(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20241112BHJP
H02K 7/09 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F16C32/04 A
H02K7/09
(21)【出願番号】P 2021035092
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 圭介
(72)【発明者】
【氏名】國分 博之
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-074049(JP,A)
【文献】実開平05-091171(JP,U)
【文献】特開2019-218968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/00-32/06
H02K 7/00-7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に取り付けられた磁気軸受を制御する制御装置であって、
位置振動分析部と、位置振動補償部を有し、
前記位置振動分析部は、波形計数法によって位置振動の上下ピーク値を求め、前記上下ピーク値を用いて位置変動幅を検出し、
前記位置振動補償部は、前記位置振動分析部が検出した前記位置変動幅に基づいて、浮上位置指令を調整する、
制御装置。
【請求項2】
前記位置振動分析部は、波形計数法により、前記位置振動の脈動値を求める、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記位置振動補償部は、前記脈動値が閾値より大きいときに、前記位置変動幅に基づいて、浮上位置指令を調整する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
電動機に取り付けられた磁気軸受を制御する制御方法であって、
波形計数法によって位置振動の上下ピーク値を求める工程と、
前記上下ピーク値を用いて位置変動幅を検出する工程と、
検出した前記位置変動幅に基づいて、浮上位置指令を調整する工程と、
を含む、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の小型化や高出力密度化のために、電動機の高速回転化が求められている。電動機の回転子は、固定子と軸受を介して接触する。したがって、電動機を高速回転化する際に、回転速度が一定速度以上になると、接触による摩擦や振動が課題となる。
【0003】
そこで、高速回転化する電動機には、磁気軸受と呼ばれる、回転子を浮上させて接触抵抗を廃した技術が用いられる。磁気軸受は、冷凍機や圧縮機、ターボファンなどで用いられている。
【0004】
特許文献1には、減速において回転軸の位置振動成分が有する慣性力による不安定化を防ぐため、予め任意の範囲を設定可能な広帯域フィルタをトラッキングフィルタと別に設け、その成分を抽出して指令信号を補償する磁気軸受制御装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、能動的に磁気軸受の振動成分を複数検出し、それぞれゲインを掛けて除去するように浮上位置を制御する磁気軸受の制御装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、トラッキングフィルタの正弦波、余弦波をロータに取り付けたロータリエンコーダの角度情報から作成する磁気軸受の制御装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、安定化を目的として、ロータの振動モードを分離する磁気軸受の制御装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、磁気軸受制御装置における浮上開始時の制御について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-164185号公報
【文献】特開平07-259853号公報
【文献】特開平09-144756号公報
【文献】特開2019-015303号公報
【文献】特開2019-218968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電動機において、回転子・回転軸の製造における切削ばらつきや傷、研磨の精度、そして材料自体の密度・品質等に応じて、重量のバランスを均一にすることは難しい。回転子を1分間に数千回転程度の速度で回転させる場合には、重量バランスの影響は非常に少ない。しかしながら、回転子を1分間に数万回転以上の速度で回転させる場合、回転子の重量の偏りによって、回転子の位置が変動する不釣り合いという現象が発生する。
