(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、積層ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、積層ポリエステルフィルムの製造方法、及び二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241112BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20241112BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20241112BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241112BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241112BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241112BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B29C55/12
B32B7/06
B32B27/00 L
B32B27/30 102
B32B27/36
B29K67:00
(21)【出願番号】P 2021031362
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 空
(72)【発明者】
【氏名】東大路 卓司
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-516786(JP,A)
【文献】特開2003-113254(JP,A)
【文献】特開2008-142960(JP,A)
【文献】特開平07-276576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 55/00-55/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有し、以下測定方法A及び測定方法Bにて測定をした際、測定方法A及び/または測定方法Bにおいて波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10
-3以上である
二軸配向ポリエステルフィルム。
(測定方法A)顕微赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:顕微赤外分光分析装置;LUMOS(Bruker社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;Narrow・MCT(HgCdTe)
検出波数範囲;4000~650cm
-1
パージ;窒素ガス
測定モード;透過法
分解能;8cm
-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
ポリエステルフィルムの断面において、ポリエステルフィルムの最表面に対して垂直方向に計測して5μm以上内側(以下、内層部という。)について、厚み方向に均等に10点、上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。該スペクトルからPETのスペクトルを除算(PETスペクトル(東レ(株)製の#50T60を用い、同じ条件で測定し、スペクトルを得たもの)を用い、1000cm
-1~1500cm
-1のピーク形状が可能な限り一致するよう四則演算したものを、測定により得られたスペクトルから除算する)したスペクトルを得る。
ここで、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出されれば、測定方法Aにて測定した際、波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出される、とする。また、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10
-3以上であれば、測定方法Aにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10
-3以上である、とする。
また、ある1点の測定点における前記除算したスペクトルについて、波数3300cm
-1から3400cm
-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10
-3以上であるとき、その測定点における前記除算したスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10
-3以上である、とする。
(測定方法B)赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:赤外分光分析装置;“Nicolet”(登録商標)6700(Thermofisher scientific社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;DTGS(硫酸トリグリシン)
検出波数範囲;4000~680cm
-1
パージ;窒素ガス
測定モード;ATR法(全反射測定法)
1回反射型ATR測定付属装置(OMNI sampler)、ATR結晶:Ge、入射角:45°
分解能;4cm
-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
まず、4cm角のポリエステルフィルム50枚のそれぞれについてミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集し、捕集物を上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。
ここで、得られたスペクトルについて、波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出されれば、測定方法Bにて測定した際、波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出される、とする。また、前記得られたスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10
-3以上であれば、測定方法Bにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10
-3以上である、とする。
また、前記得られたスペクトルについて、波数3300cm
-1から3400cm
-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10
-3以上であるとき、前記得られたスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10
-3以上である、とする。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール骨格を有する成分の含有量が0.001~0.05質量%である、請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記測定方法Bにおいて波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10
-3以上であり、前記ポリエステルフィルムの内層部に、前記HFIPに不溶な有機成分を質量基準で10ppm以上1000ppm以下含有する、請求項1
または2に記載の
二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記測定方法Bにおいて波数3300cm
-1から3400cm
-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10
-3以上であり、前記HFIPに不溶な有機成分がポリエチレンテレフタレート骨格を有する、請求項1
~3のいずれかに記載の
二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムの最表層部に、ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有する、請求項1~
4のいずれかに記載の
二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の
二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片方の面に、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を主成分とする層Xを有する積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルム、前記層X、及び離型層Yをこの順に有する、請求項
