(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】切削方法
(51)【国際特許分類】
B23B 25/06 20060101AFI20241112BHJP
B23B 29/12 20060101ALI20241112BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20241112BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20241112BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B23B25/06
B23B29/12 Z
B23Q17/20 A
B23B27/00 D
G01B7/00 101F
(21)【出願番号】P 2021052635
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】今井 康晴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀史
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/151960(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/20;
G01B 7/00;
B23B 25/06,27/00,29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
距離センサが取り付けられる工具本体を用いる加工方法であって、
工具本体に設けられる切刃の刃先を基準とする刃先座標と、前記距離センサの
先端面に位置する基準点を基準とするセンサ座標と、をそれぞれ設定する座標設定工程と、
前記刃先座標を用いて加工面を形成する加工工程と、
前記センサ座標を用いて前記加工面の寸法の測定を行う測定工程と、を有する、切削方法。
【請求項2】
前記加工工程における前記加工面の目標寸法と前記測定工程において測定した測定寸法とを比較して差分を算出する比較工程と、
前記差分に応じて前記加工面の追加工を行う追加工工程と、を有する、請求項1に記載の切削方法。
【請求項3】
前記工具本体には、測定方向の異なる複数の前記距離センサが取り付けられ、
前記座標設定工程において前記センサ座標を前記距離センサ毎に設定する、請求項1又は2に記載の切削方法。
【請求項4】
前記座標設定工程は、接触式センサを用いて、前記切刃の前記刃先および前記距離センサの
前記先端面をそれぞれ接触することで行う、
請求項1~3の何れか一項に記載の切削方法。
【請求項5】
前記距離センサは、渦電流センサであり、
前記渦電流センサを較正する較正工程を有し、
前記較正工程は、
測定機器を用いて前記切刃によって加工した基準加工面を寸法測定する基準値測定工程と、
前記センサ座標を基準として前記距離センサを用いて前記基準加工面からの距離を変えた複数の測定点を測定し、それぞれの前記測定点に対応する前記距離センサの出力値を記憶する出力値測定工程と、
それぞれの前記測定点における前記基準加工面までの距離と前記出力値との関係を表す較正式を算出する算出工程と、を有し、
前記測定工程は、前記距離センサの前記出力値を前記較正式に代入することで前記加工面の寸法を算出する、
請求項1~4の何れか一項に記載の切削方法。
【請求項6】
前記較正式は、xを前記距離センサの前記出力値、yを前記加工面までの距離、a、b、c、d、eを定数として、以下の式で表される、
請求項5に記載の切削方法。
y=ax
4+bx
3+cx
2+dx+e
【請求項7】
前記算出工程において、加工対象の材料が鉄系の材料である場合に、定数a、b、cに予め0を代入する、
請求項6に記載の切削方法。
【請求項8】
前記工具本体には、前記距離センサによって測定される測定データを外部の制御装置に送信する通信部が設けられ、
前記制御装置が、前記算出工程を行い、算出した前記較正式を記憶する、請求項5~7の何れか一項に記載の切削方法。
【請求項9】
前記加工面に切削油又はクーラントを供給しながら前記加工工程を行う、請求項1~8の何れか一項に記載の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能を付与された切削加工用の工具の開発が進められている。特許文献1には、光学式の距離センサを備える切削用の工具が開示されている。工具が距離センサを有することで、工程途中での被加工物の寸法測定を行うことができ、測定に要する時間を短縮し効率的な加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削工具では、切刃の刃先は加工時間に応じて徐々に摩耗する。このため、切刃の摩耗が進んだ後に切刃を基準とする座標を再設定すると、距離センサの測定値に影響がでる虞があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、距離センサを有する切削工具を用いた切削方法において、寸法測定の精度を高めることができる切削方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の切削方法は、距離センサが取り付けられる工具本体を用いる加工方法であって、工具本体に設けられる切刃の刃先を基準とする刃先座標と、前記距離センサの先端面に位置する基準点を基準とするセンサ座標と、をそれぞれ設定する座標設定工程と、前記刃先座標を用いて加工面を形成する加工工程と、前記センサ座標を用いて前記加工面の寸法の測定を行う測定工程と、を有する。
【0007】
上述の構成によれば、切刃を用いて加工した加工面を距離センサにより測定することができる。このため、旋削工具が加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
さらに、上述の構成によれば、刃先座標とセンサ座標とが個別に設定されるため、寸法測定の結果が、切刃および距離センサの取り付け精度に影響を受け難い。加えて、距離センサの測定精度が切刃の刃先と距離センサとの相対的な位置に影響を受け難いため、切刃の摩耗が進んだ場合であっても、高精度な寸法測定を行うことができる。
【0008】
上述の切削方法において、前記加工工程における前記加工面の目標寸法と前記測定工程において測定した測定寸法とを比較して差分を算出する比較工程と、前記差分に応じて前記加工面の追加工を行う追加工工程と、を有する、構成としてもよい。
