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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】トグル型締装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/64 20060101AFI20241112BHJP
   B22D 17/26 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B29C45/64
B22D17/26 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021041948
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142000
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】釼 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直樹
【審査官】浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-008067(JP,A)
【文献】特開昭63-170013(JP,A)
【文献】特開昭63-154319(JP,A)
【文献】特開2020-032617(JP,A)
【文献】特開平02-072909(JP,A)
【文献】米国特許第04021181(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/64
B22D 17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型を支持する固定盤と
リンクハウジングと、
前記固定盤と前記リンクハウジングとの間に位置し、且つ、可動金型を支持する可動盤と、
前記リンクハウジングに支持されるトグルリンク機構と、
前記可動盤を貫通し、且つ、前記固定盤と前記リンクハウジングとを連結する複数のタイバーと
型締制御装置とを備え
前記トグルリンク機構は
前記可動盤を前記固定盤に対して前後進動作させると共に
前記タイバーを延伸させ、前記延伸に応じた前記タイバーの弾性回復力を、前記固定金型と前記可動金型とに型締力として作用させるように構成されており
前記タイバーは、中空構造のアウタータイバーと、前記アウタータイバーの中空部に収納されるインナータイバーとで構成され
前記型締制御装置は、
前記アウタータイバーの延伸量S1と、前記インナータイバーの延伸量S2とを、個別に調整するように構成されており、
前記インナータイバーの端部に連結された延伸量調整補助機構により、前記延伸量S2の調整を行う、ことを特徴とするトグル型締装置。
【請求項2】
前記延伸量調整補助機構は、油圧シリンダを備えた油圧装置であり、前記油圧シリンダに供給する作動油の供給圧力の制御により、前記延伸量S2の調整を行う、請求項記載のトグル型締装置。
【請求項3】
前記延伸調整補助機構は、電動モータの回転動作を直動動作に変換するボールネジ機構を備えた電動装置であり、前記電動モータの回転方向と回転トルクの制御により、前記延伸量S2の調整を行う、請求項記載のトグル型締装置。
【請求項4】
前記型締制御装置において、前記延伸量S1に応じた型締力P1を作用させて成形運転を行い、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2の調整をさらに加えて型締力補正を行う、請求項1からのいずれか1項に記載のトグル型締装置。
【請求項5】
前記型締制御装置において、前記延伸量S1に応じた型締力P1と前記延伸量S2に応じた型締力P2を合算した型締力を作用させて成形運転を行い、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2の調整をさらに加えて型締力補正を行う、請求項1からのいずれか1項に記載のトグル型締装置。
【請求項6】
前記型締制御装置において、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2をそれぞれ調整して、各インナータイバーの弾性回復力をそれぞれ変えて型締力バランス補正を行う、請求項1からのいずれか1項に記載のトグル型締装置。
【請求項7】
