(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20241112BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20241112BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20241112BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20241112BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20241112BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241112BHJP
B65D 19/32 20060101ALI20241112BHJP
C08J 3/24 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/12
C08L23/14
C08L93/04
C08K5/12
C08L91/00
B65D19/32 G
C08J3/24 Z CES
(21)【出願番号】P 2021042691
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】盛 弘之
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-275457(JP,A)
【文献】特開2020-152787(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046524(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0199024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F251/00 -283/00
C08F283/02 -289/00
C08F281/00 -297/08
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物
であって、
成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100質量%に対して成分(A)を20~40質量%、成分(B)を20~50質量%、成分(C)を10~60質量%含有し、成分(D)の含有量が成分(A)~(C)の合計100質量部に対して0.1~20質量部である熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体の水素添加物
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(C):下記成分(C1)と成分(C2)を含むプロピレン系樹脂
成分(C1):プロピレン単独重合体
成分(C2):プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体
成分(D):ロジンエステル
【請求項2】
成分(C2)のプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体は、リアクターTPОである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
成分(C)のプロピレン系樹脂が、更に成分(C3)としてプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を含有する、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(C1)と成分(C3)の合計100質量%において、成分(C3)の含有率が70質量%以下である、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
更に成分(E)として、ジアリルフタレート含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー組成物のデュロA硬度(JIS K6253)が40~95である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物とオレフィン系樹脂とを融着させた複合成形体。
【請求項9】
請求項8の複合成形体よりなるパレットグロメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パレットやコンテナ等の運搬機材として合成樹脂が用いられている。合成樹脂製の運搬機材は、従来の木製のものと比較して滑りやすいため、滑り止めとして、グロメットが取り付けられている。
【0003】
パレットグロメットには、耐ブロッキング性と耐スリップ性が共に要求される。
即ち、ブロッキングとは、パレットを積載した時にパレットにはめ込まれたグロメット同士が重なり合い長時間縦方向に圧力が掛かった状態で放置後、パレットを持ち上げた時に下のパレットのグロメットと貼り付く現象を言い、パレットを持ち上げた時にグロメット同士の密着性が高くパレットの荷重以上の剥離力が生じた場合に、下のパレットが持ち上がってしまう問題が発生する。このようなブロッキングに対して、長時間縦方向に圧力が掛かった状態で放置されても、容易に剥がれる耐ブロッキング性が要求される。
また、積層したパレットを運搬中にブレーキなどの横方向に強い力が掛かった場合に、グロメット表面が滑り易いとパレットが滑り落ちる問題が発生してしまうため、これを防止するための耐スリップ性が求められる。
【0004】
このようなグロメットとして、良好な機械的性質が得られることから、ポリプロピレン、スチレン系ブロック共重合体エラストマー、及び鉱物性オイルを配合した熱可塑性エラストマー組成物を用いたグロメットが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、適度な防滑性及び滑性を発現させる観点から、ゴム成分を含有する特定のプロピレン系樹脂及び石油樹脂と、芳香族ビニル化合物から主として作られる少なくとも2つの重合体ブロックAと、共役ジエン化合物から主として作られる少なくとも1つの重合体ブロックBとから成るブロック共重合体、及び/又は、これを水素添加して得られるブロック共重合体を特定量含有した樹脂組成物が提案されている。
【0006】
特許文献2には、高圧縮時においても炭化水素系ゴム用軟化剤がブリードし難い熱可塑性エラストマー組成物として、成分(A):少なくとも2個の、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPと、少なくとも1個の、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを有するブロック共重合体の水素添加物、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤、成分(C):ポリプロピレン系樹脂、成分(E):ジアリルオルソフタレート及び/又はジアリルイソフタレートを含有する熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-323659号公報