【0009】
上述の構成によれば、比較工程における差分を基に、旋削工具を目標位置より被削材側に近づけて追加工工程を行うことで、加工面の寸法精度を高めることができる。また、加工工程と追加工工程の間に行う測定工程は、工具本体に取り付けられた距離センサを用いて行う。このため、加工工程から追加工工程に至るまでのタクトタイムを短くすることができる。
【0010】
上述の切削方法において、前記工具本体には、測定方向の異なる複数の前記距離センサが取り付けられ、前記座標設定工程において前記センサ座標を前記距離センサ毎に設定する、構成としてもよい。
【0011】
上述の構成によれば、測定方向の異なる複数の距離センサを用いることで、測定工程において被削材の向きを変えることなく複数箇所の寸法測定を行うことができ、測定工程に要する時間をさらに短くすることができる。さらに、座標設定工程では、距離センサ毎にセンサ座標が設定される。このため、複数の距離センサに対し1つのセンサ座標が設定される場合と比較して、距離センサの測定結果がそれぞれの距離センサの取り付け精度に影響を受け難く、高精度な寸法測定を行うことができる。
【0012】
上述の切削方法において、前記座標設定工程は、接触式センサを用いて、前記切刃の前記刃先および前記距離センサの先端面をそれぞれ接触することで行う、構成としてもよい。
【0013】
上述の構成によれば、座標設定工程において接触式センサを用いることで、使用環境などに影響されることなく距離センサの位置情報を確実に得やすい。また、接触式センサを用いることで、単一のセンサを用いて切刃の刃先および距離センサの先端面の位置情報を得ることができる。このため、座標設定工程に要する時間を節約できる。
【0014】
上述の切削方法において、前記距離センサは、渦電流センサであり、前記渦電流センサを較正する較正工程を有し、前記較正工程は、測定機器を用いて前記切刃によって加工した基準加工面を寸法測定する基準値測定工程と、前記センサ座標を基準として前記距離センサを用いて前記基準加工面からの距離を変えた複数の測定点を測定し、それぞれの前記測定点に対応する前記距離センサの出力値を記憶する出力値測定工程と、それぞれの前記測定点における前記基準加工面までの距離と前記出力値との関係を表す較正式を算出する算出工程と、を有し、前記測定工程は、前記距離センサの前記出力値を前記較正式に代入することで前記加工面の寸法を算出する、構成としてもよい。
【0015】
上述の構成によれば、距離センサとして渦電流センサを用いるため、ウェット加工を行う場合であっても、正確な測定を行うことができる。しかしながら、渦電流センサを用いる場合、加工対象の材料によってセンサの出力値が変わるため、較正が必要となる。上述の構成によれば、切刃によって形成した基準加工面を用いて構成を行うため、較正用のジグなどの必要としない。しかも、加工対象物を用いて較正を行うことができるため、ジグ等を用いる場合と比較して、より正確な較正式を算出できるばかりでなく、ジグの取り付け取り外しに要する時間を節約することができる。
【0016】
上述の切削方法において、前記較正式は、xを前記距離センサの前記出力値、yを前記加工面までの距離、a、b、c、d、eを定数として、以下の式で表される、構成としてもよい。
y=ax4+bx3+cx2+dx+e
【0017】
上述の構成によれば、様々な材料に対して、構成を行うことができる。
【0018】
上述の切削方法において、前記算出工程において、加工対象の材料が鉄系の材料である場合に、定数a、b、cに予め0を代入する、構成としてもよい。
【0019】
上述の構成によれば、加工対象が鉄系の材料である場合に較正工程において測定する測定点の数を減らすことができる。これにより、較正精度を保ちつつ、較正工程に要する時間を短縮することができる。
【0020】
上述の切削方法において、前記工具本体には、前記距離センサによって測定される測定データを外部の制御装置に送信する通信部が設けられ、前記制御装置が、前記算出工程を行い、算出した前記較正式を記憶する、構成としてもよい。
【0021】
上述の構成によれば、較正式のデータを制御装置において蓄積および解析を行うことができる。
【0022】
上述の切削方法において、前記加工面に切削油又はクーラントを供給しながら前記加工工程を行う、構成としてもよい。
【0023】
上述の構成によれば、渦電流センサを用いるため加工工程においてウェット加工を採用した場合であっても、測定工程における寸法測定の精度を確保できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、距離センサを有する切削工具を用いた切削方法において、寸法測定の精度を高めることができる切削方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、第1実施形態の旋削工具(切削工具)の斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の旋削工具の平面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の旋削工具の正面図である。
【
図4A】
図4Aは、第1実施形態の座標設定を示す模式図である。
【
図4B】
図4Aは、第1実施形態の座標設定を示す模式図である。
【
図4C】
図4Cは、第1実施形態の座標設定を示す模式図である。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態の予備加工工程を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態の予備加工工程を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、第1実施形態の基準値測定工程を示す図である。
【
図5D】
図5Dは、第1実施形態の出力値測定工程を示す図である。
【
図5E】
図5Eは、第1実施形態の出力値測定工程を示す図である。
【
図6】
図6は、様々な材料の被削材Wに対する較正式を表すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、第1実施形態の加工工程を示す模式図である。
【
図7B】
図7Bは、第1実施形態の加工工程を示す模式図である。
【
図7C】
図7Cは、第1実施形態の加工工程を示す模式図である。
【
図7D】