【0011】
したがって、回転子を1分間に数万回転以上の速度で回転させる場合には、回転子が固定子や位置センサ、タッチダウンベアリングなどに衝突し、電動機の破壊することを防止するために対策が必要である。
【0012】
一方、重量バランスの影響は、電動機毎によって異なるため、予め振動データを収集する必要があり、データから補正値を導出する必要がある。振動データからどの程度まで振動を抑えたいかを考慮し、補正値を決定して抑制を行う際の補正値の決定方法について、特許文献1から特許文献5には開示されていない。また、この補正値をどのように決め、どの条件で補正を行わせるかは、ノウハウや設定する技術者の経験に基づいて行われている。
【0013】
また、電動機毎に補正値が変化するため、1台1台で補正値を設定すると膨大な時間がかかる。更に、人の手によって補正値を決定するための多少のずれがある。
【0014】
本開示は、電動機の個体ばらつきに左右されることなく簡易かつ高精度な補正値の決定可能な制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の一の態様によれば、電動機に取り付けられた磁気軸受を制御する制御装置であって、位置振動分析部と、位置振動補償部を有し、前記位置振動分析部は、波形計数法によって位置振動の上下ピーク値を求め、前記上下ピーク値を用いて位置変動幅を検出し、前記位置振動補償部は、前記位置振動分析部が検出した前記位置変動幅に基づいて、浮上位置指令を調整する制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示の各実施形態によれば、電動機の個体ばらつきに左右されることなく簡易かつ高精度な補正値の決定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る制御装置及び制御装置が制御する電動機の一例の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の磁気軸受コイルの一例の概略構成図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の磁気軸受コイルを駆動する駆動回路の一例の概略構成図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の磁気軸受の位置センサの取り付け位置を説明する図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の磁気軸受の位置センサの取り付け位置を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の回転軸のアンバランスについて説明する図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る制御装置が制御する電動機の回転軸の位置変動を説明する図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る制御装置の測定結果を説明する図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る制御装置の測定結果を説明する図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る制御装置の測定結果を説明する図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る制御装置の測定結果を説明する図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る制御装置の測定結果を説明する図である。
【
図13】
図13は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明する図である。
【
図14】
図14は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明する図である。
【
図15】
図15は、本実施形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
【
図16】
図16は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明するフローチャートである。
【
図17】