【文献】特開2020-152787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の詳細な検討によれば、前記特許文献1に記載されている樹脂組成物は、耐ブロッキング性が不十分であった。また、前記特許文献2に記載されている熱可塑性エラストマー組成物は、耐スリップ性と耐ブロッキング性のバランスに劣るものであった。
【0009】
一方、パレット上には紙袋や段ボールといった紙で作製された梱包材を積載することがよく行われており、夏期や高温地域における倉庫内に長時間保管された際に、グロメットの材料である熱可塑性エラストマー組成物中に含まれるオイルが梱包材の紙に移行し、梱包材表面に染みが付着してこれを汚染してしまう問題があった。
このため、パレットグロメットには、耐スリップ性と耐ブロッキング性だけでなく、オイルが紙に移行し難しいことも求められる。
【0010】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、耐スリップ性と耐ブロッキング性にバランスよく優れ、オイルの紙への移行が起こり難い熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体の水素添加物、炭化水素系ゴム用軟化剤、特定のプロピレン系樹脂、及びロジンエステルを配合することで、耐スリップ性と耐ブロッキング性のバランスに優れ、オイルの紙への移行が起こり難い熱可塑性エラストマー組成物及を得ることができることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 下記成分(A)~(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体の水素添加物
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(C):下記成分(C1)と成分(C2)を含むプロピレン系樹脂
成分(C1):プロピレン単独重合体
成分(C2):プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体
成分(D):ロジンエステル
【0013】
[2] 成分(C2)のプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体は、リアクターTPОである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[3] 成分(C)のプロピレン系樹脂が、更に成分(C3)としてプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を含有する、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[4] 前記成分(C1)と成分(C3)の合計100質量%において、成分(C3)の含有率が70質量%以下である、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[5] 更に成分(E)として、ジアリルフタレート含む、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[6] 前記熱可塑性エラストマー組成物のデュロA硬度(JIS K6253)が40~95である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体。
【0019】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物とオレフィン系樹脂とを融着させた複合成形体。
【0020】
[9] [8]の複合成形体よりなるパレットグロメット。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐スリップ性と耐ブロッキング性にバランスよく優れ、オイルの紙への移行が起こり難い熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0023】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(D)を含むことを特徴とする。
成分(A):芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPを少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを少なくとも1個有するブロック共重合体の水素添加物
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(C):下記成分(C1)と成分(C2)を含むプロピレン系樹脂
成分(C1):プロピレン単独重合体
成分(C2):プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体
成分(D):ロジンエステル
【0024】
以下、各成分について詳細に説明する。
【0025】
<成分(A)>
本発明で用いる成分(A)は、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)を少なくとも2個有し、かつ、共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)を少なくとも1個有するブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(A)」と称す場合がある。)である。
ここで、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、50モル%以上含むことをいう。
【0026】
ブロックPを構成する芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレンが好ましく用いられる。特に好ましくはスチレンである。
ブロックPは、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の芳香族ビニル化合物単位から構成されていてもよい。また、ブロックPには、ビニル芳香族化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0027】
ブロックQを構成する共役ジエン化合物とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。特に好ましくは1,3-ブタジエンである。
ブロックQは、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位から構成されていてもよい。また、ブロックQには、共役ジエン化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0028】