図7Dは、第1実施形態の測定工程を示す模式図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態の旋削工具の斜視図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の旋削工具と被削材の一部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る旋削工具(切削工具)1について説明する。以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0027】
<第1実施形態>
<旋削工具>
図1は、第1実施形態の旋削工具1の斜視図である。
図2は、旋削工具1の平面図である。
図3は、旋削工具1の正面図である。
【0028】
本実施形態の旋削工具1は、主軸回りに回転させられる金属材料等の被削材に対して、中ぐり加工等の旋削加工を施す。旋削工具1の基端部は、図示略の治具(刃物台)に着脱可能に保持される。また、旋削工具1を保持する治具は、図示略の旋盤等の工作機械(旋盤)に固定される。
【0029】
図1に示すように、旋削工具1は、工具本体10と、第1ブラケット15と、第2ブラケット19と、切削インサート20と、第1の距離センサ(距離センサ)31と、第2の距離センサ(距離センサ)32と、撮像装置50と、を備える。第1ブラケット15、第2ブラケット19、切削インサート20、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、および撮像装置50は、工具本体10に取り付けられる。
【0030】
工具本体10は、軸状に延びる棒体である。ここで、工具本体10の延びる方向に沿って工具軸Jを設定する。すなわち、工具本体10は、工具軸Jに沿って延びる。
なお、以下の説明において特に断りのない限り、工具軸Jに平行な方向を単に「軸方向」と呼び、工具軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼ぶ。
【0031】
工具本体10は、鋼材等の金属材料により形成されている。工具本体10は、工具軸Jを中心とする円柱状のシャンク部16と、工具本体10の先端部10aにおいてシャンク部16の外周面から工具軸Jの径方向外側に突出する突出部17と、を有する。
【0032】
シャンク部16には、後端部10b側に開口する中空孔10kが設けられる。中空孔10kには、センシングモジュール7a、無線通信モジュール(通信部)7b、電源モジュール7cが収容されている。すなわち、旋削工具1は、センシングモジュール7a、無線通信モジュール7b、および電源モジュール7cを備える。
【0033】
センシングモジュール7aは、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、および撮像装置50を制御する。無線通信モジュール7bは、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、および撮像装置50で測定されセンシングモジュール7aで収集された測定データを外部の受信装置4aに送信する。受信装置4aは、旋削工具1を制御する制御装置4に設けられる。制御装置4は、工作機械(図示略)を制御するものであってもよい。制御装置4には、記憶部4bが設けられる。記憶部4bには、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、および撮像装置50の測定データ、および後述する較正式などが記憶される。
【0034】
電源モジュール7cは、第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、撮像装置50、センシングモジュール7a、および無線通信モジュール7bに電力を供給する。電源モジュール7cは、切削加工時に工具本体10に生じる振動によって発電を行うピエゾ振動センサのような発電機からの電気をリチウムイオン電池のような二次電池に充電するものであってもよく、外部の電源から接触または非接触で供給された電気をこのような二次電池に充電するものであってもよく、あるいはマンガン乾電池やアルカリ乾電池のような一次電池であってもよい。
【0035】
シャンク部16の先端部10aには、先端面(第1保持面)10dおよび上面(第2保持面)10fが設けられる。すなわち、工具本体10は、先端面10dおよび上面10fを有する。先端面10dは、工具本体10の先端部10aに位置し先端側を向く平坦面である。また、上面10fは、シャンク部16の先端部10aを切り欠いて形成される平坦面である。上面10fは、突出部17の突出方向および工具軸Jと平行な面である。先端面10dと上面10fとは、互いに直交する。
以下の説明において、上面10fが向く方向を上側として、旋削工具1の各部を説明する。しかしながら、旋削工具1の使用時の姿勢は、この方向に限定されない。
【0036】
突出部17は、上側を向く突出上面17aを有する。突出上面17aは、突出部17の突出方向および工具軸Jと平行に延びる。突出上面17aは、上面10fと平行な面である。突出上面17aには、切削インサート20が取り付けられる台座18が設けられる。台座18は、突出部17の突出方向の先端側かつ、工具本体10の先端側の角部に位置する。すなわち、工具本体10は、先端部10aに台座18を有する。台座18は、下側および突出部17の突出方向反対側に凹む凹状である。
【0037】
切削インサート20は、固定ネジ29によって台座18に着脱可能に取り付けられる。本実施形態の切削インサート20は、厚さ方向から見て正三角形の三角柱形状である。切削インサート20は、厚さ方向を向く平面視三角形状の一対の主面と、一対の主面同士を繋ぐ側面とを有する。切削インサート20の主面と側面との間の稜線には、切刃22が設けられる。なお、切削インサート20の形状は、本実施形態に限定されない。
【0038】
図2に示すように、切刃22は、工具本体10の先端側に突出する。また、切刃22は、径方向外側に突出する。したがって、切刃22の一部は、旋削工具1の軸方向最先端および径方向最外端に位置する。
【0039】
図1に示すように、工具本体10の先端面10dには、2個の固定ネジ16a、16bによって第1ブラケット15が固定される。第1ブラケット15は、工具軸Jと直交する平面に沿う板状である。第1ブラケット15は、工具本体10の後端部10b側を向く対向面15dを有する。対向面15dは、工具本体10の先端面10dと対向し接触する。
【0040】
