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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/18 20160101AFI20241112BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20241112BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241112BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P6/16
H02P21/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021021205
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123713
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海田 僧太
(72)【発明者】
【氏名】福原 仁
(72)【発明者】
【氏名】大野 悌
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154621(WO,A1)
【文献】特開平9-56185(JP,A)
【文献】特開2000-191248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/18
H02P 6/16
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の偏荷重が掛かるように構成された制御軸用のモータの動作に関連するフィードバック信号が入力される複数の制御器を含むフィードバック系を有するモータ制御装置であって、
前記複数の制御器に含まれる電流制御器において、前記モータに供給される電流に関連するd軸電流及びq軸電流を制御する電流制御部と、
前記電流制御部により前記モータに制御電流を印加することで、前記所定の偏荷重と該モータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態で、前記モータの磁極位置を検出する処理部と、
を備え、
前記処理部は、
前記所定の偏荷重と前記駆動力の釣り合い状態を保ちながら、前記電流制御部により、前記駆動力を形成する前記制御電流の位相と同位相で該制御電流を増加する第1処理と、該第1処理により前記可動子が変位した変位量と該第1処理で増加された前記制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置を算出する第2処理と、を実行するように構成される、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記第2処理において、前記変位量と前記増加された制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置を形成する所定の電流軸に対する、前記第1処理前の前記駆動力を形成する前記制御電流の位相ずれを算出し、該位相ずれにより該モータの磁極位置を算出する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記第1処理において、所定の時定数で前記制御電流を増加させる、
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記第1処理の前において、前記モータの前記可動子の制動状態を解消させたときに、前記フィードバック系により得られる前記可動子の速度情報に基づいて、該モータに制御電流を印加して、前記所定の偏荷重と該モータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態を形成する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータは、永久磁石同期型の回転モータ、又は永久磁石同期型のリニアモータである、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期モータは、高効率、省スペース等の利点を有することから普及が進んでおり、回転モータのみならずリニアモータとしても広く利用されている。永久磁石同期型の回転モータは、永久磁石を有する可動子(回転子)の磁極位置に応じた電圧を印加しないとトルクを発生できない等の問題があるので、磁極位置を正確に把握することが重要である。また、永久磁石型のリニアモータでは、一般的には固定子側に永久磁石を配置するが、回転モータの場合と同じように、可動子と固定子との相関において磁極位置を適切に把握して電圧印加を行わなければならない。周知のように、エンコーダを用いれば、その出力信号である位置信号に基づいてモータの速度及び磁極位置を演算することが可能であるが、インクリメンタルエンコーダを用いる場合には、電源投入時は初期磁極位置が不明であるため、この初期磁極位置を正確に検出して安定に起動する必要がある。
