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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】補強構造、及び、補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241112BHJP
   E04B 1/48 20060101ALI20241112BHJP
   B23K 9/20 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
E04G23/02 F
E04B1/48 A
B23K9/20 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021040998
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022140923
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和章
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-027906(JP,A)
【文献】特開2016-068089(JP,A)
【文献】特開2015-194047(JP,A)
【文献】特開2016-069808(JP,A)
【文献】特開2019-027198(JP,A)
【文献】米国特許第03706870(US,A)
【文献】特開昭49-022361(JP,A)
【文献】米国特許第4201904(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
E04B 1/48
B23K 9/20
E04B 1/24
E04C 3/04-3/11,3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、
前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、
前記鋼材との間に溶接空間を有して添設される板材と、
前記板材に固定されて前記溶接空間に配置される金属フェルールと、
を備え、
前記板材は、前記棒材よりも広径の挿通孔を有し、
前記金属フェルールは、前記挿通孔に連通するとともに前記挿通孔の径以上の金属フェルール孔を有し、
前記棒材は、前記金属フェルール孔及び前記挿通孔に挿通されており、
前記棒材と前記金属フェルール孔との間隙、及び、前記棒材と前記挿通孔との間隙に、溶接金属が充填されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の補強構造であって、
前記挿通孔は、
前記金属フェルール孔の直下に設けられた第一径孔と、
前記第一径孔よりも狭径、且つ、前記棒材よりも広径の第二径孔と、
を有し、
前記溶接金属は、前記第一径孔と前記棒材との間隙に充填されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補強構造であって、
前記鋼材と前記板材との間の前記溶接空間に充填材が充填されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項4】
請求項3に記載の補強構造であって、
前記板材は、
前記充填材を受ける受け部と、
前記充填材の漏れを防止する堰部と、
を有することを特徴とする補強構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の補強構造であって、
前記棒材に螺合して、前記板材を前記鋼材の側に押し付ける締付材を有する、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項6】
鋼材を、板材と棒材を用いて補強する補強方法であって、
前記板材に金属フェルール下地を溶接する金属フェルール下地設置工程と、
前記金属フェルール下地に、前記棒材よりも広径の金属フェルール孔を形成する金属フェルール孔形成工程と、
前記板材に、前記金属フェルール孔と連通するとともに、前記棒材よりも広径、且つ、前記金属フェルール孔の径以下の挿通孔を形成する挿通孔形成工程と、
前記鋼材と前記板材との間に溶接空間が形成され、且つ、前記溶接空間に前記金属フェルール孔の形成された金属フェルールが位置するように、前記板材を前記鋼材に添設する板材添設工程と、
前記挿通孔、及び前記金属フェルール孔に前記棒材を挿通させて、前記棒材の先端を前記鋼材に溶接し、前記棒材と前記金属フェルール孔との間隙、及び、前記棒材と前記挿通孔との間隙に溶接金属を充填させる溶接工程と、
