(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ストレイナ装置
(51)【国際特許分類】
G10D 13/18 20200101AFI20241112BHJP
G10D 13/02 20200101ALI20241112BHJP
【FI】
G10D13/18
G10D13/02 100
(21)【出願番号】P 2021027781
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】内田 悠希
(72)【発明者】
【氏名】石松 徳彦
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-151296(JP,A)
【文献】特開2010-230849(JP,A)
【文献】特開2005-227660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0079686(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0219084(US,A1)
【文献】中国実用新案第2854757(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 13/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムのシェルに固定される固定部と、
前記固定部に対して回動中心を中心として回動操作可能な操作部と、
前記操作部の操作に応じて前記固定部に対して移動することにより、スナッピーを、ドラムヘッドに接触するオン状態と前記ドラムヘッドから離れるオフ状態とに遷移させる可動部と、
押し付け部材と、
前記可動部および前記操作部のいずれか一方に設けられ、カム面を有するカム部と、
前記可動部および前記操作部のいずれか他方に設けられ、前記押し付け部材によって前記カム部の前記カム面側へ押し付けられつつ、前記カム部における第1位置と第2位置との間を、前記操作部の回動に応じて前記カム部に対して相対的に変位するフォロワであって、前記押し付け部材と前記カム面との協働により前記フォロワに作用する力の、前記カム部に対する相対的な方向が、前記フォロワが前記第1位置にあるときには、前記カム部に対する前記フォロワの相対的な移動行程における途中位置から見て前記第1位置側となり且つ、前記フォロワが前記第2位置にあるときには前記途中位置から見て前記第2位置側となる前記フォロワと、を有する、ストレイナ装置。
【請求項2】
前記フォロワに作用する前記力の、前記カム部に対する相対的な方向が、前記途中位置で、前記第1位置側と前記第2位置側とに切り替わる、請求項1に記載のストレイナ装置。
【請求項3】
前記フォロワが前記途中位置よりも前記第1位置側にあるときに前記フォロワに作用する前記力の前記相対的な方向は前記途中位置から見て前記第1位置側となり、前記フォロワが前記途中位置よりも前記第2位置側にあるときに前記フォロワに作用する前記力の前記相対的な方向は前記途中位置から見て前記第2位置側となる、請求項2に記載のストレイナ装置。
【請求項4】
前記押し付け部材は捻りバネであり、
前記フォロワが前記第1位置に位置する場合における前記捻りバネの開き度合いおよび前記フォロワが前記第2位置に位置する場合における前記捻りバネの開き度合いはいずれも、前記捻りバネの自由状態における開き度合いより小さく且つ、前記フォロワが前記途中位置に位置する場合における前記捻りバネの開き度合いよりも大きい、請求項2または3に記載のストレイナ装置。
【請求項5】
前記捻りバネの一端は、前記フォロワと一体になった部分と接し、前記捻りバネの他端は、前記カム部と一体となった部分と接する、請求項4に記載のストレイナ装置。
【請求項6】
前記第1位置は、前記スナッピーの前記オン状態に対応し、前記第2位置は、前記スナッピーの前記オフ状態に対応し、
前記カム面における前記途中位置は、前記第2位置よりも前記第1位置に近い位置であって且つ凸部となっており、
前記凸部を前記フォロワが移動する際、前記フォロワにクリック感が生じる、請求項2乃至5のいずれか1項に記載のストレイナ装置。
【請求項7】
前記操作部は、ベアリングを介して回動可能に前記固定部に支持される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のストレイナ装置。
【請求項8】
前記ベアリングは、前記回動中心の軸線方向における2カ所に配置される、請求項7に記載のストレイナ装置。
【請求項9】