【0003】
また、モータの可動子に偏荷重が掛かっている場合、当該偏荷重により可動子が変位してしまうため偏荷重による影響を考慮して磁極位置の検出を行わなければならない。例えば、特許文献1に開示されている装置では、同期モータの電機子コイルに流す励磁電流によって決まる界磁位相の基準位相を中心に4種類の位相の電流を印加し、それぞれでのロータの角速度に基づいてモータの磁極位置が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-247881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に示す技術によれば、4種類の電流印加を行い、それぞれにおいてロータの角速度を検出する必要があるため、偏荷重の作用によりロータが過大に動かないように、電流印加を切り替える度にブレーキ等の制動手段で制動力を利かせる必要がある。そのため、モータの磁極位置検出に要する時間が長くなってしまう。また、磁極位置の検出の際に可動子を変位させる回数が多いと、その分、可動子に接続された負荷装置の不要な変位に繋がり、好ましくない。特に、偏荷重が掛かる構成においては、偏荷重により可動子が加速しやすい状況に置かれているため、磁極位置の検出において不要な可動子の変位は可及的に抑制するのが好ましい。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、偏荷重が掛かるように構成された制御軸用のモータの磁極位置の検出に際してモータの可動子の不要な動きを抑制し、且つ、磁極位置の検出に要する時間を可及的に短くする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係るモータ制御装置は、所定の偏荷重が掛かるように構成された制御軸用のモータの動作に関連するフィードバック信号が入力される複数の制御器を含むフィードバック系を有するモータ制御装置であって、前記複数の制御器に含まれる電流制御器において、前記モータに供給される電流に関連するd軸電流及びq軸電流を制御する電流制御部と、前記電流制御部により前記モータに制御電流を印加することで、前記所定の偏
荷重と該モータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態で、前記モータの磁極位置を検出する処理部と、を備える。そして、前記処理部は、前記所定の偏荷重と前記駆動力の釣り合い状態を保ちながら、前記電流制御部により、前記駆動力を形成する前記制御電流の位相と同位相で該制御電流を増加する第1処理と、該第1処理により前記可動子が変位した変位量と該第1処理で増加された前記制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置を算出する第2処理と、を実行するように構成される。
【0008】
上記モータ制御装置は、複数の制御器を含むフィードバック系を有しており、これらの制御器によってモータのサーボ制御が実現される。当該フィードバック系は特定の形態のものに限定されない。複数の制御器には、モータへの駆動電流を供給するインバータ等の電力変換器への電圧指令を生成する電流制御器が含まれる。電流制御部は、この電流制御器によりモータのベクトル制御を実現するために、d軸電流及びq軸電流を制御する。更に、フィードバック系には、電流制御器以外に、少なくともモータの動作をサーボ制御するための、電流制御器より上位側の制御器が含まれてもよい。上位側の制御器としては、位置制御器や速度制御器が例示できる。
【0009】
ここで、処理部は、モータに制御電流を印加して所定の偏荷重とモータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態で、第1処理、第2処理の順で処理を行うことで、モータの磁極位置を検出する。この磁極位置の検出は、例えば、モータ制御装置への電力供給が再開されたときに行われてもよく、その他、ユーザが必要とする任意のタイミングで行われてもよい。第1処理では、所定の偏荷重と駆動力の釣り合い状態において、その釣り合いのための駆動力を形成する制御電流の位相と同位相で該制御電流を増加する。このときは、電源投入後モータの磁極位置の検出は行われていないため、モータ制御装置が暫定的に保持する磁極位置を前提として上記制御電流の印加、及び第1処理における制御電流の増加処理が行われればよい。