前記型締制御装置において、前記固定盤と前記リンクハウジングとの間の前記アウタータイバーの長さ調整するダイハイト調整により、前記延伸量S1の調整を行う、請求項1から6のいずれか1項に記載のトグル型締装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トグルリンク機構を用いて成形金型の型開閉動作を行うトグル型締装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンや射出成形機に用いられる型締装置の1つとして、トグルリンク機構を利用して成形金型の型開閉動作と型締動作を行うトグル型締装置がある。マシンベースの端部に固定盤が固定され、固定盤と対面する位置に可動盤とリンクハウジングの順に配置される。可動盤とリンクハウジングは、トグルリンク機構で連結され、固定盤に対してマシンベース上を進退自在に動くようになっている。可動盤を貫通する複数のタイバーは、固定盤とリンクハウジングとを連結し、可動盤はタイバーに支持され、トグルリンク機構により型開閉方向に動く。また、トグルリンク機構によりタイバーを延伸させて、延伸量に応じたタイバーの弾性回復力が、固定盤と可動盤との間に取り付けられた成形金型に型締力として作用する。
【0003】
製品や成形金型の大きさ、使用する成形材料の種類、成形条件等によって、適正型締力は決まっており、成形運転の開始前に型締力調整を行う。トグル型締装置の型締力調整は以下の手順で行う。先ず、タイバーとリンクハウジングの連結を解除して、リンクハウジングと固定盤の間の距離を前後進に微調整する。この微調整は、例えば、タイバーの先端部がネジ加工されており、このネジ部に勘合しリンクハウジングに固定された駆動ナットを回転させることで、リンクハウジングを前後進させるダイハイト調整機構を用いて行う。複数のタイバーに勘合した複数の駆動ナットは、例えば、歯車やチェーン等の連結具により連結される。この連結具を電動モータ等で回転駆動させることにより、複数の駆動ナットは同期して回転動作し、リンクハウジングは前後進動作する。
リンクハウジングと固定盤の間の距離は、トグルリンク機構によるタイバーの延伸量に相当し、このタイバーの延伸量を調整することで型締力の調整となる。この一連の動作をダイハイト調整という。このダイハイト調整後は、タイバーとリンクハウジングを連結して型締力調整を終える。
【0004】
ここで、成形の連続運転により、溶湯や溶融樹脂の熱量を受けて、成形金型は温度が上昇し熱膨張する。この金型の熱膨張は、タイバーの延伸量に影響し型締力が変化する。例えば、連続運転により変化した型締力が適正型締力を大きく超過すると、成形金型から空気やガスの抜けが悪くなってガス抜け不良を誘発する。あるいは、過度な型締力によって成形金型に過度な応力が負荷され、成形金型の寿命を短くすることになる。そのために、成形運転を一時中断して、型締力調整をやり直す型締力補正が必要となる。
また、製品形状、ゲート位置、成形金型に対する金型キャビティの配置、成形金型の剛性等により、ガス抜け不良による未充填や形状転写不足や、成形金型の合わせ面(金型PL面という)から成形材料が漏れ出るバリ不良が発生することがある。この場合においても、成形運転を一時中断して、型締力補正を行うことになる。
【0005】
さらに、連続運転による成形金型の温度上昇は、成形金型の部位によって異なり、型締力バランスを崩すことになる。その結果、ガス抜け不良やバリ不良のように、相反する成形不良が1つの製品の中で同時に発生することになる。この場合は、複数の駆動ナットの同期運転による型締力調整では対応困難であるために、例えば、複数の駆動ナットにそれぞれの電動モータを取付け、複数の駆動ナットを個別に回転調整させる、特別なダイハイト調整機構とすることが考えられるが、装置の複雑化や大型化による設備のコスト高が避けられる現実的ではない。
【0006】
そこで、上述の課題を解決する手段として、例えば、特許文献1に示すように、トグルリンク機構と可動盤との連結部を、移動調整可能なテーパ状のスペーサを組み込んだ特殊な構造とすることが提案されている。また、特許文献2に示すように、トグル型締装置と油圧型締装置を組み合わせたハイブリット構造の型締装置が提案されている。また、特許文献3に示すように、タイバーの温度調整機能を追加して、タイバーの温度を調整することで型締力を個別に微調整できるトグル型締装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-286852号公報
【文献】特開平10-29232号公報