ブロックPの少なくとも2個と、ブロックQの少なくとも1個を有する水添前のブロック重合体は、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
(式中、PはブロックPを、QはブロックQをそれぞれ表し、mは1~5の整数を表し、nは2~5の整数を表す)
【0029】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0030】
本発明で用いる成分(A)は、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることがより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが最も好ましい。
【0031】
また、成分(A)中のブロックPの含有率は、10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、更に好ましくは20~40質量%である。成分(A)がブロックPを10質量%以上とすることで、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度、耐熱性を良好としやすい傾向となり、一方、ブロックPの含有率が50質量%以下であることで、柔軟性およびゴム弾性に優れ、軟化剤のブリードを抑制しやすくなる。
【0032】
水添ブロック共重合体(A)に含まれる全共役ジエン化合物単位の水素添加率(以下、この水素添加率を単に「水素添加率」と称す場合がある。)、すなわち共役ジエン化合物単位の炭素-炭素二重結合の水素添加率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
水素添加率が80%以上の場合は、後述の成分(C)のプロピレン系樹脂との溶解パラメータ値が近づき、分散が良好になるため、オイルブリードがより低減する傾向にある。この水素添加率は、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法により測定できる。
なお、本明細書中、共役ジエン化合物単位は、水添前後に係らず「共役ジエン化合物単位」と称する。
【0033】
本発明で用いる成分(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量として、好ましくは8万~100万であり、より好ましくは8万~60万、更に好ましくは8万~40万である。重量平均分子量が8万以上であれば、ゴム弾性、機械的強度が良好となり、また後述する成分(B)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが発生し難くなる。一方、重量平均分子量が100万以下であれば、流動性が良好となり成形性に優れる。
【0034】
本発明における成分(A)の製造方法は、上述の構造と物性が得られる方法であればどのような方法でもよく、特に限定されない。水素添加前のブロック共重合体は、例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水
素添加は、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報及び特開昭60―79005号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。
【0035】
このような水添ブロック共重合体(A)の市販品としては「KRATON(登録商標)-G」(クレイトンポリマー社)、「セプトン(登録商標)」(株式会社クラレ)、「タフテック(登録商標)」(旭化成株式会社)、「TAIPOL(登録商標)」(TSRC社)の商品が例示できる。
【0036】
水添ブロック共重合体(A)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
<成分(B)>
本発明で用いる成分(B)は、炭化水素系ゴム用軟化剤である。
【0038】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、重量平均分子量が通常300~2,000、好ましくは500~1,500の炭化水素が使用され、鉱物油系炭化水素または合成樹脂系炭化水素が好適である。なお、ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量である。
【0039】
一般に鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素の混合物である。全炭素量に対し、芳香族炭化水素の炭素の割合が35質量%以上のものは芳香族系オイル、ナフテン系炭化水素の割合が30から45質量%のものはナフテン系オイル、パラフィン系炭化水素の炭素の割合が50質量%以上のものはパラフィン系オイルと呼ばれる。本発明では、パラフィン系オイルが好適に使用される。
【0040】
パラフィン系オイルとしては、特に限定されないが、40℃の動粘度が通常20cSt(センチストークス)以上、好ましくは50cSt以上であり、通常800cSt以下、好ましくは600cSt以下のものである。また、流動点は通常-40℃以上、好ましくは-30℃以上で、0℃以下のものが好適に用いられる。更に、引火点(COC)は、通常200℃以上、好ましくは250℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下のものが好適に用いられる。
【0041】
成分(B)の炭化水素系ゴム用軟化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
<成分(C)>
成分(C)のプロピレン系樹脂は、成分(C1)のプロピレン単独重合体と成分(C2)のプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体を必須成分とし、更に成分(C3)としてプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を混合して用いてもよい。
【0043】
成分(C1):プロピレン単独重合体
プロピレン単独重合体はホモポリプロピレンと言われ、プロピレン単独からなる重合体である。
プロピレン単独重合体としては、通常、MFR(メルトフローレート、230℃、21.2N荷重)0.1~50g/10分のものを用いることができ、0.1~30g/10分のものが好ましい。
【0044】
プロピレン系単独重合体の市販品としては、「ノバテック(登録商標)PP」(日本ポリプロ株式会社)、「プライムポリプロ(登録商標)」(株式会社プライムポリマー)の商品が例示できる。
【0045】
成分(C2):プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体
プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体は、一般的な製造方法として、プロピレンの単独重合またはプロピレンと少量のプロピレン以外のα-オレフィンをランダムに重合する工程と、プロピレンとα-オレフィンをランダムに重合する工程の二つのからなり、第一工程で重合される第一セグメントがプロピレン単独重合体部またはプロピレンと少量のα-オレフィンのランダム共重合体部であり、第二工程で重合される第二セグメントがプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部となり、第一セグメントのプロピレン単独重合体中またはプロピレンと少量のα-オレフィンのランダム共重合体中に、第二セグメントのプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体が分散相を形成した構造となる。
【0046】
本発明で用いるプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体は、結晶性プロピレン系重合体部である第一セグメントと、非結晶性プロピレン・α-オレフィン共重合体部または低結晶性プロピレン・α-オレフィン共重合体部である第二セグメントとから構成される。
第一セグメントである結晶性プロピレン系重合体部は、プロピレン単独重合体部またはプロピレンと少量のα-オレフィンのランダム共重合体部からなる。
第二セグメントである非結晶性プロピレン・α-オレフィン共重合体部または低結晶性プロピレン・α-オレフィン共重合体部を、本発明では、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部と呼ぶ。
プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体全体(第一セグメントと第二セグメントとを合わせた全体)のうちで、第二セグメントの含有率は5~90質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましく、35~75質量%であることが更に好ましい。本明細書では、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体におけるプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体部からなる第二セグメントが30質量%以上含まれるものをリアクターTPOと呼ぶ。すなわち、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体の中でも、リアクターTPOが好ましい。
【0047】
プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体中のα-オレフィンはエチレンを含む広義のα-オレフィンをさし、例えば、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-オクタデセン等の炭素数2~20(炭素数3のプロピレンを除く)、より好ましくは炭素数2~8(炭素数3のプロピレンを除く)のα-オレフィンが挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも入手が容易である観点からエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
なお、α-オレフィンは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及
び比率で用いることができる。
【0048】
プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体の市販品としては、「ノバテック(登録商標)PP」(日本ポリプロ株式会社)、「プライムポリプロ(登録商標)」(株式会社プライムポリマー)、「テファブロック(登録商標)」(三菱ケミカル株式会社)の商品が例示できる。
【0049】
成分(C3):プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体
成分(C)のプロピレン系樹脂は、成分(C3)として、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を有しても構わないが、この場合、成分(C1)のプロピレン単独重合体と成分(C3)のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体との混合比率は、成分(C1)と成分(C3)の合計質量に対し、成分(C3)が70質量%以下となるよう含有することが、耐スリップ性を良好に維持する観点から好ましい。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の含有比率が高くなると耐スリップ性が悪化すしやすい傾向にある。
【0050】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体中のα-オレフィンは、先に説明したプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体のα-オレフィンが同様に使用可能である。
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体中のプロピレン単位含有率(プロピレンから誘導される繰り返し単位の含有率)は、55モル%以上が望ましい。
なお、成分(C)のプロピレン系樹脂中の各構成単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0051】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の市販品としては、「ノバテック(登録商標)PP」(日本ポリプロ株式会社)、「プライムポリプロ(登録商標)」(株式会社プライムポリマー)
等の商品が例示できる。
【0052】
成分(C)において、成分(C1)~(C3)は、それぞれ下記の含有割合とすることが好ましい。
【0053】
成分(C1):プロピレン単独重合体は、成分(C)全体を100質量%としたとき60~95質量%であることが好ましい。プロピレン単独重合体の含有率を上記下限以上とすることで得られる熱可塑性エラストマー組成物が適度なグリップ力を有するように制御しやすくなる。プロピレン単独重合体の含有率を上記上限以下とすることで、摩擦力の低下により滑りやすくなることを抑制できる。
成分(C2):プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体は、成分(C)全体を100質量%としたとき5~40質量%であることが好ましい。プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体の含有率を上記下限以上とすることで、オイルの紙への移行を良好に阻止しやすくなる。プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体の含有率を上記上限以下とすることで重ね合わせた時の密着力が抑えられ、耐ブロッキング性が悪化することを抑制できる。
成分(C3):プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体は、成分(C)全体を100質量%としたとき0~60質量%であることが好ましい。
