(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/54 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H01T13/54
(21)【出願番号】P 2021020321
(22)【出願日】2021-02-11
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 典晃
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-177753(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102019201570(DE,A1)
【文献】特開2020-184433(JP,A)
【文献】特開2020-161226(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102019205478(DE,A1)
【文献】特開2016-035854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0104316(US,A1)
【文献】特開2020-184435(JP,A)
【文献】特開2012-199236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0294624(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018221917(DE,A1)
【文献】特開2015-130302(JP,A)
【文献】特開2020-004567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
上記絶縁碍子の外周面の一部である被支承部(31)は、上記ハウジングの内周面の一部である支承部(21)によってプラグ軸方向(Z)から支承されており、
上記プラグカバーの体積をVc、上記ハウジングにおける上記支承部よりも先端側の部分の体積をVhとしたとき、下記式(1)を満た
し、
上記絶縁碍子における上記被支承部よりも先端側の部分のプラグ軸方向の長さD5は、上記ハウジングにおける上記支承部よりも先端側の部分のプラグ軸方向の長さD4よりも短く、
プラグ軸方向における、上記プラグカバーの基端から上記副燃焼室の先端までの長さD3は、上記長さD4よりも短く、
上記プラグカバーは、上記副燃焼室の外周側を覆う周壁部(52)と、上記副燃焼室の先端側を覆う底壁部(53)と、上記周壁部の先端と上記底壁部の外周とを曲面状に繋ぐ角部(54)とを有し、
上記底壁部の厚みD1は、上記周壁部の厚みD2よりも小さく、上記周壁部は、プラグ軸方向の全体にわたって、上記厚みD2が上記厚みD1よりも厚く、
上記ハウジングの先端部の外周側に上記周壁部の基端部が接合されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
Vc/Vh≦0.5 ・・・(1)
【請求項2】
下記式(2)を満たす、請求項1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
Vc/Vh≦0.25 ・・・(2)
【請求項3】
上記体積Vcは、0.27cc以下である、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
上記体積Vcは、0.14cc以下である、請求項3に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項5】
上記絶縁碍子における上記被支承部よりも先端側の部分の体積をViとしたとき、下記式(3)を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
(Vc+Vi)/Vh≦0.6 ・・・(3)
【請求項6】
下記式(4)を満たす、請求項5に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
(Vc+Vi)/Vh≦0.38 ・・・(4)
【請求項7】
上記絶縁碍子における上記被支承部よりも先端側の部分の体積をViとしたとき、上記体積Vcに上記体積Viを加えた体積は、0.33cc以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項8】
上記体積Vcに上記体積Viを加えた体積は、0.21cc以下である、請求項7に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項9】
上記ハウジングの外周には、ネジ部(22)が形成されており、
