(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 3/44 20060101AFI20241112BHJP
F16H 3/72 20060101ALI20241112BHJP
B60K 6/365 20071001ALI20241112BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241112BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20241112BHJP
【FI】
F16H3/44 Z
F16H3/72 A
B60K6/365
B60W10/02 900
B60W10/10 900
(21)【出願番号】P 2021074893
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 彬
(72)【発明者】
【氏名】高以良 幸司
(72)【発明者】
【氏名】宝満 昭徳
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059360(JP,A)
【文献】特開2011-058534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/44
F16H 3/72
B60K 6/365
B60W 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動力源と、第2駆動力源と、前記第1駆動力源から伝達された駆動力を第1駆動輪に出力する第1出力部材と、第1回転要素ならびに第2回転要素および第3回転要素によって差動作用を行いかつ前記第1回転要素に前記第2駆動力源が連結された差動機構と、前記第2回転要素に連結されかつ第2駆動輪に駆動力を出力する第2出力部材とを備えた車両用動力伝達装
置であって、
前記第1駆動力源から駆動力が入力されるとともに前記第1出力部材に連結された入力部材と、
前記第1回転要素ならびに前記第2回転要素および前記第3回転要素のうちの少なくとも二つの回転要素を選択的に連結して前記差動機構を一体化させて回転させる第1係合部と、前記入力部材もしくは前記第1出力部材を前記第3回転要素に選択的に連結する第2係合部とを有する係合手段とを更に備え
、
前記第1係合部は、前記二つの回転要素のうちの一方の回転要素と一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第1ハブと、前記二つの回転要素のうちの他方の回転要素と一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第2ハブとを有し、
前記第2係合部は、前記第1ハブと前記第2ハブとのいずれか一方のハブと、前記入力部材もしくは前記第1出力部材と
一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第3ハブとを含み、
前記係合手段は、前記第1ハブと前記第2ハブとの係合歯に噛み合って前記第1ハブと前記第2ハブとを連結しかつ前記第3ハブと前記一方のハブとの連結を解く第1位置と、前記第3ハブと前記一方のハブとの係合歯に噛み合って前記第3ハブと前記一方のハブとを連結しかつ前記第1ハブと前記第2ハブとの連結を解く第2位置とに移動させられるスリーブを更に備え、
前記第1係合部を係合しかつ前記第2係合部を解放して、前記第1駆動力源によって前記第1駆動輪を駆動するとともに前記第2駆動力源によって前記第2駆動輪を駆動する第1走行モードと、前記第1係合部を解放しかつ前記第2係合部を係合して、前記第1駆動力源が出力する駆動力と前記第2駆動力源が出力する駆動力とを前記差動機構によって複合させて前記第1駆動輪および前記第2駆動輪を駆動する第2走行モードとを設定できるように構成されている
ことを特徴とする車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンやモータなどの駆動力源が出力した動力を駆動輪に伝達する動力伝達装置に関し、特に前後四輪を駆動する四輪駆動状態を設定することのできる動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンと記す)とモータ・ジェネレータ(以下、モータと記す)とを駆動力源として備えた車両であって、前後輪のうちのいずれか一方を駆動する二輪駆動状態(2WD)と、前後の全ての車輪を駆動する四輪駆動状態(4WD)もしくは全輪駆動状態(AWD)とに切り替えられるように構成された車両が知られている。この種の車両におけるパワートレーンの一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された動力伝達装置は、エンジンによって後輪を駆動し、その駆動トルクにモータのトルクを付加し、あるいはモータによって前輪を駆動するなど、複数の駆動モードを設定できるように構成されている。
【0003】