を有することを特徴とする補強方法。
【請求項7】
請求項6に記載の補強方法であって、
前記板材添設工程の後、前記挿通孔に耐火耐熱絶縁材を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程を有し、
前記溶接工程において、前記棒材を前記耐火耐熱絶縁材にも挿通させる、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項8】
請求項7に記載の補強方法であって、
前記耐火耐熱絶縁材は、前記挿通孔と前記棒材との間隙に埋設可能な筒部と、前記筒部の外周面から外側に突出する鍔部と、を有し、
前記耐火耐熱絶縁材設置工程では、前記筒部を前記挿通孔に挿入し、前記鍔部を前記板材に当接させる、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の補強方法であって、
前記溶接工程の後、前記耐火耐熱絶縁材を除去し、前記棒材に締付材を螺合させて、前記板材を前記鋼材の側に押し付ける、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9の何れかに記載の補強方法であって、
前記溶接工程の後、前記鋼材と前記板材との間の前記溶接空間に充填材を充填する、
ことを特徴とする補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強構造、及び、補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物(鋼材)の補強を行う場合は、一般的に溶接作業が行われる。そして、かかる溶接作業は、例えば、特許文献1に開示されているような溶接装置により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-68089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような溶接装置により溶接作業を行うと、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがあった。また、養生を行う場合、かなり大がかりな養生が必要になり、補強を行うのに時間や手間がかかっていた。
【0005】
また、鋼構造物(鋼材)に棒材の先端を溶接し、補強板(板材)の挿通孔に棒材を挿通させることにより、補強板を取り付けて補強する場合、挿通孔は、製造誤差や取付誤差等を考慮して、棒材よりも広径に形成する必要がある。このため、挿通孔と棒材との間に間隙が生じるので、補強による部材性能(強度など)が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、鋼材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設される板材と、前記板材に固定されて前記溶接空間に配置される金属フェルールと、を備え、前記板材は、前記棒材よりも広径の挿通孔を有し、前記金属フェルールは、前記挿通孔に連通するとともに前記挿通孔の径以上の金属フェルール孔を有し、前記棒材は、前記金属フェルール孔及び前記挿通孔に挿通されており、前記棒材と前記金属フェルール孔との間隙、及び、前記棒材と前記挿通孔との間隙に、溶接金属が充填されていることを特徴とする補強構造である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の補強構造の概略斜視図である。
図2図2Aは、図1の概略断面図である。図2Bは、金属フェルール孔30aと挿通孔20aとスタッドボルト10の径の比較図である。
図3図3A図3Eは、図1の補強構造を形成する補強方法を示す説明図である。
図4】絶縁スリーブ32の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
鋼材と、前記鋼材に先端が溶接されている棒材と、前記鋼材との間に溶接空間を有して添設される板材と、前記板材に固定されて前記溶接空間に配置される金属フェルールと、を備え、前記板材は、前記棒材よりも広径の挿通孔を有し、前記金属フェルールは、前記挿通孔に連通するとともに前記挿通孔の径以上の金属フェルール孔を有し、前記棒材は、前記金属フェルール孔及び前記挿通孔に挿通されており、前記棒材と前記金属フェルール孔との間隙、及び、前記棒材と前記挿通孔との間隙に、溶接金属が充填されていることを特徴とする補強構造が明らかとなる。
【0013】