前記カム面は、前記カム部に対する前記フォロワの相対的な軌跡曲線が前記回動中心を中心とする等角螺旋上に位置する領域を含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のストレイナ装置。
【請求項10】
前記押し付け部材が前記フォロワに与える力のベクトルと、前記フォロワと前記カム面との接点を通る法線とが、前記カム部に対する前記フォロワの相対的な移動行程の途中位置で平行になる、請求項1に記載のストレイナ装置。
【請求項11】
前記フォロワが前記途中位置よりも前記第1位置側にあるとき、前記ベクトルは、前記回動中心側においては前記法線より前記第1位置側にあり、
前記フォロワが前記途中位置よりも前記第2位置側にあるとき、前記ベクトルは、前記回動中心側においては前記法線より前記第2位置側にある、請求項10に記載のストレイナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムに取り付けられるストレイナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スネアドラム等のドラムで用いられるストレイナ装置は、ドラムのシェルに取り付けられる固定部と、固定部に対して可動する可動部とを有する。可動部にはスナッピーが装着され、レバーを回動操作することで、スナッピーをドラムヘッドに接触させるオン位置と、スナッピーをドラムヘッドから離すオフ位置とに可動部を変位させることができる。ドラム本体は、持ち運びなどの際に上下反転する姿勢になることがある。その際、レバーが自重で回動すると、スナッピーの位置が不用意に変わってしまう。
【0003】
そこで、特許文献1は、オン位置、オフ位置のそれぞれで、スナッピー(スネアワイヤ)の位置を保持する機構を設けている。例えば、オン位置に関しては、ロックピンが凹部に嵌まることでオン位置が保持される。オフ位置に関しては、スナッピーをドラムヘッドから離れる方向に押すスプリングを設けることで、オフ位置が保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、スナッピーをオン位置とオフ位置のそれぞれで保持するために、ロックピン、スプリングといった別々の部材を設ける必要があり、構成が簡単ではない。
【0006】
本発明の一つの目的は、簡単な構成で、スナッピーのオン状態およびオフ状態を安定的に維持することができるストレイナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態によれば、ドラムのシェルに固定される固定部と、前記固定部に対して回動中心を中心として回動操作可能な操作部と、前記操作部の操作に応じて前記固定部に対して移動することにより、スナッピーを、ドラムヘッドに接触するオン状態と前記ドラムヘッドから離れるオフ状態とに遷移させる可動部と、押し付け部材と、前記可動部および前記操作部のいずれか一方に設けられ、カム面を有するカム部と、前記可動部および前記操作部のいずれか他方に設けられ、前記押し付け部材によって前記カム部の前記カム面側へ押し付けられつつ、前記カム部における第1位置と第2位置との間を、前記操作部の回動に応じて前記カム部に対して相対的に変位するフォロワであって、前記押し付け部材と前記カム面との協働により前記フォロワに作用する力の、前記カム部に対する相対的な方向が、前記フォロワが前記第1位置にあるときには、前記カム部に対する前記フォロワの相対的な移動行程における途中位置から見て前記第1位置側となり且つ、前記フォロワが前記第2位置にあるときには前記途中位置から見て前記第2位置側となる前記フォロワと、を有する、ストレイナ装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一形態によれば、簡単な構成で、スナッピーのオン状態およびオフ状態を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ストレイナ装置が適用される打楽器の斜視図である。
【
図4】
図2のA-A線に沿う可動側ストレイナの断面を示す斜視図である。
【
図5】固定部、可動部およびレバーの位置関係を示す模式図である。
【
図6】固定部、可動部およびレバーの位置関係を示す模式図である。
【
