(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/40 20160101AFI20241112BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241112BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20241112BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241112BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241112BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20241112BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241112BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W10/08 900
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L15/20 K
B60L15/20 S
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2021057258
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】草部 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】中矢 文平
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118022(JP,A)
【文献】特開2013-119273(JP,A)
【文献】特開2013-028304(JP,A)
【文献】特開2010-241390(JP,A)
【文献】特表2020-525358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F16D 48/06
B60L 15/20
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、
第1ロータを備えた第1回転電機と、
第2ロータを備えた第2回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記第1ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、
少なくとも前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を行うと共に、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を断接する第3係合装置を備えた伝達機構と、
前記内燃機関、前記第1回転電機、前記第2回転電機、前記第1係合装置、前記第2係合装置、及び前記第3係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記第2ロータが、前記第1出力部材を介することなく前記第2出力部材に駆動連結され、又は、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達経路における前記第3係合装置よりも前記第1出力部材の側で前記第1出力部材に駆動連結された、車両用駆動装置であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記第1モードでは、前記第1係合装置が解放状態、前記第2係合装置が係合状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関が駆動力を出力しない停止状態とされ、前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記第2モードでは、前記第1係合装置が係合状態、前記第2係合装置が解放状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関及び前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
前記第1移行制御は、前記第2係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第3係合装置を係合状態から解放状態に変化させた後に、前記分配用差動歯車機構の全体の回転速度を上昇させるように前記第1ロータの回転速度を制御すると共に前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させ、その後、前記第1係合装置を係合状態から解放状態に変化させてから、前記第3係合装置を解放状態から係合状態に変化させると共に、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させ、再度前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させる制御である、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、前記第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行可能であり、
前記第2移行制御は、前記第3係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させた後に、前記第1回転要素の回転速度を上昇させるように前記第1ロータの回転速度を制御すると共に前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させる制御であり、
前記第1車輪と前記第2車輪とに伝達する必要がある駆動力の合計を要求駆動力として、
前記制御装置は、前記要求駆動力が予め定められた判定しきい値以上であることを含む特定移行条件を満たす場合に前記第2移行制御を実行し、前記特定移行条件を満たさない場合に前記第1移行制御を実行する、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第2移行制御を実行した場合に前記内燃機関及び前記第1回転電機から前記第1出力部材に伝達される負の駆動力を始動反力とし、前記始動反力を補うように前記第2回転電機に正の駆動力を出力させる制御を駆動力補助制御として、
前記特定移行条件は、更に、前記第2回転電機が出力中の駆動力と前記第2回転電機が出力可能な上限駆動力との差である余剰駆動力が、前記駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力である必要駆動力以上であることを含む、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記特定移行条件は、更に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくとも一方が空転していないこと、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくとも一方が空転する可能性が高い走行条件でないこと、及び、前記第1車輪及び前記第2車輪のうちのいずれかである操舵輪の舵角が規定のしきい値以下であること、の少なくとも1つを含む、請求項2又は3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第1係合装置は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置であり、
前記第1係合装置が直結係合状態であって前記内燃機関が自立運転可能な回転速度で回転している場合における前記第1回転要素の回転速度を自立可能回転速度として、
前記制御装置は、前記第2移行制御において、前記第1回転要素の回転速度が前記自立可能回転速度以上となるように前記第1ロータの回転速度を制御した状態で、前記第1係合装置を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作中に前記内燃機関を始動させ、その後、前記第1係合装置を直結係合状態とすることで前記第2モードに移行する、請求項2から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、回転電機と、分配用差動歯車機構とを備えた車両用駆動装置が利用されている。このような車両用駆動装置の一例が、特表2020-525358号公報(特許文献1)に開示されている。以下、この「背景技術」の説明において、特許文献1における符号を括弧内に引用する。
【0003】
この車両用駆動装置は、内燃機関(3)に駆動連結される入力部材(8)と、車輪に駆動連結される出力部材(7)と、回転電機(4)と、入力部材(8)に駆動連結された第1回転要素(13)、出力部材(7)と駆動連結された第2回転要素(12)、及び回転電機(4)に駆動連結された第3回転要素(11)を備えた分配用差動歯車機構(10)と、第2回転要素(12)と出力部材(7)との間の動力伝達を行う伝達機構(19)とを備えている。また、車両用駆動装置は、入力部材(8)と第3回転要素(11)との間の動力伝達を断接する第1係合装置(17)と、第1回転要素(13)と第3回転要素(11)との間の動力伝達を断接する第2係合装置(16)とを備えている。そして、伝達機構(19)は、第2回転要素(12)と出力部材(7)との間の動力伝達を断接する第3係合装置(23,24)を備えている。
【0004】
また、特許文献1の車両用駆動装置は、動作モードとして、第1モード(EM)及び第2モード(CVTM)を備えている。第1モード(EM)では、第1係合装置(17)が解放状態、第2係合装置(16)が係合状態、第3係合装置(23,24のいずれか一方)が係合状態とされ、内燃機関(3)が駆動力を出力しない停止状態とされ、回転電機(4)の駆動力が出力部材(7)に伝達される。第2モード(CVTM)では、第1係合装置(17)が係合状態、第2係合装置(16)が解放状態、第3係合装置(23,24のいずれか一方)が係合状態とされ、内燃機関(3)及び回転電機(4)の駆動力が出力部材(7)に伝達される。
【0005】
特許文献1の車両用駆動装置では、第1モード(EM)から第2モード(CVTM)に移行する場合、特に車輪に伝達する必要がある駆動力(要求駆動力)が比較的低い場合には、第1係合装置(17)及び第2係合装置(16)が係合状態、第3係合装置(23,24)が解放状態で内燃機関(3)を始動する(eスタート)。しかし、第3係合装置(23,24)を解放状態とすることで、車輪がその駆動力源である内燃機関(3)及び回転電機(4)から切り離されるため、駆動力の抜けが生じるおそれがある。それを回避するためには、迅速に第3係合装置(23,24のいずれか一方)を係合状態とすることが考えられるが、その係合時に車輪に伝達される駆動力が大きく変動するおそれがある。これらの点に関して、特許文献1では特段の考慮がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、内燃機関の始動を伴う動作モードの移行の際に、駆動力の抜けや駆動力の大きな変動が生じにくい車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る車両用駆動装置は、
内燃機関に駆動連結される入力部材と、
第1車輪に駆動連結される第1出力部材と、
第2車輪に駆動連結される第2出力部材と、
第1ロータを備えた第1回転電機と、
第2ロータを備えた第2回転電機と、
第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を備え、前記第1回転要素が前記入力部材に駆動連結され、前記第3回転要素が前記第1ロータに駆動連結された分配用差動歯車機構と、