このような補強構造によれば、補強に用いる板材を鋼材に添設することにより、鋼材との間に溶接空間を形成しているので、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、鋼材と補強板と金属フェルールを溶接金属によって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0014】
かかる補強構造であって、前記挿通孔は、前記金属フェルール孔の直下に設けられた第一径孔と、前記第一径孔よりも狭径、且つ、前記棒材よりも広径の第二径孔と、を有し、前記溶接金属は、前記第一径孔と前記棒材との間隙に充填されていることが望ましい。
【0015】
このような補強構造によれば、強度を高めつつ、溶接金属が漏れることを抑制できる。
【0016】
かかる補強構造であって、前記鋼材と前記板材との間の前記溶接空間に充填材が充填されていることが望ましい。
【0017】
このような補強構造によれば、溶接空間を構成している各部材を充填材で一体化させることができるので、強度の向上を図ることができる。
【0018】
かかる補強構造であって、前記板材は、前記充填材を受ける受け部と、前記充填材の漏れを防止する堰部とを有することが望ましい。
【0019】
このような補強構造によれば、充填材の漏れを抑制することができ、充填材を効率的に充填させることができる。
【0020】
かかる補強構造であって、前記棒材に螺合して、前記板材を前記鋼材の側に押し付ける締付材を有することが望ましい。
【0021】
このような補強構造によれば、さらに一体化を図ることができる。また、棒材と挿通孔との間隙を塞ぐことができる。
【0022】
また、鋼材を、板材と棒材を用いて補強する補強方法であって、前記板材に金属フェルール下地を溶接する金属フェルール下地設置工程と、前記金属フェルール下地に、前記棒材よりも広径の金属フェルール孔を形成する金属フェルール孔形成工程と、前記板材に、前記金属フェルール孔と連通するとともに、前記棒材よりも広径、且つ、前記金属フェルール孔の径以下の挿通孔を形成する挿通孔形成工程と、前記鋼材と前記板材との間に溶接空間が形成され、且つ、前記溶接空間に前記金属フェルール孔の形成された金属フェルールが位置するように、前記板材を前記鋼材に添設する板材添設工程と、前記挿通孔、及び前記金属フェルール孔に前記棒材を挿通させて、前記棒材の先端を前記鋼材に溶接し、前記棒材と前記金属フェルール孔との間隙、及び、前記棒材と前記挿通孔との間隙に、前溶接金属を充填させる溶接工程と、を有することを特徴とする補強方法が明らかとなる。
【0023】
このような補強方法によれば、補強に用いる板材を用いて、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、鋼材、板材、金属フェルールを溶接金属によって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0024】
かかる補強方法であって、前記板材添設工程の後、前記挿通孔に耐火耐熱絶縁材を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程を有し、前記溶接工程において、前記棒材を前記耐火耐熱絶縁材にも挿通させることが望ましい。
【0025】
このような補強方法によれば、挿通孔と棒材との間隙を養生でき、溶接金属の漏れを抑制できる。また、板材と棒材とを絶縁させることができる。
【0026】
かかる補強方法であって、前記耐火耐熱絶縁材は、前記挿通孔と前記棒材との間隙に埋設可能な筒部と、前記筒部の外周面から外側に突出する鍔部と、を有し、前記耐火耐熱絶縁材設置工程では、前記筒部を前記挿通孔に挿入し、前記鍔部を前記板材に当接させることが望ましい。
【0027】
このような補強方法によれば、溶接金属の漏れを抑制できる。
【0028】
かかる補強方法であって、前記溶接工程の後、前記耐火耐熱絶縁材を除去し、前記棒材に締付材を螺合させて、前記板材を前記鋼材の側に押し付けることが望ましい。
【0029】
このような補強方法によれば、さらに一体化を図ることができ、また、挿通孔と棒材との間隙を塞ぐことができる。
【0030】
かかる補強方法であって、前記溶接工程の後、前記鋼材と前記板材との間の前記溶接空間に充填材を充填することが望ましい。
【0031】
このような補強方法によれば、溶接空間を構成している各部材(鋼材、板材など)を充填材で一体化することができる。
【0032】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0033】
===本実施形態===