【文献】特開2008-114513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に示す手段では、テーパ上のスペーサを移動調整させるだけで、可動盤とリンクハウジング間の距離を微調整でき、結果的に、型締力補正や型締力バランス補正が容易にできるとされている。しかしながら、スペーサの移動調整には、その構造上、成形運転と同時に行うことは無理であり、成形運転を一時中断するという課題は残されたままである。
【0009】
また、特許文献2に示す手段では、成形金型がタッチする位置まではトグルリンク機構を用いて型閉し、型締力の発生は油圧型締装置の油圧シリンダで行うものである。これにより、ダイハイト調整工程を不要とし、成形運転を一時中断することもなく、型締力補正と型締力バランス補正が容易にできるとされている。しかしながら、トグルリンク機構の倍力特性を利用して小さな力で大きな型締力を発生させることで、型締装置の小型化を実現するというトグル型締装置の最大の利点が全く活かされていない。また、タイバーの先端に設けた油圧シリンダは小さく、この小さい油圧シリンダで大きな型締力を発生させることは無理である。油圧シリンダを極端に大きくすれば、大きな型締力を得ることはできるが、型締装置も大型となる。
【0010】
また、特許文献3に示す手段では、温度調整機能を用いて各タイバーの温度を制御することで、タイバーの延伸量が調整できるものである。これにより、成形運転を一時中断することなく、型締力補正と型締力バランス補正ができるとされている。しかしながら、タイバーは大きな鉄の塊であり、タイバーの温度を上げたり下げたり温度調整には時間を要する。大きな型締装置では、タイバーの温度調整には長い時間を要する。そのため、タイバーの温度調整が完了するまでは、必然的に成形運転は中断される。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、成形運転を止めることなく、型締力補正と型締力バランス補正を簡単に短時間で行うことができる、小型のトグル型締装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るトグル型締装置は、固定盤とリンクハウジングの間に可動盤がマシンベース上に配置され、前記リンクハウジングはトグルリンク機構を支持し、前記可動盤を貫通し前記固定盤と前記リンクハウジングとを連結する複数のタイバーと、前記トグル機構は前記可動盤を前記固定盤に対して前後進動作と、前記タイバーを延伸させ、前記延伸に応じた前記タイバーの弾性回復力を、前記固定盤に支持した固定金型と前記可動盤に支持した可動金型とに型締力として作用させるトグル型締装置において、
前記タイバーは、中空構造のアウタータイバーと、前記アウタータイバーの中空部に収納されるインナータイバーとで構成されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るトグル型締装置において、前記アウタータイバーの延伸量S1と、前記インナータイバーの延伸量S2を、個別に調整することができるとしても良い。
【0014】
本発明に係るトグル型締装置の前記トグル制御部において、前記固定盤と前記リンクハウジングとの前記アウタータイバーの長さ調整するダイハイト調整により、前記延伸量S1の調整を行うとしても良い。
【0015】
本発明に係るトグル型締装置の前記トグル制御部において、前記インナータイバーの端部に連結された延伸量調整補助機構により、前記延伸量S2の調整を行うとしても良い。
【0016】
本発明に係るトグル型締装置の前記トグル制御部おいて、前記延伸量S1に応じた型締力P1を作用させて成形運転を行い、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2の調整をさらに加えて型締力補正を行うとしても良い。
【0017】
本発明に係るトグル型締装置の前記トグル制御部において、前記延伸量S1に応じた型締力P1と前記延伸量S2に応じた型締力P2を合算した型締力を作用させて成形運転を行い、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2の調整をさらに加えて型締力補正を行うとしても良い。
【0018】
本発明に係るトグル型締装置の前記トグル制御部において、成形品質の評価結果に基づいて、前記延伸量S2の調整をそれぞれ調整して、各インナータイバーの弾性回復力をそれぞれ変えて型締力バランス補正を行うとしても良い。
【0019】