該ネジ部の呼び径は、M14以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されているように、先端に副燃焼室を備えた内燃機関用のスパークプラグが知られている。当該スパークプラグにおいて、副燃焼室を覆うプラグカバーは、先端部の厚みが薄くなっている。これにより、当該先端部が高温になることを抑え、スパークプラグによる放電の発生よりも前に混合気が着火すること(すなわちプレイグニッション)を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグは、主燃焼室内の燃焼による受熱については考慮されているものの、副燃焼室内の燃焼による受熱については、考慮されていない。すなわち、副燃焼室内の燃焼により、スパークプラグにおける副燃焼室に面する部位が高温になることを抑制することについては考慮されていない。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、プレイグニッションを抑制することができる内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
上記絶縁碍子の外周面の一部である被支承部(31)は、上記ハウジングの内周面の一部である支承部(21)によってプラグ軸方向(Z)から支承されており、
上記プラグカバーの体積をVc、上記ハウジングにおける上記支承部よりも先端側の部分の体積をVhとしたとき、下記式(1)を満たし、
上記絶縁碍子における上記被支承部よりも先端側の部分のプラグ軸方向の長さD5は、上記ハウジングにおける上記支承部よりも先端側の部分のプラグ軸方向の長さD4よりも短く、
プラグ軸方向における、上記プラグカバーの基端から上記副燃焼室の先端までの長さD3は、上記長さD4よりも短く、
上記プラグカバーは、上記副燃焼室の外周側を覆う周壁部(52)と、上記副燃焼室の先端側を覆う底壁部(53)と、上記周壁部の先端と上記底壁部の外周とを曲面状に繋ぐ角部(54)とを有し、
上記底壁部の厚みD1は、上記周壁部の厚みD2よりも小さく、上記周壁部は、プラグ軸方向の全体にわたって、上記厚みD2が上記厚みD1よりも厚く、
上記ハウジングの先端部の外周側に上記周壁部の基端部が接合されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
Vc/Vh≦0.5 ・・・(1)
【発明の効果】
【0007】
上記スパークプラグは、上記式(1)を満たす。それゆえ、スパークプラグにおける副燃焼室に面する部位は、副燃焼室内の燃焼によって受熱した際、ハウジングを通して外部に放熱しやすい。それゆえ、副燃焼室に面する部位が高温になることを抑制することができる。その結果、プレイグニッションを抑制することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、プレイグニッションを抑制することができる内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図であって、
図2のI-I線矢視断面相当図。
【
図3】実施形態1における、支承部及び被支承部の周辺の拡大断面図。
【
図4】実施形態1における、プラグカバーの各部位の寸法を示す断面図。
【
図5】実施形態1における、体積Vhの対象となる範囲を示す断面説明図。
【
図6】実施形態1における、体積Viの対象となる範囲を示す断面説明図。
【
図7】実施形態1における、スパークプラグが設置された内燃機関の断面説明図。
【
図8】実施形態1における、内燃機関に設置されたスパークプラグの周辺の断面図。
【
図9】実験例1における、Vc/Vhの値とプレイグニッションが発生する点火時期との関係を示すグラフ。
【
図10】実験例1における、体積VcとVc/Vhの値との関係を示すグラフ。
【
図11】実験例2における、(Vc+Vi)/Vhの値とプレイグニッションが発生する点火時期との関係を示すグラフ。
【
図12】実験例2における、体積Viと(Vc+Vi)/Vhの値との関係を示すグラフ。
【
図13】実験例2における、体積Viと体積Vcとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態について、
図1~
図8を参照して説明する。
本形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、
図1、
図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、プラグカバー5と、を有する。中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3から先端側に突出している。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。接地電極6は、中心電極4との間に放電ギャップGを形成する。プラグカバー5は、放電ギャップGが配される副燃焼室50を覆うようハウジング2の先端部に設けられている。プラグカバー5には、副燃焼室50と外部とを連通させる噴孔51が形成されている。