前記入力部材と前記第1回転要素との間の動力伝達を断接する第1係合装置と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置と、
少なくとも前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を行うと共に、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達を断接する第3係合装置を備えた伝達機構と、
前記内燃機関、前記第1回転電機、前記第2回転電機、前記第1係合装置、前記第2係合装置、及び前記第3係合装置を制御する制御装置と、を備え、
前記第2ロータが、前記第1出力部材を介することなく前記第2出力部材に駆動連結され、又は、前記第2回転要素と前記第1出力部材との間の動力伝達経路における前記第3係合装置よりも前記第1出力部材の側で前記第1出力部材に駆動連結された、車両用駆動装置であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
前記第1モードでは、前記第1係合装置が解放状態、前記第2係合装置が係合状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関が駆動力を出力しない停止状態とされ、前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記第2モードでは、前記第1係合装置が係合状態、前記第2係合装置が解放状態、前記第3係合装置が係合状態とされ、前記内燃機関及び前記第1回転電機の駆動力が前記第1出力部材に伝達され、
前記制御装置は、前記第1モードから前記第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
前記第1移行制御は、前記第2係合装置を係合状態に維持しつつ、前記第3係合装置を係合状態から解放状態に変化させた後に、前記分配用差動歯車機構の全体の回転速度を上昇させるように前記第1ロータの回転速度を制御すると共に前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させ、前記第1回転電機から前記内燃機関に伝達される駆動力により前記内燃機関を始動させ、その後、前記第1係合装置を係合状態から解放状態に変化させてから、前記第3係合装置を解放状態から係合状態に変化させると共に、前記第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させ、再度前記第1係合装置を解放状態から係合状態に変化させる制御である。
【0009】
この構成によれば、第1移行制御において、第3係合装置を係合状態から解放状態に変化させた後に、第3係合装置の解放状態で内燃機関を始動させるため、内燃機関の始動による駆動力の変動が第1車輪に伝達されるのを回避することができる。内燃機関の始動後は、一旦、第1係合装置を係合状態から解放状態に変化させることで、第3係合装置の形式によらずに当該第3係合装置を適切に解放状態から係合状態に変化させることができる。そして、第3係合装置を係合状態とすると共に、第2係合装置を係合状態から解放状態に変化させ、第1係合装置を再度係合状態に変化させることで、駆動力の抜けを回避しながら第2モードへの移行を完了することができる。その際、第1係合装置の再係合を適切に制御しながら行うことで、第1車輪に伝達される駆動力が大きく変動するのを回避することができる。このように、本構成によれば、第1モードから第2モードへの移行、すなわち内燃機関の始動を伴う動作モードの移行の際に、駆動力の抜けや駆動力の大きな変動を生じにくくすることができる。
【0010】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の車両用駆動装置の第1駆動ユニットのスケルトン図
【
図2】車両用駆動装置の第2駆動ユニットのスケルトン図
【
図4】各動作モードにおける係合装置の状態を示す図
【
図5】第1EVモードでの分配用差動歯車機構の速度線図
【
図6】第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
【
図7】第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
【
図8】第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
【
図9】第1移行制御における分配用差動歯車機構の速度線図
【
図10】eTCモードでの分配用差動歯車機構の速度線図
【
図12】第1モードから第2モードへの移行時の制御処理の一例を示すフローチャート
【
図16】別実施形態の車両用駆動装置の第1駆動ユニットのスケルトン図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、実施形態に係る車両用駆動装置100について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、一対の第1車輪W1を駆動する第1駆動ユニットDU1と、一対の第2車輪W2を駆動する第2駆動ユニットDU2とを備えている。本実施形態では、第1車輪W1は車両の操舵輪となっている前輪であり、第2車輪W2は車両の後輪である。
【0013】
第1駆動ユニットDU1は、内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材O1と、第1ステータST1及び第1ロータRT1を備えた第1回転電機MG1と、分配用差動歯車機構SPと、第1係合装置CL1と、第2係合装置CL2と、第3係合装置CL3を備えた伝達機構Tとを備えている。本実施形態では、第1駆動ユニットDU1は、第1出力用差動歯車機構DF1を更に備えている。
【0014】
ここで、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0015】
本実施形態では、入力部材I、分配用差動歯車機構SP、第1係合装置CL1、及び第2係合装置CL2は、それらの回転軸心としての第1軸X1上に配置されている。また、第1回転電機MG1は、その回転軸心としての第2軸X2上に配置されている。伝達機構Tの第3係合装置CL3は、その回転軸心としての第3軸X3上に配置されている。更に、第1出力部材O1及び第1出力用差動歯車機構DF1は、それらの回転軸心としての第4軸X4上に配置されている。
【0016】
本実施形態では、第2駆動ユニットDU2は、第2ステータST2及び第2ロータRT2を備えた第2回転電機MG2と、第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2と、カウンタギヤ機構CGと、第2出力用差動歯車機構DF2とを備えている。
【0017】
本実施形態では、第2回転電機MG2は、その回転軸心としての第5軸X5上に配置されている。また、カウンタギヤ機構CGは、その回転軸心としての第6軸X6上に配置されている。更に、第2出力部材O2及び第2出力用差動歯車機構DF2は、それらの回転軸心としての第7軸X7上に配置されている。
【0018】
本例では、上記の軸X1~X7は、互いに平行に配置されている。以下の説明では、上記の軸X1~X7に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。本実施形態では、軸方向Lにおいて、内燃機関EGに対して入力部材Iが配置される側を軸方向第1側L1とし、その反対側を軸方向第2側L2としている。また、上記の軸X1~X7のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向」とする。
【0019】
本実施形態では、入力部材Iは、軸方向Lに沿って延在する入力軸1である。入力軸1は、伝達されるトルクの変動を減衰するダンパ装置DPを介して、内燃機関EGの出力軸ESに駆動連結されている。内燃機関EGは、燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。本実施形態では、内燃機関EGは、第1車輪W1の駆動力源として機能する。
【0020】
第1回転電機MG1は、第1車輪W1の駆動力源として機能する。第1回転電機MG1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第1回転電機MG1は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置BT(
図3参照)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、第1回転電機MG1は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第1回転電機MG1は、内燃機関EGの駆動力、又は第1出力部材O1の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0021】
第1回転電機MG1の第1ステータST1は、非回転部材(例えば、第1回転電機MG1等を収容するケース)に固定されている。第1回転電機MG1の第1ロータRT1は、第1ステータST1に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第1ロータRT1は、第1ステータST1に対して径方向内側に配置されている。
【0022】
本実施形態では、第1ロータRT1には、軸方向Lに沿って延在するように形成された第1ロータ軸RS1を介して、第1ロータギヤRG1が一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1ロータギヤRG1は、第2軸X2上に配置されている。
図1に示す例では、第1ロータギヤRG1は、第1ロータRT1よりも軸方向第2側L2に配置されている。
【0023】
分配用差動歯車機構SPは、第1回転要素E1と、第2回転要素E2と、第3回転要素E3とを備えている。第1回転要素E1は、入力部材Iに駆動連結されている。第3回転要素E3は、第1ロータRT1に駆動連結されている。本実施形態では、第2回転要素E2及び第3回転要素E3のそれぞれは、第1出力部材O1に駆動連結されている。
【0024】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPは、サンギヤS1とキャリヤC1とリングギヤR1とを備えた遊星歯車機構である。本例では、分配用差動歯車機構SPは、ピニオンギヤP1を支持するキャリヤC1と、ピニオンギヤP1に噛み合うサンギヤS1と、当該サンギヤS1に対して径方向の外側に配置されてピニオンギヤP1に噛み合うリングギヤR1とを備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0025】
本実施形態では、分配用差動歯車機構SPの回転要素の回転速度の順は、第1回転要素E1、第2回転要素E2、第3回転要素E3の順となっている。本実施形態では、第1回転要素E1は、サンギヤS1である。そして、第2回転要素E2は、キャリヤC1である。また、第3回転要素E3は、リングギヤR1である。
【0026】
ここで、「回転速度の順」とは、各回転要素の回転状態における回転速度の順番のことである。各回転要素の回転速度は、遊星歯車機構の回転状態によって変化するが、各回転要素の回転速度の高低の並び順は、遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。なお、各回転要素の回転速度の順は、各回転要素の速度線図(
図5等参照)における配置順に等しい。ここで、「各回転要素の速度線図における配置順」とは、速度線図における各回転要素に対応する軸が、当該軸に直交する方向に沿って配置される順番のことである。速度線図における各回転要素に対応する軸の配置方向は、速度線図の描き方によって異なるが、その配置順は遊星歯車機構の構造によって定まるものであるため一定となる。