具体的に説明すると、エンジンに連結されている第1入力軸が遊星歯車機構のリングギヤに連結され、サンギヤがモータ・ジェネレータ(MG)クラッチ機構を介してモータに連結されている。また、前輪側のフロント出力軸に駆動力を伝達するための第1および第2のスプロケットとこれらに巻き掛けられたチェーンとからなる巻き掛け伝動機構を備えており、上記の遊星歯車機構におけるキャリヤはその巻き掛け伝動機構の第1スプロケットに第2入力軸を介して連結されている。さらに、第1入力軸は、リヤ出力軸側に延びていて第1モードクラッチ機構に連結されている。この第1モードクラッチ機構は、リヤ出力軸を第1入力軸と、第2入力軸(あるいは第1スプロケット)に切り替えて連結するように構成されている。
【0004】
特許文献1に記載された装置で二輪駆動状態を設定するには、MGクラッチ機構によってモータをサンギヤ(遊星歯車機構)から切り離し、かつ第1モードクラッチ機構によって第1入力軸をリヤ出力軸に連結する。これは、エンジンを駆動力源として後輪を駆動する二輪駆動状態である。また、四輪駆動状態を設定するには、第1モードクラッチ機構によって第1入力軸をリヤ出力軸に連結した状態で、MGクラッチ機構によってモータをサンギヤ(遊星歯車機構)に連結する。この四輪駆動状態では、エンジンが出力したトルクが遊星歯車機構によってリヤ出力軸側とモータ側とに分割され、リヤ出力軸がエンジンで駆動されるとともに、モータの反力によって増大させられたエンジントルクが巻き掛け伝動機構に伝達されてフロント出力軸が駆動される。これとは別に、MGクラッチ機構によってモータをサンギヤ(遊星歯車機構)に連結した状態で第1モードクラッチ機構によってリヤ出力軸を第2入力軸(あるいは第1スプロケット)に連結すると、エンジンが出力したトルクが遊星歯車機構においてモータの反力によって増幅され、そのトルクが第2入力軸(あるいは第1スプロケット)とリヤ出力軸との両方に伝達され、その結果、前輪と後輪とが共にエンジンおよびモータによって駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両における二輪駆動や四輪駆動(全輪駆動)などの駆動状態は、エネルギ効率を向上させて温室効果ガスの排出量を削減し、あるいは運転者の駆動要求あるいは加速要求を充足するなどのその時々の要求に応じて設定される。例えば二輪駆動状態は、動力損失を低減してエネルギ効率を向上させる場合に設定され、四輪駆動状態は、悪路走破性を向上させたり、走行安定性を向上させたりする場合に設定される。したがって、例えば平坦路を一定車速で走行している状態からアクセルペダルが大きく踏み込まれて駆動要求量が増大した場合、あるいはそれに併せて舵角が大きく変化した場合などにおいては、二輪駆動から四輪駆動に切り替えることになり、また急な登坂路から平坦路に変化した場合には、四輪駆動から二輪駆動に切り替えることになる。
【0007】
このような駆動状態の切替は、特許文献1に記載された装置では、クラッチ機構の係合状態を変化させることにより行っている。すなわち、二輪駆動では、前述したMGクラッチ機構によってモータをサンギヤ(遊星歯車機構)から切り離すのに対して、四輪駆動ではMGクラッチ機構によってモータをサンギヤ(遊星歯車機構)に連結するから、二輪駆動と四輪駆動との間の切替には必ずMGクラッチ機構の切替が必要になる。クラッチ機構を動作させて回転部材の連結や切り離しを行うと、回転数やトルクが不可避的に変化し、これがショックや異音などの原因になることがある。そのため、クラッチ機構によって回転部材の連結や切り離しを行う場合、回転数やトルクの変化が可及的に小さくなるように制御するのが通常であり、そのためにクラッチ機構の切替やそれに伴う駆動状態の切替にある程度の時間を要する。そのため、特許文献1に記載された装置では、MGクラッチ機構の切替、あるいはこれに加えて第1モードクラッチ機構の切替を伴う二輪駆動状態と四輪駆動状態との切替に時間的な遅れが生じ、いわゆる制御応答性が必ずしも良好ではなくなる可能性がある。
【0008】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、二つの駆動力源を備えた車両における二輪駆動状態と四輪駆動状態との切替を迅速に行うことのできる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、第1駆動力源と、第2駆動力源と、前記第1駆動力源から伝達された駆動力を第1駆動輪に出力する第1出力部材と、第1回転要素ならびに第2回転要素および第3回転要素によって差動作用を行いかつ前記第1回転要素に前記第2駆動力源が連結された差動機構と、前記第2回転要素に連結されかつ第2駆動輪に駆動力を出力する第2出力部材とを備えた車両用動力伝達装置であって、前記第1駆動力源から駆動力が入力されるとともに前記第1出力部材に連結された入力部材と、前記第1回転要素ならびに前記第2回転要素および前記第3回転要素のうちの少なくとも二つの回転要素を選択的に連結して前記差動機構を一体化させて回転させる第1係合部と、前記入力部材もしくは前記第1出力部材を前記第3回転要素に選択的に連結する第2係合部とを有する係合手段とを更に備え、前記第1係合部は、前記二つの回転要素のうちの一方の回転要素と一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第1ハブと、前記二つの回転要素のうちの他方の回転要素と一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第2ハブとを有し、前記第2係合部は、前記第1ハブと前記第2ハブとのいずれか一方のハブと、前記入力部材もしくは前記第1出力部材と一体でかつ外周部に係合歯が設けられた第3ハブとを含み、前記係合手段は、前記第1ハブと前記第2ハブとの係合歯に噛み合って前記第1ハブと前記第2ハブとを連結しかつ前記第3ハブと前記一方のハブとの連結を解く第1位置と、前記第3ハブと前記一方のハブとの係合歯に噛み合って前記第3ハブと前記一方のハブとを連結しかつ前記第1ハブと前記第2ハブとの連結を解く第2位置とに移動させられるスリーブを更に備え、前記第1係合部を係合しかつ前記第2係合部を解放して、前記第1駆動力源によって前記第1駆動輪を駆動するとともに前記第2駆動力源によって前記第2駆動力を駆動する第1走行モードと、前記第1係合部を解放しかつ前記第2係合部を係合して、前記第1駆動力源が出力する駆動力と前記第2駆動力源が出力する駆動力とを前記差動機構によって複合させて前記第1駆動輪および前記第2駆動輪を駆動する第2走行モードとを設定できるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1係合部を係合させて遊星歯車機構における少なくとも二つの回転要素を連結することにより遊星歯車機構が一体となって回転するから第2駆動力源は第2出力部材に連結される。その場合、第2係合部が解放しているので、第2駆動力源から第2出力部材に到る動力の伝達経路に対して第1駆動力源は遮断されている。すなわち、第1走行モードでは、第1駆動力源によって第1駆動輪を駆動する二輪駆動状態、第2駆動力源で第2駆動輪を駆動する二輪駆動状態、第1駆動輪と第2駆動輪とを、第1駆動力源と第2駆動力源とによってそれぞれ独立して駆動する四輪駆動状態のいずれかを選択して走行することができる。これらの駆動状態は、各係合機構を上記の係合・解放の状態に維持して選択あるいは設定できる。言い換えれば、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切替は、係合機構を動作させずに達成できるので、迅速な切替が可能になる。
【0011】
それだけでなく、本発明によれば、第2走行モードでは、各駆動力源が出力した動力を差動機構によって複合させ、その複合させた動力を第1駆動輪および第2駆動輪に出力する。本発明における第1駆動力源は内燃機関とし、第2駆動力源は発電電動機(モータ・ジェネレータ)とすることができ、その場合には、第1駆動力源が出力するトルクに対して第2駆動力源によって反力トルクを付与することにより、第1駆動力源が出力したトルクを増大させて各駆動輪に出力でき、また第1駆動力源の回転数を第2駆動力源によって制御して燃費の良好な運転を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態を示すスケルトン図であって、(A)は第1走行モードを設定している状態を示し、(B)は第2走行モードを設定している状態を示す。
【
図2】
図1に示す実施形態の動作状態を説明するための共線図であって、(A)は第1走行モードを設定している状態を示し、(B)は第2走行モードを設定している状態を示す。
【
図3】本発
明と機能が類似する参考としての第1の例を示すスケルトン図であって、(A)は第1走行モードを設定している状態を示し、(B)は第2走行モードを設定している状態を示し、(C)は第1係合部および第2係合部の両方が係合している状態を示す。
【
図4】本発
明と機能が類似する参考としての第2の例を示すスケルトン図である。
【
図5】本発
明と機能が類似する参考としての第3の例を示すスケルトン図である。
【
図6】本発
明と機能が類似する参考としての第4の例を示すスケルトン図である。
【
図7】本発
明と機能が類似する参考としての第5の例を示すスケルトン図である。
【
図8】本発
明と機能が類似する参考としての第6の例を示すスケルトン図である。
【
図9】本発
明と機能が類似する参考としての第7の例を示すスケルトン図である。
【
図10】本発明
の他の実施形態を示すスケルトン図であって、(A)は第1走行モードを設定している状態を示し、(B)は第2走行モードを設定している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに本発明を実施した場合の具体例を説明する。なお、以下に説明する具体例は、本発明の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1の(A)および(B)は、本発明に係る動力伝達装置の主要部分を模式的に示すスケルトン図であり、この動力伝達装置は内燃機関(ENG。以下、エンジンと記す)1と発電電動機(MG。以下、モータと記す)2とを駆動力源として備えた車両に搭載されている。これらエンジン1とモータ2との動力を複合させる差動機構3が設けられている。差動機構3の一例は遊星歯車機構であり、
図1にはシングルピニオン式の遊星歯車機構を示してある。この差動機構3は、外歯歯車であるサンギヤ3sと、サンギヤ3sと同心円上に配置されている内歯歯車であるリングギヤ3rと、これらサンギヤ3sとリングギヤ3rとに噛み合っているピニオンギヤ3pを自転および公転できるように保持しているキャリヤ3cとを回転要素とし、これらの三つの回転要素で差動作用を行うように構成されている。
【0015】
