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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H01T13/20 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021048323
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147178
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】高田 健一朗
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128056(JP,A)
【文献】実開平02-037485(JP,U)
【文献】特表2013-524437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁体(12)に挿入される中心電極(13)と、
前記絶縁体の外周に設けられる筒状のハウジング(11)と、
前記ハウジングの先端部に接合される接地電極(14)と、を備え、
前記ハウジングの先端部には、外壁部(111a)を有し、且つ前記ハウジングの内周面及び先端面に開口する凹状の溝部(111)が形成され、
前記接地電極の基端部(401)は、前記溝部に挿入されると共に前記溝部の内周面と接触している部分において抵抗溶接により接合され
前記溝部の外壁部には、当該外壁部から前記接地電極の外周面を貫通して前記接地電極の内部まで延びるようにレーザ溶接された溶接部(114)が形成され、
前記接地電極の基端部は、前記溝部の内周面に抵抗溶接されると共に、前記溶接部におけるレーザ溶接によって、前記溝部の外壁部に接合されている
スパークプラグ。
【請求項2】
前記溝部の外壁部には、前記溶接部が複数形成されている
請求項1に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載のスパークプラグがある。このスパークプラグは、筒状の絶縁碍子の内部に挿入される中心電極と、絶縁碍子の外周に設けられるハウジングと、ハウジングに固定される接地電極とを備えている。接地電極は、その基端部がハウジングに固定されるとともに、屈曲部にて中心電極側に曲げられて、その先端部が中心電極との間で隙間を形成するように配置されている。接地電極の屈曲部では、接地電極の中心軸に直交する断面において接地電極の断面重心よりも中心電極側に位置する部位の強度が、中心電極とは反対側に位置する部位の強度よりも大きくなっている。これにより、車両のエンジン等の動作に伴う振動がスパークプラグに加わる環境下であっても、接地電極の先端が中心電極から離間する方向に起き上がる現象、換言すれば中心電極と接地電極との間に形成される火花ギャップが拡大する現象が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-114754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパークプラグの製造の際には、接地電極の基端部をハウジングの端面に接合させる接合工程、接合工程の後に接地電極の先端部が中心電極に対向するように接地電極を内側に曲げる曲げ工程、及び曲げ工程の後に接地電極の先端を外側から叩いて火花ギャップの大きさを調整するギャップ調整工程が行われる。これらの工程を経て接地電極が成形されるため、接地電極の基端部の内周部分には圧縮方向の力が加わる。これが、接地電極の基端部の内周部分に内部応力を残留させる要因となっている。
【0005】
一方、近年の熱効率の向上を図ったエンジンでは、その燃焼温度が従来よりも高温となっている。このようなエンジンでは高温の燃焼熱を接地電極の基端部が継続して受けることにより、接地電極の基端部に時間の経過に伴って残留応力に応じた変形が生じる、いわゆるクリープ現象が発生する可能性がある。接地電極の基端部に発生するクリープ現象は、接地電極の先端部が中心電極に近づく現象、換言すれば火花ギャップが縮小する現象を生じさせる要因となる。仮に火花ギャップが縮小すると、中心電極と接地電極との間に形成される火花放電により混合気が着火した際に、生成される火炎が接地電極等に接触し易くなるため、火炎の熱が接地電極等に奪われることにより着火性が悪化する懸念がある。
【0006】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリープ現象に起因する接地電極の変形を抑制することが可能なスパークプラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するスパークプラグは、筒状の絶縁体(12)に挿入される中心電極(13)と、絶縁碍子の外周に設けられる筒状のハウジング(11)と、ハウジングの先端部に接合される接地電極(14)と、を備える。ハウジングの先端部には、外壁部(111a)を有し、且つハウジングの内周面及び先端面に開口する凹状の溝部(111)が形成される。接地電極の基端部は、溝部に挿入される。溝部の外壁部には、当該外壁部から接地電極の外周面を貫通して接地電極の内部まで延びるように溶接部(114)が形成される。接地電極の基端部は、溶接部を介して溝部の外壁部に接合されている。
【0008】
