(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B41J2/165 501
(21)【出願番号】P 2021051762
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】折原 大地
(72)【発明者】
【氏名】上柳 雅史
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-074140(JP,A)
【文献】特開2011-104803(JP,A)
【文献】特開2022-114678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0007400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出部と、
前記吐出部の状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部の検出結果に基づいて前記吐出部の異常の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を記録する記録部と、
前記吐出部の温度を検出する温度検出部と、
前記吐出部に対してメンテナンス処理を実行するメンテナンス部と、
を備え、
前記判定部が前記吐出部に異常が生じていると判定したことにより前記記録部に前記判定結果として前記吐出部の異常を示す異常情報が記録されている場合であって、且つ、前記温度検出部において、前記状態検出部における前記吐出部の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、前記メンテナンス部が前記メンテナンス処理を実行すると、前記記録部に記録されている前記異常情報がリセットされる、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記吐出部は、駆動することで液体を吐出する圧電素子を含み、
前記状態検出部は、前記圧電素子が駆動した後に前記吐出部に生じる残留振動に基づいて前記吐出部の状態を検出し、
前記判定部は、前記状態検出部が出力する前記残留振動に応じた残留振動信号に基づいて前記吐出部の異常の有無を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記メンテナンス処理には、前記吐出部から液体が吐出される吐出面を拭き取るワイピング処理が含まれる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記メンテナンス処理には、前記吐出部に貯留される液体の粘度を回復させるフラッシング処理が含まれる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記吐出部に故障が生じた故障状態である場合、前記記録部に前記異常情報が記録されている場合であって、且つ、前記温度検出部において、前記状態検出部における前記吐出部の状態を検出する前記検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、前記メンテナンス部が前記メンテナンス処理を実行した場合であっても、前記記録部に記録されている前記異常情報をリセットしない、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記状態検出部は、前記温度検出部が検出する温度が前記検査温度の範囲外である場合に、前記吐出部の状態を検出しない、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記温度検出部が検出する温度が前記検査温度の範囲外である場合に、前記吐出部の異常の有無を判定しない、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター等の液体吐出装置は、圧電素子等の駆動素子を駆動信号により駆動させることで、プリントヘッドの内部に充填された液体としてのインクを吐出部から吐出させ、当該インクが媒体に着弾することで媒体上に所望の画像を形成している。このような液体吐出装置において、インクを吐出する吐出部に異常が生じると、当該インクの正常な吐出ができない所謂吐出異常が生じる。このような吐出異常は、液体吐出装置が媒体に形成する画像の品質を低下させるおそれがある。
【0003】
このような吐出異常に起因して生じ得る画像品質の低下に対して、特許文献1には、吐出部の異常の有無を検出する技術を備えたプリンター(液体吐出装置)であって、液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドの温度を検出するとともに、検出した温度が第1の温度範囲内の場合に吐出部からインクを吐出させるとともに吐出部が有するノズルが正常であるか否かの検査を実行し、検出した温度が所定の第1の温度範囲外であって、且つ第2の温度範囲内である場合に吐出部からインクを吐出させるとともに吐出部が有するノズルが正常であるか否かの検査を実行しないことで、ノズルの適切な検査と液体の吐出との双方の制御を実現しているプリンターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の液体吐出装置では、ヘッドが第1の温度範囲(検査温度範囲)外である場合に吐出部が正常であるか否かの検査が実行されないが故に、検査温度範囲外において異常が生じていた吐出部の状態が回復した場合であっても、当該吐出部は異常であると継続して判断し、液体の吐出動作を継続する。そのため、媒体に形成される画像品質が低下するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、
液体を吐出する吐出部と、
前記吐出部の状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部の検出結果に基づいて前記吐出部の異常の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を記録する記録部と、
前記吐出部の温度を検出する温度検出部と、
前記吐出部に対してメンテナンス処理を実行するメンテナンス部と、
を備え、
前記判定部が前記吐出部に異常が生じていると判定したことにより前記記録部に前記判定結果として前記吐出部の異常を示す異常情報が記録されている場合であって、且つ、前記温度検出部において、前記状態検出部における前記吐出部の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、前記メンテナンス部が前記メンテナンス処理を実行すると、前記記録部に記録されている前記異常情報がリセットされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図6】デコーダーが行うデコードの内容の一例を示す図である。
【
図7】選択制御回路の単位動作期間における動作を説明するための図である。
【
図8】駆動信号Vinの波形の一例を示す図である。
【
図9】切替回路、及び検出回路の機能構成を示す図である。
【
図11】周期信号生成部の動作を説明するための図である。
【
図12】振動板の残留振動の計算値と実験値との関係を示す図である。
【
図13】振動板の残留振動の計算値と実験値との関係を示す図である。
【
図14】気泡混入が生じた場合のノズルの近傍を概念的に示す図である。
【
図15】気泡混入時の振動板で生じる残留振動の実験値と計算値との関係を示す図である。
【
図16】乾燥増粘が生じた場合のノズルの近傍を概念的に示す図である。
【
図17】乾燥増粘時の振動板で生じる残留振動の実験値と計算値との関係を示す図である。
【
図18】紙粉付着が生じた場合のノズルの近傍を概念的に示す図である。
【
図19】紙粉付着時の振動板で生じる残留振動の実験値と計算値との関係を示す図である。
【
図20】温度情報信号に基づく温度が検査温度範囲内である場合における吐出部状態情報の更新条件の一例を示す図である。
【
図21】温度情報信号に基づく温度が検査温度範囲内で無い場合における吐出部状態情報の更新条件の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0009】
1.液体吐出装置の構造
液体吐出装置1の構造の一例について説明する。
図1は、液体吐出装置1の概略構造を示す図である。
図1には、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向を図示している。なお、以下の説明において、
図1の+Z方向に相当する上側を「上部」、-Z方向に相当する下側を「下部」と称する場合がある。
【0010】
図1に示すように、液体吐出装置1は、印刷部4、給紙部7、トレイ81、排紙口82、操作パネル83、及び制御ユニット10を備える。
【0011】
トレイ81は、液体吐出装置1の上部後方に位置し、画像が形成される媒体Pが載置される。排紙口82は、液体吐出装置1の下部前方に位置し、画像が形成された媒体Pが排出される。操作パネル83は、液体吐出装置1の上部面に位置し、エラーメッセージ等を表示する不図示の表示部と、操作情報が入力される各種スイッチ等で構成される不図示の操作部と、を含む。そして、操作パネル83は、使用者による操作情報が入力されるとともに、液体吐出装置1の動作情報を使用者に報知する。ここで、操作パネル83に含まれる表示部は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等であってもよく、また、操作パネル83は、表示部と操作部とが一体となった所謂タッチパネルであってもよい。
【0012】
印刷部4は、移動体3、キャリッジモーター41、及び往復動機構42を含む。
【0013】
移動体3は、ヘッドユニット30、複数のインクカートリッジ31、及びキャリッジ32を含む。複数のインクカートリッジ31のそれぞれには、イエロー、シアン、マゼンタ、及びブラック等のインク色に対応するインクが充填されている。このインクカートリッジ31に充填されたインクが、ヘッドユニット30に供給される。ヘッドユニット30は、後述する複数のプリントヘッド35を有する。インクカートリッジ31から供給されたインクは、複数のプリントヘッド35に供給される。これにより、プリントヘッド35の内部にインクが充填される。そして、プリントヘッド35は、駆動されることで内部に充填されたインクを吐出する。このような複数のインクカートリッジ31、及びヘッドユニット30は、キャリッジ32に搭載されている。
【0014】
キャリッジモーター41は、複数のインクカートリッジ31及びヘッドユニット30を搭載したキャリッジ32を主走査方向であるY方向に沿って往復動させる駆動源として機能する。また、往復動機構42は、両端が不図示のフレームに支持されたキャリッジガイド軸44と、キャリッジガイド軸44と平行に延在するタイミングベルト43とを有する。キャリッジ32は、キャリッジガイド軸44に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト43の一部に固定されている。そして、キャリッジモーター41の動作に応じてタイミングベルト43が正逆走行することで、タイミングベルト43の一部に固定されたキャリッジ32が、キャリッジガイド軸44に案内されて往復動する。
【0015】
以上のように構成された印刷部4では、キャリッジモーター41及び往復動機構42の動作により移動体3に含まれるキャリッジ32が主走査方向に沿って往復動するとともに、キャリッジ32の往復動に同期して、キャリッジ32に搭載されたヘッドユニット30が媒体Pにインクを吐出する。これにより、印刷部4は、媒体Pの主走査方向に沿った方向であって媒体Pの幅方向の全域に対してインクを吐出することができる。なお、
図1では、インクカートリッジ31がキャリッジ32に搭載されている場合を図示しているが、これに限るものではない。
【0016】
給紙部7は、トレイ81に載置された媒体Pを印刷部4に供給するとともに、印刷部4においてインクが着弾した媒体Pを排紙口82から搬出する。すなわち、給紙部7は、媒体Pの搬送を制御する。
【0017】
給紙部7は、駆動源となる給紙モーター71と、給紙モーター71の作動により回転する給紙ローラー72と、を有する。また、給紙ローラー72は、給紙モーター71に連結されている駆動ローラー72aと、媒体Pの搬送経路において媒体Pを挟んで駆動ローラー72aと向かい合って位置する従動ローラー72bと、を含む。そして、給紙ローラー72は、トレイ81に載置された媒体Pを1枚ずつ印刷部4に向かい送り込むとともに、印刷部4においてインクが吐出された媒体Pを排紙口82に向かい1枚ずつ排出する。なお、液体吐出装置1は、トレイ81に代えて又はトレイ81に加えて媒体Pを収容する給紙カセットを備えてもよい。
【0018】
制御ユニット10は、印刷部4、及び給紙部7を含む液体吐出装置1の各部を制御する。
【0019】
具体的には、制御ユニット10は、給紙部7を制御することで媒体Pの副走査方向への搬送を制御する。また、制御ユニット10は、キャリッジモーター41を制御することで移動体3を副走査方向と交差するY方向である主走査方向に往復動させるように制御する。さらに、制御ユニット10は、入力される画像データに基づいてヘッドユニット30からのインクの吐出タイミングを制御する。すなわち、制御ユニット10は、主走査方向に沿ったキャリッジ32の移動と副走査方向に沿った媒体Pの搬送とを制御するとともに、キャリッジ32に搭載されたヘッドユニット30からのインクの吐出タイミングを制御する。これにより、液体吐出装置1は、搬送される媒体Pの所望の位置にインクを着弾することができ、媒体Pに所望の画像を形成することができる。
【0020】
2.液体吐出装置の機能構成
次に、液体吐出装置1の機能構成の詳細について説明する。
図2は、液体吐出装置1の機能構成を示す図である。
図2に示すように、液体吐出装置1は、制御ユニット10、ヘッドユニット30、キャリッジモーター41、給紙モーター71、及びメンテナンスユニット90を備える。
【0021】
制御ユニット10は、制御回路100、駆動信号出力回路50、残留振動判定回路110、及び記録回路120を有する。