本発明における第1駆動力源に相当するエンジン1から動力が伝達される本発明における入力部材に相当する入力軸4が差動機構3の回転中心軸線に沿って配置されており、この入力軸4は、本発明における第1出力部材に相当するリヤ出力軸5に連結されている。そのリヤ出力軸5は終減速機6などを介して、本発明における第1駆動輪に相当する後輪7に連結されている。すなわち、リヤ出力軸5から後輪7に駆動力を出力するように構成されている。
【0016】
本発明における第2駆動力源に相当するモータ2は、入力軸4と同一軸線上でかつ差動機構3よりもエンジン1側に配置されている。このモータ2は、一例として永久磁石式の同期電動機であり、そのロータ2Rがロータ軸8によって、差動機構3におけるサンギヤ3sに連結されている。
【0017】
図1に示す例では、差動機構3におけるキャリヤ3cが出力要素となっており、このキャリヤ3cから本発明における第2出力部材に相当するフロント出力軸9に動力を出力するように構成されている。フロント出力軸9は、上記の入力軸4やロータ軸8と平行に配置されており、本発明における第2駆動輪に相当する前輪10に終減速機11などを介して連結されている。このフロント出力軸9と差動機構3におけるキャリヤ3cとの間でトルクを伝達する伝動機構は必要に応じて適宜の機構を採用でき、
図1に示す例では巻き掛け伝動機構、より具体的にはチェーン機構12が用いられている。すなわち、キャリヤ3cには駆動スプロケット12aが一体化され、またフロント出力軸9には従動スプロケット12bが一体化され、これらのスプロケット12a,12bにチェーン12cが巻き掛けられている。これらのスプロケット12a,12bは同一径であってもよいが、従動スプロケット12bの径を駆動スプロケット12aの径より大きくすることにより、減速機構として機能させることができる。
【0018】
図1に示す動力伝達装置は、各駆動輪7,10に対する駆動力の伝達の態様が異なる二つの走行モードを設定することができ、そのための二つの係合部13,14を有する係合手段15が設けられている。これらの係合部13,14は、トルクの伝達と遮断とを選択的に行うためのものであり、摩擦力によってトルクを伝達する構成、歯の噛み合いによってトルクを伝達する構成など、従来知られている種々の構成のものを適宜に採用することができ、
図1に示す例では、噛み合い式の係合手段すなわちドグクラッチが用いられている。
【0019】
具体的に説明すると、外周部にスプライン歯が形成されているハブ13a,13b,14aが、リングギヤ3rならびにキャリヤ3cおよび入力軸4に設けられている。これらのハブ13a,13b,14aの外径は同一であり、
図1の左側からリングギヤ3rに一体のハブ(リングギヤハブと記すことがある)13a、キャリヤ3cに一体のハブ(以下、キャリヤハブと記すことがある)13b、入力軸4に一体のハブ(以下、入力ハブと記すことがある)14aの順に配置されている。これらのハブ13a,13b,14aの外周側には、軸線方向に移動することによりリングギヤハブ13aのスプライン歯とキャリヤハブ13bのスプライン歯とに選択的に噛み合うスリーブ13cと、軸線方向に移動することにより入力ハブ14aに選択的に噛み合うスリーブ14bとが設けられている。これらのスリーブ13c,14bは、円筒状のシフトドラム16の一部として構成でき、あるいはシフトドラム16に取り付けた構成とすることができる。
【0020】
各スリーブ13c,14bあるいはシフトドラム16のストローク位置について説明すると、シフトドラム16は軸線方向に離隔した二つの位置に移動するように構成されている。すなわち、
図1での右側の第1位置では、リングギヤハブ13aとキャリヤハブ13bとにスリーブ13cが噛み合い、リングギヤ3rとキャリヤ3cとを一体となって回転するように連結し、かつ入力ハブ14aからスリーブ14bが外れて、入力軸4とリングギヤ3rとの連結を解除するように構成されている。また、第1位置より左側の第2位置では、キャリヤハブ13bからスリーブ13cが外れて、キャリヤ3cとリングギヤ3rとの連結が解除され、かつ入力ハブ14aにスリーブ14bが噛み合って、リングギヤ3rが入力軸4に連結されるように構成されている。
【0021】
したがって、リングギヤハブ13aとキャリヤハブ13bとスリーブ13cとが第1係合部13を構成し、リングギヤハブ13aとこれに噛み合っているスリーブ13cと入力ハブ14aとこれに噛み合うスリーブ14bと各スリーブ13c,14bを一体化させているシフトドラム16とが第2係合部14を構成している。なお、シフトドラム16は、適宜の図示しないアクチュエータによって軸線方向に移動させるように構成してもよく、あるいは手動操作で軸線方向に移動させるように構成してもよい。
【0022】
上述した各係合部13,14は、それぞれ、トルクを伝達する係合と、トルクを遮断する解放との二つの状態を採ることができるから、その係合・解放の組み合わせは合計で四つであり、したがって動力伝達装置としては四種類のトルクの伝達状態すなわち走行モードを設定できる。その走行モードのうち、いずれか一方の係合部13,14のみを係合させる二つの走行モードについて説明すると、第1係合部13を係合し、かつ第2係合部14を解放した走行モードが第1走行モードであり、これとは反対に第1係合部13を解放し、かつ第2係合部14を係合させた走行モードが第2走行モードである。
【0023】
第1走行モードを設定してある状態を