図2に示すように、工具本体10の先端面10dには、第1凹溝10eが設けられる。第1凹溝10eは、工具本体10の外周面10cから工具軸Jに向かって径方向に延びる。同様に、第1ブラケット15の対向面15dには、工具軸J方向から見て第1凹溝10eに重なる第2凹溝15eが設けられる。
【0041】
第1凹溝10eの断面形状は半円形である。同様に、第2凹溝15eの断面形状も半円形である。第1凹溝10eと第2凹溝15eとは、互いに重なりあって、工具軸Jの径方向に沿って延びる円形の第1孔部5Aを形成する。第1孔部5Aは、工具軸Jの径方向外側であって、切削インサート20と反対側に向かって開口する。この第1孔部5Aには、第1の距離センサ31のセンサヘッド31bが配置される。
【0042】
工具本体10には、軸方向に沿って延びる第1収容孔11が設けられる。第1収容孔11は、円形の孔である。第1収容孔11は、先端面10dに開口する。第1ブラケット15には、厚さ方向に貫通する貫通孔12が設けられる。第1ブラケット15の貫通孔12は、第1収容孔11の開口に重なる。第1収容孔11と貫通孔12とは、互いに連なって円形の第2孔部5Bを形成する。第2孔部5Bは、工具本体10の先端側に開口する。第2孔部5Bの開口は、工具軸Jを挟んで切削インサート20と反対側に位置する。第2孔部5Bには、第2の距離センサ32のセンサヘッド32bが配置される。
【0043】
図1に示すように、工具本体10の上面10fには、2個の固定ネジ16c、16dによって第2ブラケット19が固定される。第2ブラケット19の下面19fは、工具本体10の上面10fと対向し接触する。
【0044】
工具本体10の上面10fには、第3凹溝10gが設けられる。第3凹溝10gは、突出部17の突出上面17a側から工具本体10の後端側に向かって延びる。また、第2ブラケット19の下面19fには、上側から見て第3凹溝10gと重なる第4凹溝19gが設けられる。
【0045】
第3凹溝10gの断面形状は半円形である。同様に、第4凹溝19gの断面形状も半円形である。第3凹溝10gと第4凹溝19gとは、互いに重なりあって、工具軸Jの径方向に沿って延びる円形の第3孔部5Cを形成する。第3孔部5Cの延長線上には、切削インサート20の切刃22が配置される。この第3孔部5Cには、撮像装置50のカメラ本体部50bが配置される。
【0046】
工具本体10には、第1孔部5A、第2孔部5B、および第3孔部5Cと中空孔10kとを連通させる連通孔10h、10i、10jが設けられる。連通孔10h、10i、10jには、それぞれ第1の距離センサ31、第2の距離センサ32、および撮像装置50のケーブル31c、32c、50cが通される。ケーブル31c、32c、50cは、中空孔10k内に配置されるセンシングモジュール7aに接続される。
【0047】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、対象物(切削インサートにより形成した加工面)までの距離を測定する。本実施形態において、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、渦電流センサである。
【0048】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、円柱状のセンサヘッド31b、32bと、センサヘッド31b、32bの基端から延び出るケーブル31c、32cと、を有する。
【0049】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、それぞれセンサヘッド31b、32bの先端面31a、32bを測定対象に対向させる。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、センサヘッド31b、32bの内部に高周波電流を流すことで高周波磁界を発生させる。これにより、導電体である測定対象物の表面に渦電流が流れ、センサヘッド31b、32bの内部のコイルにインピーダンスが変化する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、このインピーダンスの変化から測定対象との距離を判定する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、インピーダンスの変化を電圧(単位はV)として出力する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の出力値は、予め算出した較正式を用いて測定対象との距離に変換される。
【0050】
第1の距離センサ31の先端面31aは、工具本体10の外周面10cから工具軸Jの径方向外側に向けた配置される。第1の距離センサ31は、工具本体10の径方向外側に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第1の距離センサ31は、工具軸Jの径方向外側を測定方向とする。
【0051】
第1の距離センサ31のセンサヘッド31bは、工具本体10の先端面10dと第1ブラケット15との間に挟まれて保持される。このため、センサヘッド31bは、その長さ方向の広い範囲で工具本体10および第1ブラケット15に対し保持される。したがって、第1の距離センサ31のセンサヘッド31bは、振動等に対して位置ずれし難く、第1の距離センサ31により寸法測定の精度を安定させることができる。
【0052】
本実施形態によれば、工具本体10の先端面10dと第1ブラケット15の対向面15dとにそれぞれセンサヘッド31bを収容する第1凹溝10eおよび第2凹溝15eが設けられる。第1凹溝10eおよび第2凹溝15eの内周面は、センサヘッド31bの外周面に沿って半円形に湾曲する。第1凹溝10eおよび第2凹溝15eの内周面は、センサヘッド31bの外周面と面接触する。これにより、工具本体10および第1ブラケット15に対するセンサヘッド31bの外周面の接触面積を大きく確保することができ、第1の距離センサ31の位置ずれをより確実に抑制できる。
【0053】
本実施形態によれば、第1の距離センサ31のセンサヘッド31bは、第1ブラケット15によって覆われる。このため、センサヘッド31bは、先端面32aのみが外部に露出し、他の部分が保護される。本実施形態によれば、センサヘッド31bは、加工工程における切屑の飛散に対して第1ブラケット15によって保護される。
【0054】
第2の距離センサ32の先端面32aは、工具本体10の先端面10dから工具軸Jの先端側に向けた配置される。第2の距離センサ32は、工具本体10の先端側に配置される測定対象物までの距離を測定する。すなわち、第2の距離センサ32は、工具軸Jの先端側を測定方向とする。