【0010】
ここで、フィードバック系により、第1処理により増加された制御電流による駆動力と偏荷重との釣り合い状態が維持されるため、モータの可動子が変位する。この可動子の変位量は、フィードバック系による電流制御部での電流制御に関連し、第1処理により増加された制御電流と所定の相関を有することを見出した。d軸とq軸は直交座標を形成するため、当該変位量と増加された制御電流との間には、例えば、所定の三角関数で表される相関を有する。そこで、第2処理では、第1処理を経た可動子の変位量と第1処理で増加された制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置が算出される。例えば、当該相関を踏まえて、前記処理部は、前記第2処理において、前記変位量と前記増加された制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置を形成する所定の電流軸に対する、前記第1処理前の前記駆動力を形成する前記制御電流の位相ずれを算出し、該位相ずれにより該モータの磁極位置を算出してもよい。なお、両者の相関は、三角関数で表される関係以外の相関、例えば、両者の数値関係を1対1で画定する相関であってもよい。
【0011】
このような構成により、上記のモータ制御装置は、モータの磁極位置を検出することができる。このとき、フィードバック系の制御器によって所定の偏荷重と上記駆動力とを釣り合わせた状態に置くため、モータの可動子が移動する量を可及的に抑制することができる。また、従来技術の電流指令の印加技術のように多回数、所定の処理を繰り返す必要はないため、磁極位置の検出に要する時間の短縮を図ることができる。
【0012】
ここで、上述までのモータ制御装置において、前記処理部は、前記第1処理において、所定の時定数で前記制御電流を増加させてもよい。第1処理において制御電流の増加が急
峻に行われると、フィードバック系を介した電流制御部による可動子の変位が振動的となり、モータの磁極位置の検出の精度に好ましくない影響を及ぼし得る。そこで、制御電流の増加処理を所定の時定数で行うのが好ましい。
【0013】
ここで、上述までのモータ制御装置において、前記処理部は、前記第1処理の前において、前記モータの前記可動子の制動状態を解消させたときに、前記フィードバック系により得られる前記可動子の速度情報に基づいて、該モータに制御電流を印加して、前記所定の偏荷重と該モータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態を形成してもよい。モータの可動子の制動状態を解消させた時点では、まだモータの磁極位置は検出されていない。そこで、所定の偏荷重を受ける場においても可動子の速度が零となるように、換言すれば可動子が固定子と可動子との間に作用する駆動力で停止するように、モータ制御装置が有する暫定的な磁極位置に従ってモータへの制御電流の印加が行われ、第1処理及び第2処理のための釣り合い状態が形成される。
【0014】
そして、第1処理における制御電流の増加処理は、この釣り合い状態を形成するための制御電流を起点として行われる。すなわち、釣り合い状態を形成している制御電流の位相(モータ制御装置が有する暫定的な磁極位置に従った位相)を保ちながら、その電流値を増加させる。また、1処理及び第2処理のための釣り合い状態を形成するための制御電流の印加は、上記以外の形態を採用してもよい。例えば、フィードバック系により得られる可動子の位置情報や加速度情報を利用して、制御電流を印加するようにしてもよく、それ以外の制御電流の印加の形態を採用してもよい。
【0015】
また、上述までのモータ制御装置に係る技術思想は、永久磁石同期型の回転モータ、永久磁石同期型のリニアモータの何れにも適用することができる。
【発明の効果】
【0016】
偏荷重が掛かるように構成された制御軸用のモータの磁極位置の検出に際してモータの可動子の不要な動きを抑制し、且つ、磁極位置の検出に要する時間を可及的に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るサーボドライバを含むサーボシステムの概略構成を示す図である。