【0022】
制御回路100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを含む。そして、制御回路100は、液体吐出装置1の外部に設けられたホストコンピューター等の外部機器から入力される画像データ等の各種信号に基づいて、液体吐出装置1を制御するためのデータや各種信号を生成し出力する。
【0023】
具体的には、制御回路100は、基駆動信号dAを生成し、駆動信号出力回路50に出力する。駆動信号出力回路50は、入力される基駆動信号dAをデジタル/アナログ信号変換した後、変換したアナログ信号をD級増幅することで駆動信号COMを生成し、ヘッドユニット30に出力する。なお、基駆動信号dAは、駆動信号COMの波形を規定することができる信号であればよく、アナログ信号であってもよい。また、駆動信号出力回路50は、基駆動信号dAで規定される波形を増幅できる構成であればよく、例えば、A級増幅回路、B級増幅回路、又はAB級増幅回路等を含んでもよい。
【0024】
また、制御回路100は、記録回路120を制御するためのメモリー制御信号Mcを生成し記録回路120に出力する。記録回路120は、不図示のメモリー等によって構成されている。記録回路120は、制御回路100から入力されるメモリー制御信号Mcにより規定される情報を所定の記録領域に記録する。また、記録回路120は、制御回路100から入力されるメモリー制御信号Mcにより指示された情報を読出情報Rdとして制御回路100に出力する。すなわち、制御回路100は、メモリー制御信号Mcを用いて、記録回路120の所定の記録領域に所望の情報を記録するように記録回路120を制御するとともに、記録回路120の所定の領域に記録されている情報を読み出すように記録回路120を制御する。なお、制御回路100が記録回路120の所定の記録領域に所望の情報を記録する場合、記録回路120に記録すべき情報は、メモリー制御信号Mcに含まれていてもよく、その場合、記録回路120に記録すべき情報は、不図示の信号によって伝搬されてもよい。このような記録回路120には、液体吐出装置1の動作を規定する情報や、各種の動作を補正するための情報、吐出部600等の状態を示す情報が記録されている。
【0025】
また、制御回路100は、ヘッドユニット30の動作を制御するためのクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び切替制御信号Swを生成しヘッドユニット30に出力する。
【0026】
ヘッドユニット30は、制御ユニット10から入力される各種制御信号に基づいて駆動し、インクを吐出する。ヘッドユニット30は、複数のプリントヘッド35を有す。複数のプリントヘッド35のそれぞれには、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、切替制御信号Sw、及び駆動信号COMが入力される。なお、複数のプリントヘッド35のそれぞれには、異なるクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、切替制御信号Sw、及び駆動信号COMが入力されてもよい。なお、ヘッドユニット30が有する複数のプリントヘッド35はいずれも同様の構成であり、以下の説明では、1つのプリントヘッド35についてのみ説明を行い、他のプリントヘッド35の説明は省略する。
【0027】
プリントヘッド35は、集積回路200及び複数の吐出部600を有する。
【0028】
集積回路200には、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、切替制御信号Sw、及び駆動信号COMが入力される。そして、集積回路200は、入力されるクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び駆動信号COMに基づいて駆動信号Vinを生成し、複数の吐出部600のそれぞれに出力する。
【0029】
具体的には、集積回路200は、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHに基づいて駆動信号COMの波形を選択又は非選択とすることで、複数の吐出部600のそれぞれに対応する駆動信号Vinを生成する。そして、集積回路200が生成した駆動信号Vinは、対応する吐出部600のそれぞれに含まれる圧電素子60の一端に供給される。圧電素子60は、駆動信号Vinが供給されることで駆動する。この圧電素子60の駆動により、対応する吐出部600からインクが吐出される。
【0030】
また、集積回路200には、圧電素子60が駆動した後に生じる残留振動Voutが入力される。集積回路200は、入力される残留振動Voutの周期に応じた残留振動信号NVTを生成し、残留振動判定回路110に出力する。残留振動判定回路110は、入力される残留振動信号NVTに基づいてヘッドユニット30における吐出異常の有無を判定し、判定結果を示す判定結果信号Rsを制御回路100に出力する。ここで、吐出異常とは、吐出部600から正常にインクを吐出できない異常を意味する。すなわち、吐出部600が媒体Pに対しインクを吐出できない状態に加え、吐出部600が正常な量のインクを吐出できない状態や、吐出部600から吐出されたインクが媒体Pの所望の位置に着弾しない状態等が含まれる。
【0031】
また、集積回路200には切替制御信号Swが入力される。切替制御信号Swは、集積回路200が、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び駆動信号COMに基づいて生成された駆動信号Vinを吐出部600が有する圧電素子60に供給するのか、又は、駆動信号Vinが圧電素子60に供給された後に生じる残留振動Voutに対応する残留振動信号NVTを残留振動判定回路110に出力するのかを切り替える。
【0032】
また、集積回路200は、プリントヘッド35の温度を示す温度情報信号THを生成し、制御回路100に出力する。制御回路100は、入力される温度情報信号THに基づいてインクの吐出条件の補正を含む各種動作を制御する。ここで、集積回路200の構成、及び動作の詳細については後述する。
【0033】
また、制御回路100は、残留振動判定回路110から入力される判定結果信号Rsに基づいて、ヘッドユニット30における吐出異常の有無を把握する。そして、制御回路100は、入力される判定結果信号Rsがヘッドユニット30に吐出異常が生じていること示す信号である場合、吐出部600の状態を回復させるメンテナンス処理をメンテナンスユニット90に実行させる。
【0034】
具体的には、制御回路100は、残留振動判定回路110から入力される判定結果信号Rsが、吐出部600に吐出異常が生じていることを示す信号である場合、吐出部600を回復させるためのメンテナンス処理をメンテナンスユニット90に実行させるためのメンテナンス制御信号Msを生成し、メンテナンスユニット90に出力する。ここで、メンテナンスユニット90において実行されるメンテナンス処理には、吐出部600がインクを吐出するノズル面を覆うキャップにポンプを接続し吸引することで、吐出部600を回復させるポンプ吸引処理、吐出部600が有する圧電素子60を強制的に駆動することで、吐出部600に貯留されるインクの粘度を回復させるフラッシング処理、吐出部600からインクが吐出されるノズル面を拭き取ることで、当該ノズル面に付着した紙粉などを除去することで、吐出部600を回復させるワイピング処理等が含まれる。なお、制御回路100は、残留振動判定回路110から入力される判定結果信号Rsに基づいて、メンテナンスユニット90に上述したメンテナンス処理を複数回実行させてもよく、上述したメンテナンス処理を組み合わせて実行させてもよい。
【0035】
また、制御回路100は、キャリッジ制御信号Csを生成しキャリッジモーター41に出力する。これにより、キャリッジモーター41の駆動が制御される。その結果、キャリッジ32の主走査方向の移動が制御される。さらに、制御回路100は、搬送制御信号Tsを生成し給紙モーター71に出力する。これにより、給紙モーター71の駆動が制御され、その結果、副走査方向に沿った媒体Pの搬送が制御される。
【0036】
以上のように、本実施形態における液体吐出装置1は、液体の一例であるインクを吐出する吐出部600と、残留振動Voutに基づいて吐出部600の状態を検出する集積回路200と、集積回路200が出力する残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTに基づいて吐出部600の異常の有無を判定する残留振動判定回路110と、吐出部600に対してメンテナンス処理を実行するメンテナンスユニット90と、を備える。そして、メンテナンスユニット90において実行されるメンテナンス処理には、吐出部600からインクが吐出されるノズル面を拭き取るワイピング処理や、吐出部600に貯留されるインクの粘度を回復させるフラッシング処理などが含まれる。ここで、残留振動判定回路110が判定部の一例であり、メンテナンスユニット90がメンテナンス部の一例であり、吐出部600からインクが吐出されるノズル面が吐出面の一例である。
【0037】
3.吐出部の構成
次に、プリントヘッド35が有する吐出部600の構成について説明する。
図3は、プリントヘッド35が有する複数の吐出部600の内の1つの吐出部600の概略構成を示す図である。
図3に示すように、吐出部600は、圧電素子60、振動板621、キャビティー631、及びノズル651を含む。
【0038】
キャビティー631には、リザーバー641から供給されるインクが充填している。また、リザーバー641には、インクカートリッジ31から不図示のインク流路、及びインク供給口661を経由してインクが導入される。すなわち、キャビティー631には、対応するインクカートリッジ31に貯留されているインクが充填している。
【0039】
振動板621は、
図3において上面に設けられた圧電素子60の駆動によって変位する。そして、振動板621の変位に伴って、インクが充填されるキャビティー631の内部容積が拡大、縮小する。すなわち、振動板621は、キャビティー631の内部容積を変化させるダイヤフラムとして機能する。
【0040】
ノズル651は、ノズルプレート632に設けられるとともに、キャビティー631に連通する開孔部である。そして、キャビティー631の内部容積が変化することで、内部容積の変化に応じた量のインクが、ノズル651から吐出される。すなわち、ノズルプレート632において、媒体Pと対向して位置する面がノズル面に相当する。
【0041】
圧電素子60は、圧電体601を一対の電極611,612で挟んだ構造である。このような構造の圧電体601は、電極611,612により供給される電圧の電位差に応じて、電極611,612の中央部分が、振動板621とともに上下方向に撓む。具体的には、圧電素子60の電極611には、駆動信号Vinが供給される。また、圧電素子60の電極612には、圧電素子60の変位の基準となる基準電位の信号が供給される。そして、圧電素子60は、駆動信号Vinの電圧レベルが高くなると、上方向に撓み、駆動信号Vinの電圧レベルが低くなると、下方向に撓む。ここで、圧電素子60の電極612に供給される圧電素子60の変位の基準となる基準電位の信号とは、例えば、5.5Vや6V等の一定電位の直流電圧の信号であってもよく、また、グラウンド電位であってもよい。
【0042】
以上のように構成された吐出部600では、圧電素子60が上方向に撓むように駆動することで、振動板621の中央部が上方向が変位し、キャビティー631の内部容積が拡大する。その結果、インクがリザーバー641から引き込まれる。一方、圧電素子60が下方向に撓むように駆動することで、振動板621が下方向に変位し、キャビティー631の内部容積が縮小する。その結果、縮小の程度に応じた量のインクが、ノズル651から吐出される。すなわち、吐出部600は、駆動することでインクを吐出する圧電素子60を含む。
【0043】
なお、圧電素子60は、
図3に示す構造に限られず、吐出部600からインクが吐出できる構造であればよい。すなわち、圧電素子60は、上述したような屈曲振動の構成に限られるものではなく、例えば、縦振動の構成であってもよい。
【0044】
4.集積回路の構成
次に、集積回路200の機能構成、及び動作について説明する。
図4は、集積回路200の機能構成を示す図である。前述の通り、集積回路200は、制御回路100から入力されるクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHに基づいて駆動信号出力回路50が出力する駆動信号COMに含まれる波形を選択又は非選択することで駆動信号Vinを生成し、圧電素子60に出力する。また、集積回路200は、圧電素子60が駆動した後に生じる残留振動Voutを検出し、検出した残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを生成し、残留振動判定回路110に出力する。
【0045】
図4に示すように、集積回路200は、選択制御回路51、検出回路52、切替回路53、及び温度検出回路250を有する。
【0046】
選択制御回路51には、制御回路100が出力するクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHと、駆動信号出力回路50が出力する駆動信号COMと、が入力される。そして、選択制御回路51は、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHに基づいて、駆動信号COMに含まれる波形を選択又は非選択とすることで、駆動信号Vinを生成し切替回路53に出力する。
【0047】
切替回路53は、制御回路100から入力される切替制御信号Swに基づいて、選択制御回路51が出力する駆動信号Vinを吐出部600が有する圧電素子60に供給するのか、又は、駆動信号Vinが圧電素子60に供給された後に生じる残留振動Voutを検出回路52に供給するのかを切り替える。
【0048】