本発明に係るトグル型締装置において、前記延伸量調整補助装置は、油圧シリンダを備えた油圧装置であり、前記油圧シリンダに供給する作動油の供給圧力の制御により、前記延伸量S2の調整を行うとしても良い。
【0020】
本発明に係るトグル型締装置において、前記延伸調整補助機構は、電動モータの回転動作を直動動作に変換するボールネジ機構を備えた電動装置であり、前記電動モータの回転方向と回転トルクの制御により、前記延伸量S2の調整を行うとしても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、成形運転を止めることなく、型締力補正と型締力バランス補正を簡単に短時間で行うことができる、小型のトグル型締装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るトグル型締装置の概念図である。
図2】本発明に係る制御ブロックを示す図である。
図3】本発明に係る型締力補正の動作を示す図である。
図4】本発明に係る型締力補正と型締力バランス補正の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0024】
[トグル型締装置]
先ず、本実施形態に係るにトグル型締装置ついて、図1を用いて説明する。なお、以下の説明では、本実施形態に係るトグル型締装置として、横型のダイカストマシンや射出成形機に用いられる型締装置をベースとしたが、これに限定されるものではない。
【0025】
図1に示すトグル型締装置100は、固定金型21を支持する固定盤2と、可動金型41を支持する可動盤4と、トグルリンク機構20を支持するリンクハウジング6とが、図示しないマシンベース上に一列に配置する。なお、可動盤4とリンクハウジング6は、固定盤2に対して進退自在に動くことができ、固定盤2は図示しないマシンベースに固定される。そして、一端を固定盤2に締結され、可動盤4を貫通して、他端が脱着可能な構造でリンクハウジング6に固着される、複数のタイバー10によって、固定盤2とリンクハウジング6とが連結される。また、可動盤4とリンクハウジング6は、トグルリンク機構20により連結され、トグルリンク機構20を用いて可動盤4を型開閉動作させる。ここで、固定盤2方向への動きを型閉方向CL、リンクハウジング6側への動きを型開方向OPと定義する。
【0026】
トグルリンク機構20は、トグル倍力特性を利用した増幅装置であり、型締装置の小型化を実現させる。リンクハウジング6に組込まれた電動サーボモータ22の回転運動を、ボールネジ機構24で直線運動に変換して、クロスヘッド26を前後進動作させる。クロスヘッド26の前後進動作は、連結している複数のリンク28を伸縮動作させて、可動盤4を型開閉動作させる。電動サーボモータ22の回転方向と回転速度および回転時間を制御することにより、可動盤4の型開閉動作が制御される。電動サーボモータ22の回転状態は、エンコーダ23で検出され、型締制御装置50に送られる。また、電動サーボモータ22の回転トルクはトグル倍力特性により増幅され、大きな型締力を得る。
なお、図1においては、電動サーボモータ22等の電動駆動装置を用いてトグルリンク機構20を動作させるとしたが、これに限定されることなく、例えば、油圧シリンダ等の油圧駆動装置を用いて、油圧シリンダの前後進ストローク量や移動方向及び移動速度を制御してトグルリンク機構20を動作させるとしても良い。
【0027】
複数のタイバー10は、直径の大きい中空構造のアウタータイバー12と、アウタータイバー12の中空部に収納され、アウタータイバー12よりは直径の小さいインナータイバー14の二重構造となっている。アウタータイバー12とインナータイバー14の片方の先端部は、固定盤2に締結され、可動盤4を支持するように貫通して、反対側のリンクハウジング6側に伸びている。
【0028】
アウタータイバー12は、図示しない固定ナット等を用いて片方を固定盤2に締結し、可動盤4とリンクハウジング6を貫通して、リンクハウジング6の型開方向OP側に突き出ている。リンクハウジング6側の先端部は所定のピッチを有するネジ部121が形成され、駆動ナット122とネジ部121がネジ結合している。駆動ナット122は、図示しない支持機構により、リンクハウジング6に取り付けられ、図示しない回転駆動装置により回転動作される。この駆動ナット122の回転動作は、アウタータイバー12のネジ部121とのネジ結合により、駆動ナット122とリンクハウジング6が一体となって、固定盤2に対して前後進動作する。この前後進動作により、固定盤2とリンクハウジング6の間の距離が調整され、アウタータイバー12の延伸量の調整となり、延伸量に応じたアウタータイバー12に発生する弾性回復力が、型締力として成形金型10に作用する。この一連の調整動作をダイハイト調整という。なお、複数の駆動ナット122は、例えば駆動チェーン等で連結され、複数の駆動ナット122を同時に回転動作される。