【0055】
第2の距離センサ32は、工具本体10の第1収容孔11に収容される。すなわち、第2の距離センサ32のセンサヘッド31bは、工具本体10の内部に配置される。このため、センサヘッド32bは、先端面32aのみが外部に露出し、他の部分が保護される。すなわち、第2の距離センサ32は、工具本体10によって保護され切屑などが衝突することが抑制される。
【0056】
図3に示すように、工具本体10には、外周面10cから第1収容孔11まで延びるネジ孔10pが設けられる。ネジ孔10pには、イモネジ9が挿入される。第2の距離センサ32は、イモネジ9によって第1収容孔11の内周面に押し当てられる。これにより、第2の距離センサ32は、工具本体10に固定される。これにより、第2の距離センサ32を安定的に固定できる。
【0057】
本実施形態によれば、
図1に示すように、工具本体10には、切削インサート20のみならず、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32が取り付けられている。このため、切削インサート20を用いて加工した加工面を第1の距離センサ31および第2の距離センサ32により測定することができる。したがって、旋削工具1が加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具1を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
【0058】
本実施形態によれば、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32として渦電流センサを用いるため、ウェット加工を行う場合であっても、正確な測定を行うことができる。なお、渦電流センサは、周囲環境などの外乱に対して測定精度が安定し易い。このため、渦電流センサは、ウェット加工とドライ加工との何れを選択するかに関わらず、光学式の距離センサなどと比較して、切削加工後の外乱の多い環境での距離測定に適している。
【0059】
本実施形態によれば、第1の距離センサ31を用いて、切削インサート20により加工した径方向を向く加工面までの距離を測定でき、第2の距離センサ32を用いて、切削インサート20により加工した軸方向を向く加工面までの距離を測定することができる。すなわち、寸法測定時に、被削材の向きを変えることなく、異なる方向を向く面の寸法測定を行うことができ、測定工程に要する時間をさらに短くすることができる。なお、第1の距離センサ31によって、切削インサート20で加工された外径、内径、および真円度などを測定できる。また、第2の距離センサによって、切削インサートで段部、および孔底部の軸方向位置などを測定できる。
【0060】
撮像装置50は、円柱状の防水型のCMOSイメージセンサーやCCDイメージセンサーよりなるカメラである。撮像装置50は、円柱状のカメラ本体部50bと、カメラ本体部50bの基端から延び出るケーブル50cと、を有する。カメラ本体部50bは、撮影対象を向くレンズ面50aを有する。また、レンズ面50aの周囲には、撮影対象を照らす複数のLEDライトが配設されていてもよい。
【0061】
撮像装置50のレンズ面50aは、切削インサート20の切刃22(特にコーナ刃)に向けられる。これにより、撮像装置50は、切刃22を撮影するとともに、この切刃22によって切削加工された被削材の加工面も撮影する。
【0062】
撮像装置50のカメラ本体部50bは、工具本体10の上面10fと第2ブラケット19との間に挟まれて保持される。このため、カメラ本体部50bは、その長さ方向の広い範囲で工具本体10および第2ブラケット19に対し保持される。したがって、撮像装置50のカメラ本体部50bは、振動等に対して位置ずれし難く、撮像装置50により寸法測定の精度を安定させることができる。
【0063】
本実施形態によれば、工具本体10の上面10fと第2ブラケット19の下面19fとにそれぞれカメラ本体部50bを収容する第3凹溝10gおよび第4凹溝19gが設けられる。第3凹溝10gおよび第4凹溝19gの内周面は、カメラ本体部50bの外周面に沿って半円形に湾曲する。第3凹溝10gおよび第4凹溝19gの内周面は、カメラ本体部50bの外周面と面接触する。これにより、工具本体10および第2ブラケット19に対するカメラ本体部50bの外周面の接触面積を大きく確保することができ、撮像装置50の位置ずれをより確実に抑制できる。
【0064】
本実施形態によれば、撮像装置50のカメラ本体部50bは、第2ブラケット19によって覆われる。このため、カメラ本体部50bは、レンズ面50aのみが外部に露出し、他の部分が保護される。本実施形態によれば、カメラ本体部50bは、加工工程における切屑の飛散に対して第2ブラケット19によって保護される。
【0065】
本実施形態によれば、撮像装置50が、工具本体10に取り付けられているので、工作機械に撮像装置が備えられていなくても被削材の加工面等の画像を撮影することができる。これにより、被削材の加工面の性状や加工面に発生したバリ等の発生状況を確認することができる。また、撮像装置50が切刃22を撮影する場合には、切刃22によって生成される切屑の生成状況や切刃の欠損、チッピング、摩耗等の損傷を確認することができる。
【0066】
<切削方法>
次に、本実施形態の旋削工具1を用いた切削方法について説明する。
旋削工具1を用いた切削方法は、予備工程としての座標設定工程および較正工程と、加工工程と、測定工程と、を有する。
<座標設定工程>
図4A~
図4Cは、本実施形態の座標設定を示す模式図である。
座標設定工程は、刃先座標を設定する工程と、第1のセンサ座標を設定する工程と、第2のセンサ座標を設定する工程と、を有する。座標設定工程は、接触式センサ6を用いて行われる。接触式センサ6は、例えばタッチプローブなどのセンサである。
【0067】
図4Aは、刃先座標を設定する工程を示す。刃先座標は、切削インサート20の切刃22の刃先を基準とする座標である。この工程では、接触式センサ6を用いて切刃22の刃先を接触し、センシングモジュール7aにおいて切刃22の刃先の位置情報を記憶し、刃先座標を設定する。
【0068】
図4Bは、第1のセンサ座標を設定する工程を示す。第1のセンサ座標は、第1の距離センサ31の先端面31aを基準とする座標である。この工程では、接触式センサ6を用いて第1の距離センサ31の先端面31aを接触し、センシングモジュール7aにおいて第1の距離センサ31の先端面31aの位置情報を記憶し、第1のセンサ座標を設定する。