【0011】
図1、
図3に示すごとく、絶縁碍子3の外周面の一部である被支承部31は、ハウジング2の内周面の一部である支承部21によってプラグ軸方向Zから支承されている。スパークプラグ1は、プラグカバー5の体積をVc、ハウジング2における支承部21よりも先端側の部分の体積をVhとしたとき、下記式(1)を満たす。
Vc/Vh≦0.5 ・・・(1)
【0012】
また、本形態のスパークプラグ1は、下記式(2)も満たす。
Vc/Vh≦0.25 ・・・(2)
【0013】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車等の内燃機関における着火手段として用いることができる。
図7、
図8に示すごとく、ハウジング2の外周には、ネジ部22が形成されている。そして、ハウジング2のネジ部22を、シリンダヘッド71のプラグホール711の雌ネジ部に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられる。
【0014】
図7に示すごとく、内燃機関10は、シリンダ70内を往復運動するピストン74を備える。主燃焼室101は、ピストン74の往復運動によって、体積変化する。内燃機関10には、吸気ポート721及び排気ポート731が形成されており、それぞれ吸気弁72又は排気弁73が備えられている。
【0015】
そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端が、内燃機関10の主燃焼室101に配置される。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室101に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、スパークプラグ1の軸方向Zを、適宜、プラグ軸方向Z、或いは単に、Z方向ともいう。また、
図1に示すごとく、スパークプラグ1の中心軸Cは、本形態において、中心電極4の中心軸でもある。
【0016】
プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に溶接等によって接合されている。本形態において、プラグカバー5の基端は、ハウジング2のネジ部22の先端よりも先端側に位置している。プラグカバー5とハウジング2とは、互いに熱的に接触している。プラグカバー5は、例えば、鉄、ニッケル、鉄或いはニッケルの合金、ステンレス鋼等の材料からなる。
【0017】
図7、
図8に示すごとく、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられた状態において、プラグカバー5は、副燃焼室50を主燃焼室101と区画している。プラグカバー5の外表面55は、主燃焼室101に面している。また、
図1に示すごとく、プラグカバー5の内壁面502は、副燃焼室50に面している。
【0018】
副燃焼室50は、絶縁碍子3から先端側に突出した中心電極4の周辺における、ハウジング2の先端部の内周側の空間を含む。また、副燃焼室50は、絶縁碍子3の外周面とハウジング2の内周面との間に形成された環状の空間であるポケット部501をも含む。
【0019】
また、本形態において、プラグカバー5は、周壁部52と底壁部53と角部54とを有する。周壁部52は、副燃焼室50の外周側の一部を覆う略円筒形状の部分である。底壁部53は、副燃焼室50の先端側を覆う部分である。角部54は、周壁部52の先端と底壁部53の外周とを曲面状に繋ぐ部分である。本形態において、噴孔51は、角部54に形成されている。内燃機関に設置されたスパークプラグ1において、噴孔51は、副燃焼室50と主燃焼室とを連通させている。
【0020】
図4に示すごとく、本形態において、底壁部53の厚みD1は、周壁部52の厚みD2よりも小さい。また、Z方向における、プラグカバー5の基端から副燃焼室50の先端までの長さD3は、
図5に示すごとく、ハウジング2における支承部21よりも先端側の部分のZ方向の長さD4よりも短い。
【0021】
また、本形態のスパークプラグ1は、
図7、
図8に示すごとく、ハウジング2が主燃焼室101に露出しないように、内燃機関10に取り付けられる。ハウジング2と内燃機関10のシリンダヘッド71とは、互いに熱的に接触している。ハウジング2は、例えば、鉄、ニッケル、鉄或いはニッケルの合金、ステンレス鋼等の材料からなる。
【0022】
また、ハウジング2のネジ部22の呼び径は、M14以下である。本形態において、ネジ部22の呼び径はM12である。
【0023】
ハウジング2は、
図1、
図3に示すごとく、段状に形成された支承側段部23を有する。支承側段部23の内周面は、