図2】サーボドライバが有するフィードバック系の制御構造を示す図である。
図3】サーボドライバが有する電流制御器の制御構造を示す図である。
図4】垂直軸において、ブレーキの解放後、可動子の釣り合い状態を形成するための方法の説明図である。
図5】本発明のサーボドライバによるモータの磁極位置の推定方法を説明するための第1の図である。
図6】本発明のサーボドライバによるモータの磁極位置の推定方法を説明するための第2の図である。
図7】本発明のサーボドライバによるモータの磁極位置の推定処理の流れを示すフローチャートである。
図8】モータの磁極位置の推定処理において、制御電流の増加推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本開示では、サーボシステムの一つの例示的形態として、産業用システムを示す。しかしながら、本発明に係るサーボシステムの用途は特に限定されるものではない。なお、本願明細書で示される位相は、特段の記載がない場合は、電気角に基づくものである。
【0019】
<実施例1>
図1は、本発明の実施の形態に係るサーボドライバ4を含む制御システムの概略構成図である。制御システムは、ネットワーク1と、モータ2と、負荷装置3と、サーボドライバ4と、PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。当該制御システムでは
、PLC5で動作指令信号が生成され、それがネットワーク1を介してサーボドライバ4に届けられる。そして、サーボドライバ4は、その動作指令信号に従って制御対象とされる負荷装置3を駆動するように構成されたモータ2をサーボ制御する。ここで、負荷装置3としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示でき、モータ2はその負荷装置3を駆動するアクチュエータとして負荷装置3に取り付けられている。例えば、モータ2は、ACサーボモータである。
【0020】
モータ2にはエンコーダ21が取り付けられており、エンコーダ21によりモータ2の動作に関するパラメータ信号がサーボドライバ4の制御部40にフィードバック送信されている。エンコーダ21は、インクリメンタル方式のエンコーダである。制御部40にフィードバック送信されるパラメータ信号(以下、フィードバック信号という)は、たとえばモータ2の可動子位置についての位置情報、その可動子の速度の情報等を含む。また、モータ2は、負荷装置3における垂直軸(Z軸)を駆動するためのアクチュエータであり、制動のためのブレーキ装置22を備えている。なお、ブレーキ装置22は、モータ2とは別体に、負荷装置3の垂直軸に対して制動力を付与するように構成されてもよい。ブレーキ22の制動及びその解除は、図示しないブレーキ信号線を介してサーボドライバ4からの制御信号により実行される。
【0021】
また、サーボドライバ4の制御部40は、PLC5からの動作指令信号およびエンコーダ21からのフィードバック信号に基づいてモータ2のサーボ制御を行い、インバータ6を介してモータ2に駆動電流を供給する。この供給電流は、交流電源7からインバータ6に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、インバータ6は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、サーボドライバ4の制御部40は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を含むフィードバック系を備えている。
【0022】
ここで、図2に基づいて、サーボドライバ4の制御部40が有するフィードバック系の制御構造について説明する。制御部40のフィードバック系は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を備えている。位置制御器41は、例えば、比例制御(P制御)を行う。具体的には、PLC5からの位置指令P_refとモータ2の位置現在値P_actとの偏差である位置偏差に、所定の位置比例ゲインを乗ずることにより速度指令V_refを算出する。なお、位置現在値P_actは、エンコーダ21の出力が位置検出器45に入力されて得られる、モータ2の現在位置を意味するパラメータである。
【0023】