【0054】
成分(C)のプロピレン系樹脂のメルトフローレート(JIS K7210(1999)、230℃、21.2N荷重)は、通常0.05~200g/10分、好ましくは0.1~100g/10分である。メルトフローレートが0.05g/10分以上のものをいることで、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形性を良好とすることができ、外観不良が生じにくく、200g/10分以下のものを用いることで、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的特性、特に引張強度を所望の範囲に維持できる。
【0055】
<成分(D)>
本発明における成分(D)は、下記構造式(化1)で示されるロジンエステルである。
【0056】
【0057】
ロジンエステルは天然樹脂のロジンから誘導されるエステル樹脂のことであり、不均化ロジンエステル及び水添ロジンエステルが代表的である。
【0058】
原料ロジンとしては、特に限定されず、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等の天然ロジン;天然ロジンを精製した精製ロジン;マレイン化ロジン、フマル化ロジン、アクリル化ロジン、重合ロジン、重合ロジンエステル、ロジン変性フェノールが挙げられる。
【0059】
精製ロジンの製法としては、特に限定されず、例えば、減圧留去法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等の公知のものを適宜選択できる。
【0060】
重合ロジンとしては、特に限定されず、例えば、天然ロジンを重合触媒の存在下、加熱することにより得られる。重合触媒としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸等の酸;フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛等の金属ハロゲン化物が挙げられる。
【0061】
ロジンエステルの製造方法としては、特に限定されず、例えば、加熱下、天然ロジンとアルコールとを反応させることにより得られる。また反応には、必要に応じて、エステル化触媒を添加しても良い。
【0062】
アルコールとしては、特に限定されず、例えば、炭素数が1~20である脂肪族の1価又は多価アルコールが挙げられる。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソアミルアルコール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-オクチルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ジヒドロアビエチルアルコール等の1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコール等が挙げられる。
【0063】
エステル化触媒としては、特に限定されず、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸等
の酸触媒;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化錫等の金属酸化物が挙げられる
。
【0064】
なお、不均化ロジンエステルの原料ロジンには、水素化ロジンを用いても良く、一方、水素化ロジンエステルの原料ロジンには不均化ロジンを用いても良い。
【0065】
(不均化ロジンエステル)
不均化ロジンエステルとしては、特に限定されず、各種公知の方法により得ることができ、例えば、前述の原料ロジンを不均化触媒の存在下で加熱反応させることにより得られる。
【0066】
不均化触媒としては、特に限定されず、例えば、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、白金-カーボン等の担持触媒;ニッケル、白金等の金属粉末;ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物といった各種公知のものを使用することができる。該触媒の使用量は、原料ロジン100質量部に対して、通常0.01~5質量部程度であり、好ましくは0.01~1質量部程度である。また、反応温度は100~300℃程度であり、好ましくは150~290℃程度である。
【0067】
(水素化ロジンエステル)
水素化ロジンエステルとしては、特に限定されず、各種公知の方法により得ることができる。例えば、前述の原料ロジンを水素化触媒の存在下、2~20MPa程度、好ましくは5~20MPa程度の圧力で水素を吹き込み、100~300℃程度、好ましくは150~300℃程度で加熱させることにより得られる。
【0068】
水素化触媒としては、特に限定されないが、例えば、担持触媒、金属粉末、ヨウ素、ヨウ化物が挙げられる。担持触媒としては、特に限定されないが、例えば、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、ルテニウム-カーボン、白金-カーボンが挙げられる。金属粉末としては、特に限定されないが、例えば、ニッケル、白金が挙げられる。ヨウ化物としては、特に限定されないが、例えば、ヨウ化鉄が挙げられる。これらの中では、水素化率を高めつつ、かつ水素化の時間を短縮できる点で、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及び白金系触媒が好ましい。また、水素化触媒の使用量は、特に限定されないが、原料ロジン100質量部に対して、通常0.01~5質量部程度であり、好ましくは0.01~2質量部程度である。
【0069】
成分(D)のロジンエステルは、水添ロジンエステルが好ましい。即ち、グロメットはパレットに装着され、屋外にさらされることも多く、耐候性の観点から、水添され、なるべく安定化された水添ロジンエステルが望ましい。
【0070】
成分(D)は、上記のような製造方法によって得られるものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製「PINECRYSTAL」が挙げられる。
【0071】
成分(D)のロジンエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
<成分(E)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、更に、成分(E)としてジアリルフタレートを含んでいてもよい。ジアリルフタレートは、下記構造式(化2B)で示されるジアリルオルソフタレート及び/又は下記構造式(化2B)で示されるジアリルイソフタレートである。
【0073】
【0074】
成分(E)に含まれる2つのビニル基は、後述の成分(F)による変性を促進する成分である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物が前述の成分(A)~(D)と共に、成分(E)のジアリルオルソフタレート及び/又はジアリルイソフタレートを含むことにより、高硬度領域におけるオイルのブリードが抑制されるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。