図10】変形例の可動側ストレイナの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るストレイナ装置が適用される打楽器100の斜視図である。この打楽器100は、一例としてスネアドラムである。打楽器100はシェル103を有する。シェル103の円筒形状における一方の(表面側の)開口にバターヘッドが配置されると共に、他方の(裏面側の)開口にレゾナンスヘッド104(ドラムヘッド)が配置される。シェル103の外周面には不図示の複数のラグが等間隔に固定される。スナッピー105が、レゾナンスヘッド104の外面に設けられる。スナッピー105はスネアワイヤとも呼ばれる。
【0012】
シェル103の外周面において、シェル103の直径方向に沿った対称位置に、一対のストレイナ装置が配置される。ストレイナ装置は、可動側ストレイナ101と固定側ストレイナ102とからなる。これらはラグを避けた位置に配置される。可動側ストレイナ101、固定側ストレイナ102の各々をストレイナ装置と呼称してもよい。スナッピー105の両端が、紐部材やテープ材等によってストレイナ101、102に接続される。
【0013】
以降、主として可動側ストレイナ101について説明する。可動側ストレイナ101は、主な構成要素として、固定部10、可動部20およびレバー30(操作部)を有する。固定部10はシェル103に固定される。可動部20は、シェル103の中心軸線方向(上下方向)において固定部10に対して相対的に移動可能に設けられる。詳細は後述するが、可動部20は、ユーザによるレバー30の回動操作に応じて固定部10に対して移動する。可動部20は、移動することにより、スナッピー105を、レゾナンスヘッド104に接触するオン状態とレゾナンスヘッド104から離れるオフ状態とに遷移させる。
【0014】
図2は、可動側ストレイナ101の背面図である。なお、可動側ストレイナ101がシェル103に対向する側を背面側とする。
図3は、可動側ストレイナ101の側面図である。
図4は、
図2のA-A線に沿う可動側ストレイナ101の断面を示す斜視図である。ただし、
図2、
図3ではレバー30がオン状態に対応する回動位置にあり、
図4では、レバー30がオン状態とオフ状態との間に対応する回動位置にある。
【0015】
固定部10は、ケース13および取り付け部11、12を含む。取り付け部11、12はケース13に固定されている。取り付け部11、12がシェル103にネジで固定されることにより、固定部10がシェル103に取り付けられる。
【0016】
図4に示すように、可動部20は、主として、第1移動体21、第2移動体22、調整つまみ25および調整ボルト24を含む。第1移動体21にはスナッピー105から延びる不図示の紐部材がネジ23によって固定される。調整つまみ25と調整ボルト24とは、ナット28を介して固定されている。調整ボルト24は第2移動体22内で回転可能である。調整つまみ25が回転操作されると、それに応じて調整ボルト24が回転する。調整ボルト24の雄ネジ部29は第1移動体21の雌ネジ部と噛み合っている。調整ボルト24の軸線方向はシェル103の中心軸線方向と平行である。調整ボルト24が回転すると、調整ボルト24の軸線方向における調整ボルト24に対する第1移動体21の位置が変化する。従って、ユーザは例えば、オン状態で調整つまみ25を回転操作することで、スナッピー105の張り具合(張力)を調整することができる。
【0017】
調整ボルト24の外周と第2移動体22との間にスプリング27が配置されている。スプリング27は、第1移動体21を下方に押しており、第1移動体21と第2移動体22とのがたつきが抑制される。調整ボルト24の首元付近において、Oリング26が設けられている。Oリング26は、調整つまみ25に形成された外周溝に嵌まると共に、第2移動体22の内周面に接している。Oリング26が接する第2移動体22の内周面にはネジが形成されていない。調整つまみ25が回転操作される際、調整つまみ25は、第2移動体22の内周面に対してOリング26を介して滑る。Oリング26は弾性によって調整つまみ25と第2移動体22の内周面とを押しているので、調整つまみ25の緩み止めの機能を果たす。調整ボルト24の雄ネジ部29は第1移動体21の雌ネジ部との噛み合い箇所でロックされる構成が一般的である。しかし、本実施の形態では、Oリング26を設けたので、回転方向における第2移動体22に対する調整つまみ25および調整ボルト24の緩みを抑制することができる。
【0018】
第2移動体22に対する第1移動体21の位置が調整された状態で、レバー30の回動操作によって第1移動体21と第2移動体22とは一体に移動する。ユーザは通常、調整ボルト24に対する第1移動体21の位置を所望に調整した状態で、レバー30の回動操作によって可動部20を移動させることで、オン状態とオフ状態とを切り替える。
【0019】