検出回路52は、切替回路53から入力される残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを生成する。この残留振動信号NVTが集積回路200から出力される。そして、集積回路200から出力された残留振動信号NVTは、前述の通り残留振動判定回路110に入力される。
【0049】
温度検出回路250は、プリントヘッド35及び吐出部600の少なくとも一方の温度を検出し、検出した温度に対応する温度情報信号THを生成する。この温度情報信号THが集積回路200から出力される。そして、集積回路200から出力された温度情報信号THは、前述の通り、制御回路100に入力される。ここで、温度検出回路250が出力する温度情報信号THは、検出した温度に対応する電圧値を含む信号であってもよく、また、温度検出回路250が検出した温度が所定の閾値を超えているか否かを示す信号であってもよい。なお、温度検出回路250は、集積回路200の外部に構成されていてもよい。
【0050】
このような温度検出回路250は、例えば、温度に依存して変化する温度特性を有する回路素子に所望の電流を供給するとともに、当該回路素子の両端に生じた電圧値を増幅した信号を温度情報信号THとして出力してもよい。このような温度に依存して変化する温度特性を有する回路素子としては、例えば、温度により抵抗値が変化するサーミスター等であってもよく、温度により順方向電圧が変化するダイオード等であってもよい。ここで、吐出部600を含むプリントヘッド35の温度を検出する温度検出回路250が温度検出部の一例である。
【0051】
次に、集積回路200が有する選択制御回路51、検出回路52、及び切替回路53の機能構成、及び動作の詳細について説明する。
【0052】
まず、
図5~
図8を用いて、選択制御回路51の機能構成、及び動作について説明する。
図5は、選択制御回路51の機能構成を示す図である。
図5に示すように、選択制御回路51は、シフトレジスターSR、ラッチ回路LT、デコーダーDC、及びトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcからなる組を、プリントヘッド35が有するM個の吐出部600と同数のM組有する。すなわち、選択制御回路51は、シフトレジスターSR、ラッチ回路LT、デコーダーDC、及びトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcからなる組を、M個の吐出部600に対応して合計M組有する。
【0053】
ここで、以下の説明において、M組の各要素を
図5における上から順に、1段、2段、…、M段と称する場合がある。そして、
図5には、1段、2段、…、M段のそれぞれに対応するシフトレジスターSRをSR[1],SR[2],…,SR[M]として図示し、ラッチ回路LTをLT[1],LT[2],…,LT[M]として図示し、デコーダーDCをDC[1],DC[2],…,DC[M]として図示し、駆動信号VinをVin[1],Vin[2],…,Vin[M]として図示している。
【0054】
選択制御回路51には、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び駆動信号COMが供給される。ここで、本実施形態における駆動信号COMには、
図5に示すように3つの駆動信号Com-A,Com-B,Com-Cが含まれている。なお、駆動信号COMに含まれる3つの駆動信号Com-A,Com-B,Com-Cの具定例については後述する。
【0055】
印刷データ信号SIは、画像の1ドットを形成する場合に対応するノズル651から吐出させるインクの量を規定するデジタルの信号である。詳細には、印刷データ信号SIは、各吐出部600に対応する3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]を含む。この印刷データ[b1,b2,b3]によって対応する吐出部600が有するノズル651から吐出させるインクの量が規定される。このような印刷データ信号SIは、クロック信号SCKに同期して、印刷データ[b1,b2,b3]をシリアルに含むシリアル信号として選択制御回路51に入力される。
【0056】
選択制御回路51は、入力された印刷データ信号SIに基づいて、ノズル651から吐出されるインクの量に応じた駆動信号Vinを生成する。この駆動信号Vinが、対応する圧電素子60に供給されることで、圧電素子60が駆動し、対応するノズル651から所定量のインクが吐出される。その結果、媒体Pには、非記録、小ドット、中ドット、及び大ドットの4階調を表現するドットが形成される。また、選択制御回路51は、入力された印刷データ信号SIに基づいて、ノズル651を含む吐出部600の状態を検査するための検査用の駆動信号Vinも生成する。
【0057】
シフトレジスターSRのそれぞれは、印刷データ信号SIを、吐出部600が有するノズル651のそれぞれに対応する3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]毎に一旦保持すると共に、クロック信号SCKに従って順次後段のシフトレジスターSRに転送する。詳細には、M個のノズル651のそれぞれと1対1で対応するM個のシフトレジスターSRが、縦続接続されている。シリアルで供給された印刷データ信号SIは、クロック信号SCKに従って順次後段のシフトレジスターSRに転送される。そして、M個のシフトレジスターSRの全てに印刷データ信号SIが転送された時点で、クロック信号SCKの供給が停止される。これにより、M個のシフトレジスターSRのそれぞれには、M個の吐出部600のそれぞれに対応する印刷データ信号SIが保持される。
【0058】
M個のラッチ回路LTのそれぞれは、ラッチ信号LATの立ち上がりに同期してM個のシフトレジスターSRのそれぞれに保持されている3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]を一斉にラッチする。ここで、
図5に示すSI[1]~SI[M]は、M個のシフトレジスターSR[1]~SR[M]のそれぞれで保持され、ラッチ信号LATの立ち上がりでラッチ回路LT[1]~LT[M]によってラッチされたM個の印刷データ[b1,b2,b3]を示している。
【0059】
ところで、液体吐出装置1が印刷を実行する動作期間には、複数の単位動作期間Tuが含まれる。また、各単位動作期間Tuには、制御期間Ts1とこれに後続する制御期間Ts2とが含まれる。この複数の単位動作期間Tuには、液体吐出装置1において媒体Pに印刷する印刷処理が実行される単位動作期間Tuと、吐出部600の吐出異常を検出する吐出異常検出処理が実行される単位動作期間Tuと、印刷処理及び吐出異常検出処理の両方の処理が実行される単位動作期間Tuとが含まれる。
【0060】
制御回路100は、選択制御回路51に対して、単位動作期間Tu毎に印刷データ信号SIを供給するとともに、単位動作期間Tu毎にシフトレジスターSRのそれぞれに保持されている3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]をラッチ回路LTが一斉にラッチするためのラッチ信号LATを出力する。すなわち、制御回路100は、単位動作期間Tu毎にM個の吐出部600のそれぞれが有するノズル651に対応する圧電素子60に、インクの吐出量に応じた駆動信号Vinが供給されるように、選択制御回路51を制御する。
【0061】
具体的には、プリントヘッド35が、単位動作期間Tuにおいて印刷処理のみを実行する場合、制御回路100は、M個の吐出部600が有するノズル651に対応する圧電素子60に対して、印刷用の駆動信号Vinが供給されるように選択制御回路51を制御する。この場合、液体吐出装置1に入力される画像データに基づいて生成された印刷データ[b1,b2,b3]に応じた量のインクがM個のノズル651のそれぞれから吐出される。これにより、媒体Pには、液体吐出装置1に入力される画像データに対応する画像が形成される。
【0062】
一方、プリントヘッド35が、単位動作期間Tuにおいて吐出異常検出処理のみを実行する場合、制御回路100は、M個の吐出部600が有するノズル651に対応する圧電素子60に対して検査用の駆動信号Vinが供給されるように選択制御回路51を制御する。
【0063】
また、プリントヘッド35が、単位動作期間Tuにおいて印刷処理、及び吐出異常検出処理の両方を実行する場合、制御回路100は、M個の吐出部600が有するノズル651に対応する圧電素子60の一部に対して印刷用の駆動信号Vinが供給されるように選択制御回路51を制御し、残りの吐出部600が有するノズル651に対応する圧電素子60に対して検査用の駆動信号Vinが供給されるように選択制御回路51を制御する。
【0064】
デコーダーDCは、ラッチ回路LTによってラッチされた3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]をデコードし、制御期間Ts1,Ts2のそれぞれにおいてHレベル又はLレベルとなる選択信号Sa,Sb,Scを出力する。
【0065】
図6は、デコーダーDCが行うデコードの内容の一例を示す図である。
図6に示すように、例えば、3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[1,0,0]である場合、対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1において、選択信号SaをHレベル、選択信号SbをLレベル、選択信号ScをLレベルに設定し、制御期間Ts2において、選択信号SaをLレベル、選択信号SbをHレベル、選択信号ScをLレベルに設定する。
【0066】
図5に戻り、選択制御回路51が有するM組のトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcは、M個の吐出部600と1対1に対応するように設けられている。
【0067】
すなわち、選択制御回路51は、M個の吐出部600のそれぞれが有するノズル651と1対1に対応するM組のトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcを含む。
【0068】
トランスミッションゲートTGaは、デコーダーDCから出力される選択信号SaがHレベルの場合にオンし、Lレベルの場合にオフする。すなわち、トランスミッションゲートTGaは、選択信号SaがHレベルの場合に導通となり、Lレベルの場合に非導通となる。同様に、トランスミッションゲートTGbは、デコーダーDCから出力される選択信号SbがHレベルの場合に導通、Lレベルの場合に非導通となり、トランスミッションゲートTGcは、デコーダーDCから出力される選択信号ScがHレベルの場合に導通、Lレベルの場合に非導通となる。例えば、3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[1,0,0]である場合、制御期間Ts1において、トランスミッションゲートTGaはオンに制御され、トランスミッションゲートTGbはオフに制御され、トランスミッションゲートTGcはオフに制御される。そして、その後の制御期間Ts2において、トランスミッションゲートTGaはオフに制御され、トランスミッションゲートTGbはオンに制御され、トランスミッションゲートTGcはオフに制御される。
【0069】
図5に示すように、トランスミッションゲートTGaの一端には、駆動信号COMの内の駆動信号Com-Aが供給され、トランスミッションゲートTGbの一端には、駆動信号COMの内の駆動信号Com-Bが供給され、トランスミッションゲートTGcの一端には、駆動信号COMの内の駆動信号Com-Cが供給される。そして、トランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれの他端は、出力端OTNで共通に接続された後、切替回路53と接続されている。
【0070】
図7は、選択制御回路51の単位動作期間Tuにおける動作を説明するための図である。
図7に示すように、単位動作期間Tuは、制御回路100が出力するラッチ信号LATにより規定される。また、単位動作期間Tuに含まれる制御期間Ts1,Ts2は、制御回路100が出力するラッチ信号LATとチェンジ信号CHとにより規定される。すなわち、制御回路100は、ラッチ信号LATにより印刷処理が実行される単位動作期間Tuを規定するとともに、チェンジ信号CHによって単位動作期間Tuを分割することで制御期間Ts1,Ts2を規定する。
【0071】
駆動信号出力回路50から供給される駆動信号COMの内の駆動信号Com-Aは、単位動作期間Tuにおいて、印刷用の駆動信号Vinを生成するための信号であって、制御期間Ts1に配置された単位波形PA1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PA2とを連続させた波形を含む。単位波形PA1及び単位波形PA2の開始のタイミング及び終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0である。また、単位波形PA1の電位Va11と電位Va12との電位差は、単位波形PA2の電位Va21と電位Va22との電位差よりも大きい。このため、単位波形PA1により圧電素子60が駆動された場合、当該圧電素子60に対応するノズル651から吐出されるインクの量は、単位波形PA2により当該圧電素子60が駆動された場合にノズル651から吐出されるインクの量よりも多い。ここで、単位波形PA1により圧電素子60が駆動された場合に、対応するノズル651から吐出されるインクの量を中程度の量と称し、単位波形PA2により圧電素子60が駆動された場合に、対応するノズル651から吐出されるインクの量を小程度の量と称する。
【0072】