図1の(A)に示してあり、差動機構3におけるキャリヤ3cとリングギヤ3rとが連結されるので、差動機構3はその全体が一体となって回転する。これに対して、第2係合部14が解放していることにより、エンジン1は差動機構3に対して遮断されている。したがって、モータ2は、一体化している差動機構3およびチェーン機構12を介してフロント出力軸9に連結されるから、モータ2によって前輪10を駆動して走行できる。その場合、エンジン1を停止し、あるいはいわゆる発進クラッチを設けてある場合には発進クラッチを解放してエンジン1を後輪7から遮断することにより、前輪10のみを駆動輪とした二輪駆動状態になる。これは、モータ2を駆動力源とした走行モードであるから、EV(電気自動車)モードと称することができる。
【0024】
なお、この第1走行モードにおける各回転部材の連結関係やトルクの状態ならびに差動機構3の動作状態を
図2の(A)に、差動機構3についての共線図によって示してある。共線図は、従来知られているように、差動機構3を構成している各回転要素を縦線で示すとともに、それらの線の間隔を差動機構3を構成している遊星歯車機構におけるギヤ比(サンギヤの歯数とリングギヤの歯数との比)に対応させた間隔とし、さらに各回転要素を示す縦線の基線からの位置で回転数を示した線図である。
【0025】
図2の(A)において、第1回転要素に相当するサンギヤ3sにモータ2が連結されているので、サンギヤ3sはモータ2の回転数で回転する。一方、第1係合部13によって第2回転要素に相当するキャリヤ3cと第3回転要素に相当するリングギヤ3rとが連結されていて、差動機構3を構成している遊星歯車機構の全体が一体化されているので、キャリヤ3cおよびリングギヤ3rもモータ2の回転数で回転する。そして、そのキャリヤ3cにチェーン機構12を介してフロント出力軸9が連結されているから、モータ2が出力した駆動力がフロント出力軸9から前輪10に伝達され、前輪10を駆動輪とした二輪駆動状態となる。
【0026】
この二輪駆動状態でエンジン1を駆動すれば、エンジン1が出力した駆動力は入力軸4およびこれに連結されているリヤ出力軸5を介して後輪7に伝達される。すなわち、前輪10に加えて、後輪7も駆動輪となり、四輪駆動状態となる。反対にこの四輪駆動状態からエンジン1を停止し、もしくはエンジン1を後輪7から遮断すれば、前輪10を駆動輪とした二輪駆動状態になる。あるいは四輪駆動状態からモータ2を停止して前輪10を駆動しないようにすれば、後輪7を駆動輪とした二輪駆動状態になる。このように、二輪駆動状態と四輪駆動状態との切替は、エンジン1とモータ2とのいずれか一方を停止し、あるいは駆動することにより行うことができる。そのため、クラッチ機構などの係合機構の動作状態の切替を必要とする駆動状態の切替に比較して、迅速に切替を達成することができる。
【0027】
本発明に係る上述した動力伝達装置では、上述した二輪駆動状態と四輪駆動状態との切替に加えて、燃費を向上させることの可能な第2走行モードを設定できる。
図1の(B)および
図2の(B)は、第2走行モードでの動作状態を示しており、第2走行モードは、第1係合部13をいわゆる解放状態に切り替えてリングギヤ3rとキャリヤ3cとの連結を解除し、かつ第2係合部14によってリングギヤ3rと入力軸4(もしくはリヤ出力軸5)とを連結して設定される。エンジン1をこのようにして差動機構3に連結した状態では、
図2の(B)に示すように、リングギヤ3rが入力要素、サンギヤ3sが反力要素、キャリヤ3cが出力要素となり、エンジン1が出力した動力は、差動機構3において、モータ2側とフロント出力軸9側とに分割される。その場合、モータ2を発電機として機能させてサンギヤ3sに反力トルクを与えると、フロント出力軸9側のトルクはモータ2による反力トルクによって増幅されたトルクとなる。また、モータ2によって発電し、適宜の蓄電装置(図示せず)を充電することができる。
【0028】
なお、上述した本発明に係る動力伝達装置では、リングギヤハブ13aのスプラインに噛み合っているスリーブ13cが第1係合部13の一部を構成すると同時に第2係合部14の一部を構成しており、しかも各スリーブ13c,14bがシフトドラム16に一体化されているので、係合部を二つ設けているとしてもそれらの係合部すなわち係合手段15の構成部品が少なく、それに伴いその構成が簡素化され、さらには各係合部13,14の係合・解放の状態を切り替えるためのアクチュエータが一つでよく、その結果、装置の全体としての構成を小型・簡素化することができる。
【0029】
また、
図1および
図2に示す構成では、エンジン1が車両の前側に配置され、そのエンジン1に対して車両の後方側に、チェーン機構(伝動機構)12ならびに差動機構3の順に配置されている。言い換えれば、前輪10を駆動するための伝動機構12が差動機構3よりも車両の前方側に配置されているので、チェーン機構12を前輪10側の終減速機11を連結するフロント出力軸9を短縮することができる。
【0030】
本発明は、基本的な構成を維持して、各係合部13,14の構成や配置、あるいはモータ2やチェーン機構(伝動機構)12の配置などを上述した具体例とは異ならせて実施できるのであり、以下に上記の実施形態と機能が類似する参考としての例を説明する。なお、以下に述べる例では、後輪7ならびに前輪10、前後の終減速機6,11は上述した具体例での構成と同じであるから、それらの説明および図示を省略する。
【0031】
図3の(A)および(B)に示す例は、上述した係合手段15を、第1係合部13を備えた第1係合手段15Aと第2係合部14を備えた第2係合手段15Bとの二つに分けた例である。