<補強構造について>
【0034】
図1は、本実施形態の補強構造の概略斜視図である。また、図2Aは、図1の概略断面図であり、図2Bは、金属フェルール孔30aと挿通孔20aとスタッドボルト10の径の比較図である。なお、図2A及び図2Bでは、充填材50の図示を省略している。また、図2Aでは、ワッシャー13及びナット14を側面図で示している。
【0035】
以下の説明では、図に示すように、互いに交差する上下方向、幅方向、長手方向を定めている。長手方向は、H形鋼1の長さ方向であり、上下方向は、H形鋼1の一対のフランジ2の厚さ方向(一対のフランジ2が並ぶ方向)に沿った方向である。幅方向は、上下方向及び長手方向に直交する方向である。
【0036】
図1及び図2に示すように、本実施形態の補強構造は、H形鋼1、スタッドボルト10、ワッシャー13、ナット14、補強板20、金属フェルール30、充填材50を有している。
【0037】
H形鋼1は、例えば、建築物における柱や梁など(ここでは梁)を構成する鋼構造物であり、断面が「H」形の鋼材である。H形鋼1は、上下に間隔を隔てて平行配置された板状の一対のフランジ2(上フランジ2A及び下フランジ2B)と、上フランジ2Aと下フランジ2Bとを、幅方向の中央にて上下に繋ぐ板状のウェブ4を有している。本実施形態では、H形鋼1の下フランジ2B(鋼材に相当)に補強板20を設けることにより、下フランジ2Bを補強している。
【0038】
スタッドボルト10(棒材に相当)は、先端がスタッド溶接可能に形成された棒状の部材(ボルト)であり、本実施形態では、H形鋼1の下フランジ2Bの下面に溶接されている。下フランジ2Bには、幅方向及び長手方向に間隔を空けて複数のスタッドボルト10が溶接されている。なお、スタッド溶接を行う際には、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがある。また、養生を行うにはかなり大がかりな養生が必要になり、時間や手間がかかる。
【0039】
そこで、本実施形態では、後述するように補強に用いる補強板20を用いて、溶接用の空間S(溶接空間に相当)を形成し、スタッド溶接するようにしている。これにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる(溶接による周囲への影響を抑制できる)。
【0040】
ワッシャー13は、ナット14と補強板20の受け部22との間に介在されており、受け部22に形成された挿通孔22a(より具体的には、第二挿通孔202)とスタッドボルト10との間隙を塞いでいる
【0041】
ナット14(締付材に相当)は、スタッドボルト10に螺合されることにより、ワッシャー13を介して、補強板20を下フランジ2Bの側に押し付ける部材である。なお、ワッシャー13を設けずに、ナット14で挿通孔22a(ここでは第二挿通孔202)とスタッドボルト10との間隙を塞いでもよい。また、ワッシャー13及びナット14を共に設けていなくてもよい。この場合においても、本実施形態では、後述する溶接金属Mによって、下フランジ2Bと補強板20と金属フェルール30を一体化することができ、強度の向上を図ることができる。
【0042】
補強板20(板材に相当)は、H形鋼1(より具体的には下フランジ2B)を補強するための部材である。本実施形態の補強板20は、断面凹状の鋼製板材であり、受け部22と堰部24を有している。
【0043】
受け部22は、下フランジ2Bの下面に対向する板状の部位であり、下フランジ2Bと補強板20との間に充填される充填材50を受ける部位である。また、受け部22には、スタッドボルト10に対応して、挿通孔22aが複数形成されている。挿通孔22aは、スタッドボルト10を挿通させるための孔であり、受け部22を厚さ方向(ここでは上下方向)に貫通して形成された貫通孔である。本実施形態での挿通孔22aには、第一挿通孔201(第一径孔に相当)と、第一挿通孔201とは径の異なる第二挿通孔202(第二径孔に相当)とが形成されている。第一挿通孔201は、金属フェルール孔30aの直下に設けられており、第二挿通孔202は、第一挿通孔201の直下に設けられている。なお、第一挿通孔201、第二挿通孔202のサイズ(径)等については後述する。
【0044】
堰部24は、受け部22の幅方向の両端において、上側(下フランジ2B側)に立ち上がった部位であり、空間Sに充填される充填材50の漏れを防止する機能を有している(図3E参照)。堰部24を設けていることにより、空間Sに充填材50を効率的に充填できる。
【0045】
金属フェルール30は、上下に貫通する金属フェルール孔30aを有する金属製の円筒形の部材であり、補強板20の受け部22とH形鋼1の下フランジ2Bとの間に挟設されている。換言すると、金属フェルール30は、受け部22と下フランジ2Bとの間の空間Sに配置されている。そして、金属フェルール30は、スタッド溶接の火花(アーク)発生中に、空気を遮断して溶接金属と空気との反応を防ぎ、また、発生熱を集中して冷却速度を緩やかにする。これにより、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。また、金属フェルール30は、スタッド溶接によって発生する溶融金属(後述する溶接金属M)を内部に閉じ込めることにより、接合部分における鋳型の役目も有する。
【0046】
仮に、フェルールとして磁器(例えばセラミック)で形成されたものを用いると、溶接後に除去する必要がある。これに対し、本実施形態では、金属フェルール30を用いているので、除去する必要がない。
【0047】
充填材50は、流動性及び硬化性を有する材料であり、下フランジ2Bと補強板20との間に充填される。そして、充填材50が硬化することにより、補強板20と下フランジ2Bなどが一体化され、複合材料として補強の強度を高めることができる。なお、充填材50は、流動性及び硬化性を有する材料であればよく、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂を用いることができる。あるいは、水硬性材料(セメント)と水などを混合させた材料(無収縮モルタル、セメントミルクなどのグラウト)を用いてもよい。
【0048】
<スタッドボルト10、挿通孔22a、金属フェルール孔30aの径について>
図2Bに示すように、金属フェルール30には金属フェルール孔30aが形成されている。また、補強板20の受け部22には挿通孔22aが形成されており、挿通孔22aは、第一挿通孔201と第二挿通孔202との2段構成に形成されている。
【0049】
このうち、金属フェルール孔30a側(上側)の第一挿通孔201の径d3は、金属フェルール孔30aの径d4とほぼ同じ(d3=d4)である。なお、第一挿通孔201の径d3が、金属フェルール孔30aの径d4よりも小さくてもよい。
【0050】
また、第二挿通孔202の径d2は、第一挿通孔201の径d3よりも小さく(狭径であり)、且つ、スタッドボルト10の径d1よりも大きい(広径である)。
【0051】
また、金属フェルール孔30aの径d4は、スタッドボルト10の径d1よりも大きく、挿通孔22aの径以上(本実施形態ではd4=d3>d2)である。
【0052】
このように、挿通孔22a(第一挿通孔201、第二挿通孔202)及び金属フェルール孔30aの各孔は、製造誤差や、取付誤差などを考慮して、スタッドボルト10よりも広径に形成されている。よって、挿通孔22a及び金属フェルール孔30aにスタッドボルト10を挿通した際に、スタッドボルト10と各孔との間には間隙が生じることになるため、補強による部材の強度が低下するおそれがある。
【0053】
そこで、本実施形態では、スタッドボルト10と下フランジ2Bとの溶接(スタッド溶接)による溶接金属Mで下フランジ2B、補強板20、金属フェルール30を一体化させている。これにより、強度の向上を図っている。
【0054】
<補強方法について>
図3A図3Eは、図1の補強構造を形成する補強方法の一例を示す説明図である。また、図4は、絶縁スリーブ32の一例を示す斜視図である。
【0055】
まず、例えば工場において、図3Aに示すように、補強板20の受け部22に円柱形状の金属フェルール下地300を溶接(スタッド溶接)する(金属フェルール下地設置工程に相当)。
【0056】
次に、図3Bに示すように、ドリル等を用いて、金属フェルール下地300に金属フェルール孔30aを形成する(金属フェルール孔形成工程に相当)。これにより、円柱形状の金属フェルール下地300から、円筒形状の金属フェルール30が形成される。また、補強板20の受け部22にも金属フェルール孔30aに連通する挿通孔22aを形成する(挿通孔形成工程に相当)。本実施形態では、挿通孔22aを形成する際、金属フェルール孔30aと同径の第一挿通孔201を形成した後、第一挿通孔201より狭径の第二挿通孔202を形成している。なお、各孔の径の設定は、例えば、加工に用いるドリルのドリル径を変えることで調整することができる。
【0057】
また、図では示していないが、金属フェルール30(例えば下フランジ2Bとの当接部分)に、ガス抜き用の溝(切欠き)を形成しておくことが望ましい。これにより、溶接金属Mをより確実に充填させることができる。
【0058】