また、駆動信号出力回路50から供給される駆動信号COMの内の駆動信号Com-Bは、単位動作期間Tuにおいて、印刷用の駆動信号Vinを生成するための信号であって、制御期間Ts1に配置された単位波形PB1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PB2とを連続させた波形を含む。単位波形PB1の開始のタイミング及び終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0であり、単位波形PB2の電位は、制御期間Ts2に亘って基準電位V0に保たれる。また、単位波形PB1の電位Vb11と基準電位V0との電位差は、単位波形PA2の電位Va21と電位Va22との電位差よりも小さい。そして、ノズル651に対応する圧電素子60が単位波形PB1により駆動された場合、当該圧電素子60は、対応するノズル651からインクは吐出されない程度に駆動する。また、圧電素子60に単位波形PB2が供給された場合、圧電素子60は変位しない。よって、ノズル651からインクは吐出されない。ここで、以下の説明において、単位波形PB1が供給されることで圧電素子60が対応するノズル651からインクが吐出されない程度に駆動することを微振動と称する場合があり、この場合の駆動信号波形を微振動波形と称する場合がある。
【0073】
また、駆動信号出力回路50から供給される駆動信号COMの内の駆動信号Com-Cは、単位動作期間Tuにおいて、検査用の駆動信号Vinを生成するための信号であって、制御期間Ts1に配置された単位波形PC1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PC2とを連続させた波形を含む。単位波形PC1の開始のタイミング、及び単位波形PC2の終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0である。また、単位波形PC1は、基準電位V0から電位Vc11に遷移した後、電位Vc11から電位Vc12に遷移し、その後、制御期間Ts1の終了まで電位Vc12に保たれる。また、単位波形PC2は、電位Vc12を維持した後、制御期間Ts2が終了する前に電位Vc12から基準電位V0に遷移する。
【0074】
図7に示すように、シリアル信号として供給された印刷データ信号SI[1]~SI[M]は、クロック信号SCKにより順次シフトレジスターSRに伝搬される。そして、クロック信号SCKの供給が停止すると、対応するシフトレジスターSR[1]~SR[M]のそれぞれに保持される。その後、ラッチ信号LATの立ち上がりのタイミング、すなわち、単位動作期間Tuが開始されるタイミングにおいて、選択制御回路51が有するM個のラッチ回路LTは、シフトレジスターSR[1]~SR[M]のそれぞれに保持されている印刷データ信号SI[1]~SI[M]をラッチする。
【0075】
M個のデコーダーDCのそれぞれは、制御期間Ts1,Ts2のそれぞれにおいて、ラッチ回路LTによりラッチされた印刷データ信号SI[1]~SI[M]に応じた論理レベルの選択信号Sa,Sb,Scを
図6に記載の内容に従い出力する。
【0076】
M個のトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、入力される選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルに基づいて、導通又は非導通に制御される。これにより、駆動信号COMに含まれる駆動信号Com-A,Com-B,Com-Cのそれぞれが選択又は非選択される。これにより駆動信号Vinが生成される。この駆動信号Vinは、切替回路53に入力される。
【0077】
以上のように選択制御回路51は、駆動信号Com-A,Com-B,Com-Cと、3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]と、に基づいて駆動信号Vinを生成する。ここで、選択制御回路51において生成される駆動信号Vinの波形の一例について
図8を用いて説明する。
【0078】
図8は、駆動信号Vinの波形の一例を示す図である。
図8に示すように、単位動作期間Tuにおいて選択制御回路51に供給される印刷データ信号SIに含まれる3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[1,1,0]の場合、当該印刷データ[b1,b2,b3]が保持されたシフトレジスターSRに対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをH,L,Lレベルとし、制御期間Ts2における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをH,L,Lレベルとする。これにより、対応するトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、制御期間Ts1において駆動信号Com-Aを選択し、制御期間Ts2において駆動信号Com-Aを選択する。したがって、選択制御回路51は、単位動作期間Tuにおいて単位波形PA1と単位波形PA2とを連続させた波形の駆動信号Vinを出力する。その結果、対応するノズル651は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA1に基づく中程度の量のインクと、単位波形PA2に基づく小程度の量のインクとを吐出する。そして、ノズル651から吐出されたインクが媒体Pに着弾し結合することで、媒体Pには、大ドットが形成される。
【0079】
また、単位動作期間Tuにおいて選択制御回路51に供給される印刷データ信号SIに含まれる3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[1,0,0]の場合、当該印刷データ[b1,b2,b3]が保持されたシフトレジスターSRに対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをH,L,Lレベルとし、制御期間Ts2における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,H,Lレベルとする。これにより、対応するトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、制御期間Ts1において、駆動信号Com-Aを選択し、制御期間Ts2において、駆動信号Com-Bを選択する。したがって、選択制御回路51は、単位動作期間Tuにおいて単位波形PA1と単位波形PB2とを連続させた波形の駆動信号Vinを出力する。その結果、対応するノズル651は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA1に基づく中程度の量のインクを吐出する。そして、ノズル651から吐出されたインクが媒体Pに着弾することで、媒体Pには、中ドットが形成される。
【0080】
また、単位動作期間Tuにおいて選択制御回路51に供給される印刷データ信号SIに含まれる3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[0,1,0]の場合、当該印刷データ[b1,b2,b3]が保持されたシフトレジスターSRに対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,H,Lレベルとし、制御期間Ts2における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをH,L,Lレベルとする。これにより、対応するトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、制御期間Ts1において、駆動信号Com-Bを選択し、制御期間Ts2において、駆動信号Com-Aを選択する。したがって、選択制御回路51は、単位動作期間Tuにおいて単位波形PB1と単位波形PA2とを連続させた波形の駆動信号Vinを出力する。その結果、対応するノズル651は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA2に基づく小程度の量のインクを吐出する。そして、ノズル651から吐出されたインクが媒体Pに着弾することで、媒体Pには、小ドットが形成される。
【0081】
また、単位動作期間Tuにおいて選択制御回路51に供給される印刷データ信号SIに含まれる3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[0,0,0]の場合、当該印刷データ[b1,b2,b3]が保持されたシフトレジスターSRに対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,H,Lレベルとし、制御期間Ts2における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,H,Lレベルとする。これにより、対応するトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、制御期間Ts1において、駆動信号Com-Bを選択し、制御期間Ts2において、駆動信号Com-Bを選択する。したがって、選択制御回路51は、単位動作期間Tuにおいて単位波形PB1と単位波形PB2とを連続させた波形の駆動信号Vinを出力する。その結果、対応するノズル651は、単位動作期間Tuにおいて、インクを吐出せず、よって、媒体Pには、ドットが形成されない。この場合において、選択制御回路51が出力する駆動信号Vinは、ノズル651からインクが吐出されない程度に圧電素子60を駆動させる。すなわち、対応する吐出部600を微振動させる。これにより、ノズル651の付近のインクの増粘を防止することができる。
【0082】
また、単位動作期間Tuにおいて選択制御回路51に供給される印刷データ信号SIに含まれる3ビットの印刷データ[b1,b2,b3]が[0,0,1]の場合、当該印刷データ[b1,b2,b3]が保持されたシフトレジスターSRに対応するデコーダーDCは、制御期間Ts1における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,L,Hレベルとし、制御期間Ts2における選択信号Sa,Sb,Scの論理レベルをL,L,Hレベルとする。これにより、対応するトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcのそれぞれは、制御期間Ts1において、駆動信号Com-Cを選択し、制御期間Ts2において、駆動信号Com-Cを選択する。したがって、選択制御回路51は、単位動作期間Tuにおいて単位波形PC1と単位波形PC2とを連続させた波形の駆動信号Vinを出力する。その結果、対応するノズル651は、単位動作期間Tuにおいて、インクが吐出せず、よって、媒体Pには、ドットが形成されない。この場合における選択制御回路51が出力する駆動信号Vinは、圧電素子60が駆動することで生じる残留振動Voutを検出するための検査用波形に相当する。
【0083】
以上のように、選択制御回路51は、制御回路100が出力するクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHに基づいて、駆動信号出力回路50が出力する駆動信号COMに含まれる波形を選択又は非選択とすることで、非記録、小ドット、中ドット、及び大ドットの4階調を表現するドットに対応する駆動信号Vinと、検査用の駆動信号Vinとを生成し、切替回路53に出力する。
【0084】
次に、切替回路53、及び検出回路52の機能構成、及び動作について説明する。
図9は、切替回路53、及び検出回路52の機能構成を示す図である。ここで、
図9には、1段、2段、…、M段のそれぞれに対応する切替スイッチUをU[1],U[2],…,U[M]として図示し、吐出部600を600[1],600[2],…,600[M]として図示し、圧電素子60を60[1],60[2],…,60[M]として図示し、切替制御信号SwをSw[1],Sw[2],…,Sw[M]として図示し、残留振動Voutを残留振動Vout[1],Vout[2],…,Vout[M]として図示している。
【0085】
図9に示すように、切替回路53は、M個の吐出部600が有する圧電素子60に対応するM個の切替スイッチUを有する。各切替スイッチUは、切替制御信号Swに基づいて、選択制御回路51から入力される駆動信号Vinを対応する圧電素子60に供給するのか、又は、駆動信号Vinが圧電素子60に供給された後に生じる残留振動Voutを検出回路52に供給するのかを切り替える。
【0086】
具体的には、切替スイッチU[1]には、切替制御信号Sw[1]が入力される。そして、切替スイッチU[1]は、切替制御信号Sw[1]に基づいて、駆動信号Vin[1]を吐出部600[1]が有する圧電素子60[1]に供給するのか、又は、圧電素子60[1]に駆動信号Vin[1]が供給された後に生じる残留振動Vout[1]を検出回路52に供給するのかを切り替える。
【0087】
同様に、切替スイッチU[i]には、切替制御信号Sw[i]が入力される。そして、切替スイッチU[i]は、切替制御信号Sw[i]に基づいて、駆動信号Vin[i]を吐出部600[i]が有する圧電素子60[i]に供給するのか、又は、圧電素子60[i]に駆動信号Vin[i]が供給された後に生じる残留振動Vout[i]を検出回路52に供給するのかを切り替える。
【0088】
ここで、切替制御信号Sw[1]~Sw[M]は、単位動作期間Tuにおいて、M個の圧電素子60[1]~60[M]のうちのいずれか1つが検出回路52と電気的に接続されるようにM個の切替スイッチU[1]~U[M]の切り替えを制御する。換言すれば、検出回路52は、切替制御信号Swに基づいてM個の圧電素子60[1]~60[M]のそれぞれに対応する残留振動Vout[1]~Vout[M]の内のいずれか1つを検出し、対応するノズル651における残留振動信号NVTを生成する。
【0089】
次に、検出回路52の機能構成について説明する。
図10は、検出回路52の機能構成を示す図である。検出回路52は、切替回路53を介して入力される残留振動Voutを検出し、検出した残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを生成し、出力する。
【0090】