【0029】
インナータイバー14は、図示しない固定ナット等を用いて片方を固定盤2あるいはアウタータイバー12と締結し、アウタータイバー12の中空構造内を貫通して、リンクハウジング6の型開方向OP側に突き出ている。また、リンクハウジング6の型開方向OP側には、ダイハイト調整とは別にインナータイバー14の延伸量の調整を行う複数の延伸量調整補助機構30が設けられている。延伸量調整補助機構30は、インナータイバー14と連結されるとともに、固定治具34によって、アウタータイバー12と干渉しない状態でリンクハウジング6に取り付けられる。これにより、アウタータイバー12の延伸量の調整とは異なるインナータイバー14の延伸量の調整を実現する。また、複数のインナータイバー14を同時に同じ量の延伸量の調整を行う場合には、複数の延伸量調整補助機構30の動作を連動させる。複数のインナータイバー14の延伸量の調整を個別に行う場合には、複数の延伸量調整補助機構30も個別に動作させることができる。
【0030】
ここで、延伸量調整補助機構30は、油圧シリンダを備えた油圧装置とする。成形時の型締力はアウタータイバー12の延伸量に応じた弾性回復力で対応し、インナータイバー14の延伸量に応じた弾性回復力は補助的な型締力の調整用とすることで、油圧装置の小型化が図れ、型締装置のコンパクト化を実現する。例えば、アウタータイバー12で成形時の型締力の90%相当を設定し、残りの10%相当の型締力をインナータイバーで受け持ち、成形品質の評価結果に基づいて、10%相当の型締力の範囲内で型締力補正するとしても良い。油圧シリンダの駆動ピストン部とインナータイバー14を直結し、油圧シリンダのピストンの変位量をインナータイバー14の延伸量をとする。この変位量を変位計39で計測し、調整制御装置38に送り、調整駆動部36で油圧装置への作動油の供給圧力を制御して、インナータイバー14の延伸量を精度良く調整することができる。
【0031】
また、油圧シリンダを備えた油圧装置の代わりに、電動モータの回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構を備えた電動装置を、延伸量調整補助機構30とすることも可能である。この場合は、ボールネジ機構の変換率を加算した、電動モータの回転量や回転方向の回転数値を、インナータイバー14の延伸量をとする。この回転数値をエンコーダ等の変位計39で計測し、調整制御装置38に送り、調整駆動部36で電動装置への出力信号を制御してインナータイバー14の延伸量をより高精度に調整することができる。なお、電動装置の場合においても、インナータイバー14の延伸量に応じた弾性回復力を補助的な型締力の調整用とすることで、電動装置の小型が図れる。
また、油圧装置や電動装置以外でも、インナータイバー14の延伸量を調整することが可能な手段を延伸量調整補助機構30として用いても良い。
【0032】
[型締制御装置]
次に、本実施形態に係る、型締制御装置について図2を用いて説明する。型締制御装置50は、入出力部52と演算処理部54と型締制御部56を備え、以下に示す4つの制御を行う。
【0033】
先ず、可動盤4の型開閉動作と、成形金型10に型締力を作用させる型締動作の制御を行う。エンコーダ23の信号は、入出力部52と演算処理部54を経由して、型締制御部56で制御目標指令値を作成する。この制御目標指令値に基づいて電動サーボモータ22の回転制御を行い、型開閉動作と型締動作が制御される。なお、上述したように、油圧シリンダ等の油圧駆動装置を用いて型開閉動作と型締動作を行っても良い。
【0034】
次に、ダイハイト調整を制御する。型締力設定値が設定されると、型締力制御部56でアウタータイバー12の延伸量目標値を設定しダイハイト調整が行われる。その際に、実際に発生した型締力の実測値を、アウタータイバー12の延伸量として歪センサ40で計測し、入出力部52と演算処理部54を経由して、型締力制御部56で型締力設定値と実測値を比較し、比較結果が許容範囲を超えている場合は、型締力補正値としてアウタータイバー12の延伸量補正値を作成する。この延伸量補正値に基づいて再びダイハイト調整を行い、許容範囲に入るまで繰り返す。