次に、例えば現場において、図3Cに示すように、H形鋼1の下フランジ2Bに対して補強板20を添設する(板材添設工程に相当)。より具体的には、補強板20に固定した金属フェルール30が下フランジ2Bと補強板20の間に位置するように、金属フェルール30を下フランジ2Bの下面に当接させ、補強板20と下フランジ2Bをシャコ万などの万力(不図示)でクランプして固定する。補強板20と下フランジ2Bとの間に金属フェルール30が配置されることにより、補強板20と下フランジ2Bとの間には溶接用の空間S(溶接空間に相当)が形成される。
【0059】
その後、補強板20(具体的には、堰部24の上端)と下フランジ2Bとの隙間に、例えばアルミテープなどの養生部材34を設けて養生を行う。また、挿通孔22aの第二挿通孔202に絶縁スリーブ32(耐火耐熱絶縁材に相当)を設置する(耐火耐熱絶縁材設置工程に相当)。このような養生を行うことにより、空間Sを閉塞空間にすることができる。
【0060】
絶縁スリーブ32は、耐火性及び耐熱性の絶縁材料で形成されており、図4に示すように、筒部32aと、鍔部32bを有している。
【0061】
筒部32aは、スタッドボルト10と、挿通孔22aの第二挿通孔202との間隙に配置(埋設)可能な円筒形状に形成されている。
【0062】
鍔部32bは、筒部32aの外周面から外側に突出している。
【0063】
絶縁スリーブ32の筒部32aを挿通孔22aの第二挿通孔202に挿入していくと、鍔部32bが補強板20(受け部22)の下面に当接する。これにより、筒部32aの一部が、挿通孔22aの内部に配置(埋設)される。なお、本実施形態では、絶縁スリーブ32の鍔部32bが筒部32aの中央に設けられているが、これには限られない。例えば、筒部32aの端に鍔部32bが設けられて、筒部32a全体が埋設されてもよい。
【0064】
養生後、図3Dに示すように、スタッドガン(不図示)に取り付けたスタッドボルト10を、絶縁スリーブ32、挿通孔22a(第一挿通孔201)、及び、金属フェルール孔30aに挿通させて、スタッドボルト10の先端を下フランジ2Bの下面に当接させる。そして、スタッドガンを用いて、スタッドボルト10の先端を下フランジ2Bに押し当てつつスタッド溶接する(溶接工程に相当)。
【0065】
この際、スタッドボルト10と下フランジ2Bとの接触面の部分が溶解(溶融)して溶接金属Mが生成される。溶接金属Mは、図3Eに示すように、スタッドボルト10と金属フェルール孔30aとの間隙、及び、スタッドボルト10と第一挿通孔201との間隙に充填される。本実施形態では、第二挿通孔202とスタッドボルト10との隙間には絶縁スリーブ32(筒部32a)が埋設されており、さらに、筒部32aの外周面から外側に突出した鍔部32bが補強板20の受け部22の下面に当接しているので、溶融状態の溶接金属Mの漏れを抑制できる。なお、絶縁スリーブ32は、スタッド溶接の際に、スタッドボルト10と補強板20とが接触することを防止し、スタッドボルト10と補強板20を絶縁させる部材としても機能している。
【0066】
また、本実施形態では、スタッドボルト10の先端の周囲に金属フェルール30が配置されているので、スタッド溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。さらに、スタッドボルト10と挿通孔22a(第一挿通孔201)との間隙には絶縁スリーブ32の筒部32aが埋設されており、さらに、補強板20と下フランジ2Bとの隙間に養生部材34が設けられている。これにより、空間Sが閉塞空間となっているので、スタッド溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散をさらに抑制することが可能である。
【0067】
また、本実施形態では、下フランジ2Bの補強に用いる補強板20が、養生用の部材(養生パネル)として機能するので、大掛かりな養生を行わなくてよく、手間がかからない。また、実際に補強に用いる補強板20に形成した挿通孔22a(第一挿通孔201、第二挿通孔202)にスタッドボルト10を挿通させて溶接を行っているので、スタッドボルト10と挿通孔22aとの位置ずれを抑制することができる。
【0068】
なお、養生を行う前に、補強板20の堰部24と下フランジ2Bとの隙間から空間Sに、ガス(希ガス、COガス、アセチレン、不活性ガスなど)を封入するようにしてもよい。そして、ガス封入後、養生を行ないスタッド溶接してもよい。これにより、溶接の品質向上を図ることができる。
【0069】