【0027】
伝達機構Tは、少なくとも分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を行うように構成されている。本実施形態では、伝達機構Tは、第3係合装置CL3の状態に応じて、第2回転要素E2としてのキャリヤC1と第1出力部材O1との間の動力伝達と、第3回転要素E3としてのリングギヤR1と第1出力部材O1との間の動力伝達とを選択的に行う。
【0028】
本実施形態では、伝達機構Tは、第1ギヤG1と、第2ギヤG2と、第3ギヤG3と、第4ギヤG4と、伝達出力ギヤ3とを備えている。本実施形態では、第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1軸X1上に配置されている。第3ギヤG3、第4ギヤG4、及び伝達出力ギヤ3は、第3軸X3上に配置されている。
【0029】
第1ギヤG1は、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2(ここでは、キャリヤC1)と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1ギヤG1は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第1側L1に配置されている。
【0030】
第2ギヤG2は、分配用差動歯車機構SPの第3回転要素E3(ここでは、リングギヤR1)と一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第1軸X1を軸心とする筒状のギヤ形成部材2が設けられている。そして、ギヤ形成部材2の外周面に第2ギヤG2が形成され、ギヤ形成部材2の内周面にリングギヤR1が形成されている。
【0031】
また、本実施形態では、第2ギヤG2は、第1軸X1~第4軸X4とは別軸上に配置されたアイドラギヤIGを介して、第1ロータギヤRG1に駆動連結されている。つまり、本実施形態では、第2ギヤG2と第1ロータギヤRG1とが、アイドラギヤIGの周方向の互いに異なる位置において、アイドラギヤIGに噛み合っている。これにより、第2ギヤG2と第1ロータギヤRG1とは、アイドラギヤIGを介して互いに連動して回転するように連結されている。
【0032】
第3ギヤG3と第4ギヤG4とは、互いに相対回転可能に支持されている。第3ギヤG3は、第1ギヤG1に噛み合っている。第4ギヤG4は、第2ギヤG2に噛み合っている。本実施形態では、第4ギヤG4は、第2ギヤG2の周方向におけるアイドラギヤIGとは異なる位置で、第2ギヤG2に噛み合っている。伝達出力ギヤ3は、第3ギヤG3及び第4ギヤG4に対して相対回転可能に支持されている。
【0033】
第1ギヤG1の歯数と第2ギヤG2の歯数とは、互いに異なっている。つまり、第1ギヤG1の外径と第2ギヤG2の外径とが異なっている。そして、上述したように、第1ギヤG1と第2ギヤG2とが同軸上に配置されていると共に、第1ギヤG1に噛み合う第3ギヤG3と第2ギヤG2に噛み合う第4ギヤG4とが同軸上に配置されている。そのため、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも小さい場合には、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも大きい。一方、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも大きい場合には、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも小さい。したがって、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比と、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比とが異なっている。本実施形態では、第1ギヤG1の外径が第2ギヤG2の外径よりも小さく、第1ギヤG1の歯数は第2ギヤG2の歯数よりも少ない。そのため、本実施形態では、第3ギヤG3の外径が第4ギヤG4の外径よりも大きく、第3ギヤG3の歯数は第4ギヤG4の歯数よりも多い。したがって、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。
【0034】
伝達機構Tの第3係合装置CL3は、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第3係合装置CL3は、第3ギヤG3及び第4ギヤG4のいずれかを、伝達出力ギヤ3に選択的に連結するように構成されている。
【0035】
上述したように、本実施形態では、第1ギヤG1に対する第3ギヤG3の歯数比は、第2ギヤG2に対する第4ギヤG4の歯数比よりも大きい。そのため、第3係合装置CL3が第3ギヤG3を伝達出力ギヤ3に連結させた場合には、比較的変速比が大きい第1変速段(低速段)が形成される。一方、第3係合装置CL3が第4ギヤG4を伝達出力ギヤ3に連結させた場合には、比較的変速比が小さい第2変速段(高速段)が形成される。
【0036】
また、本実施形態では、第3係合装置CL3は、いずれの変速段も形成しないニュートラル状態に切り替え可能に構成されている。第3係合装置CL3がニュートラル状態の場合、伝達機構Tが分配用差動歯車機構SPから伝達された回転を第1出力部材O1に伝達しない状態、つまり、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のいずれの駆動力も第1車輪W1に伝達されない状態となる。
【0037】
なお、第3ギヤG3及び第4ギヤG4のいずれかが伝達出力ギヤ3に連結された状態が、第3係合装置CL3の係合状態に相当する。一方、第3ギヤG3及び第4ギヤG4の双方が伝達出力ギヤ3に連結されない状態(ニュートラル状態)が、第3係合装置CL3の解放状態に相当する。本例では、第3係合装置CL3は、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)である。
【0038】
このように、本実施形態では、伝達機構Tは、互いに同軸上に配置された第1ギヤG1及び第2ギヤG2と、当該第1ギヤG1及び第2ギヤG2にそれぞれ噛み合い、互いに同軸上に配置された第3ギヤG3及び第4ギヤG4とを備えた平行軸歯車式の変速機として構成されている。
【0039】
第1出力用差動歯車機構DF1は、第1出力部材O1の回転を一対の第1車輪W1に分配するように構成されている。本実施形態では、第1出力部材O1は、伝達出力ギヤ3に噛み合う第1差動入力ギヤ4である。
【0040】
本実施形態では、第1出力用差動歯車機構DF1は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第1出力用差動歯車機構DF1は、中空の第1差動ケースと、当該第1差動ケースと一体的に回転するように支持された第1ピニオンシャフトと、当該第1ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第1ピニオンギヤと、当該一対の第1ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第1サイドギヤとを備えている。第1差動ケースには、第1ピニオンシャフト、一対の第1ピニオンギヤ、及び一対の第1サイドギヤが収容されている。
【0041】
本実施形態では、第1差動ケースには、第1出力部材O1としての第1差動入力ギヤ4が、当該第1差動ケースから径方向の外側に突出するように連結されている。そして、一対の第1サイドギヤのそれぞれには、第1車輪W1に駆動連結された第1ドライブシャフトDS1が一体的に回転可能に連結されている。こうして、本実施形態では、第1出力用差動歯車機構DF1は、一対の第1ドライブシャフトDS1を介して、第1出力部材O1(ここでは、第1差動入力ギヤ4)の回転を一対の第1車輪W1に分配する。
【0042】
第1係合装置CL1は、入力部材Iと分配用差動歯車機構SPの第1回転要素E1との間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材IとサンギヤS1との間の動力伝達を断接するように構成されている。
図1に示す例では、第1係合装置CL1は、分配用差動歯車機構SPに対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0043】
本実施形態では、第1係合装置CL1は、入力部材Iの側の回転要素である入力要素と、分配用差動歯車機構SPの側の回転要素である出力要素とを備え、これらの係合圧に応じて、係合の状態(係合状態/解放状態)が制御される摩擦係合装置である。つまり、本実施形態では、第1係合装置CL1は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置である。なお、「直結係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がない係合状態である。また、「スリップ係合状態」とは、摩擦係合装置の入力要素と出力要素との間に回転速度差がある係合状態である。
【0044】
第2係合装置CL2は、分配用差動歯車機構SPにおける第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する係合装置である。本実施形態では、第2係合装置CL2は、第2回転要素E2としてのキャリヤC1と、第3回転要素E3としてのリングギヤR1との間の動力伝達を断接するように構成されている。
図1に示す例では、第2係合装置CL2は、軸方向Lにおける第1係合装置CL1と分配用差動歯車機構SPとの間に配置されている。本例では、第2係合装置CL2は、ソレノイド、電動機、油圧シリンダ等のアクチュエータによって係合状態と解放状態とを切り替え可能に構成された噛合い式係合装置(ドグクラッチ)である。
【0045】
図2に示すように、第2回転電機MG2は、第2車輪W2の駆動力源として機能する。第2回転電機MG2は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、第2回転電機MG2は、上記の蓄電装置BT(
図3参照)との間で電力の授受を行うように、当該蓄電装置BTと電気的に接続されている。そして、第2回転電機MG2は、蓄電装置BTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、第2回転電機MG2は、回生中には、第2出力部材O2の側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置BTを充電する。
【0046】
第2回転電機MG2は、第2ステータST2と、第2ロータRT2とを備えている。第2ステータST2は、非回転部材(例えば、第2回転電機MG2等を収容するケース)に固定されている。第2ロータRT2は、第2ステータST2に対して回転自在に支持されている。本実施形態では、第2ロータRT2は、第2ステータST2に対して径方向内側に配置されている。
【0047】
本実施形態では、第2ロータRT2には、軸方向Lに沿って延在するように形成された第2ロータ軸RS2を介して、第2ロータギヤRG2が一体的に回転するように連結されている。本実施形態では、第2ロータギヤRG2は、第5軸X5上に配置されている。
図2に示す例では、第2ロータギヤRG2は、第2ロータRT2よりも軸方向第1側L1に配置されている。
【0048】
カウンタギヤ機構CGは、カウンタ入力ギヤ61と、カウンタ出力ギヤ62と、これらのギヤ61,62を一体的に回転するように連結するカウンタ軸63とを備えている。
【0049】
カウンタ入力ギヤ61は、カウンタギヤ機構CGの入力要素である。本実施形態では、カウンタ入力ギヤ61は、第2ロータギヤRG2に噛み合っている。カウンタ出力ギヤ62は、カウンタギヤ機構CGの出力要素である。