【0069】
図4Cは、第2のセンサ座標を設定する工程を示す。第2のセンサ座標は、第2の距離センサ32の先端面32aを基準とする座標である。この工程では、接触式センサ6を用いて第2の距離センサ32の先端面32aを接触し、センシングモジュール7aにおいて第2の距離センサ32の先端面32aの位置情報を記憶し、第2のセンサ座標を設定する。
【0070】
本実施形態によれば、刃先座標とセンサ座標とが個別に設定される。このため、寸法測定の結果が、切削インサート20および距離センサ31、32の取り付け精度に影響を受け難い。加えて、距離センサ31、32の測定精度が切刃22の刃先と距離センサとの相対的な位置に影響を受け難いため、切刃22の摩耗が進んだ場合であっても、高精度な寸法測定を行うことができる。
【0071】
本実施形態によれば、座標設定工程において接触式センサを用いて行われる。このため、設定工程を行う際の周囲の環境に影響されることなく、切刃22および距離センサ31、32の位置情報を得やすい。また、接触式センサを用いることで、単一のセンサを用いて切刃22の刃先および距離センサ31、32の先端面31a、32aの位置情報を得ることができる。このため、座標設定工程に要する時間を節約できる。
【0072】
本実施形態によれば、距離センサ31、32毎にセンサ座標が設定される。このため、複数の距離センサ31、32に対し1つのセンサ座標が設定される場合と比較して、距離センサ31、32の測定精度が、それぞれの距離センサ31、32の取り付け精度から影響を受けることを抑制できる。
【0073】
<較正工程>
図5A~
図5Eは、本実施形態の較正工程を示す模式図である。
本実施形態では、距離センサ31、32として渦電流センサを用いる。渦電流センサは、測定対象の材料によって出力値と距離との関係が変わるため、材料毎の出力値と距離との関係(較正式)を予め算出する必要がある。較正工程では、後述の加工工程の被削材Wの材料に対する較正式を算出する工程である。本実施形態の較正工程は、予備加工工程と、基準値測定工程と、出力値測定工程と、算出工程と、を有する。
【0074】
図5Aおよび
図5Bは、予備加工工程を示す図である。予備加工工程では、加工工程で加工する被削材Wをそのまま用いる。予備加工工程では、加工工程における目標寸法に対して工具を十分にオフセットさせ、加工工程の目標寸法より切削対象が大きくなるように加工を行う。
【0075】
本実施形態の被削材Wは、段差付きの貫通孔40を有する。貫通孔40は、段差面43と、段差面43に対して軸方向一方側の大径部41と、段差面43に対して軸方向他方側の小径部42とを有する。本実施形態の切削方法は、貫通孔40の大径部41および段差面43の内周面の仕上げ加工を行う加工方法である。
【0076】
予備加工工程では、
図5Aに示すように、大径部41の内周面を加工する。この工程では、被削材Wを主軸O周りに回転させながら、切刃22を被削材Wの大径部41の内周面に接触させ、軸方向に移動させる。さらに、予備加工工程では、
図5Bに示すように、段差面43を加工する。この工程では、被削材Wを引き続き主軸O周りに回転させながら、切刃22を段差面に沿って径方向に移動させる。これによって、予備加工工程では、基準加工面を形成する。
【0077】
図5Cは、基準値測定工程を示す図である。基準値測定工程は、仮加工工程において切刃22で加工した基準加工面を寸法測定する工程である。より具体的には、基準値測定工程では、大径部41の内径および段差面43の段差寸法を別途用意した測定機器A、Bで測定し、較正を行う際の基準値とする。測定機器A、Bは、例えば、シリンダゲージ、デプスゲージなどの測定器である。
【0078】
図5D、
図5Eは、出力値測定工程を示す図である。出力値測定工程では、基準値測定工程で測定した基準値を基準として、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32を用いて被削材Wからの各距離に対応する出力値を測定する。
【0079】
図5Dは、第1の距離センサ31の出力値測定工程を示す。
出力値測定工程では、まず、基準値測定工程で測定した基準値を用いて、第1の距離センサ31の先端面31aを、大径部41の内周面からの距離が第1の距離(例えば0.1mm)となる第1の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を記憶する。次いで、先端面31aを、大径部41の内周面からの距離が第2の距離(例えば0.2mm)となる第2の測定点に移動させ、第1の距離センサ31による出力値を記憶する。さらに、先端面31aを第3、第4・・・の測定点に移動させ、それぞれの測定点に対応する第1の距離センサ31の出力値をセンシングモジュール7aにおいて記憶する。なお、この工程においける第1の距離センサ31の位置合わせは、第1のセンサ座標を用いて行う。
【0080】
図5Eは、第2の距離センサ32の出力値測定工程を示す。
第2の距離センサ32の出力値測定工程は、上述した第1の距離センサ31の場合と同様に、まず、基準値測定工程で測定した基準値を用いて、第2の距離センサ32の先端面32aを、段差面43からの距離が第1の距離(例えば0.2mm)となる第1の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を記憶する。次いで、先端面32aを、段差面43からの距離が第2の距離(例えば0.3mm)となる第2の測定点に移動させ、第2の距離センサ32による出力値を記憶する。さらに、第3、第4・・・の測定点と、当該測定点に対応する第2の距離センサ32の出力値を順次記憶する。この工程においける第2の距離センサ32の位置合わせは、第2のセンサ座標を用いて行う。
【0081】
このように、出力値測定工程は、センサ座標を基準として距離センサ31、32を用いて基準加工面からの距離を変えた複数の測定点を測定し、それぞれの測定点に対応する距離センサ31、32の出力値を記憶する。なお、測定対象までの距離と出力値との組み合わせのデータは、無線通信モジュール7bによって制御装置4に送信され、制御装置4の記憶部4b(
図1参照)に記憶される。
【0082】
算出工程では、出力値測定工程で測定したそれぞれの測定点における基準加工面までの距離と出力値との関係から、この関係を表す較正式を算出する。算出工程は、距離センサ31、32毎に行われる。すなわち、算出工程では、第1の距離センサ31に対応する較正式と、第2の距離センサ32に対応する較正式とが、導かれる。なお、算出工程は、制御装置4(