図3に示すごとく、先端側へ向かうほど縮径する支承側面24を有する。
【0024】
また、ハウジング2に保持される絶縁碍子3は、
図1に示すごとく、先端側へ向かうほど縮径する脚部34を有する。脚部34の外周面は、副燃焼室50に面している。絶縁碍子3は、例えばアルミナ等のセラミックからなる。
【0025】
絶縁碍子3は、
図1、
図3に示すごとく、脚部34の基端側に、段状に形成された被支承側段部32を有する。
図3に示すごとく、被支承側段部32の外周面は、先端側へ向かうほど縮径する被支承側面33を有する。
【0026】
ハウジング2の支承側面24と絶縁碍子3の被支承側面33との間には、環状のガスケット11が介在している。ガスケット11は、ハウジング2と絶縁碍子3との双方に当接し、これらの間をシールしている。ハウジング2と絶縁碍子3とは、ガスケット11を介して、互いに熱的に接触している。ガスケット11は、例えば、金属材料を環状に形成してなる。
【0027】
ハウジング2の支承側面24は、環状のガスケット11を介して、絶縁碍子3の被支承側面33を支承している。つまり、本形態において、支承側面24におけるガスケット11と当接する部分が支承部21となっており、被支承側面33におけるガスケット11と当接する部分が被支承部31となっている。
【0028】
また、ガスケット11よりも先端側に、ポケット部501が形成されている。つまり、絶縁碍子3の外周面は、被支承部31よりも先端側の部分が副燃焼室50に面している。また、ハウジング2の内周面は、支承部21よりも先端側の部分が副燃焼室50に面している。
【0029】
本形態においては、
図6に示すごとく、絶縁碍子3における被支承部31よりも先端側の部分のZ方向の長さD5は、
図5に示す長さD4よりも短い。
【0030】
つまり、支承部21の先端を通過すると共に、Z方向に直交する平面を平面P1とする。また、
図6に示すごとく、被支承部31の先端を通過すると共に、Z方向に直交する平面を平面P2とする。Z方向における平面P2から絶縁碍子3の先端までの長さは、Z方向における平面P1からハウジング2の先端までの長さよりも短い。
【0031】
また、接地電極6は、
図1に示すごとく、ハウジング2に固定された固定端部61から副燃焼室50内に突出している。接地電極6とハウジング2とは、互いに熱的に接触している。
【0032】
次に、各部位の体積について説明する。
本形態において、プラグカバー5の体積Vcは、0.27cc以下である。また、体積Vcは、0.14cc以下である。
【0033】
また、本形態のスパークプラグ1は、絶縁碍子3における被支承部31よりも先端側の部分の体積をViとしたとき、下記式(3)を満たす。
(Vc+Vi)/Vh≦0.6 ・・・(3)
【0034】
つまり、
図6に示すごとく、平面P2よりも先端側に位置する絶縁碍子3の部分の体積が、体積Viとなっている。また、
図5に示すごとく、平面P1よりも先端側に位置するハウジング2の部分の体積が、体積Vhとなっている。
【0035】
また、本形態のスパークプラグ1は、下記式(4)を満たす。
(Vc+Vi)/Vh≦0.38 ・・・(4)
【0036】
また、体積Vcに体積Viを加えた体積は、0.33cc以下である。本形態において、体積Vcに体積Viを加えた体積は、0.21cc以下である。
【0037】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記内燃機関用のスパークプラグ1は、上記式(1)を満たす。それゆえ、スパークプラグ1における副燃焼室50に面する部位は、副燃焼室50内の燃焼によって受熱した際、ハウジング2を通して外部に放熱しやすい。それゆえ、副燃焼室50に面する部位が高温になることを抑制することができる。その結果、プレイグニッションを抑制することができる。
【0038】
本形態のスパークプラグ1は、放電ギャップGに放電を生じさせることにより、副燃焼室50の混合気を着火させ、火炎を形成する。そして、副燃焼室50内にて生じた火炎を、副燃焼室50と主燃焼室とを連通させる噴孔51から噴出させる。これにより、主燃焼室内に火炎を伝搬させて混合気を燃焼させる。つまり、スパークプラグ1は、副燃焼室50内に火炎を形成するため、副燃焼室50に面する部位が受熱する。ここで、ハウジング2は、内燃機関のシリンダヘッドと熱的に接触している。それゆえ、ハウジング2は、副燃焼室50内の燃焼によって受けた熱を外部、すなわちシリンダヘッドに放熱しやすい。そのため、ハウジング2は、スパークプラグ1における副燃焼室50に面する他の部位と比較し、温度が低くなりやすい。また、プラグカバー5は、ハウジング2と熱的に接触している。そのため、副燃焼室50内の混合気の燃焼により受熱したプラグカバー5は、ハウジング2を介して、外部に放熱することができる。ここで、体積Vcは、体積Vhよりも小さい。また、スパークプラグ1は、上記式(1)を満たす。それゆえ、スパークプラグ1は、プラグカバー5が高温になる前に、プラグカバー5の熱を、ハウジング2を介して外部に放熱しやすい。それゆえ、プレイグニッションを抑制することができる。その結果、内燃機関の高負荷運転が可能となり、燃費向上、出力向上を図ることができる。
