい。この際、同一事象に対する重みパラメータ値であっても、例えば、ドア毎や車両毎に異なっていてもよい。また、重みパラメータ値は正である必要は必ずしもなく、負の値を取るものであってもよい。
【0050】
更に、混雑度推定モデルには他のモデルが用いられてもよい。例えば、回帰木等といったアルゴリズムを用いるモデルを混雑度推定モデルとしてもよい。
【0051】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 混雑度推定システム
10 ドアシステム
20 通知システム
100 制御装置
101 プロセッサ
102 メモリ装置
103 I/F
104 バス
110 開閉制御部
120 混雑度推定部
130 混雑度送信部
140 記憶部
200 センサ群
201 開閉センサ
202 戸挟まり検出センサ
203 外力計測センサ
204 開閉速度検出センサ
300 戸閉装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7