速度制御器42は、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、位置制御器41により算出された速度指令V_refとモータ2の速度現在値V_actとの偏差である速度偏差の積分量に所定の速度積分ゲインを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に所定の速度比例ゲインを乗ずることにより、トルク指令τ_refを算出する。また、速度制御器42はPI制御に代えてP制御を行ってもよい。なお、速度現在値V_actは、位置検出器45の出力が速度検出器46に入力されて得られる、モータ2の現在速度を意味するパラメータである。
【0024】
電流制御器43は、速度制御器42により算出されたトルク指令τ_refと、モータ2の位置現在値P_act及び速度現在値V_actと、インバータ6からモータ2に供給されている駆動電流とに基づいて電流指令を生成し、当該電流指令に基づいて三相交流モータの各相に対応する電圧指令をインバータ6に出力する。当該電圧指令を受けたイン
バータ6は、モータ2の各相(U相、V相、W相)に駆動電圧を印加しモータ2を駆動制御する。なお、モータ2に供給されている駆動電流は、電流検出器44により検出される。図2においては、モータ2の各相に対応する構成は簡略化されて記載されているが、実際には電流検出器44は、モータ2の各相の巻線に流れる電流を検出し、その各相の電流の値を電流制御器43に返している。電流制御器43は、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含んでもよい。
【0025】
次に、図3に基づいて、電流制御器43において形成されている制御構造について説明する。電流制御器43においてはベクトル制御が行われている。そこで、電流制御器43に入力されたトルク指令τ_refは、先ず電流指令演算器51に入力される。電流指令演算器51には、更にモータ2の速度現在値V_actが入力され、d軸電流指令Id_refとq軸電流指令Iq_refが生成される。そして、d軸電流指令Id_refと、モータ2に現在流れているd軸電流Idとの偏差がd軸電流制御器52に入力され、q軸電流指令Iq_refと、モータ2に現在流れているq軸電流Iqとの偏差がq軸電流制御器53に入力される。なお、モータ2に現在流れているd軸電流Idとq軸電流Iqは、電流検出器44によって検出されたモータ2のU相、V相、W相を流れる電流Iu、Iv、Iwが電流座標変換器56に入力され、そこでdq変換処理を施すことで算出される。
【0026】
d軸電流制御器52は、モータ2の物性パラメータを考慮して、入力されたd軸電流の偏差から、d軸に関する電圧指令Vdを算出し、同じように、q軸電流制御器53は、モータ2の物性パラメータを考慮して、入力されたq軸電流の偏差から、q軸に関する電圧指令Vqを算出する。算出された電圧指令Vd、Vqは電圧座標変換器54に入力される。電圧座標変換器54は、入力されたd軸に関する電圧指令とq軸に関する電圧指令に対して、dq軸から三相への変換処理を施し、モータ2の各相への印加電圧の電圧指令Vu、Vv、Vwを生成する。これらの電圧指令はPWM演算部55に引き渡され、そこでインバータ6への指令として形成され、インバータ6に送られる。
【0027】
このように構成されるサーボドライバ4において、その電源を一度OFFにし、その後、再び電源を投入したとき、モータ2のエンコーダ21はインクリメンタル方式のエンコーダであるため、モータ2のサーボ制御を開始する前に、その磁極位置を検出しなければならない。磁極位置を正確に検出しなければモータ2の好適なサーボ制御が困難となり、また、一般的には、電源投入後には速やかで安全なモータ2の稼働が望まれる。そこで、モータ2の磁極位置の検出処理に要する時間を可及的に短くし、且つ、その検出処理の間にモータ2の出力軸の不要な動きを抑制できる磁極位置の検出処理の原理について、以下に説明する。
【0028】
ここで、図1に示すように、モータ2は負荷装置3の垂直軸を駆動するアクチュエータである。そのため、垂直軸における駆動対象の重力に起因する偏荷重がモータ2の出力軸に掛かっている。本実施形態では、偏荷重が鉛直方向に掛かるものとする。したがって、例えば、サーボドライバ4への電力供給が停止した状態から電力の供給を再開した時点、すなわち、サーボドライバ4の電源投入時においては、モータ2の磁極位置が正確に検出されていない状態、すなわち、サーボドライバ4が暫定的に保持しているd軸とq軸は、
モータ2の可動子(ロータ)に基づいて理論的に設定される軸とずれた状態となっている。そのため、モータ2の好適なサーボ制御のために、磁極位置の検出処理を行う必要がある。なお、磁極位置の検出処理は、電源投入時ではなく、電源投入後にユーザが必要とする任意のタイミングで行われてもよい。