【0039】
スパークプラグ1は、上記式(2)を満たす。それゆえ、スパークプラグ1における副燃焼室50に面する部位は、ハウジング2を通して外部に一層放熱しやすい。それゆえ、副燃焼室50に面する部位が高温になることを一層抑制することができる。その結果、スパークプラグ1が過給機を備えた内燃機関に設置された場合等であっても、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0040】
また、体積Vcは、0.27cc以下である。それゆえ、Vc/Vhの値を小さくしやすい。その結果、プラグカバー5が高温になる前に、プラグカバー5の熱を、ハウジング2を介して外部に放熱しやすい。
【0041】
また、本形態において、体積Vcは、0.14cc以下である。それゆえ、Vc/Vhの値を一層小さくしやすい。それゆえ、プラグカバー5が高温になる前に、プラグカバー5の熱を、ハウジング2を介して外部に一層放熱しやすい。その結果、スパークプラグ1が過給機を備えた内燃機関に設置された場合等であっても、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0042】
スパークプラグ1は、上記式(3)を満たす。それゆえ、スパークプラグ1における副燃焼室50に面する部位は、ハウジング2を通して外部に一層放熱しやすい。それゆえ、副燃焼室50に面する部位が高温になることを一層抑制することができる。その結果、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0043】
本形態において、絶縁碍子3は、ガスケット11を介してハウジング2と熱的に接触している。それゆえ、副燃焼室50内の混合気の燃焼によって受熱した絶縁碍子3は、ハウジング2を介して、外部に放熱することができる。ここで、体積Viは、体積Vhよりも小さい。また、スパークプラグ1は、上記式(3)を満たす。それゆえ、絶縁碍子3及びプラグカバー5が高温になる前に、絶縁碍子3及びプラグカバー5の熱を、ハウジング2を介して外部に放熱しやすい。その結果、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0044】
スパークプラグ1は、上記式(4)を満たす。それゆえ、スパークプラグ1における副燃焼室50に面する部位は、ハウジング2を通して外部に、より一層放熱しやすい。それゆえ、副燃焼室50に面する部位が高温になることを、より一層抑制することができる。その結果、スパークプラグ1が過給機を備えた内燃機関に設置された場合等であっても、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0045】
体積Vcに体積Viを加えた体積は、0.33cc以下である。それゆえ、(Vc+Vi)/Vhの値を小さくしやすい。それゆえ、プラグカバー5及び絶縁碍子3が高温になる前に、プラグカバー5及び絶縁碍子3の熱を、ハウジング2を介して外部に放熱しやすい。
【0046】
体積Vcに体積Viを加えた体積は、0.21cc以下である。それゆえ、(Vc+Vi)/Vhの値を一層小さくしやすい。それゆえ、プラグカバー5及び絶縁碍子3が高温になる前に、プラグカバー5及び絶縁碍子3の熱を、ハウジング2を介して外部に一層放熱しやすい。その結果、スパークプラグ1が過給機を備えた内燃機関に設置された場合等であっても、プレイグニッションを確実に抑制することができる。
【0047】
ネジ部22の呼び径は、M14以下である。それゆえ、スパークプラグ1を、自動車等の内燃機関に搭載しやすい。その結果、スパークプラグ1を自動車等の内燃機関の着火手段として用いた際、プレイグニッションを抑制することができる。
【0048】
以上のごとく、本形態によれば、プレイグニッションを抑制することができる内燃機関用のスパークプラグ1を提供することができる。
【0049】
上記実施形態1において、支承部21と被支承部31との間には、ガスケット11が介在している。ただし、支承部は、例えば、ガスケットを介在させることなく、被支承部を支承することができる。
【0050】
(実験例1)
本例では、基本構造を実施形態1と同様としつつ、Vc/Vhの値が互いに異なる6つのスパークプラグを用意し、