図17は、本実施形態に係る制御装置の制御処理結果の一例を説明する図である。
【
図18】
図18は、本実施形態に係る制御装置の制御処理結果の一例を説明する図である。
【
図19】
図19は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明する図である。
【
図20】
図20は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明する図である。
【
図21】
図21は、本実施形態に係る制御装置の制御処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態に係る明細書及び図面の記載に関して、実質的に同一の又は対応する機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する場合がある。また、理解を容易にするため、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。
【0019】
平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0020】
本開示は、電動機の軸受けを磁気軸受とし、回転子を浮上させて軸受けでの接触抵抗・摩擦を無くすことによって、高速回転を実現する電動機に関する。
【0021】
回転子は金属、例えば、鉄や磁石等、である。磁気軸受に相当する部分は、コイルからの磁力によって吸引又は反発される。磁気軸受が吸引又は反発されることによって、磁気軸受は、中心位置に浮上される。磁気軸受の位置は、コイルに流す電流の量と、回転子の位置と、吸引・反発の力を制御することによって制御される。
【0022】
図1は、本実施形態に係る制御装置200が制御する電動機の一例の概略構成図である。電動機10は、電動機用コイル11と、磁気浮上を行うための磁気軸受コイル12と、回転子と保護用のタッチダウンベアリングとの距離を計測する位置センサ13及び位置センサ14と、回転子の回転速度及び磁極位置を計測する速度センサ15と、を備える。
【0023】
また、電動機10は、制御装置200に接続される。制御装置200は、磁気軸受コイル12に流す電流を制御する。また、制御装置200は、位置センサ13、位置センサ14、速度センサ15のデータを取得する。
【0024】
図2は、本実施形態に係る制御装置200が制御する電動機10の磁気軸受コイル12の一例の概略構成図である。磁気軸受コイル12は、常に直流成分を流し磁束を発生させるバイアス巻線121と、流す電流の向きや強さを調整することで、バイアス巻線の磁束を強めたり、弱めたりするX軸巻線122及びY軸巻線123と、を備える。X軸巻線122及びY軸巻線123に流す直流電流を制御することによって、回転子とコイルとの間の吸引力、及び反発力を制御し、回転子を磁気浮上させる。
【0025】
図3は、本実施形態に係る制御装置200が制御する電動機10の磁気軸受コイル12を駆動する駆動回路の一例である駆動回路20の概略構成図である。
【0026】
駆動回路20は、磁気軸受コイルのうち、X軸巻線122及びY軸巻線123に流す電流を制御する。なお、駆動回路20は、3相の電力変換装置であってもよいし、単相の電力変換装置を2台用いてもよい。
【0027】
ここでは、3相の電力変換装置である駆動回路20について説明する。駆動回路20は、三相交流電源30から供給される電力を変換して、X軸巻線122及びY軸巻線123に電力を供給する。駆動回路20は、コンバータ回路21と、コンデンサ22と、インバータ回路23と、電流測定回路24と、電圧測定回路25と、インバータ回路23のトランジスタを駆動するゲート駆動回路26と、電源制御回路27と、を備える。
【0028】
なお、電動機は、2つの磁気軸受コイル12を備える。そして、2つの磁気軸受コイル12のそれぞれの制御を行うことから、3相の電力変換装置であれば2台、単相の電力変換装置であれば4台用いることとなる。
【0029】
次に、位置センサ13及び位置センサ14と速度センサ15について説明する。位置センサ13及び位置センサ14と速度センサ15は電動機に装着される。
【0030】
位置センサ13及び位置センサ14は、回転子とタッチダウンベアリングまでの距離を検出する。位置センサ13及び位置センサ14は片極のものでもよいし、差動式のものでもよい。
【0031】
速度センサ15は、電動機の回転速度や、磁極位置を検出する。回転速度及び磁極位置を検出する速度センサは、光学式でもよいし、磁気式でもよいし、回転速度及び磁極位置が検出できるのであれば、他の方式を採用してもよい。また、これらの方式を組み合わせてもよい。