レバー30には、ネジ35とナット43とが固定されている。ネジ35の軸部が、ベアリング41、42を介してケース13に対して回動自在に支持されている。従って、レバー30は、ベアリング41、42の中心軸線を回動中心C1として回動自在にケース13に支持されている。ベアリング41、42を設けたことで、レバー30の安定した回動が実現される。また、ベアリング41、42は、回動中心C1方向における2カ所に配置されるので、回動中心C1に対するレバー30のブレを抑制し、安定した回動を実現することができる。
【0020】
レバー30には、カム部材31が、複数のネジによって固定されている(
図2)。カム部材31はレバー30と一体に回動する。カム部材31は樹脂等で構成される。カム部材31には、回動中心C1方向に貫通するカム部32が形成されている(
図2)。カム部32はカム面33を含む。
【0021】
第2移動体22の背面側にネジ37が固定されている。ネジ37にはフォロワ40およびバネ掛け部材38が固定されている。バネ掛け部材38の周囲には、Oリング39が取り付けられると共に、バネ掛け部材38には、捻りバネ34の一端34aが引っ掛けられている。バネ掛け部材38はフォロワ40と一体になった(固定的となった)部分である。一方、カム部材31にはバネ掛けネジ36が固定されている。バネ掛けネジ36には、捻りバネ34の他端34bが引っ掛けられている。バネ掛けネジ36は、カム部32と一体となった(固定的となった)部分である。捻りバネ34は、相対的にフォロワ40をカム面33に押し付ける押し付け部材の一例である。捻りバネ34に代えて、板バネ等の弾性部材のような他の押し付け部材を採用してもよい。
【0022】
図5、
図6は、固定部10、可動部20およびレバー30の位置関係を示す模式図である。特に、
図5は、可動側ストレイナ101のオン状態とオフ状態との間の途中状態を示し、
図6はオフ状態を示している。なお、オン状態は
図2に示されている。
【0023】
フォロワ40は、カム面33側へ押し付けられつつ、レバー30の回動に応じてカム部32に対して相対的に変位する。フォロワ40は、第2移動体22に固定されているので、調整ボルト24の軸線方向に可動部20と一体に移動する。オン状態(
図2)からレバー30が
図2の反時計方向に回動すると、フォロワ40がカム面33を滑り、可動側ストレイナ101は途中状態へ遷移する(
図5)。レバー30がさらに反時計方向に回動すると、フォロワ40がカム面33を滑り、可動側ストレイナ101はオフ状態へ遷移する(
図6)。以下、
図7~
図10を用いて、カム部32の詳細な構成、およびカム部32とフォロワ40との関係について説明する。
【0024】
図7、
図8は、カム部32の部分拡大図である。
図7、
図8では、カム部材31を背面側から見ている。オン位置Fon、オフ位置Foffはそれぞれ、オン状態、オフ状態に対応するフォロワ40の中心位置である。
【0025】
図7に示すように、点P1~P5の範囲の連続する面がカム面33である。カム部32は、カム部32の長手方向両端に規制部32a、32bを備える。規制部32a、32bに対してOリング39が当たることで、カム部32に対するフォロワ40の移動範囲が規制される。そのため、カム面33に対するフォロワ40の接触範囲については、点P1~P5の範囲が、相対的なフォロワ40の可動範囲となる。フォロワ40自身は規制部32a、32bに接触しない。規制部32a、32bにOリング39が当たることでノイズが抑制される。
【0026】
点P2、P3、Pm、P4はいずれも、カム部32に対するフォロワ40の相対的な移動行程における、カム面33における途中位置である。特に点P2は凸部(山部)であり、後述するようにクリック感の発生点となる。フォロワ40の中心がオン位置Fon、オフ位置Foffにあるとき、それぞれ、フォロワ40とカム面33との接点は点P1(第1位置)、P5(第2位置)である。フォロワ40の中心が途中位置Q2、Qm0にあるとき、それぞれ、フォロワ40とカム面33との接点は点P2、Pmである。
【0027】
フォロワ40は、捻りバネ34によってカム面33に押し付けられているので、捻りバネ34からの押す力とカム面33での反力との協働により、フォロワ40に合力Xが作用する。合力Xの、カム部32に対する相対的な方向が、点P2で、X1側とX2側とに切り替わる。点P2と途中位置Q2とを結ぶ線分を境として、X1側は、点P2から見て点P1のある側(点P1側;第1位置側)であり、X2側は、点P2から見て点P5のある側(点P5側;第2位置側)である。
【0028】