6に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ポリエステルフィルム、前記層X、前記離型層Y、及び機能層Zをこの順に有する、請求項
7に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項
8に記載の積層ポリエステルフィルムから、機能層Zを剥離する工程を含む、積層ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項
7に記載の積層ポリエステルフィルムから層X、及び離型層Yを同時に除去する工程を有する、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項
8に記載の積層ポリエステルフィルムから、機能層Zを剥離する工程と、層X、及び離型層Yを同時に除去する工程をこの順に含む、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項
6に記載の積層ポリエステルフィルムの、層Xの上にさらに離型層Yを積層し、離型層Yの上に機能層Zを設け、その後機能層Zを剥離した後、層Xと離型層Yを除去する、ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項
6~
8のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムから層Xの一部を除去して得られるポリエステルフィルムを溶融して得られる組成物を用い、ポリエステルフィルムを成型する工程を有する、ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム、積層ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、積層ポリエステルフィルムの製造方法、及び二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは様々な分野に利用されている一方、マイクロプラスチックなど海洋汚染の原因物とされ、プラスチックによる環境負荷低減が急務となっている。また、近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスや液晶ディスプレイが急激に増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために重要な積層セラミックコンデンサー(MLCC)の数や液晶表示装置に用いられる偏光フィルムも爆発的に増加している。MLCCやこれらのフィルムを製造するため、多量の工程用フィルムが用いられるが、使用後の工程フィルムは廃棄されるのが一般的である。すなわち、廃棄される工程フィルムが増えることによる環境への負荷が課題となりつつある。その課題に対して、使用済みの工程フィルムを再利用するための技術が開示されている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-171276号公報
【文献】特許第4284936号
【文献】特開2019-066841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれのフィルムも、工程フィルムに用いられるポリエステルフィルムを回収するためにフィルムを搬送する工程を経る。しかしながら、ポリエステルフィルムの製造工程においては、搬送性、いわゆる製造工程中におけるフィルムの破れによる生産性低下や回収性の低下に対してさらなる改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、搬送性に優れるポリエステルフィルム、積層ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、積層ポリエステルフィルムの製造方法、及び二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
[I]以下測定方法A及び測定方法Bにて測定をした際、測定方法A及び/または測定方法Bにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であるポリエステルフィルム。
(測定方法A)顕微赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:顕微赤外分光分析装置;LUMOS(Bruker社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;Narrow・MCT(HgCdTe)
検出波数範囲;4000~650cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;透過法
分解能;8cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0007】
ポリエステルフィルムの断面において、ポリエステルフィルムの最表面に対して垂直方向に計測して5μm以上内側(以下、内層部という。)について、厚み方向に均等に10点、上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。該スペクトルからPETのスペクトルを除算(PETスペクトル(東レ(株)製の#50T60を用い、同じ条件で測定し、スペクトルを得たもの)を用い、1000cm-1~1500cm-1のピーク形状が可能な限り一致するよう四則演算したものを、測定により得られたスペクトルから除算する)したスペクトルを得る。
【0008】
ここで、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されれば、測定方法Aにて測定した際、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出される、とする。また、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上であれば、測定方法Aにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0009】
また、ある1点の測定点における前記除算したスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10-3以上であるとき、その測定点における前記除算したスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
(測定方法B)赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:赤外分光分析装置;“Nicolet”(登録商標)6700(Thermofisher scientific社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;DTGS(硫酸トリグリシン)
検出波数範囲;4000~680cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;ATR法(全反射測定法)
1回反射型ATR測定付属装置(OMNI sampler)、ATR結晶:Ge、入射角:45°
分解能;4cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0010】
まず、4cm角のポリエステルフィルム50枚のそれぞれについてミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。
【0011】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集し、捕集物を上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。
【0012】
ここで、得られたスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されれば、測定方法Bにて測定した際、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出される、とする。また、前記得られたスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上であれば、測定方法Bにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0013】
また、前記得られたスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10-3以上であるとき、前記得られたスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