図10に示すように、検出回路52は、波形整形部57と周期信号生成部58とを含む。波形整形部57は、残留振動Voutからノイズ成分を除去した整形波形信号Vdを生成する。このような波形整形部57は、例えば、残留振動Voutの周波数帯域よりも低域の周波数成分を減衰させた信号を出力するためのハイパスフィルターや、残留振動Voutの周波数帯域よりも高域の周波数成分を減衰させた信号を出力するためのローパスフィルター等を含む。これにより、波形整形部57は、残留振動Voutの周波数範囲を限定し、ノイズ成分を除去した整形波形信号Vdを出力することができる。ここで、波形整形部57が残留振動Voutからノイズ成分を除去する回路として、残留振動Voutの振幅を調整するための負帰還型の増幅回路や、残留振動Voutのインピーダンスを変換するためのボルテージフォロア回路などが用いられてもよい。
【0091】
周期信号生成部58は、整形波形信号Vdに基づいて残留振動Voutの周期、振動周波数、及び位相の少なくとも1つを示す残留振動信号NVTを生成し、集積回路200から出力する。周期信号生成部58には、整形波形信号Vdと、マスク信号Mskと、閾値電位Vthとが入力される。ここで、マスク信号Msk及び閾値電位Vthは、例えば、制御回路100から供給されてもよく、集積回路200の内部で生成されてもよい。
【0092】
図11は、周期信号生成部58の動作を説明するための図である。
図11に示すように、閾値電位Vthは、整形波形信号Vdの振幅の内、所定のレベルの電位に定められた閾値であり、例えば、整形波形信号Vdの振幅の中心レベルの電位に定められる。そして、周期信号生成部58は、入力される整形波形信号Vdと閾値電位Vthに基づいて残留振動信号NVTを生成し出力する。
【0093】
具体的には、周期信号生成部58は、整形波形信号Vdの電位と閾値電位Vthとを比較する。そして、周期信号生成部58は、整形波形信号Vdの電位が閾値電位Vth以上の場合にHレベルとなり、整形波形信号Vdの電位が閾値電位Vth未満の場合にLレベルとなる残留振動信号NVTを生成する。すなわち、残留振動信号NVTの論理レベルがHレベルからLレベルに遷移し、再度Hレベルになるまでの期間が残留振動Voutの周期に相当し、当該周期の逆数が残留振動Voutの振動周波数に相当し、任意の時刻から残留振動信号NVTの論理レベルがHレベルからLレベルに遷移するタイミング、又は、残留振動信号NVTの論理レベルがLレベルからHレベルに遷移するタイミングが位相に相当する。
【0094】
マスク信号Mskは、整形波形信号Vdの供給が開始される時刻t0から所定の期間Tmskの間だけHレベルとなる信号である。周期信号生成部58は、マスク信号MskがHレベルの期間において残留振動信号NVTの生成を停止し、マスク信号MskがHレベルの期間において残留振動信号NVTを生成する。すなわち、周期信号生成部58は、整形波形信号Vdのうち、期間Tmskの経過後の整形波形信号Vdのみを対象として、残留振動信号NVTを生成する。これにより、周期信号生成部58は、残留振動Voutが生じた直後に重畳するノイズ成分を除外することが可能となり、精度の高い残留振動信号NVTを生成することができる。
【0095】
以上のように、本実施形態における集積回路200は、選択制御回路51が、制御回路100から入力されるクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHに基づいて駆動信号出力回路50が出力する駆動信号COMに含まれる波形を選択又は非選択することで駆動信号Vinを生成し、切替回路53を介して吐出部600が有する圧電素子60に供給する。また、切替回路53は、圧電素子60が駆動した後に生じる残留振動Voutを検出回路52に供給する。検出回路52は、入力される残留振動Voutを検出するとともに、残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを生成し、集積回路200から出力する。この集積回路200から出力された残留振動信号NVTは、残留振動判定回路110に供給される。
【0096】
5.残留振動に基づく吐出部の状態判定
次に、残留振動判定回路110における判定動作について説明する。残留振動判定回路110は、集積回路200から入力される残留振動信号NVTに基づいて、対応する吐出部600の状態を判定するとともに判定結果を示す判定結果信号Rsを生成する。そして、残留振動判定回路110は、生成した判定結果信号Rsを制御回路100に出力する。すなわち、残留振動判定回路110は、集積回路200が有する検出回路52が出力する残留振動信号NVTに基づいて、対応する吐出部600の異常の有無を判定し、判定結果を示す判定結果信号Rsを制御回路100に出力する。
【0097】
具体的には、残留振動判定回路110は、入力される残留振動信号NVTの周期、周波数、及び位相の少なくともいずれかに基づいて、対応する吐出部600の異常の有無を判定するとともに、対応する吐出部600に吐出異常が生じている場合、当該吐出異常の原因を推定し、推定した結果を含む判定結果信号Rsを制御回路100に出力する。
【0098】
ここで、残留振動判定回路110における残留振動信号NVTに基づく吐出部600の状態判定について説明するにあたり、残留振動Voutと吐出部600の異常の有無との関係、及び残留振動Voutと吐出部600の吐出異常との関係について説明する。なお、以下の説明では、圧電素子60に駆動信号Vinが供給された後に圧電素子60の駆動に伴い変位する振動板621に生じる残留振動Voutと、吐出部600に生じる吐出異常の原因と、の関係について、計算モデルに基づく演算により計算した計算値と、実験により得られた実験値とを用いて説明する。
【0099】
まず残留振動Voutについて説明する。残留振動Voutとは、吐出部600に駆動信号Vinが供給されることで圧電素子60が駆動し、ノズル651からインクを吐出する吐出動作が終了した後、吐出部600が次のインク吐出動作を開始するまでの間に生じる減衰振動であって、例えば、キャビティー631の内部容積を変化させるダイヤフラムとして機能する振動板621に生じる。この振動板621で生じる残留振動Voutには、インクを吐出するノズル651やインクが供給されるインク供給口661の形状、あるいはインクの粘度等による規定される音響抵抗rと、インクが流れるインク流路内に貯留されるインク重量により規定されるイナータンスmと、振動板621のコンプライアンスCmとによって決定される固有振動周波数が含まれると想定される。
【0100】
図12は、振動板621で生じる残留振動Voutを想定した単振動の計算モデルを示す図である。
図12に示すように、振動板621で生じる残留振動Voutの計算モデルは、音圧pと、イナータンスm、コンプライアンスCm、及び音響抵抗rで表現することができる。そして、
図12で示す計算モデルに音圧pを与えた場合のステップ応答である体積速度uについて計算すると、以下に示す式(1)、式(2)、式(3)が得られる。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
そして、この式(1)~式(3)から得られる計算値と、吐出部600からインクが吐出された後に振動板621に生じる残留振動Voutを実際に取得した実験による実験値とを比較する。
図13は、振動板621の残留振動Voutの計算値と実験値との関係を示す図である。
図13に示す結果からも分かるように、計算値の波形と実験値の波形とは、概ね一致する。
【0105】
ここで、吐出部600の生じる吐出異常であって、残留振動信号NVTに基づいて推定される吐出異常には、第1にキャビティー631の内部に気泡が混入する気泡混入、第2にノズル651の近傍のインクが乾燥により増粘する乾燥増粘、第3にノズル651の出口近傍に紙粉が付着する紙粉付着の3つの原因が推定される。以下では、
図13に示す比較結果に基づいて、プリントヘッド35で生じる吐出異常を上述の原因別に検討する。
【0106】
まず、吐出異常の原因の1つである気泡混入について検討する。
図14は、気泡混入が生じた場合のノズル651の近傍を概念的に示す図である。
図14に示すように、気泡Aがキャビティー631の内部に混入した場合、気泡Aは、キャビティー631の内部であって壁面に発生付着しているものと想定される。そのため、気泡Aがキャビティー631の内部に混入した場合、キャビティー631に充填されるインクの総重量が減少し、インクの総重量の減少に伴って、イナータンスmが低下するものと考えられる。さらに、
図14に示すように、気泡Aがノズル651の近傍に付着している場合、気泡Aの径の大きさだけノズル651の径が大きくなったような状態となる。その結果、音響抵抗rが低下するものと考えられる。そこで、
図13に示すインクが正常に吐出された場合の計算値に対して、音響抵抗r、イナータンスmを共に小さく設定した計算モデルに基づき演算を行うと、当該演算による計算値と、気泡混入が生じた場合の残留振動Voutの実験値とが概ね一致する
図15のような結果が得られた。
【0107】
図15は、気泡混入時の振動板621で生じる残留振動Voutの実験値と計算値との関係を示す図である。
図13及び
図15に示すように、キャビティー631の内部に気泡Aが混入した場合、インクが正常に吐出されている場合と比較して周波数が高くなる特徴的な残留振動Voutの波形が得られる。さらに、音響抵抗rの低下などに起因して、残留振動Voutの振幅の減衰率も小さくなり、その結果、残留振動Voutは、その振幅をゆっくりと下げていることも確認できる。すなわち、吐出部600に気泡混入を原因とする吐出異常が生じた場合の残留振動Voutは、吐出部600が正常な場合の残留振動Voutに対して、周波数、及び位相が変化する。
【0108】
次に、吐出異常の原因のもう1つである乾燥増粘について検討する。
図16は、乾燥増粘が生じた場合のノズル651の近傍を概念的に示す図である。
図16に示すように、ノズル651の近傍のインクが乾燥して固着した場合、キャビティー631の内部のインクは、キャビティー631の内部に閉じこめられたような状態となる。これにより、ノズル651の近傍のインクが乾燥、増粘した場合、音響抵抗rが増加するものと考えられる。そこで、
図13に示すインクが正常に吐出された場合の計算値に対して、音響抵抗rを大きく設定した計算モデルに基づき演算を行うと、当該演算による計算値と、乾燥増粘が生じた場合の残留振動Voutの実験値とが概ね一致する
図17のような結果が得られた。
【0109】
図17は、乾燥増粘時の振動板621で生じる残留振動Voutの実験値と計算値との関係を示す図である。なお、
図17に示す実験値は、数日間図示しないキャップを装着しない状態でプリントヘッド35を放置することで、ノズル651の近傍のインクが乾燥、増粘することで固着し、インクの吐出ができなくなった状態における振動板621の残留振動を測定したものである。
図13及び
図17に示すように、ノズル651の近傍のインクが乾燥により固着した場合、インクが正常に吐出されている場合と比較して周波数が極めて低くなるとともに、残留振動Voutが過減衰となる特徴的な残留振動Voutの波形が得られる。すなわち、吐出部600に乾燥増粘を原因とする吐出異常が生じた場合の残留振動Voutは、吐出部600が正常な場合の残留振動Voutに対して、周波数、及び位相が変化する。
【0110】
次に、吐出異常の原因のさらにもう1つである紙粉付着について検討する。
図18は、紙粉付着が生じた場合のノズル651の近傍を概念的に示す図である。
図18に示すように、ノズル651の近傍に紙粉Bが付着した場合、キャビティー631の内部から紙粉Bを介してインクが染み出すとともに、ノズル651からのインクの吐出が困難となる。これにより、ノズル651の近傍であってノズル651からインクが吐出される出口近傍に紙粉Bが付着している場合、吐出部600には、正常時よりも多くのインクが貯留されることとなり、イナータンスmが増加するものと考えられる。さらに、ノズル651の出口近傍に付着した紙粉Bによって音響抵抗rも増大するものと考えられる。そこで、
図13に示すインクが正常に吐出された場合の計算値に対して、イナータンスm、音響抵抗rを共に大きく設定した計算モデルに基づき演算を行うと、当該演算による計算値と、ノズル651の近傍のインクに紙粉付着が生じた場合の残留振動Voutの実験値とが概ね一致する
図19のような結果が得られた。
【0111】
図19は、紙粉付着時の振動板621で生じる残留振動Voutの実験値と計算値との関係を示す図である。
図13及び
図19に示すように、ノズル651の出口近傍に紙粉Bが付着した場合、インクが正常に吐出されている場合と比較して周波数が低くなる特徴的な残留振動Voutの波形が得られる。すなわち、吐出部600に紙粉付着を原因とする吐出異常が生じた場合の残留振動Voutは、吐出部600が正常な場合の残留振動Voutに対して、周波数が変化する。ここで、
図17に示す吐出部600に乾燥増粘が生じた場合の残留振動Voutの周波数と、
図19に示す吐出部600に紙粉付着が生じた場合の残留振動Voutの周波数とを比較すると、いずれも正常にインクが吐出された場合と比較して減衰振動の周波数が低くなっているが、紙粉付着の場合の残留振動Voutの周波数が、乾燥増粘の場合の残留振動Voutの周波数よりも高いことが分かる。すなわち、吐出異常の原因が紙粉付着であるのか乾燥増粘であるのかは、残留振動Voutの周波数に基づいて推定することができる。
【0112】
以上のように、吐出部600に吐出異常が生じているか否か、及び吐出部600に生じた吐出異常の原因は、振動板621に生じた残留振動Voutの周波数、周期、及び位相に基づいて特定することができる。
【0113】
残留振動判定回路110は、残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTに基づいて算出される残留振動Voutの周波数、周期、及び位相に基づいて、吐出部600に吐出異常が生じているか否かを判定するとともに、吐出部600に吐出異常が生じている場合には、当該吐出異常の原因が気泡混入、乾燥増粘、及び紙粉付着のいずれであるかを推定する。そして、残留振動判定回路110は、吐出部600に吐出異常が生じているか否かの判定結果、及び吐出異常の原因を示す判定結果信号Rsを生成し、制御回路100に出力する。
【0114】