図9のグラフに示すように、Vc/Vhの値とプレイグニッションが発生する点火時期との関係を解析した。一般に、点火時期を進角させるほど、プレイグニッションが発生しやすい。そのため、本例では、内燃機関に設置したそれぞれのスパークプラグにつき、点火時期を徐々に進角させ、プレイグニッションの発生する点火時期を解析した。試験条件は、スパークプラグを設置する内燃機関を単気筒の内燃機関とし、スロットル全開、回転数を6500r/mとした。また、下記の表1に示す試料を用意し、これらの試料のうち、Vc/Vhの値が互いに異なる試料1~4、11、12を用い、解析を行った。ここで、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC(圧縮上死点前の略)29°CA(クランク角の略)以上となる場合を、自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いる際に充分にプレイグニッションを抑制できる基準としている。そこで、上記解析結果から、当該基準を満たすVc/Vhの値を求めた。また、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC45°CA以上となる場合を、過給機を備えた自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いる際に充分にプレイグニッションを抑制できる基準としている。そこで、上記解析結果から、当該基準を満たすVc/Vhの値も求めた。
【0051】
【0052】
表1に示すごとく、試料1を、基準となる構成のスパークプラグとした。そして、試料2~12は、試料1に対し、厚みD1(
図4参照)、長さD3(
図4参照)、長さD5(
図6参照)を変更することにより、体積Vc等の値を変更したスパークプラグである。また、体積Vhは、すべての試料において、同等とした。
【0053】
図9のグラフにおいて、丸印は、試料1~4の解析結果をプロットしたものであり、四角印は、試料11、12の解析結果をプロットしたものである。また、
図9のグラフには、これらのプロットにおける近似直線を示した。また、試料2~4は、試料1に対し、長さD3を変更することにより、体積Vcを変更したスパークプラグである。試料11、12は、試料1に対し、厚みD1を変更することにより、体積Vcを変更したスパークプラグである。
【0054】
図9のグラフより、Vc/Vhの値が小さくなるに従って、プレイグニッションの発生する点火時期が進角することが分かる。この結果より、体積Vhに対する体積Vcの値の割合を小さくするほど、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。
【0055】
また、
図9のグラフに示す近似直線より、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC29°CA以上となるVc/Vhの値は、0.5以下と推測された。また、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC45°CA以上となるVc/Vhの値は、0.25以下と推測された。
【0056】
また、
図10は、それぞれのスパークプラグにおける体積VcとVc/Vhの値との関係を示したグラフである。
図10のグラフにおいて、丸印は、試料1~4の値をプロットしたものであり、四角印は、試料11、12の値をプロットしたものである。当該グラフより、Vc/Vhの値が0.5以下となる体積Vcは、0.27cc以下となった。また、Vc/Vhの値が0.25以下となる体積Vcは、0.14cc以下となった。この結果より、本例にて用いたネジ部の呼び径がM14以下のスパークプラグにおいては、体積Vcを0.27cc以下とすることにより、自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いた際、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。また、ネジ部の呼び径がM14以下のスパークプラグにおいては、体積Vcを0.14cc以下とすることにより、過給機を備えた自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いたとしても、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。
【0057】
(実験例2)
本例では、基本構造を実施形態1と同様としつつ、(Vc+Vi)/Vhの値が互いに異なる9つのスパークプラグを用意し、
図11のグラフに示すように、(Vc+Vi)/Vhの値とプレイグニッションが発生する点火時期との関係を解析した。本解析は、上記表1の試料1~3、試料5~10を用いて行った。その他の試験条件は、実験例1と同様である。
【0058】
表1に示すごとく、試料5~7は長さD5(
図6参照)が2.5mm、試料1~3は長さD5が6.5mm、試料8~10は長さD5が11mmである。
図11のグラフにおいて、丸印は、試料5~7の解析結果をプロットしたものである。また、三角印は、試料1~3の解析結果をプロットしたものであり、四角印は、試料8~10の解析結果をプロットしたものである。また、