図2に示す例では、カウンタ出力ギヤ62は、カウンタ入力ギヤ61よりも軸方向第2側L2に配置されている。また、カウンタ出力ギヤ62は、カウンタ入力ギヤ61よりも小径に形成されている。
【0050】
第2出力用差動歯車機構DF2は、第2出力部材O2の回転を一対の第2車輪W2に分配するように構成されている。本実施形態では、第2出力部材O2は、カウンタギヤ機構CGのカウンタ出力ギヤ62に噛み合う第2差動入力ギヤ7である。
【0051】
本実施形態では、第2出力用差動歯車機構DF2は、傘歯車型の差動歯車機構である。具体的には、第2出力用差動歯車機構DF2は、中空の第2差動ケースと、当該第2差動ケースと一体的に回転するように支持された第2ピニオンシャフトと、当該第2ピニオンシャフトに対して回転可能に支持された一対の第2ピニオンギヤと、当該一対の第2ピニオンギヤに噛み合って分配出力要素として機能する一対の第2サイドギヤとを備えている。第2差動ケースには、第2ピニオンシャフト、一対の第2ピニオンギヤ、及び一対の第2サイドギヤが収容されている。
【0052】
本実施形態では、第2差動ケースには、第2出力部材O2としての第2差動入力ギヤ7が、当該第2差動ケースから径方向外側に突出するように連結されている。そして、一対の第2サイドギヤのそれぞれには、第2車輪W2に駆動連結された第2ドライブシャフトDS2が一体的に回転可能に連結されている。こうして、本実施形態では、第2出力用差動歯車機構DF2は、一対の第2ドライブシャフトDS2を介して、第2出力部材O2(ここでは、第2差動入力ギヤ7)の回転を一対の第2車輪W2に分配する。
【0053】
図3に示すように、車両用駆動装置100は、内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3を制御する制御装置10を備えている。本実施形態では、制御装置10は、主制御部11と、内燃機関EGを制御する内燃機関制御部12と、第1回転電機MG1を制御する第1回転電機制御部13と、第2回転電機MG2を制御する第2回転電機制御部14と、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3の係合の状態を制御する係合制御部15とを備えている。
【0054】
主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、第2回転電機制御部14、及び係合制御部15のそれぞれに対して、各制御部が担当する装置を制御する指令を出力する。内燃機関制御部12は、内燃機関EGが、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように内燃機関EGを制御する。第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1が、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように第1回転電機MG1を制御する。第2回転電機制御部14は、第2回転電機MG2が、主制御部11から指令された指令トルクを出力するように、或いは、主制御部11から指令された指令回転速度となるように第2回転電機MG2を制御する。係合制御部15は、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3のそれぞれが、主制御部11から指令された係合の状態となるように、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3を動作させるためのアクチュエータ(図示を省略)を制御する。
【0055】
また、主制御部11は、車両用駆動装置100が搭載される車両の各部の情報を取得するために、当該車両の各部に設けられたセンサからの情報を取得可能に構成されている。本実施形態では、主制御部11は、SOCセンサSe1、車速センサSe2、アクセル操作量センサSe3、ブレーキ操作量センサSe4、シフト位置センサSe5、車輪回転速度センサSe6、及び舵角センサSe7からの情報を取得可能に構成されている。
【0056】
SOCセンサSe1は、第1回転電機MG1及び第2回転電機MG2と電気的に接続された蓄電装置BTの状態を検出するためのセンサである。SOCセンサSe1は、例えば、電圧センサや電流センサ等により構成されている。主制御部11は、SOCセンサSe1から出力される電圧値や電流値等の情報に基づいて、蓄電装置BTの充電量(SOC:State of Charge)を算出する。
【0057】
車速センサSe2は、車両用駆動装置100が搭載される車両の走行速度(車速)を検出するためのセンサである。本実施形態では、車速センサSe2は、第1出力部材O1の回転速度を検出するためのセンサである。主制御部11は、車速センサSe2の検出信号に基づいて、第1出力部材O1の回転速度(角速度)を算出する。第1出力部材O1の回転速度は車速に比例するため、主制御部11は、車速センサSe2の検出信号に基づいて車速を算出することができる。
【0058】
アクセル操作量センサSe3は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたアクセルペダルの運転者による操作量(アクセル開度)を検出するためのセンサである。主制御部11は、アクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて、アクセル開度を算出する。
【0059】
ブレーキ操作量センサSe4は、車両用駆動装置100が搭載される車両に設けられたブレーキペダルの運転者による操作量を検出するためのセンサである。主制御部11は、ブレーキ操作量センサSe4の検出信号に基づいて、運転者によるブレーキペダルの操作量を算出する。
【0060】
シフト位置センサSe5は、車両用駆動装置100が搭載される車両の運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。主制御部11は、シフト位置センサSe5の検出信号に基づいてシフト位置を算出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)等を選択可能に構成されている。
【0061】
車輪回転速度センサSe6は、第2車輪W2の回転速度を検出するためのセンサである。舵角センサSe7は、車両用駆動装置100が搭載される車両の運転者により操作されるステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出するためのセンサである。主制御部11は、舵角センサSe7の検出信号に基づいて、運転者による第1車輪W1の操舵角を算出する。
【0062】
主制御部11は、上記のセンサSe1~Se5からの情報に基づいて、後述する第1駆動ユニットDU1における複数の動作モードの選択を行う。主制御部11は、係合制御部15を介して、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3のそれぞれを、選択した動作モードに応じた係合の状態に制御することにより、当該選択した動作モードへ移行する。更に、主制御部11は、内燃機関制御部12、第1回転電機制御部13、及び第2回転電機制御部14を介して、内燃機関EG、第1回転電機MG1、及び第2回転電機MG2の動作状態を協調制御することにより、選択した動作モードに応じた適切な車両の走行を可能とする。
【0063】
また、主制御部11は、上記のセンサSe6,Se7からの情報に基づいて、詳しくは後述するように、モード移行(動作モードの変更)を行う場合の具体的な制御内容を切り替える。
【0064】
図4に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置100は、動作モードとして、電気式トルクコンバータモード(以下、「eTCモード」と記す)と、第1EVモードと、第2EVモードと、第1HVモードと、第2HVモードと、充電モードとを切替可能に備えている。
【0065】
図4に、本実施形態の各動作モードにおける、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3の状態を示す。なお、
図4の第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の欄において、「〇」は対象の係合装置が係合状態であることを示し、「×」は対象の係合装置が解放状態であることを示している。また、
図4の第3係合装置CL3の欄において、「Lo」は、第3係合装置CL3が第3ギヤG3と伝達出力ギヤ3とを連結して、伝達機構Tが第1変速段(低速段)を形成している状態であることを示す。「Hi」は、第3係合装置CL3が第4ギヤG4と伝達出力ギヤ3とを連結して、伝達機構Tが第2変速段(高速段)を形成している状態であることを示す。「N」は、第3係合装置CL3が第3ギヤG3及び第4ギヤG4の双方を伝達出力ギヤ3から切り離し、伝達機構Tがニュートラル状態であることを示している。
【0066】
eTCモードは、分配用差動歯車機構SPにより、第1回転電機MG1のトルクを反力として内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1に伝達することで車両を走行させるモードである。eTCモードは、内燃機関EGのトルクを増幅して第1出力部材O1に伝達することができるため、所謂、電気式トルクコンバータモードと称される。
【0067】
図4に示すように、eTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態、第2係合装置CL2が解放状態、第3係合装置CL3が係合状態とされる。そして、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達される。本実施形態のeTCモードでは、第1係合装置CL1が係合状態となり、第2係合装置CL2が解放状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tが第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。eTCモードは、「第2モード」に相当する。
【0068】
本実施形態のeTCモードでは、第1回転電機MG1は、負回転しつつ正トルクを出力して発電し、分配用差動歯車機構SPは、第1回転電機MG1の駆動力と内燃機関EGの駆動力とを合わせて、内燃機関EGの駆動力よりも大きい駆動力を第2回転要素E2(ここでは、キャリヤC1)から出力する。そして、第2回転要素E2の回転は、伝達機構Tにおいて第1変速段(低速段)に応じた変速比で変速されて第1出力部材O1に伝達される。そのため、蓄電装置BTの充電量が比較的低い場合であってもeTCモードを選択可能である。
【0069】
第1EVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、比較的低速で車両を走行させるモードである。第2EVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、第1回転電機MG1のみの駆動力により、比較的高速で車両を走行させるモードである。
【0070】
図4に示すように、第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2が係合状態、第3係合装置CL3が係合状態とされる。そして、内燃機関EGが駆動力を出力しない停止状態とされ、第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達される。本実施形態の第1EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tが第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。一方、本実施形態の第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tが第2変速段(高速段)を形成した状態となるように制御される。第1EVモードは、「第1モード」に相当する。