ここで、歪センサ40は、例えば、歪ゲージをタイバーに貼り付けてタイバーに発生する歪量からタイバー延伸量を換算する手段とした。歪ゲージの分解能にもよるが、1/100mm単位の高精度なタイバー延伸量の測定を得る。なお、これに限定することなく、例えば、タイバーの延伸量を直接計測できるマイクロゲージ等を用いても良い。また、超音波の反射波の時間差を計測することで、計測物の厚み等が正確に計測できる超音波センサ方式を、タイバーの延伸量の測定に利用しても良い。
【0035】
次に、射出装置70と連動して成形運転の制御を行う。アルミニウム合金等の溶湯を高圧で金型キャビティ内に射出充填するダイカストマシンでは、射出装置70は射出スリーブとプランジャーを組み合わせた横型のダイカスト射出装置を示す。溶湯を低圧で金型キャビティ内に充填させる低圧鋳造装置では、溶湯保持炉と給湯管を備えた低圧給湯装置を示す。また、溶融樹脂を金型キャビティ内に射出充填する射出成形機では、樹脂の可塑化溶融と射出充填を1つの装置で行うインライン式射出装置や、2つの装置を組み合わせたプリプラ式射出装置を示す。なお、射出装置70は、固定盤2の型閉方向CLに配置され、溶湯や溶融樹脂を射出充填できるように、固定盤2を貫通して固定金型21の所定位置に接合される。また、トグル型締装置100を竪型に設置し、射出装置70を水平に配置して固定金型21の所定位置に接合しても良い。
【0036】
最後に、調整制御装置38と連動して、インナータイバー14とアウタータイバー12の延伸量のバランス調整(型締力のバランス調整)の制御を行う。例えば、成形後の成形品の品質をチェックし、品質チェック結果を品質判定入力部60に入力する。入力された品質チェック結果に基づいて、インナータイバー14の延伸量を微調整して、品質改善を図るとする。詳しくは、次項に記載する型締力調整方法で説明する。
【0037】
[型締力調整方法]
次に、本実施形態に係る、型締力調整方法の代表的な事例として、図3図4を用いて説明する。なお、これに限定することなく、アウタータイバー12とインナータイバー14の延伸量を別々に調整することで、成形運転を止めることなく、型締力補正と型締力バランス補正を簡単に短時間で行うことができ、その結果、成形品質の改善効果を得るものであれば良い。また、図3図4は、型締力調整方法を説明するに必要な箇所のみを示しているものである。
【0038】
先ず、図3に示すように、アウタータイバー12の延伸量の調整により型締力を発生させ、その後、インナータイバー14の延伸量の調整により型締力を追加し、2つの型締力の合算を利用する型締力調整方法である。
予め、型締力設定値に対するアウタータイバー12の延伸量の調整を行うダイハイト調整は済ませている。図3(a)に示すように、型締制御装置50の制御指令値を受けて、トグルリンク機構20を用いて、可動盤4を型閉方向CLに型閉動作させ、可動金型41と固定金型21とが金型タッチしている。この金型タッチの状態は、トグルリンク機構20は、図1に示すように屈折した状態であり、アウタータイバー12とインナータイバー14は延伸されていない。
【0039】
金型タッチの状態から、トグルリンク機構20を用いて、可動盤4を更に固定盤2側に押し付け、図3(b)に示すように、トグルリンク機構は直線状態の型締完了状態となる。この時、可動金型41と固定金型21によって可動盤4の位置はほとんど変わらず、アウタータイバー12と共にリンクハウジング6は型開方向OP側に動く。その結果、アウタータイバー12は延伸され、延伸量S1に応じた弾性回復力がアウタータイバー12に発生し、型締力P1として可動金型41と固定金型21に作用する。例えば、ダイカストマシンに使われるトグル型締装置では、タイバーは4本が一般的であるので、アウタータイバー12の延伸量S1の4本分に相当する弾性回復力が型締力(P1×4)となる。
【0040】
型締完了の状態で、可動金型41と固定金型21との合わせ面に図示しない金型キャビティが形成され、射出装置70から溶湯または溶融樹脂が金型キャビティ内に射出充填され成形品を得る。その後、トグルリンク機構20を用いて、型締力P1を下げて(アウタータイバー12の延伸を解除して)、可動盤4を型開方向OPへ型開動作させ、金型キャビティ内から成形品を取り出して、次の成形運転に進む。取り出した成形品は、品質検査を受けて組立等の次工程へ搬送される。
【0041】