【0032】
図4及び
図5は、本実施形態に係る制御装置200が制御する電動機の磁気軸受の位置センサの取り付け位置を説明する図である。
図4及び
図5は、作動タイプの位置センサ13及び位置センサ14の取り付け位置を示す。
【0033】
図4では、位置センサ13及び位置センサ14と、回転子16との位置の関係を示す。位置センサ13は、回転子16から等距離の位置に円周方向に等間隔に、位置センサ131、132、133及び134を備える。位置センサ131と位置センサ133は、位置センサ132及び位置センサ134に対して回転子16の軸方向にずれて配置される。また、位置センサ14は、回転子16から等距離の位置に円周方向に等間隔に、位置センサ141、142、143及び144を備える。位置センサ141と位置センサ143は、位置センサ142及び位置センサ144に対して回転子16の軸方向にずれて配置される。
【0034】
なお、位置センサ13及び位置センサ14の取り付け位置は上記に限らない。例えば、上記と異なる位置に設けて、座標変換を用いて、検出した回転子の浮上位置を制御位置に変換してもよい。
【0035】
制御装置200は、位置センサで検出した回転子の浮上位置を制御するように、磁気軸受のコイルに電流を流し、回転子に浮上力を発生させる。回転子の浮上力は回転子の総重量で決定され、発生させる浮上力はコイルに流す電流と巻数で決定される。静止状態での浮上力は静荷重となる。したがって、回転子の停止・回転に関係なく、常に回転子を浮上させるためにエネルギーが必要となる。
【0036】
次に、回転子にアンバランスがある場合の不釣り合い力について説明する。回転子は、軸方向に垂直な断面で完全に均一な真円で、重量の偏りも無いことが理想である。しかしながら、製造・加工のばらつき・精度や、材料・物性・形状の差異、品質などの要因により、重量の偏りが発生する。たとえば、回転子には、磁石や飛散防止のカバーなどが取り付けられると、回転子の重量に偏りが発生する。また、形状が変化すると重さのバランスは均一とならずに、偏りの要因となりうる。
【0037】
例えば、
図6に示すように、回転子16に仮想的なおもり161があるとする。おもり161は、アンバランス質量と呼ばれる。おもり161の質量をm、回転軸の回転速度をω、回転子16の半径をrとすると、おもり161に係る力(不釣り合い力)Fは、式1で表される。
【0038】
【0039】
式1で示されるように、不釣り合い力Fは、おもり161の質量に比例し、速度の二乗に比例する。したがって、1分あたり数千回転であれば、不釣り合い力Fは非常に小さく影響は無視されうる。しかしながら、1分あたり数万回転以上では、不釣り合い力Fは、磁気軸受の回転子の浮上力を超える力となり、回転子の位置が変動する原因となる。
【0040】
例えば、半径10cmの回転子に質量0.1gのアンバランス質量があると仮定する。半径10cmの回転子に質量0.1gのアンバランス質量があると、不釣り合い力Fは式1より、回転速度が1000rpmの時約110Nとなる。一方、回転速度が10000rpm時約11000Nとなる。すなわち、回転速度が10倍になれば不釣り合い力は100倍に、回転速度が20倍になれば不釣り合い力は400倍になる。
【0041】
制御装置200は、回転子16が最大でどれだけの振幅で振動しているのかを把握して、振動している振幅に応じて補正をかける。制御装置200は、回転子16の振動の振幅のピーク値を検出する。
【0042】
高速回転時における回転子16の浮上位置を示す波形は、理想的には、
図7に示すように正弦波状となる。しかしながら、実際の回転子16の浮上位置を示す波形には、回転速度の周波数成分以外も多分に含まれる。すなわち、実際の回転子16の浮上位置の脈動成分を含んだ振動波形は
図8のような波形となる。
【0043】
図8に示すような脈動を含む波形の振幅のピーク値の検出方法を説明する。制御装置200では、振動波形の上昇と下降の変化点を抽出する。そして、抽出した変化点を山・谷と置き、山と谷との間の振幅値に対して波形計数処理を行う。波形計数処理に用いる波形計数法とは、波形の中からサイクルの大きさを求めるための手法である。
【0044】
波形計数法としては、極大極小法や、最大最小法、レインフロー法などがある。
【0045】
極大極小法について説明する。振動波形のうち、正傾斜から負傾斜に移行した点を極大値、負傾斜から正傾斜に移行した点を極小値として抽出する方法である。極大極小法の場合、小さな脈動のピーク値は見ることができるが、脈動に埋もれてしまった大きな振幅のピーク値を見ることができない。