以上のように本実施形態における液体吐出装置1では、検出回路52が、駆動信号Vinが圧電素子60に供給された後に吐出部600で生じる残留振動Voutに基づいて吐出部600の状態を検出し、残留振動判定回路110は、検出回路52が出力する吐出部600の状態の検出結果を示す残留振動信号NVTに基づいて吐出部600の異常の有無を判定する。
【0115】
そして、制御回路100は、入力される判定結果信号Rsによって伝搬された吐出部600に異常が生じているか否かを示す情報、及び吐出異常の原因を、記録回路120に記録するためのメモリー制御信号Mcを生成し、記録回路120に出力する。これにより、M個の吐出部600のそれぞれに対応する吐出異常が生じているか否かの情報、及び吐出異常の原因が記録回路120に記録される。また、制御回路100は、読出情報Rdとして記録回路120に記録されている吐出部600に吐出異常が生じているか否かの情報を適宜読み出すことで、直近の情報に基づいてプリントヘッド35を駆動することができる。
【0116】
これにより、制御回路100は、吐出異常が生じている吐出部600に対して、補完処理を実行し、また、吐出異常から回復した吐出部600に対して補完処理を停止することが可能となり、その結果、M個の吐出部600のいずれかに吐出異常が生じた場合であっても、媒体Pに形成される画像の品質が低下するおそれが低減するとともに、吐出異常が生じた吐出部600がメンテナンス処理等によって回復した場合には、補完処理を停止することで、媒体Pに形成される画像の品質を向上させることができる。
【0117】
ここで、吐出部600の状態を示す残留振動Voutを検出する検出回路52が状態検出部の一例であり、検出回路52が出力する吐出部600の状態の検出結果であって、残留振動Voutに基づく残留振動信号NVTに基づいて吐出部600の異常の有無を判定する残留振動判定回路110が判定部の一例であり、残留振動判定回路110の判定結果を示す判定結果信号Rsに含まれる吐出部600に吐出異常が生じているか否かの情報を記録する記録回路120が記録部の一例である。
【0118】
ここで、本実施形態における液体吐出装置1では、駆動信号Vinが圧電素子60に供給された後に生じる残留振動Voutに基づいて吐出部600における吐出異常の有無を判定しているが、吐出部600に吐出異常が生じているか否かの判定方法は、残留振動Voutを用いた手法に限るものではない。吐出部600に吐出異常が生じているか否かの判定方法としては、例えば、媒体Pに形成されたパターンの濃度の差を光学式センサーでチェックし、当該チェック結果に基づいて吐出異常が生じているノズルを特定する所謂反射型光学式や、対向させた発光部と受光部との間を透過するインク滴に光を照射し、インク滴が通過する際の光量の変化に基づいて吐出異常が生じているノズルを特定する所謂透過型光学式等の既知の各種方法をもちいることができる。
【0119】
しかしながら、反射型光学式や透過型光学式を用いた場合、専用のセンサーなどの構成を備える必要があり、そのため、液体吐出装置1の大型化が懸念される。このような問題に対して、本実施形態に示すような残留振動Voutに基づいて吐出部600における吐出異常の有無を判定する手法は、液体吐出装置1に専用のセンサーなどの新たな構成を追加する必要がなく、それ故に、液体吐出装置1が大型化するおそれが低減し、さらに、吐出部600が媒体Pにインクを吐出する吐出周期に相当する単位動作期間Tu毎に吐出部600の状態を検出することができ検査期間を短くすることができるとの有利な効果を奏する。
【0120】
6.吐出部の温度と制御回路の動作
以上のように構成された液体吐出装置1において、制御回路100は、集積回路200が有する温度検出回路250が出力する温度情報信号THに基づいて、プリントヘッド35の制御状態を変更する。具体的には、制御回路100は、温度情報信号THにより規定される温度がインクの吐出が可能な吐出温度範囲内であるか否かを判定するとともに、吐出部600における吐出異常の有無を検査する検査温度範囲内であるか否かを判定する。そして、制御回路100は、温度情報信号THで規定される温度が吐出温度範囲内であるか否かに応じて、吐出部600からのインクの吐出を制限するようにプリントヘッド35の動作を制御し、また、温度情報信号THで規定される温度が検査温度範囲内であるか否かに応じて、吐出部600に吐出異常が生じているか否かの検査の実行を制限する。すなわち、吐出温度範囲は、プリントヘッド35からのインクの吐出が実行される温度範囲に相当し、検査温度範囲は、吐出部600からのインクの吐出状態の検査が実行される温度範囲に相当する。
【0121】
まず、温度情報信号THにより規定される温度が吐出温度範囲内であるか否かに基づく制御回路100の動作について説明する。制御回路100は、集積回路200から入力される温度情報信号THで規定される温度が吐出温度範囲内であるか否かを判定する。そして、制御回路100は、温度情報信号THで規定される温度が吐出温度範囲内であると判定した場合、プリントヘッド35及び吐出部600の温度がインクを正常に吐出できる温度範囲であると判断し、吐出部600からインクが吐出されるようにプリントヘッド35を制御する。具体的には、制御回路100は、入力される温度情報信号THに基づく温度が吐出温度範囲内である場合、プリントヘッド35の動作を制御するためのクロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び切替制御信号Swを生成し、プリントヘッド35に出力する。これにより、プリントヘッド35が有する吐出部600から所定の量のインクが吐出される。
【0122】
一方、制御回路100は、温度情報信号THで規定される温度が吐出温度範囲内で無いと判定した場合、プリントヘッド35及び吐出部600の温度がインクの正常な吐出が困難な温度範囲であると判断し、吐出部600からインクが吐出されないようにプリントヘッド35を制御する。具体的には、制御回路100は、入力される温度情報信号THに基づく温度が吐出温度範囲内で無い場合、クロック信号SCK、印刷データ信号SI、ラッチ信号LAT、及びチェンジ信号CHの少なくともいずれかのプリントヘッド35への供給を停止する。これより、吐出部600が有する圧電素子60への駆動信号Vinの供給が停止される。その結果、プリントヘッド35が有する吐出部600からインクは吐出されない。
【0123】
温度が吐出温度範囲内で無い場合、プリントヘッド35及び吐出部600を構成する部品の温度特性や、プリントヘッド35及び吐出部600に貯留されるインク物性の温度変化に起因して、プリントヘッド35及び吐出部600におけるインクの吐出精度が低下するおそれがある。そして、吐出部600から吐出されるインクの吐出精度が低下すると、媒体Pに形成される画像の品質も低下し、その結果、液体吐出装置1における画像品質が使用者の要求する画像品質を満たせないとの問題が生じるおそれがある。
【0124】
このような問題に対して、制御回路100が、プリントヘッド35及び吐出部600の温度に応じた温度情報信号THに基づいてプリントヘッド35の制御条件を変更し、また、プリントヘッド35の駆動の一部に制限を課すことで、プリントヘッド35及び吐出部600を構成する部品の温度特性や、プリントヘッド35及び吐出部600に貯留されるインク物性の温度変化に起因して媒体Pに形成される画像の品質が低下するおそれが低減される。
【0125】
ここで、吐出温度範囲とは、液体吐出装置1が安全かつ正常に動作できる温度範囲であって、具体的には、媒体Pに形成される画像の品質が、使用者の要求する品質を満足できる温度範囲である。このような吐出温度範囲は、例えば、動作保証温度範囲や使用温度範囲などと称される場合もある。
【0126】
次に、検査温度範囲について説明する。検査温度範囲とは、液体吐出装置1において吐出部600からのインクの吐出状態の検査の実行が可能な温度範囲であって、制御回路100は、温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内である場合に吐出部600の吐出状態を検査の実行が可能であって、温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合には吐出部600の吐出状態の検査を実行しない。
【0127】
具体的には、制御回路100は、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内である場合に、残留振動判定回路110から判定結果信号Rsが入力されると、判定結果信号Rsにより規定される吐出部600の状態を記録回路120に記録する。そして、制御回路100は、入力される判定結果信号Rsと、記録回路120に記録されている吐出部600の状態を示す情報とに基づいて、プリントヘッド35の動作を制御する。
【0128】
一方で、制御回路100は、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合に、残留振動判定回路110から判定結果信号Rsが入力された場合であっても、入力される判定結果信号Rsに依らず、記録回路120に記録されている吐出部600の状態を示す情報に基づいて、プリントヘッド35の動作を制御する。
【0129】
温度が検査温度範囲内で無い場合、プリントヘッド35及び吐出部600を構成する部品の温度特性や、プリントヘッド35及び吐出部600に貯留されるインク物性の温度変化に起因して、残留振動Voutの波形が変化する。このような残留振動Voutの波形の変化によって、残留振動判定回路110は、吐出部600に異常が生じていないにもかかわらず、吐出部600に吐出異常が生じていると誤って判断するおそれがあるとともに、吐出部600に異常が生じているにもかかわらず、吐出部600に吐出異常が生じていないと誤って判断するおそれがある。すなわち、温度が検査温度範囲内で無い場合に生じた残留振動Voutに基づいて残留振動判定回路110が吐出部600の状態を検出した場合、吐出部600の状態を誤って判断するおそれある。
【0130】
このような残留振動判定回路110における誤った判断によって、本来、正常なインクの吐出が可能な吐出部600に対して、吐出異常が生じている吐出部600とする誤った判断がなされた場合、本来、媒体Pに形成され得る画像と比較して、媒体Pに形成される画像の品質が低下する。また、本来正常なインクの吐出が不可能な吐出部600に対して、吐出異常が生じていない吐出部600であるとする誤った判断がなされた場合、吐出異常が生じている吐出部600に対応する画素に画像補完等の処理を実行することができず、その結果、媒体Pに形成される画像の品質が低下する。
【0131】
すなわち、検査温度範囲は、吐出部600の状態を精度良く検出可能な温度範囲に相当し、あらかじめ規定された検査温度範囲内において吐出部600の異常の有無が判定されることで、残留振動判定回路110が、実際の吐出部600の状態を誤って判断するおそれが低減する。その結果、制御回路100が吐出部600の状態に応じた最適な条件で、プリントヘッド35を駆動することができ、媒体Pに形成される画像品質が低下するおそれが低減される。
【0132】
ここで、検査温度範囲の少なくとも一部は、吐出温度範囲の少なくとも一部と重なる範囲であることが好ましく、さらに、検査温度範囲の全てが動作温度範囲に含まれていることがより好ましい。これにより、吐出部600が媒体Pに対してインクを吐出する印刷処理と、吐出部600に異常が生じているか否かの検出とを並行して実行することができる。すなわち、吐出部600の状態を検査するための個別の動作状態を規定する必要がなく、印刷処理の高速化が可能となる。
【0133】
ここで、以下の説明では、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内の場合、制御回路100は、残留振動判定回路110から入力される判定結果信号Rsに応じた情報を記録回路120に記録するとともに、判定結果信号Rs、及び記録回路120に記録されている情報に基づいてプリントヘッド35の動作を制御し、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合、制御回路100は、残留振動判定回路110から入力される判定結果信号Rsに依らず、記録回路120に記録されている情報に基づいてプリントヘッド35の動作を制御するとして説明を行うが、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内の場合、検出回路52が、残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを残留振動判定回路110に出力し、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合、検出回路52は、残留振動Voutに応じた残留振動信号NVTを生成しなくてもよい。すなわち、検出回路52は、温度検出回路250が検出する温度が検査温度範囲の範囲外である場合に、吐出部600の状態を検出しなくてもよい。この場合であっても後述する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0134】
また、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内の場合、残留振動判定回路110が、検出回路52が出力する残留振動信号NVTに基づく判定結果信号Rsを制御回路100に出力し、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合、残留振動判定回路110は、判定結果信号Rsを制御回路100に出力しなくてもよい。すなわち、残留振動判定回路110は、温度検出回路250が検出する温度が検査温度範囲の範囲外である場合に、吐出部600の異常の有無を判定しなくてもよい。この場合であっても後述する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0135】