【0029】
ここで、サーボドライバ4の電源がオフにされモータ2が停止している間、モータ2の出力軸を制動するためにブレーキ装置22により所定の制動力が出力軸に付与されている
。そして、モータ2をサーボ制御するためにサーボドライバ4の電源が投入されると、ブレーキ装置22による制動状態が解除されるが、その場合、偏荷重が作用することで、負荷装置3における移動体(モータ2により駆動される物体)が鉛直方向に落下し、それに伴いモータ2の可動子が変位する。
【0030】
本実施形態の磁極位置の検出処理においては、ブレーキ装置22による制動の解除後に、モータ2の可動子に掛かる偏荷重と、モータ2の固定子側から受ける駆動力(磁力)とが釣り合った状態で行われる。そこで、図4に基づいて、当該釣り合い状態を形成するための手法について説明する。図4は、ブレーキ装置22による制動が解除され、偏荷重によりモータ2の可動子が変位を開始したときの、固定子に対する可動子の位置や姿勢を、時間の経過とともに重ねて模式的に記載したものである。図4において、固定子には永久磁石が設けられ、その磁極はN極とS極が交互に配置されている。一方で、可動子に形成される磁極は、巻線等のコイルにより制御可能に形成される。また、図4においては、本願開示を理解しやすくするために、モータ2の可動子と固定子を永久磁石同期型のリニアモータの形態に従って記載しているが、これにはモータ2として永久磁石同期型の回転モータを排除する意図は無い。モータ2が永久磁石同期型の回転モータであっても原理的には図4に示す形態で表現できることは、当業者であれば理解できる。
【0031】
ここで、図4の左側(a)には、従来技術の形態による釣り合い状態の形成の様子が示されている。従来技術においては、ブレーキ装置22による制動が解除された後、可動子の巻線に流れる制御電流の位相は一定とされる。この場合、その磁極の向きは固定されたまま、偏荷重に従って可動子は固定子に対して変位していく。このとき、可動子の磁極と固定子の磁極とによって引力f1が発生した状態が示されている。この引力f1の垂直方向の分力をf11、水平方向の分力をf12とすると、分力f11は、偏荷重f2に抗するように発生する。したがって、分力f11と偏荷重f2が釣り合えば可動子を固定子に対して固定することができる。しかし、従来技術においては、可動子の磁極の向きが固定されているため、固定子側に発生する磁極との間で生じる引力や斥力によって可動子の動きを止める状態を速やかに形成する機会が限られる。そのため、落下により可動子の速度が上昇すると必ずしも可動子を止めることができるわけではない。例えば、図4(a)に示す状態で、分力f11がf2より小さい場合、可動子は止まらず、偏荷重によって更に加速し落下していく。また、瞬時的に分力f11がf2と釣り合ったとしても、落下速度が大きくなると、速度の影響で可動子はすぐに止まることは困難であり、その結果、次の固定子側に引き込まれる位置まで落下し続けてしまうと、可動子の速度が更に上昇し、可動子を止めにくくなる。
【0032】
これに対して、本願開示では、図4の右側(b)に示すように、ブレーキ装置22による制動が解除された後、制御部40のフィードバック系のフィードバック信号に基づいて、可動子の磁極の向きを好適にサーボ制御しながら、偏荷重に従って可動子は固定子に対して変位していく。具体的には、図2及び図3に示すフィードバック系において、速度指令V_refとして速度0の信号を入力するとともに、フィードバックされる速度現在値V_actと速度指令V_refに基づいて電流制御器43による電流制御が行われ、可動子の巻線に制御電流が印加される。これにより、可動子と固定子との間に、可動子を止めるための引力又は斥力を速やかに発生させる。図4(b)では、可動子の磁極と固定子の磁極とによって斥力f3が発生した状態が示されている。この斥力f3の垂直方向の分力をf31、水平方向の分力をf32とすると、分力f31は、偏荷重f4に抗するように発生する。そして、分力f31と偏荷重f4が釣り合えば可動子を固定子に対して固定することができる。図4(b)の形態では、速やかに好適な引力又は斥力を発生させることができるため、図4(a)に示すように可動子の速度が大きく上昇してしまう前にその速度を効果的に低減させ、好適にモータ2の可動子に掛かる偏荷重と、モータ2の固定子側から受ける駆動力とを釣り合わせることができる。
【0033】