【0046】
次に、最大最小法について説明する。振動波形のうち、ゼロを正傾斜で過ぎてから再び負傾斜でゼロを過ぎるまでの最大値、ゼロを負傾斜で過ぎてから再び正傾斜で過ぎるまでの最小値を抽出する方法である。最大最小法の場合、大きな振動のピーク値は見ることができるが、大きな振動にのっている小さな脈動のピーク値を見ることができない。
【0047】
次に、レインフロー法(雨だれ法)について説明する。振動波形の山・谷が検出されるタイミングごとにスタックと呼ばれるバッファに値を格納し、その中からペアを見つける処理を行って信号の中に含まれる最小最大の振幅値や、小さな振幅を得ることができる。この処理によって、振動の大きさを取得できる。振動の大きさは一定ではなく、常に変化することから、振動の経過を複数取得し、平均化や分散などの統計解析によって変化を定量化することで、振動の大きさの確からしさを求めることができる。
【0048】
レインフロー法によって振動成分の上下ピーク値、脈動成分の上下ピーク値を用いて位置変動幅を検出すると、
図9のようにピーク値の小さな脈動成分(脈動値)と、ピーク値の大きな位置振動成分が算出される。なお、例えば、極大極小法と最大最小法と組み合わせて、最大最小法により振動成分の上下ピーク値を求め、極大極小法により振動成分の脈動成分を求めてもよい。
【0049】
ピーク値を検出する場合、周期毎にピーク値が変動する場合がある。この場合、平均値を用いてもよいし、最大値を用いてもよい。また、分布を統計解析して、式2に示す分散、式3に示す偏差、中央値を取ってもよい。
【0050】
【数2】
なお、nはデータの個数、x
iは、各データの値、μは平均値を表す。
【0051】
【数3】
なお、x
iは、各データの値、μは平均値を表す。
【0052】
回転速度に応じた振動成分の上下ピーク値を集計した結果を表1に示す。また、回転速度に応じた振動成分の上下ピーク値を集計した結果のグラフを
図10に示す。
【0053】
【0054】
さらに、表1に示した結果を多項式近似にて近似した結果を
図11に示す。
図11に示す結果より、速度に応じた振動成分の上下ピーク値は、回転速度をx、ピーク値をyとすると、y=ax
2+bという式で示される二次曲線的になることが分かる。これは、前述の不釣り合い力の式で示される力と位置振動とに強い相関があるからである。正側と負側の2つの二次関数や指数関数等の近似を求めて係数ならびにオフセット量(静加重に相当する位置量)を推定する。
【0055】
なお、上記二次関数や指数関数等の近似方法以外にも、表2に挙げるもので近似してもよい。
【0056】
【0057】
また、得られている回転速度と振幅のピーク値を、物理量から計算のしやすい単位系に正規化してもよい。例えば、最高速度や最大のピーク値を1に正規化した結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
<一定値となる静荷重と、速度の二乗で増大する動荷重(不釣り合い力)の分離>
補正を開始する速度については、目標となる低減量とその範囲によって決める。例えば、許容される位置振動のピークが±50μmであれば、ピークが±50μmの時にゲインGを大きく取るように設計する。開始速度から、最高速度までを線形的にゲインGを増やすことや、二次関数又は指数関数的に設定してもよい。また、表2に挙げる手法で近似してもよい。
【0060】
ここで、ゲインGは振動を抑制するために入力する力の大きさ(補正値)を決定する係数のことである。ゲインGが大きくなれば抑制力は大きくなる。適切なゲインGをかけて振動を抑制することで、
図12のように回転速度に応じた振動成分の上下ピーク値は抑制することができる。
【0061】
また、補正を開始する回転速度を決定し、目標となる低減量を決めれば、トラッキングフィルタを用いて補正できる。トラッキングフィルタは、バンドパスフィルタの一種であり、特定の周波数成分を抽出できる。トラッキングフィルタを用いれば、補正の必要の無い良好な電動機であっても、高速回転時の磁気軸受の電流消費を抑えることができる。したがって、システムの効率改善にも繋がる。また、電動機の補正を行う条件なども明確化できる。したがって、製造不具合や品質改善等の定量的な評価としても用いることができる。
【0062】
ただし、トラッキングフィルタは、互いに直交となる信号でのみ適用が可能である。浮上位置はX軸及びY軸の直交する2軸で使用できる。また、トラッキングフィルタは、位相を入力として使用でき、速度・位置センサの位相(角度)をそのまま入力として用いることができる。トラッキングフィルタ210のブロック図を