特に、カム面33とフォロワ40との接触領域に着目すると、カム部32に対する合力Xの相対的な方向は、フォロワ40が点P1にあるときには、点P2から見てX1側となり且つ、フォロワ40が点P5にあるときには、点P2から見てX2側となる。従って、フォロワ40はオン状態ではオン状態を維持するような力を受け、オフ状態ではオフ状態を維持するような力を受ける。そのため、オン状態、オフ状態のそれぞれで、ロックされたのと同じような状態となる。よって、スナッピー105のオン状態およびオフ状態が安定的に維持される。
【0029】
言い換えると、フォロワ40が途中位置Q2よりもX1側にあるとき(つまり接点が点P1~点P2の範囲にあるとき)に、合力Xの相対的な方向は、点P2から見てX1側となる。フォロワ40が途中位置Q2よりもX2側にあるとき(つまり接点が点P2~点P5の範囲にあるとき)に、合力Xの相対的な方向は、点P2から見てX2側となる。このように、途中位置Q2を境に、合力Xの相対的な方向が切り替わるので、レバー30を無理な力で操作する必要がなく、オン状態またはオフ状態へ円滑に遷移させることができ、操作性が高い。
【0030】
捻りバネ34の作用を説明する。捻りバネ34は、環状部から二股に一端34a、他端34bが延びる構成である(
図2)。自由状態における捻りバネ34の開き度合いは、図示はしないが、およそ90度である。捻りバネ34の開き度合いは、フォロワ40の中心が途中位置Q2に位置するときに最も小さくなる。例えば、
図5ではフォロワ40の中心が途中位置Q2付近に位置し、捻りバネ34の開き度合いは角度で把握すると負の値である。フォロワ40の中心がオン位置Fon、オフ位置Foffに位置する場合における捻りバネ34の開き度合いは角度α1、α2である(
図2、
図6)。これらの開き度合いはいずれも、自由状態における捻りバネ34の開き度合いより小さく、フォロワ40の中心が途中位置Q2に位置するときの開き度合いより大きい。この構成により、途中位置Q2を経ると、オン位置Fon側、オフ位置Foff側への必要な操作力が弱まり操作性が向上する。
【0031】
しかも、点P2は凸部となっており、当該凸部をフォロワ40が移動する際、フォロワ40にクリック感が生じる。しかも、点P2は点P5よりも点P1に近い位置にある。従って、レバー30の操作の過程で、オン状態になる位置の近くでレバー30にクリック感を与えることができる。従って、途中位置Q2を経るとき、クリック感が発生した後に操作が軽くなる。この点でも操作性や操作感触が向上する。
【0032】
図8で、カム面33の詳細な形状を説明する。特に、カム面33のうち点P3~P4の範囲の特徴を説明する。
図8において、途中位置Qm1、Qm2に中心位置があるフォロワ40をフォロワ40-1、40-2と記す。軌跡曲線Rは、点P3~P4の範囲でのカム面33に対するフォロワ40の中心位置の相対的な軌跡曲線である。点P3~P4の範囲では、軌跡曲線Rは、回動中心C1を中心とする等角螺旋(対数螺旋)上に位置する。
【0033】
直線L1、L2は、途中位置Qm1、Qm2でのフォロワ40-1、40-2とカム面33との接点と、回動中心C1とを通る直線(動径)である。接線S1、S2は、フォロワ40-1、40-2とカム面33との接線である。角度θ1、θ2は、直線L1、L2と接線S1、S2とが、カム部32内で且つX1側(
図7参照)で成す角度である。点P3~P4の範囲では軌跡曲線Rは等角螺旋であるので、角度θ1=角度θ2である。このような構成により、フォロワ40に作用する分力が一定となる。従って、レバー30の操作力を点P3~P4の範囲で均一にする設計が容易となる。
【0034】
図9は、カム面33の点P2付近の部分拡大図である。
図7では、点P2を境に、フォロワ40に作用する合力Xの相対的な方向が切り替わることを説明した。このことを、
図9を参照して別の観点から考察する。
【0035】
図9において、点P1-2は、カム面33における点P1と点P2との間の、フォロワ40とカム面33との接点である。点P2-5は、カム面33における点P2と点P5との間の、フォロワ40とカム面33との接点である。法線N1、N2、N3はそれぞれ、点P1-2、点P2、点P2-5を通るカム面33の法線を示す。ベクトルV1、V2、V3は、捻りバネ34がフォロワ40に与える(押す)力のベクトルを示す。
【0036】
法線N1とベクトルV1とは、カム面33から見て回動中心C1側(ベクトル方向)において角度β1を成す。法線N3とベクトルV3とは、カム面33から見て回動中心C1側(ベクトル方向)において角度β2を成す。角度β1と角度β2とでは、法線を基準とした形成方向が反対である。法線N2とベクトルV2とが、カム面33から見て回動中心C1側において成す角度は0度である。