【0075】
ジアリルフタレートは化学構造に、反応に寄与する二重結合を有し、またフタレート構造はポリスチレンのような芳香族ビニル化合物において、親和性が高く移行し易い特性を持つ。例えば、塩化ビニル樹脂に用いられるDEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))やDINP(フタル酸ジイソノニル)といった可塑剤はポリスチレン樹脂に移行し易く、同様に成分(A)である芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPと共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQを有するブロック共重合体の水素添加物においても移行し易く、その移行し易い骨格としては、芳香族ビニル化合物単位に由来するものであり、ジアリルフタレートはこれらフタレート可塑剤と近い構造を持つことから、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPに親和性が高いことが考えられ、有機過酸化物などにより芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPが切断した場合において、芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合体ブロックPにおいてジアリルフタレートが反応していることが考えられる。
【0076】
ジアリルフタレートはオルソ体、イソ体、テレ体の三種類の異性体があるが、本発明では、オルソ体及び/又はイソ体を用いる。反応性の観点からは、イソ体が立体障害の観点から好適である。
【0077】
ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレートの製造方法としては特に制限はなく、例えば、酸触媒の存在下でオルソ体、イソ体の無水フタル酸をアリルアルコールによって直接エステル化する方法(直接エステル化法)や、オルソ体、イソ体の無水フタル酸に水酸化ナトリウム水溶液を反応させてフタル酸ナトリウムとし、引き続きアリルクロリドを加圧下で反応させる方法(アリルクロリド法)などが挙げられる。
【0078】
成分(E)は、上記のような製造方法によって得られるものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、株式会社大阪ソーダ製「ダイソーダップ(登録商標)モノマー」、「ダイソーダップ(登録商標)100モノマー」が挙げられる。
【0079】
成分(E)のジアリルフタレートは、上記構造のものを1種類のみ単独で用いてもよく、2種を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
<成分(A)~(E)の配合割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100質量%に対して成分(A)を20~40質量%、成分(B)を20~50質量%、成分(C)を10~60質量%含有することが好ましい。成分(C)は、10~50質量%含有することがより好ましい。
【0081】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(D)のロジンエステルは、性質上タッキファイヤーとして使用されることが多く、粘着性付与性に富んでいる。前述の通り、パレットグロメットに要求される重要な性能において、特に耐ブロッキング性、耐スリップ性、オイルの紙への移行がないこと(耐移行性)の三つが挙げられるが、成分(A)~(C)に成分(D)のロジンエステルを配合することで、耐ブロッキング性と耐スリップ性の両立効果が奏される。ブロッキングは、パレットを積載した時にパレットにはめ込まれたグロメット同士が重なり合い長時間縦方向に圧力が掛かった状態で放置後、パレットを持ち上げた時に下のパレットのグロメットと貼り付く現象を言い、パレットを持ち上げた時にグロメット同士の密着性が高くパレットの荷重以上の剥離力が生じた場合に、下のパレットが持ち上がってしまう問題が発生する。このようなブロッキングに対しては、長時間縦方向に圧力が掛かった状態で放置されても、容易に剥がれる性能が必要である。
また、積層したパレットを運搬中にブレーキなどの横方向に強い力が掛かった場合に、グロメット表面が滑り易いとパレットが滑り落ちる問題が発生してしまうため、耐スリップ性が高いことが求められる。
この二つの性能に対し、本発明者は、成分(D)のロンジンエステルを含有することにより、耐ブロッキング性に求められる縦方向の圧力に対する密着性を下げる方向に寄与し、耐スリップ性に求められる横方向の力に対しては摩擦力を上げる効果があることを見出し、耐ブロッキング性と耐スリップ性の性能を両立出来る本発明に至った。
ロジンエステルは、粘着付与性に富むことから、通常縦方向の圧力にも高い粘着性を示すが、本発明の配合において上記した効果を発揮する。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(D)のロジンエステルの含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.5~10質量部である。成分(D)の含有量が上記下限以上であれば、成分(D)を含有することによる、耐ブロッキング性と耐スリップ性の向上効果を有効に得ることができ、上記上限以下であれば添加量に見合う該効果を得ることができる。
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(E)のジアリルフタレートを含有する場合、成分(E)の含有量は、成分(A)~(C)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05~3質量部であり、より好ましくは0.1~2質量部である。成分(E)の含有量が0.05質量部以上であれば、成分(E)を配合することによるオイルブリードの抑制効果を十分に得ることができ、3質量部以下であれば添加量に見合うオイルブリードの抑制効果を得ることができる。
【0084】
<成分(F)>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述した成分(A)~(E)に加えて、成分(F)の有機過酸化物を含有することが好ましい。成分(F)を含有することにより、成分(A)の一部を変性させ、オイルブリードをより一層効果的に抑制することができる。なお、有機過酸化物は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0085】