ここで、品質検査の結果が、金型キャビティから溶湯や溶融樹脂が漏れ出た鋳バリまたは樹脂バリの成形不良(成形不良A)の場合は、型締力P1が足りないと判断する。従来技術においては、成形を中断してダイハイト調整をやり直して型締力の増加補正を行うが、本実施形態においては、成形を中断しなくても型締力の増加補正が簡単にできる。具体的には、図3(b)で示すアウタータイバー12の延伸量S1による型締力P1を作用させた型締完了の状態から、図3(c)に示すように、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14を延伸させる。インナータイバー14の延伸量S2に応じた弾性回復力が型締力P2として加算され、結果的に、型締力(P1+P2)の増加補正を得る。品質検査の結果(成形不良A)を品質判定入力部60に入力し、演算処理部54で型締力増加の補正量としてインナータイバー14の延伸量S2が演算され、調整制御部38に演算結果を送る。調整制御部38は、演算結果に基づいて演算駆動部36を制御し、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14の延伸量の調整を行う。なお、アウタータイバー12と同様に、タイバーが4本の場合は、インナータイバー14の延伸量S2の4本分に相当する弾性回復力が型締力(P2×4)となる。
【0042】
ここで、成形品の全体に成形不良Aが発生している場合は、複数のインナータイバー14を同時に同じ量の延伸量S2の型締力の増加補正を行えば良い。例えば、成形品の一部分に成形不良Aが発生している場合では、全体の型締力の増加補正とすると、成形不良Aは改善できる。ただし、成形不良Aが発生していなかった他の部位では、型締力が過剰となり、ガス巻き込みや湯廻り不良または樹脂焼けや転写不良等のガス抜け不良に起因する成形不良(成形不良B)が新たに発生することがある。そこで、この場合においては、図3(c)において、成形不良Aが発生する部位に近いインナータイバー14の延伸量を調整し、他の部位のインナータイバー14の延伸量の調整は行わない、選択的なインナータイバー14の延伸量の調整による型締力バランス補正とする。この型締力バランス補正も成形を中断することなくでき、成形不良Aと成形不良Bのように相反する成形不良を同時に改善することができる。
【0043】
次に、図4に示すように、アウタータイバー12とインナータイバー14の延伸量により発生した2つの型締力を合算し、その後、インナータイバー14の延伸量の調整により型締力を増減させて型締力補正を行う型締力調整方法である。なお、図3と重複する箇所は説明を割愛する。
予め、アウタータイバーの延伸量S3に応じた型締力P3をダイハイト調整により設定し、インナータイバーの延伸量S4に応じた型締力P4を調整制御部38で設定しておく。合算された型締力(P3+P4)が型締力設定値となるように準備した後に、図4(a)に示すように、トグルリンク機構20を用いて金型タッチ状態とする。この金型タッチの状態は、トグルリンク機構20は、図1に示すように屈折した状態であり、アウタータイバー12とインナータイバー14は延伸されていない。
【0044】
金型タッチの状態から、トグルリンク機構20を用いて、図4(b)に示すように、型締完了状態とする。この時、アウタータイバー12の延伸量S3に応じた型締力P3が発生する。同時に、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14を延伸させ、延伸量S4に応じた型締力P4が発生する。合算された型締力(P3+P4)が、可動金型41と固定金型21に型締力として作用する。
型締完了の状態で、可動金型41と固定金型21との合わせ面に図示しない金型キャビティが形成され、射出装置70から溶湯または溶融樹脂が金型キャビティ内に射出充填され成形品を得る。その後、トグルリンク機構20を用いて、型締力P1を下げて(アウタータイバー12の延伸を解除して)、同時に、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14の延伸を解除して(型締力P4を下げて)、可動盤4を型開方向OPへ型開動作させ、金型キャビティ内から成形品を取り出して、次の成形運転に進む。取り出した成形品は、品質検査を受けて組立等の次工程へ搬送される。
【0045】
ここで、成形不良が発生している場合では、従来技術では、成形を中断してダイハイト調整をやり直して型締力補正を行うが、本実施形態においては、成形を中断しなくても型締力補正が簡単にできる。品質検査の結果は、品質判定入力部60に入力され、成形を中断することなく型締力の補正と型締力バランスの補正を行う。
【0046】