【0037】
すなわち、フォロワ40がカム面33に点P2で接するとき、ベクトルV2と法線N2とが平行になる。また、点P1~P2の範囲では、ベクトルV1は、カム面33から見て回動中心C1側においては法線N1よりX1側にある。点P2~P5の範囲では、ベクトルV3は、回動中心C1側においては法線N3よりX2側にある。この構成により、フォロワ40が点P2を通るとき、オン位置Fon側、オフ位置Foff側への必要な操作力が弱まり操作性が向上する。
【0038】
本実施の形態によれば、フォロワ40に作用する合力Xの、カム部32に対する相対的な方向は、フォロワ40が点P1にあるときには途中位置(点P2)から見てX1側となる。また、合力Xの、カム部32に対する相対的な方向は、フォロワ40が点P5にあるときには途中位置から見てX2側となる。よって、簡単な構成で、スナッピー105のオン状態およびオフ状態を安定的に維持することができる。
【0039】
ここで、上記特許文献1では、スプリングが、常にスナッピーをオフ位置側へ押すので、レバーをオン位置側へ回動操作する際にスプリングからの力が全行程に亘って抵抗として作用する。そのため、レバーの操作性向上に関し、改善の余地がある。これに対し、本実施の形態では、フォロワ40はオン状態、オフ状態ではそれぞれ、オン状態、オフ状態を維持するような力を受ける。
【0040】
これに対し、本実施の形態では、合力Xの相対的な方向は、フォロワ40が点P1~点P2の範囲にあるときは点P2から見てX1側となり、点P2~点P5の範囲にあるときは点P2から見てX2側となる。すなわち、合力Xの上記相対的な方向が、点P2(途中位置Q2)で、X1側とX2側とに切り替わる。別の観点から見ると、ベクトルV1~V3と、法線N1~N3とが、点P2で平行になる(
図9)。従って、レバー30を無理な力で操作することなくオン状態またはオフ状態へ円滑に遷移するので、操作性を向上させることができる。
【0041】
また、フォロワ40の中心がオン位置Fon、オフ位置Foffに位置する場合における捻りバネ34の開き度合いはいずれも、自由状態のときより小さく、フォロワ40の中心が途中位置Q2に位置するときより大きい。従って、途中位置Q2を境に必要な操作力が弱まるので操作性を向上させることができる。また、点P1に近い点P2が凸部となっており、オン状態になる位置の近くでフォロワ40にクリック感が生じるので、操作性や操作感触が向上する。
【0042】
また、レバー30は、回動中心C1方向における2カ所に配置したベアリング41、42によって回転支持されるので、レバー30のブレを抑制しつつ、安定した回動を実現することができる。
【0043】
また、カム面33は、カム部32に対するフォロワ40の相対的な軌跡曲線Rが回動中心C1を中心とする等角螺旋上に位置する領域(点P3~P4の範囲)を含むので、レバー30の操作力を均一にする設計が容易となる。
【0044】
図10は、変形例の可動側ストレイナ101の背面図である。
図2に示した例では、カム部32はレバー30に設けられ、フォロワ40は可動部20に設けられた。しかし、これとは逆に、
図10に示す変形例のように、カム部32は可動部20に設けられ、フォロワ40はレバー30に設けられる構成を採用してもよい。すなわち、カム面を有するカム部は、可動部および操作部のいずれか一方に設けられ、フォロワは、可動部および操作部のいずれか他方に設けられてもよい。
【0045】
図10に示す変形例では、レバー30は固定部10に対して回動中心C1を中心に回動可能である。
図10ではオン状態が示されており、
図10の時計方向が、オフ状態となる回動方向である。バネ掛け部材38はフォロワ40と一体になった部分であり、バネ掛けネジ36は、カム部32と一体となった部分である。捻りバネ34は、バネ掛け部材38とバネ掛けネジ36とに掛け合わされている。捻りバネ34によって、フォロワ40はカム部32のカム面33に押し付けられている。その他の基本的な構成は
図2に示す例と同様である。
【0046】
なお、
図2に示す例で採用された構成(カム面33の形状の特徴等)については、矛盾のない限り変形例(
図10)にも適用することができる。
【0047】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 固定部、 20 可動部、 30 レバー、 32 カム部、 33 カム面、 34 捻りバネ、 40 フォロワ、 41、42 ベアリング、 101 可動側ストレイナ