[II]前記測定方法Bにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であり、前記ポリエステルフィルムの内層部に、前記HFIPに不溶な有機成分を質量基準で10ppm以上1000ppm以下含有する、[I]に記載のポリエステルフィルム。
[III]前記測定方法Bにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であり、前記HFIPに不溶な有機成分がポリエチレンテレフタレート骨格を有する、[I]または[II]に記載のポリエステルフィルム。
[IV]ポリエステルフィルムの最表層部に、ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有する、[I]~[III]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[V][I]~[IV]のいずれかに記載のポリエステルフィルムの少なくとも片方の面に、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を主成分とする層Xを有する積層ポリエステルフィルム。
[VI]前記ポリエステルフィルム、前記層X、及び離型層Yをこの順に有する、[V]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[VII]前記ポリエステルフィルム、前記層X、前記離型層Y、及び機能層Zをこの順に有する、[VI]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[VIII][VII]に記載の積層ポリエステルフィルムから、機能層Zを剥離する工程を含む、積層ポリエステルフィルムの製造方法。
[IX][VI]に記載の積層ポリエステルフィルムから層X、及び離型層Yを同時に除去する工程を有する、ポリエステルフィルムの製造方法。
[X][VII]に記載の積層ポリエステルフィルムから、機能層Zを剥離する工程と、層X、及び離型層Yを同時に除去する工程をこの順に含む、ポリエステルフィルムの製造方法。
[XI][V]に記載の積層ポリエステルフィルムの、層Xの上にさらに離型層Yを積層し、離型層Yの上に機能層Zを設け、その後機能層Zを剥離した後、層Xと離型層Yを除去する、ポリエステルフィルムの製造方法。
[XII][V]~[VII]のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムから層Xの一部を除去して得られるポリエステルフィルムを溶融して得られる組成物を用い、ポリエステルフィルムを成型する工程を有する、ポリエステルフィルムの製造方法。
[XIII]ポリエステルと、ポリビニルアルコール骨格を有する成分とを溶融し、製膜する工程を含む、二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、搬送性に優れるポリエステルフィルム、積層ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、積層ポリエステルフィルムの製造方法、及び二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に具体例を挙げつつ、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明はポリエステルフィルムに関する。本発明でいうポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内のポリエステルに関し、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0017】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。中でも、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、及びPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられる。
【0018】
機械強度や耐薬品性の観点から、本発明のポリエステルは、テレフタル酸とエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分であることが好ましい。主成分とは、ポリエステル構成成分100mol%のうち、ポリエチレンテレフタレートが90mol%以上であることをいう。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムの好ましい一態様は、以下測定方法A及び測定方法Bにて測定をした際、測定方法A及び/または測定方法Bにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であるポリエステルフィルムである。
(測定方法A)顕微赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:顕微赤外分光分析装置;LUMOS(Bruker社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;Narrow・MCT(HgCdTe)
検出波数範囲;4000~650cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;透過法
分解能;8cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0020】
ポリエステルフィルムの断面において、ポリエステルフィルムの最表面に対して垂直方向に計測して5μm以上内側(以下、内層部という。)について、厚み方向に均等に10点、上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。該スペクトルからPETのスペクトルを除算(PETスペクトル(東レ(株)製の#50T60を用い、同じ条件で測定し、スペクトルを得たもの)を用い、1000cm-1~1500cm-1のピーク形状が可能な限り一致するよう四則演算したものを、測定により得られたスペクトルから除算する)したスペクトルを得る。
【0021】
ここで、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されれば、測定方法Aにて測定した際、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出される、とする。また、10点測定したうち、少なくとも1点の測定点において、前記除算したスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上であれば、測定方法Aにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0022】
また、ある1点の測定点における前記除算したスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10-3以上であるとき、その測定点における前記除算したスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
(測定方法B)赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:赤外分光分析装置;“Nicolet”(登録商標)6700(Thermofisher scientific社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;DTGS(硫酸トリグリシン)
検出波数範囲;4000~680cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;ATR法(全反射測定法)
1回反射型ATR測定付属装置(OMNI sampler)、ATR結晶:Ge、入射角:45°
分解能;4cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0023】
まず、4cm角のポリエステルフィルム50枚のそれぞれについてミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。
【0024】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集し、捕集物を上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。
【0025】