以上のように、本実施形態における液体吐出装置1では、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内の場合に、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出を実施し、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合は、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出を実施しない。したがって、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内の場合に記録回路120の記録されている吐出部600の状態を示す情報が更新され条件もまた、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内であるのか、検査温度範囲内で無いのかによって異なる。
【0136】
そこで、制御回路100に入力される温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内である場合、及び検査温度範囲内で無い場合のそれぞれにおいて、記録回路120に記録されている吐出部状態情報の更新条件について
図20及び
図21を用いて説明する。なお、以下の説明では、記録回路120に記録される吐出部600の状態を示す情報を吐出部状態情報と称する。
【0137】
図20は、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内である場合における吐出部状態情報の更新条件の一例を示す図である。ここで、液体吐出装置1が一度もインクの吐出動作を実行していない場合、吐出部600は正常であるものと推定される。すなわち、記録回路120には、吐出部状態情報の初期状態として、吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとする情報が記録されている。
【0138】
まず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に吐出異常が生じておらず、それ故に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0139】
図20に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は正常な状態を保っていると判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0140】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600には吐出異常が生じていると判定された場合、制御回路100は、対応する吐出部600に異常が生じたと判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は異常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0141】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は、正常な状態を保っていると推測する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0142】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に吐出異常が生じており、それ故に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0143】
図20に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は吐出異常から回復したと判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0144】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600には吐出異常が生じていると判定された場合、制御回路100は、対応する吐出部600に生じた吐出異常は継続していると判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は異常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0145】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、吐出部600が有するノズル651は、吐出異常から回復したものと推定する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0146】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0147】
図20に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、制御回路100は、メンテナンス処理によって、対応する吐出部600が有するノズル651は吐出異常から回復したと判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0148】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600には吐出異常が生じていると判定された場合、制御回路100は、吐出部600に生じた異常は、メンテナンスユニット90によるメンテナンス処理による回復が困難な故障が生じていると判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は故障ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。ここで、制御回路100は、吐出異常が生じているノズル651に対して、複数回、メンテナンス処理を実行した場合であっても吐出異常が解消しない場合に故障ノズルであると判断し、対応する吐出部600に含まれるノズル651は故障ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させてもよい。
【0149】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は、回復処理ノズルを継続していると判断する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0150】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0151】
図20に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651に生じていた故障は改善したと判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。ここで、制御回路100は、故障であると判断されたノズル651が複数回正常ノズルであると判断された場合に、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させてもよい。
【0152】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600には吐出異常が生じていると判定された場合、制御回路100は、吐出部600は故障状態を継続していると判断する。そして、制御回路100は、状態検出のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は故障ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0153】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、吐出部600が故障状態を継続していると判断する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は故障ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0154】
次に、制御回路100に入力される温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合において、記録回路120に記録されている吐出部状態情報の更新条件について
図21を用いて説明する。
図21は、温度情報信号THに基づく温度が検査温度範囲内で無い場合における吐出部状態情報の更新条件の一例を示す図である。
【0155】
まず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に吐出異常が生じておらず、それ故に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0156】
図21に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、及び残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていると判定された場合の双方において、制御回路100は、残留振動判定回路110における判定結果に依らず、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判断する。すなわち、温度情報信号THが検査温度範囲外である場合において、制御回路100は、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出の結果に依らず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報を更新しない。
【0157】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が正常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は、正常な状態を保っていると推測する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0158】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に吐出異常が生じており、それ故に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0159】
図21に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、及び残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていると判定された場合の双方において、制御回路100は、残留振動判定回路110における判定結果に依らず、対応する吐出部600に吐出異常が生じていると判断する。すなわち、温度情報信号THが検査温度範囲外である場合において、制御回路100は、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出の結果に依らず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報を更新しない。
【0160】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が異常ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は、吐出異常から回復したものと推定する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0161】
すなわち、残留振動判定回路110が吐出部600に異常が生じていると判定したことにより記録回路120に判定結果として吐出部600に吐出異常が生じていることを示す異常情報が記録されている場合であって、且つ、温度検出回路250において、検出回路52における吐出部600の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、メンテナンスユニット90がメンテナンス処理を実行すると、記録回路120に記録されている吐出部600に吐出異常が生じていることを示す異常ノズルの情報が、初期状態である吐出部600に吐出異常が生じていない正常ノズルを示す情報にリセットされる。
【0162】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0163】
図21に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていない判定された場合、及び残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていると判定された場合の双方において、制御回路100は、残留振動判定回路110における判定結果に依らず、対応する吐出部600に含まれるノズル651は、回復処理ノズルであると判断する。すなわち、温度情報信号THが検査温度範囲外である場合において、制御回路100は、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出の結果に依らず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報を更新しない。
【0164】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が回復処理ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、対応する吐出部600が有するノズル651は、吐出異常が生じていない正常ノズルであると推定する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は正常ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0165】
次に、記録回路120に記録されている吐出部状態情報が更新され得るイベントが実行される前において、記録回路120には、吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合について説明する。