なお、上記の制御部40のフィードバック系のフィードバック信号に基づいた可動子の磁極の向きの制御について、速度現在値V_actが利用されているが、当該速度現在値V_actは、可動子の速度及びその移動方向に関する情報を含んでいることは理解できる。また、可動子の速度に関する情報の他に、可動子の位置に関する情報(例えば、位置現在値P_act)や可動子の加速度に関する情報(例えば、速度現在値V_actを更に微分して算出される値)も利用して可動子の磁極の向きの制御を行ってもよい。可動子の位置に関する情報を利用する場合には、位置指令P_refとして固定位置とするための信号を入力し、可動子の加速度に関する情報を利用する場合には、トルク指令τ_refとしてトルク0の信号を入力すればよい。
【0034】
図4(b)に示すようにモータ2の可動子に掛かる偏荷重と、モータ2の固定子側から受ける駆動力とを釣り合わせることで、モータ2の磁極位置の検出処理を安定的に行うことができる。次に、図5及び図6に基づいて、モータ2の磁極位置の検出処理について説明する。図5において、モータ2の固定子側に設定された直交座標をα軸、β軸で表している。上述したフィードバック系による制御電流が印加されて、上記の釣り合い状態が形成されているときの、印加電流の電流指令をIrefとする。この時点では、サーボドライバ4は図5に示すd軸及びq軸の正確な位置は把握しておらず、暫定的に保持している磁極情報に基づいて電流指令Irefを出力している。
【0035】
図5においては、電流指令演算器51によって生成された電流指令Irefに対応する電流がベクトルV1で表されている。そして、ベクトルV1の方向をα’軸とし、それに直交する方向をβ’軸とする。また、α’軸とd軸とが為す角をθbarとする。ここで、ベクトルV1のd軸成分のベクトルをV2とし、q軸成分のベクトルをV3とすると、当該ベクトルV3で表されるq軸電流が、偏荷重と釣り合うための駆動力を発生させる電流成分となる。図5に示すベクトルの相関を見ると、ベクトルV1とベクトルV2の為す角θbarを算出することで、電流指令Irefの位相を基にd軸、q軸の位置を検出可能であることが理解できる。
【0036】
次に、図6では、図5に示すα’軸とβ’軸とによる直交座標に、改めてベクトルV1(電流指令Irefに対応)、ベクトルV2(d軸電流指令に対応)、ベクトルV3(q軸電流指令に対応)を配置する。ここで、上記釣り合い状態の形成のためのフィードバック系による制御を維持した状態で、電流指令Irefの位相を固定したままその指令値を増加させる。図6においては、増加された電流指令Iref’に対応する電流はベクトルV10で表されている。このように制御部40が有するフィードバック系により釣り合いを維持した状態で電流指令を増加させる処理を「第1処理」とする。
【0037】
ここで、第1処理により電流指令がIrefからIref’に増加されてもフィードバック系により釣り合い状態が維持されるため、モータ2の可動子が変位(回転)することになる。この回転について説明する。電流指令がIref’に増加されると、偏荷重に対応するq軸電流を流すべくq軸電流指令Iq’が形成されるとともに、d軸電流を流すべくd軸電流指令Id’が一義的に形成される。d軸電流指令Id’及びq軸電流指令Iq’に対応する電流がそれぞれベクトルV20、V30で表されている。そして、ベクトルV20はベクトルV2に対してΔθずれており、同じようにベクトルV30はベクトルV3に対してΔθずれている。したがって、このベクトルのずれΔθ(電気角)に対応する分だけ、モータ2の可動子が変位することになる。
【0038】
そこで、第1処理により可動子が変位した変位量(上記のΔθに相当する)と、第1処理で増加された制御電流(上記のベクトルV10による電流)とに基づいて、モータ2の磁極位置を算出する第2処理が行われる。上記の通り、モータ2の磁極位置は、θbar
を算出すればよい。具体的には、偏荷重への釣り合いの観点からベクトルV3とベクトルV30の大きさは等しくなることから、下記の式1が成立する。
【数1】

・・・(式1)
そして、式1に基づいて、θbarを導出する式2は下記の通りとなる。
【数2】

・・・(式2)
したがって、電流指令Iref、Iref’、変位量Δθに基づいて、式2からθbarが算出できる。そして、電流指令Irefの位相とθbarに基づいて、モータ2の磁極位置を算出することができる。
【0039】