図3に示すように、キャリヤハブ13bは、キャリヤ3cをモータ2側に延ばすことにより、チェーン機構12とモータ2との間に設けられており、そのキャリヤハブ13bとモータ2との間に、サンギヤ3sもしくはロータ軸8と一体化させたハブ(以下、サンギヤハブと記すことがある)13d配置されている。これらキャリヤハブ13bとサンギヤハブ13dの外周部に設けられているスプライン歯に噛み合うスリーブ13cが軸線方向に移動可能に設けられている。なお、
図3に示す例では、このスリーブ13cはサンギヤハブ13dに常時噛み合っていて、軸線方向に移動することにより、キャリヤハブ13bに係合し、またその係合が外れる(解放する)ように構成されている。そして、これらキャリヤハブ13bならびにサンギヤハブ13dおよびスリーブ13cが第1係合部13を構成しており、係合することにより差動機構3の全体を一体化させる。
【0032】
一方、第2係合部14は、
図1および
図2に示す構成と同じであり、差動機構3と同一軸線上で差動機構3よりもリヤ出力軸5側に配置され、前述したリングギヤハブ13aならびに入力ハブ14aおよびこれらにスプライン嵌合しているスリーブ14bによって構成されている。各スリーブ13c,14bは単一のアクチュエータによって動作させるように構成してもよく、あるいはそれぞれのスリーブ13c,14bごとにアクチュエータを設けてもよい。そして、これら第1係合部13および第2係合部14によって本発明における係合手段15が構成されている。
【0033】
図3の(A)は、第1走行モードが設定されている状態を示し、第1係合部13が係合状態になっていてキャリヤ3cとサンギヤ3sとが連結されて差動機構3の全体が一体化されている。これに対して第2係合部14が解放状態になっていてエンジン1と差動機構3とが両者の間でトルクが伝達しないように切り離されている。したがって、エンジン1とモータ2とのいずれか一方を駆動することにより二輪駆動状態で走行することができる。また、エンジン1とモータ2との両方を駆動することにより四輪駆動状態で走行することができる。これらの駆動状態は、エンジン1とモータ2とのいずれか一方を駆動し、あるいは停止することにより相互に切り替えることができ、迅速な切り替えが可能である。
【0034】
図3の(B)は、前述した第2走行モードが設定されている状態を示しており、第1係合部13が解放状態になっていて、差動機構3が差動作用を行うことができる。これに対して第2係合部14が係合状態になっていてエンジン1が差動機構3のリングギヤ3rに連結されている。したがって、エンジン1が出力したトルクは後輪7に伝達される一方、差動機構3に入力される。差動機構3においては、リングギヤ3rが入力要素となって入力トルクがモータ2側とチェーン機構12側(前輪10側)に分割される。モータ2は発電機として機能することによりサンギヤ3sに反力を与え、リングギヤ3rに入力されたトルクをその反力トルクで増大させてキャリヤ3cから出力する。
【0035】
図3に示す構成では、各係合部13,14のそれぞれにアクチュエータを連結し、各係合部13,14を独立して動作させるように構成することが可能である。このような構成であれば、第2係合部14を係合させている状態で、第1係合部13を解放状態から係合状態に切り替えることができる。すなわち、第2係合部14を係合状態としてエンジン1が出力したトルクを後輪7と前輪10とに伝達して四輪駆動状態とした場合、後輪7および前輪10のいずれか一輪が脱輪やスリップなどによって空転すると、その一輪からトルクが抜けて他の車輪を駆動できなくなる。その場合に第1係合部13を係合させて差動機構3の全体を一体化させる(差動作用を制限する)と、後輪7と前輪10との全ての車輪にトルクを伝達できるので、脱輪やスリップなどの状態から脱出することができる。このような各係合部13,14が係合している状態を
図3の(C)に示してある。
【0036】
このようないわゆる差動制限を第1係合部13で行うことは、前述した
図1および
図2に示す構成において、各スリーブ13c,14bをシフトドラム16で一体化せずに、
図4に示すようにそれぞれのスリーブ13c,14bを分離して互いに独立して軸線方向に移動できるように構成することにより可能になる。
図4は、このように構成して各係合部13,14を係合状態に動作させている状態を示している。
【0037】
図5は、
図4に示す構成のうち、第1係合部13を摩擦係合機構13Aによって構成した例を示している。摩擦係合機構13Aは、リングギヤ3rとキャリヤ3cとを選択的に連結して差動機構3の全体を一体化させるための機構であり、湿式あるいは乾式、多板型もしくは単板型などの適宜の係合機構によって構成することができる。また、この摩擦係合機構13Aを動作させるための他のアクチュエータは、油圧式あるいは電磁式もしくはモータなどの電動式などのいずれであってもよい。
【0038】
摩擦係合機構13Aは、その駆動側の部材と従動側の部材との間に回転数差があってもトルクを伝達できる。すなわち、係合と解放との間の状態であるスリップ状態を設定できる。そのため、係合あるいは解放する際に回転数を同期させる制御を特には行う必要がなく、また係合や解放に伴うショックを容易に抑制することができる。
【0039】