ここで、得られたスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されれば、測定方法Bにて測定した際、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出される、とする。また、前記得られたスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上であれば、測定方法Bにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0026】
また、前記得られたスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1にピークが2以上観察される場合は、そのうち最大となるピーク強度が1.0×10-3以上であるとき、前記得られたスペクトルについて検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0027】
なお、捕集物が多く、1回の測定で捕集物の全量を測定できない場合は、捕集物0.1mgごとに測定を行い、そのうち少なくとも1回の測定において得られたスペクトルについて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されれば、測定方法Bにて測定した際、波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出される、とする。また、前記少なくとも1回の測定において得られたスペクトルについて、検出される該ピーク強度が1.0×10-3以上であれば、測定方法Bにて測定した際、該ピーク強度が1.0×10-3以上である、とする。
【0028】
また、ここで測定方法Aにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であることを条件Aに該当する、といい、測定方法Bにおいて波数3300cm-1から3400cm-1においてピークが検出されかつ該ピーク強度が1.0×10-3以上であることを条件Bに該当する、といい、以下同様である。
【0029】
波数3300cm-1から3400cm-1において検出されるピークは主にヒドロキシル基をもつ成分に帰属されることから、条件A及び/または条件Bに該当する場合、該成分とポリエステル分子鎖が相互作用する結果、ポリエステルフィルムのガラス転移点近傍の温度、例えば80℃から150℃程度の温度で張力をかけながらフィルムを搬送する場合や、該温度に熱せられた液体(水や有機溶媒)に接した状態で張力をかけながらフィルムを搬送する場合に、フィルムの収縮や膨張が抑制され、搬送性が良好となる。また、同じメカニズムから二軸延伸する際にフィルムの破れが抑制されて生産性も良くなる。
【0030】
搬送性などが良好となる原因は、以下のように推定している。ヒドロキシル基は、元素の電気陰性度の違いから電気分極を有することが一般的である。また、ポリエステルもカルボキシル基を有するため、元素の電気陰性度の違いから電気分極を有することが一般的である。ポリエステル分子鎖同士であっても電気陰性度の違いによる分極で相互作用するが、ヒドロキシル基をもつ成分をさらに含有することで該成分を介して分子鎖同士の相互作用が強まり、上述の特定の温度や条件にて効果が得られるものと考えている。
【0031】
条件AまたはBに該当するための達成手段として、ポリエステルフィルムの内層部にポリビニルアルコール骨格を有する成分を加えることを好ましく挙げることができる。
【0032】
ポリビニルアルコール骨格を有する成分とは、化学式(1)で表される分子構造を有するものである。
【0033】
【0034】
ここで、aは1以上、bは0以上である。
【0035】
条件A及び/または条件Bに該当するポリエステルフィルムを得る方法としては、ポリエステルと、ポリビニルアルコール骨格を有する成分とを溶融させ、製膜する方法が挙げられ、具体的にはポリエステルフィルムを溶融製膜にて得る場合に、原料となるポリエステルのペレットを溶融させる際にポリビニルアルコール骨格を有する成分を添加する方法や、あらかじめポリエステルフィルムの表面にポリビニルアルコール骨格を有する成分を塗布した積層ポリエステルフィルムを再度溶融させて得た原料を用いてポリエステルフィルムを得る方法、またポリエステルフィルムの表面にポリビニルアルコール骨格を有する成分を塗布したフィルムとポリエステルのペレットを混合した後に溶融させてポリエステルフィルムを得る方法などが好ましく挙げられるが、特に限定されない。
【0036】
前記ポリビニルアルコール骨格を有する成分として、ポリビニルアルコールや、共重合ポリビニルアルコールといったポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。共重合ポリビニルアルコールとして、例えばビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体やビニルアルコール-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、ビニルアルコール-イソプレンスルホン酸共重合体、ビニルアルコール-ビニルピロリドン共重合体、及び後述する化学式(2)に示すような側鎖に特定の変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂、を好ましく挙げることができる。
【0037】
耐熱性や分散性の観点から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は好ましくは1000以下、より好ましくは500以下である。また、上記相互作用を効率よく得るため、前記ポリビニルアルコール系樹脂のヒドロキシル基量を反映するけん化度は、好ましくは80以上、特に好ましくは85以上である。条件A及び/または条件Bに該当するポリエステルフィルムを得る方法として、上記したなかでも、けん化度が80以上のポリビニルアルコールを、前記内層部100質量%中に少なくとも0.001質量%以上含ませる方法を例として挙げることができる。
【0038】
また、前記ポリビニルアルコール系樹脂として、ポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖との相互作用をより強くし、フィルムの搬送性をより向上させる観点から、化学式(2)に示すような、ポリビニルアルコールの側鎖に特定の変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることがより好ましい。
【0039】
【0040】
ここで、Qは、1,2-エタンジオール基、アセトアセチル基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、カルボキシル基、カルボキシル塩基、アミノ基、アンモニウム塩基より選ばれる1種以上である。また、c、eは1以上、dは0以上である。
【0041】
本態様とすることで、溶融押出時にポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖とが化学的な結合を生じ、搬送性がより高まるため好ましい。そのメカニズムについては、以下のように推定している。極性の強いカルボン酸塩基やスルホン酸塩基、アンモニウム塩基などの作用により、ポリエステル分子鎖のエステル結合の解重合が生じ、ポリエステルの酸末端及びアルコール末端が生じる結果、ポリエステルの酸末端とポリビニルアルコールのヒドロキシル基が重縮合し、化学的な結合を生じるものと考えられる。
【0042】
また、製造性の観点で、ポリビニルアルコール系樹脂のヒドロキシル基とアセトキシ基の量と官能基Qの量を合わせて100mol%とした場合に、官能基Qの含有量は1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
【0043】
ポリビニルアルコール骨格を有する成分をポリエステルフィルム中に効率よく分散させるため、溶融する工程におけるせん断速度は、好ましくは10sec-1以上250sec-1以下、より好ましくは25sec-1以上180sec-1以下である。また、溶融押出時にポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖との化学的な結合を生じさせる観点から、押出温度は好ましくは260℃以上300℃以下、より好ましくは270℃以上290℃以下である。また、溶融させる時間は好ましくは30秒以上600秒以下、より好ましくは60秒以上300秒以下である。
【0044】
前記したように、本発明のポリエステルフィルムの好ましい一態様は、以下条件A及び/または条件Bに該当するポリエステルフィルムであるが、条件Aに該当する場合は、そのなかでも条件Aにて得られるスペクトルにおいて、波数2800cm-1から3000cm-1にピークを有し、波数2800cm-1から3000cm-1のピーク強度/波数3000cm-1から3400cm-1におけるピーク強度が、0.05以上2.0以下であることがより好ましい。上記波数2800cm-1から3000cm-1におけるピークは、脂肪族炭化水素の伸縮振動を表すものであり、本発明のポリエステルフィルムを得る場合、脂肪族炭化水素を有するポリビニルアルコール樹脂を用いることで上記波数2800cm-1から3000cm-1のピーク強度を好ましい範囲とすることが可能となる。