【0166】
図21に示すように、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出のイベントが実行され、残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていないと判定された場合、及び残留振動判定回路110において、対応する吐出部600に吐出異常が生じていると判定された場合の双方において、制御回路100は、残留振動判定回路110における判定結果に依らず、対応する吐出部600が有するノズル651には、故障が生じていると判断する。すなわち、温度情報信号THが検査温度範囲外である場合において、制御回路100は、残留振動Voutに基づく吐出部600の状態検出の結果に依らず、記録回路120に記録されている吐出部状態情報を更新しない。
【0167】
また、記録回路120に吐出部600に対応するノズル651が故障ノズルであるとの吐出部状態情報が記録されている場合において、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行されるイベントが実行された場合、制御回路100は、制御回路100によって対応する吐出部600にメンテナンス処理が実行された場合であっても、故障は改善せず、したがって、対応する吐出部600が有するノズル651は、故障ノズルであると推測する。そして、制御回路100は、メンテナンス処理のイベント実行後の記録情報として、対応する吐出部600に含まれるノズル651は故障ノズルであるとの吐出部状態情報を記録回路120に記録させる。
【0168】
すなわち、記録回路120に吐出部600が有するノズル651が故障ノズルであることを示す情報が記録されている場合であって、且つ、温度検出回路250において、検出回路52における吐出部600の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、メンテナンスユニット90がメンテナンス処理を実行した場合であっても、記録回路120に記録されている故障ノズルを示す情報をリセットしない。
【0169】
7.作用効果
以上のように本実施形態における液体吐出装置1において制御回路100は、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が、検査温度範囲内である場合、圧電素子60に駆動信号Vinが供給された後に生じる残留振動Voutに基づいて、残留振動判定回路110によって判定された吐出部600の状態が正常であるのか異常であるのかの情報を記録回路120に記録させ、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が、検査温度範囲内で無い場合、残留振動Voutに基づく吐出部600が正常であるのか異常であるのかの情報を記録回路120に記録させない。すなわち、制御回路100は、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合、残留振動Voutに基づいて吐出部600が正常であるのか異常であるのかの判断を実行しない。
【0170】
これにより、温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無いが故に、波形精度が低下した残留振動Voutに基づいて判断された、誤った吐出部600の状態の情報が記録回路120に記録されるおそれが低減する。その結果、誤った吐出部600の状態に基づいてプリントヘッド35が制御されるおそれが低減し、液体吐出装置1において媒体Pに形成される画像の品質が低下するおそれが低減する。
【0171】
さらに、本実施形態における液体吐出装置1において制御回路100は、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合に、吐出異常が生じていると判定されている吐出部600に対してメンテナンスユニット90によるメンテナンス処理が実行された場合、当該メンテナンス処理が実行された吐出部600に対応して記録回路120に記録されている吐出部600の状態を示す情報を、インクの正常な吐出が可能な正常ノズルであると更新する。吐出異常が生じている吐出部600にメンテナンス処理が実行された場合、当該メンテナンス処理によって、対応する吐出部600は吐出異常の状態から回復したものと推定できる。このような吐出異常から回復したと推定できる吐出部600に対応して記録回路120に記録されている情報を、正常ノズルであると更新することで、残留振動Voutに基づく吐出部600が正常であるのか異常であるのかを判断が実行されない検査温度範囲内で無い場合であっても、推定される吐出部600の状態に応じてプリントヘッド35を制御することが可能となる。これにより、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合であっても推定される吐出部600の状態に応じてプリントヘッド35を制御することが可能となり、液体吐出装置1において媒体Pに形成される画像の品質が低下するおそれがさらに低減する。
【0172】
さらに、本実施形態における液体吐出装置1では、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合に、故障が生じていると判定されている吐出部600に対して、メンテナンスユニット90によるメンテナンス処理が実行された場合であっても、当該吐出部600に対応して記録回路120に記録されている吐出部600の状態を示す情報を更新しない。すなわち、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が検査温度範囲内で無い場合に、故障が生じていると判定されている吐出部600に対して、メンテナンスユニット90によるメンテナンス処理が実行された場合、当該メンテナンス処理が実行された吐出部600に対応して記録回路120に記録されている吐出部600の状態をリセットしない。故障が生じている吐出部600は、メンテナンス処理の実行により回復し難く、そのため、故障が生じている吐出部600にメンテナンス処理が実行されとして、吐出部600は、故障の状態を継続し正常な状態には回復していないものと推定される。このような故障状態を継続している推定できる吐出部600に対応して記録回路120に記録されている情報を更新しないことで、温度検出回路250が出力する温度情報信号THにより規定される温度が
検査温度範囲内で無い場合であっても推定される吐出部600の状態に応じてプリントヘッド35を制御することが可能となり、液体吐出装置1において媒体Pに形成される画像の品質が低下するおそれがさらに低減する。
【0173】
以上、実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、上記の実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0174】
本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0175】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0176】
液体吐出装置の一態様は、
液体を吐出する吐出部と、
前記吐出部の状態を検出する状態検出部と、
前記状態検出部の検出結果に基づいて前記吐出部の異常の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を記録する記録部と、
前記吐出部の温度を検出する温度検出部と、
前記吐出部に対してメンテナンス処理を実行するメンテナンス部と、
を備え、
前記判定部が前記吐出部に異常が生じていると判定したことにより前記記録部に前記判定結果として前記吐出部の異常を示す異常情報が記録されている場合であって、且つ、前記温度検出部において、前記状態検出部における前記吐出部の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、前記メンテナンス部が前記メンテナンス処理を実行すると、前記記録部に記録されている前記異常情報がリセットされる。
【0177】
この液体吐出装置によれば、記録部に判定結果として吐出部の異常を示す異常情報が記録されている場合に、温度検出部において状態検出部における吐出部の状態を検出する検査温度の範囲外の温度が検出された場合であっても、メンテナンス部がメンテナンス処理を実行した場合に、記録部に記録されている異常情報がリセットされる。すなわち、メンテナンス部においてメンテナンス処理が実行されることにより、吐出部が異常状態から回復されたことが推測できるが故に、状態検出部における吐出部の状態を検出できない温度範囲であっても、メンテナンス部においてメンテナンス処理が実行されたことを契機に、吐出部が正常であると判定することができる。これにより、吐出部の異常を検出する検査温度の範囲外において異常が生じていた吐出部の状態が回復したと見込まれる場合に、吐出部は異常であると継続して判断するおそれが低減する。その結果、吐出部の異常を検出する検査温度の範囲外においても吐出部の状態に応じた液体の吐出が可能となり、よって、媒体に形成される画像品質が低下するおそれが低減する。
【0178】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記吐出部は、駆動することで液体を吐出する圧電素子を含み、
前記状態検出部は、前記圧電素子が駆動した後に前記吐出部に生じる残留振動に基づいて前記吐出部の状態を検出し、
前記判定部は、前記状態検出部が出力する前記残留振動に応じた残留振動信号に基づいて前記吐出部の異常の有無を判定してもよい。
【0179】
この液体吐出装置によれば、状態検出部が、吐出部に含まれる圧電素子が駆動した後に生じる残留振動に基づいて吐出部の異常を検出し、判定部が、当該残留振動に基づいて吐出部の異常の有無を判定することで、吐出部の状態を判定するためのセンサー等の構成を備える必要がなく、液体吐出装置が大型化するおそれが低減する。
【0180】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記メンテナンス処理には、前記吐出部から液体が吐出される吐出面を拭き取るワイピング処理が含まれてもよい。
【0181】
この液体吐出装置によれば、メンテナンス処理にワイピング処理が含まれることで、吐出部に紙粉が付着することに起因する吐出異常が生じた場合において、当該ワイピング処理によって紙粉を拭き取れるが故に、吐出部を効果的に当該吐出異常から回復させることができる。
【0182】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記メンテナンス処理には、前記吐出部に貯留される液体の粘度を回復させるフラッシング処理が含まれてもよい。
【0183】
この液体吐出装置によれば、メンテナンス処理にフラッシング処理が含まれることで、吐出部のノズル近傍で液体が乾燥し、また増粘した場合であっても、当該フラッシング処理によって吐出部に貯留される液体の粘度を回復できるが故に、吐出部を効果的に当該吐出異常から回復させることができる。
【0184】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記吐出部に故障が生じた故障状態である場合、前記記録部に前記異常情報が記録されている場合であって、且つ、前記温度検出部において、前記状態検出部における前記吐出部の状態を検出する前記検査温度の範囲外の温度が検出された場合に、前記メンテナンス部が前記メンテナンス処理を実行した場合であっても、前記記録部に記録されている前記異常情報をリセットしなくてもよい。
【0185】
吐出部に故障が生じている場合、メンテナンス処理によって回復することが困難であるが故に故障が生じた吐出部に対して、メンテナンス処理が実行された場合であっても、吐出部の故障状態は解消しないものと推測される。すなわち、この液体吐出装置によれば、メンテナンス処理を実行した場合であっても異常が回復してないと見込まれる吐出部に対して、吐出部は正常であると誤って判断するおそれが低減する。これにより、吐出部の異常を検出する検査温度の範囲外において吐出部が正常であると誤って判断するおそれが低減する。その結果、吐出部の異常を検出する検査温度の範囲外においても吐出部の状態に応じた液体の吐出が可能となり、よって、媒体に形成される画像品質が低下するおそれが低減する。
【0186】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記状態検出部は、前記温度検出部が検出する温度が前記検査温度の範囲外である場合に、前記吐出部の状態を検出しなくてもよい。
【0187】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記判定部は、前記温度検出部が検出する温度が前記検査温度の範囲外である場合に、前記吐出部の異常の有無を判定しなくてもよい。
【符号の説明】
【0188】
1…液体吐出装置、3…移動体、4…印刷部、7…給紙部、10…制御ユニット、30…ヘッドユニット、31…インクカートリッジ、32…キャリッジ、35…プリントヘッド、41…キャリッジモーター、42…往復動機構、43…タイミングベルト、44…キャリッジガイド軸、50…駆動信号出力回路、51…選択制御回路、52…検出回路、53…切替回路、57…波形整形部、58…周期信号生成部、60…圧電素子、71…給紙モーター、72…給紙ローラー、72a…駆動ローラー、72b…従動ローラー、81…トレイ、82…排紙口、83…操作パネル、90…メンテナンスユニット、100…制御回路、110…残留振動判定回路、120…記録回路、200…集積回路、250…温度検出回路、600…吐出部、601…圧電体、611,612…電極、621…振動板、631…キャビティー、632…ノズルプレート、641…リザーバー、651…ノズル、661…インク供給口、A…気泡、B…紙粉、DC…デコーダー、LT…ラッチ回路、P…媒体、SR…シフトレジスター、TGa,TGb,TGc…トランスミッションゲート、U…切替スイッチ