図6に示す例は、差動機構3の全体を一体化させるための摩擦係合機構13Aを、サンギヤ3sとリングギヤ3rとを選択的に連結する構成とした例である。したがって、摩擦係合機構13Aは、差動機構3と入力ハブ14aとの間に配置されている。このような構成であれば、
図5に示す構成の動力伝達装置と同様の作用・効果を得られることに加えて、サンギヤ3sとリングギヤ3rとの差回転数を大きくとることができるので、摩擦係合機構13Aの小型化に有利になる。
【0040】
図7に示す例は、前述した
図5に示す構成のうち、第2係合部14を摩擦係合機構14Aによって構成した例である。この摩擦係合機構14Aは前述した第1係合部13を構成している摩擦係合機構13Aと同様にスリップ状態を設定できるから、係合・解放の制御が容易であり、また係合時や解放時のショックを容易に抑制することができる。
【0041】
図8に示す例は、前述した
図6に示す構成のうちモータ2や差動機構3などの軸線方向での配列順序を反転した例である。すなわち入力軸4の軸線上にエンジン1側から、入力ハブ14a、第2係合部14、差動機構3、第1係合部13である摩擦係合機構13A、チェーン機構12、モータ2の順に配置される。なお、これらの回転部材同士の連結関係は、前述した
図6に示す例と同様である。
図8に示す構成であっても、
図6に示す例と同様に動作させ、同様の作用・効果を得ることができる。
【0042】
なお、
図8に示す構成であっても、入力軸4やこれに連結されているエンジン1などを車両の前後方向に向けて配置する。したがって、モータ2を車室の下側に配置することになってモータ2の外径が制限されることがある。その場合、モータ2の外径が制限される分、軸線方向に長くして低トルク高回転型のモータとすればよい。
【0043】
図9に示す例は、
図8に示す構成において、モータ2の配置の自由度を増大させた例である。
図9に示す例では、入力軸4もしくはリヤ出力軸5と平行な軸線上にモータ2が配置されており、そのロータ軸8とサンギヤ3sに一体のサンギヤ軸17とが減速歯車機構18によって連結されている。なお、この減速歯車機構18は、チェーンなどの巻き掛け伝動機構に置き換えてもよい。したがって、
図9に示す構成では、モータ2の配置位置が入力軸4の軸線と同一の軸線上に限定されないので、モータ2の配置の自由度を増大させることができる。特に、モータ2を低トルク高回転型のものとした場合、減速歯車機構18やこれに替わる巻き掛け伝動機構によってトルクを増大させることができるから、必要十分な駆動トルクを得ることができる。
【0044】
本発
明の実施形態における差動機構3は、要は、三つの回転要素によって差動作用を行うように構成されていればよい。上述した各具体例では、リングギヤ3rを入力要素、キャリヤ3cを出力要素、サンギヤ3sを反力要素としたが、そのリングギヤ3rとキャリヤ3cとを入れ替えて、キャリヤ3cを入力要素、リングギヤ3rを出力要素として構成することができる。その例を
図10に示してある。
図10に示す例においては、チェーン機構12における駆動スプロケット12aがリングギヤ3rに連結されている。また、キャリヤハブ13bを挟んで
図10の左側(エンジン1側)にリングギヤハブ13aが配置され、これとは反対の右側(リヤ出力軸5側)に入力ハブ14aが配置されている。これらを選択的に連結するスリーブ15aはキャリヤハブ13bのスプライン歯に常時噛み合っており、そのキャリヤハブ13bを中心にして
図10の左右方向に移動できるように構成されている。
【0045】
これら各ハブ13a,13b,14aならびにスリーブ15aが係合手段15を構成しており、特にリングギヤハブ13aならびにキャリヤハブ13bおよびスリーブ15aが第1係合部13を構成し、キャリヤハブ13bならびに入力ハブ14aおよびスリーブ15aが第2係合部14を構成している。そのスリーブ15aを
図10の(A)に示すように左側に移動させて第1係合部13を係合状態とすれば、リングギヤハブ13a(リングギヤ3r)とキャリヤハブ13b(キャリヤ3c)とが連結されて差動機構3の全体が一体化され、かつ第2係合部14が解放状態になって入力ハブ14a(入力軸4もしくはリヤ出力軸5)が差動機構3から切り離される。すなわち、第1走行モードが設定される。これとは反対にスリーブ15aを
図10の(B)に示すように右側に移動させて第2係合部14を係合状態とすれば、キャリヤハブ13b(キャリヤ3c)と入力ハブ14a(入力軸4もしくはリヤ出力軸5)とが連結されてエンジン1が差動機構3に連結され、かつ第1係合部13が解放状態になって差動機構3による差動作用が可能になる。すなわち、第2走行モードが設定される。
【0046】
したがって、
図10に示す構成であっても、前述した
図1および
図2に示す例と同様に動作させて、同様の作用・効果を得ることができる。これに加えて
図10に示す構成では、係合手段15におけるスリーブ15aが一つでよく、それに併せて係合・解放の状態を切り替えるアクチュエータが一つでよいから、全体としての構成を簡素化、あるいは軽量化することができる。
【0047】
以上、本発明を実施した場合の例を説明したが、本発明は、上述した各具体例に限定されないことは勿論であり、係合手段や第1係合部および第2係合部の具体的な構成を適宜に入れ替えてよく、またモータや伝動機構あるいは差動機構の配置もしくは配列を適宜に変更してもよい。例えば差動機構3は、上述したいわゆるシングルピニオン型の遊星歯車機構に替えてダブルピニオン型の遊星歯車機構によって構成してもよい。