スタッド溶接後、図3Eに示すように、溶融状態の溶接金属Mが固まることによって、下フランジ2Bと補強板20と金属フェルール30が溶接金属Mで一体化される。このように、スタッド溶接で生じた溶接金属Mによって各部材を一体化することができ、これにより、強度の向上を図ることができる。
【0070】
全てのスタッドボルト10の溶接後、養生部材34を取り外し、下フランジ2Bと補強板20との間から、空間Sに充填材50を充填し、硬化させる。この際、補強板20に堰部24が設けられていることより、充填材50が漏れないようにでき、効率的に充填材50を充填することができる。また、充填材50が硬化することにより、空間Sを構成する各部材(下フランジ2B、補強板20、金属フェルール30など)が一体化するので、さらに強度の向上を図ることができる。
【0071】
次に、絶縁スリーブ32を取り外し、スタッドボルト10にワッシャー13及びナット14を取り付ける。ナット14をスタッドボルト10に螺合させることで、ワッシャー13を介して、補強板20を下フランジ2Bの側に押し付ける。これにより、さらに一体化を図ることができ、また、スタッドボルト10と補強板20の第二挿通孔202との間隙を塞ぐことができる。なお、前述したように、ワッシャー13及びナット14は設けていなくてもよい。
【0072】
以上、説明したように、本実施形態の補強構造は、H形鋼1の下フランジ2Bと、下フランジ2Bに上端が溶接されているスタッドボルト10と、下フランジ2Bとの間に空間Sを有して添設され、スタッドボルト10を挿通する挿通孔22aを有する補強板20と、補強板20の受け部22に固定されて空間Sに配置される金属フェルール30を備えている。補強板20は、スタッドボルト10よりも広径の挿通孔22aを有し、金属フェルール30は、挿通孔22aと連通するとともに挿通孔22aの径以上の金属フェルール孔30aを有している。そして、スタッドボルト10は、金属フェルール孔30a及び挿通孔22aに挿通されており、スタッドボルト10と金属フェルール孔30aとの間隙、及び、スタッドボルト10と挿通孔22a(第一挿通孔201)との間隙に、溶接金属Mが充填されている。
【0073】
これにより、補強に用いる補強板20を下フランジ2Bに添設することにより、下フランジ2Bとの間に溶接用の空間Sが形成されるので、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、下フランジ2B、補強板20、金属フェルール30を溶接金属Mによって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0074】
また、挿通孔22aは、金属フェルール孔30aの直下に設けられた第一挿通孔201と、第一挿通孔201よりも狭径、且つ、スタッドボルト10よりも広径の第二挿通孔202を有しており、溶接金属Mは、第一挿通孔201とスタッドボルト10との間隙に充填されている。
【0075】
これにより、一体化による強度を高めつつ、溶接金属Mの漏れを抑制することができる。
【0076】
また、下フランジ2Bと補強板20との間の空間Sには充填材50が充填されている。
【0077】
これにより、空間Sを構成している下フランジ2Bと補強板20を充填材50で一体化させることができ、強度の向上を図ることができる。
【0078】
また、補強板20は、充填材50を受ける受け部22と、充填材50の漏れを防止する堰部24とを有している。
【0079】
これにより、充填材50の漏れを防止することができ、充填材50を効率的に充填することができる。
【0080】
また、スタッドボルト10に螺合して、補強板20を下フランジ2Bの側に押し付けるナット14を有している。
【0081】
これにより、より一体化を図ることができる。また、スタッドボルト10と挿通孔22a(第二挿通孔202)との間隙を塞ぐことができる。
【0082】
また、本実施形態の補強方法は、H形鋼1の下フランジ2Bを、補強板20とスタッドボルト10を用いて補強する補強方法であって、補強板20に金属フェルール下地300を溶接する金属フェルール下地設置工程と、金属フェルール下地300に、スタッドボルト10よりも広径の金属フェルール孔30aを形成する金属フェルール孔形成工程と、補強板20の受け部22に、金属フェルール孔30aと連通するとともに、スタッドボルト10よりも広径、且つ、金属フェルール孔30aの径以下の挿通孔22aを形成する挿通孔形成工程を有している。
【0083】