図1参照)によって行われる。また、算出工程によって導かれた較正式は、制御装置4の記憶部4bに記憶される。制御装置4は、記憶部4bに記憶される較正式を用いて測定値を較正して現実の寸法を算出する。本実施形態によれば、較正式を外部の制御装置4に送信することで、制御装置4において蓄積および解析を行うことができる。これにより、解析結果に基づいて切削条件を変更したり、切削工具および切削インサート20などの交換を促したりすることが可能となる。
【0083】
較正式は、距離センサ31、32の出力値である電圧(単位はV)を距離センサ31、32の先端面31a、31bから測定対象までの距離(単位はmm)に変換する。較正式は、較正式は、xを距離センサ31、32の出力値、yを加工面までの距離、a、b、c、d、eを定数として、以下の式で表される。すなわち、較正式は、四次以下の関数で表わされる。
y=ax4+bx3+cx2+dx+e
【0084】
図6は、様々な材料の被削材Wに対する較正式を表すグラフである。
図6には、被削材Wとしてアルミニウム合金(A6061)、および鉄系合金(SUS304、FC250、SCM440)を選んだ場合の較正式のグラフが示されている。
【0085】
また、
図6のグラフでは、加工面からの距離として0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mmの7点を測定点として測定した。測定点に対応する距離センサの出力値を基に上記の三次の方程式に代入することで、定数a、b、c、d、eを算出し、これらの定数を代入した較正式を関数としてグラフ上に図示した。
【0086】
図6に示すように、鉄系合金において、較正式は一次関数に近似することができる。一方で、アルミニウム合金は、四次関数で表される。このように、較正式は、合金の種類によって、次数に傾向が表れる。したがって、加工対象が鉄系の材料であることが分かっている場合、定数a、b、cに予め0を代入した以下の式を用いて較正式を算出することができる。
y=dx+e
【0087】
本実施形態によれば、定数a、b、cに予め0を代入する場合、出力値測定工程において測定する測定点の数を減らすことができる。これにより、較正精度を保ちつつ、較正工程に要する時間を短縮することができる。一方で、定数a、b、cをも含めて較正式を算出する場合には、様々な材料に対して最適な較正式を算出することができる。
なお、ここでは、被削材が鉄系合金である場合に、較正を一次関数として表現することで較正のために用いる測定時間を短縮する場合について説明した。しかしながら、より厳密な較正を行いたい場合は、被削材が鉄系合金であっても、定数d、eのみならず、定数a、b、cをも算出し四次関数の較正式を求めてもよい。
【0088】
本実施形態によれば、距離センサ31、32として渦電流センサを用いるため、ウェット加工を行う場合であっても、正確な測定を行うことができる。しかしながら、渦電流センサを用いる場合、加工対象の材料によってセンサの出力値が変わるため、較正が必要となる。本実施形態によれば、切刃22によって形成した基準加工面を用いて構成を行うため、較正用のジグなどの必要としない。しかも、加工対象物を用いて較正を行うことができるため、ジグ等を用いる場合と比較して、より正確な較正式を算出できるばかりでなく、ジグの取り付け取り外しに要する時間を節約することができる。
【0089】
<加工工程>
図7A、
図7Bは、本実施形態の加工工程を示す模式図である。
本実施形態の加工工程は、刃先座標を用いて加工面を形成する工程である。本実施形態の加工工程は、第1の旋削工程と第2の旋削工程とを有する。
【0090】
図7Aに示すように、第1の旋削工程は、大径部41の内周面を加工する工程である。
第1の旋削工程では、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第1の旋削工程では、まず、旋削工具1の工具軸Jを主軸Oと平行とした状態で、切刃22の径方向外端を、大径部41の内周面の径方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。さらに、旋削工具1を軸方向先端に沿って移動させ、大径部41の内周面に切削インサート20の切刃22に接触させる。次いで、切刃22を大径部41の内周面に接触させた状態で、旋削工具1を軸方向先端に移動させる。これにより、大径部41の内周面を切刃22により旋削加工することができる。
【0091】
図7Bに示すように、第2の旋削工程は、段差面43を加工する工程である。
第2の旋削工程では、第1の旋削工程に引き続き、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第2の旋削工程では、まず、切刃22の軸方向最先端を、段差面43の軸方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。次いで、切削インサート20の切刃22を大径部41と段差面43との角部に接触した状態から、段差面43に接触した状態を維持しつつ径方向内側に移動させる。これにより、段差面43を切刃22により旋削加工することができる。
【0092】
<測定工程>
図7Cおよび
図7Dは、本実施形態の測定工程を示す模式図である。
測定工程は、センサ座標を用いて加工面の寸法の測定を行う工程である。測定工程は、第1の測定工程と第2の測定工程とを有する。
【0093】
図7Cに示すように、第1の測定工程は、第1のセンサ座標を用いて大径部41の内周面の寸法を測定する工程である。第1の測定工程では、まず、旋削工具1を径方向に移動して、第1の距離センサ31の先端面31aを、大径部41の内周面に対向させる。さらに、第1の距離センサ31の出力値を、較正式に代入することで大径部41の内周面の寸法を算出する。
【0094】
図7Dに示すように、第2の測定工程は、第2のセンサ座標を用いて段差面43の寸法を測定する工程である。第2の測定工程では、まず、旋削工具1を径方向に移動して、第2の距離センサ32の先端面32aを、段差面43に対向させる。さらに、第2の距離センサ32の出力値を、較正式に代入することで段差面43の寸法を算出する。
【0095】
加工工程(第1および第2の旋削工程)並びに測定工程(第1および第2の測定工程)の後には、比較工程が行われる。比較工程では、加工工程における加工面の目標寸法と、測定工程において測定した加工面の寸法と、を比較して差分を算出する。
【0096】