図13に示す。
【0063】
トラッキングフィルタ210を用いた制御ブロック図を
図14に示す。動荷重の成分に対する低減量について説明する。トラッキングフィルタ210を通した2つの信号Xout及びYoutは、元の信号のX、Yに含まれる周波数成分のみを含む。よって、元の信号X、Yから、Xout、Youtを引くことで、不釣り合い力によって発生する振動成分の影響を除去できる。しかしながら、全てを除去しても、実際に抑えこめないことや、逆に過補償となり、後段の電流調節器が飽和したり振動したりする可能性もある。よって、適切なゲインGを乗じて、元の信号X、Yに引くためのG×Xout、G×Youtを決める必要がある。
【0064】
ゲインGの決定に関して、上記信号X、Yは脈動成分を含む振動波形であるため、信号取得の瞬間によっては、本来の振動よりも大きな振動成分又は小さな振動成分となってしまう。そこで、脈動成分を含む信号のピーク値から脈動成分のピーク値を差し引くことで、脈動のない振動成分を取り出せる。取り出した振動成分のピーク値を、表3に示した最高速度や最大のピーク値を1として正規化したのと同様に、取り出した振動成分の最大値を正規化し、ゲインGの値の決定を行う。
【0065】
ゲインGは事前に試験を行い、テーブル化して制御内に組み込み、速度に応じたゲイン値を乗じてもよいし、制御周期ごとに計測を行い、ゲインGの値を算出して、乗じてもよい。
【0066】
図15は、制御装置200の機能ブロックを示す機能ブロック図である。制御装置200は、試運転部201と、データ取得部202と、位置振動分析部203と、不釣り合い力推定部204と、補償開始速度決定部205と、補正値算出部206と、補正値格納部207と、位置振動補償部208と、を備える。
【0067】
試運転部201は、電動機10の試運転を行う際に、電動機10を制御する制御装置に回転指令を送信する。そして、試運転部201は、電動機10が指定した速度になったかどうか確認する。具体的には、試運転部201は、最低速度から最高速度まで徐々に速度を上げていくように電動機10を制御する制御装置に回転指令を送信する。
【0068】
データ取得部202は、位置センサ13及び位置センサ14から、回転子16の位置の情報を取得する。また、データ取得部202は、速度センサ15から、回転子16の回転速度と回転角度の情報を取得する。
【0069】
位置振動分析部203は、データ取得部202で取得した回転子16の位置の情報から、波形計数法を行うことによって、回転子16の振動振幅を求める。なお、位置振動分析部203は、制御方法として、波形計数法によって位置振動の上下ピーク値を求める工程と、上下ピーク値を用いて位置変動幅を検出する工程と、を行う。
【0070】
不釣り合い力推定部204は、位置振動分析部203で求めた回転子16の振動振幅と、回転速度から回転子16に発生する不釣り合い力を推定する。
【0071】
補償開始速度決定部205は、ゲインGの補償をどの回転速度から開始するかを決定する。
【0072】
補正値算出部206は、不釣り合い力推定部204で推定した不釣り合い力から、ゲインGの補正値を算出する。
【0073】
補正値格納部207は、補正値算出部206で算出したゲインGの補正値を格納する。格納されたゲインGの補正値は、電動機10を実際に動作させるときに使用される。
【0074】
位置振動補償部208は、補正値格納部207に格納されたゲインGの補正値を用いて、浮上位置指令の補償を行う。なお、位置振動補償部208は、制御方法として、検出した位置変動幅に基づいて、浮上位置指令を調整する工程を行う。
【0075】
次に、補正値算出について説明する。
図16は、補正値を算出する処理のフローチャートである。
【0076】
試運転部201は、試運転を開始する(ステップS10)。そして、試運転部201は、電動機10を制御する制御装置に回転指令を送信して、回転子16の回転速度を所定の速度に変更する(ステップS20)。次に、データ取得部202は、位置センサ13及び位置センサ14から回転子16の浮上位置を取得する。また、データ取得部202は、速度センサ15から回転速度を取得する(ステップS30)。
【0077】
次に、試運転部201は、回転子16の回転速度が最高速度に到達したか否かについて判定を行う(ステップS40)。回転子16の回転速度が最高速度に到達していない場合(ステップS40のNo)は、試運転部201は、指令速度を上げて(ステップS50)、ステップS20に戻り、電動機10を制御する制御装置に回転指令を送信して、回転速度を変更する。
【0078】