【0045】
ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有するポリエステルフィルムを溶融製膜にて得る場合、ポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖の相互作用を効率よく発現させるため、ポリエステルフィルムの原料100質量%中、イソシアネート基やオキサゾリン基などを有し、ヒドロキシル基との反応により、ヒドロキシル基を介して化合物同士を架橋させる化合物、いわゆる架橋剤の含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。該架橋剤の含有量が0.01質量%以下であることによりポリビニルアルコール骨格を有する成分同士が架橋されてしまい、ポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖との相互作用が弱くなってしまうことを軽減できる。なお、前記架橋剤にはポリエステルのジカルボン酸構成成分は含まれない。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムは、前記条件Bに該当することがより好ましい。PET等のポリエステルフィルムの親溶媒であるHFIPに不溶な有機成分は、フィルム中では一定の形状を有して存在するため、ポリエステル分子鎖と相互作用するだけでなく滑剤としての機能も有することができる。
【0047】
前記条件Bに該当する方法としては、溶融押出時にポリビニルアルコール骨格を有する成分とポリエステル分子鎖との化学的な結合を生じさせる方法が挙げられ、上記した温度や時間で混練する方法をその好ましい例として挙げることができる。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムの内層部における、HFIPに不溶な有機成分の含有量は、質量基準で10ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。含有量が10ppm以上であることによりポリエステル分子鎖との相互作用を十分に得ることができる。1000ppm以下であることにより、フィルム中に異物として析出してフィルム破断の起点となることを抑制できる。
【0049】
本発明におけるHFIPに不溶な有機成分は、ポリエチレンテレフタレート(PET)骨格を有することがより好ましい。ポリビニルアルコール骨格を有する成分がPET分子鎖に結合すると、HFIPに不溶となり、HFIPに不溶な成分がポリエチレンテレフタレート骨格を有することとなると考えられる。HFIPに不溶な有機成分がPET骨格を有することで、HFIPに不溶な有機成分がポリエステルフィルム中のPET分子鎖とより相互作用するため、本発明の効果がより得られやすくなる。
【0050】
HFIPに不溶な有機成分が、PET骨格を有することは、実施例に記載の方法で確認することができる。
【0051】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルムの最表層部に、ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有することも好ましい。本態様とすることで、後述する層Xや、その他の層を本発明のポリエステルフィルムに接して有せしめるための手段としてコーティングを用いる場合、層Xまたはその他の層の形成時に使用する溶媒を乾燥させる工程において、搬送性が良好となるため、層Xまたはその他の層の形成時の欠点発生を抑制できる。
【0052】
ポリエステルフィルムの最表層部にポリビニルアルコール骨格を有する成分を有することとは、条件A、Bに準じて、ポリエステルフィルムの最表層を測定して条件A及び/または条件Bに該当することをいう。最表層とは、ポリエステルフィルムの少なくとも片方の表面から、厚み方向に5μmの深さまでのことをいう。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムは二軸配向ポリエステルフィルムであることが、生産性、搬送性及びハンドリング性の観点で好ましい。二軸配向していることは、フィルムのヤング率で確認することができ、フィルムの流れ方向(MD方向)のヤング率(Emd)及びそれに直交する方向のヤング率(Etd)を測定し、Emd/Etdが0.6以上1.7以下であることをいう。フィルムの方向がわからない場合、フィルムのある方向を0°と定め、30°ずつ角度をずらしながらヤング率を測定し、その最大値/最小値が1.0以上1.7以下であることをいう。
【0054】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法の好ましい一態様を以下に説明する。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法においては、必要に応じて乾燥した原料を押出機内で加熱溶融し、口金から冷却したキャストドラム上に押し出してシート状に加工する方法(溶融キャスト法)を使用することができる。キャストドラム上に押し出す際、表面温度20℃以上60℃以下に冷却されたドラム上で静電気により密着冷却固化し、未延伸シートを作製することができる。キャストドラムの温度は、より好ましくは20℃以上40℃以下、さらに好ましくは20℃以上30℃以下である。
【0056】
ここで用いる原料としては、ポリエステルのペレットにポリビニルアルコール骨格を有する成分を添加したものや、あらかじめポリエステルフィルムの表面にポリビニルアルコール骨格を有する成分を塗布した積層ポリエステルフィルムを再度溶融させて得たもの、またポリエステルフィルムの表面にポリビニルアルコール骨格を有する成分を塗布したフィルムとポリエステルのペレットを混合したもの、などを用いることができる。
【0057】
次に、未延伸シートを、下記(i)式を満たす温度T1n(℃)にて、フィルムの長手方向(MD)に3.6倍以上、フィルムの幅方向(TD)に3.9倍以上、面積倍率14.0倍以上20.0倍以下に二軸延伸することが好ましい。
(i)Tg(℃)≦T1n(℃)≦Tg+40(℃)
Tg:ポリエステルフィルムのガラス転移温度(℃)
フィルムの長手方向の延伸方法には、ロール間の速度差を用いる方法が好適に用いられる。この際、フィルムが滑らないようにニップロールでフィルムを固定しながら、複数区間にわけて延伸することも好ましい実施形態である。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムは、二軸延伸により二軸配向せしめることで、ポリビニルアルコール骨格を有する成分がフィルム中を移動し、ポリエステル分子鎖と最も安定的に相互作用させることが可能となる。
【0059】
次に、二軸延伸したフィルムまたは二軸配向フィルムを、下記(ii)式を満足する温度(Th0(℃))で、1秒間以上30秒間以下の熱固定処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却することによって、ポリエステルフィルムを得ることができる。
(ii)Tmf-35(℃)≦Th0(℃)≦Tmf(℃)
Tmf:フィルムの融点(℃)
(ii)を満たす条件によって二軸配向フィルムを得ることにより、フィルムに適度な配向を付与せしめ、フィルムのハンドリング性を向上させることができる。
【0060】
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムの好ましい一態様について以下に説明する。
【0061】
本発明の積層ポリエステルフィルムは本発明のポリエステルフィルムの少なくとも片方の面に、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を主成分とする層Xを有することが好ましい。
【0062】
ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂、とは、化学式(3)で表される分子構造を有する樹脂のことである。
【0063】
【0064】
ここで、fは1以上、gは0以上である。
【0065】
前記ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂として、上記したポリビニルアルコール系樹脂を好適に用いることができる。
【0066】
ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を主成分とする層Xとは、層X全成分100質量%中に前記ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を90質量%以上含むことをいう。より好ましくは95質量%以上である。