さらに、下フランジ2Bと補強板20との間に空間Sが形成され、且つ、空間Sに金属フェルール孔30aの形成された金属フェルール30が位置するように、補強板20を下フランジ2Bに添設する板材添設工程と、挿通孔22a、及び、金属フェルール孔30aにスタッドボルト10を挿通させて、スタッドボルト10の上端(先端)を下フランジ2Bに溶接し、スタッドボルト10と金属フェルール孔30aとの間隙、及び、スタッドボルト10と挿通孔22a(第一挿通孔201)との間隙に溶接金属Mを充填する溶接工程を有している。
【0084】
これにより、補強に用いる補強板20を用いて、溶接用の空間Sが形成されるので、溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制できる。また、下フランジ2B、補強板20、金属フェルール30を溶接金属Mによって一体化させることができ、補強の強度の向上を図ることができる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強の強度の向上を図ることができる。
【0085】
また、板材添設工程の後、挿通孔22a(第二挿通孔202)に絶縁スリーブ32を設置する耐火耐熱絶縁材設置工程を有し、溶接工程において、スタッドボルト10を絶縁スリーブ32にも挿通させている。
【0086】
これにより、挿通孔22aとスタッドボルト10との間隙を養生でき、溶接金属Mの漏れを抑制できる。また、補強板20とスタッドボルト10とを絶縁させることができる。
【0087】
また、絶縁スリーブ32は、挿通孔22a(第二挿通孔202)とスタッドボルト10との間隙に埋設可能な筒部32aと、筒部32aの外周面から外側に突出する鍔部32bを有している。そして絶縁スリーブ32を設置する工程では、筒部32aを挿通孔22a(第二挿通孔202)に挿入し、鍔部32bを補強板20に当接させている。
【0088】
これにより、溶接金属Mの漏れを抑制することができる。
【0089】
また、スタッド溶接の後、絶縁スリーブ32を除去し、スタッドボルト10にナット14を螺合させて、補強板20を下フランジ2Bの側に押し付けている。
【0090】
これにより、より一体化を図ることができ、また、挿通孔22a(第二挿通孔202)とスタッドボルト10との間隙を塞ぐことができる。
【0091】
また、スタッド溶接の後、下フランジ2Bと補強板20との間の空間Sに充填材50を充填している。
【0092】
これにより、空間Sを構成している各部材(下フランジ2B、補強板20など)を充填材50で一体化することができる。なお、充填材50は必須ではなく、空間Sに充填材50を充填していなくてもよい。
【0093】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0094】
前述の実施形態では、鋼材としてH形鋼1(下フランジ2B)を例示していたが、H形鋼には限られず、他の鋼構造物であってもよい。
【0095】
また、前述の実施形態では、補強対象のH形鋼1(下フランジ2B)を補強する際には、上向きに溶接(スタッド溶接)を行っていたが、これには限られない。また、例えば、補強対象の鋼材が鉛直方向に沿っていてもよく(例えば柱でもよく)、この場合、横向き(水平に)スタッド溶接を行なえばよい。
【0096】
また、前述の実施形態では、補強板20の挿通孔22aが、第一挿通孔201と第二挿通孔202の2段に形成されていたが、これには限られず、1段でもよいし、3段以上でもよい。1段の場合、例えば、金属フェルール孔30aに近い大きさの孔(例えば第一挿通孔201)のみを形成し、絶縁スリーブ32の大きさや形状を調整することで、溶接金属Mの漏れを抑制するようにすればよい。
【0097】
また、前述の実施形態では、金属フェルール下地300を補強板20に溶接した後、金属フェルール下地300に金属フェルール孔30aを形成することで金属フェルール30を形成していたが、これには限られない。例えば、金属フェルール孔30aの形成された金属フェルール30を補強板20に溶接してもよい。そして、金属フェルール孔30aに連通する挿通孔22aを補強板20に形成してもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 H形鋼
2 フランジ
2A 上フランジ
2B 下フランジ(鋼材)
4 ウェブ
10 スタッドボルト(棒材)
13 ワッシャー
14 ナット(締付材)
20 補強板(板材)
22 受け部
22a 挿通孔
24 堰部
30 金属フェルール
30a 金属フェルール孔
32 絶縁スリーブ(耐火耐熱絶縁材)
32a 筒部
32b 鍔部
34 養生部材
201 第一挿通孔(第一径孔)
202 第二挿通孔(第二径孔)
300 金属フェルール下地
S 空間(溶接空間)
M 溶接金属
図1
図2
図3
図4