【0071】
本実施形態の第1EVモード及び第2EVモードでは、第1係合装置CL1が解放状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPから分離されて、内燃機関EGと第1出力部材O1との間での動力伝達が遮断された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、第1回転電機MG1の側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま伝達機構Tの第1ギヤG1及び第2ギヤG2に伝達される。そして、伝達機構Tに伝達された回転は、第3係合装置CL3の状態に応じて、第1EVモードでは第1変速段(低速段)の変速比、第2EVモードでは第2変速段(高速段)の変速比で変速されて、第1出力部材O1に伝達される。
【0072】
第1HVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、少なくとも内燃機関EGの駆動力により、比較的低速で車両を走行させるモードである。第2HVモードは、内燃機関EG及び第1回転電機MG1のうち、少なくとも内燃機関EGの駆動力により、比較的高速で車両を走行させるモードである。
【0073】
図4に示すように、本実施形態の第1HVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の双方が係合状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tが第1変速段(低速段)を形成した状態となるように制御される。一方、本実施形態の第2HVモードでは、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の双方が係合状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tが第2変速段(高速段)を形成した状態となるように制御される。
【0074】
本実施形態の第1HVモード及び第2HVモードでは、第1係合装置CL1が係合状態とされることにより、内燃機関EGが分配用差動歯車機構SPに連結された状態となる。そして、第2係合装置CL2が係合状態とされることにより、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。その結果、内燃機関EGの側及び第1回転電機MG1の側から分配用差動歯車機構SPに入力される回転が、そのまま伝達機構Tの第1ギヤG1及び第2ギヤG2に伝達される。そして、伝達機構Tに伝達された回転は、第3係合装置CL3の状態に応じて、第1HVモードでは第1変速段(低速段)の変速比、第2HVモードでは第2変速段(高速段)の変速比で変速されて第1出力部材O1に伝達される。
【0075】
充電モードは、内燃機関EGの駆動力により第1回転電機MG1に発電を行わせて、蓄電装置BTを充電するモードである。
図4に示すように、本実施形態の充電モードでは、第1係合装置CL1が係合状態となり、第2係合装置CL2が係合状態となり、第3係合装置CL3は伝達機構Tがニュートラル状態となるように制御される。そして、内燃機関EGが駆動力を出力し、第1回転電機MG1が内燃機関EGの駆動力によって回転する第1ロータRT1の回転方向とは反対方向の駆動力を出力することにより発電するように制御される。なお、充電モードでは、車両を停車させていても良いし、第1回転電機MG1が発電した電力により第2回転電機MG2を力行させ、当該第2回転電機MG2の駆動力を第2車輪W2に伝達することで車両を走行させても良い。このように充電モードとしつつ第2回転電機MG2の駆動力によって車両を走行させるモードは、所謂、シリーズハイブリッドモードと称される。
【0076】
制御装置10は、第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)に移行する場合に、第1移行制御を実行可能である。
【0077】
図5から
図10に、第1移行制御の実行中における分配用差動歯車機構SPの速度線図を示す。
図5から
図10の速度線図において、縦軸は、分配用差動歯車機構SPの各回転要素の回転速度に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれは、分配用差動歯車機構SPの各回転要素に対応している。また、
図5から
図10の速度線図において、複数本の縦線の上方に示された符号は、対応する回転要素の符号である。そして、複数本の縦線の下方に示された符号は、上方に示された符号に対応する回転要素に駆動連結された要素の符号である。また、
図5から
図10の速度線図において、第1回転要素E1に対応する縦線(左側の縦線)上に示された丸印の記号は、第1係合装置CL1の状態を表し、三角印の記号は内燃機関EGの回転速度を表している。また、第2回転要素E2に対応する縦線(中央の縦線)上に示された丸印の記号は、第3係合装置CL3の状態を表し、星印の記号は動力伝達経路における第2回転要素E2の位置での第1出力部材O1の換算回転速度を表している。また、第3回転要素E3に対応する縦線(右側の縦線)上に示された記号は、第2係合装置CL2の状態を表している。なお、各係合装置CL1~CL3状態を表す丸印の記号として、黒丸は対応する係合装置が直結係合状態であることを表し、白丸は対応する係合装置が解放状態であることを表している。
【0078】
第1移行制御は、車両用駆動装置100の動作モードが第1モード(ここでは、第1EVモード)の状態で実行される。
図5は、第1EVモードにおける分配用差動歯車機構SPの速度線図である。
図5に示すように、第1EVモードでは、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となる。このとき、図示の例では、それらの回転要素E1~E3の回転速度は、内燃機関EGのアイドル回転速度Nid(
図6参照)未満となっている。
【0079】
図6に示すように、第1移行制御では、まず、制御装置10は、第2係合装置CL2を係合状態に維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる第1制御を実行する。これにより、第2係合装置CL2の係合状態で分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態を保ったまま、第3係合装置CL3の解放状態で3つの回転要素E1~E3の回転速度を変更可能となる。
【0080】
制御装置10は、第1制御の後に、分配用差動歯車機構SPの全体の回転速度を上昇させるように第1ロータRT1の回転速度を制御する第2制御を実行する。本実施形態では、制御装置10は、分配用差動歯車機構SPの全体の回転速度を、内燃機関EGが自立運転可能な回転速度であるアイドル回転速度Nidまで上昇させるように、第1ロータRT1の回転速度を制御する。なお、
図6は、第2制御後における分配用差動歯車機構SPの速度線図である。
【0081】
図7に示すように、制御装置10は、第2制御の後に、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる第3制御を実行する。上記のとおり、本実施形態の第1係合装置CL1は係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置であり、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させる過程で、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して、第1回転電機MG1の駆動力が内燃機関EGに伝達される。その結果、内燃機関EGの回転速度がゼロから次第に上昇していき、点火可能な回転速度以上となった後に実際に点火されて内燃機関EGが始動する。始動後の内燃機関EGは、第1係合装置CL1の直結係合状態で、アイドル回転速度Nidで自立運転する。
【0082】
図8から
図10に示すように、制御装置10は、第3制御の後に、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させてから、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させると共に、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させ、再度第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させる第4制御を実行する。本例では、第3制御において係合状態とされた第1係合装置CL1を再度解放状態とすることで、内燃機関EGがアイドル回転速度Nidで自立運転した状態を保ったまま、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3の回転速度を低下させることができる。
【0083】
続いて、制御装置10は、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3の回転速度を、第1出力部材O1の換算回転速度まで低下させる(
図9参照)。これにより、伝達機構Tに含まれる第3ギヤG3と伝達出力ギヤ3とが同期回転する状態となって、それらを一体回転するように連結することができる(伝達機構Tは、第1変速段(低速段)を形成した状態となる)。
【0084】
続いて、制御装置10は、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させ、第1係合装置CL1を解放状態から再度係合状態に変化させる。第2係合装置CL2を解放状態とすることで、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに相対回転する状態となる。この状態で、第1係合装置CL1を係合状態とすることにより、第2モード(ここでは、eTCモード)への移行が完了する(
図10参照)。
【0085】
図11は、第1移行制御の一例を示すタイムチャートである。なお、
図11の「回転速度」のチャートにおいて、「N1」は第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度を表し、「N2」は第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度を表し、「N3」は第3回転要素E3としてのリングギヤR1の回転速度である第3回転速度を表し、「Ne」は内燃機関EGの回転速度である内燃機関回転速度を表している。また、「S」は、第3係合装置CL3を係合状態とした場合に第1出力部材O1の回転速度に応じて定まるキャリヤC1の回転速度(同期線)を表している。
【0086】
図11に示すように、まず、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1のトルクを時間t1から次第に減少させ、時間t2にゼロとする。次に、係合制御部15は、時間t2から時間t3にかけて、第3係合装置CL3を係合状態(ここでは、第3ギヤG3と伝達出力ギヤ3とを連結している状態)から解放状態(ここでは、ニュートラル状態)に変化させる。
【0087】
そして、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t3から上昇して時間t4にアイドル回転速度Nidとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。このとき、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となっている。その結果、第1回転速度N1と第2回転速度N2と第3回転速度N3とが、一体的に上昇し、時間t4にアイドル回転速度Nidとなる。