【0067】
ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂は親水性であることから、本態様とすることで、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂を主成分とする層Xや、さらに層Xに接して積層する他の層を、水を用いて除去することが可能となる。また、層Xは、本発明のポリエステルフィルムに含有されるポリビニルアルコール骨格を有する成分と同様の骨格を有するため、後述するように、積層ポリエステルフィルムから層Xを一部除去したものを原料の一部として用いることで本発明のポリエステルフィルムを製造することができ、リサイクルしやすい。
【0068】
層Xをコーティングする方法としては、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用することができる。特に、層Xの造膜性の観点から、長手方向に一軸延伸した後のポリエステルフィルムの表面に、層Xの原料をコーティングし、ポリエステルフィルムを幅方向に延伸すると同時に層Xを造膜するインラインコート法が好適に用いられる。
【0069】
層Xの厚みは、50nm以上1000nm以下が好ましい。50nmに満たない場合、層Xの吸水性が充分に発現せず、除去性に劣る場合がある。1000nmを超える場合は、ブロッキングが発生し、ハンドリング性が低下する場合がある。
【0070】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルム、前記層X、及び離型層Yをこの順に有することが好ましい。本態様とすることで、離型フィルムとして用いることができるうえ、離型フィルムとして使用した後に層X、及び離型層Yを除去したポリエステルフィルムを得、それを原料の一部として用いるリサイクルが可能となる。
【0071】
上記した積層ポリエステルフィルムは上述の方法で得られた層Xを含む積層ポリエステルフィルムに、離型層Yの原料成分を溶解させた塗液を用い、グラビアコーティング、メイヤーバーコーティング、エアーナイフコーティング、ドクターナイフコーティング等の一般的なコーティング方式を利用して塗布することができる。
【0072】
ここで、離型層Yはシリコーン化合物、長鎖アルキル基(炭素数10以上)を有する化合物、フッ素を有する化合物より選ばれる1種以上の成分を主成分とする層であることが好ましい。なかでも層Xへの塗布性の観点から、ジメチルシロキサンを主骨格とするシリコーンを好適に用いることができる。
【0073】
離型層Yの厚みは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。10nm以下では離型層Yの離型機能が発現しないことがあり、1000nmを超える場合は、造膜性に劣る場合がある。
【0074】
さらに、本発明のポリエステルフィルムに層Xと離型層Yを積層した積層ポリエステルフィルムの離型層Y側に、機能層Zを積層することもできる。機能層Zは得に限定はされないが、離型層Yから剥離して用いるもの、例えばMLCC製造に用いるセラミックグリーンシートや、被着物に転写させるための粘着剤を好ましく挙げることができる。機能層Zとしてはセラミックグリーンシートを用いる場合、剥離性の観点から、離型層Yとしてジメチルシロキサンを主骨格とするシリコーンが好適に用いられる。本発明のポリエステルフィルムに層Xと離型層Yを積層した積層ポリエステルフィルムをMLCC製造工程用の離型フィルムとして用いることで、セラミックグリーンシートをセラミックグリーンシートの物性に影響することなく剥離し、該シートをセラミック製造に供することができるうえ、離型フィルムをリサイクルしやすくなる。
【0075】
本発明のポリエステルフィルムに、層X、離型層Y、機能層層Zをこの順に積層したフィルムから機能層Zを剥離することで、本発明のポリエステルフィルムに層X、離型層Yを積層した積層ポリエステルフィルムを得ることができる。本方法を用いることで、溶融製膜に必要なエネルギーや塗布乾燥に必要なエネルギーを使うことなく、層X、離型層Yを積層した積層ポリエステルフィルムを得ることができる。機能層Zを剥離する方法としては、粘着性のロールを用いて剥離する方法や、機能層Zのみを吸引して剥離する方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0076】
ここで、本発明のポリエステルフィルムの製造方法の別の好ましい一態様について説明する。
【0077】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法として、本発明のポリエステルフィルムに層Xと離型層Yを積層した積層ポリエステルから層Xと離型層Yを同時に除去し、ふたたび本発明のポリエステルフィルムを得る態様を好ましく行うことができる。本態様とすることで、新たに溶融製膜を行ってポリエステルフィルムを得るために必要なエネルギーを省くことができる。
【0078】
次に、層Xと離型層Yを除去する工程について説明する。
【0079】
層Xの主たる構成成分であるポリビニルアルコール骨格を有する樹脂は一般的に吸水性であるため、水で洗浄することが好ましい実施形態である。層Xの主たる構成成分であるポリビニルアルコール骨格を有する樹脂の吸水性を高めるため、該樹脂の側鎖に、親水性の高い変性基を含有させることが好ましい。親水性の高い変性基としてはカルボン酸塩基、カルボン酸基、スルホン酸塩基、スルホン酸基などの極性の強いものが挙げられる。また、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂のヒドロキシル基とアセトキシ基の量と変性基の量を合わせて100mol%とした場合に、変性基の含有量が1mol%以上10mol%以下であることが好ましい。
【0080】
水を用いて洗浄する方法は、積層ポリエステルフィルムを巻き出す工程と、巻き出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供給し、該積層ポリエステルフィルムから層Xなどの表面積層部を剥離する工程と、剥離後のポリエステルフィルムを巻き取る工程に供することが好ましい。温水の温度は50℃以上150℃以下であることが好ましい。50℃に満たないと洗浄性が充分に得られない場合がある。150℃を超えると、ポリエステルフィルムのガラス転位温度を超え、フィルムが搬送できない場合がある。積層ポリエステルフィルムの表面に水が接する時間は、5秒以上、好ましくは10秒以上、さらに好ましくは30秒以上である。当該時間は生産性の観点から好ましくは600秒以下である。巻出した積層ポリエステルフィルム表面に温水を供する工程は、水槽で行い、積層ポリエステルフィルム全体を覆う方法や、加熱された水を加圧してフィルムに対して噴射する方法を好ましく挙げることができる。
【0081】
フィルムを搬送する速度は、好ましくは5m/分以上、より好ましくは10m/分以上、さらに好ましくは20m/分以上100m/分以下である。層Xと離型層Yを除去する工程において層Xと離型層Yを設けた積層ポリエステルフィルムを搬送する際、積層ポリエステルフィルムに張力をかけることも重要である。張力をかけることによって該積層ポリエステルフィルムの表面を展伸し、層Xと離型層Yの移動性を向上させる結果、洗浄性を向上させることができる。張力は5N/m以上100N/m以下、より好ましくは20N/m以上80N/m以下、さらに好ましくは30N/m以上50N/m以下である。5N/mに満たない場合、積層ポリエステルフィルムの表面が展伸されず、洗浄性に劣る場合がある。100N/mを超える場合、フィルムにシワが入り、表面の展伸性に劣り、洗浄性に劣る場合がある。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムを用いることで、上述する方法でフィルムを洗浄する場合、フィルムの搬送性が向上する結果、一定の張力をかけつつ、層X、離型層Yを除去しながら搬送することが可能となり、洗浄性が向上するため好ましい。
【0083】
また、以下のようなサイクルでポリエステルフィルムを得ることにより、ポリエステルフィルムをリサイクルして用いることができる。具体的には、本発明のポリエステルフィルムの少なくとも片面に、上述の方法にて、層Xを積層し、層Xの上にさらに離型層Yを積層し、離型層Yの上に機能層Zを設け、その後機能層Zを離型層Yから剥離した積層ポリエステルフィルムから層X、離型層Yを同時に除去する方法である。加えて、層X、離型層Yを同時に除去した後のポリエステルフィルムを、そのまま、もしくは他のPET原料やポリビニルアルコール骨格を有する樹脂とともに溶融させ、フィルムに成型することでポリエステルフィルムを得ることができる。一度溶融させて製膜することで、リサイクルしつつも品位などの品質の良いポリエステルフィルムを得ることができる。