有機過酸化物としては、芳香族系もしくは脂肪族系のいずれも使用でき、単一の過酸化物でも2種以上の過酸化物の混合物でもよい。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン-3等のパーオキシエステル類、アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類が用いられる。この中では、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが特に好ましい。
【0086】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(F)の有機過酸化物を含む場合、その含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~2.0質量部であり、より好ましくは0.07~1.5質量部である。成分(F)の含有量が上記下限以上であれば、成分(F)による変性の効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば変性反応を制御しやすい。
【0087】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、着色剤、充填材等の各種添加剤や必須成分以外の熱可塑性樹脂やゴムを含有していてもよい。
【0088】
特に本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、安定剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤として、例えばモノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、フェニレンジアミン系のものが挙げられる。これらの中では、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系の酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.05~3質量部である。酸化防止剤の含有量が0.01質量部以上であれば、酸化防止剤の添加効果を十分に得ることができ、5質量部以下であれば、添加量の増加に見合う向上効果を得ることができる。
【0089】
充填材としては、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラック等を挙げることができる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることがきる。
【0090】
必須成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、生分解性樹脂、植物由来原料樹脂を挙げることができる。
任意のゴムとしては、例えばエチレンプロピレンゴム、ポリブタジエンゴムを挙げることができる。
【0091】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)、(B)、(C)、(D)、好ましくは成分(E)、更には成分(F)、その他の樹脂成分や各種添加剤等を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ミキシングロール、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混合又は混練或いは溶融混練することで製造することができる。これらの中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
【0092】
本発明の熱可塑性エラストマーを押出機等で混練して製造する際には、通常80~300℃、好ましくは100~250℃に加熱した状態で溶融混練する動的熱処理を行うことが好ましい。なお、動的熱処理を行う際の処理時間は、特に限定されないが、生産性等を考慮すると、通常0.1~30分である。
【0093】
この動的熱処理は、上記の通り溶融混練によって行うことが好ましく、二軸押出機を用いる場合には、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うことがより好ましい。
【0094】
<デュロA硬度>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、後述の実施例の項に記載される方法で測定されるデュロA硬度(JIS K6253)が40~95であることが好ましく、50~95であることがより好ましい。
即ち、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、高グリップ性を得られる特長から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のデュロA硬度は40以上であることが好ましい。一方、デュロA硬度が95より大きくなるとエラストマーの柔軟性がなくゴム的な性質が劣ってくるため、実質的な使用範囲の観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のデュロA硬度は95以下であることが好ましい。
【0095】
[成形体]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形機、単軸押出成形機、二軸押出成形機、圧縮成形機、カレンダー加工機等の成形機で成形することにより、本発明の成形体を得ることができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物とその他材料とが融着した複合成形体としては、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に熱可塑性樹脂がインサートされたインサート成形体、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と、オレフィン系樹脂とを多色成形して得られる多色成形体等の複合成形体等が挙げられる。
オレフィン系樹脂としては特に限定されないが、ポリプロピレンが好適である。
【0096】
[用途]
本発明の成形体は、各種自動車部材をはじめ、建築部材、雑貨部材、流通用資材等の多くに適用できるが、なかでも滑り止め部材として好適であり、特に流通用資材のパレットグロメットに対して、本発明の効果が充分に発揮される。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0098】
[原材料]
以下の諸例では次の原材料を使用した。
【0099】
<成分(A):水添ブロック共重合体>
A:スチレンブロック・ブタジエンブロック・スチレンブロックの共重合体の水素添加物(TSRC社製「TAIPOL(登録商標)6151」)
スチレン単位含有率:33質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約26万
【0100】
<成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤>
B:パラフィン系オイル(出光興産株式会社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」)