例えば、品質判定入力部60に成形不良Aが入力されると、型締力(P3+P4)が足りないと判断し、図4(b)の型締完了の状態から、図4(c)に示すように、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14に延伸量S5を追加し(S4+S5)、型締力P5が加算される(P4+P5)。その結果、型締力(P3+P4+P5)の増加補正が行われ、成形不良Aを改善することができる。
【0047】
また、例えば、連続の成形運転により、可動金型4と固定金型2は、溶湯または溶融樹脂の熱量を受けて熱膨張する。この熱膨張に相当する力は型締力に加算され、結果的に過剰な型締力となって成形不良Bが発生する。この場合は、型締力を適正値まで下げることが必要である。具体的には、図4(b)の型締完了の状態から、図4(d)に示すように、延伸量調整補助機構30を用いて、インナータイバー14に延伸量S6を削減し(S4-S6)、型締力P6が減算される(P4-P6)。その結果、型締力(P3+P4-P6)の減少補正が行われ、成形不良Bを改善することができる。例えば、アウタータイバー12で成形時の型締力の90%相当を設定し、残りの10%相当の型締力をインナータイバーで受け持ち、金型の熱膨張による型締力の増加に応じて、10%相当の型締力の範囲内で型締力補正するとしても良い。このように、アウタータイバー12とインナータイバー14が受け持つ型締力の割合は、使用する溶湯や溶融樹脂、金型や成形条件等に応じて適宜選択される。
【0048】
仮に、型締力の補正方向が真逆の成形不良Aと成形不良Bが同時に発生した場合では、次に示す対応をとる。図4(b)の型締完了の状態から、成形不良Aに近い部位のインナータイバー14は、図4(c)に示すように、型締力(P3+P4+P5)の増加補正を行う。同時に、成形不良Bに近い部位のインナータイバー14は、図4(d)に示すように、型締力(P3+P4-P6)の減少補正を行う。この型締力のバランス補正により、成形不良Aと成形不良Bを同時に改善することができる。この場合においても、インナータイバー14の補正量を見込んで、アウタータイバー12とインナータイバー14が受け持つ型締力の割合を、予め適正に設定しておくことが望ましい。
【0049】
この型締力の増減補正と減少補正、型締力のバランス補正を上手く利用することで、成形品質の高品質化を得ることもできる。例えば、型開閉方向の成形品の厚みが薄い場合は、型締力による金型の弾性圧縮変形量が大き過ぎて金型キャビティが薄く変形しているとして、図4(d)に示すように、型締力の減少補正を行うと良い。逆に、成形品の厚みが厚過ぎる場合は、図4(c)に示すように、型締力の増加補正を行い、金型の弾性圧縮変形量の調整を行うことが好ましい。
【0050】
例えば、射出充填の完了後の冷却工程において、インナータイバー14の延伸量を解除し、アウタータイバー12の延伸量S3のみの型締力P3とする。この型締力の大きな低下により、金型の弾性圧縮変形量が緩和され、緩和された金型の状態で溶湯または溶融樹脂の冷却固化を行うことにより、残留応力が緩和され、変形の少ない高品質な成形品を得ることもできる。例えば、透明樹脂を使ったレンズ部品等の射出成形に有効である。また、この型締力P3を、金型製作時の型合わせ調整力と同等にすることにより、成形品の寸法を金型製作時の基準寸法と同等にでき、寸法精度の高い成形品を得ることができる。
【0051】
例えば、アウタータイバー12の延伸量S3(型締力P3)で型締完了した状態で、溶湯や溶融樹脂の射出充填を開始する。射出充填と連動させて、インナータイバー14の延伸量を増加させ、射出充填の完了時は、例えば図4(c)に示すように、インナータイバー14の延伸量を最大として大きな型締力とする。この射出充填と連動したインナータイバーの延伸量の調整による型締力の増加補正により、射出充填に応じた最適な型締力を作用することができる。その結果、射出充填中の溶湯や溶融樹脂の漏れ防止とガス抜き効果を発揮し、成形不良Aと成形不良Bの大きな改善を得ることができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
2 固定盤
4 可動盤
6 リンクハウジング
10 タイバー
12 アウタータイバー
14 インナータイバー
20 トグルリンク機構
22 電動サーボモータ
23 エンコーダ
24 ボールネジ機構
26 クロスヘッド
28 リンク
30 延伸量調整補助機構
34 固定治具
36 調整駆動部
38 調整制御装置
40 歪センサ
50 型締制御装置
52 入出力部
54 演算処理部
56 型締制御部
60 品質判定入力部
70 射出装置
100 トグル型締装置
図1
図2
図3
図4