【0088】
続いて、主制御部11は、時間t5において、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。その結果、第1係合装置CL1の係合圧が上昇し始め、第1係合装置CL1がスリップ係合状態となる。このスリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neが時間t5から上昇して時間t7にアイドル回転速度Nidとなる。内燃機関制御部12は、時間t5から時間t7の間で内燃機関EGを始動させる。このとき、第1移行制御では、第3係合装置CL3が解放状態となっているため、第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動が第1出力部材O1に伝達されることはない。
【0089】
内燃機関EGの始動後、係合制御部15は、時間t6において、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させる。そして、第1回転電機制御部13は、第1出力部材O1に駆動連結された第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度N2が、時間t6から下降して時間t7に、動力伝達経路におけるキャリヤC1の位置での第1出力部材O1の換算回転速度(
図11における同期線S参照)となるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。このとき、第2係合装置CL2が係合状態であるため、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が互いに一体的に回転する状態となっている。その結果、第1回転速度N1と第2回転速度N2と第3回転速度N3とが、一体的に下降する。
【0090】
続いて、係合制御部15は、時間t7から時間t8にかけて、第3係合装置CL3を解放状態(ここでは、ニュートラル状態)から係合状態(ここでは、第3ギヤG3と伝達出力ギヤ3とを連結している状態)に変化させる。そして、係合制御部15は、時間t8から時間t9にかけて、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態とする。時間t9に第2係合装置CL2が解放状態となることに伴い、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が相対回転可能な状態となる。
【0091】
その後、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t9から上昇して時間t10に内燃機関回転速度Neに一致する(ここでは、アイドル回転速度Nidとなる)ように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。
【0092】
そして、主制御部11は、時間t10以降に第1係合装置CL1が直結係合状態となるように、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。
【0093】
このように、車両用駆動装置100は、
内燃機関EGに駆動連結される入力部材Iと、
第1車輪W1に駆動連結される第1出力部材O1と、
第2車輪W2に駆動連結される第2出力部材O2と、
第1ロータRT1を備えた第1回転電機MG1と、
第2ロータRT2を備えた第2回転電機MG2と、
第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3を備え、第1回転要素E1が入力部材Iに駆動連結され、第3回転要素E3が第1ロータRT1に駆動連結された分配用差動歯車機構SPと、
入力部材Iと第1回転要素E1との間の動力伝達を断接する第1係合装置CL1と、
第1回転要素E1、第2回転要素E2、及び第3回転要素E3の3つの回転要素のうちから選択される2つの間の動力伝達を断接する第2係合装置CL2と、
少なくとも第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を行うと共に、第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達を断接する第3係合装置CL3を備えた伝達機構Tと、
内燃機関EG、第1回転電機MG1、第2回転電機MG2、第1係合装置CL1、第2係合装置CL2、及び第3係合装置CL3を制御する制御装置10と、を備え、
第2ロータRT2が、第1出力部材O1を介することなく第2出力部材O2に駆動連結された、車両用駆動装置100であって、
動作モードとして、第1モードと、第2モードと、を備え、
第1モードでは、第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2が係合状態、第3係合装置CL3が係合状態とされ、内燃機関EGが駆動力を出力しない停止状態とされ、第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達され、
第2モードでは、第1係合装置CL1が係合状態、第2係合装置CL2が解放状態、第3係合装置CL3が係合状態とされ、内燃機関EG及び第1回転電機MG1の駆動力が第1出力部材O1に伝達され、
制御装置10は、第1モードから第2モードに移行する場合に、第1移行制御を実行可能であり、
第1移行制御は、第2係合装置CL2を係合状態に維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させた後に、分配用差動歯車機構SPの全体の回転速度を上昇させるように第1ロータRT1の回転速度を制御すると共に第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させ、その後、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させてから、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させると共に、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させ、再度第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させる制御である。
【0094】
この構成によれば、第1移行制御において、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させた後に、第3係合装置CL3の解放状態で内燃機関EGを始動させるため、内燃機関EGの始動による駆動力の変動が第1車輪W1に伝達されるのを回避することができる。内燃機関EGの始動後は、一旦、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させることで、第3係合装置CL3の形式によらずに当該第3係合装置CL3を適切に解放状態から係合状態に変化させることができる。そして、第3係合装置CL3を係合状態とすると共に、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させ、第1係合装置CL1を再度係合状態に変化させることで、駆動力の抜けを回避しながら第2モードへの移行を完了することができる。その際、第1係合装置CL1の再係合を適切に制御しながら行うことで、第1車輪W1に伝達される駆動力が大きく変動するのを回避することができる。このように、本構成によれば、第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)への移行、すなわち内燃機関EGの始動を伴う動作モードの移行の際に、駆動力の抜けや駆動力の大きな変動を生じにくくすることができる。
【0095】
以下では、車両用駆動装置100の動作モードを第1モードから第2モードに移行する場合における制御装置10の制御処理について、
図12から
図14を参照して説明する。
【0096】
図12は、車両用駆動装置100の動作モードを第1モード(ここでは、第1EVモード)から第2モード(ここでは、eTCモード)に移行する場合における制御装置10の制御処理の一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、まず、制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードであるか否かを判断する(ステップ#1)。本実施形態では、主制御部11が、内燃機関制御部12を介して内燃機関EGが停止状態であるか否か、第1回転電機制御部13を介して第1回転電機MG1が力行状態であるか否か、係合制御部15を介して第1係合装置CL1が解放状態、第2係合装置CL2及び第3係合装置CL3が係合状態であるかを判断することにより、上記の判断を行う。
【0097】
制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードではないと判断した場合(ステップ#1:No)、制御を終了する。一方、制御装置10は、車両用駆動装置100の現在の動作モードが第1EVモードであると判断した場合(ステップ#1:Yes)、eTCモードへの移行要求があるか否かを判断する(ステップ#2)。本実施形態では、主制御部11が、SOCセンサSe1の検出信号に基づいて算出した蓄電装置BTの充電量、車速センサSe2の検出信号に基づいて算出した車速、アクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて算出したアクセル開度、ブレーキ操作量センサSe4の検出信号に基づいて算出したブレーキペダルの操作量、及びシフト位置センサSe5の検出信号に基づいて算出したシフト位置等に基づき、上記の判断を行う。
【0098】
制御装置10は、eTCモードへの移行要求があった場合(ステップ#2:Yes)、特定移行条件が満たされているか否かを判断する(ステップ#3)。ここで、本実施形態では、特定移行条件は、車両用駆動装置100が第1車輪W1と第2車輪W2とに伝達する必要がある駆動力の合計である要求駆動力(以下、「要求駆動力Td」と示す。)が、予め定められた判定しきい値(以下、「判定しきい値Tt」と示す。)以上であること(条件1)を少なくとも含む条件とされている。本実施形態では、主制御部11が、車速センサSe2の検出信号に基づいて算出した車速及びアクセル操作量センサSe3の検出信号に基づいて算出したアクセル開度に基づき、条件1が満たされているか否かを判断する。
【0099】
さらに本実施形態では、特定移行条件は、第2車輪W2が空転していないこと(条件2)、並びに、操舵輪である第1車輪W1の舵角が規定のしきい値以下であること(条件3)を含む条件とされている。第2車輪W2が空転している場合には、後述する駆動力補助制御の実効性が確保できないためである。また、コーナリング中は駆動力の前後バランスの変動を極力回避することが好ましいからである。本実施形態では、主制御部11が、車輪回転速度センサSe6の検出信号に基づいて算出した第2車輪W2の回転速度に基づき、条件2が満たされているか否かを判断し、舵角センサSe7の検出信号に基づいて算出した第1車輪W1の操舵角に基づき、条件3が満たされているか否かを判断する。
【0100】
そして、主制御部11は、上記の条件1から条件3のうちの少なくとも1つが満たされていない場合、特定移行条件が満たされていないと判断する(ステップ#3:No)。この場合、上記の第1移行制御を実行する(ステップ#10)。一方、主制御部11は、上記の条件1から条件3が全て満たされている場合、特定移行条件が満たされていると判断する(ステップ#3:Yes)。この場合、第1移行制御とは異なる第2移行制御を実行する(ステップ#20)。