続いて、サーボドライバ4の電源投入時に実行されるモータ2の磁極位置の検出処理の流れについて、図7に基づいて説明する。図7に示す検出処理は、サーボドライバ4の電源投入時に、サーボドライバ4の制御部40において所定の制御プログラムが実行されることで実現される。先ずS101では、モータ2が有するブレーキ装置22に対して解除指令が送られ、ブレーキ装置22による制動状態が解除される。この結果、モータ2の可動子に偏荷重が掛かることになり、その偏荷重による変位が生じ始める。そこで、続くS102では、図4(b)に基づいて説明したように、制御部40のフィードバック系において、速度指令V_refとして速度0の信号を入力するとともに、フィードバックされる速度現在値V_actと速度指令V_refに基づいて電流制御器43による電流制御が行われる。この結果、モータ2に制御電流が印加され、速やかに可動子と固定子との間に可動子を停止させるための駆動力が生じる。
【0040】
ただし、何らかの理由で、上記駆動力によっても可動子の速度が十分に低減されなかった場合、可動子が可動範囲の端部まで落下して負荷装置3を破損させてしまう恐れがある。そこで、S103では、S102で行われている電流制御において可動子の速度が所定速度を超えたか否かが判定される。所定速度とは、上記駆動力によって可動子を停止させることが困難となる落下速度であり、事前の実験等によって適宜設定すればよい。そして、S103で肯定判定されると、処理はS107へ進み、ブレーキ装置22を作動させてその制動力によって可動子を停止させ、本検出処理を終了する。一方で、S103で否定判定されるとS104へ進み、S104では、可動子に掛かる偏荷重と上記駆動力とが釣り合って、可動子が停止したか否かが判定される。当該釣り合いは、フィードバック系における速度現在値V_actを利用して判定できる。S104で肯定判定すると処理はS105へ進み、否定判定するとS102以降の処理が繰り返される。
【0041】
そして、S105では、上述した第1処理が行われ、続いてS106では、上述した第2処理が行われる。これらの処理の結果、負荷装置3において偏荷重が掛かる垂直軸を駆動するモータ2の磁極位置が正確に検出されることになる。また、第1処理及び第2処理による磁極位置の検出処理では、モータ2の可動子は上記Δθに対応する分だけしか変位しないため、磁極位置の検出処理に要する時間も短くできる。なお、上記の第1処理では、電流指令IrefをIref’に増加させるが、その増加を急峻に行うと、モータ2の可動子のΔθの変位が振動的となり、モータ2の磁極位置の検出精度に好ましくない影響
を及ぼし得る。そこで、第1処理における電流指令の増加(IrefからIref’への増加)については、図8に示すように、所定の時定数Tdで当該IrefからIref’に至るように、電圧座標変換器54から電圧指令を出力するようにすればよい。
【0042】
なお、本願の開示は、モータ2が永久磁石同期型の回転モータの場合、永久磁石同期型のリニアモータの場合の何れにも適用することができる。
【0043】
また、第1処理及び第2処理による磁極位置の検出処理を行うために、可動子に掛かる偏荷重と、可動子と固定子との間の駆動力とを釣り合わせる必要があるが、その釣り合い状態を形成する手法としては、図4(b)に基づいて説明した上記手法以外の方法を採用することもできる。例えば、図4(a)に示した従来技術による手法でも釣り合い状態を形成できるのであれば、その後に続いて第1処理及び第2処理による磁極位置の検出処理を行うことができる。
【0044】
<付記1>
所定の偏荷重が掛かるように構成された制御軸用のモータ(2)の動作に関連するフィードバック信号が入力される複数の制御器を含むフィードバック系を有するモータ制御装置(4)であって、
前記複数の制御器に含まれる電流制御器(43)において、前記モータ(2)に供給される電流に関連するd軸電流及びq軸電流を制御する電流制御部と、
前記電流制御部により前記モータ(2)に制御電流を印加することで、前記所定の偏荷重と該モータの固定子から可動子が受ける駆動力とを釣り合わせた状態で、前記モータ(2)の磁極位置を検出する処理部と、
を備え、
前記処理部は、
前記所定の偏荷重と前記駆動力の釣り合い状態を保ちながら、前記電流制御部により、前記駆動力を形成する前記制御電流の位相と同位相で該制御電流を増加する第1処理(S105)と、該第1処理により前記可動子が変位した変位量と該第1処理で増加された前記制御電流とに基づいて、前記モータの磁極位置を算出する第2処理(S106)と、を実行するように構成される、
モータ制御装置。
【符号の説明】
【0045】
2 モータ
3 負荷装置
4 サーボドライバ
5 PLC
6 インバータ
21 エンコーダ
22 ブレーキ装置
41 位置制御器
42 速度制御器
43 電流制御器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8