【0048】
なお、ここで、上述した具体例として説明した本発明ならびに参考としての例を列記すれば、以下のとおりである。
【0049】
特許請求の範囲に記載されている差動機構は、遊星歯車機構である車両用動力伝達装置。
【0050】
第1係合部は、第2駆動力源が連結されている回転要素と第2出力部材が連結されている回転要素とを選択的に連結するように構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第2駆動力源が出力した駆動トルクを差動機構を介さずに第2出力部材に出力できるので、差動機構を小型化することができる。
【0051】
第1係合部と第2係合部とは、互いに独立して係合および解放できるように構成され、かつ第2係合部が係合して第1駆動力源を差動機構に連結している状態で、第1係合部が差動機構をその全体を一体化するように係合できるように構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第1駆動力源を差動機構に連結している状態で差動機構の差動作用を第1係合部で制限することが可能になる。
【0052】
第1係合部は、第2出力部材が連結されている回転要素と第2係合部に連結されている回転要素とを選択的に連結するように構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第1駆動力源のトルクを差動機構を介さずに第2出力部材に出力できるので、差動機構を小型化することが可能になる。
【0053】
係合することにより差動機構の差動制限を行う第1係合部は、摩擦係合機構によって構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、差動制限トルクを連続的に変化させて、好適な差動制限が可能になる。
【0054】
その場合、第1係合部は、第2駆動力源が連結された回転要素と、第2係合部によって第1駆動力源によって連結されている回転要素とを選択的に連結するように構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、差動制限を行う場合の差動機構における差回転数を大きくできるので、摩擦係合機構の小型化に有利になる。
【0055】
第1係合部と第2係合部との少なくともいずれか一方は、摩擦係合機構である車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第1走行モードと第2走行モードとの間で走行モードを切り替える場合、第1係合部もしくは第2係合部での回転数制御に要する時間を短くすることができる。
【0056】
第2出力部材および第2出力部材から第2駆動輪に駆動トルクを伝達する出力軸は、第1出力部材と平行な軸線上に配置され、第2回転要素と第2出力部材とが伝動機構によって連結されている車両用動力伝達装置。
【0057】
その伝動機構は、チェーン機構などの巻き掛け伝動機構によって構成されている車両用動力伝達装置。
【0058】
伝動機構は、差動機構によりも第2駆動輪側に配置されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第2駆動輪に駆動トルクを伝達する出力軸を短くすることが可能になる。
【0059】
伝動機構は、第1係合部および第2係合部よりも第2駆動輪側に配置されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第2駆動輪に駆動トルクを伝達する出力軸を短くすることが可能になる。
【0060】
第1駆動力源は、差動機構よりも第1駆動輪側に配置されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、第2出力部材を第2駆動輪寄りに配置できるので、第2出力部材から第2駆動輪に駆動トルクを伝達する出力軸を設ける場合、その出力軸を短縮することができる。
【0061】
第2駆動力源は、第1出力部材に対して平行な軸線上に配置され、第2駆動力源と第1回転要素とが他の伝動機構によって連結されている車両用動力伝達装置。
【0062】
前記他の伝動機構は、減速機構によって構成されている車両用動力伝達装置。
【0063】
係合手段は、一つのスリーブを有し、前記スリーブによって第1係合部および第2係合部のそれぞれを係合および解放させるように構成されている車両用動力伝達装置。このような構成であれば、構成部材の数を少なくして装置の全体を小型化・軽量化することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン
2 モータ
2R ロータ
3 差動機構
3c キャリヤ
3p ピニオンギヤ
3r リングギヤ
3s サンギヤ
4 入力軸
5 リヤ出力軸
6,11 終減速機
7 後輪
8 ロータ軸
9 フロント出力軸
10 前輪
12 伝動機構(チェーン機構)
12a 駆動スプロケット
12b 従動スプロケット
12c チェーン
13 第1係合部
13A 摩擦係合機構
13a リングギヤハブ
13b キャリヤハブ
13c スリーブ
13d サンギヤハブ
14 第2係合部
14A 摩擦係合機構
14a 入力ハブ
14b スリーブ
15 係合手段
15A 第1係合手段
15B 第2係合手段
15a スリーブ
16 シフトドラム
17 サンギヤ軸
18 減速歯車機構