比較工程の後には、追加工工程が行われる。追加工工程では、比較工程での比較を根拠として、目標寸法と測定寸法との差分が公差より大きい場合に、追加工が必要であると判断されて行われる。すなわち、本実施形態の旋削方法は、比較工程における目標寸法と測定寸法との差分に応じて、被削材Wを旋削工具1によって追加工する追加工工程を有する。
なお、追加工工程は、
図7A、
図7Bに示す加工工程と同様の手順を経て行われるため、図示を省略する。
【0097】
本実施形態によれば、比較工程における差分を基に、旋削工具を目標位置より被削材側に近づけて追加工工程を行うことで、加工面の寸法精度を高めることができる。また、加工工程と追加工工程の間に行う測定工程は、工具本体に取り付けられた距離センサ31,32を用いて行う。このため、加工工程から追加工工程に至るまでのタクトタイムを短くすることができる。
【0098】
また、比較工程での比較を根拠として、目標位置と測定位置との差分が予め設定した閾値より大きい場合に、切削インサート20の交換が必要であると判断することもできる。目標寸法と測定寸法との差分が大きい場合に、切削インサート20の摩耗が顕著であると考えられるためである。
【0099】
本実施形態の加工方法において、加工面に切削油又はクーラントを供給しながら加工工程を行ってもよい。本実施形態の測定工程は、渦電流センサを用いるため加工工程においてウェット加工を採用した場合であっても、測定工程における寸法測定の精度を確保できる。
【0100】
<第2実施形態>
図8は、本実施形態の旋削工具(切削工具)101の斜視図である。
図9は、旋削工具101と被削材の一部の正面図である。
なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0101】
本実施形態の旋削工具101は、主軸回りに回転させられる金属材料等の被削材に対して、外周面の旋削加工を施す。旋削工具101は、工具本体110と、蓋部材115と、ブラケット119と、切削インサート120と、第1の距離センサ(距離センサ)31と、第2の距離センサ(距離センサ)32と、撮像装置50と、を備える。
【0102】
工具本体110は、工具軸Jに沿って軸状に延びる。工具本体110は、工具軸Jを中心とする角柱状のシャンク部116と、工具本体110の先端部110aにおいてシャンク部116の外周面から工具軸Jの径方向外側に突出する突出部117と、を有する。
【0103】
シャンク部116の先端部110aには、切欠部108が設けられる。切欠部108は、工具本体110の先端側および突出部117の突出方向反対側に開口する。切欠部108には、蓋部材115が挿入されこていされる。
【0104】
突出部117には、切削インサート120が取り付けられる台座118が設けられる。台座118は、突出部117の突出方向の先端側かつ、工具本体110の先端側の角部に位置する。すなわち、工具本体110は、先端部110aに台座118を有する。本実施形態の切削インサート120は、厚さ方向から見てひし形の四角柱形状である。切削インサート120の主面と側面との間の稜線には、切刃122が設けられる。
【0105】
工具本体110には、第1収容孔111および第2収容孔112が設けられる。第1収容孔111および第2収容孔112は、円形の孔である。
【0106】
第1収容孔111は、工具軸Jの径方向に沿って延びる。第1収容孔111の一端は、突出部117の突出方向先端面に開口し、他端は切欠部108に開口する。第1収容孔111の他端の開口は、蓋部材115によって覆われる。第1収容孔111には、第1の距離センサ31のセンサヘッド31bが挿入される。第1収容孔111は、台座118の直下に配置される。すなわち、第1の距離センサ31は、切削インサート120の直下に配置される。
【0107】
第2収容孔112は、工具軸Jの軸方向に沿って延びる。第2収容孔112の一端は、工具本体110の先端側に開口する。第2収容孔112には、第2の距離センサ32のセンサヘッド32bが挿入される。
【0108】
図8に示すように、工具本体110には、外周面から第1収容孔111まで延びる第1ネジ孔110pと、外周面から第1収容孔111まで延びる第2ネジ孔110qと、が設けられる。第1ネジ孔110pには、第1イモネジ109aが挿入される。第1の距離センサ31は、第1イモネジ109aによって第1収容孔111の内周面に押し当てられる。これにより、第1の距離センサ31は、工具本体110に固定される。同様に、第2ネジ孔110qには、第2イモネジ109bが挿入される。第2の距離センサ32は、第2イモネジ109bによって第2収容孔112の内周面に押し当てられる。これにより、第2の距離センサ32は、工具本体110に固定される。
【0109】
図9に示すように、旋削工具101は、回転軸Oまわりを回転する被削材Wの外周面48および段差面49を切削する。第1の距離センサ31は、被削材Wの外周面48を測定する。一方で、第2の距離センサ32は、被削材Wの段差面49を測定する。
【0110】
本実施形態の旋削工具101によれば、第1の距離センサ31は、工具軸Jに対する切刃122の突出方向と同方向に向けて配置される。このため、第1の距離センサ31は、このため、第1の距離センサ31は、切刃122による外周面48の加工方向と同方向から外周面48を測定できる。したがって、加工工程から測定工程に移行する際に、旋削工具101を大きく移動することなく外周面48の測定をすることができる。
【0111】
工具本体110の上面には、カメラ台座部104が設けられる。カメラ台座部104には、ブラケット119が固定される。カメラ台座部104には、凹溝110gが設けられる。ブラケット119の下面には、上側から見て凹溝110gと重なる凹溝119gが設けられる。凹溝110gと凹溝119gとは、互いに重なりあって、工具軸Jの径方向に沿って延びる円形の孔部105を形成する。孔部105の延長線上には、切削インサート120の切刃122が配置される。孔部105には、撮像装置50のカメラ本体部50bが配置される。すなわち、撮像装置50のカメラ本体部50bは、工具本体110のカメラ台座部104と第2ブラケット19との間に挟まれて保持される。撮像装置50は、切刃122を撮影するとともに、この切刃122によって切削加工された被削材の加工面も撮影する。
【0112】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0113】
1…切削工具(旋削工具)
6…接触式センサ
10,110…工具本体
22,122…切刃
31…第1の距離センサ(距離センサ)
32…第2の距離センサ(距離センサ)
A,B…測定機器