この構成によれば、接地電極の基端部の外周部分が溶接部を介して溝部の外壁部に接合されているため、曲げ工程及びギャップ調整工程において接地電極を変形させる際に溶接部により接地電極の基端部の外周部分が支持される。これにより、応力が発生するような変形が接地電極に生じ難くなるため、結果的にクリープ現象に起因する接地電極の変形を抑制することができる。
【0009】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0010】
本開示のスパークプラグによれば、クリープ現象に起因する接地電極の変形を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態のスパークプラグの破断断面構造を示す断面図である。
図2図2は、実施形態のハウジングの先端部の拡大構造を示す拡大図である。
図3図3は、実施形態のハウジング及び接地電極の接合部分の断面構造を示す断面図である。
図4図4(A),(B)は、実施形態のスパークプラグの製造工程の一部を示す図である。
図5図5(A)~(C)は、実施形態のスパークプラグの製造工程の一部を示す図である。
図6図6は、参考例のハウジング及び接地電極の接合部分の断面構造を示す断面図である。
図7図7は、参考例のスパークプラグの接地電極周辺の拡大構造を示す拡大図である。
図8図8は、他の実施形態のハウジング及び接地電極の接合部分の断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、スパークプラグの一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、図1に示される本実施形態のスパークプラグ10の概略構成について説明する。このスパークプラグ10は例えばエンジンヘッドに設けられる。スパークプラグ10は、電圧の印加に基づき火花放電を形成することによりエンジンの気筒内の混合気を着火する。スパークプラグ10は、ハウジング11と、絶縁碍子12と、中心電極13と、接地電極14とを備えている。
【0013】
ハウジング11はスパークプラグ10の中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。ハウジング11は例えば炭素鋼等の金属材料により形成されている。ハウジング11の内部には絶縁碍子12の下端部が同軸上に挿入されている。
絶縁碍子12は中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。絶縁碍子12はアルミナ等の絶縁材料により形成されている。本実施形態では、絶縁碍子12が絶縁体に相当する。絶縁碍子12の外周部分にはハウジング11が一体的に組み付けられている。絶縁碍子12の内部には軸孔120が形成されている。軸孔120は中心軸m10に沿って絶縁碍子12の先端部から基端部まで貫通するように形成されている。軸孔120には、その先端部の側から中心電極13、第1シール体15、抵抗体16、第2シール体17、及び端子金具18が順に収容されている。
【0014】
中心電極13は電極母材30と電極チップ31とを有している。電極母材30は中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極母材30は、耐熱性に優れるニッケル(Ni)合金等により形成されている。電極チップ31は電極母材30の先端部に接合されている。電極チップ31は中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極チップ31はイリジウム合金等により形成されている。中心電極13の基端部と端子金具18の先端部との間には第1シール体15、抵抗体16、及び第2シール体17が配置されている。
【0015】
端子金具18は中心軸m10を中心に略円柱状に形成されている。端子金具18は鋼材等により形成されている。端子金具18の基端部には端子部180が形成されている。端子金具18は、その端子部180が絶縁碍子12の基端部から突出するように軸孔120に挿入されている。
【0016】
接地電極14は電極母材40と電極チップ41とを有している。電極母材40はニッケル合金等により形成されている。電極母材40は、ハウジング11の下端面に固定されるとともに、その下端面から中心電極13の電極チップ31に対向する位置まで延びるように形成されている。電極チップ41は電極母材40の先端部400に接合されている。電極チップ41は、イリジウム合金や白金合金等の貴金属合金により形成されている。電極チップ41は、所定の隙間19を有して中心電極13の電極チップ31に対向するように配置されている。以下では、中心電極13の電極チップ31と接地電極14の電極チップ41との間に形成される隙間19を「火花ギャップ19」と称する。
【0017】
このスパークプラグ10では、高電圧を印加する外部回路が端子金具18の端子部180に接続される。外部回路により端子金具18の端子部180に高電圧が印加されると、中心電極13の電極チップ31と接地電極14の電極チップ41との間に火花放電が形成される。この火花放電によりエンジンの気筒内の混合気が着火して火炎が形成されることにより混合気が燃焼する。
【0018】
次に、ハウジング11と接地電極14との接合部分の構造について詳しく説明する。
図2に示されるように、ハウジング11の先端部110には凹状の溝部111が形成されている。溝部111は、外壁部111aを有し、且つハウジング11の内周面112及び先端面113に開口するように形成されている。
【0019】