40℃の動粘度:95.5cSt
流動点:-15℃
引火点:272℃
【0101】
<成分(C):ポリプロピレン系樹脂>
C-1:プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP FY6」)
MFR:2.5/10分(230℃、21.2N荷重)
C-2:リアクターTPO(三菱ケミカル社製「テファブロック(登録商標)5013」)
MFR:0.7g/10分(230℃、21.2N)
プロピレン・エチレンランダム共重合体部含有率:55質量%
C-3:プロピレン・エチレンランダム共重合体(日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP EG7F」)
MFR:1.3g/10分(230℃、21.2N荷重)
プロピレン単位含有率:97質量%
【0102】
<成分(D):ロジンエステル>
D:水添ロジンエステル(荒川化学工業株式会社製「PINECRYSTAL-311」)
【0103】
<成分(E):ジアリルフタレート>
E:ジアリルイソフタレート(株式会社大阪ソーダ製「ダイソーダップ(登録商標)100モノマー」)
【0104】
<成分(F):有機過酸化物>
F:2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物(化薬ヌーリオン株式会社製「AD40C」)
【0105】
<成分(G):石油樹脂>
G:水素化石油樹脂(荒川化学工業株式会社製「アルコン(登録商標)P-140」)
【0106】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
【0107】
(1)メルトフローレート(MFR)の測定
JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定した。MFRは射出成形性の指標であり、2~50g/10分の範囲が好ましい。
【0108】
(2)物性の評価
以下の物性の測定においては、インラインスクリュータイプの射出成形機(東芝機械社製、商品番号:IS130)を用い、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下にて、各熱可塑性エラストマー組成物を射出成形して厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシートを成形した。
(2-2)の引張試験においては、JIS K6251に準拠し、試験片打抜刃(JIS3号形ダンベル状)を用いて、得られたシート(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mm)からダンベル状の試験片を打ち抜き、この試験片を用いて測定した。
(2-4)のスリップ性評価用の測定子、通常圧子とも称されるが、あらかじめポリプロピレンを成形した成形体上に、デュロA硬度88のスチレン系熱可塑性エラストマーからなる熱可塑性組成物を厚み1mmに熱融着成形し、接触する表面積が5.6cm2になる円形の測定子を作製し、ワイヤーの引っ掛けピンを挿入し、総荷重9.2gの測定子を用いて測定した。
【0109】
(2-1-1)デュロA硬度
JIS K6253(JIS-A)に準拠し、硬度(15秒後)を測定した。
(2-1-2)デュロD硬度
JIS K6253(JIS-D)に準拠し、硬度(15秒後)を測定した。
【0110】
(2-2)切断時引張強さ/切断時伸び(引張試験)
JIS K6251に準拠し、試験速度:500mm/分で測定した。
【0111】
(2-3)剥離力
耐ブロッキング性の指標とする密着性評価として、JIS K6262に従う圧縮永久歪用治具を用い、射出成形により得た厚み2mmのシートから圧縮永久歪用の直径29mmの試験片を打ち抜き、6枚重ね合わせ、70℃、圧縮率25%で22時間圧縮した後に、重ね合わせた試験片から上部1枚のシートを剥離するときの最大剥離力を、株式会社エー・アンド・デイ社製「デジタルフォースゲージAD-4932A-50N」を用いて測定した。
この値は小さい程耐ブロッキング性に優れ、5N以下であることが好ましい。
【0112】
(2-4)引き抜き力
耐スリップ性の指標とする滑り難さの評価として、射出成形で得た厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシートに、上述で作製した測定子をシート上に載せ、その測定子の上に2.25kgの荷重を載せて、シートと測定子の上に乗せた荷重が動かないようにしながら、測定子を横にゆっくり引き抜く時の最大引き抜き力を、株式会社イマダ社製「デジタルフォースゲージDST-500N」を用いて測定した。
この値は大きい程、耐スリップ性に優れ、12N以上であることが好ましい。
【0113】
(2-5)紙移行試験
得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形することにより得た厚み2mmのシートから圧縮永久歪用の直径29mmの試験片を打ち抜き、これを6枚重ね合わせたものを熱可塑性エラストマー組成物のサンプルとした。JIS K6262に従う圧縮永久歪用測定治具を用い、まず、包装紙を縦8×横5cmにカットした紙片をセットし、その上に熱可塑性エラストマー組成物のサンプルをセットし、70℃、圧縮率25%で68時間圧縮した後に、サンプルを除去した後の紙片の痕跡を観察し、以下の判断基準により評価を行った。
<紙へのオイル移行(ブリード)判断基準>
○:オイルの移行がほとんど観察されない
×:明らかにオイルの移行が観察される
【0114】
[実施例1~6、比較例1~6]
表-1に示す配合量に対して、更に酸化防止剤としてテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(BASFジャパン(株)製「イルガノックス1010」)0.1質量部を添加してヘンシェルミキサーで混合し、重量式フィーダーを用いてJSW製二軸押出機「TEX30」にて、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数400rpmで押し出しを行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0115】
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、前述の評価を行い結果を表-1に示した。
【0116】
【0117】
表-1より、実施例1~6に対して、ロジンエステルが含有されていない配合例である比較例1~3は、最大剥離力が5N以下かつ最大引き抜き力が12N以上には達せず、耐ブロッキング性と耐スリップ性のバランスが得られていない。
比較例4はプロピレン単独重合体が含有されていない配合例であり、最大引き抜き力が12N以上にならず、最大剥離力も5N以下になっていない。
比較例5は、ロジンエステルの代替材料としてタッキファイヤーと使用される石油樹脂を含有した配合例であるが、最大剥離力が5N以下にならなかった。
比較例6はリアクターTPOを含有していない配合例であり、紙へのオイル移行が観察された。