図11のグラフには、これらのプロットにおける近似直線を示した。
【0059】
図11のグラフに示すように、(Vc+Vi)/Vhの値が小さくなるに従って、プレイグニッションの発生する点火時期が進角することが分かる。また、長さD5が11mmであって、(Vc+Vi)/Vhの値が0.6を超える試料9、10は、プレイグニッションの発生する点火時期がそれぞれBTDC29°CAよりも低い結果となった。これらの結果より、体積Vhに対する、体積Vcに体積Viを加えた体積の値の割合を小さくするほど、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。
【0060】
また、
図11のグラフに示す近似直線より、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC29°CA以上となる(Vc+Vi)/Vhの値は0.6以下と推測された。また、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC45°CA以上となる(Vc+Vi)/Vhの値は、0.38以下と推測された。
【0061】
また、
図12は、体積Viと(Vc+Vi)/Vhの値との関係を示したグラフである。当該グラフにおいて、体積Vhは、0.557ccとした。
図12のグラフにおいて、丸印は、体積Vcを0.27ccとしたときの体積Viと(Vc+Vi)/Vhの値との関係を示し、四角印は、体積Vcを0.14ccとしたときの体積Viと(Vc+Vi)/Vhの値との関係を示す。当該グラフより、体積Vcを0.27ccとしたとき、(Vc+Vi)/Vhの値が0.6以下となる体積Viは、0.06cc以下となる。これより、下記式(5)を導くことができる。また、下記式(5)を変形すると、下記式(6)となる。
Vc+Vi≦0.27+0.06 ・・・(5)
Vc≦-Vi+0.33 ・・・(6)
【0062】
また、
図12のグラフより、体積Vcを0.14ccとしたとき、(Vc+Vi)/Vhの値が0.38以下となる体積Viは、0.07cc以下となる。これより、下記式(7)を導くことができる。また、下記式(7)を変形すると、下記式(8)となる。
Vc+Vi≦0.14+0.07 ・・・(7)
Vc≦-Vi+0.21 ・・・(8)
【0063】
また、
図13のグラフにおいて、直線L1は下記式(9)、直線L2は下記式(10)をそれぞれ表した直線である。下記式(9)は、上記式(6)の不等号を等号に変えたものであり、下記式(10)は、上記式(8)の不等号を等号に変えたものである。したがって、(Vc+Vi)/Vhの値が0.6以下となる体積Vcと体積Viとの組み合わせは、
図13のグラフおいて、直線L1から左側の領域となる。また、(Vc+Vi)/Vhの値が0.38以下となる体積Vcと体積Viとの組み合わせは、
図13のグラフおいて、直線L2から左側の領域となる。
Vc=-Vi+0.33 ・・・(9)
Vc=-Vi+0.21 ・・・(10)
【0064】
ここで、実験例1の
図10のグラフに示すように、Vc/Vhの値が0.5以下となる体積Vcは0.27cc以下である。したがって、Vc/Vhの値も含めて考慮すると、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC29°CA以上になると予想される体積Vcと体積Viとの組み合わせは、
図13のグラフおいて、直線L1から左側の領域であって、かつVcが0.27cc以下となる領域となる。つまり、当該領域の体積Vcと体積Viとの組み合わせとすることにより、自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いた際、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。
【0065】
また、実験例1の
図10のグラフにおいて、Vc/Vhの値が0.25以下となる体積Vcは0.14cc以下である。したがって、Vc/Vhの値も含めて考慮すると、プレイグニッションの発生する点火時期がBTDC45°CA以上になると予想される体積Vcと体積Viとの組み合わせは、
図13のグラフおいて、直線L2から左側の領域であって、かつVcが0.14cc以下となる領域となる。つまり、当該領域の体積Vcと体積Viとの組み合わせとすることにより、過給機を備えた自動車等の内燃機関用のスパークプラグとして用いたとしても、プレイグニッションを抑制することができると考えられる。
【0066】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、21…支承部、3…絶縁碍子、31…被支承部、4…中心電極、5…プラグカバー、6…接地電極、50…副燃焼室、51…噴孔、G…放電ギャップ、Z…プラグ軸方向