【0101】
図13は、第1移行制御の一例を示すフローチャートである。
図13に示すように、第1移行制御では、まず、制御装置10は、第2係合装置CL2を係合状態に維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる(ステップ#11)。なお、このとき、第1係合装置CL1は、解放状態が維持されている。本実施形態では、係合制御部15が、第1係合装置CL1及び第2係合装置CL2の係合の状態を維持しつつ、第3係合装置CL3を係合状態から解放状態に変化させる。
【0102】
次に、制御装置10は、第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1がアイドル回転速度Nidに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する(ステップ#12)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1をアイドル回転速度Nidまで上昇させる。
【0103】
続いて、制御装置10は、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作を開始させ(ステップ#13)、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。そして、制御装置10は、内燃機関回転速度Neが点火可能回転速度Nfに到達したか否かを判断する(ステップ#14)。
【0104】
制御装置10は、内燃機関回転速度Neが点火可能回転速度Nfに到達した場合(ステップ#14:No)、内燃機関EGに点火して当該内燃機関EGを始動させる(ステップ#15)。
【0105】
その後、係合制御部15が、第1係合装置CL1を係合状態から解放状態に変化させる(ステップ#16)。そして、第1回転電機制御部13が、第1出力部材O1に駆動連結された第2回転要素E2としてのキャリヤC1の回転速度である第2回転速度N2が、その時点で第3係合装置CL3を係合状態とした場合に第1出力部材O1の回転速度に応じて定まるキャリヤC1の回転速度となるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する(ステップ#17)。続いて、係合制御部15が、第3係合装置CL3を解放状態から係合状態に変化させ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる(ステップ#18)。その後、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1を、アイドル回転速度Nidまで上昇させる(ステップ#19)。そして、係合制御部15は、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させることで(ステップ#20)、動作モードをeTCモードとする。
【0106】
図14は、第2移行制御の一例を示すフローチャートである。
図14に示すように、第2移行制御では、まず、制御装置10は、第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる第5制御を実行する(ステップ#21)。なお、このとき、第1係合装置CL1は、解放状態が維持されている。本実施形態では、係合制御部15が、第1係合装置CL1及び第3係合装置CL3の係合の状態を維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させる。
【0107】
次に、制御装置10は、第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1がアイドル回転速度Nidに近付くように、第1ロータRT1の回転速度を制御する第5制御を実行する(ステップ#22)。本実施形態では、第1回転電機制御部13が、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行して、第1回転速度N1をアイドル回転速度Nidまで上昇させる。
【0108】
続いて、制御装置10は、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作を開始させ(ステップ#23)、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。そして、制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(アイドル回転速度Nid)に到達したか否かを判断する(ステップ#24)。
【0109】
制御装置10は、内燃機関回転速度Neが第1回転速度N1(アイドル回転速度Nid)に到達した場合(ステップ#24:No)、内燃機関EGを始動させることで(ステップ#25)、動作モードをeTCモードとして、第2移行制御を終了する。なお、上記のステップ#23~#25が、第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる第7制御である。
【0110】
図15は、第2移行制御の一例を示すタイムチャートである。
図15に示すように、まず、第1回転電機制御部13は、第1回転電機MG1のトルクを時間t21から次第に減少させ、時間t22にゼロとする。
【0111】
次に、係合制御部15は、時間t22から時間t23にかけて、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態とする。時間t23に第2係合装置CL2が解放状態となることに伴い、分配用差動歯車機構SPの3つの回転要素E1~E3が相対回転可能な状態となる。
【0112】
そして、第1回転電機制御部13は、入力部材Iを介して内燃機関EGに駆動連結された第1回転要素E1としてのサンギヤS1の回転速度である第1回転速度N1が、時間t23から上昇して時間t24にアイドル回転速度Nidとなるように、第1回転電機MG1の回転速度制御を実行する。
【0113】
続いて、主制御部11は、時間t24において、係合制御部15に第1係合装置CL1を係合状態とする指令を行う。その結果、第1係合装置CL1の係合圧が時間t25から上昇し始め、第1係合装置CL1がスリップ係合状態となる。そして、第1回転電機制御部13は、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neが上昇して時間t26に第1回転速度N1(アイドル回転速度Nid)となるように、第1回転電機MG1を制御する。内燃機関制御部12は、時間t25から時間t26の間で内燃機関EGを始動させる。
【0114】
このように、本実施形態では、
制御装置10は、第1モードから第2モードに移行する場合に、第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行可能であり、
第2移行制御は、第3係合装置CL3を係合状態に維持しつつ、第2係合装置CL2を係合状態から解放状態に変化させた後に、第1回転要素E1の回転速度を上昇させるように第1ロータRT1の回転速度を制御すると共に第1係合装置CL1を解放状態から係合状態に変化させ、第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる制御であり、
第1車輪W1と第2車輪W2とに伝達する必要がある駆動力の合計を要求駆動力Tdとして、
制御装置10は、要求駆動力Tdが予め定められた判定しきい値Tt以上であることを含む特定移行条件を満たす場合に第2移行制御を実行し、特定移行条件を満たさない場合に第1移行制御を実行する。
【0115】
この構成によれば、要求駆動力Tdが比較的小さく内燃機関EGを迅速に始動する必要がない場合に第1移行制御を実行するため、上述したように駆動力の抜けや駆動力の大きな変動を生じにくくすることができる。よって、良好な走行快適性を実現することができる。一方、要求駆動力Tdが比較的大きく内燃機関EGを迅速に始動する必要がある場合には、第2移行制御を実行することにより、迅速に内燃機関を始動して第2モードへの移行を完了させることができる。よって、大きな駆動力を迅速に第1車輪W1に伝達することができる。このように、要求駆動力Tdと判定しきい値Ttとの大小関係に基づいて第1移行制御と第2移行制御とを切り替えることで、その時点の走行状態に応じて走行快適性と迅速な駆動力確保とのいずれかを適切に優先して、車両を走行させることができる。
【0116】
なお、判定しきい値Ttは、車両を加速させるために必要な駆動力の大きさに設定されていることが好ましい。この判定しきい値Ttは、固定された値に設定されていても良いし、車両の設定や走行状態等に応じて異なる値に設定されていても良い。或いは、判定しきい値Ttは、車種に応じて異なる値に設定されていても良い。また、その時点での車速等に応じた可変値とされても良い。
【0117】
また、本実施形態では、
第1係合装置CL1は、係合状態として直結係合状態とスリップ係合状態とを含む摩擦係合装置であり、
第1係合装置CL1が直結係合状態であって内燃機関EGが自立運転可能な回転速度で回転している場合における第1回転要素E1の回転速度を自立可能回転速度(アイドル回転速度Nid)として、
制御装置10は、第2移行制御において、第1回転要素E1の回転速度が自立可能回転速度(アイドル回転速度Nid)以上となるように第1ロータRT1の回転速度を制御した状態で、第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て直結係合状態へ変化させる係合動作中に内燃機関EGを始動させ、その後、第1係合装置CL1を直結係合状態とすることで第2モードに移行する。
【0118】
この構成によれば、第2移行制御において、内燃機関EGを始動した後、そのまま第1係合装置CL1をスリップ係合状態から直結係合状態にするだけで第2モードへ移行することができる。よって、より迅速に第2モードへ移行することができる。
【0119】
ところで、上記のように第2移行制御では、時間t25から時間t26にかけて、スリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して第1回転電機MG1から内燃機関EGに伝達される駆動力により、内燃機関回転速度Neを上昇させる。このとき、第2移行制御では、第3係合装置CL3が係合状態となっているため、第1回転電機MG1及び内燃機関EG等の駆動力の変動が第1出力部材O1に伝達されることに起因して、第1駆動ユニットDU1に駆動力の変動が生じる可能性がある。
【0120】
そこで本実施形態では、制御装置10は、第2移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する。本例では、制御装置10は、駆動力補助制御にて、第2移行制御を実行した場合に内燃機関EG及び第1回転電機MG1から第1出力部材O1に伝達される負の駆動力(以下、「始動反力Tr」と言う。)を補うように、第2回転電機MG2に正の駆動力を出力させる。なお、
図15に示す例では、第2駆動ユニットDU2のトルクに関して、駆動力補助制御を実行しない場合の例を比較のために破線で示している。
【0121】
第2移行制御においてこのような駆動力補助制御を実際に実行可能とするためには、追加的に正の駆動力を出力できるように、第2回転電機MG2が余力を残している必要がある。このため、第1移行制御及び第2移行制御のどちらを実行するかを判断するための基準となる特定移行条件には、上記の条件1から条件3に加え、第2回転電機MG2が出力中の駆動力と第2回転電機MG2が出力可能な上限駆動力との差(以下、第2回転電機MG2の「余剰駆動力Ts」と言う。)が、駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力(以下、「必要駆動力Tn」と言う。)以上であること(条件4)が含まれることが好ましい。