図3に示されるように、ハウジング11の溝部111には接地電極14の電極母材40の基端部401が挿入される。溝部111の外壁部111aには、レーザ溶接による溶接部114が形成されている。溶接部114は、溝部111の外壁部111aから電極母材40の外周面を貫通して電極母材40の内部まで延びるように形成されている。電極母材40の基端部401は、溝部111の内周面と接触している部分において抵抗溶接により接合されるとともに、溶接部114を介して溝部111の外壁部111aに接合されている。
【0020】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の製造方法、特にハウジング11に対する接地電極14の接合方法について説明する。
ハウジング11に対して接地電極14を接合する際には、まず、直線の棒状に形成された接地電極14をハウジング11に接合する工程が行われる。具体的には、図4(A)に示されるように、接地電極14の電極母材40の基端部401をハウジング11の溝部111に挿入した後、それらを抵抗溶接により接合させる。抵抗溶接を行った後、図4(B)に示されるように、溝部111の外壁部111aの外面からレーザ溶接を行うことにより、電極母材40の基端部401と溝部111の外壁部111aとを更に接合させる。これにより、電極母材40の基端部401の外周面と溝部111の内周面とが抵抗溶接により接合されるとともに、図3に示されるようなレーザ溶接による溶接部114を介して溝部111の外壁部111aと接地電極14の電極母材40の基端部401とが接合される。
【0021】
こうした接合工程を行った後、図5(A)に示されるように接地電極14の電極母材40の内面400bを支持台50により押さえつつ、曲げローラ51により電極母材40の先端部400の外面400aを押圧する曲げ工程が行われる。この曲げ工程により、図5(B)に示されるように、電極母材40の先端部400が中心電極13に向かって曲げられる。
【0022】
曲げ工程に続いてギャップ調整工程が行われる。ギャップ調整工程では、図5(C)に示されるように、電極母材40の先端部400の外面400aを調整治具60により叩くことで、接地電極14の電極チップ41と中心電極13との間に形成される隙間である火花ギャップ19の大きさが調整される。
【0023】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の作用及び効果について説明する。
ハウジング11と接地電極14との接合方法としては、例えば図6に示されるように、ハウジング11の先端面113に対して接地電極14の電極母材40の端面402を抵抗溶接により接合する方法が考えられる。このような方法でハウジング11と接地電極14とを接合した場合、特に電極母材40の基端部401の内周部分401aで内部応力が残留し易い。
【0024】
具体的には、図5(A)~(C)に示される製造工程を経て接地電極14を成形する場合、曲げローラ51及び調整治具60により接地電極14の先端部400に外力が付与されることにより、接地電極14の電極母材40の基端部401には力が加わる。詳しくは、図6に示されるように、電極母材40の基端部401の外周部分には伸長方向の力F1、換言すれば電極母材40の端面402がハウジング11の先端面113から引き剥がされる方向の力が加わる。この伸長方向の力F1により電極母材40の基端部401の外周部分が伸びるように変形すると、電極母材40の基端部401の内周部分には圧縮方向の力F2、換言すれば電極母材40の端面402がハウジング11の先端面113に向かう方向の力が発生する。この圧縮方向の力F2により電極母材40の基端部401の内周部分401aには応力が残留する。この残留応力に起因して電極母材40にクリープ現象が発生すると、図7に示されるように、接地電極14が中心電極13に近づく方向に傾くように変形することにより火花ギャップ19が狭くなるおそれがある。
【0025】
この点、本実施形態のスパークプラグ10では、図3に示されるように、溶接部114を介して溝部111の外壁部111aと接地電極14の電極母材40の基端部401とが接合されているため、溶接部114により接地電極14の基端部401の外周部分が支持されている。これにより、仮に曲げ工程及びギャップ調整工程において電極母材40の基端部401の外周部分に伸長方向の力F1が加わったとしても、その力の方向に電極母材40の基端部401が変形し難くなる。したがって、電極母材40の基端部401の内周部分には、図6に示されるような圧縮方向の力F2が加わり難くなるため、その部分に残留応力が発生し難くなる。結果的に、クリープ現象に起因する接地電極14の変形を抑制することができる。
【0026】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
図8に示されるように、溝部111の外壁部111aと接地電極14の電極母材40の基端部401とは複数の溶接部114を介して互いに接合されていてもよい。これにより、複数の溶接部114により接地電極14の基端部401の外周部分が更に的確に支持されるため、電極母材40の基端部401の内周部分に圧縮方向の力F2が更に加わり難くなる。結果的に、クリープ現象に起因する接地電極14の変形を一層抑制することができる。
【0027】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0028】
10:スパークプラグ
11:ハウジング
12:絶縁碍子(絶縁体)
13:中心電極
14:接地電極
111:溝部
111a:外壁部
114:溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8