【0084】
また、リサイクルの方法として、前記積層ポリエステルフィルムから、層Xの一部を除去したポリエステルフィルムを溶融して得られる組成物を用い、ポリエステルフィルムを成型する工程を経ることで、ポリエステルフィルムを得る方法を好ましく行うことができる。層Xの一部を残存させることで、溶融製膜されたポリエステルフィルム中にポリビニルアルコール骨格を有する成分を新たに添加する工程を経ることなく、ポリビニルアルコール骨格を有する成分をポリエステルフィルム中に導入することができ、生産性が良い。層Xを除去する量は、ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有させる量を適切な範囲とする観点から、質量基準で90%以上、より好ましくは95%以上であることが好ましい。
【0085】
[特性の評価方法]
A.(測定方法A)顕微赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:顕微赤外分光分析装置;LUMOS(Bruker社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;Narrow・MCT(HgCdTe)
検出波数範囲;4000~650cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;透過法
分解能;8cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0086】
ポリエステルフィルムの断面において、ポリエステルフィルムの最表面に対して垂直方向に計測して5μm以上内側(以下、内層部という。)について、厚み方向に均等に10点、上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。該スペクトルからPETのスペクトルを除算(PETスペクトル(東レ(株)製の#50T60を用い、同じ条件で測定し、スペクトルを得たもの)を用い、1000cm-1~1500cm-1のピーク形状が可能な限り一致するよう四則演算したものを、測定により得られたスペクトルから除算する)したスペクトルを得る。
【0087】
ここで、各点の測定により得られる、波数3300cm-1から3400cm-1において検出されるピークのピーク強度について、10点測定したうちの最小値を求める。
【0088】
B.(測定方法B)赤外分光分析装置にて測定する方法。
装置:赤外分光分析装置;“Nicolet”(登録商標)6700(Thermofisher scientific社製)
測定条件:
光源;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検出器;DTGS(硫酸トリグリシン)
検出波数範囲;4000~680cm-1
パージ;窒素ガス
測定モード;ATR法(全反射測定法)
1回反射型ATR測定付属装置(OMNI sampler)、ATR結晶:Ge、入射角:45°
分解能;4cm-1
積算回数;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0089】
まず、4cm角のポリエステルフィルム50枚のそれぞれについてミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。
【0090】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集し、捕集物を上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。
【0091】
ここで、得られたスペクトルについて、波数3300cm-1から3400cm-1においてピーク強度を求める。
【0092】
C.各層の厚み
下記の方法にて、ポリエステルフィルム及び積層ポリエステルフィルムの各層の厚みを求める。フィルム断面を、フィルム幅方向に平行な方向にミクロトームで切り出す。該断面を走査型電子顕微鏡で5000倍の倍率で観察し、各層の厚みを測定する。
【0093】
D.PET骨格を有する成分の判別方法(赤外分光分析法)
・装置 : 赤外分光分析装置;“Nicolet”(登録商標) 6700(Thermofisher scientific社製)
・条件 :
光源 ;炭化ケイ素棒発熱体(グローバー)
検 出 器 ;DTGS(硫酸トリグリシン)
検出波数範囲;4000~680cm-1
パージ ;窒素ガス
測定モード ;ATR法(全反射測定法)
1回反射型ATR測定付属装置(OMNI sampler)、ATR結晶:Ge、入射角:45°
分解能 ;4cm-1
積算回数 ;256回
各波数に対して吸収強度をプロットしたスペクトルを得る。
【0094】
まず、ミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。
【0095】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集し、捕集物を上記装置、条件にて測定を行い、スペクトルを得る。得られたスペクトルについて、波数1090cm-1から1110cm-1においてピークが検出され、該ピーク強度が1.0×10-3以上であること。
【0096】
ピークが2以上観察される場合は、強い方のピーク強度を用いる。
【0097】
E.内層部におけるHFIPに不溶な有機成分の量(ppm)
まず、ミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、ポリエステルフィルムの内層部を得る。得られた内層部の質量を秤量し、m0とする。
【0098】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集する。捕集物を80℃真空下で乾燥させた後、25℃まで冷却し質量を測定し、m1とする。次に、試料を質量が既知の石英ガラス製の試料ボートに乗せ、あらかじめ320℃に加熱した円筒形電気炉にて窒素雰囲気下において45分間加熱し、目的とする組成物を灰化させる。窒素雰囲気下で試料ボートを10分間放冷した後、デシケータに移して室温まで放冷後、質量を秤量し、m2とする。m1からm2を減算した後、m0で除し、ppmとして表示する。
【0099】
F.最表層部におけるHFIPに不溶な有機成分の量(ppm)
まず、ミクロトームを用い、顕微鏡で観察しながらポリエステルフィルムを片方の表層から5μm削り取る。さらにその反対側の面も同様にして表層から5μm削り取り、得られたものを秤量し、最表層部の質量m3とする。
【0100】
得られた内層部をヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)に浸漬し、窒素雰囲気下で50℃にて攪拌しながら30分溶解させる。その後液温が25℃になるように冷却し、不溶物をPTFEフィルター(ADVANTEC社製、型番:13010802)にて捕集する。捕集物を80℃真空下で乾燥させた後、25℃まで冷却し質量を測定し、m4とする。次に、試料を質量が既知の石英ガラス製の試料ボートに乗せ、あらかじめ320℃に加熱した円筒形電気炉にて窒素雰囲気下において45分間加熱し、目的とする組成物を灰化させる。窒素雰囲気下で試料ボートを10分間放冷した後、デシケータに移して室温まで放冷後、質量を秤量し、m5とする。m4からm5を減算した後、m3で除し、ppmとして表示する。
【0101】
G.水の接触角(°)
共和界面科学(株)製の接触角計DM500及び付属の解析ソフトFAMASを用いて以下の方法で測定する。23℃、65%RHの雰囲気下、試料表面に水滴が接触した時間を0秒として、1秒後の液滴の画像を撮影し、当該画像から接触角を測定する。場所を変えて5回測定し、平均値を算出する。
【0102】
H.フィルムの搬送性
フィルムの搬送性は、搬送後のロール巻き形状にて判定する。フィルムを300mm幅で長さ500mを巻き取り速度30m/分で巻いた時の巻き上がりロール状態を観察して判定する。フィルムを巻出したのち、80℃の湯浴中を10秒通過させた後、150℃に熱した乾燥炉で10秒間乾燥させ、フィルムを巻き取る。判定方法は、巻き取ったロールの横シワの発生状況を測定する。横シワはロール1周分をロールから引きとり、フィルムに発生した横シワの発生比率を求める。横シワ発生の比率(%)は、[(フィルム幅方向につながっている横シワの、フィルム長さ方向の長さ合計、つまり横シワの発生している幅の合計)/(ロール1周分の長さ)]×100、により求める。横シワ観察のため、巻出したフィルムにトナーを吹き付ける。なお評価は5本以上巻いた時の1本当たりの平均値で次のように判定する。
【0103】
A:横シワ発生比率5%未満
B:横シワ発生比率5%以上10%未満
C:横シワ発生比率10%以上。
【0104】
I.層Xと離型層Yを剥離した後の層Xのポリエステルフィルムに対する残存量(%)