回転子16の回転速度が最高速度に到達した場合(ステップS40のYes)は、試運転部201は、電動機10を制御する制御装置に回転を停止する指令を送信して、電動機10を停止する(ステップS60)。そして、不釣り合い力推定部204は、不釣り合い力を推定し、補正値算出部206は、不釣り合い力推定部204で推定した不釣り合い力から、ゲインGの補正値を算出する(ステップS70)。そして、補正値格納部207は、補正値算出部206で算出したゲインGの補正値を格納する。そして、処理を終了する。
【0079】
なお、補正値を算出する際に、補償開始速度決定部205は、ゲインGの補償をどの回転速度から開始するかを決定してもよい。例えば、位置振動の脈動成分(脈動値)が、閾値より大きい場合に、ゲインGの補償を行うようにしてもよい。
【0080】
図17は、制御装置200における処理結果を説明する図である。補正前のデータは、算出される振幅ピーク値(浮上位置)より、不釣り合い力によって発生する振動成分を抽出した結果である。抽出した結果により、補正を行う上限値と下限値、また補正開始速度を決定し、正規化を行いゲイン値の決定を行う。決定された調整ゲインの結果を
図18に示す。
【0081】
なお、補正を行わない範囲においては、ゲイン値は0とする。
図17の振幅データより決定されたゲインGを用いて補正値を算出すると、補正値はゲインGとトラッキングフィルタより得られた信号Xoutを用いて式4で表せる。ただし、ゲインGは-1~0の間で決定され、制御装置200の特性により変化する。
【0082】
【0083】
【0084】
図19に示すように、磁気軸受を用いる電動機であっても、通常はタッチダウンベアリングと呼ばれる補助的なベアリング17を用いる。よって、回転子16が、ベアリング17に当たらないように浮上の制御を行う。よって、ベアリング17と回転子16の軸の隙間の量ΔDが、振動ピーク値の許容最大値となる。
【0085】
よって、許容最大値に対して、実際に試運転を行って、トラッキングフィルタ無しの場合の振動を測定する。このとき、許容最大値に到達する可能性が加速中にある場合には、そこまでとし、それまでの値から最高速度における振動ピーク値を算出する。算出方法は、前述の二次関数補間や、指数関数補間、線形補間を用いることとなる。
【0086】
低減量としては、低減した結果が目標とする最大値を超えないようにする。ただし、電動機の製造ばらつきを考慮して、製造の工数、コストを考慮したものとするため、過度な補正を行うことは望ましくない。よって、許容最大値に対してマージンを取った係数を乗じて決定するものとする。たとえば許容最大値が100μmであれば、50%のマージンとして50μmを振幅ピーク値の最大とするなどである。
【0087】
振幅のピーク値も、平均を用いるのか、試運転で得られた最大値を用いるのかによってもマージンを決定する考え方は変わる。よって、振幅のピーク値の統計解析を行って、偏差が十分小さければ平均値を、大きければ最大値を用いるなどの対応をとることができる。
【0088】
開始速度の決め方について説明する。トラッキングフィルタで抑制する不釣り合い力の影響が回転速度の二乗で増大する。不釣り合い力の増大に対してどの速度から補正を開始するかについては、様々な方法がある。
【0089】
実際の回転子の振動には、一定値となる静荷重と、速度の二乗で増大する動荷重の二種類がある。
図20に示すように、回転子16には、静荷重と動荷重を合成した力が働く。更には、回転子16の位置の変動には、脈動成分が含まれるため、
図21に示すように、最大と最小の間で一定の幅を持って変動する。
【0090】
もっとも低いところから2倍、全体の平均、最大値と最小値の範囲を基準にして80%以下の地点などが挙げられる。この中で、もっともなめらかに補正が行えるよう、統計的手法で自動選定を行うこともできる。
【0091】
また、例えば、振動成分がその他の脈動成分に埋もれるような状態の場合、振動の大きさの平均値、分散(式2)、偏差(式3)を求めることで、分布が平坦になっていることを定量的に表すことができる。
【0092】
このことより、回転速度に同期した振動成分が、たとえばその他の小さな振動成分に対して2倍などの大きさ以上になった場合、振動抑制の制御を開始するといったことが可能である。
【0093】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10 電動機
11 電動機用コイル
12 磁気軸受コイル
13 位置センサ
14 位置センサ
15 速度センサ
16 回転子
17 ベアリング
20 駆動回路
200 制御装置
203 位置振動分析部
208 位置振動補償部