【0122】
このように、本実施形態では、
第2移行制御を実行した場合に内燃機関EG及び第1回転電機MG1から第1出力部材O1に伝達される負の駆動力を始動反力Trとし、始動反力Trを補うように第2回転電機MG2に正の駆動力を出力させる制御を駆動力補助制御として、
特定移行条件は、更に、第2回転電機MG2が出力中の駆動力と第2回転電機MG2が出力可能な上限駆動力との差である余剰駆動力Tsが、駆動力補助制御を実行するために必要な駆動力である必要駆動力Tn以上であることを含む。
【0123】
この構成によれば、迅速に内燃機関EGを始動して第2モードへの移行を完了させ、大きな駆動力を迅速に第1車輪W1に伝達することができるようにしつつ、車両全体として、車輪W1,W2に伝達される駆動力変動を小さく抑えることができる。
【0124】
ここで、特定移行条件の充足性に基づく第1移行制御と第2移行制御との切り替えは、車両が低車速で走行中であることを条件として行うように構成しても良い。より具体的には、例えば第3係合装置CL3を係合状態とした場合に車速に応じて定まるキャリヤC1の回転速度がアイドル回転速度Nid未満である場合に、上述したように、特定移行条件の充足性に基づく第1移行制御と第2移行制御との切り替えを行うように構成しても良い。なお、車両が低車速で走行中であることの判定条件は、上記以外にも、適宜設定されて良い。
【0125】
この場合において、車両が低車速で走行中でない場合には、第3移行制御を実行するように構成しても良い。第3移行制御では、第2係合装置CL2及び第3係合装置CL3の係合状態で第1係合装置CL1を解放状態からスリップ係合状態を経て係合状態に変化させ、第1回転電機MG1からスリップ係合状態の第1係合装置CL1を介して伝達される駆動力により内燃機関EGを始動させる。
【0126】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、車両用駆動装置100が第1駆動ユニットDU1と第2駆動ユニットDU2とを備えた構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、車両用駆動装置100が第1駆動ユニットDU1だけを備え、第2駆動ユニットDU2を備えていない構成としても良い。この場合、
図16に示すように、第1駆動ユニットDU1が第2回転電機MG2を備えて構成される。
図16に示す例では、第2回転電機MG2の第2ロータRT2と一体的に回転する第2ロータギヤRG2が、第1出力部材O1としての第1差動入力ギヤ4の周方向における伝達出力ギヤ3とは異なる位置で、第1差動入力ギヤ4に噛み合っている。また、図示は省略するが、第2ロータギヤRG2が伝達出力ギヤ3に噛み合う構成であっても良い。これらの構成では、第2回転電機MG2が、分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達経路における第3係合装置CL3よりも第1出力部材O1の側で、第1出力部材O1に駆動連結されている。
【0127】
このように、本実施形態の車両用駆動装置100は、第2ロータRT2が、第1出力部材O1を介することなく第2出力部材O2に駆動連結され、又は、第2回転要素E2と第1出力部材O1との間の動力伝達経路における第3係合装置CL3よりも第1出力部材O1の側で第1出力部材O1に駆動連結された構成であって良い。
【0128】
(2)上記の実施形態では、第1係合装置CL1が係合状態であって第2係合装置CL2が解放状態で実現される車両用駆動装置100の動作モード(第2モード)が、上述した電気式トルクコンバータモード(eTCモード)である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば分配用差動歯車機構SPが、第1係合装置CL1が係合状態であって第2係合装置CL2が解放状態で、いわゆるスプリットハイブリッドモードを実現するように構成されていても良い。ここで、スプリットハイブリッドモードとは、内燃機関EGのトルクを第1回転電機MG1の側と第1出力部材O1の側(伝達機構Tの側)とに分配し、第1回転電機MG1のトルクを反力として、内燃機関EGのトルクに対して減衰したトルクを第1出力部材O1の側に伝達するモードである。この場合、分配用差動歯車機構SPの各回転要素の回転速度の順は、第2回転要素E2、第1回転要素E1、第3回転要素E3の順とすると良い。例えば、分配用差動歯車機構SPをシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成する場合、サンギヤを第3回転要素E3として第1ロータRT1に駆動連結し、キャリヤを第1回転要素E1として入力部材Iに駆動連結し、リングギヤを第2回転要素E2として分配用差動歯車機構SPの出力要素とすることができる。このモードでは、第1回転電機MG1は正回転しつつ負トルクを出力して発電し、分配用差動歯車機構SPは、当該第1回転電機MG1のトルクを反力として、内燃機関EGのトルクを第2回転要素E2から出力する。そして、当該第2回転要素E2の回転は、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される。
【0129】
(3)上記の実施形態では、伝達機構Tが第1変速段(低速段)及び第2変速段(高速段)の2つの変速段のいずれかを形成可能な変速機である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達機構Tが3つ以上の変速段のいずれかを形成可能な変速機であっても良い。或いは、伝達機構Tが分配用差動歯車機構SPの第2回転要素E2から伝達される回転を、一定の変速比で変速する固定変速比の変速機(減速機又は増速機)であっても良い。
【0130】
(4)上記の実施形態では、伝達機構Tが平行軸歯車式の変速機である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、伝達機構Tが遊星歯車式の変速機として構成されていても良い。
【0131】
(5)上記の実施形態では、第2移行制御の実行中、伝達機構Tを介して第1出力部材O1に伝達される第1回転電機MG1及び内燃機関EGからの駆動力の変動を補うように、第2回転電機MG2に駆動力を出力させる駆動力補助制御を実行する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、駆動力補助制御を実行しない構成としても良い。
【0132】
(6)上記の実施形態において、特定移行条件の充足性に基づく第1移行制御と第2移行制御との切り替えを行う車速域(低車速域)での走行中は、第1駆動ユニットDU1と第2駆動ユニットDU2との駆動力配分を調整しても良い。例えば、第1駆動ユニットDU1(第1回転電機MG1)の駆動力に対する第2駆動ユニットDU2(第2回転電機MG2)の駆動力の比(駆動力比)を、それ以外の車速域での走行中に比べて高めるように調整しても良い。このようにすれば、第1駆動ユニットDU1(第1回転電機MG1)の駆動力が抜けるまでの時間を短くすることができ、内燃機関EGの始動レスポンスを向上させることができる。
【0133】
(7)上記の実施形態では、特定移行条件が満たされているか否かに基づいて第1移行制御と第2移行制御とを選択的に実行する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第1モードから第2モードに移行する場合には、常に第1移行制御を実行しても良い。
【0134】
(8)上記の実施形態では、特定移行条件が、条件1を少なくとも含むと共に条件2から条件4の少なくとも1つを更に含む構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば条件1(要求駆動力Tdが予め定められた判定しきい値Tt以上であること)だけがそのまま特定移行条件とされても良い。或いは、特定移行条件に他の条件がさらに含まれても良い。このような他の条件としては、例えば第2車輪W2が空転する可能性が高い走行条件でないこと(条件5)が例示される。第2車輪W2が空転する可能性が高い場合には、駆動力補助制御の実効性が確保できない可能性が高いためである。なお、第2車輪W2が空転する可能性が高い走行条件であるか否かは、例えば車両に搭載されたナビゲーションシステムが有する地図情報や、車両の周辺の風景を撮影するフロントカメラ又はリヤカメラから得られる画像情報等に基づいて判断することができる。
【0135】
このように、本実施形態では、
特定移行条件は、更に、第1車輪W1及び第2車輪W2の少なくとも一方が空転していないこと、第1車輪W1及び第2車輪W2の少なくとも一方が空転する可能性が高い走行条件でないこと、及び、第1車輪W1及び第2車輪W2のうちのいずれかである操舵輪の舵角が規定のしきい値以下であること、の少なくとも1つを含む。
【0136】
この構成によれば、車両の走行状況が、第2回転電機MG2による駆動力補助制御を実行するのに適している状況である場合に限って第2移行制御を実行することができる。よって、迅速に内燃機関EGを始動して第2モードへの移行を完了させ、大きな駆動力を迅速に第1車輪W1に伝達することができるようにしつつ、車両全体として、車輪W1,W2に伝達される駆動力変動を小さく抑えることができる。
【0137】
(9)上記の実施形態では、第1係合装置CL1が摩擦係合装置であり、第2係合装置CL2及び第3係合装置CL3が噛合い式係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、第2係合装置CL2及び第3係合装置CL3の少なくとも一方が摩擦係合装置であっても良い。
【0138】
(10)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0139】
1:入力軸、2:ギヤ形成部材、3:伝達出力ギヤ、4:第1差動入力ギヤ、7:第2差動入力ギヤ、10:制御装置、11:主制御部、12:内燃機関制御部、13:第1回転電機制御部、14:第2回転電機制御部、15:係合制御部、61:カウンタ入力ギヤ、62:カウンタ出力ギヤ、63:カウンタ軸、100:車両用駆動装置、BT:蓄電装置、C1:キャリヤ、CG:カウンタギヤ機構、CL1:第1係合装置、CL2:第2係合装置、CL3:第3係合装置、DF1:第1出力用差動歯車機構、DF2:第2出力用差動歯車機構、DP:ダンパ装置、DS1:第1ドライブシャフト、DS2:第2ドライブシャフト、DU1:第1駆動ユニット、DU2:第2駆動ユニットE1:第1回転要素、E2:第2回転要素、E3:第3回転要素、EG:内燃機関、ES:出力軸、G1:第1ギヤ、G2:第2ギヤ、G3:第3ギヤ、G4:第4ギヤ、I:入力部材、IG:アイドラギヤ、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、MG1:第1回転電機、MG2:第2回転電機、N1:第1回転速度、N2:第2回転速度、N3:第3回転速度、Ne:内燃機関回転速度、Nf:点火可能回転速度、Nid:アイドル回転速度、O1:第1出力部材、O2:第2出力部材、P1:ピニオンギヤ、R1:リングギヤ、RG1:第1ロータギヤ、RG2:第2ロータギヤ、RS1:第1ロータ軸、RS2:第2ロータ軸、RT1:第1ロータ、RT2:第2ロータ、S:同期線、S1:サンギヤ、SP:分配用差動歯車機構、ST1:第1ステータ、ST2:第2ステータ、Se1:SOCセンサ、Se2:車速センサ、Se3:アクセル操作量センサ、Se4:ブレーキ操作量センサ、Se5:シフト位置センサ、Se6:車輪回転速度センサ、Se7:舵角センサ、T:伝達機構、Td:要求駆動力、Tn:必要駆動力、Tr:始動反力、Ts:余剰駆動力、Tt:判定しきい値、W1:第1車輪、W2:第2車輪、X1:第1軸、X2:第2軸、X3:第3軸、X4:第4軸、X5:第5軸、X6:第6軸、X7:第7軸