サンプルとなる積層ポリエステルフィルムを200mm四方の大きさに20枚切り出し、50℃にて30分間乾燥させた後に25℃まで冷却して質量を測定し、B(0)とする。80℃の湯浴中に該フィルムがすべて浸漬するようにして、超音波で振動させながら3時間層Xを水に溶出させた後、フィルムを取り出し、別の80℃の湯浴中で同様にして30分間洗浄する。その後、取り出したフィルムから水分を拭き取り50℃にて30分間乾燥させた後に25℃まで冷却して質量を測定し、B(1)とする。
【0105】
(B(0)-B(1))/B(0)×100にて、層Xのポリエステルフィルムに対する残存量(%)を求める。
【実施例】
【0106】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0107】
[PET-1の製造]テレフタル酸及びエチレングリコールから、三酸化アンチモン、酢酸マグネシウム・四水塩を触媒として、常法により重合を行い、溶融重合PETを得た。得られた溶融重合PETのガラス転移温度は81℃、融点は255℃、固有粘度は0.65、末端カルボキシル基量は20eq./tであった。
[PVA-1]三菱ケミカル(株)製“ゴーセノール”(登録商標)GL-05を用いた。
[PVA-2]特許文献特開平9-227627号公報を参考にして、けん化度88、平均重合度500、側鎖にスルホン酸ナトリウムを1mol%有するPVAを作製した。
[PVA-3]特許文献特開2008-291120号公報を参考にして、けん化度88、平均重合度1000、側鎖にカルボン酸ナトリウムを1mol%有するPVAを作製した。
[塗剤Aの作製]付加反応型シリコーン樹脂離型剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名“LTC”(登録商標)750A)100質量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名SRX212)2質量部を、トルエンを溶媒として固形分5質量%となるように調整し、塗剤Aを得た。
【0108】
[塗剤Bの作製]PVA-2を、4質量%となるように水に溶解し、塗剤Bを得た。
【0109】
[誘電体ペーストの作製]チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状の誘電体ペーストを作製した。
【0110】
(実施例1)
PET-1を99.999質量部、PVA-1を0.001質量部を混合し、ベント孔付きの押出機に100torr以下となるように減圧しながら投入し、280℃でせん断速度20sec-1にて100秒間溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。続いてフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで235℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性は表に記載のとおりであった。なお、ポリビニルアルコール骨格を有する成分の判別方法(顕微赤外分光分析法)において、測定値が1×10-3未満であったため、表には「-」と記載した。
【0111】
得られたポリエステルフィルムはポリビニルアルコール骨格を有する成分をフィルムの内層部に含有し、条件Bに該当するため、搬送性に優れたフィルムであった。
【0112】
(実施例2-4、6)
ポリビニルアルコールの添加量、種類を表の通りに変えた以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表に示す。ポリビニルアルコール骨格を有する成分の量が増えるに従い、搬送性が向上した。側鎖にスルホン酸ナトリウムを有するPVAを用いた実施例4では、特に良好な搬送性であった。
【0113】
(実施例5)
押出機をA/Bの2台用意し、押出機Bの押出機には実施例4と同様の原料を実施例4と同様に溶融させた。もう1台の押出機AにはPET-1のみを10torrまで減圧しながら投入し、280℃でせん断速度20sec-1にて100秒間溶融させた。2台の押出機に投入して溶融した樹脂を、延伸後にA層の厚みが5μmとなるように積層装置に導き、A/B/Aの構成となるように合流させたのち、実施例4と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表に示す。得られたポリエステルフィルムは内層部にポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有し、条件A及び条件Bに該当するため、搬送性に優れるフィルムであった。
【0114】
(参考例1)
PET-1を99.95質量部、及びPVA-2を0.05質量部とを混合し、ベント孔付きの押出機に10torrまで減圧しながら投入し、280℃でせん断速度20sec-1にて100秒間溶融させ、ダイを通して表面温度25℃のキャスティングドラム上に押し出し、未延伸シートを作製した。続いて該シートを加熱したロール群で予熱した後、90℃の温度で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸を行った後、25℃の温度のロール群で冷却して一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムに、乾燥・延伸後の塗布厚みが100nmとなるようにバーコート法にて塗剤Bを塗布し、続いてフィルム両端をクリップで把持しながらテンター内の100℃の温度の加熱ゾーンで長手方向に直角な幅方向(TD方向)に4.3倍延伸した。さらに引き続いて、テンター内の熱処理ゾーンで230℃の温度で10秒間の熱固定を施した。次いで、冷却ゾーンで均一に徐冷後、巻き取り、層Xが100nm積層された積層ポリエステルフィルムを得た。
【0115】
得られた積層ポリエステルフィルムの層Xの上に、離型層Yとして乾燥後の厚みが100nmとなるように塗剤Aを用いてグラビアコート法にて塗布し、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0116】
得られた積層ポリエステルフィルムに、機能層Zとして、誘電体ペーストをダイコート法によって乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布した。その後、得られた積層体から、機能層Zを離型するとともに、機能層Zを剥離した積層ポリエステルフィルムのフィルムロールを得た。該フィルムロールを、巻出しと巻き取り装置のある水洗装置に導入し、30N/mの張力下で、100℃の水で2分間洗浄し、層Xと離型層Yを除去したポリエステルフィルムを回収した。
【0117】
実施例4のポリエステルフィルムのフィルム表面における水の接触角が72°であった一方、回収したポリエステルフィルムの層X側表面の水の接触角は55°であり、親水性を示すことから、回収したポリエステルフィルムには層Xが一部残存していると考えられる。残存量を測定したところ、層Xの質量/回収したポリエステルフィルムの質量=0.07%であった。
【0118】
(実施例7)
参考例1で回収したポリエステルフィルムをフレーク状に裁断し、20質量部の該フレークと80質量部のPET-1を混合したものを原料として用い、PVA-1は添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表に示す。ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有し、条件A及び条件Bに該当するため、搬送性に優れたフィルムであった。
【0119】
(実施例8)
参考例1で回収したポリエステルフィルムをフレーク状に裁断し、20質量部の該フレークと79.97質量部のPET-1、0.03質量部のPVA-2を混合したものを原料として用い、PVA-1は添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表に示す。ポリビニルアルコール骨格を有する成分を含有し、条件A及び条件Bに該当するため、搬送性に優れたフィルムであった。
【0120】
(比較例1)
PET-1のみを用い、PVA-1を添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。ポリビニルアルコール骨格を有さないことから、条件A及び条件Bを満たさず、搬送性に劣るフィルムであった。
【0121】
(比較例2)
用いる原料と、延伸条件を表に記載の通りに変えた以外は実施例1と同様にして一軸延伸フィルムを得た。条件A、条件Bを満たさず搬送性に劣るフィルムであった。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のポリエステルフィルムは、搬送性に優れるため、各種工業材料用途や、フィルム使用後の回収性を向上させることができる。